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《顧問先にも教えたくなる!》資産づくりの基礎知識 【第14回】「外貨建て保険から考える「保険で投資」の注意点」

《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第14回】 「外貨建て保険から考える「保険で投資」の注意点」   株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝   〇投資ブームと保険 「貯蓄から投資へ」というスローガンのもと、今まさに私たちのお金事情は大きく変わろうとしています。iDeCoやNISAの普及とともに、この株高です。今まで「投資なんて」と見向きもしなかった方たちが、投資を始めています。 同時に「保険なら投資も安心」というセールストークに誘われ、外貨建て保険や変額保険の契約をされる方もかなりいらっしゃるようです。「投資にはリスクがつきものだけれど、保険なら安心」とおっしゃる方も少なくありません。今回は、外貨建て保険を例に、保険で投資をする際の注意点を解説します。   〇貯金と保険 「貯金は三角、保険は四角」という言葉があります。 この三角は、直角三角形を指します。三角形の底辺は左側が鋭角、右側が直角です。これは、左から右へ時間が経過するとともに、資産残高が大きくなることを表現しています。投資の場合資産残高は変動しますが、長期運用をすることにより、しっかりと資産形成ができるものと解釈して、若干変形した三角形とまずは理解してください。 一方、四角形の高さはどこをとっても等しくなります。高さは金額を表し、底辺は時間を表すので、保険は契約が締結されるといつでも同額の保険金がおりるということを表しています。 この特徴を踏まえると、お金を使う時期が決まっている場合は、右側に向かって残高が増える直角三角形(貯金)が合理的であることが分かりますし、いつ起こるか分からないリスクに備える場合は、いつでも決まった保障が得られる四角形(保険)が合理的であることも分かります。 また、四角形に対角線を引くと直角三角形が2つあることにも気づきます。ということは、三角形の貯金で済むところをわざわざ四角形の保険にすると、余分な保険コストがかかるということなのです。基本的には払い込んだ保険料のうち、一部が保険コストとして使われ、投資にはその残りが充てられています。したがって保険コストが見えにくくなっているという特徴があります。   〇外貨建て保険の運用と金利 外貨建て保険は「日本円だけを保有するのではなく、通貨も分散しましょう」といったアドバイスから提案されることも多いようです。保険ならば一定の金利がつき、満期時にはドルベースで元本が保証されるので安心ですよ、という流れです。 実際、外貨建て保険はアメリカ国債での運用が一般的です。国債ですから、アメリカという国が破綻しない限り償還時には元本が返金されますし、決まったクーポン(金利)も入ります。現在10年もののアメリカ国債の金利は4%程度のようですから、外貨建て保険もそのくらいの金利がついていることが多いでしょう。   〇外貨建て保険とアメリカ国債 そうであれば、保険ではなく証券会社でアメリカ国債を購入しても、同様の投資効果が期待できるということになります。 国債を途中で売却すると市場の影響で値段が変動するので、よく「リスクがある」と言われますが、ここでは、元本が割れてしまうこともあるし、逆に利益が生まれることもあるという「不確実さ」をリスクと表現しています。 一方、外貨建て保険の中途解約時の返戻金は、確実に支払った保険料を下回ります。一定の期間を設けている商品もありますが、利益が得られる可能性もあるアメリカ国債の直接購入と、必ず手数料分マイナスになる保険との違いは理解する必要があるでしょう。   〇外貨建て保険と投資信託 では、アメリカ国債に投資をする投資信託であればどうでしょうか。 試しにある米国国債ファンドのリターンを調べてみると、過去10年の平均リターンは5%強、直近1年のリターンは12%強でした(外貨建て保険の金利は4%程度)。為替の影響が大きいのですが、NISAでも買える投資信託であることもメリットです。   〇死亡保障としての外貨建て保険 では、いわゆる死亡保障としての外貨建て保険はどうでしょうか。予定利率の低下により、「日本円で死亡保険の契約をするより米ドルで契約をした方が有利」というセールストークもありますが、実際家族が亡くなった際に保険金を米ドルで受け取って、わざわざ円に転換しなければならないというのは、手間がかかります。 もちろん、ドルではなく円で死亡保険金が受け取れる商品もありますが、それは保険会社が円転の手続きをしているのであって、為替のリスクがなくなるわけではありません。契約時より円安であれば大きな保障になりますが、円高であれば保険金がその後の暮らしを支えるのに不十分なこともあるでしょう。 為替といえば、やはりその変動幅はかなり大きいと言わざるをえません。もしかしたら、外貨建て保険のように固定金利の債券を中心とした運用では、そのリスクを吸収することは難しいかもしれません。そう考えると、将来に向けた資産運用で、利益を得ることを目的としているのであれば、債券ではなく株式への投資が正解となるかもしれません。 *  *  * 「保険であれば投資も安心」と聞くと、なんとなく良さそうな響きですが、今一度その目的はなんなのかを考える必要があります。目的にあった手段をセレクトし、その際リスクとも適切に向き合う必要があるのではないかと考えます。 (了)

#No. 578(掲載号)
#山中 伸枝
2024/07/18

《速報解説》 国税庁、R5改正に対応した相続税及び贈与税に関する質疑応答事例を公表~相続開始前7年以内に贈与があった場合の相続税額及び相続時精算課税関係等取りまとめ~

 《速報解説》 国税庁、R5改正に対応した 相続税及び贈与税に関する質疑応答事例を公表 ~相続開始前7年以内に贈与があった場合の相続税額及び相続時精算課税関係等取りまとめ~   Profession Journal 編集部   既報のとおり、先般、国税庁は令和5年度税制改正に対応した質疑応答事例として「相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例に関する質疑応答事例について(情報)(資産課税課情報第10号)」を公表したところ、その後7月2日付(ホームページ公表は7月5日)で「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(令和5年度税制改正関係)について(情報)(資産課税課情報第12号)」を公表した。 今回の質疑応答事例は、令和5年度税制改正で行われた次の①及び②の事項を中心に取りまとめられている。 (※) 上記①②は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税等に適用。 今回の質疑応答事例は大きく「Ⅰ 相続税法関係」、「Ⅱ 租税特別措置法関係」、「Ⅲ 国税通則法関係」の3通りに分類されたうえで、下記のとおり全13問が公表されている。 また、上記設問のうち、問1-1では、《相続開始前7年以内に贈与があった場合の相続税額関係》として、具体事例を基に、相続の開始前3年以内に取得した財産以外の財産がある場合における加算対象贈与財産に係る相続税の課税価格に加算される金額及び暦年課税分の贈与税額控除の計算について計算方法も含めて解説しているほか、参考として相続又は遺贈により財産を取得した日に応じた加算対象期間をまとめた表を掲載している。 (※) 国税庁ホームページより抜粋 ちなみに、今回の質疑応答事例の公表と同日に国税庁より「「資産課税関係の申請、届出等の様式の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)」が公表されており、大きく変更のあった第11表「相続税がかかる財産の合計表」の改正後の様式や新設となる第11表の付表1~4が掲載されている。 なお、上記通達公表前の7月1日に国税庁ホームページで公表された「相続税の申告のしかた(令和6年分用)」では、すでに改正後の第11表及び付表1~4の詳細な記載例(95頁以下)が明らかになっているので、参考にされたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#Profession Journal 編集部
2024/07/12

プロフェッションジャーナル No.577が公開されました!~今週のお薦め記事~

2024年7月11日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.577を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2024/07/11

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第133回】「消費税の性質論(その1)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第133回】 「消費税の性質論(その1)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦   はじめに 消費税法が施行されてから35年が経過しているのにもかかわらず、いまだに消費税の法的性質が論じられることが少なくない。そこでは、そもそも消費税が預り金としての性質を有するものであるのか否かとか、消費税は価格に転嫁されることが予定されるものであるのか否かといった本質論にも接続する論点が所在する。 そこで、これらの点について、消費税法は、憲法14条・25条・29条・32条・84条の一義的文言に違反するものでなく、同法の立法行為が不法行為となるとはいえないとした東京地裁平成2年3月26日判決(判時1344号115頁)を素材として考えることとしたい。   1 事案の概要 (1) 概観 X(原告)が国Y1(被告)及びY2(被告。立法当時の内閣総理大臣)を相手取り、次のような主張をした事例である。 (2) Y1の責任 国会議員は、憲法に違反する消費税法を、その違憲性を知りつつ、そうでなくても、僅かな注意義務を尽くせばその違憲性を知り得たにもかかわらず、短い審議時間でさしたる修正も加えずに、成立させたのである。 国の公権力の行使に当たる公務員たる国会議員が、このような憲法違反の法律の制定を行ったのは不法行為であるから、国は、Xらに対し、後述の損害を賠償すべき責任がある。 (3) Y2の責任 Y2は、内閣総理大臣として、内閣が税制改革六法律案を国会に提出するに当たり、憲法に違反した法律案を提出しないよう指揮・監督すべき義務があるのに、故意又は過失によりこれを怠り、内閣をして憲法違反の法律案を国会に提出させ、また、自由民主党総裁として、憲法違反の法律を成立させないよう同党を指揮すべき義務があるのに、故意又は過失によりこれを怠り、同党の党員である国会議員をして消費税法を国会において可決成立させたので、不法行為による損害賠償責任がある。 (4) 共同不法行為 Y1及びY2の上記行為は、共同不法行為であるから、Y1らは、Xらに対し、連帯して後述の損害を賠償する責任がある。   2 Xの具体的な主張 (1) 消費税の問題点 ア 消費者に対する過剰転嫁の危険性及び事業者間の不公平 (ア) 仕入税額控除制度の不合理 消費税の納税義務者は消費者、徴収義務者は事業者と解されることからして、事業者が消費者より徴収した消費税分は、事業者自身が仕入れの際に支払った消費税額を控除したもの以外全て国に納付すべきものである。 ところが、事業者が行う仕入れの中には、免税業者(消費税法9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》の適用を受ける者)からの仕入れも含まれているところ、免税業者からの仕入れには3パーセント(当時)の消費税額が上乗せされていないにもかかわらず、消費税法の定める税額控除制度は、これらの仕入れをも含めて全仕入れ額の103分の3を仕入れに係る消費税額として税額控除することを認めている。すなわち、同制度は、事業者が収入額の3パーセントの消費税分を消費者から徴収しているにもかかわらず、その一部を国庫に納めなくてよいことを認めている。 この制度は、事業者が、納税義務者である消費者からの消費税分を徴収しながら、過剰な控除を認めることにより、その一部を国庫に納めず、事業者が取得するといういわゆるピンハネを許したものである。 (イ) 事業者免税点制度の不合理 事業者免税点制度は、免税業者が消費者からの消費税分を徴収しながら、その全額を国庫に納めなくてもよいことを認めている。この制度は、不要な消費税分の転嫁を認めたことにより、全部のピンハネを認めたものである。 (ウ) 簡易課税制度の不合理 簡易課税制度は、売上等の収入に係る消費税額のうち80パーセント(当時)を仕入れに係る消費税額とみなして、国に対する消費税額の納付の際にこれを控除することを認めている。しかしながら、仕入れ自体が少ないか、あるいは免税業者からの仕入れが多い等の理由により、上記仕入れに係る消費税額の割合が80パーセントよりも低いこともあり得る。したがって、簡易課税制度によって認められた控除額と、仕入れに係る実際の消費税額との差額は、本来控除してはならない仕入れ税額であるにもかかわらず、控除を認められている。 この制度は、事業者が納税義務者である消費者からの消費税分を徴収しながら、過剰な控除を認めることにより、これを国庫に納めず、事業者が取得するというピンハネの結果をもたらすものである。 (エ) 事業者間の不公平 イ その他の問題点 (ア) 消費税の逆進性 租税の経済的機能のうち最も重要なものは、所得の再分配機能である。現代のいわゆる自由主義経済社会において、その仕組みなどが原因して、高い所得を得ている者と低い所得しか得ていない者が生じ、所得の分布が不平等であり、不公正になっているところでは、租税負担の配分の仕方を利用して、不平等、不公正になっている現在の所得の分布を改善するために、所得の再分配をすべきである。高い所得を得ている者には重い租税負担を、低い所得しか得ていない者には軽い租税負担を課するという方法によって、この目的は達成される。 ところが、消費税は、低額の所得者にも高額の所得者にも、同額の税を課すものであるから、上記「応能負担の原則」、「公平負担の原則」に全く逆行するものである。 (イ) 課税要件の不明確性 (ウ) 不服申立制度の欠如 消費税の納税義務者は消費者であると解されるところ、消費税法は、消費者に対し、課された消費税額につき何ら不服申立手続あるいは訴訟手続によって争う権利を与えていない。 (エ) 課税最低限以下の所得しかない者に対する課税 消費税法は、無差別に資産の譲渡、役務の提供等に課税するものであるから、課税最低限以下の所得しかない者に対しても課税をすることになる。 (2) 消費税の違憲性 ア 憲法84条及び29条違反 消費税においては消費者を納税義務者、事業者を徴収義務者としているものと解されるところ、消費税法は、事業者が消費者から消費税分を徴収しながら、これを国庫に納めなくてもよいという結果を容認し、結果的に消費者への消費税分の過剰転嫁、ピンハネを認めている。このように、消費税法は、恣意的な租税の賦課・徴収を定めている点において租税法律主義を定めた憲法84条に違反し、また、税の過剰転嫁等によって国民の財産権を侵害する点において、憲法29条に違反する。 イ 憲法14条違反 仕入税額控除制度、事業者免税点制度、簡易課税制度は、事業者間に不合理な差別をもたらす点において憲法14条に違反する。 また、憲法14条は国民を機械的に平等に扱うことを要求するものではなく、租税に関していうならば、国民の負担能力に応じた課税がなされるという、相対的平等、実質的平等を要求しているものと解される。ところが、消費税法は、上記「応能負担の原則」、「公平負担の原則」に反するものであるから、この点においても、憲法14条に違反する。 ウ 憲法25条違反 憲法25条は、国民に「健康で文化的な最低限度の生活」を保障しているが、同条は単に積極的な社会保障を国に要請しているだけでなく、国は、課税最低限以下の所得しかない者に対しては、課税してはならないことを規定していると解すべきである。ところが、消費税法は、消費者に対し無差別に課税するものであるから、課税最低限以下の所得しかない者に対しても課税している。この点において、憲法25条に違反する。 (3) Xらの損害 ア 国会が憲法違反の点のある消費税法を成立させたため、Xらは物品の購入又は役務の提供を受けるたび、事業者に対し、物品の購入費又は役務提供の対価のほか、消費税分として、物品の購入費又は役務提供の対価の3パーセントに相当する金員を支払わざるを得なかった。 その結果、Xらは、購入目録(省略)の各欄に記載のとおり、物品の購入をし、あるいは役務の提供を受けて、損害目録(省略)の消費税相当損害金欄記載の損害を被った。 イ そして、Xらは、消費税を支払う毎に精神的苦痛を受けた。この各苦痛を慰謝するには、Xら各自につきそれぞれ金10万円の慰謝料が相当である。 ウ よって、Xらは、Y1に対しては、国家賠償法1条1項に基づき、Y2に対しては、民法709条《不法行為による損害賠償》に基づき、連帯して、損害目録合計欄記載の各金員及びこれらに対する本訴状送達の日の翌日から支払済に至るまで年5分の割合による金員の支払を求める。   3 判決の要旨 (続く)

#No. 577(掲載号)
#酒井 克彦
2024/07/11

谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第28回】「国税通則法74条の2(~74条の6)・74条の7(~74条の8)」-狭義の質問検査と広義の質問検査-

谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第28回】 「国税通則法74条の2(~74条の6)・74条の7(~74条の8)」 -狭義の質問検査と広義の質問検査-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   国税通則法74条の2(当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権) 国税通則法74条の7(提出物件の留置き)   1 はじめに 国税通則法は第7章の2において、税制調査会「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)」(昭和36年7月)における「特定の税目に特有なものは別として、可能な限り、この制度に関する規定を整備統一して国税通則法に規定することとすべきである」という考え方(同「国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)」(昭和36年7月)82頁)を、約50年後の平成23年度[11月]税制改正によってようやく実現した。この点については、次の解説がされている(財務省「平成24年度 税制改正の解説」231頁)。 このように「グループ化」した結果は下記のとおりである。 各グループ内での類似性等について概観しておくと、上記の①については、「これらの税目が国税の基幹税であり、『客体(相手方)』を除き、『主体(税務職員)』、『要件(調査目的)』及び『対象物件(帳簿書類)』が概ね同様であること」(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)952頁)、②については、「これらの税目の課税対象が資産であり、『対象物件』については帳簿書類のほか財産、土地等を含み、また、『要件(目的)』については調査のほか徴収を含むなど、第1グループ(法74条の2)その他の税目と異なる面があること」(同964頁)、③については、「酒税の課税対象が酒類であり、『対象物件』については帳簿書類のほか酒類、もろみ、容器等を含み、また、『要件(目的)』については調査のほか徴収及び取締を含むなど、前2グループ(法74条の2等)その他の税目と異なる面があること」(同970頁)、④については、「これらの税目の課税対象がたばこ、揮発油等であり、『主体(職員)』については原則税関職員が含まれ、また、『対象物件』については帳簿書類のほかたばこ、揮発油等を含むなど、前3グループ(法74条の2等)その他の税目と異なる面があること」(同977頁)、⑤については、「これらの税目の課税対象が燃料又は電力であり、『主体(税務職員)』、『要件(調査目的)』及び『対象物件(帳簿書類)』については第1グループに類似しているが、直接税と間接税という異なる面があること」(同984頁)というような解説がされている。 以上の解説を読んで疑問に思われるのは、消費税の扱いである。税制調査会が質問検査に関する各税法の規定を国税通則法において整備統合するという前記の考え方を示したにもかかわらず、それが見送られたのは、「実際問題として、各税法の規定をみると、果たしてこれを統一的にうまくまとめて規定できるかどうかがはなはだ疑わしいのである。というのは、まず、直接税と間接税とにおいて、前者がいわゆる人税であり、後者はいわゆる物税であることから、質問検査の内容や態様が両者間においてかなり顕著に相違しているものがある。」(志場ほか共編・前掲書29頁。田中二郎『租税法〔第3版〕』(有斐閣・1990年)223頁注(1)も同旨)という考慮に基づくものと解説されている。このような考慮は、前記⑤の第5グループへの集約化においてみられるところであるが、しかし、そうであれば、一般に間接税(間接消費税)とされる消費税が、なぜ、一般に直接税とされる所得税や法人税と同じく前記①の第1グループに集約されたのかが疑問に思われるのである。 この疑問の検討においては、「調査により」確認されるべき「課税標準等又は税額等」(税通24条~26条参照)の定め方が重要な意味をもつように思われる。前記⑤の航空機燃料税の課税標準は「航空機に積み込まれた航空機燃料の数量」(航空機燃料税法10条)であり電源開発促進税の課税標準は「一般送配電事業者等の販売電気の電力量」(電源開発促進税法5条1項)であるのに対して、消費税の課税標準は「課税資産の譲渡等の対価の額」(消税28条1項)とはされているものの、消費税法上の一般的な税額控除である仕入税額控除(消税30条)をも視野に入れると、実質的には、上記の課税売上げと課税仕入れ(消税2条1項12号)との差額とみることができる。そうすると、消費税は、「課税標準等又は税額等」の計算において差引計算を要素とする点で、所得税や法人税と共通の性格をもつといえよう。 このように、国税通則法は消費税については、質問検査手続との関係では、上記の差引計算を要素とする営業利益税的な性格をもつ一種の企業税として、所得税や法人税と類似ないし概ね同様の扱いを定めたものと解される。その際、消費税が間接消費税であることは重視されておらず、むしろ、消費税に関する帳簿書類の検査については所得税や法人税と共通する検査項目が多いことが重視されたものと解される。消費税法が仕入税額控除について当初から基本的方式として採用してきた帳簿方式(消税30条7項)は、質問検査手続において以上のような意味をもつと考えられる。   2 狭義の質問検査と広義の質問検査 国税通則法74条の2ないし74条の6の各規定は、前述のとおり、各対象税目の調査に係る質問検査権について主体(税務職員)、行使の要件(調査目的)、客体(納税者等)及び対象物件(帳簿書類等)の各事項に関する概ね類似の内容の定めを置いているが、以下では、それらの各事項について個別的に検討するのではなく、質問検査権それ自体の意義及び内容について検討することにする。 質問検査権は、「適正公平な課税の実現を図る上で必要な資料を収集・確保するために特に認められた権限」(志場ほか共編・前掲書945頁)であり、これを有する税務職員は、平成23年度[11月]税制改正前は、「納税義務者等に質問し、又は帳簿書類その他の物件を検査すること等ができること」(同943頁)とされていたのに対して、同税制改正後は、「納税義務者等に対し質問し、帳簿その他の物件を検査し、又は当該物件の提示若しくは提出などを求めることができること」(同945頁)とされている。 このように質問検査権の内容に関して、従来から各税法において定められていた質問、検査に加えて、上記の税制改正において提示・提出要求が明文で定められたが(税通74条の9第1項柱書ではまとめて「第74条の2から第74条の6まで(当該職員の質問検査権)の規定による質問、検査又は提示若しくは提出の要求(以下『質問検査等』という。)」と規定されている)、その規定の法的性格については、「物件の提示又は提出要求に関する権限の確認規定」(武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)3951頁)と解説されている。しかし、果たしてそうであろうか(以下の検討については拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【137】参照)。 納税者等に対する物件の「提示の要求」は、形式(論)的には税務職員の「提示の要求」に対応する行為であるが、「提示」それ自体に意味があるとは考えられないので、「提示の要求」の目的に照らして実質的に(目的論的・実質的に)「提示」の意味や位置づけを検討すべきであろう(租税手続法の領域では目的・手段思考が妥当することについては前掲拙著【20】参照)。「提示の要求」の目的は提示物件の検査にあると考えられることからすると、「提示」は目的論的・実質的には税務職員の検査に対応する行為とみることができる(したがって、「提示の要求」は検査の手段とみることができる)から、「提示の要求」に関する定めの追加は、税務職員の検査権に対応する納税者等の検査受忍義務を前提にして、その義務の履行としての「提示」を求めることができる旨を確認的に明文化したものと解することができる。したがって、「提示の要求」に関しては、前記の解説は妥当である。 これに対して、「提出の要求」を追加する定めは、以下で述べるように、質問検査の範囲拡大ないし質問検査権の強化のための創設規定であると考えられ、したがって、その限りでは、前記の解説は妥当でないと考えられる。 納税者等による物件の「提出」は、形式(論)的には税務職員の「提出の要求」に対応する行為である。しかし、①「提出の要求」は「提示の要求」とは別に定められており、したがって、「提出」が検査に対応する行為とは考えられないこと、②前記税制改正によって、「提出の要求」に関する定めとともに、質問検査権規定(税通74条の2~74条の6)の次に提出物件の「留置き」の規定(同74条の7)が新設されたこと等からすると、「提示の要求」とは別に「提出の要求」を定めたのは、提出物件の「留置き」を想定した上のことであると考えられる。それゆえ、「提出の要求」の目的は提出物件の「留置き」にある(換言すれば、「提出の要求」は提出物件の「留置き」の手段である)と解される。 要するに、納税者等による物件の「提出」は、目的論的・実質的には、税務職員による提出物件の「留置き」に対応する行為とみることができるのである。しかし、「留置き」は、「提示」に対応する検査とは異なり、前記税制改正前の各税法の質問検査権規定では定められていなかったため、「提出の要求」を、「提示の要求」のように従来からの質問検査受忍義務を前提にして性格づけることはできないように思われる。物件の「提出」は、目的論的・実質的には、新たに定められた税務職員の留置き権に対応する納税者等の留置き受忍義務を前提にして、その義務の履行として行われる行為であると考えられる。したがって、「提出の要求」に関する定めは、「提示の要求」に関する定めとは異なり、創設規定と解すべきであろう。 ところで、国税通則法は「質問、検査又は提示若しくは提出の要求」を質問検査権規定(税通74条の2~74条の6)の中で定めているにもかかわらず、調査の事前通知等に関する規定(同72条の9)では「質問検査等」と略称することにしている(同条第1項柱書括弧書)。この規定において質問検査に付けられた「等」は「提示若しくは提出の要求」を意味すると解することができるかもしれない。しかし、その1つ前の規定(税通74条の8)において質問検査権規定及び提出物件の留置き規定(同74条の2~74条の7)の規定事項をまとめて「質問検査権等」と略称することにしていることからすると、「質問検査等」という略称は、「質問、検査又は提示若しくは提出の要求」だけでなく提出物件の「留置き」をも視野に入れたものと解すべきであるように思われる。このような理解は、物件の「提出の要求」と提出物件の「留置き」との関係に関する前記の理解とも整合性をもつように思われる。 そうすると、提出物件の「留置き」は、物件の「提出の要求」を結節点として、質問検査と連動していると考えられる。したがって、講学上は、「質問、検査又は提示若しくは提出の要求」を「狭義の質問検査」と呼び、提出物件の「留置き」を含む一連の情報収集活動を「広義の質問検査」と呼ぶことができよう。なお、後者は、行為態様の点では、基本的には、犯則事件に係る任意調査(間接強制も伴わない任意調査)としての「質問、検査又は領置等」(税通131条1項)と比較し得るものであるが(同74条の2第1項柱書括弧書も参照)、その権限は「犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」(同74条の8)ことはいうまでもない(志場ほか共編・前掲書995頁参照)。   3 提出物件の留置き 最後に、広義の質問検査のうち提出物件の留置きに関する規定(税通74条の7)は、前述のとおり、平成23年度[11月]税制改正で新設されたが、質問検査権の法的性格(任意調査)や手続的保障原則(前掲拙著【27】参照)の観点からみて問題のある規定であると考えられるので、以下で検討しておくことにする。 この規定についてはその法案審議において、第179回国会衆議院財務金融委員会で佐々木憲昭委員による「とめ置くということはどういうことですか。本人は、これはちょっと、営業上、税務署に置いたままだと困るんだ、返してもらいたいと言ったら、すぐ返しますか。」という質問に対して岡本榮一政府参考人(国税庁次長)は次のとおり答弁していた(同委員会会議録第4号(平成23年11月18日)。下線筆者。志場ほか共編・前掲書986-987頁、武田監修・前掲書3955の22頁も同旨)。 この答弁で述べられた考え方は国税通則法施行令30条の3で次のとおり規定されている(下線筆者)。 前記の政府答弁や上記の規定にみられる考え方では、留め置いた物件の返還について留保されている「特段の支障」や「留め置く必要」が税務行政側の事情を考慮したものであることは明らかである。しかし、それでは、「特段の支障」や「留め置く必要」が税務行政側にあるときは、提出物件の留置きに同意した納税者等がその後その同意を撤回して提出物件の返還を求めても、その返還がされないことになる(不服審査基本通達(国税庁関係)75-1(5)は税務職員による返還拒否の場合について規定している。野一色直人『国税通則法の基本』(税務研究会出版局・2020年)51頁も参照)。この結果は、「留置きも任意調査の一環である」(武田監修・前掲書3955の22頁)ことと整合的でなく「任意調査の当然のルール」(品川芳宣『国税通則法講義』(日本租税研究協会・2015年)86頁)に反するものであるだけでなく、営業の自由(憲22条1項)等の人権との関係でも比例原則(憲13条)に照らして問題となり得るものである(前掲拙著【139】(イ)参照)。 そのような結果を防止するためには、提出物件の留置きが任意調査の法的性格を逸脱・喪失することがないようにする措置として、国税通則法が、納税者等に対して提出物件の留置きに係る同意の撤回権及びその撤回に基づく提出物件の返還請求権を認める規定を新設すべきである。その規定においては、物件のうち帳簿書類に代えて作成・保存される電磁的記録(税通34条の6第3項括弧書、電子帳簿保存法4条参照)の「返還」についても、その方法・手続等を規定すべきである。 こうすることによって、提出物件の留置きに関する法律関係が、税務職員の留置き権と納税者等の留置き受忍義務によってだけでなく、納税者等の同意撤回権及び留置き物件返還請求権と税務職員の留置き物件返還義務によっても構成される対等・対称的な権利義務の関係となり、広義の質問検査における手続的保障原則の実現に資することになろう。 (了)

#No. 577(掲載号)
#谷口 勢津夫
2024/07/11

国際課税レポート 【第4回】「“第1の柱”の不在に備えよ」

国際課税レポート 【第4回】 「“第1の柱”の不在に備えよ」   税理士 岡 直樹 (公財)東京財団政策研究所主任研究員   守られなかった約束 OECD・G20「BEPS包摂的枠組み」は、約束していた2024年6月末までに第1の柱「Amount A」実施のための多国間条約の署名を開始するという期限を守ることができなかった。 第1の柱の核心である多国間条約には、①「Amount A」(新課税権)による市場国への課税権の配分と、②各国が独自に導入した「デジタルサービス税(以下「DST」)」の廃止という2つの重要な役割がある。国際協調の成功を象徴するはずの存在で、100年に一度とも謳われるOECDの国際課税改革の華であり、いわばフラッグシップだ。 包摂的枠組は、5月末の総会で多国間条約の条文をまとめきれず、共同議長は「交渉が完了に近づいていることを報告することができる」との声明を出した(前回参照)。6月末の期限が過ぎた後、OECD税部門トップのマナル・コーエン氏は、取材に対して「各国がまだテーブルに着いているのは、私たちが前進しているからに他ならない」「ゴールに近づいている」と述べている(「OECD Tax chief still optimistic after missed pillar 1 deadline」Tax Notes International, July 8)。しかし、今後について公式のアナウンスはなく(本稿執筆時点)、展望は不透明だ。 多国間条約は、Amount Aを米国企業に差別的なものとして反発している米国議会に事実上の“拒否権“を認める内容であり(米国議会スタッフは、米国は14億ドルの歳入減になると見積もっている)、近い将来条約が発効しないであろうことは衆目の一致するところだった。しかし、各国代表団がスケジュール内に条文の確定すらできないことは想定外であった。国際課税制度の形成を支配してきたOECDの威信に、一時的かもしれないが、疑問符が付いたと捉えられても仕方ないかもしれない。   Amount AとDST まず、Amount A(国際協調による措置)とDST(各国独自の措置)のポイントを整理しておく。 【表1】Amount AとDST (※) 上表につき筆者作成。対象法人数及び歳入インパクトは、米国議会事務局スタッフのレポート「JCX-7-24」(2024)、EU Tax Observatoryレポート「Digital Service Tax」(2024)を参照。   デジタルサービス税の”Tsunami”が来るのか OECD税部門のトップとして、BEPSの作業を長年指揮したパスカル・サンタマン氏は、「米国が反対して発効できなければ、各国で独自の税が乱立して貿易戦争リスクになる」(2023年12月12日付日本経済新聞朝刊)「DSTの”Tsunami“が来る」(Bloomberg Daily Tax Report,April 18,2024)と警告していた。 DSTは、対象となる取引の域内売上に対して2、3%程度の税率で課税するExcise Tax(取引税)であり、所得税でないため既存の租税条約の縛りを受けない。各国独自に導入が可能なため、フランス(2019)、英国、イタリア、インド(2020)、スペイン(2021)など多くの国が2021年までに導入している。 (※) 米国議会事務局報告書(JCX-8-23)及び各国資料をもとに筆者作成。 2021年10月に2つの柱による解決に「大枠合意」して以降、各国は新たなDSTの導入を凍結してきた。多国間条約のとりまとめの遅延に伴い、凍結も繰り返し延長されてきた。2023年7月の「成果文書」では、「条約の発効に向けて十分な進捗がある場合」最終的には2025年末までの再延長に合意しうるとまで述べている。しかし、凍結の期間がだらだらと伸びることを嫌ったカナダは、「成果文書」合意に加わらず、2024年6月にDSTを国内法に導入している。 DSTは各国の国内法による仕組みなので、多国籍企業にとって負担が大きいことが懸念されてきた。しかし、後述するように、DSTは200頁もの条約が必要になったAmount Aに比べてシンプルな仕組みであり、各国の経験を見る限り、対象となる多国籍企業の数も限られている。実務的にはそれほど恐れる必要がないと言えなくもない。 そうであれば、DSTそのものが問題というより、DSTは米国企業を狙い撃ちにしたものだとして米国が反発し、制裁関税を課すことで関税戦争・貿易戦争の引き金をひきかねないことが問題と言うべきだろう。   デジタルサービス税を負担するのは誰か DSTは、「課税を免れているデジタル多国籍企業に応分の税負担を求める」ためのものとして主張される。実際、2021年に英国のDSTを支払った18社のうち、3社は全く法人税を支払っておらず、4社が支払った法人税はDSTの10分の1以下であったことが報告されている(英国会計検査院報告書(2023))。 しかし、DSTは、経済的にも法的にも消費者に転嫁されるExcise Tax(取引税)である。取材に対して、アマゾン、グーグル、アップルは、英国のDSTを彼らのプラットフォーム利用者に転嫁したと回答している(The Guardian,November 23,2022)。グーグルは、同社のオンライン広告の利用者に対し、DSTを加算することをホームページで明示している。 外形的には外国企業に対する課税だが、経済的にも法的にも自国民に転嫁されるのであれば、DSTにより税逃れをしている多国籍企業に応分の税負担を求めるという主張は大衆迎合的な、政治的レトリックの側面を持つと言えなくもない。   DST(効率的で政治的に魅力的な税)と日本 DSTの税収は、テクノロジー企業の急速な発展に伴い、同税を導入した全ての国で伸びている。2023年の英国のDST税収は5.67億ポンドであり、前年の3.8億ポンドから大幅に伸びたほか、税収見積もり4.65億ポンドの1.2倍であった(もっとも、税収に占める割合は0.1%程度)。市場国にとって、政治的な選択肢としてDSTは魅力的なことは間違いない。 多国籍企業にとっても、実際に課税対象となる法人の数は限られており(【表1】参照)、DSTの広がり自体はそれほど恐れる必要はないという見立てもできそうだ。   デジタル役務への源泉徴収課税を警戒せよ 日本企業にとって警戒すべきなのは、使用料の源泉徴収税の拡張であろう。一般的に閾値(7.5億ユーロ等)があるDSTと異なり、高い閾値があるわけではないので、グループ企業間の役務提供等が幅広く対象となりうるからだ。 【表2】デジタル役務に対する源泉徴収税 (※) 上表につき筆者作成。 また、各国独自の措置であることの弊害として、DSTにしろ、デジタル役務の源泉徴収税についても、定義があいまいな問題を指摘できる。例えば、インドの平衡税(DST)は、インド居住者(インドのIPを用いた者を含む)に対する非居住電子商取引事業者(プラットフォーマー)による自己の物品の販売や役務の提供(別のプラットフォームを介して行われるものを含む)に対して2%の税率で課税される(財政法第164条、165条A)。 しかし、メールのやりとりでグループ間取引を行った場合、インドの税務当局からこの規定に該当すると指摘された例もあると聞く。OECDにはこうした定義の共通化・明確化に取り組んでもらいたい。   おわりに 多国間条約合意は、あと一歩のところで一時的に足踏みしたように見える。原因の1つとして、米国とインドの間の意見の衝突があると伝えられる(前回参照)。しかし、インドのDST(平衡税)税収は2.35億ユーロ(2021)である一方、Amount Aについては2,300万ユーロ(2020)を失うと見積もられている(EU Tax Observatory(2023)15頁)。インドとしては、せっかく成功しているDSTの歳入を失ってまで、米国に譲歩するメリットはない。 コロンビア、ナイジェリアの財務大臣からは、Amount Aは途上国にとっての利益でないという声もあがっている。これら途上国にとっては、発効するか不確定な、条文だけで200頁に及ぶ複雑な制度に参加するインセンティブに欠けるということもありそうだ。 事態を大きく進めるには、これまで通りG7やG20におけるハイレベルのサポートが必要だ。しかし、秋の米国大統領選挙や、フランスや英国における政権交代など、政治的なリーダーシップを巡っては当面不確定要素が多い。ここは決着を急ぐより、時間がかかっても安定した合意を作ることを優先すべきでないだろうか。 まとめると、当面、多国間条約が現実となるまでの間、次の点に留意しておく必要があるだろう。 (了)

#No. 577(掲載号)
#岡 直樹
2024/07/11

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第98回】「消費生活協同組合が作成する金銭又は有価証券の受取書に係る印紙税の取扱い」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第98回】 「消費生活協同組合が作成する 金銭又は有価証券の受取書に係る印紙税の取扱い」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   東京高等裁判所令和5年10月18日判決において、消費生活協同組合における組合員と同一の世帯に属する者(以下、「家族組合員」という)は印紙税法上の「出資者」に該当する旨判示されました。 この判決により、消費生活協同組合が作成する金銭又は有価証券の受取書の非課税文書の対象となる「出資者」の範囲に「家族組合員」は該当するとのことですが、判断内容及び今後の対応について教えてください。 従来、被告である国は、非課税文書の対象となる「出資者」の範囲については、消費生活協同組合法第16条の規定にある、「組合員は、出資一口以上を有しなければならない」というところから、家族組合員については、出資行為を行っていないため、「出資者」には含まないものとして取り扱われてきました。 しかしながら、今回の裁判において、東京高等裁判所は、家族組合員は消費生活協同組合法第12条第2項により、組合の事業の利用に関しては、「定款に特に定めのある場合を除くほか、組合員と同一の世帯に属する者は、組合の事業の利用については、これを組合員とみなす。」というところから、定款に特に定めのある場合を除き、家族組合員は非課税文書の対象となる「出資者」に該当すると判断しました。   [検討1] 本件判決を踏まえた今後の取扱い等 今回の判決を踏まえて国においては、消費生活協同組合が作成する金銭又は有価証券の受取書について、非課税対象となる「出資者」の範囲に、定款に特に定めがある場合を除き、家族組合員も含むとされ、家族組合員についても「営業に関しないものと」して非課税文書となります。   [検討2] 既に納付されている印紙税について 国税庁ホームページのお知らせに令和6年6月14日付で掲載されている「消費生活協同組合が作成する金銭又は有価証券の受取書の印紙税の取扱いについて」によると、一定要件のもと還付請求が可能となります。 ただし、更正請求書の提出については、法定申告期限から5年を経過している印紙税及び、過誤納確認申請書の提出による場合は過誤納となっている文書を作成した日から5年を経過している印紙税については、還付の対象とならないため注意が必要です。   (了)

#No. 577(掲載号)
#山端 美德
2024/07/11

令和6年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第2回】

令和6年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第2回】   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   2 グループ通算制度における取扱い 研究開発税制の見直しについて、グループ通算制度における取扱いは以下のとおりとなる。下記(2)について下線部分が改正されている。 (1) 通算子法人の改正法の適用対象事業年度について グループ通算制度では、通算法人の試験研究費の税額控除について、通算グループ全体(通算親法人及び通算親法人の適用対象事業年度(試験研究費の税額控除を適用する事業年度)終了の日に通算完全支配関係がある通算子法人のすべて)で計算要素を集計して適用することとなるが、改正後の取扱いについては、通算親法人の適用対象事業年度が施行日以後に開始する事業年度に該当する場合に、通算グループ全体で適用されることとなる。 具体的には、通算子法人の適用対象事業年度は、次のとおりとなる。 (2) 一般試験研究費の税額控除制度の控除上限率の見直し グループ通算制度では、通算グループを一体として計算した税額控除限度額と控除上限額とのいずれか少ない金額(税額控除可能額)を各通算法人の調整前法人税額の比(控除分配割合)で配分した金額(税額控除可能分配額)を各通算法人の税額控除限度額とする。 [税額控除可能分配額(各通算法人の税額控除限度額)の計算式] この計算は、一般試験研究費の税額控除制度、中小企業技術基盤強化税制、特別試験研究費の税額控除制度に区別して計算される。 このように、グループ通算制度を適用する場合、通算グループ全体で税額控除率及び控除上限率を決定し、通算グループ全体で試験研究費の税額控除限度額を計算する仕組みであることから、令和6年度税制改正において、グループ通算制度における一般試験研究費の税額控除制度の税額控除率の見直しが行われている。 グループ通算制度を適用している場合の一般試験研究費の税額控除制度の改正前と改正後の取扱いは次のとおりとなる(新措法42の4①②③⑧、旧措法42の4①②③⑧)。 この一般試験研究費の税額控除制度に係る改正は、通算親法人の令和8年4月1日以後に開始する事業年度終了の日に終了するその通算法人の適用対象事業年度から適用される(令6改所法等附39②)。 [一般試験研究費の税額控除制度(一般型)]   (続く)

#No. 577(掲載号)
#足立 好幸
2024/07/11

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第99回】「IBM事件」~東京地判平成26年5月9日(税務訴訟資料264号順号12469)、東京高判平成27年3月25日(税務訴訟資料265号順号12639)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第99回】 「IBM事件」 ~東京地判平成26年5月9日(税務訴訟資料264号順号12469)、 東京高判平成27年3月25日(税務訴訟資料265号順号12639)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 577(掲載号)
#菊田 雅裕
2024/07/11

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第44回】「外国会社株式等がある場合における法人版事業承継税制のみなし相続時における納税猶予税額の計算」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第44回】 「外国会社株式等がある場合における 法人版事業承継税制のみなし相続時における納税猶予税額の計算」   税理士 柴田 健次   Q 前回の設問において先代経営者甲は令和5年10月16日に後継者乙にA社株式40,000株(発行済株式総数の全て)の贈与を行い、法人版事業承継税制(特例措置)に係る贈与税の納税猶予の適用を受け、贈与税の申告を行いましたが、甲は令和6年6月1日に相続が発生しました。 この場合には、特例株式等の価額が相続財産に加算され、相続税の納税猶予の適用を受けることができますが、実際に納付すべき相続税及び猶予される相続税について教えてください。 ◆前提事項 A 相続税の計算は下記の通りとなり、乙の相続税の納税猶予税額は296,883.9千円、乙の相続税の納付税額は89,725.5千円となります。また、丙の相続税の納付税額は460,534.5千円となります。  ◆  ◆  ◆ ① 法人版事業承継税制(特例措置)の概要 法人版事業承継税制(特例措置)は、贈与税の納税猶予制度と相続税の納税猶予制度があり、特例対象の株式等を有していた個人から後継者に贈与又は相続により取得させた場合において、一定の要件の下に特例株式等(特例措置の納税猶予の適用を受ける株式をいいます。以下同じ)に係る贈与税又は相続税を猶予する制度です(措法70の7の5、70の7の6)。 贈与税の納税猶予の適用を受けた後継者に係る贈与者が死亡した場合には、特例株式等(猶予中の贈与税額に対応する部分に限ります)は相続又は遺贈により取得したものとみなされます。この場合における相続税の課税価格の計算の基礎に参入すべき特例株式等の価額は、原則として贈与の時における価額を基礎として計算します(措法70の7の7)。一定の要件を満たした場合には、相続税の納税猶予の適用を受けることができます(措法70の7の8)。   ② 相続税の納税猶予税額の基本的な計算構造 相続税の納税猶予税額は、相続税の課税価格の計算において後継者が取得した特例株式等の価額(後継者が債務や葬式費用を承継又は負担している場合には特例株式等以外の財産から控除し、控除しきれない金額があるときは、特例株式等の価額から控除します。控除後の残額を「特定価額」といいます)と他の相続人等が取得した全ての財産の価額の合計額を課税価格とみなして計算した相続税の総額のうち特定価額に対応する税額が相続税の納税猶予税額となります(措法70の7の6②八、措令40の8の6⑯⑰)。相続税の納税猶予税額が「ゼロ」である場合には、相続税の納税猶予の適用を受けることはできません。 なお、後継者以外の相続人等については、通常の相続税の計算と同様に相続人等が取得した全ての財産に基づき計算した金額が、納付相続税額となります。 相続税の納税猶予税額がある場合の具体的な計算方法は、下記の3ステップにより計算します。 〈納税が猶予される相続税などの計算方法(特例措置)〉 (出典) 国税庁ホームページ「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除(法人版事業承継税制)のあらまし(令和6年6月)」7頁より抜粋   ③ 外国会社株式等を保有している場合の除外計算 贈与者又は被相続人が所有している外国会社株式、医療法人の出資持分又は上場株式は、法人版事業承継税制の適用対象にはなりませんが、承継会社が外国会社株式、医療法人の出資持分又は上場株式を有している場合には、要件を満たしていれば納税猶予の適用を受けることができます。 ただし、承継会社がこれらの株式等を保有している場合において納税猶予を無制限に認めてしまうと外国会社株式、医療法人の出資、上場株式についても納税猶予を認めてしまうことになるため、特例株式等の価額の計算上、これらの株式等については除外して計算することとされています。 具体的には、承継会社又は承継会社の特別関係会社(承継会社、代表者、代表者の特別関係者が有する他の会社(外国会社を含みます)の議決権の数の合計が当該他の会社に係る総株主等議決権数の100分の50を超える当該他の会社をいいます。以下同じ)であって承継会社との間に支配関係を有する法人が外国会社株式、医療法人の出資持分又は上場株式で一定の要件に該当するもの(以下「外国会社株式等」といいます)を所有している場合には、贈与税又は相続税の納税猶予税額の計算をする場合において、特例株式等の価額の計算上、外国会社株式等を有していなかったものとして計算します(措法70の7の5②八、70の7の6②八、措令40の8の2⑫)。 (1) 外国会社株式等の範囲 外国会社株式等とは、次に掲げる外国会社株式、医療法人の出資又は上場株式をいいます。 (注1) 資産保有型会社とは、一定の日における次に掲げる割合が100分の70以上となる会社をいいます(円滑化規則1⑰)。 (※) 特定資産とは、有価証券(事業実態のある子会社等一定のものを除きます)、会社が現に自ら使用していない不動産、ゴルフ会員権等、絵画、貴金属等、現預金その他これらに類する資産をいいます。 (注2) 資産運用型会社とは、一定の事業年度における次に掲げる割合が100分の75以上となる会社をいいます(円滑化規則1⑱)。 (※1) 特定資産の運⽤収⼊には、特定資産である株券の発⾏会社からの配当⾦、受取利息、受取家賃や特定資産の譲渡(譲渡価額そのものが運⽤収⼊となります)などが含まれます。 (※2) 総収⼊⾦額は、損益計算書上の売上⾼、営業外収益及び特別利益(資産の譲渡によるものについては、当該資産の譲渡価額に置き換えます)の合計額となります。 (2) 除外計算の対象になるかどうかの判定手順 除外計算に該当するかどうかは、下記の手順により判定を行います。 (3) 外国会社株式等がある場合の贈与時又は相続時における納税猶予税額の計算 贈与税又は相続税の納税猶予税額を計算する場合の後継者の課税価格とみなされる特例株式等の価額は、財産評価基本通達に基づき下記の通り計算します(措通70の7-14)。 なお、外国会社株式等との間に支配関係がある他の外国会社株式等については、考慮する必要はないため、除外計算は1回のみとなります。 (4) 贈与者が死亡した場合におけるみなし相続時における納税猶予税額の計算 特例措置による贈与税の納税猶予の適用を受けた後継者に係る贈与者が死亡した場合において、相続税の納税猶予の適用を受けるときは、相続税の納税猶予の計算で後継者の課税価格とみなされる特例株式等の価額は、以下の①の対象金額に②の一定割合を乗じて計算した金額となります。ただし、その価額が③の上限額を超えるときは、その上限額が限度額となります(措規23の12③、23の12の5⑥、措通70の7の4-6)。 したがって、①の対象金額に②の一定割合を乗じて計算した価額と③の上限額のいずれか低い金額が納税猶予の計算で使用する特例株式等の価額となります。 一定割合は、承継会社が外国会社株式等を保有していない割合を意味しますので、相続時点における承継会社等の外国会社株式等の所有割合が大きくなれば、相続税の納税猶予税額は少なくなります。   ④ 本問の場合における相続税の納税猶予の対象となる特例株式等の価額 相続税の納税猶予の計算で後継者の課税価格とみなされる特例株式等の価額は、下記の①の対象金額に②の一定割合を乗じた金額と③の上限額のいずれか低い金額となります。 本問の場合には、660,657,374円が相続税の納税猶予の対象となる特例株式等の価額となります。   ⑤ 本問の場合における相続財産に加算される金額 贈与税の納税猶予の適用を受けた後継者に係る贈与者が死亡した場合には、特例株式等(猶予中の贈与税額に対応する部分に限ります)を相続又は遺贈により取得したものとみなされます。この場合における相続税の課税価格の計算の基礎に参入すべき特例株式等の価額は、原則として贈与の時における価額を基礎として計算します(措法70の7の7)。 贈与時において外国会社株式等がある場合には、贈与の時における価額については、外国会社株式等を除外して計算した価額により贈与税の納税猶予税額を計算しますので、加算される金額もその除外計算した後の特例株式等の価額(802,640千円)となります(措法70の7の7①、70の7の5②八)。 なお、A社株式の贈与時の価額(867,760千円)のうち特例株式等の価額(802,640千円)は、上記の通り法人版事業承継税制の規定により加算されることになりますが、贈与時の価額(867,760千円)から特例株式等の価額(802,640千円)を控除した金額(65,120千円)については、相続時精算課税制度の規定で加算されることになり、納付した贈与税は相続時に控除されることになります(相法21の14~16)。   ⑥ 本問の場合における相続税の納税猶予税額と納付税額 本問の場合には、上記⑤の取扱いにより相続時に加算される相続財産の金額は867,760千円(802,640千円 + 65,120千円)となります。贈与税の納税猶予の適用を受けた後継者に係る贈与者が死亡した場合には、猶予されていた贈与税(155,528千円)は免除となり(措法70の7⑮、70の7の5⑪)、贈与時に納付していた贈与税額は、後継者の相続税額から控除されることになります。 相続税の計算は、下記の通りとなり、乙の相続税の納税猶予税額は296,883.9千円、乙の相続税の納付税額は89,725.5千円となります。また、丙の相続税の納付税額は460,534.5千円となります。   ☆実務上のポイント☆ 贈与時の外国会社株式等の除外計算とみなし相続時における外国会社株式等の除外計算は異なりますので注意が必要です。みなし相続時においては、承継会社の純資産価額を基礎として外国会社株式等を保有していない割合を算出しますので、純資産のうち外国会社株式等の占める割合が高くなると相続税の納税猶予税額は低くなり、想定外の相続税が発生することも考えられます。 (了)

#No. 577(掲載号)
#柴田 健次
2024/07/11
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