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〔一問一答〕税理士業務に必要な契約の知識 【第5回】「新型コロナウイルスの影響と契約関係」

〔一問一答〕 税理士業務に必要な契約の知識 【第5回】 「新型コロナウイルスの影響と契約関係」   虎ノ門第一法律事務所 弁護士 鏡味 靖弘   〔質 問〕 ①取引先に納入すべき製品の仕入れが新型コロナウイルスの影響により大幅に遅れ、既に納入期限を過ぎている上に今なお納入時期の具体的見通しも立ちません。取引先から契約の解除や損害賠償請求を受けた場合、これに応じなければならないでしょうか。 ②新型コロナウイルスの影響により、当社の売上げも大きく減少し、このままでは次の買掛金の支払いができません。このような状況下でも責任を負うのでしょうか。 ③発熱の症状が出ている従業員がいます。職務の継続自体は可能と思われますが、当社の判断で休業を命じようと考えています。このような場合に当社は休業手当の支払義務を負うのでしょうか。また、従業員が自主的に休業した場合はどうでしょうか。 〔回 答〕 ※以下では、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正後の民法(令和2年4月1日施行)を「改正民法」といい、当該改正前の民法を「改正前民法」といいます。 ①取引先との契約締結が改正民法の施行前(令和2年3月31日まで)である場合には、今回の納入期限徒過が不可抗力によるもの、あるいはこれについて貴社に帰責事由がないといえるときは、取引先は契約を解除できず、また、取引先に対する損害賠償義務もありません。ただし、契約締結が令和2年4月1日以降(改正民法施行後)である場合には、仮に不可抗力ないし帰責性なしと認められる場合であっても、契約解除には応じざるを得ません。 ②金銭債務については不可抗力免責がなく、期限どおりに買掛金の支払いができない場合は当該支払義務について債務不履行となり、約定金額に加えて遅延損害金を支払う義務を負います。 ③会社の判断で従業員を休業させる場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」(労働基準法26条)として、休業手当の支払義務を負うこととなります。他方、従業員が自主的に休業する場合には、通常の病欠と同様に扱えば足り(就業規則等に別段の定めがあればそれに従う)、休業手当を支払う必要はありません。 ◆◆◆◆ 解 説 ◆◆◆◆ 1 債務不履行責任とその免責 (1) はじめに 債務不履行とは、債務者の責めに帰すべき事由により、債務の本旨に従った弁済(給付の実現)がなされないことをいい、その効果としては、損害賠償請求権及び契約解除権の発生が挙げられる。 ところで、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うWHOのパンデミック宣言や日本政府による緊急事態宣言の発令により人や物の移動等が制限されている今日の状況下においても、上記はそのまま当てはまるのであろうか。損害賠償請求権及び契約解除権の発生それぞれについて検討する。 (2) 契約上の不可抗力免責条項に基づく損害賠償義務の免責 我が国で締結される契約においては、「不可抗力によって債務不履行が生じた場合には損害賠償責任を負わない」とする不可抗力免責条項が置かれていることが一般的である。 そのため、まずは契約内容を確認し、不可抗力免責条項が置かれているか否か、同条項があるとして今般の新型コロナウイルスの影響が当該条項にいう不可抗力に当たるか否かを検討することになるだろう。 なお、「不可抗力」とは、外部からくる事実であって、取引上要求できる注意や予防方法を講じても防止できないもの(単に過失がないだけでなく、より一層外部的な事情)をいい、大地震・大水害等の災害や戦争・動乱などがその代表例とされる。 契約書において規定される不可抗力免責条項においても、これらが例示されていることが多いが、上記のような「不可抗力」の解釈に照らすと、今般の新型コロナウイルスの影響(及びそれを原因とする納入期限の徒過)は、不可抗力に該当するといえる場合が多いのではなかろうか。 ただし、「新型コロナウイルスの影響」によることを理由として一律に抽象的に不可抗力に当たると判断すべきではなく、あくまで個別具体的な契約関係の諸事情に応じて判断されるべきものであり、場合によっては結論が異なり得ることに注意が必要である。 (3) 帰責事由がないこと(無過失)による損害賠償義務の免責 他方、契約上の不可抗力免責条項がない場合には、当該不履行(本件でいえば納期限までに納入できないこと)について帰責事由があるといえるかどうかの検討が必要になる。 債務不履行にいう「債務者の責めに帰すべき事由」は、「債務者の故意・過失、又は信義則上これと同視される事由」をいい、これに該当するかどうかは、不可抗力の解釈と同様に、個々の取引関係についての諸事情を考慮することに加え、取引に関して形成された社会通念をも勘案して判断するものとされている。 なお、改正民法415条1項ただし書は、「その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」帰責事由の有無を判断する旨明記した。 結論としては、今般の新型コロナウイルスの影響により納入期限を徒過してしまうというケースの多くについて、「債務者の帰責性なし」と判断される可能性が高いと思われる。 もっとも、不可抗力について述べたのと同様、あくまで個々の契約をとりまく諸事情を個別具体的に考慮して判断されるべき事柄であるから、例えば既に大きく感染が拡大した状況下で契約が締結され、そもそも感染拡大による納期限徒過の可能性が予見できる状況にあった等の事情の下においては、債務者に帰責事由があると判断され得るであろう。 (4) 契約解除の可否について 改正前民法においては、債務不履行に基づく契約解除についても、債務者の帰責事由が要求されていたが(改正前民法541条等)、改正民法においては、債務者の帰責事由が解除の要件から除外された(改正民法541条等)。 したがって、改正民法施行後(令和2年4月1日以降)に締結された契約については、仮に不可抗力ないし帰責事由がないことによって損害賠償義務については免責されたとしても、債権者から解除がなされればこれを受け入れざるを得ない。 (5) 金銭債務についての免責の可否 金銭債務の不履行については、そもそも不可抗力が免責事由とならない(改正前民法419条3項。改正民法も同一条項)。 よって、金銭債務については、新型コロナウイルスの影響によって資金繰り等にいかなる影響が生じようとも、不可抗力による免責を主張できない。どうにかして資金調達をし、期限どおりに支払わない限り、債務不履行責任(約定金額+遅延損害金の支払義務)を負うこととなる。 (6) とるべき対応について 不履行となるべき債務の内容がどのようなものであれ、その背景にこのような危機的状況がある以上は、双方の損害をできる限り最小限とすべく両当事者が協議して解決を図るべきであろう(期限の延長等)。   2 新型コロナウイルスの影響に伴い従業員を休業させる場合の留意点 (1) 労働基準法26条に基づく休業手当の支払義務 労働基準法26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合」には、使用者は休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないと定めている。 他方、不可抗力による休業の場合には、そもそも「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たらず、会社が休業手当の支払義務を負うことはない。 ここにいう「不可抗力」とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること、の2つの要件を満たすものでなければならない。 (2) 具体的場合における支払義務の有無 職務の継続が可能である従業員について使用者の自主的な判断で休業させる場合は、基本的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、会社は休業手当の支払義務を負う。 他方、従業員が自主的に休業する場合には、通常の病欠と同様に扱えば足り(就業規則等に別段の定めがあればそれに従う)、休業手当を支払う必要はない。 なお、いずれの場合であっても、会社が従業員に配慮して、法的義務の範囲を超えて休業手当や賃金等を支払うことが可能であることは当然である。 (了)

#No. 369(掲載号)
#鏡味 靖弘
2020/05/14

《速報解説》 監査業務における署名・押印に関する実務の現状と多くの監査法人による対応予定・取組みを会計士協会が示す

《速報解説》 監査業務における署名・押印に関する実務の現状と 多くの監査法人による対応予定・取組みを会計士協会が示す   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2020年5月8日、日本公認会計士協会は、新型コロナウイルスへの対応に関する特設ページにて、「第5回新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会での日本公認会計士協会説明資料」として「監査業務における署名・押印に関する実務対応について」を公表した。 また、2020年5月7日には、会長声明「緊急事態宣言の延長に対する声明」が日本公認会計士協会から発出されている。 会長声明では、定時株主総会の開催を7月以降に延期するために基準日変更を決議した上場企業は9社(39社が検討中)、継続会を決定した上場企業は0社(85社が検討中)であり、定時株主総会の7月以降への延期又は継続会の開催を決定した企業は少数にとどまっていると記載されている。 そのような中、会計監査人の監査報告書に関して、署名・押印に関する実務の現状と、今後、監査法人で予定している対応のほか、経営者確認書に関する対応についても述べている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 監査報告書への署名・押印に関する実務の現状 会計監査人の監査報告書に関して、署名の入手や袋綴じのプロセスはほとんどの監査法人で事務職員が主要な役割を担っていることから、業務執行社員と事務職員の多くが事務所に出勤せざるを得なくなり、結果として、出勤者7割削減の要請を満たせず、感染リスクを高めてしまうことが危惧されるとしている。 なお、法令上、袋綴じを監査人で行うとする定めはなく、実務上、企業がこれを行うケースもあるとのことである。   Ⅲ 監査報告書への署名・押印について監査法人で予定している対応 業務執行社員及び事務職員の出勤を抑制できる代替的な方法を採用することについて、被監査会社に了解していただきたいと考えているとのことである。 多くの監査法人では、例えば、以下のような対応を予定しているとのことである。   Ⅳ 経営者確認書に関する対応 以下のような取組みが進められている。 (了)

#No. 368(掲載号)
#阿部 光成
2020/05/12

《速報解説》 会計士協会、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その5)」を公表~経営者確認書に新型コロナウイルス感染症が事業に与える影響等の文例を示す~

《速報解説》 会計士協会、「新型コロナウイルス感染症に関連する 監査上の留意事項(その5)」を公表 ~経営者確認書に新型コロナウイルス感染症が事業に与える影響等の文例を示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2020年5月8日、日本公認会計士協会は、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その5)」を公表した。 監査上の留意事項(その5)では、会社法の監査意見の形成に関して、監査意見及び経営者確認書に関する留意点について述べている。 なお、5月15日付けで「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(法務省令第37号)が公布、同日から施行されたことから、同日付で、監査上の留意事項(その5)が更新されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 経営者確認書に関する留意事項 新型コロナウイルス感染症が事業に与える影響とそれらの影響を財務報告においてどのように取り扱ったかについて、経営者に対し書面による陳述を要請することが考えられる。 経営者確認書に下記の下線部を追加する文例が示されている。 1 計算書類等に関する経営者確認書の追加文例 2 提供する情報に関する経営者確認書の追加文例   Ⅲ 監査意見に関する留意事項 1 除外事項付意見(監査範囲の制約)に関する留意点 今回の新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策の影響等により、監査人の監査意見について、限定付適正意見又は意見不表明となることがある。 監査範囲の制約による限定付適正意見及び監査範囲の制約による意見不表明の場合の監査報告書の文例が記載されている。 2 除外事項付意見の会社法上の取扱い 次の留意事項が記載されている。 3 会計監査報告の通知期限 会社計算規則130条において、会計監査報告の通知期限が規定されている。 通知期限に関して、次の留意事項が記載されている。 (了)

#No. 368(掲載号)
#阿部 光成
2020/05/12

プロフェッションジャーナル No.368が公開されました!~今週のお薦め記事~

2020年5月7日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.368を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2020/05/07

monthly TAX views -No.88-「ポスト・コロナで始まるか、国家の役割の議論」

monthly TAX views -No.88- 「ポスト・コロナで始まるか、国家の役割の議論」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   新型コロナウイルス問題は、全世界に広がり、未だ収束の気配を見せていない。わが国政府のこの問題への対応は、「ウイルス退治」と「自粛措置による最小限の経済活動の維持」という二兎を追ったもので、賛否両論が続いており、その評価は定まっていない。 このような状況下で、問題終息後(ポスト・コロナ)の世界経済・社会への影響や変化については、様々な識者が論じ始めている。 大方の見方では、経済活動がグローバルからローカル(地産地消)へ、産業構造はロボット活用など第4次産業革命が進展し、テレワーク、オンライン教育など生活の隅々にデジタル化が浸透するなどの変化などが指摘されている。 ここで取り上げたいのは、社会思想への影響である。 *  *  * 新自由主義の退潮、小さな政府への反省から、国家は可能な限り国民に親切にする必要があるという国家や社会保障の在り方の議論が進むのではないか。そしてそれは、「財源問題は今考えるべきではない」というポピュリズムを生んでいく可能性がある。 今回当面の対策として、リーマンショック時の定額給付金にならい、国民全員に10万円が給付されることになった。コロナ問題の先行きから考えて、このような無条件での給付は今後も続くことが考えられるが、国家は国民の生活をどこまでを保障する役割や義務を負うのか、財源は日銀ファイナンスで無制限と考えていいのか、きちんとした議論を行う必要がある。 *  *  * すでに、新自由主義を掲げて言論活動を行ってきた元政治家やタレントが、「今こそベーシックインカムで国民全員の最低限の生活保障を」などと、節操なく180度スタンスを変え始めている。はたして国民は、国家が生活の丸ごとを保証することを期待するのだろうか。そこで生じるモラルハザードやフリーライダーの問題は、どう考えればいいのだろうか。 国民生活を丸抱えする巨大な政府を志向することは、非効率、モラルハザードの問題から国を亡ぼす可能性がある。「命を守るためには国家破たんも避けられない」という極論も出始めている今日だが、国家が破たんすれば医療や年金・介護も破たんする。冷静な議論が必要だ。 *  *  * 事業者への対応については、ヒントがある。 今回の経済対策の中で、資本金1億円超10億円以下の中堅企業への法人税の繰戻し還付が行われるが、納税者が過去の経済活動の成果として収めた税金をさかのぼって還付して危機に瀕した納税主体を守るという発想は、国と国民(納税者)とがリスクを共有する(保険機能)ということに他ならない。これは法人税の話だが、個人事業者の所得税にも適用できる考え方だ。 一方で、感染症の危機を乗り越えることで社会の絆が生まれれば、高所得者から低所得者への分配を後押しする世論の流れが生じてくる可能性がある。 ニューヨーク州のクオモ知事は、「Build it back better(再建するなら、前より良いものを)」という標語を使っている。新型コロナウイルス問題の終息後には、ただコロナ前の生活に戻るのではなく、コロナ後はより進んだ人にも優しい生活を実現しようということのようだ。 政治家の美辞麗句かもしれないが、味わい深い言葉だと思う。 (了)

#No. 368(掲載号)
#森信 茂樹
2020/05/07

〔失敗事例から考える〕この相続対策の問題はドコ!? 【第1回】「コロナショックの影響により株式等の損切りをしたことによる失敗事例」

〔失敗事例から考える〕 この相続対策の問題はドコ!? 【第1回】 「コロナショックの影響により株式等の損切りをしたことによる失敗事例」   公認会計士・税理士 木下 勇人   ◇連載開始にあたって◇ 「相続対策」と聞くと、多くの税理士は「相続税をどう節税するか」ということにとらわれがちで、相続対策全体を見た適切な対応ができていないケースがあるように思えます。 そこで本連載では、実際に想定される相続対策の事例を取り上げ、その対策のどこに問題があるのか、税務的視点はもとより、必要とされるそれ以外の視点(経営的視点、法務的視点など)をもって解説することで、より適切な相続対策をできるようになることを目的としています。 本連載が相続実務に携わる方のお役に少しでも立てば幸いです。 *  *  * - 事 例 - 私(80歳男性:推定相続人は長男1人)はある程度の相続税対策を実施済みであり、老後の楽しみとして2月上旬に上場株式を5,000万円購入していました。 しかし、コロナショックに端を発した株式市場の低迷により、保有銘柄もかなり多額の含み損(3,000万円)を抱えてしまいました。現在の状況だと含み損はさらに膨らみそうで、含み損を抱えるプレッシャーに耐えられそうにありません。証券会社のススメもあり株式売却を考えています。   ■ ■ ■ 回 答 ■ ■ ■ この事例における失敗は、株式をすぐに売却してしまうことです。 すぐに株式を売却して含み損を実現させるのではなく、相続時精算課税制度を用いた次世代への贈与を検討することで、資産運用と相続税対策のどちらも達成できるようにしましょう。 -解 説- 1 コロナショックが相続財産に与える影響 いわゆる「コロナショック」は、リーマンショックや東日本大震災の際と同様かそれ以上のインパクトをもって、株式市場のみならず日本経済全体への影響が考えられる。しかしながら、今後、日本経済が立ち直れば含み損が顕在化することなく、その資産価値が復活する可能性も秘めている。   2 含み損を実現させることが最善策か? 本事例にあるように、上場株式は真っ先に影響が反映される資産といえ、売却して含み損を実現させた場合、3,000万円分の相続財産が評価減され、結果として相続税が節税できたことになるが、実損を負ったことになるため、それでは本末転倒と言わざるを得ない。   3 資産運用と相続税対策の複眼的視点 資産運用と相続税対策を同時に達成するという視点から考えれば、大幅に評価減された上場株式が現状のままであれば、資産運用としては失敗となる。しかし、逆にその状態だからこそ、相続税対策として検討する余地があると言える。 まず、相続税対策の王道として、相続財産として評価減された状態で株式を次世代に贈与することが挙げられる。贈与後、何年で上場株式の評価が上昇してくるかは日本経済の復活と比例する可能性が高くなるが、贈与後に評価額が上昇しても、相続財産が膨らむことはない。 そうすることで、次世代に株式を移転した後に含み損が解消し、その後売却することにより次世代が納税資金を確保することが可能となる。相続対策の全体の流れとしては、このような考え方を採用すべきと考える。   4 相続対策実施に関する具体的検証 それでは、実行段階に向けた検証を以下で行う。 本事例における上場株式の相続税評価額は2,000万円(株価が下降曲線を描いている最中であるため、採用する最安値は贈与時点)であり、贈与時点での株価が最安値と仮定すれば、この段階で一度に贈与を実行することを検討すべきである。その際、贈与税は585.5万円(特例税率)となるが、次世代に手元資金がなければ納税ができない。 そこで、最安値の価格固定効果を得るために、相続時精算課税制度の採用を検討する。そうすることにより、相続税評価額である2,000万円は相続税の計算時に取り込まれることになるが、贈与時点での次世代の納税負担はなくなるため、受贈しやすくなる。 なお今後、暦年贈与には戻れなくなるが、本事例では相続税対策はある程度実施済みであったため、次世代への贈与実行の可能性が低ければ、相続時精算課税制度の採用を検討すべきである。   5 贈与後、次世代が勝手に売却して費消してしまう心配への対処 親世代としては、贈与実行する際に心配するのが、贈与した財産を費消してしまうことである。贈与後は財産を取得した次世代が自ら管理処分できることになるが、それを懸念して名義預金の形成がされるのが実情である。 そこで、これを懸念するのであれば、贈与後に民事信託の組成を検討することも一考の余地がある。最近では大手証券会社においても、有価証券口座に関する信託口口座の開設の動きが活発になっている。現状では、自益信託が前提となるため、贈与後の信託組成として、委託者(=受益者)を次世代、受託者を親世代とすることで、財産管理を親世代が行うことが事実上可能となる。また、受託者の認知症発症を信託終了事由として設定しておくことも検討すべきである。   6 最後に 税理士としては、相続税対策のみならず、その他の視点(例えば、資産運用、資産管理など)を同時に満たせる提案が求められる。本事例においては、子が1人であったため、相続税対策が主眼となったが、子が複数の場合には贈与実行した場合における民法上の持戻し概念も重要となるのは言うまでもない。 (了)

#No. 368(掲載号)
#木下 勇人
2020/05/07

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第78回】「特別貸付けに係る消費貸借契約書の印紙税の非課税措置」-新型コロナウイルス感染症対策税制-

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第78回】 「特別貸付けに係る消費貸借契約書の印紙税の非課税措置」 -新型コロナウイルス感染症対策税制-   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   新型コロナウイルス感染症によりその経営に影響を受けた事業者に対して行う特別な貸付けに係る契約書について、印紙税の非課税措置が設けられたとのことですが、どのような内容ですか。 また、既にこの特別貸付けに係る契約を締結し、契約書等に収入印紙を貼付してしまった場合には、何か救済措置はありますか。 貸付けに係る契約時に作成する金銭消費貸借契約書や借用証書等は、印紙税法における「消費貸借に関する契約書」に該当し課税文書となるが、公的金融機関や民間金融機関等が、新型コロナウイルス感染症によりその経営に影響を受けた事業者に対して行う特別な貸付けに係る契約書については、印紙税の非課税措置が講じられている(臨特法11)。 〈「特別貸付けに係る消費貸借契約書の印紙税の非課税」の制度イメージ〉 (財務省ホームページ参照) ここでいう、「公的金融機関」とは、(株)日本政策金融公庫、沖縄振興開発金融公庫などで、「民間金融機関」とは、銀行、信用金庫、信用協同組合などであり、「民間金融機関等・」の「等」とは、地方公共団体などを指す。 なお、既に契約を締結し印紙税を納付した場合等については、税務署において過誤納確認を受けることにより、納付された印紙税の還付を受けることができる。 その際には、契約書の作成者が「印紙税過誤納確認申請書」を作成し、作成者の住所地の所轄税務署に提出する。申請書提出時には、契約書原本を提示し、過誤納である旨の確認を受ける。 また、金銭借用証書などのような借入者のみが署名して金融機関等に提出される差入方式で作成されるものは、原本が金融機関等にて保管されているので借入先の金融機関と相談し、借入者の委任を受けて過誤納確認申請の手続きを行うなどの措置を講ずることとなる。 (了)

#No. 368(掲載号)
#山端 美德
2020/05/07

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例17】「建物内部造作の「器具及び備品」該当性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例17】 「建物内部造作の「器具及び備品」該当性」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は神奈川県内に数件の賃貸用マンションを保有する者です。当該マンションはすべて親から相続したもので、私が代表者を務める不動産管理会社(株式会社)を通じて保有しています。 そのうちの一棟はかなり老朽化が進んでおり、なかなかテナントの募集に苦慮していたため、一昨年、大規模な修繕を行いました。内装はクロスの張替えが中心でしたが、ユニットバスを全部新品に取り換えるとともに、窓(窓枠と窓ガラス)とドア扉も全面的に最新のものに取り換えることで、マンションのセキュリティーの水準を大幅に高めることができました。 昨年度の不動産管理会社の確定申告においては、今般の大規模修繕につき、クロスの張替えは修繕費としましたが、ユニットバスや窓、ドア扉の交換費用はすべて器具備品として資産計上しました。その場合の耐用年数ですが、ユニットバスは耐用年数省令の「器具及び備品」のうち「前掲する資産のうち、当該資産について定められている前掲の耐用年数によるもの以外のもの及び前掲の区分によらないもの」と解して、うち「その他のもの」に該当すると考えて8年としました。 また、窓やドア扉も同様に耐用年数省令の「器具及び備品」のうち「前掲する資産のうち、当該資産について定められている前掲の耐用年数によるもの以外のもの及び前掲の区分によらないもの」と解し、うち「主として金属製のもの」に該当すると考えて15年としました。 ところが、現在進行中の税務調査で税務署の調査官から、ユニットバスや窓、ドア扉はいずれも建物と一体になって使用される減価償却資産であるため、その耐用年数は建物と同じであると言い渡されました。マンションのような鉄筋の堅牢な構築物と、ユニットバスや窓枠、ドア扉のごとき交換可能な資産を一緒くたに考えて減価償却を行うなど、実態を全く無視した暴論と考えるのですが、いかがでしょうか。   【A】 裁判例から判断すると、その減価償却資産を特定の建物から分離して別の建物に移転させても、当該資産本来の機能を果たすことができるものであれば、「建物」とは別の種類の資産(器具及び備品など)に分類できるのではないかと考えられます。 本件の場合、ユニットバスや窓、ドア扉などのような建物を構成する建具等(建物内部造作)は、それを分離して別の建物に移設した場合、実際に使用し機能するのかとなると疑問であり、そうなると、当該内部造作は建物と物理的又は機能的に一体不可分であり、かつ、当該建物と一体となってその効用を維持増進する目的を有するものであるから、耐用年数省令における「器具及び備品」に分類されるのではなく、「建物」に分類されることとなります。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 減価償却資産の分類 固定資産のうち、使用又は時間の経過によって価値の減少が生じるものを一般に減価償却資産という。減価償却資産は、企業において長期間(通常耐用年数で示される)にわたって収益を生み出す源泉であることから、その取得に要した金額は、費用収益対応の原則に従い、使用又は時間の経過によってそれが減価するのに応じて徐々に費用化するのが理論的であるといえる。このような費用化の方法を減価償却という。 このような減価償却の方法は、減価償却資産の種類によって異なってくる。例えば、法人税法に定める減価償却資産の償却方法は、原則として定額法と定率法であり、多くの資産においては納税者がいずれかの方法を選択することとなるが、平成19年4月1日以降に取得した建物は定額法のみ選択できる(※1)。 (※1) 平成28年度の税制改正で、平成28年4月1日以降に取得した建物附属設備及び構築物も定額法のみ適用が可能である。 また、減価償却の方法については、取得価額、耐用年数、残存価額及び償却率の4要素が重要であるが、耐用年数及び償却率は減価償却資産の種類により決定されるといえる。すなわち、「耐用年数」は耐用年数省令(減価償却資産の耐用年数等に関する省令)によって資産の種類ごとに一律に定められている(法定耐用年数)。そのうち、「機械及び装置」以外の有形固定資産については、その構造及び用途に従って分類がなされている(別表第1)。また、「機械及び装置」は、平成20年度の税制改正で、日本標準産業分類の中分類に従って、原則として1業種1区分の55区分に分類されている。 一方、「償却率」は、定額法が「耐用年数分の1」となるが、定率法は(同じ耐用年数の)定額法の償却率の2.5倍となるように、いずれも耐用年数をベースに算定される。 このように、耐用年数及び償却率は、いずれも耐用年数を介在して減価償却資産の種類により決定されることとなる。したがって、減価償却費の計算においては、対象となる減価償却資産が耐用年数省令に定められたどの資産に該当するのかを的確に把握することが重要となる。 (2) 建物内部造作の減価償却と耐用年数 それでは、本件のように、マンションのユニットバスや窓、ドア扉などのような建物を構成する建具等(建物内部造作)を交換した場合、当該建物内部造作は、減価償却額の計算上、建物から分離した「器具及び備品」とするのか、それとも建物の構成要素として「建物」に分類するのだろうか。 〇建物内部造作の減価償却と耐用年数 この点について争われた裁判例(広島地裁平成5年3月23日判決・税資194号867頁、TAINSコード:Z194-7101)があるので、以下でその内容を確認してみたい。 ① 事案の概要 原告は、マンションの賃貸等を目的とする有限会社である。 原告は、昭和62年4月期及び昭和63年4月期の各確定申告において、昭和60年4月に取得した「第二大石マンシヨン」の減価償却費を算出するに当たり、本件建物に係る建築工事のうち、鋼製建具工事、木製建具工事、硝子工事、内装工事のうち畳敷物及び雑工事のうちユニットバス(本件建具等)は、法人税法第31条所定の政令である同法施行令第56条による「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(耐用年数省令)別表第1に掲げる「器具及び備品」に該当するとして、本件建物とは別個に5年ないし15年の耐用年数を適用して償却限度額を計算し、その結果、昭和62年4月期については216万38円を、昭和63年4月期については101万5,512円を減価償却費として、各期の損金の額に算入し、昭和62年4月期の確定申告においては所得金額をマイナス2,135円、昭和63年4月期の確定申告においては所得金額をマイナス655万74円として各申告した。 これに対し、被告・税務署長は、本件建具等はマンションの建物を構成しており、当該建物の耐用年数である60年が適用されるとして、償却限度額を昭和62年4月期につき33万8,601円、昭和63年4月期につき32万5,734円とした上で、原告申告の減価償却費のうち、昭和62年4月期の182万1,437円、昭和63年4月期の68万9,778円については、いずれも償却超過額であり、損金に算入されないとした。 ② 事案の争点 本件建具等は、耐用年数省令別表第1に掲げる「器具及び備品」に該当し、本件建物とは別個のそれ自体特有の耐用年数を適用して償却されるものであるのか、それとも本件建物を構成しているため、「建物」と同じ耐用年数を適用すべきなのか。 ③ 裁判所の判断 ④ 裁判例の検討 本件は、ユニットバスや建具、窓枠といった建物の構造部分ではない「内部造作」につき、建物と切り離して減価償却の計算を行うのか、それとも建物と一体とみて建物と同じ耐用年数等を適用するのかが問題となった事案であるが、裁判所は「本件建具等は、本件建物と物理的又は機能的に一体不可分な内部造作であり、かつ、本件建物と一体となって、その効用を維持増進する目的を有するものであるから、いずれも耐用年数省令別表第1に掲げる「器具及び備品」には該当せず、本件建物の耐用年数が適用されるものと認められる」と判示した。 当該裁判例で裁判所は、本件建物の内部造作は、構造上の独立性と、建物本来の効用・用途以外の固有の効用・用途の有無により、建物と一体とみるか否かを判断するという基準を示した、とする評釈もある(※2)。 (※2) 一高龍司「法人税法上の減価償却に関する主要な裁判例-昭和63年以降-」『日税研論集』第69号(日本税務研究センター・平成28年)223頁。 上記内部造作は、「建物」ではなく「建物附属設備」に該当する可能性もあるが、耐用年数省令に掲げられた9つの「構造又は用途」にはいずれも該当しない。そのため、「前掲のもの以外のもの及び前掲の区分によらないもの」に該当するのか、耐用年数の適用等に関する取扱通達でその解釈を確認すると、その2-2-7によれば、融雪装置や散水装置、外窓清掃のためのゴンドラ等、避雷針、書類運搬装置などが掲げられており、いずれも本件の内部造作には該当しないものと考えられる。 本件が争われた昭和60年代当時の法人税法によれば、建物(鉄筋コンクリート造)の耐用年数は60年と現在の50年よりも更に長いが、内部造作の中の例えばユニットバスの耐用年数は、実態に即して言えば概ね20年程度であり、建物の耐用年数の方が優に長いといえる。そうなると、いくら建物と一体で使用し機能するものであると言っても、耐用年数が相当程度短いユニットバス等の内部造作を建物のものに合わせるというのは、必ずしも合理的な取扱いとはいえないという反論もあり得るだろう。 そうなると、建物内に設置するもののうち、「器具及び備品」に該当する可能性のある減価償却資産は、いかなる基準で「建物」と区分することが可能なのであろうか。その具体的な判断基準としては、建物の内部に設置される減価償却資産のうち、例えばエアコンなどは、一度あるマンションに設置したものを別のマンションに移動させて再稼働させるということも可能であり、このような資産であれば、裁判所が判示した「構造上建物と独立・可分であって、かつ、機能上建物の用途及び使用の状況に即した建物本来の効用を維持する目的以外の固有の目的により設置されたもの」に該当し「器具及び備品」にあたるといえる、というものが挙げられるであろう。すなわち、その減価償却資産を特定の建物から分離して別の建物に移転させても、当該資産本来の機能を果たすことができるものであれば、「建物」とは別の種類の資産(「器具及び備品」等)に分類できるのではないかと考えられる。 (3) 本件への当てはめ 減価償却費の計算において、建物内に設置された内部造作が「建物」に分類されるのか、それとも「器具及び備品」に分類されるのかの判断基準は、その減価償却資産(内部造作)を特定の建物から分離して別の建物に移転させても、当該資産本来の機能を果たすことができるか否かではないかと考えられる。 本件の場合、ユニットバスや窓、ドア扉などのような建物を構成する建具等(建物内部造作)は、それを分離して別の建物に移設した場合、実際に使用し機能するのかとなると疑問であり、そうなると、当該内部造作は建物と物理的又は機能的に一体不可分であり、かつ、当該建物と一体となってその効用を維持増進する目的を有するものであるから、耐用年数省令における「器具及び備品」に分類されるのではなく、「建物」に分類されることとなる。 (了)

#No. 368(掲載号)
#安部 和彦
2020/05/07

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第28回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第28回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (2) 立案担当者の見解の要旨 『平成30年度 税制改正の解説』の記述から、法人税法22条の2第2項の規律内容を理解するために参考となる立案担当者の見解を抽出してみたい。なお、立案担当者の解説は、文字どおり、あくまで立案担当者の解説にすぎないため、これに盲従することは妥当ではないが、実際には、他に有力な立法関係資料がないことと相まって、改正規定の趣旨を理解するための1つの重要な手掛かりとなる。 ア 法人税法22条の2第2項の趣旨 『平成30年度 税制改正の解説』は、法人税法22条の2第2項の趣旨について、次のように述べている。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』271頁 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』274頁 要するに、法人税法22条の2第2項の趣旨は次のようなものであるということである。 従前から、資産の引渡しの日又は役務の提供の日以外の日において収益を認識する会計原則・会計慣行があり、そのような会計原則・会計慣行(一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に該当するものに限る)に従って収益経理していた場合には法人税法上もその経理に従うこととされていた。 今回、法人税法22条の2第1項の創設により、資産の販売等に係る収益の計上時期を決する原則的基準として引渡基準が採用されたことから、従前の取扱いによる収益計上を認めるかが問題となった。平成30年度改正では、この点を踏まえて、従前の取扱いを維持するために、法人税法22条の2第2項を創設した。 法人税法22条の2第2項において採用が認められる例として挙げられているのは、次のとおり、仕切精算書到達(日)基準及び検針(日)基準である。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』274頁 ここでは、次の2点が明らかにされている。 上記の解説によれば、法人税法22条の2第2項は、資産の引渡日又は役務提供日に近接する限りにおいて、従前から認められていた収益の計上基準の採用を法人に認めることに最大の意義を有する規定であるといえよう。 ただし、法人税法22条の2第2項は従前の取扱いをそのまま認めるものではない。公正処理基準準拠要件と近接日における確定決算収益経理要件(近接日要件+確定決算収益経理要件)の充足を求めている。なぜこれらの要件の充足を求めることとしたのか、その趣旨は必ずしも明らかにされていない。 また、ここでいう従前の取扱いが法人税法22条4項の公正処理基準を根拠に認められてきたのかどうか検討の余地があるし、法人税法22条の2第2項に定められている公正処理基準準拠要件を満たさないような従前の取扱いも出てくる可能性があることに注意が必要である。   (了)

#No. 368(掲載号)
#泉 絢也
2020/05/07
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