2020年1月23日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.353を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第75回】 「グループ通算制度の特徴」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 〇令和2年度改正で注目される「グループ通算制度」 2020年1月20日、第201回国会(常会)が召集された(会期は6月17日までの150日間)。 1月下旬あるいは2月上旬には、昨年末に取りまとめられた令和2年度税制改正大綱に基づき、税制改正法案が国会に提出されるものと見込まれる。 今回の改正法案(法人税法関連)において最大のボリュームを占めるのが、連結納税制度の見直しである。この見直しにより、連結納税制度はグループ通算制度へと衣替えすることになる。 まずは大綱を踏まえ、令和4年4月1日以後開始する事業年度から始まる新たな制度を概観することとしたい。 〇納税主体はグループ内の各法人へ 現行の連結納税制度では、連結納税グループをあたかも1つの法人であるかのごとく扱い、連結親法人がグループを代表して申告・納税義務を負うこととされているが、新たな制度では、グループ全体での損益通算については維持する一方、グループに属する各法人が個別にそれぞれ申告・納税義務を負うこととなる。この点こそが今回の見直しの眼目である。 このように、グループ通算制度はあくまでも単体納税制度の枠組みの中に位置づけられるものである。この見直しによって、グループ内の法人に修更正が生じた場合に他の法人に影響を及ぼしてしまうという連結納税制度の実務上の難点を克服することが企図されており、グループ通算制度の随所に修更正の影響を遮断する仕掛けが盛り込まれているのが、グループ通算制度の特徴となっている。 〇グループ内における損益通算 グループ通算制度のもう1つの眼目は、グループ内での損益通算を行うということである。この点は連結納税制度のメリットを維持するものである。 その方法は、各法人で計算した所得をベースに、赤字法人の欠損の合計額を、黒字法人の所得の合計額を限度に、黒字法人の所得の金額で按分して黒字法人の損金として算入するというものである(損金算入された欠損は赤字法人の欠損の金額で按分し、赤字法人側で益金算入する)。 いったん損益通算が行われた後は、個別の法人において修更正が行われても、損益通算の結果には影響を及ぼさず、当該法人において処理される。 〇繰越欠損金の通算 当期の損益のみならず、繰越欠損金も通算が行われる。損金算入限度額は、損益通算後の黒字法人の所得の50%(大法人の場合)の「合計額」とされており、この点は連結納税制度と同様の取扱いである。 ただし、あくまでも単体納税制度であることから、繰越控除により欠損金を損金算入できる法人は損益通算後の黒字法人に限られるため、グループ内の繰越欠損金を有する法人とそれを控除する法人とが別々になる。すなわち、繰越欠損金の授受が生じる場合がある、ということに注意が必要である。 いったん損益通算が行われた後は、他の法人において修更正が行われても、損益通算の結果には影響を及ぼさず、また、自ら修更正を行った場合でも、他の法人との間で授受を行った繰越欠損金の額は当初の額で固定される。 〇適用税率 単体納税制度の枠組みである以上、適用される税率は、各法人の状況によることになるが、中小法人の軽減税率に関しては、800万円の枠は、グループ全体で1つであり、黒字法人の所得の金額で800万円を按分することとなる。 また、中小法人の軽減税率を適用できるのは、グループの法人のすべてが中小法人に該当する場合のみであることに注意しなければならない。 〇税額控除額のグループ調整計算 単体納税制度に戻るとは言うものの、現行の税額控除の額等を連結グループ全体で計算するグループ調整計算については、個々の制度趣旨や企業の税負担を踏まえ、きめ細かい対応がなされている。特に控除額の大きい外国税額控除や研究開発税制については、グループ全体での計算が維持されている。 ただし、単体納税制度という枠組みの影響はここでも避けられず、赤字法人に税額控除額を配分するわけにはいかないことから、例えば、研究開発税制においては、グループ内の各法人への税額控除額の配分は研究開発費の比ではなく、損益通算後の所得に対する法人税額の比による。 また修更正が生じた場合の取扱いに関しては、外国税額控除については、過去には影響を及ぼさず、すべて進行年度で処理することとされ、研究開発税制においては、控除額が減少する場合には全体で再計算する必要がある。 〇グループ通算制度の適用開始・グループへの加入・グループからの離脱 グループ通算制度の適用開始やグループへの加入に際しては、組織再編税制との整合性の取れた制度とすることで、現行の連結納税制度の適用開始や連結納税グループへの加入の際の時価評価課税や欠損金の切捨ての対象を縮小する。 これは、現行のように、単体納税制度から連結納税制度という、全く異なる課税制度へ移行するわけではなく、単体納税制度の枠組みの中での損益通算の選択となるため、制度間の断絶を考慮する必要がなくなったことによるものとも考えられる。 この見直しにより、適用開始段階では、完全支配関係が維持されることが見込まれていれば時価評価の心配はなくなり、また、現金買収による完全子会社化の場合であっても、要件を満たせば時価評価を受けないこととなる。ただし、租税回避を防止する観点から、含み損等の利用を制限する措置が追加される。また、個別申告方式に移行することを踏まえ、親法人と子法人の制度適用前の欠損金の取扱いが統一され、自己の所得の範囲内で控除すること(特定欠損金)となる。 グループからの離脱に際しては、連結納税制度における連結個別利益積立金額に基づく複雑な投資簿価修正の仕組みが簡素化されるとともに、損失の二重計上を防止する観点から、一定の場合には離脱法人に対して時価評価課税が行われることとなる。 (了)
これからの国際税務 【第17回】 「令和2年度税制改正大綱における国際課税の焦点(その1)」 -国外の不動産投資を利用した節税策への対応- 21世紀政策研究所 国際租税研究主幹 青山 慶二 1 提案の背景 2019年12月に閣議決定された令和2年度税制改正大綱は、国際取引に関して個人と法人によって企画されている2種類の租税回避スキームに関する個別否認規定の導入を提案している。そのうち、今回はまず、個人の海外不動産投資に際して発生する不動産所得の損失を利用した節税策をシャットアウトする改正の意義を検討することとしたい。 建物や船舶・航空機の賃貸によって発生する不動産所得については、賃貸不動産の減価償却費計上等により損失が発生した場合に、当該損失を他の所得と損益通算することが所得税の構造上可能とされていることから、この仕組みを利用した不当な租税回避策が問題視されてきた。これまでは、特に航空機・船舶リース等を利用したタックスシェルター商品を念頭に、所得稼得者が不動産事業を担う組合の執行責任を負わない特定組合員に該当する個人である場合に、上記損失をなかったものとみなす個別的否認規定(租特41条の4の2)が設けられている。 しかし、その後平成27年度の会計検査院の税務行政検査によって、更に、海外の中古建物の減価償却に係る簡便法を利用した損失活用の申告事例が指摘され、そのような節税を可能にしている減価償却制度について、「財務省において、国外に所在する中古の建物に係る減価償却費の在り方について、様々な視点から有効性及び公平性を高めるよう検討を行っていくことが肝要である。」との指摘を受けていた。 今回の改正案は、中古資産の減価償却制度(耐用年数省令3条)そのものは改訂せず、従来の特定組合員向け対策と同様、減価償却の結果発生する対応損失を所得税法の適用上なかったものとみなす方式で、検査院の指摘に応えるものとなっている。 2 税制改正案の概要 令和2年度税制改正大綱における改正案は、概要以下のとおりである。 3 改正提案の意義 会計検査院は、指摘した事例において、米国や英国の賃貸建物の使用可能期間が我が国に比べて長くかつ時価の経年低下度合いが低いという条件の下では、国内建物と同様の中古建物に係る簡便法の減価償却(経過済み年数の20%の耐用年数適用)の選択を許すと、次の2重の税収漏れリスクがあると指摘した。 すなわち、①一般的に賃貸収入を超える減価償却が可能となり、各年の不動産所得について過大な損失計上とそれに伴う損益通算という節税効果をもたらすこと、にとどまらず、②その後、賃貸人が当該住宅を譲渡し、不動産所得から長期譲渡の特例適用のある譲渡所得に所得類型の転換を図ったり、更には、自身が国外に転出して、我が国課税管轄から離脱するという、追加的な税務メリットも許しているというものである。 今回の改正案では、所得税の中での不動産所得の所得計算上減価償却の仕組みには修正を加えず、租税計画上活用されている特定損失について「ないものとみなす」方式をとり、根元のところで上記①及び②のリスクを断絶するものとなっている。 なお、本件が検討対象としたスキームは、米国では“不動産タックスシェルター”と呼ばれるものである。米国では、不当な損益通算を制限する制度として長い伝統を持つ趣味の消費活動等から生じた損失控除制限(ホビーロス・ルール)の拡充に加えて、タックスシェルター商品のマーケット拡大に応じて、1969年のミニマムタックスの導入に始まり、受動的活動損失の通算を制限するルールやノンリコースローンに係る資産の減価償却費算入を制限するアットリスクルールなどが開発され、クロスボーダー投資の環境を含めて租税回避への多彩な防御システムが構築されてきている。 これに対して我が国は、米国から輸入されたタックスシェルターに対する対応策の立法が常に後手に回っていたが、ようやく近年立法(上記特定組合員ルールと今回の改正案)及び判例法(フィルムリースに関する最判H.18.1.24判決、米国LPSに関する最判H.27.7.17判決)により、防御態勢が整いつつあると考えられる。ただし、BEPS行動12で勧告された租税回避スキームについての義務的開示制度の立法は、いまだ未処理の立法案件として残っている。 米国ではタックスシェルターの登録義務や登録番号の告知義務が完備されており、納税者にとっての予測可能性を高めている。我が国も今回の改正を補強する意味でも、早期の立法が期待されるところである。 (了)
給与計算の質問箱 【第1回】 「給与所得控除と基礎控除の見直し」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 今年(令和2年)から、給与所得控除が減額されると聞きました。 ということは、給与所得が増えることになりますから、所得税の負担が増えると考えてよいでしょうか。 A 給与所得控除が減額されると同時に基礎控除が増額されるので、すべての給与所得者において所得税の負担が増えるとはいえない。一定額以上の給与収入がある給与所得者のみ所得税の負担が増える。 * * 解 説 * * 1 給与所得控除の減額 令和2年(2020年)から、給与収入が850万円以下の場合は、給与所得控除が10万円減額になる(図表1参照)。給与収入が850万円超の場合は、給与所得控除が段階的に最大で25万円(220万円-195万円)減額になる。 【図表1】令和元年分と令和2年分以降の給与所得控除額 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2 基礎控除の増額 令和2年(2020年)から、合計所得金額が2,400万円以下の場合は、基礎控除が10万円増額され48万円になる(図表2参照)。 【図表2】令和元年分と令和2年分以降の基礎控除額 (※) 合計所得金額2,400万円超からは控除額が段階的に引き下げられ、2,500円超からは適用ができない。 3 具体例 ① 令和元年、令和2年ともに年収300万円のケース ② 令和元年、令和2年ともに年収600万円のケース ③ 令和元年、令和2年ともに年収900万円のケース ④ 令和元年、令和2年ともに年収1,200万円のケース (了)
相続税の実務問答 【第43回】 「遺産分割協議が成立した後に遺言書が発見された場合」 税理士 梶野 研二 [答] 相続税の申告書の提出後に遺言書が発見され、分割協議によりあなたが取得することとなったA銀行B支店の定期預金は、従兄の甲さんに遺贈されたものであることが明らかになりました。そうしますとあなたはこの定期預金を取得することはできませんので、相続税の期限内申告書に記載された課税価格は過大であったことになります。そこで相続税法第32条第1項第4号の規定により、あなたは相続税の更正の請求をすることができます。 なお、甲さんは、自分に遺贈があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告書を提出しなければなりません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 遺言及び先行する遺産分割の効力 遺言者が亡くなると、原則としてその死亡の時から遺言は効力を生じることとなります。特定の財産を遺贈する旨の遺言があった場合には、その財産は遺言者の死亡とともに受遺者に帰属することとなります。 遺言が存在することが知れないまま、相続人間で遺産分割が行われることがあります。その後、遺産の全部又は一部を特定の者に遺贈する旨の遺言の存在が明らかになると、その受遺者はその遺贈の放棄をしない限り、先行する遺産分割の結果にかかわらず、遺贈の目的となった財産を取得することとなります。 2 相続税の申告後に遺言書が発見された場合の相続税の是正 相続税の申告後に遺言書が発見され、その遺言を執行することにより、当初申告において取得財産に含めていた財産を取得することができなくなったため、当初申告における相続税の課税価格が過大となった相続人は、相続税の更正の請求を行うことができます(相法32①四)。 また、この遺言によりはじめて財産を取得することとなった者は、そのことを知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告書を提出する必要があります(相法27①、相基通27-4(8))。 3 遺産分割協議の有効性 遺言の存在を知らずに遺産分割が行われ、その後に遺言書が発見された場合において、遺言の内容が分かっていれば異なった遺産分割が行われた蓋然性が高い場合には、遺贈の対象とされた財産を受遺者に引き渡すにとどまらず、錯誤があったことを理由に当該遺産分割は無効とされるものと考えられます(平成5年12月16日最高裁第一小法廷判決)。 この場合には、遺言内容を踏まえたところで再度の遺産分割が行われることとなりますが、無効が明らかになった時及び再度の分割協議が行われた時に更正の請求等により申告の是正の手続きを行うこととなります。 (参考判決)平成5年12月16日最高裁第一小法廷判決 4 ご質問の場合 あなたは、お姉様との間の遺産分割協議の結果に基づいて相続税の課税価格を計算して、相続税の申告書を提出しましたが、その後に、分割協議によりあなたが取得することとなっていたA銀行B支店の定期預金を従兄の甲さんに遺贈する旨のお父様の遺言書が発見されたとのことです。 そうしますと、あなたはこの定期預金を取得することはできませんので、この定期預金を取得財産に含めていた相続税の当初申告における課税価格は過大であったことになります。したがって、あなたは相続税法第32条第1項第4号の規定により、更正の請求をすることができます。 また、従兄の甲さんがA銀行B支店の定期預金を取得するのは、あなたからの贈与によるものではなく、あなたのお父様からの遺贈によるものです。したがって、甲さんに贈与税が課されることはありません。ただし、甲さんは、遺贈があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告書を提出しなければなりません。 なお、この遺言書の発見前にあなたとお姉様の間で遺産分割協議が成立していますが、この遺言書の内容が事前に分かっていれば、当該遺産分割協議とは異なった遺産分割協議が行われたであろう蓋然性が高い場合には、当初の遺産分割協議には錯誤があり、無効となると考えられます。その場合には、甲さんに遺贈された定期預金を除き、再度の遺産分割協議を行うことができるものと考えられます。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第10回】 「取締役との委任関係で黙示的な有償特約がないとされた事例」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 取締役と会社の関係 取締役等の役員は(※1)、従業員と異なり、会社と委任の関係にあると理解されている(会社法330)。つまり、所有と経営の分離を前提とし、役員は投資家である株主から経営を任され、会社に利益をもたらすことを期待される立場である。 (※1) ここにいう「役員」とは、取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人やその他これらに類する者を意味する。 したがって、役員は職務執行を担うためのいわゆる“経営権”を有し、このような経営権は、会社が組織として企業利益を追求するために必要不可欠である一方、役員が自身の給与額をある程度自由に設定できる権限を有するという側面がある。 この権限を悪用することにより、いわば「お手盛り」で利益を圧縮しようとするケースも想定される。これを防止するため、会社法上・法人税法上共に、お手盛り防止規定を各種設けている。このうち法人税法上のお手盛り防止規定こそ、定期同額給与などの3類型や本連載【第3回】で触れた過大役員給与判断基準である。役員報酬・役員退職金の論点は、損金算入の可否判断がその主軸であり、法人税法上のお手盛り防止規定は、恣意性が介入するのであれば損金算入を認めないという構造になっている。 そして、会社法上のお手盛り防止規定としては、定款又は株主総会にて役員給与額等を定めるとされる規定である(会社法361)。 ここで、上述した「委任」は民法643条の委任を指すが、民法上、特約がなければ委任を受けた受任者は報酬を請求することができないと定められている。 したがって、理論上は委任契約が存在しなければ役員は会社に報酬を求めることができずに無償委任となる。しかし、実務上は、明示がなくとも黙示的に特約が存在するという理解が浸透し、運用がなされている。 (2) 黙示的な特約が存在しないとされた事例 ここで、裁決事例かつ所得税の領域ではあるが、黙示的な特約が存在せず、法人が支出した額が役員給与には当たらないとされた事例がある(※2)。 (※2) 国税不服審判所平成24年12月4日裁決(TAINS:J89-2-05) この事例は、同族会社が収入とした不動産賃借料の帰属が、当該同族会社と代表者である審査請求人のいずれであるかが主たる争点となった事例で、不動産の真の名義人は審査請求人(代表者)であると認定し、賃貸料は当該請求人に帰属すると示されたものである。 基礎事実として、請求人から同社に不動産を譲渡し、当該不動産から生じる賃借料を同社が収益として計上した上で、同社が請求人に役員給与を費用として計上していた。 特筆すべきは、当該事例のもう1つの争点として、当該役員給与が、審査請求人の給与所得を構成するか否かという点があったことである。 この論点に対して、審判所は、当該賃貸料は請求人に帰属するところ、当該賃貸料は同族会社の収入の全てであったため、同社は法人として行う事業を有しておらず、代表取締役であった請求人が行うべき業務はないとし、給与所得を構成しないと示した。 その上で、「会社法第330条及び民法第648条は、役員等と会社との関係について・・・規定しており、取締役は会社に対して特約がなければ無償委任となるところ、これらの職務(筆者注:株主総会の議長としての職務や同社の確定申告を行うという職務)は、法人が組織として存在する上での最小限の職務であるから、これらの職務に対して報酬を支払うことについて、取締役の委任契約において黙示的な支払の特約があったとまではいえず、したがって請求人は、これらの職務について役員給与の支払請求権を有していたとは認められない(下線部筆者)」とした。 この事例は、最低限の職務のみを行う取締役は、委任契約において黙示的な支払特約があったとは言えないと示されていることから、有償特約であるというためには、最低限以上の職務を担う必要があるといえそうである。翻せば、収益の帰属や事業の存在自体が否定されるようなペーパーカンパニーでない限り、黙示的な特約が否定されることは考えにくい。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第12回】 「みなし共同事業要件」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、みなし共同事業要件について解説します。 1 みなし共同事業要件 支配関係が適格合併の日の属する事業年度開始の日の5年前の日から継続していない場合でも、みなし共同事業要件を満たしているときは、欠損金の制限(【第10回】参照)や特定資産譲渡等損失額の損金算入制限(【第11回】参照)が適用されません。 「みなし共同事業要件」とは、次の①から④又は①と⑤の要件の全てを満たすことをいいます(法令112③⑩)。 2 事業関連性要件 (1) 事業関連性要件とは 「事業関連性要件」とは、被合併法人の合併前に行う主要な事業のうちのいずれかの事業と、合併法人の合併前に行ういずれかの事業とが相互に関連するもの((3)参照)であることをいいます。 (2) 「事業」とは 事業関連性要件における「事業」とは、下記の①から③の通り、固定施設を有していること、従業者を有していること、売上が生じていることという3つの要件を満たすものをいいます(法規3①一)。 共同事業を行うための合併における適格合併の要件(【第8回】参照)と同様となっています。 (3) 「相互に関連する」とは 事業関連性要件における「相互に関連する」とは、下記のような場合のことをいいます(法規3①二・②)。 3 事業規模要件 「事業規模要件」とは、被合併法人の合併前に行う主要な事業のうちのいずれかの事業と合併法人の被合併事業と関連する合併事業のそれぞれの売上金額、従業者の数、被合併法人と合併法人のそれぞれの資本金の額若しくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないことをいいます。 共同事業を行うための合併における適格合併の要件(【第8回】参照)と同様となっています。 4 被合併事業の規模継続要件 「被合併事業の規模継続要件」とは、被合併事業が被合併法人と合併法人との間に最後に支配関係があることとなったときから適格合併の直前のときまで継続して営まれており、かつ、被合併法人と合併法人との間に支配関係が生じたときと適格合併の直前のときにおける被合併事業の規模(事業規模要件で判定した指標)の割合がおおむね2倍を超えないことをいいます。 被合併事業の規模継続要件は、みなし共同事業要件の事業規模要件を満たすために、事業規模を変化させることを防止するために設けられています。 〈資本金について事業規模継続要件を満たすと判定された場合〉 支配関係が生じたときの資本金が100で、合併直前に150となっており、変化の割合が2倍を超えないことから規模継続の要件を満たすこととなります。 5 合併事業の規模継続要件 「合併事業の規模継続要件」とは、合併事業が被合併法人と合併法人との間に最後に支配関係があることとなったときから適格合併の直前のときまで継続して営まれており、かつ、被合併法人と合併法人との間に支配関係が生じたときと適格合併の直前のときにおける合併事業の規模(事業規模要件で判定した指標)の割合がおおむね2倍を超えないことをいいます。 合併事業の規模継続要件は、4の被合併事業の規模継続要件と同様に、みなし共同事業要件の事業規模要件を満たすために、事業規模を変化させることを防止するために設けられています。 〈資本金について事業規模継続要件を満たすと判定された場合〉 支配関係が生じたときの資本金が200で、合併直前に250となっており、変化の割合が2倍を超えないことから、規模継続の要件を満たすこととなります。 6 経営参画要件 (1) 経営参画要件とは 「経営参画要件」とは、合併前の被合併法人の特定役員((2)参照)のいずれかと合併法人の特定役員のいずれかとが、合併後に合併法人の特定役員となることが見込まれていることをいいます。 基本的には共同事業を行うための合併における適格合併の要件と同様ですが、異なる点は、これらの特定役員は、合併法人と被合併法人との間に最後に支配関係があることとなった日前において経営に従事していた役員に限定されている点です。 (2) 特定役員とは 「特定役員」とは、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者((3)参照)で法人の経営に従事している者をいいます。 (3) 「これらに準ずる者」とは 「これらに準ずる者」とは、役員又は役員以外の者で、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役又は常務取締役と同等に法人の経営の中枢に参画している者をいいます(法基通1-4-7)。 ◆みなし共同事業要件のポイント◆ みなし共同事業要件については、共同事業を行うための適格合併の要件と同じあるいは類似のものが多いため、異なる点を中心に理解しておく必要があります。 被合併事業の規模継続要件と合併事業の規模継続要件は、共同事業を行うための適格合併の要件にはないもので、事業規模要件を満たすために事業規模を変化させることを防止するものです。 経営参画要件において、共同事業を行うための適格合併の要件との違いは、特定役員が合併法人と被合併法人との間に最後に支配関係があることとなった日前において経営に従事していた役員に限定されていることです。 (了)
企業結合会計を学ぶ 【第34回】 「被結合企業の株主に係る会計処理①」 -受取対価が現金等の財産のみである場合- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、被結合企業の株主に係る会計処理のうち、受取対価が「現金等の財産のみ」である場合の会計処理を解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 受取対価の時価 被結合企業の株主に係る会計処理では、交換損益を認識する場合の受取対価となる財の時価は、受取対価が現金以外の資産等の場合には、受取対価となる財の時価と引き換えた被結合企業の株式の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定することになる(事業分離等会計基準33項、結合分離適用指針265項)。 次のことに注意する(結合分離適用指針266項、267項)。 結合企業の株式などの受取対価又は引き換えられた被結合企業の株式のいずれについても、市場価格がないこと等により公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合には、次のいずれかを用いて算定された額を受取対価の額とすることができる(結合分離適用指針267項)。 この場合、識別可能な個々の資産及び負債の時価が、市場価格がないこと等により公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合には、該当する資産及び負債について、その適正な帳簿価額を用いることができる。 Ⅲ 受取対価が現金等の財産のみである場合の被結合企業の株主に係る会計処理 1 現金等の財産 ある子会社を被結合企業とし他の子会社を結合企業とする企業結合により、子会社株式である被結合企業の株式が、現金等の財産のみと引き換えられた場合には、共通支配下の取引として取り扱う(結合分離適用指針268項、244項、245項)。 現金等の財産については、次のことに注意する(結合分離適用指針268項)。 2 子会社を被結合企業とした企業結合の場合 子会社を被結合企業とし子会社以外を結合企業とする企業結合により、子会社株式である被結合企業の株式が、現金等の財産のみと引き換えられた場合には、当該被結合企業の株主(親会社)に係る会計処理は、事業分離における分離元企業の会計処理に準じて、次のように会計処理する(結合分離適用指針269項、事業分離等会計基準35項)。 【子会社を被結合企業とした企業結合の会計処理】 (1) 個別財務諸表上の会計処理 ① 被結合企業の株主(親会社)が受け取った現金等の財産は、原則として、時価により計上し、引き換えられた被結合企業の株式の適正な帳簿価額との差額は、原則として、交換損益として認識する。 ② ただし、交換した株式に対する買戻しの条件などの被結合企業の株主の重要な継続的関与によって、交換した株式に係る成果の変動性を従来と同様に負っている場合には、交換損益を認識することはできない(結合分離適用指針において、交換損益を認識するとしている場合には、同様の留意が必要である)(事業分離等会計基準32項、119項)。 (2) 連結財務諸表上の会計処理 関連会社を結合企業とする場合には、子会社株式である被結合企業の株式が現金等の財産のみと引き換えられたことにより認識された交換損益は、持分法会計基準における未実現損益の消去に準じて処理する。 3 子会社以外を被結合企業とした企業結合の場合 子会社以外を被結合企業とする企業結合により、被結合企業の株式が、現金等の財産のみと引き換えられた場合、被結合企業の株主は、次のように会計処理する(結合分離適用指針270項、事業分離等会計基準36項、37項)。 【子会社以外を被結合企業とした企業結合の会計処理】 (1) 個別財務諸表上の会計処理 被結合企業の株主が受け取った現金等の財産は、原則として、時価により計上し、引き換えられた被結合企業の株式の適正な帳簿価額との差額は、原則として、交換損益として認識する。 (2) 連結財務諸表上の会計処理 子会社又は関連会社を結合企業とする場合には、被結合企業の株式が現金等の財産のみと引き換えられたことにより認識された交換損益は、連結会計基準及び持分法会計基準における未実現損益の消去に準じて処理する。 (了)
組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q25】 会社分割した場合、社会保険(健康保険・厚生年金保険)に関してどのような手続きが必要か 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 【A】 社会保険(健康保険・厚生年金保険)に関しては、会社分割により承継会社に承継される者について、原則として分割会社の適用事業所を管轄する年金事務所において被保険者資格を喪失する手続きを行い、承継会社の適用事業所を管轄する年金事務所において被保険者資格を取得する手続きを行う。 (※) 本稿では、会社分割により事業を分割する会社を「分割会社」、それを承継する会社(新設分割の場合の新設会社も含む)を「承継会社」という。 ここでは、A社を分割会社、B社を承継会社とする吸収分割の前提で、必要な社会保険(健康保険・厚生年金保険)の手続きを確認する。なお、健康保険は、A社、B社ともに全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入していることとする。 A社の手続き 原則としてA社の適用事業所を管轄する年金事務所へ、会社分割の効力発生日から5日以内に、会社分割によりB社に承継される者に関して次の書類を提出する。 これは、被保険者資格を喪失する手続きとなり、会社分割によりB社に承継される者のうち健康保険・厚生年金保険の資格を取得している従業員について必要となる。また、本届出には、本人分及び被扶養者分の健康保険被保険者証の添付が必要となるため、会社分割以降手続き実施までに従業員から健康保険被保険者証を回収しておかなければならない。 なお、紛失等により健康保険被保険者証の回収ができない場合は、資格喪失届にその理由を付記するか、「健康保険被保険者証回収不能届」の提出が別途必要となる。 B社の手続き 原則としてB社の適用事業所を管轄する年金事務所へ、会社分割の効力発生日から5日以内に、会社分割によりB社に承継される者に関して次の2つの書類を提出する。 ①は、被保険者資格を取得する手続きとなり、会社分割によりB社に承継される者のうち健康保険・厚生年金保険の資格を取得する従業員について必要となる。 ②は、①の対象者に健康保険上の被扶養者がいる場合に提出が必要となる。なお、国民年金第3号被保険者関係届は、以前は、複写式様式の3枚目を指していたが、被扶養者(異動)届と一体化したため、該当する欄に必要事項を記載して提出する対応となる。 健康保険被保険者証の発行 B社における手続きは、健康保険被保険者証の発行に関わるものであるため、不備がないよう早めに準備してスムーズに進めるようにしたい。 通常、資格取得届を提出してから2週間前後で健康保険被保険者証が発行されるが、4月等の新入社員が多い時期に重なると通常よりも発行に時間を要することがある。当然のことながら、会社分割の効力発生日以降はA社における健康保険被保険者証は使用することができないため、新しい健康保険被保険者証が早めに発行されるよう、できるだけ早めに手続きを行いたい。 なお、資格取得届と合わせて「健康保険 被保険者資格証明書交付申請書」を提出すると、健康保険被保険者証が発行されるまでの間、その代わりとして使用できる証明書を発行してもらえるため、手続き書類は増えるが、当該申請書も合わせて提出することをお勧めしたい。 保険者の変更など ここでは、健康保険は、A社、B社ともに全国健康保険協会(協会けんぽ)の適用を受ける前提としたが、同じ全国健康保険協会(協会けんぽ)でも都道府県により健康保険料率が異なるため注意が必要となる。 また、一方又は双方が健康保険組合である場合には、保険料率のみならず給付内容等が異なることがあるため、それらの点も合わせて、会社分割の説明の際に従業員に周知されたい。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第1回】 「巷で言われる『簡易な鑑定』なるものは存在しない」 不動産鑑定士 黒沢 泰 ◆ ◆ ◆ 税理士の皆様、不動産鑑定士が土地や建物の評価を行う方法の1つとして、「簡易鑑定」なるものがあると思われている方はいらっしゃるでしょうか。 ちなみに筆者は、しばしば次のような質問を受けることがあります。 質問 簡易鑑定は、通常の鑑定とどのように違うのでしょうか。 もし簡易鑑定の方が料金が安いのであれば、そちらを依頼したいのですが。 このような場合、質問者の意図はおそらく、評価額の結論が分かりさえすれば、書類は料金のかからない簡単なものでよいと考えているところにあると思われます。 しかし、「鑑定」という言葉が、十分な見極めを行った上で、ものの価値を見定める意味で使用されることを踏まえれば、「簡易鑑定」という言葉自体、矛盾する概念を含んでいます。 ちなみに、鑑定評価の拠り所とされている不動産鑑定評価基準では、鑑定評価の本質を次のように捉えています。 (不動産鑑定評価基準総論第1章第3節) また、不動産の鑑定評価に関する法律でも、第2条でその定義を設けています。 先ほど「鑑定」という言葉の意味を一般的に述べましたが、一歩踏み込んで考えれば、「鑑定評価」という行為は、不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準に則って各種の評価手法を可能な限り併用して、不動産の経済価値を追求していくことを意味します。 このように捉えれば、「鑑定評価」という行為に、簡易なものは受け容れ難いということになります。 それにもかかわらず、従来からこのような言葉がしばしば用いられてきた理由は、どのようなところにあるのでしょうか。 これは本質的な内容ではありませんが、不動産鑑定業者が依頼者のニーズ(「簡易なものでよいから低料金でお願いしたい」)に即した対応を図る一方、適用する手法を不動産鑑定評価基準に規定されている一部のものにとどめ、正式なものとは区別する意味で「簡易・・鑑定」という言葉が俗に用いられてきたものと推測されます。 また、名称は異なるものの、「価格調査報告書」や「価格意見書」等も同様の理由で鑑定評価書とは区別されていますが、内容的には従来のいわゆる簡易鑑定書のイメージに近いものといえます。 以上、従来からのいきさつを述べてきましたが、ここで1つ、留意しなければならない点があります。 それは、平成22年1月から「価格等調査ガイドライン」(※)(国土交通省)が施行され(平成26年5月改正)、不動産鑑定評価基準に則って行われる鑑定評価(いわゆる正式な評価)と、不動産鑑定評価基準に則らないで行われる価格等調査(簡易な価格調査)とを明確に区別することが求められるようになった、ということです。 (※) 正式名称は、「不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドライン」及び「同運用上の留意事項」です。 すなわち、不動産鑑定評価基準に規定されている手法の一部のみを適用して不動産の価格を求めた場合、その結果を成果報告書に記載する際には、「鑑定評価書」あるいは「評価」と名の付くタイトルを用いてはならないことが強調されています。したがって、簡易的に価格を求めた場合、「簡易鑑定書」あるいは「簡易評価書」という名称を用いることはできません。 このような場合は、「調査報告書」あるいは「価格意見書」のような形式での発行が求められるとともに、そこで求めた価格も「鑑定評価額」でなく「調査価格」あるいは「意見価格」という名称を付して区別しなければなりません。それだけでなく、「調査報告書」や「価格意見書」の中に、「鑑定」とか「評価」という言葉を使用してはならないことも併せて規定されています。 以上述べてきたことを対比させれば、次のとおりです。 価格等調査ガイドラインが制定されてから不動産鑑定業者の間にこれが浸透するまで、ある程度の年数を要しましたが、現時点では「簡易鑑定書」というような名称を付した新たな報告書はほとんど見かけなくなりました。 これも「巷で言われる『簡易な鑑定』なるものは存在しない」という認識が、不動産鑑定士の間で共有されるに至ったということでしょうか。 (了)