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日本の企業税制 【第73回】「OECDが最低税率課税を提案」

日本の企業税制 【第73回】 「OECDが最低税率課税を提案」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   〇第二の柱に関する事務局案の公表 OECDは、11月8日、「グローバル税源浸食対抗(global anti-base erosion(GloBE)」に関する事務局案(public consultation document)を公表した。 6月のG20会合で承認された「作業計画(programme of work)」では、経済のデジタル化に伴う課税上の課題の解決策として第一の柱(Pillar One)と第二の柱(Pillar Two)とが提示され、すでに、第一の柱については、その対象(スコープ)・新ネクサスルール・新所得配分ルール(Amount A、B、C)を主な内容とする事務局案が、10月9日に公表されていたところであり(前回参照)、これに関する公聴会が11月21~22日に開かれる。今回の提案はそれに続くものである。   〇第二の柱(Pillar Two)とは 第二の柱は、無税又は極めて軽課税となっている事業体への利得移転のリスクに対応しようとするもので、適用対象をデジタル企業に限ることなく、全ての国際的に活動している多国籍企業の利得について最低レベルの税を支払うようにするものであり、言い換えれば各国の税率引下げ競争に一定の下限を設定するものともいえる。 そのために、「作業計画」では、具体的には、次の4つの関連するルールで対応することが掲げられていた。   〇今回の提案のポイント 今回の事務局案では、①実効税率算定の基礎となる課税ベース(GloBE課税ベース)の算定、②高課税所得と低課税所得とを合算(blending)できる範囲(事業体ごと、国・地域ごと、全世界)、③適用除外(carve-outs)・閾値(thresholds)、の3点が論点(key design elements)とされ、これらが解決した後に、最低税率の水準が決まるものとされている。 (1) 課税ベース 「作業計画」では、課税ベースについて、既存のCFCルール等に基づくことが提示されていたが、この方式では、各国に所在する子会社の所得を親会社の所在する国の税法に基づき再計算する必要が生じることとなる。再計算の手間がかかるばかりか、親会社の所在する国の税法に基づく課税ベースと子会社の所在する国の税法に基づく課税ベースとの間で、タイミングの差異(収益認識や欠損金の繰越控除など)が生じることにより最低税率が適切に機能しないおそれがある。 こうしたことから、今回の事務局案では、会計上の連結財務諸表の数値に一定の税制上の調整を加えて課税ベースを計算することが提示されている。 ただし、いずれの会計基準に準拠すべきかは問題が多い。本年7月現在で、世界138ヶ国で全て又は大部分の主要企業(上場企業及び金融機関)に対してIFRSを強制適用しており、また、金融機関を除く全ての上場会社に対してIFRSを強制適用している国も6ヶ国存在する(金融庁「企業会計審議会総会・会計部会(第6回)議事次第」資料6の9ページ)ものの、あらゆる国を網羅しているわけではない。米国基準や日本基準は、EUの同等性評価において、EUで採用されているIFRSと同等の基準であることが2008年に確認されているが、IFRSと差異が全くないわけではない。 加えて、財務会計上と税務会計上の差異(一時差異、永久差異)の解消についても技術的な課題は多い。 (2) 合算(blending)の範囲 次の論点は、課税ベースをどの範囲で捉えるか、すなわち、どの範囲で高課税所得と低課税所得との合算を認めるかという課題である。 今回の事務局案では、①全世界の国外所得に対する税負担で実効税率を判定する、②各々の国で発生した国外所得に対する税負担で実効税率を判定する、③国外の各々の事業体の所得に対する税負担で実効税率を判定する、という3つの方式が提示されている。わが国のCFC税制は③の方式を採用しており、また2017年に成立した米国の税制改正(The Tax Cuts and Jobs Act:TCJA)で新規導入された「米国外軽課税無形資産所得(Global Intangible Low-Taxed Income(GILTI))合算課税」は①の方式である。 (3) 適用除外・閾値 適用除外・閾値に関しては、今回の事務局案では、特定の事実や状況の評価に基づく考え方と、一定の基準を参照した公式に基づく客観的・形式的な考え方の2つを提示している。上記の米国のGILTIにおいては、有形減価償却資産の税務簿価の10%超の額が合算対象とされているところである。 (了)

#No. 345(掲載号)
#小畑 良晴
2019/11/21

これからの国際税務 【第16回】「費用分担契約による無形資産の移転」-アマゾン事件判決と我が国税制改正-

これからの国際税務 【第16回】 「費用分担契約による無形資産の移転」 -アマゾン事件判決と我が国税制改正-   21世紀政策研究所 国際租税研究主幹 青山 慶二   1 アマゾン事件に関する米国判決 アマゾン事件判決(2019.8.16 第9巡回控訴裁判所)は、グローバルなオンライン小売業者であるアマゾンの米国親会社が、ルクセンブルクに設立した欧州ビジネスの持株会社との間で締結した費用分担契約に基づき、親会社が自ら開発した既存の無形資産(ウェブサイト技術、商標、及び顧客リスト)を持株会社へ移転する対価として受け取ったバイイン支払いの独立企業間価格相当性が争われた事案である。 米国で1990年代に制度化された費用分担契約は、関連企業間での無形資産の共同開発の費用負担と成果物である無形資産の使用収益権の比例的割当てを事前に合意するものであり、財務省規則の要件を充たす適格契約については、独立企業原則に沿った取引と認められる仕組みである。 財務省規則は、適格費用分担契約となるためには、親会社と費用分担契約を結ぶ子会社は、①親会社が将来の利用及び開発のために拠出した既存の無形資産に対しその価値を適正に反映したバイイン支払いを行うとともに、②開発によって帰属が期待される比例的便益に対応する無形資産開発の将来コストを相応に負担しなければならないとされている。 訴訟では、前者の支払いが争われ、裁判所は、課税庁がディスカウントキャッシュフロー法(DCF法)により算定したバイイン支払いの対価(36億ドル)は、既存の無形資産のみならず将来の無形資産の対価も含んでおり裁量権が濫用されているとして、納税者の申告(2.55億ドル)を認めた。 本判決は、無形資産の定義が狭い米国の旧規則の下での判断であるが、令和元年改正で我が国が導入した移転価格税制におけるDCF法の制度設計の前史を画する判決であり、無形資産の定義とDCF法の適用の相関関係を明らかにした重要な判決と思われるので紹介する。   2 バイイン支払いの対象となる無形資産の定義 本件費用分担契約が締結された2000年代初期においては、当時の財務省規則の下で、無形資産は、法的保護対象の知的財産権や財務会計で無形資産と整理されるものに限定されず、20数種類の例示を基に知的な内容から価値が来るものを含むとしていたが、それらは独立して取引されるものに限られ、のれん、継続企業の価値及び投入労働力など、事業全体の譲渡に伴ってのみ移転する項目は無形資産に該当しないとされていた。 裁判所は、当局の行ったDCF法では、これらも既存の無形資産にカウントし、あたかも事業全体が移転したものと同様の対価を求めていると判断したのである。 なお、判示に従った場合、例えば個別認定されるウェブサイト技術などは、一定期間後は無価値になる前提で評価が行われ、キャッシュフローに反映されにくくなる。 旧規則時代において米国の課税庁は、欧州の低課税国への無形資産移転による所得移転のタックスプラニングに対し、同規則の定義解釈によってこれを防止しようとしてきたが、本判決とその前に出されたヴェリタス判決(2009.12.14)を通じて、その主張は裁判所に認められなかったのである。   3 BEPS勧告と調和したその後の米国国内法改正 評価困難な無形資産問題を取り上げたBEPS行動8での勧告(2015年)に先行する形で、米国では2009年の暫定規則(2011最終規則)において無形資産の定義が拡張され、のれんなどの上記3項目が含められることとなった。したがって、現規則の下でアマゾン事件が発生した場合には、判決の結論が変わりうることを控訴審判決も暗示している。 なお、OECDは、2017年の移転価格ガイドライン改定に際して、のれんなどが無形資産になりうることを明示した。 ただし、改正後の状況下においても、例えば、ブランドネームなどのマーケティング上の無形資産のように、費用分担契約後の市場国における積極的な活動により強化された資産の収益力をバイイン価格段階で対価に取り込むことは、可能とは思われない。どのように配分するかについては、2020年を目途に進行中のデジタル経済における統合的アプローチでの市場国へのフォーミュラ的な配分の影響も考慮する必要があろう。   4 我が国税制改正への含意 令和元年度税制改正では、我が国もDCF法や所得相応性基準の導入(【第13回】の拙稿を参照)に伴い、移転価格上の無形資産の定義を初めて法令で規定し、通達で個別列挙されていた従来の枠組みを広げた。 これまで我が国では、研究開発は基本的に本邦親会社が集中して担い、対価をロイヤルティにより直接回収する例が多いとされてきた。しかし、多国籍企業間の競争激化の下で、グローバルなM&Aの進展等に伴い既存の無形資産の地域統括会社での管理やグローバルでの共同開発が進行しつつあるともいわれており、納税者にとって費用分担契約のニーズも高まるものと予測される。 定義が広がった無形資産の取引認定をどのように行うか、またDCF法による将来収益のうち既存の無形資産と将来の無形資産に係る部分をどのように切り分けるかなど、実務上の課題に直面することも予想されるので、アマゾン判決のみならず今後も米国判例の動向に着目する必要があろう。 (了)

#No. 345(掲載号)
#青山 慶二
2019/11/21

〈令和元年分〉おさえておきたい年末調整のポイント 【第2回】「合計所得金額と配偶者控除及び配偶者特別控除の適用」

-お知らせ- 「〈令和2年分〉おさえておきたい年末調整のポイント」も現在連載中です。 〈令和元年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第2回】 「合計所得金額と配偶者控除及び配偶者特別控除の適用」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   連載第2回は、配偶者控除と配偶者特別控除を適用するときにポイントとなる「合計所得金額」について、具体例を用いて解説を行う。   【1】 合計所得金額 (1) 合計所得金額とは 合計所得金額とは、総所得金額に申告分離課税の所得金額の合計額を加算した金額である(所法2①三十ロ、措法31③一他)。合計の対象となるのは損益通算後の金額であり、総合課税の長期譲渡所得及び一時所得は、その合計額の2分の1の金額である(所法69①、22②二)。また、土地建物等に係る譲渡所得については、特別控除前の金額を合計する。 各種所得と損益通算、合計所得金額との関係を示すと、次のとおりである。 〔合計所得金額のイメージ〕 (注1) 非課税所得、源泉分離課税の対象となる所得は含まれない。 (注2) 配当所得と上場株式等の譲渡所得等のうち、確定申告不要制度を選択したものは含まれない。 (注3) 以下の繰越控除の適用を受けている場合には、適用前の金額で計算する。 (注4) 分離課税の土地建物等に係る譲渡所得は、特別控除前の金額で計算する。 (2) 合計所得金額に含まれない所得 合計所得金額には、源泉分離課税とされるもの及び次のような所得は含まれない。 ① 法令に規定する非課税所得 (所基通2-41(1)) ② 租税特別措置法の規定により確定申告不要とされている所得 (ア) 確定申告をしないことを選択した次の配当所得等(措法8の5①) (イ) 源泉徴収選択口座を通じて行った上場株式等の譲渡による所得で、確定申告をしないことを選択したもの(措法37の11の5①) (3) 所得計算の特例と合計所得金額 法令に規定する所得計算の特例の適用を受けた場合、合計所得金額は特例適用後の所得の金額により計算する(所基通2-41(2))。 なお、土地建物等の譲渡所得金額を計算する場合における特別控除額の控除は、所得計算の特例には該当しない。よって、特別控除額を控除する前の金額が合計所得金額の計算の基礎となる。   【2】 合計所得金額の計算例 (1) 給与所得の他に各種の所得がある場合 ① 配当所得がある場合 【例:給与所得500万円、配当所得(※)20万円】 (※) 配当の収入金額=配当所得。配当の計算期間は12ヶ月とする。 ② 株式の譲渡所得がある場合 【例:給与所得500万円、株式の譲渡所得100万円】 ③ 不動産所得がある場合 【例:給与所得500万円、不動産の貸付収入600万円、必要経費250万円、青色申告特別控除65万円】 (※) 不動産所得285万円=総収入金額等600万円-必要経費250万円-青色申告特別控除65万円 ④ 一時所得がある場合 【例:給与所得500万円、一時所得50万円】 (※) 合計所得金額の計算において、一時所得は2分の1の金額とする。 ⑤ 土地建物の譲渡所得がある場合 【例:給与所得500万円、土地の売却収入1,000万円、取得費及び譲渡費用400万円、特別控除額600万円】 (※) 合計所得金額は、特別控除前の金額に基づいて計算する。 ⑥ 先物取引に係る雑所得がある場合 【例:給与所得500万円、先物取引に係る雑所得200万円】 (※) 先物取引に係る雑所得に申告不要制度はない。確定申告が必要となる。 (2) 年金を受給している人の場合 【例:年金の収入150万円】   【3】 配偶者控除額及び配偶者特別控除額の具体例 所得者本人と配偶者の合計所得金額の算定と、合計所得金額に基づいて判定される配偶者控除額及び配偶者特別控除額を具体例で示す(配偶者は70歳未満であるものとする)。 〔令和元年分の配偶者控除額及び配偶者特別控除額の一覧表〕 (※) 国税庁ホームページより (※) 源泉徴収選択口座を通じて行った上場株式等の譲渡による所得で、確定申告をしないことを選択したものは、合計所得金額に含まれない。 (※1) 合計所得金額は損益通算後の金額 (※2) 仮想通貨の売却や使用による所得は雑所得(総合課税) (※) 損益通算の対象となる所得は、事業所得、不動産所得、山林所得、譲渡所得(総合課税)の計算上生じた損失に限られる(所法69)。ただし、土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額等、一定の損失は損益通算の対象とはならない。 (※) FX取引による所得は、先物取引に係る雑所得等(申告分離課税) (※1) 上場株式の配当は、確定申告しない場合は合計所得金額に含まれない。 (※2) 公的年金等の雑所得90万円=公的年金等の収入金額210万円-公的年金等控除額120万円 *  *  * 次回(最終回)は、令和2年分の扶養控除等申告書を受領する際の留意点について解説を行う予定である。 (※) 本稿では、年末調整で使用する各申告書等を次のとおり表記する。 (了)   

#No. 345(掲載号)
#篠藤 敦子
2019/11/21

相続税の実務問答 【第41回】「更正の請求の特則規定による評価誤りの是正」

相続税の実務問答 【第41回】 「更正の請求の特則規定による評価誤りの是正」   税理士 梶野 研二   [答] 遺産分割の審判が確定したことを事由とする相続税法の特則規定による更正の請求において、当初申告における土地の過大評価の是正を図ることはできません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続税法における更正の請求の特則 (1) 相続税法第32条第1項は、相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は、相続税及び贈与税に特有の一定の事由に該当することによりその申告又は決定に係る課税価格及び税額(申告書提出後又は決定後に修正申告書の提出又は更正があった場合には、その修正申告又は更正に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額)が過大となったときは、更正の請求に関する一般的な規定である国税通則法第23条第1項及び第2項の規定にかかわらず、一定の事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額又は贈与税額につき更正の請求をすることができる旨を定めています(この更正の請求の規定を以下「更正の請求の特則規定」といいます)。 (2) 相続税の申告書を提出する場合又は更正若しくは決定が行われる場合に、共同相続人又は包括受遺者の間で遺産の全部又は一部の分割がされていない場合には、相続税法第55条の規定により分割されていない財産について民法(第904条の2(寄与分)を除きます)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従ってその遺産を取得したものとしてその課税価格を計算することとされていますが、その後に遺産分割が行われ、共同相続人又は包括受遺者がその分割により取得した財産を基に計算した課税価格又は税額が、民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格又は税額を下回ることとなることが、更正の請求の特則規定が適用される事由の1つとして掲げられています(相法32①一・八)。   2 既に確定した課税価格及び相続税額が過大になるか否かの判断 相続税法第32条第1項に規定する更正の請求は所定事由に該当した場合に限って認められるものであり、同項第1号又は第8号の事由は、未分割の遺産につき、いったん同法第55条の規定による申告等によって税額が確定した後、遺産の分割が行われ、その結果、既に確定した課税価格又は税額が過大になるという相続税に固有の後発的事由について規定したものですから、未分割の遺産を分割した結果、既に確定した課税価格及び税額が過大になるか否かの判断に当たって、算定の基礎となる遺産の価額は、当初の申告又は決定(その後に修正申告書の提出や更正があった場合にはその修正申告又は更正)により確定した価額を基礎とすべきであると考えられます。 すなわち、当初の申告等において、相続財産ではない財産が課税価格の計算の基礎に算入されていたこと、課税対象財産の価額が過大に評価されていたこと、又は課税価格及び税額について計算誤りがあったことなどにより相続税の課税価格及び相続税額が過大になっていた場合には、税法は国税通則法第23条第1項の規定に基づいて、法定申告期限から5年間に限ってその是正を求める更正の請求を行うことを予定しており、これらの事由により相続税の課税価格及び相続税額が過大となっていた場合には、この国税通則法の規定による更正の請求によって相続税額の減額を求めるべきであって、その期間内に同項に定める更正の請求の手続きを採ることなく、遺産分割がなされた段階で、更正の請求の特則規定による手続きの中でこれを求めることはできないということです。 (参考判決)平成9年10月23日東京地裁判決(税務訴訟資料229号125頁) 3 相続税法第55条の規定により申告を行う場合の注意点 相続人及び包括受遺者間に争いがあり、そのために法定申告期限内に遺産分割ができず、法定相続分の割合及び包括遺贈の割合で相続税の課税価格及び税額の計算をして相続税の申告をする場合、遺産争いに目を奪われがちになり、財産の評価への注意が行きわたらないことがあります。また、被相続人の財産を引き続き管理している相続人など一部の相続人等が申告に必要な情報を開示してくれないために適正な申告ができないこともあります。さらに、異なった税理士に相続税の申告を委任した結果、それぞれの税理士が異なった課税価格の計算をすることもあります。 しかしながら、当初申告の段階で、その申告が最終的な税額の確定につながることを意識して、相続人間で意思疎通を図り適正な申告に努めるべきでしょう。また、分割に長期間を要し、法定申告期限から5年を過ぎても遺産分割ができないと見込まれる場合には、相続人全員の利益になることなので、当初の申告に過大となる点はないかどうかを確認し合うことが必要でしょう。   4 ご質問の場合 お父様がお亡くなりになったのは、平成25年1月15日ですので、相続税の法定申告期限は同年11月15日となります。したがって、当初の申告の誤りについては、それから5年間、つまり平成30年11月15日までに更正の請求を行うことにより是正を図ることができましたが、あなたはその更正の請求を行いませんでした。 この度、遺産分割の審判が確定し、その結果を基にあなたの相続税の課税価格の計算をすると当初申告における課税価格を下回るとのことですので、この点については更正の請求の特則規定により更正の請求をすることができますが、この更正の請求において当初申告における土地の評価誤りについて是正を求めることはできません。 (了)

#No. 345(掲載号)
#梶野 研二
2019/11/21

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第8回】「役員報酬をクローバックした場合の源泉徴収税額の取扱い」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第8回】 「役員報酬をクローバックした場合の源泉徴収税額の取扱い」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) クローバックとは クローバック(Claw back)とは、一般に、「業績連動型報酬において報酬額算定の基礎となる業績指標等の数値が誤っていた場合、又はエクイティ報酬において株価が誤った情報を反映して不当に高くなっていたために報酬額もそれに比例して高くなったという場合等に、正しい指標等に基づいて報酬額を算定し直し、差額の報酬を会社に返還させる仕組みである」とされる(※1)。業績連動型の報酬は、企業の財務諸表上の数値に基づいて決定されるが、不祥事等によって過大に算定された数値を用いることで、結果として役員の業績連動報酬が水増しされることを防止することを目的としており、欧米では一般的な制度である。 (※1) 大塚章男「役員報酬とコーポレート・ガバナンス-clawback条項を手掛かりとして-」筑波ロー・ジャーナル26号(2016)25頁。大塚氏は、日本の役員報酬制度において業績連動型の比重が強まる傾向を鑑み、我が国がクローバックの問題にいずれ必ず直面する旨を指摘している。 従来、我が国においては欧米と比較して役員報酬額の水準が低く、役員が受ける報酬も業績を加味して算定する要素が少なかった。加えて、国内企業に不祥事等が起きると、役員が報酬を自主返納するケースが多いという性善説的な背景も相まって、我が国においてクローバック条項を導入している企業はまだ少ない(※2)。 (※2)  日本においては、野村HD、日本板硝子、みずほFG、ヤマハ等が導入している。また、先日、武田薬品工業の株主総会(2019.6.27)においてクローバック条項導入についての株主提案がなされたが、こちらは否決に終わっている。 しかし、平成28年度・29年度税制改正等により、徐々に業績連動報酬の導入促進が行われていることから、これらの比重の高まりとともにクローバック条項の必要性が議論されていくと思われる。   (2) 税務上の問題 実際に不祥事等が起きたことによりクローバックが行われる場合には、役員本人に課された過年度の課税に影響を与えることとなる。具体的には、過去に役員報酬から源泉徴収された所得税につき、クローバック実施により役員報酬を返還した場合の取扱いにおいて、源泉徴収義務者による過誤納の還付請求を行うのか、給与の支払いを受けた役員本人が更正の請求を行うのかが第1の問題となる。 ① 源泉徴収の過誤納は過誤納還付請求・更正の請求のいずれにより救済されるべきか クローバックはさておき、一般に源泉徴収税額に過誤納があった場合には、支払者かつ源泉徴収義務者である法人が過誤納還付の手続きを行うこととなる。 この取扱いについて、古くは内閣法制局昭和37年7月31日発9号に言及があり、「雇傭者が被傭者の賃金から徴収する源泉所得税を超過徴収して納付した場合、国税通則法56条に基づいてその過誤納金を還付する相手方は、雇傭者であるか被傭者であるか」との問いに、「雇傭者である」とする回答がある(※3)。 (※3) 志場喜徳郎他編『国税通則法精解 第十六版』(大蔵財務協会、2019)640頁。 その後もこの問題について、納税者自身の手によって解消できるのかという点が判然としない状況であったが、最高裁平成4年2月18日判決が、 と判示し(※4)、今日の実務はこれに倣っている。 (※4) 民集46巻2号77頁、TAINS:Z188-6849 したがって、報酬支給を受けた本人が更正の請求により救済措置を受けることはできないため、源泉徴収義務者である会社が主体となり、国税通則法56条によってリカバリーを図ることとなると考えられる。 ② 過誤納還付の可否 それでは、クローバックの実施によって、過年度に源泉徴収された金額が「過誤納」に当たるのかどうかが第2の問題となる。 国税通則法56条は、「国税局長、税務署長又は税関長は、還付金又は国税に係る過誤納金があるときは、遅滞なく、金銭で還付しなければならない。」と定めている。国税通則法には「過誤納」の定義は存在しないが、一般には「結果的にみて目的を欠くこととなった場合の不当利得の返還金である」とされ、以下の2類型に分類されると説かれている(※5)。 (※5) 前掲(※3)635頁。 クローバックが上記に該当するか否かの判断は、クローバックの形態ごとの法的性質を明らかにした上で検討する必要がある。 ここで、日本公認会計士協会が先日公表した「法人税法上の役員報酬の損金不算入規定の適用をめぐる実務上の論点整理」では、クローバックの法的性質を類型化し、その類型ごとに詳細に整理されている。現時点においてクローバックに関する税務上の論点をまとめた数少ない資料なので、以下にその見解を図示する形で紹介したい。 【クローバックの法的性格と還付の可否】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (*) 過去の不祥事が判明するなど、A以外 (出典) 日本公認会計士協会「法人税法上の役員報酬の損金不算入規定の適用をめぐる実務上の論点整理(租税調査会研究報告第35号)」64頁以降の内容をもとに筆者作成。 このように、日本公認会計士協会は、クローバックの実施によって過年度の源泉徴収税額が過誤納還付の対象となるという見解を示している。クローバックに関する税務については、当該レポート以外、ほとんど議論がないところであるため、今後の議論の発展が待たれる。 なお、法人税の所得計算において過年度に損金算入された役員報酬がクローバック実施によりどのように取り扱われるかについても疑問が生じるが、こちらについても今後の議論が待たれるところである。 (了)

#No. 345(掲載号)
#中尾 隼大
2019/11/21

基礎から身につく組織再編税制 【第10回】「適格合併を行った場合の繰越欠損金の取扱い」

基礎から身につく組織再編税制 【第10回】 「適格合併を行った場合の繰越欠損金の取扱い」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、適格合併を行った場合の繰越欠損金の取扱いについて解説します。   1 繰越欠損金の引継ぎ 適格合併があった場合には、原則として、被合併法人の未処理欠損金額は合併法人に引き継がれます。 適格合併が行われた場合において、被合併法人の未処理欠損金額があるときは、その金額は、それぞれの未処理欠損金額が生じた各事業年度の開始の日の属する合併法人の各事業年度において生じた欠損金額とみなされます(法法57②)。 合併法人の合併事業年度開始の日以後に開始した被合併法人の事業年度において生じた未処理欠損金額については、合併事業年度の前事業年度において生じた欠損金額とみなされます。 未処理欠損金額が帰属する事業年度は、下図のようになります。   2 繰越欠損金の引継ぎの制限 (1) 内容 適格合併があった場合に、無制限に繰越欠損金を引き継げるのであれば、欠損金の利用のみを目的とした適格合併が行われることも想定されます。 企業グループ内の適格合併(完全支配関係又は支配関係がある法人間の適格合併)は、共同事業を行うための適格合併に比べ要件が緩和されていることから、租税回避に利用されやすいと考えられています。 したがって、完全支配関係又は支配関係がある適格合併のうち、次のいずれにも該当しない適格合併については、被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎが制限されています(法法57③、法令112③④)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています(法令112④)。 (2) みなし共同事業要件 「みなし共同事業要件」とは、次の①から④又は①と⑤の要件の全てを満たすことをいいます(法令112③⑩)。 なお、みなし共同事業要件については、本連載の【第12回】で詳しく解説します。   3 繰越欠損金の引継ぎ制限の対象金額 (1) 内容 被合併法人の繰越欠損金額について引継ぎが制限された場合において、引き継ぐことができない繰越欠損金額は以下のとおりです(法法57③、法令112⑤)。 (※) 平成30年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額については、前9年内事業年度とされています。 制限対象金額をまとめると、下図のとおりです。 (2) 特定資産譲渡等損失額 特定資産譲渡等損失額とは、支配関係事業年度開始の日において被合併法人が有していた資産の譲渡損失等のことをいいます。なお、特定資産譲渡等損失額については、次回詳しく解説します。   4 合併法人の繰越欠損金額の使用制限 適格合併の場合、被合併法人の資産を簿価で引き継ぐことにより、含み損益が合併法人に移転するため、含み益資産の譲渡により含み益を実現させ、合併法人の欠損金を使用することができます。また、被合併法人の繰越欠損金額の引継ぎのみを制限した場合には、合併法人と被合併法人を入れ替えることで制限を回避することができます。 したがって、租税回避を防止するために、合併法人の欠損金についても一定の使用制限が課されています。 完全支配関係又は支配関係がある適格合併のうち、次のいずれにも該当しない適格合併については、合併法人の未処理欠損金額の使用が制限されます(法法57④、法令112⑨⑩)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています(法令112④⑨)。 なお、適格合併に加えて、非適格合併でグループ法人税制により譲渡損益が繰り延べられているものについても、上記と同様に使用制限が課されるため留意が必要です。   5 繰越欠損金の使用制限の対象金額 合併法人の繰越欠損金額について使用制限が課された場合には、以下の繰越欠損金額を使用することができません(法法57④、法令112⑤⑪)。 (※) 平成30年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額については、前9年内事業年度とされています。 制限対象金額をまとめると、下図のとおりです。   6 時価評価した場合の特例 (1) 内容 被合併法人において、含み益が生じている資産を多額に有しており、かつ、欠損金が生じているケースでは、仮に含み益を実現させれば、欠損金のうち含み益部分は自社で利用することが可能であり、租税回避とはいえないため、欠損金を制限する必要はないと考えられます。 したがって、支配関係事業年度の前事業年度終了時の資産及び負債について時価評価した場合には、欠損金の制限対象金額の計算について特例が設けられています(法令113)。 (2) 時価純資産超過額 「時価純資産超過額」とは、時価純資産価額(資産の時価評価額の合計から負債の時価評価額の合計を減算した金額)が簿価純資産価額(資産の帳簿価額の合計から負債の帳簿価額の合計を減算した金額)を超える場合のその超える部分の金額をいいます。 (3) 簿価純資産超過額 「簿価純資産超過額」とは、時価純資産価額(資産の時価評価額の合計から負債の時価評価額の合計を減算した金額)が簿価純資産価額(資産の帳簿価額の合計から負債の帳簿価額の合計を減算した金額)に満たない場合のその満たない部分の金額をいいます。 (4) 時価純資産超過額がある場合の特例 被合併法人の支配関係事業年度の前事業年度終了時における時価純資産超過額が支配関係前事業年度末の未処理欠損金額以上の場合には、欠損金の制限はありません。 被合併法人の支配関係事業年度の前事業年度終了時における時価純資産超過額が支配関係前事業年度末の未処理欠損金額に満たない場合には、支配関係前欠損金額のうち、その満たない部分の金額のみ欠損金が制限され、支配関係事業年度以後の未処理欠損金額については制限されません。 (5) 簿価純資産超過額がある場合の特例 簿価純資産超過額が支配関係事業年度以後に生じた特定資産譲渡等損失額に満たない場合には、支配関係事業年度前の未処理欠損金額については、全額が制限対象となり、支配関係事業年度以後の事業年度の未処理欠損金額については、簿価純資産超過額のみ制限されます。 時価評価した場合の特例を適用したときの制限対象金額をまとめると、下図のとおりです。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 今回詳しく説明できなかった「特定資産譲渡等損失額」、「みなし共同事業要件」については、次回以降で解説します。   ◆適格合併があった場合の繰越欠損金の取扱いのポイント◆ 適格合併があった場合には原則として、被合併法人の欠損金額を引き継ぎます。 欠損金利用目的の適格合併を防止するために、繰越欠損金の引継ぎ制限の規定が設けられています。 適格合併があった場合には、合併法人にも欠損金の使用制限規定が設けられています。 欠損金の制限対象金額の計算には、時価評価した場合の特例が設けられています。   (了)

#No. 345(掲載号)
#川瀬 裕太
2019/11/21

相続空き家の特例 [一問一答] 【第39回】「「相続空き家の特例」の譲渡価額要件(1億円以下)の判定⑦(買主が家屋取壊費用を負担して譲渡価額が決定している場合)」-譲渡価額要件の判定-

相続空き家の特例 [一問一答] 【第39回】 「「相続空き家の特例」の譲渡価額要件(1億円以下)の判定⑦ (買主が家屋取壊費用を負担して譲渡価額が決定している場合)」 -譲渡価額要件の判定-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、昨年6月に死亡した父親の家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得した後に、その家屋を取り壊して更地にし、本年11月にA社に対し9,900万円で売却しました。 取り壊した家屋の、相続の開始の直前の状況は、父親が一人暮らしをし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 なお、その家屋の取壊費用300万円についてはA社が負担することを条件として、当該譲渡価額が決定されています。 この場合、Xは、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 当該取壊費用300万円を譲渡価額に加算すると1億円を超えることから、「相続空き家の特例」の適用を受けることはできません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」の対象となる被相続人居住用家屋の全部の取壊し若しくは除却をした後又はその全部が滅失をした後に、被相続人居住用家屋の敷地を譲渡した場合には、この特例を受けることができ(措法35③二)、また、その譲渡の対価の額が1億円以下であることが、適用要件の1つとされています(措法35③)。 この場合の「譲渡の対価の額」とは、例えば譲渡協力金、移転料等のような名義のいかんを問わず、その実質において、その譲渡した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡の対価たる金額をいうとされています(措通35-19(譲渡の対価の額))。 したがって、その譲渡者が被相続人居住用家屋の取壊し等をするところ、その売買に際し、買主がその家屋を取り壊している場合やその費用を負担している場合には、その実質の譲渡価額は、その取壊費用を加算して判定することとなります。 本事例の場合は、売買価額9,900万円に家屋の取壊費用300万円が加算されて、譲渡の対価の額が1億円を超えることから、本特例の適用を受けることができません。 (了)

#No. 345(掲載号)
#大久保 昭佳
2019/11/21

企業結合会計を学ぶ 【第30回】「①同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産である場合)と②同一の株主(個人)により支配されている企業同士の吸収合併の会計処理」

企業結合会計を学ぶ 【第30回】 「①同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理 (合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産である場合)と ②同一の株主(個人)により支配されている企業同士の吸収合併の会計処理」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、共通支配下の取引等の会計処理のうち、次の2つを解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産である場合) 1 個別財務諸表上の会計処理 同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併(合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産)の場合、個別財務諸表上、次のように会計処理する(結合分離適用指針250項~252項)。 ◎子会社(吸収合併消滅会社) 吸収合併消滅会社である子会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産及び負債の適正な帳簿価額を算定する(企業結合会計基準41項)。 ◎子会社(吸収合併存続会社) 【資産及び負債の会計処理】 吸収合併存続会社である子会社が吸収合併消滅会社である他の子会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準41項により、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。 【増加すべき株主資本の会計処理(企業結合会計基準42項)】 《吸収合併消滅会社の株主資本の額がプラスの場合》 吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額による株主資本の額から、合併の対価として支払った現金等の財産(結合分離適用指針95項。いわゆる三角合併のケースを含む)の移転前に付された適正な帳簿価額(支払った現金等の財産に係る評価・換算差額等又は新株予約権が含まれている場合には、当該金額を控除する)を控除した額がプラスとなる場合には、当該差額を払込資本とする。 当該差額がマイナスとなる場合には、払込資本はゼロとし、のれんを計上する。 のれん(又は負ののれん)は、結合分離適用指針72項及び76項から78項並びに資本連結実務指針40項に準じて会計処理する(結合分離適用指針448項)。 《吸収合併消滅会社の株主資本の額がマイナスの場合》 合併の対価として支払った現金等の財産の移転前に付された適正な帳簿価額(支払った現金等の財産に係る評価・換算差額等又は新株予約権が含まれている場合には、当該適正な帳簿価額を控除する)と等しい金額をのれんに計上する(結合分離適用指針448項)。 吸収合併存続会社の増加すべき株主資本については払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する。 ※ いずれの場合においても、評価・換算差額及び新株予約権の適正な帳簿価額は、吸収合併存続会社にそのまま引き継ぐ。 【企業結合に要した支出額の会計処理】 企業結合に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。 ◎親会社(結合当事企業の株主) 事業分離等会計基準45 項により、吸収合併消滅会社の株主(親会社)が吸収合併存続会社から受け取った現金等の財産は、原則として、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。 当該価額が吸収合併消滅会社の株式に係る適正な帳簿価額を上回る場合には、原則として、当該差額を交換利益として認識(受け入れる吸収合併存続会社の株式の取得原価はゼロとする)し、下回る場合には、当該差額を受け入れる吸収合併存続会社の株式の取得原価とする。 ただし、いわゆる三角合併のように、子会社が親会社株式と自社(吸収合併存続会社である子会社)の株式を対価として他の子会社と吸収合併を行う場合、吸収合併消滅会社の株主(親会社)が受け入れる自己株式の取得原価は、吸収合併消滅会社の株式の適正な帳簿価額のうち引き換えられた部分に相当する額により算定する。  この結果、吸収合併消滅会社の株式に係る適正な帳簿価額から当該自己株式の取得原価を控除した額が、受け入れる吸収合併存続会社の株式の取得原価となる。 2 連結財務諸表上の会計処理 連結財務諸表上、次のように会計処理する(結合分離適用指針253項)。   Ⅲ 同一の株主(個人)により支配されている企業同士の吸収合併の会計処理 同一の株主により支配されている企業同士の吸収合併は、共通支配下の取引に該当し、吸収合併存続会社は次のように会計処理する(結合分離適用指針201項、254項)。 【資産及び負債の会計処理】 吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準41 項により、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。 【増加すべき株主資本の会計処理】 合併が共同支配企業の形成と判定された場合の吸収合併存続会社の会計処理(結合分離適用指針185項)に準じて処理する(結合分離適用指針408項)。 ただし、合併の対価に当該子会社株式以外の財産が含まれるときは、結合分離適用指針251項に準じて処理する。 【抱合せ株式の会計処理】 吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社の株式(関連会社株式又はその他有価証券)を保有している場合には、結合分離適用指針247項(3)に準じて処理する。 (了)

#No. 345(掲載号)
#阿部 光成
2019/11/21

組織再編時に必要な労務基礎知識Q&A 【Q23】「会社分割した場合、労働条件を不利益に変更することはできるか」

組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q23】 会社分割した場合、労働条件を不利益に変更することはできるか   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   【A】 会社分割により分割会社から承継会社に労働契約が承継された場合、当該労働契約に関わる労働条件は会社分割によって変更されることはなく、また、会社分割を理由に一方的に労働条件を不利益に変更することはできない。よって、会社分割に伴って労働条件を不利益に変更せざるを得ない場合は、労働組合法や労働契約法を踏まえた対応が必要となる。 (※) 本稿では、会社分割により事業を分割する会社を「分割会社」、それを承継する会社(新設分割の場合の新設会社も含む)を「承継会社」という。   会社分割による不利益変更 会社分割により、分割会社から承継会社に労働契約が承継された場合は、当該労働契約に関わる権利義務は包括的に承継会社に承継される。よって、当該労働契約に関わる労働条件は会社分割によって変更されることはなく、また、会社分割を理由に、一方的に労働条件を不利益に変更することはできない。   労働条件の不利益変更 会社分割に伴って労働条件を不利益に変更せざるを得ない場合であっても、他の事情で労働条件を不利益に変更する場合と同様に、労働組合法や労働契約法を踏まえた対応が必要となる。 つまり、労働条件を不利益に変更するためには、次の3つのいずれかの方法によらなければならない。 ① 個別の合意 労働契約法8条には、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」とあり、個別に合意することにより労働条件を不利益に変更することができる。 ただし、山梨県民信用組合事件(最二小判平28.2.19)では、 と判示しており、「自由な意思」に基づいて合意したと認められる「合理的な理由が客観的に存在」しない場合には、個別の合意の効力が否定されることがある。 ② 就業規則の変更 労働契約法10条には、 とあり、就業規則の変更により労働条件を不利益に変更することができる。 ただし、上記のとおり、就業規則の変更により労働条件を不利益に変更する場合には、次の点に照らして合理的であることが求められ、合理的であるか否かについては裁判で争われることがある。 ③ 労働協約の締結 労働協約とは、労働組合と使用者が協議して取り決めた労働条件等に関する事項が記載された書面で、両者が署名又は記名押印したものをいう。 労働組合法16条には、 とあり、労働協約に個々の労働契約を規律する効力(これを規範的効力という)が与えられている。したがって、労働協約を締結することにより、労働条件を有利に変更するだけでなく、不利益に変更することもできると解されている。 ただし、労働協約の締結手続きに瑕疵がある場合や、特定の組合員を不利益に扱うことを目的に労働協約が締結されたと判断される場合などにおいては、労働協約の効力が否定されることがある。 会社分割などの組織再編時には、一般的には、労働契約法10条を踏まえて労働条件の検討を行い、変更後の労働条件を決定する対応となる。 複数の会社の労働条件を統一しようとする場合、すべての点において従業員に有利になる方を選択しない限り、労働条件を不利益に変更せざるを得ない。ただし、不利益に変更する点ばかりではなく、有利に変更する点も含まれることも多いため、総合的にバランスを図って変更後の労働条件を検討することとなる。また、どうしても総合的にみて不利益な変更となる場合は、労働者の受ける不利益の程度を緩和するための措置を導入する等の対応が必要となる。 (了)

#No. 345(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2019/11/21

中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント 【第19回】「廃業という選択」

中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第19回】 「廃業という選択」   税理士法人トゥモローズ   事業承継時の老後資金準備の最終項として、「廃業」について取り上げたい。 東京商工リサーチの「2018年「休廃業・解散企業」動向調査」によると、『2018年に全国で休廃業・解散した企業は4万6,724件(前年比14.2%増)だった。企業数が増加したのは2016年以来、2年ぶり。2018年の企業倒産は8,235件(同2.0%減)と、10年連続で前年を下回ったが、休廃業・解散は大幅に増加した。』とのことだ。さらに『休廃業・解散した企業の代表者の年齢は、60代以上が8割(構成比83.7%)を超え、高齢化による事業承継が難しい課題がより鮮明になってきた。』としている。 このように近年、廃業で自ら事業に幕を下ろす企業の件数が、倒産件数の5倍以上という数字になってきている。 〔図1〕休廃業・解散件数の推移 (出典) 中小企業庁「2019年版「中小企業白書」」P127 〔図2〕倒産件数の推移 (出典) 中小企業庁「2019年版「中小企業白書」」P16 今回は、本連載の【第15回】から【第18回】にかけて紹介してきたM&Aを含む事業承継の方法を検討したもののうまくいかなかった場合を前提に、廃業について、その検討から具体的に抑えておくべきポイントなどを〔STEP1〕~〔STEP3〕に分けて確認していく。 自社が〔STEP1〕に該当する企業の場合は廃業が選択肢の1つとして考えられるため、〔STEP2〕で自社の現状について把握したうえで、〔STEP3〕において実際の廃業のイメージをつかんでいただきたい。 〔STEP1〕廃業の検討 なお、廃業を選択しようにも債務超過である場合などは廃業を選択することができず、最悪倒産という事態に至る可能性もある。少し論点がずれるため深くは言及しないが、すべての経営者について「倒産」という最悪の事態は想定しておく必要がある。 老後資金を守る観点から、リスクヘッジの1つとして考えられるのは、銀行からの借入金について、経営者の個人保証が付いていないかの確認である。企業が倒産の憂き目にあった場合、経営者個人へ求償されないようプロテクトしておく必要がある。 中小企業庁は数年前から一定の借入金について経営者の個人保証を求めないという「経営者保証に関するガイドライン」を策定している。自社の調子が良いうちに早めに手を打っておくことが重要である。 〔STEP2〕実体B/Sの作成 〔STEP1〕の結果を受けて、自社の解散価値の確認に進みたい。廃業する場合は会社の解散価値(すべての資産を現金化し、すべての負債を返済した後の残りの手元資金)を知る必要がある。 〔STEP1〕に該当した企業の経営者でも、自社の解散価値を前提としたB/S(ここでは仮に「実体B/S」と呼ぶ)の把握はできているだろうか。以下で示すのは、決算書ベースのB/Sから実体B/Sに修正するチェック項目である。お手元のB/Sに追記いただきたい。 なお上記算式で最終的に残った資金が経営者の老後資金に直結するため、赤字が続いている場合は「将来」の老後資金を「今」まさに消耗しているものと捉えるべきであろう。 〔STEP3〕抑えておくべきポイント 〔STEP3〕では、実際の手続で抑えておくべき主なポイントについて確認し、廃業についてのイメージをご確認いただきたい。 以上が廃業の大まかな流れとなる。また債務超過となった場合や事業再開の可能性がある場合は「休眠」という手もある。それぞれの企業の実情に合わせて適切な選択が必要となる。 *  *  * 本連載では【第15回】から今回にかけて、事業承継時に確認すべき老後資金確保の方法について、事業承継の各方法とともに解説してきたが、次回からは事業承継後の対応について解説を行っていく。 (了)

#No. 345(掲載号)
#税理士法人トゥモローズ
2019/11/21
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