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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例7】「医療用検査機器の機械装置該当性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例7】 「医療用検査機器の機械装置該当性」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、東京都内にある臨床検査を行う株式会社に勤務しております。私の勤務する会社では、近隣の病院やクリニックから委託を受けて、様々な臨床検査を行うことを主たる業務としております。その際、各種臨床検査機器を利用することとなりますが、会社の方針として、高額の医療機器は原則リースではなく購入により導入することとしております。 その際、医療機器を扱う商社から、わが社の場合、規模も小さく、法人税法上も中小企業者等に該当するため、導入した検査機器は特別償却の対象となる旨アドバイスを受けました。そこで、わが社の経理担当者はそのような経理処理を行っていたものと聞いていました。 さて、実は先日受けた税務調査で、専門商社から購入し既に事業の用に供している検査機器の特別償却が問題となりました。検査を担当している私も調査官に呼ばれていろいろヒアリングを受けましたが、その最後に、特別償却を適用した検査機器はすべて「器具備品」であって「機械装置」ではないから、適用対象外である、と言い渡されました。 私はそれに対し、「これは紛れもなく医療用の『検査機器』であり、機械装置であるか器具備品であるかどうかは関係ない」と反論しましたが、調査官は苦笑いするのみでした。経理担当者はおろおろするばかりで全く頼りにならないのですが、この問題はどのように対処すべきなのでしょうか、教えてください。   【A】 減価償却資産のうち、機械装置に該当するものは、判例上、標準設備(モデルプラント)を形成していることが求められており、それは資産の集合体が集団的に生産活動やサービスを行っていることを意味すると考えられます。 したがって、本件の医療用の検査機器のように、それぞれが独立して機能するものについては、機械装置ではなく器具備品に該当すると解するのが妥当ということになります。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 中小企業者等に対する特別償却制度 法人税に関しては、有形固定資産について、その使用又は時間の経過によって減価するのに応じて徐々に費用化する減価償却制度を採用しており、一般にこれは公正妥当な会計処理の原則に適合しているものと解されている。 しかし、一定の政策目的を達成するために、特定の減価償却資産については、その事業の用に供した日を含む事業年度において、普通償却限度額に加えて、取得価額の一定割合の金額につき償却することを認める「特別償却(初年度特別償却)」制度が採用されている。そのうちの1つが、本件で問題となった租税特別措置法第42条の6第1項第1号に規定する、中小企業者等が機械及び装置等を取得した場合の特別償却制度(※1)である。 (※1) なお、当該制度は1998年に導入されたもので、特別償却と特別控除の選択適用となっている。 本件の取引を図示すると、概ね以下の通りとなる。 〇本件の取引概要図 特別償却制度に基づき減価償却を行った場合と通常の減価償却を行った場合とを比較すると、初年度の減価償却費は特別償却制度のケースの方が多くなるが、耐用年数を通じた減価償却費総額(累計額)は、いずれの場合も同額となる。したがって、特別償却制度は非課税措置ではなく課税繰延措置であるといえる。 (2) 減価償却費の計上の要件 前回もみたところであるが、法人が固定資産(減価償却資産、法法2二十三)の減価償却費を各事業年度の損金の額に算入するためには、以下の2つの要件を満たす必要がある。 上記要件は、特別償却制度に基づき減価償却費を計上する場合も満たす必要がある。本件は、上記①②のいずれの要件も満たしているため、この点に関しては問題とならない。 (3) 判例上の「機械装置」の意義 本件で問題となった、租税特別措置法第42条の6第1項第1号に規定する中小企業者等が機械及び装置等を取得した場合の特別償却制度に関しては、裁判例(東京高裁平成21年7月1日判決・税資259号-124順号11237、訟月36巻7号1996頁(※2))があるので、以下で検討しておきたい。 (※2)  上告不受理・確定(最高裁平成22年9月7日決定・税資260号-146順号11502)。 当該裁判例は、中小企業者等が機械等を取得した場合等の特別償却又は法人税の税額の特別控除を定めた租税特別措置法(平成18年法律第10号による改正前のもの(※3))42条の6の適用の有無が問題となった事案である。 (※3) 改正前は、いわゆるリース税額控除制度(旧措法42の6③)があったが、平成20年4月1日以降に締結される契約による所有権移転外リースが「売買、資産の取得」とされたことから、改正後の措置法42条の6第1項の特別償却制度は、リース取引により取得した機械装置等に対しては適用がない。 すなわち、主として臨床検査、公害検査、水質検査等を目的とする会社であり、医療機関ではない控訴人が、臨床検査で使用するリース物件である原判決別表1及び別表2記載の各資産(※4)(以下「本件各資産」)について、これが措置法42条の6第1項1号の減価償却資産に該当し、同条3項の規定が適用されるとして法人税の確定申告をしたところ、所轄税務署長から、同規定の適用を否定する内容の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を受けたため、控訴人は、これらの処分の取消を求めたところである。 (※4) 全自動染色装置や血液ガス分析装置などである。 旧措置法42条の6第1項1号においては、減価償却資産として「機械及び装置並びに器具及び備品(特定機械装置等)」が挙げられている。このうち「器具及び備品」について、同号は財務省令で定めるものに限ると規定するが、同号の委任を受けた財務省令である旧租税特別措置法施行規則20条の2の2第1項には、本件各資産に該当するものが存在しない。 そこで、この点につき納税者は、本件各資産は旧措置法42条の6第1項1号の「機械及び装置」に該当すると主張したが、原審は、同号の「機械及び装置」並びにこれと区別される「器具及び備品」の意義を一義的に決することはできないとし、ある減価償却資産がいずれに該当するかの判断に当たっては、法的安定性の観点から、関連法規との整合性が図られるような解釈をする必要があるとした上で、本件各資産は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(平成19年財務省令第21号による改正前のもの)(別表第二)の「機械及び装置」ではなく、耐用年数省令(別表第一)の「器具及び備品」のうちの「医療機器」に当たるから、旧措置法42条の6第1項1号の「機械及び装置」に該当しないとして、控訴人の請求を棄却した。これに対し、納税者(控訴人)が控訴したところである。 控訴審における裁判所の判示は以下のとおりで、原審を維持した。 (4) 本件への当てはめ 現行法は、上記裁判例で問題となった旧法と若干規定が変わっており、対象となる減価償却資産として、「機械及び装置並びに工具」が挙げられている。そのため、現行法ではそもそも「器具備品」に該当する場合、特別償却制度の適用は受けられず、納税者側は臨床検査用医療機器が「機械装置」に該当すると主張するしかない。 上記裁判例では、「機械装置」といえるためには、標準設備(モデルプラント)を形成していなければならず、資産の集合体が集団的に生産手段やサービスを行っていなければならない、としている。通常、臨床検査用の医療機器は、検査項目等の使用目的は共通でなく、それぞれが独立して機能するものであることから、機械装置に該当すると解することは困難である。そうなると、本件で問題となる臨床検査用の医療機器は、機械装置ではなく器具備品と解するのが妥当ということになるであろう。 なお、平成20年度税制改正で、耐用年数省令別表第二の「機械及び装置」の区分が、従来の369から55に整理統合された。これにより、機械装置と器具備品の区分問題の解釈が変更されるか否かであるが、これについて、国税庁の通達改正の趣旨説明(平成20年12月26日付課法2-14ほか1課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明)によれば、 とされており、当該改正が「機械及び装置」の概念そのものに変更を加えているものではない、ということになる。したがって、上記裁判例で示された区分の考え方は、改正後も引き続き有効であると考えられる(※5)。 (※5) 藤曲武美「機械装置と器具備品等との区分」『税務弘報』2014年1月号111-112頁参照。 (5) 医療用機器の特別償却制度 ところで、医療用機器に関しては、租税特別措置法に別途特別償却制度がある(措法45の2)。それによれば、対象となる償却資産は医療用の機械及び装置のみならず器具及び備品も含まれるが、青色申告法人で医療保健業を営む法人であることが要件とされている。 そうなると、本件のような検査会社が対象となるのか問題となるが、通達によれば、法人の営む事業が措置法45条の2第1項に規定する医療保健業に該当するか否かは、総務省の日本標準産業分類を基準とするとある(措通45の2-4)。そこで日本標準産業分類を確認してみると、8492(検査業)は中分類84(保健衛生)の中の849(その他の保健衛生)に含まれていることから、本件のような検査会社も措置法の適用対象となるものと考えられる。 なお、前述(3)の裁判例では、措置法45条の2第1項に規定する医療機器には「機械装置」がある点も控訴人は主張しているが、裁判所は、 と判示している。 (6) 適用状況の統計 最後に、中小企業者等が機械等を取得した場合等の特別償却(措法42の6)及び医療用機器の特別償却(措法45の2)の適用状況に関する統計を掲げてみる。 一見してわかる通り、適用業種の幅が広い前者の方が後者よりも件数・金額ともに2桁ほど規模が大きく、税収に与える影響も大きいといえる。 〇特別償却に係る適用状況の統計 (出典)財務省「租税特別措置の適用実態調査の結果に関する報告書」(第198回国会提出) (了)

#No. 325(掲載号)
#安部 和彦
2019/07/04

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第70回】「受取金額5万円未満の非課税文書の考え方」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第70回】 「受取金額5万円未満の非課税文書の考え方」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   次のような貸付金の回収に係る領収書を交付するにあたり、印紙税の取扱いはどうなりますか。 (事例1) (事例2)   事例1及び事例2ともに、第17号の1文書に該当し、印紙税額は200円となる。   [検討1] 第17号文書の非課税文書の判定 事例1の文書は貸付金に係る元本及び利息を受け取った際に作成する領収書であり、貸付金利息については第17号の1文書(売上代金に係る金銭の受取書)、貸付金元本については第17号の2文書(売上代金以外に係る金銭の受取書)に該当するが、法別表1第17号文書の定義欄1のイにより第17号の1文書とみなされる。 この場合、第17号の1文書の記載金額である利息分が1,000円であり、第17号文書の非課税規定である受取金額が5万円未満のため非課税文書となりそうであるが、5万円未満の非課税文書に該当するかどうかを判断する場合には、その合計額により判断することとされる。 したがって、事例1の場合は第17号の1文書と第17号の2文書の合計額が50,000円のため課税文書に該当し、印紙税額200円となる。   [検討2] 売上に係る金額と売上代金以外の金額が区分できないとき 事例2の文書については、事例1と同様に、貸付金利息は第17号の1文書に該当し、貸付金元本は第17号の2文書に該当し、通則3ハの規定により、第17号の1文書に該当する。事例1と異なる点は、領収書において、貸付金元本と利息その金額が区分されていないことである。この場合は区分することができないため、その金額の合計が売上代金に係る金額となる。 したがって、事例2の場合は第17号の1文書に該当し、記載金額は50,000円で、印紙税額は200円となる。   ▷まとめ 事例1の場合、第17号の1文書と第17号の2文書は同一号の文書であるため、5万円未満の非課税文書の判定は合計額により判定する。 事例2の場合は売上に係る金額と売上代金以外に係る金額が合計で記載されており、区分されていないため、合計金額が売上代金に係る金額となる。   (了)

#No. 325(掲載号)
#山端 美德
2019/07/04

〈桃太郎で理解する〉収益認識に関する会計基準 【第11回】「もし鬼退治に含まれる3つの仕事が別々の契約だったら~契約の結合」

〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第11回】 「もし鬼退治に含まれる3つの仕事が別々の契約だったら ~契約の結合」 公認会計士 石王丸 周夫   1 きびだんごは分割払い? 桃太郎が鬼ヶ島に向けて1人で歩いていると、イヌがやってきました。 「桃太郎さん、お腰につけたきびだんごを1つ私にくださいな。」 「鬼退治について来るなら、あげましょう。」 「もちろん、ついていきます。」 「それはよかった。では、一緒に行こう! きびだんごは鬼退治が終わったらあげるよ。」 イヌは桃太郎のその言葉を聞いて「えっ」という顔をしました。 「桃太郎さん・・・きびだんごは先にくださいな・・・」 「きびだんごをいつあげるか」ということで、桃太郎とイヌの条件が折り合わないようですね。 桃太郎としては、鬼退治完了後にきびだんごをあげたいようです。これに対してイヌは、今すぐきびだんごが欲しいようです。 これでは契約が成立しません。さあ、困りました。 桃太郎とイヌの話はなかなかまとまりません。そこで桃太郎は、イヌにこう提案しました。 「それならこうしよう。鬼退治の進み具合に合わせて、きびだんごを少しずつあげる、というのはどうかな?」 話し合いの結果、以下のようになりました。 鬼退治の仕事を、【第3回】で示したあの3つのサービスに分割して約束(契約)します。そして、それぞれの契約に定めたサービスが提供されたところで、少しずつきびだんごをあげるというのです。 まとめると、こんなふうになります。 では、こうした契約を結んだ場合、イヌはきびだんご報酬をどのように収益認識すればよいでしょうか。 (それにしても・・・桃太郎はケチですねぇ・・・)   2 3つの契約を1つにまとめる 【第3回】で解説したとおり、「収益の認識」というのは「履行義務」との1対1対応で会計処理していきます。そのためには、契約内容を確かめて履行義務を把握し、その上で会計処理へとつなげていく必要があります。 今回の場合、契約は3つですが、それらの契約内容が一定の条件を満たす場合、3つの契約は1つであるとみなします。これを「契約の結合」と言います。もちろん、実際に契約を1つにまとめて作り直すわけではなく、会計上そう考える、ということです。 では、どのような場合に1つの契約とみなすのか、収益認識会計基準に即して考えてみましょう。 収益を計上する側であるイヌの立場から考えます。イヌが締結した3つの契約は、いずれも桃太郎との契約です。そしてその3つの契約は、同時に締結されたものです。 このように、同一の顧客と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約について、次の①から③のいずれかに該当する場合には、それらの契約を結合し、単一の契約とみなして処理します。 ① 上記3つの契約が、同一のパッケージとして交渉されたこと ② 各契約の単独販売時の値段の合計と、セット販売した場合の値段が異なること ③ 上記3つの契約において約束したサービスが、履行義務識別の要件に照らして単一の履行義務となること 上記の例では、①~③のうち、②は判断材料が不足しており該当するかどうかわかりませんので、①と③について確認しましょう。 まず①です。上記3つの契約は「鬼ヶ島へ鬼退治に行く」という同一の目的の下に締結されたものです。したがって、該当すると考えて問題ありません。 次に③です。これは【第4回】で解説したとおりです。鬼ヶ島への渡航から宝物の輸送までの一連のサービスは、1つの履行義務であると判断されましたね。それがここでいう「履行義務識別の要件に照らして単一の履行義務となる」という意味です。したがって、これも該当します。 以上から、上記3つの契約は単一の契約とみなして処理します。 このあとは、履行義務の充足パターンを把握し、それに応じて収益をいつ認識するかを判断していきます。【第6回】及び【第7回】の解説に沿って考えると、イヌが履行義務を充足するのは、契約Cのサービス完了時点ということになります。したがって、その時点で一時に収益を認識します。各契約の完了時点ごとに収益認識するという処理にはならないことに注意してください。 ▷今回のまとめ 契約が別個であっても、会計上はそれらを結合して1つとみなす場合があります。 (了)

#No. 325(掲載号)
#石王丸 周夫
2019/07/04

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第150回】税効果会計⑦「連結納税制度を適用した場合の会計処理のポイント」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第150回】 税効果会計⑦ 「連結納税制度を適用した場合の会計処理のポイント」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明     〈事例による解説〉   〈会計処理〉 (1) 連結財務諸表 ① 連結法人税の計上 ② 繰延税金資産の計上 (2) 個別財務諸表 P社 ① 連結法人税として納付すべき額の計上 ② 連結納税子会社に対する未収入金及び未払金の計上 S1社 ◆ 連結納税親会社に対する未払金の計上 S2社 ◆ 連結納税親会社に対する未収入金の計上   〈会計処理の解説〉 1 連結納税制度を適用した場合の税効果会計の考え方 連結納税制度を適用しない場合、各社の個別財務諸表上の繰延税金資産及び繰延資産負債並びに法人税等調整額(以下、「繰延税金資産等」という)が合算され、連結財務諸表固有の税効果会計の調整を経て、連結財務諸表上の繰延税金資産等が計上されます。 一方、連結納税制度を適用する場合、連結納税の範囲に含まれる連結会社群は、法人税法上、同一納税主体となるため、連結納税制度を適用する場合の法人税及び地方法人税に係る税効果会計においては、連結納税制度を適用する各会社の会社群を全体で1つの納税主体として取り扱い、繰延税金資産等を計上することとなります(実務対応報告第5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」Q1)。 したがって、上記の事例のように、連結納税を適用することでS2社の欠損金を使用することができ納税額が減少するだけでなく、会社ごとに繰延税金資産の回収可能性を判断した場合に回収可能性が認められないS2社の将来減算一時差異400もP社及びS1社の課税所得により回収可能性が認められ、繰延税金資産を計上できるようになります。 2 連結法人税の個別帰属額に関する会計処理 連結納税制度を適用する場合、連結法人税は連結納税親会社が納付します。そのため、上記事例の(2)①のように、連結法人税として納付すべき額をP社の個別財務諸表に計上します。 連結納税制度では、国に納付する法人税は連結納税制度を適用する会社群で計算しますが、地方税は個社の法人税などを基礎として計算されるため、連結所得に対する法人税の負担額又は減少額として帰せられる金額を算定する必要があります。この“連結所得に対する法人税の負担額又は減少額として帰せられる金額”のことを「連結法人税の個別帰属額」といいます。 連結納税親会社は連結法人税を代表して納付しますが、その後、連結納税子会社と連結法人税の個別帰属額を精算します。そのため、上記事例の(2)②のように、親会社では連結納税子会社に対して未収入金や未払金を計上します。なお、会社間で金銭の授受を行わない予定であっても、事例の(2)②のような仕訳を処理します。 この連結納税子会社に対する個別帰属額に関する仕訳を親会社で処理することによって、親会社の個別財務諸表上では納付すべき連結法人税が「未払法人税等」に計上される一方で、「法人税、住民税及び事業税」には親会社に個別に帰属する金額分しか計上されないといった実態に即した結果となります。 【P社の個別上の仕訳】 ① 連結法人税として納付すべき額の計上 ② 連結納税子会社に対する未収入金及び未払金の計上 【P社の個別財務諸表】 3 留意点 今回の説明では、会計上で最も特徴的と考えられる点を簡単な設例で説明し、しかも税務メリットを受けられる例としています。 しかし、実際の連結納税制度の適用にあたっては、上記で説明していないような複雑なものもあると考えられます。また、必ずしも税務メリットを受けられるとも限りません。 そのため、実際の連結納税制度の導入にあたっては、顧問税理士に十分に相談した方がいいでしょう。 (了)

#No. 325(掲載号)
#竹本 泰明
2019/07/04

企業結合会計を学ぶ 【第20回】「共同支配企業の形成の会計処理」

企業結合会計を学ぶ 【第20回】 「共同支配企業の形成の会計処理」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 【第19回】の共同支配企業の形成の判定の解説に続いて、今回は、共同支配企業の形成の会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 共同支配企業の形成の会計処理の概要 共同支配とは、複数の独立した企業が契約等に基づき、ある企業を共同で支配することをいう。共同支配企業に関連する定義と会計処理の概要は次のとおりである(企業結合会計基準8項、11項、12項、38項、39項)。 〔共同支配企業〕 ⇒ 複数の独立した企業により共同で支配される企業をいい、「共同支配企業の形成」とは、複数の独立した企業が契約等に基づき、当該共同支配企業を形成する企業結合をいう。 〔共同支配投資企業〕 ⇒ 共同支配企業を共同で支配する企業をいう。   Ⅲ 共同支配企業の形成と判定された合併(吸収合併)の会計処理 共同支配企業の形成と判定された合併(吸収合併)のイメージは次の図のとおりである(「結合分離適用指針[設例18]共同支配企業の形成―子会社同士の合併」を参考にしている)。 〔例〕 1 吸収合併存続会社(共同支配企業)の会計処理(資産及び負債の会計処理) 親会社を異にする子会社同士の吸収合併による共同支配企業の形成では、次のように会計処理する(企業結合会計基準38項、結合分離適用指針184項、407項)。 2 吸収合併存続会社(共同支配企業)の会計処理(新株発行のケース) 吸収合併存続会社(共同支配企業)は、合併期日の前日における吸収合併消滅会社の純資産の部の各項目を次のように処理する(結合分離適用指針185項、408項)。 3 吸収合併存続会社(共同支配企業)のその他の会計処理 吸収合併存続会社(共同支配企業)の個別財務諸表におけるその他の会計処理は、逆取得となる吸収合併の会計処理(結合分離適用指針84-4項から84-7項)に準じて会計処理する(結合分離適用指針187項)。   Ⅳ 合併会社の株主(共同支配投資企業)の会計処理 合併会社の株主(共同支配投資企業)の会計処理は次のように行う(結合分離適用指針189項、190項)。 (了)

#No. 325(掲載号)
#阿部 光成
2019/07/04

「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第6回】「『フレックスタイム制』の活用で従業員の自律性を促す」

「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第6回】 「『フレックスタイム制』の活用で従業員の自律性を促す」   Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 飯野 正明   前回、従業員の「残業」と「健康」の両立を可能にする「インターバル制度」について説明しましたが、今回は従業員の「仕事」と「プライベート」のバランスをとりやすくする「フレックスタイム制」について説明していきます。 「フレックスタイム制」を導入すると、従業員はどのような働き方ができるのか、まずは以下をみていきましょう。 《社労士試験勉強中の従業員》 毎週火曜日と木曜日は通学のため、早めに退社。 その分、他の日に取り返すような働き方をしています! 《スポーツクラブに通っている従業員》 平日の午前中はジムも空いているので、出社前にリフレッシュしてから仕事ができます。 《子育て中の従業員》 遅めの出社や早めの退社を柔軟に行うことで、朝と夕方の保育園の送り迎えを妻と交替でやれています。 このようにフレックスタイム制を活用することで、従業員は自分の都合に合わせて仕事の時間を決めることができるため、「仕事」と「プライベート」のバランスがとりやすくなります。労働時間を効率的に配分することが可能となり、従業員の労働生産性向上につながることから、フレックスタイム制の導入を検討する企業が増えています。   ▷フレックスタイム制とは? フレックスタイム制とは、従業員が毎日の「出社する時間(始業時刻)」と「退社する時間(終業時刻)」を自分の意思で決定することができる制度です。簡単に言えば、「従業員が好きな時間に来て、好きな時間に帰れる制度」ということになります。 通常の労働時間制度のもとでは「始業時刻」と「終業時刻」はあらかじめ決められており、この間は必ず勤務しなければならない時間帯(所定労働時間)とされています。 一方、フレックスタイム制では、あらかじめ定めた清算期間(3ヶ月以内)中に、勤務すべき時間の総量(総労働時間)を決めておき、その時間の範囲で、従業員が日々の始業時刻と終業時刻(1日の勤務時間)を自由に決定することができます。 なお、この場合の「自由」については、始業時刻・終業時刻を決定することができる時間帯(フレキシブルタイム)と、1日のうちで必ず勤務しなければならない時間帯(コアタイム)を定めることで、自由度に制限を加えることができます。 また、柔軟な働き方の1つとして、フレックスタイム制とは別に「時差出勤制」というものもあります。こちらは、所定労働時間を変えずに、始業時刻を選択することができる制度です。 例えば、下図の場合、始業時刻を選択することで、9時間後(所定労働時間8時間+休憩時間1時間)が終業時刻となり、所定労働時間の長さは調整できないということになります。   ▷フレックスタイム制を導入するためには フレックスタイム制を導入するには、(1)就業規則の規定、(2)労使協定の締結が必要となります。 (1) 就業規則の規定 就業規則において、「始業及び終業の時刻を従業員の決定に委ねる」旨の規定が必要となります。なお、フレキシブルタイム、コアタイムを設ける場合は、その時間帯を定めておかなければなりません。 (2) 労使協定の締結 労使協定では、主に以下の事項を締結する必要があります。   ▷フレックスタイム制における時間外労働 フレックスタイム制における「時間外労働」のカウント方法としては、1日ごとや1週間ごとにカウントする必要はありません。清算期間を通じて「法定労働時間の総枠」を超えた時間について「時間外労働」として、割増賃金の対象とすればよいのです。 例えば、1日15時間働いた日があっても、その時点で割増賃金が必要かどうかは判断できません。清算期間終了後に、期間中の総労働時間が「法定労働時間の総枠」の範囲であれば、割増賃金を支払う義務はありません。フレックスタイム制は、日々の労働時間を従業員自身が決定するため、このような仕組みとなっています。 以上のフレックスタイム制における時間外労働の考え方をよりわかりやすく、例えて説明するならば、まず、「法定労働時間の総枠」という「バケツ」をイメージしてください。その中に日々の労働時間を入れていき、清算期間終了時に、「バケツからあふれている部分」が割増賃金の対象となります。 なお、法定休日の労働については、別個のものとして考え、この時間については135%以上の割増賃金を支払う必要があるという点は、通常の労働時間制度と同様です。   ▷フレックスタイム制を導入すると・・・ フレックスタイム制は、労働時間を短縮する手法の1つです。従業員自身が自己の裁量のもと効率的に労働時間を配分し、メリハリをつけた働き方を実現することが最大の目的です。従業員がこの点を理解して、業務繁忙期に労働時間を集中させ、逆に閑散期の労働時間を短くすることで、労働生産性の向上につながります。 冒頭の「従業員たちの声」にあるように、日々自分の都合に合わせて、仕事とプライベートの時間を自由に配分することが可能となることから、仕事とプライベートの両立を求める従業員にとっては、働きやすくなる制度と言えるでしょう。企業にとっても、柔軟な働き方を整備することで「人材確保」につながることが期待できます。 したがって、対象となる従業員は、効率的に労働時間を配分することで、長時間労働とならないよう「法定労働時間の総枠」の範囲内に労働時間を収める意識が求められます。「昨日の夜、飲みに行って遅かったから、朝ゆっくり出勤できてラッキー!」といった認識では、かえって労働時間が長くなってしまうことが懸念されます。 なお、会社は出退勤の時間を指定することができないからといって、従業員個々人の労働時間管理をしなくてもよいということではありません。もちろん、36協定の対象となりますので、36協定の範囲内での労働となるように十分な指導が求められます。 ちなみに、フレックスタイム制の対象者においては、36協定の「1日」の延長時間を協定する必要はありません。 (了)

#No. 325(掲載号)
#飯野 正明
2019/07/04

空き家をめぐる法律問題 【事例15】「マンション空き家と滞納管理費に関する諸問題」

空き家をめぐる法律問題 【事例15】 「マンション空き家と滞納管理費に関する諸問題」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 築40年を超える区分所有権のあるマンションの管理組合は、外壁に亀裂が入るなど老朽化したマンションの修繕工事を行うことを検討している。そこで、従前からの管理費や修繕積立金の支払状況を確認したところ、過去6年分の管理費や修繕積立金を支払っていない区分所有者がいることが明らかになった。当該区分所有者は、現在、専有部分に居住しておらず、連絡先も明らかではない。   1 はじめに 国土交通省の「築後30、40、50年超の分譲マンション数」によれば、平成30年度末に存在した築40年超のマンションは、81.4万戸であったところ、10年後には約2.4倍の197.8万戸に、20年後には約4.5倍の366.8万戸にまで及ぶものとされている。また、平成30年度マンション総合調査結果によれば、平成30年度における完成年次別内訳をみると、完成年次が古いマンションほど、空室のあるマンションの割合が高くなる傾向があると指摘されている。 区分所有建物には複数の者が居住しており、建物の維持管理は区分所有者全体の責務でもあることから、今回は、区分所有建物の一部が空き家となり、管理費等が滞納になっている事案への対処方法を検討することとしたい。   2 滞納管理費を請求できる期間について(小問【1】) マンションの管理規約の中には、管理費や特別修繕費(以下「管理費等」という)の支払義務を規定しているものがある。管理費等の支払請求権は、管理規約の規定に基づいて、区分所有者に対して発生するものであり、その具体的な額は総会の決議によって確定し、月ごとに所定の方法で支払われることになる。 そのため、管理費等の支払請求権の消滅時効期間は、基本権たる定期金債権から派生する支分権として、5年間(民法第169条)と考えられている(最判平成16年4月23日民集58巻4号959頁)。もっとも、消滅時効は、その期間の経過によって当然に権利の消滅効が生ずるものではなく、債務者の援用によって初めて効力を生ずるものであるから、5年分以上の管理費等の滞納がある場合であっても、管理組合としては、滞納債務者に対して、全額を請求するべきである。 なお、いわゆる債権法改正後の民法第166条においては、消滅時効期間について、主観的起算点から5年間、客観的起算点から10年間と規定されており、民法第169条は削除されている。したがって、前記平成16年最高裁判決は、改正民法施行後に意味を失うことになるが、消滅時効期間に関する取扱いに影響はないものと考えられる。   3 管理組合による滞納管理費の一般的な回収方法(小問【2】) 管理費等の支払請求権は、先取特権の被担保債権とされている(建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という)第7条)。そのため、管理組合には、滞納された管理費等を改修する方法として、①滞納者に対して訴訟を提起し、債務名義を取得して強制執行によって回収する方法と、②先取特権に基づき滞納者の有する区分所有権や建物に備え付けられた動産の競売によって回収する方法とが考えられる。 なお、後者の場合、建物に備え付けられた動産の競売によっては全額が回収できない場合に、区分所有権の競売が可能となるが(民法第335条第1項)、空き家になっている場合は、換価性の高い動産類が残置されていることは少ないであろうから、この要件を満たす可能性は高いように思われる。 もっとも、区分所有物件には、先取特権に優先する住宅ローンによる抵当権が設定されていることもあり、区分所有権の買受可能価額が優先債権の見込額に満たない場合には、競売手続の無剰余取消し(民事執行法第63条)(※)が行われることになる。また、管理費等を滞納している者は、優先権のある租税公課等も滞納しているケースが多いと考えられることから、これらの競売による回収可能性は低い場合が多いであろう。 (※) 無剰余取消し・・・①差押債権者の債権に優先する債権がない場合に、不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超えない場合や、②優先債権がある場合に、不動産の買受可能価額が手続費用と優先債権の見込額の合計額に満たないときに、一定の場合を除いて、競売手続が取り消される制度 なお、行方不明者に対する訴訟や強制執行については、通常の送達方法が奏功しない場合でも、公示送達による方法で対処することができる。   4 区分所有法第59条に基づく競売請求による回収(小問【3】) 上記3の強制執行や先取特権の実行によっては、滞納された管理費等を回収できない場合、区分所有法第59条に基づく区分所有権の競売請求を行うことが考えられる。同条の競売請求は、区分所有者の共同生活上の障害が著しい場合に、区分所有権をはく奪することを目的とした例外的な救済制度である。 この競売請求が認められるためには、手続的要件として、区分所有者及び議決権の4分の3以上の決議に加えて、実体的要件として、①区分所有者が、区分所有者の共同生活上の障害が著しい行為を行っていること、②他の方法によっては、その障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であることが必要となる。 まず、要件①については、滞納された管理費等の額が相当額に及んでいることが最も重要な要素であり、これに実害の有無(必要な修繕工事が行えているかどうか等)も考慮して要件を判断することになる。 次に、要件②については、主として、競売の請求に至るまでに取得した債務名義に基づいて行った強制執行や先取特権に基づく担保不動産競売が奏功しなかった場合や、無剰余取消しによって競売手続が取り消されたような場合に、認められる傾向にある。 もっとも、裁判例によっては、競売による回収が奏功しない場合でも、滞納債務者が一括又は分割弁済の協議を申し出ているような場合には、他の回収方法の存在があるものと判断される可能性もあるが、滞納額と滞納者の提案した金額との差や、滞納債務者の資力によることになる。 そのため、管理組合としては、強制執行や競売手続の顛末の分かる書類を整えることに加えて、空き家の区分所有者の資力を調査した資料等を十分に証拠化しておくことが求められる。 管理組合の競売請求が認められた場合でも、滞納者に対する強制執行等では回収できないことが前提となっていることから、管理組合に対する配当は予定されていない。そこで、管理組合としては、競売による買受人(特定承継人)に対して、滞納された管理費の支払いを請求することができる(区分所有法第8条)。買受人は滞納管理費があることも想定して買い受けているため、買受人からの回収可能性は高い。 管理組合としては、区分所有法上、種々の方法によって管理費等を回収する方法が存在するが、最終的な回収までは、時間的にも手続的にも相当の負担があることから、普段から入居者と管理費等の支払の有無を適切に管理しておくことが必要である。 (了)

#No. 325(掲載号)
#羽柴 研吾
2019/07/04

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第22話】「国税庁のビッグデータの開示」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第22話】 「国税庁のビッグデータの開示」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「中尾統括官!」 浅田調査官は、パソコンの画面を見ながら中尾統括官に声をかける。 「国税総合管理システムの導入費用って・・・すごい金額なんですね。」 浅田調査官の声に、調査報告書を読んでいた中尾統括官は、顔を上げる。 「国税総合管理システム?」 中尾統括官は立ち上がり、浅田調査官のパソコンを覗く。 「ああ、これか・・・」 中尾統括官は浅田調査官のパソコンに表示された財務省のホームページを見て納得する。 開かれたページは「国税総合管理(KSK)システムの導入経緯」となっている。 「情報を収集・蓄積し、そして加工・管理・活用するコストって、結構かかるものなのですね。」 浅田調査官は、もう一度、確認する。 「・・・この国税総合管理システムの導入に際しては、1989年から最初の3年間は競争入札(落札額160億円)が実施されたのだが・・・その後10年間は随意契約で、その契約金額が2,978億円で発注されていて、発注業者選定の基準が不透明なうえに、経費削減の努力がみられないとして批判を浴びたんだよ・・・」 中尾統括官は説明を続ける。 「それで国税庁は、2021年度までを目途に、運用コストの圧縮(3割削減)を目指すことをこの資料で明らかにしているんだ・・・」 中尾統括官は画面を見ながら説明する。 「ところで・・・この『随意契約』って・・・何でしたっけ?」 浅田調査官は、ばつが悪そうに頭をかきながら尋ねる。 「随意契約というのは・・・国や地方公共団体などが競争入札によらず任意で決定した相手と契約を締結することや締結した契約のことなのだが・・・国及び地方公共団体が行う契約は、入札によることが原則であることが、会計法29条の3第1項及び地方自治法234条2項で規定されている・・・」 中尾統括官は饒舌になる。 そして、手元にある分厚い六法全書を手に取る。 「なるほど・・・」 浅田調査官は六法全書を覗き込みながら頷く。 「・・・ところで、このKSKシステムって、申告書などの入力をOCR(光学文字読み取り装置)で処理し、各国税局・税務署と国税庁事務管理センターを結ぶことで、我々の仕事の効率に役立っているのは理解できるのですが・・・この情報を納税者に提供する・・・ということは考えていないのですか?」 浅田調査官が尋ねる。 「国税庁が集めた情報を・・・納税者に提供するだって?」 中尾統括官は怪訝そうな顔をする。 「なぜ・・・税務署や国税局が集めた貴重な情報を提供しなければならないんだ?・・・この情報をベースにして、類似業種の中から申告漏れの疑いのある納税者を割り出したり、納税者間の不明朗な資金の流れを解明するなど、税務情報を広域・多角的に分析・処理できるよう加工されたものなんだ。これを納税者に提供するなんて・・・どう考えても無理だろう・・・」 中尾統括官の声には、若干の怒りが含まれている。 「それはまぁ・・・そうなんですが・・・」 浅田調査官は口ごもる。 「・・・ただ、この情報は・・・納税者や税理士等にとっても利用価値があるので、国税庁のビッグデータをこれらの人たちに開示して、適正な申告納税に役立たせたら良いのではと・・・もちろん個人情報の問題もあるので、すべての情報は開示できないにせよ、開示しても課税上、特に問題のない、一定の制約された情報については、納税者等に提供したらと思うのです。」 そう言うと、浅田調査官は、ペンを執る。 中尾統括官は浅田調査官の描いている図を見ながら、頸を傾げる。 「しかし・・・これは無理なんじゃないか・・・」 中尾統括官はつぶやく。 「・・・例えば、推計課税などの場合、税務署は納税者と類似する同業の納税者を選定することは可能ですが、納税者としてはそのようなデータを得ることができないですし、選定された納税者の妥当性を確認することもできない・・・これって課税上、公平ではない、すなわち情報の平等化に反すると思うのです・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「ですから・・・納税者もKSKシステムを利用して、税務申告等に役立つ情報を取得できるようにしてあげたらよいと思います・・・法人税などでは、過大な役員給与とか過大な役員退職金が問題になりますが、納税者としては、その確認のためにKSKシステムを利用できれば、税務上の争いも少なくなる・・・法人税法施行令70条では、『その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等に照らし・・・』と書かれていますが、そのような情報は現実問題として、納税者は簡単に得ることができない・・・」 今度は、浅田調査官の声が高くなる。 中尾統括官は黙って聞いている。 (つづく)

#No. 325(掲載号)
#八ッ尾 順一
2019/07/04

《速報解説》 会計士協会、「2018年度 品質管理委員会年次報告書」を公表~関係会社株式の評価等に関し改善勧告~

《速報解説》 会計士協会、「2018年度 品質管理委員会年次報告書」を公表 ~関係会社株式の評価等に関し改善勧告~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2019年6月28日、日本公認会計士協会は、「2018年度 品質管理委員会年次報告書」及び「2018年度 品質管理委員会活動に関する勧告書」を公表した。 また、同日、「2018年度 品質管理レビュー事例解説集」も公表している。 年次報告書は、監査法人又は公認会計士が行う監査の品質管理の状況をレビューする制度(品質管理レビュー制度)に基づくものであり、基本的な対象は、監査法人又は公認会計士である。 しかしながら、年次報告書に記載されている内容については、一般の事業会社における会計処理等にも関連するものがあるので、実務において参考になるものを紹介する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 会計処理等に関連する改善勧告 多くの監査事務所が改善勧告を受けた「4.会計上の見積りの監査」では、次の事項を含めて、幅広く改善勧告事項が指摘されている(年次報告書53ページ)。 会計上の見積りの監査に関して、次の改善勧告事項が多く見受けられたとのことである(年次報告書53ページ)。 次の事項に関する改善勧告事項が述べられている(年次報告書23ページ、65ページ、67ページ)。 より具体的な内容は、「2018年度 品質管理レビュー事例解説集」をお読みいただきたい。   Ⅲ IFIARの調査結果 監査監督機関国際フォーラム(以下「IFIAR」という)は、世界各国・地域の監査監督機関から構成された組織である。 IFIARによる「上場企業の監査業務における品質管理の項目別の指摘数」では、次のものがあげられている(年次報告書85ページ)。 公正価値測定を含む会計上の見積りの監査については、整合性のない監査証拠の検討を含む経営者の仮定の合理性を十分に評価していないという指摘がほぼ半数を占めているとのことである(年次報告書85ページ)。 (了)

#No. 324(掲載号)
#阿部 光成
2019/07/02

《速報解説》 国税庁、令和元年分の路線価を公表~地方の回復傾向もあり全国平均路線価は4年連続上昇~

《速報解説》 国税庁、令和元年分の路線価を公表 ~地方の回復傾向もあり全国平均路線価は4年連続上昇~   Profession Journal編集部   7月1日、国税庁は相続税や贈与税の算定基準となる令和元年分の路線価を公表した。 令和元年分の全国平均路線価は対前年比1.3%増となり、4年連続の上昇を記録した。ここ4年において1.3%の上昇率は最も高く、また、都道府県別の路線価上昇も最も多い19都道府県と増加している。 上昇の主な背景としては、例年続く訪日外国客(インバウンド)の増加や雇用・所得環境の改善、住宅取得支援施策等による住宅需要の下支えなどが関係しているとみられる。 〇堅調な上昇を続ける首都圏 首都圏では、東京で4.9%、千葉で1.0%、神奈川で0.9%、埼玉で1.0%のプラスとなっており、堅調な上昇を続けている。 2020年の東京五輪・パラリンピックに向けてのインフラ整備や再開発に加え、働き方改革に対応したオフィス環境改善のための拡張・移転やベッドタウンとしての再開発による相次ぐマンション建設等が背景にあると思われる。 なお、東京都中央区銀座5丁目の「鳩居堂」前は、今年で34年連続の地点別の最高路線価となり、1平方メートルあたりの価格は4,560万円だった。これにより3年連続の最高価格を更新したが、昨年からの上昇率は2.9%と、近年の上昇率からするとゆるやかになっている。 〇地方は2極化傾向へ 沖縄県が8.3%のプラスで都道府県別の路線価上昇率トップとなっており、地方でも観光需要の高い地域は上昇傾向がみられる。 また、27県で路線価の下落が続くなか、そのうち22県については下落幅が昨年より縮小しており、地方においても地価は回復傾向にあるものの、交通利便性の高い地域、もしくは集客力のある観光地が中心であり、それ以外の地域では下落傾向にあるなど、地方の中においても2極化の様相を呈している。 高齢化が進む日本では、老後を見据え利便性の高い都市部に移り住む高齢者が増加しており、その需要に応じた再開発が進んでいることや、観光地化による地価の上昇がここ数年続いており、この傾向はまだ続くことが予想される。 このようなことから、以前は地価が落ち着いていたとしても数年の内に高騰していることも考えられるため、土地の評価額を減じる特例の適用の有無の検討が再度必要となる場合もあるので、最新の路線価については改めて確認しておきたい。 (了)

#No. 324(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2019/07/02
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