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空き家をめぐる法律問題 【事例22】「マンションが空き家の場合の法的責任と対応」-水漏れ事故の場合-

空き家をめぐる法律問題 【事例22】 「マンションが空き家の場合の法的責任と対応」 -水漏れ事故の場合-   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - Aはマンションの一室の区分所有者であるところ、天井から水漏れが発生し、住戸内が水で濡れ家財等にも被害が生じている。その原因は、マンション内の配管の老朽化が原因であることまでは判明したが、上階の住戸に居住者はおらず、生存しているのか死亡しているのかもわからない。 Aは管理組合に対応を相談しているが、このような場合、誰がAに対して損害賠償義務を負うか。   1 マンション空き家の問題 空き家の問題は、一戸建てに限らず、マンションのような集合住宅でも生じている。マンションの場合には、1つの建物に複数の権利者が存在するため、一戸建ての場合以上に問題が複雑化する可能性がある。 そこで今回は、マンションが空き家の場合に、水漏れ事故が生じた事例の法律関係を検討することとしたい。なお、ここでいう「マンション」は、区分所有権の対象となるものであり、いわゆる単一オーナーが賃貸に供しているものではない。   2 専有部分と共用部分とを区別することの意味 住戸の天井から水漏れが生じ、それが上階の住戸の配管の老朽化が原因(保存に瑕疵)と特定でき、それが専有部分に属する場合には、上階の住戸の区分所有者が占有者として損害賠償責任(民法第717条)を負うことになる。これに対して、当該配管が共用部分である場合には、管理組合が共用部分の占有者となることから、管理組合が賠償責任を負う。 この点に関し、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という)第9条は、建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害が生じている場合に、共用部分の設置又は保存の瑕疵と推定する旨規定している。そのため、階下の住戸の区分所有者が、上階の住戸の区分所有者が不在等で現実的に連絡を取れないような場合には、当該推定規定を利用して、管理組合に対して損害賠償請求を行うことになろう。管理組合としては、損害賠償義務を免れるためには、当該水漏れの原因を調査し、配管が専有部分であることを立証する必要がある。 このように、「専有部分」と「共用部分」の区別は、誰が損害賠償責任を負うかの問題を考える上で重要な意味を持つ(後述するとおり、賠償責任を負う者と実際に費用を負担する者は必ずしも一致しないこともある)。しかしながら、区分所有法第2条第4項によれば、共用部分とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第4条第2項の規定により共用部分とされた附属の建物をいうと規定されているにとどまり、その内容は一義的に明らかではない。そのため、実際の建物の構造等を見て、個別具体的に判断しなければならないという問題がある。 本件のような配管は、建物に附属し、効用上その建物と不可分の関係にあるため、区分所有法第4条第2項に規定する「建物の附属物」に該当すると解されるところ、従来の一般的な考え方によれば、主配管(本管)については共用部分であり、本管から分岐して各住戸へつながる枝管については専有部分と理解されていた。実際に、国土交通省のマンション標準管理規約(単棟型)の共用部分の例示についても、「雑排水管及び汚水管については、配管継手及び立て管」を共用部分としており(別表第2)、枝管は専有部分であることを前提としている。 もっとも、近時の裁判例の中には、上記の一般的な考え方と異なり、各住戸を区分する構造躯体のコンクリートの下に配管が設置される、いわゆる床スラブ下配管(床スラブ貫通配管)が共用部分に該当すると判断したものがある(最判平成12年3月21日判タ1038-179参照)。当該裁判例は、当該床スラブ下配管が特定の住戸からの汚水を流すためのものであり、配管を修理するためには、当該住戸からではなく、階下の住戸の天井裏から修理をしなければならない点を重視したものである。 建築年数の浅いマンションは床スラブ上配管となっており、枝管も専有部分と解される可能性が高いが、築年数の古いマンションの中には床スラブ下配管となっているものもあるため、枝管から漏水した場合でも、管理組合が損害賠償義務を負う可能性があることに留意が必要である。   3 修繕費用の負担者について 上記2のとおり、マンションで漏水等の問題が生じた場合、共用部分からの漏水であれば管理組合が修繕費用を負担し、専有部分であれば区分所有者が負担することになる。しかしながら、その区分は必ずしも明らかではないため、管理組合として修繕費用を負担できるかどうかの判断も容易ではない。他方で、管理組合としては、他の区分所有者の専有部分の損傷等に起因して被害に遭っている区分所有者がいる場合には、修繕に向けて活動をすることも求められる。 そこで、配管のような、共用部分と構造上一体として供されている設備については、管理規約で、管理組合が第一次的に当該設備の修繕等を行えるように定めておくこともできる(なお、管理規約に定めがないような場合には、管理組合総会で決議をすることも可能である)。このような条項が管理規約にある場合には、管理組合が第一次的に専有部分の修繕を行うことが可能となる。 問題は、当該住戸の区分所有者が不在である場合や、区分所有者の相続人が相続放棄をしているような場合に、修繕費用を回収することができるかという点である。この点については、管理組合が利害関係人として不在者財産管理人や相続財産管理人の選任申立てを行い、不在者の財産や相続財産の換価代金から回収を図る方法もあるが、選任申立ての際に予納金として、相当の費用(30万円~100万円程度)を負担する必要があるため、現実的には保険等で費用を填補していくことになると思われる。   4 本件の場合 Aの住戸への水漏れの原因が配管の老朽化にあることは特定可能であることから、Aは、管理組合に対して、損害賠償請求をすることが考えられる。 一方で、管理組合が水漏れの原因を調査した結果、床スラブ下配管となっている枝管の老朽化であることが判明したような場合には、Aは、連絡の取れない上階の区分所有者に対して損害賠償請求をせざるを得ないことになる。 このような場合に、当該マンションの管理規約に管理組合が修繕できる旨の条項等があれば、管理組合に修繕を依頼し、そのような対応が難しい場合には自らの保険等を利用することが現実的な対応になるものと思われる。 (了)

#No. 359(掲載号)
#羽柴 研吾
2020/03/05

2020年株主総会における実務対応のポイント-新型コロナウイルスへの対応を中心に-

2020年株主総会における 実務対応のポイント -新型コロナウイルスへの対応を中心に-   三井住友信託銀行 証券代行コンサルティング部 部長(法務管掌) 斎藤 誠   いよいよ株主総会準備のシーズンとなった。改正会社法が昨年12月に成立したものの、未施行のため、今年の総会への影響はなく、総会実務に影響するような目立った法改正もない。株主総会準備において今年は平穏なものとなるはずであったが、新型コロナウイルス(COVID-19)感染症への対応が喫緊の課題となっている。このため、まずは株主総会での新型コロナウイルス対策から説明する。 なお、文中意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめお断り申し上げる。   1 新型コロナウイルス対応 (1) 会場の準備関係 本格的に新型コロナウイルス対応の株主総会が実施されたのは、2月に開催された株主総会からである。総会で実施された対策をまとめてみると、会場準備では、マスク、消毒薬の準備がある。株主にはマスクの着用と消毒薬での消毒をお願いする事例が多い。受付スタッフもマスクを着用して対応することが考えられる。 入場前に株主の体温を測定することも考えられなくもないが、事前に体調には十分注意して来場することを注意喚起し、株主からの申し出又はスタッフから見て体調が悪そうな株主を見かけた場合には体温測定をお願いするなど、お願いベースでの対応にとどまっている。当日の受付にはマスクの着用と消毒のお願いについて表示し、スタッフからも声掛けを行うことが考えられる。 株主控室等で株主へ給茶機でのお茶の提供をしている場合には、ペットボトル又はパックのお茶等への切替えや、そもそも控室自体を廃止してしまうことも考えられる。また、軽食の提供や株主への会社説明などを行っている総会後の懇親会なども中止することが考えられる。 (2) 当日の運営関係 感染リスクを低減させるよう短時間での総会運営を行うため、株主には円滑な議事進行についての協力依頼を行うことになる。総会の時間全体で大きなウェイトを占めるのは事業報告、計算書類の報告と議案の説明であるから、これらの報告を簡素化することが効果的である。 もちろん株主の質問を制限することは難しいが、株主に円滑な議事進行についての協力をお願いすることになる。総会の時間の短縮には、一括審議方式の採用も効果的である。株主の質問に際してハンドマイクを使用している場合には、スタンドマイクを設置して株主が直接マイクに触れるのを防ぐことが考えられる。 なお、会場の設営に際して株主席の配置に余裕を持たせることも考えられるが、それにも限界があるので、従来より規模を縮小して総会を実施することとし、株主へは事前に協力を依頼しておくことが現実的であろう。 (3) 株主への事前の案内 株主へは来場に際して体調管理に配慮してもらうこと、少しでも体調に不安がある場合には来場を見合わせることなどを依頼する。また議決権行使書の返送やインターネットによる議決権行使での投票などの依頼が考えられる。株主への事前の案内は、狭義の招集通知の欄外余白等に記載することになろう。 (4) 有価証券報告書の提出、決算発表等の対応 新型コロナウイルスの影響で中国子会社への監査業務が継続できないなど、やむを得ない理由により期限までに有価証券報告書を提出できない場合への猶予措置について、金融庁より「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」が公表されている。 新型コロナウイルス感染症の影響により決算手続き等に遅延が生じた場合の対応については、東証から「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取扱い」が公表されている。 いずれも所定の手続きからの柔軟な対応を認めるものであり、決算等への影響については、事前にこれら関係各所と十分に連携して対応することが必要である。 なお、定時株主総会自体は基準日から3ヶ月以内に開催することが予定されており、新型コロナウイルスの影響で、基準日から3ヶ月以内の開催ができない場合には、再度基準日を設定して開催することになる。定時株主総会の開催日と基準日との関係については、法務省より「定時株主総会の開催について」が公表されているので、こちらも参照されたい。   2 招集通知関連 招集通知作成の工夫としては、「任意の記載事項」への対応がポイントである。例えば、受付開始時間の記載は一般的となりつつあり、総会の直前に集中しがちな来場者を分散する効果もあると思われ、株主にとっても来場時間の目安となる親切な記載である。 また、株主の関心の高いお土産に関しては、お土産の用意がない旨や、お土産を廃止した旨、1人1個であることなどの記載がある。特にお土産を廃止した場合には、株主が確実に認識できるように目立つ記載としている事例が多い。 なお、今年の対応として、前記の新型コロナウイルス関連の注意事項を記載する場合など、任意の記載事項が多数にわたる場合には、特に目立たせる必要のある事項については、色を付ける、下線を引く、太字にする等の工夫も必要である。   3 議案関係の記載 議案関係の記載では、「役員選任議案」がポイントである。特にここ数年は役員選任議案の冒頭に役員候補者の氏名のほか、新任・再任の別、地位や担当、在任年数や取締役会への出席状況などを一覧表形式で記載する事例が増加している。機関投資家の判断において取締役会における社外取締役の比率や、取締役会の多様性なども注目されており、理解しやすい情報提供としても一覧表形式を採用する会社が増加しつつある。 社外役員の独立性に関して機関投資家の議決権行使基準も厳格化しており、十分な情報提供のため独立役員に指定する旨や会社が定めた独立性基準を議案に掲載する事例も多くみられる。さらに踏み込んで選任基準や方針、指名委員会等の関与の状況について記載する事例もあり、役員選任議案の記載内容は年々充実している。また、役員候補者の顔写真の掲載なども株主にとって分かりやすい情報提供である。 いずれにしても役員選任議案については法的に適切な情報開示はもちろんのこと、機関投資家の判断においても十分な情報開示を行う必要があることから、法的な側面だけではなく、機関投資家目線でも必要十分な情報開示となっているかに留意することが必要である。そのためにも機関投資家の議決権行使基準の最新動向を踏まえた上で、議案を作成していくことが望ましい。   4 改正開示府令への対応 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正(以下、「改正開示府令」という)により、2019年3月期の有価証券報告書から「建設的な対話の促進に向けたガバナンス情報」が拡充され、主に業績連動報酬に関する開示の充実化や政策保有株式の開示対象が拡大された。 いずれも機関投資家の関心の高い事項であり、記載内容については本年も見直しをしておくことが考えられる。また、本年3月期の有価証券報告書では、さらにリスク情報の開示など追加で開示が必要となる項目もあり、引き続きその対応には留意することが必要である。   5 おわりに 本年の総会対応は、冒頭での新型コロナウイルス対応がクローズアップされているが、状況は日々変化しているので常に情報収集を行い、適切に対応することが望まれる。 当日の運営は、基本的には簡素化し議事進行もコンパクトにする形が多くなると思われるが、機関投資家の議決権行使は引き続き厳格化しており、議案の可決に向けた活動についても注意を払う必要がある。 (了)

#No. 359(掲載号)
#斎藤 誠
2020/03/05

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第30話】「海外不動産の節税封じ改正」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第30話】 「海外不動産の節税封じ改正」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「こんな改正は・・・当然行われるべきだ。」 中尾統括官は、「令和2年度税制改正大綱」を見ながらうなずく。 「不動産所得をマイナスにして、他の所得と損益通算をするというスキームは、昔からいろいろと行われていたからな・・・」 中尾統括官はつぶやく。 「航空機リース事件(名古屋高裁平成17.10.27判決)も・・・不動産所得をマイナスにして他の所得と損益通算をしたものだが・・・これは課税庁が裁判で負けているものの、平成17年度税制改正(措法41の4の2)で、今はもうこのスキームは使えなくなっている・・・」 そこへ浅田調査官が、中尾統括官の傍らにやって来る。 「統括官は、まだ施行されていない令和2年度税制改正をもう勉強しているのですか・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の開いている冊子を覗きながら言う。 「この改正に関する記事は、以前・・・どこかで見たことがありますね・・・」 浅田調査官は、大綱をもう一度、首を伸ばして確認する。 「そうだな。この改正は、もともと会計検査院の平成27年度決算報告書で指摘されたことがきっかけで行われたものだ。」 そう言うと、中尾統括官は、会計検査院の報告書のコピーを浅田調査官に見せる。 「大綱では『国外中古建物』という表現になっているけれども・・・土地よりも耐用年数を過ぎた中古建物の方が価額が高いという・・・アメリカの実情を念頭に置いて改正されたものだろうな。」 中尾統括官が説明する。 「ところで、この国外中古建物とは・・・大綱によると、次の3つの方法によって算定しているものとなってますが・・・要は、簡便法や見積法による減価償却を採用することによって、大きな損失を発生させることができるということなのですね。」 浅田調査官は、大綱に載っている①から③の3つの方法を指さしながら、中尾統括官の顔を見る。 「中古資産を取得して事業の用に供した場合には、その資産の耐用年数は、法定耐用年数ではなく、その事業の用に供した時以後の使用可能期間として見積もられる年数によることができる。これは減価償却資産の耐用年数に関する省令で規定されているが、この省令3条では、その方法を次のように規定している。」 「・・・ということは、この省令で規定している方法を採用して減価償却すると、国外不動産所得の損失の金額のうち、その償却費に相当する部分の金額は、認めないということですね。」 浅田調査官の質問に、中尾統括官は黙ってうなずく。 「大綱では、『国外不動産所得の損失の金額』について・・・不動産所得の金額の計算上生じた国外中古建物の貸付けによる損失の金額をいう・・・となっていますから、事業として国外の中古建物を使用する場合・・・すなわち、事業所得の金額の計算で中古建物に簡便法を採用しても、この規定の適用は受けないということですか?」 浅田調査官は尋ねる。 「そりゃあそうだろう・・・この規定は、不動産所得に係る損益通算等の特例なのだから、事業所得では適用外となる。」 中尾統括官は答える。 「だいたい、今まで行われてきた所得税の租税回避や節税の類いのものは、不動産所得でマイナスを発生させて、そのマイナスを他の所得(給与所得、事業所得等)と損益通算するという手法が圧倒的に多い。そして、マイナスを創り出すために、減価償却を利用するといったパターンだな。」 中尾統括官は、腕を組みながら、机の上にある大綱を見る。 「今回の防止規程は、簡便法等で計算した減価償却費を不動産所得の損失の範囲内で認めないということですから・・・」 そうつぶやきながら、浅田調査官は、ペンを取る。 「君はなかなか・・・図が上手いな。」 中尾統括官は、図を見ながら微笑む。 「・・・もし、この減価償却費が損失よりも小さければ、その不動産所得の減価償却費を除いた損失は認められるのですよね。」 浅田調査官は確認する。 その言葉を聞くと、今度は中尾統括官がペンを取って、浅田調査官の描いた図の一部を訂正する。 「なるほど・・・中尾統括官も・・・なかなか上手く図を描きますね。」 中尾統括官は照れくさそうな表情を浮かべる。 「ところで、この国外中古建物を譲渡したときには、譲渡所得の金額はどうなるのですか?」 浅田調査官が尋ねる。 「この場合、このように規定している」 と言って、中尾統括官は浅田調査官に大綱を見せる。 「・・・ということは、この防止規程は、結局、課税の繰延べをしているということですね・・・もっとも、国外中古建物の譲渡は、航空機リース事件と同様、取得後5年を経過してから行い、2分の1の課税を狙っているのですが、償却費を取得費に加算することによって長期譲渡所得の金額は少なくなり、その結果、節税効果は小さくなる・・・」 浅田調査官の説明に、中尾統括官は大きくうなずく。 (つづく)

#No. 359(掲載号)
#八ッ尾 順一
2020/03/05

《速報解説》企業情報開示の充実の要請を受け、会計士協会が審理通達を公表~開示書類におけるその他の記載内容に関する手続実施上の留意事項を記載~

《速報解説》 企業情報開示の充実の要請を受け、会計士協会が審理通達を公表 ~開示書類におけるその他の記載内容に関する手続実施上の留意事項を記載~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2020年2月20日付(ホームページ掲載日は2020年2月28日)で、日本公認会計士協会は、「開示書類におけるその他の記載内容に関する手続実施上の留意事項」(業務本部 2020年審理通達第2号)を公表した。 これは、「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(平成31年1月31日、内閣府令第3号)により、有価証券報告書の記述情報についてより充実した開示が求められることから、監査基準委員会報告書720「監査した財務諸表が含まれる開示書類におけるその他の記載内容に関連する監査人の責任」に関する留意事項をまとめたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 内閣府令第3号 内閣府令第3号により、役員報酬、政策保有株式等のガバナンス情報の拡充、経営戦略、経営者による経営成績等の分析(MD&A)、リスク情報等の記述情報の充実及び監査関係の情報の拡充が行われた。 2 監査基準委員会報告書720 その他の記載内容は監査意見の対象ではなく、監査人は、その他の記載内容が適切に記載されているかどうかを判断する特定の責任を有していない。 しかしながら、監査した財務諸表とその他の記載内容との重要な相違によって、監査した財務諸表の信頼性が損なわれることがあることから、監査人は、監査した財務諸表との重要な相違を識別することを目的に、その他の記載内容を通読することが求められている(監査基準委員会報告書720「監査した財務諸表が含まれる開示書類におけるその他の記載内容に関連する監査人の責任」)。 そして、監査人は、監査報告書日の前にその他の記載内容を入手できるように、その他の記載内容を入手する時期について経営者と適切に調整しなければならない(監査人に対する通読の要求は、監査人がその他の記載内容を監査報告書日の前に入手したか、後に入手したかにかかわらず同じ)。 3 留意事項 審理通達は、次の留意事項について述べている。 (了)

#No. 358(掲載号)
#阿部 光成
2020/02/28

《速報解説》 会計士協会、「前任監査人の監査調書の閲覧に関する留意事項」を記載した審理通達を公表~非効率的な監査業務の引継ぎに対する企業からの指摘に対応~

《速報解説》 会計士協会、「前任監査人の監査調書の閲覧に関する留意事項」を記載した審理通達を公表 ~非効率的な監査業務の引継ぎに対する企業からの指摘に対応~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2020年2月20日付(ホームページ掲載日は2020年2月28日)で、日本公認会計士協会は、「前任監査人の監査調書の閲覧に関する留意事項」(業務本部 2020年審理通達第1号)を公表した。 これは、2019年10月25日に金融庁が公表した「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第二次報告)」において、監査人交代に際しての監査調書の閲覧に関して、引継ぎが効率的ではないとの企業からの指摘を受けたことに対応するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 企業からの指摘 「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第二次報告)」(2019年10月25日、金融庁)では、監査業務の引継ぎにおける監査調書の閲覧について、閲覧する側が手作業で書き写すことは認めるものの、複写機でのコピーや電子データのコピーは原則として認められないという運用が見られ、こうした運用について、企業から「未だにこのような非効率な方法が採られていることには疑問がある」と指摘されていた(第二次報告19ページ)。 2 監査調書の閲覧に関する留意事項 次の監査基準委員会報告書に関連する規定がある。 審理通達は、監査調書の閲覧の目的を示し、それを十分理解した上で、少なくとも、大量の監査調書を書き写すといった引継ぎとならないよう、引継ぎの方法(引継ぎ期間や監査調書の閲覧機会の十分な確保を含む)について、前任監査人と後任監査人が十分に協議し、協力することが重要であることに改めて留意すると述べている。 (了)

#No. 358(掲載号)
#阿部 光成
2020/02/28

《速報解説》 「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」が意見募集を経て正式公表される~遠方株主の総会参加・出席の拡大が期待される一方、留意すべき点も~

《速報解説》 「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」が意見募集を経て正式公表される ~遠方株主の総会参加・出席の拡大が期待される一方、留意すべき点も~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2020年2月26日、経済産業省は、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を公表した。これにより、2019年12月26日から意見募集していた実施ガイド(案)が確定することになる。実施ガイド案の意見募集結果も公表されている。 これは、ハイブリッド型バーチャル株主総会を実施する際の法的・実務的論点、及び具体的取扱いを明らかにするためのものである。 ハイブリッド型バーチャル株主総会とは、取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所で株主総会(リアル株主総会)を開催する一方で、リアル株主総会の場に在所しない株主がインターネット等の手段を用いて遠隔地から参加/出席することができる株主総会のことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 実施ガイドは、上場会社をはじめとする、株主が地理的広範に分散している株主総会を念頭に、株主総会へのIT活用の第一歩として、ハイブリッド型バーチャル株主総会における法的・実務的論点について述べている。 ハイブリッド型バーチャル株主総会には、①ハイブリッド参加型バーチャル株主総会と②ハイブリッド出席型バーチャル株主総会がある(2ページ)。 下記におけるリアル株主総会とは、基本的に、取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所において開催される株主総会のことである(2ページ)。 実施ガイドは、会社の株主総会の在り方として、必ずしもハイブリッド型バーチャル株主総会が望ましいという方向性を提示するものではなく、会社が自社の株主総会の在り方を検討するときの追加的な選択肢を提供することを目的とするものである(5ページ)。 1 ハイブリッド参加型バーチャル株主総会 ハイブリッド参加型バーチャル株主総会とは、リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が、株主総会への法律上の「出席」を伴わずに、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴することができる株主総会をいう(2ページ)。 遠方株主の株主総会参加・傍聴機会の拡大などのメリットが期待される一方、円滑なインターネット等の手段による参加に向けた環境整備の必要性などに留意が必要である(7ページ)。 議決権行使、参加方法、コメント等の受付と対応について記載されている。 2 ハイブリッド出席型バーチャル株主総会 ハイブリッド出席型バーチャル株主総会とは、リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をすることができる株主総会をいう(3ページ)。 遠方株主の出席機会の拡大などのメリットが期待される一方、質問の選別による議事の恣意的な運用につながる可能性などに留意が必要である(7ページ)。 前提となる環境整備、株主総会の運営に際しての法的・実務的論点(株主の本人確認、株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係、株主からの質問・動議の取扱いなど)について記載されている。 3 今後の取組について 株主総会プロセスを巡る近年の内外の制度整備や実務の積み重ねを踏まえ、さらなる対話のための環境整備等について検討を行い、検討の取りまとめは報告書として公表する予定である。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 358(掲載号)
#阿部 光成
2020/02/28

《速報解説》 新型コロナウイルス対策として確定申告の申告期限が4月16日(木)まで延長される

《速報解説》 新型コロナウイルス対策として 確定申告の申告期限が4月16日(木)まで延長される   Profession Journal編集部   新型コロナウイルスの国内感染者数が増加の一途をたどり、厚生労働省の専門家会議でもここ1~2週間の動向が国内で急速に感染が拡大するかどうかの瀬戸際としているなか、国税庁は今月17日から始まった令和元年分の確定申告について、令和2年4月16日(木)まで申告期限を延長することを公表した(公表日は2月27日(木))。 令和元年分の確定申告は、申告所得税(及び復興特別所得税)並びに贈与税の申告期限が3月16日(月)まで、個人事業者の消費税(及び地方消費税)の申告期限が3月31日(火)までとされていたが、ともに4月16日(木)まで延長されることになる。この措置に伴い、申告所得税及び個人の消費税の振替納税の振替日についても延長される。 また国税庁は下記の特設ページで感染症の感染拡大防止に関する情報を随時公表しているが、全国の確定申告相談会場には毎年多くの来場者があることから、国税庁は来場予定者に対し手洗い・マスクの持参(着用)などの感染予防を要請するとともに、確定申告会場に出向くことなく、自宅等からスマホやパソコンなどでインターネットにより申告できるe‐Taxの利用を呼びかけている(マイナンバーカードや税務署で発行されるID・パスワードが必要)。 確定申告の相談会場には高齢者が訪れることも多い。もしe‐Taxの利用が難しい場合は国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」で作成した申告書を印刷し、郵送等で提出することも可能なため、この機会に利用を検討してみてはいかがだろうか。 なお税理士としてはクライアントへの周知を徹底しつつ、提出を受ける資料については期限延長にかかわらず余裕をもって入手するのが良策といえよう。   (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 358(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2020/02/28

プロフェッションジャーナル No.358が公開されました!~今週のお薦め記事~

2020年2月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.358を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2020/02/27

山本守之の法人税“一刀両断” 【第68回】「社会保障費の増額と税の優遇」

山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第68回】 「社会保障費の増額と税の優遇」   税理士 山本 守之   1 平成と令和の予算比較 わが国の平成2年度と令和2年度の予算を比べてみましょう。平成2年度の予算では、特例国債から脱却できていますが、令和2年度の予算では社会保障関係費が増え、赤字国債になっています。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 財務省資料 上記の図表を見ると、社会保障費の増額を借金でまかなった形であることがよくわかります。 一方、令和2年度税制改正大綱では、大企業の内部留保を取り崩して投資した場合には税の優遇をするという党税調の方針が明らかです。   2 オープンイノベーションの促進 令和2年度税制改正で創設されるオープンイノベーション促進税制は、企業が設立後10年未満の非上場企業に対し1億円以上(中小企業の場合は1,000万円以上)を出資した場合、その株式取得額の25%を法人税の課税所得から差し引くことで、税の負担を軽くするというものです。ただし、海外のベンチャー企業への出資の場合は5億円以上が必要となります。 この税制は投資減税を行うことで、ベンチャー企業の成長を促進する狙いがあります。 これは、令和2年4月1日から令和4年3月31日までの間に、一定のベンチャー企業の株式を出資の払込みにより取得した場合に適用されますが、この場合の「一定のベンチャー企業の株式」とは、後述するオープンイノベーション性等の要件を満たすベンチャー企業に対する出資の払込みとして経済産業大臣が証明したものにより取得した株式をいいます。 また、この場合の「証明」とは、出資後に企業が一定の資料を経済産業省に提出し、出資した年及び5年間の特定期間内で経済産業大臣が証明したものです。 出資を行う事業会社とベンチャー企業の関係を示すと、次のようになります。 この出し手(事業会社)と受け手(ベンチャー企業)の条件とオープンイノベーション性の要件を示すと、次のようになります。 (出所) 財務省資料 上記税制の適用を受けた事業会社が、当該株式を譲渡した場合や配当の支払いを受けた場合等には、特別勘定のうち対応する部分を取り崩し、益金に算入します。ただし、特定期間(5年間)保有した株式については、この限りではありません。   3 5G(第5世代移動通信システム)導入促進税制 5G導入促進税制では、安全性・信頼性が確保された5G設備の導入を促す観点から、「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律」(国会で審議中)の規定に基づく、認定導入計画に従って導入される一定の5G設備に係る投資を行う企業に対して、税の優遇措置を行います。 価格競争力のある中国製の5Gの関連機器に対応するため、わが国は5Gの普及加速の必要があり、経済安全保障の視点から創設された税制です。 整備計画の前倒しをしたり、農地や商業施設などのローカル5Gを整備し、政府が認定した安全性の高い企業を対象に、令和2年度から2年間の限定措置として、投資にかかった金額の15%を法人税額から控除するか、設備額の30%を減価償却可能とします。 また、ローカル5Gの設備にかかる固定資産税を最初の3年間だけ半額とします。 携帯電話などに使われる5Gですが、通信速度は4Gの数十倍となります。5G導入により、車の自動運転や過疎地域の医療の充実など、様々なサービスが受けられるようになることが期待されます。 (出所) 財務省資料 (出所) 財務省資料 (了)

#No. 358(掲載号)
#山本 守之
2020/02/27

谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第30回】「租税法律主義と租税回避との相克と調和」-租税回避否認規定の類型-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第30回】 「租税法律主義と租税回避との相克と調和」 -租税回避否認規定の類型-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回は、租税回避否認の法的根拠について否認規定不要説と否認規定必要説を検討したが、今回は、否認規定の類型を整理した上で、否認規定に関するわが国の租税立法政策と一般的否認規定の意義及び問題を検討することにする。 租税回避の否認規定は、講学上、行為態様アプローチによる租税回避の定義(第21回Ⅱのほか第22回も参照)を前提にして、特定の「異常な」行為による租税回避に対象を限定してこれを否認する個別的否認規定(①)と、「異常な」行為を特定せず、そのときどきに問題になるであろう、何らかの「異常な」行為による租税回避を否認する一般的否認規定とに大別される(【70】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号。以下同じ)。後者は、さらに、個別分野別の一般的否認規定(②)とすべての分野を包括する一般的否認規定(③)とに区別される。 近時の比較法的研究においては、上記の①についてSAAR(specific anti-avoidance rule)、②についてTAAR(targeted anti-avoidance rule)、③についてGAAR(general anti-avoidance rule)という名称がそれぞれ使われることがある。   Ⅱ 租税回避否認規定に関するわが国の租税立法政策 わが国の租税回避否認規定の歴史は、第25回で「租税回避論の沿革(淵源)」について確認したように、大正12年における同族会社の行為計算否認規定の創設に遡るといってよかろう。勿論、「租税あるいは税法あるところ必ず租税回避あり。」といえる以上、明治維新後の近代税制をつぶさに検討すれば個別的否認規定を見出すことはおそらくできるであろうが、わが国の租税回避論は実定税法上の議論としては同族会社課税の分野における一般的否認規定の創設を契機とし、しかも同規定を中心に展開されてきたといってよいように思われる。 わが国の租税回避否認規定の歴史に関して次に注目すべきは、税制調査会『国税通則法の制定に関する答申』(税制調査会第二次答申・昭和36年7月)4頁における一般的否認規定導入に関する次の提案である。 この提案について、税制調査会『国税通則法の制定に関する答申の説明』(答申別冊)12-14頁は次のとおり説明を加えていた。この説明は、わが国において一般的否認規定(この説明では「租税回避行為に対する最後の担保的な規定」)の導入について「公式に」検討し公表されたおそらく唯一の公的資料であるから、少し長くなるが、その主要な部分を引用しておこう。 この答申の説明では、租税回避の否認を「実質課税」(第27回Ⅲ2参照)の意味で捉えているようにも思われるが、その当否それ自体の問題は措くとしても、そうであれば、「実質課税」をどのように実定税法上要件化するのか、また、租税回避行為として否認される取引行為と否認されない取引行為とをどのような要件によって区別するのか、例えば「事業目的の検定」をどのように要件化するのか等、「租税回避行為に対する最後の担保的な規定」としての一般的否認規定の導入には更に検討すべき問題があったように思われる。 ただ、一般的否認規定は、国税通則法の制定に当たっては、実質課税の原則に関する規定及び行為計算の否認に関する宣言規定とともに、「その制度化につき将来の検討に委ねることを適当とするもの」(大蔵省主税局「国税通則法の制定について」税法学132号(1961年)27頁、28頁)として導入が見送られたことから、それらの問題は、結局、顕在化することなく、その議論は終息した。その議論のいわば「総括」として、志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔平成31年改訂/16版〕』(大蔵財務協会・2019年)25-26頁は、それらの規定の考え方について「考え方として目新しいものでなく、むしろ、現行税法の底にあるとみられる以前からの考え方を抽象的に表現したものといえるであろう。その限りにおいて、この考え方は、それ自体として否定されるべきものとは思われない。」とした上で、次のとおり述べている(下線筆者)。 この「総括」は、一般的否認規定の意義と問題(次のⅢ参照)を的確に整理し、一般的否認規定の導入見送り後のわが国の租税立法政策のあり方を示している。加えて、租税回避の否認につき判例法が重要な役割を果たしてきたという諸外国の「実情」に関する認識も正鵠を射たものである。その認識は、清永敬次教授が成文法主義をとる大陸法系のドイツの租税基本法42条について連邦財政裁判所の判例の分析を重視してこられた研究(その集大成として同『租税回避の研究』(ミネルヴァ書房・1995年/復刻版2015年)第2編参照)における問題意識と共通するところがあると思われる。 そこで示された租税回避の否認に関する租税立法政策のあり方は、今日でも、「新しい租税回避の類型が生み出されるごとに、立法府は迅速にこれに対応し、個別の否認規定を設けて問題の解決を図るべきであろう。」(金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)139頁)といわれるように、基本的にはなお維持されているとみてよかろう。税制調査会「経済社会の構造変化を踏まえた令和時代の税制のあり方」(令和元年9月中期答申)16頁がBEPS後の「国際的な租税回避への対応」について次のとおり述べているのも、そのような意味に解される。 ただ、近時、組織再編成に係る行為計算の否認規定(平成13年度税制改正。法税132条の2、所税157条4項、相税64条4項、地税72条の43第4項)、連結法人に係る行為計算の否認規定(平成14年7月連結納税制度導入。法税132条の3)、恒久的施設帰属所得に係る行為計算の否認規定(平成26年度税制改正。法税147条の2、所税168条の2)といった個別分野別の一般的否認規定が増加してきており(【70】。ただし、前二者は、否認の対象とする租税回避の類型が税法上の課税減免規定の濫用による租税回避(第22回Ⅲ参照)に限定されていることに注意すべきである。この点に関連する検討については次回参照)、さらに、BEPSプロジェクトに伴い一般的否認規定(GAAR)の導入論が高まってきている(差し当たり、森信茂樹編『税制特集Ⅳ-BEPSと租税回避への対応』フィナンシャル・レビュー126号(特集・2016年)所収の各論文、同「一般的否認規定の検討を」本誌278号、同「中期答申に明記された租税回避スキームの義務的開示」本誌343号参照)。 そのような状況の下でもう一度「原点」に立ち返り、一般的否認規定の意義と問題を検討しておくことにも意味があると考えるところである。以下の検討は、拙稿「租税回避の法的意義・評価とその否認」税法学577号(2017年)245頁、265-268頁をベースにしたものである。   Ⅲ 一般的否認規定の意義と問題 既にみたように、租税回避の一般的否認規定は「抽象的表現そのものに意義がある」(前記Ⅱの最後の囲みの中の下線部)が、そのような規定は、法律学では、一般に、一般条項と呼ばれる。一般条項は、「その規定の内容が、一般的・抽象的に定められている」ような条項と定義されるが(遠藤浩ほか編『現代法辞典』(ぎょうせい・1982年)21頁[伊藤進執筆])、一般的否認規定は、一般条項の一種である。 一般条項については、「立法者が予見して列挙することが困難な多様な自体に対処し、具体的に妥当な法の適用を可能にする長所があるが、法適用者の権限を過大にして、法的安定性を害する危険もある。」(髙橋和之ほか編集代表『法律学小辞典〔第5版〕』(有斐閣・2016年)27頁)といわれるが、租税回避の一般的否認規定の導入について、積極論は一般条項のそのような「長所」に着目するのに対して、消極論はそのような「危険」に着目すると整理することができる。既にみた「抽象的な表現による規定の解釈問題を生じ、そのおもむくところ、税務当局者による拡大的、恣意的解釈にゆだねることとなっては、納税者の正当な権利利益を擁護する上に大きな不安が生ずることになるのではないかという懸念」(前記Ⅱの最後の囲みの中の下線部)も、そのような「危険」を表現したものであろう。 一般条項の「危険」を的確に指摘するものとして、ヘーデマン『一般条項への逃避-法及び国家に対する危険-』(Hedemann, Die Flucht in die Generalklauseln: Eine Gefahr für Recht und Staat, 1933)が有益である。同書は、一般条項の安易な利用(濫用)すなわち「一般条項への逃避」が、まず法的思考・立法者の活動及び裁判官の活動の「軟弱化」(第1の危険)をもたらし(66頁)、次に法的生活全体の「不安定性」(第2の危険)をもたらし(67頁)、最後に「恣意」(第3の危険)をもたらす(70頁)旨を述べているが、同書の印刷中の1933年3月24日に、ナチス独裁制の「基本法」ともいうべき「民族及び帝国の危難を除去するための法律」(いわゆる全権委任法ないし授権法)が成立したことによって、第3の「恣意」の危険が顕在化し現実のものとなったことは歴史的事実である。 一般条項と全権委任法・授権法とは、法適用者に対する授権の範囲・規模の違いはあれ、白紙委任規定である点では共通している。全権委任法がナチス独裁下で法適用者の「恣意」の危険を広範かつ大規模に顕在化・現実化させた事実に鑑みると、いわば「小規模の授権法」としての一般条項も、その問題性の「本質」は法適用者の「恣意」の危険にあると考えざるを得ない。もし立法者がそのような「危険」を承知の上である問題について敢えて一般条項を定めたのであれば、それはその問題に対する立法者の「お手上げ(敗北)宣言」というべきものであろう。 租税回避の一般的否認規定も、一般条項である以上、多かれ少なかれ、そのような本質的危険を免れることはできないが、その「最も純粋な」形態は、岡村忠生教授が理論的観点から提示される「いかなる論者が想定する租税回避をも包含できる一般的否認規定」(同「一般的租税回避否認規定について-否認理論の観点から」ジュリスト1496号(2016年)44頁)に見出すことができよう。その規定は次のとおりである。 岡村教授は、この規定を提示した後、次のとおり述べておられる(同・前掲論文44頁。下線筆者)。 岡村教授の以上の見解は、一方で、一般的否認規定について「小規模の授権法」としての「本質」を的確に捉えるものであるが、他方で、同規定の適用者の「恣意」の危険を容認するおそれのあるものでもある。その問題性の甚大さは、岡村教授が「租税法律主義や現在の権力分立を変更する可能性」を示唆されているところからも、明らかであろう。岡村教授が否認理論の観点から提示された一般的否認規定は、まさに税務署長に対する白紙委任規定というべきものである以上、政令委任についてさえ個別的・具体的委任を要請する課税要件法定主義を租税法律主義が放棄しない限り、決して許容されるものではなかろう。   Ⅳ おわりに 以上で、租税回避の否認について否認規定の類型を整理し、そのうち一般的否認規定の意義と問題を整理した。 現在説かれている一般的否認規定導入論をみると、既存の個別分野別の一般的否認規定について分野の限定を解除することを念頭に置いたものが多いように思われる(例えば、鈴木久志「租税回避行為の否認についての一考察-我が国の租税法へ一般的租税回避否認規定を導入することの必要性を中心に-」税務大学校論叢94号(2018年)1頁、特に94頁以下参照)。確かに、そのような一般的否認規定であれば、先にみた岡村教授の提示される一般的否認規定と比べて、一般条項に内在する危険、特に「恣意」の危険は少ないであろうが、しかし、既に個別的否認規定のほか個別分野別の一般的否認規定が整備されてきたわが国の現状からして、租税法律主義及びその前提となる権力分立制の下では、そのような一般的否認規定を導入する必要性なり立法事実の有無が厳しく問われるべきであろう。 むしろ、今日においてなすべきことは、既に導入された個別分野別の一般的否認規定に関する学説の深化及び判例の積重ねを通じてその「具体的な相貌」(志場ほか共編・前掲書26頁)を明らかにしていくことであるように思われる。次回は、このような観点から、個別的否認規定と個別分野別の一般的否認規定との関係について検討することにする。 なお、最後に、一般的否認規定の導入論議について手続法的観点から付言しておくと、タックス・コンプライアンスの確保に向けたOECDの取組みの背後にあるとされる「税務行政モデルの転換」は、次のとおり、「命令・支配モデル」から「命令・支配モデルと協力モデルの使い分け」への転換として理解されているが(吉村政穂「租税手続法の一環としての一般的否認規定?-国税通則法制定に関する答申をめぐる議論を振り返る」日税研論集71号(2017年)35頁、49-50頁)、その転換が実現されるならば、一般的否認規定の導入に関する今後の検討にも一定の影響を与えることになるかもしれない。 ここでいう「命令・支配モデルと協力モデルの使い分け」は、一般的否認規定についていえば、税制調査会・前掲中期答申23頁でも検討の重要性が指摘された「BEPSプロジェクトでベストプラクティスとして取り上げられた義務的開示制度(MDR:Mandatory Disclosure Rules)」との「相互補完関係」(税制調査会・第6回国際課税ディスカッショングループ(2015年10月23日)資料・BEPSプロジェクトについて(詳細)3/4「行動12 義務的開示制度」の「報告書の概要」)を意味するものといえよう。 一般に、補完すべき「欠陥」には「不足」の欠陥と「過剰」の欠陥があると考えられるが、義務的開示制度と一般的否認規定との「相互補完関係」において補完すべき「欠陥」として想定されているのは、租税回避による課税「不足」の欠陥であろう。ただ、「小規模の授権法」としての一般的否認規定は税務行政に「命令・支配モデル」による執行を求め、ひいては「恣意」の危険を惹起させるおそれがある以上、同規定による租税回避の否認に伴うそのような「過剰」の欠陥については、これを補完(規制)する実体法及び手続法上の制度的手当て(裁量統制措置)が別途必要となると考えられる。そのような制度的手当てなくしては、「命令・支配モデルと協力モデルの使い分け」への「税務行政モデルの転換」は適正には実現され得ず、そのため、一般的否認規定の導入の障壁も依然として残されたままになるであろう。 (了)

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2020/02/27
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