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国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第18回】「非居住外国人の相続税の納税地と申告期限」

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第18回】 「非居住外国人の相続税の納税地と申告期限」   税理士 菅野 真美   - 質 問 - A(オーストラリア国籍)は、平成30年6月28日にシドニーで亡くなりました。Aは、以前は横浜市に住んでいましたが、平成28年にオーストラリアに帰国しました。Aの財産には国内財産も国外財産もあります。Aの配偶者は既に他界していますが、子供はB、C、Dの3人がおり、3人とも平成30年6月28日にAの死亡を知りました。 B(オーストラリア国籍)は以前から千葉市に住んでいます。C(オーストラリア国籍)は以前からシンガポールに住んでいますが、相続税の納税管理人の届出を提出し、納税地として仙台市を指定しています。D(オーストラリア国籍)は名古屋市に住んでいましたが、平成30年9月6日に、納税管理人の届出をせずにオーストラリアに帰国し、それ以降はシドニーに住んでいます。 このAの相続に係る相続税の納税地、すなわち相続税の申告書の提出先は、Aが以前住んでいた横浜市にあるとして、平成31年4月28日までに申告しなければならないのでしょうか。   ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷相続税法上の納税地 納税地とは、納税者が申告書を提出し、税金を納付する相手先の税務署のある場所を示している。相続税の申告書を提出する際、通常は、被相続人の住所地の所轄税務署長に提出するが、これは例外の規定である(相法附3)。原則は、相続時に相続人等が日本に住所を有していた場合は、その者の住所地(国内に住所を有しないこととなった場合は居所地)が納税地となる(相法62①)。 もし、相続時に相続人等が日本に住所を有していない場合は、納税地を定めて、納税地の所轄税務署長に申告しなければならないし、もし、申告がないときは、国税庁長官がその納税地を指定して通知することになる(相法62②)。   ▷本ケースに当てはめた場合の納税地 本ケースにおいては、被相続人は、相続時にシドニーに在住していることから、被相続人の住所を相続税の納税地とする例外規定は当てはまらない。そこで、各相続人の納税地を考えていくことになる。 Bについては、Aの相続時の住所が千葉市になるので、千葉市が納税地となる。 Cについては、Aの相続時の住所がシンガポールであることから、国内に住所を有していない。しかしCは、納税地として仙台市を指定していることから、仙台市が納税地となる。 Dについては、Aの相続時の住所が名古屋市となることから、納税地は名古屋市となる。   ▷申告期限 それでは次に、相続税の申告書の提出期限であるが、これは、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内となる。ただし、 相続人等が納税管理人の届出をしないで住所及び居所を有しないこととなる場合は、住所及び居所を有しないこととなる日までとなる(相法27①)。   ▷本ケースに当てはめた場合の申告期限 本ケースにおいて、Bは、Aの相続開始時から引き続き千葉に住んでいるため、申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内であることから、平成31年4月28日となる。 Cは、Aの相続開始時から引き続きシンガポールに住んでいる。しかし、納税管理人の届出をして納税地として仙台市を指定していることから、B同様に、申告期限は平成31年4月28日となる。 Dについては、相続開始時は名古屋市に住んでいたが、平成30年9月6日に出国しており、かつ、相続税について納税管理人の届出を出国時までに提出していない。したがって、例外の適用となり、申告期限は出国日の平成30年9月6日となる。仮にDが出国日までに納税管理人の届出を提出している場合は、申告期限は原則に戻り、平成31年4月28日となる。   ▷Annex:納税管理人の届出を提出せずに出国した場合の所得税と贈与税の申告期限 次に、暦年単位課税である所得税と贈与税について、出国した場合の申告期限を検討する。 例えば、事業所得のみが継続して生じているXが、平成31年2月3日に、納税管理人の届出を提出しないで出国した場合は、平成31年2月3日までに、平成30年1月1日~平成30年12月31日までの所得の確定申告と、平成31年1月1日から2月3日までの所得に係る確定申告をしなければならない(所法126、127)。 それでは、Xが平成30年6月にYから300万円の現金の贈与を受け、平成31年1月10日にZから200万円の現金の贈与を受け、平成31年2月3日に出国したとする。 この場合、平成30年分の300万円の贈与に係る贈与税については平成31年2月3日が贈与税の申告期限となり、平成31年1月の200万円の贈与に係る贈与税については平成32年3月15日が贈与税の申告期限となる。 相続税法28条では、贈与の年の翌年の1月1日から3月15日までに納税管理人の届出をしないで住所及び居所を有しなくなる時は、有しないこととなる日までに贈与税の申告書を提出しなければならない旨が定められているが、贈与年の中途において出国した場合の取扱いについては定められていないことから、原則通りの申告期限になると考えられる。 日本に住所を有しなくなった者から翌年贈与税を徴収することは非常に難しいにもかかわらず、このように所得税と異なる申告期限が定められている理由の1つには、所得税と異なり、贈与税については、受贈者から税額が徴収できなくとも、贈与者からも贈与税の全部又は一部を徴収することが可能だからではないかと推察される(相法34④)。   (了)

#No. 274(掲載号)
#菅野 真美
2018/06/28

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第4回】「運転資本の分析(その2)」-正常運転資本-

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第4回】 「運転資本の分析(その2)」 -正常運転資本-   公認会計士 石田 晃一   ←(前回) | (次回)→   ▷M&Aで引き継ぐべき運転資本の検討 M&Aで企業を買収する場合、買収側は、「運転資本」に含まれる「正常な部分」のみを買収によって引き継ぐことが多い。運転資本のうち、正常な部分を引き継ぐことができれば、一般的に買収後の事業継続は可能となる。 したがって、M&Aによって買収すべきは、通常の場合、「運転資本のうち正常な部分」、すなわち「正常運転資本」に限られる、ということになる。 では、M&Aによって引き継ぐべき「運転資本の正常性」は、どういった要因から判断すべきであろうか。   ▷正常運転資本の考察 「正常運転資本」について、通常の場合、以下のような図が示されることが多い。 ◆正常運転資本のイメージ (筆者作成) 「A.回収可能性に疑義のある売上債権」は、破綻企業に対する売上債権など、何らかの理由により回収が滞っている(ないしは滞ることが予想される)滞留債権を指す。また、「B.販売可能性に疑義のある棚卸資産」は、同様に何らかの理由により販売が滞っている(ないしは滞ることが予想される)滞留在庫、現状有姿での定価販売は困難と思われる在庫等、いわゆる「不良在庫」を指す。 これらはいずれも正味実現可能価値で評価の上で引き継がれるか、もしくは換金処分の手間等から、譲渡側に残置されることが一般的であろう。このため、こうした不良資産については、その資金化にどのような疑義が見込まれるか、実現可能な回収金額はどの程度見込まれるか、また、回収までの間にどのようなプロセスが想定され、そのために必要な支出はどの程度見込まれるか等から、正味実現可能価値を推定することになる。 「C.支払が留保されている仕入債務」としては、支払期日を過ぎてなお、支払を延期しているようなケースであるが、こうした状況は、よほどの経営危機で資金繰りが極端に窮している場合でない限り、お目にかかることは少ないであろう。 ただし、中小企業同士の取引では「ある時払い」のような慣例が今なおまかり通っていることも多いので注意すべきである。 さらに、貸付金等のうち余剰資金の運用目的でなされている部分や、未払利息等に含まれる借入利息等についても、買収側で当然に引き継ぐべき必然性は通常はないことから、こうした「非正常運転資本項目」についても区分して把握する必要があろう。 留意すべきポイントとして、事業継続に必要不可欠な技術等を有する取引先等に対する資金支援等を行っている場合等が挙げられる。当該取引先との取引関係そのものの継続が買収後の事業継続に不可欠であれば、こうした与信残高の引継ぎの要否についても検討する必要があるだろう。 なお、こうした関係は、下記の【実務事例4-1】のように貸付金等の与信残高のみならず、仕入代金の立替払としても同時に計上されているケースもある。 こうした分析を通して「非正常運転資本項目」と思われる金額を把握・調整することで、「正常運転資本」の水準を判断する必要がある。 【実務事例4-1】 産業機器メーカーであるM工業の運転資本の分析に際して、主要得意先であるT物産に対して売掛金だけでなく、多額の「買掛金」が両建てで計上されており、その支払は売掛金との相殺による差額決済によって行われていた。 M工業では資金繰りの悪化から仕入先に対する支払資金の工面ができずにいたところ、T物産にとってはM工業が有する技術が極めて魅力的であったことから、材料調達をM工業に代わってT物産が行う代わりに、M工業からの製品仕入代金と相殺決済が行われていたものである。   ▷「正常運転資本」と決済条件の関係 買収対象企業の貸借対照表に計上されている運転資本項目が「正常な運転資本」であるか否かの判断基準は、売上債権や仕入債務の決済条件、棚卸資産の保有期間等にも及ぶ。 例えば、買収対象企業が有している売上債権の回収が、当該得意先との間で締結している決済条件のとおりに回収されることが明らかでさえあれば、こうした売上債権は「正常なもの」と言い切れるだろうか? 答えは「否」である。 例えば、売上債権の決済条件そのものが「正常」とは言えないような場合はどうだろうか。当該債権の回収条件が、買収側が運用している通常の決済条件や社会的な通例から大幅に乖離したものであるとすれば、買収後、当該事業の継続に必要な運転資本の総額が買収側の想定から大きく乖離する可能性もある。 【実務事例4-2】 半導体業界向けの先端機器の製造販売を行っていたY工業では、納入した機器に対する得意先の要求精度の評価作業に相応の期間を要することから、販売代金の回収条件は「納品後12ヶ月後の振込払」とされていた。 実際は、機器精度が必ずしも十分でない状態での売上の早期計上が伝統的になされており、得意先からの検収合格に至るまでの長期にわたって売掛金が未回収の状態となっており、決算をまたぐ場合には得意先から当該資産の「預かり証」を受領することで、社内的な収益計上の根拠証憑としていた(そもそも販売済みであれば「預かり」という概念は生じないはずであるが)。 上記は極端な例であるとしても、社会通念上、行き過ぎと思われる決済条件から生じた売掛金は「正常なもの」と言えるだろうか。実質的には「販売代金の長期分割回収」とみなすか、もしくは、そもそも「出荷/収益計上が早すぎた」だけ、すなわち会計処理に問題があると判断されるべきかもしれない。 こうした決済条件での取引に経済合理性がない場合、これらの取引はやはり「正常なもの」とは言えないであろうし、そのような取引を行う経営者の誠実性にも疑問を呈さざるを得ず、そうなると、そもそもそうした経営者が行ってきた事業そのものの実力や、従業員のモラルなどについても信頼が損なわれる結果となるであろう。   ▷M&A後の会計方針等 こうした取引条件は「M&Aによってどのような変更を余儀なくされるか」、また、「M&Aによって将来的な運転資本の水準にどのような影響が生じるか」、についても検討する必要がある。 具体的には、買収対象企業が採用する会計処理方法の相違が、運転資本の正常性を左右するケースが挙げられよう。 前述のとおり、買収対象企業の採用している会計方針や会計処理方法そのものに問題がある場合もあるかもしれないが、買収対象企業が採用している会計処理が合理的なものであるとしても、採用されている収益計上基準が買収側の基準とは異なる場合、買収対象企業の貸借対照表に計上されている売上債権の金額は、そもそも「売上債権」として計上されるべきものであるかどうか検討すべきケースも生じるであろう。 例えば、M&Aの実行後、それらの売上債権は買収側の収益計上基準を満たさず、適正原価で「棚卸資産」として計上されるべきものかもしれないし、買収側で長期滞留在庫について評価減を実施する会計処理基準が採用されていれば、場合によってはそちらの基準に従ったライトオフが適用されて然るべきものが含まれているかもしれない。 運転資本項目の分析に必要な判断基準は一様ではない。広範な視点からの分析が必要と言える。   ▷主な手続(まとめ) (了)

#No. 274(掲載号)
#石田 晃一
2018/06/28

連結会計を学ぶ 【第21回】「子会社の欠損及び優先株式に関する非支配株主持分の特殊な処理」

連結会計を学ぶ 【第21回】 「子会社の欠損及び優先株式に関する非支配株主持分の特殊な処理」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、子会社の欠損及び優先株式に関する非支配株主持分の特殊な処理について、「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)及び「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号。以下「資本連結実務指針」という)にしたがって解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 子会社の欠損 子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分は、非支配株主持分として処理される(連結会計基準26項)。 1 基本的な会計処理 子会社の欠損のうち、当該子会社に係る非支配株主持分に割り当てられる額が当該非支配株主の負担すべき額を超える場合には、当該超過額は、親会社の持分に負担させる(連結会計基準27項、資本連結実務指針50項)。 この場合において、その後当該子会社に利益が計上されたときは、親会社が負担した欠損が回収されるまで、その利益の金額を親会社の持分に加算する。 特定の非支配株主と親会社又は他の株主や債権者との間で子会社の債務の引受けなど、出資を超えた非支配株主による負担が合意されている場合には、当該負担額まで非支配株主持分に欠損の負担を行わせ、それを超える欠損額はその後子会社に利益が計上され、超過欠損額が相殺されるまで親会社が負担する(資本連結実務指針69項)。 2 考え方 上記の会計処理となる理由は次のものであり、通常、非支配株主の負担すべき額は非支配株主の出資額に限定される(資本連結実務指針69項)。   Ⅲ 子会社が発行し外部株主が保有する優先株式の処理 子会社が発行し外部株主が保有する優先株式については、次のように会計処理する(資本連結実務指針51項、70項)。 また、優先株式の株主が議決権を有するかどうかにより、次のように会計処理する(資本連結実務指針51項、70項)。 (了)

#No. 274(掲載号)
#阿部 光成
2018/06/28

改正法案からみた民法(相続法制)のポイント 【第4回】「遺産分割等の見直し」

改正法案からみた 民法(相続法制)のポイント 【第4回】 「遺産分割等の見直し」   弁護士 阪本 敬幸   前回までは、配偶者の居住に関する権利について、配偶者居住権(長期居住権)及び配偶者短期居住権についてそれぞれ解説してきたが、今回は、遺産分割に関するいくつかの改正事項を取り上げる。   [1] 配偶者に対する居住用不動産の遺贈・贈与についての持ち戻し免除の意思の推定(法案903条4項) 1 趣旨 前回まで解説した配偶者の居住に関する権利のように、今般の相続法改正においては、高齢化社会の進展に伴い、被相続人の死後も長期間生活することとなる被相続人の配偶者(以下、単に「配偶者」という)の保護を図った点が多い。 本条項案も配偶者保護の一環であり、被相続人の持ち戻し免除の意思を推定することにより、相続時の配偶者の取得額を大きくするものである。 もともと法制審議会では、配偶者の法定相続分を引き上げることが検討されていたが、問題点・反対意見が多かった。それでも配偶者保護の必要性はあるところ、居住用不動産については夫婦の協力によって形成されることが多いこと、相続税法上も配偶者に対する贈与についての特例があることなどから、本条項案が設けられることとなった(追加試案の補足説明4~5頁)。 2 持ち戻し免除の意思表示の推定規定の内容 共同相続人の相続分の算定においては、相続人に対する贈与の目的財産を相続財産とみなし、相続人が贈与・遺贈を受けて取得した財産は特別受益として、贈与・遺贈を受けた相続人の相続分の額から特別受益分を控除することとされている(民法903条1項)。 こうした計算(持ち戻し計算)をすれば、贈与・遺贈の額が相続人の法定相続分を超えていない限り、贈与・遺贈を受けた相続人と他の相続人の最終的な取得額は変わらない。しかし、被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしていた場合、持ち戻し計算をすることはなくなるため、贈与・遺贈を受けた相続人は他の相続人と比べて多くの財産を取得することができる(民法903条3項)。 本条項案は、婚姻期間20年以上の夫婦の一方が他方に対し、居住用不動産を贈与・遺贈する場合には、持ち戻し免除の意思表示があったものと推定するものである。 婚姻期間20年以上・居住用不動産という限定が設けられたのは、20年以上の婚姻期間がある夫婦であれば、類型的に居住用不動産の取得における夫婦間の相互協力の度合いが高く、また居住用不動産を贈与・遺贈する場合には、相続人である配偶者の生活に配慮していることが通常であり、持ち戻し免除の意思表示を推定する基礎があるからである。 当然であるが、「みなす」規定ではなく「推定する」規定であるから、推定を覆す意思表示(黙示も含まれる)があれば、持ち戻し免除されることはない。 3 成立要件 法案の文言からすれば、贈与の時点で婚姻期間が20年以上であることが必要であり、贈与後に婚姻期間が20年を超えたとしても本条項案が直接適用されることはないと考えられる。 4 問題点 本条項案は、居住用不動産(「居住の用に供する建物又はその敷地」)について持ち戻し免除の意思表示を推定するものであるが、居住用不動産の範囲について詳しく定められてはいない。 このため、 といった点が問題として残されている。 法制審議会では、①居宅兼店舗の場合でも少なくとも居宅部分については本条項案の適用があるが、居宅部分以外の部分については他の具体的事情による、②贈与時を基準とする(ただし、贈与時点で現に居住していなくても近々居住予定があれば足りる)、と考えたようであるが(追加試案の補足説明8~9頁)、今後の議論・裁判例が待たれる。   [2] 遺産分割前の預貯金債権の行使(法案909条の2) 1 趣旨 平成28年12月19日最高裁決定により、預貯金債権は相続により当然分割されず、遺産分割等の対象となることとなった。このため、預貯金債権については、遺産分割が終了するまで、共同相続人全員で行使しなければならないこととなり、葬儀費用や共同相続人の生活費等の、早急に必要な支払ができないという不都合が生じることとなった。 これを受けて、共同相続人の公平を確保しつつ、早急に必要な支払を可能とすべく、本条項案が設けられた。 2 内容 各共同相続人は、相続開始時にある預貯金債権の額の3分の1に、共同相続人の相続分を乗じた額については、単独で権利行使することができる。ただし、行使金額については諸般の事情を勘案の上、法務省令で上限を設けるものとされている。法制審議会では金融機関1つあたりの上限を100万円と考えていた(追加試案の補足説明18~19頁)。 行使された預貯金債権は、遺産の一部分割により取得したものとみなされる。追加試案の段階では、行使された金額を最終的な遺産分割時に清算することが提案されていたが、本条項案では一部分割により取得したものとみなされるとされたため、払い戻しに応じる金融機関としては、紛争に巻き込まれる恐れが低下したといえるだろう。 なお、本条項案とは別に、家事事件手続法の改正により、遺産分割調停・審判係属中に、債務弁済・相続人の生活費支弁等の必要がある場合には、預貯金債権の一部を仮に取得することができるとする仮払の制度が設けられる予定であるが(改正家事事件手続法法案200条3項)、この点は民法改正に伴う他の法律の改正として、後日解説することとしたい。 なお、上記の平成28年最高裁決定の詳細については、本誌掲載の下記拙稿を参照されたい。   [3] 遺産の一部分割の規定の明確化について(法案907条) 1 趣旨 現在の実務上も、一定の場合(遺産の範囲に相続人間で争いがあり、その確定を待っていては他の財産の分割が著しく遅延するような場合など)には遺産の一部分割も行われていたが、一部分割が可能であることを明確に示す条文はなかった。このため、一部分割が可能であること、その要件を明確にする趣旨である。 2 内容・要件 当事者の協議(法案907条1項)、裁判所に対する請求(法案907条2項)により、一部分割が可能である。遺産分割の範囲について、共同相続人に処分権限を認めるものといえる。ただし、他の共同相続人を害する恐れがある場合には認められない(法案907条2項但書)。 現行法と基本的な要件は変わらない。すなわち、①協議による分割の場合は、被相続人が遺言で遺産分割を禁じていなければ、いつでも一部分割が可能、②裁判所に対する請求の場合は、共同相続人間に協議が調わないとき又は協議をすることができないときに可能である。   [4] 遺産分割前に遺産の処分がされた場合の遺産の範囲(法案906条の2) 1 趣旨 遺産分割は、分割時に存在する遺産を分割すると考えられており、共同相続人の1人が遺産分割前に遺産を処分した場合、処分された遺産は、分割時にはもはや遺産ではないから分割対象とはならない。またこのような場合も、処分を行った共同相続人は自らの遺産共有持分を処分しているに過ぎないため、不法行為・不当利得は成立しないと考えられている。 このように遺産分割前に遺産が処分された場合に、遺産を処分した共同相続人に特別受益があったときなどには、共同相続人間で不公平が生じることがあり得るため(下記の〔例〕参照)、共同相続人間の公平を図るべく、処分された財産も遺産として存在するものとみなすこととされた。 〔例〕 ▷[ケース1] 遺産分割前に遺産処分がなかった場合 Aの特別受益を持ち戻して具体的相続分を計算すると・・・ ⇒Aは(1,000万+600万+2,000万)÷2-2,000万=△200万円となり、ゼロ。 ⇒Bは(1,000万+600万+2,000万)÷2=1,800万円となり、遺産全部を取得。 ▷[ケース2] 遺産分割前にAが不動産共有持分2分の1を処分して300万円を取得した場合 [ケース1]のように、Aは本来、遺産分割時に何も取得できないはずなのに、300万円を取得することになる。そして、遺産分割時に存在する遺産は、預金1,000万円と不動産持分300万円のみであるから、Bは1,300万円分しか取得できない。 (※) なお、仮にAの特別受益がなかった場合には、A・Bの相続分はそれぞれ800万円となり、[ケース2]のようにAが遺産分割前の不動産共有持分の処分により300万円を取得したとしても、Bの相続分への影響はない。 2 内容・要件 遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合で、共同相続人全員の同意があった場合には、処分された財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができる(法案906条の2第1項)。 一部の共同相続人により財産が処分された場合には、財産処分を行った相続人の同意は不要であり、これらの相続人の同意がなくても遺産として存在するとみなすことができる(法案906条の2第2項)。 処分された財産も遺産として存在することとみなされた場合、これに基づいて遺産分割が行われるということになる。 3 適用範囲等 上記のように本条項案は、遺産処分者に不法行為も不当利得も成立しないことにより共同相続人間に不公平が生じることを防ぐことを目的としていた。この点を考えると、遺産処分者が、自己の相続分を超えて遺産を処分(他の相続人の相続分をも侵害)したような場合には、自己の相続分を超える部分については本条項案の対象とはならないとも考えられる。 しかし本条項案の文言上、「遺産に属する財産が処分された場合」とされており、遺産処分者の相続分の範囲内の処分があった場合に限定して本条項案が適用されるとはされていないため、遺産処分者の相続分を超えた処分があった場合にも本条項案の適用はある。遺産の全部についての処分があった場合でも同様である。 また、遺産処分者が自己の相続分を超えて遺産を処分した場合に、要件を満たす場合には不法行為・不当利得も成立する。本条項案は、「処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなす」と定めるのみであり、財産的な請求権の発生・消滅を直接定めるものではないからである。 なお本条項案は、相続人が財産処分をした場合について定めるものであるから、相続人以外の第三者が財産処分した場合には本条項案の適用がないことは当然である。 (了)

#No. 274(掲載号)
#阪本 敬幸
2018/06/28

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例26】神鋼鋼線工業株式会社「仮監査役(一時監査役職務代行者)の選任に関するお知らせ」(2018.4.13)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例26】 神鋼鋼線工業株式会社 「仮監査役(一時監査役職務代行者)の選任に関するお知らせ」 (2018.4.13)   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、神鋼鋼線工業株式会社(以下「神鋼鋼線」という)が平成30年4月13日に開示した「仮監査役(一時監査役職務代行者)の選任に関するお知らせ」である。 仮監査役(一時監査役)とは、監査役が欠けた場合や、会社法や定款で定めた監査役の員数が欠けた場合に、利害関係人の申立てを受けて裁判所が選任した、監査役の職務を行う者である(会社法346条2項)。株主総会で正式に監査役として選任されるまでの間、仮の監査役としてその職務を行うのである。 今回の開示はその仮監査役の選任に関するもので、最初の主文は次のように記載されている。 そして、「選任の理由」は次のように記載されている。 同社は、平成29年9月28日、「その他の関係会社および親会社の異動に関するお知らせ」を開示して、それまでその他の関係会社(自社を関連会社とする会社)だった株式会社神戸製鋼所(以下「神戸製鋼所」という)が親会社になるとしている。 その結果、これまで社外監査役だった方は神戸製鋼所の使用人であり、社外監査役の要件を満たさなくなるので、他の方を仮監査役として選任するよう裁判所へ申立てを行ったというのである(後日開催される株主総会で正式に監査役として選任される予定)。   2 これまで社外監査役だった方は? 神戸製鋼所が親会社となるため、同社の使用人である方が社外監査役の要件を満たさなくなるというのは分かる。しかし、神戸製鋼所は、神鋼鋼線にとって、もともとその他の関係会社だったのである。その他の関係会社の使用人である方が社外監査役の要件を満たすのだろうか。 社外監査役の要件は、会社法2条16号で次のように規定されている。その他の関係会社の使用人であっても、一応、社外監査役の要件は満たすのである。   3 社外監査役に求められるもの 監査役会は半数以上を社外監査役としなければならないが(会社法335条3項)、それは、会社と利害関係のない社外監査役に客観的な監査を期待してのことだろう。 神鋼鋼線も、平成29年7月3日に開示した「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の「Ⅱ経営上の意思決定、執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガバナンス体制の状況 3.現状のコーポレート・ガバナンス体制を選択している理由」において、次のように記載している。 しかし、これまで同社の社外監査役だった方は、確かに法律上の社外監査役の要件を満たしてはいたが、本当に「外部的視点から取締役の職務執行状況を十分監視」することができていたのだろうか。また、「外部からの客観的・中立的な立場で」監査を行えていたのだろうか。   4 新たに社外監査役となる方は? それでは、今度新たに社外監査役となる方(今回仮監査役に選任された方)はどうだろうか。客観的な監査を行えそうな方なのだろうか。 今回の開示において、今井一雅氏の現職は「神鋼EN&Mサービス(株)常勤顧問役」とされている。神鋼EN&Mサービス株式会社(以下「神鋼EN&Mサービス」という)と神鋼鋼線及び神戸製鋼所との資本関係は不明だが、神鋼EN&Mサービスのホームページを見ると、「神戸製鋼グループ」と記載されている。 今回の開示からは、神鋼鋼線の企業統治に対する意識がどのようなものなのかをうかがうことができる。企業統治に対する意識が本当に高い企業ならば、同社のような社外監査役の選び方はしないだろう。 神鋼鋼線の親会社である神戸製鋼所は、アルミ等の品質検査のデータ改竄で問題になっているが、子会社でも、過去、同様の問題が生じたことがある(平成28年6月9日に「当社子会社におけるJIS規格に関わる不適合事象について」を開示)。神鋼鋼線が属する企業集団全体が抱える問題の一端も、今回の開示は示しているのではないだろうか。 (了)

#No. 274(掲載号)
#鈴木 広樹
2018/06/28

AIで士業は変わるか? 【第20回】「AIの進歩が会計専門家の業務に与える影響」

AIで 士業は変わるか? 【第20回】 (最終回) 「AIの進歩が会計専門家の業務に与える影響」   公認会計士・税理士 中里 拓哉   1 AIの目覚ましい進歩 最近の下記の事象を見ると、AIの進歩は目覚ましいことがわかります。 こうしたことから「シンギュラリティ(この用語は、一般にAIが人知を超える状況として使用されています)の到来」を予言する方もいるようです。しかし、下記の2を理由として、「ここ数十年の間は、シンギュラリティは到来しない」というのが専門家の大方の意見のようです。   2 AIの限界 AIによる小説や絵画は、多くのデータから見出された規則性に基づく「模倣」であって、創造的なものではありません。画像認識や碁将棋についてもビッグデータを利用した限定した作業に特化した力であって、汎用性があるわけではありません。 またAIには、 「読む」(文書を読解して筆者の意図を把握すること) 「書く」(自らの考えを他人に適切に伝えるために、文章にまとめること) 「聞く」(人の話を聞いて、その人の考えを理解すること) 「話す」(人に理解してもらうように話すこと) というコミュニケーション力に限界があります。「Siri」や「りんな」、「シャオアイス(Xiaoice)」といったAIを利用した技術は、そのアルゴリズムによって会話が成立しているように見えるだけで、実際に人間の気持ちが通じているわけではありません。 さらにAIは、法的に責任主体にはなれません。仮にAIが人間の理解を超える作業をできるとしても、その責任はAI自身ではなく、そのAIを利用した人間が負うことになります。   3 会計・税務・監査とAI 一般に会計は「領収書・請求書」などの証憑書類に基づいて、これを仕訳として起票し、それらが集計して試算表を作成する業務です。また、税務では決算数値に基づいて課税所得・税額を算出し申告書を作成します。さらに監査では、重要な虚偽表示の有無の検証を通じて、一般に公表される財務諸表の適正性について意見を表明します。 こうした専門業務の中で、例えば、証憑を画像認識して自動で仕訳を起票することや、申告書の作成、不規則な入力の有無のチェック・異常な増減の把握等の作業は、既にAIの利用により格段に効率化されています。 一方で、例えば「タクシーの領収書」の入力作業であっても、単純に「交通費」となることもあれば、接待交際のためのタクシーであれば「交際費」とすべきこともあります。また画像を取り込んで自動起票された仕訳であっても、その入力の適切性の検証のためのチェックが必要です。 申告書の作成もある程度の自動化は可能ですが、特例の適用の可否など、機械的に特定の処理を選定できない場合も少なくありません。さらに監査では、経営者の主張が適切に財務諸表に反映されているかを実質的な見地から判断することが求められることもありますから、答が1つに絞られないような厄介な判断を伴うことも想定されます。   4 会計専門家の魅力とAIの限界 筆者は、「税理士」という資格は、経営者の右腕として、経営者に助言・勧告する役割を担った「参謀」だと考えます。孤高の経営者が特に「お金に関する問題」について、心を許して相談できる専門家こそが税理士の理想像だと考えます。 また、公認会計士は「保証人」です。「皆さん、ご安心ください。この経営者が財務諸表上で主張していることは正しいですから。」という保証です。この保証を行うには、公認会計士と経営者との間に強い信頼関係が必要です(監査人を騙そうとする経営者の主張の保証など、できるわけはないのです)。 「参謀」にしても「保証人」にしても、その役割を全うするには、経営者との密接なコミュニケーションが必要です。その結果、専門家としての判断について責任を負うことがその専門家の仕事であって、その対価として報酬が支払われるのです。 コミュニケーション力に限界があって、かつ責任主体にもなれないAIは、残念ながらこうした役割を担うことはできないのです。   5 AIの進化と会計専門家 「AIが進化すれば会計専門家はいらない」と考える人は、「会計を単純な作業にすぎない」と捉えているのかもしれません。高い報酬を払わずとも「決算書は機械的に作成できる」「申告書なんて誰が作っても同じだ」「監査判断は画一的だ」と考えれば、「AIが全部やってくれるから会計専門家は不要だ」と考えることもできるのでしょう。 もちろん、作業の効率化の観点から、AIが会計専門家の業務に大きな影響を与えることは必至です。 しかし、AIの限界からすれば、AIが会計専門家に完全に代替することはありえません。むしろ、AIが発達すればするほど、「AIに代替できない力」を有する会計専門家の優位性が際立っていくと筆者は考えています。 AIの進化は「作業の効率化」という意味で興味がありますが、それ以上に、「今後、AIの進化によって、会計専門家としていかなる能力が必要となるのか」を自問自答する良い機会とすべきだと考えます。 (連載了)

#No. 274(掲載号)
#中里 拓哉
2018/06/28

《速報解説》 会計士協会、研究資料「上場会社等における会計不正の動向」を公表~社内と外部専門家の双方が含まれる不正調査体制の割合が増加傾向に~

《速報解説》 会計士協会、研究資料「上場会社等における会計不正の動向」を公表 ~社内と外部専門家の双方が含まれる不正調査体制の割合が増加傾向に~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   日本公認会計士協会(経営研究調査会)は、2018年6月26日付けで経営研究調査会研究資料第5号「上場会社等における会計不正の動向」を公表した。 公表された研究資料(以下「研究資料」と略称する)について、協会は、近年の会計不正の動向を適時に知らせるため、上場会社及びその関係会社が公表した会計不正を集計し、取りまとめたとしている。 本稿では、公表された研究資料の概要と注目すべき集計結果のいくつかを検討したい。   1 会計不正の定義 研究資料では、会計不正(Accounting fraud)の類型を、主に「粉飾決算」と「資産の流用」に分類したうえで、「粉飾決算」と「資産の流用」とに明確に区分できないものは「粉飾決算」に含めて集計している。 巻末に【参考】として記載されているそれぞれの定義の一部を引用する。   2 会計不正の動向 研究資料で集計、分析を行っている項目は次の9つに分類されている。   3 集計・分析結果の特徴 (1) 会計不正の公表会社数 会計不正を公表した会社の数は、2014年3月期から2018年3月期までの5年間で、146社となり、年度によってバラつきはあるものの、概ね年間30社程度であった。 2018年3月期における会計不正の公表者数は30社であった。 (2) 会計不正の類型と手口 会計不正を「粉飾決算」と「資産の流用」に分類した場合、5年間の平均で「粉飾決算」の割合が76.7%であり、2018年3月期については、件数ベースで81.1%が「粉飾決算」となっている。 粉飾決算の公表が8割近くを占めていることについて、研究資料では、「一般的に、資産の流用による影響額よりも、粉飾決算による影響額の方が多額になる」ことから、「上場企業等が適時開示基準に則って公表する数は、粉飾決算の方が多くなると考えられる」と分析している。 (3) 会計不正の主要な業種内訳 会計不正が行われた事業を基に分類した業種別の公表件数では、情報・通信業が20社、卸売業と建設業が各19社、サービス業の18社が、上位を占めている。 この結果について、研究資料では、2018年3月末現在の東証上場銘柄全体のうち、情報・通信業(411社)、卸売業(320社)、サービス業(424社)に比して、建設業に分類される会社は171社と少ないことから、「建設業は、会計不正の公表の割合が多い業種である」と分析している。 (4) 会計不正の上場市場別の内訳 会計不正を公表した会社が上場している市場別に分類したところ、東証第1部及び東証第2部と新興市場との間で、「上場会社数の市場別内訳の割合と会計不正の市場別内訳の割合が近似しており、会計不正の市場別の発生割合については有意な傾向を観測できなかった」ということであり、「新興市場に上場している会社の会計不正が多い」という一般的な先入観は否定されている。 (5) 会計不正の発覚経路 会計不正の発覚経路は、内部統制等が37社、当局の調査等が23社、公認会計士監査と内部通報が各19社となっている。一方、発覚経路の未公表としている会社が29社あり、この点について、研究資料は、「発覚経路を明らかにすることは、適切な発生原因の分析、有効な再発防止策の構築につながるものであり、積極的に公表することが望まれる」と評している。 指摘については首肯するものであるが、研究資料としては、「なぜ、発覚経路の公表をしなかったのか」まで、踏み込んだ分析が行われていれば、さらに読み応えのあるものになっていたのではないかというのが、筆者の個人的な感想である。 (6) 会計不正の関与者 会計不正の主体的な関与者、共謀の有無などを分析した結果、関与者の役職や共謀の有無については年度ごとのバラつきが見られるものの、役員と管理職については、共謀して会計不正を行うことが多く、非管理職については、単独での会計不正行為が共謀を上回っていることが明らかになった。 (7) 会計不正の発生場所 会計不正の発生場所を上場会社、国内子会社及び海外子会社別に分類して集計した結果、上場会社本体が67社、国内子会社が60社、海外子会社が22社となった(複数の場所で発生している会社については、それぞれ集計している)。 2018年3月期の特徴としては、海外子会社の会計不正が大幅に増加したこと(12件発生)で、2014年3月期から2017年3月期までの4年間に発生した件数(10件)を超えている。 (8) 会計不正の不正調査体制の動向 会計不正発生時の調査委員会の組成を、「社内のみ」「社内+外部専門家」「外部専門家のみ」の3つに分類して集計したところ、それぞれ、44社、43社、52社となった。 件数的にはいわゆる第三者のみで構成される調査体制が多いものの、社内(役員・従業員)と利害関係のない外部専門家の双方が含まれる調査体制(社外役員と外部専門家から構成される場合を含む)という調査体制(社内+外部専門家)の占める割合が増加傾向にある。 (9) 会計不正と内部統制報告書の訂正の関係 調査対象期間中に、会計不正の発覚に伴って、過年度の内部統制報告書を訂正した上場会社は72社であった。年度別の推移では、40%台後半から60%程度の会社が訂正を行っている。訂正を行った会社の大多数は、会計不正の類型が「粉飾決算」であった。 (了)

#No. 273(掲載号)
#米澤 勝
2018/06/28

《速報解説》 会計士協会より平成29年度の「品質管理委員会年次報告書」が公表される~前年度に続き「会計上の見積りの監査」に関する改善勧告が最多~

《速報解説》 会計士協会より平成29年度の「品質管理委員会年次報告書」が公表される ~前年度に続き「会計上の見積りの監査」に関する改善勧告が最多~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成30年6月26日(ホームページ掲載日)、日本公認会計士協会は、「平成29年度 品質管理委員会年次報告書」及び「平成29年度品質管理委員会活動に関する勧告書」を公表した。 年次報告書は、監査法人又は公認会計士が行う監査の品質管理の状況をレビューする制度(品質管理レビュー制度)に基づくものであり、基本的な対象は、監査法人又は公認会計士である。 しかしながら、年次報告書に記載されている内容については、一般の事業会社における会計処理等にも関連するものがあるので、実務において参考になるものを紹介する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 会計処理等に関連する改善勧告 最も多くの監査事務所が改善勧告を受けた「4.会計上の見積りの監査」では、貸倒引当金、繰延税金資産の回収可能性、固定資産の減損に係る改善勧告が多く、また、棚卸資産の評価等、会計上の見積りに関するその他の勘定科目からも改善勧告事項が生じているとのことである(年次報告書53ページ)。 会計上の見積りの監査に関して、次の改善勧告事項が多く見受けられたとのことである(年次報告書66ページ)。 次の事項に関する改善勧告事項が述べられている(年次報告書24ページ、66ページ)。   Ⅲ IFIAR の調査結果 監査監督機関国際フォーラム(以下「IFIAR」という)は、世界各国・地域の監査監督機関から構成された組織である。 IFIARによる「上場企業の監査業務における品質管理の項目別の指摘数」では、次のものがあげられている(年次報告書93ページ)。 公正価値測定を含む会計上の見積りの監査においては、当該項目のほぼ半数で共通して見られた指摘として、整合性のない監査証拠の検討を含む経営者の仮定の合理性を十分に評価していないという指摘が述べられている(年次報告書93ページ)。 (了)

#No. 273(掲載号)
#阿部 光成
2018/06/28

《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(平成29年10月~12月)」~注目事例の紹介~

 《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成29年10月~12月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、平成30年6月18日、「平成29年10月から12月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加された裁決は表のとおり、全9件であった。 今回の公表裁決では、国税不服審判所によって課税処分等の全部又は一部が取り消された裁決が6件、棄却又は却下された裁決が3件となっている。税法・税目としては、国税通則法及び所得税法が各1件、法人税法が2件、国税徴収法が5件と、国税徴収法関係の裁決事例が多く公表されている。 【表:公表裁決事例平成29年10月~12月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された9件の裁決事例のうち、譲渡所得の金額の計算について争われた②と、国税徴収法に関連した2件の裁決事例⑥⑦を紹介したい。いつものお断りであるが、論点を整理するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。   1 譲渡所得の金額(取得価額の認定)・・・② (1) 争点 争点は、「本件譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費の金額はいくらとなるか」である。 (2) 請求人の主張 審査請求人は、本件土地は、昭和52年に、父がF社から売買により取得したものであるところ、その当時の売買契約書等の書類は見当たらないが、そのことを理由として、取得費を概算取得費により算定すべきではない。本件土地に係る取得費の金額は、本件土地周辺の土地価格に関する情報を使って合理的に算定すべきであるから、地価公示価格を基に推計した金額とすべきであると主張した。 (3) 原処分庁の主張 これに対して、原処分庁は、本件土地は、昭和41年11月24日に、父が取得したものであるところ、本件土地の取得に要した金額の実額は不明であるから、その取得費の金額は、概算取得費とすべきである。請求人が取得費であると主張する金額は、飽くまで請求人が推計した昭和52年時点における本件土地の取得費であって、本件土地の実際の取得費ではないことから、取得費と認めることはできないと主張した。 (4)  国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、請求人が父から相続により取得して、平成24年12月に譲渡した土地の取得費について、請求人の父が土地を購入した際の売り手であるF社が作成した土地台帳に記載された売買価額とすることを認め、審査請求人、原処分庁の主張をいずれも退けた。 その根拠として、審判所は、F社の土地台帳の記載内容の信用性については、以下の事実を指摘している。   2 第二次納税義務の告知処分(同族会社の株式の適正な時価)・・・⑥ (1) 争点 本件の争点は、次の2つであるが、国税不服審判所は、[争点2]について違法であると判断して、原処分庁による納税告知処分をすべて取り消しているため、本稿でも、[争点2]に関する原処分庁の主張と、審判所の判断を検討することとしたい。 (2) 原処分庁の主張 原処分庁は、以下の理由により、第二次納税義務に係る限度額は、株式の適正な時価を反映して算出された適法なものであると主張した。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、納付通知書を発した日(平成28年7月8日)における請求人の資産及び負債の金額は明らかではないものの、直前の決算期末以降、納付通知書を発した日までの間に、請求人の資産及び負債について著しい増減があったとは認められないから、本件は、徴収法基本通達第35条関係13の「特に徴収上支障がない」場合に当たることから、納付通知書を発した日における請求人の株式の客観的な時価を算定するに当たっては、平成28年3月31日時点の貸借対照表、財産目録等を参考として行うことができると判断した。 そのうえで、徴収法基本通達第35条関係13が、飽くまで「参考」とすることができるにとどめているのは、徴収法第35条第2項の「当該会社の資産の総額から負債の総額を控除した額」は、同族会社に対し納付通知書を発する時の客観的な時価を標準として計算されるべきものであることを踏まえたものと解されることから、請求人の直前の決算期の貸借対照表等の各勘定科目の中に、その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれる債権などのように、額面どおりの経済的価値があるとはいい難い資産や、その債務の発生が確実といえないような負債が含まれている場合には、貸借対照表等の金額に一定の修正を加えて客観的な時価を算定するのが相当であると論じた。 そして、請求人の前払費用、貸付金、仮払金などの残高を精査した評価額はそれぞれ零円であり、投資有価証券を適正に評価し、工具器具備品及びリース資産から減価償却費を控除して、請求人の株式の価額を算定すると、請求人は債務超過の状態に陥っており、その価額は零円であるから、本件各限度額は、請求人の発行する株式の適正な時価を反映して算出された適法なものとはいえないと判断した。 そして、本件告知処分は、[争点1]及びその余の部分について判断するまでもなく、いずれも違法となるから、その全部を取り消すべきであると結論づけた。   3 差押財産の帰属の認定(第三者に譲渡された動産)・・・⑦ (1) 争点 争点は、請求人は、本件備品の譲受けを、本件備品を差し押さえた原処分庁に対抗することができるか(具体的には、請求人は、本件各差押処分の前に本件備品の引渡しを受けていたか)である。 (2) 原処分庁の主張 原処分庁は、以下の3点から、請求人は、本件差押処分前に本件備品引渡しを受けていないから、本件備品の譲受けを原処分庁に対抗することができないと主張した。 ① 占有改定による引渡しを受けていないこと 請求人と滞納法人との間の合意は、建物の占有移転等に関するものであり、本件備品の占有移転についての記載がなく、本件差押処分時、本件備品には、請求人の所有物であることが明示されておらず、第三者がこれを知り得なかったことからすると、請求人及び滞納法人は、承継合意において、本件備品の占有改定の合意をしていない。 ② 平成28年4月27日に現実の引渡しを受けていないこと 滞納法人の従業員等が本件各教室の鍵を所持して施錠及び解錠をしており、本件各教室の占有補助者であったところ、滞納法人は、従業員等に対し解雇通知を行っておらず、請求人は、本件差押処分時までに滞納法人の従業員等を雇用していなかった。 また、現に、本件差押処分時において、本件教室では、滞納法人の従業員等が鍵の開閉を行い、入口等に請求人が経営していることをうかがわせる表示等も一切なかったことから、本件各教室の占有が移転していることを第三者が認識できる状態ではなかった。 以上によれば、平成28年4月27日に本件備品の現実の引渡しを受けたという請求人の主張には理由がない。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果、次のように事実認定を行ったうえで、請求人は、本件各差押処分の前に、滞納法人から本件備品の引渡しを受けており、その譲受けを原処分庁に対抗することができるので、本件差押処分は、滞納法人に帰属しない財産に対して行われた違法な処分であると結論づけた。 (了)

#No. 273(掲載号)
#米澤 勝
2018/06/26

プロフェッションジャーナル No.273が公開されました!~今週のお薦め記事~

2018年6月21日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.273を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2018/06/21
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