さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第42回】 「弁護士顧問料事件」 ~最判昭和56年4月24日(民集35巻3号672頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
「収益認識に関する会計基準」及び 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第4回】 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 7 【STEP3】取引価格の算定 【STEP3】では取引価格を算定する。「取引価格」とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし、第三者のために回収する額を除く)をいう(基準8、47)。 取引価格の算定においては、以下の5つについて検討する(基準48)。特に(1)、(2)、(5)は影響が大きい論点である。 (1-1) 第三者のために回収する額 収益の額には、第三者のために回収する額は含まれない。第三者のために回収する額には、消費税、たばこ税、宿泊税等の間接税、代理人取引における本人のための代金回収等がある。 したがって、従来、売上に間接税や第三者のために回収した金額を含めていた場合、それは、売上から控除しなければならない。 なお、間接税によっては、顧客に販売しなくても企業が税金を負担する場合がある。このような間接税は、第三者のために回収する額に該当するかどうかを検討する必要がある。具体的には、本人か代理かの検討(11.連載第7回参照)が必要となる。 本人に該当する場合(自ら納税資金を用意して納税している場合)には収益の額(取引価格)に含め、代理人に該当する場合(顧客から税金を預り、納税している場合)には収益の額(取引価格)から除くことになる。 (1-2) 第三者のために回収する額(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 (2-1) 変動対価 変動対価とは、顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分をいう(基準50)。つまり、まだ確定していない取引価格ということである。 なお、知的財産のライセンスを供与した際に、売上高又は使用量に基づくロイヤルティを受け取る場合、その対価については、適用指針第67項(ライセンスの供与の規定(17.(連載第9回)参照))を適用する(適用指針26)。 変動対価では、以下の4つの検討が必要である。 ① 変動対価の識別 まず、取引価格に変動対価が含まれているかどうかを検討する必要がある。例えば、値引き、売上リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー等の形態により対価の額が変動する場合や、返品権付きの販売等がある(適用指針23)。 ② 変動対価の見積り 取引価格に変動対価が含まれている場合、対価が確定していないため、その対価の額を見積って、売上を計上する(基準50)。 変動対価の額の見積りにあたっては、以下の2つの方法がある。対価の額をより適切に予測できる方法を選択する(基準51、140、142)。 見積る際には、契約全体を通じて単一の方法を首尾一貫して適用する(基準52)。また、契約ごとに見積り方法を変えるのは、会計方針として適切ではないため、類似の契約についても同一の見積り方法を適用する必要があると考えられる。さらに、見積った取引価格は、各決算日に見直し、取引価格が変動する場合には、基準第74項から第76項(取引価格の変動の規定(8.(連載第5回)(4)参照))を適用する(基準55)。 なお、見積りにあたっては、企業が合理的に入手できるすべての情報を考慮し、発生し得ると考えられる対価の額について合理的な数のシナリオを識別する(基準52)。最頻値法では、実務上、可能性の低いシナリオの結果を数値化する必要はない。期待値法も、実務上、企業が大量のデータを有し、多くの結果を識別できる場合であっても、複雑なモデルを用いてすべてのシナリオの結果を考慮する必要はない(基準142)。 ③ 収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高い部分 見積った変動対価の額は、変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に、解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高い部分に限り(制限規定)、取引価格に含める(基準54)。過大な収益計上にならないように当該規定が設けられている。 収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高いかどうかの判定の際には、収益が減額される確率及び減額の程度の両方を考慮する。「収益が減額される確率又は減額の程度を増大させる可能性のある要因」には、例えば、以下の(ⅰ)から(ⅴ)がある(適用指針25)。 ④ 顧客から受け取った又は受け取る対価がある場合 顧客から受け取った又は受け取る対価の一部又は全部を顧客に返金すると見込む場合、受け取った又は受け取る対価の額のうち、企業が権利を得ると見込まない額について、返金負債を認識する。返金負債の額は、各決算日に見直す(基準53)。 (2-2) 変動対価(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 (3-1) 契約における重要な金融要素 契約の当事者が合意した支払時期により、財又はサービスの顧客への移転に係る信用供与(言い換えると、融資目的)についての重要な便益が顧客又は企業に提供される場合、顧客との契約に重要な金融要素が含まれている(基準56)。 契約における重要な金融要素では、以下の2つの検討が必要となる。 ① 金融要素の識別 金融要素が契約に含まれるかどうか及び金融要素が契約にとって重要であるかどうかを判断するにあたっては、以下の(ⅰ)及び(ⅱ)を含む、関連するすべての事実及び状況を考慮する(適用指針27)。重要かどうかの判断は、契約単位で行う(適用指針128)。なお、下記(ⅰ)及び(ⅱ)は、契約に金融要素が含まれているかどうかの指標の1つにすぎないので留意する必要がある。 なお、上記にかかわらず、以下の(ア)から(ウ)のいずれかに該当する場合には、顧客との契約は重要な金融要素を含まない(適用指針28)。 ② 金利相当分の影響の調整 顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、取引価格の算定にあたっては、約束した対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整する(基準57)。つまり、割引計算等をするということである。 割引率は、約束した販売価格の現在価値が、財又はサービスが顧客に移転される時の「現金」販売価格と等しくなるような利率を使用する。取引開始日後は、金利の変動や顧客の信用リスクの評価の変動等により割引率を見直さない(適用指針29)。 そして、収益は、約束した財又はサービスが顧客に移転した時点で(又は移転するにつれて)、当該財又はサービスに対して顧客が支払うと見込まれる現金販売価格を反映する金額で認識する(基準57)。 なお、契約における取引開始日において、約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が支払を行う時点の間が1年以内であると見込まれる場合には、重要な金融要素の影響について調整しないことができる(基準58)。 (3-2) 契約における重要な金融要素(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響のある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 (4) 現金以外の対価 契約における対価が現金以外の場合、取引価格の算定は当該対価を時価により算定する(基準59)。例えば、対価が株式などの場合である。 また、企業による契約の履行のために、顧客が財又はサービス(例えば、材料、設備又は労働)を企業に提供する場合には、企業は、顧客から提供された財又はサービスに対する支配(6(連載第3回)の(4)参照)を獲得するかどうかを判定し、企業が当該財又はサービスに対する支配を獲得する場合には、当該財又はサービスを、顧客から受け取る現金以外の対価として会計処理する(基準62)。 ① 時価を合理的に見積ることができない場合 現金以外の対価の時価を合理的に見積ることができない場合、当該対価と交換に顧客に約束した財又はサービスの独立販売価格を基礎として当該対価を算定する(基準60)。 ② 変動対価 現金以外の対価の時価が変動する理由が、株価の変動等、対価の種類によるものだけではない場合(例えば、企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて時価が変動する場合)には、基準第54項(変動対価の規定(上記(2-1)参照))を適用する(基準61)。 (5-1) 顧客に支払われる対価 顧客に支払われる対価とは、企業が顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して支払う又は支払うと見込まれる現金や顧客が企業(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対する債務額に充当できるものをいう(基準63)。 例えば、売上リベート(販売手数料、センターフィー)、キャッシュバック、棚代、クーポン等が考えられる。 顧客に支払われる対価には、変動要素が含まれていることが多いため、顧客に支払われる対価と変動対価の規定はセットで検討することが多いと考えられる。 ① 会計処理 顧客に支払われる対価は、顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合を除き、取引価格(売上)から減額する(基準63)。顧客に支払われる対価を販管費で計上することはできない。 顧客に支払われる対価に変動対価が含まれている場合には、取引価格の見積りを基準第50項から第54項(変動対価の規定(上記(2-1)参照))に従って行う(基準63)。 顧客に支払われる対価を取引価格から減額する時期は、以下の(ⅰ)又は(ⅱ)のいずれか遅い方が発生した時点である(基準64)。 なお、顧客に支払われる対価が顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合、当該財又はサービスを仕入先からの購入と同様の方法で処理する(適用指針30)。つまり、通常の仕入と同様に会計処理するということである。 一方、顧客に支払われる対価が顧客から受領する別個の財又はサービスの時価を超えるときには、当該超過額を取引価格から減額する。 しかし、顧客から受領する別個の財又はサービスの時価を合理的に見積ることができない場合には、顧客に支払われる対価の全額を取引価格から減額する(適用指針30)。 (5-2) 顧客に支払われる対価(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響のある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 公認会計士 石田 晃一 ←(前回) | (次回)→ 第5節 労働債務の分析 【第13回】 「労働債務の分析(その1)」 -未払給与、賞与等- 〔分析の対象となる主な勘定科目〕 ▷労働債務の調査 「労働債務」は会計上の用語ではないが、本稿では従業員(役員を含む)による労働等の対価として法人が支払うべきものの未払額を総称して「労働債務」と呼ぶことにする。 代表的な労働債務としては未払給与や未払賞与、退職給付引当金や役員退職慰労引当金のほか、我が国では馴染みの薄い有給休暇に関する引当金などが挙げられる。 今回はこれらのうち、いわゆる「短期従業員給付」に当たる項目について概説する。 ▷未払給与 給与は従業員との雇用契約に基づいて法人が従業員から受けた役務提供の対価として支払われるものであり、通常、「毎月20日締めの翌月10日払い」のような形態で支給されている。 この場合、月末時点で認識すべき労働債務には2種類ある。1つは20日締めで計算された(前月21日からの)1ヶ月分の未払給与であり、もう1つは当月の21日から月末までの10日分の未払給与である。前者は債務として確定しているため「未払金」としての未払給与であり、後者は(債務として確定していないが)雇用契約に基づき発生主義的に認識される「未払費用」としての未払給与である。 後者は通常、決算時のみ計上されることが多く、月次では計上されないことが多い。このため、M&Aに際しては、調査基準日が決算期末以外の月である場合、未払費用部分の未払給与を発生主義に基づいて負債として把握する必要がある。 ▷未払賞与 賞与は毎月支給される給与を補完するものとして、給与の後払としての性質を有すると同時に、従業員の勤務継続に対する功労報奨や期間業績に応じた利益配分としての性質も有するとされ、通常の場合、例えば「毎年12月から5月末までの勤務に対して夏季賞与を7月に、6月から11月末までの勤務に対して冬季賞与を12月に支給する」というような方法で支給されている。 賞与の支給は通常、年2回であることから、支給月以外の月次損益に賞与勘定は発生させない代わりに、月次損益のブレを平準化させる目的で、予算等に基づく年間賞与支給見込額の1/12を「賞与引当金繰入/賞与引当金」のように月次で引当計上し、実際支給時に引当金を取り崩す場合も多い。 決算時には、決算月と支給対象期間とのズレの期間について「賞与引当金」もしくは「未払賞与」が計上される。引当金とするか未払費用、未払金とするかは、支給額が確定しているか否か、確定している場合には支給額が支給対象期間以外の基準に基づき算定されているか否かで判断されることになる。 ▷未消化の有給休暇 有給休暇には未消化部分を翌年度に繰り越すことができる「累積型」と繰り越しのできない「非累積型」があり、累積型には、当該従業員の退職時に、消化しきれなかった有給休暇を企業が買い取るケースもある。将来、買取りが必要となる未消化の有給日数の給与相当額について、国際会計基準では負債として認識することを求めている。 日本の会計基準ではこうした会計慣行は現時点では定着していないが、金額的にインパクトが大きい項目になり得るため、M&Aの買い手側が国際会計基準を適用している場合等は留意が必要となる。 ▷簿外債務としての未払労働債務(未払残業代等) 少子高齢化が進む我が国では、とりわけ地方での労働力不足が深刻となっている一方、これと相反する問題ともいえる長時間労働の是正とワーク・ライフ・バランスの改善を通した労働参加率の向上が喫緊の課題とされている。 長時間残業やパワーハラスメントに起因する過労死問題等もあり、潜在債務・簿外債務としての未払残業代等の存在は、多くの企業に共通の問題として認識されるべきものであるため、労務管理体制の構築・運用状況の巧拙は、事業上の重大なリスク要因となり得る。 M&A対象企業の労務管理体制の瑕疵により、M&A実行後、場合によっては買い手側で思わぬ痛手を被ることにもなりかねない。未払残業代も金額的に多額に上る項目であることから、M&Aにおける買収価格にも大きな影響を与える余地もあり、留意を要する。 未払残業代が発生するケースとしては、以下のようなケースが挙げられよう。 【実務事例13-1】 残業時間が打ち切り(定額)残業代の上限を超えているが、これを支払っていない。 「裁量労働制」や「年俸制」を採用していることから、残業代は支払っていない。 管理監督者の範囲を拡大解釈し、管理職に対して割増残業代を支払っていない。 残業時間の計算で30分未満の端数が切り捨てられている。 残業代や休日出勤・深夜残業等の割増賃金の算定に含めるべき手当を含めていない。 残業代を支払わないことについて従業員と文書で「合意」している。 残業代に関する労働債務の消滅時効は2年間(不法行為による場合は3年、債務不履行の場合は10年)とされることから、未払残業代の金額の把握には労力を要することが多い。直近での労働基準監督署等による調査結果等を踏まえ、必要に応じて弁護士等による法務デューデリジェンスと連携して事実の有無を把握する必要がある。 なお、法務面からみた労務分野の調査上の留意点については、[法務編] 【第5回】、【第6回】 を参照されたい。 ▷未払残業代に特に注意の必要な業種 厚生労働省労働基準局が発表する「毎月勤労統計調査(平成29年分結果確報)」によれば、業種別にみた一般労働者の平均的な1ヶ月当たりの所定外労働時間は以下のとおりとなっている。 ◆月間所定外労働時間(一般労働者) (出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査(平成29年分結果確報)」から筆者作成) 筆者らの経験則では、(上記統計結果とは若干異なるが)運輸業や旅館業、建設業等は一般的には残業時間が多い印象があり、特に小規模な旅館業においては労務管理体制の構築が遅れている場合も多く、誤解を恐れずに言えば、残業代の未払はある意味、「あって当たり前」のような印象を有している。 ▷未払残業代の調査手続 M&Aデューデリジェンスにおける未払残業代に関する主な調査手続を挙げると以下のとおりである。 ▷その他の留意事項 労働債務に関連して留意すべき項目として、預り金に計上されるべき源泉税や社会保険料についても未納となっているものがないか調査する必要があるだろう。従業員から預かった源泉税や社会保険料が納付期日までに納付されず、預り金に残ったままとなっていないか、もしくはそれらが他の支払等に流用されていないか等についても合わせて調査する必要があるだろう。 (了)
企業結合会計を学ぶ 【第5回】 「取得原価の算定方法」 -段階取得・一体取引- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、取得原価の算定方法に関して、段階取得・一体取引について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 段階取得 1 定義 例えば、企業結合が行われる前に、被取得企業の株式を一部取得し、その後、追加で株式を取得して、他の企業に対する支配を獲得することがある。このように「取得」が複数の取引により達成された場合を「段階取得」という(企業結合会計基準25項)。 株式を追加的に取得した場合だけでなく、合併などにおいても、取得企業の個別財務諸表では当該原価の合計額をもって取得原価となるが、連結財務諸表では企業結合日における当該時価を基礎として取得原価を算定するため、個別財務諸表上の取得原価と連結財務諸表上の取得原価の差額は、連結財務諸表における当期の損益として処理することとなる(企業結合会計基準90項、結合分離適用指針46項、46-2項)。 2 会計処理 段階取得における被取得企業の取得原価の算定は次のように行う(企業結合会計基準25項)。 3 個別財務諸表上の会計処理の留意点 企業結合日直前の被取得企業の株式の帳簿価額については、以下の点に留意する(結合分離適用指針46項)。 4 連結財務諸表上の会計処理の留意点 例えば、取得企業(吸収合併存続会社)の株式が交付され、取得企業が吸収合併直前に被取得企業の株式を保有していた場合の取得の対価は、取得企業が交付する取得企業の株式の時価(結合分離適用指針38項)と吸収合併直前の被取得企業の株式の時価(結合分離適用指針38項に準じて算定)を合算して算定し、吸収合併直前の被取得企業の株式の帳簿価額と合併期日の時価との差額は、当期の段階取得に係る損益として処理する。また、これに見合う金額は、個別財務諸表において計上されたのれん(又は負ののれん)の修正として処理する(結合分離適用指針46-2項)。 結合分離適用指針の「[設例4]取得原価の算定-段階取得(取得が複数の取引により達成された場合)の会計処理(取得企業が被取得企業の株式を保有していた場合)」が示されている。 投資会社が持分法適用関連会社と企業結合した場合には、支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価は持分法による評価額を指す(企業結合会計基準25 項(2)なお書き)ため、その場合には、企業結合日直前の被取得企業の株式(関連会社株式)の持分法による評価額と企業結合日の時価との差額は、当期の段階取得に係る損益とし、これに見合う金額は、のれん(又は負ののれん)の修正として処理する(結合分離適用指針46-2項)。 企業結合日直前の個別財務諸表上の関連会社株式の帳簿価額と持分法による評価額との差額は、のれん(又は負ののれん)の修正として処理する。 持分法による評価額には、関連会社株式に含めて処理されているのれんの未償却残高、未実現損益に関する修正額が含まれる。 5 基本的な考え方 企業が他の企業を支配することとなるという事実は、当該企業の株式を単に追加取得することとは大きく異なるものである。このため、被取得企業の取得原価は、過去から所有している株式の原価の合計額ではなく、当該企業を取得するために必要な額とすべきであると考えるものである(企業結合会計基準89項)。 つまり、取得に相当する企業結合が行われた場合には、支配を獲得したことにより、過去に所有していた投資の実態又は本質が変わったものとみなし、その時点でいったん投資が清算され、改めて投資を行ったと考えられるため、企業結合時点での時価を新たな投資原価とするのである(企業結合会計基準89項)。 個別財務諸表においては、段階取得によって支配を獲得しても、過去に所有していた投資の実態又は本質が変わったものとみなせない場合も多く、投資は継続していると考える方が適当であると考えられた。つまり、平成20年に改正された企業結合会計基準では、前述のとおり、段階取得における被取得企業の取得原価は、個別財務諸表においては従来どおり支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額をもって算定するのである。 一方、連結財務諸表においては、国際的な会計基準とのコンバージェンスを重視したものである(企業結合会計基準90項)。 Ⅲ 一体取引 企業結合会計基準は、複数の取引が1つの企業結合を構成している場合には、それらを一体として取り扱うと規定している(企業結合会計基準5項)。事業分離等会計基準も、複数の取引が1つの事業分離を構成している場合には、それらを一体として取り扱うと規定している(事業分離等会計基準4項)。 企業結合会計基準などでは、通常、複数の取引が1事業年度内に完了する場合には一体として取り扱うことが適当であると考えられるが、1つの企業結合を構成しているかどうかは状況によって異なるため、当初取引時における当事者間の意図や当該取引の目的等を勘案し、実態に応じて判断することとなるとしている(企業結合会計基準66項、事業分離等会計基準62項)。 「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号)7-3項では、複数の取引が行われる場合、通常、取引の手順に従って、それぞれの取引について会計処理が行われるとしている。 複数の取引が一体として取り扱われるかどうかは、事前に契約等により複数の取引が1つの企業結合等を構成しているかどうかなどを踏まえ、取引の実態や状況に応じて判断するものと考えられるとしている。 前述のように、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準では、「通常、複数の取引が1事業年度内に完了する場合には一体として取り扱うことが適当であると考えられる」としているが、これは例示と解される。つまり、複数の取引が1事業年度内に完了するかどうかを基準にして画一的に判断するのではなく、取引の実態や状況に応じて実質的に判断すべきものと解される。 (了)
〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第8回】 「電子データを営業秘密として管理する方法」 弁護士 影島 広泰 -Question- 紙に印刷された情報については「秘」と記載しておけば営業秘密として管理できることは分かりますが、電子データの場合にはどうしたらよいでしょうか。 -Answer- ファイル名にマル秘表示をしたり、文書のヘッダーやフッターにマル秘表示をする方法のほか、ファイルが保存されているフォルダにパスワードを設定しておく方法なども考えられます。 自社の情報が他社に漏えいしてしまった際に、その情報が不正競争防止法の「営業秘密」の要件を満たすように秘密として管理してあれば、その会社に対して情報の廃棄や損害賠償の請求をすることができる。 「秘密として管理してある」といえるためには、「合理的な方法で管理する(秘密管理措置)」ことで、情報に接した人間にとって秘密であることが十分に認識できるようになっていることが必要である。具体的には、(ⅰ)対象情報の一般情報(営業秘密ではない情報)からの合理的区分と、(ⅱ)対象情報について営業秘密であることを明らかにする措置を講じることになる(詳細は【第7回】を参照されたい)。 秘密管理措置=「(ⅰ)合理的区分」+「(ⅱ)営業秘密であることを明らかにする措置」 今回は、具体的にどのように管理しておけば、営業秘密として保護されるのかを解説する。 1 紙媒体の場合 営業秘密として保護したいと考えている紙媒体(例えば、顧客リストをプリントアウトしたもの)については、専用のファイルに綴じ込んだ上で、ファイルの背表紙に「秘」と記載しておく、あるいは鍵のかかるキャビネットに保管しておくなどが典型的な方法であることは、【第7回】で述べたとおりである。 2 電子媒体の場合 電子媒体の場合も、記録媒体や保管ケースにマル秘の表示をしておくなど、基本的には紙媒体と同じ方法を用いることができる。 また、電子データの場合には、媒体にマル秘の表示をするのではなく、電子ファイルやフォルダの名前にマル秘と入れておくことも考えられる(例えば、「【秘】顧客一覧.xls」のようなファイル名にする)。 ファイルを開くためのパスワードを設定しておくことも1つの方法である。パスワードを設定してあれば、それを開こうとした人にとって、それが秘密として管理されている情報であることが十分に認識できることになるからである。 さらに、経済産業省の営業秘密管理指針によれば、電子ファイルそのものではなく、フォルダの閲覧にパスワードを設定しておくことも考えられるとされている。これは実務的には有効なヒントとなる。例えば、あるプロジェクトを始めるときに、最初は社内ルールに従ってエクセルファイルのヘッダーに「【秘密】」などと記載していたのに、プロジェクトが佳境にさしかかって忙しくなってくると、いつの間にかそのような記載がないファイルが増えてきてしまうことがあるのではないだろうか。 実際に、営業秘密の案件を取り扱っていると、一番肝心な最終バージョンのファイルに「【秘密】」と記載されていないことがある。そのような場合でも、せめてファイルが保存されていたフォルダにパスワードが設定されていれば、裁判になったときに「フォルダにはパスワードが設定されており、秘密管理措置が講じられていた」と主張することができる。 そのため、営業秘密を取り扱うことが考えられるプロジェクトを始める際には、そのプロジェクトのファイルを保存するフォルダにパスワードを設定しておくと安心である。 ◆電子媒体に対する秘密管理措置(営業秘密管理指針p.9) 3 物件に営業秘密が化体している場合 物件に営業秘密情報が化体している場合にはどうしたらよいであろうか。例えば、製造機械や金型、高機能微生物、新製品の試作品などである。これらにおいては、金型にマル秘と記載しておくわけにもいかないし、鍵のかかるところに保管しておくことも難しい。 このような場合には、物件がある部屋の扉に「関係者以外立入禁止」の張り紙をしておくなどとして、その物件を秘密として管理する意思があることを分かるようにしておくことが重要である。 そうしておけば、万が一その物件の形状等が盗まれた際に、それを盗んだ者は、「『関係者以外立入禁止』と記載された扉の向こうに保管されている物件が秘密であると思わなかった」などという不合理な言い訳をしなければならないことになる。 「秘密管理措置」とは、「合理的な方法で管理すること(秘密管理措置)により、秘密として管理された情報であることが分かるようにしておくこと」であることがお分かりいただけるであろう。 ◆物件に営業秘密が化体している場合の秘密管理措置(営業秘密管理指針p.10) 4 媒体が利用されない場合 無形のノウハウや従業員が職務として記憶した顧客情報のように、媒体が利用されていない情報であっても、営業秘密として保護することは可能である。 もっとも、何が営業秘密として保護されており、何が保護されていないのかが分からない状態で、無形のノウハウや記憶した顧客情報が営業秘密であるとされてしまうと、転職しようとする従業員の職業選択の自由を不当に侵害する可能性がある。 そこで、原則として、下記のような形でその内容を紙その他の媒体に可視化することが必要になるとされている。 ◆媒体が利用されない場合の秘密管理措置(営業秘密管理指針p.11) 一方で、情報量、情報の性質、当該営業秘密を知りうる従業員の多寡等を勘案して、その営業秘密の範囲が従業員にとって明らかな場合(例えば、未出願の発明や特定の反応温度、反応時間、微量成分、複数の物質の混合比率が営業秘密になっている場合など)には、必ずしも内容そのものが可視化されていなくとも、当該情報の範囲・カテゴリーを口頭ないし書面で伝達することによって、従業員の認識可能性を確保することができるものと考えられるとされている。 (了)
《速報解説》 6月公表のディスクロージャーWG報告を受け 記述情報や役員報酬等の有報等記載事項を示した 改正開示府令(公開草案)が公表される 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年11月2日、金融庁は「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案を公表し、意見募集を行っている。 これは平成30年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告において、「財務情報及び記述情報の充実」、「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」、「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」に向けて、適切な制度整備を行うべきとの提言を受け、有価証券報告書等の記載事項を改正するものである。 意見募集期間は平成30年12月3日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主に次の改正を行う。具体的な規定については、第二号様式「有価証券届出書」の規定を示す。 1 財務情報及び記述情報の充実 2 建設的な対話の促進に向けた情報の提供 3 情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組 Ⅲ 適用時期等 改正後の規定は公布の日から施行する予定である。 改正後の規定は、以下の適用予定である。 (了)
《速報解説》 国税庁、初の自動的情報交換により 64ヶ国・地域から55万超の非居住者金融口座情報を受領 ~国外財産調書等、現保有情報との分析により海外資産隠し・租税回避へ対応~ 税理士・行政書士 島田 弘大 1 はじめに 国税庁は平成30年10月31日に「CRS情報及びCbCRの自動的情報交換の開始について」を公表した。 CbCR(Country by Country Report:国別報告事項)及びCRS(Common Reporting Standard:「共通報告基準」)はOECDによる国際基準やBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトに基づいたものであり、日本でも昨今の税制改正により対応が始まったものである。今回はそれらの自動的情報交換の状況について初めて公表が行われた。 なお、以下文中の意見に関する部分について私見が一部含まれることをご容赦いただきたい。 2 CbCRの自動的情報交換の状況 CbCR(Country by Country Report:国別報告事項)は、BEPSプロジェクトの勧告(行動13「多国籍企業情報の文書化」)に基づくもので、日本では平成28年度税制改正(参照:「移転価格税制に係る文書化制度に関する改正のあらまし」)により、特定多国籍企業グループの最終親会社等がCbCRを国税庁に報告する制度が導入された。 報告されたCbCRは、平成28年4月1日以後に開始する最終親会計年度終了の日の翌日から18ヶ月以内(次年度以降は15ヶ月以内)に外国税務当局に提供することとされていたが、今回はその交換の状況が公表された形だ。 国税庁の公表によると、国税庁は日本に所在する最終親会社609社分のCbCRを39ヶ国・地域に提供した一方、558社のCbCRを29ヶ国・地域から受領したとのことだ(速報値:10月31日現在)。 (※) 国税庁ホームページより 受領したCbCRの情報は、移転価格のリスク評価等に使用することとされている。 3 CRSの自動的情報交換の状況 また、CRS(Common Reporting Standard:「共通報告基準」)に基づく非居住者金融口座情報(CRS情報)の自動的情報交換についても初回の交換状況について公表された。 CRS情報の初回交換において、国税庁は日本の非居住者に係る金融口座情報89,672件を58ヶ国・地域に提供した一方、日本の居住者に係る金融口座情報550,705件を64ヶ国・地域から受領したとのことだ(速報値:10月31日現在)。 (※) 国税庁ホームページより これらの受領した金融口座情報については、国外財産調書等の様々な情報と併せて分析を行い、海外への資産隠しや国際的租税回避行為等の問題の解決に活用される予定である。 日本において、CbCRについては平成28年4月1日以後に開始する最終親会計年度終了の日の翌日から18ヶ月以内に外国税務当局に提供することとされており、またCRS情報の交換に関しては平成30年9月までに初回交換を行うこととされていた。つまり、いずれも始まったばかりの制度であり、またこれらの情報交換の実施をこれから新たに開始する国・地域もあることを考えると、交換件数は今後も増えていくと考えられる。 4 (参考)平成29事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要 なお、同日に、「平成29事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要」も公表されているため、こちらも触れておきたい。 租税条約等に基づく情報交換には、「要請に基づく情報交換」、「自発的情報交換」及び「自動的情報交換」の3つの類型がある。この情報交換は上記CRSやCbCRが導入される前から運用されていたものであるが、これらの情報交換について最新事務年度の状況が公表された。「自発的情報交換」については、ほぼ前年並みの件数となっているものの、「要請に基づく情報交換」及び「自動的情報交換」については、増加傾向が続いている。 CRS・CbCRの交換も始まり、またこれらの租税条約等に基づく従来からの情報交換も件数が増えているところを見ると、やはり国際的な脱税等の把握や防止に対する取組みは明らかに進んでいると言えるだろう。 (了)
2018年11月1日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.292を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.70- 「政府税調のアジェンダとなった日本版IRA(TEE型税制支援)」 東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹 年末の税制改正大綱公表に向けて政府税制調査会の議論が始まった。10月23日の会合を見ると、「老後に備える資産形成」について議論が行われている。 安倍総理の3選目の政策テーマは「人生100年時代」であり、それに対応したものであろう。 わが国高齢者世帯の経済状況を見ると、その収入の65%は公的年金となっている。さらには、50%の世帯が公的年金のみで生活しているという状況である(国民生活基礎調査)。 しかし公的年金は、賦課制度の下で人口構成が変化していくので、マクロ経済スライドが発動され、その所得代替率は、平成62年(2050年)度には50%に落ち込む(厚生労働省試算)。 このような状況は他の先進諸国も似たり寄ったりであり、彼らは私的年金を充実させることで公的年金の不足を埋めようとしてきた。しかし、わが国の私的年金制度は歴史が浅く、高齢世帯の収入に占める割合もごく一部である。 * * * 昨今ではiDeCo(個人型DC)が人気を集めているが、加入期間が60歳までであったり払い込みの上限が低かったりと課題もある。iDeCoは後述するように、EET型、つまり払い込み時には所得控除があり、給付時には公的年金等控除があるので、大きな減税メリットがある。これは裏を返せば、税収が大きく脱漏しているということであり、税制当局としてはiDeCoの一方的な拡充には応じられないということでもある。 また、現行私的年金制度は、縦型に分立しており、働き方改革で多様になる勤労形態にフィットしていない。 そこで、現在ある貯蓄・投資非課税制度も含めて、見直し・充実していく必要がある、というのが問題意識だ。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典)政府税制調査会「財務省説明資料(個人所得課税)」P13より * * * 税制の支援方法には、2種類ある。 第1が「拠出時課税」「運用・給付時非課税」のTEE型であり(Tは課税、Eは非課税)、第2が「拠出時非課税」「運用時非課税」「給付時課税」のEET型である。 なお、下図のとおり、おおむね私的年金はEET型、貯蓄・投資非課税制度はTEE型となっている。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典)政府税制調査会「財務省説明資料(個人所得課税)」P14より 米国では、EET型のIRAとTEE型のロスIRAが併存し、勤労者の選択に応じて選択できるようになっている。税率が同じであれば、EET 型とTEE 型の経済的価値は同値である。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典)政府税制調査会「財務省参考資料(個人所得課税)」P23より かつて金融庁は、TEE型の日本版IRAを検討してきた。 筆者は、金融界・証券界・経済界の有志と、ここ10年来、日本版IRAの提言を行ってきた。ようやくこの問題が政府税調でも取り上げられるのか、と感慨深いものがある。 なお、毎年の提言内容は、ジャパン・タックス・インスティチュートのホームページから入手できるので、是非一読在りたい。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第61回】 公認会計士 佐藤 信祐 《第11章》 平成22年度から平成28年度までの議論 1 日本租税研究協会が公表した研究報告 日本租税研究協会から平成24年に「外国における組織再編成に係る我が国租税法上の取扱いについて」、平成26年に「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)における課税上の取扱いについて」がそれぞれ公表された。いずれとも、外国で組織再編が行われた場合において、我が国の課税関係がどのようになるのかについて解説した内容である(なお、後者の報告書については、現地における連結納税制度、パススルー課税も対象とされている)。 例えば、米国子会社同士が合併した場合において、その株主が日本法人であるときに、当該日本法人が、株主として、日本でどのような課税関係になるのかについて検討されている。もちろん、米国における課税関係は米国法の問題であるため、本報告書の対象からは除外されている。 やや実務のニーズに対応するために強引な解釈をした報告書であるという批判もないわけでもないが、アカデミックな分析は置いておいて、実務においては、参考にすべき報告書であるということが言える。 2 国税局の見解 (1) 平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例 平成22年度から平成28年度までに公表された改正法人税基本通達では、条文から明確なものがほとんどであり、特記すべき事項はなかった。 そして、平成22年8月10日に公表された「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例(グループ法人税制関係)」、同年10月6日に公表された「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例(グループ法人税制その他の資本に関係する取引等に係る税制関係)」では、平成22年税制改正において導入されたグループ法人税制の取扱いが詳細に解説されている。 これらについても、基本的に、条文から明らかなものがほとんどであったが、後者の質疑応答事例のうち、問11では、実在性のない資産が貸借対照表に計上されている法人が解散した場合における期限切れ欠損金の取扱いについて記載されているため、一読しておく価値はあると思われる。 (2) 文書回答事例 国税庁文書回答事例として、平成22年2月22日「企業再生税制適用場面においてDESが行われた場合の債権等の評価に係る税務上の取扱いについて」が公表された。特記すべき事項としては、非適格現物出資により受け入れた債権の評価について明らかにされている点である。 具体的には、「債権者が有する債権のうちにDESの対象とされなかった債権が存在する場合、DESの対象となる債権が債務者の株式に変わるため、DESの対象とされなかった債権は、DESの対象となった債権(株式)に優先して回収される」ことを理由として、 と解説されている。 なお、本文書回答事例は、経済産業省経済産業政策局産業再生課長の私的研究会である「事業再生に係るDES研究会」が公表した「事業再生に係るDES(Debt Equity Swap:債務の株式化)研究会報告書」に基づいて行われたものである。 そして、平成25年9月26日「同一の者による支配関係がある法人間において、一方が民事再生計画に基づき、『100%減資』及び『債権の現物出資を受けて新株を発行するDES』を同日に行った場合の支配関係の継続について」では、100%減資前に支配関係があり、100%減資+DESにより完全支配関係が成立した事態に対して、100%減資により一瞬だけ支配関係が途切れたと解するのではなく、100%減資前から支配関係が継続していたと考えることが明らかにされている。 そのほか、平成23年12月26日「被合併法人から適格合併により移転を受けた減価償却資産に係る償却限度額の計算について」、平成24年8月3日「グループ法人税制における譲渡損益の実現事由について」、平成25年1月17日「複数回の適格合併等により移転を受けた特定資産の取得日の判定について」、平成26年11月12日「持株会社を株式交換完全親法人とする株式交換における事業関連性の判定について」が公表され、平成29年度でも、平成29年3月8日「議決権のない株式を発行した場合の完全支配関係・支配関係について」、平成29年3月30日「医療法人が行う吸収合併の登記が遅れた場合の取扱いについて」、平成29年11月7日「株主が個人である法人が適格合併を行った場合の未処理欠損金額の引継ぎについて(支配関係の継続により引継制限の判定をする場合)」、平成29年11月29日「グループ法人税制で繰り延べた譲渡利益の戻入の要否」、平成29年12月12日「株式の保有関係が変更している場合の支配関係の継続要件の判定について」、平成30年1月26日「合併法人の株主に公益財団法人が含まれている場合の支配関係の判定について」が公表されているが、条文により明らかにされているもの又は国税庁から既に公表されている公式見解で明らかなものがほとんどであったため、本稿では、詳細な解説は省略する。 (3) 質疑応答事例 国税庁質疑応答事例として、「分割と合併を同日に行う場合に当該分割により移転する資産及び負債に係る譲渡損益の取扱いについて」「事業の譲受けに伴い賞与支払債務の履行に係る負担を引き受けた場合の課税関係について」が公表された。 このうち、前者は、非適格分割により分割承継法人にその有する資産又は負債の移転をした場合には、原則的には、当該分割を行った日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入されるものの、分割の日と同日に、分割法人が合併により解散してしまうと、その最後事業年度は、事業年度開始の日から本件合併の日(本件分割の日と同日)の前日までの期間となってしまい、分割を行った日の属する事業年度がないという問題が生じる。この点につき、最後事業年度(本件合併の日の前日の属する事業年度)の益金の額又は損金の額に算入することが明らかにされている。 そして、後者については、本連載【第54回】で解説した通り、賞与引当金に相当する金額につき、短期重要負債調整勘定として処理することができないことが明らかにされている。 それ以外の質疑応答事例については、条文により明らかにされているもの又は国税庁から既に公表されている公式見解で明らかなものがほとんどであったため、本稿では、詳細な解説は省略する。 (※) ややマニアックな論点であるが、「被合併法人から引継ぎを受ける未処理欠損金額に係る制限の適用除外について」では、法人税法施行令112条2号イ~ハの最後に記載されている「同日が当該5年前の日以前である場合を除く。」の文言の読み方が解説されている。興味のある読者は、一読されたい。 3 ヤフー、IDCF事件 法人税法132条の2に規定されている包括的租税回避防止規定が最初に適用された事件であるヤフー・IDCF事件の最高裁判決(最一小判平成28年2月29日TAINSコードZ888-1984、最二小判平成28年2月29日TAINSコードZ888-1983)が公表された。 従来の経済合理性基準ではなく、制度濫用基準に基づいて租税回避を捉えていたため、多くの判例評釈が公表されている。特に、東京地裁判決が公表された後には、多くの批判があり、租税回避の定義が変わる可能性があるとも言われていた。 しかしながら、「行為・計算の不自然性が全く認められない場合や、そのような行為・計算を行うことの合理的な理由となる事業目的等が十分に存在すると認められる場合には、他の事情を考慮するまでもなく、不当性要件に該当すると判断することは困難である(徳地淳・林史高「判解」ジュリスト1497号86頁(平成28年))」という調査官解説が公表されたことにより、アカデミックにはともかくとして、実務上は、従来の経済合理性基準と変わらないということになり、本稿校了段階では、実務上、本件の最高裁判決の影響はほとんど見受けられない。 * * * 最終回となる次回では、第12章として平成29年度及び平成30年度税制改正について解説を行い、終章として本連載の総括を行う予定である。 (了)