山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第55回】 「税制改正大綱から考える」 税理士 山本 守之 2019年度の税制改正は、10月からの消費税率の10%への引上げに備え、景気を下支えする改正となりました。特に、車や住宅への減税とバラマキ政策に重点が置かれています。 今年は4年に一度の春の統一地方選と3年に一度の夏の参院選実施が重なります。東京都に偏る税収を地方に再配分するなど、地方へも配慮されています。 また、安倍政権が掲げる「人生100年時代」に向けた改革の一環として、今後、個人所得税の見直しを行うとしています。 1 消費税 (1) 消費税率の引上げ 消費税は1989年(平成元年)に初めて3%で導入され、1997年(平成9年)に5%に引き上げられ、2014年(平成26年)4月1日に8%に引き上げられました。 その後2回の引上げ延期により、平成31年10月1日に10%に引き上げられる予定です。今回は同時に8%の軽減税率制度が導入されます。 軽減税率で8%に据え置かれる対象品目は食品表示法に規定する食品(酒税法に規定する酒類を除く)と、定期購買契約が締結された週2回以上発行される新聞です。 【軽減税率制度の対象品目】 ※クリックすると別ページで拡大表示されます。 (出所) 財務省資料 (2) 外食等の範囲 軽減税率の適用対象外となる外食等とは、飲食設備のある場所において顧客に飲食させるサービスです。ケータリング、出張料理等は外食等に含まれますが、有料老人ホームでの食事の提供や学校給食等は除かれます。 【外食に当たるもの当たらないもの】 (出所) 財務省資料 (3) 引上げに伴う対策 消費税率の引上げによる負担増は国、地方を合わせて5.7兆円程度です。 昨年度実施したたばこ税や所得税の見直しなどにより0.6兆円程度財源を確保し、軽減税率制度の実施により1.1兆円程度負担が軽減されるとしているので、全体でみると5.2兆円程度の負担増と考えられます。 幼児教育の無償化、年金生活者支援給付金の支給等で2.8兆円程度、消費税負担増に対する診療報酬等による補てん等が0.4兆円程度で合計3.2兆円程度の受益増と考えられます。 これらにより経済への影響を2兆円程度に抑制されるとしています。 臨時・特別予算措置としてポイント還元、プレミアム付商品券、すまい給付金、次世代住宅ポイント制度、防災、減災、国土強靭化等で国費より2兆円程度、税制上の支援としては、住宅ローン減税の拡充、自動車の取得時及び保有時の税負担の軽減として0.3兆円程度減税されます。これにより、2.3兆円程度を措置しますので、経済の影響を十分に乗り越えられる対策としています。 (4) 税率引上げによる価格設定について 「消費税還元セール」などは消費税転嫁対策特別措置法により禁止されていますが、「10月1日以降〇%値下げ」など、消費税と直接関連した形でなければ問題ありません。 また、中小小売事業者に対しては、10月の消費税率引上げ後から一定期間に限り、ポイント還元策により税率引上げ前後の需要に応じて柔軟に価格設定ができます。 小売事業者が自ら経営判断により値引きを行うことは法令上問題ありませんが、事業者間の取引については、下請事業者等がしわよせを受けないように監視するとしています。 (5) 住宅に係る措置 消費増税前の駆け込み防止と、増税後の反動減を抑えるための措置を講じています。消費税率が10%となった後の住宅取得等の住宅ローン控除は、控除期間を現行 10 年から13 年に延長します。当初の10年間は今と同じ仕組みですが、11 年目以降の3年間については、毎年建物購入価格の2%分を3等分した額と、年末の住宅ローン残高の1%の額を比べ、少ない方を所得税や住民税から控除します。適用期間は2019年 10 月1日から2020年 12 月 31日です。 また、一定の条件を満たす購入者に一時金を渡す「すまい給付金」の引上げも行われます。現在は年収510万円以下の人に最大30万円としていますが、消費税率を10%に引き上げた後は年収775万円以下の人を対象に最大50万円を支給します。 省エネ・耐震性能に優れた住宅の新築や改築にポイントを付与する仕組みも導入します。 【住宅ローン控除】 (出所) 財務省資料 2 法人税 〇 研究開発税制 研究開発税制は、企業の研究開発費の一部を法人税額から控除するものです。中長期的な成長や革新的な技術の誕生を促す観点から研究開発投資に取り組む企業の税負担を軽減し、次の研究開発への挑戦を後押しする狙いがあります。 【研究開発税制の改正】 (出所) 経済産業省資料 ① 総合型について 十分な収益が発生していない中でも研究開発を行うベンチャー企業については、控除上限を法人税額の25%としていましたが、独自性のある技術開発を進めている研究開発型ベンチャー企業の場合は、控除上限を約1.5倍の40%まで引き上げます。 また、税額控除率及び控除上限の上乗せ措置について、適用期限を2年延長します。 なお、対象となるベンチャー企業は創立後10年以内で翌期繰越欠損金を有することになる法人(大法人の子会社等を除く)とします。 ② オープンイノベーション型について 質の高い研究開発への支援を強化する観点から、業種の垣根や企業規模を超えて進めるオープンイノベーション型については控除上限を引き上げます。 共同研究や委託研究にかかった費用については通常の控除とは別に一定割合を控除できます。大企業が中小企業に研究を委託したり共同研究をしたりした場合は、費用の20%を法人税額から控除できます。 今回の税制改正では、研究開発型ベンチャーとの連携による研究開発の場合はさらに5%を上乗せし、25%を法人税額から控除できるようにします。控除上限額も、現在は法人税額の5%の控除でしたが、10%まで引き上げます。 【オープンイノベーション型の対象範囲の追加等】 (出所) 経済産業省資料 大学等との共同研究に係る費用について、研究開発のプロジェクトマネジメント業務等を担う者の人件費の適用を明確化します。 3 資産税 (1) 個人事業主の事業承継税制の創設 個人事業主による事業承継をしやすくし、子供など後継者が事業を引き継ぐ際に土地や建物にかかる贈与税などの支払いを猶予する新たな税優遇制度が創設されます。 高齢化が進むなか廃業を防ぐことが狙いですが、主に対象となるのは家族経営をしているような個人事業主です。 既存の事業用小規模宅地特例との選択適用を前提に平成31年1月1日から平成40年12月31日までの10年間の措置となります。 法人の事業承継税制と同様、事前に承継計画を作成して確認を受ける仕組みとして、承継後は事業・資産保有の継続を定期的に確認し、節税などの悪質な事業承継の防止策も作ります。 事業用宅地、建物、その他一定の減価償却資産については、課税価格の100%に対応する額を納税猶予できます。 法人の事業承継税制と同様、担保を提供し猶予取消しの場合は猶予納税額及び利子税を納付することとします。相続時、生前贈与時いずれも適用可能となります。 2018年度には中小企業向けの事業承継の税制が見直されましたので、非上場株式の相続税で2年連続の優遇策となります。 (2) 小規模宅地特例の見直し 個人事業主の事業承継税制創設に伴い小規模宅地特例の見直しを行います。この特例は宅地の評価価格を8割減額し、相続税負担を減らせるものです。事業用小規模宅地特例は、事業承継への配慮として400平方メートルまで相続税の課税価格を80%減額するものです。 4 車体課税 (1) 消費税対策 2019年10月の消費税増税後の消費の落ち込みを視野に入れて大きく見直されました。 自家用自動車に係る自動車税を恒久的に引き下げます。最大4,500円(660cc超1,000cc以下の場合)が減税されます。また、10月以降に新たに導入される燃費課税は車の環境性能に応じて価格の0~3%となっていますが、増税後の1年間に限り一律1%を引き下げることになります。 自動車重量税に適用されるエコカー減税は、燃費性能に応じ課税額から減税する仕組みとなっていますが、電気自動車、プラグインハイブリット車、20年度の燃費基準を40%上回るガソリン車が対象となります。電気自動車や極めて燃費水準が高いハイブリット車に重点が置かれるため、基準に満たない車は減税額が縮小することになります。 【自動車税率の引下げ】 (出所) 経済産業省資料 【自動車重量税のエコカー減税の見直し(乗用車)】 (出所) 経済産業省資料 (2) 地方財源について 自動車税の恒久減税により地方税が減収しますが、その地方税財源の補てんとして、地方税の見直しにより確保できない分の800億円程度を以下の措置として全額を国費で補てんします。 【車体課税(地方税)の現状】 (出所) 総務省資料 【車体課税改正に伴う財源】 (出所) 総務省資料 今後、電気自動車やカーシェア(保有から利用)への流れの普及に対応できる税制の抜本的改革が必要になります。 5 国際課税 〇 電子経済の課税上の課題 ITの進化に伴い経済や社会の環境変化が著しく変化している状況から、従来の国際課税の見直しを進めています。 G20では、グローバルなIT企業への国際課税の見直しについて2020年までに長期的解決策のとりまとめを行うことを確認しました。「電子商取引など、国境を超えた取引で得た利益にどう課税するかは大きな課題であり、各国が合意できるような解決策に取り組む」としています。 欧州の状況として、EUでは、欧州委員会(EC)が2つのEU指令案を公表しました。2019年3月の合意に向けて議論を継続中です。 フランスでは2019年1月から、イギリスでは2020年4月からデジタル・サービス・タックスの導入を表明していますが、課税強化を急ぐ欧州に米国と中国が反発しています。 日本はG20で今年初めて議長国を務めますが、意見の違いを埋めることができるのでしょうか。 (了)
これからの国際税務 【第11回】 「与党大綱の提案する過大支払利子税制の改正」 早稲田大學大学院会計研究科 教授 青山 慶二 1 過大支払利子税制の強化 昨年12月の与党税制改正大綱では、BEPS対応が諸外国で進んでいることを踏まえ、利子の損金算入制限に関し、我が国の過大支払利子税制について、対象純利子の範囲の拡大及び損金算入限度額の算定方法の見直し等により、税源浸食リスクに対応した強化を行う提案がされている。 国際税務関係では、評価困難な無形資産取引について導入される移転価格算定方法(所得相応性基準)と並ぶ重要な改正案であり、以下にその背景と改正内容を解説する。 2 利子控除を利用した税源浸食の巧妙化への対応 BEPS最終報告によれば、利子を利用した利益移転として、①関連者間借入れを用いて過大な利子の損金算入を発生させるケースのみならず、②企業グループ内の高課税法人に第三者借入れを集めるケースの税源浸食も問題視されてきた。これを踏まえた最終報告では、借入れ先の国内・国外の区分及び関連者・非関連者の区分にかかわらず、調整所得金額の10~30%を超える部分の利子支払いの損金算入を制限する固定比率方式を共通アプローチとして採用することを勧告した。 後者のケースは、我が国のように、法人実効税率がOECD平均を上回る高収益が見込める市場であって、かつ、過大支払利子税制が、非関連者への利子支払いを原則として対象から除外しつつ、控除制限の閾値も調整所得金額の50%と相対的に高い国において、特に悪用されるリスクがあるのではと懸念されていたが、立法当局にも我が国でのその兆候が認知されていたようである。また、BEPS勧告の共通アプローチに即した改正が米国・EUを中心にすでに進行しており、グループ内の我が国企業が負債利子の負担を押し付けられるリスクがより拡大しつつあるとの認識も、改正案を後押ししたものと思われる。 3 改正案で注目すべき3つの焦点 (1) 非関連者利子の内外無差別での取込み 改正案のうちこの変更は、定性的にみて納税者への影響が最も大きいと懸念される部分と思われる。そもそも、内外無差別、かつ非関連者間を含む利子の損金算入の制限となると、これまでの法人税制が維持してきた資本・借入金間のファイナンスコスト(配当・利子)の課税上の取扱い区分(税引後支払い・損金算入)への抜本的な修正となり、法人所得課税ルールに関する体系的改正の様相を呈しかねないからである。 しかし、改正案の以下の分析を踏まえると、その懸念は小さいと考えられる。すなわち、①従来の制度においても、関連者間借入れに非関連者が介在する場合の当該非関連者への利払いについては、対象利子に追加されていたこと、②受取側で我が国の課税所得に含まれる利子等は対象外とされているが、この点は改正前後において修正はないことから、本改正案はあくまで税源浸食対応の観点から設計されたBEPS勧告の枠内にとどまるものと位置づけられるからである。すなわち、国内銀行からの通常の経済活動に伴う借入に本制度が適用された場合に発生が懸念される二重課税の懸念などは払しょくされている。 また、純支払利子等の額が2,000万円以下(従来は1,000万円以下)の場合を適用除外としている点にも、重要なBEPSリスクに絞った制度設計である点がうかがわれる。 (2) 非課税子会社配当の調整所得からの除外 調整所得は、税引後当期所得に当期の税額・減価償却費・純支払利子額を加算したものであり、我が国では、純支払利子が調整所得の50%を超える場合にその超過分を損金算入制限の対象とするとされてきた。ただしその際、調整所得には、BEPS勧告とは異なり、非課税となる子会社からの受取配当額も含むとされてきたことから(その分損金算入限度が拡大する効果あり)、我が国の中間法人を用いたハイブリッドミスマッチの租税計画の余地について懸念されていたのである。 改正案は、この懸念を解消するため、調整所得には非課税とされる子会社からの受取配当を含まないとされている。 (3) 控除制限の閾値の20%への引下げ 我が国の過大支払利子税制の控除制限の閾値は調整所得金額の50%と、BEPS勧告の10~30%との乖離は大きかった。対象となる純利子や調整所得金額についての議論がBEPSプロジェクトで調整される中で、諸外国の改正動向を見ても、一般的な利子控除制限としてBEPS勧告に沿った改正がEU指令に基づき欧州諸国で進展するのに加えて、我が国と同様50%の基準値を参照してきた米国も、2018年改正ですべての純支払利子を対象に30%への修正を行っている(米国では、2022年度以降は調整所得金額に償却費の加算を廃止する方向で更なる課税強化も予定)。 与党大綱の改正案では、そのような環境下で、上記の(1)、(2)の要件を踏まえ、かつ、ビジネスへの影響も勘案して10~30%の中間値の20%を選択したものと思われる。ミニマムスタンダードとされるBEPS項目と異なり、利子控除制限のように共通アプローチとして、各国に一定の裁量が認められる項目についての国内立法として、本改正案は妥当な選択例であると考えられる。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第34回】 「別表6(24) 中小企業者等が給与等の引上げを行った場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(24)付表 雇用者給与等支給増加重複控除額の計算に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 平成30年度の税制改正関連のうち、【第28回】から【第30回】までは賃上げ・投資促進税制(改正前 所得拡大促進税制)、【第31回】から【第33回】までは、地方拠点強化税制における雇用促進税制(改正前 雇用促進税制)関連の別表をそれぞれ採り上げた。 今回は、中小企業者が平成30年4月1日以後に開始する事業年度で両制度を重複適用する場合に使用する、「別表6(24)付表 雇用者給与等支給増加重複控除額の計算に関する明細書」の記載の仕方を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、青色申告書を提出する中小企業者等が平成30年度税制改正後の租税特別措置法第42条の12の5第2項(給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除)の規定の適用を受ける場合において、同法第42条の12第1項もしくは第2項(地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除)の規定の適用を受ける場合に作成する。 両制度の概要については、それぞれ【第28回】から【第30回】までの解説と、【第31回】から【第33回】までの解説を参照してほしい。 両制度の重複適用を受ける場合には、政策目的の重複調整として、次の算式に相当する金額を税額控除限度額の計算における前年度からの給与等支給増加額から控除し、その残額を基礎として税額控除限度額を計算する。 (※1) 当期の雇用者増に係る地方拠点強化税制の適用者を合計した数(地方事業所基準雇用者数を限度)をいい、次の算式により求めた数となる。 平成30年4月1日以後に開始する事業年度で重複適用する場合には、まず別表6(19)と6(19)付表を作成し、大企業等(※2)の場合であれば、6(23)と6(23)付表1に6(23)付表2を加えて作成し、中小企業者(※2)の場合であれば、6(24)に6(24)付表をそれぞれ加えて作成することになる。 (※2) 中小企業者とは、資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人でその発行済株式又は出資の総数又は総額の一定割合以上を大規模法人に所有されていない法人及び資本又は出資を有しない法人で常時使用する従業員の数が1,000 人以下の法人をいい、それ以外を大企業等という。 なお、今回の記載例では、中小企業者が重複適用する場合の例を採り上げるので、6(19)、6(19)付表、6(24)、6(24)付表を作成することになるが、6(19)と6(19)付表は【第33回】で解説した内容と同一であり、設例の条件や金額等も一緒なので解説を省略している。また、6(24)もほぼ【第30回】で解説した内容と一緒なので、金額の違う部分のみの解説にとどめている。 ▼ 注意!▼ なお、別表6(24)付表については、国税庁からは「平成30年4月1日以後終了する事業年度分」と「平成30年6月1日以後終了する事業年度分」の2種類が用意されている。 これは前回と同様に、後者が、地域再生法の一部を改正する法律が平成30年6月1日に公布・施行されたことに対応したタイトルや裏面の文言等の軽微な改正をしたことによるもので、様式・内容は両者とも一緒である。したがって、改正前の様式を使用しても支障はない。 Ⅲ 「別表6(24)」「別表6(24)付表」の書き方と留意点 以下の解説では、【第33回】で解説した別表6(19)と6(19)付表がすでに作成済みとなっていることを前提に、別表6(24)付表の書き方を中心に解説する。 使用している事例の数値はそのまま用いており、解説内容が重複する部分については省略しているので、必要に応じて過去の解説も併せて参照していただきたい。 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成30年4月1日以後開始する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 ◆別表6(24) 〔中小企業者等税額控除限度額の計算〕欄 ◆別表6(24)付表 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例70(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(措法35) (1) 適用要件 個人が、次に掲げる場合に該当する居住用財産を譲渡したときは、居住用財産の譲渡所得の特別控除として、その譲渡所得の金額から3,000万円が控除される。なお、この特別控除は3年に1度しか適用できない。 (※) ③④については、居住の用に供さなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡した場合に限る。 (2) 適用除外 次のいずれかに該当する場合には、この特例は受けられない。 ◆同族会社(法法2十) 会社の株主等の3人以下並びにこれらと特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式又は出資(その会社が有する自己の株式又は出資を除く)の総数又は総額の100分の50を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合におけるその会社をいう。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第25回】 「相続税の外国税額控除」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私(日本居住者)は、このたび、外国に住んでいる祖父から遺言で外国にある財産を取得しました。祖父の国では、祖父の有するすべての財産について相続税が課されます。祖父は複数の国に分散して財産を保有し、それぞれの国で相続税が課されたり、課されなかったりします。日本の相続税の計算上、これらの相続税はすべて税額控除できますか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷相続税の外国税額控除 相続税の計算上、算出相続税額から控除できるものの1つとして、在外財産に対する相続税額の控除(以下「相続税の外国税額控除」)がある(相法20の2)。 この条文によると、一定の外国で納付した相続税に相当する税額を限度額の範囲で控除できるというものであるが、本稿で検討するのは、条文の前段で定められた「対象となる税は何なのか」ということである。 すなわち、外国にある財産については、その財産所在地の国において相続税に相当する税に該当するかどうかである。 以下では、平成20年4月17日の裁決事例(平成15年3月相続開始に係る相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分)に基づいて検討する。 ▷裁決事例の概要と判断 この事例において相続人Xは日本に住所を有する相続税の無制限納税義務者であるが、被相続人Yは相続開始時にF国(米国以外)に住所を有していた。F国においては、F国内に住所を有していた被相続人については、全世界財産に相続税が課税されることになっていた。被相続人の財産は以下のようになっていた。 被相続人の財産はF国、S国、R国、T国にあり、これらの財産についてF国で課された相続税の邦貨換算額は△△△△円であり、相続税の元になった純資産額の総額は〇〇〇〇ユーロであり、そのうちF国所在財産価額から同財産に直接関連すると認められる債務を控除した後の金額は3,747,629ユーロであった。 Xは、F国で納付した相続税△△△△円を外国税額控除として申告したが、税務署は相続税額△△△△円×3,747,629ユーロ/〇〇〇〇ユーロ(F国相続税の純資産額)で計算した額が外国税額控除の対象となるとして、更正処分をした。 これに対してXは不服として取消しを求めた。なぜなら、この方法で外国税額控除を行うと二重課税が解消されないからである。解消するためには租税条約が必要であるが、相続税や贈与税について日本と租税条約が締結されているのはアメリカ合衆国だけであって、F国との間には締結されていない。 Xは、二重課税の回避は国際社会における共通の目的であり、日本とF国の間に相続税についての租税条約がないとしても、相続税額の計算上、何らかの調整がなされるべきであると主張した。 しかし、審判所は、Xの主張は理由がないとして退けた。国際間の二重課税の調整は、国がその主権の一部を課す課税権の行使について一方的に譲歩する、いわば恩恵的措置であり、その対象範囲をどのように定めるのかも立法政策に属するものであることから、法令の規定を超えて無条件に認められる性格のものではない。日本とF国との間で相続税に関する租税条約が締結されていない以上、F国で課された相続税額のうちF国に存在する財産に対応する部分を超える部分の税額については租税条約によって控除する余地もない。相続税に関する租税条約が存在しない結果、二重課税の状態が残ったとしても、わが国の相続税法の趣旨ないし目的に反する状態にあるともいえないので、二重課税の状態が残ったことをもって更正処分を不当ということはできないからである。 ▷裁決事例における各国の相続税と二重課税 さて、この事例において被相続人Yの有していた財産は上記のとおり、F国、S国、R国、T国の4ヶ国にまたがっていたが、ここでF国以外の3ヶ国の相続税の課税状況がどうなっているかを検討する。 S国で支払った相続税については、S国に所在する財産に係るものであることから、F国においてその相続税が外国税額控除の対象となるか否かに関わらず、「当該財産についてその地の法令により相続税に相当する税が課せられたとき」に該当し、日本の相続税の計算上、外国税額控除を適用することができるものと考える。 R国については、相続税として課税する制度がなく、財産所有者の死亡時の被相続人の所得税として課税される制度であると考える。日本の相続税の計算上、控除できる外国税である「当該財産についてその地の法令により相続税に相当する税が課せられたとき」には該当しないことから、日本の相続税の計算上、外国税額控除を適用することができないと考える。 T国については、裁決文から考えると、F国とT国の間の租税条約において、T国所在の一定の財産についてはT国では相続税を課さずF国で相続税を課するとなると考えられる。よって、F国で課せられた相続税は「当該財産についてその地の法令により相続税に相当する税が課せられたとき」に該当しないことから、日本の相続税の計算上、外国税額控除を適用することができないと考える。 ▷日米相続税条約が適用される場合は このように、租税条約が適用できない場合は二重課税が生ずることになる。それではもしF国がアメリカ合衆国の場合はどうなるのであろうか。 この場合、F国で払ったF国以外に所在する財産に対応した相続税部分についても日本の相続税の計算上控除が可能となる(日米相続税条約5(2)(3))。 (了)
措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第6回】 「「社会的存在として認識される程度の規模」とは」 公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香 - 質 問 - 措置法40条の適用要件における「教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与する」ためには、寄附を受けた公益目的事業そのものが社会的存在として認識される程度の規模を持っていることが必要とされますが、この「社会的存在として認識される程度の規模」とは、具体的にどのような内容ですか。 - 回 答 - 措置法40条通達では、各々の事業がその公益法人等の主たる目的として行われている場合には、当該事業が社会的存在として認識される程度の規模を有するとみなされるとし、その事業毎の目安の規模を示しています。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 「教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与する」という要件を満たすと判断されるには4つの要件を満たす必要があり(前回参照)、そのうちの1つに、「寄附を受けた公益法人等の寄附に係る公益目的事業が、その事業を行う地域又は分野において社会的存在として認識される程度の規模を有していること」というものがあります。 これはいわゆる「事業規模要件」と呼ばれるものですが、どの程度の規模なら社会的存在として認識されるかが分かりにくいところです。 措置法40条通達では、以下のイからヌに掲げるそれぞれの事業がその公益法人等の主たる目的として行われているとき、当該事業は社会的存在として認識される程度の規模を有するものに該当すると判断されるものとして示されています(措置法40条通達12(1))。 したがって、財団においてよく行われている奨学事業や助成事業については、30人以上の学生に学資の支給を行う奨学事業、日本全国の学術研究を対象に助成金の支給を行う事業であれば、社会的存在として認識される程度の規模を有すると判断されます。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第82回】 株式会社TATERU 「特別調査委員会調査結果報告書(平成30年12月27日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【特別調査委員会の概要】 【株式会社TATERUの概要】 株式会社TATERU(以下「TATERU社」と略称する)は、2006(平成18)年1月設立(設立時の社名は有限会社フルキ建設)。その後、商号を株式会社インベスターズクラウドに変更。2015(平成27)年12月東証マザーズ上場。2018(平成30)年4月1日より現社名。アパートプラットフォーム事業、クラウドファンディング事業、民泊事業などを手掛ける。資本金626百万円、連結売上高67,016百万円、経常利益5,863百万円、従業員数417名(数字はいずれも平成29年12月期)。東京証券取引所1部上場。 【調査結果報告書(要約版)の概要】 1 不正行為の認定 特別調査委員会(以下「委員会」と略称する)は、協力を得られた複数の金融機関から提供を受けた情報及び顧客から提供を受けた情報、デジタル・フォレンジック調査の結果、営業職員に対するヒアリングにより得られた供述等の検討・分析により、以下の不正行為を認定した。 (1) 顧客の自己資金額に関するエビデンスの改ざん 本調査において認められた本不正行為の大半は、金融機関に提出する顧客の預金残高に関するエビデンス(預金通帳、口座残高証明書、インターネットバンキングやインターネットによる証券口座の画面表示等、顧客が保有する資産の金額を示す証憑をいう。以下同じ)の改ざんであった。 エビデンスの改ざんを行っていたのは、主として営業部長及び部長代理であり、その手法は、顧客から受領したエビデンスのデータを会社支給のパソコンに取り込み、JPEGやTIFFに変換した上で、当該パソコンに標準搭載されている画像編集ソフトを使用して数字の切り貼りを行い、預金残高を書き換えていたものである。 委員会が、エビデンス改ざんを行ったと認定する従業員は、営業部長及び部長代理を中心とする合計31名であり、その案件数は、調査対象期間(2015年12月以降)における成約棟数2,269件のうち350件であった。 (2) 口座間移動 営業職員が、複数の金融機関の口座を保有している顧客に対し、一方の銀行口座の残高についてエビデンスを作成させた後、その預金を自己が保有する他の金融機関の口座へ送金させて、その着金後の口座残高のエビデンスを作成するよう求め、双方の銀行口座の残高の写しをエビデンスとして融資申請をする金融機関に提出するという手法が存在していたが、委員会の調査では、顧客に拒否される、顧客からのクレームに発展するなど高いリスクがあると感じる営業職員も多く、一方でエビデンス改ざんを選択する方が容易であったこともあり、実行されたケースは限定的であった。 (3) 他人の預金通帳写しの差替え 営業職員が、顧客ではない他人の預金通帳の残高が記載されたページの写しを、顧客のエビデンスとして流用することにより、当該顧客が自己資金を保有するかのように水増しする手法が存在していたが、委員会の調査では、全く同じ残高のエビデンスを繰り返し使用することには限界があることから、かかる差替えの方法がとられたケースは限定的であった。 2 背景事情、エビデンス改ざんに至る経緯等 委員会が認定した背景事情とエビデンス改ざんに至る経緯等は大きく6項目に分かれている。 委員会は、TATERU社では、遅くとも2010年頃からエビデンスの改ざんが行われていたと認定して、その背景として、以下の3点を挙げている。 また、株式上場の数年前には、顧客の通帳のエビデンスが顧客の本物の通帳と違うことが金融機関に発覚し、同行との取引が停止されるという事案が発生したにもかかわらず、TATERU社はこれを一担当者の不正行為として認識・処理し、そのような不正行為をしないように通告するのみに止まってしまっていたことも、その後長く不正行為が続けられる原因となっていたようである。 エビデンス改ざん等の不正行為に関する役員の認識について、委員会は、まず、営業本部長らについては、TATERU社の株式上場後もエビデンス改ざん等の不正行為を認識していたはずである旨の関係者の供述があるが、営業本部長らはいずれもこれを否定しており、また、そのような認識を有していたことを認めるに足りる証拠は認められなかったとしたうえで、代表取締役、専務執行役及びその他の執行役員についても、エビデンス改ざん等の不正行為を認識していたはずであると供述する者はおらず、営業関連の業務はほぼ営業本部長に決裁権限が付与されており、他の役員が関与し得る状況にはなく、かつ、これらの役員もエビデンス改ざん等の不正行為については全く知らなかった旨供述しているなどしており、他に、その他の役員が本不正行為について認識していたことを認めるに足りる証拠は認められなかったと結論づけた。 3 原因に関する考察 委員会が、原因として挙げた項目は大きく分けて7項目であった。 TATERU社営業部門におけるパワーハラスメントについての、委員会の認定は次のとおりである。 同時に、営業職員にとっては、歩合給の存在が、エビデンス改ざん等の不正行為の動機となり、自己弁護の理由としていたことが、不正行為の原因の1つであったとしている。 また、TATERU社において、融資申請必要書類に関する業務がすべて営業部門で行われており、このことが、「販売目標が必達とされる企業風土等の中で、現場の営業職員がエビデンス改ざん等の不正行為を行ってでも販売目標を達成しようと考えた際に、容易にかかる行為に及ぶことができる環境にあった」として、「不正行為を抑制するための体制が不十分であった」と結論づけている。 さらに、委員会は、コンプライアンス体制の不徹底として、「2018年2月に受領した顧客からの書簡によって過去のエビデンス改ざんが一部役員に把握されていたが、この件が代表取締役及び担当役員からコンプライアンス委員会や経営会議に諮られることはなく、その結果監査等委員会に報告されることもなかった」ことを挙げ、こうした問題が把握された段階で、全社的な調査や対策が講じられなかったことも、不正行為が野放しとなってしまった原因としている。 4 再発防止策 TATERU社は、調査期間中の9月14日、「当社従業員による不適切行為に対する再発防止策に関するお知らせ」と題するプレスリリースにおいて、以下の再発防止策を公表している。 委員会は、これらの再発防止策について、「効果的」又は「重要」であるとの意見を表明したうえで、さらに、委員会からの提言として、次の5項目を挙げている。 委員会による提言から、「コンプライアンス部の創設」に注目すると、その機能として、①コンプライアンス委員会の下部組織として、全社的なコンプライアンス推進策の策定、全社からのコンプライアンス上必要な情報の収集・調査、コンプライアンス教育・研修の立案、年間スケジュールの策定・検証等について、コンプライアンス部に権限を付与すること、②内部通報の社内窓口をコンプライアンス部に変更し、コンプライアンス部が、通報状況を監査等委員会、コンプライアンス委員会及び経営会議に上程するよう規程を整備すること、③ハラスメントの通報窓口、ハラスメント委員会についても、コンプライアンス部の所管事項とし、コンプライアンス委員会に報告し、承認等を受けることなど、広範な所管事項と権限を有する組織を想定していることがうかがえる。 【調査結果報告書(要約版)の特徴】 本連載の【第78回】から【第80回】にかけて取り上げたスルガ銀行による不正融資問題の調査が進行する中で、8月31日に日本経済新聞電子版が報じた「アパート融資資料改ざん、TATERUでも」という記事のインパクトは大きく、TATERU社の株価は3日連続でストップ安売り気配と値を下げた。 TATERU社は、調査着手から2ヶ月近く経過した11月30日に、「特別調査委員会からの調査報告書受領時期に関するお知らせ」というリリースで、当初3ヶ月程度を見込んでいた調査期間が、資料の収集等に時間を要したことを理由に延伸して、調査報告書の受領時期が12月27日となることを公表した。最近の調査委員会による調査期間としては異例の長さともいえることから、結果が注目されていた。 1 要約版のみを公表した理由は何か 調査結果報告書受領時のリリースで、TATERU社は、 と説明しているが、公表された報告書が「要約版」であったことの理由の説明にはなっていない。 そもそもこの文章では、委員会が「公表版」を作成したという理解は成り立つものの、TATERU社が、公表版ではない全文を受領したのかどうかは定かではない(常識的に考えて「全文」を受領していることは間違いなとは思うが)。 2 調査結果報告書から読み解く「不正のトライアングル」 調査結果報告書には、明確な記述はないものの、「原因に関する考察」からは、「不正のトライアングル」の存在を読み取ることが可能である。 まず「動機・プレッシャー」として、通常の営業方法ではその達成は極めて困難な営業目標(ノルマ)の存在と営業本部長らによるパワーハラスメントが挙げられ、「機会」としては、融資申請必要書類に関する業務がすべて営業部門で行われており、不正行為を抑制するための体制が不十分であったこと、最後に「正当化」として、アパート販売の成約1棟ごとに歩合給が支給される給与体系を指摘している。 こうした「不正のトライアングル」は、スルガ銀行不正融資事件でも見られた傾向であり、不正抑止・再発防止策に、「不正のトライアングル」を生じさせないような施策をもっと積極的に取り入れるべきではなかったか。例えば、営業部門における歩合給の存在や、業績によって簡単に降格されるような人事制度について、再発防止策で言及されていない点について、疑問を持った次第である。なお、調査結果報告書全文で触れられている可能性はあるので、あくまで、「公表版」に対する疑問であることを付言しておきたい。 3 常務取締役の辞任と役員報酬の減額 TATERU社は、調査結果報告書(要約版)の受領と同日、「役員報酬の減額及び取締役の辞任に関するお知らせ」というリリースにより、代表取締役以下取締役全員の報酬減額と、常務取締役でTATERU東日本本部長の古賀聡氏の辞任を公表した。 古賀氏の辞任の理由として、以下の説明がなされている。 なお、報告書(要約版)での記述は、「営業本部長ら」となっており、この該当者としては、辞任した古賀氏のほかにも、平成29年12月期有価証券報告書によれば、執行役員でTATERU西日本本部長の原健一氏も含まれるものと推察するが、同紙に関する処分等の公表はないものの、報告書公表日後にTATERU社のサイトを確認したところ、取締役・執行役員を紹介するサイト に、同氏の名前は見当たらなかった。 4 株式会社西京銀行によるリリース TATERU社が調査結果報告書を公表した同日、西京銀行は、「TATERUが施工するアパート向け当行ローンについて」と題するリリースを出し、次の2点を公表している。 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第18回】 「偶発債務・後発事象の分析(その3)」 公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴 ←(前回) | (次回)→ ▷収益認識に関連する偶発債務(簿外債務)等 収益認識に関連する偶発債務(簿外債務)等の検討は、デューデリジェンスにおいては、通常は、収益力の分析と一緒に分析することになる。 〈製品保証〉 例えば、対象会社(筆者らの経験では製造業や小売業などが多い)において、販売した製品や商品(以下、「製品等」)に瑕疵が生じた際に、顧客との間で販売後の一定期間、製品等の修理又は交換に無償で応じるといった無償保証契約を締結している場合がある。また、製品等の販売後、無償保証期間を過ぎた製品等について、顧客との間で別途有償の保証契約を締結している場合がある。 実態純資産の分析では、過去に販売した製品等に瑕疵が生じた際に、販売後の一定期間、製品等の修理又は交換に無償で応じる契約に基づいて負担する費用は、当該内容の有無を把握し、発生見込額を認識する必要がある。また、有償での保証契約に基づく製品等の修理又は交換によって生じる費用においても、当該内容の有無を把握し、発生見込額を認識する必要がある。 〈返品調整〉 例えば、対象会社が、顧客との取引条件として返品を容認している業種又は企業(筆者らの経験では出版業、出版取次業、医薬品業、農薬業、化粧品業などが多い)、であれば、特に、顧客からの返品リスクを実態純資産の分析上考慮しなければならない。当該内容の有無を把握し、発生見込額を認識する必要がある。 〈売上値引・売上割戻〉 例えば、対象会社(筆者らの経験では小売業や製造業などが多い)において、例え書面による契約がない場合でも、過去からの商慣習等による事実上の合意等に基づき、製品等の引渡し後に売上値引をする場合がある。また、対象会社(筆者らの経験では製造業や卸売業などが多い)において、一定額又は一定数量の売上を達成した販売先に対し、売上割戻をする場合がある。実態純資産の分析においては、当該内容の有無を把握し、発生見込額を認識する必要がある。 〈将来の営業損失や発生費用〉 例えば、対象会社が、事業や子会社・関連会社の売却又は撤退等のリストラクチャリング等を現在進行形で進めている場合、基準日後の営業期間において追加的な費用又は損失が発生する場合がある。実態純資産の分析においては、当該内容の有無を把握し、発生見込額を認識する必要がある。 ▷不利な契約に関連する偶発債務(簿外債務)等 〈工事損失・受注損失〉 契約による債務を履行するための不可避的な費用が契約上の経済的便益の受取見込額を超過している場合には、将来的に偶発債務(簿外債務)等が発生する可能性がある。特定の契約の履行により発生すると見込まれる損失は将来の特定の損失に当たり、契約締結当初から損失が見込まれる場合、又は契約締結後の環境変化によって損失が見込まれる場合のいずれであっても、その発生は過去の事象に起因すると考えることができるため、実態純資産の分析においては、当該内容の有無を把握し、影響額を検討する必要がある。 〈(長期)買付契約〉 例えば、メーカーなどが、仕入価格の低減や仕入数量の確保を図るために原材料等の棚卸資産について解約不能の長期買付契約を締結していた場合に、契約締結後に販売価格が下落し、販売市場が縮小すると、棚卸資産の正味売却価額が将来の引取見込原価を下回ることがある。実態純資産の分析においては、当該内容の有無を把握し、当該買付契約による棚卸資産の購入に伴って発生する損失額を検討する必要がある。 ▷訴訟・法令違反等に関連する偶発債務(簿外債務)等 訴訟・法令違反等に関連する偶発債務(簿外債務)等の検討は、デューデリジェンスにおいては、特に法務デューデリジェンスチームと密に連携をしなければならない事項である。対象会社に対するマネジメントインタビュー、担当者インタビューや各種議事録・稟議書・契約書等の査閲を通じて、特に下記の事項を確認することになる。 〈訴訟損失〉 調査基準日現在、訴訟事件等が進行中であっても敗訴の可能性が高まっており、損害賠償等の金額を合理的に見積ることができる場合がある。実態純資産の分析においては、当該内容を把握し、影響額を検討する必要がある。 〈リコール〉 例えば、対象会社(筆者らの経験では製造業や小売業が多い)において、製品等の販売後に安全上の問題等が判明した場合、当該販売済の製品等を回収することがある。これを一般的にリコール(Recall)といい、法令に基づく回収(いわゆる、法定リコール)と、企業の自主的な判断による回収(いわゆる、自主リコール)が存在する。実態純資産の分析においては、当該発生可能性の有無を把握し、発生見込額を検討する必要がある。 ◆リコール開始件数 (出典:経済産業省産業保安グループ製品安全課「リコールの効率向上に向けて」(2018年3月19日)から筆者作成) (※) 2017年に開始された自主リコールは59件であり、そのうち、重大事故契機が12件、非重大事故契機は47件であった。 〈当局による制裁〉 例えば、当局からコンプライアンス違反を指摘され、今後課徴金や制裁金等を支払わなければならない場合がある。実態純資産の分析においては、当該内容の有無を把握し、発生見込額を検討する必要がある。 (了)
改正相続法に対応した実務と留意点 【第2回】 「持ち戻し免除の意思表示の推定に関する留意点」 弁護士 阪本 敬幸 今回は、今後の居住用不動産贈与に影響があると思われる、持ち戻し免除の意思表示の推定に関して解説する。 1 概要 改正後民法903条4項は、以下のように定め、婚姻期間が20年以上の夫婦において、居住用不動産について遺贈又は贈与があった場合、持ち戻し免除の意思表示があったものと推定するとされた。 今回の相続法改正の大きな柱である配偶者保護の方策の充実の一環である。 2 「推定」の意味 持ち戻し免除の意思表示が推定されるということは、被相続人が現実には何の意思表示もしていなければ、持ち戻し免除の意思表示があったと扱われるということである。現行法では、「持ち戻し免除の意思表示があったこと」について、受益者側に立証責任があるが、改正後民法では受益者以外の相続人に「持ち戻し免除の意思表示がなかったこと」の立証責任があるということになる。 したがって、受益者以外の相続人において、持ち戻し免除の意思表示はなかったと立証できれば推定は覆るが、この立証は困難な場合が多いであろう。 また当然であるが、改正後民法903条4項の要件を満たさないため推定を受けないとしても、その他の事情から持ち戻し免除の意思表示があったと認められることはあり得る。持ち戻し免除の意思表示は、黙示でも足りるとされているのである。 したがって、被相続人に持ち戻し免除の意思がないのであれば、遺言等で明確にその旨を明らかにしておくべきである。例えば、以下のような遺言が考えられる。 3 遺贈・贈与の対象 遺贈・贈与の対象は、「その(注:配偶者)居住の用に供する建物又はその敷地」である。 婚姻期間20年以上のAB夫婦における以下のような事例で、改正後民法903条4項の適用があるか考えてみる。 ① AがBに対し、Bの居住用マンションの購入資金3,000万円を贈与した。 ② AがBに対し、AB夫婦が現に居住する自宅敷地の持ち分2分の1を贈与した。 ③ AがBに対し、A所有の空き賃貸物件Pを、将来のBの居住用のために贈与した。贈与の5年後、BがPで居住するようになり、その後Aが死亡した。 ④ AがBに対し、AB夫婦が現に居住する自宅土地建物Qを贈与した。その後AB夫婦はAが所有する不動産Rに転居し、AがBに対し、Rを贈与した。 ①では、贈与の対象はあくまでも不動産であり、居住用不動産の購入資金は含まれないため、改正後民法903条4項の適用はない。 ②では、贈与したのが居住用不動産の一部であっても、「居住の用に供する建物又はその敷地」であることに変わりはないから、改正後民法903条4項の適用を受ける。 ③では、法制審議会は、贈与の場合、相続開始時ではなく贈与時に「居住の用」に供されている(少なくとも、近い将来居住の用に供する予定がある)ことが必要と解している(追加試案補足説明9頁)。この解釈に従えば、贈与時にBはPに居住しておらず、近い将来に居住する予定もなかった以上、改正後民法903条4項の適用はない。 ④では、Q・Rという2つの居住用不動産が贈与されているが、改正後民法903条4項には贈与・遺贈の上限が定められているわけでもなく、Q・R双方の贈与において条文の要件を満たすから、持ち戻し免除の意思表示が推定される。 もっとも、一般に、長期間婚姻生活を継続してきた夫婦間における居住用不動産の贈与は、贈与者が受贈者の老後の生活保障を図る目的の場合が多いところ、本件のような場合、転居前の自宅不動産Qについては受贈者の老後の生活保障のために与えたという趣旨は撤回されたと見る余地があり、これが立証できた場合、改正後民法903条4項による推定を覆す事情があったということになると考えられる(法制審議会・追加試案補足説明9頁)。 4 婚姻期間について 条文上、遺贈又は贈与時において婚姻期間20年以上であることが要求されていることは明らかである。 もっとも、贈与と遺贈では効力の発生時期に違いがある。すなわち、贈与は贈与契約の成立時点で効力が発生するが(改正前民法549条。改正後民法において効力発生時期の変更なし)、遺贈は遺言者死亡の時点で効力が発生する(改正前民法985条1項。改正後民法における変更なし)。 「2001年に婚姻したAB夫婦」において、以下のような事例を考えてみる。 ① 2020年にAからBに対し居住用不動産の贈与があり、2025年にA死亡。 ② 2020年にAがBに居住用不動産を遺贈する旨の遺言書を作成し、2025年にA死亡。 ①では、贈与時点で婚姻期間20年未満であるため、改正後民法903条4項の適用はない。 ②では、遺贈は遺言者死亡の時に効力発生するので、婚姻期間20年以上という要件を満たし、改正後民法903条4項の適用があるということになる。 また、婚姻期間の通算が可能かという問題もある。以下のような事例を考えてみる。 2011年にABは離婚したが、2012年にABで再婚し、2024年にAからBに対し居住用不動産の贈与があり、2025年にA死亡。 法制審議会は、解釈の問題であるとしつつも、相続税法上も婚姻期間が通算20年以上であれば特例の適用を認めるとされている(相続税法施行令4条の6第2項)ことを紹介しており(部会資料24-2・7頁)、婚姻期間の通算を認めるべきと考えているようである。 婚姻期間の通算が認められるのであれば、本事例においても改正後民法903条4項の適用を受けることになる。 5 税法との関係 改正後民法903条4項は、贈与税の配偶者控除制度を参考に規定されたが、配偶者控除制度とは要件が異なる点があるので注意が必要である。 6 経過措置について (1) 居住用不動産の遺贈・贈与について 改正後民法903条4項は、2019年7月1日から施行され(改正法附則1条本文、施行期日政令)、施行日前にされた遺贈又は贈与については適用がない(改正法附則4条)。 婚姻期間20年以上のAB夫婦における以下のような事例を考えてみる。 ① 2019年4月1日、AがBに対し、AB夫婦が居住する自宅敷地を贈与した。2019年8月1日、Aが死亡した。 ② 2019年4月1日、Aが「Bに、夫婦の自宅敷地を遺贈する」旨記載された遺言書を作成した。2019年8月1日、Aが死亡した。 ①では、上記改正法附則1条・4条により、改正後民法903条4項の適用はない。この場合、持ち戻しを免除する意思であれば、遺言等で明確に持ち戻し免除の意思表示を行うべきである。 ②では、前述の通り遺贈は遺言者の死亡により効力が発生するから(改正前民法985条1項)、2019年7月1日以降に遺言者が死亡した場合、改正後民法の適用を受け、持ち戻し免除の意思表示が推定されるということになる。 (2) 配偶者居住権の遺贈について 改正後民法903条4項は、配偶者居住権の遺贈にも準用される(改正後民法1028条3項)。 もっとも、1028条3項を含む配偶者居住権に関する改正後民法の規定は、2020年4月1日から施行され(改正法附則1条4号、施行期日政令)、施行日以前の遺贈については配偶者居住権に関する条文の適用がない(改正法附則10条2項)。 したがって、2020年4月1日より前に遺言書において配偶者居住権の遺贈を定めていたとしても、2020年4月1日より前に相続が発生した場合、当該遺贈部分に関する遺言は無効となる。 しかし、2020年4月1日以降に相続が発生した場合には、前述の通り遺言は遺言者の死亡により効力が発生するから(改正前民法985条1項)、当該遺言は有効となると考えられる。遺言書作成時には存在しない制度に関する遺言が有効かという疑問もあるかもしれないが、遺言の効力の発生時期、遺言に停止条件を付することも可能であること(改正前民法985条2項。「遺言者が2020年4月1日以降に死亡することを停止条件として、配偶者居住権を遺贈する」という遺言も有効であろう)、遺言はいつでも書き換えられることなどを考えれば、このような遺言も有効と考えられる。 7 終わりに 持ち戻し免除の意思表示の推定を定める改正後民法903条4項は、被相続人が遺言書等を作成していない場合(少なくとも、持ち戻し免除の意思表示はない場合)を想定しているのであろう。したがって、持ち戻し免除するか否かについて、遺言書等で明確に意思表示しておけば、改正後民法903条4項の適用の有無が問題となることはない。 しかし、遺言書を作成することが困難な場合もあろうし、遺言書はいつでも書き換えることが可能であり、遺言書を書き換えた際に持ち戻し免除の意思表示を遺言書に入れ忘れるといったこともあり得る。 つい先日、筆者も「この間、居住用不動産を配偶者に贈与したが、持ち戻し免除の意思表示があったということになるのか」という相談を受けた。上記のように、2019年7月1日より前の贈与については、持ち戻し免除の意思表示の推定は受けない。法律による推定という強い効果を考えれば、近々居住用不動産の贈与を考えている夫婦は、贈与時期を検討する余地があるかもしれない。 (了)
今から学ぶ [改正民法(債権法)]Q&A 【第5回】 「保証(その2)」 堂島法律事務所 弁護士 奥津 周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 (再掲) 保証制度に関して改正があったようですが、具体的にどのような点が変更されるのでしょうか。 【A】 銀行からの借入れなど、債務を負担した本人を「主債務者」といい、その主債務者が支払いを行えなくなった場合に、代わりに支払いを行う人を「保証人」という。保証人制度については、取引実務においてよく活用されているが、安易な保証人の取得慣行が、生活破綻を招いているとの批判がなされていた。 今回の改正では、そうした実情も踏まえて、主に次の点が改正されることとなった。 (※) ①、②については前回を参照。 ▷ 保証人に対する情報提供義務を規定 (1) 概要 現行法においては、主債務者や債権者による保証人への情報提供義務が定められておらず、債権者の財産状況や借入れ状況等を正確に把握しないまま保証人となってしまうケースや、主債務者が履行遅滞に陥っているにも関わらず、保証人への情報提供がないため遅延損害金が膨らんでしまうというケースがあった。 改正法では、これらの問題点を解消するために、次の3段階において、主債務者や債権者による保証人への情報提供義務を定めた。 上記それぞれの段階において、情報提供義務を負担する主体や情報提供義務が発生する保証契約の要件が異なるため、個別に理解する必要がある。 (2) 契約締結時における情報提供義務 主たる債務者は、事業上の債務を個人に保証してもらうことを委託するときに、一定の情報提供義務を負う(改正法465条の10)。情報提供が必要なのは、保証の対象となる債務が銀行借入れの場合に限らず、商取引における債務の保証を委託する場合にも必要となる。保証人が法人である場合は、この情報提供義務は生じない。 主たる債務者が提供すべき情報は次のとおりであって、主たる債務者の財務状況等に関する情報である。 主たる債務者が上記の情報提供を行わず、又は事実と異なる情報を提供したために、保証人が主たる債務者の財務状況等について誤解をして保証契約を締結したときに、債権者が、保証人が情報提供を受けておらず、又は事実と異なる情報しか提供されていないことを知っていたり、もしくは知ることができたときには、保証人は、その保証契約を取り消すことができる(改正法465条の10第2項)。 このような規律が設けられた背景としては、例えば資金繰りに窮した債務者が金融業者等から借入れをしようとするにあたって、保証人に正確な情報、すなわち債務者が窮状にあることを説明せずに、その人的関係(親族関係や友人関係等)を背景として、保証人への就任を頼み込むなどし、保証人が主債務者の窮状を知らずに保証契約を締結することなどによって、保証人が保証債務の履行を強制されるといった事態が生じていたことによる。 本規律の大きな特徴は、情報提供義務を負う当事者は主債務者であるものの、正確な情報提供がなされなかったときに、保証人に債権者との保証契約の取消権が認められるという点にある。このような規律がおかれることで、保証契約が取り消されるリスクを避けるために、債権者は、保証人が正確な情報提供を受けているかを確認しておく必要が生じる。 具体的には、債権者において、保証人から主たる債務者から提供を受けた情報の内容を確認したり、主たる債務者及び保証人から、主たる債務者の財務状況等について正確に情報提供がなされたことの表明保証を取り付けるといった対応が必要となろう。 (3) 履行状況についての情報提供義務 保証契約締結後、主たる債務者から委託を受けた保証人から主債務者の返済状況等の情報提供を求められた場合、債権者は、主たる債務の元本その他の債務の不履行の有無、残債務の金額、弁済期の到来しているものの金額等の情報を当該保証人に提供しなければならない(改正法458条の2)。 情報の提供を求めることができるのは委託を受けた保証人であるが、保証人が個人、法人いずれであっても、債権者に情報提供を求めることができる。 債権者の立場では、これまで保証人から情報提供を求められても、主債務者の財産的な信用に関する情報であって、個人情報保護や守秘義務の観点から躊躇するケースがあったが、今後は情報提供が義務とされ、これらの問題はなくなった。 また、この情報提供義務は、主たる債務が事業上の債務に限られないため、例えば居住用アパートの賃貸借契約の保証人からの請求にも債権者(賃貸人)は応じなければならない。個人のアパートオーナー等はこの改正を知らない可能性もあるため、周知が必要であるといえる。 債権者がこの情報提供義務に違反して情報提供をしなかったとき、保証契約の取消権までは、条文上定められていないが、保証人が債権者の債務不履行によって損害を受けた場合は、債務不履行の一般原則にしたがって、保証人からの損害賠償請求等がありえる。 (4) 主たる債務者の期限の利益喪失時における情報提供義務 主たる債務者が主債務の期限の利益を喪失したとき、保証人が個人であるときには、債権者は、保証人に対して、期限の利益の喪失から2ヶ月以内に、主債務者が期限の利益を喪失した旨を通知しなければならない(改正法458条の3)。 これは、主たる債務が事業に関するものである場合に限られない。債権者が2ヶ月以内にこの通知をしなかった場合には、債権者は、保証人に対し、期限の利益を喪失したときから現に通知をしたときまでに生じた遅延損害金の支払いを請求できない。債権者としては速やかな対応が求められるといえるであろう。 (了)