検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10360 件 / 5471 ~ 5480 件目を表示

日本の企業税制 【第56回】「「骨太の方針2018」と消費税率引上げによる需要変動の平準化」

日本の企業税制 【第56回】 「「骨太の方針2018」と消費税率引上げによる需要変動の平準化」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   〇骨太の方針の決定 6月15日、「経済財政運営と改革の基本方針2018」(いわゆる骨太の方針)が閣議決定された。 今回の骨太の方針では、消費税について、「2019年10月1日に予定されている消費税率の8%から10%への引上げを実現する必要がある」と明確に打ち出し、2017年4月1日から30ヶ月延期されている消費税率の引上げ実施の方向が明らかになってきた。 こうしたことから、今回の骨太の方針では、「消費税率引上げによる駆け込み需要・反動減といった経済の振れをコントロールし、需要変動の平準化、ひいては景気変動の安定化に万全を期す」ことが明記され、需要変動平準化策について次のような方向が打ち出されている。   〇消費税率引上げの影響 10%への引上げがわが国経済にもたらす影響をどう見積もるかは重要な課題であるが、日本銀行が4月28日に公表した「経済・物価情勢の展望(2018年4月)」によると、「2019 年度から2020 年度にかけては、設備投資の循環的な減速や消費税率引き上げの影響を背景に、成長ペースは鈍化するものの、外需に支えられて、景気の拡大基調が続くと見込まれる」とされている。 特に、消費税率10%への引上げによる一般家計への負担増は、1997年4月(3→5%)・2014年4月(5→8%)における過去2回の引上げ時よりも低く抑えられ、特に前回に比べると4分の1程度にとどまるとの試算を示している。 試算によると、消費税率2%引上げによる直接的な負担増は5.6兆円だが、軽減税率の創設で1兆円の負担減となることに加え、教育の無償化で1.4兆円、年金生活者支援給付金等(年金生活者支援給付金に、低所得者の介護保険料の軽減、雇用保険料率の引下げの終了に伴う負担増などを加味)で5,000億円、年金額改定で6,000億円の負担軽減が予定されている。また、増税のタイミングに起因する技術的な要因等も加えると、3.4兆円軽減されるとされ、この結果、家計の負担増は、2.2兆円となるとされている。 今回の骨太の方針においても、2%増税による税収のうち当初その5分の1を社会保障の充実に使うこととしていたところ使途変更により、半分を幼児教育の無償化や介護人材の処遇改善に充当することや、軽減税率制度の実施により、経済的な悪影響を緩和することが確認されている。 これに加えて、「税率引上げ後の自動車や住宅などの購入支援について、需要変動を平準化するため、税制・予算による十分な対策を具体的に検討する」ことも明らかになった。平成31年度税制改正の議論では重要な論点となることが予想される。   〇転嫁対策 消費税率8%への引上げに際しては、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保することが重要であるところ、2013年6月に「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」が創設された。 この法律では、 が規定され、この法律を踏まえ、消費税の転嫁拒否等の行為に対して、公正取引委員会だけではなく、主務大臣又は中小企業庁長官に指導又は助言の権限が付与され、実効性のある監視・取締りの徹底が図られた。 今回の骨太の方針においても、「万全の転嫁対策を講じる」ことが明記されており、この特別措置法の枠組みは引き続き堅持されるべきものであろう。 (了)

#No. 273(掲載号)
#小畑 良晴
2018/06/21

〔平成30年度税制改正対応〕非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度(事業承継税制の特例措置) 【第1回】「特例措置のポイントと一般措置との比較」

〔平成30年度税制改正対応〕 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度 (事業承継税制の特例措置) 【第1回】 「特例措置のポイントと一般措置との比較」   太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 日野 有裕 パートナー 税理士 梶本 岳    -はじめに- 平成30年度税制改正において、事業承継税制について大幅な見直しが行われた。本改正には時限(平成30(2018)年1月1日~平成39(2027)年12月31日)が設けられており、従来からの事業承継税制の特例措置として創設された。 そこで本連載においては、新しい事業承継税制について、その要点を事例等を交えながら解説を行う。 まず【第1回】となる今回は、改正のポイントを列挙しながら従来の事業承継税制からの変更点を概観し、【第2回】以降では各制度についての詳細な解説を行うこととする。 なお、従来の事業承継税制も引き続き制度として存続しており、本連載においては従来の事業承継税制を総称して「一般措置」、今回の改正において創設された新しい事業承継税制を総称して「特例措置」という。   1 特例措置と一般措置の比較 特例措置と一般措置の相違点については、主に以下の通りまとめることができる。 (※) 国税庁HP「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(事業承継税制)のあらまし」より筆者一部変更   2 特例承継計画の策定 特例措置の適用を受けるためには、会社の後継者や承継時までの経営見通し等を記載した「特例承継計画」を策定し、認定経営革新等支援機関(税理士、商工会、商工会議所、金融機関等)の所見を記載したうえで主たる事務所の所在地の都道府県知事に提出し、その確認を受ける必要がある。 また、平成35(2023)年3月31日までの贈与・相続については、贈与・相続後に特例承継計画を提出することも可能である。 特例承継計画の提出期限は平成35(2023)年3月31日までであり、期限内に提出しなかった場合には特例措置の適用を受けることができない。   3 対象株式数及び猶予割合の要件緩和 一般措置においては、制度の対象となるのは議決権株式総数の2/3に達するまでの部分の株式であり、猶予割合は贈与税については100%、相続税については80%であった。つまり、納税猶予割合は、贈与税の66%(2/3×100%)、相続税の53%(2/3×80%)に留まることになる。 しかし、特例措置においては、制度の対象となる株式の上限が撤廃され、贈与税及び相続税とも猶予割合が100%となった。   4 雇用確保要件の抜本的緩和 一般措置では、贈与税及び相続税の申告期限の翌日から5年を経過するまでの期間、5年平均で8割の雇用を維持することが求められており、仮に雇用の8割を維持できなかった場合には、猶予されていた贈与税又は相続税の全額を納付する必要がある。 この「雇用確保要件」は、一般措置の利用実績が低い原因の1つとされてきたが、特例措置においては、雇用確保要件を満たさない場合であっても、その満たせない理由を記載した書類を都道府県知事に提出し確認を受けることで、納税猶予の期限が確定しないこととなった。   5 適用対象者の拡大 まず、贈与者・被相続人の要件について、一般措置には、代表権を有していた個人であること、同族グループによる議決権の過半数保有及び同族関係者内における筆頭株主要件が存在しているため、筆頭株主である1人の先代経営者からの贈与・相続のみ納税猶予の適用が可能であり、それ以外の株主からの承継については納税猶予の適用を受けることができなかった。 一方、特例措置においては、先代経営者に限らず複数株主からの承継についても納税猶予の適用を受けることが可能となった。 次に、受贈者・相続人側においても、一般措置で納税猶予の適用が認められるのは、贈与又は相続後に筆頭株主となる1人の後継者に限られているが、特例措置においては、代表権を有する後継者(最大3名)への承継が納税猶予の対象となった。   6 経営環境の変化に応じた減免措置 一般措置においては、納税猶予に係る贈与税・相続税の申告期限から5年経過後に会社の譲渡や解散をした時には、経営環境の変化により株価が下落していた場合でも、贈与時又は相続時の評価額により贈与税・相続税を納税しなければならない。 特例措置においては、経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合に会社の譲渡や解散をした時は、猶予されている贈与税・相続税と、その時点での株式価値で再計算した贈与税・相続税との差額を免除することになった。   7 相続時精算課税制度の適用範囲の拡大 平成29年度改正において、贈与税の納税猶予と相続時精算課税の併用が可能となったが、相続時精算課税は贈与者の推定相続人及び孫への贈与のみが対象とされていたため、先代経営者の甥など直系卑属でない者や、親族外の後継者に対して特例贈与を実施する場合には、相続時精算課税を選択することができなかった。 平成30年度改正において、贈与者が60歳以上の者である場合には、後継者が推定相続人以外の者であっても相続時精算課税が選択できることになった。これにより、親族内で複数の者から贈与を受ける場合や、親族外事業承継として贈与税の納税猶予を適用する場合においても相続時精算課税を適用できることとなり、納税猶予の認定取消時に過大な税負担が生じるリスクが軽減されることとなった。   8 一般措置と特例措置の適用関係 特例措置の受贈者の適用要件として、一般措置の適用を受けていないことという規定があるので、一般措置の適用を受けている後継者は途中で特例措置に乗り換えることができない。 ただし、平成30年度改正において一般措置も一部改正され、一般措置の適用者がその経営承継期間の末日の翌日以降に、その非上場株式等を特例措置により新たな後継者へ贈与・相続する場合は、その猶予されていた税額が免除されることになった(措法70の7⑮三、70の7の2⑯二) つまり、一般措置の適用を受けている後継者(A)が、さらに次世代の後継者(B)にその所有する非上場株式等を平成39年12月末までに贈与、相続するときには、特例措置の適用を受けることができることとなっている。   (了)

#No. 273(掲載号)
#日野 有裕、梶本 岳
2018/06/21

中小企業の生産性向上のための設備投資に係る固定資産税の軽減特例 【第2回】「生産性向上特別措置法による先端設備等導入計画の認定手続」

中小企業の生産性向上のための 設備投資に係る固定資産税の軽減特例 【第2回】 「生産性向上特別措置法による先端設備等導入計画の認定手続」   辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健   本特例は、前回見た通り、生産性向上特別措置法(以下、生産性向上法)の認定を受けることが必要である。今回は、前回に引き続き、認定についてさらに解説するとともに、税務申告までの全体の流れを説明する。   1 生産性向上法における認定 前回は、認定の概要について説明した。適用を受けようとする中小企業者は、その実施しようとする先端設備等導入計画を作成し、その導入する先端設備等の所在地を管轄する特定市町村に提出する。 (1) 先端設備等導入計画の記載事項 先端設備等導入計画には、次に掲げる事項を記載することが必要である。 ① 先端設備等の種類及び導入時期 直接その事業の用に供する設備として取得する設備の概要とその導入時期について記載する。 ② 先端設備等導入の内容 事業の内容及び実施時期を記載する。また、先端設備等の導入による労働生産性の向上に係る目標を記載する。労働生産性については年平均3%以上向上させることが必要とされる。労働生産性は、次の算式により計算される。 ③ 先端設備等導入に必要な資金の額及びその調達方法 先端設備等導入に当たって必要な資金の額及びその使途・用途を記載する。同一の使途・用途であっても、複数の資金調達方法により資金を調達する場合には、資金調達方法ごとに分けて記載する。 〈先端設備等導入計画に係る認定申請書〉 (経済産業省関係生産性向上特別措置法施行規則 様式第三) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (2) 認定要件 認定を受けるためには、その先端設備等導入計画が次のいずれにも適合すると認められることが必要である。   2 手続の流れ 本特例の適用を受けるまでの大まかな流れを示すと次に掲げる通りになる。 (1) 中小企業者が先端設備等導入計画を作成し、市町村の認定を受ける (2) 計画に従って、対象設備を取得する (3) 設備の所在する市町村に税務申告する (1) 計画作成から認定まで ① 工業会等の証明 前回見た通り、本特例の対象設備は、生産性向上に資する指標が旧モデル比で年平均1%以上向上していること及び一定の期間内に販売が開始されたモデルであることが必要となる。 これらの要件を満たしている設備であることを確認するため、設備メーカー等を経由して工業会等に証明書を発行してもらい、これを入手することが必要となる(設備の性能把握や同一メーカー内の新旧モデルの判別が必要であるため、設備メーカー等から工業会等へ証明書の発行申請を行うことが望ましい)。 この証明書は、計画の認定申請に当たり、一定の様式による誓約書とともに市町村に提出することになるため、認定申請に当たっては、事前に設備メーカー等に証明書の発行依頼を行っておくことが必要となる。なお、申請・認定前までに工業会の証明書が取得できなかった場合でも、認定後から固定資産税の賦課期日(1月1日)までに証明書を追加提出することにより本特例の適用を受けることができるようである。 なお、生産性向上法に係る工業会等の証明書は、経営力強化法に係る工業会等の証明書と共通の証明書となるが、生産性向上法の施行日(平成30年6月6日)以降に、新たな様式として発行されることとなるため、旧様式の証明書で手続を行わないよう注意が必要である。 (※) 中小企業庁ホームページより ② 経営革新等支援機関の事前確認 労働生産性を年平均3%以上向上させることが必要とされるが、その確認は認定経営革新等支援機関が行うことになり、確認書が発行される。計画の認定申請に当たっては、この確認書を添付することが必要となる。したがって、認定申請に当たっては、事前に経営革新等支援機関に事前確認の依頼を行っておくことが必要となる。 このように計画の認定申請に当たっては、事前に工業会等への証明書の発行依頼及び経営革新等支援機関への事前確認の依頼が必要となる点に留意が必要である。 (2) 設備の取得 先端設備等については、先端設備等導入計画の認定後に取得することが必要となる。中小企業等経営強化法による既存の制度とは異なり、認定前に設備を取得する場合には特例の適用が受けられないので、留意が必要である(既存制度との相違点については次回参照)。 (3) 税務申告 本特例の適用を受けるには、下記に掲げる書類を市町村長に提出する必要がある。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)

#No. 273(掲載号)
#安積 健
2018/06/21

相続税の実務問答 【第24回】「死亡保険金の分割」

相続税の実務問答 【第24回】 「死亡保険金の分割」   税理士 梶野 研二   [答] 死亡保険金3,000万円は、お父様と保険会社との間の契約に基づいてお姉様に支払われるものであり、相続により取得するものではありませんので、遺産分割の対象にはなりません。 したがって、あなたが、お姉様の受け取った死亡保険金の一部を取得することとなった場合には、その保険金相当額は、原則として、あなたがお姉様から贈与により取得したものとされ、贈与税の課税対象とされます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 死亡保険金 生命保険金は、保険契約者と生命保険会社との間の生命保険契約により、被保険者の死亡又は生存を保険事故として、同契約において指定された保険金受取人に支払われます。 生命保険金のうち被保険者の死亡を保険事故として支払われる死亡保険金は、保険金受取人が生命保険契約に基づいてその固有の権利として原始的に取得するのであって、保険契約者又は被保険者から、その相続財産として承継取得するものではありません(昭和40年2月2日最高裁第三小法廷判決)。したがって、死亡保険金は遺産分割の対象とはなりません。 しかしながら、被相続人がその生命保険契約の保険料を自己の財産から支払っていた場合、死亡保険金は被相続人の財産が化体したものであって、死亡保険金の受取人は、被相続人の財産を取得したのと実質的には変わりないのではないかとも考えられます。 そのため被相続人の死亡により相続人その他の者が死亡保険金を取得した場合、相続税の課税上は、その保険金受取人が受け取った死亡保険金のうち被相続人が負担した保険料に対応する部分については相続又は遺贈により取得したものとみなして、相続税の課税対象の財産とすることとされています(相法3①一)。   2 死亡保険金の分割 生命保険金は、生命保険契約に基づいて保険金受取人が固有の権利として受け取るものですから、相続財産には該当せず、遺産分割の対象とならないことは、上記1で述べたとおりです。 そのため、この死亡保険金を含めて遺産分割協議を行い、保険金受取人から他の相続人に死亡保険金の全部又は一部に相当する金額が分け与えられることとなった場合には、その保険金受取人から他の相続人に対して贈与があったものとして贈与税が課されることとなります。 ただし、遺産分割協議において、生命保険金受取人が、他の相続人に代償金を支払うことによって相続財産の全部又は一部を取得することとした場合、生命保険金が代償金の支払いに充てられたと考えられるケースもありますが、このような場合には贈与税の課税問題は生じません。   3 ご質問の場合 お姉様に支払われる生命保険金は、相続税の課税上は、みなし相続財産として相続税の課税対象となります(ただし、保険金の非課税限度額(ご質問の場合には、法定相続人が3人ですので、1,500万円が非課税限度額になります)までの部分は、相続税の課税対象とはなりません)。 しかしながら、この生命保険金が相続税の課税対象とされるとしても、本来の相続財産ではなく、相続税の課税上、相続により取得したものとみなされるにすぎないものですから、遺産分割の対象とはなりません。仮に、相続人間の協議によりあなたがお姉様からこの保険金を受け取ることとなれば、贈与税の課税対象となります。 ご質問の場合には、あなたが受け取ることとなる2,000万円のうち1,000万円はお父様の遺産である銀行預金であると考えるならば、お姉様から贈与を受けたとされる金額は、1,000万円となります。 なお、仮に、居住用の建物とその敷地をお姉様が相続することとし、お姉様がお母様又はあなたに代償金を支払う旨の遺産分割協議が調った場合に、お姉様が生命保険金を代償金の支払いに充てたとしても、この金額は代償金を受領することになったお母様又はあなたの相続税の課税対象となりますのでので、お母様又はあなたに贈与税が課されることはありません。   (了)

#No. 273(掲載号)
#梶野 研二
2018/06/21

〔ケーススタディ〕国際税務Q&A 【第3回】「海外子会社(持株会社)を整理する際の課税関係」

〔ケーススタディ〕 国際税務Q&A 【第3回】 「海外子会社(持株会社)を整理する際の課税関係」   弁護士 木村 浩之   [Q] 日本法人である当社は、海外に複数の子会社(持株会社)を有しており、それらの持株会社を通じて各国に子会社(現地子会社)を有しています。今般、経営の効率化の観点からグループ再編を実施して、持株会社を整理することを検討しています。 税務上の観点から留意すべき点について教えてください。 [A] 海外の子会社(持株会社)を整理するに当たっては、関係する国における課税関係を検討することが重要です。 具体的には、①持株会社によって保有されている現地子会社について、その所在地国における株式譲渡益課税の有無、②持株会社の所在地国における株式譲渡益課税の有無、③日本における外国子会社合算税制の適用の有無について検討することになります。 ・・・[解説]・・・ 1 現地子会社の所在地国における課税関係 持株会社を整理する際には、その保有する株式の移転を伴うことになり、持株会社によって保有されている現地子会社の株式譲渡益が生じる可能性がある。これについて、その現地子会社の所在地国の国内法によっては、自国法人の株式譲渡から生じた所得として源泉地国課税がなされ得る。 この点、各国の国内法では、かかる株式譲渡益について、そもそも源泉地国課税をしないもの、当該法人が主に国内の不動産を保有する場合に限って課税するもの、一定の持株要件を満たす場合に限って課税するもの、自国法人の株式が直接譲渡された場合のみならず、その株式を保有する法人の株式が譲渡された間接譲渡の場合にも課税するものなど様々であり、現地子会社の所在地国ごとに課税要件を確認する必要がある。 さらに、現地子会社の所在地国と持株会社の所在地国との間で租税条約が締結されていれば、譲渡収益条項の適用によって課税の免除を受けられる可能性がある。すなわち、租税条約の譲渡収益条項では、当該法人が主に国内の不動産を保有する場合に限って株式譲渡益に対する源泉地国課税を認めるものが多く、かかる規定が適用されれば源泉地国では免税されることになるため、その適用要件を確認することが重要である。   2 持株会社の所在地国における課税関係 持株会社において生じた株式譲渡益については、当然、その所在地国における課税関係が問題となる。この点についても、各国の国内法では、そもそも株式譲渡益に課税をしないもの、一定の持株要件を満たす場合には免税するもの、通常の所得と同様に課税をするもの、一定の組織再編税制が適用される場合には課税が繰り延べられるものなど様々であり、その国ごとに課税要件を確認する必要がある。 ただし、持株会社については、通常、株式譲渡益に対する課税が生じない国に設置されることが多いということができる。 いずれにしても、持株会社の整理に当たっては、その法的手続として、株式譲渡によるのか、合併等の組織再編によるのか、資本取引によるのかなど、法律上の観点からの分析のほか、それに伴う課税関係もあわせて検討することが必要である。   3 日本における課税関係 日本の親会社からすれば、国外の子会社(持株会社)において株式譲渡益が生じるものの、その国では課税がなされない場合、外国子会社合算税制の適用が問題となる。すなわち、持株会社の所在地国での実効税率が20%未満であれば、一定の適用除外基準を満たさない限り、その全所得が親会社の所得に合算されることになる。 適用除外基準とは、①事業基準、②実体基準、③経営基準、④迂回防止基準の4つの基準であり、そのすべてを充足する必要があるが、そのうち重要なのは事業基準である。事業基準を満たすためには、当該子会社の主たる事業が一定の列挙された受動的な事業に該当しないことが求められる。ここでの受動的な事業には、持株事業や知的財産管理事業などが含まれる。 そこで、持株会社が子会社株式の保有・運営のほかに特段の事業を有しない場合や他の事業を有するとしてもそれが主たる事業とはいえない場合、事業基準を満たさず、合算課税の対象とされることになる。もっとも、持株会社が地域統括機能を有するとすれば、それが主たる事業であると認められる場合はもちろん、たとえ主たる事業が持株事業であるとしても、なお事業基準を満たすとされている。 このことから、持株会社がどのような機能を有するものであるかを分析することが重要といえる。なお、何が主たる事業であるかは、事業に従事する人員構成、資産構成、所得構成などが総合的に考慮されるものと解されている。 以上に対して、持株会社の整理が合併等の組織再編によってなされる場合、それが適格組織再編に該当すると認められる場合には、いずれにしても日本では課税の対象にされないことになるため、その観点からの検討も必要となる。   (了)

#No. 273(掲載号)
#木村 浩之
2018/06/21

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第42回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第42回】   公認会計士 佐藤 信祐   《第8章》 平成18年から平成21年までの議論 1 法人税基本通達の改正 (1) 平成19年3月13日改正 ① 概要 平成19年3月13日に改正された法人税基本通達は、平成18年度の会社法施行に伴い、法人税法が見直されたことが大きな改正内容となっている。そのため、「商法」から「会社法」に文言修正をしたり、「資本積立金額」を「資本金以外の資本金等の額」に文言修正したりする形式的な改正も多いが、本稿では、実質的な改正が行われているものについてのみ解説を行う。 ② 合併の日、分割の日 会社法の施行により、吸収合併又は吸収分割を行った場合には、合併契約書又は分割契約書に記載した効力発生日に資産及び負債が引き継がれることとされ(会社法750①、759①)、新設合併又は新設分割を行った場合には、設立登記の日に資産及び負債が引き継がれることとされた(会社法754①、764①)。そのため、法人税基本通達1-2-3(現行1-2-4)、1-4-1でも、そのことが明らかにされている。なお、株式交換・移転についても、同通達1-4-1において、同様のことが定められている。 ただし、それでは、合併予定日又は分割予定日が土日である新設合併又は新設分割を行う場合には、事業年度開始の日を合併予定日又は分割予定日とすることができず、日割計算を行わなければならないという不都合が生じる。そのため、平成19年4月に「新設合併等の登記が遅れた場合の取扱いについて」が公表された。その具体的な内容については、本連載で解説する予定である。 上記のほか、同通達2-1-22では、有価証券の譲渡による損益の計上時期につき、吸収合併、吸収分割又は株式交換の場合には効力発生日、新設合併、新設分割又は株式移転の場合には設立登記の日と定められ、同通達2-1-27では、非適格合併又は非適格分割型分割におけるみなし配当の計上時期についても同様に定められた。 ③ 1株未満の端数 法人税基本通達1-4-2では、1株未満の端数を交付したとしても、金銭等不交付要件に抵触しないことが定められていた。平成19年3月13日の改正では、会社法234条に「一に満たない端数の処理」が定められたことにより改正がなされている。 具体的には、会社法234条では、競売又は売却により現金化したうえで少数株主に交付するものとしているため、「1株未満の株式の合計数に相当する数の株式を他に譲渡し」と規定したうえで、同法4項において、発行法人が買い取ることができることとしているため、同通達でも「又は買い取った代金として交付されたものであるときは」と規定している。 すなわち、どのような方法により1株未満の端数を処理したとしても、金銭等不交付要件に抵触しないことが明らかにされている。 しかしながら、平成19年3月13日の改正は ことが明記された。これは、平成18年度税制改正により、株式交換・移転税制が導入され、現金交付型株式交換を行った場合には、非適格株式交換として処理されてしまうことから、その代替的な手法として、端株株式交換が検討されたため、その牽制のために導入された通達である。 そのため、平成29年度税制改正前までは、全部取得条項付種類株式や平成26年改正会社法で認められた株式併合や株式等売渡請求を利用した少数株主のスクイーズアウトを行うことが多かった。 これに対し、平成29年度税制改正により、発行済株式総数の3分の2以上を保有している場合における現金交付型合併、株式交換について、金銭等不交付要件に抵触しないこととされたため、上記の牽制規定が適用されることはほとんどなくなったということが言える。 ④ 特定役員 法人税基本通達1-4-7では、専務取締役及び常務取締役の意義について、同通達9-2-1の3(現行9-2-4)によることが定められていたが、平成19年3月13日の改正により削除された。ただし、このことにより、名ばかり役員の取扱いが変わったわけではなく、実質的に、副社長、専務取締役及び常務取締役と認められない場合には、特定役員として認められない可能性があると考えられる。 ⑤ 他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合 会社法の施行による種類株式の多様化に伴い、法人税法施行令119条1項4号では、 について、有利発行に該当しないものとした。 この場合における「株主等として」とは、株主等の地位に基づいて取得するもの(すなわち、株主割当て)であると解されている。そのため、上記の規定の適用は、「当該法人の他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合」に限定されている。 この点につき、法人税基本通達2-3-8では、「他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合」とは、 をいうことが明らかにされている。 すなわち、種類株式を発行している場合において、特定の種類株主に損害を与えるような形で株主割当てを行うときは、有利発行に該当してしまうということになる。 (2) 平成21年12月28日改正 平成21年12月28日の改正では、法人税基本通達12-1-5、12の2-2-5が廃止された。いずれも、2以上の法人を被合併法人とする吸収合併を行った場合における特定資本関係発生日の判定方法について定めた通達であったが、平成21年1月29日に文書回答事例(三社合併における適格判定について)が公表され、2以上の法人を被合併法人とする吸収合併を行った場合には、2以上の吸収合併を行ったものとして取り扱うことが明らかにされたため、同通達の意義がなくなったことにより廃止されたものと思われる。 なお、本文書回答事例の内容については、本連載において、改めて解説を行う予定である。 *   *   * 次回では、平成19年4月に国税庁のHPにおいて公表された「新設合併等の登記が遅れた場合の取扱いについて」「共同事業を営むための組織再編成(三角合併等を含む)に関するQ&A」について解説を行う予定である。 (了)

#No. 273(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/06/21

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第50回】「前期損益修正」~国保収入を減額する決算修正仕訳は認められないと判断した理由は?~

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第50回】 「前期損益修正」 ~国保収入を減額する決算修正仕訳は認められないと判断した理由は?~   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   今回は、青色申告法人X社に対して行われた「国保収入を減額する決算修正仕訳を否認する」法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた国税不服審判所平成24年4月9日裁決(裁決事例集87号291頁。以下「本裁決」という)を素材とする。   1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本裁決の裁決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。   2 本件理由付記から読み取ることができる関係図   3 本裁決の判断 本裁決は、大要次のとおり、本件理由付記は法人税法130条2項に規定する要件を満たさない違法なものであると判断した。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性   4 検討 (1) 求められる理由付記の程度 X社の仕訳日記帳の記載から、X社は、平成14年12月期において医療未収入金を過大に計上していたこと及び平成17年12月期において、これを適正な債権の残高に修正するために、医療未収入金を減額するとともに国保収入を同じ額だけ減額する内容の決算修正仕訳を行ったことがわかる。 本件更正処分は、これらのことを前提として、当事業年度において国保収入科目の残高を減算する処理は認められないとするものである。であれば、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正する場合に該当すると考える。 したがって、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (2) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 本件理由付記は、「平成14年1月1日から平成14年12月31日までの事業年度に過大に計上した医療未収入金を適正な債権の残高に修正するため」、「次の決算修正仕訳を平成17年12月31日で行い・・・国保収入科目の残高から・・・減算しています」、「しかしながら、当事業年度において・・・国保収入科目の残高から・・・減算すべきものとは認められません」と記載している。 かような文面及び文脈を注意深く読んでみると、過去の事業年度で過大に計上した医療未収入金の残高を修正するために、その後の事業年度の収入科目の残高(法人税法上の収益の額)を減算することは認められない、という課税庁の判断を読み取ることが可能である。 すると、本件更正処分は過年度の修正経理に係る収益の年度帰属(計上時期)を問題とするものであるから、その根拠法令は法人税法22条2項であることを理解し得る(法人税法上の収益の帰属時期の議論については、本連載【第20回】参照)。 これらのことを併せ考慮すると、本件理由付記は、その記載内容から処分の根拠となる法令及び具体的な事実を理解することができるものであり、これによって課税庁の判断過程が明らかとなるものであるといえる。 であれば、本件理由付記は、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の制度趣旨を充足する程度に具体的なものであるということができ、理由付記として十分なものであると評価し得る。 (3) 更なる検討 ~前期損益修正に係る否認と法人税法22条4項(公正処理基準)との関係~ 企業会計においては、会計方針の変更や誤謬の発見などにより、翌期以後になってから過去の利益計算を修正した方がよいと考えられる場合でも、遡って決算をやり直すのではなく、前期損益修正として、過去の損益を特別損益項目に計上して処理することが慣行として広く行われてきた(企業会計原則第2の6、同注解12等参照)。そこで、法人税法において、そのような処理が、同法22条4項の公正処理基準に該当し、認められるかという問題がある。 X社の決算修正仕訳に関する記載から、X社は、この企業会計上の前期損益修正の慣行に即して、処理を行ったと解することもできよう。 従来より、課税庁は、経理処理の誤りや粉飾決算を原因として、過去の損益を修正するような場合に、当該過去の事業年度ではなく、経理処理の誤りが発覚するなどしたその後の事業年度において前期損益修正(特別損益項目)として計上するような会計処理について、法人税の所得の計算においては認めないという立場を採用していると考える。 かような会計処理を認めると、同一の費用や損失を複数の事業年度において恣意的に計上することができることになり、公平な所得計算を阻害する。あるいは、法人税法は、上記のような事情に基づいて過去の損益を修正する場合には、修正申告や更正ないし更正の請求という制度により、過去の事業年度に遡って修正することを予定している。このような理解や解釈がその背後に存在すると思われる。 裁判所も、単なる計上漏れのように、本来の事業年度で計上すべきであった損益を、後の事業年度において、前期損益修正として計上するような処理を公正処理基準に該当するものとして認めることはできないと判示している(本連載【第51回】で取り扱う東京地裁平成27年9月25日判決・税資265号順号12725参照)。 すると、処分の根拠条文について、法人税法22条2項のみならず、4項も関係していることが明らかになるように理由付記を記載しなければならないか、という疑問が出てくる。 本件理由付記からは、過去の事業年度で過大に計上した医療未収入金の残高を修正するために、その後の事業年度の収入科目の残高(法人税法上の収益の額)を減算することは認められないと、課税庁が判断したことを読み取ることができる。前述のとおり、かような本件理由付記の記載から、本件更正処分は、収益の年度帰属(計上時期)を問題とするものであって、法人税法22条2項を根拠とすることを理解できるであろう。他方、本件理由付記は、課税庁が、法人税法22条4項、とりわけ上述の会計の慣行が同項にいう公正妥当な会計処理の基準として認められるかどうかを検討したかという点を明らかにしていない、という指摘も可能である。 そうすると、本連載【第3回】で取り上げた大阪高裁平成25年1月28日判決(判時2203号25頁)の判示内容も踏まえて、本件において税務調査の段階で法人税法22条4項の解釈・適用が争点化していたか否かで理由付記に記載すべき内容・程度が変わるか、という問題を提起することもできる。 *  *  * 次回は、「過去の事業年度に係る外注費を当該事業年度の損金に算入することはできないこと」を理由とする法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)

#No. 273(掲載号)
#泉 絢也
2018/06/21

企業経営とメンタルアカウンティング~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第3回】「「無料」の魔力」

企業経営と メンタルアカウンティング ~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第3回】 「「無料」の魔力」   公認会計士 石王丸 香菜子   *資料* 第1事業部では、業務用特殊インク製造のため、材料を仕入れている。この材料の年間購入量は8,000kgで、1kg当たりの購入代価は22,500円である。 特殊材料であるため、密閉状態で適正温度を保った状態で、仕入先が当社まで配送する契約になっている。配送代は、1回ごとの購入量の多寡にかかわらず、配送1回につき20,000円である。 材料購入後、当社倉庫での保管中は火災保険をかけている。火災保険料は1kgにつき200円である。 先日、仕入先より、今後1回当たりの購入量が1,000kg以上の場合には、配送代20,000円を無料にするとの提案があった。 PN社の資本コスト率は8%である。   *  *  *   1 損得感情は何を基準に決まるか インターネットで買い物をするとき、『〇〇円以上購入すれば送料無料』のうたい文句につられて、つい不要な商品を買い足してしまうことはありませんか? 例えば、あと600円購入すれば送料500円が無料になるような場合、買う予定になかった不要な600円の商品を購入してしまった経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。 冷静に考えれば、送料が500円かかっても不要なものを買わないほうがよいのですが、本来500円かかるはずの送料が『無料』になると、とても得したような気分になりますよね。 人の損得感情は、絶対的な基準に基づき判断した結果というよりも、何らかの水準と相対的に比較することで生じる曖昧な感覚です。 つまり、送料金額そのものが妥当かどうかを判断するわけではなく、それまでの500円という水準と0円(無料)とを比較して、「得をした」という感覚を持つわけです。 こうしたココロの中の損得判断の基準となる水準は、「」と呼ばれています。 第1事業部長と経理部長が、材料をまとめ買いしようとしているのも、配送代が、それまでの20,000円という参照点と比較して、0円になることから、非常にお得と感じたからですね。   2 発注コストと保有コスト ここで、材料を購入する際に生じる付随的なコストについて、よく考えてみましょう。2人が注目した配送代は、発注回数に応じて発生する「発注コスト」です。 1回当たりの発注量が多いほど発注回数は少なく済むので、年間の発注コスト総額も少なくなります(今回のケースでは、1回当たり発注量が1,000kgを超えると無料になります)。 一方、カズノ君が知らず知らずのうちに指摘したように、仕入後材料を保有することで生じる「保有コスト」もあります。保管中の保険料は、その典型です。 また、材料購入のために資金を使ってしまうと、その資金を他で運用する機会を断念していることになりますね。そのため、仮に別の案件に投資したなら得られたはずの利益についても、材料を保有することにより生じるコストとしてとらえる必要があります(このようなコストを「」と呼びます)。 資金を別の案件で運用したなら得られたはずの利益は、「材料購入資金×資本コスト率」で計算できます(資本コスト率については、筆者が以前に連載した「ファーストステップ管理会計」の【第14回】で解説しています)。こうした保有コストは、1回当たりの発注量が多いほど、増加してしまいます。 材料を発注する際には、発注コストと保有コストの合計が最小になるように発注量を決めるのがよいと言えます。数学の説明は割愛しますが、一般に、発注コストと保有コストが等しくなるような発注量の時、両者の合計が最小になります。 今回のケースについて、発注コストと保有コストの合計が最小になるような発注量を求めてみましょう。1回当たりの発注量をXkgとします。 発注コストと保有コストが等しくなる時に、両コストの合計が最小になるのですから、 を満たすXを求めればよいことになります。 計算すると、X=400kgとなり、発注コストと保有コストが400,000円ずつの合計800,000円になります。 一方、第1事業部長と経理部長が考えたように、X=1,000kgの場合には、発注コストはゼロですが、保有コストは1,000,000円になり、合計1,000,000円です。 つまり、配送代「無料」に惑わされず、こまめに400kgずつ発注するのが一番お得というわけです。 ココロの損得判断はイメージに左右されやすく、必ずしも合理的ではありません。真のコストを網羅的に集計して、コスト最小化を図りましょう。 ◆◇◆今回のキーワード◆◇◆ ▷ ココロの中の損得判断の目安となる水準。参照点との比較で損得感情が生じるが、必ずしも合理的な判断とは限らない。 ▷ 選ばなかった別の案を選択した場合に得られるであろう利益のこと。 (了)

#No. 273(掲載号)
#石王丸 香菜子
2018/06/21

改正法案からみた民法(相続法制)のポイント 【第3回】「配偶者短期居住権」

改正法案からみた 民法(相続法制)のポイント 【第3回】 「配偶者短期居住権」   弁護士 阪本 敬幸   前回は、配偶者の居住に関する権利のうち配偶者居住権(長期居住権)について解説した。今回は配偶者短期居住権(法案1037条~1041条)について解説する。   1 趣旨 被相続人の配偶者(以下、単に「配偶者」という)が、生前被相続人所有建物で被相続人と同居していた場合、被相続人死亡後に被相続人所有建物を取得しないとしても、配偶者に対し直ちに建物から退去して転居するよう求めることは酷であり、配偶者保護の必要性がある。 現行法の下でも、最高裁平成8年12月17日判決は、被相続人と同居の相続人に短期的な居住権を認めており(被相続人・同居相続人間に、遺産分割時までの使用貸借契約が成立するという法律構成)、同判例を参考に、配偶者短期居住権が設けられることとなった。   2 配偶者短期居住権の内容 配偶者短期居住権は、配偶者が、①居住建物の遺産分割をすべき場合は、遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始時の時から6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日までの間、②前記①以外の場合(遺贈により建物を取得した者がいる場合など)は、居住建物取得者が配偶者短期居住権の消滅を申し入れた日から6ヶ月を経過する日までの間、居住建物のうち配偶者が従前使用していた部分を、無償で使用することができる権利である(法案1037条)。 配偶者が建物全部を使用・収益できるとされる配偶者居住権(長期)と異なり、相続人の生前、配偶者が建物の一部しか使用していなかった場合には、その一部のみを無償で使用することができる。 配偶者に一身専属的な権利であり、譲渡はできないことは配偶者居住権(長期)と同様である(法案1041条、法案1032条2項)。 法制審議会では、使用借権類似の法定債権と位置付けている(民法(相続関係)等の改正に関する中間試案の補足説明3頁)。   3 成立要件 配偶者が、相続開始時に被相続人が所有する建物に無償で居住していたこと。 消極的要件として、配偶者が、相続開始時に配偶者居住権(長期)を取得したこと、欠格・廃除により相続権を失ったことが挙げられ、これらの場合には配偶者短期居住権は成立しない。配偶者が相続放棄した場合であっても、配偶者短期居住権は成立する。   4 配偶者短期居住権者の権利・義務 配偶者短期居住権者である配偶者は、一定期間、被相続人の生前から使用していた範囲で建物を無償で使用することができ(法案1037条1項)、これが基本となる権利である。 その他、配偶者短期居住権者である配偶者が負う権利義務として、 などが定められている。これらの点は、配偶者居住権(長期)と同様・類似する。   5 配偶者短期居住権の消滅 存続期間の経過(法案1037条1項1号)、配偶者居住権(長期)の取得(法案1039条)、配偶者死亡(法案1041条・改正民法597条3項)、目的建物の滅失等(法案1041条・改正民法616条の2)が消滅原因として定められている。 配偶者短期居住権が配偶者保護のための法定債権であることからすれば、建物所有者と配偶者との消滅合意により消滅することも当然である。   6 第三者との関係 配偶者居住権(長期)では、存続期間が長期間に及ぶことから、第三者対抗要件としての登記が定められているが(法案1031条)、配偶者短期居住権においては対抗要件についての定めはない。 建物所有者には、第三者に建物を譲渡する等して配偶者短期居住権を害するような行為をしてはならないという義務が定められているが(法案1037条2項)、実際に建物が譲渡されてしまった場合には、配偶者は配偶者短期居住権を譲受人に対抗できないということになる。 このような建物譲渡が行われたことによって配偶者に損害が生じた場合には、配偶者は、建物の前所有者(譲渡人)に対し、1037条2項違反を理由として、生じた損害の損害賠償を請求することはできるだろう。 また配偶者居住権(長期)では、配偶者居住権者の権利として建物の使用のみならず収益も認められていることもあって配偶者が第三者に転貸する場合に関する規定が置かれているが、配偶者短期居住権では建物の使用のみが認められていることから、転借人との関係についても特段の定めはない。 したがって、配偶者が建物所有者の承諾を得て第三者に居住建物を使用させていた場合でも、配偶者短期居住権が消滅すれば、第三者が建物を使用する権利も当然に消滅するということになる(当然だが、建物所有者と第三者との間で直接、建物使用契約が締結されている場合は別である)。 このように、配偶者短期居住権は、あくまでも共同相続人や遺贈を受けた者などとの関係で配偶者を保護する権利である。   7 他の権利との比較 配偶者短期居住権についての規定は、使用貸借・賃貸借・配偶者居住権(長期)の条文が多数引用されているが、全体としては使用借権に近いものということができる。 すなわち、上述の通り配偶者短期居住権は建物の使用(従前、建物の一部のみを使用していた場合は一部についてのみ)のみを認める権利であり、対抗要件制度は存在せず、存続期間は遺産分割の終了6ヶ月後まであるいは建物所有者による配偶者短期居住権消滅の申入の6ヶ月後までという短期間に限られ、転借人の保護規定も存在しない。 こうした点は、賃借権や配偶者居住権(長期)とは異なり、賃借権や配偶者居住権(長期)と比較すると相当に弱い権利であって、使用借権に近い。   8 配偶者短期居住権の財産的評価 配偶者居住権(長期)においては、その財産的評価が重要なものとなるが、配偶者短期居住権は、配偶者が短期間に限って建物を使用することのみ可能な権利であることから、相続分の算定においても財産的評価の対象とはならないと考えられる。 法制審議会においても、配偶者短期居住権の取得によって得た利益は具体的相続分に含めないものとすることが提案されていた(民法(相続関係)等の改正に関する中間試案1頁)。 (了)

#No. 273(掲載号)
#阪本 敬幸
2018/06/21

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-法務編- 【第2回】「株式及び株主の調査」

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -法務編-   弁護士法人ほくと総合法律事務所 弁護士 鈴木 裕也   ←(前回) | (次回)→   本連載では、法務デューデリジェンスにおいて弁護士が具体的に何をどう調査しているのかを、調査項目ごとに詳述している。今回はその第2章として、「株式及び株主」項目を取り上げる。   《第2章》 -株式及び株主- 【第2回】 「株式及び株主の調査」   はじめに 法務デューデリジェンスの調査項目として、「株式・株主」が含まれることが一般的である。 特に株式譲渡形式によるM&Aの場合、「株式の有効性」(譲渡対象株式が有効に発行され存続しているか)及び「譲渡対象株式の帰属」(売主が真に譲渡対象株式の株主であるか)は、M&A取引そのものの大前提となる。 そのうえ、この点については財務デューデリジェンスやビジネス・デューデリジェンスでも当然には調査対象とならないから、法務デューデリジェンスにおいてこれらを調査・確認しておく意義は一般にいって大きい。 また、副次的な目的として、「株主の属性」や「対象会社と株主との取引」を把握しておく、という点なども挙げられる。特に、株式の一部譲受けのように、M&A実行後も既存の株主が一部残る場合には、そこに例えばM&Aに反対し、M&A実行後も買主の経営に抵抗することが予想されるような問題株主が含まれていないか等の「株主の属性」を知ることが買主の関心事になる。 また、特に100%オーナーシップのような閉鎖的企業の場合には、会社と大株主との間に取引・便宜その他の特別な利害関係が存在していることが少なくない。 一般的には、このような利害関係はM&A実行時に整理・遮断すべきこととなるが、そうした利害関係の有無・内容を特定するために「対象会社と株主との取引」を調査の目的とすることもしばしばある。 ではそのために、具体的にはどのような調査手続を実施しているのだろうか。   1 精査対象資料 「株式及び株主」項目調査資料としては、〔共通編〕【第2回】に掲載した「資料依頼リスト」の「Ⅱ 株式及び株主」欄に掲記のようなものが挙げられる。   2 調査手続 (1) 株式の有効性及び帰属 まず、対象会社の定款、登記事項証明書及び株主名簿等により、現在の対象会社の発行済株式数及びその帰属を第一次的に把握する。 次に、対象会社が作成した「設立以来の新株発行及び株式譲渡等の一覧表」やインタビュー等により、対象会社の設立から現在の株式数及び帰属に至るまでの株式の発行(・消却等)及び株式譲渡等のイベントを網羅的に書き出す。そのうえで、特定された各イベントの法的有効性を客観証拠により裏付けられるかを、1つ1つ確認していく。これが一般的な調査手順である。 新株発行の無効は、6ヶ月(または1年)の提訴期間を経過した後は主張できなくなるので(会社法828条1項2号)、提訴期間を経過した新株発行について有効性を確認する必要は、相対的には低い(ただし、提訴期間経過後の新株発行についても、「新株発行の不存在」(会社法829条1号)という事態はあり得る)。 ただし、発行された新株が「誰に何株割当てられたか」は、新株発行自体の効力とは別途、問題となり得るから、この点は、割当てを決定した取締役会の議事録等で確認するのが望ましい。 株式譲渡の有効性については確認がさらに難しい。株式譲渡に会社の承認を要する、いわゆる譲渡制限会社であれば、譲渡承認決議の議事録と、これに沿った株主名簿の名義書換請求書等とがあれば、一般には、譲渡の裏付けとなると考えられる。また、譲渡制限がない会社の場合には、株主名簿の名義書換請求書等を裏付けとすることが考えられる。 これらの調査は、対象会社の社歴が浅く、株主数も少なく、過去の株式発行・株式譲渡等に関する資料が対象会社に適切に保管されているという場合には比較的容易である。しかし、そのような条件を満たさない会社に直面することも往々にしてある。 このような場合、対象会社が株券発行会社であれば、現在の株主は「株券の交付を受けた者は、(悪意・重過失がない限り)当該株券に係る株式についての権利を取得する」旨を定めた会社法131条2項に基づいて、有効に株式を取得したといえないかを検討したり、株券不発行会社であれば、株主権の時効取得(民法163条。ただし、株主権の時効取得が認められるかは争いがある)を検討したりして、できる限り権利関係を整理するように努める。 それでも完全には権利関係を確定できない場合には、買主としては、M&A取引実行後に株式の存在や帰属を争われるリスクがどの程度あるのか、弁護士等にも相談しながら、M&A取引を進めるか否かを判断することが求められる。 (2) 種類株式及び潜在株式の有効性、権利内容及び帰属 対象会社の定款及び登記事項証明書等により、種類株式及び潜在株式(新株予約権や新株予約権付社債等)の存否・株数ないし個数及び権利内容(場合により帰属も)を確認し、権利内容がM&A取引及び買収後の経営に影響しないかどうかを検討する。影響があると判断される場合には対応策を検討する。 (3) 株主の属性 対象会社の株主名簿等を参照しながらインタビューを実施すること等により、対象会社の株主の属性を調査する。どのような「属性」を問題にするかは、法務デューデリジェンス開始前に、買主と法務デューデリジェンス担当弁護士等との間で協議・確認しておくべきである。 ただし、株主の属性が問題になるのは、一般には、前述したとおり、M&A実行後も少数株主が残るケースに限られる。また、そのようなケースでも、少数株主の属性それ自体がディールブレイクの原因となったり、買収価格に直接影響を及ぼしたりすることは、通常は考えにくい。 したがって、調査に要する時間や法務デューデリジェンスに充てられるコスト等次第では、あえて調査対象にしないという判断もあり得る。 (4) 対象会社と株主との間の取引等 インタビュー等により、対象会社と株主との間の取引等の有無及び内容を調査する。ただし、法務デューデリジェンスでは資料及び調査手法に限界があるため、財務デューデリジェンスにより提供される情報を参照することも有効である。 現実には、対象会社と株主との間の取引について書面の契約がないことがままある。また、対象会社と株主との間でコンサルティング契約等を締結しているが、契約書の記載からは、株主がいかなる業務を受託しているのか明らかではないといったケースもみられる(実際には何らの業務も行っていないのに、コンサルティング料等の名目で金員が支払われているケースすら見受けられる)。 そのため、対象会社と株主との間の取引を把握した場合には、取引の重要性や実態について、対象会社に詳細な説明を求めることが望ましい。 調査の結果、対象会社が株主との間で経済合理性のない契約や実体のない契約を締結していた等の事実が判明した場合には、買収者は、それらの解約等をM&A実行の条件とすべきこととなる。場合によっては、M&A実行後、対象会社の旧経営陣に対して、善管注意義務(会社法330条、民法644条)違反を理由とする損害賠償(会社法423条)を請求するか否かを検討することもあり得る。 (5) 株主間契約 対象会社に対し(もしあれば)対象会社における株主間契約の提出を求め、その内容を精査する。 株主間契約の内容は個別の事情により様々であるが、例えば、他の株主の同意なくしては株式の譲渡が制限されるという旨の規定や、株主が株式譲渡を検討する際には、他の株主が望めば第三者ではなく他の株主に優先的に売却しなければならないとする規定が定められていることがある。 また、特定の株主総会決議事項について特定の株主に拒否権を付与する規定が定められていることもある。 株主間契約がある場合には、その規定によりM&A取引の実行が阻害されないか、取引を実行するにあたって株主間契約上いかなる手続を履践すべきか等を検討する必要がある。   (了)

#No. 273(掲載号)
#鈴木 裕也
2018/06/21
#