〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第69回】 「納税義務の成立の時及び納税義務者」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 不動産売買契約書を作成するにあたり、下記の売買契約書には印紙税が課されると聞きました。この場合、いつ・誰が、印紙税を納める義務があるのですか。 課税文書の作成者である甲乙がともに署名押印した時に、連帯して印紙税を納める義務がある。 [検討1] 課税文書の作成者とは 「課税文書の作成者」とは、その文書に記載されている名義人が作成者となる。また、法人等の役員や従業員がその業務等に関して、その役員や従業員の名義で作成する場合は、その法人等が作成者となる。 したがって事例の場合は、その文書に記載されている甲及び乙が作成者となり、売主である甲においては営業本部長の名義で作成するものの、法人の業務に関して作成するものであることから、作成者は営業本部長ではなく、〇〇不動産株式会社となる。 [検討2] 課税文書の作成の時とは 「課税文書の作成の時」とは、事例の不動産売買契約書のように、契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される課税文書の場合は、その証明の時とされ、「甲乙署名押印した時」が作成の時とされる(※)。 (※) 実際は契約が成立しているにもかかわらず、文書所持者が自己の署名押印をし忘れて、契約相手方の署名押印だけがあるものを所持している場合は、文書所持者において容易に押印することが可能であり、課税文書に該当することとなるので留意する。 [検討3] 共同作成者の連帯納税義務 事例のように甲乙の間で作成した場合、課税文書の作成者は甲乙ともに納税義務がある。したがって、印紙税の負担は連帯して行うこととされており、どちらが印紙税を負担してもよく、双方において納得された場合は負担割合も自由に決められる。 ▷まとめ 印紙税は課税文書の作成者が文書を作成した時に印紙税を納めることとなる。この場合は甲乙が共同して作成しているため、甲乙が作成者であり、ともに納税義務者となる。 また、「作成した時」とは当事者の意思の合致を証明する時であり、甲乙ともに署名押印した時に収入印紙を貼付する等して印紙税を納めることとなる。 (了)
〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第10回】 「もし桃太郎が鬼ヶ島へ行くことをイヌ・サル・キジに隠していたら ~収益認識対象とならない場合の処理」 公認会計士 石王丸 周夫 1 桃太郎、行き先を明かさず 桃太郎がイヌとサルを連れて、鬼ヶ島に向けて歩いていると、キジがやってきました。 「桃太郎さん、お腰につけたきびだんごを、1つ私にくださいな。」 「いいとも。ぼくの家来になってお供をするなら、きびだんごをあげよう。 「ところで、どこまでお供するのですか。危ないところなら行きたくありません。」 「行き先はまだ言えないんだよ。少し大変だけど、このきびだんごがあれば大丈夫。心配するようなところではないよ。」 すると、キジは少し考えました。 (ということなら、危なくはないということかな? ちょっと気になるけど、そこはお供しながら桃太郎さんと話してみればいいか・・・) そして、こう答えました。 「わかりました、桃太郎さん。お供しますので、きびだんごをください!!」 この話に基づいて、キジが桃太郎からもらったきびだんごという報酬について、どのように会計処理すればよいかを考えてみましょう。 【第1回】で述べたように、収益の認識は、まず契約内容を確かめることから始めます。桃太郎とキジは口頭で上のような約束をしたので、これは契約です。その内容について、【第2回】と同じように双方の権利と義務を整理してみましょう。 〈桃太郎の権利と義務〉 〈キジの権利と義務〉 これらの権利と義務が表裏一体になっていることも確認しておきましょう。 権利義務の対応関係が2つ識別できますが、1つめの方は細部を決めないまま合意してしまったかのように見えます。 単純なモノの売買ではないため、細部について双方の協議によるとする契約もあるわけですが、ここはあいまいさが残ります。 2 きびだんごを収益認識するための条件 やや問題を抱えた契約内容でしたが、一応のところ整理ができたので、この契約が収益認識の対象となるものかどうかを判定します。 【第2回】で示したように、収益認識会計基準では以下5つの条件を満たす場合に収益認識の対象となります。 ① 桃太郎とキジが、各自の義務を果たすことを約束しているか? ② 桃太郎とキジのそれぞれの権利は明確か? ③ キジが提供するサービスの報酬について、対価の支払条件は明らかか? ④ 契約により、キジがきびだんご報酬を得る等、経済的実質があるか? ⑤ キジの対価の回収可能性に問題はないか? すると、この契約が抱えている上述の問題から、5つの条件のうち①と②が満たされないことがわかります。 桃太郎としては、キジの義務は『鬼退治への同行』だと考えています。そのつもりできびだんごを与えたのです。しかし一方で、キジは自らの義務を『危険のない範囲で桃太郎にお供すること』だと考えています。 つまり、キジは、桃太郎が期待しているような義務を果たすことは約束しておらず、桃太郎の権利もその点で不明確です。 したがって、この契約は①と②の条件を満たさず、収益認識の対象となりません。 ではその場合、キジはどのように会計処理すればよいでしょうか。 というと、これは収益認識会計基準に定めがあります。 一般的には、上記5つの条件がこのあと満たされるかどうかを引き続き待ち、条件が満たされたら、収益認識会計基準を適用するという手順になります。 ただし今回のお話では、条件を満たさないまま、対価であるきびだんごを受け取っているため、何らかの会計処理が必要になります。その場合、次のいずれかに該当するときは、受け取った対価を収益として認識します。 (1) キジが桃太郎に以後のサービスを提供する義務がなく、約束した対価(きびだんご)のほとんどすべてをキジが受け取っており、桃太郎への返還は不要である。 (2) 契約が解約されており、キジが桃太郎から受け取ったきびだんごを返す必要がない。 つまり、現にキジはきびだんごをもらっているので、その時点で貸借対照表の資産サイドにきびだんごを計上し、そして、上記(1)または(2)のいずれかに該当するまで、もしくは先ほどの①と②の条件が満たされるまで、きびだんご1つに見合う額を負債に計上して様子を見る、ということになります。 この負債は、将来における「キジのサービス提供義務」あるいは「キジのきびだんご返還義務」を表しています。 ▷今回のまとめ 収益認識の対象となる条件が満たされていない状態で対価を得た場合、所定の状態になるまで負債計上しておきます。 (了)
企業結合会計を学ぶ 【第18回】 「取得とされた株式移転の会計処理」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、取得とされた株式移転の会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 株式移転のイメージ 株式移転とは、1又は2以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう(会社法2条32号)。 「株式移転設立完全親会社」とは、株式移転により設立する株式会社をいい(会社法773条1項第1号)、また、「株式移転完全子会社」とは、株式移転において、株式移転設立完全親会社に発行済株式の全部を取得させる株式会社をいう(会社法773条1項5号)。 株式移転のイメージは次の図のとおりである。 〔例〕 次の条件による株式移転を行った(「結合分離適用指針[設例15]取得-株式移転設立完全親会社の会計処理」を参考にしている)。 Ⅲ 株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の会計処理 1 子会社株式の取得原価の算定 株式移転による共同持株会社の設立の形式をとる企業結合が取得とされた場合には、取得企業の決定規準に従い、いずれかの株式移転完全子会社を取得企業として取り扱う(結合分離適用指針120項)。 株式移転設立完全親会社が受け入れた株式移転完全子会社株式(取得企業株式及び被取得企業株式)の取得原価は、それぞれ次のように算定する(結合分離適用指針121項)。なお、株式移転設立完全親会社が新株予約権付社債を承継する場合等の取扱いについては、結合分離適用指針121-2項に規定されている。 2 株式移転設立完全親会社の増加資本の会計処理 株式移転設立完全親会社の増加すべき株主資本は、払込資本(資本金又は資本剰余金)とし、増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づいて決定し、また、株式移転設立完全親会社の増加すべき株主資本の額は結合分離適用指針121項の取得の対価の算定に準じる(結合分離適用指針122項)。 Ⅳ 株式移転完全子会社(取得企業又は被取得企業)の個別財務諸表上の会計処理 株式移転完全子会社(取得企業又は被取得企業)では、株主が、従来の株主から株式移転設立完全親会社に入れ変わるだけなので、基本的には、特段の会計処理は行われない。 ただし、新株予約権の交付又は新株予約権付社債の承継や、株式移転完全子会社(取得企業)が株式移転日の前日に他の株式移転完全子会社(被取得企業)となる企業の株式を保有していた場合について、結合分離適用指針は規定を設けているので注意する(結合分離適用指針123-2項、123-3項)。 Ⅴ 株式移転設立完全親会社の連結財務諸表上の会計処理 1 投資と資本の消去 株式移転による企業結合が取得とされた場合の資本連結の手続は、連結会計基準に従って行い、次の(1)①と②及び(2)①と②をそれぞれ相殺消去する(結合分離適用指針124項、連結会計基準23項)。 また、(2)の消去差額であるのれん(又は負ののれん)は、結合分離適用指針72項及び76項から78項に準じて会計処理する(結合分離適用指針124項)。 2 株式移転完全子会社(取得企業)の資産及び負債の引継ぎ 連結財務諸表上、株式移転設立完全親会社は株式移転完全子会社(取得企業)の資産及び負債の適正な帳簿価額を、原則として、そのまま引き継ぐこととされている。ただし、株式移転完全子会社(取得企業)が連結財務諸表を作成している場合には、株式移転完全子会社の連結財務諸表上の帳簿価額で受け入れる(結合分離適用指針125項)。 ただし、連結財務諸表上の資本金は、株式移転設立完全親会社の資本金とし、これと株式移転直前の株式移転完全子会社(取得企業)の資本金が異なる場合には、その差額を資本剰余金に振り替えることとされている(結合分離適用指針125項)。 (了)
「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第5回】 「従業員の「残業と健康の両立」に活用したい 『勤務間インターバル制度』」 Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 飯野 正明 前々回、前回と「残業時間の上限規制」についてお話してきました。 しかし、会社としては「『残業時間を減らせ』と言われても、どうしても今日中に仕上げてもらわなければならない業務があるんだよね。」といったこともあり、ときには深夜にまで、従業員の残業が及んでしまうこともあります。 このような場合に、翌日の朝、従業員がいつもと同じ時間に会社に出社するとなると、ゆっくり睡眠がとれない状態になりかねません。前日遅くまで働いた上に、ゆっくり休めていないとなると、翌日の仕事ぶりに影響が出ることも考えられます。 こんなときに有効になるのが、「勤務間インターバル制度」です。 ▷勤務間インターバル制度とは 「勤務間インターバル制度」とは、勤務終了時刻と翌日の始業時刻の間に、一定時間以上の休息時間を設ける取組みのことをいいます。「勤務間インターバル制度」を導入することで、前述の例のような、夜遅くまで働いた従業員の翌日の始業時刻を繰り下げ、「明日の朝は、いつもよりゆっくり出社していいよ!」という対応が可能になります。 この制度は、従業員の生活や睡眠時間を確保することが目的です。睡眠不足は、うつ病などの「こころ」や「からだ」の不健康リスクを増加させると考えられています。筆者も主治医からは、「睡眠時間は、1日7時間を確保すること!」といつも言われています。睡眠時間の確保は、従業員の健康を守るためにも重要なことなのです。 実際のところ、従業員が十分に休息をとるためには、遅くとも「20時」までに退社するのが望ましいでしょう。例えば、18時終業で通勤が片道1時間と考えると「2時間残業」して、退社時間は20時になります。1時間かけて自宅に着くと21時となり、寝るまでに3時間ほどの自由な時間を過ごすことができます。これくらい時間があればゆっくりとお風呂も入れるし、1日7時間の睡眠時間を確保することができそうですね。 しかしながら、いつも早く帰れるとは限りません。退社時間が1時間遅くなり2時間遅くなり・・・となってくると、どうしても睡眠時間を削ることになります。こんなときに「勤務間インターバル制度」の出番となるのです。 例えば、インターバル(=休息時間)を「11時間」と設定すると、22時まで勤務した場合には、翌日の始業時間(9時)までの間に「11時間」の休息時間は確保できています。 しかしながら、23時まで勤務をした場合には、翌日の始業時刻までの間は「10時間」しかないため、「11時間」の休息時間を確保できません。 そのため勤務間インターバル制度を導入している場合には、出社時間を1時間繰り下げて「10時」とし、11時間の休息時間を確保します。 なお、就業規則等で21時以降の残業を禁止し、かつ8時以前の始業を禁止する旨の定めをすることで、上記と同様に終業から次の始業までの休息時間を「11時間」確保することが可能となります。「勤務間インターバル制度」はこのような導入の方法もあります。 ▷助成金を活用して制度の導入を 仮に休息時間を9時間以上とする勤務間インターバル制度を導入した場合、厚生労働省で実施している「時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」を活用することによって、「最大100万円」の助成金を受給することが可能です。 この助成金は、社会保険労務士(以下「社労士」)などの外部専門家によるコンサルティング、就業規則・労使協定等の作成・変更、勤怠管理システムの導入等に要した費用の一部を助成するものです。 勤務間インターバル制度の導入を検討している会社は、こういった助成金の活用も合わせて検討したいところです。 なお、労働社会保険諸法令に基づく助成金の申請書の作成及び行政機関への提出等は、社労士法により社労士の業務と定められており、社労士又は社労士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、それらの業務を業として行えないこととなっていますので、注意が必要です。 ▷勤務間インターバル制度の留意点 以下では勤務間インターバル制度を導入するにあたって、どのような留意点があるかを見ていきます。 1 適正な始業・終業時刻の把握 そもそも、従業員の始業・終業の時刻が適正に把握できなければ、何時間の休息時間を与える必要があるのかが明確にならないため、正確な始業・終業時刻の把握が必須となります。 このために、新たに勤怠システムを導入する場合には、前述した「時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」を活用することで、導入時の金銭的負担を減らすことができます。 2 休息時間の目安は? 休息時間の長さについては、法令等で特に定められているわけではありません。「自社で勤務する従業員の平均の通勤時間+7時間」、このあたりが1つの目安と考えられます。 ちなみに、この「勤務間インターバル制度」はEU(欧州連合)ではすでに導入されている制度で、EUにおいては24時間につき、最低でも連続11時間の休息が定められています。なお、前述の「時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」では、「9時間以上」が対象となっています。 3 連続での適用には問題が・・・ 勤務間インターバル制度を適用し続けると、極端な話かもしれませんが出勤時間がどんどん遅くなって、お昼過ぎに出社なんてことにもなりかねません。 特定の従業員ばかりに残業をさせない仕組みづくりが望まれますが、制度の対象者には、連日の残業をさせないようにすることや、業務繁忙期などの特定の時期には勤務間インターバル制度の適用をしないといった対応が必要なケースも考えられます。 4 確保した休息時間の取扱い 確保した休息時間が通常の勤務時間と重なった(始業時間をずらした)場合には、その時間帯についての労働は、休息時間となるため、労働を免除したこととなります。 この場合のその時間帯に対する賃金の支払いは、労使間で取り決めるため、取り決めによっては「無給でも構わない」ということになります。 5 勤務間インターバル制度の導入は努力義務 2019年4月1日から勤務間インターバル制度の導入が会社の努力義務となっています。なお、労基法改正後に「特別条項付き36協定」を締結する場合には、何らかの健康確保措置を取らなければなりません。この健康確保措置の1つとして、勤務間インターバル制度が挙げられています。 * * * 残業はいつもするものではなく、必要に応じてやるものです。もちろん、場合によっては会社として、従業員に長時間の残業をさせざるを得ない状況があるでしょう。 そのような場合に、従業員にしっかりと働いてもらうためにも、「勤務間インターバル制度」は必要ではないでしょうか。 しっかりと働いてもらった後は、しっかり休んでもらう。休息時間を確保し、翌日以降に疲労を残させない働き方が「従業員の健康」を守ることにつながるのです。 (了)
空き家をめぐる法律問題 【事例14】 「長屋が空き家になった場合の諸問題」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - ある地方都市の中心街には、老朽化した2つの居住部分から成る長屋が存在している。このうち一方には使用者が存在するようであるが、他方は空き家となっており、昨今の風水害で建物自体が若干傾いている。また、空き家側の土壁が剥がれて隣家に及ぼうとしているが、誰も管理者がいない状態にある。 1 はじめに 地方都市に出張すると、町の中心街に昔ながらの長屋が残っている様子を見かけることがある。その中には、大都市圏への人口流出等によって空き家となり、屋根瓦が剥がれたり、外壁が崩れたまま放置され、危険な状態となっているものもある。 これらは早急な対応が望まれる一方で、長屋の権利関係は、一戸建と比べて複雑であり、マンションの管理組合のような組織も存在しないのが通常であろうから、異なる考慮をしなければならない点もある。 そこで今回は、長屋の空き家問題について検討することとしたい。 2 小問【1】について (1) 「長屋」の権利関係 そもそも長屋には法律上の定義規定はないが、一般に、2つ以上の住宅を一棟に建て連ねたもので、各住宅が壁を共通にし、それぞれ別々に外部への出入口を有しているものなどとされている。 長屋自体の所有関係は、一棟の建物の一部が構造上他の部分から区分されており、独立して建物の用途に供されているものである場合には、それぞれの居住部分に区分所有権が成立するものと考えられている。他方、長屋の敷地については、専有部分に応じて敷地が分筆されているものや共有となっているものなど様々な形態がある。 長屋には、各専有部分に通じる共通の廊下のような共用部分は存在しないが、屋根、基礎、土台部分、外壁、柱、境界壁といった躯体部分は、建物全体が隙間なく接続されているため、専有部分以外の建物の部分として共用部分に該当するものと解されている(東京地判平成25年8月22日判時2217号52頁)。各住宅部分の壁や屋根等の躯体部分を共通にしており、全体として一棟の建物の安全性を維持していることからすると、このような判断は妥当と考えられる。 なお、当該平成25年判決は、長屋の敷地部分が各専有部分に応じて分筆されていた事実関係において、躯体部分は各専有部分に分属しているから共用部分ではない旨の主張を排斥したものであった。 (2) 長屋の管理法等 長屋が区分所有建物に当たる場合に、共用部分を変更するためには、原則として、区分所有者及び議決権の各4分の3が必要となるが(区分所有法第17条)、共用部分の保存行為については、各区分所有権者が単独で行うことができる。 例えば、2名の区分所有者からなる長屋で、一方の区分所有者の住宅側が傾いていたり、外壁や屋根が剥離しているような場合、他方の区分所有者は、自身の住宅側の安全性を維持する観点から、保存行為として単独で修繕行為を行うことができると考えられる。もっとも、長屋の場合、修繕積立金のようなものは存在しない場合が多いであろうから、保存行為に要した費用を改修する側で負担するリスクが伴うことになる。 また、長屋の半分側が崩れており、自身の住宅の安全性を維持するために、当該崩壊部分を取り壊して更地にする場合には、区分所有者全員の同意を要することになる。この場合、他方の区分所有者が所在不明である場合には、家庭裁判所に対し不在者財産管理人選任の申立てを行い、同意を取り付けた上で取壊し等を行うことになる。 ここで注意しなければならないのは、長屋は、一棟の建物として建築基準法上の許可等を得ているため、一部を取り壊した結果、残存建物だけでは接道義務や斜線制限に違反することになる可能性があるという点であり、取壊しの際には留意が必要である。このような場合は、長屋全体を取り壊し、敷地を売却するということが合理的な場合もあるように思われる。 2 小問【2】について (1) 長屋と空家等対策の推進に関する特別措置法との関係 長屋の一室が空き家となっており、その空き家部分の外壁が崩れて倒壊の危険があるような場合、長屋の区分所有者は、空き家等対策の推進に関する特別措置法(以下「空き家特措法」という)に基づく助言、指導、勧告、措置命令を受けるだろうか。 この点、空き家特措法第2条に規定する「空き家等」とは、「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの」と規定されており、建物一棟を基準に判断することになるため、たとえ長屋の一部が空き家になっていたとしても、全体が空き家になっていなければ同法の対象からは外れることになる。そのため、空き家部分の外壁が崩れるなどして倒壊の危険があるとしても、空き家特措法に基づく行政上の責任は発生しないことになる。 (2) 地方公共団体の独自条例 そこで、地方公共団体の空き家対策に関する条例の中には、「長屋」を条例の対象に含めているものが見受けられる。例えば、愛媛県の八幡浜市空家等対策の推進に関する条例は、「長屋空家等」を「長屋及び共同住宅の一部住戸又はこれらに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。」と定義して、助言、指導、勧告、措置命令の対象に含めている。 もっとも、このような条例は、主として、長屋の空き家部分の区分所有者に対して権限行使をすることを念頭に置いているように思われる。一方で、上記のとおり、長屋の変更を伴う管理行為や取壊しは単独では行えない。そのため、空き家部分以外を使用している区分所有者についても権限行使の対象に含めなければ実効性に乏しいように思われる。この場合、区分所有者に対して、長屋の除却命令が出されるのか、一部除却命令に留まるのか(この場合、除却後の違法建築問題等のリスクが残る)といった疑問はあるが、区分所有者としては、このような行政上の責任を負う可能性があることは念頭に置いておくべきであろう。 3 小問【3】について-隣家の住人の長屋の所有者等に対する請求 長屋の一部壁面が崩壊し、隣家に迫っているというような場合、上記平成25年判決に沿って考えると、当該長屋の外壁等は共用部分であり、各区分所有者が共有していることになる。したがって、隣家の所有者は、長屋の各区分所有者に対して、所有権に基づく物権的妨害予防請求を行うことが考えられる。また、外壁が傾いたり一部が損壊するなどして実際の被害が生じているような場合は、所有権に基づく物権的妨害排除請求や民法第717条の土地工作物責任に基づく損害賠償請求を行うことになるものと考えられる。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第21話】 「ふるさと納税制度」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「中尾統括官は昨年、いくらふるさと納税をしましたか?」 昼休みに、浅田調査官は座っている椅子をまわして、尋ねる。 「ふるさと納税・・・か?」 新聞を読んでいた中尾統括官は顔を上げる。 「たしか・・・10万円ぐらいだったと思うが・・・」 中尾統括官は自信なさそうに答える。 「統括官は給与収入額が多いから、もっとふるさと納税をしても良かったのではないですか?」 浅田調査官は、笑いながら言う。 「私はワンストップ特例の制度を利用したから、ふるさと納税については、自分で確定申告をしていないんだよ・・・」 そう言うと、中尾統括官は、ふるさと納税の算式を確認する。 「例えば、給与収入額が1,000万円で・・・ふるさと納税を10万円したとすると・・・控除額はいくらになるのかな?」 中尾統括官が浅田調査官に尋ねる。 「それは総務省のホームページからダウンロードできる『寄附金控除額の計算シミュレーション』を使うと、簡単に計算できますよ。」 浅田調査官はパソコンの画面を開き、ダウンロードしていたEXCELファイルを開いた。 「・・・例えば今のケースでは・・・家族構成の入力は無視して・・・給与収入額と寄附額のみ入力すると・・・」 浅田調査官は、キーを叩く。 「・・・控除額は、98,000円になります・・・」 中尾統括官は頸を伸ばして、パソコンの画面を覗く。 「つまり2,000円だけ自己負担になるということです・・・ですから、もっと寄附金の額を増やしても良かったのでは?」 そう言いながら、浅田調査官は再びキーを叩く。 「寄附額が150,000円でも、148,000円が控除額になりますが、寄附額が200,000円では、控除額は181,532円になりますから、自己負担額は2,000円を超えて、18,468円になります。」 浅田調査官のキーを叩く音が次第に早くなる。 「ということは・・・やはり浅田君の言うとおり、もっと寄附をすれば良かったということか・・・」 中尾統括官は苦笑いをする。 「ところで統括官、10万円の寄附をして、いくらぐらいの返礼品を受け取ったのですか?」 浅田調査官が尋ねる。 「返礼品か・・・」 中尾統括官は腕を組んで考える。 「・・・サーモンステーキ、コシヒカリ、フルーツトマト・・・そして玉露茶か・・・だいたい金額にして、4万円ぐらいになると思う・・・」 中尾統括官は自信なさそうに答える。 「ということは、10万円の寄附をしたことによって、4万円から2,000円を控除した3万8,000円の利益を得た・・ということですね。」 浅田調査官は羨ましそうな顔をする。 「しかし・・・この制度自体・・・やっぱりおかしいと思いませんか?」 そう言いながら、浅田調査官はパソコンで総務省のホームページを開く。 「総務省のホームページでは、ふるさと納税制度について・・・・①納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなること、②生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれること、そして③自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むことを挙げています・・・そして・・・」 と言って、浅田調査官は、少し考える。 「この・・・③の自治体間の競争が今問題となっているのですが、自治体は地域のあり方を考えるのではなく、多くの寄附金を獲得するために返礼品の内容のみに着目し、豪華な返礼品という形で、自治体間の競争が過激化されています・・・それに対して寄附者は、ふるさとへの応援というよりも、寄附に対する返礼品欲しさに、買い物感覚で寄附をしています。自治体と寄附者はともに、ふるさと納税制度の趣旨から遠く離れたところで、寄附の授受を行っているのが現状です・・・」 そう言うと、浅田調査官は中尾統括官をじっと見る。 「おいおい、そんないやな目つきをするなよ・・・」 中尾統括官は笑いながら頸を振る。 「別に・・・ふるさと納税をした中尾統括官を責めているわけではないのです・・・もともと、ふるさと納税制度自体が矛盾しているのでしょう・・・『寄附』と言いながら、返礼品という対価がある・・・ですから、実質的には、寄附ではないのです。」 浅田調査官は饒舌になる。 「そう言えば今年の税制改正で、ふるさと納税制度について改正があったよな。」 中尾統括官は税制改正のパンフレットを開く。 「・・・総務大臣がふるさと納税の対象に指定する基準として、寄附金の募集を適正に実施する自治体であること、また、寄附に対する返礼品の基準について、1つは、返礼割合を3割以下にすること、2つは、返礼品を地場商品とすることになっている・・・」 中尾統括官はパンフレットを読み上げる。 「でも、この改正で、ふるさと納税の本質的な問題が解決されたわけではありませんよね。」 浅田調査官はつれなく言う。 (つづく)
《速報解説》 経産省、『「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-』の平成31年度税制改正版を公表 Profession Journal編集部 2017年の公表以降、各法令等の改正を受け経済産業省によって改訂が繰り返されている『「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-』は、既報の通り本年3月にも株式交付信託に関するQ&Aが追加されたばかりだが、このほど5月31日付で、今年度の税制改正事項を反映した新たな改訂が行われた。 役員報酬に関する平成31年度税制改正では、昨年改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいて監査役会設置会社や監査等委員会設置会社における報酬決定の手法として、客観性・透明性の高い報酬諮問委員会の活用が原則化されたことを受け、法人税法34条1項3号に定められた業績連動給与の損金算入要件のうち、その算定方法の決定手続(同号イ(2))について見直しが行われた。 (※) 経済産業省『「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-』P27より一部抜粋 今回の改訂版は上記の税制改正を踏まえ、以下のQ&Aが追加・見直されている。 Q2-1及びQ2-2では税制改正の概要及び経過措置を含む適用時期について解説しており、Q64-1~4にかけては税制改正後の業績連動給与としての損金算入要件の詳細がまとめられている。 例えばQ64-2で取り上げられた、今回の改正で報酬委員会等の独立社外取締役等に求められる「独立職務執行者」という要件については、改正法人税法施行令69条14項及び18項、改正法人税法施行規則22条の3第3項及び第4項でその規定内容を細かく確認することができるが、Q64-2ではこれら規定内容が「証券取引所における独立役員の基準(いわゆる「独立性基準」)とおおむね同等の要件であるため、証券取引所が求める「独立役員届出書」の対象となる者は原則として独立職務執行者の要件を満たすと考えられる」との見解を示しており、Q64-4でも「決定手続に係る損金算入要件を満たす報酬諮問委員会のイメージ」を図解するなど、利用者にとって判定しやすい視点・工夫が織り込まれている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 金融庁、「監査基準の改訂」等の公開草案を公表 ~限定付意見とした場合の理由記載を義務化~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和元年5月31日、企業会計審議会監査部会は、次の公開草案を公表し、意見募集を行っている。 「監査基準の改訂について(公開草案)」は、監査人による監査に関する説明及び情報提供の一層の充実を図る観点から、監査報告書における意見の根拠の記載や監査人の守秘義務に関するものである。 また、「中間監査基準の改訂について(公開草案)」及び「四半期レビュー基準の改訂について(公開草案)」は、今般の監査基準の改訂及び昨年(平成30年7月5日)の監査基準の改訂における監査報告書の記載区分の見直し等を踏まえたものである。 意見募集期間は令和元年7月1日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 監査基準の改訂(公開草案) アンダーラインが改訂事項である。 2 中間監査基準の改訂(公開草案) 次の改訂を行う。 3 四半期レビュー基準の改訂(公開草案) 次の改訂を行う。 Ⅲ 適用時期等 (了)
2019年5月30日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.320を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第59回】 「節税保険の改革のあり方」 税理士 山本 守之 1 OECDによる提言 経済協力開発機構(OECD)は4月15日に、日本の経済政策に対する提言を発表しました。 これによると、日本が十分な財政健全化を進めるためには、消費税率を20%から26%へ引き上げることが必要であるとしています。 日本の債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率は226%で、36のOECD加盟国の中でも過去最高となっており、この比率を150%に低下させるためには、プライマリーバランスを5%から8%の黒字で維持する必要があるという試算が出ています。プライマリーバランスの黒字化とは、社会保障などの政策経費を新たな借金なしで賄うことですので、そのためには消費税率を20%から26%へ引き上げることが必要であるというのです。 ただ、ここで注意したいのは、財政健全化のために所得税をどのようにしたらよいのかが触れられていないことです。 2 経営者保険に対する国税庁の対応 経営者保険(中小企業)は、経営者が死亡などの万一の事態に備える保険ですが、支払った保険料を会社の損金として計上できるため、節税を目的とした使い方が多くなっていました。支払った保険料の大部分を解約時に受け取れる商品などは、まさにこの保険の代名詞ではないでしょうか。 保険はもともと正しい保険数理によって保険料などを設計するものですが、保険会社としても顧客の“節税中心のニーズ”に合わせるため、本来の提案からずれてしまっていたという反省もあるようです。 いわゆる「節税保険」については、これまでも掛け捨ての会社契約における定期保険の支払保険料の損金算入と、保険期間の前半における高い解約返戻率をめぐって、平成20年に長期平準定期保険等の保険料の損金算入割合を見直すなどの対症療法を繰り返してきましたが、この度、国税庁は抜本的な見直しをするとしています。 国税庁は2月14日に生保各社に通達を見直すことを告知し、4月11日に改正通達案を公表しました。 改正通達案では、保険商品の類型ごとの個別通達を廃止し、法人税基本通達の定期保険の取扱いに第三分野の保険を取り込み、保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱いを同通達9-3-5の2として新設するとしています。既契約分への遡及適用はされません。 この改正案は4月11日から5月10日到着分までパブリックコメントを募集していましたが、国税庁は節税を中心とする保険を許してきたことを反省すべきです。 後述のように、国税庁は経営者保険の税制を見直し、解約時の返戻率が50%を超える場合に損金算入を制限することとし、生保各社は今後、返戻率の大きな保険の販売を中止し、返戻率が50%以下の新ルールに沿った販売を再開します。 3 通達整備の方向 改正通達は次のような方向で整理されています。 ☆新設又は改正される基本通達 ★廃止される個別通達 今回の通達改正の方向性の大きな特徴の1つが、個別通達を廃止して法人税基本通達に取り込むことです。 国税庁はその必要性について、類似する商品であっても、個別通達に該当するか否かで取扱いに差異が生じることや、今回、定期保険の保険料に関する法人税基本通達に吸収される第三分野保険の取扱いに差異が生じることがないように、取扱いを統一することを明らかにしています。 個別通達の廃止は、通達の射程範囲から外れる商品を開発する節税にひとまずピリオドを打つことになるでしょう。類似する商品に当てはめてきた例外的な取扱いの個別通達が存在しなければ、基本通達に立ち返って原則の取扱いに当てはめるしかないからです。 これまで問題とされてきたのは、保険会社が、保険期間が長期にわたる定期保険や保険金額が逓増する定期保険は、保険期間の前半に支払う保険料に後半の前払保険料が相当額含まれ、中途解約した場合にはその前払部分の保険料の多くが返戻される商品が多くあったことです。節税効果も加味した実質返戻率が100%を超えるものもあり、これについても法人税基本通達9-3-5の定期保険の定期保険料の原則の取扱いを適用することは課税所得の適正な期間計算を損なうとして、支払保険料の損金算入時期や資産計上割合を個別に定めたのが平成20年の長期平準定期保険料の取扱いです。 第三分野のがん保険についても、全額損金をセールストークに販売される商品が相次ぐ中、平成13年の個別通達に続き、平成24年には「がん保険」(終身保障タイプ)の保険料の取扱いに関する個別通達を改め、損金算入時期や資産計上割合の適正化を行ってきました。 4 最高解約返戻率ごとに定めた資産計上期間と割合 改正通達では、最高解約返戻率が50%を超えるものについて、下表のように3つの区分に分け、それぞれ資産計上期間と資産計上額(割合)を定めています。 【改正通達による資産計上期間・割合】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 当該期間経過後の各期間において、その期間における解約返戻金相当額からその直前の期間における解約返戻金相当額を控除した金額を年換算保険料相当額で除した割合が100分の70を超える期間がある場合には、その超えることとなる最も遅い期間 5 節税保険の対応への疑問 国税庁は今回の改正においても節税保険の対応を通達に委ねていますが、租税法律主義の下で、果たしてこのような見直しが正しいのか、問い直さなければなりません。税理士は通達によるお上の見解を定めたものをうのみにするのではなく、法人税のような租税法律主義による法解釈のあり方を考えるべきではないでしょうか。 (了)