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小規模宅地等の特例に関する平成30年度税制改正のポイント 【第3回】「経過措置の確認」

小規模宅地等の特例に関する 平成30年度税制改正のポイント 【第3回】 (最終回) 「経過措置の確認」   税理士 風岡 範哉   ここまで解説してきた平成30年度税制改正における特定居住用宅地と貸付事業用宅地の見直しは、平成30年4月1日以後の相続等に適用される。ただし、下記のように経過措置があるため、適用の判定に当たっては留意が必要である。   1 特定居住用宅地の見直し (1) 適用時期 【第1回】で紹介した家なき子特例の見直しは、平成30年4月1日以後の相続等から適用される。したがって、例えば、被相続人が平成30年4月1日以後に死亡した場合、【第1回】で紹介したようなケースで、息子名義の家に住んでいる相続人は、原則として家なき子に該当しない。 一方、被相続人が平成30年3月31日以前に死亡している場合、息子名義の家に住んでいる相続人は家なき子に該当する(H30所法等附118①)。 (2) 平成32年3月31日以前の相続の経過措置 ただし、経過措置として、平成30年3月31日時点で改正前の要件を満たしている者は、平成32年3月31日までに相続が発生した分については家なき子に該当するものとみなされることに留意が必要である(H30所法等附118②)。 例えば、平成30年3月31日時点で息子名義の家に住んでいる相続人は、平成32年3月31日までの相続においては家なき子に該当する。 なお、この平成30年3月31日時点で改正前の特定居住用宅地等の要件を満たしている宅地等を「経過措置対象宅地等」という。 (3) 平成32年4月1日以後の相続の経過措置 平成32年3月31日において、経過措置対象宅地等の上にある建物の新築又は増築その他の工事が行われており、かつ、その工事の完了前に相続があった場合である。 この場合、相続税の申告期限までにその建物を自己の居住の用に供したときに限り、被相続人の居住の用に供されていたものとし、その相続人は同居親族とみなして、特例の適用を受けることができる(H30所法等附118③)。 例えば、父が所有する経過措置対象宅地等において、平成32年3月31日時点で自宅を新築していて、完成前に父が亡くなり、その宅地を取得した子が申告期限までに居住したケースが該当する。 *  *  * 以上を踏まえ、適用判定をフローチャートでまとめると、次のようになる。   2 貸付事業用宅地の見直し (1) 適用時期 【第2回】で解説した貸付事業用宅地等の特例の見直しも平成30年4月1日以後の相続等から適用される。したがって、例えば、被相続人が平成30年4月1日以後に死亡した場合、相続開始前3年以内に貸し付けられたアパート、マンション、駐車場等の敷地は、原則として特例対象宅地に該当しない。 一方、被相続人が平成30年3月31日以前に死亡している場合、相続開始前3年以内に貸し付けられたアパート、マンション、駐車場等の敷地であっても、特例対象宅地に該当する(H30所法等附118①)。 (2) 平成30年4月1日以後の相続の経過措置 ただし、経過措置として、平成33年3月31日までの相続等については、平成30年3月31日時点で貸付事業の用に供されている宅地等であれば特例対象宅地に該当する(H30所法等附118④)。 *  *  * 以上を踏まえ、適用判定をフローチャートでまとめると、次のようになる。 (連載了)

#No. 272(掲載号)
#風岡 範哉
2018/06/14

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第41回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第41回】   公認会計士 佐藤 信祐   《第7章》 平成20年度から平成21年度までの税制改正 1 平成20年度税制改正 (1) 1株に満たない端数 平成20年度税制改正では、平成19年度税制改正で不明確であった三角組織再編成を行った場合における1株に満たない端数の処理について整備された。 これは、合併親法人株式に1株に満たない端数が生じる場合には、合併法人株式に1株に満たない端数が生じる場合と異なり、会社法上、1株未満の株式を交付したものとみなせないことから、法人税法上、1株未満の株式を交付したものとみなす規定が必要だったからである。 (2) 全部取得条項付種類株式 非適格株式交換を避けるために、全部取得条項付種類株式を利用した少数株主の締出しを用いることが一般化されたことに伴い、平成20年度税制改正では、取得価格決定の申立てにより交付される金銭を除いて、発行法人の株式のみが交付される場合に該当するかどうかを判定することが明確化された。これにより、取得価格決定の申立てを行った株主以外の株主に対しては、譲渡損益が繰り延べられることになる。 さらに、取得価格決定の申立てによる全部取得条項付種類株式が取得された場合であっても、申立てをしないとしたならば、1株に満たない端数となる者からの取得については、みなし配当の対象から除外することが明確化された。これにより、TOBに応じたとしても、価格決定の申立てを行ったとしても、譲渡所得に該当するのか、配当所得に該当するのかに差が設けられないことになった。ただし、これらの株主であっても、株式譲渡損益は認識する必要があるため、留意が必要である。 (3) 株式交換又は株式移転により増加する資本金等の額 株式交換又は株式移転を行った場合には、完全親法人において、完全子法人株式の帳簿価額が増加し、同額の資本金等の額が増加することが一般的である。 この場合において、完全子法人株式の取得価額に付随費用が加算されることから、本来であれば、以下のように、完全子法人株式の帳簿価額の方が資本金等の額よりも大きくなるはずである。 そのため、平成20年度税制改正では、資本金等の額の計算上、付随費用を控除して計算することが明らかにされた。 (4) 自己株式の取得により減少する資本金等の額 平成20年度税制改正では、みなし配当が生じない自己株式の取得を行った場合における減少資本金等の額について、以下のように規定された(平成20年改正法令8①二十一)。 本改正は、 と解説されている(※)。 (※) 『平成20年版改正税法のすべて』349頁。 なお、本稿校了段階における法人税法施行令は、平成20年度税制改正により規定された上記の条文に対して修正を行っているため、上記の条文の考え方は理解しておく必要があると思われる。   2 平成21年度税制改正 平成21年度税制改正では、特記すべき改正事項はなかった。 *   *   * ここまでで、会社法施行後からグループ法人税制導入前までの税制改正の流れを解説した。次回以降では、第8章として、その間に公表された国税局及び税務専門家の見解について解説を行う予定である。 (了)

#No. 272(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/06/14

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第37回】「大竹貿易事件」~最判平成5年11月25日(民集47巻9号5278頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第37回】 「大竹貿易事件」 ~最判平成5年11月25日(民集47巻9号5278頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 272(掲載号)
#菊田 雅裕
2018/06/14

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第60回】「金融機関等の本支店、出張所等が移転等した場合の預貯金通帳等に係る印紙税一括納付承認申請の取扱い」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第60回】 「金融機関等の本支店、出張所等が移転等した場合の 預貯金通帳等に係る印紙税一括納付承認申請の取扱い」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   平成30年度税制改正により、預貯金通帳等に係る印紙税の納付の特例を受けるための申請について、その申請の内容に変更がない場合には、再度、承認申請書を提出することを要しないこととなりましたが、承認を受けていた金融機関等の本支店、出張所等が移転した場合はどうなりますか。 【第58回】で解説したとおり、平成30年4月1日以後に作成する預貯金通帳等に係る承認について、毎年、税務署長への提出が必要とされていた承認申請は、その申請の内容に変更がない場合には、再度、承認申請書を要しないとされている。 上記の改正後、承認を受けていた金融機関等の本支店、出張所等が移転した場合は、その移転の日の属する課税期間の翌課税期間以後に移転後の場所の所在地において作成しようとする預貯金通帳等について、改めて承認を受けなければならない(基通97(注))。 また、承認を受けていた金融機関等の支店、出張所等が新設、統合された場合や、金融機関等が合併、事業譲渡、会社分割した場合にも新たに承認を受けなければならない(基通98~100の3)。 詳しくは、4月2日付けで改正された印紙税法基本通達を参照されたい。   ▷まとめ 預貯金通帳等は、長期間使用されるのが通例であり、印紙税法では預貯金通帳等については、1年以上にわたって使用すると1年区切りで1冊の通帳を作成したこととされている。預貯金通帳等は数量も多いため、個々に1年経過分の把握をすることは煩雑であることから、納付による特例として、簡便な納付方法が定められている。 平成30年度の税制改正において、預貯金通帳等に係る申告及び納付等の特例を受けるための承認申請について毎年受けていたものが、申請内容に変更がない場合には、再度、承認申請書を提出することを要しないこととされたが、金融機関等の本支店、出張所等が移転した場合等の取扱いは上記のとおり、態様により承認を受けなければ特例が受けられないので注意が必要である。 (了)

#No. 272(掲載号)
#山端 美德
2018/06/14

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第3回】「運転資本の分析(その1)」-運転資本の概要-

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編-   公認会計士 石田 晃一   ←(前回) | (次回)→   第2節 運転資本の分析 【第3回】 「運転資本の分析(その1)」 -運転資本の概要-   〔分析の対象となる主な勘定科目〕 ▷「運転資本」とは 「運転資本(Working Capital)」とは、「営業活動に恒常的に使用されている投下資金」を指し、一般的には「正常な営業循環において拘束される資金」を意味する。 運転資本の対象となる勘定科目の範囲は、対象企業のビジネスモデルや会計処理に応じてさまざまであることから、「運転資本」の範囲にはいくつかの考え方がある。 一般的には「売上債権と棚卸資産から仕入債務を控除したもの」、いわゆる「運転資本項目」と呼ばれる項目を指す場合のほか、対象企業の実情に応じて、未収入金や前払費用等の流動資産項目や、未払金、未払費用等の流動負債項目が分析の対象とされることも多い。 ◆(営業)運転資本のイメージ (筆者作成) 上記の整理は「正常営業循環」に着目した概念であり、当該企業が営んでいる事業における本来的な営業活動のサイクル、すなわち「現預金→仕入債務/棚卸資産→売掛金→受取手形→現預金」というサイクルを持続するために通常(=正常営業循環の枠内で)必要とされる資金の負担の程度を表す概念であり、「営業運転資本」と表現されることもある。 上記に加えて「流動資産」、「流動負債」なども含めたものを「運転資本」と定義する概念も一般的である。これは「正味運転資本」という用語で表現されることもある。 ◆正味運転資本のイメージ (筆者作成) 「正味運転資本」の概念は、ある意味、上述の「営業運転資本」よりもさらに現実的な運転資本を把握するための概念であると言えるだろう。 例えば、取引先との間で一時的な立替払が不可避的に発生したり、継続的な広告宣伝のための費用の前払が不可欠であるような場合、さらには人海戦術の販売員に対する一時的な仮払金の総額が無視し得ない程度に重要な場合もあろう。 このように、「正味運転資本」は対象企業固有の営業実態までも含んだ概念であると言え、「正味」と付いているのは、「純額(NET)」という意味ではなく、むしろ「現実的な」、「実際の」といった意味合いであろう。   ▷ CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル) 「運転資本」の概念を用いた指標として、「CCC」が挙げられる。「CCC」は運転資本の再資金化までに要する日数を表し、以下の計算式で表される。 米アップル社のCCCがマイナス、すなわち仕入代金の支払よりも前に売上代金の回収が済んでいた、という話は有名な話であるが、金額としてではなく、売上の何日分が(営業)運転資本として必要か、を表すものである。 ◆CCCのイメージ (筆者作成) 上記の例では、売上代金の回収、仕入代金の支払がいずれも平均45日(月末締め翌月末振込)、在庫に関しては生産とデリバリーのリードタイムを勘案して60日分の在庫保管が必要なため、結果的に運転資本の再資金化までに要する日数はプラス60日ということになる。 売上債権の回収期日が早くなればCCCも短縮(改善)され、反対に仕入債務の支払期日が早くなればCCCも悪化する。言うなれば「資金繰り」の発想により近い概念である、とも言えよう。   ▷ M&A実行時における運転資本項目の分析ポイント M&Aにおける企業価値評価の手法としては、ディスカウントキャッシュフロー法(DCF法)が多く用いられている。 DCF法は、対象企業が生み出す将来キャッシュフローを、加重平均資本コスト(WACC)を用いて現在価値に置き直す手法であり、算定に用いられる将来キャッシュフロー、一般的にはフリー・キャッシュ・フロー(FCF)は、以下のように算出される。 このため、運転資本の水準がM&Aの実行後、どのように変動するかによって、M&Aの買収対価は変動することになる。 (注) (±その他の項目)は、引当金の増減や流動資産・負債等の増減等を指す。 また、M&Aによる支配権の移転に際しては、買収対象企業の時価純資産と買収対価との差額が「のれん」として計上されることになるが、この「のれん」の額は、買収対象となる運転資本項目の適正な時価評価額の大小によって変動することとなる。 さらに、運転資本の水準は、まさにM&A直後の買収対象企業の事業継続に必要な「運転資金」の水準を意味するものであるから、当該金額は買収後、直ちに買収した側の資金繰り上の問題として顕在化するものとも言える。 ◆平成28年における主要業種別運転資本の水準(単位:百万円) ※画像をクリックすると拡大して表示されます。 (出典:中小企業庁「中小企業実態基本調査(平成28年確報)」(調査対象母集団全1,485,107社)から筆者作成) 日本の中小企業の運転資本の水準は上表のとおりであり、全体の平均値は正味運転資本で57.0百万円(月商比2.2ヶ月)、営業運転資本で33.2百万円(月商比1.3ヶ月)となっている。既に述べたとおり、運転資本の水準は当該企業が属する業種によって開きがあり、特徴としては例えば以下のような点が挙げられよう。 運転資本項目の分析は、対象企業の属する業種に固有の商慣習のみならず、当該企業に固有のビジネスモデルや取引先との取引条件などにも依存するが、対象企業の運転資本項目の水準が業界平均値とかけ離れたものである場合、当該乖離はどういった要因で生じているものであるのか、また、そうした乖離はM&Aによってどのような影響を受けるのか等、財務的な数字の検証に留まらず、広範な見地からの分析が必要な領域でもあると言えよう。 (了)

#No. 272(掲載号)
#石田 晃一
2018/06/14

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第73回】株式会社ドミー「第三者委員会調査報告書(要約版)(平成30年4月20日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第73回】 株式会社ドミー 「第三者委員会調査報告書(要約版)(平成30年4月20日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【第三者委員会の概要】   【株式会社ドミーの概要】 株式会社ドミー(以下「ドミー」と略称する)は、愛知県三河地方を中心に地域密着型スーパーマーケットを営む。創業は1913(大正2)年、会社設立は1941(昭和16)年。連結売上高33,638百万円、経常利益247百万円、店舗数37、従業員数1,483名(数字はいずれも平成29年5月期)。本店所在地は愛知県岡崎市。名古屋証券取引所上場(2018年3月27日付で上場廃止)。   【調査報告書の概要】 1 調査に至る経緯 ドミーは、平成29年12月28日に、会計監査人である新日本有限責任監査法人(以下「会計監査人」という)から、第77期(平成30年5月期)において、減損の懸念がある店舗となっていた4店舗に計上されたリベート及び協賛金について、仕入先からのリベート・協賛金を恣意的に傾斜配賦しており、この事実の解明には社外の有識者からなる調査委員会による調査が必要であるとの指摘を受けて、平成30年1月12日、第三者委員会を設置した。 2 中間報告書の概要 第三者委員会による調査の結果、減損懸念店舗に対するリベート傾斜配賦には、当初問題となった食品第二事業部のみならず、食品第一事業部でも行われていたこと、それ以外にも、新聞の折込みチラシ費用の配賦にも減損懸念店舗の負担を軽くする裁量の余地があること、従業員に対する社内販売による売上高を減損懸念店舗で計上させていたこと、本社で計上されている人件費の各店舗への配賦方法に関する疑義が会計監査人から指摘されたことなど、減損懸念店舗の損益を好転させるための恣意的な費用配賦が発覚した。 そのため、第三者委員会は、「短期間の調査では、全容解明に至らない」として、次のように結論して、中間報告書を締め括った。 3 減損懸念店舗に対する減損回避のための施策 減損会計基準の適用により、2期連続で損益がマイナスとなるなどして減損の対象となった店舗については減損損失を計上しなければならなかったことが、ドミーの損益に大きな影響を及ぼすこととなった。そこで、ドミーの役職員は、営業努力によっても損益がマイナスとなることが避けられなかった店舗(減損懸念店舗)について、減損を回避するために、リベートを恣意的に傾斜配賦する等の不適切な会計処理を行い、個別の店舗での減損の発生を極力回避するようになった。 このような不適切な会計処理は、遅くとも第69期(平成22年5月期)以降、継続して行われていたが、第71期(平成24年5月期)の決算直前に、会計監査人から、各店舗へのリベートの配賦は、担当者が恣意的に特定の店舗に配賦するのではなく、合理的なルールに基づいて配賦するべきであるとの指摘があり、以降はリベートを恣意的に配賦することが困難となった。 初めて店舗に係る減損損失を計上することとなった第71期(平成24年5月期)以降、経営陣は、減損懸念店舗の中から、減損回避の可能性や減損となったときの影響度等を加味して、特に重点的に対策を採るべき店舗(以下「強化対策店舗」という)を複数選定し、強化対策店舗のそれぞれについて担当する役員を決め、当該担当役員のリーダーシップの下で、減損を回避するための対策を採るという施策を実施することとした。 しかし、通常の営業努力により収益を改善しようとしても限界があり、数値目標を達成するためには、営業努力を超えた方法を取らざるを得ない状況も生じたことから、当該店舗に課せられた数値目標を達成しなければならないというプレッシャーの中で、主として強化対策店舗やこれに準じる不採算店舗の役職員が、減損回避策の一環とし不適切な会計処理を行うに至ったものであると、第三者委員会はその動機を解明している。 4 不適切な会計処理の内容 報告書によれば、強化対策店舗の損益改善のための不適切な会計処理は、以下のとおり、多岐な手法が用いられている。 各個別の店舗の損益に与える影響額については、リベートの傾斜配賦や人件費の本社負担のように、店舗当たり年間500万円から1,000万円を超える損益調整となった処理から、社内販売による売上の付替えのように店舗当たり年間数千円から数十万円といった規模まで、かなり差がある。 複雑で多岐にわたる損益調整の手法からは、ドミー担当者が、あらゆる手を尽くして、強化対策店舗の減損計上を阻止しようとした形跡がうかがえるが、その甲斐あって、この間、ドミーでは店舗の減損による損失は計上されなかった。 (1) リベートの傾斜配賦 ドミーでは、第71期(平成24年5月期)における会計監査人からの指摘以降、リベートが「特定の店舗に紐づくもの」でない限り、本社の仕入高にマイナス計上した後、各店舗の売上高に応じて配賦するルールを導入していたが、導入以降についても、ルールに違反した又はこれを潜脱した、強化対策店舗等へのリベートの恣意的な傾斜配賦を継続していた。 (2) 振替修正 ドミーでは、各店舗間における在庫商品の振替えが行われていたが、商品の振替えルールが確立されておらず、特に振替先の店舗の仕入原価については、商品の仕入・発注を担当するマーチャンダイザー(MD)補佐・エリアチーフ(所属する担当地区の店舗の支援・指導等を行うと同時に本社と店舗との橋渡しの役割が期待される役職をいう)や振替元の店舗の従業員等が、自らの判断又は各商品部長・地区長等と相談の上で、その度ごとに任意の金額を設定して振替えを行っていた。 そのため、個別の店舗での減損を回避する等の目的で、強化対策店舗等から他の店舗に在庫商品を振り替える際、振替先となる店舗の仕入原価を、振替元となる強化対策店舗等の仕入原価よりも高く設定し、振替元である強化対策店舗等に利益が残るようにしていた。 (3) 仮装仕入・振替処理 食品第二事業部では、個別の店舗での減損を回避する等の目的で、高値入商品(原価率が低く、利益率が高い商品)を対象に、実際には各店舗において仕入れたにもかかわらず、あたかも強化対策店舗において仕入れたかのように仮装した上で、伝票上、仕入原価に一定の利益を上乗せした金額で他店に振り替えることで、強化対策店舗に利益を計上していた。 仕入原価を高くして在庫商品を他店に振り替える点で上記(2)と同様であるが、本件については、単なる伝票上の処理により行われたもので、実際の商品の移動を伴っていない点で別の類型であると、第三者委員会は判断している。 (4) 加工センターからの仕入原価の調整 ドミーでは、商品を加工センターから店舗に仕入れる際、各商品部のMDが店舗の仕入原価を設定しており、店舗の仕入原価は、同一の時期に仕入れた同一の商品であれば、合理的な理由がない限り、店舗間で差を設けることなく一律とすべきであるところを、強化対策店舗等の商品の仕入原価を、何ら合理的な理由なく、他の店舗の仕入原価よりも低い金額に設定していたことが、第三者委員会による調査で判明している。 (5) 本社の職員を店舗で稼働させた場合の人件費の会計処理 ドミーにおける本社の職員であるエリアチーフの人件費は、本社の職員ではあるものの、本来、各人の各店舗への勤務実態に応じて一部は各店舗の人件費として計上されるべきであるが、すべて本社に計上されていたため、エリアチーフの勤務実態がある店舗では利益の過大計上となり、本社では利益の過少計上となっていた。 第三者委員会は、こうした人件費の計上のうち、食品第一事業部では、減損回避を意図して行われたものであるとは認められなかったとしながら、食品第二事業部では、強化対策店舗等の従業員を削減するとともに、その穴を埋めるため、強化対策店舗等を母店とするエリアチーフを配置し、当該エリアチーフが勤務時間の大半を当該母店(強化対策店舗等)において勤務することにより、店舗の人件費を削減していたとして、減損回避策としてのエリアチーフ制度の利用を認定している。 (6) 広告宣伝費の付替え ドミーでは、複数の店舗に共通する内容の折込チラシを作成し配布する場合に発生する広告宣伝費について、各店舗の商圏を参考に、配布先である世帯を各店舗に対応させる形でグルーピングし、各店舗分の折込チラシの部数を算出した上で、当該部数を記載した「部数表」と呼ばれる一覧表を作成し、部数表に記載された部数に応じて広告宣伝費を按分して配賦することにしていた。 ところが、第三者委員会の調査において、広告宣伝費を各店舗に按分して配賦する際に、部数表上、一部の強化対策店舗等の折込チラシの部数をゼロにし又は減少させると同時に、その分他の店舗の部数を増加させるといった操作を行うことにより、特定の店舗が負担すべき広告宣伝費を他の店舗に付け替える処理を行っていたことが判明した。 なお、この不適切な費用の付替えについては、第72期(平成25年5月期)の決算手続を進める過程で、会計監査人から、恣意的に基準を変えて経費を配賦することは許されない旨の指摘があったにもかかわらず、規模は縮小されたものの、その後も強化対策店舗の一部について広告宣伝費の他店への付替えが継続されていた。 (7) その他の不適切な会計処理 上記以外にも、第三者委員会は、強化対策店舗の損益に与える影響は小さいものの、以下の会計処理が不適切であるとの指摘を行っている。 5 関係者の関与・責任 (1) リベートの傾斜配分などに直接関与した取締役 第三者委員会を設置して調査を行うこととなった不適切なリベートの傾斜配賦は、本調査対象期間である第69期(平成22年5月期)から会計監査人の指摘を受けた第71期(平成24年5月期)までは、当時の営業本部長であった元専務取締役の半田直之氏(以下「半田元専務」と略称する)の主導の下、同人からの対象店舗やリベート金額を含む具体的指示により、食品第一事業部長である常務取締役富田博隆氏(以下「富田常務」と略称する)、当時の食品第二事業部長であった常勤監査役山本恭二郎氏(以下「山本常勤監査役」と略称する)が、各商品部長・MDにおいて単独で又はそれぞれ指示・相談の上で行われてきた。 なお、本期間のリベート傾斜配賦は配賦ルール導入前のものであり、遵守すべき会計処理のルールを認識しながら敢えてこれに反して行われたものではなかった。 半田元専務の退任した第72期(平成25年5月期)以降について、富田常務は、食品第一事業部におけるリベートの傾斜配賦への関与を否定している。 一方、食品第二事業部長に就任した専務取締役梶川貴光氏(以下「梶川専務」と略称する)は、具体的に本件配賦ルールに違反したリベート傾斜配賦を行うよう指示した事実は認められなかったが、食品第二事業部に所属する自らの部下らが本件配賦ルールに違反してリベートを減損懸念店舗等に傾斜配賦することを認識し、かつ容認していたと、第三者委員会は認定した。 (2) 代表取締役会長 代表取締役会長である梶川志郎氏(以下「梶川会長」と略称する)は、ドミーの利益の追求に熱心であり、毎月1回開催される取締役会や毎週1回開催される全体会議において、各店舗の経営状況や予算の達成状況を確認し、各店舗における売上高や利益率を向上させるよう、経営陣をはじめとする出席役職員に指導や叱咤激励を行ってきた。 特に店舗に係る減損損失を計上した翌期である第72期(平成25年5月期)以降の取締役会や全体会議においては、強化対策店舗の担当役員に、店舗損益の改善による減損の回避を強く求めていた。 第三者委員会は、ドミーの役職員らは、梶川会長の要請に応えようと利益の追求を最優先に考えて必死に営業努力を試みるのであるが、こうした必死の営業努力によっても減損の回避という目的が達成できない場合に、本件不適切会計処理を行うに至ったものであると断じた。 そのうえで、梶川会長の役職員に対する影響力の大きさに鑑みると、梶川会長から役職員に対して、コンプライアンスの徹底を指示していれば、役職員がその指示に反する行為に及んだり、黙認ないし放置することは考えにくく、本件不適切会計処理を抑止し、又は早期に発見できた可能性は高いと考えられるとして、第三者委員会は、梶川会長が、企業としての利益を追求するという強い意向に比して、コンプライアンスに対する意識が不十分であったことが、本件不適切会計処理を引き起こした一因であると言わざるを得ないと判断した。 (3) 代表取締役社長 代表取締役社長である梶川勇次氏(以下「梶川社長」と略称する)は、創業家一族として、梶川会長とともに代表取締役を務め、ドミーの役職員に対する強い影響力を及ぼし得る立場にあった。 第三者委員会は、梶川社長が、利益の追求を志向する梶川会長に対して、コンプライアンスの徹底を進言することなく、代表取締役として、コンプライアンスを徹底する姿勢を全職員に打ち出すこともせず、取締役会において、コンプライアンスの遵守状況の報告を求めたり、未然防止策の検討等を行ったりした形跡も認められないことは、梶川会長に対する進言が難しかったことを斟酌しても、経営トップとして、コンプライアンスに対する意識は十分とはいえないと断じている。 6 発生原因の概要 第三者委員会の調査報告書に基づく発生原因の概要は以下のとおりである。 7 再発防止策の提言 第三者委員会は、調査報告書において、不適切な会計処理の発生原因に関して、それぞれの原因の除去及び是正を目的とする再発防止策について、以下のとおり提言している。   【調査報告書の特徴】 3ヶ月余りにわたる調査の結果、4月20日、ドミー第三者委員会は70ページに及ぶ調査報告書を提出した。しかし、ドミーは、平成30年5月期第2四半期報告書を、延長承認後の提出期限の経過後8営業日以内(平成30年2月26日まで)に提出できなかったため、2月26日をもって整理銘柄に指定され、3月27日付で上場廃止となってしまった。 第三者委員会による調査報告書は、数千円の不正な利益の付替えまでをも指摘する非常に細かい調査に基づくものであり、調査結果についても、よく分析がなされていると評価できる内容である。 しかし、おそらくは上場維持を望んでいたと思われる株主を含む多くのステークホルダーにとって、調査が長引いてしまったことにより、会計監査が終わらず、結果的に半期報告書が提出できないことを理由に上場廃止という流れは、どのように映っているのであろうか。 1 営業不振店舗の減損回避のための損益調整 ドミーが上場会社であり、減損会計を導入している以上、2期連続して赤字となるなどの営業不振店舗については減損を行い、損失を計上するというルールを遵守しなければならないことは言うまでもないことである。 ところが、経常利益が2億円台から4億円程度で推移しているドミーにとって、複数の減損懸念店舗を抱え、1店舗あたり、数千万円から億単位の減損損失を計上することは、赤字転落につながりかねない事態であった。 こうしたことから、梶川会長のもと、強化対策店舗に担当役員を配置して、損益のテコ入れを図ったことが、結果的には裏目に出てしまった。不採算店舗を廃止して、利益の出る店舗に経営資源を集中するという選択肢は、地域密着型で、地産地消を標榜し、ドミナントエリア戦略(※)を掲げるドミーにとっては、なかったのかもしれない。 (※) 「ドミーレポート第76期(平成29年5月期)」には、以下のような説明がある。 2 減損会計におけるグルーピング 調査報告書には言及はないが、上記のドミナントエリア戦略をとるドミーにとって、「小売業界では、通常、店舗別に投資意思決定を行う」ことから、「1店舗を1資産グループとして、減損損失の認識・測定を行う単位とする」という判断が、果たして、減損会計の適用上、適切であったのかどうかという疑念がある。 不採算店舗も含めて、地域に存する店舗全体の効率化・コスト削減を含めるという経営方針からは、同地域の複数店舗をまとめて資産のグルーピングを行い、その中で、減損損失計上の可否を判断するという議論を、会計監査人との間でできなかったのだろうか。 3 会計監査人の異動 ドミーは、5月18日、「会計監査人の異動及び一時会計監査人の選任に関するお知らせ」というリリースを公表し、会計監査人である新日本有限責任監査法人との間の「監査及び四半期レビュー契約」を合意解除して、一時会計監査人に監査法人ハイビスカスを選任したことを発表した。 異動理由については、「新日本有限責任監査法人と協議した結果」としか記載がないものの、過年度有価証券報告書の訂正については、「監査法人ハイビスカスの監査の下、第三者委員会の調査報告書を踏まえて、過年度の有価証券報告書等に必要な訂正を行う予定です」との記載がある。 4 ドミーによる再発防止策 ドミーが5月28日に公表した「当社における不適切な会計処理に対する再発防止策等に関するお知らせ」では、第三者委員会による提言に沿った形で、10項目の再発防止策が策定されている。 なかでも、「責任の明確化」として、梶川会長が代表取締役会長及び取締役を辞任して、相談役をして信頼回復に尽力すること、不適切な会計処理を容認していた梶川専務及び富田常務が、それぞれ取締役を辞任して、子会社へ出向することが明記されている。 (了)

#No. 272(掲載号)
#米澤 勝
2018/06/14

連結会計を学ぶ 【第20回】「連結範囲からの除外に関する取扱い」

連結会計を学ぶ 【第20回】 「連結範囲からの除外に関する取扱い」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、連結範囲からの除外に関する取扱いについて、「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)及び「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号。以下「資本連結実務指針」という)にしたがって解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 子会社に対する支配の喪失 1 連結対象となる子会社の財務諸表の範囲 連結財務諸表では、子会社に対する支配を獲得した場合には、支配獲得日以後の当該子会社の資産・負債及び収益・費用を親会社の財務諸表の各項目に連結し、一方、子会社に対する支配を喪失した場合には、支配喪失日以後の当該会社の資産・負債及び収益・費用を連結から除外することになる(資本連結実務指針2項)。 連結対象となる子会社の財務諸表の範囲は、いずれの時点において支配の獲得又は喪失が生じたとみなすかにより、次のように取り扱われる(資本連結実務指針7項)。 2 連結除外に関する会計処理 子会社株式の売却により支配を喪失して関連会社となる場合には、資本連結実務指針45項(支配を喪失して関連会社になった場合の処理)及び45-2項(支配を喪失して関連会社になった場合ののれんの未償却額の取扱い)に従って会計処理する(資本連結実務指針41項)。 子会社株式の売却により支配を喪失して連結子会社及び関連会社のいずれにも該当しなくなった場合には、資本連結実務指針46項(支配を喪失して関連会社にも該当しなくなった場合の処理)に従って会計処理する(資本連結実務指針41項)。 3 連結除外に関する資本剰余金の会計処理(子会社株式の追加取得及び一部売却等によって生じたもの) 子会社株式の追加取得及び一部売却等(親会社と子会社の支配関係が継続している場合に限る)が行われた場合、追加取得持分と追加投資額との間に生じた差額又は売却による親会社の持分の減少額と売却価額との間に生じた差額は、資本剰余金として処理される(連結会計基準28項、29項)。 この資本剰余金は、支配を喪失して連結範囲及び持分法適用範囲から除外されたとしても、過去の追加取得又は一部売却取引で計上された資本剰余金は取り崩さず、結果として、資本剰余金は子会社でも関連会社でもなくなってもそのまま計上されることとなる(資本連結実務指針49-2項、68-2項)。 これは、支配継続中の一部売却等の取引は、親会社と子会社の非支配株主との間の取引であり、当該取引によって生じた資本剰余金は子会社に帰属するものではないためである(資本連結実務指針68-2項)。 なお、資本剰余金が負の値となり、当該負の値を利益剰余金から減額する処理を行っていた場合には、連結範囲から除外された後も当該処理は、連結財務諸表上、引き継がれることになる(資本連結実務指針49-2項、39-2項)。 (了)

#No. 272(掲載号)
#阿部 光成
2018/06/14

副業・兼業社員の容認をめぐる企業の対応策と留意点 【第1回】「副業・兼業のメリット・デメリットと法的ルール」

副業・兼業社員の容認をめぐる 企業の対応策と留意点 【第1回】 「副業・兼業のメリット・デメリットと法的ルール」   TOMAコンサルタンツグループ(株) TOMA社会保険労務士法人 人事労務指導部 副部長 特定社会保険労務士 渡邉 哲史   1 はじめに 平成30年6月現在、厚生労働省は、平成29年3月28日に働き方改革実現会議で決定した「働き方改革実行計画」を踏まえ、副業・兼業の普及促進を図っています。こうした状況のなか、政府は、厚生労働省の「柔軟な働き方に関する検討会」での議論を踏まえ、平成30年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表しました。 また、同時に、厚生労働省はモデル就業規則を改定し、これまで遵守事項にあった「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定を削除し、副業・兼業についての規定を新設しました。 本連載では、このような政府・厚生労働省の、「副業・兼業」の普及促進を図る上での現状、メリット・デメリット、法的ルール、企業として副業・兼業を容認するにあたっての制度設計上の留意点、就業規則等の具体的な規定の仕方について、2回にわたってご説明いたします。   2 副業・兼業の現状 総務省が5年ごとに実施している「就業構造基本調査」(平成24年度)によれば、副業希望者は360万人を超え、就業者全体に占める割合は5.7%を占めており、毎回の調査で増加が続いています。 また、中小企業庁委託事業である「平成26年度兼業・副業に係る取組実態調査事業」によれば、実に85%以上の企業が、「副業・兼業を認めていない」という状況となっています。 こうした中で、なぜ、政府は副業・兼業を普及推進しているのでしょうか。 それは、副業・兼業を通して、柔軟な働き方がしやすい環境を整備することが、新たな技術開発、オープンイノベーションや起業の手段として有効と考えているからです。 また、これらを通じ、労働生産性が改善し、働く一人ひとりが豊かになり、消費を押し上げることにつながるとしています。   3 副業・兼業のメリット・デメリット 副業・兼業するメリット・デメリットはどんな点があるのでしょうか。 ガイドラインを参考に、労働者側、企業側の観点で整理すると、次のような点が挙げられています。 (※) 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を参考に筆者作成 上記は一例であり、実務上は、労働者及び企業の状況により検討する必要があります。 特に、副業・兼業を認める場合は、企業として、就業時間の把握・管理、健康管理、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務の対応が不可欠でしょう。副業・兼業の制度設計をするにあたっては、この点を十分に検討しておくことが重要です。   4 副業・兼業をめぐる法的ルール それでは、副業・兼業をめぐる法的ルールはどうなっているのでしょうか。 実は、副業・兼業に関する制限について、法律で決まっているわけではありません。裁判でも、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由としており、例外的に会社において副業・兼業を制限することが許されるのは、 などであり、こうした理由から多くの企業では企業の利益を害する恐れがあるとして、副業・兼業を禁止していることが多くなっています。 一方で、労務管理の実務上問題となるのは、「3 副業・兼業のメリット・デメリット」でも触れたように、(1)就業時間管理、(2)健康管理です。以下、確認していきます。 (1) 就業時間管理 副業・兼業における就業時間管理において、就業時間の通算の考え方については、従来から次のとおり労働基準法で規定されています。 【労働基準法第38条1項】 また、厚生労働省の通達でも 【厚生労働省 昭23.5.14基発769号】 としています。 したがって、例えばA社で所定労働時間を8時間勤務した後、B社で3時間勤務した場合、B社での3時間は時間外労働となります。また、この場合の3時間の時間外労働に対する割増賃金はB社が支払い義務を負うことになります。 以上のことから、企業は、副業・兼業を容認していく際に、副業・兼業の有無や、副業・兼業先の就業時間などを労働者に申告させ把握しなければ、未払い賃金が発生する可能性があります。 なお、個人事業主として、請負契約などを締結して兼業・副業を行う者や労働基準法の管理監督者にあたる者は、労働基準法に規定する労働時間が適用されませんが、いずれも形式だけで労働実態として労働基準法が適用される者と変わらない働き方の場合は、原則どおり、労働時間の管理、通算が必要ですので注意が必要です。 (2) 健康管理 もう1つの問題が、健康管理です。労働安全衛生法第66条では、使用者は常時使用する労働者に健康診断を受診させる必要があります。「常時使用する労働者」とは、次の要件を満たす者です。 【平成26年7月24日付基発0724第2号】 以上の要件を満たすか否かは各事業場で判断されるため、副業・兼業先の労働時間の通算は不要となっていますが、副業・兼業を推奨しているような企業の場合は、健康診断等の必要な健康確保措置を講じることが適当であるとされています。 したがって、必要な健康管理を行い、過重労働や健康障害を防止するために、本業と副業・兼業先双方において、時間外・休日労働などを把握し調整する仕組みづくりが重要となります。 *  *  * 次回は、副業・兼業の制度設計時の留意点、就業規則等の具体的な規定の仕方について説明していきたいと思います。 (了)

#No. 272(掲載号)
#渡邉 哲史
2018/06/14

税理士のための〈リスクを回避する〉顧問契約・委託契約Q&A 【第10回】「顧問契約の解除に関するトラブル」

税理士のための 〈リスクを回避する〉 顧問契約・委託契約Q&A 【第10回】 「顧問契約の解除に関するトラブル」   弁護士・税理士 米倉 裕樹 弁護士・ 関西大学法科大学院教授 元氏 成保 弁護士・税理士 橋森 正樹   Q A税理士とB顧客との顧問契約には、解約告知に関し、以下の規定が存在する。 B顧客は些細なことで声を荒げたり、発言内容が日によって二転三転することが続いたため、A税理士は本顧問契約第5条第2項に基づき、B顧客との顧問契約を即時解除すると通知したところ、B顧客からは、決算時期なので業務を継続せよと要求された。 A 1 総論 税理士と顧客との顧問契約は、準委任契約に該当するところ(※1)、当事者間の信頼関係を基礎として成立し存続するという委任契約の中核的性質に鑑みれば、本件解除規定の解釈も、その性質に沿った形でなされるべきである。 (※1) 民法第656条により準委任についても委任に関する規定が準用される。 もともと民法の規定(民651)は、理由を告げることなく即時の解除を認めているのに対し、本顧問契約第5条第1項は、3ヶ月の予告期間を要する点において民法第651条が変更されている。 同様に、同条第2項本文については、やむを得ない事情の告知を要する点において、同条第2項ただし書については、相手方の不利な時期であるかを問わず、帰責事由のある側に損害賠償義務を課し、賠償額の予定を定めた点においてそれぞれ民法第651条が変更されている。 同条が任意規定である以上、当事者間においてこのような特約を設けること自体は有効である。 以上を前提に、〔Q①〕及び〔Q②〕につき検討する。   2 〔Q①〕について 当事者間の信頼関係が損なわれた場合には容易に契約関係の解消を認める民法第651条の趣旨からすれば、本顧問契約第5条第2項本文の即時解除についても、解除そのものについてはそれを認めるものとして解釈されるべきである。 最高裁昭和58年9月20日判決においても、 と判示している。 (※2) 「受任者の利益」とは受任者がその利益を享受することにつき、委任者がこれを承認しなければならない何らかの関係が存在するものであることが必要であり、弁済充当のための取立委任などがこれに該当し、専ら報酬を得ることによるものは除かれる。そのため、仮にB顧客のほうから即時解除した場合でも、期間満了までの残報酬をもって受任者であるA税理士の利益をも目的とした契約であるとはいえず、B顧客による即時解除は可能である。なお、債権法改正後の民法第651条では、受任者の利益をも目的とした委任契約でも即時解除は認めた上で、損害賠償にて処理している。 上記のとおり、本顧問契約第5条第2項本文は、やむを得ない事情の告知を要する点において民法第651条第1項を修正しているに過ぎないため、やむを得ない事情の告知を行うことによってA税理士は本顧問契約を即時解除することができる。 この点、やむを得ない事情が生じた場合でなければ、たとえ告知を行ったとしても即時解除は認められないのではないか、との疑問も生じるが、当事者間の信頼関係を基礎とする委任契約の性質に照らし、即時解除権の行使の要件を限定的に解することは相当ではない(大阪高判平成27年4月9日)。 そのため、損害賠償の点はさておき、解除に至ってもやむを得ないとA税理士が考える事情をB顧客に告知することで本顧問契約を即時解除することは可能である。 なお、「やむを得ない事情が生じた場合に限り」との文言からは当事者間で疑義が生じる可能性を否定できないため、本顧問契約第5条第2項本文については、以下のように修正しておくことが好ましい。 ただし、民法第651条第2項本文では、「当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。」と規定している。 ここでいう「不利な時期」とは、委任者が直ちに自分で事務の処理を開始することもできず、また他人に事務を処理させることもできない時期を意味するところ(我妻榮、有泉亨、清水誠、田山輝明著『第4版我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権』日本評論社、2016年、1205頁)、本件でも、B顧客が決算処理を開始できず、また他の税理士に処理させることもできない時期に即時解除を行った場合には、それによりB顧客が被る損害をA税理士は賠償しなければならない。 もっとも、その場合でも、民法第651条第2項ただし書では、「やむを得ない事由があったときは、この限りではない。」としているため、B顧客による言動等により信頼関係が破壊されているような場合には、「やむを得ない事由」があったとしてA税理士が損害を賠償する必要はない。 なお、「不利な時期」に即時解除がなされたことの立証責任はB顧客にあり、「やむを得ない事由」の立証責任はA税理士にある。   3 〔Q②〕について 上記のとおり、本顧問契約第5条第2項ただし書は、相手方の不利な時期であるかを問わず、帰責事由のある側に損害賠償義務を課し、賠償額の予定を定めた点において民法第651条が変更されているが、本顧問契約第5条第2項ただし書に基づく損害賠償額が最大180万円(15万円×12ヶ月)に及び得ることに鑑みれば、同ただし書での「一方の責に帰すべき事由」は、専らまたは主として一方当事者の責に帰すべき事由であることを要するというべきである(大阪高判平成27年4月9日)。 そのため、本件でも、B顧客の言動の要因が専らまたは主としてB顧客自身にあると認められるような場合には、月額顧問報酬に契約期間の残月数を乗じた金額を損害賠償として請求できる。 なお、「やむを得ない事情が一方の責に帰すべき事由により生じた」ことの立証責任は、その文言上、損害賠償を請求する側、すなわちA税理士にある。 (了)

#No. 272(掲載号)
#米倉 裕樹、元氏 成保、橋森 正樹
2018/06/14

〔“もしも”のために知っておく〕中小企業の情報管理と法的責任 【第3回】「事務所内に保管していた電子媒体が盗まれ個人情報が流出した場合」

〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第3回】 「事務所内に保管していた電子媒体が盗まれ個人情報が流出した場合」   弁護士 影島 広泰   -Question- 事務所の鍵が壊され、机の上に出していた顧客の銀行口座の情報が入ったUSBメモリが盗まれて、情報が流出してしまいました。責任を問われるでしょうか。 -Answer- 鍵のかかるキャビネット等に保管していなかったことで管理体制が不十分であったとされる可能性がありますので、注意が必要です。 個人データが保存されている媒体が盗まれてしまった場合、通則ガイドラインが定める安全管理措置のうち「物理的安全管理措置」(下記表の⑤)を果たしていたかどうかが問われることになる。 ◆個人情報保護法のガイドラインが定める安全管理措置(概要) (※) ①~④については【第2回】で解説   ⑤ 物理的安全管理措置 「物理的安全管理措置」とは、個人データが保存された媒体等から情報の漏えい、滅失、毀損が発生しないよう、「物理的」な措置を講じる義務のことである。 具体的には、 の4つが義務付けられている。以下、順にポイントを説明する。 (1) 個人データを取り扱う区域の管理 サーバ等の重要なITシステムが管理されている場所のことを「管理区域」、個人データを取り扱う事務を実施する区域のことを「取扱区域」といい、それぞれで適切な管理を行わなければならない。 通則ガイドラインでは、「管理区域」の措置としては「入退室管理及び持ち込む機器の制限等」が例示され、「取扱区域」の措置としては「壁又は間仕切り等の設置、座席配置の工夫、のぞき込みを防止する措置の実施等による、権限を有しない者による個人データの閲覧等の防止」が例示されている。 マイナンバー法のガイドラインが公表された際に、「管理区域」と「取扱区域」という新しい概念が登場し、企業においては人事や経理のオフィスを「取扱区域」として間仕切りを設置したり、税理士事務所などでは事務所全体を「管理区域」兼「取扱区域」として入退室管理を実施するなどの対応をしたという記憶が新しいところであろう。 今回の改正個人情報保護法のガイドラインで、マイナンバーのガイドラインで登場した「区域の管理」という概念が、個人情報保護法においても登場したということである。 「管理区域」とは、要するにサーバルームのことであり、サーバルームには鍵くらいはかかっているであろうから、「管理区域」の対応はできている会社が多いと思われる。 問題は「取扱区域」である。今どき、個人データを取り扱っていないオフィスなど存在しないであろうから、ほぼ全てのオフィスが「取扱区域」になってしまう。そうなると「壁又は間仕切り等の設置」などを実施することは現実的ではない。 この点、個人情報保護委員会は、ガイドラインのQ&A「Q7-15」で以下の措置が「取扱区域」での適切な管理に当たると例示している。 これらの措置は、かなり現実的であると思われる。社内で、「パソコンは、離席時にはパスワード付きスクリーンセーバーを起動しましょう」、「個人データを机の上に放置して帰宅してはいけません(クリアデスクの原則)」などの方策を徹底すればよいからである。 (2) 機器及び電子媒体等の盗難等の防止 盗難等の防止に関しては、通則ガイドラインでは鍵のかかる場所に保管するなどの措置が例示されている。 盗まれては困るモノは鍵を掛けて保管するというのは基本中の基本であり、重要性の高い対策であるといえる。 もっとも、あらゆる個人データを金庫に保管することはできないであろうから、ガイドラインに列挙されている措置について、「いったいどこまで対応したらよいのか」、というのが企業が抱える一番大きな悩みである。 この点について、通則ガイドラインは以下のとおり述べている。 (※) ①から④の番号は、筆者による追記 上記は情報管理にとって極めて重要なポイントである。 つまり、ガイドラインに列挙されている措置をどの「深さ」でやるかは、「本人が被る権利利益の侵害の大きさを考慮し」、「リスクに応じて」考えるべきであり、それでよいとされているのである。 例えば、同じ氏名と住所という情報であっても、それが顧客の自宅の住所である場合と、取引先のオフィスの住所である場合では、漏えいした場合に本人が被る権利利益の侵害の程度は大きく異なる。 社内の全ての情報を同レベルで管理することは無理であるし、ガイドライン上もそこまでは求められていない。つまり、社内の情報のうち、「これは漏えいしたら本人が困る」という情報を重点的に管理すればよいのである。 したがって、冒頭の質問の例でいえば、通常は事務所に鍵がかかっていれば「盗難等の防止」として十分であるといえるであろうが、それが非常にセンシティブな情報であった場合(例えば、顧客の銀行口座の残高や給与額が記載されているような場合)であれば、鍵を掛けたキャビネットに保管しておくべきであったと判断されることもあり得る、ということになる。 (了)

#No. 272(掲載号)
#影島 広泰
2018/06/14
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