AIで 士業は変わるか? 【第20回】 (最終回) 「AIの進歩が会計専門家の業務に与える影響」 公認会計士・税理士 中里 拓哉 1 AIの目覚ましい進歩 最近の下記の事象を見ると、AIの進歩は目覚ましいことがわかります。 こうしたことから「シンギュラリティ(この用語は、一般にAIが人知を超える状況として使用されています)の到来」を予言する方もいるようです。しかし、下記の2を理由として、「ここ数十年の間は、シンギュラリティは到来しない」というのが専門家の大方の意見のようです。 2 AIの限界 AIによる小説や絵画は、多くのデータから見出された規則性に基づく「模倣」であって、創造的なものではありません。画像認識や碁将棋についてもビッグデータを利用した限定した作業に特化した力であって、汎用性があるわけではありません。 またAIには、 「読む」(文書を読解して筆者の意図を把握すること) 「書く」(自らの考えを他人に適切に伝えるために、文章にまとめること) 「聞く」(人の話を聞いて、その人の考えを理解すること) 「話す」(人に理解してもらうように話すこと) というコミュニケーション力に限界があります。「Siri」や「りんな」、「シャオアイス(Xiaoice)」といったAIを利用した技術は、そのアルゴリズムによって会話が成立しているように見えるだけで、実際に人間の気持ちが通じているわけではありません。 さらにAIは、法的に責任主体にはなれません。仮にAIが人間の理解を超える作業をできるとしても、その責任はAI自身ではなく、そのAIを利用した人間が負うことになります。 3 会計・税務・監査とAI 一般に会計は「領収書・請求書」などの証憑書類に基づいて、これを仕訳として起票し、それらが集計して試算表を作成する業務です。また、税務では決算数値に基づいて課税所得・税額を算出し申告書を作成します。さらに監査では、重要な虚偽表示の有無の検証を通じて、一般に公表される財務諸表の適正性について意見を表明します。 こうした専門業務の中で、例えば、証憑を画像認識して自動で仕訳を起票することや、申告書の作成、不規則な入力の有無のチェック・異常な増減の把握等の作業は、既にAIの利用により格段に効率化されています。 一方で、例えば「タクシーの領収書」の入力作業であっても、単純に「交通費」となることもあれば、接待交際のためのタクシーであれば「交際費」とすべきこともあります。また画像を取り込んで自動起票された仕訳であっても、その入力の適切性の検証のためのチェックが必要です。 申告書の作成もある程度の自動化は可能ですが、特例の適用の可否など、機械的に特定の処理を選定できない場合も少なくありません。さらに監査では、経営者の主張が適切に財務諸表に反映されているかを実質的な見地から判断することが求められることもありますから、答が1つに絞られないような厄介な判断を伴うことも想定されます。 4 会計専門家の魅力とAIの限界 筆者は、「税理士」という資格は、経営者の右腕として、経営者に助言・勧告する役割を担った「参謀」だと考えます。孤高の経営者が特に「お金に関する問題」について、心を許して相談できる専門家こそが税理士の理想像だと考えます。 また、公認会計士は「保証人」です。「皆さん、ご安心ください。この経営者が財務諸表上で主張していることは正しいですから。」という保証です。この保証を行うには、公認会計士と経営者との間に強い信頼関係が必要です(監査人を騙そうとする経営者の主張の保証など、できるわけはないのです)。 「参謀」にしても「保証人」にしても、その役割を全うするには、経営者との密接なコミュニケーションが必要です。その結果、専門家としての判断について責任を負うことがその専門家の仕事であって、その対価として報酬が支払われるのです。 コミュニケーション力に限界があって、かつ責任主体にもなれないAIは、残念ながらこうした役割を担うことはできないのです。 5 AIの進化と会計専門家 「AIが進化すれば会計専門家はいらない」と考える人は、「会計を単純な作業にすぎない」と捉えているのかもしれません。高い報酬を払わずとも「決算書は機械的に作成できる」「申告書なんて誰が作っても同じだ」「監査判断は画一的だ」と考えれば、「AIが全部やってくれるから会計専門家は不要だ」と考えることもできるのでしょう。 もちろん、作業の効率化の観点から、AIが会計専門家の業務に大きな影響を与えることは必至です。 しかし、AIの限界からすれば、AIが会計専門家に完全に代替することはありえません。むしろ、AIが発達すればするほど、「AIに代替できない力」を有する会計専門家の優位性が際立っていくと筆者は考えています。 AIの進化は「作業の効率化」という意味で興味がありますが、それ以上に、「今後、AIの進化によって、会計専門家としていかなる能力が必要となるのか」を自問自答する良い機会とすべきだと考えます。 (連載了)
《速報解説》 会計士協会、研究資料「上場会社等における会計不正の動向」を公表 ~社内と外部専門家の双方が含まれる不正調査体制の割合が増加傾向に~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 日本公認会計士協会(経営研究調査会)は、2018年6月26日付けで経営研究調査会研究資料第5号「上場会社等における会計不正の動向」を公表した。 公表された研究資料(以下「研究資料」と略称する)について、協会は、近年の会計不正の動向を適時に知らせるため、上場会社及びその関係会社が公表した会計不正を集計し、取りまとめたとしている。 本稿では、公表された研究資料の概要と注目すべき集計結果のいくつかを検討したい。 1 会計不正の定義 研究資料では、会計不正(Accounting fraud)の類型を、主に「粉飾決算」と「資産の流用」に分類したうえで、「粉飾決算」と「資産の流用」とに明確に区分できないものは「粉飾決算」に含めて集計している。 巻末に【参考】として記載されているそれぞれの定義の一部を引用する。 2 会計不正の動向 研究資料で集計、分析を行っている項目は次の9つに分類されている。 3 集計・分析結果の特徴 (1) 会計不正の公表会社数 会計不正を公表した会社の数は、2014年3月期から2018年3月期までの5年間で、146社となり、年度によってバラつきはあるものの、概ね年間30社程度であった。 2018年3月期における会計不正の公表者数は30社であった。 (2) 会計不正の類型と手口 会計不正を「粉飾決算」と「資産の流用」に分類した場合、5年間の平均で「粉飾決算」の割合が76.7%であり、2018年3月期については、件数ベースで81.1%が「粉飾決算」となっている。 粉飾決算の公表が8割近くを占めていることについて、研究資料では、「一般的に、資産の流用による影響額よりも、粉飾決算による影響額の方が多額になる」ことから、「上場企業等が適時開示基準に則って公表する数は、粉飾決算の方が多くなると考えられる」と分析している。 (3) 会計不正の主要な業種内訳 会計不正が行われた事業を基に分類した業種別の公表件数では、情報・通信業が20社、卸売業と建設業が各19社、サービス業の18社が、上位を占めている。 この結果について、研究資料では、2018年3月末現在の東証上場銘柄全体のうち、情報・通信業(411社)、卸売業(320社)、サービス業(424社)に比して、建設業に分類される会社は171社と少ないことから、「建設業は、会計不正の公表の割合が多い業種である」と分析している。 (4) 会計不正の上場市場別の内訳 会計不正を公表した会社が上場している市場別に分類したところ、東証第1部及び東証第2部と新興市場との間で、「上場会社数の市場別内訳の割合と会計不正の市場別内訳の割合が近似しており、会計不正の市場別の発生割合については有意な傾向を観測できなかった」ということであり、「新興市場に上場している会社の会計不正が多い」という一般的な先入観は否定されている。 (5) 会計不正の発覚経路 会計不正の発覚経路は、内部統制等が37社、当局の調査等が23社、公認会計士監査と内部通報が各19社となっている。一方、発覚経路の未公表としている会社が29社あり、この点について、研究資料は、「発覚経路を明らかにすることは、適切な発生原因の分析、有効な再発防止策の構築につながるものであり、積極的に公表することが望まれる」と評している。 指摘については首肯するものであるが、研究資料としては、「なぜ、発覚経路の公表をしなかったのか」まで、踏み込んだ分析が行われていれば、さらに読み応えのあるものになっていたのではないかというのが、筆者の個人的な感想である。 (6) 会計不正の関与者 会計不正の主体的な関与者、共謀の有無などを分析した結果、関与者の役職や共謀の有無については年度ごとのバラつきが見られるものの、役員と管理職については、共謀して会計不正を行うことが多く、非管理職については、単独での会計不正行為が共謀を上回っていることが明らかになった。 (7) 会計不正の発生場所 会計不正の発生場所を上場会社、国内子会社及び海外子会社別に分類して集計した結果、上場会社本体が67社、国内子会社が60社、海外子会社が22社となった(複数の場所で発生している会社については、それぞれ集計している)。 2018年3月期の特徴としては、海外子会社の会計不正が大幅に増加したこと(12件発生)で、2014年3月期から2017年3月期までの4年間に発生した件数(10件)を超えている。 (8) 会計不正の不正調査体制の動向 会計不正発生時の調査委員会の組成を、「社内のみ」「社内+外部専門家」「外部専門家のみ」の3つに分類して集計したところ、それぞれ、44社、43社、52社となった。 件数的にはいわゆる第三者のみで構成される調査体制が多いものの、社内(役員・従業員)と利害関係のない外部専門家の双方が含まれる調査体制(社外役員と外部専門家から構成される場合を含む)という調査体制(社内+外部専門家)の占める割合が増加傾向にある。 (9) 会計不正と内部統制報告書の訂正の関係 調査対象期間中に、会計不正の発覚に伴って、過年度の内部統制報告書を訂正した上場会社は72社であった。年度別の推移では、40%台後半から60%程度の会社が訂正を行っている。訂正を行った会社の大多数は、会計不正の類型が「粉飾決算」であった。 (了)
《速報解説》 会計士協会より平成29年度の「品質管理委員会年次報告書」が公表される ~前年度に続き「会計上の見積りの監査」に関する改善勧告が最多~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年6月26日(ホームページ掲載日)、日本公認会計士協会は、「平成29年度 品質管理委員会年次報告書」及び「平成29年度品質管理委員会活動に関する勧告書」を公表した。 年次報告書は、監査法人又は公認会計士が行う監査の品質管理の状況をレビューする制度(品質管理レビュー制度)に基づくものであり、基本的な対象は、監査法人又は公認会計士である。 しかしながら、年次報告書に記載されている内容については、一般の事業会社における会計処理等にも関連するものがあるので、実務において参考になるものを紹介する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計処理等に関連する改善勧告 最も多くの監査事務所が改善勧告を受けた「4.会計上の見積りの監査」では、貸倒引当金、繰延税金資産の回収可能性、固定資産の減損に係る改善勧告が多く、また、棚卸資産の評価等、会計上の見積りに関するその他の勘定科目からも改善勧告事項が生じているとのことである(年次報告書53ページ)。 会計上の見積りの監査に関して、次の改善勧告事項が多く見受けられたとのことである(年次報告書66ページ)。 次の事項に関する改善勧告事項が述べられている(年次報告書24ページ、66ページ)。 Ⅲ IFIAR の調査結果 監査監督機関国際フォーラム(以下「IFIAR」という)は、世界各国・地域の監査監督機関から構成された組織である。 IFIARによる「上場企業の監査業務における品質管理の項目別の指摘数」では、次のものがあげられている(年次報告書93ページ)。 公正価値測定を含む会計上の見積りの監査においては、当該項目のほぼ半数で共通して見られた指摘として、整合性のない監査証拠の検討を含む経営者の仮定の合理性を十分に評価していないという指摘が述べられている(年次報告書93ページ)。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成29年10月~12月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、平成30年6月18日、「平成29年10月から12月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加された裁決は表のとおり、全9件であった。 今回の公表裁決では、国税不服審判所によって課税処分等の全部又は一部が取り消された裁決が6件、棄却又は却下された裁決が3件となっている。税法・税目としては、国税通則法及び所得税法が各1件、法人税法が2件、国税徴収法が5件と、国税徴収法関係の裁決事例が多く公表されている。 【表:公表裁決事例平成29年10月~12月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された9件の裁決事例のうち、譲渡所得の金額の計算について争われた②と、国税徴収法に関連した2件の裁決事例⑥⑦を紹介したい。いつものお断りであるが、論点を整理するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。 1 譲渡所得の金額(取得価額の認定)・・・② (1) 争点 争点は、「本件譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費の金額はいくらとなるか」である。 (2) 請求人の主張 審査請求人は、本件土地は、昭和52年に、父がF社から売買により取得したものであるところ、その当時の売買契約書等の書類は見当たらないが、そのことを理由として、取得費を概算取得費により算定すべきではない。本件土地に係る取得費の金額は、本件土地周辺の土地価格に関する情報を使って合理的に算定すべきであるから、地価公示価格を基に推計した金額とすべきであると主張した。 (3) 原処分庁の主張 これに対して、原処分庁は、本件土地は、昭和41年11月24日に、父が取得したものであるところ、本件土地の取得に要した金額の実額は不明であるから、その取得費の金額は、概算取得費とすべきである。請求人が取得費であると主張する金額は、飽くまで請求人が推計した昭和52年時点における本件土地の取得費であって、本件土地の実際の取得費ではないことから、取得費と認めることはできないと主張した。 (4) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、請求人が父から相続により取得して、平成24年12月に譲渡した土地の取得費について、請求人の父が土地を購入した際の売り手であるF社が作成した土地台帳に記載された売買価額とすることを認め、審査請求人、原処分庁の主張をいずれも退けた。 その根拠として、審判所は、F社の土地台帳の記載内容の信用性については、以下の事実を指摘している。 2 第二次納税義務の告知処分(同族会社の株式の適正な時価)・・・⑥ (1) 争点 本件の争点は、次の2つであるが、国税不服審判所は、[争点2]について違法であると判断して、原処分庁による納税告知処分をすべて取り消しているため、本稿でも、[争点2]に関する原処分庁の主張と、審判所の判断を検討することとしたい。 (2) 原処分庁の主張 原処分庁は、以下の理由により、第二次納税義務に係る限度額は、株式の適正な時価を反映して算出された適法なものであると主張した。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、納付通知書を発した日(平成28年7月8日)における請求人の資産及び負債の金額は明らかではないものの、直前の決算期末以降、納付通知書を発した日までの間に、請求人の資産及び負債について著しい増減があったとは認められないから、本件は、徴収法基本通達第35条関係13の「特に徴収上支障がない」場合に当たることから、納付通知書を発した日における請求人の株式の客観的な時価を算定するに当たっては、平成28年3月31日時点の貸借対照表、財産目録等を参考として行うことができると判断した。 そのうえで、徴収法基本通達第35条関係13が、飽くまで「参考」とすることができるにとどめているのは、徴収法第35条第2項の「当該会社の資産の総額から負債の総額を控除した額」は、同族会社に対し納付通知書を発する時の客観的な時価を標準として計算されるべきものであることを踏まえたものと解されることから、請求人の直前の決算期の貸借対照表等の各勘定科目の中に、その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれる債権などのように、額面どおりの経済的価値があるとはいい難い資産や、その債務の発生が確実といえないような負債が含まれている場合には、貸借対照表等の金額に一定の修正を加えて客観的な時価を算定するのが相当であると論じた。 そして、請求人の前払費用、貸付金、仮払金などの残高を精査した評価額はそれぞれ零円であり、投資有価証券を適正に評価し、工具器具備品及びリース資産から減価償却費を控除して、請求人の株式の価額を算定すると、請求人は債務超過の状態に陥っており、その価額は零円であるから、本件各限度額は、請求人の発行する株式の適正な時価を反映して算出された適法なものとはいえないと判断した。 そして、本件告知処分は、[争点1]及びその余の部分について判断するまでもなく、いずれも違法となるから、その全部を取り消すべきであると結論づけた。 3 差押財産の帰属の認定(第三者に譲渡された動産)・・・⑦ (1) 争点 争点は、請求人は、本件備品の譲受けを、本件備品を差し押さえた原処分庁に対抗することができるか(具体的には、請求人は、本件各差押処分の前に本件備品の引渡しを受けていたか)である。 (2) 原処分庁の主張 原処分庁は、以下の3点から、請求人は、本件差押処分前に本件備品引渡しを受けていないから、本件備品の譲受けを原処分庁に対抗することができないと主張した。 ① 占有改定による引渡しを受けていないこと 請求人と滞納法人との間の合意は、建物の占有移転等に関するものであり、本件備品の占有移転についての記載がなく、本件差押処分時、本件備品には、請求人の所有物であることが明示されておらず、第三者がこれを知り得なかったことからすると、請求人及び滞納法人は、承継合意において、本件備品の占有改定の合意をしていない。 ② 平成28年4月27日に現実の引渡しを受けていないこと 滞納法人の従業員等が本件各教室の鍵を所持して施錠及び解錠をしており、本件各教室の占有補助者であったところ、滞納法人は、従業員等に対し解雇通知を行っておらず、請求人は、本件差押処分時までに滞納法人の従業員等を雇用していなかった。 また、現に、本件差押処分時において、本件教室では、滞納法人の従業員等が鍵の開閉を行い、入口等に請求人が経営していることをうかがわせる表示等も一切なかったことから、本件各教室の占有が移転していることを第三者が認識できる状態ではなかった。 以上によれば、平成28年4月27日に本件備品の現実の引渡しを受けたという請求人の主張には理由がない。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果、次のように事実認定を行ったうえで、請求人は、本件各差押処分の前に、滞納法人から本件備品の引渡しを受けており、その譲受けを原処分庁に対抗することができるので、本件差押処分は、滞納法人に帰属しない財産に対して行われた違法な処分であると結論づけた。 (了)
2018年6月21日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.273を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第56回】 「「骨太の方針2018」と消費税率引上げによる需要変動の平準化」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 〇骨太の方針の決定 6月15日、「経済財政運営と改革の基本方針2018」(いわゆる骨太の方針)が閣議決定された。 今回の骨太の方針では、消費税について、「2019年10月1日に予定されている消費税率の8%から10%への引上げを実現する必要がある」と明確に打ち出し、2017年4月1日から30ヶ月延期されている消費税率の引上げ実施の方向が明らかになってきた。 こうしたことから、今回の骨太の方針では、「消費税率引上げによる駆け込み需要・反動減といった経済の振れをコントロールし、需要変動の平準化、ひいては景気変動の安定化に万全を期す」ことが明記され、需要変動平準化策について次のような方向が打ち出されている。 〇消費税率引上げの影響 10%への引上げがわが国経済にもたらす影響をどう見積もるかは重要な課題であるが、日本銀行が4月28日に公表した「経済・物価情勢の展望(2018年4月)」によると、「2019 年度から2020 年度にかけては、設備投資の循環的な減速や消費税率引き上げの影響を背景に、成長ペースは鈍化するものの、外需に支えられて、景気の拡大基調が続くと見込まれる」とされている。 特に、消費税率10%への引上げによる一般家計への負担増は、1997年4月(3→5%)・2014年4月(5→8%)における過去2回の引上げ時よりも低く抑えられ、特に前回に比べると4分の1程度にとどまるとの試算を示している。 試算によると、消費税率2%引上げによる直接的な負担増は5.6兆円だが、軽減税率の創設で1兆円の負担減となることに加え、教育の無償化で1.4兆円、年金生活者支援給付金等(年金生活者支援給付金に、低所得者の介護保険料の軽減、雇用保険料率の引下げの終了に伴う負担増などを加味)で5,000億円、年金額改定で6,000億円の負担軽減が予定されている。また、増税のタイミングに起因する技術的な要因等も加えると、3.4兆円軽減されるとされ、この結果、家計の負担増は、2.2兆円となるとされている。 今回の骨太の方針においても、2%増税による税収のうち当初その5分の1を社会保障の充実に使うこととしていたところ使途変更により、半分を幼児教育の無償化や介護人材の処遇改善に充当することや、軽減税率制度の実施により、経済的な悪影響を緩和することが確認されている。 これに加えて、「税率引上げ後の自動車や住宅などの購入支援について、需要変動を平準化するため、税制・予算による十分な対策を具体的に検討する」ことも明らかになった。平成31年度税制改正の議論では重要な論点となることが予想される。 〇転嫁対策 消費税率8%への引上げに際しては、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保することが重要であるところ、2013年6月に「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」が創設された。 この法律では、 が規定され、この法律を踏まえ、消費税の転嫁拒否等の行為に対して、公正取引委員会だけではなく、主務大臣又は中小企業庁長官に指導又は助言の権限が付与され、実効性のある監視・取締りの徹底が図られた。 今回の骨太の方針においても、「万全の転嫁対策を講じる」ことが明記されており、この特別措置法の枠組みは引き続き堅持されるべきものであろう。 (了)
〔平成30年度税制改正対応〕 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度 (事業承継税制の特例措置) 【第1回】 「特例措置のポイントと一般措置との比較」 太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 日野 有裕 パートナー 税理士 梶本 岳 -はじめに- 平成30年度税制改正において、事業承継税制について大幅な見直しが行われた。本改正には時限(平成30(2018)年1月1日~平成39(2027)年12月31日)が設けられており、従来からの事業承継税制の特例措置として創設された。 そこで本連載においては、新しい事業承継税制について、その要点を事例等を交えながら解説を行う。 まず【第1回】となる今回は、改正のポイントを列挙しながら従来の事業承継税制からの変更点を概観し、【第2回】以降では各制度についての詳細な解説を行うこととする。 なお、従来の事業承継税制も引き続き制度として存続しており、本連載においては従来の事業承継税制を総称して「一般措置」、今回の改正において創設された新しい事業承継税制を総称して「特例措置」という。 1 特例措置と一般措置の比較 特例措置と一般措置の相違点については、主に以下の通りまとめることができる。 (※) 国税庁HP「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(事業承継税制)のあらまし」より筆者一部変更 2 特例承継計画の策定 特例措置の適用を受けるためには、会社の後継者や承継時までの経営見通し等を記載した「特例承継計画」を策定し、認定経営革新等支援機関(税理士、商工会、商工会議所、金融機関等)の所見を記載したうえで主たる事務所の所在地の都道府県知事に提出し、その確認を受ける必要がある。 また、平成35(2023)年3月31日までの贈与・相続については、贈与・相続後に特例承継計画を提出することも可能である。 特例承継計画の提出期限は平成35(2023)年3月31日までであり、期限内に提出しなかった場合には特例措置の適用を受けることができない。 3 対象株式数及び猶予割合の要件緩和 一般措置においては、制度の対象となるのは議決権株式総数の2/3に達するまでの部分の株式であり、猶予割合は贈与税については100%、相続税については80%であった。つまり、納税猶予割合は、贈与税の66%(2/3×100%)、相続税の53%(2/3×80%)に留まることになる。 しかし、特例措置においては、制度の対象となる株式の上限が撤廃され、贈与税及び相続税とも猶予割合が100%となった。 4 雇用確保要件の抜本的緩和 一般措置では、贈与税及び相続税の申告期限の翌日から5年を経過するまでの期間、5年平均で8割の雇用を維持することが求められており、仮に雇用の8割を維持できなかった場合には、猶予されていた贈与税又は相続税の全額を納付する必要がある。 この「雇用確保要件」は、一般措置の利用実績が低い原因の1つとされてきたが、特例措置においては、雇用確保要件を満たさない場合であっても、その満たせない理由を記載した書類を都道府県知事に提出し確認を受けることで、納税猶予の期限が確定しないこととなった。 5 適用対象者の拡大 まず、贈与者・被相続人の要件について、一般措置には、代表権を有していた個人であること、同族グループによる議決権の過半数保有及び同族関係者内における筆頭株主要件が存在しているため、筆頭株主である1人の先代経営者からの贈与・相続のみ納税猶予の適用が可能であり、それ以外の株主からの承継については納税猶予の適用を受けることができなかった。 一方、特例措置においては、先代経営者に限らず複数株主からの承継についても納税猶予の適用を受けることが可能となった。 次に、受贈者・相続人側においても、一般措置で納税猶予の適用が認められるのは、贈与又は相続後に筆頭株主となる1人の後継者に限られているが、特例措置においては、代表権を有する後継者(最大3名)への承継が納税猶予の対象となった。 6 経営環境の変化に応じた減免措置 一般措置においては、納税猶予に係る贈与税・相続税の申告期限から5年経過後に会社の譲渡や解散をした時には、経営環境の変化により株価が下落していた場合でも、贈与時又は相続時の評価額により贈与税・相続税を納税しなければならない。 特例措置においては、経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合に会社の譲渡や解散をした時は、猶予されている贈与税・相続税と、その時点での株式価値で再計算した贈与税・相続税との差額を免除することになった。 7 相続時精算課税制度の適用範囲の拡大 平成29年度改正において、贈与税の納税猶予と相続時精算課税の併用が可能となったが、相続時精算課税は贈与者の推定相続人及び孫への贈与のみが対象とされていたため、先代経営者の甥など直系卑属でない者や、親族外の後継者に対して特例贈与を実施する場合には、相続時精算課税を選択することができなかった。 平成30年度改正において、贈与者が60歳以上の者である場合には、後継者が推定相続人以外の者であっても相続時精算課税が選択できることになった。これにより、親族内で複数の者から贈与を受ける場合や、親族外事業承継として贈与税の納税猶予を適用する場合においても相続時精算課税を適用できることとなり、納税猶予の認定取消時に過大な税負担が生じるリスクが軽減されることとなった。 8 一般措置と特例措置の適用関係 特例措置の受贈者の適用要件として、一般措置の適用を受けていないことという規定があるので、一般措置の適用を受けている後継者は途中で特例措置に乗り換えることができない。 ただし、平成30年度改正において一般措置も一部改正され、一般措置の適用者がその経営承継期間の末日の翌日以降に、その非上場株式等を特例措置により新たな後継者へ贈与・相続する場合は、その猶予されていた税額が免除されることになった(措法70の7⑮三、70の7の2⑯二) つまり、一般措置の適用を受けている後継者(A)が、さらに次世代の後継者(B)にその所有する非上場株式等を平成39年12月末までに贈与、相続するときには、特例措置の適用を受けることができることとなっている。 (了)
中小企業の生産性向上のための 設備投資に係る固定資産税の軽減特例 【第2回】 「生産性向上特別措置法による先端設備等導入計画の認定手続」 辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健 本特例は、前回見た通り、生産性向上特別措置法(以下、生産性向上法)の認定を受けることが必要である。今回は、前回に引き続き、認定についてさらに解説するとともに、税務申告までの全体の流れを説明する。 1 生産性向上法における認定 前回は、認定の概要について説明した。適用を受けようとする中小企業者は、その実施しようとする先端設備等導入計画を作成し、その導入する先端設備等の所在地を管轄する特定市町村に提出する。 (1) 先端設備等導入計画の記載事項 先端設備等導入計画には、次に掲げる事項を記載することが必要である。 ① 先端設備等の種類及び導入時期 直接その事業の用に供する設備として取得する設備の概要とその導入時期について記載する。 ② 先端設備等導入の内容 事業の内容及び実施時期を記載する。また、先端設備等の導入による労働生産性の向上に係る目標を記載する。労働生産性については年平均3%以上向上させることが必要とされる。労働生産性は、次の算式により計算される。 ③ 先端設備等導入に必要な資金の額及びその調達方法 先端設備等導入に当たって必要な資金の額及びその使途・用途を記載する。同一の使途・用途であっても、複数の資金調達方法により資金を調達する場合には、資金調達方法ごとに分けて記載する。 〈先端設備等導入計画に係る認定申請書〉 (経済産業省関係生産性向上特別措置法施行規則 様式第三) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (2) 認定要件 認定を受けるためには、その先端設備等導入計画が次のいずれにも適合すると認められることが必要である。 2 手続の流れ 本特例の適用を受けるまでの大まかな流れを示すと次に掲げる通りになる。 (1) 中小企業者が先端設備等導入計画を作成し、市町村の認定を受ける (2) 計画に従って、対象設備を取得する (3) 設備の所在する市町村に税務申告する (1) 計画作成から認定まで ① 工業会等の証明 前回見た通り、本特例の対象設備は、生産性向上に資する指標が旧モデル比で年平均1%以上向上していること及び一定の期間内に販売が開始されたモデルであることが必要となる。 これらの要件を満たしている設備であることを確認するため、設備メーカー等を経由して工業会等に証明書を発行してもらい、これを入手することが必要となる(設備の性能把握や同一メーカー内の新旧モデルの判別が必要であるため、設備メーカー等から工業会等へ証明書の発行申請を行うことが望ましい)。 この証明書は、計画の認定申請に当たり、一定の様式による誓約書とともに市町村に提出することになるため、認定申請に当たっては、事前に設備メーカー等に証明書の発行依頼を行っておくことが必要となる。なお、申請・認定前までに工業会の証明書が取得できなかった場合でも、認定後から固定資産税の賦課期日(1月1日)までに証明書を追加提出することにより本特例の適用を受けることができるようである。 なお、生産性向上法に係る工業会等の証明書は、経営力強化法に係る工業会等の証明書と共通の証明書となるが、生産性向上法の施行日(平成30年6月6日)以降に、新たな様式として発行されることとなるため、旧様式の証明書で手続を行わないよう注意が必要である。 (※) 中小企業庁ホームページより ② 経営革新等支援機関の事前確認 労働生産性を年平均3%以上向上させることが必要とされるが、その確認は認定経営革新等支援機関が行うことになり、確認書が発行される。計画の認定申請に当たっては、この確認書を添付することが必要となる。したがって、認定申請に当たっては、事前に経営革新等支援機関に事前確認の依頼を行っておくことが必要となる。 このように計画の認定申請に当たっては、事前に工業会等への証明書の発行依頼及び経営革新等支援機関への事前確認の依頼が必要となる点に留意が必要である。 (2) 設備の取得 先端設備等については、先端設備等導入計画の認定後に取得することが必要となる。中小企業等経営強化法による既存の制度とは異なり、認定前に設備を取得する場合には特例の適用が受けられないので、留意が必要である(既存制度との相違点については次回参照)。 (3) 税務申告 本特例の適用を受けるには、下記に掲げる書類を市町村長に提出する必要がある。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
相続税の実務問答 【第24回】 「死亡保険金の分割」 税理士 梶野 研二 [答] 死亡保険金3,000万円は、お父様と保険会社との間の契約に基づいてお姉様に支払われるものであり、相続により取得するものではありませんので、遺産分割の対象にはなりません。 したがって、あなたが、お姉様の受け取った死亡保険金の一部を取得することとなった場合には、その保険金相当額は、原則として、あなたがお姉様から贈与により取得したものとされ、贈与税の課税対象とされます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 死亡保険金 生命保険金は、保険契約者と生命保険会社との間の生命保険契約により、被保険者の死亡又は生存を保険事故として、同契約において指定された保険金受取人に支払われます。 生命保険金のうち被保険者の死亡を保険事故として支払われる死亡保険金は、保険金受取人が生命保険契約に基づいてその固有の権利として原始的に取得するのであって、保険契約者又は被保険者から、その相続財産として承継取得するものではありません(昭和40年2月2日最高裁第三小法廷判決)。したがって、死亡保険金は遺産分割の対象とはなりません。 しかしながら、被相続人がその生命保険契約の保険料を自己の財産から支払っていた場合、死亡保険金は被相続人の財産が化体したものであって、死亡保険金の受取人は、被相続人の財産を取得したのと実質的には変わりないのではないかとも考えられます。 そのため被相続人の死亡により相続人その他の者が死亡保険金を取得した場合、相続税の課税上は、その保険金受取人が受け取った死亡保険金のうち被相続人が負担した保険料に対応する部分については相続又は遺贈により取得したものとみなして、相続税の課税対象の財産とすることとされています(相法3①一)。 2 死亡保険金の分割 生命保険金は、生命保険契約に基づいて保険金受取人が固有の権利として受け取るものですから、相続財産には該当せず、遺産分割の対象とならないことは、上記1で述べたとおりです。 そのため、この死亡保険金を含めて遺産分割協議を行い、保険金受取人から他の相続人に死亡保険金の全部又は一部に相当する金額が分け与えられることとなった場合には、その保険金受取人から他の相続人に対して贈与があったものとして贈与税が課されることとなります。 ただし、遺産分割協議において、生命保険金受取人が、他の相続人に代償金を支払うことによって相続財産の全部又は一部を取得することとした場合、生命保険金が代償金の支払いに充てられたと考えられるケースもありますが、このような場合には贈与税の課税問題は生じません。 3 ご質問の場合 お姉様に支払われる生命保険金は、相続税の課税上は、みなし相続財産として相続税の課税対象となります(ただし、保険金の非課税限度額(ご質問の場合には、法定相続人が3人ですので、1,500万円が非課税限度額になります)までの部分は、相続税の課税対象とはなりません)。 しかしながら、この生命保険金が相続税の課税対象とされるとしても、本来の相続財産ではなく、相続税の課税上、相続により取得したものとみなされるにすぎないものですから、遺産分割の対象とはなりません。仮に、相続人間の協議によりあなたがお姉様からこの保険金を受け取ることとなれば、贈与税の課税対象となります。 ご質問の場合には、あなたが受け取ることとなる2,000万円のうち1,000万円はお父様の遺産である銀行預金であると考えるならば、お姉様から贈与を受けたとされる金額は、1,000万円となります。 なお、仮に、居住用の建物とその敷地をお姉様が相続することとし、お姉様がお母様又はあなたに代償金を支払う旨の遺産分割協議が調った場合に、お姉様が生命保険金を代償金の支払いに充てたとしても、この金額は代償金を受領することになったお母様又はあなたの相続税の課税対象となりますのでので、お母様又はあなたに贈与税が課されることはありません。 (了)
〔ケーススタディ〕 国際税務Q&A 【第3回】 「海外子会社(持株会社)を整理する際の課税関係」 弁護士 木村 浩之 [Q] 日本法人である当社は、海外に複数の子会社(持株会社)を有しており、それらの持株会社を通じて各国に子会社(現地子会社)を有しています。今般、経営の効率化の観点からグループ再編を実施して、持株会社を整理することを検討しています。 税務上の観点から留意すべき点について教えてください。 [A] 海外の子会社(持株会社)を整理するに当たっては、関係する国における課税関係を検討することが重要です。 具体的には、①持株会社によって保有されている現地子会社について、その所在地国における株式譲渡益課税の有無、②持株会社の所在地国における株式譲渡益課税の有無、③日本における外国子会社合算税制の適用の有無について検討することになります。 ・・・[解説]・・・ 1 現地子会社の所在地国における課税関係 持株会社を整理する際には、その保有する株式の移転を伴うことになり、持株会社によって保有されている現地子会社の株式譲渡益が生じる可能性がある。これについて、その現地子会社の所在地国の国内法によっては、自国法人の株式譲渡から生じた所得として源泉地国課税がなされ得る。 この点、各国の国内法では、かかる株式譲渡益について、そもそも源泉地国課税をしないもの、当該法人が主に国内の不動産を保有する場合に限って課税するもの、一定の持株要件を満たす場合に限って課税するもの、自国法人の株式が直接譲渡された場合のみならず、その株式を保有する法人の株式が譲渡された間接譲渡の場合にも課税するものなど様々であり、現地子会社の所在地国ごとに課税要件を確認する必要がある。 さらに、現地子会社の所在地国と持株会社の所在地国との間で租税条約が締結されていれば、譲渡収益条項の適用によって課税の免除を受けられる可能性がある。すなわち、租税条約の譲渡収益条項では、当該法人が主に国内の不動産を保有する場合に限って株式譲渡益に対する源泉地国課税を認めるものが多く、かかる規定が適用されれば源泉地国では免税されることになるため、その適用要件を確認することが重要である。 2 持株会社の所在地国における課税関係 持株会社において生じた株式譲渡益については、当然、その所在地国における課税関係が問題となる。この点についても、各国の国内法では、そもそも株式譲渡益に課税をしないもの、一定の持株要件を満たす場合には免税するもの、通常の所得と同様に課税をするもの、一定の組織再編税制が適用される場合には課税が繰り延べられるものなど様々であり、その国ごとに課税要件を確認する必要がある。 ただし、持株会社については、通常、株式譲渡益に対する課税が生じない国に設置されることが多いということができる。 いずれにしても、持株会社の整理に当たっては、その法的手続として、株式譲渡によるのか、合併等の組織再編によるのか、資本取引によるのかなど、法律上の観点からの分析のほか、それに伴う課税関係もあわせて検討することが必要である。 3 日本における課税関係 日本の親会社からすれば、国外の子会社(持株会社)において株式譲渡益が生じるものの、その国では課税がなされない場合、外国子会社合算税制の適用が問題となる。すなわち、持株会社の所在地国での実効税率が20%未満であれば、一定の適用除外基準を満たさない限り、その全所得が親会社の所得に合算されることになる。 適用除外基準とは、①事業基準、②実体基準、③経営基準、④迂回防止基準の4つの基準であり、そのすべてを充足する必要があるが、そのうち重要なのは事業基準である。事業基準を満たすためには、当該子会社の主たる事業が一定の列挙された受動的な事業に該当しないことが求められる。ここでの受動的な事業には、持株事業や知的財産管理事業などが含まれる。 そこで、持株会社が子会社株式の保有・運営のほかに特段の事業を有しない場合や他の事業を有するとしてもそれが主たる事業とはいえない場合、事業基準を満たさず、合算課税の対象とされることになる。もっとも、持株会社が地域統括機能を有するとすれば、それが主たる事業であると認められる場合はもちろん、たとえ主たる事業が持株事業であるとしても、なお事業基準を満たすとされている。 このことから、持株会社がどのような機能を有するものであるかを分析することが重要といえる。なお、何が主たる事業であるかは、事業に従事する人員構成、資産構成、所得構成などが総合的に考慮されるものと解されている。 以上に対して、持株会社の整理が合併等の組織再編によってなされる場合、それが適格組織再編に該当すると認められる場合には、いずれにしても日本では課税の対象にされないことになるため、その観点からの検討も必要となる。 (了)