〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第6回】 「委託先から個人情報が漏えいした場合」 弁護士 影島 広泰 -Question- 封筒の宛先ラベルの印刷を委託した外部業者が情報を流出させた場合、自社(委託元)は責任を問われるでしょうか。また、会社として何をすべきでしょうか。 -Answer- ①委託先の安全管理措置を確認し、②委託契約を締結し、③委託先での取扱状況を把握していなかった場合、委託元が監督義務違反を問われることになります。また、本人への連絡や個人情報保護委員会への報告等は、委託元が行うのが原則です。 個人情報保護法では、個人データの取扱いを「委託」することは「第三者提供」には該当せず、本人の同意は不要であるとされている(個人情報保護法23条5項1号)。 ただし、委託先から個人データが漏えい等しないように、委託先に対する「必要かつ適切な監督」をしなければならないとされている(同法22条)。 例えば、今回のケースのように、封筒の宛名ラベルを印刷することを外部業者に「委託」する場合には、本人の同意は不要であるが、その外部業者から情報漏えい等しないように「監督」しなければならないということである。 では、ここでいう「必要かつ適切な監督」とは何か。これを定めているのは、個人情報保護委員会の通則ガイドラインである。 通則ガイドラインでは、以下の3つの義務が定められており、委託元はこれを果たす必要がある。 ◆通則ガイドラインが定める委託先に対する監督義務の内容 上記を踏まえ、委託元がどのような対応をすべきか確認していこう。 ① 適切な委託先の選定 まず、誰にでも個人データを預けてよいわけではなく、適切な委託先を選定する必要がある。 具体的には、委託元には【第1回】~【第5回】までに述べた安全管理措置が義務付けられているが、この委託元に求められている安全管理措置と同等の措置を委託先が果たしていることを確認しなければならない。 では、どのような方法で委託先の安全管理措置を確認すればよいであろうか。 委託先の監督は、個人データが漏えい等した場合に本人が被る不利益を考慮した上で、個人データの取扱いに係るリスクに応じて果たせばよいとされている。 したがって、採るべき確認の方法はリスクによりケースバイケースであるが、例えば顧客1万人の個人データの取扱いを委託するような高リスクのケースでは、ガイドラインが列挙する安全管理措置をチェックリスト式にまとめて委託先候補に記入させるような厳密な方法で確認することが適切であろう。 これに対し、従業員50人分の個人データを税理士の先生に預けるようなケースでは、口頭による確認等で問題ないケースがほとんどであろう。 ② 委託契約の締結 個人データの取扱いに関する安全管理措置を盛り込んだ委託契約を締結する必要がある。 ③ 委託先における取扱状況の把握 委託先に個人データを預けたらそのまま放置しておいてよいわけではない。委託先で個人データがどのように取り扱われているかを把握しておく必要がある。 これもリスクに応じて手段を講じることになるが、厳しく監督するのであれば定期的に監査を行うのがベストである。そこまで厳しくする必要がないケースでは、委託先から報告を受ける条項を契約に盛り込み、取扱状況を定期的に報告させる方法が考えられる。 最低限の対応としては、漏えい等が発生した場合には速やかに報告するという条項を設けておくという方法も考えられる。 なお、2014年に発覚した大手通信教育事業者からの情報漏えい事件を踏まえ、再委託については、事前報告を受けるか承認する条項を盛り込むことが望ましいとされているので注意が必要である。 ➤今後の裁判の動向 現在、上記の大手通信教育事業者からの情報漏えい事件についての各種の裁判が進行中である。 その1つである損害賠償請求事件において、東京地判平成30年6月20日は、委託先においてUSBポートの制御等を行うセキュリティ対策ソフトについてアップデートをしていなかったことについて、委託先に対する監督義務違反であるとして、委託元の責任を認めている。 この事件は、すでに控訴されていることから、今後の東京高等裁判所(及びその後の最高裁判所)の判断が注目されるところであるが、仮に東京地裁の判断が維持されることになると、委託先に対する監督義務は非常に高度なものが求められることになるから、今後の動向に注意が必要である。 ➤委託先で情報漏えいが発生した場合の対応 委託においては、個人データの取扱いの主体はあくまでも委託元であるから、委託先で情報漏えい等が発生した場合には委託元が対応する必要がある。本人への連絡やウェブサイトでの公表、個人情報保護委員会等への報告などは、全て委託元が行わなければならない。 ただし、実務的には、委託先に報告文書等を作らせ、それを添付する形で公表・報告等することは差し支えないし、連名での対応もしばしば見られるところである。 (了)
《編集部レポート》 日税連主催の「報道関係者との懇談会」が開催される ~事業承継のマッチングサイト「担い手探しナビ」・ 「平成31年度税制改正建議書」等について紹介~ Profession Journal 編集部 日本税理士会連合会は2018年9月6日(木)、日本記者クラブにおいて「報道関係者との懇談会」を開催、中小企業の事業承継問題への対応及び平成31年度税制改正に関する建議書についての説明が行われた。 会の冒頭では神津信一日本税理士会連合会会長より、当日発生した平成30年北海道胆振東部地震で被害を受けられた方々へのお見舞いの言葉があり、次に、本日の主題の1つである中小企業の事業承継をめぐる問題について、本年度改正で創設された事業承継税制の特例措置が経営者に対し十分に周知されていない現状と、日税連が全国展開するマッチングサイト「担い手探しナビ」立ち上げの経緯などについて説明があった。 (神津信一日本税理士会連合会会長) 続いて、近藤雅人広報部部長を司会としてスタートした懇談会ではまず、「中小企業存続への対応-事業承継税制とマッチングサイト-」と題し、服部達哉広報部副部長を進行に瀬戸順一中小企業対策部長から中小企業と寄り添う立場である税理士がその事業承継問題において果たすべき役割、そして日税連が10月からスタートさせる予定の事業承継マッチングサイト「担い手探しナビ」に関する説明が行われた。なおこのマッチングサイトについては、すでに北陸税理士会において試験的に導入済みであり、実績(成約)も上がっているとのこと。 また平井貴昭調査研究部部長からは、平成30年度税制改正で創設された事業承継税制の特例措置について、これまでの事業承継税制から要件が緩和された点や、適用を受けるには「特例承継計画」を平成35年3月31日までに提出しなければならない点など新制度のポイントについて説明があった。 説明後は参加者から「担い手探しナビ」に関して、顧問税理士へ求められる対応などの質問が相次ぎ、 報道関係者からの注目の高さが伺えた。 次に本年6月に決定され先月関係省庁へ提出された「平成31年度税制改正に関する建議書」のうち重要建議項目について、柳町和巳広報部副部長を進行に平井調査研究部長による説明が行われた。 特に消費税の軽減税率制度については、その性質により低所得者対策として非効率である点が数値を用いて紹介され、単一税率を維持した上で簡素な給付措置等による負担軽減策とすべきであるとした。また今後の税制改正については、民法(相続)改正に伴う税制のあり方として配偶者居住権や特別寄与料の評価・算定に関する問題について説明が行われた。 (了)
《速報解説》 中小企業向け設備投資減税・教育資金等贈与税非課税特例など 期限切れ措置の延長・拡充要望、 個人事業者向け事業承継税制は実現するか ~各府省庁からの平成31年度税制改正要望~ Profession Journal編集部 8月末日で締め切られた各府省庁からの平成31年度税制改正要望については、年末に取りまとめられる税制改正大綱に向け議論が開始されることになる。 以下、ポイントとなる要望事項を確認しておきたい。 〇中小企業の設備投資減税策は来年3月末で軒並み期限切れに 中小企業の設備投資に対する特例措置(特別償却・税額控除)については昨年度創設の「中小企業経営強化税制」に加え、「中小企業投資促進税制」、「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」がそれぞれ平成31年(2019年)3月31日に適用期限を迎えることから、経済産業省等から2年間(平成33年(2021年)3月31日まで)の延長及び一部拡充が要望されている。なお、これら3制度は対象設備の種類や設備投資による効果(生産性・収益力)に係る認定有無などによって住み分けが行われている。 また、こちらも昨年度創設で、地域経済牽引事業に対象を限定した「地域未来投資促進税制」も来年3月31日が適用期限のため、2年延長及び賃上げ等による上乗せ措置が要望された。 さらに中小企業に向けた特例措置としては最も影響の大きい法人税の軽減税率(年800万円以下の所得に対し15%(本則19%))も来年3月末で期限を迎えるため、中小企業の経営基盤を支えるためには重要として2年延長が要望されている。 ただし、平成31年4月1日以後開始事業年度からは、課税所得の3年平均が15億円を超える中小企業者(適用除外事業者)は租税特別措置法上の特別措置の一部の適用が停止されることとなる点には留意しておきたい。 他に法人税の関係では、29年度改正で増加型の廃止(総額型への改組)や研究費の増加割合に伴う上乗せ措置等の制度見直しが行われた研究開発税制(及び中小企業技術基盤強化税制)は現行制度が平成31年3月31日で適用期限を迎えるが、新たな上乗せ措置や控除率の引上げを含む延長・拡充要望が出されており(経済産業省他)、特に研究開発型ベンチャー企業の成長促進を意識した内容となっている。 さらに経済産業省からは、ストック・オプション税制の拡充(適用対象者の拡大・権利行使期間の緩和・行使限度額(年間1,200万円)の引上げ)や、新設法人への繰越欠損金額制度の拡充(資本金1億円を超えても100%繰越控除できる期間を設立10年目(現行7年目)まで延長)などが要望されている。 〇世代間の資産移転を目的とした贈与税の非課税特例2制度は効果ありとして恒久化を要望 将来世代への資産移転を目的として、平成25年に創設された「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」及び平成27年創設の「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」は、ともに平成31年3月31日に適用期限を迎える。両制度は順調に信託契約及び受託金額を伸ばしており効果が見込まれるとして、金融庁、文部科学省などから制度の恒久化が要望された。 さらに教育資金の特例では受贈者の年齢上限(現行30歳未満)の引上げや払い出し手続の簡素化、結婚・子育て資金の特例においては贈与者としておじ・おばを、受贈者として甥・姪を対象として加えるよう制度の拡充が求められている。 仮にこれら制度の恒久化が実現した場合は、将来的な相続対策としても組み込みやすくなることから、影響は大きいといえよう。 なお、子育て支援策の1つとして、厚生労働省からは寡婦(寡夫)控除の対象に未婚のひとり親を加える要望がなされている(現行では配偶者と死別・離別した者が対象)。 〇個人事業者の事業承継時の税負担を軽減する措置の創設 中小企業の事業承継をめぐっては、事業承継税制の特例措置の創設等、特に本年からはその動きを強く後押しする支援措置が手当てされているが、小規模企業の約6割を占める個人事業者の場合は一般的に資金力が低く、事業承継時の税負担のために事業の継続に必要不可欠な事業用資産を売却しなければならないケースもあるという。 個人事業者に対する税制上の措置としては、小規模宅地等の特例における特定事業用宅地の適用もありすでに大幅な税負担軽減がなされているともいえるが、土地以外の事業用資産を含めた円滑な承継を行うための措置が必要として経済産業省がその負担軽減措置の創設を要望した。 この施策自体は昨年以前から要望されていたものであり今回の要望でも具体的内容までは踏み込んでいないが、中小企業と同様に、高齢化する個人事業者の事業承継もまったなしの状況であり、さらに個人事業の場合、法人に比べて比較的廃業の判断を行いやすいのも確か。制度設計を含めた今後の状況を注視したい。 なお、事業承継税制及び小規模宅地等特例に関しては、昨年11月に会計検査院から適用会社の実態において問題点が指摘されており、今年度改正での手当ては行われていないことから、“宿題”として残されている点も意識しておきたい。 〇消費税率引上げに係る景気対策は今後の議論に注視 以上のように要望事項全体として抜本的な改正事項は少ない印象だが、来年(2019年)10月の消費税率の10%引上げに対する景気変動(増税前の駆け込み需要及び増税後の反動減)を抑えるため、国土交通省・経済産業省を中心に住宅ローン減税の拡充、車体課税の見直しが要望されており、さらにこちらも10%引上げ時期の延期により議論が先送りされていた「医療に係る消費税問題の抜本的な解決策」(厚生労働省要望事項)も何らかの結論が示されることになろう。 住宅税制及び車体課税についてはすでに10%の引上げ前後における特例措置が存在しており(税率引上げの延期により施行時期も延期されている)、さらなる見直しを行うものになるのかという点もポイントになるだろう。 なお、土地関係では他に、土地の所有権移転登記(及び信託登記)に係る軽減税率の2年延長、相続空き家に係る譲渡所得の3,000万円控除の4年延長(現行では平成31年12月31日までの譲渡が対象)も要望されている。 * * * その他、平成31年度税制改正要望に関する情報は、「平成31年度税制改正に関する《資料リンク集》」を参照されたい。 (了)
2018年9月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.284を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.68- 「出始めた『富裕税』の議論」 東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹 ポピュリズムの蔓延する欧州で、富裕税の議論が出始めている。格差是正や財源不足のおり、政治的には飛びつきやすいテーマである。 富裕税の課税ベースは、個人(あるいは法人)の純資産、つまり総資産から負債を差し引いたもので、経常的資産税、あるいはネット・ウエルス・タックスと呼ばれる税だ。法人が課税される場合もある。 欧州では90年代頃まで、ドイツやフランス、スウェーデンなど多くの国で富裕税が導入されていた。しかし、資本移動の自由化が進み、富裕税逃れの資本逃避が続いたことから、ドイツでは1997年に、スウェーデンでは2007年に廃止された。フランスでは未だ存続しているものの、マクロン大統領は、富裕連帯税の大幅な縮小を行った。 その一方、注目される動きが出ている。スペインは08年に廃止された富裕税を、主として財源対策の観点から、2011年に復活させた。大義は財政収入の確保だが、大金持ちへの増税なら政治的にも反対が少ないという事情もあり、2,000億円程度の税収増となっている。この復活は暫定的なものといわれているが、資産税に新たな意義を見出す再評価のきっかけになるという見方もある。 * * * 富裕税に関する議論の高まりの背景には、ピケティ氏の『21世紀の資本』が世界的なベストセラーとなり、その中で、世界的な累進資本税(capital tax)が提言されたことにある。 具体的には、「100万ユーロを超える金融資産、不動産の合計(時価評価)から負債を差引いた『純価値』を課税ベースとし、1%、2%というような累進税率」が提言されている。累進税の根拠として、不公平を是正するというだけでなく、資産の規模に応じて収益率も変わる(規模が大きいほど収益率も大きくなる)ことを挙げている。 またその前提として、タックスヘイブンを含んだ資産情報の透明性の確保が必要と述べているが、リーマンショック以降、OECDを中心に情報交換は加速しており、わが国も含めた自動的な情報交換が始まっている。IT技術の発達が所得・資産の把握を効率的・効果的にしているのである。 このような動きを踏まえて、欧州のシンクタンクから「European Wealth Tax」が提言されている。内容は、純資産が100万ユーロを超える者には1%、500万ユーロを超える者には1.5%の税率をEU全体で課すというもので、GDPの1.5%、1,562億ユーロ(約16兆円)の税収が得られるという。影響を受けるのは全家計の4.8%である。資産がEU域外に逃げないような情報交換ネットワークの導入がセットとして提言されている。 ポピュリズムの蔓延が、このような動きを後押しする可能性がある。 (了)
企業の[電子申告]実務Q&A 【第1回】 「大法人の電子申告義務化の全体像」 SKJ総合税理士事務所 税理士 坂本 真一郎 ●○●○解説○●○● 2004年2月に名古屋国税局管内でスタートし、同年6月に全国拡大した「国税電子申告・納税システム(e‐Taxシステム)」も、今年(2018年)で15年目に突入しました。 しかしながら、直近(2016年度)の法人税の電子申告利用率を見てみると、全法人ベースでは79.3%の利用率であるのに対して、国税局調査部所管の大企業(原則、資本金1億円以上の法人)に限っては未だ56.9%の利用率にとどまっています。 書面による申告の場合、せっかく企業が作成した申告等データがそのまま電子的に提出されないということになり、所轄税務署では職員による再データ化(申告書等の読取・入力作業等)が必要となるため、双方にとって非効率です。 したがって、企業がICT(情報通信技術)を活用して作成・管理しているデータをそのまま円滑に提出できる環境を整備し、電子署名の簡便化やe‐Taxシステムの機能改善等その他の納税者利便性も向上させつつ、法人税等の電子申告利用率100%を実現するために、平成30年度税制改正において「電子情報処理組織による申告の特例」が創設されました。 これにより、一定の法人が行う法人税等の申告は、電子情報処理組織(「電子申告」)で提出しなければならないこととされ、これを「電子申告の義務化」と呼んでいます。 電子申告の義務化の対象となる税目、法人の範囲、手続等は、以下のとおりとなります。 1 対象税目 上記(1)のとおり、電子申告の義務化は地方税も対象となりますので、事業所が多く申告書の提出先が多い企業は、国税庁が提供している「e‐Taxソフト」や(社)地方税電子化協議会が提供している「PCdesk」といった無償のソフトよりも、より効率的な入力が可能で、操作性・機能性が高い「市販ソフト」の導入が欠かせないと思います。 したがって、電子申告が義務化される前に、時間的余裕をもって自社に合った電子申告対応ソフトを選定する必要があるでしょう。 2 対象法人の範囲 義務化対象法人には、人格のない社団等及び外国法人は含まれません。 3 対象手続 確定申告書、中間(予定)申告書、仮決算の中間申告書、修正申告書及び還付申告書が対象手続となります。 4 対象書類 申告書及び申告書に添付すべきものとされている書類の全てが対象書類となります。 対象書類は申告書だけではなく、法人税法等において申告書に添付すべきこととされている書類(財務諸表、勘定科目内訳明細書又は租税特別措置の適用に必要な書類や消費税の申告書付表などのいわゆる「添付書類」)も含まれ、申告書と併せてe‐Taxにより提出する必要があります。 ただ、データ容量が電子申告で送信可能な容量を超えるほどの大容量の場合などは、例外的に、添付書類データを光ディスク等に保存して提出することも可能となる予定です。 5 適用開始届出 電子申告の義務化対象法人は、納税地の所轄税務署長に対し、適用開始事業年度等を記載した届出書(「 e‐Taxによる申告の特例に係る届出書」)を提出することが必要です。 なお、当該届出書は、2020年4月1日以後使用可能となります。 6 適用日 2020年4月1日以後に開始する事業年度(課税期間)から適用が開始します。 7 例外的書面申告 電気通信回線の故障、災害その他の理由によりe‐Taxを使用することが困難であると認められる場合において、書面により申告書を提出することができると認められるときは、納税地の所轄税務署長の事前の承認を要件として、法人税等の申告書及び添付書類を書面によって提出することができます。 * * * 以上をまとめると、下表のとおりとなります。 【電子申告の義務化の概要】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (注) 1 地方税の法人住民税及び法人事業税についても電子申告が義務化されます。 2 義務化対象法人には、人格のない社団等及び外国法人は含まれません。 (了)
〔平成30年度税制改正で創設された〕 コネクテッド・インダストリーズ税制(IoT税制)のポイント 【第2回】 「生産性向上特別措置法に係る諸手続」 税理士・公認会計士 新名 貴則 平成30年度税制改正において、「革新的情報産業活用設備を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除制度」(いわゆる「コネクテッド・インダストリーズ税制(IoT税制)」)が創設された。本連載では、当該税制の概要や手続等について解説する。 当該税制を適用するためには、生産性向上特別措置法に係る手続を経た上で設備投資を行う必要がある。そこで【第2回】では、生産性向上特別措置法に係る諸手続について解説する。 1 生産性向上特別措置法に係る手続の概要 IoT税制の適用を受けるためには、まずは事業者が「生産性向上特別措置法」における「革新的データ産業活用計画」を主務大臣に提出し、その認定を受ける必要がある。そして認定を受けた事業者(「認定革新的データ産業活用事業者」)が、認定を受けた計画(「認定革新的データ産業活用計画」)に基づいて一定の設備投資を行った場合に、当該税制の適用を受けることができる。 対象となる事業者や対象資産、適用期間などの税制適用の具体的な要件については、【第1回】を参照されたい。 2 具体的な手続 ① 革新的データ産業活用計画の策定 事業者は革新的データ産業活用計画を策定し、その認定申請書を作成する必要がある。認定申請書には、主に次のような事項を記載する必要がある。 ② 計画のセキュリティの確認 革新的データ産業活用計画の申請に当たっては、これに先立ってセキュリティの要件を満たしていることついて、情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)の確認を受ける必要がある。中小企業等においては、ITコーディネータによる確認も可能となっている。 登録セキスぺ等による確認は、主に次のような内容について行われる。 ③ 計画の認定申請 登録セキスぺ等によるセキュリティ確認の後、計画の認定申請書を提出することになる。このとき、記載の不備等を確認するために、本社所在地を管轄する総合通信局又は経済産業局に、事前相談を行う必要がある。 事前相談の後、本社所在地を管轄する総合通信局及び経済産業局の両局宛に、認定申請書を提出する。また、事前相談の際に必要と判断された場合は、事業所管省庁宛にも提出する必要がある。 なお、認定申請書等の記入方法については、経済産業省ホームページ「コネクテッド・インダストリーズ税制について」で公表されているので参考にされたい。 ④ 計画の認定 申請書が計画として適切と認められると、申請を行った総合通信局、経済産業局及び事業所管省庁(申請した場合)のそれぞれから、認定書が交付される。申請から認定までは、通常30日程度となっている。 計画が認定されるためには、次の要件を満たしている必要がある。 (※1) 次のいずれかの類型に該当するものは対象になりえる。 (※2) 労働生産性の算定式は次の通り。 (※3) 投資利益率の算定式は次の通り。 手続の流れをまとめると、下図のようになる。 なお、経済産業省ホームページでは以下のように、制度の利用に当たっての手引やQ&A、すでに認定を受けた企業及び計画の概要を公表しているので、参考にされたい。 (連載了)
特別事業再編(自社株対価M&A)に係る 課税繰延措置等特例制度の解説 【第2回】 「特別事業再編計画の認定要件」 太陽グラントソントン税理士法人 マネジャー 税理士 川瀬 裕太 特別事業再編計画の認定を受けたものが支援制度の対象となり、認定を受けた事業者による自社株式を対価とした株式取得に応じた株主について、株式の譲渡損益への課税繰延措置が適用されることとなる。 改正産業競争力強化法に定められた「特別事業再編計画の認定要件」は次のとおり。 計画期間 3年以内(大規模な設備投資を行うものに限り5年) 生産性の向上(事業部門単位) 計画の終了年度において、次のいずれかの指標の達成が見込まれること ① 修正ROA:3%ポイント向上 ② 有形固定資産回転率:10%向上 ③ 従業員1人当たり付加価値額:12%向上 (※1) 修正ROA=(営業利益+減価償却費+研究開発費)/総資産の帳簿価額×100 (※2) 有形固定資産回転率=売上高/有形固定資産の帳簿価額 (※3) 従業員1人当たり付加価値額=(営業利益+人件費+減価償却費)/従業員数 財務の健全性(企業単位) 計画の終了年度において、次の両方の達成が見込まれること ① 有利子負債/キャッシュフロー ≦ 10倍 ② 経常収入 > 経常支出 雇用への配慮 計画に係る事業所における労働組合等と協議により、十分な話し合いを行うこと、かつ実施に際して雇用の安定等に十分な配慮を行うこと 事業構造の変更 他の会社の株式・持分の取得を行うこと(以下の①~③すべてを満たすことが必要) ① 他の会社を関係事業者とすること ② 対価として自社の株式のみを交付すること ③ 対価として交付する株式の価額(対価の額)が余剰資金の額を上回ること (※4) 関係事業者とは、産業競争力強化法2条8項、同施行規則3条の関係を有する事業者をいう。 (※5) 余剰資金の額=現預金-運転資金-上記以外の買収に要する資金の額 前向きな取組 計画の終了年度において、次のいずれかの達成が見込まれること ① 新商品、新サービスの開発・生産・提供 ⇒ 新商品等の売上高比率を全社売上高の1%以上 ② 商品の新生産方式の導入、設備の能率の向上 ⇒ 商品等1単位当たりの製造原価を5%以上削減 ③ 商品の新販売方式の導入、サービスの新提供方式の導入 ⇒ 商品等1単位当たりの販売費を5%以上削減 ④ 新原材料・部品・半製品の使用、原材料・部品・半製品の新購入方式の導入 ⇒ 商品1単位当たりの製造原価を5%以上削減 新事業活動 次のいずれかにあたる新事業活動を行うこと(後述) ① 著しい成長発展が見込まれる事業分野における事業活動 ② プラットフォームを提供する事業活動 ③ 中核的事業へ経営資源を集中する事業活動 新需要の開拓 計画の終了年度において、新たな需要を相当程度開拓することが見込まれること ⇒ 売上高伸び率 ≧ 過去3事業年度の業種売上高伸び率+5%ポイント等 経営資源の一体的活用 申請事業者と関係事業者となる他の会社がそれぞれの有する知識、技術、技能等を活用することにより、商品又は役務の開発、資材調達、生産、販売、提供等において協力すること 上表のうち「新事業活動」とは、以下の①から③のいずれかにより、新需要を相当程度開拓するとともに、著しい生産性向上を達成する取組みとされている。 ① 著しい成長発展が見込まれる事業分野における事業活動 ② プラットフォームを提供する事業活動 ③ 中核的事業へ経営資源を集中する事業活動 * * * 次回は本特例制度における課税関係について解説する。 (了)
〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q9】 「組織再編が行われた場合の取扱い(総論)」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 [Q9] 平成30年度の税制改正によって所得拡大促進税制が抜本的に改正されていますが、組織再編を行った場合の取扱いについてはどのように変更されたのでしょうか。 [A9] ◆改正前の制度では「基準雇用者給与等支給額」及び「比較雇用者給与等支給額」について、組織再編が行われた場合の調整計算の定めがありましたが、改正後の制度では「比較雇用者給与等支給額」に係る調整計算のみが定められています。 ◆平成30年度の税制改正で新たに定められた比較教育訓練費の額及び中小企業比較教育訓練費の額について、組織再編が行われた場合の調整計算の定めが追加されました。 【解説】 (1) 組織再編が行われた場合の取扱いに関する基本的な考え方 本税制を適用しようとする法人において合併、分割等(分割、現物出資、現物分配)が行われた場合には、企業規模が著しく変動することとなるため、適用要件のうち前事業年度等の給与等支給額や教育訓練費との比較を行う局面で組織再編前の金額をそのまま用いると適切な結論に至らないおそれがあることから、比較すべき金額については組織再編による影響を加味して調整することとしている。 (2) 平成30年度の税制改正による変更点 平成30年度の税制改正によって基準事業年度の概念が廃止されたことに伴い、改正前の「基準雇用者給与等支給額」に係る調整計算が削除され、「比較雇用者給与等支給額」に係る調整計算についても規定の見直しが行われている(措令27の12の5⑦~⑫)。 あわせて、新たに導入された「比較教育訓練費」及び「中小企業比較教育訓練費」についても、調整計算の規定が新設された(同⑳㉑)。 (3) 全体像 比較雇用者給与等支給額について組織再編が行われた場合の調整計算は、その組織再編がいつ行われたかにより、①適用年度中に組織再編が行われた場合の調整計算と、②「基準日」(後述)から適用年度開始日の前日までに組織再編が行われた場合の調整計算の2つに分けて規定されている。 比較教育訓練費及び中小企業比較教育訓練費に係る調整計算についても、組織再編手法ごとに若干の対象期間の区切り方や用語の違いはあるものの、それらの用語については比較雇用者給与等支給額に関する規定を読み替えて適用することとされており、具体的な調整計算の方法自体は同じであるといえる。 調整計算の対象となる組織再編は合併、分割等(分割、現物出資、現物分配)であり、分割等については分割法人等と分割承継法人等のそれぞれについて規定されている。 なお、改正前の制度で規定されていた新設合併、新設分割及び現物出資設立に係る調整計算の規定は削除されている。改正後の制度は設立事業年度に適用されないためである。 以上を踏まえ、調整計算に関する条文をマッピングすると下表のようになる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第53回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) ④ 時価が帳簿価額以上である資産と特定資産譲渡等損失相当額の計算 (ⅰ) 平成21年当時の見解 拙著『組織再編における繰越欠損金の税務詳解(第2版)』(中央経済社)213-214頁では、以下のように解説していた。すなわち、繰越欠損金の引継制限、使用制限の特定資産譲渡等損失相当額の計算における特定引継資産の意義は、 を と読み替えることされていた。 そして、「政令で定めるもの」とは、棚卸資産、短期売買商品、売買目的有価証券、帳簿価額又は取得価額が1,000万円に満たない資産、時価が税務上の帳簿価額以上の資産をいうのに対し、上記の条文構成では、その部分も含めて「被合併法人が特定資本関係が生じた日において有する資産」と読み替えられていることになる。 その結果、特定資本関係発生日における時価が税務上の帳簿価額以上である資産であっても、特定資産譲渡等損失相当額の計算上、特定資産から除外できないということになる。 (ⅱ) 現在の私見 しかしながら、税理士法人トーマツ(現 デロイトトーマツ税理士法人)の稲見誠一税理士との共著である『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』534-535頁(中央経済社、平成24年)では、 と規定されていることを理由として、棚卸資産などの除外規定を含めたうえで、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の規定を適用したと仮定して、特定資産譲渡等損失相当額の計算を行うべきであるとした。特定資産譲渡等損失額についての実務上の解釈が定着したことに伴う修正である。 さらに、法人税確定申告書別表7付表(1)の記載要領でも、「特定引継資産又は特定保有資産の譲渡等特定事由による損失の額の合計額」及び「特定引継資産又は特定保有資産の譲渡又は評価換えによる利益の額の合計額」の各欄に記載した金額の計算に関する明細を別紙に記載して添付することが記載されている。すなわち、支配関係発生日における時価が税務上の帳簿価額以上である資産についても、別紙で記載することにより特定資産から除外することができることになる。 ⑤ 特定資産を適格分社型分割により移転する場合 前掲の拙著220-223頁では、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の適用対象になる法人であっても、対象となる特定資産を適格分社型分割により支配関係が生じてから5年を経過している他の法人に移転した場合には、①当該他の法人は特定資産譲渡等損失の損金不算入の対象法人にならないことから、分社型分割により移転した特定資産に対しては、損金不算入の対象にならないこと、②適格分社型分割により取得した株式については、特定資産譲渡等損失の損金不算入の対象となる適格組織再編成を行った後に取得した資産であることから、損金不算入にならないこととした。 その後、平成25年度税制改正により、支配関係発生日後に適格組織再編成により取得した資産に対して、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の対象とされ、平成29年度税制改正により、支配関係事業年度開始の日から支配関係発生日の前日までに処分した資産に対して、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の対象とされたのに対し、上記の取扱いについては何ら改正が行われていない。 そのため、上記の解釈は現行法上も有効であると解される。 ⑥ 貸倒引当金と特定資産譲渡等損失額 (ⅰ) 平成21年当時の見解 前掲の拙著226-228頁では、個別貸倒引当金の戻入益を控除したうえで特定資産譲渡等損失相当額の計算をすることとされていることから、個別貸倒引当金の繰入額は特定資産譲渡等損失額の損金不算入の対象になると解していた。 (ⅱ) 現在の私見 しかしながら、税理士法人トーマツ(現 デロイトトーマツ税理士法人)の稲見誠一税理士との共著である『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』548-549頁(中央経済社、平成24年)では、個別貸倒引当金の繰入額は、翌事業年度において益金の額に算入され(法法53⑩)、損失の額として確定していないことから、「これらに類する事由による損失」に該当しないと考えられ、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の対象に含まれないものとした。特定資産譲渡等損失額の損金不算入についての実務上の解釈が定着したことに伴う修正である。 ⑦ 営業権と時価純資産超過額の計算 (ⅰ) 平成21年当時の見解 前掲の拙著237-238頁では、時価純資産超過額の計算が個々の資産及び負債の積上計算により行うように規定されていることから、差額概念としてののれんを時価純資産超過額の計算に織り込むことは馴染まないものとしていた。 (ⅱ) 現在の私見 しかしながら、西村美智子・中島礼子「欠損金引継制限の特例における時価純資産価額計算にのれん(営業権)は加味できるか?」国税速報6069号37-39頁(平成21年)では、被買収会社側における時価純資産超過額の計算上、買収価額を時価総額とみなすことができるという見解が述べられ、稲見誠一・三富樹子「適格合併における特定資産譲渡等損失の損金算入制限(時価純資産超過額がある場合)」国税速報6075号34-35頁(平成21年)では、買収会社が市場で評価されている株価総額(時価総額)を時価総額とみなすことができるという見解が述べられるようになった。 これに対応し、税理士法人トーマツ(現 デロイトトーマツ税理士法人)の稲見誠一税理士との共著である『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』552-555頁(中央経済社、平成24年)でも、これらの論文の見解に従う形で解釈の変更を行っている。 * * * 次回では、のれんの計算についての解説を行う予定である。 (了)