検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10495 件 / 5611 ~ 5620 件目を表示

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第42回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第42回】   公認会計士 佐藤 信祐   《第8章》 平成18年から平成21年までの議論 1 法人税基本通達の改正 (1) 平成19年3月13日改正 ① 概要 平成19年3月13日に改正された法人税基本通達は、平成18年度の会社法施行に伴い、法人税法が見直されたことが大きな改正内容となっている。そのため、「商法」から「会社法」に文言修正をしたり、「資本積立金額」を「資本金以外の資本金等の額」に文言修正したりする形式的な改正も多いが、本稿では、実質的な改正が行われているものについてのみ解説を行う。 ② 合併の日、分割の日 会社法の施行により、吸収合併又は吸収分割を行った場合には、合併契約書又は分割契約書に記載した効力発生日に資産及び負債が引き継がれることとされ(会社法750①、759①)、新設合併又は新設分割を行った場合には、設立登記の日に資産及び負債が引き継がれることとされた(会社法754①、764①)。そのため、法人税基本通達1-2-3(現行1-2-4)、1-4-1でも、そのことが明らかにされている。なお、株式交換・移転についても、同通達1-4-1において、同様のことが定められている。 ただし、それでは、合併予定日又は分割予定日が土日である新設合併又は新設分割を行う場合には、事業年度開始の日を合併予定日又は分割予定日とすることができず、日割計算を行わなければならないという不都合が生じる。そのため、平成19年4月に「新設合併等の登記が遅れた場合の取扱いについて」が公表された。その具体的な内容については、本連載で解説する予定である。 上記のほか、同通達2-1-22では、有価証券の譲渡による損益の計上時期につき、吸収合併、吸収分割又は株式交換の場合には効力発生日、新設合併、新設分割又は株式移転の場合には設立登記の日と定められ、同通達2-1-27では、非適格合併又は非適格分割型分割におけるみなし配当の計上時期についても同様に定められた。 ③ 1株未満の端数 法人税基本通達1-4-2では、1株未満の端数を交付したとしても、金銭等不交付要件に抵触しないことが定められていた。平成19年3月13日の改正では、会社法234条に「一に満たない端数の処理」が定められたことにより改正がなされている。 具体的には、会社法234条では、競売又は売却により現金化したうえで少数株主に交付するものとしているため、「1株未満の株式の合計数に相当する数の株式を他に譲渡し」と規定したうえで、同法4項において、発行法人が買い取ることができることとしているため、同通達でも「又は買い取った代金として交付されたものであるときは」と規定している。 すなわち、どのような方法により1株未満の端数を処理したとしても、金銭等不交付要件に抵触しないことが明らかにされている。 しかしながら、平成19年3月13日の改正は ことが明記された。これは、平成18年度税制改正により、株式交換・移転税制が導入され、現金交付型株式交換を行った場合には、非適格株式交換として処理されてしまうことから、その代替的な手法として、端株株式交換が検討されたため、その牽制のために導入された通達である。 そのため、平成29年度税制改正前までは、全部取得条項付種類株式や平成26年改正会社法で認められた株式併合や株式等売渡請求を利用した少数株主のスクイーズアウトを行うことが多かった。 これに対し、平成29年度税制改正により、発行済株式総数の3分の2以上を保有している場合における現金交付型合併、株式交換について、金銭等不交付要件に抵触しないこととされたため、上記の牽制規定が適用されることはほとんどなくなったということが言える。 ④ 特定役員 法人税基本通達1-4-7では、専務取締役及び常務取締役の意義について、同通達9-2-1の3(現行9-2-4)によることが定められていたが、平成19年3月13日の改正により削除された。ただし、このことにより、名ばかり役員の取扱いが変わったわけではなく、実質的に、副社長、専務取締役及び常務取締役と認められない場合には、特定役員として認められない可能性があると考えられる。 ⑤ 他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合 会社法の施行による種類株式の多様化に伴い、法人税法施行令119条1項4号では、 について、有利発行に該当しないものとした。 この場合における「株主等として」とは、株主等の地位に基づいて取得するもの(すなわち、株主割当て)であると解されている。そのため、上記の規定の適用は、「当該法人の他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合」に限定されている。 この点につき、法人税基本通達2-3-8では、「他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合」とは、 をいうことが明らかにされている。 すなわち、種類株式を発行している場合において、特定の種類株主に損害を与えるような形で株主割当てを行うときは、有利発行に該当してしまうということになる。 (2) 平成21年12月28日改正 平成21年12月28日の改正では、法人税基本通達12-1-5、12の2-2-5が廃止された。いずれも、2以上の法人を被合併法人とする吸収合併を行った場合における特定資本関係発生日の判定方法について定めた通達であったが、平成21年1月29日に文書回答事例(三社合併における適格判定について)が公表され、2以上の法人を被合併法人とする吸収合併を行った場合には、2以上の吸収合併を行ったものとして取り扱うことが明らかにされたため、同通達の意義がなくなったことにより廃止されたものと思われる。 なお、本文書回答事例の内容については、本連載において、改めて解説を行う予定である。 *   *   * 次回では、平成19年4月に国税庁のHPにおいて公表された「新設合併等の登記が遅れた場合の取扱いについて」「共同事業を営むための組織再編成(三角合併等を含む)に関するQ&A」について解説を行う予定である。 (了)

#No. 273(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/06/21

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第50回】「前期損益修正」~国保収入を減額する決算修正仕訳は認められないと判断した理由は?~

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第50回】 「前期損益修正」 ~国保収入を減額する決算修正仕訳は認められないと判断した理由は?~   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   今回は、青色申告法人X社に対して行われた「国保収入を減額する決算修正仕訳を否認する」法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた国税不服審判所平成24年4月9日裁決(裁決事例集87号291頁。以下「本裁決」という)を素材とする。   1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本裁決の裁決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。   2 本件理由付記から読み取ることができる関係図   3 本裁決の判断 本裁決は、大要次のとおり、本件理由付記は法人税法130条2項に規定する要件を満たさない違法なものであると判断した。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性   4 検討 (1) 求められる理由付記の程度 X社の仕訳日記帳の記載から、X社は、平成14年12月期において医療未収入金を過大に計上していたこと及び平成17年12月期において、これを適正な債権の残高に修正するために、医療未収入金を減額するとともに国保収入を同じ額だけ減額する内容の決算修正仕訳を行ったことがわかる。 本件更正処分は、これらのことを前提として、当事業年度において国保収入科目の残高を減算する処理は認められないとするものである。であれば、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正する場合に該当すると考える。 したがって、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (2) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 本件理由付記は、「平成14年1月1日から平成14年12月31日までの事業年度に過大に計上した医療未収入金を適正な債権の残高に修正するため」、「次の決算修正仕訳を平成17年12月31日で行い・・・国保収入科目の残高から・・・減算しています」、「しかしながら、当事業年度において・・・国保収入科目の残高から・・・減算すべきものとは認められません」と記載している。 かような文面及び文脈を注意深く読んでみると、過去の事業年度で過大に計上した医療未収入金の残高を修正するために、その後の事業年度の収入科目の残高(法人税法上の収益の額)を減算することは認められない、という課税庁の判断を読み取ることが可能である。 すると、本件更正処分は過年度の修正経理に係る収益の年度帰属(計上時期)を問題とするものであるから、その根拠法令は法人税法22条2項であることを理解し得る(法人税法上の収益の帰属時期の議論については、本連載【第20回】参照)。 これらのことを併せ考慮すると、本件理由付記は、その記載内容から処分の根拠となる法令及び具体的な事実を理解することができるものであり、これによって課税庁の判断過程が明らかとなるものであるといえる。 であれば、本件理由付記は、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の制度趣旨を充足する程度に具体的なものであるということができ、理由付記として十分なものであると評価し得る。 (3) 更なる検討 ~前期損益修正に係る否認と法人税法22条4項(公正処理基準)との関係~ 企業会計においては、会計方針の変更や誤謬の発見などにより、翌期以後になってから過去の利益計算を修正した方がよいと考えられる場合でも、遡って決算をやり直すのではなく、前期損益修正として、過去の損益を特別損益項目に計上して処理することが慣行として広く行われてきた(企業会計原則第2の6、同注解12等参照)。そこで、法人税法において、そのような処理が、同法22条4項の公正処理基準に該当し、認められるかという問題がある。 X社の決算修正仕訳に関する記載から、X社は、この企業会計上の前期損益修正の慣行に即して、処理を行ったと解することもできよう。 従来より、課税庁は、経理処理の誤りや粉飾決算を原因として、過去の損益を修正するような場合に、当該過去の事業年度ではなく、経理処理の誤りが発覚するなどしたその後の事業年度において前期損益修正(特別損益項目)として計上するような会計処理について、法人税の所得の計算においては認めないという立場を採用していると考える。 かような会計処理を認めると、同一の費用や損失を複数の事業年度において恣意的に計上することができることになり、公平な所得計算を阻害する。あるいは、法人税法は、上記のような事情に基づいて過去の損益を修正する場合には、修正申告や更正ないし更正の請求という制度により、過去の事業年度に遡って修正することを予定している。このような理解や解釈がその背後に存在すると思われる。 裁判所も、単なる計上漏れのように、本来の事業年度で計上すべきであった損益を、後の事業年度において、前期損益修正として計上するような処理を公正処理基準に該当するものとして認めることはできないと判示している(本連載【第51回】で取り扱う東京地裁平成27年9月25日判決・税資265号順号12725参照)。 すると、処分の根拠条文について、法人税法22条2項のみならず、4項も関係していることが明らかになるように理由付記を記載しなければならないか、という疑問が出てくる。 本件理由付記からは、過去の事業年度で過大に計上した医療未収入金の残高を修正するために、その後の事業年度の収入科目の残高(法人税法上の収益の額)を減算することは認められないと、課税庁が判断したことを読み取ることができる。前述のとおり、かような本件理由付記の記載から、本件更正処分は、収益の年度帰属(計上時期)を問題とするものであって、法人税法22条2項を根拠とすることを理解できるであろう。他方、本件理由付記は、課税庁が、法人税法22条4項、とりわけ上述の会計の慣行が同項にいう公正妥当な会計処理の基準として認められるかどうかを検討したかという点を明らかにしていない、という指摘も可能である。 そうすると、本連載【第3回】で取り上げた大阪高裁平成25年1月28日判決(判時2203号25頁)の判示内容も踏まえて、本件において税務調査の段階で法人税法22条4項の解釈・適用が争点化していたか否かで理由付記に記載すべき内容・程度が変わるか、という問題を提起することもできる。 *  *  * 次回は、「過去の事業年度に係る外注費を当該事業年度の損金に算入することはできないこと」を理由とする法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)

#No. 273(掲載号)
#泉 絢也
2018/06/21

企業経営とメンタルアカウンティング~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第3回】「「無料」の魔力」

企業経営と メンタルアカウンティング ~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第3回】 「「無料」の魔力」   公認会計士 石王丸 香菜子   *資料* 第1事業部では、業務用特殊インク製造のため、材料を仕入れている。この材料の年間購入量は8,000kgで、1kg当たりの購入代価は22,500円である。 特殊材料であるため、密閉状態で適正温度を保った状態で、仕入先が当社まで配送する契約になっている。配送代は、1回ごとの購入量の多寡にかかわらず、配送1回につき20,000円である。 材料購入後、当社倉庫での保管中は火災保険をかけている。火災保険料は1kgにつき200円である。 先日、仕入先より、今後1回当たりの購入量が1,000kg以上の場合には、配送代20,000円を無料にするとの提案があった。 PN社の資本コスト率は8%である。   *  *  *   1 損得感情は何を基準に決まるか インターネットで買い物をするとき、『〇〇円以上購入すれば送料無料』のうたい文句につられて、つい不要な商品を買い足してしまうことはありませんか? 例えば、あと600円購入すれば送料500円が無料になるような場合、買う予定になかった不要な600円の商品を購入してしまった経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。 冷静に考えれば、送料が500円かかっても不要なものを買わないほうがよいのですが、本来500円かかるはずの送料が『無料』になると、とても得したような気分になりますよね。 人の損得感情は、絶対的な基準に基づき判断した結果というよりも、何らかの水準と相対的に比較することで生じる曖昧な感覚です。 つまり、送料金額そのものが妥当かどうかを判断するわけではなく、それまでの500円という水準と0円(無料)とを比較して、「得をした」という感覚を持つわけです。 こうしたココロの中の損得判断の基準となる水準は、「」と呼ばれています。 第1事業部長と経理部長が、材料をまとめ買いしようとしているのも、配送代が、それまでの20,000円という参照点と比較して、0円になることから、非常にお得と感じたからですね。   2 発注コストと保有コスト ここで、材料を購入する際に生じる付随的なコストについて、よく考えてみましょう。2人が注目した配送代は、発注回数に応じて発生する「発注コスト」です。 1回当たりの発注量が多いほど発注回数は少なく済むので、年間の発注コスト総額も少なくなります(今回のケースでは、1回当たり発注量が1,000kgを超えると無料になります)。 一方、カズノ君が知らず知らずのうちに指摘したように、仕入後材料を保有することで生じる「保有コスト」もあります。保管中の保険料は、その典型です。 また、材料購入のために資金を使ってしまうと、その資金を他で運用する機会を断念していることになりますね。そのため、仮に別の案件に投資したなら得られたはずの利益についても、材料を保有することにより生じるコストとしてとらえる必要があります(このようなコストを「」と呼びます)。 資金を別の案件で運用したなら得られたはずの利益は、「材料購入資金×資本コスト率」で計算できます(資本コスト率については、筆者が以前に連載した「ファーストステップ管理会計」の【第14回】で解説しています)。こうした保有コストは、1回当たりの発注量が多いほど、増加してしまいます。 材料を発注する際には、発注コストと保有コストの合計が最小になるように発注量を決めるのがよいと言えます。数学の説明は割愛しますが、一般に、発注コストと保有コストが等しくなるような発注量の時、両者の合計が最小になります。 今回のケースについて、発注コストと保有コストの合計が最小になるような発注量を求めてみましょう。1回当たりの発注量をXkgとします。 発注コストと保有コストが等しくなる時に、両コストの合計が最小になるのですから、 を満たすXを求めればよいことになります。 計算すると、X=400kgとなり、発注コストと保有コストが400,000円ずつの合計800,000円になります。 一方、第1事業部長と経理部長が考えたように、X=1,000kgの場合には、発注コストはゼロですが、保有コストは1,000,000円になり、合計1,000,000円です。 つまり、配送代「無料」に惑わされず、こまめに400kgずつ発注するのが一番お得というわけです。 ココロの損得判断はイメージに左右されやすく、必ずしも合理的ではありません。真のコストを網羅的に集計して、コスト最小化を図りましょう。 ◆◇◆今回のキーワード◆◇◆ ▷ ココロの中の損得判断の目安となる水準。参照点との比較で損得感情が生じるが、必ずしも合理的な判断とは限らない。 ▷ 選ばなかった別の案を選択した場合に得られるであろう利益のこと。 (了)

#No. 273(掲載号)
#石王丸 香菜子
2018/06/21

改正法案からみた民法(相続法制)のポイント 【第3回】「配偶者短期居住権」

改正法案からみた 民法(相続法制)のポイント 【第3回】 「配偶者短期居住権」   弁護士 阪本 敬幸   前回は、配偶者の居住に関する権利のうち配偶者居住権(長期居住権)について解説した。今回は配偶者短期居住権(法案1037条~1041条)について解説する。   1 趣旨 被相続人の配偶者(以下、単に「配偶者」という)が、生前被相続人所有建物で被相続人と同居していた場合、被相続人死亡後に被相続人所有建物を取得しないとしても、配偶者に対し直ちに建物から退去して転居するよう求めることは酷であり、配偶者保護の必要性がある。 現行法の下でも、最高裁平成8年12月17日判決は、被相続人と同居の相続人に短期的な居住権を認めており(被相続人・同居相続人間に、遺産分割時までの使用貸借契約が成立するという法律構成)、同判例を参考に、配偶者短期居住権が設けられることとなった。   2 配偶者短期居住権の内容 配偶者短期居住権は、配偶者が、①居住建物の遺産分割をすべき場合は、遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始時の時から6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日までの間、②前記①以外の場合(遺贈により建物を取得した者がいる場合など)は、居住建物取得者が配偶者短期居住権の消滅を申し入れた日から6ヶ月を経過する日までの間、居住建物のうち配偶者が従前使用していた部分を、無償で使用することができる権利である(法案1037条)。 配偶者が建物全部を使用・収益できるとされる配偶者居住権(長期)と異なり、相続人の生前、配偶者が建物の一部しか使用していなかった場合には、その一部のみを無償で使用することができる。 配偶者に一身専属的な権利であり、譲渡はできないことは配偶者居住権(長期)と同様である(法案1041条、法案1032条2項)。 法制審議会では、使用借権類似の法定債権と位置付けている(民法(相続関係)等の改正に関する中間試案の補足説明3頁)。   3 成立要件 配偶者が、相続開始時に被相続人が所有する建物に無償で居住していたこと。 消極的要件として、配偶者が、相続開始時に配偶者居住権(長期)を取得したこと、欠格・廃除により相続権を失ったことが挙げられ、これらの場合には配偶者短期居住権は成立しない。配偶者が相続放棄した場合であっても、配偶者短期居住権は成立する。   4 配偶者短期居住権者の権利・義務 配偶者短期居住権者である配偶者は、一定期間、被相続人の生前から使用していた範囲で建物を無償で使用することができ(法案1037条1項)、これが基本となる権利である。 その他、配偶者短期居住権者である配偶者が負う権利義務として、 などが定められている。これらの点は、配偶者居住権(長期)と同様・類似する。   5 配偶者短期居住権の消滅 存続期間の経過(法案1037条1項1号)、配偶者居住権(長期)の取得(法案1039条)、配偶者死亡(法案1041条・改正民法597条3項)、目的建物の滅失等(法案1041条・改正民法616条の2)が消滅原因として定められている。 配偶者短期居住権が配偶者保護のための法定債権であることからすれば、建物所有者と配偶者との消滅合意により消滅することも当然である。   6 第三者との関係 配偶者居住権(長期)では、存続期間が長期間に及ぶことから、第三者対抗要件としての登記が定められているが(法案1031条)、配偶者短期居住権においては対抗要件についての定めはない。 建物所有者には、第三者に建物を譲渡する等して配偶者短期居住権を害するような行為をしてはならないという義務が定められているが(法案1037条2項)、実際に建物が譲渡されてしまった場合には、配偶者は配偶者短期居住権を譲受人に対抗できないということになる。 このような建物譲渡が行われたことによって配偶者に損害が生じた場合には、配偶者は、建物の前所有者(譲渡人)に対し、1037条2項違反を理由として、生じた損害の損害賠償を請求することはできるだろう。 また配偶者居住権(長期)では、配偶者居住権者の権利として建物の使用のみならず収益も認められていることもあって配偶者が第三者に転貸する場合に関する規定が置かれているが、配偶者短期居住権では建物の使用のみが認められていることから、転借人との関係についても特段の定めはない。 したがって、配偶者が建物所有者の承諾を得て第三者に居住建物を使用させていた場合でも、配偶者短期居住権が消滅すれば、第三者が建物を使用する権利も当然に消滅するということになる(当然だが、建物所有者と第三者との間で直接、建物使用契約が締結されている場合は別である)。 このように、配偶者短期居住権は、あくまでも共同相続人や遺贈を受けた者などとの関係で配偶者を保護する権利である。   7 他の権利との比較 配偶者短期居住権についての規定は、使用貸借・賃貸借・配偶者居住権(長期)の条文が多数引用されているが、全体としては使用借権に近いものということができる。 すなわち、上述の通り配偶者短期居住権は建物の使用(従前、建物の一部のみを使用していた場合は一部についてのみ)のみを認める権利であり、対抗要件制度は存在せず、存続期間は遺産分割の終了6ヶ月後まであるいは建物所有者による配偶者短期居住権消滅の申入の6ヶ月後までという短期間に限られ、転借人の保護規定も存在しない。 こうした点は、賃借権や配偶者居住権(長期)とは異なり、賃借権や配偶者居住権(長期)と比較すると相当に弱い権利であって、使用借権に近い。   8 配偶者短期居住権の財産的評価 配偶者居住権(長期)においては、その財産的評価が重要なものとなるが、配偶者短期居住権は、配偶者が短期間に限って建物を使用することのみ可能な権利であることから、相続分の算定においても財産的評価の対象とはならないと考えられる。 法制審議会においても、配偶者短期居住権の取得によって得た利益は具体的相続分に含めないものとすることが提案されていた(民法(相続関係)等の改正に関する中間試案1頁)。 (了)

#No. 273(掲載号)
#阪本 敬幸
2018/06/21

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-法務編- 【第2回】「株式及び株主の調査」

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -法務編-   弁護士法人ほくと総合法律事務所 弁護士 鈴木 裕也   ←(前回) | (次回)→   本連載では、法務デューデリジェンスにおいて弁護士が具体的に何をどう調査しているのかを、調査項目ごとに詳述している。今回はその第2章として、「株式及び株主」項目を取り上げる。   《第2章》 -株式及び株主- 【第2回】 「株式及び株主の調査」   はじめに 法務デューデリジェンスの調査項目として、「株式・株主」が含まれることが一般的である。 特に株式譲渡形式によるM&Aの場合、「株式の有効性」(譲渡対象株式が有効に発行され存続しているか)及び「譲渡対象株式の帰属」(売主が真に譲渡対象株式の株主であるか)は、M&A取引そのものの大前提となる。 そのうえ、この点については財務デューデリジェンスやビジネス・デューデリジェンスでも当然には調査対象とならないから、法務デューデリジェンスにおいてこれらを調査・確認しておく意義は一般にいって大きい。 また、副次的な目的として、「株主の属性」や「対象会社と株主との取引」を把握しておく、という点なども挙げられる。特に、株式の一部譲受けのように、M&A実行後も既存の株主が一部残る場合には、そこに例えばM&Aに反対し、M&A実行後も買主の経営に抵抗することが予想されるような問題株主が含まれていないか等の「株主の属性」を知ることが買主の関心事になる。 また、特に100%オーナーシップのような閉鎖的企業の場合には、会社と大株主との間に取引・便宜その他の特別な利害関係が存在していることが少なくない。 一般的には、このような利害関係はM&A実行時に整理・遮断すべきこととなるが、そうした利害関係の有無・内容を特定するために「対象会社と株主との取引」を調査の目的とすることもしばしばある。 ではそのために、具体的にはどのような調査手続を実施しているのだろうか。   1 精査対象資料 「株式及び株主」項目調査資料としては、〔共通編〕【第2回】に掲載した「資料依頼リスト」の「Ⅱ 株式及び株主」欄に掲記のようなものが挙げられる。   2 調査手続 (1) 株式の有効性及び帰属 まず、対象会社の定款、登記事項証明書及び株主名簿等により、現在の対象会社の発行済株式数及びその帰属を第一次的に把握する。 次に、対象会社が作成した「設立以来の新株発行及び株式譲渡等の一覧表」やインタビュー等により、対象会社の設立から現在の株式数及び帰属に至るまでの株式の発行(・消却等)及び株式譲渡等のイベントを網羅的に書き出す。そのうえで、特定された各イベントの法的有効性を客観証拠により裏付けられるかを、1つ1つ確認していく。これが一般的な調査手順である。 新株発行の無効は、6ヶ月(または1年)の提訴期間を経過した後は主張できなくなるので(会社法828条1項2号)、提訴期間を経過した新株発行について有効性を確認する必要は、相対的には低い(ただし、提訴期間経過後の新株発行についても、「新株発行の不存在」(会社法829条1号)という事態はあり得る)。 ただし、発行された新株が「誰に何株割当てられたか」は、新株発行自体の効力とは別途、問題となり得るから、この点は、割当てを決定した取締役会の議事録等で確認するのが望ましい。 株式譲渡の有効性については確認がさらに難しい。株式譲渡に会社の承認を要する、いわゆる譲渡制限会社であれば、譲渡承認決議の議事録と、これに沿った株主名簿の名義書換請求書等とがあれば、一般には、譲渡の裏付けとなると考えられる。また、譲渡制限がない会社の場合には、株主名簿の名義書換請求書等を裏付けとすることが考えられる。 これらの調査は、対象会社の社歴が浅く、株主数も少なく、過去の株式発行・株式譲渡等に関する資料が対象会社に適切に保管されているという場合には比較的容易である。しかし、そのような条件を満たさない会社に直面することも往々にしてある。 このような場合、対象会社が株券発行会社であれば、現在の株主は「株券の交付を受けた者は、(悪意・重過失がない限り)当該株券に係る株式についての権利を取得する」旨を定めた会社法131条2項に基づいて、有効に株式を取得したといえないかを検討したり、株券不発行会社であれば、株主権の時効取得(民法163条。ただし、株主権の時効取得が認められるかは争いがある)を検討したりして、できる限り権利関係を整理するように努める。 それでも完全には権利関係を確定できない場合には、買主としては、M&A取引実行後に株式の存在や帰属を争われるリスクがどの程度あるのか、弁護士等にも相談しながら、M&A取引を進めるか否かを判断することが求められる。 (2) 種類株式及び潜在株式の有効性、権利内容及び帰属 対象会社の定款及び登記事項証明書等により、種類株式及び潜在株式(新株予約権や新株予約権付社債等)の存否・株数ないし個数及び権利内容(場合により帰属も)を確認し、権利内容がM&A取引及び買収後の経営に影響しないかどうかを検討する。影響があると判断される場合には対応策を検討する。 (3) 株主の属性 対象会社の株主名簿等を参照しながらインタビューを実施すること等により、対象会社の株主の属性を調査する。どのような「属性」を問題にするかは、法務デューデリジェンス開始前に、買主と法務デューデリジェンス担当弁護士等との間で協議・確認しておくべきである。 ただし、株主の属性が問題になるのは、一般には、前述したとおり、M&A実行後も少数株主が残るケースに限られる。また、そのようなケースでも、少数株主の属性それ自体がディールブレイクの原因となったり、買収価格に直接影響を及ぼしたりすることは、通常は考えにくい。 したがって、調査に要する時間や法務デューデリジェンスに充てられるコスト等次第では、あえて調査対象にしないという判断もあり得る。 (4) 対象会社と株主との間の取引等 インタビュー等により、対象会社と株主との間の取引等の有無及び内容を調査する。ただし、法務デューデリジェンスでは資料及び調査手法に限界があるため、財務デューデリジェンスにより提供される情報を参照することも有効である。 現実には、対象会社と株主との間の取引について書面の契約がないことがままある。また、対象会社と株主との間でコンサルティング契約等を締結しているが、契約書の記載からは、株主がいかなる業務を受託しているのか明らかではないといったケースもみられる(実際には何らの業務も行っていないのに、コンサルティング料等の名目で金員が支払われているケースすら見受けられる)。 そのため、対象会社と株主との間の取引を把握した場合には、取引の重要性や実態について、対象会社に詳細な説明を求めることが望ましい。 調査の結果、対象会社が株主との間で経済合理性のない契約や実体のない契約を締結していた等の事実が判明した場合には、買収者は、それらの解約等をM&A実行の条件とすべきこととなる。場合によっては、M&A実行後、対象会社の旧経営陣に対して、善管注意義務(会社法330条、民法644条)違反を理由とする損害賠償(会社法423条)を請求するか否かを検討することもあり得る。 (5) 株主間契約 対象会社に対し(もしあれば)対象会社における株主間契約の提出を求め、その内容を精査する。 株主間契約の内容は個別の事情により様々であるが、例えば、他の株主の同意なくしては株式の譲渡が制限されるという旨の規定や、株主が株式譲渡を検討する際には、他の株主が望めば第三者ではなく他の株主に優先的に売却しなければならないとする規定が定められていることがある。 また、特定の株主総会決議事項について特定の株主に拒否権を付与する規定が定められていることもある。 株主間契約がある場合には、その規定によりM&A取引の実行が阻害されないか、取引を実行するにあたって株主間契約上いかなる手続を履践すべきか等を検討する必要がある。   (了)

#No. 273(掲載号)
#鈴木 裕也
2018/06/21

中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント 【第2回】「創業経営者にとってのライフプランの考え方」

中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第2回】 「創業経営者にとってのライフプランの考え方」   税理士法人トゥモローズ   1 ライフプランとは 「ライフプラン」という用語が法律等で確定的に意義づけられているわけではないが、一言で言うと人生設計だ。「どのような人生を送りたいのか?」それを考えることがライフプランを考えることでもある。 どんな職業に就きたいのか、どんな人といつ結婚したいのか、子供は何人欲しいのか、住むところはどこがいいのか、退職後にどんな生活を送りたいのかなど、自分に問いかけ、理想と現実に向き合ってその解を出していく、それが「ライフプランを構築する」ということである。 次に、ライフプランを実現するために、現実的に考えなくてならないのが「お金」についてである。ライフプランを狭義に捉えると人生の資金設計、すなわち「人生設計の中のお金に関する設計をすること」と定義づけることができる。 ライフプランの中で重要な資金設計は、①住宅資金設計、②教育資金設計、③老後資金設計の3つであるといわれている。 ① 住宅資金設計 住宅資金設計を考える上で、一番初めの意思決定は、住宅を購入するのか、借りるのかである。 住宅を購入する場合には、住宅ローンを組んで購入する場合が多いと考えられるが、その住宅を購入する上で、現在の収入に鑑みどの程度のローンが組めるのか、そのローンの返済計画などが住宅資金設計を考える上で重要となる。 借りる場合には、毎月、固定費として家賃が発生してくるため家計支出に占める家賃の割合等を考慮した上で、住む場所や間取り等を選ぶ必要があるだろう。   ② 教育資金設計 子供の教育費は、ライフプランを考える上で必ず考慮しなければならないほど、近年、重要度が増している。 子供を大学まで進学させた場合には、小学校から大学まですべて国公立だとしても約700万円、小学校から大学まですべて私立の場合には、約2,000万円の資金を要する。また、海外留学や医科歯科系の大学の場合には、それ以上に資金が必要となる。 子供により高度な教育を受けさせたい場合には、事前の資金設計が非常に重要となってくる。   ③ 老後資金設計 老後資金設計は、退職後の資金計画を立てることである。 主な収入としては、公的年金、個人年金、資産運用の果実などが考えられるが、現役時代の収入と比べると減少する場合がほとんどであろう。老後資金設計で一番難しい点は、終わり(すなわち、死亡時)を自分で選択できない点である。 したがって、最終的にどのくらいの資金が必要なのかも設計時には把握が困難である。人生100年時代が到来している現在、保守的な見積もりが求められるだろう。 上記の各資金設計を基にそれを数字化する、すなわち、資金設計表の作成である。会社で言うなら、中長期経営計画のようなものを個人で作成するイメージだ。 また、上記の資金設計は予測可能なものが中心であるが、不慮の事故、自然災害など予測不能な事態の備えもライフプランを構築する上で忘れてはならない。保険等を活用し、予測不能な事態にも対応できるようにしておく必要があろう。 ライフプランを考えることは、自身と家族の将来を守ることでもあるのだから。   2 創業経営者のライフプラン (1) 概要 創業経営者のライフプランは、サラリーマンのライフプランとは似て非なるものである。 サラリーマンの場合には給与が毎月入金され、将来の給与額も想定しやすく、退職時期も明らかになっていることが多い。すなわち、生涯のキャッシュインフローが把握しやすいため、ライフプランを立てやすいのである。 それに比べ創業経営者の場合には、給与の額も会社の資金繰りの影響により未払いとなったり、将来の給与も会社の状況により左右されるため、想定することが難しい。すなわち、生涯のキャッシュインフローの把握が難しい創業経営者のライフプランを構築するためには、会社の中長期経営計画の策定が必須となる。 経営者個人のライフプランと会社のライフプランは、表裏一体といえるだろう。 また、サラリーマンと創業経営者とでは、リスクの部分でも大きく異なる。サラリーマンの自宅等の保有財産が勤務先の経営状況によって手放さなければならない状況になることは考え難いが、創業経営者の個人財産は会社の状況により差し押さえされる等の事態に陥ることもあり得る。 すなわち、経営者自身が会社の借入金の個人保証をしているため、会社が倒産等した場合には、その返済のために個人財産も提供しなければならないのだ。 その一方、サラリーマンは、交際費や車両費などを会社の経費とすることが難しいが、経営者の場合には、ゴルフや飲食代などのうち事業関連のものは会社経費にでき、また、車両なども会社所有とすることもできる。また、役員社宅等を活用することも可能だ。 すなわち、サラリーマンと異なり、経営者の場合、家計の支出と会社の支出が混在することになり、会社経費として支出できる金額は増えるであろう。ただし、その分、資金設計の作成も煩雑になってしまう。 以上のことから、創業経営者のライフプランを考える上では、サラリーマンのように個人や家族だけのことを考えるのでは本末転倒であり、会社の経営計画と創業経営者個人のライフプランの両輪で進めていく必要があるのだ。 以下に、創業経営者のライフプランについて、ステージごとにその概要を確認したい。 (2) 創業前 最近では社会人経験なく学生時代から創業する若者も増えているが、一般的には創業する前にサラリーマンを経験することが多いだろう。将来、創業を考えている場合には、そのサラリーマン時代に、将来の資本金を用意する必要がある。 将来ビジネスをはじめるにあたりどのくらいの資本が必要なのか、そのためには日々どのくらいの貯蓄をすべきなのか等を考えながら、資金設計を考える必要があるだろう。 (3) 創業期 創業期は会社の資金繰りが安定しないこともあり、家計のキャッシュインフローも不安定だ。キャッシュアウトについては住宅関係、教育関係、通常の生活費とそれぞれのステージに応じた支出が必要となる。 この時期の創業経営者は、会社の資金繰り表と個人の資金設計表の2つを確認しながら短期的なライフプランを考え、資金がショートしないよう綿密に資金繰りを考える必要がある。 (4) 事業承継時 会社が成長期、安定期を迎えた頃に考える必要があるのが、事業承継だ。後継者が決まっている場合、外部に売却する場合、廃業する場合など様々な選択肢が想定できるが、親族内承継に限って考えると、税負担をなるべく軽くして後継者に自社株を承継する方法を策定するのが肝要だ。 この事業承継時に多額の税負担が発生すると、下記(5)のリタイア後の資金設計にも影響を及ぼす。 (5) リタイア後 創業経営者のリタイア後の主な収入は、公的年金、個人年金、資産運用の果実、そして、会社関係の収入であろう。会社関係の収入とは、非常勤役員報酬、配当金、分割払の退職金、事業用資産に創業経営者保有の資産がある場合の賃料、会社に対する貸付金の返済などが考えられる。 資金設計上、重要となるのは、日々の生活費、相続資金であろう。日々の生活費については、定年退職後のサラリーマンに比べ、経営者の場合には付き合い等が多く、交際費等が高額になることが想定される。人生のさまざまなシーンに関わるデータが収録されている『ライフプランデータ集(2018年版)』(株式会社エフピー教育出版 著)によると、引退後の経営者夫婦の1ヶ月当たりの生活費として、半数以上が月に50万円以上かかると答えている(同書P194)。 また、相続資金の対策も重要だ。相続資金とは、主に、相続税の納税資金と遺留分対策資金である。老後でキャッシュを使い切ってしまい相続人が相続税納税で困窮することがないように対策をする必要がある。 遺留分対策資金については、後継者である相続人が後継者以外の相続人から遺留分を請求されたとしても支払うことができるよう後継者に対し余分にキャッシュを遺しておくか、生命保険等を活用して代償財産の原資となるような施策が必要であろう。 (了)

#No. 273(掲載号)
#税理士法人トゥモローズ
2018/06/21

AIで士業は変わるか? 【第19回】「ITの進化・AIの活用と会計事務所業界」

AIで 士業は変わるか? 【第19回】 「ITの進化・AIの活用と会計事務所業界」   公認会計士・税理士 伊原 健人   最近、AIが話題となるケースが多く、人間に代わって迅速かつ正確な判断をしてくれるものとして期待されています。 テレビなどで最も目にするのは、車の自動運転でしょうか。AIがセンサーをもとに周囲の情報を収集・把握しながら、人間に代わって運転をしてくれるというものです。また、銀行の融資判断をAIが行ったり、会計監査における不正をAIが見抜く、というような見出しも見かけます。   1 ITの進化と会計事務所業界 これまでの会計事務所業界の仕事の内容や方法は、ITの進化とともに変化してきました。その昔は手で伝票を起こして手で集計していた作業が、パソコンの導入やソフト(システム)の開発によって、データさえあれば様々なものが自動的に集計され出来上がってくるようになりました。 この場合はデータの作成がポイントとなります。データを手で入力するのか、他のシステムなどから取り込むのか、データをいかに早く簡単に取得できるのかを考えることが大切です。データがあれば、消費税申告書などは会計ソフトが自動的に集計して作成してくれます。人の手は要りません。 会計データの入力という業務も、会計ソフトやシステム開発によって減少したものと思われます。   2 ITの進化とAIの活用 ただ、これらはITの進化であって、AIではありません。ITの進化なのか、AIの活用なのか、あまり区別せずに考えをめぐらせてしまいます(もしかすると、区別の必要はないのかもしれません)。 ITは今後も間違いなく進化を続け、業務の効率化がどんどん進み、会計事務所業界にとっては、人手不足を補ってくれるものになると思います。別の見方をすれば、会計事務所が行っている現行の業務自体は減っていってしまうとも言えます。 では、会計事務所業界では、AIはどのように活用されるのでしょうか。 例えば、売上システムデータや銀行データから自動的に仕訳データを起こし、決算書の作成や申告書の作成まで自動的にできるようにしていく、これはITの進化によるものです。データ連携やデータ集計の設定を詳細に行うことで、今後も間違いなく進んでいくことでしょう。 一方で、AIは知能ですから、状況を把握して自ら判断を行います。 例えば、クライアントから税務に関する質問がメールや電話で来たとします。このとき、ロボットがその質問を聞いて内容を把握し、「法人税基本通達の〇〇に取扱いが載っている」、または「国税庁のHPの〇〇に見解が載っている」など回答してくれるようになるというのは、そう遠くない将来に可能になるかもしれません。質問の内容が把握できれは,インターネット上にある情報を探し出してくれるのです。 すばらしいことではありますが、会計事務所は要らなくなってしまいます。会計事務所に質問する必要がなく、相談者が自分でAIに聞けばいいわけです。   3 過去の失敗・経験とAI 過去の失敗や経験から様々な判断をするような場合に、AIではどのように対応するのでしょうか。 この業界で仕事をしていると、失敗も含めた過去の経験が非常に役に立ちます。過去の経験を生かして、リスクを減らしながら業務をスムーズに行っていることが多いと思います。 もし、AIが過去の経験(過去データということになるのでしょうか)を記憶していて、それをもとにして即座に税務判断ができるようになると、それはもう人間と同じように考え判断しているわけで、完全に人に代わって仕事をしてくれるようになっています。 会計事務所では、ロボットを雇って作業をさせるだけになるということでしょうか。   4 AIの思考過程 ある事象に対してAIが何らかの回答を出した場合に、その回答に至る思考過程が不明ではないかという疑問が言われることがあります。状況を判断し、どのようにその回答に至ったのかをきちんと説明できないと、クライアントとの信頼関係をもとに業務を行っている会計事務所にとっては、大きな問題となります。 最適な回答を導き出しているとしても、どうしてそのように判断したのかが分からないと、その回答を信頼することができませんし、クライアントにそれを勧めることもできません。また、AIの出した回答を実行した場合に、それが結果的に上手くいかなかった場合の責任をどう考えるのかも難しい問題です。 会計事務所にとっては、AIがクライアントと直接やり取りをするというよりは、税理士のサポート役として上手く働いてくれるのかもしれません。   5 今後の会計事務所業界 正直なところ、AIがどこまで会計事務所の業務を行うようになるのか、筆者には想像がつきません。 ただ、インターネットや携帯電話・スマートフォンの出現によって、この20~30年の間にほぼすべての人の生活や働き方が大きく変わりました。劇的に変わったと言っても過言ではないと思います。それによって様々なことが効率化されてきました。 ITのさらなる進化とAIの活用によって、今後10年の間に働き方が再び大きく変わってくるように思われます。AIがどの程度活用されるのか、AIが現在の会計事務所の業務をどこまで代わりにやってくれるのかによって、会計事務所は大きく変貌していく可能性があります。 ただし、これは会計事務所業界だけの話ではなく、全ての業界に共通することのように思えます。 時代の流れはどんどん早くなっています(これを実感するとき、今後、世の中はどうなってしまうのか、という不安を感じることがありますが・・・)。今の時代は、世の中の流れに乗り遅れないように、頑張って着いていくことが大切なのかもしれません。 (了)

#No. 273(掲載号)
#伊原 健人
2018/06/21

プロフェッションジャーナル No.272が公開されました!~今週のお薦め記事~

2018年6月14日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.272を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2018/06/14

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第65回】「新聞報道からみる租税法(その2)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第65回】 「新聞報道からみる租税法(その2)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦   3 新聞報道と「知ること」―予測(予見)可能性―(承前) (2) 遡及立法と新聞報道 (ア) 事案の概要 次に、建物譲渡による損失について損益通算を廃止した租税法規の遡及適用は憲法84条のいう租税法律主義に反しないとした事例を確認しておこう。 この事件は、X(原告・被控訴人)が、所轄税務署長に対し、平成16年3月10日に住宅を譲渡したことにより長期譲渡所得の計算上生じた損失の金額を他の各種所得の金額から控除(損益通算)すべきであるとして、平成16年分所得税に係る更正の請求をしたところ、所轄税務署長から、同年4月1日施行の法律の改正により、同年1月1日以後に行われたXの住宅の譲渡についてはその損失の金額を損益通算できなくなったとして、更正すべき理由がない旨の通知処分を受けたため、Xが国Y(被告・控訴人)を相手取り、本件通知処分の取消しを求めた事案である。 なお、本件で争点となっている法改正は、平成16年3月26日に成立し、同月31日に公布され、同年4月1日から施行されたものであるところ、その施行前である同年1月1日から同年3月31日までの建物等の譲渡についても適用されるものであった。 (イ) 福岡地裁の判断 福岡地裁平成20年1月29日判決(判時2003号43頁)は、まず、租税法規の遡及適用について次のように原則を述べる。 このように、原則論を述べた上で、租税法規の遡及適用については例外が働く場合がある旨を指摘する。 このように、「法改正についての国民への周知状況等」を含めて総合判断し、「法的安定性又は予見可能性を害しない場合」には例外的に遡及適用が認められる余地があるとする。 ここでは、国民への周知、すなわち、予測(予見)可能性の有無がその判断に当たり重要視されていることが分かる。 そして、福岡地裁は、「本件改正は、平成16年1月1日以降の建物等の譲渡について損益通算を認めないとするものであるから、その予見可能性を基礎付ける事情は、平成15年12月31日以前に生じたものに限られる。」として、「国民が、同日以前に、本件改正について、個別的、具体的にどの程度の予見可能性を有していたかについて検討」する。 なお、与党が平成16年度税制改正大綱を取りまとめたのは、平成15年12月17日であり、その後の周知を次のように認定している。 ▼平成15年12月18日の報道について ▼同月22日の報道について ▼同月26日の報道について ▼同月30日の報道について そして、これらの事実をもって国民への周知について次のような判断を行っている。 そして、次のように述べ、結論としてXの請求を容認した。 このように、福岡地裁は各種新聞や雑誌に掲載された記事の内容のみならず、その掲載箇所や分量等についても細かく認定していることが分かる。 また、特に注目すべきは、雑誌E、F、Gが専門誌であり「これによる国民への周知はさほど期待できない」とする反面、「A新聞・・・は、これと異なり、一般国民の間に相当程度の流通量がある」として、同紙の記事掲載に着目している点であろう。 そうした一定の流通量があると認められるA新聞においても「いずれの記事も半ばの紙面に掲載された小さなものであって、これによって図られる国民への周知の程度には限界がある。」として、国民への周知が十分になされていたとはいえない、すなわち「予見可能性を害しないものであるということはできない」と結論付けているのである。 B、C、D新聞については上記以上の言及はないものの、これら3紙については、朝刊の12面あるいは13面に掲載されたのみであるとのことであるから、福岡地裁は、これらの新聞掲載をもってしても予見(予測)可能性が保たれていたとはいえないと考えているのであろう。 (なお、上記A新聞とは日本経済新聞のことである。B新聞ないしD新聞とは、朝日新聞、読売新聞及び毎日新聞を指している。また、専門誌であるEとは、財団法人大蔵財務協会発行の「税のしるべ」、Fは税務研究会発行の「週刊税務通信」、Gは株式会社住宅新報社発行の「住宅新報」のことである。) (ウ) 福岡高裁の判断 もっとも、控訴審福岡高裁平成20年10月21日判決(判時2035号20頁)においては、次のように示され、地裁判断が覆され納税者敗訴で確定している。 このように、原審判断は否定されてこそいるものの、新聞報道の有無を無視して判断が覆されているわけではないことに、ここでは着目しておきたい。 福岡高裁も、「我が国の主要な新聞紙上にその内容が掲載され」、「一部の新聞には、上記損益通算の廃止が平成16年1月1日から適用されることが報道されていた」とするように、新聞報道により予測(予見)可能性が担保されていたと判断しているのである。 地裁も高裁も新聞報道を参考にしていることに相違はないものの、「どの程度の新聞報道をもって国民への周知があったと解すべきか」、その捉え方が両裁判所の判断を分けたものと解される。 (続く)

#No. 272(掲載号)
#酒井 克彦
2018/06/14

中小企業の生産性向上のための設備投資に係る固定資産税の軽減特例 【第1回】「制度の仕組みと適用要件の確認」

中小企業の生産性向上のための 設備投資に係る固定資産税の軽減特例 【第1回】 「制度の仕組みと適用要件の確認」   辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健   本連載では、平成30年度税制改正により創設された中小企業に対する固定資産税の軽減措置について制度の内容や留意点を説明するとともに、既に措置されている軽減措置との違いについても言及する。今回は、制度の内容について解説する。   1 概要 中小事業者等が適用期間内に認定先端設備等導入計画に従って取得をした先端設備等に該当する機械装置等で一定のものに対して課する固定資産税の課税標準は、新たに固定資産税が課されることとなった年度から3年度分の固定資産税に限り、下記の算式により計算した額とされる。   2 趣旨 中小企業庁からの公表資料によれば、中小企業の業況は回復傾向にあるが、労働生産性は伸び悩んでおり、大企業との差も拡大傾向にある。また、中小企業が所有している設備は特に老朽化が進んでおり、生産性向上に向けた足枷となっている。 今回の改正は、このような前提のもと、少子高齢化や人手不足、働き方改革への対応等の厳しい事業環境を乗り越えるため、老朽化が進む設備を生産性の高い設備へと一新させ、事業者自身の労働生産性の飛躍的な向上を図ることが目的とされる。   3 対象者 対象者は、個人の場合は中小事業者、法人の場合は中小企業者とされ、両者を合わせて中小事業者等という。中小事業者とは、常時使用する従業員の数が1,000人以下の個人をいう。また、中小企業者とは、資本金(出資金)の額が1億円以下の法人のうち、次に掲げる法人以外の法人をいう(注)。 (注) 資本(出資)を有しない法人の場合、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人であれば中小企業者に該当する。   4 適用期間 本特例は、別に創設された生産性向上特別措置法(以下、生産性向上法という)においてその基礎となる事項が規定され、その適用期間は、同法施行日(平成30年6月6日)から平成33年3月31日までの期間とされ、この期間内に取得した一定の資産について適用が認められる。   5 対象設備 軽減措置の対象となる資産は、生産性向上法に規定する認定先端設備等導入計画(詳細は次回参照)に従って取得された先端設備等に該当する機械装置、工具、器具備品、建物附属設備(注)で下記に掲げる要件を満たすものとされる。なお、中古設備は本特例の適用を受けることはできない。 (注) 家屋と一体となって効用を果たすものを除く。   6 生産性向上法における認定 本特例の適用を受けるためには、生産性向上法における認定を受ける必要がある。生産性向上法は、我が国の産業の生産性を短期的に向上させるために必要な措置を講ずることを目的に創設された法律であり、平成30年5月23日に公布、6月6日より施行されている。 生産性向上法により、中小企業者が、市町村の認定を受けた導入計画に基づいて先端設備等を導入する際に支援措置を講ずることで、地域の自主性のもと、生産性向上のための設備投資が加速されることが期待されている。 そのため、まず、国が中小企業者の先端設備等(注)の導入の促進に関する指針(導入促進指針)を定め、次に、市町村が、導入促進指針に基づき、先端設備等の導入の促進に関する基本的な計画(導入促進基本計画)を作成し、国と協議して、その同意を求める。 その上で、同意を受けた導入促進基本計画に基づく先端設備等の導入をしようとする中小企業者は、その実施しようとする先端設備等導入に関する計画(先端設備等導入計画)を作成し、その導入する先端設備等の所在地を管轄する特定市町村(同意導入促進基本計画を作成した市町村)に提出し、認定を受けることになる。 (注) 従来の処理量に比して大量の情報の処理を可能とする技術その他の先端的な技術を活用した施設、設備、機器、装置又はプログラムであって、それを早急に導入することが中小企業者の生産性の向上に不可欠なものとして一定のものをいう。 *  *  * 次回は生産性向上法における先端設備等導入計画の記載から認定、税務申告までの手続の流れについて解説する。 (了)

#No. 272(掲載号)
#安積 健
2018/06/14
#