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改正相続法に対応した実務と留意点 【第4回】「遺産分割前の預貯金債権の払戻し制度に関する留意点」

改正相続法に対応した実務と留意点 【第4回】 「遺産分割前の預貯金債権の払戻し制度に関する留意点」   弁護士 阪本 敬幸   今回は、遺産分割前の預貯金債権の払戻し制度に関する留意点について解説する。   1 概要 最高裁平成28年12月19日決定により、預貯金債権が遺産分割の対象とされることとなったが、生活費・相続債務の弁済・葬儀費用等の支払のため、遺産分割前に預貯金債権を行使する必要性が認められる場合もある。 このため、今回の法改正において、遺産分割前の預貯金の払戻しを認める制度として、①裁判所の判断を経ずに預貯金の払戻しを認める制度(改正後民法909条の2)、②裁判所の判断(仮処分決定)の下で預貯金の仮払を認める制度(改正後家事事件手続法200条3項)という2つが設けられた。 いずれの制度も、2019年7月1日から施行される。   2 裁判所の判断を経ない払戻し制度について (1) 内容 改正後民法909条の2は、以下のように定める(下線筆者)。 また、上記「法務省令で定める額」は、平成30年11月21日公布の法務省令により150万円と定められた。 要するに、「預貯金債権額 × 1/3 × 相続分」(ただし上限150万円)については、共同相続人は銀行に対し単独で払戻しを請求でき、払戻しを受けた部分については、遺産の一部分割によりこれを取得したとみなされるということである。 (2) 留意点 ① 払戻しを求める預貯金の使途について制限がない 従前、預貯金債権は可分債権で当然分割とされていたが、多くの金融機関は、払戻しに相続人全員の同意を求めていた。ただし、葬儀や被相続人の債務の支払に必要な費用については、相続人全員の同意がなくても払戻しを認める場合があり、法制審議会においても、払戻しを認める場合の預貯金の使途を限定すべきか、という議論もあったところである。 しかし、上記改正後民法909条の2の条文を見れば明らかなように、預貯金の使途については何らの制限はない。括弧書きには「標準的な当面の必要性経費、平均的な葬式の費用の額」といった記載はあるが、これも預貯金の使途を定めるものではない。 したがって、金融機関としては、相続人から払戻しの請求があった場合、請求してきた相続人の相続分を確認して「預貯金債権額 × 1/3 × 相続分」(ただし上限150万円)を払い戻せば足りるのであり、他に預貯金の使途や葬儀費用の見積書などの提示を求める必要はない。 ② 仮払ではない 後述する裁判所の判断の下での仮払仮処分制度は、条文上「仮に取得」とされているが、改正後民法909条の2但書には「・・・当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。」とされており、仮払ではない。 また、預金の払戻しが一部分割による取得と「みなされる」ということは、後日、当該払戻しと矛盾する内容の遺言が発見されるようなことがあったとしても、既に行われた払戻しの効力には影響しないということになる。したがって、改正後民法909条の2に従った払戻しについては、金融機関に法的責任が生じることは考えにくい。 ただし、相続人間においては、改正後民法909条の2に基づく払戻しによって相続人間の公平が害される場合(例えば一部の相続人に特別受益があり、払戻しにより具体的相続分を超える金銭を取得したような場合)、最終的には公平な形での遺産分割がなされねばならないだろう(この場合、代償金の支払等が考えられる)。 ③ 払戻しの計算は、預貯金債権ごとに行われる 上記改正後民法909条の2は、「・・・遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1」とし、預貯金債権ごと(例えば、同一銀行に対し、普通預金口座2つ・定期預金口座1つがある場合、各預金口座ごと)に計算することを明らかにしている。 ④ 「上限150万円」は、相続人1名、金融機関1社あたりの額である 上記改正後民法909条の2は、各共同相続人(相続人1名)が払戻しを受けられる額について定めている。また同条項括弧書きに「・・・預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。」とされている通り、債務者ごと、すなわち金融機関1社あたり、150万円という上限があることになる。 (3) 具体例 以下の事例を考えてみる。 相続人は子4名。相続財産として、A銀行に普通預金600万円、定期預金300万円、B銀行に普通預金3,000万円、定期預金900万円がある。 この場合、相続人1名は、以下の通りの請求ができる。 上記B銀行のような場合、普通預金と定期預金にどのように割り付けて払い戻すかという問題がある。この点について、法制審議会の考えは示されていないが、相続人間の公平・簡便な処理を考えれば、預貯金債権額に按分して割り付けると考えるべきではなかろうか。 (4) 経過措置 民法の一部改正においては、原則として、法律の施行日前に開始した相続については改正前民法が適用されるが(改正法附則2条)、改正後民法909条の2については、施行日前に開始した相続に関し、施行日以後に預貯金債権が行使されるときにも適用される(改正法附則5条1項)。 すなわち、相続開始日がいつかにかかわらず、2019年7月1日以降に預貯金の払戻し請求が行われた場合、改正後民法909条の2の適用がある。   3 裁判所の判断の下での仮払制度について (1) 内容 改正後家事事件手続法200条3項は、以下のように定める(下線筆者)。 (2) 留意点 ① 預貯金の使途について制限がない 上記条文上、「相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情」といった事情が挙げられているが、使途について制限があるわけではない。 要は裁判所が、預貯金債権を行使する必要性ありと認めればよいのである。 ② 仮払である 上記条文上、「・・・遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる」とされており、仮払であることは明らかである。この点は前述の裁判所の判断を経ない払戻し制度と異なる。 裁判所の判断の下での仮払であるため、行使できる預貯金債権の額に上限はなく、預貯金債権の全部を取得させることも可能である。 したがって、後日、本案の調停・審判の中で、仮払とは無関係の判断がなされることもあり得る。 ③ 他の共同相続人の利益を害しないことが必要である 条文上、他の共同相続人の利益を害しないことが必要とされている。 どのような場合に、他の共同相続人の利益を害するといえるかという点については、今後の解釈によることになるだろうが、仮払仮処分の申立人の具体的相続分総額の範囲を超える場合、申立人の預貯金債権の具体的相続分の範囲を超える場合といった考えが示されている(追加試案の補足説明・13頁)。 ④ 本案となる調停・審判の係属が必要である 裁判所の判断の下での仮払であり、本案が継続していることが必要である。 (3) 経過措置 家事事件手続法の一部改正においては、民法の一部改正における改正法附則2条のような、法律の施行日以前に開始した相続についての定めはない。したがって、相続開始日がいつかにかかわらず、2019年7月1日以降は仮払仮処分を利用することができる。   (了)

#No. 312(掲載号)
#阪本 敬幸
2019/03/28

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例33】株式会社デサント「BSインベストメント株式会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」(2019.2.7)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例33】 株式会社デサント 「BSインベストメント株式会社による当社株券に対する 公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」 (2019.2.7)   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社デサント(以下「デサント」という)が平成31年2月7日に開示した「BSインベストメント株式会社による当社株券に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」である。 タイトルどおり、伊藤忠商事株式会社の完全子会社であるBSインベストメント株式会社(以下「伊藤忠商事株式会社」と「BSインベストメント株式会社」を合わせて「伊藤忠」という)によるデサント株式に対するTOB(公開買付け)へ反対の意見を表明している(伊藤忠は平成31年1月31日に「株式会社デサント株式(証券コード:8114)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」を開示)。 伊藤忠によるTOBの買付期間は平成31年3月14日までであり、本稿執筆時点(3月7日)では未だ結果は分からない。しかし、買付価格は開示前日の終値に49.65%のプレミアムを付した高い価格であり、かつ、買付予定数はデサントの発行済株式総数の9.56%と少数であることから、成立は確実だと思われる(論末の【追記】参照)。 伊藤忠はデサント株式を30.44%所有しており、このTOBにより40%を所有することになる。過半数を所有することにはならないが、実質的にデサントを支配することが可能になる(デサントの開示によれば、同社の昨年の定時株主総会における議決権行使比率は87.35%)。確実に成立させることが可能で、かつ、費用対効果の高い、よく考えられたTOBであると言える。   2 伊藤忠のやりたい放題は可能か? デサントは、反対意見の理由として、以下の5つをあげている。 このうち、①から③では、専ら利益相反が問題とされている。伊藤忠の利益とデサントの利益が相反する、つまり、伊藤忠の利益が優先され、デサントの利益が犠牲にされる経営が行われるようになるというのである。 確かに、伊藤忠の議決権数が増え、影響力が増せば、利益相反の生じる可能性が高まるのは当然である。しかし、このTOB成立後、伊藤忠のやりたい放題は果たして可能になるのだろうか。おそらく無理だろう。 仮に、デサントの取締役が、伊藤忠が指名した者ですべて構成されたとしても、彼らはあくまでデサントのための経営を行わなければならない。そうでなければ、伊藤忠以外の60%の株主から責任を問われることになる。やりたい放題が可能なのは完全親会社だけである。伊藤忠はその点を十分自覚しているはずであり、これまで以上に利益相反に対して神経質になるだろう。 なお、デサントは、開示の最初で、「当社の株主の皆様には本公開買付けに応募されないようお願いする」としているが、①から③は、「このTOBが成立すると、株主の皆様は損をすることになりますよ」と言っているようなものであり、それでは逆に皆が応募したくなってしまうのではないだろうか(デサントの株主に留まらない方がいいと考えて)。「このTOBに応募すると、損をしますよ」といった理由を言えればよかったのだが。   3 不誠実なのはどちらか? ④は、伊藤忠のデサントに関する認識には誤りがあるというものである。伊藤忠とデサントを比べた場合、デサントに関する情報をより多く持っているのは、当然、伊藤忠ではなくデサント自身であり、こうした指摘はいくらでもできるだろう。 しかし、明らかに伊藤忠ではなくデサントの方が誤っている点がある。伊藤忠は、デサントの経営上の問題の1つとして、「コーポレート・ガバナンス体制の脆弱性」を指摘しているのだが、そう指摘する理由の1つとして、「対象者とその株主との間の建設的な対話の内容が第三者に漏洩した可能性がある点」をあげている。これは、おそらく、伊藤忠の代表とデサントの代表との間の対話の内容が週刊誌に漏洩したことだろうと思われる。 それに対して、デサントは、「コーポレート・ガバナンス体制との関連性が明らかでないばかりか、伊藤忠商事らの指摘はそもそも客観的な根拠のない憶測に基づく一方的な主張にすぎ」ないと反論しているのだが、こうした反論しかできないことから、デサントの代表が意図的に対話の内容を録音し、週刊誌に漏洩したと考えるのが筋であろう。対話の内容を録音し、週刊誌に漏洩したとしたら、上場会社の経営者としての資質が疑われる。そうした人物が代表を務めていることは、明らかにコーポレート・ガバナンス体制上の問題である。 なお、デサントは、「当社に対して何ら事前の連絡もないまま一方的に本公開買付けが開始された」と憤っているのだが、対話の内容を録音され、週刊誌に漏洩された伊藤忠からすれば、事前の連絡などできないだろう。伊藤忠は、その点について、「事前の協議を行った場合、情報漏洩等により対象者株式の市場株価の高騰及び市場の混乱を招き、また、本公開買付けに関する対象者株主の皆様の判断に多大なる影響を及ぼす可能性が危惧される」としている。   4 社外役員とはいえ 最後の⑤は、デサントから独立した社外取締役と社外監査役も、伊藤忠によるTOBに反対しているのだから、やはり反対意見は正しいはずであるというものである。しかし、その社外取締役と社外監査役が、本当にデサントから独立していて、外部からの客観的な視点で判断を行えているかどうかは分からない。 「社外」と言いながら、代表の意向どおりに動いてくれる、代表のお友達でしかないということは、よくある。本連載で取り上げた事例の中でも、そうしたことがあったはずである。⑤に記載された、社外取締役と社外監査役の反対意見は、①から④の内容をなぞったものである。 なお、そもそも社外監査役は、伊藤忠によるTOBに対して意見を述べるべき立場なのだろうか。   5 こうした事態を招いた責任は 伊藤忠の開示によると、デサントの現代表は同社の創業者の孫とのことである。同氏は、平成25年、伊藤忠出身の代表を追い出す形で代表に就任している。伊藤忠はデサントの2度の経営難を支援したこともあり、平成6年以降、伊藤忠出身者がデサントの代表を務めていた。また、平成20年以降、デサントは伊藤忠の関連会社となっている。 そうした中、デサントの現代表は、伊藤忠出身の代表を追い出す形で代表に就任したのである。その時点で、今回と同様の事態が生じてもおかしくなかったはずである。しかし、当時、伊藤忠は動かなかった。そのときの成功体験が今回の事態を招いてしまったのかもしれない。そして、今度は、代表間の対話の内容を週刊誌に漏らせば、相手は引くとでも思ったのだろうか。 伊藤忠とデサントでは、明らかに伊藤忠が強者、デサントが弱者である。強者と弱者が戦う場合、弱者には弱者なりの戦い方が求められるはずだが、今回のデサントの戦い方は正しかったのだろうか。反対の意見表明をすべきだったのだろうか。まともに戦えば負けることが確実な戦いにおいて、相手をいたずらに攻撃することは得策ではないのではないだろうか。 伊藤忠は、平成31年2月28日に「(訂正)公開買付届出書の訂正届出書の提出に伴う「株式会社デサント株式(証券コード:8114)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ「及び「公開買付開始公告」の訂正に関するお知らせ」を開示した。それによると、TOB開始後、伊藤忠とデサントの間で、TOB終了後のデサントの経営体制等に関する話合いが行われていたのだが、次のような理由から伊藤忠がそれを打ち切ったとのことである。 おそらくデサントの経営陣は刷新されることになるだろう。違う戦い方をしていれば、違う結果が待っていたかもしれないが。   【追 記】   予想どおりTOBは成立した(伊藤忠は平成31年3月15日に「株式会社デサント株式(証券コード:8114)に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」を、デサントは同月18日に「BSインベストメント株式会社による当社株券に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」を開示)。 そして、デサントは、平成31年3月25日、「代表取締役、取締役及び監査役の異動ならびに執行役員任命に関するお知らせ」を開示した。同社の経営陣は刷新されることになる。 伊藤忠の意向どおりになるわけだが、デサントの現経営陣による抵抗は同社のためになったのだろうか。こうした結果になるのは分かりきっていたのだから(もしかすると分かっていなかったのだろうか。抵抗すれば、どうにかなるとでも思っていたのだろうか)、同社のことを考え、いたずらに混乱を生じさせることのないよう、違う行動をとるべきではなかったのだろうか。 (了)

#No. 312(掲載号)
#鈴木 広樹
2019/03/28

《速報解説》会計士協会、「医療法人会計基準に関する実務上のQ&A」を公表~新たに導入された会計手法等に関する実務上の留意事項をまとめる~

《速報解説》 会計士協会、「医療法人会計基準に関する実務上のQ&A」を公表 ~新たに導入された会計手法等に関する実務上の留意事項をまとめる~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2019年3月19日(ホームページ掲載日は2019年3月26日)、日本公認会計士協会は、「医療法人会計基準に関する実務上のQ&A」(非営利法人委員会研究資料第7号)を公表した。 これは、「医療法人会計基準」(平成28年4月20日、厚生労働省令第95号)が厚生労働省から公表されたことを受け、同会計基準の適用に当たり新たに導入された会計手法等に関する実務上の留意事項をまとめたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 固定資産の減損会計 医療法人における固定資産の減損会計は企業会計と同一ではなく、その適用は以下のとおりであると考えられている(Q1)。 そのほか、減損処理の対象資産、時価の著しい下落などについて、非営利実務指針第38号を参照しつつ、取扱いを示している。 また、Q7では、固定資産の減損処理及び注記方法について、設例により説明している。 2 税効果会計 医療法人、特定医療法人は全所得に対して課税されるため、税効果会計適用の要否を検討する必要がある。また、社会医療法人において法人税法上の収益事業を実施している場合は、繰延税金資産又は繰延税金負債の計上の要否を検討する必要がある(Q8)。 次のことが記載されている。 そのほか、医療法人の法定実効税率の考え方が記載されている(Q9)。 3 純資産の会計処理 医療法人に特徴的な純資産の会計処理について、設例により解説している(Q10)。 (了)

#No. 311(掲載号)
#阿部 光成
2019/03/27

《速報解説》 ASBJ、「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」の改正案を公表~IFRS第16号「リース」等を修正項目として取り扱わないとする提案~

《速報解説》 ASBJ、「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」の改正案を公表 ~IFRS第16号「リース」等を修正項目として取り扱わないとする提案~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2019年3月25日、企業会計基準委員会は、「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告第18号の改正案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、在外子会社等において国際財務報告基準第16号「リース」(以下「IFRS 第16号「リース」」という)及び米国会計基準会計基準更新書第2016-02号「リース(Topic 842)」の取扱いを示すものである。 なお、わが国の会計基準におけるリース会計の取組みは、別途、審議を行っているとのことである。 意見募集期間は2019年5月27日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 実務対応報告第18号において、IFRS 第16号「リース」及びASU第2016-02 号「リース」を修正項目として取り扱わないとする提案である。 なお、「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第24号)では、当面の間、「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第18号)に準じて行うことができるものとする規定がある。   Ⅲ 適用時期等 実務対応報告第18号の改正案は、公表日以後適用する予定である。 (了)

#No. 311(掲載号)
#阿部 光成
2019/03/25

《速報解説》 経産省、『「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-』を改訂~役員報酬向けの株式交付信託に関する税務上の取扱いなど問合せの多い事項5問を追加~

 《速報解説》 経産省、『「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-』を改訂 ~役員報酬向けの株式交付信託に関する税務上の取扱いなど問合せの多い事項5問を追加~   税理士 中尾 隼大   経済産業省は、中長期の企業価値向上に対応する役員報酬プランの導入を促すため、『「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-』を作成・公表している。これは、企業の株式報酬・業績連動報酬の導入を可能とする環境整備を行い、企業の「稼ぐ力」向上につなげることを目標としているものである。 2016年の公表後も税制改正に合わせて見直しがなされてきたが、2019年3月8日、民間からの問合せに応える形で、主に以下3点についてQ&Aのさらなる改訂がなされた。   1 役員報酬向けの株式交付信託に関する税務上の取扱い(Q16等) 役員報酬向けの株式交付信託の取扱いが示され、役員に交付される株式が事前確定届出給与や業績連動給与又は退職給与の損金算入要件を満たす場合には、受益権確定日の属する事業年度において損金算入することができる旨が示された。 なお、この問では、信託協会が国税庁等と協議して取りまとめたQ&Aが信託協会のウェブサイト上に公表されている旨に触れている。   2 事前確定届出給与である株式報酬に相当する金銭報酬(ファントムストック)を非居住者役員に交付する場合の取扱い(Q18) 非居住者の役員では、日本の証券会社への口座開設が難しいことに触れ、業務執行役員全員に対し特定譲渡制限付株式、事後交付型リストリクテッド・ストックを交付しようとする場合、このような非居住者の業務執行役員については、居住者の業務執行役員に交付する株式の金銭を交付する制度を紹介している。 この非居住者役員に対する金銭報酬は業績連動給与(ファントム・ストック)に該当し、損金算入するためには業績連動給与の損金算入要件を満たす必要があるとされている。 なお、居住者役員に交付する株式については、事前確定届出給与の対象となるため、損金算入するためには、届出書の提出など事前確定届出給与の損金算入要件を満たす必要があるという留意点も示されている。   3 役員の病気や不祥事により業績連動給与の一部を支給しない場合の損金算入の取扱い(Q73) 病気や不祥事により勤務を行っていない期間がある場合においても、報酬を減額する算定方法をあらかじめ定めて開示していれば、損金算入が可能との認識が示された。 *  *  * 上記で概略に触れた問を中心に、計5問が追加された他、随所加筆修正が行われているが、その加筆修正箇所については見え消し版にて確認が可能である。 (了)

#No. 311(掲載号)
#中尾 隼大
2019/03/25

《速報解説》 金融庁、平成31年3月期以降の事業年度における有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項を公表~引当金、偶発債務等の会計上の見積り項目等について適切ではない事例を紹介~

《速報解説》 金融庁、平成31年3月期以降の事業年度における 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項を公表 ~引当金、偶発債務等の会計上の見積り項目等について適切ではない事例を紹介~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成31年3月19日、金融庁は次のものを公表した。 平成31年3月期以降の有価証券報告書の作成に当たっては、これらに記載されている事項に特に注意し、適切に作成する必要があると考えられる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項について 平成31年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項として、次のことを述べている。 1 新たに適用となる開示制度に係る留意すべき事項 「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(平成31年1月31日、内閣府令第3号)による改正に関する次のものである。 「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等の公表を踏まえた財務諸表等規則等の改正(「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(平成30年3月23日、内閣府令第7号))の適用に注意する。 2 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項 平成30年度の有価証券報告書レビューに関して、現在(平成31年3月19日時点)までの実施状況を踏まえ、複数の会社に共通して記載内容が不十分であると認められた事項に関し、記載に当たっての留意すべき事項について述べている(「別紙1」参照)。 記載内容が不十分であると認められた事項は、会計監査の対象となる財務諸表等に関わるものも含まれており、留意すべき事項については、有価証券報告書提出会社だけでなく、監査を実施する公認会計士又は監査法人においても、十分に留意いただきたいと記載されているので、改めて有価証券報告書の作成に際しては注意が必要である。 平成30年度有価証券報告書レビューでは、以下の重点テーマに着目して審査している。 本稿では、「審査結果」において確認された事例について、「適切ではない事例」として紹介する。 なお、「別紙1」では「留意すべき事項」として具体的な財務諸表等規則などの根拠規定が紹介されているので、実際に有価証券報告書を作成する際にお読みいただきたい。   Ⅲ 有価証券報告書レビューの実施について(平成31年度) 1 法令改正関係審査 平成31年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の提出会社を対象として、平成31年1月に施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」による改正、「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等の公表を踏まえた財務諸表等規則等の改正について、適切な記載がなされているかを審査する。 2 重点テーマ審査 平成31年度の有価証券報告書レビューについては、次のテーマに着目し、平成31年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の提出会社の中から審査対象会社を選定するとのことである。 有価証券報告書提出会社は、別添の「調査票」に回答することが求められているので、有価証券報告書の作成に際して注意が必要である。 財務局等からの質問状には、次の観点も反映していると述べられており、本3月期の有価証券報告書の作成に際しても、下記の観点を十分に考慮し、開示の要否を判断すべきものと解される。 (了)

#No. 311(掲載号)
#阿部 光成
2019/03/25

《速報解説》 MD&A等、財務情報以外の開示情報(記述情報)に係る原則が確定~投資家・アナリストによる望ましい記述情報の開示事例集も公表~

《速報解説》 MD&A等、財務情報以外の開示情報(記述情報)に係る原則が確定 ~投資家・アナリストによる望ましい記述情報の開示事例集も公表~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成31年3月19日、金融庁は、「記述情報の開示に関する原則」(以下「原則」という)を公表した。これにより、平成30年12月21日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(平成30年6月28日)の提言を受けたものであり、財務情報以外の開示情報である、いわゆる「記述情報」について、開示の考え方、望ましい開示の内容や取り組み方をまとめたものである。 原則とともに、「記述情報の開示の好事例集」と「『記述情報の開示に関する原則(案)』に対する主なパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」も公表されている。 なお、「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(平成31年1月31日、内閣府令第3号)も公布されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 原則の概要 原則などは、ルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実に向けた企業の取組みを促し、開示の充実を図ることを目的としている。 原則は、記述情報は、財務情報を補完し、投資家による適切な投資判断を可能とするものであり、その開示により、投資家と企業との建設的な対話が促進され、企業の経営の質を高めることができるとのことである。 記述情報の項目の中でも、投資家による適切な投資判断を可能とし、投資家と企業との深度ある建設的な対話につながる項目である、経営方針・経営戦略等、経営成績等の分析、リスク情報を中心に、有価証券報告書における開示の考え方などを整理している。 なお、原則は、企業情報の開示について、開示の考え方、望ましい開示の内容や取り組み方を示すものであり、新たな開示事項を加えるものではないとのことである。 1 経営方針・経営戦略等 2 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等 3 事業等のリスク 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A) 5 キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報 6 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定   Ⅲ 「記述情報の開示の好事例集」 「記述情報の開示の好事例集」は全体で79ページに及ぶものであり、投資家・アナリストによる望ましい開示に関する意見や実例を取りまとめたものである。 三井物産(株)、ソニー(株)、トヨタ自動車(株)などの開示例が記載されている。 なお、開示の好事例としての公表をもって、開示例の記載内容に誤りが含まれていないことを保証するものではないとのことである。 (了)

#No. 299(掲載号)
#阿部 光成
2019/03/22

プロフェッションジャーナル No.311が公開されました!~今週のお薦め記事~

2019年3月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.311を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2019/03/20

日本の企業税制 【第65回】「所有者不明土地問題解消に向けた法制・税制上の取組み」

日本の企業税制 【第65回】 「所有者不明土地問題解消に向けた法制・税制上の取組み」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   〇わが国が抱える所有者不明土地問題 わが国では、不動産登記簿等の公簿情報等を参照しても所有者が直ちに判明しない、または判明しても所有者に連絡がつかない土地、いわゆる「所有者不明土地」が、人口減少・高齢化の進展に伴う土地利用ニーズの低下や地方から都市等への人口移動を背景とした土地の所有意識の希薄化等を背景に、全国的に増加している。 この所有者不明土地問題については、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2017」において、長期間相続登記が未了の土地の解消を図るための方策等について、関係省庁が一体となって検討を行うこととされたことを契機に、検討が集中的に進められているところである。 (※) 本問題に関する昨年4月の状況については本連載【第54回】を参照されたい。 既に、昨年の通常国会に提出された、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法案(所有者不明土地法案)は、昨年6月6日に成立し、その一部は昨年11月15日に施行されている。 具体的には、①登記官が、所有権の登記名義人の死亡後長期間にわたり相続登記がされていない土地について、亡くなった方の法定相続人等を探索した上で、職権で、長期間相続登記未了である旨等を登記に付記し、法定相続人等に登記手続を直接促すなどの不動産登記法の特例、②地方公共団体の長等に財産管理人の選任申立権を付与する民法の特例、である。 また、本年6月1日からは、所有者不明土地法の残りの部分である所有者不明土地を円滑に利用するための仕組み(公共事業における収用手続の合理化・円滑化、地域福利増進事業の創設)も施行される。   〇これまでの税制上の対応 税制においても、相続登記の促進の観点や所有者不明土地法を踏まえた措置が、平成30年度改正、31年度改正と連続して講じられている。まず平成30年度税制改正では、相続登記の促進の観点から、次の2つの制度が創設された。 ▷平成30年度税制改正 (1) 相続登記が未了で数次相続が発生している土地の免税 個人が相続により土地の所有権を取得した場合において、その個人がその相続によるその土地の所有権の移転の登記を受ける前に死亡したときは、平成30年4月1日から平成33年(2021年)3月31日までの間にその個人をその土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については、登録免許税を課さない(措法84の2の3①)。 (2) 行政目的のため相続登記を推進する必要のある土地の免税 個人が、所有者不明土地法の施行の日(平成30年11月15日)から平成33年(2021年)3月31日までの間に、土地について相続による所有権の移転の登記を受ける場合において、その土地が相続による土地の所有権の移転の登記の促進を特に図る必要があるもの(法務大臣が告示により指定する(※))であり、かつ、その土地のその登記に係る登録免許税の課税標準たる不動産の価額が10万円以下であるときは、その土地の相続による所有権の移転の登記については、登録免許税を課さない(措法84の2の3②)。 (※) 法務大臣が指定する土地については、法務局・地方法務局のホームページに掲載されている。詳しくは「法務局・地方法務局のホームページ・連絡先等」を参照。 ▷平成31年度税制改正 次に、本年2月5日に改正法案が国会に提出された平成31年度税制改正では、所有者不明土地法の成立を踏まえ、所有者不明土地の公共目的での利用円滑化の観点から、次の2点が盛り込まれている。   〇さらなる制度整備 このように様々な措置が講じられつつあるが、政府は昨年6月に開催した第2回「所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議」において、「所有者不明土地等対策の推進に関する基本方針」を決定し、所有者不明土地問題について、2020年までに必要な制度改正を実現することを目指すこととした。 これを受けて、国土交通省の国土審議会土地利用分科会特別部会では、人口減少社会における土地に関する制度の在り方について検討を行い、本年2月にとりまとめを行ったところである。 とりまとめによると、土地についての基本理念を定めた土地基本法は、同法がバブル期の地価高騰における投機的取引を抑制すべく土地神話の打破、資産としての土地の有利性の縮減を目指して制定されたことから、地価が下落し、積極的な利用・取引が期待できない土地が増加しているという現状にマッチしていないため、新たな土地政策の基本理念を明らかにする必要があるとしている。 その上で、土地の利用・管理に関して所有者の負うべき責務やその担保方策について、近隣住民、地方自治体、国の役割分担も含め規定していくことが盛り込まれている。 一方、法務省の法制審議会総会において、本年2月、民法及び不動産登記法の改正について新たな諮問が行われた。 今回の諮問では、具体的には、まず所有者不明土地の発生予防の観点から、相続登記の申請を土地所有者に義務付けることや登記所が他の公的機関から死亡情報等を入手して不動産登記情報の更新を図ること、土地所有権の放棄を可能とすること、遺産分割に期間制限を設けることなどが挙げられている。また、所有者不明土地の利用の観点から、共有制度の見直し、不在者財産管理制度・相続財産管理制度の見直し、相隣関係の規定の見直し等が挙げられている。 国土交通省における土地基本法等の見直しと併せて、法務省の民法等の見直しについては、2020年の法案国会提出が見込まれている。 また、変則型登記(表題部所有者の氏名・住所が正常に記載されていない登記)の解消に関しても、本年2月に、「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律案」が国会へ提出されている。 (了)

#No. 311(掲載号)
#小畑 良晴
2019/03/20

谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第8回】「租税法律主義と実質主義との相克」-税法上の目的論的事実認定の過形成①-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第8回】 「租税法律主義と実質主義との相克」 -税法上の目的論的事実認定の過形成①-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 「租税法律主義と実質主義との相克」について、前回は、税法の目的論的解釈の過形成①として、課税減免制度濫用の法理を取り上げたが、今回は、税法上の目的論的事実認定の過形成①として、私法上の法律構成による否認論(【73】以下=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号。以下同じ)を取り上げることにする。 私法上の法律構成による否認論は、前回取り上げた外国税額控除余裕枠利用事件の下級審段階では課税減免規定の限定解釈による否認論と並んで課税庁側が主張したものであり、前回述べた租税法学会第32回総会(2003年10月19日・岡山大学)における「司法過程における租税回避否認の判断構造-外国税額控除余裕枠利用事件を主たる素材として-」と題する報告(租税法研究32号(2004年)53頁[拙著『租税回避論』(清文社・2014年)第1章第2節所収])では、まず後者を「租税回避と裁判官による法形成の限界」として、次に前者を「租税回避と裁判官による事実認定の限界」として、それぞれ検討したところである。 ただ、私法上の法律構成による否認論は事実認定による否認論あるいは契約解釈による否認論とも呼ばれるが、そのような考え方は、他の事件でも課税庁・国によって主張され、映画フィルムリース[パラツィーナ]事件・大阪高判平成12年1月18日訟月47巻12号3767頁、ガーンジー島法人所得税制事件・東京高判平成19年10月25日訟月54巻10号2419頁、住所国外移転[武富士]事件・東京高判平成20年1月23日訟月55巻2号244頁等では採用されたものと解される。これらのうち私法上の法律構成による否認論に関する代表的な判示としてしばしば引用・参照されるのが上記の大阪高判の次の判示である(下線筆者)。 以下では、私法上の法律構成による否認論について、その意義及び狙い・位置づけを述べた上で、同否認論の法創造機能についてその限界を検討することにしよう。   Ⅱ 私法上の法律構成による否認論の意義及び位置づけ 1 意義 私法上の法律構成による否認論は、論者によって、その内容や立論の前提が必ずしも同じでも明らかでもないように思われるが、その主唱者の一人である今村隆教授は次のように述べておられる(同『租税回避と濫用法理』(大蔵財務協会・2015年)57-58頁[初出・1999年]。下線筆者)。 もっとも、今村教授は同じ論文の後の箇所では次のようにも述べておられる(今村・前掲書100頁[初出・2000年]。下線筆者)。 筆者は特に今村教授の前記の2つ目の叙述に着目し、私法上の法律構成による否認論を、少なくとも租税回避事案に関しては、「租税回避目的」を、訴訟法・証拠法上、課税要件事実に係る真実の法律関係(主要事実)の認定における「重要な間接事実」として捉える考え方、と理解しているが(【73】)、その理由については、以下で同否認論の狙い・位置づけに関連づけて述べることにする。 2 狙い・位置づけ 私法上の法律構成による否認論は、課税要件事実の認定における主要事実の捉え方だけからすると、課税要件事実の認定基準とされる「実体」ないし「実質」を私法上の真実の法律関係とする法的実質主義(【57】)の単なる言い換えに過ぎず、特に問題のある考え方ではないようにも思われる。しかし、法的実質主義では、私法上の法律関係が真実であるということは、それが仮装でないということを意味するにとどまる(べきである)。 租税回避事案では、仮装行為(【62】)の場合とは異なり、租税回避目的に相応する真実の法律関係が形成される以上、租税回避目的を、その目的で形成された法律関係が仮装であること(法的実質主義によれば、真実でないこと)の重要な間接事実とすることはできない。したがって、私法上の法律構成による否認論を法的実質主義の単なる言い換えとみることはできないであろう。 にもかかわらず、租税回避目的を、当事者の選択した法形式が真実の法律関係と異なることの重要な間接事実とみるのであれば、その前提として次のような価値判断が先行しているように思われる。 それは、租税回避目的という経済的に不合理・不自然な目的をもって当事者が選択した法形式は、経験則によれば、取引通念上特段の事情のない限り選択したであろう法形式(通常の法形式)とは異なる法形式(異常な法形式)であるから、取引通念に照らし通常の法形式を想定して定められた課税要件への該当性の判断においては、反証のない限り、真実の法律関係に合致しないものとして無視し、通常の法形式に引き直すべきである、というような価値判断である(租税回避の意義については【66】、その否認については【69】参照)。これは、経験則を基点としてその名の下でなされる価値判断である。 上記のような価値判断を前提にすれば、当事者が租税回避目的をもってある法形式を選択した場合、その法形式が真実の法律関係と異なることが強く推認されるので、反証のない限り、その法形式とは異なる、課税要件法上想定されている通常の法形式を基準にして、課税の当否を判断すべきである、というような推論ルールが成立することになろう(【74】)。 私法上の法律構成による否認論は、そもそも、その狙いが上記のような推論ルールを裁判上のルールとして確立することにあり、したがって、課税要件事実の認定における裁判上の推論ルールとして位置づけられると考えられる。今村教授の次のような考え方(今村・前掲書98頁[初出・2000年]。下線筆者)は、このことを示すものと解される。   Ⅲ 私法上の法律構成による否認論の法創造機能の限界 以上で述べたような推論による結論は、租税回避の否認(【69】)と原則として同じ意味をもつ。ただし、それは、租税実体法(課税要件法)のレベルでの租税回避の否認とは異なる。 私法上の法律構成による否認論は、その狙いが租税回避事案における課税要件事実の認定(契約解釈あるいは契約の法的性質決定)に関する裁判上の推認ルールの確立にあることをも考慮すると、要件事実論の観点から実体法の解釈にアプローチし、「法の目的」等の総合的考慮に基づき実体法を、「立証責任の分配という視点」を踏まえた「裁判規範」として再構成する考え方を、租税回避事案における課税要件法の解釈の場面に応用しようとするものであると解される。 つまり、立証責任の分配を考慮して課税要件法を解釈し、その適用に関する裁判上のルールを確立するに当たって、税法の目的(特に租税負担の公平=租税正義の実現という租税立法一般の動機を重視するのであろう。前回Ⅲも参照)等の総合的考慮に基づき、租税回避の経済的不合理性や異常性、換言すれば、租税回避の不当性=不公平、の見地から、租税実体法(課税要件法)を訴訟法上再構成し、その中に前記のような裁判上の推論ルールとして租税回避の一般的否認規定(民法に関する要件事実論で説かれることがある「裁判規範としての民法」に相当するいわば「裁判規範としての一般的否認規定」)を創造しようとする考え方であると解されるのである。 そもそも、要件事実論は、修正法律要件分類説(司法研修所編『増補 民事訴訟における要件事実(第1巻)』(法曹会・1986年)10-11頁参照)の立場に立つにせよ、裁判規範としての民法説(伊藤滋夫『要件事実の基礎〔新版〕』(有斐閣・2015年)126-128頁・171頁以下参照)の立場に立つにせよ、程度の差はあれ、「法の目的」等の総合的考慮に基づき民事実体法の解釈を通じて主張立証責任の分配の観点から、民事実体法を裁判規範として再構成する機能を有するが(原田和徳「要件事実の機能-裁判官の視点から」伊藤滋夫=難波孝一編『民事要件事実講座(1)総論Ⅰ』(青林書院・2005年)83頁は、要件事実論を「立証責任の分配に合わせて、民法等の実体法の条文の書き直しをしようとする考え方」とする)、この機能を「要件事実論の法創造機能」と呼ぶとすれば、私法上の法律構成による否認論も、要件事実論の観点から課税要件法の解釈にアプローチする考え方である以上、法創造機能を有すると考えるところである(このような観点から私法上の法律構成による否認論を検討するものとして、拙稿「租税回避否認規定に係る要件事実論」伊藤滋夫=岩﨑政明編『租税訴訟における要件事実論の展開』(青林書院・2016年)276頁、283頁以下参照)。 要件事実論の法創造機能は、裁判規範の定立(創造)だけにとどまらず、その裁判規範が実体法に「投影」されて実体法を「創造」したのと同じ結果をもたらすと考えられる。このことは、私法上の法律構成による否認論についても妥当するが、果たして租税法律主義の下で許されるであろうか。 確かに、私法上の法律構成による否認論は裁判上の推論ルールであり、経済的実質主義(【42】【57】。第6回Ⅲ2参照)に基づき、課税要件法において明文の否認規定がない場合でも租税回避の否認を正面から肯定する考え方、とは異なる。 しかし、私法上の法律構成による否認論は、訴訟における主張・立証の過程で租税回避目的という経済的な動機・意図を重視することによって、結局のところ、経済的実質主義による場合と同じ結果に帰着することになると考えられる。換言すれば、明文の規定がある場合にしか租税回避の否認を許容すべきでないとする租税法律主義の要請(【72】)を、訴訟法・証拠法の観点から課税要件法の解釈を通じて訴訟の場面で、潜脱することになると考えられるのである。 このことは、私法上の法律構成による否認論の法創造機能の観点からみると、裁判上の推論ルールとしての「裁判規範としての一般的否認規定」を租税実体法(課税要件法)に「投影」させ、「実体法としての一般的否認規定」を創造したのと同じ結果になるとみることができよう。この結果は、明らかに、租税法律主義、とりわけ課税要件法定主義に抵触する。 したがって、私法上の法律構成による否認論の法創造機能は、租税法律主義の下では、認められないと考えられる。   Ⅳ おわりに 要件事実論は、前述のとおり、事実認定に関する裁判上の推論ルールを「法の目的」等の総合的考慮に基づき定立(創造)する考え方であることから、(第6回Ⅲ1で述べた経済的観察法・実質主義とは異なる意味で)一種の目的論的事実認定の要請とみることができる。したがって、私法上の法律構成による否認論も、税法上の目的論的事実認定を説く考え方とみることができるが、法創造機能の故に、租税法律主義との関係では税法上の目的論的事実認定の「過形成」としてその許容性が否定されるべきものである。 筆者は、以上で述べてきたとおり、私法上の法律構成による否認論の「否認論」の立場に立つものであるが、判例はどのような立場に立つのであろうか。この点については、次回に検討することにしたい。 (了)

#No. 311(掲載号)
#谷口 勢津夫
2019/03/20
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