日本の企業税制 【第59回】 「各府省庁の要望事項からみた「平成31年度税制改正」の課題」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 〇各府省庁からの税制改正要望事項の概況 8月末に、各府省庁からの平成31年度税制改正要望が出揃った。今回が「平成」最後の税制改正となる。 今回の要望項目数は、単純合計で、国税228項目、地方税230項目、重複排除ベースで、国税150項目、地方税157項目であった。なお、廃止・縮減項目数は国税・地方税ともに単純合計2項目、重複排除ベース1項目であった。 今回、廃止・縮減項目として挙げられたのは、国土交通省及び復興庁が挙げたもので、「特定被災区域内において都市計画事業に準ずる事業として行う一団地の津波防災拠点市街地形成施設の整備に関する事業のために土地等を譲渡した場合における所得の特別控除の廃止(所得税、法人税、個人住民税、法人住民税、事業税)」であった。 〇消費税率引上げに伴う需要平準化策 来年(2019年)10月1日に消費税率の引上げを控える中、6月15日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2018」(いわゆる骨太方針)では、消費税率の引上げに併せて需要変動の平準化について「万全を期す」こととされ、具体的には、①消費税率引上げ分の使い道の見直し、②軽減税率制度の実施、③駆け込み・反動減の平準化策、④耐久消費財(自動車、住宅など)対策が掲げられていた。 特に④については、「税率引上げ後の自動車や住宅などの購入支援について、需要変動を平準化するため、税制・予算による十分な対策を具体的に検討する」こととされている。 〇自動車車体課税 上記のように消費税率引上げに際しての需要平準化策として自動車に関する税制のあり方が検討課題となっているが、それにとどまらず、今回の税制改正は、自動車車体課税についてのヤマ場となる。 消費税率の10%引上げ時期の延期に伴い、「消費税率引上げ時期の変更に伴う税制上の措置」(平成28年8月2日、自由民主党・公明党)において、「自動車取得税の廃止時期並びに自動車税及び軽自動車税における環境性能割の導入時期をそれぞれ平成31年10月に延期する」こととされている。 これを前提に、平成29年度与党税制改正大綱で、自動車税及び軽自動車税のグリーン化特例(軽課)については、「平成26年度及び平成28年度与党税制改正大綱に沿って必要な検討を行い、平成31年度税制改正において具体的な結論を得る」とされ、また とされているからである。 こうしたことから、経済産業省の要望では、自動車税の引下げ(軽自動車税の負担水準を基準とした税率引下げ)、自動車重量税の当分の間税率の廃止、消費税率引上げによる需要変動を平準化するための措置、廃止までの自動車取得税及び自動車重量税のエコカー減税、自動車税及び軽自動車税のグリーン化特例の延長が掲げられている。 国土交通省の要望でも、平成29年度与党税制改正大綱等に沿って、簡素化、自動車ユーザーの負担の軽減、グリーン化等を図る観点からの見直しが盛り込まれている。 〇住宅税制 自動車と並んで、消費税率引上げに伴う需要平準化策の対象として挙げられているのが「住宅」である。 前回(2014年4月)の消費税率引上げ時にも、住宅ローン減税の拡充等の措置が講じられるとともに、住宅着工を下支えするため、省エネ住宅に関するポイント制度の実施等の対策が追加的に講じられたところである。 こうしたことから、国土交通省要望では、住宅取得者の負担の増加等を勘案しつつ、住宅の取得について、住宅ローン減税の拡充等の税制措置及び財政措置を含めた総合的かつ十分な対策を講ずるよう求めている。 〇中小企業税制 31年度改正では、中小企業税制の多くが期限切れを迎える。こうしたことから、経済産業省は「地域経済の活性化、中小企業・小規模事業者の生産性向上」の観点から、中小企業税制の延長・拡充を多数盛り込んでいる。 具体的には、中小企業投資促進税制や商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業者等の法人税率の特例、中小企業等の貸倒引当金の特例の延長、中小企業経営強化税制の拡充・延長、地域未来投資促進税制の拡充・延長である。 また、30年度改正で中小法人の事業承継税制の10年間の特例が設けられたが、平成30年度与党税制改正大綱で検討課題として残されていた個人事業者の事業承継について負担軽減措置の創設が盛り込まれている。 〇研究開発税制 法人税関係の租税特別措置では最大規模となる研究開発税制の上乗せ措置が来年3月末で期限切れを迎える。 経済産業省の要望では、研究開発税制に関しては、総額型(試験研究費総額に係る控除制度)について、税額控除の上限(現行25%)の引上げや、税額控除率の最大値(現行10%、2018年度末までの時限措置で14%)のさらなる引上げ、「オープンイノベーション型」については、ベンチャー企業や中小企業と共同研究を行った場合の税額控除率(現行:特別試験研究費の20%)の引上げを求めている。研究開発税制は経済産業省のみならず、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、環境省、防衛省も共同要望している。 研究開発税制と併せて、経済産業省の要望では、生産性革命の実現に向けたイノベーションの促進の観点から、ベンチャー企業の成長に必要な国内外の高度人材を確保するためのストックオプション税制の拡充、新設法人への繰越欠損金制度の拡充(100%控除できる期間を10年目まで延長)を求めている。 〇資産課税等 金融庁の要望では、家計の安定的な資産形成の実現の観点から、NISA制度(一般・ジュニア・つみたて)の恒久化、つみたてNISAの制度年限(2037年)の延長、NISA口座保有者の海外転勤等による一時的出国の場合の口座利用の継続、相続した株式の譲渡における相続税(株式分)の取扱いに関する見直し(売却期間の制限の撤廃)、前回紹介した教育資金一括贈与に係る贈与税の非課税措置の恒久化・拡充などが盛り込まれている。 この他、金融庁は、国際課税における過大支払利子税制について、BEPSの観点からの見直しを行うに際して、設備投資等の企業活動への影響を踏まえ金融機関からの借入れへの配慮を求めるとともに、収益のほとんどが受取配当金である金融持株会社への影響への配慮も求めている。この点、経済産業省の要望でも、企業に過度な負担を与えないような制度構築を求めている。 (了)
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第2回】 「租税法律主義と租税平等主義」 -税法上の「含み公平観」- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回述べたとおり、本連載は租税法律主義を基軸に据えて「税法の基礎理論」(実定税法の体系及び諸規定を支える基本原則)について検討するものであるが、税法の基本原則としては、通常、租税法律主義と並んで租税平等主義ないし租税公平主義が挙げられる。今回は、両者の関係について検討しておきたい。特に、両者の「衝突」あるいは「トレードオフ」が論じられることがあるが、それは何を意味するのかを明らかにしておきたい。 租税平等主義ないし租税公平主義は、租税の分野における平等原則(憲法14条1項)の現れであり、租税負担の公平を要請する憲法原則である。租税は、少なくとも個別の具体的給付に対する反対給付(対価)ではなく、法律に基づき一方的義務として課される金銭給付である(大嶋訴訟・最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁、旭川市国民健康保険条例事件・最大判平成18年3月1日民集60巻2号587頁参照)。それゆえ、租税負担が国民の間に公平に配分されない限り、納税・課税について真に国民の納得を得ることはできない。 「納得なくして同意なし」の理念ないし建前からすれば、租税負担の公平は、国民の同意に基づく課税を要請する租税法律主義の不可欠な前提条件である。そうであるが故に、租税法律主義は租税平等主義と両立するものでなければならない(【21】参照。なお、今回からは今月改訂・刊行された拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂)を参照する)。 Ⅱ 税法の制定の場面における租税法律主義と租税平等主義との関係 租税法律主義と租税平等主義との両立は、前記のような理念論ないし建前論の場面だけでなく、租税立法の場面でも要請される。租税平等主義に反する租税法律は違憲無効であり適用できないから、租税法律主義と租税平等主義との「衝突」は憲法のレベルで解消・回避される。つまり、租税立法の場面では、租税法律主義は、租税平等主義と両立し、租税法律の「内容」に関して、租税平等主義に適合する租税法律に基づく課税を要請する憲法原則(実質的租税法律主義)である(第1回のⅢ2参照)。 上で述べたことを租税平等主義の側からいえば、租税負担の公平は租税法律を通じて実現されなければならず、租税法律を離れて実現されてはならない、ということができよう。このような公平観は、租税負担の公平は租税法律に含まれているという意味で、「含み公平観」と呼ぶことができよう(【21】参照)。 含み公平観によれば、租税負担の公平の実現は、租税平等主義が租税立法者に命ずる目的論的価値判断であり、したがって、個々の租税法規が取り扱う問題の内容・態様等に応じて、各租税法規の趣旨・目的の中で考慮されるべきものである。 Ⅲ 税法の解釈の場面における租税法律主義と租税平等主義との関係 1 文理解釈による「含み公平」の実現 租税法律主義と租税平等主義との両立は、税法の解釈の場面でも要請される。税法の解釈については、「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではな[い]」(ホステス報酬源泉徴収事件・最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁)として、文理解釈を基本とする解釈方法が一般に支持されているが、租税法規の文言がその趣旨・目的を適切に表現している場合には、文理解釈の結果、租税法律主義と租税平等主義とは両立する。この場合には、あたかも含み益(未実現のキャピタル・ゲイン)が資産の譲渡によって実現するかの如く、含み公平観にいう「含み公平」が租税法規の文理解釈によって実現するといってもよかろう。 しかし、租税法規の文言がその趣旨・目的を常に適切に表現しているとは限らない。人が「思い」をすべて過不足なく「言葉」で表現し尽くすことは極めて困難であり両者の間に不一致・ズレが生ずることがある(このようなことを考えるとき、若い頃のラヴ・レターに関する甘くほろ苦い想い出が蘇るところである)のと同様、租税法規について文言と趣旨・目的との不一致・ズレすなわち欠缺(けんけつ)が生ずることがあり得るのである(趣旨・目的の要件化の困難性)。 租税法規に欠缺がある場合、租税負担の公平を実現しようとする租税立法者の目的論的価値判断(を内容とする当該租税法規の趣旨・目的)は、当該租税法規の文言に適切には反映されていないことから、当該租税法規の文理解釈によっては「含み公平」は実現されないことになる。すなわち、当該租税法規の「含み公平」はいわば「未実現」のままになっているのである。 実現主義を採用する所得課税法において含み益(未実現のキャピタル・ゲイン)に課税するには、例えば所得税法59条1項のような明文の規定(別段の定め)が必要であると一般に考えられているが(【182】~【184】参照)、これと同様の考え方は、基本的には、含み公平観についても妥当する。租税法規の「含み公平」が文理解釈によって実現するようにするためには、租税立法者は当該「含み公平」を文言により適切に表現した明文の規定(当該租税法規に対する別段の定め)を定め、その規定の文理解釈によって当該「含み公平」が実現するようにしなければならない。このような立法的対応によって初めて、租税法律主義と租税平等主義との両立が、税法の解釈の場面において貫徹されることになる。 2 目的論的解釈の「過形成」による「含み公平」の実現の試み ところが、租税法規に欠缺がある場合、前記のような立法的対応によらずに法解釈の技法を駆使して当該租税法規の「含み公平」を実現させ、もって租税法律主義と租税平等主義との両立を(場合によっては無理矢理)貫徹させようとする試みがされることがある。 例えば、外国税額控除規定(法税69条)における外国法人税の「納付」という文言とその趣旨・目的との不一致・ズレが問題となった租税回避事案のうち、三井住友銀行事件では、大阪高判平成14年6月14日訟月49巻6号1843頁は、外国税額控除規定のような課税減免規定について「その趣旨・目的に合致しない場合を除外するとの解釈」(いわゆる課税減免規定の限定解釈)をとる余地を認め、また、りそな銀行事件では、最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁は、外国法人税の「納付」という文言の解釈に言及することなく、その趣旨・目的違反の行為を「外国税額控除制度を濫用するもの」として外国税額控除規定の適用を否認した(その基礎にある考え方を筆者は課税減免規定の限定解釈と区別して「課税減免制度濫用の法理」と呼んでいる。【47】参照)。 これらのうち特に問題とすべきは後者である。課税減免規定の限定解釈は、租税法規の趣旨・目的の捉え方によっては、租税法律主義の下で許容される目的論的解釈の枠内にとどまるとみることもできる(【46】参照)。これに対して、課税減免制度濫用の法理は、そのような許容される目的論的解釈においては解釈の基準とされるべき租税法規の趣旨・目的を、それがあたかも法規範そのものであるかの如く用いる、租税法規の趣旨・目的の法規範化論ともいうべき考え方であり(【47】参照)、目的論的解釈の枠を逸脱し法創造(法の継続形成)の領域に踏み込むものといえよう(この点については回を改めて後日詳しく述べることにするが、差し当たり、拙稿「租税回避と税法の目的論的解釈の『過形成』」税経通信70巻14号(2015年)2頁参照)。 目的論的解釈の「過形成」ともいうべき、そのような法解釈の枠を逸脱した目的論的法創造によれば、確かに、当該租税法規の趣旨・目的から「含み公平」を取り出し実現させることはできるであろう。しかし、そのような法創造は、たとえ裁判官によるもの(司法的立法)であったとしても、「国民・・・・・・の総意を反映する租税立法」(前掲大嶋訴訟・最大判)でない以上、租税法律主義の要請を充たすものではない。 それゆえ、目的論的解釈の「過形成」による「含み公平」の実現の試みは、租税法律主義と抵触し、したがって、それでもって租税法律主義と租税平等主義との両立を図ることは許されない。そのような試みは、負担公平の原則の名の下で課税について明文の根拠規定の有無よりも公平を重視していたかつての経済的実質主義(【42】参照)への「先祖返り」と評価すべきものである。負担公平の原則は、含み公平観からの逸脱を許容する考え方であり、客観的な憲法原則としての租税平等主義(租税法律主義に従い租税法律によって実現される租税平等主義)とは「似て非なるもの」である(【21】参照)。 Ⅳ 税法の適用の場面における租税法律主義と租税平等主義との関係 租税法律主義と租税平等主義との両立は、税法の適用の場面でも要請される。この場面で一見すると両者が「衝突」するようにみえるのは、税務官庁が特定の納税者に対して租税法規に従った課税を行い、他の納税者に対しては一般に当該租税法規に反して有利な課税を行った場合である。この場合には、当該租税法規に従った課税の方が租税平等主義違反の故に違法とされ、当該租税法規に反する有利な課税が正当化されるが(スコッチライト事件・大阪高判昭和44年9月30日判時606号19頁参照)、このことは租税法律主義と租税平等主義との衝突を意味するものではない。 この点については、租税法律主義は執行上の原則(合法性の原則)としては、執行上の原則としての租税平等主義に従い租税法規が平等に適用されることを前提として成り立つ考え方であり、したがって、租税法規の不平等な適用は合法性の原則の枠外にありその内在的例外であると考えられる。「租税法律主義の当然の帰結である課・徴税平等の原則」(前掲スコッチライト事件・大阪高判)の意味はこのように理解すべきであろう(【81】参照)。このように理解すれば、この原則は税法の適用の場面における含み公平観の現れとみることができよう。 Ⅴ まとめ 以上で税法の制定・解釈・適用の各場面における、租税法律主義と租税平等主義との関係を簡単に検討してきたが、両者の衝突は、結局のところ、租税法規に欠缺がある場合にみられ、その場合に目的論的解釈の「過形成」による「含み公平」の実現の試みによって惹起される法状態を意味すると考えられる。そのような試みの「動機」となる経済的実質主義的な思考は、税法の解釈の場面における租税法律主義の貫徹により、排除すべきである。この点については、回を改め別の機会に検討することにしよう。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第55回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) (5) 債務超過会社の組織再編成 ① 基本的な取扱い 実務上、100%子会社が債務超過である場合には、当該子会社を被合併法人とする吸収合併(救済合併)を検討することは少なくない。平成22年度税制改正前には、このような救済合併を行った場合には、合併法人から被合併法人に対する実質的な債権放棄があったものとして取り扱うべきであるという意見があった。 しかし、条文上、債務超過会社を被合併法人とする適格合併を行った場合における税務上の仕訳は、以下の通りであり、寄附金として取り扱われる余地がないことが分かる。 この点については、拙稿「ケース別処理を確認 債務超過会社との無対価組織再編成の税務ポイント」旬刊経理情報1213号52-56頁(平成21年)、「受贈益課税の議論をどう考えるか? 債務超過会社を被合併法人とする適格合併の論点整理」旬刊経理情報1229号49-53頁(平成21年)で指摘していた。 【合併法人における仕訳】 〈適格合併による資産及び負債の引継ぎ〉 〈抱き合わせ株式の消却〉 〈混合による消滅〉 さらに、被合併法人でも、条文上、資産及び負債を帳簿価額により引き継いだものとして課税所得の計算を行うことが規定されており、合併譲渡損益が発生しないことは明らかであった。 ② 武田昌輔教授の見解 これに対し、武田昌輔「100%子会社の合併と株式の消滅損」税経通信62巻3号237-238頁(平成18年)では、寄附金課税についての見解が示されていた。 本論文では、まず、合併法人が保有する被合併法人株式に対して合併法人株式の割当てをしたものとする当時の法人税法の規定について、「本来であれば割当てがあるのに特別な理由によって割当てをしなかったという場合に適用されることであって、割当てをすべきでない場合には、その適用がない」としていた。その結果、法人税法上、抱き合わせ株式消却損が生じるが、これは、法人税基本通達9-4-1、9-4-2の議論であると整理している。 しかし、会社法上、被合併法人又は合併法人が保有していた被合併法人株式に対して、合併対価資産を割り当てることが認められていない(会社法749①三)。そのため、合併法人が保有する被合併法人株式に対して、「割当てがあるのに特別な理由によって割当てをしなかった」ということは、現行会社法ではあり得ない。さらに、その後の平成22年度税制改正により、合併法人が被合併法人株式を有する場合に、当該被合併法人株式の譲渡損益が計上されないことが明確化になった。 そして、武田教授は、被合併法人の債務超過相当部分に対して寄附金として処理するかについても、法人税基本通達9-4-1及び9-4-2の問題であると述べられたが、前述のように、合併法人では債務超過相当部分に対する損金は生じない。すなわち、寄附金として認定したとしても、合併法人で課税所得が増えないという問題がある。 このように、武田教授の見解は、合併法人側における寄附金の問題ではなく、被合併法人における受贈益の問題であるにもかかわらず、寄附金の通達である法人税基本通達9-4-1及び9-4-2を使って説明しようとする点に問題があったと言える。これは、武田教授の論文の主たる論点が、合併法人における被合併法人株式消却損の問題であったことが原因であると思われる。 ③ その後の議論 その後も、合併法人において寄附金、被合併法人において受贈益を認識すべきであるとする見解が主張されるようになった(掛川雅仁「債務超過の組織再編成」T&AMaster 267号37頁(平成20年)、佐藤増彦ほか「債務超過会社の吸収合併と税務上の問題点」税理52巻13号161頁以下(平成21年)、原一郎「子会社等の整理集約化と共同持株会社の新設」税務事例研究107号11頁以下(平成21年)、廣川昭廣『M&A・組織再編の税務処理』108-111頁(大蔵財務協会、平成22年))。 武田教授の見解と異なるのは、武田教授が合併法人において株式消却損の損金算入を認めようとしたのに対し、これらの論考は、合併法人において法人税基本通達9-4-2により損金算入をすることができないという点を強く主張した点にある。 そのため、これらの論文では、その根拠として以下の2つが挙げられている。 ④ 子会社支援税制との比較 前述のように、合併法人において寄附金を認識し、被合併法人において受贈益を認識すべきであると主張する見解の多くは、子会社支援税制との比較を強く意識している。しかし、子会社支援税制は、親会社(債権者)において生じた損失について、寄附金として処理するのか、損金として処理するのかという問題にしかなり得ない。 すなわち、債権放棄又は債務引受を行った場合には、法人税基本通達9-4-1、9-4-2の要件を満たしたとしても、子会社(債務者)において受贈益は生じる。そのため、子会社支援税制を根拠としたとしても、法人税基本通達9-4-1、9-4-2の要件を満たせば、被合併法人において受贈益課税が生じないということにはならない。 さらに、合併法人において寄附金を認識すべきであるという考え方にも大きな問題がある。なぜなら、そもそも、合併法人において損金は生じないのであるから、損金の額に算入しないという寄附金の規定が問題にならないからである。 このように、法人税基本通達9-4-1、9-4-2は、合併法人において寄附金、被合併法人において受贈益を認識すべきかどうかを議論する際に、何ら根拠にならないということが言える。 ⑤ 組織再編税制が等価な経済取引を前提としているという点について 組織再編税制が等価な経済取引を前提としていることを理由として、被合併法人に受贈益を認識させることについても問題がある。なぜなら、不平等合併を行ったとしても、適格合併に該当する限り、被合併法人において何ら損益が生じないからである。 そのため、対等合併を行った場合に比べて、被合併法人の課税所得は変わらないことから、被合併法人の法人税を不当に減少することにはならない。また、法人税法22条や132条を根拠として、租税回避に対して否認を行う事例は、かなり極端な事例であることからも、「債務超過会社を被合併法人とする適格合併を行った」ということがトリガーになるのではなく、より悪質な背景がある場合に限って問題になるということが言える。 このように、合併法人において寄附金、被合併法人において受贈益を認識すべきとする見解には、それぞれ問題があり、実際に否認された事例も公表されていない。この議論は、平成17年改正前商法から会社法に移行する中で、合併法人が保有する被合併法人株式の処理に対する誤解があったことがきっかけであり、本稿校了段階ではほとんど議論されていない。 * * * 次回では、平成18年から平成21年までの間に公表されている実務家の見解について解説する予定である。 (了)
〔ケーススタディ〕 国際税務Q&A 【第6回】 「外国子会社への無形資産の移転」 弁護士 木村 浩之 [Q] 日本法人である当社は、現在、国内のみで研究開発を実施しています。 今般、海外に研究開発拠点を開設して知的財産の一部又は全部を海外に移転することを検討していますが、課税上の留意点について教えてください。 [A] 研究開発の成果物である知的財産がいずれに帰属するかによって将来の課税関係が異なることになります。 知的財産の移転には、知的財産そのものの譲渡のほか、研究開発機能の移転や共同開発による知的財産の共有などがあり得ますが、それぞれに課税関係を分析して検討することが重要です。 ・・・[解説]・・・ 1 はじめに 企業においては、どのような業種であるかを問わず、特許、ノウハウ、商標、ブランドといった知的財産(無形資産)が重要な財産として収益の柱となることも多いといえる。この点、海外にグループ会社を有する場合には、グループ内でいずれの会社が知的財産を保有するかによって、そこから生じる所得(超過収益力やロイヤルティ収入など)が帰属する国が異なり、それに伴って課税関係が異なることになる。 そこで、知的財産を保有する会社の所在地国において知的財産から生じる所得に適用される税制が有利とはいえない場合、その知的財産をより有利な税制が適用される国に所在するグループ会社に(一部又は全部)移転することが1つの戦略となり得る。その方法として、知的財産そのものの譲渡、研究開発機能の移転、共同開発による知的財産の共有などがあり得る。 2 知的財産の譲渡 知的財産を譲渡によって移転する場合、適切な対価の支払が必要となり、その譲渡益に対して課税がなされることから、その検討が必要である。すなわち、海外のグループ会社に資産を譲渡する場合には、移転価格の観点から適切な対価の設定をする必要がある。 この点、移転される知的財産がどのような価値を有するか、どのような対価が適切であるかという知的財産の評価には困難な問題を伴うことが多いと指摘されている。将来の予測される収益をもとに評価することが考えられるが、その場合、そのような収益予測が適正であることを説明するための文書化が重要であり、場合によっては事前確認制度を利用することが考えられる。 さらに、譲渡益に対しては、知的財産を譲渡する会社の所在地国で課税がなされることになる。この譲渡益に対する課税については、例えば、譲渡する会社に多額の累積欠損金がある場合には、その繰越控除を利用することが考えられる。 3 研究開発機能の移転 知的財産を譲渡によって移転するのではなく、研究開発機能を移転することで知的財産を移転することもあり得る。この場合、何らかの資産の移転が伴わない限り、機能の移転そのものは課税の対象にならないことが通常である。そして、いったん研究開発機能を移転した後、そこで新たに知的財産を開発することが考えられる。 各国では、国内での研究開発を促進するための優遇税制(研究開発費に対する特別の控除や知的財産から生じるロイヤルティ収入に対する特別税率など)が設けられていることも多い。そこで、研究開発やその成果物から生じる所得に有利な税制が適用される国を選定して機能を移転すれば、将来の税負担を軽減することが可能となる。 4 共同開発による共有 さらに、グループ会社間で共同開発契約を締結することによってグループ内で知的財産を共有することもあり得る。すなわち、新たな知的財産の開発に当たって、複数のグループ会社が共同で人的資源や資金を供給することで研究開発に係るリスクを共有し、その成果物も共有するというものである。 これにより、複数のグループ会社が知的財産を共有することになり、それぞれに知的財産から生じる所得の帰属が認められることになる。海外のグループ会社に適用される税制が有利なものであれば、やはり将来の税負担を軽減することが可能となる。 ただし、グループ間取引において、恣意的な内容の契約で海外のグループ会社に収益を移転することが認められるとすれば、容易にBEPSの問題が生じる。そこで、移転価格の観点から、適切に機能分析を実施した上で、共同開発研究といえるだけの実体ある取引であることが重要である。 例えば、海外のグループ法人が単に資金を供給するというのみでは十分ではなく、研究開発の内容をコントロールできるだけの機能(人員と権限)を有しており、実際にその機能が行使されていることが重要となる。 (了)
相続税の実務問答 【第27回】 「認知された子を除外して行った遺産分割協議」 税理士 梶野 研二 [答] 相続人である甲氏を除外して行ったお父様の遺産の分割協議は無効です。 したがって、相続税の申告期限においてお父様の遺産は未分割状態にあったこととなりますから、未分割を前提に相続税額を計算して申告をすべきでした。未分割であることを前提として計算した相続税額と期限内申告書に記載した相続税額に差異があるならば、相続税の修正申告又は更正の請求を行うことをお勧めします。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 死後認知 民法は、子、その直系卑属又はこれらの法定代理人は、認知の訴えを提起することができると定めています(民法787本文)。ただし、父親が死亡した場合には、当該訴えを起こすことができるのは、その死亡の日から3年を経過する日までとなります(民法787ただし書き)。 判決により認知された場合には、その子の出生の時に遡ってその効力が生じることとされています(民法784)ので、父親の死亡後に認知の判決があった場合には、認知された子は、死亡した父親の相続人になります。 2 相続人の一部を除外して行った遺産分割協議 ところで、遺産分割協議には、共同相続人及び包括受遺者(以下「共同相続人等」といいます)全員の参加が必要であり、一部の共同相続人等を除外して行われた遺産分割協議は無効となります。したがって、被相続人の死後に認知されたことにより相続人となった者がある場合には、認知後にその者を除外して行った遺産分割協議は無効な遺産分割協議となります。 いったん行われた遺産分割協議が無効である場合、遺産は分割がなされていない状態、つまり未分割の状態に置かれていることになり、あらためて遺産分割の手続きが執られない限り、遺産は引き続き未分割の状態、すなわち共同相続人等全員の共有の状態にあることになります。 3 無効な遺産分割協議結果に基づいて行われた相続税の申告 共同相続人等の一部を除外して行われた遺産分割協議は無効ですから、その無効な遺産分割協議の結果に従って行われた相続税の申告は適正な申告ではありません。 相続税の申告書の提出期限までに、あらためて共同相続人等全員による遺産分割協議が行われるなど有効な遺産分割が調わない限り、相続財産は未分割の状態にありますから、相続税法第55条の規定により、共同相続人等がそれぞれ民法の規定(ただし、民法第904条の2(寄与分)の規定を除きます)による相続分又は包括遺贈の割合に従って被相続人の財産を取得したものとして相続税の課税価格を計算することとなります。 遺産が未分割の状態にあるにもかかわらず、無効な遺産分割協議結果に基づいて相続税の申告が行われており、当該無効な遺産分割協議結果に基づいて行われた相続税の申告に係る相続税の課税価格及び相続税額と相続税法第55条の規定により計算した相続税の課税価格及び相続税額が異なる場合には、相続税の修正申告又は国税通則法第23条第1項の規定による更正の請求を行うこととなります。 4 その後、あらためて遺産分割協議等がなされた場合 共同相続人等の一部を除外していたために当初の遺産分割協議が無効であったことから、あらためて遺産分割協議や遺産分割の審判が行われ、各共同相続人等の取得する財産が確定した場合には、その分割の状況に応じて相続税の課税価格を計算し、相続税額を算定することができます。その結果、相続税額が減少することとなる者は、相続税法第32条第1項第1号の規定により、更正の請求を行うことができます。 ただし、同号に規定する更正の請求事由は、「第55条の規定により分割されていない財産について民法(第904条の2(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って課税価格が計算されていた場合」を前提としていることから、無効な遺産分割協議結果に基づいた申告がされたままの状態では、同号に規定する更正の請求をすることはできません。 将来、適正な遺産分割に基づき、相続税額の是正を行おうとする場合には、上記3の手続きにのっとり、相続税法第55条の規定による課税価格の計算がなされた状態にしておくことが必要となります。 (参考)平成24年2月21日神戸地裁判決 5 ご質問の場合 死後認知を受けた甲氏は、あなた方のお父様の相続人となります。お父様の遺産の大半が、あなた方の母方のご実家に由来するものであり、これがあなた方のお母様とは血縁関係のない甲氏が取得することとなってしまうことに抵抗感があることは理解できますが、そうであっても、相続人である甲氏を除外して行ったお父様の遺産の分割協議は無効であり、その後、新たな遺産分割の手続きは執られていないということであれば、相続税の期限内申告書の提出の時点では、お父様の遺産は未分割の状態にあったといえます。 したがって、相続税の期限内申告においては、相続税法第55条の規定に従って相続税の課税価格及び相続税額を計算すべきであったといえ、同条の規定に従っていない申告は適正な申告ではありません。速やかに、相続税法第55条の規定に従って相続税の課税価格及び相続税額を計算し、期限内申告書に記載した課税価格及び相続税額に過不足がある場合には、修正申告書又は更正の請求書を提出すべきでしょう。 (注) 甲氏については、認知に関する裁判が確定したことを知った日から10ヶ月を経過する日が、相続税の申告書の提出期限となります(相法27、相基通27-4(4))。この時点で、相続人全員による遺産分割が完了していない場合には、甲氏も相続税法第55条の規定に従って相続税の申告を行うこととなります。 (了)
企業の[電子申告]実務Q&A 【第3回】 「義務化の適用開始時期」 -初めての電子申告時期の確認- SKJ総合税理士事務所 税理士 坂本 真一郎 ●○●○解説○●○● 電子申告の義務化は、「2020年4月1日以後開始する事業年度(課税期間)」から適用されることとなります。例えば、申告期限の延長の特例を受けていない3月決算法人の場合、電子申告の義務化の適用開始時期を図示すると、以下のとおりとなります。 【電子申告義務化の適用開始時期の例示・・・3月決算法人(期限延長なし)の場合】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 義務化対象法人は、その申告の種類に関係なく、対象事業年度(課税期間)開始の日が2020年4月1日以降であれば、電子申告を行う必要があります。 [法人税] ① 法人税確定申告については、2020年4月1日~2021年3月31日事業年度分(2021年5月31日申告期限分)から適用開始。 ② 法人税予定申告については、2020年4月1日~2020年9月30日事業年度分(2020年11月30日申告期限分)から適用開始。 ③ 例えば、3月31日から6月30日へ決算期変更した場合には、2020年4月1日~2020年6月30日事業年度分(2020年8月31日申告期限分)から適用開始。 [消費税] ④ 消費税確定申告については、2020年4月1日~2021年3月31日課税期間分(2021年5月31日申告期限分)から適用開始。 ⑤ 消費税中間申告(年11回)の場合には、1回目(2020年4月1日~2020年4月30日課税期間分)、2回目(2020年5月1日~2020年5月30日課税期間分)の期限となる2020年7月31日申告期限分から適用開始。 ⑥ 例えば、3月31日から6月30日へ決算期変更した場合には、2020年4月1日~2020年6月30日課税期間分(2020年8月31日申告期限分)から適用開始。 ⑦ 期間特例(1ヶ月)の場合には、2020年4月1日~2020年4月30日課税期間分(2020年6月30日申告期限分)から適用開始。 適用開始時期の例示は以上のとおりですが、大企業の場合には消費税の納税額が大きく、毎月中間申告を行っているケースがほとんどですから、⑤のように、2020年7月末に「1回目の中間申告」と「2回目の中間申告」を併せて電子申告するというタイミングが、義務化後初めての電子申告となる企業が多いと思います。 いずれにしても、確定、予定(中間)、修正などの申告区分にかかわらず、その対象事業年度(課税期間)開始の日が2020年4月1日以降であれば、義務化対象法人は電子申告により申告書を提出する必要があります。 (了)
〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q10】 「比較雇用者給与等支給額に関する調整計算」 -(2)合併が行われた場合の調整計算- 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 [Q10] (再掲) 平成30年度の税制改正によって、組織再編を行った場合の比較雇用者給与等支給額に関する調整計算はどのように変更されたのでしょうか。 [A10] (再掲) ◆新たに「基準日」という概念が設けられ、基準日から適用年度開始の日の前日までの期間が「調整対象年度」と定義されました。 ◆具体的な調整計算については大きな変更はありませんが、計算期間が「前年度」から「各調整対象年度」に変更されています。 【解説】 (2) 合併が行われた場合の調整計算 ① 適用年度において合併が行われた場合 適用年度に合併が行われた場合、合併日の属する月以後、被合併法人から引き継いだ国内雇用者に対する給与等支給額が加味され、雇用者給与等支給額が大きく増加することとなる。 このとき、合併法人の比較雇用者給与等支給額については、調整対象年度(後述)ごとに、被合併法人の各調整対象年度に係る給与等支給額のうち合併日の属する月から適用年度末までの月数に対応する金額を加算調整した金額に基づき計算することとされた。これにより適切な大小比較を可能とする(下図参照)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 比較雇用者給与等支給額の調整 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑦一)。 (※1) 調整対象年度 ・基準日から適用年度開始の日の前日までの期間内の日を含む各事業年度をいう。 ・当該合併法人が「未経過法人」(当該適用年度開始の日においてその設立の日の翌日以後1年(当該適用年度が1年に満たない場合には、当該適用年度の期間)を経過していない法人)に該当する場合には、基準日から当該合併法人の設立の日の前日までの期間を当該合併法人の事業年度とみなした場合における当該事業年度を含む。 (※2) 月別給与等支給額 ・その合併に係る被合併法人の各事業年度に係る給与等支給額をそれぞれ当該各事業年度等の月数で除して計算した金額を当該各事業年度等に含まれる月に係るものとみなしたものをいう(措令27の12の5⑧)。 ・いわば「月平均額」を各月の支給額とみなすものであり、月ごとの支給額の変動を平準化する意味がある。 計算上の留意点 かかる調整計算は調整対象年度ごとに行うこととされており、その結果が直ちに「比較雇用者給与等支給額」になるわけではない。通常の場合には、基準日と前事業年度の開始日が一致するため、調整対象年度と前事業年度は一致するが、当該合併法人が「未経過法人」に該当する場合には異なることとなる。 この場合には、各調整対象年度のうち「前事業年度」に該当する事業年度に係る調整後の給与等支給額が比較雇用者給与等支給額の基礎となる点に留意が必要である。 あわせて、各調整対象年度のうち前事業年度に該当する事業年度の月数が適用年度の月数と異なる場合には、「月数補正」が必要になる点にも合わせて留意されたい(【Q3】参照)。 ② 基準日から適用年度開始の日の前日までの期間に合併が行われた場合 基準日から適用年度開始の日の前日までの期間に合併が行われた場合の比較雇用者給与等支給額については、合併法人の調整対象年度ごとに、被合併法人の各調整対象年度に係る給与等支給額を加算調整することで、適切な大小比較を可能とする(下図参照)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 比較雇用者給与等支給額の調整 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑦二)。 (了)
特別事業再編(自社株対価M&A)に係る 課税繰延措置等特例制度の解説 【第4回】 (最終回) 「具体例及び認定手続」 太陽グラントソントン税理士法人 マネジャー 税理士 川瀬 裕太 1 具体例 ▷対象会社Bの株主側の処理 ▷認定事業者A側の処理 2 特別事業再編計画の認定手続 ① 認定申請について 特別事業再編計画の認定(【第2回】参照)を受けるには、「特別事業再編計画の認定申請書」を作成・提出する必要がある(認定申請書の様式は経済産業省ホームページからWordデータ等にて取得可能)。 なお、計画の申請を予定している場合には、要件に合致しているかどうかの確認を含め、事業を所管している省庁に事前相談することが必要と思われる。 申請書には主に次の事項を記載する(申請書様式には詳細な記載要領が示されているため、作成に当たってはそちらを参照されたい)。本稿執筆現在、特別事業再編計画の認定申請書の記入例は公表されていない。 計画認定の申請窓口は、計画に関する事業を所管する省庁となり、複数の省庁にまたがった事業を行う場合は複数省庁による共同認定となるケースもある(問い合わせ先は経済産業省ホームページを参照)。 申請を行ってから認定を受けるまでの期間は、事前相談が約2ヶ月程度、計画の申請(審査開始)から認定までが1ヶ月以内の合計3ヶ月程度が⽬安とされている(事業再編Q&A)。 ② 認定後について 認定を受けた計画は、各認定省庁のホームページ等で原則として、ただちに公表されることになる。公表される資料は申請書に記載された計画部分と措置の内容となるが、企業の事実上の機密に該当する部分については公表対象外とすることができるため、各認定省庁に相談する必要がある。 認定後は毎事業年度、所定の様式によって計画の実施状況を報告する必要がある。また、計画に変更が生じた場合には、その変更の程度により、計画変更の手続きが必要となる場合がある(事業再編Q&A)。 ③ 税務申告について 本連載で解説した譲渡利益額又は譲渡損失額の繰延べの適用は選択制ではないため、申告要件等は付されていない(財務省「平成30年度税制改正の解説」P536)。したがって、申告書作成時の手続きは、特段不要である。 (連載了)
税効果会計における 「繰延税金資産の回収可能性」の 基礎解説 【第8回】 「役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異の取扱い」 仰星監査法人 公認会計士 永井 智恵 1 はじめに 前回は、固定資産の減損損失に係る将来減算一時差異の取扱いについて、通常の将来減算一時差異とどのように異なるかを説明した。 今回は、役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異の取扱いについて説明する。 2 なぜ役員退職慰労引当金が将来減算一時差異となるのか 役員退職慰労引当金は、役員の将来における退職慰労金の支給に備えて設定される引当金である。役員に対する退職慰労金の支給は在任期間の報酬の後払いとしての性質を持ち、株主総会の承認決議を前提とすることから、当該決議前の時点において確定債務ではないものの、会計上は引当金の計上要件に照らして、以下の要件を満たす場合は各事業年度の負担相当額を役員退職慰労引当金として計上することになる。 まずは、なぜ役員退職慰労引当金が将来減算一時差異となるのかを、前回までのおさらいも兼ねて説明していきたい。 (1) 一時差異となる理由 会計上は役員退職慰労金の支給見積額のうち各事業年度までの負担相当額(決算日時点での要支給額)を引当金として計上するが、税務上は原則的に株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度に損金算入される(法人税基本通達9-2-28)ため、引当金の計上時点では損金算入が認められない。 【図1】 役員退職慰労引当金を計上した場合の会計上と税務上の取扱い このように、会計上と税務上で取扱いが異なるため、役員退職慰労引当金は一時差異となる。 (2) 将来減算一時差異となる理由 役員退職慰労引当金を計上すると、会計上と税務上とで次のように異なる。 【図2】 役員退職慰労引当金を計上した場合の会計上と税務上の差異 会計上は、内規等に基づき各事業年度における負担相当額を役員退職慰労引当金繰入額として費用計上する。 一方で、税務上は、前述のとおり引当金の計上時には損金算入が認められないため、会計上の役員退職慰労引当金は加算調整され、株主総会決議等により退職金の額が具体的に確定したときに認容減算することが原則となる。 このように、役員退職慰労引当金は、加算調整していることから税金の前払いをしているに他ならず、また言い換えれば、その分だけ将来事業年度において税額を軽減できることになるため、将来減算一時差異となる(将来減算一時差異についての詳細は連載【第1回】を参照されたい)。 3 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異の取扱い (1) 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異の取扱い 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異は、スケジューリングが行われている場合とそうでない場合により、繰延税金資産の回収可能性の取扱いが異なる。 【図3】 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異の取扱い 役員在任期間の実績、役員と会社との関係性、役員の退職に関する内規等に基づいて役員の退任時期を合理的に見込む方法等によりスケジューリングが行われている場合は、そのスケジューリングの結果に基づき繰延税金資産の回収可能性を判断する。 一方で、スケジューリングが行われていない場合には、役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異については、スケジューリング不能な将来減算一時差異として取り扱う。 ただし、分類2に該当する企業においては、スケジューリング不能な将来減算一時差異についての特別な定めがなされている。詳しくは以下の各分類における繰延税金資産の回収可能性の判断の項目で解説する。 (2) 役員退職慰労引当金に係る繰延税金資産の回収可能性の判断 役員退職慰労引当金に係る繰延税金資産の回収可能性の判断手順は、連載【第2回】で説明した手順と同じで、他の賞与引当金や未払事業税等の一時差異等と同様に解消見込年度のスケジューリングを行い、回収可能性を判断する。回収可能性の判断にあたっては、連載【第3回】及び【第4回】で説明した会社の分類に応じて取り扱うこととなる。 ① 分類1に該当する場合 〈繰延税金資産の回収可能性の判断指針〉 そのため、解消見込年度のスケジューリングができない役員退職慰労引当金に係る繰延税金資産も含め、すべての繰延税金資産に回収可能性があると判断する。 ② 分類2に該当する場合 〈繰延税金資産の回収可能性の判断指針〉 分類2に該当する会社では、将来において一時差異等加減算前課税所得を安定的に獲得する収益力があるといえるため、一時差異等のスケジューリングが正しく行われている限り、繰延税金資産の回収可能性は問題ないと判断される。 これが先に挙げた役員退職慰労引当金における特別な定めであり、役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異は、役員退職慰労金が支給される時期である税務上の損金算入時期が個別に特定できない場合でも、いずれかの時点では損金算入されるものであるから、企業がそれを合理的な根拠をもって説明する場合は、当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があると判断される。 具体的には、見積り時点において退職慰労金の支給対象となる役員の明確な退職時期は定まっていないものの、当該役員が将来のいずれかの時点で退職するときに、減算できる十分な課税所得が生じる蓋然性があることを会社が合理的に説明する場合は、回収可能性が認められると考えられる。 ③ 分類3に該当する場合 〈繰延税金資産の回収可能性の判断指針〉 そのため、解消見込年度のスケジューリングを行い、その上で、将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、繰延税金資産の回収可能性を判断する。 ④ 分類4に該当する場合 〈繰延税金資産の回収可能性の判断指針〉 そのため、解消見込年度のスケジューリングを行い、その上で、翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、繰延税金資産の回収可能性を判断する。 ⑤ 分類5に該当する場合 〈繰延税金資産の回収可能性の判断指針〉 そのため、原則として、役員退職慰労引当金に係る繰延税金資産も含め、すべての繰延税金資産に回収可能性がないと判断する。 (3) 解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異との関係 【第6回】で説明した従業員の退職給付引当金や建物の減価償却超過額等に係る一時差異、すなわち「解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異」については、企業が継続する限り、長期にわたるが将来解消され、将来の税金負担額を軽減する効果を有するため、厳密なスケジューリングでなくとも企業の分類に応じた回収可能性が認められるという例外的な取扱いがなされていた。 これに対して、役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異については、役員在任期間の実績や役員の退職に関する内規等に基づいて解消時期を合理的に見込むことが可能である。そのため、当該一時差異については、解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異とは異なる取扱いが定められている。 4 まとめ 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異の取扱いは、分類2に該当する企業において当該一時差異がスケジューリング不能である場合の取扱いがポイントとなるため、ぜひ見返していただきたい。 次回は、その他有価証券の評価差額に係る将来減算一時差異の取扱いについて説明する。 (了)
企業経営と メンタルアカウンティング ~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第6回】 「無意識のつじつま合わせ」 公認会計士 石王丸 香菜子 * * * 1 つじつまの合ったストーリーが好きなココロ あなたがダイエットを思い立って、減量効果があると話題の高価な健康茶を飲んでいるとしましょう。1ヶ月後、痩せたという結果が出たら、「健康茶の効果だ!」と思いますよね。 『高い健康茶を飲む』→『痩せる』というストーリーは、つじつまが合っていて、すんなり理解することができます。痩せた原因は、夏バテしていたとか、第1事業部長のように検査のために丸一日絶食したとか、思いつかないような別のことにあるかもしれないのですが、誰でも、つじつまの合うわかりやすいストーリーを無意識のうちに仕立ててしまうものです。 また、『痩せた』という良い結果が出たことで、『高い健康茶を飲む』というプロセスも正しかったと評価しがちです。良い結果が出ると、そこに至る前の意思決定も良かったと評価し、逆に悪い結果が出ると、そこに至る前の意思決定も悪かったと評価してしまいます。結果が判明した後に、その前段階の意思決定の質を客観的に評価することは、なかなかできないものです。 こうした傾向をと呼びます。 第1事業部長も、『営業方針が良かった』→『売上高の実績が予算を上回った』というつじつまの合ったわかりやすいストーリーを想定し、良い結果が出たことから営業方針が良かったと評価していますが、これは本当に正しいのでしょうか? 2 予算と実績のズレを分解すると、本当のストーリーが見えてくる 2タイプの水彩色鉛筆セットの予算売上高10,000,000円と実績売上高11,520,000円のズレ+1,520,000円を、原因別に分解して分析してみましょう。まず、デラックス・タイプについて分析してみます。 わかりやすいように、下図のように考えます。縦の辺を単価、横の辺を数量とします(各辺の内側を実績、外側を予定としています)。売上高=単価×数量なので、売上高は四角の面積で表されます。 なお、縦の辺は上に行くほど、横の辺は右に行くほど数が大きくなるわけではないということにも留意してみていきましょう。 予算と実績のズレ+124,000円は、2つの四角の面積の違いです。ここを原因別に分解します。 最初に、単価を原因とするズレと、数量を原因とするズレに分解します。 単価を原因とするズレ(「販売価格差異」)+384,000円と、数量を原因とするズレ(「販売数量差異」)△260,000円を相殺した結果が、+124,000円です。単価を上げたことは売上高増加に貢献した一方、販売数量が減り売上高減少の要因になっていることがわかります。 さらに、数量を原因とするズレについて、細かく分解します。 デラックス・タイプとシンプル・タイプは、同種製品です。消費者が両方を購入することはあまりないでしょうから、一方の販売割合が上がると、もう一方の販売割合は下がる関係にあります。こうした販売割合(セールス・ミックス)の変化が、売上高にどう影響を与えたか、分析してみます。 デラックス・タイプの実際の販売割合は40%でしたが、予定の販売割合50%を維持していたなら、12,000個×50%=6,000個を販売できたはずです。これを分析に取り込みます。 販売割合が変化したことによるズレ(「セールス・ミックス差異」)△1,560,000円と、2タイプ合計の総販売数量自体が変化したことによるズレ(「総販売数量差異」)+1,300,000円を相殺した結果が、△260,000円です。2タイプ合計の総販売数量が増加したことは売上高増加に貢献しましたが、デラックス・タイプは販売割合が予定よりも低かったため、売上高を押し下げてしまったことがわかります。 同様にシンプル・タイプも分析し、2つを並べてみます。全てのズレの累計が、売上高全体のズレ+1,520,000円となっています。 【デラックス・タイプ】 【シンプル・タイプ】 デラックス・タイプは、単価を上げた影響で販売割合が低下し、マイナスのセールス・ミックス差異が多額に生じています。2つのタイプのセールス・ミックス差異だけに注目すると、販売割合の変化が、△1,560,000+840,000=△720,000円、売上高に影響を与えたことがわかります。 このように、予算と実績のズレを細かく分解して分析することを、と呼びます。 予算と実績のズレを合計額でとらえるのではなく、原因別に分解して考えることで、役立つ情報を得ることができます。分析方法は1つではないので、目的に応じて工夫するとよいでしょう。 ◆◇◆今回のキーワード◆◇◆ ▷ 良い結果が出ると、そこに至るプロセスや意思決定も良かったと評価する傾向のこと。 ▷ 予算と実績のズレを分析すること。ズレが生じた原因別に細かく分解して考えると良い。 (了)