2017年11月9日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.243を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第58回】 「日本税理士会連合会の建議から租税法条文を読み解く(その1)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 日本税理士会連合会等は、毎年、税制改正に関する建議書を関係官庁へ提出している。 この建議書を契機として税制改正がなされることもあり得ると思われるところ、そうであるとすれば、租税法の条文解釈に当たって、かかる条文の制定や改正の経緯を知り得る有力な情報がそこに隠されているのかもしれない。 今回は、日本税理士会連合会等の行う「建議書」なるものの法的性質を明らかにした上で、かかる建議が税制改正に及ぼす影響について概観したい。 そして、その先にある租税法の解釈にいかなる示唆を得ることができるのかについて考えることとしよう。 Ⅰ 国民から政府への意見提出権 1 請願権 日本国憲法16条は次のとおり請願権を保障する。 このように、憲法は、何人も、すなわち国民が等しく請願権を有していることを保障している。 これを受けて、請願法(昭和22年法律第13号)が日本国憲法施行の日から施行されており(請願法附則)、請願については、基本的にこの請願法の定めるところによることとされている(請願法1)。 すなわち、請願書は、請願の事項を所管する官公署にこれを提出しなければならず、天皇に対する請願書は、内閣にこれを提出しなければならない(請願法3①)。 仮に、請願の事項を所管する官公署が明らかでないときは、請願書は、これを内閣に提出すればよく(請願法3②)、また、請願書が誤って本来提出すべき官公署以外の官公署に提出されたときには、その官公署は、請願者に正当な官公署を指示し、又は正当な官公署にその請願書を送付しなければならないとされている(請願法4)。 なお、官公署は、単に請願を受理するだけではなく、「これを受理し誠実に処理しなければならない」とされ(請願法5)、何人も、請願をしたためにいかなる差別待遇も受けないことが保障されているのである(憲法16、請願法6)。 2 嘆願書や請願書と応答義務 このように、請願法は、請願書を受理した官公署に対して、「誠実に処理」をすることを義務付けているのであるが、いわゆる「嘆願書」が提出された場合はどうであろうか。 更正の請求期間を経過した後などに、納税者から自己に有利に税額等を変更すべきことなどを求めて課税庁に対して提出されるものを、実務上「嘆願書」などと呼んでいるが、納税者から嘆願書が提出された場合、課税庁側に「応答義務」があるのであろうか。 仮に、かかる「嘆願書」が、憲法の保障する「請願書」に当たるとすれば、嘆願すなわち請願に対する応答義務があるとみるべきなのかとの疑問が生じ得る。 この点について、東京地裁平成24年7月20日判決(税資262号順号12008)が参考になろう。 本件は、原告である納税者が、国税通則法(以下「改正通則法」という)23条1項の更正の請求期間を経過した後に、有価証券の評価損の誤加算による過大申告を理由として「更正の嘆願」を行ったものの、これに応じた更正がされなかったことから、被告国に対し、所轄税務署長が減額更正処分を行うことの義務付けを求めるなどした事案である。 この事案において、被告国側は、「更正の嘆願は、税法上に規定があるものではなく、納税者の税務署長に対して要望ないし陳情を述べるものであり、嘆願は、税務署長の職権発動を促すにすぎないものと解され、かかる嘆願に基づき、税務署長において何らかの処分をすべき法令上の規定は存在しない。」と主張した。 これに対して、原告は、「更正の嘆願は、請願法1条にいう『請願』に該当するものと考えられるから、請願法5条に基づき、請願を受けた税務署長等には、請願を受理し誠実に処理する義務を生じる。」と反論した。 これら両当事者の主張に対し、東京地裁は次のように判示し、原告の主張を排斥している。 このように、東京地裁は、まず期間制限を伴う更生の請求の趣旨を論じた上で、原告主張に対し次のように述べる。 すなわち、東京地裁は、請願法は「誠実に処理しなければならない」としているものの、「応答義務」を課すことまでを規定しているものでないとの立場から、仮に、嘆願書が請願書に該当するとしても、そこに応答義務があるとはいえないとの判断を示したのである。 このような判断は、他にも新潟地裁平成18年2月23日判決(税資256号順号10326)及びその控訴審東京高裁平成18年7月31日判決(税資256号順号10486)においても示されている(最高裁平成18年12月22日第二小法廷決定(税資256号順号10607)は上告不受理)。 また、過去にも、「憲法16条及び請願法で認められる請願とは、国又は地方公共団体の機関に対し、その職務に関する事項について希望を述べるものにすぎず、請願を受けたものがそれに対して応答する義務を負うものではない」と示されてきたところである(東京地裁平成元年6月14日判決・税資175号1頁)。 このような裁判例をみると、裁判所は、請願書について、請願法に「誠実に処理しなければならない」と規定されてはいるものの、そのことをもって応答義務があるとまでは解し得ないとの立場にあるから、これらの判断を前提とすれば、嘆願書についてもその応答が義務付けられているものとは理解されていないことが判然とする。 すなわち、国等に応答義務がない以上、請願権は国民から政府等への「意見提出権」と位置付けられることになりそうである。 Ⅱ 税理士会等の建議権 ところで、税理士、弁護士、公認会計士及び弁理士等の職業専門家には国民一般に認められている上記の請願権とは別に、建議権というものが保障されている。すなわち、税理士には請願権に加えて、建議権なるものも重畳的に認められているのである。 では、この建議権とは如何なる権利をいうのであろうか。 大日本帝国憲法40条は、「両議院ハ法律又ハ其ノ他ノ事件ニ付各々其ノ意見ヲ政府ニ建議スルコトヲ得」と規定しており、明治憲法下では、議院がその意思又は希望を政府に申し述べることを建議としていたが、今日的に建議とは、議院に限らず、公的に意見を申し述べることを意味している。 税理士は、その職業上専門とする租税法分野について専門的知見を有していることから、その職業法たる税理士法に建議に関する規定が置かれているのである。 このような規定は、税理士法に限ったものではない。弁護士法なども確認しておこう。 これらはいずれも、職業専門家の団体に、その専門分野における専門家としての意見を官公署に対して建議し、又は官公署からの諮問に対して答申を行う権利を認めた規定である。 すなわち、職業専門家団体がその専門分野に関する法案の立案過程において、専門家としての意見を述べ、その所管官庁がこれら意見を尊重することにより国民の負託に応えていくことが期待されているのである。 (続く)
〈平成29年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第2回】 「『平成30年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』を受け取る際の留意点」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 平成29年度税制改正により配偶者控除制度及び配偶者特別控除制度の見直しが行われ、平成30年分の所得税(住民税は平成31年分)から適用される。 本改正に伴い、平成30年分の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(以下、扶養控除等申告書という)」の記載内容が変更されている。 平成30年分の扶養控除等申告書は、平成29年分の年末調整の時期に受け取ることが多いと考えられる。そこで【第2回】は、本改正の概要と、扶養控除等申告書の記載内容の変更点について解説を行う。 【1】 改正の概要 本改正のポイントは、次の3点である。 改正後の配偶者控除額と配偶者特別控除額は、以下のとおりとなる。 〈改正後の配偶者控除額及び配偶者特別控除額の一覧表〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (注) 合計所得金額が1,000万円を超える居住者は、配偶者控除及び配偶者特別控除の適用を受けることはできません。 (※) 国税庁ホームページより 【2】 平成30年分の扶養控除等申告書を受け取るときの留意点 (1) 記載内容の変更箇所 平成30年1月以後、毎月の給与又は賞与の源泉徴収において、扶養親族等の数に反映する配偶者は、源泉控除対象配偶者と障害者に該当する同一生計配偶者となる(所法185①一、186①一イ、187)。 これに伴い、扶養控除等申告書の記載も「控除対象配偶者」から「源泉控除対象配偶者」及び「同一生計配偶者」に変更される。 〈平成30年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (2) 源泉控除対象配偶者と同一生計配偶者 「源泉控除対象配偶者」及び「同一生計配偶者」とは、次の配偶者をいう。 ① 源泉控除対象配偶者(所法2①三十三の四) (控除額(配偶者控除額又は配偶者特別控除額)が38万円となる配偶者) 《定義》 納税者(合計所得金額900万円以下に限る)と生計を一にする配偶者で、合計所得金額が85万円以下の人 ② 同一生計配偶者(所法2①三十三) (障害者控除の対象となる配偶者) 《定義》 納税者と生計を一にする配偶者で、合計所得金額が38万円以下の人(改正前の控除対象配偶者に該当) 改正前の控除対象配偶者と源泉控除対象配偶者は定義が異なる。よって、扶養控除等申告書のA欄に記載される配偶者の範囲も、平成29年分と平成30年分では異なることとなる。 一方、同一生計配偶者は改正前の控除対象配偶者に該当するため、C欄に記載される配偶者の範囲は実質的に変わっていない。 (3) A欄に記載される配偶者の範囲 A欄に記載される配偶者の範囲を平成29年分と平成30年分で比較すると、次のとおりである。 以上より、平成30年分のA欄に記載する配偶者は、「納税者本人の合計所得金額」と「配偶者の合計所得金額」の2段階で判定することになる。 なお、国税庁ホームページには、平成30年分の扶養控除等申告書の記載例が公開されているので参考にされたい。 〈平成30年分 給与所得者の扶養控除等申告書の記載例〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 国税庁ホームページより (4) 納税者本人の合計所得金額が900万円を超える場合 配偶者の合計所得金額が85万円以下であれば、納税者本人の合計所得金額が900万円超1,000万円以下にある場合にも、配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けることができる。 しかし、(3)で解説したとおり、源泉徴収において配偶者を扶養親族等の数に含めるのは、配偶者が源泉控除対象配偶者に該当するケースか、障害者であり同一生計配偶者に該当するケースである。したがって、納税者本人の合計所得金額が900万円を超えていると、源泉徴収で配偶者控除と配偶者特別控除は考慮されない(障害者控除は考慮される)。 平成30年以後、年末調整で配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けるには、年末調整に際し「給与所得者の配偶者控除等申告書(以下、配偶者控除等申告書という)」を給与支払者に提出することが必要となる。 納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下であれば、源泉徴収で考慮されなかった配偶者控除と配偶者特別控除は、この「配偶者控除等申告書」を給与支払者に提出することにより、平成30年分の年末調整において適用を受けることができる(所法190二ニ)。 なお、「配偶者控除等申告書」の様式について、国税庁ホームページにおいて、本稿執筆現在は「未定稿版」とされているが、下記の様式が公表されている(平成29年12月頃に確定版が掲載予定とのこと)。※論末の〔編集部追記〕を参照 〈平成30年分 給与所得者の配偶者控除等申告書(未定稿版)〉 (※) 国税庁ホームページより 今回解説した内容については、国税庁の下記ページも参照されたい。 * * * 連載最終回となる【第3回】は、年末調整における実務上の取扱いをQ&A形式で解説する予定である。 (了)
平成30年分源泉徴収税額表の留意点 ~扶養親族等の数の算定方法の変更~ 税理士・社会保険労務士 上前 剛 平成30年分の源泉徴収税額表については、税額表自体は平成29年分から変更はないが、配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しにより、扶養親族等の数の算定方法が変更となった。このため、甲欄を適用して源泉徴収する場合には留意が必要である。 1 扶養親族等の数の算定方法の変更 (1) 配偶者が源泉控除対象配偶者に該当する場合 配偶者が「源泉控除対象配偶者」に該当する場合、扶養親族等の数に1人を加えて計算することとされた。 源泉控除対象配偶者とは、合計所得金額が900万円(年収1,120万円)以下である給与所得者と生計を一にする合計所得金額が85万円(年収150万円)以下の配偶者をいう。配偶者控除38万円、配偶者特別控除38万円を受けられる配偶者が源泉控除対象配偶者である(【図表1】参照)。 【図表1】 配偶者控除及び配偶者特別控除の控除額 (※) 国税庁ホームページより (2) 同一生計配偶者が障害者に該当する場合 「同一生計配偶者」が障害者に該当する場合、扶養親族等の数に1人を加えて計算することとされた。 同一生計配偶者とは、給与所得者(年収制限なし)と生計を一にする合計所得金額が38万円(年収103万円)以下の配偶者をいう(【図表2】参照)。 【図表2】 配偶者に係る扶養親族等の数の算定方法(概要) (※) 国税庁ホームページより 2 事例 上記を踏まえて、ケースごとに扶養親族等の数を判定すると次のようになる。 (了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第19回】 「「相続空き家の特例」の譲渡価額要件(1億円以下)の判定① (「居住用家屋取得相続人の範囲」と 「適用前譲渡」「適用後譲渡」)」 -譲渡価額要件の判定- 税理士 大久保 昭佳 Q X(兄)は、昨年8月に死亡した父親の居住用家屋(昭和56年5月31日以前に建築)を単独で相続し、その敷地300㎡については、Y(弟)と共有(各持分1/2)で相続しました。 Xは、その家屋を取り壊し更地にした上で、本年9月に、その敷地をYと共に1億2,000万円で売却しました。 なお、相続の開始の直前まで父親は一人暮らしをし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 この場合、Xの譲渡は、「相続空き家の特例(措法35③)」の譲渡価額要件(1億円以下)を満たすこととなるのでしょうか。 A Yは「居住用家屋取得相続人」の判定範囲に含まれ、「適用前譲渡」と「対象譲渡」との対価の合計額が1億円を超えることから、譲渡価額要件を満たさず、Xは「相続空き家の特例」を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」は、被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡の対価の額が1億円以下であることが、その適用要件の1つとされています(措法35③)。 そして、その被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を取得した相続人(以下「居住用家屋取得相続人」という)が、その相続の時から本特例(措法35③)の規定の適用を受ける者が対象譲渡をした日の属する年の12月31日までの間に、その対象譲渡した資産とその相続の開始の直前において一体としてその被相続人の居住の用に供されていた家屋又はその敷地等(以下「対象譲渡資産一体家屋等」という)の譲渡(以下「適用前譲渡」という)をしている場合において、その適用前譲渡に係る対価の額とその対象譲渡に係る対価の額との合計額が1億円を超えることとなるときは、適用しないとされています(措法35⑤)。 この「居住用家屋取得相続人」には、本特例(措法35③)の規定の適用を受ける個人を含むほか、その相続又は遺贈により被相続人居住用家屋のみ又は被相続人居住用家屋の敷地等のみを取得した相続人も含まれるとされています(措通35-21(居住用家屋取得相続人の範囲))。 また、「居住用家屋取得相続人」が、本特例(措法35③)の規定の適用を受ける者の対象譲渡をした日の属する年の翌年1月1日からその対象譲渡をした日以後3年を経過する年の12月31日までの間に、「対象譲渡資産一体家屋等」の譲渡(以下「適用後譲渡」という)をした場合において、その適用後譲渡に係る対価の額(適用前譲渡がある場合には、その合計額)との合計額が1億円を超えることとなったときは、適用しないとされています(措法35⑥)。 「適用前譲渡」+「対象譲渡」+「適用後譲渡」 > 1億円 ⇒ 譲渡価額要件を満たさず特例不適用 おって、この譲渡価額要件の規定に係る措通35-20(その譲渡の対価の額が1億円を超えるかどうかの判定)(1)の譲渡資産が共有である場合の注書で、「当該譲渡資産に係る他の共有持分のうち居住用家屋取得相続人の共有持分については、適用前譲渡に係る対価の額となることに留意する。」と、その取扱いが示されています。 したがって、本事例の場合、Yは被相続人居住用家屋の敷地等のみを取得していますが「居住用家屋取得相続人」に含まれ、Yの「適用前譲渡」とXの「対象譲渡」との対価の合計額が1億円を超えることから、譲渡価額要件を満たさず、Xは「相続空き家の特例」を受けることができません。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第12回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第2章》 平成13年度税制改正) ② 適格分割 (ⅰ) 分割型分割と分社型分割 会社分割には、分割型分割と分社型分割があり、平成13年度税制改正直後の法人税法では、以下のように規定されていた。 さらに、法人税法62条の6第1項では、分割承継法人株式その他の資産を分割法人及び分割法人の株主等のいずれにも交付する分割が行われたときは、分割型分割と分社型分割の双方が行われたものとみなして、法人税法の規定を適用することが規定された。また、当然のことながら、分割型分割と分社型分割の双方が行われたものとみなすといっても、分割型分割が適格であり、分社型分割が非適格であるということはあり得ず、会社分割全体が税制適格要件を満たすかどうかにより、後述する法人税法2条12号の11の規定を適用していくことになる(※1)。 (※1) 『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』102-103頁(日本租税研究協会、平成13年)。 (ⅱ) 金銭等不交付要件 法人税法2条12号の11、同施行令4条の2第4項から第6項(現行4条の3第5項から第8項)では、適格合併の定義が定められている。まず、平成13年度税制改正直後の法人税法2条12号の11柱書では、以下のように規定されている。 このように、法人税法2条12号の8に規定されている適格合併の規定と同様に、同号の11柱書にて、金銭等不交付要件を定めるとともに、イ~ハにて、100%グループ内の適格分割、50%超100%未満グループ内の適格分割、共同事業を営むための適格分割が定められている。ただし、分割型分割については、按分型要件も同時に課されているという点に留意が必要である。 条文が読みにくいので、分割型分割と分社型分割に分けてみよう。 このうち、分社型分割については、分割承継法人が分割法人に対して、配当見合いの金銭交付をすることはあり得ないため、ここでは規定されていない。その点を除けば、金銭等不交付要件については、適格合併と変わらないということが言える。しかし、当時の商法では、物的分割(分社型分割)、人的分割(分割型分割)というものが存在したが、会社法の施行により、人的分割の手続きは、物的分割を行った後に、分割承継法人株式を株主に対して現物配当をしたものとして処理することになった。このような会社法の変化に伴い、その後の税制改正では、金銭等不交付要件についても見直しがなされている。そのため、平成17年改正前商法時代の文献で、会社分割における金銭等不交付要件を調べる場合には、法体系の違いに留意する必要がある。 さらに、按分型要件については、分割法人株式の数の割合に応じて交付されるものとして規定されている。括弧書きで細かなことが書かれているが、当時の商法における会社分割の手続きと現行会社法における会社分割の手続きの違いによるものである。すなわち、現行法人税法では、「当該株式が交付される分割型分割にあっては、当該株式が分割法人の発行済株式等の総数又は総額のうちに占める当該分割法人の各株主等の有する当該分割法人の株式の数(出資にあっては、金額)の割合に応じて交付されるものに限る」としか規定されていない。 按分型要件が設けられた趣旨として、「株主間で利益や損失の移転が行われるおそれがあるといった問題や贈与税・相続税対策に利用されるおそれがあるといった問題があることから、課税の特例の対象とはしないこととされています。・・・(途中省略)・・・。特定の株主にだけ優先株が交付されることになったとしても、旧株が優先株であった株主に対して優先株を交付するとともに、旧株が普通株であった株主に対して普通株を交付し、これが株主を平等に扱うものとなっているような場合には、規定の趣旨に反するものではなく、ご質問の分割は、他の要件を満たす限り、適格分割型分割に該当すると考えられます。しかしながら、旧株が普通株のみである場合に、特定の株主には優先株を交付し、他の株主には普通株を交付することは、規定の趣旨に反すると言わざるを得ませんので、ご質問の分割は、適格分割型分割に該当しないということになるものと考えられます。」(※2)と解説されている。 (※2) 前掲(※1)102頁。 この解説は、平成17年改正前商法と現行会社法における違いを意識しながら読む必要がある。現行会社法454条2項2号では、剰余金の配当について内容の異なる二以上の種類の株式を発行しているときは、配当財産の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととすることが認められている。すなわち、平成17年改正前商法では想定されていなかったが、現行会社法では、普通株式1株に対して普通株式1株、優先株式1株に対して普通株式2株を交付するような分割型分割も容認されている。現行法人税法は、これに対応した規定となっていないため、このような分割型分割を行った場合には、按分型要件を満たすことができない(※3)。 (※3) 稲見誠一・佐藤信祐『組織再編・資本等取引の税務Q&A』247-248頁(中央経済社、平成24年)。 これに対し、当時、想定していたような非按分型分割は、現行会社法上、分社型分割を行った後に、全部取得条項付種類株式の取得対価として、分割承継法人株式を交付する手続きになっている(会社法758八イ、763十二イ)。そして、全部取得条項付種類株式の取得対価としての分割承継法人株式の交付は、会社分割による株式の交付ではないことから、法人税法上、分割型分割として処理せずに、分社型分割+現物分配として取り扱うべきであると解されている(※4)。そのため、分割型分割ではないことから、按分型要件を検討することはないということになる。 (※4) 稲見・佐藤前掲(※3)245-246頁。 このように、現行法人税法では、会社法制の変化により、平成13年当時の法人税法に比べると、按分型要件がかなり変容したということが言える。言い換えると、当時の制度趣旨を考えると、現行会社法下では、按分型要件を残しておく必要性が乏しいということも言える。私見ではあるが、今後の税制改正により、按分型分割の廃止を検討すべきであると考えられる。 * * * 次回では、100%グループ内の会社分割について解説を行う予定である。 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第35回】 「分掌変更退職給与」 ~分掌変更による役員退職給与の損金算入が認められないと判断した理由は?~ 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 今回は、青色申告法人X社に対して行われた「分掌変更による役員退職給与の損金算入の否認」に係る法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた東京地裁平成17年12月6日判決(税資255号順号10219。以下「本判決」という)を素材とする。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本判決の判断 X社は、本件更正通知書には、「実質的に退職したと同様の事情」に関する事実認定が記載されておらず、法人税法130条2項の定める理由付記の程度を満たしていない不備がある旨主張したが、本判決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した(控訴審である東京高裁平成18年6月13日判決・税資256号順号10425もこの判断を維持)。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性 4 検討 (1) 関係法令等の確認 役員の分掌変更、改選による再任等に伴い、法人が当該役員に対して退職給与を支給するケースがある。この場合には、役員が退職により法人との勤務関係を完全に終了する完全退職の場合と異なり、当該役員が当該法人において引き続き役員としての業務に従事することになるから、分掌変更等による役員退職給与は完全退職の場合と同様の課税関係に服するかが問題となる。 この点、これまで課税庁は、法人税法上の「退職給与」とは、本来的に、完全退職により支給する給与を意味し、いわゆる打切支給される退職給与や分掌変更等による退職給与などの引き続き勤務・在職する者に対して法人が退職給与として支払う金員は、法人税法上の「退職給与」には該当しないという立場を貫いてきた(反対の立場として、東京地裁平成27年2月26日判決・税資265号順号12613参照)。その上で、企業においてそのような金員が支給されている実情等に鑑みて、かような退職給与のうち一定の条件を満たすものを、特例的に法人税法上の「退職給与」として取り扱ってきた(この際、課税庁は、課税上の弊害が生じることを危惧して、これらを未払金等に計上する場合は「退職給与」として取り扱わないことを原則としてきた。)。 課税庁が上記のような立場に立つことは、例えば、次に掲げる法人税基本通達9-2-32が、「支給した」、「取り扱うことができる」という表現を用いていることや、未払金等計上額は「退職給与」と取り扱わないという明文上の根拠が判然としない同通達注書の存在から窺い知ることができる。 (2) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、X社が、乙が平成14年5月7日に退職し、同月10日に取締役に復職したとして、同月15日付けで乙に対する本件退職金9,000万円を未払金として計上していることを前提としている。その上で、乙が当事業年度において退職した事実は認められないことから、本件退職金の額はX社の当事業年度の損金の額に算入されないとして行うものである。 本件更正処分が帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当するか否かは、法人税法における「退職」という概念をどのように捉えるかという解釈の問題とも絡むため、議論の余地がある。ここでは、少なくとも、臨時株主総会議事録によれば、乙は代表取締役を辞任し、相談役としての職務に就くことが決議され、これに伴い本件退職金が支払われているという点において、乙が一旦は退職し、経営上主要な地位を占めないこととなったという形式が整っているとの理解の上、本件更正処分は、X社の帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当するものとして、検討を進めたい。 したがって、理由付記の程度としては ことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 本件理由付記は、本件退職金が損金に算入されないと判断した究極的な根拠として、[1]乙が当事業年度において退職した事実は認められないこと又は[2]当事業年度の債務として確定しているとは認められないこと(法人税法22条3項2号括弧書が定める債務確定基準については本連載【第32回】参照)、のいずれを記載する趣旨であるのか、ややわかりづらい。[1]を記載する趣旨である場合には、本件理由付記の④の記載の趣旨が不明確となる。[2]を記載する趣旨である場合には、[1]は債務が確定していないことの重要な事情と位置付けることになろう。 いずれにしても、本件更正処分の事実上の根拠として、「その後も継続して実質的に貴法人の経営上主要な地位を占めている」、「退職した事実も退職したと同様の事実も認められない」という認定が重要であると解される。しかしながら、この点に関して、本件理由付記は、具体的にどのような事実をもって上記の認定に至ったのかを明らかとせず、帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料の摘示もない。 また、本件更正処分当時において、課税庁は法人税基本通達9-2-23(現行の法人税基本通達9-2-32)が一種の特例であるという立場に立っていた。このことを前提とすると、本件更正処分の法律上の根拠として、法令に記載されていない内容を特例的に定める同通達を明記することが理由付記の趣旨目的に適うのではないかと考える。 以上からすると、本件理由付記は、本件更正処分の法律上の根拠や事実上の根拠について記載を省略しているか、少なくとも通常理解できる程度に記載するものではないと評価せざるを得ない。したがって、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものでもないと考える。 * * * 次回は、「グループ3社の共同社員旅行の負担金に係る寄附金の損金不算入」に係る法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第30回】 「張江訴訟」 ~最判平成17年2月1日(民集59巻2号245頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第64回】 株式会社光・彩(旧社名:株式会社光彩工芸) 「内部調査委員会調査報告書(平成29年9月25日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【内部調査委員会の概要】 【株式会社光・彩の概要】 株式会社光・彩(旧社名は株式会社光彩工芸、以下「光彩」と略称する)は、昭和30(1955)年創業、昭和42(1967)年設立。ジュエリー、ジュエリーパーツの製造・販売を主要事業とする。売上高1,979百万円、経常利益2百万円、従業員数95名(数字はいずれも2017年1月期)。本店所在地は山梨県甲斐市。JASDAQ上場。 【内部調査委員会調査報告書の概要】 1 調査に至る経緯 光彩は、平成29年7月27日、東京国税局による税務調査の初日に、光彩の経理責任者(以下「調査対象者」という)が多額の現金を横領していることについて、国税局担当者より示唆がなされたため、直ちに社内調査を開始するとともに、8月18日において内部調査委員会(以下「調査委員会」という)を設置した。 調査対象者は現在37歳。大学院修士課程修了により税理士試験2科目を免除され、さらに税理士試験1科目に合格、税理士事務所、会計事務所勤務を経て、平成22年2月22日に光彩に入社した。調査委員会は、「入社時点において、相当程度の会計・税務の知識を有していた(調査報告書p.8)」と判断している。 調査担当者の上司としては、管理部長と経理課長が存在した。入社当時は元取締役の吉田貴(以下「吉田室長」と略称する)氏が管理部長を兼ねていたが、その後、社長室長となり、管理部長が不在となるとともに、前経理課長は社長直轄の体制となっていたところ、前経理課長が平成25年4月末日で退職したため、調査対象者が事実上の経理責任者となった。調査対象者は、その後、平成27年7月にリーダー職(課長補佐)に、平成28年6月に経理課長に就任していた。 2 不正行為の具体的方法 調査委員会は、調査対象者の不正開始時期を、入社の7ヶ月後である平成22年9月24日であったと認定している。 不正行為の具体的方法と、それぞれの横領金額が次のとおりであった。被害金額の総額は、当初約3億9,008万円と報告されたが、その後約4億50万円へと拡大した。 (1) オンライン決済を悪用した自身の口座への送金 ▷約1,256万円 承認者の設定されていない旧式の送金システムを利用して、自分名義の銀行口座へオンライン送金を行っていた(平成24年9月頃まで)。 (2) 請求書に捺印する際の印鑑の不正使用(払戻伝票に押印) ▷約2億1,862万円 吉田室長が管理していた会社印鑑を、領収証、請求書等に捺印するため一時的に借用し、その際に、白紙の金融機関の払戻請求書に押印し、その後、金融機関窓口で現金を引き出して着服していた。 (3) 廃棄すべき銀行口座のキャッシュカードを悪用した不正出金 ▷約1億5,147万円 東京・銀座営業所の閉鎖に伴い、営業所で使用していた普通預金口座を解約すべきところ、調査担当者はこれをオンライン決済による不正送金の受け皿として利用し、入手したキャッシュカードにより出金、着服していた。 (4) 現金売上代金、現金回収売掛債権の着服 ▷約1,817万円 調査対象者が、本社で保管していた現金で受領した売掛債権を金融機関に預け入れる際にその一部を着服したことが判明している。また、展示即売会における売上代金や買取代金又は釣銭に充てるために準備した現金の一部も着服していた。 (5) 横領の隠蔽工作(調査報告書p.14 - 15) 調査委員会が認定した不正な会計処理の特徴について、以下に引用する。 調査対象者による横領の隠蔽工作は、「材料費(=買掛金)を過大に計上する」というものであり、過大計上された材料費の損益インパクトを抑えるために棚卸資産の過大計上を行うという、きわめてシンプルなものであった。 3 原因分析 こうした不正が可能であった原因・問題点について、調査委員会はいくつかの項目に分けて分析しているが、本稿では、組織的な欠陥と経理部における運用ルール形骸化について、検討したい。 (1) 調査対象者による横領資金の使途(不正の動機) 調査委員会の調査によると、調査対象者は、光彩から横領した金員を、不動産購入、建築(リフォームを含む)、車・バイク購入、時計購入、有価証券等取得、服飾用品、家電家具その他動産購入、飲食遊興費、実親への送金に充てていたことが判明している。 調査対象者による不正の動機について、報告書に特に言及はないが、こうした使途を見る限り、金銭を得ることが目的であったということであろう。 (2) 光彩管理部門の組織的な欠陥 不正発覚時、調査対象者は経理課長の職にあり、直属の上司は社長となっていた。調査委員会によると、元取締役である吉田室長が管理部長の職にあったころには、経理部における業務は運用ルールに従って行われていたが、その後、吉田室長が管理部長の職を離れ、前経理課長も退職したが、経理責任者や経理課員の補充はなく、課員の業務負担の増加に伴って、それまで機能していた運用ルールが形骸化した。 同時に、経理責任者となった調査対象者の上司が社長となったことで、経理課員相互の監視・牽制機能はもちろん、管理部門内における牽制も効かなくなり、調査対象者による横領が長期化し、被害金額が拡大していった。 経理部における運用ルールの形骸化の例として、調査委員会は、資金日報と現預金残高の日次での突合業務がいつの間にか廃止されていたこと、会計システム上で計上されていた架空の材料費及び買掛金が製造部門における基幹システムでは計上されていなかったことを挙げ、現預金での日次残高管理やシステム間で照合を適切に行うことにより、本件不正は防ぐことができたと判断している。 4 再発防止策 調査委員会による再発防止策の提言は、次の6項目である。 最初に挙げられている「業務フローの明文化、改善」における小項目は、経理部門における職務分掌と相互牽制としては、きわめて当然で基本的な内容であるが、光彩のように、経理部門責任者が空席になったり、経理課員が恒常的に不足していたりすると、往々にしてなおざりにされる可能性も否定できない。 監査役、監査等委員である取締役が、経理部門を往査するに際して、ここで挙げられた6つのポイントを確認するだけでも、経理部門の内部統制が有効に機能しているかどうかの判断に資すると言えよう。 【調査報告書の特徴】 国税局の税務調査において示唆された経理責任者の不正行為に対して、光彩取締役会が選択した調査手法は、監査等委員である社外取締役が所属する法律事務所の弁護士2名、顧問税理士である税理士法人に所属する公認会計士1名を委員とする「内部調査委員会」の設置による調査であった。その調査は、前述したように、「不正行為の調査」よりもむしろ「不正により流出した資産をいかに回収するか」に重きが置かれている。 1 内部調査委員会の構成 内部調査とした理由について、8月22日のリリースでは、以下のように説明している。 こうした理由から選任された内部調査委員と会社との関係は以下のとおりである。 なお、調査委員会は、内部調査委員会とした理由について、 という、本件不正の特徴を上げている(調査報告書p.5 - 6)。 2 内部調査委員会としたことのメリットとデメリット (1) メリット 顧問弁護士を中心とする内部調査委員会を設置したことの最大のメリットは、迅速な債権保全手続きによる「損害の回収」である。 横領した金員により購入された不動産には譲渡担保を付し、動産についても質権・譲渡担保の設定により、換価処分を行うことで、不動産については鑑定ベースで1億9,185万円を保全し、動産の換価により約3,165万円を回収し、差し押さえた預金や弁済金を合わせて2億2,366万円を回収している。 これは総被害金額約4億円のうち59%に当たる金額であり、手続きの迅速性を重視して、損害の回復を第一の目的とした調査委員会として、十分に職責を果たしたものと評価できよう。 (2) デメリット 一方、身内による調査であるだけに、取締役・監査役に対する責任追及が十全になされたかどうか、疑問が残る。 監査等委員である社外取締役埴原一也氏は、平成10年4月から光彩の監査役であり、平成28年4月から現職にあるが、本件についてどのように考えているのか、調査報告書には言及がない。「監査役の認識(調査報告書p.29)」という項目に、「当時の監査役は」という表現があるが、これは前後の文脈から判断して、常勤監査役であった河西周一氏の認識であったと考えられる。 また、同じく監査等委員である社外取締役鈴木真氏は、平成26年4月から光彩の取締役に就任しており、弁護士、公認会計士及び税理士としての知見・経験を光彩の経営に活かすべく選任されているものと思料するが、調査報告書が指摘する「経理課の組織的な欠陥(p.23)」や「内部統制システムの運用の形骸化(p.28)」について、どのように考えていたのか、こちらも言及がない。 調査委員である弁護士が、所属事務所の代表者である社外取締役の責任追及を行うことができるかどうか。いかに高度な職業倫理を持っていたとしても、さすがに難しいのではないだろうか。こうした点を考えると、調査委員会の構成としては、「損害の回復」だけを一義的に求める委員だけではなく、原因分析や再発防止策、経営陣の責任という第三者的な視点から、本件の調査にあたる委員を合わせて選任すべきではなかったかと思料するものである。 3 監査法人からの事情聴取 内部調査委員会は、追加報告書の中で、光彩の会計検査人からの事情聴取内容を報告している(p.10 – 11)。光彩の会計監査人は、平成29年1月期までは優成監査法人、平成30年1月期(本件不正発覚期)からは、監査法人ナカチが就任している。 (1) 優成監査法人に対するヒアリング結果 内部調査委員会の調査に対し、優成監査法人は、前経理課長が退職して調査対象者が事実上の責任者となった後、 を認識していたが、監査業務については、仕入について数十件の請求書、納品書をサンプリング調査したが、特に不審な点は存在せず、不正リスクは高くないと判断していたと答えている。 (2) 監査法人ナカチに対するヒアリング結果 内部調査委員会の調査に対し、監査法人ナカチは、監査業務の引継ぎにあたり、優成監査法人から、調査対象者が社長直属となっている、経理人材が少ない、資料提出が遅延することが多いなどの指摘を受けていたが、優成監査法人が適正意見を出していたこともあり、特に異常な点の認識はなかったと答えている。 そのうえで、調査対象者について、以下のようにコメントしている。 4 東京国税局調査担当者による示唆 経理部門が社長直轄であり、経理担当取締役はおろか、管理部門担当取締役も不在という上場会社としてありえないような状況で、税理士試験に3科目合格して中途入社した若い経理課員が、会社資金を横領しながら、出世していく。安っぽいドラマのストーリーのようではあるが、犯行は7年近く発覚せず、監査法人も適正意見を出し続けていた。 東京国税局担当者は、調査初日に横領の事実を示唆したということから、事前調査の段階で、光彩の預金口座の流れから、調査対象者による横領の事実を把握していたものと考えらえる。通常は端緒を把握していても、税務調査の過程で会社側のシステムなり帳票なりを確認して、確証を得てから、こうした事実を伝えるのではないかと思うが、よほど確たる証拠があったということかもしれない。 (了)
収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第12回】 「特定の状況又は取引における取扱い②」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 前回に引き続き、「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「収益認識適用指針(案)」という)の「特定の状況又は取引における取扱い」の11項目のうち、今回は⑦から⑪までをとりあげる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 買戻契約 買戻契約とは、企業が商品又は製品を販売するとともに、同一の契約又は別の契約のいずれかにより、当該商品又は製品を買い戻すことを約束するあるいは買い戻すオプションを有する契約である(収益認識適用指針(案)138項)。 買い戻す商品又は製品には次のものがある。 また、買戻契約には、一般的に、次の3つの形態がある(収益認識適用指針(案)138項)。 1 先渡取引又はコール・オプションに関する基本的な会計処理 企業が先渡取引又はコール・オプションを有している場合には、たとえ顧客が当該商品又は製品を物理的に占有しているとしても、顧客が当該商品又は製品の使用を指図する能力や当該商品又は製品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力が制限されているため、顧客は当該商品又は製品に対する支配を獲得していないものとして取り扱われる(収益認識適用指針(案)69項、139項)。 次のことに注意する(収益認識適用指針(案)69項~71項)。 関連する収益認識適用指針(案)の設例は次のとおりである。 2 プット・オプションに関する基本的な会計処理 企業が顧客の要求により商品又は製品を当初の販売価格より低い価格で買い戻す義務(プット・オプション)を有している場合には、契約における取引開始日に、顧客が当該権利を行使する重要な経済的インセンティブを有しているかどうかについて判定する(収益認識適用指針(案)72項。買戻価格と買戻日時点での当該商品又は製品の予想される時価との関係や権利が消滅するまでの期間等を考慮して判定する)。 関連する収益認識適用指針(案)の設例は次のとおりである。 次のことに注意する(収益認識適用指針(案)73項~74項)。 Ⅲ 委託販売契約 商品又は製品を最終顧客に販売するために、販売業者等の他の当事者に引き渡す場合には、当該他の当事者がその時点で当該商品又は製品の支配を獲得したかどうかを判定する(収益認識適用指針(案)75項)。 1 基本的な会計処理 販売業者等の他の当事者が商品又は製品に対する支配を獲得していない場合には、委託販売契約として他の当事者が商品又は製品を保有している可能性がある。その場合、他の当事者への商品又は製品の引渡時に収益を認識しないことになる(収益認識適用指針(案)75項)。 2 委託販売契約であることを示す指標 契約が委託販売契約であることを示す指標には、例えば、次の①から③がある(収益認識適用指針(案)76項)。 Ⅳ 請求済未出荷契約 請求済未出荷契約とは、企業が商品又は製品について顧客に対価を請求したが、将来において顧客に移転するまで企業が当該商品又は製品の物理的占有を保持する契約である(収益認識適用指針(案)77項)。 1 基本的な会計処理 請求済未出荷契約においては、「収益認識に関する会計基準(案)」(以下「収益認識会計基準(案)」という)36項及び37項(一時点で充足される履行義務)の定めを適用したうえで、次の①から④の要件のすべてを満たす場合には、顧客が商品又は製品の支配を獲得することになる(収益認識適用指針(案)78項、79項)。 2 履行義務へ配分 請求済未出荷の商品又は製品の販売による収益を認識する場合には、取引価格の一部を配分する残存履行義務(例えば、顧客の商品又は製品に対する保管サービスに係る義務)を有しているかどうかについて、収益認識会計基準(案)29項から31項(履行義務の識別)に従って判断する(収益認識適用指針(案)140項)。 Ⅴ 顧客による検収 顧客による検収は収益認識の時点を判断する際に重要な行為となることがあり、収益認識適用指針(案)も、顧客による財又はサービスの検収は、顧客が当該財又はサービスの支配を獲得したことを示す可能性があるとしている(収益認識適用指針(案)80項)。 次のことに注意する(収益認識適用指針(案)80項~83項)。 Ⅵ 返品権付きの販売 顧客との契約においては、商品又は製品の支配を顧客に移転するとともに、当該商品又は製品を返品して、次の①から③を受ける権利を顧客に付与する場合がある(収益認識適用指針(案)84項)。 第348回企業会計基準委員会(2016年11月4日)の審議事項(3)-6で検討されている。 返品権付きの商品又は製品(及び返金条件付きで提供される一部のサービス)を販売したときは、次の①から⑤のすべてについて処理する(収益認識適用指針(案)85項~88項)。 関連する収益認識適用指針(案)の設例は次のとおりである。 なお、返品期間中に返品される商品又は製品を受け入れるために待機するという約束は、返金を行う義務とは別の履行義務として処理しない(収益認識適用指針(案)141項)。 (了)