組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第13回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第2章》 平成13年度税制改正) (ⅲ) 100%グループ内の適格分割 【第10回】で解説した適格合併と同様に、平成13年度税制改正直後の法人税法2条12号の11イ、同施行令4条の2第4項において、100%グループ内の適格分割の要件が定められている。条文構成はほとんど同じであり、法人税法施行令4条の2第4項第1号にて親子関係、同項第2号にて兄弟関係がそれぞれ定められている。合併に比べて、条文構成がやや複雑であることから、1号と2号をそれぞれ分けて解説を行う。 上記の条文が複雑であるため、単独吸収分割、複数新設分割(共同新設分割)及び単独新設分割に分解すると以下のようになる。 このように、【第10回】で解説した100%グループ内の適格合併と異なり、当事者間の完全支配がある場合の会社分割では、分割前だけでなく、分割後の完全支配関係の継続が要求されている。そして、単独新設分割の場合には、分割前の完全支配関係は要求せずに、分割後の完全支配関係の継続のみを要求している。分割前には、分割法人しか存在しないことから、分割前の完全支配関係を要求することは不可能だからである。 このように、単独吸収分割、複数新設分割及び単独新設分割に分けた規定になっていることから、複数新設分割ではなく、一方の法人が先に単独新設分割をして受皿会社を設立した後に、その後に他方の法人から当該受皿会社に対して単独吸収分割を行う場合には、法人税法施行令4条の2第6項で規定されている共同事業を営むための適格分割の判定を素直に行うことはできない。単独吸収分割の方は、すでに分割承継法人に事業があることから、共同事業を営むための適格分割の判定を行えるが、単独新設分割の方は、事業関連性要件を判定する相手側がいないことから、共同事業を営むための適格分割の判定を行うことはできないからである。 この点につき、組織再編税制が定着する前は、実質的に、複数新設分割として取り扱えるのではないかという議論があったため、興味のある読者は、阿部泰久ほか「パネル・ディスカッション② 企業再編と租税法」江頭憲治郎ほか『企業組織と租税法(別冊商事法務252号)』93-97頁(商事法務、平成14年)を参照されたい。 これは、【第10回】で解説した100%グループ内の適格合併と、本稿で解説した当事者間の完全支配関係がある場合の会社分割を理解すれば読み取れるであろう。 ちなみに、単独新設分割であっても、分割前の完全支配関係は要求せずに、分割後の完全支配関係の継続のみを要求している。この点については、本来であれば、分割前に、同一の者による分割法人に対する完全支配関係を要求した方が素直であるように思われる。しかし、分割により、分割承継法人の株主構成が変わったとしても、分割法人の株主構成は変わらないことから、分割後に、同一の者による分割法人に対する完全支配関係が成立するためには、分割前に、同一の者による分割法人に対する完全支配関係が成立している必要がある。 そう考えると、実質的には、分割前の完全支配関係も要求されているということが言える。 (ⅳ) 50%超100%未満グループ内の適格分割 イ 50%超100%未満グループの判定 平成13年度税制改正直後の法人税法2条12号の11ロでは、50%超100%未満グループ内の適格分割について規定されている。そして、50%超100%未満グループ内の分割に該当するかどうかは、法人税法施行令4条の2第5項に規定されている。基本的な考え方は、100%グループの判定に対して、50%超と読み替えた場合とほとんど変わらない。実務上、議論となりやすいところとしては、分割直後は100%であったのに対し、その後に50%超100%未満グループになる場合である。すなわち、分割承継法人株式のうち49%以下を第三者に譲渡する場合である。 この場合には、法人税法2条12号の11ロにおいて、「100分の50を超え、かつ、100分の100に満たない」と規定されているものの、具体的に委任された法人税法施行令4条の2第5項では、分割前に「100分の50を超える」関係と規定しているだけで、「100分の50を超え、かつ、100分の100に満たない」とは規定されていない。そのため、分割により100%子会社を設立した後に、当該100%子会社株式(分割承継法人株式)のうち49%以下を第三者に譲渡する場合には、50%超100%未満グループ内の会社分割に該当すると考えられる。 * * * 次回では、50%超100%未満グループ内の適格分割の要件である主要資産等引継要件、従業者引継要件及び事業継続要件について解説を行う予定である。 (了)
相続税の実務問答 【第17回】 「相続人が弁識能力を欠く場合の相続税の申告期限」 税理士 梶野 研二 [答] 相続税の申告書は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に提出しなければなりません。伯母様は、叔父様の相続開始後、継続的に弁識能力を欠いており、叔父様が亡くなったことを認識できていないとのことなので、現時点では、相続税の申告期限を確定できません。 今後、伯母様が叔父様の死亡を認識することができた日、あるいは伯母様の後見人が選任され、その後見人が叔父様の相続開始を知った日が、「相続の開始があったことを知った日」となりますので、その翌日から10ヶ月以内に伯母様の相続税の申告書を提出しなければなりません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続税の申告書の提出期限 相続や遺贈により財産を取得した者は、被相続人から相続や遺贈により財産を取得したすべての者の相続税の課税価格(相続や遺贈により取得した財産の価額から、債務・葬式費用を控除し、一定の生前贈与財産の価額を加算した金額)の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者の相続税額が算出されることとなるときは、その者が被相続人の相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に、相続税の申告書を提出しなければならないこととされています(相法27①)。 この「相続の開始があったことを知った日」とは、相続人や受遺者(以下「相続人等」といいます)が、自己のために相続の開始があったことを知った日をいうものと解されています。多くの場合、被相続人が死亡すれば、その近親者は、直ちに、その事実を知ることとなります。 しかしながら、被相続人の相続開始の時に、相続人等が相続の開始があったことを知る弁識能力(以下「弁識能力」といいます)を欠いていた場合には、そうはいきません。その後、その相続人等の弁識能力が回復し、被相続人の死亡の事実を認識することができたとすれば、その日が、「相続の開始があったことを知った日」となります。 相続人等が弁識能力を欠く常況にあるときには、遺産分割協議や財産の処分その他の法律行為をするためには、後見人を選任する必要があります。被相続人の相続開始の時に、既に後見人が選任されている場合には、その後見人が、被相続人の相続の開始があったことを知った日が、当該相続人等が「相続の開始があったことを知った日」となります(相基通27-4(7))。 また、被相続人の相続開始の時に後見人がおらず、その後も、相続人等が弁識能力を欠く状態が継続しているときには、新たに後見人が選任され、その後見人が相続の開始のあったことを知った日が、当該相続人等が、「相続の開始があったことを知った日」となります(相基通27-4(7)かっこ書き)。 2 相続税の決定処分の特則 (1) 相続税の申告期限前の決定処分 相続開始の時以後、弁識能力を欠く相続人等に後見人がいない場合に、後日、後見人が選任されるまで相続税の申告期限が決まらないとすると、いつまでも相続税の確定をすることができません。また、税務署長は、死亡の日を知ることはできても、相続人等が相続の開始があったことを知ったかどうかを知ることはできません。 そこで、税務署長は、被相続人が死亡した日の翌日から10ヶ月を経過したときには、相続税の申告書の提出期限内(その被相続人について相続があったことを知らない期間及び相続があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内の期間)であっても、相続税の申告書を提出すべき者に対して、相続税の決定処分を行うことができることとされています(相法35②一)。 (注) 相続人等が被相続人に相続開始があったことを未だ知らないことから、相続税の申告期限が定まらないとしても、既に相続税の申告義務は生じているものと考えられます(平成18年7月14日最高裁第二小法廷判決)。 (2) 決定処分が行われた場合の附帯税 相続税法第35条第2項の規定により、相続税の申告書の提出期限前に相続税の決定処分が行われた場合における延滞税は、同法第33条に規定する納期限(申告書の提出期限)の翌日を起算日として計算されます。したがって、同法第33条に規定する納期限前に、当該決定に係る相続税額が納付された場合には、延滞税は発生しません(相基通51-1)。 また、当該決定処分に係る相続税額に対しては、無申告加算税は賦課されません。 3 ご質問の場合 あなたのお父様は、叔父様の死亡後直ちにその事実を知ったものと思われますので、その日の翌日から起算して10ヶ月以内に相続税の申告書を提出しなければなりません。 一方、伯母様については、未だに叔父様が亡くなられたことを認識していません。また、後見人もいないとのことですので、今後、後見人が選任され、その後見人が叔父様の相続開始を知った日(それより前に伯母様が叔父様の死を認識した場合には、その日)の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告をすることとなります。 (注) 上記のとおり、相続人等が異なった日に、被相続人について相続の開始があったことを知った時には、当該相続人等の相続税の申告書の提出期限は異なることとなります。 なお、叔父様の死亡の日の翌日から10ヶ月を経過した場合には、税務署長により相続税の決定処分が行われることがあります。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第51回】 「継続的取引の基本となる契約書の範囲で定める 『単価』、『対価の支払方法』とは」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は部品製造会社です。第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)の範囲で定める、2以上の取引に共通して適用される取引条件のうち「単価」、「対価の支払方法」を定める契約とは、具体的にどのような要件となりますか。 なお、当社は次の契約書を締結していますが、この要件に該当しますか。 ▷「単価」の要件 一般的に「単価」とは、その取引における1単位当たりの具体的な数値をいい、事例の請負の取引においては、製作物の単位数量当たりの価格をいうものであり、印紙税法上の「単価」も同じ考えである。 また、印紙税法上の「単価」は、数値として具体性を有するものに限られていることから、「1個当たりの単価は〇〇〇円とする。」といった〇〇〇円がこれに該当する。 したがって、事例のように「従来の価格の0.8掛けとする。」など、具体性のない数値を定めたものは、単価を定めたことにはならない(ただし、従来の価格を別紙「価格表」として添付したものは、「単価」を定めたものに該当する)。 また、「1個当たりの価格は、引渡日の市場価格による。」と定めても、具体的な数値を定めたことにならないため、単価を定めたことにはならない。 ▷「対価の支払方法」の要件 「対価の支払方法」を定めるものとは、「毎月分を翌月10日に支払う。」、「60日手形で支払う。」、「借入金と相殺する。」等のように、対価の支払に関する手段、方法を具体的に定めるものをいう。 したがって、事例のように「〇〇銀行で支払う。」と、単に支払う場所を定めたものや、「相殺することができる。」旨の規定、取引代金を月単位で決済している場合において、その月の締切日を変更すること(支払日については変更なし)は、対価の支払方法を定めたことにはならない。 また、振込先の銀行を変更する場合も「対価の支払方法」を定めるものには該当しない。 ◆ ◆ ◆ 上記を踏まえると、事例の場合は「単価」、「対価の支払方法」ともに具体的に定めるものには該当しないため、第7号文書で定める要件には当てはまらない(ただし後述の通り、第7号文書には該当する)。 ▷まとめ 令第26条第1号に掲げる「継続的取引の基本となる契約書」とされるのは、以下の要件すべてに該当するものとなる。 上記解説の通り、事例の契約書は、④のうち「単価」「対価の支払方法」については定めたこととはならないが、目的物の種類(甲が販売する空気清浄機)を定めており、①から⑤すべての要件に当てはまることから、第7号文書に該当する。 (了)
収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第13回】 「契約資産、契約負債及び債権」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 「収益認識に関する会計基準(案)」(以下「収益認識会計基準(案)」という)では、「契約資産」、「契約負債」のように、従来の実務では使用されていなかった新しい用語が見られる。 今回は、契約資産、契約負債及び債権について解説する。 契約資産、契約負債は「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「収益認識適用指針(案)」という)の設例でも用いられているので、実務の適用の際に参考になる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 定義 定義は次のとおりである(収益認識会計基準(案)9項~11項、129項)。 Ⅲ 会計処理等 1 契約資産又は債権 顧客から対価を受け取る前又は対価を受け取る期限が到来する前に、財又はサービスを顧客に移転した場合は、収益を認識し、契約資産又は債権を貸借対照表に計上する(収益認識会計基準(案)74項)。 契約資産は、金銭債権として取り扱い、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)に従って処理する。 収益認識適用指針(案)の[設例4] 「累積的な影響に基づき収益を修正する契約変更」では、建設工事を用いて、契約資産の会計処理を示している(詳細は設例をご覧いただきたい)。 [設例4] 2 契約負債 財又はサービスを顧客に移転する前に顧客から対価を受け取る場合、顧客から対価を受け取った時又は対価を受け取る期限が到来した時のいずれか早い時点で、顧客から受け取る対価について契約負債を貸借対照表に計上する(収益認識会計基準(案)75項)。 収益認識適用指針(案)の[設例22]「重要な権利を顧客に与えるオプション(更新オプション)」では、メンテナンス・サービスを用いて、契約負債の会計処理を示している(詳細は設例をご覧いただきたい)。 [設例22] (了)
ファーストステップ 管理会計 【第17回】 (最終回) 「大切なのは将来とバランス感覚」 公認会計士 石王丸 香菜子 前回まで16回にわたって、管理会計の基礎について勉強してきました。最終回となる今回は、これをどのように実務に活かすかを考えます。 ◆こんな管理会計システムがあったら? 管理会計の基礎を理解したみなさんのところに、あるシステム会社から、管理会計システムの案内が届いたとしましょう。その名も「ゴールデン・パーフェクト・システム(GPS)」という管理会計システムです。案内には、こんなことが書いてあります。 ・・・かなり高価なこのシステム、みなさんなら導入を検討するでしょうか? ◆① バランス感覚を持つ これまでの連載で取り上げた以外にも、管理会計に関する細かな論点や実務例はたくさんあります。また、特に原価管理や業績評価に関しては、ソフトウェアやシステムを利用する企業も多いですし、こうした分野を専門とするシステム会社やコンサルティング会社なども少なくありません。 ただし、【第6回】で活動基準原価計算(ABC)を取り上げた際にも触れたことですが、緻密で合理的なシステムは、それを実務で継続して運用していくのにコストや手間がかかります。 完璧を追求してあまりに複雑な管理システムを構築すると、そこから得られた情報や数値を利用できる場面や利用者が、かえって限定されてしまうおそれもあります。 最終的に何をしたいのか、どのような点をクリアにしたいのかを明確にしないと、手間やコストばかり生じて、それに見合う効果が得られないということにもなりかねません。 管理システムからいろいろな数値が集計されるけれど、その意味はよくわからないし、システムの維持費用ばかりかかってしまう、というのはもったいないですよね。 管理会計を実務に取り入れる際には、とにかく完璧を目指すというよりも、コストや手間を上回る効果が得られ、現状の問題点が改善されるかという、バランス感覚を持つことが大切と言えます。 ◆② 大切なのは将来です 管理会計は、分析する対象には過去数値も含みますが、分析の目的は企業の将来に役立てることにあります。 会計の分野にいると、細かな過去数値にこだわることが多く、それは私自身にも当てはまる(?)のですが、管理会計を実務に利用するには、管理会計は企業の将来に役立てるためのものであるということを忘れないことが大切です。 ◆③ どの企業にも当てはまる万能な管理会計はない 企業の業種や業態、規模は様々です。そのため、実務上、ある企業で有用な管理会計システムを、他の会社でそっくりそのまま利用できるというケースはあまりありません。 つまり、管理会計の基礎を理解したうえで、自社に合った管理の在り方を模索して、より良い仕組みを作っていくほかないのです。 そうは言っても、何か参考になる具体例がほしいのが心情ですよね。 原価管理や利益管理システムを構築したり、意思決定プロセスや業績評価の在り方を見直したりする場合、まずは他社の事例を探してみましょう。実務を紹介した書籍なども多くありますし、それ以外にもヒントはいろいろなところに転がっています。 規模や業種が類似する会社は、自社との共通点も多いと言えます。日々の仕事を通して、取引先や仕入先などから観察できることも多いはずです。例えば、取引先からの証憑に記載されている番号は何のために使っているのか、とか、他社の組織構造はどのようになっているのか、など、参考にできることもあります。 また、「ある数値だけを後から集計できるよう工夫している」、「差が一定以上になるとすぐに判明するシステムにしている」など、仕事のうえで話題にのぼることもあるかもしれませんね。 業種が違う場合でも、管理方法のアイデアは共通することもあります。例えば、サービス業であっても、プロジェクトや案件を、製造業における製品と同様に考えて、原価管理や利益管理を行えるケースもあるでしょう。 ◆基本を理解して、自社に合った管理を このようなポイントを踏まえると、「ゴールデン・パーフェクト・システム(GPS)」は検討対象から外れそうですね! 管理会計を実務に活かすには、その根底にある基本を理解して、自社に合った管理の在り方を模索するのが近道です。システムやソフトウェアを導入する場合も、こうした基本姿勢を忘れないことが大切です。 ◆管理会計にも流行がある? ところで、「ミレニアム」なんて言葉がはやった2000年頃には、「EVA(Economic Value Added:経済的付加価値)」という指標が話題になりました。 EVAは、【第16回】で取り上げた「RI(残余利益)」の仲間のような指標です。当時、大企業がEVAを業績評価指標として採用したことで一躍知られましたが、現在は主流とは言えないようです。 他にも、かっこいい(?)新しい管理会計用語がたくさんあります。これらは、参考になる部分ももちろんありますが、ファッションや食べ物のブームと同じように、一時的な流行という側面が強いものもあります。細かな違いはあるものの、その考え方は、ファーストステップ管理会計で扱ったような基本的な発想と共通していることが多いのです。 見かけのかっこよさに流されず、その本質を見極めて、自社に合った管理会計を利用してください。 ◆「アメーバ経営」に学ぶ さて、管理会計の実務として、近年取り上げられることが多いのが、「アメーバ経営」です。いろいろなところで話題にされていますので、ご存じの方も多いと思います。 京セラで利用されている仕組みで、組織をアメーバと呼ばれる小集団に分け、それぞれのアメーバを「独立採算組織」とするシステムをいいます。アメーバは、【業績評価編】で取り上げた「事業部」などの組織よりも、ずっと小さい組織です。 ここでの詳細な説明は割愛しますが、各アメーバを独立採算とし、アメーバ間で売買を行うと考え、アメーバごとの売上や費用を計算するシステムになっています。 アメーバ経営では、1時間当たりに生み出した付加価値(アメーバの売上から人件費以外の費用を引いたもの)が、業績評価指標とされます。 アメーバ経営は独特ですが、考え抜かれた合理的なシステムで、原価や利益の管理の在り方、意思決定や業績評価の在り方など、様々な論点を改めて考えさせられる仕組みで、参考になる点が多いです。 アメーバ経営は、日本航空への導入が有名ですが、多くの企業や病院などにも利用事例があります。 繰り返しになりますが、京セラのアメーバ経営をそっくりそのまま全ての会社に利用できるかと言えば、それは難しいと言えます。アメーバ経営を導入・運営するには、相当の手間もかかりますし、全ての会社が京セラのような強い経営理念や企業風土を持っているわけでもないからです。 しかし、こうした実務から、そのアイデアを学んで、自社の管理の在り方に役立てられるところは多いと考えられます。 こうしたポイントを押さえて、身につけた管理会計のファーストステップを、ぜひ実務でのセカンドステップに活かしてください。 (連載了)
組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q7】 企業が合併した場合、合併前に締結した労働条件を定めた労働協約は合併後も有効か 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 【A】 合併の場合は、すべての権利義務が包括的に承継されるため、労働条件を定めた労働協約も変更されることなくそのまま承継される。よって、合併前に締結した労働協約は合併後も有効であり、合併により労働協約で定めた労働条件を変更する場合は労働協約の改定が必要となる。 労働協約とは 労働組合法(14条)では、「労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによってその効力を生ずる。」と定めている。 つまり、労働協約とは、労働組合と使用者が協議して取り決めた労働条件等に関する事項を“書面”にしたもので、労働組合と使用者の両者が署名又は記名押印することにより効力が生じる。 労働協約の規範的効力 労働協約には、労働組合法(16条)により規範的効力が与えられており、就業規則や個別の労働契約の定めにかかわらず、労働協約で定めた労働条件が優先して適用されることとなっている。 例えば、就業規則では「退職金の支給がない」旨を定めていたとしても、労働協約で「退職金の支給がある」旨を定めていた場合は、労働協約が優先されて適用されるため、退職金を支給することが労働条件となる。 よって、労働条件を定めた労働協約がある場合には、就業規則を変更しただけでは労働条件を変更することはできず、合わせて労働協約の改定が必要となる。 合併の場合の労働協約 合併の場合は、存続会社又は新設会社に消滅会社のすべての権利義務が包括的に承継されるため、労働条件を定めた労働協約も変更されることなくそのまま承継される。よって、合併前に締結した労働協約は合併後も有効であり、合併後、統一的な労働条件を適用するために各社の労働条件を統一する必要がある場合は、労働協約の改定が必要となる。 なお、労働条件を変更する場合は就業規則の改定も必要となるが、労働協約には規範的効力が与えられているため、就業規則の改定だけでは労働条件を変更するのに十分でないことは上記の通りである。 労働協約の改定 労働協約の改定にあたっては、合併後の労働条件にもよるが、協議に相当の時間を要することが想定される。また、存続会社に労働組合がある場合は、複数の労働協約が併存することになるため、その調整も含めた対応が必要になる。 よって、労働協約がある場合は早い段階から労働組合と協議を始め、労働協約の改定を目指す必要があるといえる。 (了)
海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第8回】 「赴任先で楽しむ旅行とスポーツ、実は会社にも恩恵アリ?」 中小企業診断士 西田 純 海外勤務者にとっての楽しみの1つが、赴任先の国や周辺国に旅行できる機会が増えることではないかと思います。 インターネットの時代になっても、外国の文物を直接見聞する機会に恵まれるのはとても価値があることです。旅行先での写真をフェイスブックやインスタグラムで知り合いと共有するという人は少なくないと思いますが、社内にも面白い土産話を持ち帰ってくれるなど、その国で事業をしていることについて社内で肯定的に共感するというプラスの効果が期待できます。 また、海外製造拠点など政治的・経済的に安定した国に派遣される場合の多くでスポーツをする機会に恵まれるのも、海外勤務者にとってメリットとなる点ではないかと思います。 今回は、海外勤務者の生活にとって赴任先での旅行とスポーツがどのような役割を果たすのか、また、派遣元の会社側がどのような点に気をつけるべきかについてお伝えします。 1 海外勤務先での旅行 (1) 余暇として 海外勤務の場合、やり方次第ではありますが、余暇に使える時間をかなり大胆に工夫できる可能性がある、という点をメリットとして挙げたいと思います。 すなわち、その気になれば日本の休日と現地の休日の二通りを「休日候補日」として調整できるので、本社勤めをしている同僚たちに比べて、かなり柔軟な休暇の設定と取得ができるのです。 例えばキリスト教国では、クリスマス前になるとなかなか仕事が進まなかったりしますし、復活祭などの時期も現地での仕事はペースダウンせざるを得ないでしょう。また、本社とのやり取りについては、年末年始の御用納めから御用始めまで、あるいはゴールデンウィーク中なども、いつもよりゆっくり進めざるを得なくなるのではないでしょうか。 むろん、その反対もあるわけで、多くの国では1月2日から通常勤務がスタートしますので、上手く調整しないといずれの休日も出勤せざるを得なくなったりする点は要注意ですが、日本に居るときに比べて長めの休暇を取り、近隣諸国へ観光旅行に出かけるという人は少なくありません。 (2) 出張のための旅行手配 また、営業部門の海外赴任では、赴任先及び周辺数ヶ国をまとめて担当するというケースも多く、休暇ばかりではなく仕事でも近隣諸国をめぐる機会が多いという人は少なくないと思います。 実際に海外勤務では、上で述べた余暇の予定も含めると、かなりの頻度でローカル線の飛行機に乗ったり、運転手付きのクルマを借り上げたり、ホテルからホテルへ移動したりする日々が続くことがあります。 最近ではエクスペディア(Expedia)やトリバゴ(trivago)などいつでも簡単に旅行手配ができますし、知らない土地でもウーバー(Uber)などのサービスが使えれば移動はスムースで、出張に出るのがごく簡単になってきました。 結果として「勤務先は雲の上」、という言い古された笑えないネタは、スカイプが発達した21世紀の世の中でもあまり変わっていない気がします。 (3) 会社側が気をつけること ただしこのように頻繁に飛行機を使う暮らしを続けていると、精神的にも身体的にもかなり疲労が蓄積されてしまいます。 会社としては、海外勤務者自身が旅行などの手配がしやすいように、現地レベルで①周辺国を含めたカレンダー(祝日など)の把握、②旅行代理店やホテルなどについての情報共有、③コーポレート・レートなど割引制度の積極的活用などを進めるのが良いでしょう。 また、特に本社の管理部門としては、まずは社員の安全・健康管理に気を配っていただきたいと思います。 次に、海外勤務者が不在の時でも仕事がまわるように、短期間でも事業継続のためのマニュアル、すなわち担当者が不在でもローカルスタッフに任せて通常の営業を継続するか、あるいは担当者が旅行先から戻り仕事に復帰するまでの間、一時的に仕事を止めるのかなど、約束事をしっかり整備してクライアントに迷惑のかからないようにすることが求められるでしょう(このあたりについては現場の自由裁量度を重んじつつ、現場任せにして手抜かりにならないよう、目配りだけはしっかりと行ってください)。 また、不測の事態に備えて海外旅行者傷害保険の斡旋や、緊急時の移送サービス、あるいは帰国費用などを手当てする保険の手配も検討し、万一の場合に備えておくことが望ましいです。 さらに会社として最も気をつけなくてはいけないのが、「海外派遣」の場合は出張と違い、労災保険の適用を受けるためには特別加入手続きが必要になるという点です(詳しくは次の厚生労働省HPを参照ください)。 本社としては、これらの注意点をしっかりクリアして、海外勤務者が後顧の憂いなく仕事に打ち込めるよう配慮してください。 2 海外勤務先でのスポーツ (1) 余暇として 欧米先進国は言うに及ばず、アフリカなどかつてその植民地だった国々には、欧米人たちが作り上げた保養地やスポーツ施設などのインフラが行き届いているところが多く、海外勤務地がそのような国になると、日本に居るよりも手軽に本格的なスポーツを楽しむことができます。また、途上国の多くは観光開発に力を注いでいるので、そのような国々でもスポーツを楽しむ機会は多くなるでしょう。 旧英連邦の国々ではゴルフやテニス、乗馬などが、あるいは太平洋の島嶼国だとマリンスポーツやダイビングなども一般的に楽しめます。現地のクラブに入会して、週末は日本よりも安い料金で長時間スポーツに親しむことができるというのも、海外勤務ならではのメリットでしょう。日本よりも進んだ指導を、日本よりも安い価格で受けられたりする場合もあるので、趣味の合う方にはぜひスポーツに親しんでいただきたいと思います。 (2) 人的ネットワークの広がり 特にテニスやゴルフなどでは、日本人会など日本人同士の付き合いもさることながら、現地のキーパーソン、あるいは世界の同業他社から現地に赴任している人たちと知り合いになれる機会もあります。 私事で恐縮ですが、私の家内はかつて(1992~1995年)ケニアに駐在していた折に、現地で知り合ったイギリス人の女性とペアを組んで「ケニアオープン」というテニスの大会に出場し、女子ダブルスでベスト8にまで勝ち進んだことがありました(1994年大会でした)。 当時はその他にも、現地の日本人会とドイツ人会の間で親善テニス大会があったり、試合の後は懇親会でワインをご馳走になったりと、なかなか日本では味わえない体験をさせていただきました。 (3) 接待行事 打って変わってこちらはとても日本的なお話だと思いますが、休日に本社からの出張者やクライアント関係者などとゴルフやテニスをするという機会も、海外勤務には付いてまわります。 ふだんからクラブでの居住まいに気をつけていれば、そのようなときにもゲストに対してクラブ側に「お客様」としての扱いをしてもらえるものです。せっかくの機会ということでゲストに気持ち良くプレーしてもらえるようにするのも、海外勤務者の仕事のうちかもしれません。 (4) 会社側が気をつけること 現地レベルでは、歴代の海外勤務者間で引き継がれるような形になろうかと思いますが、現地のスポーツクラブや施設などとの関係づくりが重要な要素になると思います(メンバーシップの維持や、持ち回りの役員など)。 このあたりは、言ってみればノウハウ化のような側面がありますので、新しい派遣先ができるような場合には、初代の海外勤務者に対して本社側から積極的にそのような機会を活用するよう働きかけてください。 テニスクラブのコーチやゴルフクラブのキャディは、やがて馴染みになると必ずその人が付いてくれるようになるのは洋の東西を問わないようです。そうなったらしめたもの、海外勤務者の生活にも、新しい土地で根が生え始めることになります。 本社の管理部門においては、旅行に比べればリスクは大きくないかもしれませんが、余暇についても万一の時に備えて保険が手当てされていることは確認しておいた方が良いでしょう。海外勤務者がどのような趣味を持ち、どこのクラブでどんなスポーツをしているのか、また、家族帯同の場合は家族についても情報として把握するようにしてください。 休日に自宅からスポーツクラブへ行くための交通手段が自家用車となる場合には、運転手の確保がどうなっているかについても把握しておくべきです。特に海外勤務者自身、あるいは家族が自分で運転する場合などについては、保険の手当てに加えてロードサービスの有無や事故の際の対応手順などを確認しておくに越したことはありません。 3 候補選定上のポイント 海外勤務者の能力あるいは資格要件として旅行好き、あるいはスポーツ好きであることを求めるものではありませんが、現地で頻繁な出張をこなすためには、ある程度旅行を苦にしないことが、また現地での生活を実りあるものとして過ごすためには、ある程度スポーツ好きであることが、長い目で見ると大きなアドバンテージになってくるものです。 ふだんからよく観察していれば、そのような人材は本社に勤務している段階でも目にとまるのではないでしょうか。 海外出張があっても仕事のペースを乱されないとか、ゴルフの話題が豊富だとか、いつも社内のスポーツ大会ではケガなく活躍しているなどの例は、候補者選定に直結するわけではありませんが、人事的には気に留めておくべき個性だと言えます。 4 まとめ 海外勤務者は、海外生活者でもあるわけで、生活の中には余暇の過ごし方が大きな比重を占めます。楽しい生活の思い出は、海外勤務体験そのものを成功体験にまで押し上げてくれます。 とはいえ、日本に居ればそこはプライバシーの領域になりますから、会社としてはどのようにケアすればよいのかというノウハウが溜まりにくい部分ではないでしょうか。 今回はその中で代表的な旅行とスポーツを取り上げましたが、出張や接待とも裏表で関係する部分でもあるので、①保険などの事故対策、②現地事情の把握とノウハウ化に加え、③勤務者及び家族についての情報把握について、本社側でも目配りを欠かさないようにして、海外勤務者が生活者としても成功できるよう配慮することをお薦めします。 (了)
《速報解説》 年金総額保証付後厚終身年金特約に基づき支払われる年金額(雑所得)の必要経費の計算方法に関し、東京局より文書回答事例が公表される 税理士 内山 隆一 東京国税局は平成29年9月22日付け(ホームページ公表は10月25日)ホームページにおいて、文書回答事例「年金総額保証付後厚終身年金特約に基づき支払われる年金に係る雑所得の金額の計算上、必要経費に算入する金額(所得税法施行令第183条に基づき計算する場合)について」を公表した。 1 年金に係る雑所得の必要経費の計算について 生命保険契約等に基づく年金で、年金の支払開始日において年金の支給総額が確定していないものの雑所得に係る必要経費は、下記算式のとおり、年金年額に年金支払総額の見込額に占める払込保険料の額の割合を乗じて計算することとされている。 終身年金に係る年金支払総額の見込額は、次の区分に応じ、それぞれに定める額とされている。 (1) 終身年金で、受給権者の生存中支給する(余命年数を支給見込年数とする)ほか、保証期間内に死亡した場合には、死亡後においても保証期間中は年金を支給するもの (2) 上記(1)の②の場合で、受給権者の生存中の年金年額と受給権者の死亡後の年金年額が異なるもの (3) 年金の支給条件が上記(1)及び(2)と異なるもの ⇒その支給の条件に応じ、その年額、受給権者等に係る余命年数及び保証期間を基礎として(1)及び(2)に準じて計算する。 2 本件事前照会の内容 (1) 年金に係る雑所得の必要経費の計算について 本件事前照会の保険契約では、保証期間中に被保険者が死亡した場合には、死亡後においても指定の受取人に年金が支払われるため上記1(1)に該当するが、上記1(2)のように受給権者の死亡前後で年金年額が異なるのではなく、契約者が任意に決定した年金額変更日の前後で年金年額が異なるものであるため上記1(2)には該当しない。 そこで、上記1(3)に基づいて、下記のとおり取り扱って差し支えないか照会されたものである。 ① [余命年数<保証期間]の場合 (イ) 保証期間<前期年金支払期間 前期年金支払期間に支給される年金年額 × 保証期間年数 (ロ) 保証期間>前期年金支払期間 ② [余命年数>保証期間]の場合 (イ) 余命年数<前期年金支払期間 前期年金支払期間に支給される年金年額 × 余命年数 (ロ) 保証期間>前期年金支払期間 (2) 一時金に係る雑所得の必要経費の計算について 保証期間付終身年金契約において、年金受取人による一括支払請求により支払われる一時金が雑所得に該当する場合の必要経費についても、上記(1)により計算して差し支えないか照会されたものである。 3 本件事前照会に対する結論 上記2(1)(2)とも、年金支給総額の見込額の計算方法として合理的な基準であると考えられるため、照会のとおりで取り扱って差し支えないと回答されている。 (了)
《速報解説》 セルフメディケーション税制、 平成29年分の確定申告期を前にポイントを確認 ~明細書の添付義務化、領収書の保存にも留意~ Profession Journal編集部 平成28年度税制改正により創設され、平成29年1月1日から施行された「セルフメディケーション税制」。適用初年となる本特例制度の最新情報について、平成29年分の確定申告の時期を迎える前に、改めて確認しておきたい。 ◆対象となるスイッチOTC医薬品は厚労省HPで確認可 セルフメディケーション税制は平成29年1月1日から平成33年12月31日までの間に購入した「スイッチOTC医薬品」を対象として、その年中に支払った対価の額が1万2,000円を超えた部分(8万8,000円を上限)について、その年分の総所得金額から控除するという医療費控除の特例制度だ。 【セルフメディケーション税制概要について】 (※) 厚生労働省ホームページより この「スイッチOTC医薬品」とは「要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された医薬品」とされているが、どの製品がそれに該当するのか素人目には判別が難しい。 そこで、下記の厚生労働省ホームページでは、本特例制度の概要等とともにスイッチOTC医薬品に該当する製品を「対象品目一覧」として掲載しているので、すでに本年1月以降に購入した医薬品が該当するか否かは、こちらで確認することができる。 なお、スイッチOTC医薬品に該当する製品の多くには次の共通識別マークが入っているので、パッケージ等にこのマークが記載されている場合は本制度の対象になる(購入時期に注意)。 〈セルフメディケーション税制の対象製品パッケージに表示される共通識別マーク〉 (※) 日本OTC医薬品協会ホームページより ◆医療費控除との重複適用は不可 セルフメディケーション税制は従来の医療費控除制度と併用することができないため、より控除額が大きい方を選択する際には両者の控除額を計算し、比較・検討する必要がある。 下記の日本一般医薬品連合会の特設ページでは必要情報を打ち込むことで具体的な控除額の算定ができ、両制度の比較も簡単に行うことができる。 ◆平成29年度税制改正による添付書類の変更に注意 平成29年度税制改正により、医療費控除を適用する場合には確定申告書の提出の際に、医療費の領収書の添付又は提示に代えて「医療費控除の明細書」の添付が義務化された。 同様に、セルフメディケーション税制を適用する場合には確定申告書の提出の際に、スイッチOTC医薬品の領収書の添付又は提示に代えて「セルフメディケーション税制の明細書」の添付が義務化されているので注意が必要だ。 なお、各明細書の様式と記載要領については下記の国税庁ホームページで確認できる。 このように、医療費及びスイッチOTC医薬品の領収書の添付又は提示は、確定申告書の提出の際には必要ない。ただし、税務署長は確定申告期限から5年間は、その適用に係る領収書の提示又は提出を納税者に求めることができるため、その期間中においては領収書の保存が必要となるので、紛失等には気をつけたい。 ◆厚労省のQ&Aは最新のものを 厚労省は昨年からセルフメディケーション税制に関するよくある質問と回答をまとめたQ&Aを特設ページ上で公表している。本年9月1日にも更新が行われ、適用要件となる「一定の取組」に関する質問が10問追加されている。 クライアントに周知する際には最新のQ&Aを確認するようにしたい。 (了)
《速報解説》 国税庁、配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しに関するFAQを公表 ~年の途中で「源泉控除対象配偶者」に該当することとなった場合の対応等を紹介~ Profession Journal編集部 昨日(2017/11/9)公開の本誌No.243でも下記記事において解説を行ったとおり、配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しに伴い、平成30年1月の支払給与に係る源泉徴収等の実務より、本改正への対応が求められることになる。 29年分の年末調整時期を前に、本改正に関する情報はすでに国税庁の特設ページ(「配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しについて」)において順次公表されているが、このほど新たに、本改正に関する全15問のFAQが公表された。 FAQでは本改正の適用時期や新たな概念である「源泉控除対象配偶者」・「同一生計配偶者」の定義に関する基本的な説明のほか、「平成30年分の「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出するに当たり、配偶者が源泉控除対象配偶者に該当するかどうかは、どの時点で判断するのか」(問5)という問いに対し、「平成 30 年分の「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出する日の現況により判定する」とした上で、「判定の要素となる合計所得金額の見積額については、例えば、直近の源泉徴収票や給与明細書を参考にして見積もった平成30年中の合計所得金額により判定することとなる」としている。 また、「年の中途で、給与所得者又は配偶者の合計所得金額の見積額に異動があり、源泉控除対象配偶者に該当することになった場合(又は該当しないこととなった場合)」の対応(問6・7)については、「給与所得者は、給与所得者又は配偶者の合計所得金額の見積額に異動があった日以後最初に給与の支払を受ける日の前日までに「給与所得者の扶養控除等異動申告書」を給与の支払者へ提出する」としている。 (注) 既に源泉徴収を行った月分の源泉徴収税額については遡って修正することはできないため、年末調整により精算される。 その他、源泉控除対象配偶者に該当しない配偶者が控除対象配偶者に該当する場合に、年末調整において配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けるために提出が必要となる、平成30年分の「給与所得者の配偶者控除等申告書」の記載事項に関する問答も掲載されている(問13他)。 今後このFAQが追加等される可能性もあるが、実際に本改正の影響を受けるか否かに関わらず、従業員からは様式の記載方法等の問い合わせが増えることが十分予想される。これらに対応するためにも、上記国税庁の特設ページ内に公表される各種情報については今後も注視しておきたい。 (了)