《速報解説》 会計士協会、「医療法人及び社会福祉法人に焦点を当てた非営利組織に関するガバナンスの在り方」に関する研究報告を公表 ~効果的かつ効率的な経営に導く組織ガバナンスの在り方を検討~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年1月25日、日本公認会計士協会は、「持続可能な社会保障システムを支える非営利組織ガバナンスの在り方に関する検討」(非営利法人委員会研究報告第31号)を公表した。 研究報告は、医療法人及び社会福祉法人に焦点を当てて非営利組織に関するガバナンスについて研究したものである。これらの法人は、民間非営利組織のうち主たる社会保障サービス提供主体である。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 研究報告の主な内容 研究報告の構成は次のとおりである。 Ⅲ 非営利組織における効果的なガバナンスに関するポイント 非営利組織における重要なステークホルダーとして、受益者、資源提供者、従業員、地域社会、政府等が考えられるとしている。 ガバナンスの目的を達成するための基本要素として、(1)経営理念及び組織目的の明確化、(2)責任あるステークホルダーの参画、(3)経営、監督、監査機能の存在及び(4)情報開示と透明性を挙げ、次のポイントを提示している(研究報告ⅲ~ⅴ。61~67ページ)。 (了)
2017年1月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.203を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第31回】 「従業員が仕入先からリベートを受け取っていた事件の考え方」 税理士 山本 守之 1 損害賠償請求権の益金算入時期 (1) 考え方の区分 法人が他人の不法行為によって損害を受けた場合には、その損害の発生と同時に損害賠償請求権を取得しますが、その法人の課税所得の計算上、不法行為に係る損失の損金算入時期及び損害賠償請求権の益金算入時期については様々な学説があります。 不法行為等によって法人に損害が生じても、損害賠償金の収益計上時期によっては、損金と益金が相殺されてしまいます。これらに関する学説は、①損失確定説、②同時両建説、③異時両建説、④損益個別確定説があります。しかし、これらのうちキャンパスの中での論議を除くと、同時両建説と異時両建説が問題として取り上げられることが多いようです。 このうち「同時両建説」は、「損害の発生とこれを補てんすべき損害賠償という2つの事象を法律的に結びつけるところから出てくるもので、民事上の法的基準を重視する立場からすれば、一見しごく当然のことのようである。」(渡辺淑夫『法人税解釈の実務』)という見解があります。 これに対して「異時両建説」は「損害の発生による損失は損失としてその発生時点で計上し、損害賠償金収入はこれと切り離してその支払いを受けるべきことが確定した時点で収益計上すれば足りるとするものである。」(前掲書)という見解があります。 この考え方の根拠については、「たとえ民事上は損害の発生と同時に損害賠償請求権が発生するとしても、それはあくまでも観念的、抽象的なものであって、現実には、この種の事件にあっては、そもそも相手方に損害賠償責任があるのかどうかについて当事者間に争いがあることが少なくない上、仮に相手方に損害賠償責任のあることが明確であるとしても、具体的にいかなる金額の損害賠償金を受け得るのかについては、さらに当事者間の合意又は裁判の結果等を待たなければ確定しないのが普通であるから、保険金や共済金のようにあらかじめその支払いを受けること及びその金額が契約上明らかになっているものとは異なり、これにつき厳密な費用収益の対応を求めるのは実情に合わないというのがその論拠になっている。」と説明されています(前掲書)。 (2) 通達の背景となる考え方 2つの意見について、税務部内では、次の判決例により同時両建説で決着したといわれることがありました。 しかし、昭和55年5月の法人税基本通達の第二次改正において、問題点の整理がなされました。同通達では次のように書かれています。 ここでは、損害賠償金をその支払いを受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入することを原則としています。 すなわち、観念的、抽象的に損害賠償請求権が発生したとされる時点ではなく、その支払いを受けること及びその金額が具体的に確定した時点をその収益計上の基準にしているのです。 これは、損害賠償請求権とその基因となった損害とを切り離して処理することとしたのです。 このような考え方は、昭和54年10月30日付の東京高裁判決が、詐欺被害に基づく損害の計上時期に関し、従来の判例を覆し、潜在的な損害賠償請求権とは切り離して、当該損害をその確定時の損金とすることを認めたことも、本通達制定に強い影響を与えたものと考えられます(同判決は、最高裁昭和60年3月14日判決により確定。税資109号127項、144号546頁参照)。 この結果、本通達では役員又は使用人に対する損害賠償請求権については、この通達の埒外とすることとし、ケース・バイ・ケースで考えることにしたのです。 法人税基本通達2-1-43では、「他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含む。)の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、・・・(下線筆者)」としています。これは、「他の者から支払を受けるもの」はほぼ異時両建説によっているものといえます。 課税庁の説明(『法人税基本通達遂条解説』)でも、「損害の発生と同時に損害賠償請求権を収益計上させるというような考え方は著しく実態から遊離する場合が少なくなく、一般的にこの基準によることは相当でないというべきであろう。」としています。 しかし、この通達において「他の者から支払を受ける」と限定しているように、役員又は使用人に対する損害賠償請求権はこの取扱いの埒外のものとし、ケース・バイ・ケースで判断することとしていると考えるべきでしょう。 注目すべき判決では、第一審は異時両建説、第二審は同時両建説、上告審(平21.7.10)は不受理でしたので、同時両建説で確定しています(東京地判平20.2.15、東京高判平21.2.18)。 この点について法人税基本通達逐条解説では、 としています。 2 学界、官界を批判する判決 他人不法行為に基づく損失と損害賠償請求権(益金)をめぐって同時両建説や異時両建説で問題を解決していた学界、税務大学校、国税庁に対して激しく批判する判決が平成24年2月29日仙台地裁でありました。ここでは損害賠償請求権がどのような場合に成立するのか、その要件は何かを問うものでした。 【問題点】 従業員が経営者の知らぬ間に関係業者からリベートを収受していたものを法人税法第11条、第13条(実質所得者課税の原則)の趣旨からみて、手数料はA社が収受しており、従業員は単なる名義人で実質的にA社に帰属するとみることができるか否かが問題です。 従業員の不正の場合、課税庁は同時両建説を安易に適用して、リベートを本来受けるべきは法人であるから法人の益金の額に算入するという判示も見受けられるので、慎重に検討する必要があります。 【検 討】 本件でも原処分庁(塩釜税務署長)は、A社は従業員が受け取った手数料に係る収益を益金の額に算入せず、A社に属する手数料を費消して横領した従業員に対する損害賠償請求権の額を課税資産の譲渡等の対価の額に算入せずに隠ぺい又は仮装を行ったのに対し、A社は、本件手数料に係る収益は従業員ら個人に帰属するものであって、隠ぺい又は仮装を行った事実もない旨主張して争った事件です。 この点について裁判所では、下記のように判示しました。 これらの事実に関する原処分庁と会社側の主張は次のようなものでした。 これらの主張に対して仙台地裁は次のように判断しました。 【結 論】 リベートは会社が収受すべきところ、これを従業員が費消してしまったから損害賠償権が生じ、これを益金の額に算入するという論理は使えません。 (了)
〔平成29年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第1回】 「「法人税率の引下げ」及び「法人事業税及び地方法人特別税の見直し」」 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成28年度税制改正における改正事項を中心として、平成29年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。本連載では、その中でも主なものを解説する。 【第1回】は、「法人税率の引下げ」及び「法人事業税及び地方法人特別税の見直し」について、平成29年3月期決算において留意すべき点を解説する。 1 法人税率の引下げ 平成27年度税制改正により法人税率の引下げが行われたが、平成28年度税制改正により、さらなる引下げが行われている。 平成28年4月1日以後に開始する事業年度における法人税率は、改正前の23.9%から23.4%に引き下げられた。さらに、平成30年4月1日以後に開始する事業年度においては23.2%まで引き下げられている。 また、平成27年度税制改正により、平成29年3月31日までに開始する事業年度については、本来は19%である中小法人等に対する軽減税率(課税所得800万円までに適用される法人税率)が、特別措置により15%に引き下げられている(注)。したがって、平成29年3月期決算においては、中小法人等の軽減税率としては15%が適用される。 平成29年3月期の決算申告においては、法人税率の変更が必要となる。 なお、平成28年12月22日に平成29年度税制改正大綱が閣議決定され、中小法人等に対する軽減税率の適用期間は2年間(平成31年3月31日までに開始する事業年度まで)延長される予定である。 2 法人事業税及び地方法人特別税の見直し 平成26年度及び平成27年度税制改正において、事業税が大きく見直されたが、さらに平成28年度税制改正において外形標準課税の見直しが行われている。 ① 外形標準課税の適用対象でない法人 平成26年度税制改正により、平成26年10月1日以後に開始する事業年度から、事業税所得割と地方法人特別税の税率が変更されている。ただし、平成29年3月期決算申告においては、平成28年3月期と税率(標準税率)は同じである。 【事業税所得割と地方法人特別税の税率(標準税率)】 (※) 所得割額に対して乗じる税率 ② 外形標準課税の適用対象法人 平成28年度税制改正において外形標準課税の見直しが行われたため、平成29年3月期においては、事業税率及び地方法人特別税率が変更されている。また、平成30年3月期以降は地方法人特別税が廃止され、事業税所得割の税率が引き上げられる。 【事業税と地方法人特別税の税率(標準税率)】 (※) 所得割額に対して乗じる税率 ③ 外形標準課税の負担増加の軽減措置 平成27年度税制改正において外形標準課税が拡大されたことによる事業税の負担増に対して、付加価値額が40億円未満の法人に対しては、一定額を控除する軽減措置が導入されている。この軽減措置が平成28年度改正により拡充されている。 具体的には、軽減措置の対象期間が2年間(平成31年3月31日までに開始する事業年度まで)延長され、かつ、平成28年4月1日から平成29年3月31日までに開始する事業年度においては、控除割合が拡大されている。したがって、平成29年3月期決算申告においては注意が必要である。 【事業税額の控除割合】 (※1) 前事業年度末(平成27年3月31日)現在の税率で算定した事業税額を超える金額 (※2) 平成28年3月31日現在の税率で算定した事業税額を超える金額(平成30年3月期及び平成31年3月期においても、平成28年3月31日現在の税率で算定した事業税額と比較) ④ 事業税付加価値割における所得拡大促進税制の適用 平成30年3月31日までに開始する事業年度においては、給与等支給額が一定割合以上増加している法人において、一定額を付加価値割の課税標準から控除する制度が適用されている。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第1回】 「年の途中で海外転勤となる従業員の所得税・住民税の取扱い」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私(日本国籍)甲は、メーカー乙社の従業員(課長補佐)をしています。年初に会社からの辞令が下り、平成29年3月10日より、A国へ3年間転勤することになりました。 乙社の給料は21日起算の20日締めで、25日に支払われます。賞与は、12月1日から5月31日までの期間については6月10日に支払われます。なお、給料は転勤後も乙社から支払われ、所得税や住民税は給料から差し引かれています。 A国の事情により私一人で単身滞在となり、家族は国内の自宅に残ります。給料はA国に出国した後、本給部分はA国に送金され、家族手当分は日本の口座に支払われます。 この場合、出国後は、所得税や住民税は給料から差し引かれることになりますか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷居住者の所得、非居住者の所得 所得税の課税を考えるに際して、どの種類の納税義務者になるかにより、課税所得の範囲が異なる。 「居住者」とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人(所法2三)であり、「非居住者」は居住者以外の個人(所法2五)である。居住者は「非永住者」と「非永住者以外の居住者」に分類されるが、日本国籍のある人は非永住者にはなれない。 居住者については、すべての所得について所得税の納税義務があり、非居住者については、国内源泉所得について納税義務が課される(所法5①・②一)。 このように課税の世界では、居住者か非居住者かによって課税所得の範囲が大きく異なることから、どのような場合が居住者・非居住者になるかという点が重要となる。 実質基準により判断するのが原則であるが、それでは実務上混乱が多く生ずることが予想されることから、国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合には、非居住者と推定される(所令15①一)。 甲の場合、3年間A国に転勤することになるので、A国への出国の翌日から非居住者となる。たとえ会社都合で、出国後、転勤期間が1年弱に変更となったとしても、課税の修正は行われない。 ▷給料の所得税等の取扱い 非居住者となった従業員の国外勤務期間の給与は、国内源泉所得に該当しないことから(所法161①十二イ)、所得税や復興特別所得税(以下、所得税等)はかからない。家族手当も国外勤務の対価と考えられることから同様である。 また、給与等の計算期間の中途において居住者から非居住者となった場合、給与等の計算期間が1ヶ月以下であれば、給与等の計算期間のうちに1日でも国外勤務期間が含まれている場合は、所得税等の課税はされない(所基通212-5)。 甲の場合、3月10日に出国しているが、給料の計算期間(2月21日から3月20日(1ヶ月)までの間)には、国内の勤務期間と国外の勤務期間の両方があることから、3月25日支払いの給料から所得税等の源泉徴収はなされない。 甲の出国前の最後の給料の支払いの時に、原則的には、年末調整と同じ所得税等の調整が行われる(所法190、所基通190-1(2))。 ▷賞与の所得税等の取扱い 賞与については、賞与の計算期間のうち国内勤務期間に対応する部分については課税対象となる(所基通161-41)。 したがって、平成28年12月1日から5月31日までの期間のうち、3月10日までの期間に対応する賞与については所得税等が課される。この場合は、20.42%の税率で源泉徴収される(所法212、213、復興財確法28)。 甲は、日本国内に家族のある自宅はあるが、事業を行う拠点は持っていない恒久的施設を有しない非居住者に該当し、非居住者が受ける国内源泉所得である給与所得の課税は源泉分離課税となり、確定申告による調整を行うことはできない(所法161①十二イ、164②二)。 ▷住民税の取扱い 住民税については、前年分の所得について、特別徴収が6月から翌年5月までの給与から差し引かれる。 年の中途において非居住者となった場合で、給与について住民税の特別徴収がなされている人については、出国までに残りの住民税を一括して払う方法もあるが、継続して給与から特別徴収がなされるのが一般的である。 したがって、甲の場合、3月以降の給料について継続して住民税の特別徴収が行われるのではないかと考える。 (了)
平成28年分 確定申告実務の留意点 【第2回】 「平成28年分の申告から取扱いが変更となるもの②」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 前回に続き、平成28年分の所得税計算から取扱いが変わるもののうち、確定申告実務に影響があると考えられる事項について解説する。 (1) 給与所得控除額の上限の引下げ 給与所得控除額の上限が下記の通り引き下げられ、給与収入1,200万円を超える場合には一律230万円となった(所法28③)。 (2) 公社債等に係る課税方法の見直し 平成28年1月1日以後の公社債等の利子等、配当等及び譲渡による所得について、課税方法の見直しが行われている。 以下に概要を示し、詳細については本シリーズ【第3回】で解説を行う。 〈公社債等の区分〉 (※) 特定公社債:国債、地方債、外国国債、公募公社債、上場公社債、平成27年12月31日以前に発行された公社債等 〈特定公社債等の課税方法〉 (注) 表内の税率は所得税及び復興特別所得税を合わせたものであり、他に住民税5%がかかる。 (3) 株式等に係る譲渡所得等の課税方法の見直し 平成28年1月1日以後の株式等に係る譲渡所得等は、「上場株式等に係る譲渡所得等」と「一般株式等に係る譲渡所得等」に区分されることとなった(措法37の10、37の11)。 この見直しにより、上場株式等と非上場株式等と間で譲渡損益の通算をすることができなくなる。詳細については、本シリーズ【第3回】で解説を行う。 (4) 多世帯同居改修工事をした場合の特例の創設 住宅に多世帯同居改修工事をして、平成28年4月1日以後に居住の用に供した場合には、次の制度を選択適用することができる。 ▷住宅借入金等がある場合に適用できる制度 ① 住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除(措法41) ② 特定の増改築等に係る住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の控除額に係る特例(措法41の3の2) ▷住宅借入金等がない場合にも適用できる制度 ◆ 既存住宅に係る特定の改修工事をした場合の所得税額の特別控除(措法41の19の3⑤) 本特例については、次の拙稿をご参照いただきたい。 (5) 非居住者期間に住宅を取得等した場合の住宅借入金等特別控除等 従来、非居住者期間に居住用の住宅を取得したりリフォームした場合には、他の要件を満たしていても、住宅借入金等特別控除や所得税額の特別控除の適用を受けることはできなかった。 これが平成28年度税制改正により、平成28年4月1日以後は、非居住者期間に住宅を取得したりリフォームした場合にも、他の要件を満たしていれば住宅借入金等特別控除や所得税額の特別控除の適用を受けることができるようになった。 対象となる制度は、次の通りである。 (6) 特定支出控除の対象から除かれる給付金 平成28年分以後の所得税においては、特定支出控除の対象から除かれる金額として、特定の給付金が支給される部分が追加されている。 〈特定支出控除の対象から除外される部分〉 詳細については、以下の拙稿をご参照いただきたい。 * * * 【第3回】は、株式等と公社債等に係る所得に対する課税の見直しについて解説を行う予定である。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第12回】 「別表6(19) 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(19)付表 雇用者給与等支給増加重複控除額の計算に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第12回目は、以前【第4回】で解説した「別表6(21) 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」(平成27年4月1日以後開始事業年度版)が平成28年度税制改正により様式が変更となったため、改正後の「別表6(19) 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」(平成28年4月1日以後開始事業年度版)をあらためて採り上げるとともに、創設された「別表6(19)付表 雇用者給与等支給増加重複控除額の計算に関する明細書」を採り上げる。 Ⅱ 概要 別表6(19)は、平成28年4月1日以後、青色申告書を提出する法人が租税特別措置法第42条の12の4第1項の規定、いわゆる「所得拡大促進税制」の適用を受ける場合に作成する。 また、平成28年度の税制改正により、租税特別措置法第42条の12第1項から第3項までのいわゆる「雇用促進税制」(「別表6(16) 雇用者の数が増加した場合又は特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」)との重複適用が一定の調整のもと可能となったため、これらを重複して適用する場合には、調整計算のための「別表6(19)付表 雇用者給与等支給増加重複控除額の計算に関する明細書」を作成することになる。 なお、所得拡大促進税制についての概要については連載【第4回】の解説をご覧いただくとともに、以下の事例も、連載【第10回】の雇用促進税制(別表6(16)及びその付表)で解説した事例の会社が重複適用したらどうなるか、という観点から数字を合わせて解説しているので、適宜参照していただきたい。 Ⅲ 「別表6(19)」及び「別表6(19)付表」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 重複適用の場合は、平成28年4月1日以後開始する事業年度。 (ただし重複適用をしないで別表6(19)のみ作成する場合は、平成28年4月1日以後終了する事業年度より適用可能。) (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 別表6(19) 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書 [基準雇用給与等支給額の計算]欄 [比較雇用者給与等支給額の計算]欄 [平均給与等支給額及び比較平均給与等支給額の計算]欄 〔24欄〕から〔29欄〕までの各欄は、「適用年度」の①欄、「前事業年度又は前連結事業年度」の②欄にそれぞれ分けて記入していく。 別表6(19)付表 雇用者給与等支給増加重複控除額の計算に関する明細書 [過年度雇用者給与等支給増加重複基準額の計算]欄 適用年度において措置法第42条の12第3項の規定の適用を受ける場合であって、かつ当該適用年度開始の日前に開始した各事業年度(調整年度)に同条第2項の規定の適用を受けた場合に記載する。 事例では重複適用初年度で該当がないので、以下すべて空欄となる。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例46(個人事業税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆個人事業税における不動産貸付業 個人事業税は、事業の所得を課税標準として、事務所又は事業所所在の都道府県において、これらの事業を行う個人に課する都道府県民税である。個人事業税は、地方税法及びこれに基づく政令において、第1種事業、第2種事業及び第3種事業として法定列挙されている事業について課される。 不動産貸付業は、継続して、対価の取得を目的として、不動産の貸付けを行う事業であり、第1種事業に法定されている。不動産貸付業に該当するかどうかの認定に当たっては、所得税の取扱いを参考とするとともに、当該不動産の規模、賃貸料収入の状況、当該不動産の管理の状況等を総合的に勘案して行うこととなっており、その判定基準は各自治体により異なっている。 ◆神奈川県における不動産貸付業 神奈川県においては、建物の貸付けを行っている場合においては、一般的な課税対象としての判断基準である、いわゆる5棟10室に満たない場合であっても、当該貸付面積が600㎡を超え、かつ、貸付けに係る賃貸料(一時に受ける権利金、更新料、礼金等を除く)のうち個人に帰属する収入金額が年1,200万円を超えるときは、不動産貸付業と認定し、個人事業税の課税対象としている。 ◆地方税における更正、決定等の期間制限(地法17の5第4項) 地方税の課税標準又は税額を減少させる賦課決定は、法定納期限の翌日から起算して5年を経過する日まですることができる。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q29】 「個人が任意組合契約に基づき利益の分配を受ける場合の所得計算」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 任意組合の税務上の取扱い 【Q28】の通り、日本の税務上、任意組合等において営まれる事業から生ずる利益や損失については、原則として分配割合に応じて、各組合員に直接帰属します。 2 任意組合員の所得計算及び所得分類 所得税基本通達上、組合員の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する利益の額又は損失の額は、次の①の方法により計算することとされています。ただし、①の方法により計算することが困難と認められる場合で、かつ、継続して②又は③の方法により計算している場合は、その計算が認められます。 ①(総額方式)、②(中間方式)の場合は、原則として、任意組合の損益計算書の分配割合分を認識することになると考えられますので、組合が受け取る収入金額は、組合員が分配割合に応じて収入したとみることになります。すなわち、個人組合員における所得の金額の計算上、任意組合において発生する所得をその属性に応じて所得税法に規定する各種所得に区分することが必要となります。 一方、③(純額方式)の場合は、各組合員に按分される利益又は損失は、当該組合事業の主たる事業の内容に従い、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得のいずれか一の所得に係る収入金額又は必要経費とする、とされています。 なお、各計算方法によって、各種所得の計算上、適用が受けられる税法上の規定とそうでないものがあります(例えば、配当控除、源泉税控除等は①②については適用が可能ですが、③については適用はありません)。したがって、原則的な方法である①を採用することが、基本的には望ましいと考えられます。 3 本件へのあてはめ 本件の任意組合事業からは、不動産賃貸収入のほか、利子、配当、有価証券の譲渡益等があるとのことですので、個人組合員が①の総額方式又は②の中間方式で認識しているのであれば、組合から生じる利益をそれぞれの収入の内容に応じ、不動産所得、利子所得、配当所得、株式等に係る譲渡所得等として分類する必要があると考えられます。 一方、個人組合員が③の純額方式で認識している場合、組合利益については、組合の主たる事業が不動産賃貸業といえるのであれば不動産所得として、主たる事業が不動産賃貸業といえないのであれば雑所得として総合課税の対象になると考えられます。 (了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第24回】 「租税法上の評価⑧」 公認会計士 佐藤 信祐 前回では、東京高裁平成22年12月15日判決について解説を行った。 本稿では、国税不服審判所平成11年2月8日裁決について解説を行う。本事件は、非上場株式を関係会社の代表者に対して額面金額で譲渡した事件である。 8 国税不服審判所平成11年2月8日裁決・裁決事例集57号342頁 (1) 事実の概要 本事件は、請求人が自己の所有する関係会社(G社)の非上場株式をG社の代表取締役(J)に1株当たりの額面金額で譲渡したことにつき、法人税基本通達9-1-15(改正により9-1-14)を援用し評価通達の例により計算した評価額に比べて低額であるから、その価額と譲渡価額との差額は寄付金であるとして否認された事件である。 なお、本件株式譲渡は、当該代表取締役の経営責任をより明確にすることを目的として行われたものであり、以下の事実が認められる。 (2) 審判所の判断 (3) 評釈 このように、国税不服審判所は納税者の主張を認めず、国側の課税処分を認めた。法人税基本通達9-1-15を採用するならば、類似業種比準方式との折衷も検討すべきであると思われるが、この点についての指摘がないことから、類似業種比準方式の方が高い評価額であったからと推定される。 なお、純資産価額の具体的な内容を見てみると、1株当たりの純資産価額12,610円に対し80%を乗じた金額である10,088円を時価としている。このことは、財産評価基本通達185において、 と規定されている内容に準拠したものと言える。 本事件の最大の争点は、代表取締役Jに対する譲渡に対して、配当還元方式を用いることができたかどうかという点である。実務上、譲渡人の立場で考えるやり方と譲受人の立場で考えるやり方の2つがある。本事件では、譲渡人における寄付金が問題とされているため、譲渡人の立場で考えるべきである。すなわち、自らの関係会社であることから、配当還元方式を用いる余地がなく、原則的評価方式によるべきである。 これに対し、本事件における当事者の争いでは、譲受人の立場で考えており、本来の争点から外れているように思える。もし、譲受人の立場で考えたとすれば、請求人は、 と主張している。すなわち、Jは関係会社G社の代表取締役に過ぎないのだから、経営の権限は存在しないということであろう。 この点につき、原処分庁は、 と反論している。JがG社の発行済株式の40%を保有し、かつ、G社の代表取締役であることまで考えると当然のことと言える。 このように、本事件では、G社の代表取締役に40%も持たせておきながら、配当還元方式を採用しようとしたことに無理があったと言える。 次回では、国税不服審判所平成22年9月2日裁決について解説を行う予定である。 (了)