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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第52回】社会福祉法人夢工房「第三者委員会調査報告書(平成28年10月17日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第52回】 社会福祉法人夢工房 「第三者委員会調査報告書(平成28年10月17日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【第三者委員会による調査の概要】   【社会福祉法人夢工房の概要】 社会福祉法人夢工房(以下「夢工房」と略称する)は、昭和22年7月姫路保育園として事業を開始。昭和42年7月に社会福祉法人化。介護事業と保育事業を営む。現理事長黒石誠(報告書上の表記は「A」、以下「理事長」と略称する)は、創業者である黒石長光から数えて4代目であり、歴代の理事長職には黒石家の人間が就任してきた。理事長の配偶者である黒石静香(報告書上の表記は「B」、以下「統括園長」と略称する)は、全地区保育園統括園長であると同時に、夢工房の理事・評議員である。また、理事長の実母である黒石芳子(報告書上の表記は「E」であり、本稿もこれに統一する)、子である黒石正人(報告書上の表記は「I」であり、本稿もこれに統一する)は、ともに夢工房の評議員である。   【第三者委員会調査報告書の概要】 1 第三者委員会設置の経緯 姫路市は、夢工房に対して行った、平成27年8月の定期監査及び同年9月の特別監査により、理事長実母であるE、理事長義母であるG(統括園長の実母)による架空勤務の事実を確認した。 また、兵庫県龍野健康福祉事務所が、平成28年2月に夢工房が運営する特別養護老人ホーム「シスナブ御津」に立入り検査を行ったところ、理事長実母Eの家政婦の賃金を夢工房の職員給与として支払っている事実を確認した。 これを受けて、兵庫県と姫路市が合同で、平成28年5月に夢工房法人本部に特別監査を行ったところ、以下の不正な支出が発覚した。 こうした調査結果を受けて、兵庫県と姫路市は、不適正な経理の実態や原因の究明、及び夢工房のガバナンス等を早期に解明するとともに、責任の所在の追及、夢工房の受けた損害の回復、再発防止へ向けた取組み等を着実に実行していくため、夢工房に対し第三者による調査委員会を設置し、調査を行うよう指示した。   2 夢工房から不正に支払われたと認定された支出 第三者委員会が認定した不正な支払いは多岐にわたるが、大別すると、次のようにまとめることができる。 (1) 勤務実態のない理事長親族に対する給与の支払い 第三者委員会は、架空勤務疑惑の調査結果について、以下のように、実態がないものと認定した。 なお、上記のうち、⑦に掲げる家政婦に対する支出については、夢工房からの不当利得返還請求に基づき、Eから5%の遅延損害金を加算し法人の給与を仮装して支払った金額が返金されていることを、第三者委員会は確認している(報告書p.55)。 (2) 理事長の子供が通う大学院・専門学校の費用の支払い 上記(1)④・⑤で架空勤務とされていた時期、理事長は、F及びIの進学費用を夢工房から支出させていた。 これらの授業料に関しては、「社会福祉法人夢工房職員の専門資格の取得等に関する内規」に則って支払われているものではあるが、当該内規がFの大学院入学直前に理事会において新設され、F及びI以外に当該内規を利用した職員がおらず、また、職員への周知もされていなかったことから、第三者委員会は、「夢工房の費用で、身内のFやIを進学させようとしたにすぎず、(仮に内規があったとしても、)権限濫用行為に当たる」ことから、内規の適用は違法、無効であるとした(報告書p.51)。 (3) 理事長親族による不正な支出 第三者委員会は、上記以外にも、夢工房名義で購入した高級車を理事長娘Fが独占的に使用したり、統括園長が私的に利用するために購入した物品の領収書を夢工房の経費として処理したりするなど、不正な支出があったことを指摘している。 上記のうち②に掲げる支出については、すでに統括園長から夢工房に対して返金がなされている。しかし、第三者委員会は、これらの行為は「夢工房の口座から出金することが自由にできたことを利用して、法人の金員を私的に流用したもの」であり、業務上横領罪の可能性にまで言及している(報告書p.61)。 上記④に掲げる私的流用については、第三者委員会は、学研教材費として理事長名義の口座に保護者から入金させた金員のうち、理事長が私的に流用した金額につき、「業務上横領罪の成立する余地がある」と認定したものである。この点について、理事長は、理事長個人で学研教室を主宰していたと主張するが、第三者委員会は、そうであるとすれば、理事長個人が学研教室に係る収入について確定申告を行っていないことは矛盾を生じるとしたうえで、仮に理事長の主張を認めるとしても、夢工房の施設や人員を無償で利用しているので、これに対する返金が必要であるとして、さらなる調査の必要性を指摘した(報告書p.60)。   3 理事会決議のない簿外借入金 理事長及びその親族による、こうした法人資金の不正な支出の背景として、第三者委員会は、夢工房が平成9年に設立認可を受けた特別養護老人ホーム「シスナブ御津」設立時の前理事長による約2億円の寄付との因果関係を指摘している。 報告書に記載された兵庫県による「高齢者福祉施設整備の手引き」によれば、「建設費から補助金等を差し引いた額の概ね10%以上の額の自己資金が必要」であり、「自己資金は原則として法人の理事等の役員からの寄付により調達することが必要」とされている。このため、第三者委員会は、特別養護老人ホームの認可申請にあたって、前理事長が自己資金で不足する寄付について、理事会の決議なしに法人名義で借り入れを行い、これを法人に寄付する形をとったと判断している。 簿外借入金の調査時点の残高は62,699,401円であり、これについても、理事長は直ちに法人に返還すべきであるとしている。 ただ、第三者委員会は、今回の問題発生の根本的な問題として、「いったい世の中に何の見返りもなく多額の寄付をする人がどれだけいるか?」という発想に欠ける制度的問題も指摘している(報告書p.18)。   4 夢工房による補助金不正受給 第三者委員会が、補助金の不正な取得として、自治体への返還を認めた事例は以下のとおりである。 上記①の「所長設置加算」とは、常勤専従の施設長を設置した場合に市から上乗せ支給される運営補助金のことであるが、夢工房は、上記2(1)②に記載した理事長実母Eの架空勤務について、同人を姫路保育園の施設長として登録し、不正に「所長設置加算」を取得していた。 また、②の「零歳児調理員加算」とは、東京都港区における零歳児の給食のための調理員の増配置に伴う扶助費制度のことであるが、夢工房では、目黒区にある他の保育園に勤務している調理員の所属を偽装する手口で、この扶助費を不正に受給していた。 上記③の補助金受給については、東京都港区の保育所体験特別事業や保育所地域活動事業に対する経費の一部支給の仕組みを悪用して、上記2(3)③に記載した統括園長による不正な支出の一部を補助金請求に含める方法で、不正に補助金を得ていた。   5 委託契約の合意解除 夢工房が、東京都品川区との間で平成28年度から5年契約で運営管理委託契約を締結している区立保育園について、仕様書で求められている常勤看護師の配置や購入備品の内容に疑義があることが判明して、契約が合意解除された。 第三者委員会は、看護師の配置については、「品川区の対応によっては、損害賠償に応じる必要がある」と指摘するとともに、購入備品について、品川区への水増し請求の疑義を述べるにとどまっている。   6 原因分析 第三者委員会による原因分析として、6項目を挙げた。 (1) 理事長一族による法人の私物化 (2) 理事長の専横(ワンマン)に対する抑止力の欠如 (3) 非常勤理事を主体とする理事会の形骸化 (4) 利用者、従業員の便宜を二の次とする利益優先主義 (5) 急激な拡大に伴う組織の疲弊 (6) 職員のコンプライアンスに対する意識の欠如   社会福祉法人の一般的な運営と夢工房について、第三者委員会は次のように述べている(報告書p.64)。 そうなってしまった理由の一つには、理事長が、「専務理事の当時から数えると13年間、大過なく過ごしてきたどころか、華々しい実績を挙げていた」と第三者委員会も認めざるを得ないほどの実力者であったことが挙げられよう。それを支えたのが「利益優先主義」の経営であり、その一方、ワンマンになり、理事会は形骸化し、職員はコンプライアンスよりも理事長一族の指示に従うほかはなかったというところであろうか。 外部理事・評議員の多くは同業者(社会福祉法人の理事等)や地区の自治会長であり、業界における成功者である理事長とその一族の専横を抑止するには力不足だったのかもしれない。しかし、監事の一人は、「社会福祉法人会計支援」を目的とするコンサルティング会社の代表者であり、監事として、夢工房の不正をどの程度認識できる立場にあったのか、気になるところである。第三者委員会は、監事についても、ヒアリングの結果、統括園長による領収書の偽造を見逃していたこと、公用車両を理事長一族が独占的使用していたことに気がついていなかったことなど、職務の執行が不十分であり、監事としての役割を十分に果たしていないと結論づけている(報告書p.64)。   7 再発防止のための提言 第三者委員会による再発防止策の提言は、以下の6項目である。 (1) 理事長、統括園長の退陣、創業者一族の関与の排除 (2) 理事会の一新 (3) 利用者本位の保育体制の構築 (4) 人材の育成 (5) 従業員教育によるコンプライアンスの徹底 (6) 不正を指摘しやすい環境づくり   筆頭に挙げた、理事長をはじめとする創業者一族の経営からの排除ができれば、おそらくは多くの問題は片がつくはずである。そのうえで、一新された理事会によって、利用者本位の保育体制が構築されれば、すべての利害関係者にとって最善の再発防止策となることは言うまでもない。問題は、夢工房の経営を担う人材をどこに求めるかであろう。   【調査報告書の特徴】 「アダルトDVDに高級車レクサス、婦人服まで・・・不正流用1.4億円、社福理事長一族の乱脈経営」――産経新聞がweb版で伝える【衝撃事件の核心】というニュース記事の見出しである 。同記事では、10月19日に行われた第三者委員会による記者会見の模様も詳報されているが、そこで引用された第三者委員会委員長である藤原孝洋弁護士による発言は、 とかなり厳しいものであった。 その後の報道では、理事長、統括園長(理事)、理事長実母(評議員)の3人の役職を解任したことも伝えられているが、残念ながら、夢工房のホームページ上では確認ができない状況である。 補助金の返還問題、業務上横領とも思える行為や補助金不正受給が刑事事件化するのかなど、夢工房理事長一族の不正問題の解決にはまだ予断を許されない要素も多い。 社会福祉法人が寄付により支えられていること、特別養護老人ホームや保育園といった、本来、市民を助けるべき施設を舞台に行われた不正の悪質性について、また、夢工房に対する期待について、第三者委員会による調査報告書の末尾に記されたコメント(報告書p.75)を引用して、本稿を締め括りたい。 (了)

#No. 193(掲載号)
#米澤 勝
2016/11/10

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第127回】ESOP②「受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引」-信託が市場から株式を取得する場合

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第127回】 ESOP② 「受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引」 ―信託が市場から株式を取得する場合   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明     〈事例による解説〉 〈従業員への福利厚生を目的として、受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引〉 〈会計処理〉 1 他益信託の設定時(X1年4月) (1) 前提条件 (2) 甲社の会計処理 (※) 信託設定された金銭は、交付される株式の取得、信託の設定及び運営の諸費用に用いられるため、ここでは信託口として処理している。 2 信託による甲社株式の市場からの購入時(X1年4月) (1) 前提条件 (2) 甲社の会計処理 3 甲社による従業員へのポイント割当時(X1年9月) (1) 前提条件 (2) 甲社の会計処理 (※) @2(信託による株式取得時の時価)×120株=240 4 信託による従業員への自社の株式の交付時(X1年9月からX2年3月) (1) 前提条件 (2) 甲社の会計処理 (※) 株式の交付に伴う引当金の取崩処理は、期末に一括して行うものとする。 5 甲社の決算時(X2年3月) (1) 前提条件 (2) 甲社の会計処理 ① 信託の財産を甲社の個別財務諸表に計上 ② 金銭の信託の元本は、甲社で信託口として処理されているため、これを相殺 ③ 信託の損益は、従業員に帰属するため、諸費用を資産に振り替え (※) 便宜的に信託口を使用 ④ 甲社においてポイントの割当に関する費用計上はすでに行われているため、信託における甲社株式交付費用を取り消し、甲社株式に振り戻す ⑤ 信託から従業員に対して株式の交付が行われた部分について引当金を取崩し (※) @2(信託による株式取得時の時価)×90株=180 ⑥ 信託における甲社株式は、甲社において自己株式に振り替え (参考)     〈会計処理の解説〉 従業員への福利厚生を目的として、受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引は、概ね上記の事例のような取引から構成されます。 このような受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引で、対象となる信託が以下の(1)及び(2)の要件をいずれも満たすときは、期末において信託の財産を貴社の個別財務諸表に計上することになります(「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」第4項)。 受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引は、従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引と比べて、従業員にいったん受給権を付与してから自社の株式を交付するという点に特徴があります。 なお、次の2点については、従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する場合と同様です。 ※12月は連結会計を取り上げます。 (了)

#No. 193(掲載号)
#竹本 泰明
2016/11/10

税理士業務に必要な『農地』の知識 【第3回】「農地法と農業委員会(その2)」

税理士業務に必要な 『農地』の知識 【第3回】 「農地法と農業委員会(その2)」   税理士 島田 晃一   前回は農地の定義と農地を売却する場合の許可又は届出(農地法第3条、農地法第5条)について見てきた。今回は、まず、農地の売却等をせず宅地等に転用する場合の手続きから見ていこう。   1 農地の転用に伴う許可(農地法第4条における許可) 農地を宅地等に転用するため、その農地や農地に対する賃借権を譲渡する場合は、前回述べたように農地法第5条の許可(5条許可)が必要である。 一方、農地等の所有権移転がなく自己がその農地を他の用途に転用する場合についても農地法の許可が必要になる。具体的には、農地法の第4条に規定されている許可(4条許可)を受けなければならない。 例えば、農地であった土地を宅地に転用し賃貸住宅を建築するといった場合には、この4条許可が必要になる。 4条許可と前回述べた5条許可に係る許可基準には、「立地基準」と「一般基準」がある。このうち立地基準は次のとおりである。 (※) 農林水産省ホームページより抜粋及び一部改訂 一方、一般基準は申請時の転用目的が実現可能かどうかや、周辺の他の農地や農業経営に何らかの支障を起こさないかどうかにより許可・不許可が判断される。   2 許可・届出のための手続き 4条許可、5条許可は都道府県知事から受けることになっているが、許可申請書は農業委員会を経由して都道府県知事等に提出する形になる。ただし、4ha以上の大規模な農地に関しては都道府県知事と農林水産大臣との協議が必要になるため、都道府県知事に申請書を提出する。 なお、市街化区域内の農地に関しては、4条許可及び5条許可ともに都道府県知事の許可は不要であり、農業委員会への届出を行えば転用することができる(農地法第4条1項7号又は農地法第5条1項6号による届出)。   3 登記地目の変更 農地転用許可を受けた後や転用届出を行った後は、転用許可書や届出受理書をもって登記地目変更を行う。ただし、全域が市街化区域になっている自治体の中には法務局登記官の照会だけで届出受理書の提出を省略している自治体もある。 不動産登記法上は、地目変更があった日から1ヶ月以内に地目変更登記を行わなければならないとされ、行わないときは10万円以下の過料が課される。ただし、この罰則が厳密に適用されることが少ないため、宅地転用された後であっても登記地目が農地(田・畑)となっている場合が散見される。 特に、4条許可による転用についてこのような事例が見受けられる(4条許可により宅地転用を行いその土地に建物を建築する際、金融機関から建築資金の融資を受けるときは地目変更が必要になる)。一方、5条許可を受け転用・売却を行うときは、通常、地目変更を行うことが売買条件になっているため地目変更登記が必須になる。   4 農業委員会 (1) 農業委員会とは 農業委員会とは各市町村に設置される機関で、「農業生産力の発展及び農業経営の合理化を図り、農民の地位向上に寄与されること」を目的としている。 農業委員会の電話番号は各市町村のホームページに掲載されている。もし分からなければ、代表電話で取り次いでもらえばよい。なお、東京都千代田区や中央区など農地がない自治体には農業委員会は設置されない。委員会の構成は各自治体により異なる。 例えば、東京都世田谷区の場合には、公職選挙法を準用した選挙による委員15名、農協等による選任委員2名、学識経験者3名の計20名により構成されている。また、委員の任期は3年となっている。 (2) 農業委員会に提出する申請書・届出書一覧 農業委員会に提出する農地の転用・所有権移転等に係る申請書・届出書については、前回を含めこの連載で述べてきたところであるが、ここで改めて一覧表としてまとめてみた。 (3) 農業委員会と税務(農地の納税猶予) 農地に係る相続税の納税猶予を受けるためには、農業委員会が発行する「適格者証明書」の相続税申告書への添付が必須である。「適格者証明書」の発行は、発行申請書に、納税猶予の適用を受ける農地に係る遺産分割協議書又は遺言書の写しを添付する必要がある。 この申請があった後、農業委員会の会合において承認を受け「適格者証明書」が発行される。ただし、農業委員会の会合は原則として月1回なので、相続税の申告期限から逆算し、早めに農業委員会に申請書を提出する必要がある。 *  *  * 以上、農地法と農業委員会について簡単にみてきた。いずれも農地を売却したり農地を相続する場面においては必須の知識である。したがって、農地を所有しているクライアントがいる場合には必ず抑えておきたいところである。 (了)

#No. 193(掲載号)
#島田 晃一
2016/11/10

〔新規事業を成功に導く〕フィージビリティスタディ10の知恵 【第8回】「陥りがちなF/Sのワナ」

〔新規事業を成功に導く〕 フィージビリティスタディ10の知恵 【第8回】 「陥りがちなF/Sのワナ」   中小企業診断士 西田 純   前回は、「総合性」をキーワードにF/Sの結果を多面的に判断するうえでのポイントについて解説しました。今回はF/Sを実践するうえで担当者が陥りがちな情報共有面のワナについて触れます。 膨大なデータを処理して将来のビジネスをモデル化し、その帰趨を確かめるというF/Sのプロセスは、どうしても担当者を他から隔離しがちになります。外部とのコミュニケーションに気を付けていても、蓋を開けてみればお互いにビックリ、というようなパターンが珍しくありません。予想しなかった彼我の距離感は、やがて組織内の壁を生むことにもなりかねない要素です。なぜそんなことが起きるのか、そうしないためには何が求められるのかについて解説してみたいと思います。   ▷ 関係者が皆、同じ将来展望を共有できているわけではない 仮に今、あなたが社運を賭けたF/Sを担当していたとします。難しい地域で前例のないビジネスを立ち上げるための調査ということで、準備には万全を期そうとします。努力の甲斐あって、経営者の強いサポートも得られ、定期的に情報共有のための報告会も開催し、常に初期目的を振り返る体制も作ったとしましょう。でも、そこまでやればF/Sの結論は、たとえそれがどんなものでも100%社内で受け入れてもらえるものなのでしょうか? 社内外のさまざまな関係者の間には、そもそも将来展望に関する認識の時間差や温度差が存在しています。F/Sチームとしては、自らの仕事がどのような進捗を示しているのかについて情報開示することはできても、それをさまざまな関係者がどのように消化するかについてまで配慮することまではなかなか対応できないのが普通です。同じタネ、同じ肥料を同じように施しても、畑が異なれば野菜の収穫量が異なるように、それぞれの置かれた立場によってF/Sの受け取り方は異なってくるということを認識しておきましょう。 よくあるパターンですが、シナリオ作りで楽観論・中立論・悲観論の3パターンを設定するとして、立場によってその前提条件についての考え方が微妙に変化したりします。 また、楽観論および中立論で満足できる収益性が期待できるという結論になる場合でも、悲観論で同じことが言えるという保証はなく、むしろ「悲観論の場合は想定した収益が確保できない」という結論になることが珍しくありません。それを「3つのシナリオのうち2つが満足できるので、プロジェクトを前に進める」という結論にするのか、あるいは「3つのシナリオのうち1つが満足できないので、プロジェクトは棄却する」という結論にするのか、それはひとえに意思決定によるものだということです。   ▷ 意思決定とシナリオは相互的に関係していて、思わず先走りしてしまうことがある F/Sチームに所属して仕事をしていると、この意思決定を常に意識しながら仕事をする立場に置かれるのですが、そうすると思考はどんどん深化してしまい、事業のその後や客先との関係、担当者の将来といったことまで考えが及ぶようになります。半年も同じことを繰り返していると、今度はその深化した思考がシナリオそのものにも微妙に影響を与えるようになってきます。楽観論の場合でも、無視できない外部環境の変化に気づいたり、逆に悲観論の場合でも将来の役に立つような条件が現れてきたりします。 気づいた担当者としては、当然そのような変化を自らの仕事に反映させ、深化したシナリオに基づいた分析を進めようとするのですが、そうすると最初の段階で社内に説明したシナリオとはズレを持った状態で仕事を進めることになったりします(豊洲市場の盛り土についての事件は記憶に新しいところだと思います)。 ズレが懸念されるようになった段階でいったん立ち止まって情報共有が図れていれば問題ないのですが、忙しいと人間はどうしても短絡的な対応を取ってしまうことがあります。時間がない、面倒くさい、ややこしい、重要度が低い、後で話をすればよい、すぐに説明しなくても直接の影響はない等の判断や自己抑制が働いて、実際には違ってきているのにそれまでと同じ前提条件のまま説明を続けたり書類を作成したりする、という対応を取る例も少なくありません。 それが積み重なると、いつの間にかF/Sそのものの信頼性についてチーム内外で認識の差を生むことにつながったりします。「F/Sチームは勝手なことをやっている」といったような噂が立つ例は、案外このような小さなほころびが原因となる場合がありますので注意してください。   ▷ 忙しい中でどのように情報共有を進めるのか よく行われるのが定期的な報告会の実施ですが、それ以外にもF/Sチームの各メンバーが自ら各方面に出向くなどして積極的な情報開示に努めるという方法がありえるでしょう。ただし、この方法が機能するためにはメンバー間で進捗に関する認識が統一されている必要があり、そのためにはまずチーム内でしっかりとした情報共有がなされている必要があります。 チームリーダー、あるいはプロジェクトマネージャーと呼ばれる責任ある立場の人は、チーム内外との情報共有について常に注意を払うことにより、適切なタイミングで情報発信を行うよう目配りをすることが求められます。新規事業を確実に成功させるためのF/Sが、社内に無用な疑心暗鬼を招く根源になったりすることのないよう、コミュニケーションには十分注意を払うようにしてください。 *   *   * 次回は、情報の裏付け取りとその重要性についてお話しします。 (了)

#No. 193(掲載号)
#西田 純
2016/11/10

税務ピンポイント解説 【第5回】「金融庁が平成29年度税制改正で創設を要望している「積立NISA」とは?」

税務ピンポイント解説 【第5回】 「金融庁が平成29年度税制改正で創設を要望している「積立NISA」とは?」   Profession Journal 編集部   年末に向けて平成29年度税制改正の議論が高まっていくなか、金融庁からの改正要望の中に「NISA(少額投資非課税制度)」を拡充した「積立NISA」の創設が盛り込まれ、注目を集めています。 NISAは平成26年に創設され、20歳以上の人を対象として、株や投資信託などの運用益や配当金を一定額非課税にする制度です。NISA口座で取引をすると、年間投資金額120万円までの株式投資や投資信託にかかる値上がり益や配当金(分配金)が最長5年間非課税となる税金面のメリットが受けられます。また、昨年度の税制改正では、19歳までの未成年者を対象とした「ジュニアNISA」が創設されていることは周知のとおりです。 NISA口座開設数(ジュニアNISAを含む)は、本年6月現在で1,030万口座を超えており着実に普及していますが、積立による利用は、総口座数の1割以下、口座を開設しただけで、株式等を全く購入していない口座が半数以上存在しており、一層の活用策が求められています。 金融庁は、こうした課題を克服すべく、開設したまま利用されていないNISA口座の活用化のために「積立NISA」を創設し、NISAのさらなる普及・改善を促したい考えです。 この「積立NISA」ですが、年間投資上限は現行制度の半分の60万円と少額で、非課税期間は現行制度の4倍の20年とされるなど、より少額で長期に分散した投資が行えることから、これまでに比べて投資しやすい制度となっています。新制度ですが、現行のNISAと選択適用となっています。 投資対象商品は、現行NISAが上場株式等・公募株式投信であるのに対して、積立NISAではバランス型ファンド、非毎月分配型ファンドなどと呼ばれる長期の積立・分散投資に適した一定の投資商品が見込まれています。 なお、現行NISAが平成35年までの時限立法であるのに対し、新制度は恒久的措置として要望されています。 (了)

#No. 193(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2016/11/10

《編集部レポート》 第43回日税連公開研究討論会が沖縄で開催

《編集部レポート》 第43回日税連公開研究討論会が沖縄で開催   Profession Journal 編集部   日本税理士会連合会(神津信一会長)は、平成28年11月4日(金)、第43回日税連公開研究討論会を沖縄で開催した。 公開研究討論会は、税理士による研究成果の発表、討論の過程を通じて、税制・税務行政及び税理士業務の改善・進歩並びに税理士の資質の向上を図るとともに、本会が行う研修事業に資することを目的として実施する、との理念の下、毎年開催されているもの。 討論会に先立ち行われた記者会見の席で、神津会長は、過去の討論会で提言された事項である三世帯同居特例などが税制改正に結実したしたことなどを挙げ、実務家ならではの視点から税制等の検討がなされる本討論会の意義を説明した。 (神津信一日本税理士会連合会会長(左から3人目)) 今回の研究発表の担当は、九州北部税理士会、南九州税理士会、沖縄税理士会の3税理士会(7グループ)が担当し、それぞれ次のテーマで発表を行った。 「税理士が行う租税教育等の意義と課題」(九州北部会) 「中小企業を巡る税制上の諸問題-区分、法人成り、役員給与-」(南九州会) 「地方創生における税理士の果たす役割」(沖縄会) 会場には、全国より900名以上の税理士が集まったほか、中里実政府税調会長も姿をみせ、2年にわたる研究の成果に聴き入っていた。 (了)

#No. 193(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2016/11/10

《速報解説》 ASBJより「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」が公表~移管に伴う実質的な内容変更は意図せず~

《速報解説》 ASBJより「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」が公表 ~移管に伴う実質的な内容変更は意図せず~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成28年11月9日、企業会計基準委員会は、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」(企業会計基準公開草案第59号)を公表し、意見募集を行っている。 これは、日本公認会計士協会の「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第63号)などについて、企業会計基準委員会に移管するためのものである。 意見募集期間は平成29年1月10日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 公開草案の主な内容 次のものについて、基本的にその内容を踏襲した上で表現の見直しや考え方の整理等を行っており、実質的な内容の変更は意図していないとのことである。 1 範囲 次の事項に適用する。 以下のものは公開草案の適用範囲に含まれていない(公開草案24項~25項)。 2 会計処理 3 更正等による追徴及び還付 4 開示 上記のほか、貸借対照表における表示、受取利息及び受取配当金等に課される源泉所得税、外国法人税、更正等による追徴及び還付についても規定している。   Ⅲ 適用時期等 (了)

#No. 192(掲載号)
#阿部 光成
2016/11/09

《速報解説》 金融庁、リスク分担型企業年金に関する財務諸表等規則等の改正(公開草案)を公表

《速報解説》 金融庁、リスク分担型企業年金に関する 財務諸表等規則等の改正(公開草案)を公表   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成28年11月7日、金融庁は次のものを公表し、意見募集を行っている。 これは、企業会計基準委員会が公表した「退職給付に関する会計基準(案)」(企業会計基準公開草案第58号)、「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第47号)などに対応するものである。 意見募集期間は平成28年12月6日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 公開草案の主な内容 1 財務諸表等規則及び連結財務諸表規則 2 財務諸表等規則ガイドライン及び連結財務諸表規則ガイドライン 財務諸表等規則ガイドライン8の13の2において次のように規定する。 連結財務諸表規則ガイドライン15の8の2は、「財務諸表等規則ガイドライン8の13の2の取扱いは、規則第15条の8の2に規定する確定拠出制度に関する注記について準用する。」とする。   Ⅲ 適用時期等 企業会計基準委員会の公開草案の結果を踏まえ公表される企業会計基準「退職給付に関する会計基準」等の適用日と同日から施行予定である。 (了)

#No. 192(掲載号)
#阿部 光成
2016/11/09

《速報解説》 東京局、サブリース物件の措置法65条の8適用時における9号買換えの買換資産の範囲及び面積要件について文書回答事例を公表

 《速報解説》 東京局、サブリース物件の措置法65条の8適用時における 9号買換えの買換資産の範囲及び面積要件について 文書回答事例を公表   税理士 菅野 真美   東京国税局は10月20日付け(ホームページ公表は11月2日)で、サブリース物件が措置法65条の8の特例を受ける場合の、9号買換えにおける買換資産の範囲及び面積要件について、下記の文書回答事例を公表した。   ▷どのような事案を事前照会したのか? 当社は、40年以上国内に所有していた建物とその敷地を平成28年7月にA社に売却した。A社は建物を取り壊して9階建てのオフィスビルを建設し、完成後、当社は2階から4階までの3フロアの専有部分の区分所有権と区分所有する床面積合計1,491.93㎡に応じた土地の敷地利用権合計311.39㎡を取得し、1年以内に事業の用に供する予定である。なお、当社は3フロアのうち、2フロアは自社の事務所として利用し、1フロアはA社か賃借し、第三者に事務所として転貸する予定である。 この譲渡について措置法65条の8(特定の資産の譲渡に伴い特別勘定を設けた場合の課税の特例)の規定の適用を受けようと考えている。この特例の適用を受けるための要件として土地等は特定施設の敷地の用に供されていること、敷地面積が300㎡以上であることがある。この事案について、これらの要件を満たしているか。   ▷何が問題か? 措置法65条8の事業用資産の買換えの特例は、要件を満たした場合は、譲渡益の80%が繰り延べられるものである。 この要件の1つとして、土地等が特定施設の敷地の用に供されていることがある。特定施設とは事務所、工場、作業場、研究所、営業所、店舗、倉庫、住宅その他これらに類する施設(福利厚生施設に該当するものを除くとされている)と定義され、所有や使用の主体が誰かを規定していない。 本件においては、当社がA社に賃貸し、A社が転貸して事務所の用に供されることが予定されているが、このような権利関係の場合においても特定施設の敷地の要件を満たすことになるのか。 また、敷地の面積が300㎡以上に限るとされている。措置法通達65の7(1)-30の3(長期所有の土地等の買換えに係る面積判定)において、区分所有に係る特定施設の敷地の用に供されているものについては、土地等の総面積に法人の専有部分の床面積の総床面積に占める割合を乗じて計算するとされている。また、特定施設に該当するかは、区分所有建物については、最低単位である独立部分ごとに判定することになる。 このケースのように3フロアが別々に区分所有された建物の敷地利用権について、300㎡以上か否の判定は3フロアの合計面積で行うのか、1フロアごとに個別判断を行うのか。   ▷結論は? 〇誰が所有し誰が利用しているかではなく、何のために利用しているかで考える 敷地利用権は土地等の新たな取得に該当し、賃貸オフィスビルを主目的として建設された建物の2フロアを自社の事務所用として利用し、1フロアはマスターリース契約により転借人が事務所として利用する予定であると考えられることから、3フロアとも事務所の用に供される。よって、3フロアのすべての敷地利用権が、特定施設の敷地の用に供されられる土地等に該当する。 〇一の取引で複数の区分所有権等を取得した場合は、合計面積で判断する 区分所有された敷地利用権はすべて特定施設の敷地の用に供する土地等に該当し、一の取引で3つの専有部分をまとめて取得していることから、3フロアの敷地利用権の面積の合計額311.39㎡で判断し、300㎡以上であることから面積要件も満たされる。 (了)

#No. 192(掲載号)
#菅野 真美
2016/11/07

《速報解説》 国税庁、「国際戦略トータルプラン」で『重点管理富裕層』への取組みを明らかに

《速報解説》 国税庁、「国際戦略トータルプラン」で 『重点管理富裕層』への取組みを明らかに   Profession Journal編集部   国税庁が10月25日付けで公表した「国際戦略トータルプラン-国際課税の取組の現状と今後の方向-」は、経済社会が国際化する中で、いわゆる「パナマ文書」やBEPSの動向等を通じ国民の関心が高まっている国際的な租税回避行為に対し、国税庁の取組みと今後の方向を明らかにしたもの。 国税庁はこれらの取組みを通じ、富裕層や海外取引のある企業による海外への資産隠しや国際的な租税回避行為に適切に対処するとともに、新たに生じる国際課税上の課題に積極的に対応するとしている。   〇富裕層PTは平成29事務年度から全国展開へ トータルプランで注目すべきは、超富裕層に関する情報収集を行う「重点管理富裕層プロジェクトチーム(富裕層PT)」の取組みについて、公の資料によって明記された点だろう(p12)。 富裕層PTは、従来の富裕層に対する取組みに加え、富裕層に関する情報収集機能を更に強化するという観点から、平成 26(2014)事務年度(平成26年7月~)より、東京、大阪及び名古屋の各国税局に設置された。 富裕層 PT では、富裕層の中でも特に多額の資産を保有していると認められる納税者を「重点管理富裕層」とし、その関係者や主宰法人、関連する法人を「管理対象者グループ」として一体的に管理して情報を収集した上で、その情報の分析・検討を行っている。 この分析の結果、調査が必要と認められた場合には、「調査対象者の態様に応じ、複数の調査担当部署による連携調査を始めとした組織的な調査体制を編成し、関係部署と十分な連絡をとった上で、総合的な調査を的確に企画・実施する」としており、主宰する法人との取引等を含めた総合調査が想定される。 なお現在、富裕層PTは3つの国税局(東京・大阪・名古屋)にのみ設置されているが、平成29(2017)事務年度(平成29年7月~)からは他の国税局へも展開するなど、全国的な取組みとする方針であることが示されている。   〇目的は納税者への牽制効果? トータルプランには、国内外の資産の保有・移動状況を把握するための各方策について、制度概要及び現行の取組み状況や今後のスケジュール等が説明されている。記載された方策を列挙すると次のとおり。 財産債務調書の提出といった納税者からの直接的な情報収集だけでなく、国外送金等調書など金融機関からの報告や、租税条約等を通じた国家間による情報交換など、多方面からの情報収集策が整備されつつあることが見て取れる。 なお、トータルプランには取組みとしての記載はされていないが、いわゆるマイナンバー(個人番号)の導入は、国外送金等調書や財産債務調書、国外財産調書にもそれぞれ記載が求められることから、これらの実効性を強化するのは間違いないだろう。 ただし、今回のトータルプラン公表には、上記の方策を用いても国際的な課税逃れを実際に補足するのは困難なため、納税者への牽制効果を狙うという目的もあるのではないだろうか。特に国外財産調書及び財産債務調書はその年の12月31日における財産状況を把握する必要があり、これから年末にかけて、一定の資産を保有する者は国内外の財産状況を収集しなければならないことから、これらの動向に対する牽制の効果は大きいと考えられる。   〇金融商品を用いた租税回避阻止の取組みも また着目しておきたいのが、資料p13にある下記の記述だ。 国際的な租税回避の手段としてデリバティブ(金融派生商品)などの金融取引が利用されるケースも多いが、複雑・高度化する金融商品への課税の取組みに国税庁が本腰を入れ始めたという見方もできよう。今後の制度改正も含めた動向には注視が必要だ。 (了)

#No. 192(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2016/11/04
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