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裁判例・裁決例からみた非上場株式の評価 【第20回】「租税法上の評価④」

裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第20回】 「租税法上の評価④」   公認会計士 佐藤 信祐   前回では、東京高裁平成17年1月19日判決について解説を行った。 本稿では、東京地裁平成17年10月12日判決について解説を行う。本事件は、特例的評価方式を採用した納税者の判断を認めた事件である。   4 東京地裁平成17年10月12日判決・TAINSコード:Z255-10156 (1) 事実の概要 本事件は、原告が、その取引先である非上場会社の株式を、同社の会長職にあった者から売買によって譲り受けたところ、税務署長である被告が、当該株式の譲受けは相続税法7条の「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当すると認定し、当該譲受けの対価と被告が独自に算定した当該株式の時価との差額に相当する金額を課税価格とする贈与税の決定処分及び無申告加算税賦課決定処分をしたため、原告がこれらの各処分は違法であると主張して、その取消しを求めた事件である。 原告は、財産評価基本通達の規定に従い、特例的評価方式を採用したが、被告は、特例的評価方式によって算定することは極めて不合理であり、評価通達に基づく評価方式によらないことが正当と是認されるような特別の事情があるといえるとして否認している。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 このように、裁判所は納税者の主張を認め、課税処分を取り消した。なお、「特別の事情がある」という被告の主張については以下のように否定している。 このように、課税庁の主張はやや強引であり、一つひとつ裁判所に否定されている。また、本事件の否認の根拠は、売買実例価額の平均額である1株当たり794円と評価するものであるが、 としたうえで、本事件はその事案に該当しないとしている。 なお、客観的な取引事例がある場合に、財産評価基本通達に定める評価額と異なる価額で課税処分を行うことまでは否定していないが、どこまでのレベルであれは客観的な取引事例と判断できるのかが不明であるため、実務上、慎重な判断が必要になる。 次回では、東京地裁平成19年1月31日判決について解説を行う予定である。 (了)

#No. 195(掲載号)
#佐藤 信祐
2016/11/24

税務判例を読むための税法の学び方【95】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む(その23:「文理解釈と立法趣旨③」(最判平22.3.2))

税務判例を読むための税法の学び方【95】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その23:「文理解釈と立法趣旨③」(最判平22.3.2))   立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘   (2) 控訴審の判断 これは裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。そこには当事者の主張として付加された点も掲載されており、ここでは割愛するため、ぜひ見てもらいたい。 控訴審においては、前回紹介した第一審の判断をそのまま承認し、同じ判断を下している。そして、控訴人の控訴審における追加した主張に対して、その判断を示している。 源泉所得税額は当然に画一的・機械的に計算できることが予定されていると解すべきであるから、「当該支払金額の計算期間の日数」の意義は各集計期間の全日数と解すべきという主張に対して、以下のように判示する。 次に、租税法の解釈に当たっては文理解釈に徹すべきという主張に対しては以下のように判示する。 そして、施行令322条の表にある括弧書き中の「当該期間」が前回述べたような細分化した計算期間でないことから、同じ規定中で「期間」の意味が異なる不都合を指摘した点について、以下のように判示する。 この他にも、控訴人の追加主張に対しての判断が示されているので、ぜひ判決文を一読していただきたい。 (3) 上告審(最高裁)の判断 これは裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。 まず、結論を導くための理由を説明する。 上記から、以下を結論として示している。 この結論は形式的には、法命題(大前提)となっており(【69】参照)、次の「上告人らは、本件各集計期間ごとに、各ホステスに対して1回に支払う報酬の額を計算してこれを支払っているというのであるから」が事実認定であり、最後の結論が以下となる。 上記のように判示し、原審に差し戻した。   6 判決の意義 第一審が、文理上判然としないとして、立法趣旨から解釈したのと異なり、最高裁は、文理上疑義は生じていないため立法趣旨ではなく文理解釈のみで判断すべき旨、判示した。 この判決は、形式的には法的三段論法によっているが、法令解釈が争いとなっていることから、全体としては結論と思われる部分が大前提の法命題となっている。したがって冒頭の租税法規解釈のあり方を示した部分は、判例にはなりえない。 よって、判例法としての射程は限定的であるが、法令解釈の基本的スタンスとして、立法趣旨等による論理解釈は、法令の意味が文理からでは不明な点がある場合に限られるものであって、文理からその意味が明らかな場合には文理解釈によるべきことを示した判決といえる。 *   *   * 次回テーマは、政令委任の合憲性が争われた事案(東京高裁平成7年11月28日判決)他、複数の事案を検討し、政令委任のあり方について考察する。なお、東京高裁平成7年11月28日判決は、別のテーマで【67】で紹介しているが、政令委任の合憲という点から、再度検討する。 (続く)

#No. 195(掲載号)
#長島 弘
2016/11/24

〈業種別〉会計不正の傾向と防止策 【第4回】「ホテルレストラン業」

〈業種別〉 会計不正の傾向と防止策 【第4回】 「ホテルレストラン業」   公認会計士・税理士 中谷 敏久   どのような業種業態か? 今回のテーマであるホテルレストラン業は、宿泊部門、レストラン部門、宴会婚礼部門等を兼ね備えた大規模ホテルを想定している。このようなホテルの中には、売上規模、従業員数からみて上場会社に引けを取らないものが少なくない。 他業種には見られないホテルレストラン業の特色としては、『あらゆる場面で最高のサービスが求められる』ということである。 製造業であれば高性能な機械設備さえ備えておれば、たとえ建物が粗末であっても生産には支障がない。その意味でコスト削減を図る余地が残されている。しかしながらホテルレストラン業は、お客様に対してハード面ソフト面の両面において最高のサービスが求められるため、コスト削減する余地が狭い。経営的には投資回収に長期間を要することになる。 また、ホテルレストラン業のもう一つの特色として、従業員の現金の取扱頻度が高いこと、現金等価物として転売可能な高額物品が身近に存在する環境で業務に従事する機会が多いことが挙げられる。   どのような不正が起こりやすいか? 部門別にどのような不正が起こりやすいか、以下、整理してみよう。 1 宿泊部門 宿泊部門では、まず、滞在未収金を利用した不正が考えられる。 「滞在未収金」とは、宿泊客が滞在中に利用した料金のうち未だ精算されていないものをいう。室料、レストランでの食事代、アミューズメント施設の使用料などの料金は、その都度支払うのではなく、部屋付けにすることがある。それらの未精算額の合計がまさしく滞在未収金である。 滞在未収金はルームナンバーごとに管理されるが、チェックアウトがなされていないために金額が確定しておらず、いわゆる仮の状態の売掛金であるといえる。未だ仮の状態であるということで、管理部のチェックも甘くなりがちである。このような滞在未収金の特質を悪用して、着服した宿泊代金に対応する利用料を他の宿泊客の滞在未収金の中に混在させるのである。 また、団体客の宿泊料金は代表者が一括清算するケースがあり、これに対応するためにダミービルが設定され、そこに全ルームの滞在未収金が集計されることがある。ダミービルの発行は本来例外的な処理であるが、実務上常態化しており、複数のダミービルが長期間存在しても不信感を抱かなくなる。 このような状況を悪用し、着服した宿泊代金に対応する利用料をダミービルの中に混在させたり、さらに他のダミービルに移し替えたりして不正の発覚を遅らせることも行われる。 宿泊部門では客室が商品である。客室の状態は「空室」か「使用中」か「掃除中」かのいずれかであるが、このステータスを操作して宿泊代金を横領する不正もある。 すなわち、実際には空室であったため客室を販売したにもかかわらず、使用中又は掃除中と偽って販売がなされなかったように処理するのである。 フロントが複数で対応している時間帯はこのような操作は難しいが、一人で深夜勤務をしている場合など比較的容易に行えるケースが少なくない。 2 レストラン部門 レストラン部門では、宿泊客は食事代を部屋付けにするケースが多いが、一般客は現金支払いである。この現金で支払われた食事代を着服する不正がある。 方法としては、売上伝票を取消処理あるいは廃棄処理して食事の提供がなかったことにする例が一般的であるが、割引クーポンをお客が提示したように偽装して割引相当額を着服するケースもある。最近ではスマホの画面に表示されたクーポンを見せるだけで割引がされる場合があり、証拠が残らないため、悪意を持った従業員には絶好の機会となる。 レストランの厨房では、食材や飲料の不正持ち出しもたびたび発生する。このようなホテルでは高級な食材やワインなどが存在するため、月次単位あるいは年単位では結構な不正金額になることがある。不正持ち出しによって原価率がアップするが、原価率管理が十分でないホテルでは不正持ち出しがなされても判明しづらい。 特にワインについては銘柄によって価格の開きが大きく、かつ、レストラン担当者以外は高級なワインと安価なワインとを区別することが難しいことから、在庫本数を明細と合わせるため高価なワインを安価なワインに入れ替えておくという不正もある。 3 購買部門 購買部門は昔から不正の温床と言われている。食材、飲料、備品類などホテルで消費使用するすべての物品が購買部を通して発注、納入される。 良いものをいかに安くタイムリーに仕入れることができるかによって、ホテルの評判やコスト削減効果が左右されるため、能力のある購買担当者が長期間担当することが少なくない。 その結果、購買担当者の権限は絶大となり、仕入先から過度な接待や贈答、キックバックが行われるのである。 さらに発注と検収を同一人物が担当する場合は、商品の横流し、架空仕入れ等の不正も起こりやすい。「架空仕入れ」とは、仕入れ業者と共謀して正規の発注検収を装い、納品もないのに会社に仕入れ代金を振り込ませる方法である。あるいは、担当者が自ら納品書、請求書を偽造して指定の口座に仕入れ代金を振り込ませるケースもある。 4 経理総務部門 最後に経理総務部門の不正であるが、ホテル全体の現金が集まる部署であるので、当然のことながら金銭着服の不正の機会は少なくない。 それ以外の会計不正として、固定資産の取得価額を故意に耐用年数の長いものに振り分け、減価償却費を過少に計上しようとする不正がある。 建設業者から入手した見積書には設計費、基礎工事費、建物躯体工事費、内装費、電気設備費などの詳細が記載されており、実務的にはこれらの見積金額を分解して建物と建物付属設備に振り分ける。建物付属設備とは電気設備、給排水衛生ガス設備、冷暖房通風ボイラー、昇降機設備、消化排煙災害報知設備などであるが、建物躯体と一体になっている部分もあり、建物との区別が難しいケースがある。 それを合理的な基準で振り分けるのであれば問題ないが、何ら根拠もなく、故意にそれらの費用を建物に振り分けるのは会計上、不正な処理である。 建物付属設備の耐用年数は主に15年であるのに対し、建物のそれはホテル用鉄骨鉄筋造の場合39年であり、2倍以上の開きがあるため、極端に言えば年間の減価償却費を半分に軽減することができるのである。   事例検証 公表されている不正事例を毎回紹介しているが、ホテルレストラン業においては適当なものが見当たらなかったため、今回は省略させていただく。   不正の防止策 各部門別に様々な不正を紹介したが、防止策として最も効果的な方法は、やはり内部統制の適切な運用及び内部監査の強化である。ホテルレストラン業の不正は比較的単純なものが多いので、一つ一つ伝票等をチェックすればすぐに判明する。 宿泊部門の滞在未収金やダミービルについては、長期間未精算になっているものはないかという観点から経理部門や内部監査部門が伝票を精査すること、ステータスの操作による客室不正については、販売客室数と清掃客室数を照合することが必要である。 また、レストラン部門の売上伝票の取消処理については、処理した従業員にサインをさせ、回数の多い者に対してヒアリングすること、売上伝票の廃棄処理については伝票に連番を付し欠番の有無を確認すること、割引クーポンについては必ず伝票に添付させることが有効である。食材や飲料の不正持ち出しについては、厳格な原価率管理やワインセラーの定期的な棚卸を実施すべきである。 購買部門については担当者の定期的な入れ替え、あるいは発注者と検収者の分離が効果的である。 経理部門については、現金出納帳及び預金元帳を日々正しく記帳させ、現金残高及び預金残高と一致しているか、管理者が日々チェックすることが必要である。 建物と建物附属設備間の振り分け不正については、内部監査部門が減価償却明細表を入手して建物の取得価額が過大になっていないか確認するとともに、実際に見積書まで遡って合理的に振り分けられているかチェックすべきである。   同様の不正が起こりうる業種業態は? 百貨店業界もホテルレストラン業と同様、従業員の現金の取扱頻度が高く、現金等価物として転売可能な高額物品が身近に存在する環境で業務に従事する機会が多いことから、同様の不正が起こりうると考えられる。 (了)

#No. 195(掲載号)
#中谷 敏久
2016/11/24

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第32回】「ストック・オプションの基本」

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第32回】 「ストック・オプションの基本」   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   【はじめに】 今回は、ストック・オプションの「基本」の会計処理について解説する。 「ストック・オプション」とは、自社株式オプション(※1)のうち、特に企業がその従業員等(※2)に、報酬として付与するものをいう。ストック・オプションには、権利行使により対象となる株式を取得することができるというストック・オプション本来の権利を獲得すること(権利の確定)につき条件が付されているものが多い。当該権利の確定についての条件(権利確定条件)には、勤務条件や業績条件がある(企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準(以下、「基準」という)」2(2))。 (※1) 「自社株式オプション」とは、自社の株式(財務諸表を報告する企業の株式)を原資産とするコール・オプション(一定の金額の支払により、原資産である自社の株式を取得する権利)をいう。新株予約権はこれに該当する。 なお、基準においては、企業が、財貨又はサービスを取得する対価として自社株式オプションを取引の相手方に付与し、その結果、自社株式オプション保有者の権利行使に応じて自社の株式を交付する義務を負う場合を取り扱っている(基準2(1))。 (※2) 「従業員等」とは、企業と雇用関係にある使用人のほか、企業の取締役、会計参与、監査役及び執行役並びにこれに準ずる者をいう(基準2(3))。 そして、基準は、以下の取引に対して適用される(基準3)。 (1) 企業がその従業員等に対しストック・オプションを付与する取引 (2) 企業が財貨又はサービスの取得において、対価として自社株式オプションを付与する取引であって、(1)以外のもの (3) 企業が財貨又はサービスの取得において、対価として自社の株式を交付する取引 なお、(2)又は(3)に該当する取引であっても、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」等、他の会計基準の範囲に含まれる取引については、基準は適用されない。   したがって、下記のような取引に対しては、基準は適用されない(基準27)。 (1) 自社株式オプション又は自社の株式を用いない取引 (2) 付与した自社株式オプション又は交付した自社の株式が、財貨又はサービスの取得の対価にあたらない場合 (3) デット・エクイティ・スワップ取引 (4) 取得するものが事業である場合 (5) 従業員持株制度において自社の株式購入に関し、奨励金を支出する取引 (6) 敵対的買収防止策として付与される自社株式オプション   なお、本解説では、上記(1)「企業がその従業員等に対しストック・オプションを付与する取引」を前提に解説する。また、条件変更がある場合は解説しない。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 従業員等は、ストック・オプションを対価としてこれと引換えに企業にサービスを提供し、企業はこれを消費しているから、費用認識する(基準34(1)、39)。具体的には、ストック・オプションを付与し、これに応じて企業が従業員等から取得するサービスは、その取得に応じて費用(=ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額)として計上し、対応する金額を、ストック・オプションの権利の行使又は失効が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に「新株予約権」として計上する(基準4、5)。 ここで、ストック・オプションの公正な評価額は、公正な評価単価にストック・オプション数(権利不確定による失効の見積数を控除)を乗じて算定する。 一般的にストック・オプションは権利確定条件が付されているものが多いため、まず、権利確定以前の会計処理について検討する。 (1) 公正な評価単価の算定 ① 評価時点 公正な評価単価は、付与日現在で算定する。条件変更の場合(本解説では解説していない)を除き、その後は見直さない(基準6(1))。 ② 評価方法 ストック・オプションに関しては、通常、市場価格が観察できないため、株式オプション価格算定モデル等の算定技法を利用して公正な評価単価を見積る(基準48)。 「株式オプション価格算定モデル」とは、ストック・オプションの市場取引において、一定の能力を有する独立第三者間で自発的に形成されると考えられる合理的な価格を見積るためのモデルであり、市場関係者の間で広く受け入れられているものをいう。例えば、ブラック・ショールズ式や二項モデル等が考えられる(基準48)。 算定技法の利用にあたっては、付与するストック・オプションの特性や条件等を適切に反映するよう必要に応じて調整を加える(基準6(2)、企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針(以下、「適用指針」という)」5、6、7)。 ただし、失効(※)の見込みについてはストック・オプション数に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しない(基準6(2))。 (※) 「失効」とは、ストック・オプションが付与されたものの、権利行使されないことが確定することをいう。失効には、権利確定条件が達成されなかったことによる失効(「権利不確定による失効」)と、権利行使期間中に行使されなかったことによる失効(「権利不行使による失効」)とがある(基準2(13))。 実務上は、評価単価の算定は、専門家に依頼することが多いと考えられる。 なお、算定技法の変更が認められるのは、原則として以下の場合に限られる(適用指針8)。 (1) 従来付与したストック・オプションと異なる特性を有するストック・オプションを付与し、その特性を反映するために必要な場合 (2) 新たにより優れた算定技法が開発され、これを用いることで、より信頼性の高い算定が可能となる場合   【未公開企業の場合】 未公開企業については、ストック・オプションの公正な評価単価に代え、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値の見積りに基づいて会計処理を行うことができる(基準13)。言い換えると、未公開企業の場合、公正な評価単価を見積る方法、単位当たりの本源的価値を見積る方法、どちらでも認められる。 付与日現在でストック・オプションの単位当たりの本源的価値を見積り、条件変更の場合を除き、その後は見直さない(基準13)。 ここで、「単位当たりの本源的価値」とは、算定時点においてストック・オプションが権利行使されると仮定した場合の単位当たりの価値であり、当該時点におけるストック・オプションの原資産である自社の株式の評価額と行使価格との差額をいう。 【自社株式の株価 > 行使価格の場合】 【自社株式の株価 < 行使価格の場合】 一般的に、行使価格は付与日における自社株式の株価より高く設定されることがほとんどであると考えられる。そのため、未公開企業では、本源的価値がゼロとなり、費用計上額はゼロとなることが多いと考えられる。   (2) ストック・オプション数の算定 付与されたストック・オプション数(「付与数」)から、権利不確定による失効の見積数を控除して算定する(基準7(1))。 (3) 権利確定日の判定 各会計期間における費用計上額は、ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額として算定する。すなわち、ストック・オプションの公正な評価額を、これと対価関係にあるサービスの受領に対応させて、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づいて費用計上することになる。 ここで、対象勤務期間とは、付与日から権利確定日までの期間であるため、権利確定日を判定する必要がある。そして、権利確定日は以下のように判定する(適用指針17)。 ① 勤務条件が付されている場合には、勤務条件を満たし権利が確定する日 ② 勤務条件は明示されていないが、権利行使期間の開始日が明示されており、かつ、それ以前にストック・オプションを付与された従業員等が自己都合で退職した場合に権利行使ができなくなる場合には、権利行使期間の開始日の前日。この場合には、勤務条件が付されているものとみなす。 ③ 条件の達成に要する期間が固定的ではない権利確定条件が付されている場合には、権利確定日として合理的に予測される日   (4) 付与時の会計処理 上記(1)で算定したストック・オプションの公正な評価単価に(2)のストック・オプション数を乗じて算定した金額のうち、(3)の対象勤務期間をもとに、当期に発生したと認められる額を「株式報酬費用」として計上する。そして、対応する金額を、ストック・オプションの権利の行使又は失効が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に「新株予約権」として計上する(基準4、5、適用指針〔設例1〕)。 《設例1》 〈X1年3月期〉 (※1) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月 付与日から当期末までの期間:9ヶ月 5,000円×10個×(100名-10名)×9/60=675,000円 (注) 期末時点において、将来の失効見込み(退職者)を修正する必要はないと判断している。 〈X2年3月期〉 (※2) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月 付与日から当期末までの期間:21ヶ月 5,000円×10個×(100名-10名)×21/60=1,575,000円(X2年3月期の新株予約権残高) 1,575,000円-前期末までの計上額675,000円=900,000円 (注) 期末時点において、将来の失効見込み(退職者)を修正する必要はないと判断している。 〈X3年3月期〉 (※3) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月 付与日から当期末までの期間:33ヶ月 5,000円×10個×(100名-10名)×33/60=2,475,000円(X3年3月期の新株予約権残高) 2,475,000円-前期末までの計上額1,575,000円=900,000円 (注) 期末時点において、将来の失効見込み(退職者)を修正する必要はないと判断している。 〈X4年3月期〉 (※4) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月 付与日から当期末までの期間:45ヶ月 5,000円×10個×(100名-10名)×45/60=3,375,000円(X4年3月期の新株予約権残高) 3,375,000円-前期末までの計上額2,475,000円=900,000円 (注) 期末時点において、将来の失効見込み(退職者)を修正する必要はないと判断している。 (5) ストック・オプション数の見直し 付与日から権利確定日の直前までの間に、権利不確定による失効の見積数に重要な変動が生じた場合(条件変更による場合(本解説では解説していない)を除く)には、これに応じてストック・オプション数を見直す(基準7(2))。 これによりストック・オプション数を見直した場合には、見直し後のストック・オプション数に基づくストック・オプションの公正な評価額に基づき、その期までに費用として計上すべき額と、これまでに計上した額との差額を見直した期の損益として計上する(基準7(2))。 そして、最終的に、権利確定日には、ストック・オプション数を権利の確定したストック・オプション数(「権利確定数」)と一致させる。一致させた結果、これによりストック・オプション数を修正した場合には、修正後のストック・オプション数に基づくストック・オプションの公正な評価額に基づき、権利確定日までに費用として計上すべき額と、これまでに計上した額との差額を権利確定日の属する期の損益として計上する(基準7(3))。 《設例2》 〈X5年3月期〉 (※1) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月 付与日から当期末までの期間:57ヶ月 5,000円×10個×(100名-9名)×57/60=4,322,500円(X5年3月期の新株予約権残高) 4,322,500円-前期末までの計上額3,375,000円=947,500円 〈X6年3月期〉 (※2) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月 付与日から権利確定日までの期間:60ヶ月 5,000円×10個×(100名-8名)×60/60=4,600,000円(X6年3月期の新株予約権残高) 4,600,000円-前期末までの計上額4,322,500円=277,500円 権利確定後には、権利行使又は権利不行使による失効がある。また、権利行使が行われた場合、企業が新株発行するケースと自己株式を処分するケースがある。 そこで、権利行使され、企業が新株発行する場合には、(1)を検討する。また、権利行使され、企業が自己株式を処分する場合には、(2)を検討する。さらに、権利行使されず失効となった場合、(3)を検討する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 新株発行する場合 ストック・オプションが権利行使され、これに対して新株を発行した場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替える(基準8)。 (2) 自己株式を処分する場合 ストック・オプションが権利行使され、当該企業が自己株式を処分した場合には、自己株式の取得原価と、新株予約権の帳簿価額及び権利行使に伴う払込金額の合計額との差額は、自己株式処分差額とする(基準8)。 自己株式処分差額が正の値の場合、「自己株式処分差益」として、その他資本剰余金に計上する。負の値の場合、「自己株式処分差損」として、その他資本剰余金から減額する。なお、会計期間末において、その他資本剰余金の残高が負の値の場合、その他資本剰余金をゼロとし、負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額する(企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」9、10、12)。 (3) 権利行使されず失効となった場合 権利不行使による失効となった場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該失効に対応する部分を原則として「新株予約権戻入益」等の科目名称で特別利益に計上する。この会計処理は、当該失効が確定した期に行う(基準8、47)。 《設例3》 〈X8年3月期〉 ① 新株発行 (※1) 10,000円×414株(=92名×10個×45%)=4,140,000円 (※2) 4,600,000×45%=2,070,000円 ② 自己株式の処分 (※3) 10,000円×414株(=92名×10個×45%)=4,140,000円 (※4) 4,600,000×45%=2,070,000円 (※5) 9,000円×414株(=92名×10個×45%)=3,726,000円 (※6) 差額 ③ 権利行使期間満了による新株予約権の失効 (※7) 4,600,000×10%=460,000円 【ストック・オプションと税効果】 税制適格ストック・オプションと税制非適格ストック・オプションで、税効果の取扱いが異なる。 (1) 税制適格ストック・オプションの場合 税制適格ストック・オプションを付与された個人は、付与時、権利行使時ともに所得税の給与所得等による課税がなく、株式譲渡時に譲渡所得として課税される。 一方、会社側は、法人税法上、給与等として所得税が課税される場合にのみ損金算入が認められるが、給与等として所得税が課税されないため、永久に損金算入されない。 したがって、会計上は費用処理されるが、法人税法上は、永久に損金算入されないため、永久差異となる(将来減算一時差異は生じない)。 なお、権利不行使による戻入益は益金不算入となるが、一時差異を認識しないため、税効果会計の適用対象にはならない。 (2) 税制非適格ストック・オプションの場合 税制適格ストック・オプションに該当しない場合、個人は権利行使時に行使時の時価から権利行使価額を控除した差額が給与所得等として課税される。 一方、会社側では、給与等として所得税が課税されるため、法人税法上、損金算入が認められる。 そのため、ストック・オプションの費用計上時は損金不算入となるが、権利行使時に損金算入されることから、将来減算一時差異が認識され、回収可能性がある場合、繰延税金資産を計上する。 なお、権利不行使による戻入益は益金不算入となり、減算されるため、権利行使時だけではなく、権利不行使が確定した時点でも将来減算一時差異が解消する。 したがって、権利行使時及び権利不行使確定時に繰延税金資産が取り崩されることになる。 以下の注記が必要となる(基準16)。 (1) 本会計基準の適用による財務諸表への影響額 (2) 各会計期間において存在したストック・オプションの内容、規模(付与数等)及びその変動状況(行使数や失効数等) (3) ストック・オプションの公正な評価単価の見積方法 (4) ストック・オプションの権利確定数の見積方法 (5) ストック・オプションの単位当たりの本源的価値による算定を行う場合には、当該ストック・オプションの各期末における本源的価値の合計額及び各会計期間中に権利行使されたストック・オプションの権利行使日における本源的価値の合計額 (6) ストック・オプションの条件変更の状況 (7) 自社株式オプション又は自社の株式に対価性がない場合には、その旨及びそのように判断した根拠 財貨又はサービスの対価として自社株式オプション又は自社の株式を用いる取引(ストック・オプションを付与する取引を除く。)についても、ストック・オプションを付与する取引に準じて、該当する事項を注記する。   なお、計算書類では上記のような注記は必ずしも求められていない。 *   *   * 以上、3つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)

#No. 195(掲載号)
#西田 友洋
2016/11/24

中小法人の税制優遇措置を考慮した『減資・増資』の活用と留意点 【第2回】「企業活動にとっての減資・増資のメリット・デメリット」

中小法人の税制優遇措置を考慮した 『減資・増資』の活用と留意点 【第2回】 「企業活動にとっての減資・増資のメリット・デメリット」   公認会計士・税理士 石川 理一   1 従業員数基準が実現した場合の検討事項 前回は中小法人に適用される税制優遇措置や中小法人の範囲の見直しが検討されていることを解説した。 前回述べたとおり、中小法人の範囲を資本金基準と従業員数基準を組み合わせて判断する案が日本税理士会連合会から示されている。仮にこの案が実現された場合、どのような検討を行うべきであろうか。 赤い線で囲んだ範囲が中小法人に該当 (※) 従業員数基準を1,000人と仮定している。 中小法人に該当するためには資本金の額が1億円以下でなければならず、中小法人に該当すると税制優遇措置が適用され、税金コストを抑えることができる。このため、資本金が1億円を超える法人が何らかの理由で減資を検討する場合、資本金を1億円以下まで引き下げるか否かは、検討すべきポイントであろう。 また、資本金は1億円以下であるが従業員数が基準の人数を超えるため中小法人に該当しなくなる企業が、業績の不振等により人員の削減を検討している場合も同様に、人員削減により中小法人の税制優遇措置が適用されることを考慮するべきである。 逆に、このような企業で従業員のリストラの必要がない場合は、増資することで財務基盤を強化する、もしくは増資で調達した資金を収益性の高い事業に積極的に投下することによって収益拡大戦略をとるなどの方策をとることも考えられる。 以下では、企業が減資・増資を行った場合のメリット・デメリットについて解説する。   2 減資のメリット・デメリット 企業活動における減資のメリット・デメリットは以下のとおりである。   3 増資のメリット・デメリット 続いて、企業活動における増資のメリット・デメリットを示すと以下のとおりである。 *  *  * 以上をまとめると、次のようになる。   4 減資を行った企業の事例 資本金1億円超の会社が減資により資本金を1億円以下とした事例として、吉本興業株式会社が挙げられる。 吉本興業株式会社は、平成27年3月末時点で利益剰余金が約140億円のマイナスとなっていたため、約125億円の資本金を取り崩して1億円にし、取り崩した約124億円を資本準備金とした。 この時点で直接欠損てん補(利益剰余金のマイナス)に充当しなかったのは、株主資本内の計数変動によって利益剰余金のマイナスを解消するのではなく、まずは収益を上げることによって利益剰余金のマイナスを解消することを考えたためと思われるが、結果として資本金が1億円となっただけで、減資の当初の目的であった利益剰余金のマイナスの解消は実現していない。 同社はこの減資について、「取り崩した資本金を中長期的な投資に回すための財務戦略で、税制優遇が一番の目的ではない」(同社広報)と表明している。 他方、シャープ株式会社も欠損てん補に充当するため平成27年6月の定時株主総会に資本金1億円に減資することを計画していたが、社会的な批判を受け、最終的には減資後の資本金を5億円とした。 資本金を1億円以下にして中小法人の税制優遇措置を活用し節税を図ることは違法ではないが、上述したように企業イメージの悪化につながりかねない。知名度の高い企業はこの点も考慮して減資を検討するべきである。 (了)

#No. 195(掲載号)
#石川 理一
2016/11/24

《編集部レポート》 日税連主催「報道関係者との懇談会」が開催~租税教育や成年後見制度における税理士の役割について紹介~

《編集部レポート》 日税連主催「報道関係者との懇談会」が開催 ~租税教育や成年後見制度における税理士の役割について紹介~   Profession Journal 編集部   日本税理士会連合会は11月22日(火)、日本記者クラブにおいて「報道関係者との懇談会」を開催した。この懇談会はこれまで東京税理士会の主催で行われたきたが、今回より日税連の主催となる。 会の冒頭では神津信一日本税理士会連合会会長より、「本日は、税理士が普段どのような社会貢献活動を行っているか知っていただきたい」旨の挨拶があった。 (神津信一日本税理士会連合会会長) 第一部では杉田宗久専務理事より「こんな場面で税理士が活躍しています」とのテーマで、税理士制度の成り立ちから税理士の業務内容や社会貢献活動について全体的な説明が行われ、続いて富村将之租税教育推進部長より「税理士が行う租税教育」について、納税者意識を高める必要性と学校や教員養成等の現場で実際に行われている租税教育の取組みや今後の展望について説明が行われた。 第二部では加藤武人日税連成年後見支援センター長より、「税理士が行う成年後見」について、税理士の本来業務である帳簿作成等の会計の専門知識が、成年後見制度における収支状況報告書及び財産目録の正確性に活かすことができる点について説明が行われ、さらに日税連成年後見支援センターの役割についての紹介があった。 (了)

#No. 195(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2016/11/24

《速報解説》 ディスクロージャーWG報告を受け、開示府令等の改正案が公表~有価証券報告書の記載内容に「経営方針」を追加~

《速報解説》 ディスクロージャーWG報告を受け、開示府令等の改正案が公表 ~有価証券報告書の記載内容に「経営方針」を追加~   公認会計士・税理士 若松 弘之   1 はじめに 平成28年11月8日、金融庁より「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案が公表された。 本年4月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告において、我が国における会社法・金融商品取引法・証券取引所上場規則に基づく3つの制度開示内容の整理・共通化・合理化を図る様々な提言がなされているが、それらの提言を受け、現在決算短信の記載内容とされている「経営方針」を有価証券報告書において開示する改正が行われる。 さらに、本年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」を踏まえ、国内募集と並行して行われる海外募集について、一定の場合に臨時報告書の提出を不要とする改正が行われる。 当該改正案について、金融庁では平成28年12月8日まで意見募集を行っている。   2 内容 主な改正案の内容は以下のとおり。 (1) 有価証券報告書の記載内容の追加に関する改正 金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告では、企業と投資家との建設的な対話を促進していく観点から、より効果的かつ効率的で適時な開示が可能となるよう、決算短信、事業報告等、有価証券報告書の開示内容の整理・共通化・合理化に向けた様々な提言がなされた。 このうち現在、決算短信の記載内容とされている「経営方針」について、決算短信ではなく有価証券報告書において開示すべきことが提言されたことを踏まえ、当改正案において有価証券報告書の記載内容に「経営方針」を加えるための改正が提案されている。 具体的には、有価証券報告書の【事業の状況】における【対処すべき課題】を【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】に変更し、当該項目に経営方針の内容等を記載することになる。 なお、決算短信に係る見直しについては、東京証券取引所において、「決算短信・四半期決算短信の様式に関する自由度の向上について」として、現在、「経営方針」の記載を求めている決算短信(サマリー情報)様式の上場会社に対する使用義務を撤廃することが提案されており、平成28年11月28日までパブリック・コメントの募集が行われている。 (2) 海外募集に係る臨時報告書 本年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」を踏まえ、国内募集と並行して海外募集が行われる場合、海外募集に係る臨時報告書に記載すべき情報が国内募集に係る有価証券届出書に全て記載されていることを条件に、当該臨時報告書の提出を不要とする改正が提案されている。   3 適用開始時期 改正後の規定は公布の日から施行する予定であり、上記(1)の有価証券報告書の記載内容追加に関する改正については、平成29年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用する予定である。 (了)

#No. 194(掲載号)
#若松 弘之
2016/11/18

プロフェッションジャーナル No.194が公開されました!~今週のお薦め記事~

2016年11月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.194を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2016/11/17

日本の企業税制 【第37回】「政府税制調査会が取りまとめた2つの報告書について」

日本の企業税制 【第37回】 「政府税制調査会が取りまとめた2つの報告書について」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   11月14日(月)の政府税制調査会第8回総会で、「経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告」と「『BEPSプロジェクト』の勧告を踏まえた国際課税のあり方に関する論点整理」との2つの報告書の取りまとめが行われた。   ▷経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 個人所得課税に関しては、働き方に対して中立的な税制の構築、所得控除方式の見直し、働き方の多様化等を踏まえた諸控除の見直し、老後の生活に備えるための自助努力を支援する公平な制度の構築、個人住民税のあり方、について取り上げられている。 特に、働き方に対して中立的な税制の構築については、配偶者控除について、税収中立を堅持して、見直す方向で一致したとされている。 具体的な制度の案については、従来の①配偶者控除を廃止し、その財源で子育て支援を拡充、②移転的控除制度を税額控除方式で導入、③夫婦世帯を対象とする新たな控除制度の創設、という3案に加えて、「配偶者の収入制限である103万円を引き上げることも一案との意見があった」とされている。   ▷「BEPSプロジェクト」の勧告を踏まえた国際課税のあり方に関する論点整理 国際課税については、主として、外国子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン対策税制)の総合的見直しについて取り上げられている。 「現行制度がトリガー税率を上回る外国関係会社を一律・自動的に対象外としているために、いわゆるunder-inclusionが発生している一方で、現在の適用除外判定により、実体ある事業が合算課税されてしまうことへの対応を検討する必要がある」ことを背景に、租税回避リスクを「外国子会社全体の税負担水準と活動の態様」により判断する現行の方式から、「外国子会社の所得の内容(受動的所得/能動的所得)」により判断するアプローチへ転換することが提示されている。 つまり、現行のトリガー税率の廃止が念頭にあるものと見られ、膨大な数の外国関係会社すべての所得の内容を吟味することを迫られるのではないかとも見られるが、一方で、「過度な実務負担を生じさせない『制度適用免除基準』」の設定が必要とされている点に注目すべきであろう。「制度適用免除基準」のあり方が、実務対応の大きな鍵を握っている。 また、能動的所得なのか受動的所得なのか判別困難な所得(例えば、能動的所得の中に知的財産からの所得が混入している場合)に対応するため、みなし課税の一種である「超過利潤アプローチ」が挙げられているが、他国でも実施の例を見ない新たな制度の導入には慎重な議論が必要となろう。 この他にも、①タックス・プランニングの義務的開示制度(MDR)、②移転価格税制の見直し、③過大支払利子税制、に関するBEPSプロジェクトにおける議論が紹介され、今後の課題として掲げられた。 ①に関しては、「何らかの客観的な基準を用いて開示対象となるスキームを特定すること」や「既存の情報開示制度等との役割分担を最適化」「開示の対象範囲や罰則等について、他国の制度から大きく乖離しないようにすること」が、導入を検討するにあたっての留意点として挙げられている。 ②に関しては、無形資産移転時の価格設定と無形資産移転後に得られる使用料の価格設定との2点に関するOECDの議論の内容が紹介されており、前者は無形資産の価格算出のためのDCF法の活用とともに、取引時点で評価が困難な無形資産について、「実際の利益」による事後的な再計算を行う「所得相応性基準」の導入が取り上げられている。 ③に関しては、現行の過大支払利子税制では、関連者への純支払利子等が調整所得金額の50%を超える部分について損金算入が認められないが、この50%という閾値について、OECDの勧告では、EBITDAの10~30%の範囲で各国が設定すべきとされていることから、その引下げの必要性と程度について検討が必要とされている。 (了)

#No. 194(掲載号)
#小畑 良晴
2016/11/17

被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔税務面(法人税・消費税)のアドバイス〕 【第1回】「法人が被災した場合の法人税・消費税における取扱いの概要」

被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔税務面(法人税・消費税)のアドバイス〕 【第1回】 「法人が被災した場合の法人税・消費税における取扱いの概要」   公認会計士・税理士 新名 貴則   震災や水害等によって法人が被災した場合、被災した従業員や取引先等の支援費用、資産の滅失・損壊などによる損失や修繕費用など、臨時的かつ多額の費用・損失が発生することがある。また、被災による混乱のため、そもそも申告や納税を法定期限までに行うことが困難な場合もある。 このような場合においても、法人税や消費税において平常時の取扱いと同様とすることは、法人の復旧の妨げとなる可能性がある。したがって、次のように様々な被災時特有の取扱いが設けられている。なお、これらの詳細については【第2回】以降で順次解説する。   1 申告・納付期限の延長 災害その他のやむを得ない理由により、申告・納税をその期限までにできない場合、次のような期限延長の制度がある。   2 義援金、災害見舞金等の取扱い 災害が発生した際に、法人が被災した者に対して次のような支援を行うことがある。このとき、一定の要件を満たす場合はこれを寄附金又は交際費等として取り扱わず、損金に算入することができる。 法人が被災者に対する義援金を支出する場合は、法人税法上は寄附金として扱い、支出する相手先によって損金算入の取扱いが異なる。   3 取引先に対する支援の取扱い 被災した取引先に対して、次のような支援を行うことがある。このとき、一定の要件を満たす場合はこれを寄附金又は交際費等として取り扱わず、損金に算入することができる。   4 被災した資産に係る損失等 法人が被災した場合、所有する棚卸資産や固定資産に被害が生じ、次のような費用や損失が発生する場合がある。このとき、これが損金に算入されるかどうかについても、災害時特有の取扱いがあるので注意が必要である。   5 災害損失欠損金 青色申告書を提出していない事業年度に発生した欠損金については、繰越控除は認められていない。しかし、欠損金額のうちに災害損失欠損金額がある場合は、青色申告書を提出していない事業年度であっても繰越控除が認められる。   6 過去の大規模災害時における特例措置 災害による被害状況が甚大である場合は、特例法や国税庁の個別通達による特例措置がとられることがある。過去には阪神・淡路大震災や東日本大震災の発生時に、震災特例法や個別通達による特例措置がとられた。最近では平成28年4月に熊本地震が発生した際に、「平成28年熊本地震に関する諸費用の法人税の取扱いについて(法令解釈通達)」が公表されている。 災害の規模によって適用される特例措置は異なるが、大規模災害時の主要な特例措置には次のようなものがある。 (了)

#No. 194(掲載号)
#新名 貴則
2016/11/17
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