《速報解説》 東京局、サブリース物件の措置法65条の8適用時における 9号買換えの買換資産の範囲及び面積要件について 文書回答事例を公表 税理士 菅野 真美 東京国税局は10月20日付け(ホームページ公表は11月2日)で、サブリース物件が措置法65条の8の特例を受ける場合の、9号買換えにおける買換資産の範囲及び面積要件について、下記の文書回答事例を公表した。 ▷どのような事案を事前照会したのか? 当社は、40年以上国内に所有していた建物とその敷地を平成28年7月にA社に売却した。A社は建物を取り壊して9階建てのオフィスビルを建設し、完成後、当社は2階から4階までの3フロアの専有部分の区分所有権と区分所有する床面積合計1,491.93㎡に応じた土地の敷地利用権合計311.39㎡を取得し、1年以内に事業の用に供する予定である。なお、当社は3フロアのうち、2フロアは自社の事務所として利用し、1フロアはA社か賃借し、第三者に事務所として転貸する予定である。 この譲渡について措置法65条の8(特定の資産の譲渡に伴い特別勘定を設けた場合の課税の特例)の規定の適用を受けようと考えている。この特例の適用を受けるための要件として土地等は特定施設の敷地の用に供されていること、敷地面積が300㎡以上であることがある。この事案について、これらの要件を満たしているか。 ▷何が問題か? 措置法65条8の事業用資産の買換えの特例は、要件を満たした場合は、譲渡益の80%が繰り延べられるものである。 この要件の1つとして、土地等が特定施設の敷地の用に供されていることがある。特定施設とは事務所、工場、作業場、研究所、営業所、店舗、倉庫、住宅その他これらに類する施設(福利厚生施設に該当するものを除くとされている)と定義され、所有や使用の主体が誰かを規定していない。 本件においては、当社がA社に賃貸し、A社が転貸して事務所の用に供されることが予定されているが、このような権利関係の場合においても特定施設の敷地の要件を満たすことになるのか。 また、敷地の面積が300㎡以上に限るとされている。措置法通達65の7(1)-30の3(長期所有の土地等の買換えに係る面積判定)において、区分所有に係る特定施設の敷地の用に供されているものについては、土地等の総面積に法人の専有部分の床面積の総床面積に占める割合を乗じて計算するとされている。また、特定施設に該当するかは、区分所有建物については、最低単位である独立部分ごとに判定することになる。 このケースのように3フロアが別々に区分所有された建物の敷地利用権について、300㎡以上か否の判定は3フロアの合計面積で行うのか、1フロアごとに個別判断を行うのか。 ▷結論は? 〇誰が所有し誰が利用しているかではなく、何のために利用しているかで考える 敷地利用権は土地等の新たな取得に該当し、賃貸オフィスビルを主目的として建設された建物の2フロアを自社の事務所用として利用し、1フロアはマスターリース契約により転借人が事務所として利用する予定であると考えられることから、3フロアとも事務所の用に供される。よって、3フロアのすべての敷地利用権が、特定施設の敷地の用に供されられる土地等に該当する。 〇一の取引で複数の区分所有権等を取得した場合は、合計面積で判断する 区分所有された敷地利用権はすべて特定施設の敷地の用に供する土地等に該当し、一の取引で3つの専有部分をまとめて取得していることから、3フロアの敷地利用権の面積の合計額311.39㎡で判断し、300㎡以上であることから面積要件も満たされる。 (了)
《速報解説》 国税庁、「国際戦略トータルプラン」で 『重点管理富裕層』への取組みを明らかに Profession Journal編集部 国税庁が10月25日付けで公表した「国際戦略トータルプラン-国際課税の取組の現状と今後の方向-」は、経済社会が国際化する中で、いわゆる「パナマ文書」やBEPSの動向等を通じ国民の関心が高まっている国際的な租税回避行為に対し、国税庁の取組みと今後の方向を明らかにしたもの。 国税庁はこれらの取組みを通じ、富裕層や海外取引のある企業による海外への資産隠しや国際的な租税回避行為に適切に対処するとともに、新たに生じる国際課税上の課題に積極的に対応するとしている。 〇富裕層PTは平成29事務年度から全国展開へ トータルプランで注目すべきは、超富裕層に関する情報収集を行う「重点管理富裕層プロジェクトチーム(富裕層PT)」の取組みについて、公の資料によって明記された点だろう(p12)。 富裕層PTは、従来の富裕層に対する取組みに加え、富裕層に関する情報収集機能を更に強化するという観点から、平成 26(2014)事務年度(平成26年7月~)より、東京、大阪及び名古屋の各国税局に設置された。 富裕層 PT では、富裕層の中でも特に多額の資産を保有していると認められる納税者を「重点管理富裕層」とし、その関係者や主宰法人、関連する法人を「管理対象者グループ」として一体的に管理して情報を収集した上で、その情報の分析・検討を行っている。 この分析の結果、調査が必要と認められた場合には、「調査対象者の態様に応じ、複数の調査担当部署による連携調査を始めとした組織的な調査体制を編成し、関係部署と十分な連絡をとった上で、総合的な調査を的確に企画・実施する」としており、主宰する法人との取引等を含めた総合調査が想定される。 なお現在、富裕層PTは3つの国税局(東京・大阪・名古屋)にのみ設置されているが、平成29(2017)事務年度(平成29年7月~)からは他の国税局へも展開するなど、全国的な取組みとする方針であることが示されている。 〇目的は納税者への牽制効果? トータルプランには、国内外の資産の保有・移動状況を把握するための各方策について、制度概要及び現行の取組み状況や今後のスケジュール等が説明されている。記載された方策を列挙すると次のとおり。 財産債務調書の提出といった納税者からの直接的な情報収集だけでなく、国外送金等調書など金融機関からの報告や、租税条約等を通じた国家間による情報交換など、多方面からの情報収集策が整備されつつあることが見て取れる。 なお、トータルプランには取組みとしての記載はされていないが、いわゆるマイナンバー(個人番号)の導入は、国外送金等調書や財産債務調書、国外財産調書にもそれぞれ記載が求められることから、これらの実効性を強化するのは間違いないだろう。 ただし、今回のトータルプラン公表には、上記の方策を用いても国際的な課税逃れを実際に補足するのは困難なため、納税者への牽制効果を狙うという目的もあるのではないだろうか。特に国外財産調書及び財産債務調書はその年の12月31日における財産状況を把握する必要があり、これから年末にかけて、一定の資産を保有する者は国内外の財産状況を収集しなければならないことから、これらの動向に対する牽制の効果は大きいと考えられる。 〇金融商品を用いた租税回避阻止の取組みも また着目しておきたいのが、資料p13にある下記の記述だ。 国際的な租税回避の手段としてデリバティブ(金融派生商品)などの金融取引が利用されるケースも多いが、複雑・高度化する金融商品への課税の取組みに国税庁が本腰を入れ始めたという見方もできよう。今後の制度改正も含めた動向には注視が必要だ。 (了)
2016年11月2日(水)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.192を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.46- 「アベノミクスのアキレス腱」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 安倍政権の本質がポピュリズムであることは、多くの識者が指摘しているところだが、今回の配偶者控除の見直し議論は、それを物語っている。 そもそも安倍政権が自ら掲げる一丁目一番地の政策は、働き方改革だ。同一労働同一賃金のガイドライン作り、無限定正社員システムの見直し、金銭解雇制度の是非など様々な論点があり、大きな議論と強いリーダーシップが必要な改革である。 労働力不足が深刻になりつつある中で、女性の就労を阻害している「103万円の壁」の原因となっている配偶者控除制度の見直しは、働き方改革として極めて重要なことと思われた。 ところが総選挙の風が吹き始めた途端、その議論がストップしてしまった。見直しにより、専業主婦家庭の税負担が増えると、選挙にマイナスだということのようだ。 他方で、配偶者控除の適用を150万円程度(収入ベース)に引き上げるという小手先の議論が進んでおり、そうなれば新たに「150万円の壁」が生じる。これを行っても、パート本人の収入が130万円を超えると「本人に税負担が生じる」という点は変わらない。 もう一つの壁である「130万円の壁」はどうか。こちらの方は、2016年10月より、従業員501人以上の企業では保険適用を拡大し、年収106万円以上となった。改正の方向は間違ってはいないが、中途半端な改革は新たに「106万円の壁」を作ることとなった。 安倍政権の下で行われているのは、パッチワークのような名前だけの改革であり、抜本的な改革には手が付けられていない。 * * * 欧米では、このような壁を「貧困の罠」(ポバティー・トラップ)と称して、抜本的な対策を導入している。それは、低所得者に対して勤労に応じて税と社会保険料負担を軽減する「勤労税額控除」という制度である。 有名なのは英国(ユニバーサルクレディット)とオランダの制度であるが、米国やスウェーデン、さらには韓国でも勤労奨励税制という名前で導入されている。 英国はブレア政権が導入し、保守党政権のキャメロン政権もそれを引き継ぎ、勤労インセンティブの向上に大きな成果を上げている。オランダでは、この制度で「オランダ病」を「オランダの奇跡」に変えた。 いずれの制度も、税と社会保険料負担を一体としてとらえて、勤労により一定の所得に達するまで負担軽減や給付をするという制度で、名前は「税額控除」だが、実態は「社会保障給付」である。 わが国でも、政府税制調査会が先進諸国の導入状況の調査を行っている。ホームページに掲載された報告書を一覧にまとめると、以下のとおりである。 勤労税額控除の評価(16年3月政府税制調査海外調査報告書からの抜粋) (※) 筆者作成 なぜわが国では、このような政策が導入されないのか。それは、税と社会保障が別の官庁で所管される「霞が関の壁」があるからだ。筆者はそれを「バカの壁」(自分の知りたくない情報は遮断し、それ以上の思考を停止させる自らの脳の行い)とも呼んでいる。 より根本的な原因は、安倍政権の税・社会保障への関心の低さである。ここにアベノミクスの落とし穴がある。金融政策で将来の「期待」に働きかけても、社会保障の将来に「不安」がある状況では、全く効果はないではないか。 (了)
平成29年分源泉徴収税額表の変更点 税理士・社会保険労務士 上前 剛 本稿では、平成29年1月からの源泉徴収税額表の変更点について、まとめることとする。 1 給与所得の源泉徴収税額表(月額表)の変更点 ① 甲欄 833,000円未満の表記は、平成28年分と同じである。833,000円以上の表記が平成28年分と異なる。 【平成28年分の甲欄の一部】 【平成29年分の甲欄の一部】 ② 乙欄 338,000円未満の表記は、平成28年分と同じである。338,000円以上の表記が平成28年分と異なる。 2 給与所得の源泉徴収税額表(日額表)の変更点 ① 甲欄 27,800円未満及び118,500円を超える金額の表記は、平成28年分と同じである。27,800円以上118,500円以下の表記が平成28年分と異なる。 【平成28年分の甲欄の一部】 【平成29年分の甲欄の一部】 ② 乙欄 11,200円未満の表記は、平成28年分と同じである。11,200円以上の表記が平成28年分と異なる。 ③ 丙欄 28,000円未満の表記は、平成28年分と同じである。28,000円以上の表記が平成28年分と異なる。 3 賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表の変更点 ① 甲欄 12.252%以下の表記は、平成28年分と同じである。14.294%以上の表記が平成28年分と異なる。 【平成28年分の甲欄の一部】 ※クリックすると大きい画像が開きます。 【平成29年分の甲欄の一部】 ※クリックすると大きい画像が開きます。 ② 乙欄 23,9000円未満の表記は、平成28年分と同じである。239,000円以上の表記が平成28年分と異なる。 4 退職所得の源泉徴収税額表の速算表の変更点 変更点はない。 5 電子計算機等を使用して源泉徴収税額を計算する方法を定める財務省告示の別表の変更点 別表第1~第3のうち、別表第2と別表第3は、平成28年分と同じである。 別表第1の833,333円以下の表記は、平成28年分と同じである。833,334円以上の表記が平成28年分と異なる。 【平成28年分の別表第1】 【平成29年分の別表第1】 (了)
〈平成28年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第2回】 「今年から適用される改正事項(その2)」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 前回に続き、平成28年分の所得税に適用される税制改正事項のうち、年末調整に影響のあるものを取り上げ解説する。 今回取り上げるのは 【1】 給与所得控除額の引下げ 【2】 国外居住親族を扶養控除等の対象とする場合の取扱い 【3】 学資金の取扱い である。 【1】 給与所得控除額の引下げ 平成26年度税制改正により、平成28年分の所得税から、給与所得控除額が段階的に引き下げられることとなった。 平成28年分の所得税については、給与等の収入金額1,200万円超に適用される230万円が上限となる(所法28②、別表第五)。 改正内容の詳細については、平成26年公開の下記拙稿をご参照いただきたい。 【2】 国外居住親族を扶養控除等の対象とする場合の取扱い (1) 制度の概要 平成28年分以後の所得税及び平成29年度分以後の個人住民税について、国外に居住する親族を扶養控除等の対象とするときには、「親族関係書類」と「送金関係書類」を「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(以下、扶養控除等申告書という)や「給与所得者の配偶者特別控除申告書」(以下、配偶者特別控除申告書という)に添付又は提示することが必要となった(所令316の2②③)。 本改正の詳細については、以下の拙稿をご参照いただきたい。 「親族関係書類」は、扶養控除等申告書を提出するときに添付又は提示することとなっているため(※)、年末調整においては、「送金関係書類」の添付又は提示を受けることが必要となる。 (※) 配偶者特別控除の適用を受ける場合には、扶養控除等申告書に配偶者に関する記載が行われないため、配偶者特別控除申告書を提出するときに「親族関係書類」を添付又は提示する。 (2) 年末調整で必要となる手続 年末調整において、国外居住親族に係る扶養控除等の適用を受ける従業員等は、次の手続を行う必要がある。 ① 国外居住親族を配偶者控除、扶養控除、障害者控除の対象とする場合 〈記載例〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ② 国外居住親族を配偶者特別控除の対象とする場合 〈記載例〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 「親族関係書類」と「送金関係書類」については、該当する書類の範囲や要件が詳細に規定されている。国外居住親族を扶養親族等の対象とする従業員等がいる場合には、以下の国税庁ホームページの内容等を参考に、書類の準備状況を確認しておきたい。 【3】 学資金の取扱い 平成28年度税制改正により、「給与所得者がその使用者から受けるもので、通常の給与に加算して受ける学資金」が非課税所得とされた(所法9①十五)。 つまり、使用者から支給を受けていても、「通常の給与に加算して受ける学資金」であれば、所得税は非課税となる。この改正は、平成28年4月1日以後給付される学資金に適用される。 ただし、役員に対する学資金や、従業員の配偶者や親族等に対する学資金は、通常の給与に加算して受けるものであっても従来通り給与課税の対象となる。したがって、「一般の従業員が、会社から通常の給与に加算して受ける学資金」がこの取扱いの対象となる。 なお、「学資金」について法律上の定義はないため、非課税となるかどうかは実態で判断することになる。 改正内容の詳細については、以下の拙稿をご参照いただきたい。 (了)
~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第12回】 「形式的には消費貸借契約に基づく金銭の交付であるが、 実質は寄附金に当たるとされた事例」 税理士 佐藤 善恵 (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 本件の原告(X社)の元代表者である甲は、オランダに所在するA社に全額出資をしている。X社は、A社が2つの銀行から借入をする際、債務保証をするとともに、X社が有するソニー株式(本件株式)を担保として各銀行に提供(本件担保提供)した。しかし、その翌年、本件株式の時価が2分の1以下に下落したため、X社は、各銀行から追加担保を求められた。 なお、A社は、甲が参画するフォーミュラワン(F1)レースに関する事業を行うために、複数の法人を設立するなどして事業資金を必要としていた。 そこで、X社は、本件株式を売却するなどして資金を調達した上で、A社に対して資金提供(本件資金提供)をし、A社はこの資金提供を原資として各銀行に対する債務を弁済した。なお、X社は本件資金提供に係る金額をA社に対する貸付金として会計処理をした。 しかし、X社は、A社に対する貸付金や未収入金(総額約370億円)について、一部代物弁済(約132億円)を受けたものの、残額及び利息等に関する債権を放棄した(本件債権放棄)とする処理をした。具体的には、当該債権に係る損失を子会社整理損勘定に計上して、損金の額に算入して申告書を提出したのである。 これに対して、税務署長は、X社のその損金算入額は、貸付金名目の「寄附金」 (旧法人税法37条6項、旧租税特別措置法66条の4(国外関連者との取引に係る課税の特例(平成14年改正前のもの))であり、A社はX社にとっては、「国外関連者」に当たるから、当該「寄附金」の額は、損金不算入となるとして更正処分等を行ったため、X社がその取消を求めて争った。 争点は、①「寄附金」該当性の判断対象となる行為、②本件担保提供、本件資金提供又は本件債権放棄により給付又は供与された金銭その他の資産又は経済的利益が「寄附金」に当たるか、の2点である。 ここでは、争点②を取り上げるが、争点①については、本件担保提供は、本件株式の保有に係る権利の移転を伴うものではないから、直接に「寄附金」に当たるかどうか論ずるのは前提を欠くとの判断が下されている。 〔当事者の主な主張〕 ▷ 原処分庁 「寄附金」該当性については、本件資金提供又は本件債権放棄について検討すべきところ、本件の事情からすれば、X社は、本件資金提供をする時点において、A社から本件資金提供に係る弁済を受けることを予定しなかったといえるから、貸付けという形式のいかんを問わず、本件資金提供には、通常の経済取引として是認できる合理的理由が存在しない。したがって、本件資金提供に係る金銭は「寄附金」に当たる。 また、本件担保提供、本件資金提供から本件債権放棄に至る一連の取引の経緯に照らせば、本件債権放棄は、X社自身が自ら招き、回避の努力もしなかった当然の結果というべきであり、本件債権放棄に経済取引として十分に首肯し得る合理的理由があるとはいえない。したがって、本件債権放棄に係る金額は、「寄附金」に当たる。 ▷ X社 本件の事情によれば、本件担保提供当時、債務者であるA社に対する求償権の行使が債務者の無資力のために不能となるか又は著しく困難となる危険が客観的に予測されていたとはいえないから、「寄附金」には当たらない。また、債権放棄については、債権回収の可能性があるにもかかわらずあえて債権放棄をしたものではないから、「寄附金」には当たらない。 〔裁判所の判断〕 地裁は、A社がX社の「国外関連者」に当たることを認めた上で、「寄附金」の解釈を次のように述べた。 そして、裁判所は、X社はA社の株式を保有していなかったから、A社が事業活動による損失を計上したとしても、そのことだけでX社が直ちに損失を被る関係にはなかったという点を指摘している。 そして、「寄附金」該当性については、様々な間接事実(※)に基づき本件担保提供は、もっぱらA社の事業活動に必要な資金調達の上での便宜を図ることを企図してされたものであり、X社において金銭等の経済的利益を実質的に得ることが期待されていたものではないことを推認している。他にも、X社が本件株式を売却した動機や本件資金提供についてA社から金銭の返還を受けることを想定していなかったことなどを推認している。 結論として、裁判所は「本件資金提供は、形式的には消費貸借契約に基づく金銭の交付であったとしても、その実質は、A社に対して金銭を対価なく移転するものであり、かつ、その行為によって通常の経済取引として是認することができる合理的理由は存在しない。」と判断して「寄附金」に当たるとの判断を下した。 (※) 裁判所が着目した間接事実は主に次のとおりである。 本件債務保証契約に係る手数料がX社に支払われることをうかがわせる証拠はないこと。 X社がF1事業に関与することで債務保証手数料以外の金銭や経済的利益を得ることが近い将来において具体的に見込まれるということができるような状況にあったとは認めがたいこと。 X社がF1事業の企画及び実施に主体的に関与していたことをうかがわせる客観的証拠は見当たらず、かえって、X社の取締役及び担当者の東京国税局職員に対する供述からは、X社の取締役らがF1事業の実施状況の詳細を把握していなかったことが認められること。 当時のF1事業に係る事業計画の記載からすると、X社は、本件担保提供当時、A社が多額の損失を被る相応の危険があることを十分に認識していたと認められること。 〔判断の分水嶺〕 本件では、上記で触れた間接事実などから、X社の本件担保提供、本件株式の売却及び本件資金提供に関する動機などが推認できたことが判断の分水嶺といえよう。 つまり、X社からA社に対して行われた様々な行為について、直接的に「通常の経済取引として是認することができる合理的理由が存在しない」といえるような証拠は認められなかったものの、間接事実を積み上げてそのような判断に至ったものである。 〔本判決が示唆するもの〕 「合理的理由が存在しない」ことを証明することは簡単ではない。本件では、課税庁側の証拠の1つに、調査時のX社の元代表者等に対する聴取りの際、聴取書への押印が拒否されたことや、その拒否の経緯に関する記録書(証拠)があった。 調査時の証拠保全に関しては、担当者の能力差が表れるところであろうが、押印の有無にかかわらず、調査時の聴取り内容は証拠になり得ることはおさえておきたい。 なお、課税庁の判決情報のコメントを一部紹介する。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第20回】 「共同相続人の連帯納付義務事件」 ~最判昭和55年7月1日(民集34巻4号535頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第39回】 「継続的取引の基本となる契約書④(契約期間が3ヶ月を超えるもの)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は警備会社です。第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当する要件は「契約期間の記載のあるもののうち、契約期間が3ヶ月以内で、かつ、更新に関する定めのないものは除く」とされていますが、警備に関する基本契約を結ぶにあたり、次の【事例1】から【事例3】のように契約期間を記載した場合、第7号文書に該当しますか。 【事例1】 【事例2】 【事例1】の警備業務基本契約書の第10条(契約期間)を下記のように記載 【事例3】 【事例1】の警備業務基本契約書の第10条(契約期間)を下記のように記載 【事例1】から【事例3】は、すべて第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当する。 また、すべて第2号文書(請負に関する契約書)にも該当しており、【事例1】は記載金額が計算できないため第7号文書、【事例2】、【事例3】については記載金額が計算できることから、第2号文書に該当する。 [検討] 継続的取引の基本となる契約書に該当する「契約期間」の要件 継続的取引の基本となる契約書の要件は、契約期間の記載のあるもののうち、契約期間が3ヶ月以内であり、かつ、更新に関する定めのないものは除かれている。 このことにより、契約期間に係る第7号文書に該当する要件は以下のとおりである。 【事例1】の契約期間は「契約期間は〇月〇日付けのA建築株式会社からの工事計画書のとおりとする。」とされているが、たとえ、A建築株式会社からの工事計画書に3ヶ月以内の契約期間が記載されていたとしても、契約期間については他の文書から引用することができないため、「契約期間の定めのないもの」として取り扱われる(基通第4条②)。したがって、第2号文書と第7号文書に該当するが、契約期間の定めがないことにより、記載金額が計算できず第7号文書に該当する。 【事例2】の契約期間は「契約有効期間は、平成28年10月1日から1年間」とされており、3ヶ月を超えている。したがって、第2号文書と第7号文書に該当するが、記載金額が月額警備料金110万円×12ヶ月=1,320万円と計算できることから、第2号文書に該当する。 【事例3】の契約期間は「平成28年10月1日から平成28年12月31日まで」と3ヶ月以内であるが、「双方いずれも異議がない場合には、さらに3ヶ月延長する」とされている。したがって、第2号文書と第7号文書に該当し、記載金額の計算ができることから第2号文書に該当する。なお、記載金額は警備料金110万円×3ヶ月=330万円となり、延長することができる期間は、契約期間には含まれない(基通第29条)。 ▷ まとめ 継続的取引の基本となる契約書で除外されるもの(基通第7号文書の2) 他の文書を引用している文書の判断(基通第4条②) 月単位等で契約金額を定めている契約書の記載金額(基通第29条) (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q18】 「ETFを譲渡した場合の課税の取扱い」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● ETFとは、上場投資信託(Exchange Traded Funds)の総称であり、証券取引所に上場しているため、一般の上場株式のように自由に売買を行うことができます。内国ETFの場合、一般的には国内証券投資信託の受益証券として組成されています。その場合、税務上は、上場している証券投資信託の受益証券として取り扱われます。 税法上、「特定株式投資信託」という分類があります。特定株式投資信託とは、「信託財産を株式のみに対する投資として運用することを目的とする証券投資信託のうち、その受益権が金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所に上場されていることその他の政令で定める要件に該当するもの」をいいます。政令では、「信託契約期間中に信託契約の一部解約を請求することができないこと」「信託財産は特定の株価指数に採用されている銘柄の株式に投資を行い当該株価指数の変動率に一致させる運用を行うこと」「受益権と信託財産の株式との交換を請求できること」等が規定されており(措令2)、ETFのうち、株価指数連動型等一定のもののみがこの範疇に入ります。 ただし、上場されている証券投資信託の受益証券であるかぎり、いずれも上場株式等の範疇に入るため、個人の投資家に対する収益分配金及び譲渡時の課税関係は基本的に同様となります(配当控除に若干の差異あり)。 ETFの譲渡については、譲渡所得等とされる金額が、上場株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の対象となります。 (了)