~税務争訟における判断の分水嶺~課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第12回】「形式的には消費貸借契約に基づく金銭の交付であるが、実質は寄附金に当たるとされた事例」
筆者:佐藤 善恵
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~税務争訟における判断の分水嶺~
課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から
【第12回】
「形式的には消費貸借契約に基づく金銭の交付であるが、
実質は寄附金に当たるとされた事例」
税理士 佐藤 善恵
本連載の趣旨
課税庁の審理室や訟務官室が作成した「判決情報」や「判決速報」は、課税庁が、現場の調査担当者に向けて事例を紹介するための内部文書です。これらで取り上げられる事例には、あまり知られていない判決等も含まれていますが、どれもが税務調査の現場にフィードバックが必要と考えられているという点において重要な事例といえます。
本連載は、課税庁が調査担当者に向けて発信している判決等の要旨をご紹介するとともに、その判断の分水嶺がどこにあったかを検討し、さらに、実務上の留意点や裁判所の考え方を示唆しようとするものです。
なお、「判決情報」等は、TAINSデータベース(※)から取り出すことができますので、毎回、末尾にTAINSコードを記載いたします。
(※) 一般社団法人日税連税法データベースが運営する税務関連情報データベース
◆平成21年7月29日東京地裁[棄却](控訴)
◆平成22年3月25日東京高裁[控訴棄却](確定)
(※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。
〔概要等〕
本件の原告(X社)の元代表者である甲は、オランダに所在するA社に全額出資をしている。X社は、A社が2つの銀行から借入をする際、債務保証をするとともに、X社が有するソニー株式(本件株式)を担保として各銀行に提供(本件担保提供)した。しかし、その翌年、本件株式の時価が2分の1以下に下落したため、X社は、各銀行から追加担保を求められた。
なお、A社は、甲が参画するフォーミュラワン(F1)レースに関する事業を行うために、複数の法人を設立するなどして事業資金を必要としていた。
そこで、X社は、本件株式を売却するなどして資金を調達した上で、A社に対して資金提供(本件資金提供)をし、A社はこの資金提供を原資として各銀行に対する債務を弁済した。なお、X社は本件資金提供に係る金額をA社に対する貸付金として会計処理をした。
しかし、X社は、A社に対する貸付金や未収入金(総額約370億円)について、一部代物弁済(約132億円)を受けたものの、残額及び利息等に関する債権を放棄した(本件債権放棄)とする処理をした。具体的には、当該債権に係る損失を子会社整理損勘定に計上して、損金の額に算入して申告書を提出したのである。
これに対して、税務署長は、X社のその損金算入額は、貸付金名目の「寄附金」 (旧法人税法37条6項、旧租税特別措置法66条の4(国外関連者との取引に係る課税の特例(平成14年改正前のもの))であり、A社はX社にとっては、「国外関連者」に当たるから、当該「寄附金」の額は、損金不算入となるとして更正処分等を行ったため、X社がその取消を求めて争った。
争点は、①「寄附金」該当性の判断対象となる行為、②本件担保提供、本件資金提供又は本件債権放棄により給付又は供与された金銭その他の資産又は経済的利益が「寄附金」に当たるか、の2点である。
ここでは、争点②を取り上げるが、争点①については、本件担保提供は、本件株式の保有に係る権利の移転を伴うものではないから、直接に「寄附金」に当たるかどうか論ずるのは前提を欠くとの判断が下されている。
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連載目次
~税務争訟における判断の分水嶺~
課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から
- 【第1回】 追加調査で得た間接証拠から給与収入額の認定をした事例
- 【第2回】 買換え特例の対象となる「一の家屋」の判断基準を示した事例
- 【第3回】 建物賃貸借契約を合意解約したことに伴って貸主が受領した金員が不動産所得に当たるとされた事例
- 【第4回】 教育機関等に派遣した講師等に対して支払った金員が給与所得に当たるとされた事例(源泉所得税)
- 【第5回】 取締役に「宿日直料」として支払った金銭の支払時期はいつか(源泉所得税)
- 【第6回】 契約書の記載内容と異なる合意が当事者間で成立していたとされた事例
- 【第7回】 事業に必要な海外旅行であったとの納税者の主張が認められず旅行費用は「給与等」に当たるとされた事例
- 【第8回】 電化手数料が「資産の譲渡等の対価」に当たるかについて、書面ではなく実体に即して判断された事例
- 【第9回】 任意組合が行っていた航空機リース事業が終了する際に組合員が受けた債務免除益等の所得区分を判断した事例
- 【第10回】 調査期間中に修正申告書を提出したが、更正があるべきことを予知してされたものではないとして加算税賦課決定処分が取り消された事例
- 【第11回】 売買として所有権が移転した土地建物であるが、その売買代金とされた金額のうち一部が寄附金に当たるとされた事例
- 【第12回】 形式的には消費貸借契約に基づく金銭の交付であるが、実質は寄附金に当たるとされた事例
- 【第13回】 子会社に対する債権放棄は子会社支援損ではなく寄附金に当たるとされた事例
- 【第14回】 法人税法上の土地の時価が問題となり原処分の時価が否定された事例
- 【第15回】 株式の売買は無権代理行為によるものであり譲渡所得の課税要件は充足されないとした事例
- 【第16回】 決定を予知したものとして無申告加算税が軽減されなかった事例
- 【第17回】 売買契約書は当事者の真の意思に基づかずに作成されたと推認された事例
- 【第18回】 従業員等の横領行為に係る損害賠償請求権の益金計上時期が争われた事例
- 【第19回】 不妊治療のため医師の指導に基づき購入したサプリメントは医療費控除の対象とはならないと判断された事例
- 【第20回】 非上場株式の譲渡が低額譲渡に当たるかについては、譲渡直前における譲渡人にとっての価値により評価するのが相当であると判断した事例
- 【第21回】 費用の帰属は法人(司法書士法人)か個人(司法書士)かが争われた事例
- 【第22回】 遺留分減殺請求が行われた場合に、各相続人に承継される被相続人の納税義務(税額)が影響を受けるのかについて判断した事例
- 【第23回】 課税処分取消訴訟の勝訴に係る還付加算金を雑所得として申告するにあたり、その訴訟に要した弁護士費用は必要経費に算入できないとした事例
- 【第24回】 法人の簿外資金をその代表者が利得したとして給与認定された原処分が維持された事例
- 【第25回】 相続財産の範囲について預金等を管理運用していた事実のみから直ちに判断することはできないとした事例
筆者紹介
佐藤 善恵
(さとう・よしえ)
税理士
京都大学MBA、京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学、税法学会会員同志社大学大学院総合政策科学研究科非常勤講師等・近畿税理士会 調査研究部専門委員を経て、2010~2014年大阪国税不服審判所 国税審判官、2016年5月~大阪市行政不服審査会委員(会長代理・税務第1部会部会長)、2019年4月~神戸学院大学法学部教授
HP http://www.yoshie-sato.com/
【主な著書等】
『仮想通貨をめぐる法律・税務・会計』(共著)ぎょうせい
『Q&A 実務に役立つ法人税の裁決事例選』清文社
『税制改正のポイント(小冊子)』(共著)清文社
『Q&A 税務調査・税務判断に役立つ 裁判・審査請求読本』清文社
『判例裁決から見る加算税の実務(第2版)』税務研究会出版局
『社長のギモンに答える法人税相談室』清文社
『税理士のための相続をめぐる民法と税法の理解』(共著)ぎょうせい
『税務訴訟と要件事実論』(共著)清文社
他
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