《速報解説》 国民会議が、給付付き税額控除等に関する 「中間とりまとめ(案)」を公表 ~令和9年4月から2年間、飲食料品の消費税率を1%に引下げ、 令和11年度に新給付制度を本格導入~ Profession Journal編集部 2026年6月24日(水)、「社会保障国民会議 給付付き税額控除等に関する実務者会議(第16回)」が開催され、その中で示された「中間とりまとめ(案)」が同日、内閣官房ホームページにおいて公表された。 中間とりまとめ(案)ではこれまでの給付付き税額控除等に係る議論を踏まえ、「所得に連動したきめ細かな給付」(以下「所得連動型給付」という)を行う新制度を早期導入すべきとの結論を得たうえで、本格導入は令和11年度としている。また、新制度導入までの経過措置(つなぎ)として、消費税率引下げと所得連動型給付の先行導入を組み合わせることを適当としている。 以下では、案の段階で示された新制度の基本的設計と制度導入までの経過措置(つなぎ)について主に概観する。 1 制度の基本的設計 所得連動型給付導入の目的は、主に次の2つに対応することとしている。 これらに対応することを念頭に、制度導入のための環境を整えた上で、令和11年度に本格導入する。 (1) 給付対象 就労インセンティブの向上や、いわゆる「年収の壁」への効果的な対応の観点等を踏まえ、給付の対象は「個人単位」とし、単身者も対象とする。また、一定の勤労性の所得(※1)があり、一定の税・社会保険料負担がある者を対象(※2)。 (※1) 勤労性の所得には、事業所得及び給与所得に加え、近年の多様な働き方に鑑み、業務に係る雑所得も含めることとし、個人事業者、フリーランスも対象とする。その際、事業所得と業務に係る雑所得は、就労とみなせるような一定額以上の場合に含めることとする。 (※2) 就労し、税・社会保険料負担から年金受取額を差し引いた純負担が現役並みである中低所得の高齢者も対象。 (2) 給付額 原則として、所得に応じた給付額とする。就労促進の観点から、勤労性の所得が一定の水準に達するまで給付額を逓増させ、その後は定額とし、総所得が一定額を超える場合、公平性の観点から、総所得に応じて逓減・消失させる。また、年収の壁を超えた対象者に一定の給付額を上乗せする。 なお、こどもを扶養している者については、18歳以下のこどもの人数に応じた加算を行うとしている。 〈参考:制度設計のイメージ〉 (※) 内閣官房ホームページ「給付付き税額控除のイメージ(中間とりまとめに向けた議論の整理(給付付き税額控除))((令和8年5月27日)資料2)」より抜粋 2 経過措置(つなぎ) 所得連動型給付については、公平性などの観点から、追加的な情報確保の仕組み等の環境整備が必要なことで令和11年度の本格導入が予定されている。その間に限った経過措置(つなぎ)として、飲食料品に係る消費税率の引下げと、所得連動型給付の先行導入を組み合わせることが適当との意見があったとしている。 これに伴い、経過措置(つなぎ)の内容としては主に下記の①から③が示された。 (※) 本格導入時には行われる世帯のうち配偶者の所得を勘案する一定の例外措置を設けず、18歳以下のこどもの人数に応じた加算に代えて 15 歳以下のこどもの人数に応じた加算を行うなど経過的な措置を講じる。 なお、仕入税額控除の還付が受けられない農業従事者等への対応検討及び外食産業等についても影響を見極めた上で、資金繰り支援等のための予算措置を検討するとしている。また、飲食料品に係る税率の変更に伴い、レジ・会計システムの改修や価格表示の見直し等、事業者および顧問税理士に広範な実務対応が生じることが見込まれる。 3 将来的な方向性 今回、短期的には給付への1本化が望ましいことから所得連動型給付の導入が示された一方、将来的には税額控除と給付の組合せとするべきとの考え方も強く示されたため、「給付付き税額控除」の実施も踏まえ、今後、税制に関しては人的控除の在り方の見直しを含む所得税の抜本的な改革について、着実に検討を進めるとしている。 なお、本稿は実務者会議の「中間とりまとめ(案)」段階の内容であり、今後の与党税制調査会・政府における立法プロセスを経て確定するものである点に留意されたい。 (了)
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谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第58回】 「「譲渡所得課税の趣旨」法理からの「離脱」とその帰結及び射程」 -土地改良区農地転用譲渡事件・最判平成18年4月20日訟月53巻9号2692頁による譲渡費用概念の拡大- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回は、判例法理としての「譲渡所得課税の趣旨」法理(学説では増加益清算課税説)の枠内における(譲渡所得の本質的意義(理論[包括的所得概念論]的意義)に基づく)譲渡所得課税❶と(譲渡所得の実定法的意義に基づく)譲渡所得課税❷のうち、後者に係る譲渡所得の金額の計算上総収入金額から控除される取得費(所税33条3項・38条)の概念を借入金利子の取得費算入の可否問題に関して検討したが、今回は、同じく総収入金額から控除される「資産の譲渡に要した費用」(同33条3項。以下「譲渡費用」という)の概念及び範囲を土地改良区農地転用譲渡事件・最判平成18年4月20日訟月53巻9号2692頁(以下「平成18年最判」という)に即して検討する。 その検討について結論を先取りして概略を述べておくと、第55回から前回まで3回にわたって、「譲渡所得課税の趣旨」法理を基軸とする譲渡所得課税問題の司法的解決を検討してきたが、今回は、平成18年最判を、同法理から(実質的に)「離脱」する判断を示したものとみて、その判断を一種の純所得課税の考え方ともいうべき譲渡益課税説(前回Ⅲ1参照)に基づくものとして位置づけた上で、その判断のための一般的基準の適用に当たってその「離脱」の帰結として譲渡費用概念を拡大したものと結論づけた。以下では、まず、平成18年最判の判断内容・構造からみておくことにしよう。 Ⅱ 平成18年最判の判断内容・構造 本件で譲渡費用該当性が争われたのは、新潟県内の三条土地改良区の組合員が同土地改良区内の農地を転用目的で譲渡するに当たり土地改良法42条2項及び同土地改良区地区除外等処理規程に基づき支払った決済金(以下「本件決済金」という)並びに同土地改良区施設等使用規程及び施設等使用負担金徴収規程に基づき施設等使用負担金として徴収され支払った協力金等(以下「本件協力金等」という)であった。 本件決算金及び本件協力金等の譲渡費用該当性の判断に当たり、その判断が譲渡所得課税に関するものであったことから、平成18年最判も譲渡所得課税に関する従来の判例と同様、まず、次のとおり、譲渡所得課税に関する確立した判例(第55回、第56回参照)を参照して「譲渡所得課税の趣旨」法理を判示した。 平成18年最判は、次に、上記の判示に「しかしながら」で接続(逆接)して次のとおり判示した(以下「判示A」という。下線筆者)。 さらに、これに「そうであるとすれば」で接続(順接)して、譲渡費用該当性に関する一般的判断基準(規範)を次のとおり判示した(以下「判示B」という。下線筆者)。 最後に、下記のとおり判示して、上記の判断基準に従って本件決済金と本件協力金等につき別々に譲渡費用該当性を検討し、いずれについても譲渡費用該当性を肯定した(以下では本件決済金に関する判示を「判示C」、本件協力金等に関する判示を「判示D」という)。 Ⅲ 「譲渡所得課税の趣旨」法理からの「離脱」とその帰結 1 譲渡益課税説に基づく譲渡費用該当性の一般的判断基準(規範)の定立 平成18年最判は、前述のとおり、冒頭で「譲渡所得課税の趣旨」法理を判示しているが、前回までみてきたように、そもそも、同法理の枠内においては、(譲渡所得の本質的意義(理論[包括的所得概念論]的意義)に基づく)譲渡所得課税❶と(譲渡所得の実定法的意義に基づく)譲渡所得課税❷とは「競い合い」(「趣旨内競い合い」)の関係にあり、しかも後者は同法理(のうち先導する前者)の「牽引力」(前回Ⅱ参照)を減退させるモーメントとなるものである。 この「牽引力」減退は、後者すなわち譲渡所得課税❷のために行われる譲渡所得の金額の計算において総収入金額から控除される譲渡費用の概念構成については、取得費の概念構成の場合(前回Ⅲ1参照)に比べて、より顕著に、かつ、より強く現れてくるように思われる。というのも、そもそも、「譲渡所得課税の趣旨」法理(学説でいう増加益清算課税説)から導出される客観的価格差課税説の立場からみると、「理論的に考えた場合、[増加益]清算課税説の下での譲渡所得は、資産の客観的な増加益であるから、その大きさは譲渡にどれだけの費用を要したかとは関係がない」(佐藤英明「『譲渡費用』と『取得費に算入される付随費用』の判断基準」税務事例研究127号(2012年)21頁、28頁)以上、譲渡所得に係る総収入金額から控除される費目として、取得費はともかく、譲渡費用は「異物」であるからである(拙著『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)【289】のほか、田中治『田中治 税法著作集 第2巻―所得税をめぐる紛争の特質とその解釈論』(清文社・2021年)298-299頁[初出・1997年]、岩﨑政明「判批」自治研究73巻7号(1997年)117頁、119-120頁、渡邊充「判批」判例評論577号(2007年)6頁、8頁も参照)。 このように、譲渡費用の概念構成については、そもそも、「譲渡所得課税の趣旨」法理の「牽引力」は「趣旨内競い合い」において減退せざるを得ないが、これにあたかも「追討ち」をかけるかのように、平成18年最判は、判示Aで「譲渡所得課税の趣旨」法理に「しかしながら」で接続(逆接)し、「課税の対象」となる譲渡所得の概念を「抽象的に発生している資産の増加益そのもの」から「資産の譲渡による実現した所得」に転換している。譲渡所得概念のこのような転換は、譲渡所得概念の基礎にある包括的所得概念が財産法型純資産増加説(Reinvermögenszuwachstheorie)による包括的所得概念から損益法型純資産増加説(Reinvermögenszugangstheorie)による包括的所得概念へと転換された結果を意味するものと解される(2つのタイプの純資産増加説については前掲拙著【179】参照)。両説の決定的な違いは、実現主義の適用の有無にある。 損益法型純資産増加説による包括的所得概念に基づく譲渡所得の概念は、旧所得税法9条1項8号の「資産の譲渡に因る所得」に係る「総収入金額」について最高裁が「右にいう収入金額とは、譲渡資産の客観的な価額を指すものではなく、具体的場合における現実の収入金額を指すものと解するのが相当である。」(最判昭和36年10月13日民集15巻9号2332頁。下線筆者。以下「昭和36年最判」という)と判示した場合にいう「具体的場合における現実の収入金額」を、構成要素とするものであると解される。この理解によれば、譲渡所得課税❷は、資産の譲渡に係る「具体的場合における現実の収入金額」から取得費及び譲渡費用を控除した残額すなわち譲渡益(所税33条3項括弧書)を対象とするものとなり、少なくとも譲渡費用該当性判断の根拠となる考え方については、譲渡益課税説が客観的価格差課税説に取って代わることになるのである。 平成18年最判は、以上で述べてきたように、譲渡費用の「異物」性と譲渡所得概念の基礎にある包括的所得概念の転換とを併せ考慮して、譲渡費用該当性の判断の視点を「譲渡所得課税の趣旨」法理から(なお同法理の枠内にとどまる形式を維持しつつ)実質的に「離脱」させた上で、判示Bにおいてその「離脱」を(「そうであるとすれば」で)受けて、譲渡費用該当性の判断について一般的基準(規範)を定立したものと解される。この点に関して、「判旨は、冒頭で増加益清算説[=『譲渡所得課税の趣旨』法理]に言及しているが、『しかしながら』以下の一文[=判示A]により、実際には、同説は譲渡費用の一般的解釈[=判示B]に殆ど影響を及ぼしていない。」(一高龍司「判批」民商法雑誌136巻1号(2007年)63頁、75頁)との指摘は、正鵠を射たものである(なお、佐藤英明『スタンダード所得税法〔第4版〕』(弘文堂・2024年)118頁は平成18年最判について「譲渡益[課税]説への傾斜を思わせる。」と指摘するにとどまる)。 そこで定立された譲渡費用該当性に関する一般的判断基準(規範)は、「現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうか」(判示B。以下「譲渡実現必要性」という)という基準であるが、これは、純所得課税の考え方に基づく取得費該当性に関する判断基準(前回Ⅲ1参照)と基本的には同じ基準であると考えられる。つまり、「資産の譲渡による収入金額のうち、投下資本の回収に当る部分に対しては課税を行わない―あるいは行うべきではない―という考え方」(金子宏『課税単位及び譲渡所得の研究 所得課税の基礎理論 中巻』(有斐閣・1996年)250頁[初出・1981年])、すなわち、一種の純所得課税の考え方ともいうべき譲渡益課税説に基づいて、譲渡費用該当性に関する一般的判断基準(規範)が定立されたと考えられるのである。 ところで、譲渡費用該当性に関するこの一般的判断基準(規範)は、昭和36年最判が旧所得税法9条1項8号にいう「譲渡に関する経費」の意義について示した「譲渡を実現するために直接必要な支出」(下線筆者)という解釈と比べると、譲渡実現必要性について「直接性」を要求していない点に特徴があるが、この点については、以下のように考えるところである。 譲渡実現必要性に係る「直接性」の要件は、所得税法33条3項において明文で定められている要件ではなく、「譲渡所得課税の趣旨」法理に基づき、「このような譲渡所得の課税の本質からみて収入金額から控除することが課税の衡平上相当なものであることを要[する]」(平成18年最判の原々審・新潟地判平成14年11月28日訟月53巻9号2703頁。下線筆者)として、創造された要件であると考えられる(一高・前掲「判批」75頁はそのような議論の可能性を指摘する)。 そのような法創造は、譲渡費用の機能論の観点からは、既に検討した借入金利子の取得費算入の可否問題に関する消極説(前回Ⅱ参照)と同じく、控除可能な費用の範囲を狭めることに帰結するが、他方で、譲渡所得課税の本質論の観点からは、「譲渡所得課税の趣旨」法理(増加益清算課税説)から導出される客観的価格差課税説と親和性のある取得費に係る消極説とは異なり、客観的価格差課税説からみて「異物」である譲渡費用の意義及び範囲に関する議論には、馴染まないと考えられる。そもそも、そのような納税者に不利な法創造は、租税法律主義の下では認められるべきものではない(前掲拙著【44】参照。山本直毅「判批」税77巻7号(2022年)139頁、147頁も参照)。 平成18年最判はこのように譲渡実現必要性について「直接性」を要件としなかったが、このことは、一種の純所得課税の考え方としての譲渡益課税説の立場からは、高く評価されることになろう(一高・前掲「判批」75頁、渡辺裕泰「判批」ジュリスト1334号(2007年)257頁、259頁参照)。 2 「譲渡所得課税の趣旨」法理からの「離脱」と譲渡費用概念の拡大 ところで、平成18年最判は、譲渡費用該当性に関する一般的判断基準(規範)の定立を通じて、既に述べたような意味で「譲渡所得課税の趣旨」法理からの「離脱」について「一線を越えた」と評することができるが、その一般的判断基準(規範)としての譲渡実現必要性基準を具体的に適用するに当たっては、本件決済金(判示C)と本件協力金等(判示D)とで一見したところ異なる理由により、譲渡費用該当性を判断したように思われるかもしれない。現に、「本件決済金と本件協力金を分けて考える必要があるのか」を問題にし「一括して同じ理由により譲渡費用性を認めるべきだったのではないかと思う。」と説く見解(渡辺・前掲「判批」259頁)もある。この点、果たして、平成18年最判は、その見解が説くように、本件決裁金と本件協力金等とで譲渡費用該当性の判断理由を異にしていると考えるべきであろうか。 確かに、本件決済金については、「現実に行われた資産の譲渡」が、同金員の支払が土地改良法等によって義務づけられている転用目的での譲渡であること(判示C参照)「を前提として」(判示B)、これを①「客観的に見て本件売買契約に基づく本件土地の譲渡を実現するために必要であった費用」(判示C)とみて、譲渡費用該当性を肯定したのであるから、前記の一般的判断基準(規範)としての譲渡実現必要性基準をそのまま、、、、適用したものと解される。これに対して、本件協力金等については、同金員の支払を、①「客観的に見て本件売買契約に基づく本件土地の譲渡を実現するために必要であった費用」(判示C)とは、その表現からして一見したところ異なる②「当該土地の譲渡価額の増額をもたらすもの」(判示D)とみて、譲渡費用該当性を肯定したのであるから、前記の一般的判断基準(規範)としての譲渡実現必要性基準に一定の修正を加えて、、、、、、、、、その修正後の基準を適用したものと解するのが自然であるかのように思われるかもしれない。 しかし、②「当該土地の譲渡価額の増額をもたらすもの」(判示D)は、表現の点は格別、内容及び控除の根拠の点では、①「客観的に見て本件売買契約に基づく本件土地の譲渡を実現するために必要であった費用」(判示C)と異なる費用とは考えられない。というのも、下記の見解(磯部喜久男「裁判例から見た譲渡費用の概念と具体的事例の判断基準」税務大学校論叢21号(1991年)285頁、305-306頁。以下「磯部説」という。下線筆者)の説くように、上記①の費用を「消極的費用」、上記②の費用を「積極的費用」と称することにすると、両者の区分は「譲渡費用の性質を理解するための観念的区分」(同347頁)にすぎず、いずれも、昭和36年最判の解釈による収入金額すなわち「具体的場合における現実の収入金額」との対応を判断基準とする費用という意味においては、内容及び控除の根拠を同じくするものであると考えられるからである。 磯部説は、このように、譲渡費用の概念を「譲渡所得課税の本質との対応」のみではなく「現実の収入金額との対応」をも基準として構成しようとするものではあるが、結果的には、譲渡費用の範囲を後者に基づき画定することとし、もって積極的費用をも譲渡費用と認める見解であると解される。 つまり、磯部説は、譲渡費用の概念を「譲渡所得課税の本質との対応」から検討すると、「譲渡時期の所有者の意図的努力に伴う支出は、すでに発生している値上り益とは直接的な関連性はなく、右支出を譲渡費用と認めることはできないこととな[り]」(磯部・前掲論文346頁)、「譲渡所得が、年々発生した値上り益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転する機会に課税しようとするのであれば、『所有者の支配を離れて他に移転させる』ための費用、すなわち、消極的費用のみが譲渡費用となる」(同頁)が、しかし、「所得税法の定める譲渡所得の金額は、・・・・・・、収入金額を基として計算される」(同頁)ので、譲渡費用の概念を「現実の収入金額との対応」から検討すると、磯部説は、下記の叙述(磯部・前掲論文346-347頁。下線筆者)のとおり、積極的費用をも譲渡費用と認める見解であると解されるのである。 この叙述において、「積極的費用」と「現実の収入金額」との「対応」の意味が明らかにされているが、磯部説は、その意味を踏まえて、譲渡費用の概念を「消極的費用と積極的費用を含む概念」(磯部・前掲論文347頁)として「譲渡を実現するために直接かつ通常必要な費用」(同頁)と定義した上で、「これまで述べた消極、積極の区分は、譲渡費用の性質を理解するための観念的区分である。したがって、具体的事例における判断は、消極、積極の両費用の存在を念頭に置いて、右概念に示した『直接かつ通常必要』の要件を満足するか否かによるべきものである。」(同347-348頁。下線筆者)と述べている。 ここ(特に下線部)で述べられている譲渡費用該当性の判断枠組みは、譲渡実現必要性に対する「直接かつ通常」の要件による限定を別にすれば、平成18年最判の定立した譲渡費用該当性の判断枠組みと基本的に同じものであると解される。平成18年最判が譲渡実現必要性について「直接性」を要件としなかったのは、前記1で述べたように、譲渡益課税説の立場からみて妥当な判断であると考えられるが、同じことは「通常性」の要件についてもいえるであろう。平成18年最判は譲渡実現必要性について「客観的に見て」判断する旨を判示しているが(判示B)、この判示を、「『客観的にみて』譲渡のために必要であったかどうかを個別的に判断すべきこと」という意味において「通常性」を否定する判示と解する見解もある(三木義一「『譲渡費用』の範囲」税研129号(2006年)45頁、50頁。なお、「通常性」を要件とすることに対する批判として田中・前掲書365頁[初出・2003年]、岩﨑・前掲「判批」122頁、渡邊・前掲「判批」8-9頁参照。また、橋本守次「判批」税理50巻2号(2007年)122頁、128頁は平成18年最判によって「[直接性及び通常性を判断基準とする]課税当局の従来の考え方が完全に覆された」と述べている)。 いずれにせよ、平成18年最判が「譲渡所得課税の趣旨」法理(増加益清算課税説)から「離脱」したと考えられる以上、前回Ⅲ4で取得費についてみたような同法理の「牽引力」による限定は、譲渡費用については問題にならないと考えるところである。 以上で述べてきたことと、前記1で述べたこと(譲渡所得概念の基礎にある包括的所得概念の転換)とを併せ考えると、平成18年最判は、譲渡益課税説を媒介及び根拠にして、譲渡費用該当性の一般的判断基準(規範)と譲渡費用の範囲画定基準とを、整合的に結び付けたものと解される。つまり、①「客観的に見て本件売買契約に基づく本件土地の譲渡を実現するために必要であった費用」(判示C)だけでなく、②「当該土地の譲渡価額の増額をもたらすもの」(判示D)も、譲渡益課税説の観点から「現実の収入金額との対応」を基準にして観察した上で、譲渡実現必要性という一般的判断基準(規範)に基づき譲渡費用該当性を判断する、という考え方を明らかにしたものと解されるのである。 このような理解によれば、上記②の積極的費用も、上記①の消極的費用と同じく、譲渡所得に係る「現実の収入金額」と対応する限り、譲渡費用に該当することになるのである。なお、このことは、磯部説の説くように「所得区分に影響を与えない範囲において」いえることであって、その範囲を超える場合には別段の検討が必要となろう(佐藤・前掲論文29頁以下では「二重利得法」の観点からの検討がされている)。 ともかく、平成18年最判は、本件協力金等について、これを支払った場合には「転用された土地のために土地改良施設を将来にわたり使用することができることになる」(判示D)と判示した上で、その支払は「当該土地の譲渡価額の増額をもたらすもの」(同)として譲渡費用に該当することを認めたのである。この判断は、本件協力金等をまさしく磯部説にいう「積極的費用」と認め、もってその譲渡費用該当性を認めたものと解される。 なお、磯部説は、税務行政関係者の説く見解として、従来からの課税実務の立場(所基通33-7(下記)。この定めが現行通達(昭和45年7月1日直審(所)30(例規))制定時から同じ文言による定めであることは三好毅ほか共編『最新所得税通達集』(税務研究会出版局・1971年)431頁で確認した)と基本的に同じ立場に立つものと解される。 この通達規定のうち特に積極的費用に係る(2)の定めについては、下記のとおり、磯部説の前記の考え方と同様の考え方に基づく解説がされている(鈴木憲太郎ほか編『所得税基本通達逐条解説』(大蔵財務協会・2026年)226頁。下線筆者)。 上記の解説の叙述は平成18年最判前の同書(『所得税基本通達逐条解説』)の解説の叙述(筆者が確認できたのは石井敏彦ほか編『所得税基本通達逐条解説』(大蔵財務協会・2002年)188頁)と同じものであるところ、上記解説中の下線部の叙述は平成18年最判の判示Aを想起させるものであることからすると、平成18年最判の判示Dは、少なくとも論理構成の点では、所得税基本通達33-7(2)に示された解釈を合理的と認めて譲渡費用に関する所得税法33条3項の規定の解釈適用を行ったものと解することができるように思われる(この点について異なる理解を示すものとして一高・前掲「判批」73頁参照)。 Ⅳ おわりに 以上、今回は、平成18年最判が譲渡所得の金額の計算に関する譲渡費用の控除につき譲渡費用該当性の一般的判断基準(規範)を定立し、その基準に従って本件決済金と本件協力金等のいずれについても譲渡費用該当性を認める判断を示したことを確認し、その判断における「譲渡所得課税の趣旨」法理(増加益清算課税説)からの「離脱」とその帰結としての譲渡費用概念の拡大について検討してきた。 その検討を通じて、譲渡所得概念の基礎にある包括的所得概念の転換、すなわち、財産法型純資産増加説による包括的所得概念から損益法型純資産増加説による包括的所得概念への転換を明らかにし、後者を譲渡所得概念の基礎に置いて一種の純所得課税の考え方としての譲渡益課税説を譲渡費用の概念及び範囲について展開した判例として、平成18年最判を位置づけたところである。 ただ、譲渡費用該当性の判断における「譲渡所得課税の趣旨」法理からの「離脱」は、そもそもは同法理に対する譲渡費用の「異物」性に基因するものであることからすると、その「離脱」をもって現行所得税法上の譲渡所得課税全体について同法理からの「離脱」を問題にすべきでないことはいうまでもない。前回まで3回にわたって検討してきたように、譲渡所得をめぐる課税問題の司法的解決においては依然として「譲渡所得課税の趣旨」法理が基軸に据えられてきていることには留意すべきであろう(前回Ⅳ参照)。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例159(相続税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆代償分割(相基通11の2-9) 代償分割とは、遺産の分割に当たって共同相続人などのうちの1人または数人に相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した人が他の共同相続人などに対して債務を負担するもので現物分割が困難な場合に行われる。 この場合の相続税の課税価格の計算は次のように取り扱う。 ◆小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(措法69の4①) 個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続開始の直前において、被相続人の事業の用又は居住の用に供されていた特例対象宅地等がある場合には、相続人が取得した全ての特例対象宅地等のうち、相続人が選択した特例対象宅地等については、次の区分に応じ限度面積要件を満たす小規模宅地等に限り、一定割合の評価減が受けられる。 小規模宅地等の種類 適用面積 減額割合 特定事業用等宅地等 特定事業用宅地等 400㎡ 80% 特定同族会社事業用宅地等 400㎡ 80% 特定居住用宅地等 330㎡ 80% 貸付事業用宅地等 200㎡ 50% ◆被相続人の居住用宅地等を同居親族が取得した場合 相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住し、かつ、その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有している場合には330㎡まで80%減額の適用ができる。 ◆申告期限から3年以内に分割された場合(措法69の4④) 「小規模宅地等の特例」は申告期限までに分割されていない特例対象宅地等については適用しない。ただし、申告書提出時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、申告期限から3年以内に分割された場合には適用できる。 ◆未分割であることにつきやむを得ない事情がある場合(措法69の4④) 申告期限から3年以内に当該特例対象宅地等が分割されなかったことにつき、当該相続に関し訴えの提起がされたことその他やむを得ない事情がある場合において、申告期限後3年を経過する日の翌日から2月を経過する日までに「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出して納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、当該特例対象宅地等の分割ができることとなった日の翌日から4月以内に分割された場合には「小規模宅地等の特例」は適用できる。 ◆国税通則法における更正の請求事由の場合(通則法23①) 申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかつたこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときは、法定申告期限から5年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正の請求をすることができる。 ◆更正の請求の特則(相法32) 相続税申告書を提出した者が、未分割遺産に対する課税の規定により分割されていない財産について民法の規定による相続分に従って課税価格が計算されていた場合において、その後未分割遺産の分割が行われ、共同相続人が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分に従って計算された課税価格と異なることとなったことにより当該申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、当該事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額につき更正の請求をすることができる。 ◆申告書の提出期限後に分割された特例対象宅地等について特例の適用を受ける場合(措通69の4-26) 期限内申告書の提出期限後に特例対象宅地等が分割された場合には、当該分割された日において他に分割されていない特例対象宅地等があるときであっても、当該分割された特例対象宅地等について、「小規模宅地等の特例」の適用を受けるために更正の請求を行うことができるのは、当該分割された日の翌日から4月以内に限られており、当該期間経過後において当該分割された特例対象宅地等について更正の請求をすることはできない。 (了)
グループ企業の税務Q&A 第 6 回 通算グループ内の法人との合併が行われた場合の投資簿価修正の取扱い 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター/税理士 川瀬 裕太 ◆ ◆ ◆〈解説〉◆ ◆ ◆ 1 投資簿価修正 (1) 投資簿価修正 通算法人が有する株式を発行した通算子法人(初年度離脱通算子法人及び通算親法人を除きます)について通算終了事由(下記(3)参照)が生じる場合には、その株式のその通算終了事由が生じた時の直後の移動平均法により算出した1単位当たりの帳簿価額は、その通算終了事由が生じた時の直前の帳簿価額に簿価純資産不足額(※1)又は簿価純資産超過額(※2)を、加算又は減算した金額をその株式の数で除して計算した金額とします(法令119の3⑤)。これを、投資簿価修正といいます。 (※1) 簿価純資産不足額 簿価純資産不足額とは、その株式の通算終了事由が生じた時の直前の帳簿価額が簿価純資産価額(下記(2)参照)に満たない場合におけるその満たない部分の金額をいいます。 (※2) 簿価純資産超過額 簿価純資産超過額とは、その株式の通算終了事由が生じた時の直前の帳簿価額が簿価純資産価額(下記(2)参照)を超える場合におけるその超える部分の金額をいいます。 (2) 簿価純資産価額 簿価純資産価額とは通算承認の効力を失った日の前日の属する事業年度終了の時において有する資産の帳簿価額の合計額から負債の帳簿価額の合計額を減算した金額に通算承認の効力を失う直前の発行済株式又は出資(当該他の通算法人が有する自己の株式又は出資を除きます)の総数又は総額のうちに当該内国法人が通算承認の効力を失う直前に有する当該他の通算法人の株式又は出資の数又は金額の占める割合を乗じて計算した金額をいいます。 (3) 通算終了事由 通算終了事由とは、通算制度の承認がその効力を失う場合をいい、次のいずれかに該当する場合に通算制度の承認がその効力を失うこととなります(法法64の10⑤⑥)。 2 調整勘定対応金額の合計額の加算措置 (1) 調整勘定対応金額の合計額の加算措置 通算子法人の離脱時にその通算子法人の株式を有する各通算法人が、その通算子法人株式の投資簿価修正を計算する際に、離脱時の通算子法人株式の帳簿価額とされる金額(通算子法人の簿価純資産価額)に調整勘定対応金額の合計額を加算することができます(法令119の3⑥)。 (2) 加算措置の対象株式 対象株式は、他の者から購入した株式など(法令119①一又は二十七に掲げる有価証券)とされています(法令119の3⑦二)。 したがって、買収等で購入した株式が対象となるため、金銭の払込みにより取得する株式や適格組織再編成により取得する株式は対象株式に該当しません。 (3) 調整勘定対応金額の合計額の計算 調整勘定対応金額の合計額は、通算終了事由が生じた対象株式(通算子法人株式)を有する各通算法人がそのグループ通算制度の開始・加入日以前に取得した際に支払った買収プレミアム(超過収益力)相当部分の金額を合計したもので、各取得の時における資産調整勘定対応金額の合計額から負債調整対応金額の合計額を減算した金額の合計額とされています(法令119の3⑥二)。 なお、資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額とは、他の通算法人の対象株式の取得時に、当該他の通算法人を被合併法人とし、その取得をした法人を合併法人とする非適格合併が行われたものとみなした場合に資産調整勘定の金額又は負債調整勘定の金額として計算される金額に相当する金額をいいます(法令119の3⑦三・四)。 (4) 加算措置の適用要件 通算子法人の離脱時にその通算子法人の株式を有する各通算法人のすべてが、その通算子法人株式に係る調整勘定対応金額の合計額について離脱時の属する事業年度の確定申告書等にその計算に関する明細書を添付し、かつ、その通算子法人株式を有する法人のうち、いずれかの法人が調整勘定対応金額の合計額の計算の基礎となる事項を記載した書類等を保存する必要があります(法令119の3⑥、法規27①一)。 3 本件へのあてはめ 通算子法人A社を被合併法人、通算子法人のB社を合併法人とする適格合併を行う場合、A社において通算終了事由(合併による解散)が生じることとなるため、A社の株主のB社で投資簿価修正を行うこととなります。 A社はB社によって買収された法人のため、A社株式は対象株式に該当するため、A社の離脱時にB社が、A社株式に係る調整勘定対応金額の合計額について離脱時の属する事業年度の確定申告書等にその計算に関する明細書を添付し、かつ、調整勘定対応金額の合計額の計算の基礎となる事項を記載した書類等を保存した場合、B社は、A社株式の投資簿価修正を計算する際に、離脱時のA社株式の帳簿価額とされる金額(通算子法人の簿価純資産価額)に調整勘定対応金額の合計額を加算することができます。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第61回】 「売主と記載された者が代理人である旨の表示が契約書になくても、不動産の真の売主が非居住者であることを買主は委任状等を通じて知っていたと認められるから、買主に源泉徴収義務があるとされた事例」 税理士 菅野 真美 ▷非居住者の不動産の売買と源泉徴収義務 非居住者による日本の不動産の取得が増加している。 国外に住所がある者による東京23区、大阪市、京都市の新築マンションの取得費率(区分所有建物の保存登記において、国外に住所がある者が取得している割合)は次表のとおりである。 地域 2025年 1~6月 2024年 2018年~2023年 での最大値 東京23区 3.5% 1.6% 2.0%(2018) 大阪市 4.3% 5.1% 3.6%(2021) 京都市 2.5% 3.4% 1.6%(2023) さらに都心6区に絞ると次のようになる。 区名 2025年 1~6月 2024年 2018年~2023年 での最大値 千代田区 7.7% 6.2% 11.4%(2023) 中央区 0.0% 2.2% 4.5%(2018) 港区 4.3% 9.7% 8.5%(2019) 新宿区 14.6% 1.7% 3.8%(2023) 文京区 5.0% 1.9% 5.1%(2022) 渋谷区 8.1% 8.6% 10.8%(2018) なお、23区で新築マンションを取得した国外に住所がある者の国・地域について、直近では台湾が最も多くなっている。 (データ引用元:令和7年11月25日 国土交通省「不動産登記情報を活用した新築マンションの取引実態の調査・分析について」) 非居住者が不動産売買契約の当事者である場合に、契約締結の場などに本人が現れるケースは少ない。このような場合は、日本に居住している代理人が立会い、契約書にも代理人として署名押印することが多い。しかし、売主が非居住者の場合、日本の不動産の譲渡対価は国内源泉所得に該当する(所法161①五)。そのため、国内で対価が支払われる場合、原則的には、買主に源泉徴収義務(所法212①)が生ずることになる。税率は10.21%(所法213①二、復興財源確保法28)である。 今回は、不動産の譲渡対価について、買主に源泉徴収義務があるか否か、すなわち、売主が非居住者か内国法人であるかで争われた事案を検討する。 ▷事案の概要 個人Xは、国内にあるマンションを購入して、契約締結をした内国法人のYに対して、譲渡対価を満額支払った。しかし、課税庁がこの対価は、国内源泉所得であり、このマンションの売主はYではなく、非居住者のZであることから、Xには支払い時に源泉徴収義務があるとして、源泉徴収に係る所得税等の納税告知処分を行った。Xは、「マンションの売主は、非居住者Zではなく内国法人Yであることから、源泉徴収義務を負わない」と主張して、処分の全部取消しを求めて審査請求を行ったのが、本件である。 なお、本件は、源泉徴収義務を負わない「個人が自己またはその親族の居住の用に供するために土地等を購入した場合であって、その土地等の譲渡対価が1億円以下である場合(所令281の3)」に該当しない。 ▷争点 争点は、不動産の購入代金を支払う際に買主Xが源泉徴収義務を負うか否かである。具体的には、売主は非居住者か、内国法人のいずれかである。 ▷審判所の判断(裁決) 沖縄国税不服審判所は、以下のように判断して審査請求を棄却した。 ▷まとめ このようにXの請求は棄却された。不動産の譲渡対価に係る追加の税負担について、非居住者の売主Zに請求することは、契約書に定めがない限り困難であると考える。そうなると、買主Xはこれらの追加の税について、身銭を切って納付しなければならない。 非居住者の不動産取引が特別な取引でなくなってきたことから、一般の税理士も関わることが多くなってきている。もし、買主側の税理士が、この件に関して事前に相談を受け、何もアドバイスしなかった場合は、損害賠償請求を受ける可能性が高いので、注意したい。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第95回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 エ ブロックチェーン分析を利用した大規模選定 (ア) ブロックチェーン分析の選定利用 ブロックチェーンに公開されている膨大なトランザクションデータを活用することにより、個別案件の追跡にとどまらず、過少申告等のリスクを踏まえた大規模な調査選定(リスクスクリーニング)に役立てることができる可能性がある。 従来、国税庁が暗号資産の調査対象者を選定する際には、国内CEXに対する照会を起点として調査対象者を絞り込む方法が中心であった。しかし、ブロックチェーン上の情報を起点とする選定方法も検討すべきである。 具体的には、例えば次のような手法が考えられる。 このような方法を用いれば、国内CEXの情報のみでは把握しきれない海外CEX口座や自己管理型ウォレットを含むアドレス群を割り出すことが可能となり、その結果、調査優先度の高い対象を効率的に絞り込むことができる。 従来のように国内CEXへの照会を起点とした調査選定及び調査では、国内CEX内の取引履歴や国内CEX間の資金移動データが検討対象の中心となるため、海外CEXや自己管理型ウォレットを経由した資金移転の全体像が把握しにくいケースも想定される。 この点、ブロックチェーン上の公開データを横断的に分析することで、国内CEXの情報のみでは把握が困難であったアドレス群との接触関係を抽出することが可能となる場合がある。 もっとも、国内CEX口座と一度でもトランザクションのやりとりがある海外CEX口座やウォレットアドレスをリストアップしたとしても、それが直ちに同一利用者によって管理されていると断定することはできないという問題がある。 例えば、ブロックチェーン上のやりとり(接触)は次のような様々な可能性を含んでいる。 したがって、「やりとりがある」という事実のみでは、資金の帰属先や管理主体を特定することはできない。 また、海外CEXやプライベートウォレットと一度でもやりとりした国内CEX口座を一律に「高リスク」と評価し、調査対象とすることは、行政資源の制約等を踏まえれば現実的ではない。暗号資産利用者の中には、正当な投資目的や資産管理上の理由から海外CEXや自己管理型ウォレットを利用している者も少なくないと考えられるからである。 そのため、調査選定においては、単純な接触の有無ではなく、例えば次のような複数の要素を総合的に検討する必要がある。 このように、大規模選定においては、「一度でも接触がある」という形式的な基準では足りず、取引の態様や資金移動のパターンを踏まえた多面的なリスク評価が求められる。 (イ) データソリューションズ × リアクターによる効率的大規模選定 このような状況下で活躍が期待されるのがChainalysisのデータソリューションズというブロックチェーンデータの集計・フィルタリングを行うツールである。 データソリューションズは、個々のウォレットを1つずつ追跡するためのツールというよりも、ブロックチェーン上の大量のデータをシステム的に検索・集計し、あらかじめ設定した条件に当てはまるトランザクションやアドレスを抽出するためのツールである。 すなわち、個別事案の詳細分析を行うためというよりも、「どの対象を優先的に調査すべきか」を選定するために利用されるものである。 したがって、個別の資金移動経路を可視化するリアクターとは役割が異なる。 例えば、調査選定の場面において、次のような使い方が考えられる。 データソリューションズに設定される「一定の条件」としては、例えば、特定期間内の取引頻度、送金金額の規模、ミキシングサービスや高リスクと評価されるクラスタとの接触履歴、複数ウォレットを経由する移転パターンの有無等が想定される。 つまり、まず広い網をかけて「怪しい動きのあるウォレット」を抽出し、その後に個別に深掘りしていくという二段階の運用が想定される。 このように、①広く抽出する段階(データソリューションズ)と、②個別に追跡する段階(リアクター)を分けて運用することにより、リスクの高い対象を優先的に抽出する効率的な調査選定が可能となる。 さらに、暗号資産に関する税務調査のデータや税務当局の調査経験が蓄積されることにより、不正取引や過少申告の兆候を類型化できる可能性がある。 例えば、次のようなパターンを示すウォレットアドレスは、申告漏れのリスクが高い兆候を有するものとして、重点調査の優先的な選定対象として識別することが考えられる。 AI(人工知能)を活用することのほか、各国の税務当局と知見やデータを共有することも有益である。 筆者がChainalysis Japan株式会社の方々にインタビューしたところによれば、これらのツールを活用することで次のようなことも可能になるようである。 もっとも、把握したアドレス群について、暗号資産の税務申告との照合を行う段階では、暗号資産の損益の推定計算が必要となってくる。後述するが、通常、ブロックチェーンから得られるデータだけで暗号資産の損益計算を行うことは困難である。 よって、これらのツールは過少申告や無申告の違反を断定する装置ではなく、限られた行政資源を効率的に活用するための手段として位置付けるのが妥当である。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第99回】 「外国法人の事業分割に伴う株式の交付が配当所得に該当するとした事件 (審裁令元.8.1)(その2)」 ~所得税法24条1項~ 井上 眞一 5 解説 (1) 争点1について 行政手続法第14条第1項は、不利益処分をなす場合に示すべき理由の内容・程度について規定していない。しかしながら、判例は、「法が、行政処分に理由を附記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たものであ」り、「どの程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由附記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである」(※2)と判示している。当該裁決の審判所の判断はこのような考え方に一致していると考えられる。 その後最高裁は、「行政手続法14条1項本文が,不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。そして、同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、上記のような同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容,当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無,当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである。」(※3)とどの程度理由を提示する必要があるかを判示している。 本件通知書は最低限現必要であろう根拠となる法令の条項と不利益処分の原因となる事実が示されている。したがって処分理由に不備はないと思われる。 (※2) 所得税青色審査決定処分等取消請求事件(最判昭和38年5月31日民集17巻4号617頁、法人税更正処分取消事件(最判昭和60年4月23日民集39巻3号850頁) (※3) 一級建築士免許取消処分等取消請求事件(最判平成23年6月7日民集65巻4号2081頁) (2) 争点2 会社分割についての問題整理 ① 会社分割制度について 会社分割は、親会社が、現物配当やその他の比例的分配によって、株主に対して、既存子会社や既存事業を切り離すことで新規に設立した取得した子会社の株式を交付し、その結果、子会社は親会社から独立した企業になる事業再編である。我が国では、平成12年(2000年)商法改正により会社分割制度が創設された。 ② 我が国居住者が影響を受けた外国法人の会社分割類似事件判例 当該事件に類似した判例が2つある。1つは、カナダ法人の株主が、2000年に実施された同法人からの株式分配が配当所得に該当するか否かが争われた事件(以下「カナダスピンオフ事件」という。平15.04.09.東裁(所)平14-227、地裁2004年09月17日判決平15(行ウ)246、東京高裁平成17年1月26日判決平16(行コ)336)である。 もう一つは、個人株主が、原告である国内証券会社の外国証券口座等に米国法人の株式を保有し、この米国法人のスピンオフにより個人株主の取得した米国法人株式が、所得税法上の配当所得等に該当するか否かが争われた事件(以下「米国スピンオフ事件」という。東京地裁平21(ワ)第4746号、東京高裁平成22年8月4日判決、最高裁第一小法廷平成22年(オ)1775号、平成22年(受)2148号)である。 (ア) カナダスピンオフ事件 我が国に会社法が制定される前の2000年に発生したカナダ法人(以下「B社」という。)の株式分割に関する事件である。原告ら(以下「Aら」という)は、日本国内に住所を有する居住者で、B社の株主であった。株主として受けたB社の子会社(以下「C社」という。)株式取得は配当所得に当たるとされた所得税の更正処分は「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とカナダ政府との間の条約」に違反するなどと主張した事案で、第一審東京地裁は、「所得税法上の配当所得の概念は、相当に広範なものと考えるべきであって、法人が、その株主等の出資者に対し、出資者としての地位に基づいて分配した利益は、その名目のいかんにかかわらず、所得税法上の配当金に該当する」。「租税条約は、原則として、自国の居住者に対して適用される国内租税法を修正しようとするものではないから、条約に別段の定めがない限り、締結国には、自国の居住者に対し国内租税法に従って課税する権利が留保されることになる。この原則がセービング・クローズであ」る。また、「租税条約は、国際二重課税という税の障壁を可能な限り回避し、国際交流の円滑化に資することなどを主な目的としたもので、国際二重課税回避の方法として、原則的には相手国の居住者であって、自国の非居住者であるものに対する自国の課税権を制限する方法を採用しており、このように相手国の居住者に対する課税権を互いに制限する点において、国際的相互主義に沿ったものというべきであり、自国の居住者に対して適用される国内租税法制のいかんは、それぞれに国家の課税権に関わる事柄であって、国際的相互主義とは関係のない問題といわなければならない」とし、「本件各更正処分及び本件各賦課決定が違法であることをうかがわせる事情は見当らない」と判示した。Aらは、本件株式分配に伴い、B社の資産は分配されたC社の株式分だけ減少し、B社の株価は175CAD(カナダ)ドルから、41CADドルまで下落したことから、経済的利益が全く生じていないと主張したが、「権利落ち」は、「利益配当等の実施に伴い一般的に発生しうる現象である。仮に、留保利益の大半が利益配当として株主に分配されたような場合には、これにより会社の資産が大きく減少し、株価の大きな下落が生ずることになるはずであるが、そのような場合であっても、当該利益配当が配当所得に該当することに何ら変わりがないことは明らかである。このように、利益配当等の実施に伴い株価が下落したことを根拠として、当該利益配当等による経済的利益は存しないと見ることはできない」と、Aらの主張は退けられた。 当該株式分配を時系列に見ると以下のとおりである。B社は、2000年5月5日を基準日として、自社の株主にC社の株式を分配した。B社は、2000年5月8日に、自社の株主に対し、本件株式分配により分配されることとなったC社の株券を発送した。これらに先立ち、日本の公共証券会社は、2000年4月18日付で、顧客に対しB社が発表した本件株式分配に関する計画を書面により通知した。内容は、B社の株主は、分配されたC社株式を源泉徴収税額相当額支払後、取得するか、あるいは売却し現金で受領するかを選択できるものであった。Aらは株式を受領することを選択した。課税対象額の計算は、権利確定日の2000年5月5日のC社株価と株券発送日である2000年5月8日付の円/CADドルの為替レートが使用されている。 控訴審においても「控訴人らの請求はいずれも理由がない」とされ、原判決をほぼそのまま引用して、棄却された。 (イ) 米国スピンオフ事件 もう一つは、2007年の米国法人のスピンオフに起因する事件である。2006年5月の会社法(平成17年法律第86号)及び平成18年度(2006年)所得税法改正(平成18年法律第10号、2006年4月1日施行)施行後の事件である。我が国の個人投資家(以下「D」という。)が米国法人のスピンオフにより取得した米国法人の株式は、我が国所得税法上の配当金又はみなし配当金に該当するか否かについて争われた事案である。第一審の東京地裁は、配当金についてカナダスピンオフ事件の第一審と同じ判旨を引用し、取得した株式は所得税法上の配当金であるとし、「利益剰余金を原資とする部分は、法人がその株主等の出資者に対し出資者としての地位に基づいて分配した利益に当たるから、所得税法第24条第1項に規定する利益の配当として、配当所得に該当するべきである」と判示した。また、Dは、本件スピンオフが実施された前後において、Dに株主資産の増加が生じていない以上所得は発生していないと主張したが、「しかし、法人の資本金の額を減少させると、その金額は、株主に対する分配が可能な剰余金になり、これをスピンオフにより分社化された他の外国法人の株式という資産に転化させて払い戻せば、その実態は利益配当とは異ならず、株主資産の増加が生じたと見ることができるから、これを課税の対象とすることは、何ら不合理ではない。株主に対し、減資を伴うスピンオフにより分社化された他の外国法人の株式を交付することは、会社が、いったん剰余金を株主に分配した上、改めてスピンオフにより分社化された他の外国法人につき資本の払込みをさせるのと同一の効果をもたらす事からも、上記の合理性は裏付けられる」とし、「利益配当等の基準日の経過後株価が当該利益配当等の額に見合った額だけ下落することは、利益配当等の実施に伴い一般的に発生しうる現象」であるとした。当該株式分配を時系列でみると次の通りである。元法人は2007年6月29日にスピンオフを実施した。元法人から株主らに割り当てられる分割株式は、2007年7月6日に米国の証券保管振替機構に入庫された。2007年9月11日分配された株式をBは割り当てられることとなり、これを取得した。日本の証券会社である原告は、2007年9月11日付で、「子会社株式割当に伴う国内源泉税お支払いのお願い」をDに送付し、2007年9月20日までに源泉税額を納付するように求め、2007年9月20日にDの外国証券取引口座に株式を入庫した。所得税額の基礎となる配当所得算定には、米国証券保管振替機構に入庫された2007年7月6日の株価と株式割当日9月11日の円/USドルの為替レートが使用されている。Dは、第一審判決を不服として東京高裁に控訴した。東京高裁平成22年8月4日判決は第一審判決を支持したため、Dは、最高裁に上告及び上告受理申立てを行ったが、最高裁第一小法廷は平成23年4月21日、上告を棄却、上告不受理を決定(平成22年(オ)1775号、平成22年(受)2148号)した。 ③ 三事件に共通する主な論点 上記2つの判例と当該裁決には共通した主な論点が5つあると思われる。(ア)会社分割により分配された利益が配当所得に該当するか否か、(イ)我が国の会社分割制度と米国等のスピンオフ制度の導入目的および会計処理等の相違、(ウ)外国法準拠取引等における我が国租税法への適用、(エ)当該裁決では問題となっていないが、会社分割による所得金額決定日とその所得金額算定方法の決定方法、(オ)配当日と権利落ち日の関係で、権利落ち日に株価が下落することで元々所有する法人株式の株価下落による利益の損失と新株発行による利益の増加の論点である。 (ア) 会社分割により分配された利益が配当所得に該当するか否か (ⅰ) 税法上の会社分割と配当所得 平成12年(2000年)の商法改正を受けて、平成13年度の税制改正により法人税法に組織再編税制が導入された。これに先立ち、平成12年(2000年)7月の税制調査会は、「わが国税制の現状と課題-21世紀に向けた国民の参加と選択-」で、「会社分割が行われた場合、会社間の資産の移転、各種引当金などの引継ぎ、株式などの交付といった局面で課税の取扱いが問題となります。(中略)会社分割についての法的構成は、会社分割を合併と同質の事象として組織法的に構成する大陸法と、会社分割を現物出資による財産の譲渡とその対価として取得した株式の株主への分配の組合せとして構成するアメリカ型の2つがあります。このうちアメリカ型の会社分割は、今回わが国商法の改正においては手当てされておらず、わが国に導入される会社分割とは基本的に形態が異なっています。したがって、わが国において、会社分割に係る税制を検討するに当たっては、今回の商法改正により法整備がなされた会社分割制度を念頭に置いて、検討を進めることが適当(※4)」であるとし、判例法主義であるアメリカ型ではなく、法律は議会によって成立する成文法主義を採用するフランスやドイツの大陸型を参考にして会社分割を考えている(※5)。大陸型は、「会社分割は、合併の反対事象と位置付け、これらを類似の法的行為として捉え(※6)」、「今回わが国商法の改正導入された会社分割制度も、基本的考えは同様(※7)」としている。また、同年12月の同調査会「平成13年度の税制改正に関する答申」においても、「この会社分割法制に係る税制のあり方について、当調査会は、(ⅰ)合併・現物出資などの資本等取引と整合性のある課税の在り方(※8)」と大陸型を示唆している。また、同答申が参考文として添付している「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」に「二 みなし配当金の取扱い 分割型の会社分割や合併により、新設・吸収法人や合併法人の新株等の交付を受けた分割法人や被合併法人の株主においては、旧株の譲渡損益の取扱いとともに、分割法人や被合併法人の利益を原資として新株等の交付が行われたと認められる部分、すなわち配当とみなすべき金額の有無等についても検討が必要になる。この点については、分割法人や被合併法人において、移転資産の譲渡損益の計上の繰延べが認められず、資産の移転が原則どおり時価により処理される場合には、法人が時価による資産の現物出資を行って株式を取得し、その株式の減資の対価として株主に交付した場合と同様に考えて、その法人の利益を原資とする部分があると認められるときは、その部分についてはみなし配当とすべきである。他方、移転資産の譲渡損益の計上の繰延べが認められ、資産の移転が帳簿価額により処理される場合には、利益積立金額が新設・吸収法人や合併法人に引き継がれることから、(中略)配当とみなされる部分はないものと考えるのが適当である」としている。 (※4) 税制調査会「平成12年7月 わが国税制の現状と課題-21世紀に向けた国民の参加と選択-」(2000年)172頁、日本租税研究協会 2026年2月15日。 (※5) 我が国の会社法における会社分割は、「フランス法における「部分分離(apport partiel)やドイツ法における「分離(Ausgliederung)」に類似する。」(森本滋編『会社法コンメンタール17』(商事法務、2010年)238頁 (※6) 税制調査会・前掲(※4)172頁 (※7) 税制調査会・前掲(※4)172頁 (※8) 税制調査会「平成12年12月 平成13年度の税制改正に関する答申」(2000年)3頁、日本租税研究協会 2026年2月15日。 2026年現在、所得税法における「配当所得とは、法人から受ける①剰余金の配当(株式又は出資に係るものに限るものとし、資本剰余金の額の減少に伴うもの並びに分割型分割によるもの及び株式分配を除く。)、②利益の配当、剰余金の分配、(以下省略)(条文中の一部の括弧書を省略した、及び文中の番号及び下線は筆者が付加)」等に係る所得であると所得税法第24条第1項に規定されている。 これは、平成29年度(2017年)所得税法改正(以下「改正所得税法」という。)において、組織再編税制の整備が、会社分割等の円滑な実施を目的として行われたことによる。改正前の所得税法第24条第1項は、剰余金の配当のうち、上記下線部の株式分配が配当所得に含まれていたが、改正後は、「分割法人が行っていた事業の一部を、分割型分割により新たに設立する分割継承法人が独立して行うための分割が適正分割とされるとともに、これと同様の効果があると考えられる親法人がその株主等に対して行う子法人株式の全部の分配について、株式分配として組織再編税制の対象とされ(※9)」、①剰余金の配当及び②利益の配当に含まれていた株式分配が、配当所得から除外されることとなった。 (※9) 藤原智博ほか『改正税制のすべて 平成29年度版』(大蔵財務協会、2017年)128頁 当該事件は、2015年に発生しているため、改正所得税法改正前及び会社法(平成17年法律87号)に沿って検討する必要がある。会社法は会社分割を①吸収分割(第757条~第761条)②新設分割(第762条~第766条)(※10)に区分する。この会社法の下で、我が国で会社分割を実現するための方法としては、新設分割の事業部門会社分割として①「新設分割+当該新会社株式の現物配当」、及び②「現物出資による新会社設立+当該新会社株式の現物配当」、吸収分割の子会社スピンオフとして③「対象となる子会社株式の現物配当」により、実行することが可能となった(※11)。この事件は、「一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に継承させる(会社法第2条第30号)」ために、M社が新設されていることから新設分割であると考えられ、事業を新しい会社へ移管し組織を再編していることから、②「現物出資による新会社設立+当該新会社株式の現物配当」に該当する分割であると考えられる。仮に、この会社分割が国内取引であった場合、法人税法上では、組織再編成が適格となる要件は、「企業グループ内再編成」と「共同事業再編成」のどちらかに該当する必要がある。 (※10) 吸収分割は、「一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の(既存の)会社に承継させる」分割である(会社法第2条29)。 (※11) 太田洋「わが国におけるスピンオフに関する法制上・税制上の課題」証券アナリストジャーナル53巻10号(日本証券アナリスト協会、2015年)32頁 【図表2】適格組織再編成の適用(※12) (※12) 当該【図表2】は、岡村忠生『法人税法講義〔第3版〕』(成文堂、2007年)347頁を引用した。 当該事件が、もし我が国の国内取引事件であったならば、法人税法上の分割型分割に該当し、事例内容を参照し勘案すれば、適格分割型分割に該当しないと思われる。分割法人の法人に対しては、その保有資産等に対して譲渡損益課税がなされ、その株主に対しては、みなし配当課税がなされることとなる。新設分割の効力発生日は、会社法第764条第1項により新設分割設立会社の成立の日に生じる。法定の日から2週間以内に、新設分割する会社については変更の登記をし、設立会社については設立の登記を行わなければならない(会社法第924条)(※13)(※14)。よって、M社の場合、2015年11月〇日が設立の日になると思われる。 当該事件と類似事件が我が国国内でも発生している。2002年9月に中外製薬株式会社(以下「中外」という。)が行った、米国企業であるジェン・プローブ・インコーポレイテッド(以下「J社」という。)の分離独立の事例(以下「中外製薬事件」という。)である(※15)。2002年6月27日開催の株主総会において「資本の減少」及び「資本準備金の減少」が承認・可決され、2002年7月31日が割当基準日となり、発行済株式数が確定し、税務計算上の「みなし配当額」が確定している。新聞記事等(※16)によると、中外製薬がJ社を売却したと見なされJ社買収価格である簿価256億円に対し、スピンオフ時の時価を795億円と評価され差額が株式の売却益と判断された。次に、中外の株主へJ社株式を交付したため、株主が株式配当を獲得したと見なされみなし配当課税が生じた。これらの費用は全て中外が負担し、総額は株式譲渡益に対し225億円の法人税等が、みなし配当金に対し125億円(中外が株主に代わりすべて負担)の源泉所得税、合計350億円の税負担が生じている。 (※13) 前掲(※12)371頁 (※14) 米国の会社法は、連邦法ではなく州法である。事業活動の内容・目的に沿って、進出事業体の形態を選択し、州法に従って登記または登録する。独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)「外国企業の会社設立手続き・必要書類」 2026年2月26日 (※15) 西村あさひ法律事務所編『M&A法大全(下)全訂版』(商事法務、2019年)433頁及び前掲(※8)33頁参照 (※16) 中外製薬「ジェン・プローブ社株式の割当・分配についてのお知らせ」(2002年6月27日)、「有償減資等に伴うみなし配当額等に関するお知らせ」(2002年8月5日)、「ジェン・プローブ社「割当通知書」ご送付のご案内」(2002年9月2日)、2002年10月23日付日本経済新聞社朝刊29頁、2003年4月23日付日本経済新聞社朝刊19頁、2003年7月27日付日本経済新聞社朝刊28頁等を参照している。 (イ) 我が国会社分割制度と米国等スピンオフ(以下「Spin-off」という。)の導入目的の相違等 (ⅰ) 会社分割とSpin-offにおける目的の違い 我が国の会社分割は、「株式会社または合同会社が、その事業に関して有する権利義務の全部または一部を、分割後他の会社(以下「承継会社」という。)または分割により設立する会社(以下「設立会社」という。)に承継させることを目的とする会社の行為である(会社法第2条第29号・第30号)(※17)」。会社分割は、事業の買収やグループ企業の再編等に活用されている(なお、会社法制定前は、会社分割の対象は分割会社の「営業の全部又は一部」である必要があったが、何が「営業」に当たるかは必ずしも明確でなく、法的安定性を害するという批判があった。現行法下では「(分割会社の)事業に関して有する権利義務の一部」であればそれ自体が「事業」といえるものでなくても、会社分割の対象にできる(※18))。企業の事業で不採算事業がある場合、その事業を切り離すことで経営資源の効率化を図ることやグループ企業の再編を目的として利用されることが多い。 これに対し、米国等の場合、Black’s Law Dictionaryによると、「Spin-offとは企業の事業分割の一つで、企業の一部門が独立した会社となり、新会社の株式が元の企業の株主に分配されるもの。」とされる。企業内における成長性の高い事業の価値が一事業分問であるという位置付けにあるとき、その成績が企業内で埋もれてしまい、当該事業が証券アナリスト等のカバレッジ(証券・金融分野で、特定の企業や銘柄を専門家が継続的に分析・監視し、投資家に情報提供すること)の限界により、その価値が市場において十分に評価されない結果としての株価の割負けを生じるコングロマリット・ディスカウントを解消する手段として用いられる。 このように、会社分割の主な目的は、我が国では事業再編による不採算事業の解消、米国ではコングロマリット・ディスカウントの解消と正反対の目的で実施されている。また、税制調査会の「わが国税制の現状と課題-21世紀に向けた国民の参加と選択-」で述べているように、我が国では、会社分割を判例主義の米国型ではなく、成文法主義の大陸型を採用し、これをもとに法律等が定められ、実行される。会社分割とSpin-offは、事業部門の分離はほぼ同じ方法で実行されてはいるが、米国では新設会社が株式市場上場を前提に設立され、我が国では、この当時の会社分割は、上場目的ではなく、グループ会社の組織再編の利用が主であると考えられる。実際、米国等の上場市場で評価がある株式の将来の株価と我が国における分割により取得された配当及び株式の将来の評価額を比較すれば、その差は大きく広がるであろうと考えられる。このように会社分割とSpin-offは、異なった目的から計画実行され、会社分割制度としても違った経緯を遂げてきているように思われる。また、上記③(ア)(ⅰ)に記述した税制調査会の「わが国税制の現状と課題」は、米国型のSpin-offは、「今回のわが国商法の改正においては手当てされておらず、わが国に導入される会社分割とは基本的に形態が異な」るとしている。このような状況の中、我が国会社分割と米国のSpin-offを同じ制度と考え、米国法に準拠し、適用することは可能だろうか。 (※17) 江頭憲治郎『株式会社法第7版』(有斐閣、2017年)897頁 (※18) 相澤哲・葉玉匡美・郡谷大輔『論点解説 新・会社法』(商事法務、2006年)668頁~669頁を要約。 (ⅱ) 我が国会社法上の会社分割 平成11年(1999年)商法改正で株式交換、株式移転制度が導入されたのち、平成12年(2000年)商法改正(平成12年法律90号)により、会社分割制度が創設された。我が国商法には平成12年まで会社合併の規定はあったが、会社分割の規定はなかった。会社分割についての法的発想の基本に会社の合併と営業譲渡がある。前者が大陸法における発想であり、後者が米国型における発想である(※19)。したがって合併を会社の分割と同質的にとらえることから大陸法的な会社分割が採用されたと考えられる。我が国において会社分割を立法化するにあたり、会社分割の手続方法、株主保護、会計処理・計算の問題等様々な問題を検討する必要があったが、最も、重要な論点としては会社債権者の利益をどのようにして保護するかという問題があった。米国には、包括的な会社分割法制がない。そのため会社分割に固有の債権者保護規定はなく、新設会社への事業譲渡に関しても債権者保護規定はない。また、資本の減少についても債権者保護規定がなく、債権者に通知することなく資本を剰余金として配当することが可能であった。これとは対照的に当時の我が国商法が債権者保護と資本維持について厳しい規則を置いていた(※20)。また、株主への株式分配に関しても、これを配当であるとすれば、金銭以外の配当が許されるのかといった問題、利益の配当は株主総会の専権事項であり定時株主総会の承認が必要などといった問題があった。 (※19) 田村諄之輔「会社分割法制についての一考察」岩原紳作・神田秀樹編著『商事法の展望』(商事法務、1998年)53頁 (※20) 当該箇所は、日本銀行金融研究所「会社分割の法律問題―債権者の扱いを中心にー」『金融研究』(1993年3月)の16~17頁を参照している。 平成12年改正商法は、第四章第六節ノ三以降に会社分割の規定(※21)が置かれ、第一款が新設合併、第二款が吸収合併となっていた。平成17年(2005年)に会社法(平成17年法律第86号)が制定され、会社分割に関して第2条第1項第29号吸収分割及び第30号新設分割においてその定義、第3章会社分割第757条から第766条で会社分割の規定を定めている。旧商法においては、会社分割により、承継される財産は「営業」に限定され、「有機的一体性のない財産の移転は除外されていると解されていた」(※22)が、会社法第2条の定義において、会社分割で承継の対象となる財産について、「その事業に関して有する権利義務の全部又は一部」と規定し、「客観的意義の事業及び事業活動に関して会社が保有している個別の権利および義務」(※23)とした。 「会社分割の効力が生ずると、承継会社・設立会社は、吸収分割計画・新設分割計画の定めに従い、分割会社の権利義務を承継する(会社法第759条第1項・第761条第1項・第764条第1項・第766条第1項)。この権利義務の承継は、当該権利義務に関する分割会社の地位を承継する一般承継(包括承継)(※24)」である。一般(包括)承継とは、会社が保有する全ての権利義務を一括して引き継ぐ制度である。会社法では、会社分割において、分割会社の権利義務が承継会社に包括的に承継されることが規定されている(会社法第2条第29・30号)。しかし、会社分割でいわれる一般承継と相続や合併における一般承継には、違いがあると思われる(※25)。すなわち、被承継人の死亡や被承継会社の合併による消滅により、被承継人や被承継会社の権利義務の全ては承継人や承継会社に引き継がれる。これに対し、会社分割では被承継会社である分割会社は会社分割後も引き続き存続し、分割会社の権利義務のうちどの部分を承継会社または設立会社が引き継ぐかは吸収分割契約または新設分割計画の内容によって決定され、原則として株主総会の承認を受ける。 (※21) 現在の会社法では、第五編第三章に規律している。 (※22) 前掲(※18)668頁 (※23) 前掲(※18)668頁 (※24) 前掲(※17)925頁 (※25) 神田秀樹『会社法〔第28版〕』(弘文堂、2026年)414頁~415頁に同趣旨の掲載がある。 当該事件は、我が国会社法上に照らした場合、新設分割に該当すると思われる。新設分割計画の記載内容は、①新設分割の効力を生じた日、②分割に反対株主の株式買取請求手続き、新株予約権買取請求手続き及び異議のある債権者保護手続きの経過、③新設分割により設立会社が分割会社から承継した重要な権利義務に関する事項、④前各号に掲げるもののほか、新設分割に関する重要な事項等である(会社法施行規則第209条)。 (ⅲ) 会社分割の会計処理の相違 仮に、H社(のちのN社)及びM社の貸借対照表が仮に下記の状況であった場合の会計処理を考える。ただし、当該裁決には、H社、N社及びM社に関して詳細な財務諸表等の記載がないので、当該諸表等には実際の数値ではなく仮の数値を用いて説明することとする。 【図表3】 H社の貸借対照表(仮定) ● 米国の会計処理 米国GAAPにおける当該事件の会社分割の会計処理を考えると以下の通りとなる。例えば、分割する会社N社の純資産額が、5億ドルとする。 2015年11月〇日 Retained earnings / 利益剰余金 Retained earningsは、設立以来のNet income(またはProfit for the year)が累積されたものであり、企業内部に留保されているもの。純資産を構成する項目のひとつ、Stockholders’ equity(株主資本)の一部であり、分配可能算定額の基礎となる。 【N社から株式を受け取った株主】 スピンオフがIRC§355の対象となる場合、株主は利益を認識しないが、親会社株式の既存の取得原価を保有する親会社株式と新たに受け取る新設された会社の株式に分割する必要がある。IRC§358は、この配分は分割直後の両株式の相対的な公正市場価値に基づいて行われることを義務付けている。 例えば、株主が親会社株式を100ドルの取得原価で保有し、スピンオフ直後に親会社株式が両方の株式を合計した市場価格の80%を占め、Spincoが20%を占めた場合、株主は80ドルの取得原価を親会社株式に、20ドルを新設会社株式に配分する。当該配分によって、最終的にどちらかの株式を売却した場合の損益が決まるため、正確に配分することがすべての株主の税務申告にとって重要となる。 ● 日本の会計処理(簿価引継ぎ法の場合) 当該事件が日本国内で発生した場合、会計処理は以下の通りとなる。上記と同条件で分割する会社N社の純資産額が、5億ドルとする。 M社の株式がN社株主に交付される場合、N社の純資産を減少させる会計処理が行われる。N社の資本構成を比例案分し取り崩す。 【図表4】純資産移転割合計算式(※26) 【N社から株式を受け取った株主】 企業会計基準第7号によれば、「分割型の会社分割における分割会社の株主に係る会計処理」の第49項「受取対価が新設会社又は承継会社の株式のみである場合の分割会社の株主に係る会計処理」において、この場合、これまで保有していた分割会社の株式又は一部と実質的に引き換えられたものとみなし」、これを適用するにあたって、第50項で「分割した部分に係る分割会社の適正な帳簿価格を用いる。これは分割直前の分割会社の株式の適正な帳簿価格のうち、引き換えられたものとみなされる部分を合理的な方法によって按分し、算定する」と規定している。したがって、上記計算で使用した租税特別措置法第37条の10-24の「純資産移転割合」を使い、分割後の旧株式1株当たりの取得価格を計算することも可能となる。 【図表5】分割後の旧株式1株当たりの取得価額計算式 (※26) 『租税特別措置法(株式に係る譲渡所得等関係)の取扱いについて』等の一部改正について(法令解釈通達)」の趣旨説明(情報)及び措置法第37条の10-24を参照。また、企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」を日本公認会計士協会・企業会計基準委員会共編『会計監査六法平成27年度版』(日本公認会計士協会出版局、2005年)、同共編『会計監査六法2026年度』同出版局2026年)によって参照し記載している。 (ウ) 外国法準拠取引等における我が国租税法への適用 (ⅰ) 我が国租税法と外国法準拠取引 租税の法域では、私法域とは異なり、実質課税原則、質問検査権、租税法律主義(法定債権)の如き、税法固有の解釈要素が介在する。このうち、租税法律主義は、「法律の根拠の基づくことなしには、国家は租税を賦課・徴収することはできず、国民は租税の要求をされない」ことであり、内容は、「課税要件法定主義」、「課税要件明確主義」、「合法性原則」及び「手続的保障原則」の4つからなる。「税法と私法の関係が問われるのは、課税要件として、私法からの「借用概念」が用いられている場合」である。「租税法律関係においても、他法域で形成された法理がそのまま適用される必要があるのかが、まず問われるべきである。租税法律関係への私法規定の適用とか、借用概念の場合には、租税法律関係を規定する条件の違いを与件とすれば、他法域における適用との間に乖離が生じたとしてもやむを得ないであろう」。「100%未満の合理性」の行政判断は、個別事例においては妥当性を欠くことがあっても、「限りなく100%の合理性」を求める司法判断へのルートが確保されている限り、一応の合理性を認めることはできるだろう。 当該事件の審判所判断をみると、「所得税法第24条第1項は、配当所得として、法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配、投資信託及び投資法人に関する法律第137条の金銭の分配、基金利息並びに投資信託及び特定受益証券発行信託の収益分配に係る所得も含むとしており、配当所得を決算手続きに基づく利益の配当に限定していない。所得税法上の配当所得概念は、法人がその株主等の出資者に対し、出資者としての地位に基づいて分配した利益は、その名目のいかんにかかわらず、所得税法上の配当所得に該当する(下線は筆者が付加)」。この審判所の判断は、株主相互金融会社株主優待券事件(最高裁昭和35年10月7日第二小法廷判決)が、所得税法でいう「利益若しくは利息の配当」の前段の概念が、商法(平成17年法律第86号以前)でいう「利益の配当」と同意に解すべきかどうかの問題と同じ趣旨の文である。判例は、「商法は、取引社会における利益配当の観念(すなわち、損益計算上の利益を株金額の出資に対し株主に支払う金額)を前提として、この配当が適正に行われるよう各種の法的規制を施しているものと解すべきである。そして、所得税法中には、利益の配当の概念として、とくに商法の前提とする、取引社会における利益配当の観念と異なる観念を採用しているものと認むべき規定はないので、所得税もまた、利益配当の概念として、商法の前提とする利益配当の観念と同一観念を採用していると解するのが相当である」とする。「利益配当の観念が借用概念であると断じ、ただその場合にも右の配当が商法上違法なものであるかどうは、無関係で、むしろ租税法上の利益配当概念は、そうした違法配当もカバーすることを明らかにし、その後で、本件の金員のように損益計算と無関係なものは、利益配当概念に含まれないものとした。(中略)商法上利益配当という場合、損益計算上の利益の存在を不可欠の要件とみる考え方が一般的であるとしたならば、(中略)株主優待券も一種の資本の払い戻しと解することもでき、(中略)それが資本取引か、それとも損益取引か、そのいずれに属するものであるか、という点から、判断される問題であろう(※27)」と村井正教授は述べられ、別の文献では、利益配当金という計算上の概念について商法と租税法との間のある程度の相対性の容認(合目的論的解釈論)の所論(※28)も述べられている。 (※27) 村井正『現代租税法の課題』(東洋経済新報社、1973年)57頁 (※28) 村井正『租税法と私法』(大蔵省印刷局、1982年)124頁 当該事件、カナダスピンオフ事件及び米国スピンオフ事件の外国法によって設立され、外国法によって原因事象が発生した外国企業に起因する事件についても、下線部のような同じ趣旨の記載がある。外国法上の概念をほぼそのまま借用概念として適用してよいかという問題があると思われる。 (ⅱ) 日米租税条約等について 米国およびカナダの国内上場企業のSpin-offは、それぞれの国や州の規則に基づいて実行される。確かに、日米租税条約第10条第1項(※29)は、配当を支払う会社は、居住者である源泉地国(当該事件の場合、日本)に課税権を認めており、当該事件では、第2条から、議決権株式を居住者が直接及び間接的に所有する保有割合が10%未満の場合、税率は10%となる。しかし、それぞれの事件について、国境を越えたわが国の居住者が実際に取得しているのは、配当金ではなくて、新設会社の株式である。我が国の会社分割と米国のSpin-offが違った制度と考えれば、次のように考えることはできないだろうか。後で詳細は記述するが、Yは源泉所得税額の計算において、株主への所得額を配当金の金額の評価を使用せず、上場後の株式の市場価値で評価している。これを株式の譲渡としてみた場合、日米租税条約には以下のような記述がある。 (※29) 日米租税条約第10条第1項「一方の締結国の居住者である法人が他方の締結国の居住者に支払う配当に対しては、当方他方の締結国において租税を課すことができる。」 日米租税条約の第13条譲渡収益の第7項は「1から6までに規定する財産以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、譲渡者が居住者とされる締結国においてのみ租税を課すことができる。」と規定する。本条第3項において国から金融支援を受けた金融機関の株式の譲渡収益について規定する以外の法人の株式、債券、社債等の譲渡からの収益は、その譲渡者が居住者である国においてのみの課税となる。すなわち、当該事件の場合、新設会社の株式を所有していた承継会社からの株式譲渡として考えた場合、承継会社が居住する米国においてのみが課税を課すことができることになる。日本カナダ租税条約第13条第4項にも「1から3までに規定する財産以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、譲渡者が居住者とされる締結国においてのみ租税を課すことができる。」と規定する。当該規定は、OECDモデル租税条約第13条のパラ30にも同様の規定がある。当該事件等は、米国あるいはカナダにおける企業のSpin-offにより、我が国でいう利益準備金等を利用して、企業の一部門が独立した会社となり、新会社の株式が元の企業の株主に分配されている。実際に、我が国居住する元の企業の株主が手にするのは新設会社の株式である。 (エ) 会社分割による所得金額決定日とその所得金額算定方法の決定方法 (ⅰ) 会社分割による所得金額決定日 3つの事件における株主に対する配当所得の発生日が、下記(【図表6】)のとおり、一定の規則をもって確定されていない。当該3事件のような会社分割の場合に問題はないであろうか。株主が外国企業から株式等を取得したと考えられる日によって、配当所得の金額が大きく異なる場合が生じると可能性があると考えられるからである。株式等に係る譲渡所得等の計算をする場合、株式の取得をした日の判定が少なからずも重要になると考える。 【図表6】所得の確定日、為替レートの確定日と所得金額 我が国の所得税法は、所得税法第36条1項で「各種所得の金額の計算上収入とすべき金額又は総収入金額に参入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入とすべき金額とする。」と定め、「ここに「収入とすべき金額」とは、実現した収益、すなわちまだ収入がなくても「収入すべき権利の確定した金額」のことであり、したがって、この規定は、広義の発生主義のうちいわゆる権利確定主義を採用したものであると、一般に解されている(最決昭和40年9月8日刑集19巻6号630頁、最判昭和49年3月8日民集28巻2号186頁、最判昭和53年2月24日民集32巻1号43頁、最判平成5年11月25日民集47巻9号5278頁(法人税))。第一に、今日の経済取引においては、信用取引が支配的であるから、たとえ現実の収入がなくても、収入すべき権利が確定すれば、その段階で所得の実現があったと考えるのが合理的であること、(中略)にかんがみると、所得の年度帰属については、原則として権利確定主義が妥当と解すべきであろう」(※30)。この権利確定主義は、「企業会計の発生主義の考え方」(※31)に基づいている。 (※30) 金子宏『租税法第二十四版』(弘文堂、2021年)317頁 (※31) 水野忠恒『体系租税法第5版』(中央経済社、2024年)279頁 次に配当等を取得した日がどの時点であるかを検討する。「取得をした日の判定」について租税特別措置法第37条の10・37の11共-18《株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》(5)は、「株式の分割又は併合により取得した株式及び株主割当てにより取得(所得税法令第111条第1項に規定する旧株の数に応じて割り当てられた株式を取得した場合をいう。)した株式は、その取得の基因となった「株式の取得した日」による。(下線は筆者が付加)」と規定する。所得税法基本通達第36条(収入金額)関係〔収入金額の収入すべき時期36-4((配当所得の収入金額の収入すべき時期)において、「(1)法第24条第1項(配当所得)に規定する剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配、金銭の分配又は基金利息(以下この項において「剰余金の配当等」という。)については、当該剰余金の配当等について定めたその効力を生ずる日。ただし、その効力を生ずる日を定めていない場合には、当該剰余金の配当等を行う法人の社員総会その他正当な権限を有する機関の決議があった日。(2)を省く(3)法第25条(配当等とみなす金額)の規定により配当等とみなされる金額については、それぞれ次に掲げる日。(イを省く)ロ 法第25条第1項第2号に掲げる分割型分割によるものについては、その契約において定めたその効力を生ずる日。ただし、新設分割の場合は、新設分割設立会社の設立登記の日。なお、これらの日前に金銭等が交付される場合には、その交付の日。ハ 法第25条第1項第3号に掲げる株式分配によるものについては、当該株式分配について定めたその効力を生ずる日。ただし、その効力を生ずる日を定めていない場合には、当該株式分配を行う法人の社員総会その他正当な権限を有する機関の決議があった日(下線部は筆者が付加)」と規定する。権利確定主義の点から勘案すれば、配当所得が発生した日は、「事業分割が実施された日」で株主へ株式の分配が決定された日と考えられる。そして、我が国の配当等の所得税の徴収については、所得税法第181条1項で「支払する者は、その支払いの際、その利子等又は配当等について所得税を徴収し、その徴収に属する月の10日までに、これを国に納付しなければならない。」と規定され、配当金の支払い確定日に所得税の徴収が決定される。 (ⅱ) 所得金額算定に使用する為替レート 邦貨換算に使用する為替レートについては、①所得税基本通達57の3第2項(※32)の外貨建て取引の円換算によりその取引を計上すべき日における対顧客直物電信売相場(Telegraphic Transfer Selling Buying Rate 略称は「TTS」という。)と対顧客直物電信買相場(Telegraphic Transfer Buying Rate 略称は「TTB」という。)の仲値(Telegraphic Transfer Middle Rate 略称は「TTM」という。)により邦貨に換算した金額、②租税特別措置法関係通達(源泉所得税関係)第9条の2―2(※33)の外国通貨で支払を受けた配当等を外国通貨で交付する場合はTTBにより邦貨換算した金額、③租税特別措置法関係通達(株式等に係る譲渡所得等関係)37の10・37の11共-6(※34)により、譲渡所得等の金額の計算を引用して、原則、支払開始日と定められている日のTTBにより邦貨に換算した金額、④単に外国為替レートと記載し邦貨に換算した金額等が邦貨換算に採用されている。①は当該事件、②は中外製薬事件及び④はカナダ法人スピンオフ事件及び米国法人スピンオフ事件で採用されている。 (※32) (外貨建取引の円換算)法第57条の3第1項((外貨建取引の換算))の規定に基づく円換算(同条第2項の規定の適用を受ける場合の円換算を除く。)は、その取引を計上すべき日(以下この項において「取引日」という。)における対顧客直物電信売相場(以下57の3-6までにおいて「電信売相場」という。)と対顧客直物電信買相場(以下57の3-6までにおいて「電信買相場」という。)の仲値(以下57の3-6までにおいて「電信売買相場の仲値」という。)による。 (※33) (外国通貨で支払を受けた配当等を外国通貨で交付する場合の邦貨換算)措置法第9条の2第1項に規定する支払の取扱者(以下9の2-3において「支払の取扱者」という。)が同項に規定する国外株式の配当等(以下9の2-4までにおいて「国外株式の配当等」という。)の支払をする者又はその支払を代理する機関(以下9の2-3において「支払代理機関等」という。)から外国通貨によって国外株式の配当等の支払を受け、当該国外株式の配当等を居住者又は内国法人に外国通貨で交付する場合には、当該交付をする外国通貨の金額を、次に掲げる国外株式の配当等の区分に応じ、それぞれ次に掲げる日(以下9の2-3までにおいて「邦貨換算日」という。)における当該支払の取扱者の主要取引金融機関(その支払の取扱者がその外国通貨に係る東京外国為替市場の対顧客直物電信買相場を公表している場合には、当該支払の取扱者)の当該外国通貨に係る東京外国為替市場の対顧客直物電信買相場(以下9の2-3までにおいて「電信買相場」という。)により邦貨に換算した金額を同条第2項に規定する「交付をする金額」として同項の規定を適用する。(1)記名の国外株式の配当等 支払開始日と定められている日(2)無記名の国外株式の配当等 現地保管機関等が受領した日(昭和63年3月31日) (※34) (外貨で表示されている株式等に係る譲渡の対価の額等の邦貨換算)37の10・37の11共-6 一般株式等に係る譲渡所得等の金額又は上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算に当たり、株式等の譲渡の対価の額が外貨で表示され当該対価の額を邦貨又は外貨で支払うこととされている場合の当該譲渡の価額は、原則として、外貨で表示されている当該対価の額につき金融商品取引業者と株式等を譲渡する者との間の外国証券の取引に関する外国証券取引口座約款において定められている約定日におけるその支払をする者の主要取引金融機関(その支払をする者がその外貨に係る対顧客直物電信買相場を公表している場合には、当該支払をする者)の当該外貨に係る対顧客直物電信買相場により邦貨に換算した金額による。また、国外において発行された公社債の元本の償還(買入れの方法による償還を除く。)により交付を受ける金銭等の邦貨換算については、記名のものは償還期日における対顧客直物電信買相場により邦貨に換算した金額により、無記名のものは、現地保管機関等が受領した日(現地保管機関等からの受領の通知が著しく遅延して行われる場合を除き、金融商品取引業者が当該通知を受けた日としても差し支えない。)における対顧客直物電信買相場により邦貨に換算した金額による。 外国企業からの配当金支払いを国内証券会社等経由して受けた場合には、権利確定日から数か月後の配当金支払確定日の為替レートを使用して金額が決定されることがある。上記の米国法人スピンオフ事件は、この例である。すなわち、計算に使用される株価は米国で「事業分割が実施された日」あるいは「株式分配日」、使用される為替レートは、我が国における株券発送日が使用されている。時間の経過のため為替レートが変動し、これら要因により時間による邦貨換算に影響を及ぼす可能性がある。上記J社の事例をみると、株式譲渡益やみなし配当額の決定額の計算上、発行済株式数、資本金・資本準備金、利益積立金等使用される数値は、2002年7月31日の割当基準日、すなわち分割の効力を生ずる日をもとにすべての計算がなされている。この計算が基本となるであろう。また、外国企業の我が国内での当該分割事務に際して、株式を取得するのかそれとも売却するのか、事前選択することを株主対してお知らせを送致し確認する必要がある場合、この時間差の影響がもっと広がる恐れがある。その各数値は、効力を生ずる日の数値をもとに計算される。該当する株主は効力の発生した日の株式価値から存続か売却かを判断し決定する。配当された株式を所有する者、あるいは売却し外貨のまま所有する者又は円に換算する者、いろいろなケースが考えられる。会社分割による配当が実行された日の影響をなくすために配当評価額計算の基準となる日が必要となる。外国企業のスピンオフ事案の場合、外国企業の存する国での株主への会社分割による配当金分配日と同日の為替レートを使用することが妥当であろうと筆者は考える。 (ⅲ) 所得金額を決定するための配当金の評価額 これら上記3事件の配当金の評価方法について検討する。これら3つの事件の会社分割は、新設会社の株式が市場に上場されるために、会社分割の実行日に各新設会社の株式に初値が付き、株価がそれ以降時間の経過とともに市場で変動する。当該事件はXの権利確定日(2016年11月〇日)の株価、カナダスピンオフ事件は権利確定日(2000年5月5日)の株価、そして米国スピンオフ事件は株式入庫日(2007年7月6日)の株価が、我が国においての所得税額の計算に使用されている。剰余金を使用した配当金の場合、1株当たりの配当金は資本金及び資本剰余金からの払い戻しとみられる金額、利益剰余金からの払い戻しとみられる金額を基礎として、割当基準日における発行済株式数で除して算定されると考えられる。しかしながら、これら3事件については、配当所得の計算に全て株価を使用している。当然、この配当金額と株価との間には、算定方法の相違、時間の経過等から金額の差額があると思われる。当該事件の場合、N社の利益剰余金が37,296百万USドルの減少し、発行した株式数が1,803,719千株であるので、およそ20.677USドルが1株当たりの配当金額なると考えられる。所得金額計算上の株価がこの金額と同じ金額であれば、問題とはならないだろうが、一般的には上場時に株価が大幅に上昇することが多いと考えられる。配当所得金額の算定に剰余金の配当金額を使用せず、上場時の株価を使用することに問題はないのだろうか。 【図表7】 当該事件に関連する為替レート(※35) (※35) 当該図表は、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの外国為替情報(令和8年6月16日)及び七十七銀行の為替相場情報(令和8年6月16日)を参考に作成した。 (オ) 配当日と権利落ち日の関係で、権利落ち日に株価が下落することで元々所有する法人株式の株価下落による利益の損失と新株発行による利益の増加の論点 会計処理は、会社分割時の旧株式の取得価額の適正な時価額への調整を要求する。確かに、会社分割時に新設会社の株式を受け取らず権利を売却すれば、選択により利益を得る時点もあったと考えられる。米国での事例をみると、良好な事業をSpin-offすることにより、株価が大幅に上昇した例もある。株式市場は、企業の経営状態、経済状況その他の要因により、上下するのが常であり、個人事業主であるXの主張は、当を得ないものであると考える。Xのような個人株主の場合、所得税法上申告分離課税であり、株式等を売却・譲渡したときに初めて利益や損失を認識することができる。これに対して、法人の場合、上記で述べた会計基準等に従った会計処理を行うことは、日常業務で会計仕訳を継続的に記録しており、財務諸表において株式の簿価を示すことは株主に対しても重要なこととなる。 (3) 争点3 審判所の判断は、正しいと思われる。過少申告加算税の賦課が、真に納税者のやむを得ない理由によるものであって、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当若しくは酷になる場合をいうものと解され、それが納税者、当該事件の場合、Xの税法の不知や誤解に基づく場合は、これに当たらない。 6 おわりに 当該事件における裁決において課税の根拠となっている会社分割における剰余金の配当について、①当事者が手中にした配当=株式の評価を、配当金と株価のどちらを取るか、②外国法準拠取引の適用、そして③権利取得日と所得取得日を何時にするか、そしてその為替レートの適用日を何時にするかを主な問題として取り上げた。これらの問題は、平成29年度税制改正により、非適格組織再編成とされていたスピンオフについての課税繰延措置が導入され、米国型のスピンオフを適格分割としたことで解決が図られている。これ以降の税制改正でもスピンオフ税制の拡充が図られている。この状況を受け、上場企業において2020年3月に、(株)コシダカホールディングス(東証一部(当時)上場)、2024年10月に㈱メルコHD:(東証スタンダード上場)、2025年10月にソニーグループ(株)(東証プライム上場)等がスピンオフを実施している。スピンオフにより、経営の独立、資本の独立、上場の独立による企業価値の向上(※36)が期待されるため、今後も実施の動きが加速するであろう。スピンオフ制度には、会社法、租税法のほか、労働法や経済法との関連性が存在する。今回この研究をする中でも、租税法は、法律の施行までの国会での議論や答弁の記録、政府関係者の議事録等を調べて立法の成立過程を知ろうとしても中々資料が集まらなかった。米国等その国の租税規則や租税に関する法律の立法過程や成立過程を調べていくと、規則及び法律成立の根拠となる議事録や資料の多様に驚かされる。我が国においても、立法過程等の詳細な資料があれば、租税の判断や解釈が必要な時や裁判・裁決時に幅広く利用することが可能となるであろう。今後、AIなどの普及により、もっと租税回避等に利用される租税スキームが複雑となる可能性がある。これに対処するためにもこれらの記録がますます必要になると考える。 (※36) 経済産業省 経済産業政策局 産業組織課「スピンオフ」の活用に関する手引(参考事例編)令和7年7月を参照している。 【図表8】会社分割に関する法律等の変遷 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (了)
【新基準対応版】 〈一から学ぶ〉 リースの会計と税務 【第3回】 「リース契約の流れ」 公認会計士・税理士 喜多 弘美 【第2回】では、リースのメリット・デメリットについて整理しました。設備投資をする際に、自己資金で購入する場合などと比較して、リース契約のメリットが大きい場合は、会社はリースを選択します。 では、リースを選択した後に、実際のリース契約は、どのような流れで行われるのでしょうか。この疑問を解消すべく、今回は一般的なリース契約の流れを整理します。 まず、リース契約の場合、登場人物は以下の3者になります。 リースでなく、物件を購入する場合、登場人物は「売手()」と「買手()」の2者だけですので、それと比べるとリースは少し複雑な印象を受けるかもしれません。これからリースの流れを整理しますが、賃貸と売買のやりとりを組み合わせたイメージを持ちながら、が自社であり、主語が誰かを意識して読み進めていただくと理解しやすいと思います。 それでは、早速はじめていきましょう。 以上が、一般的なリース契約の流れになります。 最後に、3者(・・)の関係をまとめると下図のようになります。 (了)
税理士事務所の労務管理Q&A 【第32回】 「標準報酬月額の決定方法(定時決定)」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 毎年7月1日に、健康保険・厚生年金保険の標準報酬月額の定時決定が行われます。 定時決定は、4月、5月、6月の3ヶ月に受けた報酬を基に算定しますが、今回は、年間報酬の平均で算定する方法について解説します。 * * 解 説 * * 1 標準報酬月額の定時決定 (1) 定時決定とは 定時決定とは、毎年1回標準報酬月額を見直す制度です。7月1日現在の被保険者を対象にして行われます。事業主は報酬月額を算定し、年金事務所に健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届(以下、算定基礎届という)を提出することによって標準報酬月額が決定されます。 (2) 原則的な報酬月額の算定方法 4月、5月、6月の3ヶ月に受けた報酬の総額をその月数で除して、報酬月額を算定します。報酬支払基礎日数が17日(短時間労働者は11日、以下同じ)以上のある月を対象にしますので、17日未満の月がある場合は、その月を除いて計算します。 2 年平均で算定する保険者決定 (1) 保険者決定とは 原則的な方法だけでは報酬月額が算定できないとき(たとえば、4月、5月、6月ともに報酬支払基礎日数が17日未満のとき等)や、算定した額が著しく不当な額になるときは、保険者が特別な方法で算定して標準報酬月額を決めることになります。これを保険者決定といいます。 (2) 年平均で算定する定時決定 当年の4月から6月の報酬額をもとに通常の定時決定の方法により算出した標準報酬月額と、前年の7月から当年の6月までの報酬の月平均額によって算定した標準報酬月額との間に、2等級以上の差が生じた場合であって、その差が業務の性質上例年発生することが見込まれる場合は、保険者決定によって報酬月額が算定されます。 ◆保険者決定の例〈前年の7月から当年の6月までの報酬の額〉 上記算定例の場合は、①と②を比較して、2等級以上の差が生じたため、前年の7月から当年の6月までの報酬の月平均額によって算定した300,000円が定時決定の際の標準報酬月額となります。 ただし、例えば、4月に基本給等の固定的な賃金の変動があった場合は、随時改定(報酬が著しく変動した場合の標準報酬月額の改定方法)の対象になり、定時決定が行われませんので、注意が必要です。 (3) 年平均で算定する効果 ご質問の場合のように、4月から6月にかけて業務が多忙で、残業代が通常の月よりかなり多く支給されていた場合は、上記保険者決定により、標準報酬月額が低くなり、その結果として保険料の負担が軽減されます。 (4) 事務手続き 事業主が年金事務所に申立を行うことにより、保険者決定の対象とされます。 算定基礎届の備考欄に「年間平均」と記載(〇で囲む)した上で、下記の書類(定型用紙あり)を添付します。 3 留意点 この保険者決定に関する申立を事業主が行うことによって、被保険者に不利益が生じないように被保険者の同意を必要としています。申立をする場合は、被保険者にこの保険者決定の主旨を十分説明することが大切です。 (了)