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グループ企業の税務Q&A 【第9回】「譲渡損益を繰り延べている通算法人が通算グループ内の他の法人との間で合併を行った場合」

グループ企業の税務Q&A 第 9 回 譲渡損益を繰り延べている通算法人が 通算グループ内の他の法人との間で合併を行った場合 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター/税理士 川瀬 裕太   ◆ ◆ ◆〈解説〉◆ ◆ ◆ 1 グループ法人税制 (1) 譲渡利益額又は譲渡損失額の繰延べ 内国法人(普通法人又は協同組合等に限ります)がその有する譲渡損益調整資産(下記(2)参照)をその内国法人との間に完全支配関係がある他の内国法人(普通法人又は協同組合等に限ります)に譲渡した場合には、その譲渡損益調整資産に係る譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額は、その譲渡した事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入することとされています(法法61の11①)。 (2) 譲渡損益調整資産 譲渡損益調整資産とは、固定資産、土地(土地の上に存する権利を含み、固定資産に該当するものを除きます。)、有価証券、金銭債権及び繰延資産で一定の資産以外の資産をいいます(法法61の11①、法令122の12①)。 なお、譲渡損益調整資産から除かれる一定の資産は、次に掲げる資産をいいます(法令122の12①)。 (3) 繰り延べられた譲渡利益額又は譲渡損失額の計上 内国法人が譲渡損益調整資産に係る譲渡利益額又は譲渡損失額につき譲渡損益の繰延べの規定の適用を受けた場合において、その内国法人が譲渡損益調整資産に係る譲受法人との間に完全支配関係を有しないこととなったとき(次に掲げる事由に基因して完全支配関係を有しないこととなった場合を除きます)は、譲渡損益調整資産に係る譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額(※)は、その内国法人のその前日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することとされています(法法61の11③)。 (※) その有しないこととなった日の前日の属する事業年度前の各事業年度の所得の金額の計算上益金の額又は損金の額に算入された金額を除きます。 (4) 譲渡法人が適格合併により解散した場合 内国法人が譲渡損益調整資産に係る譲渡利益額又は譲渡損失額につき譲渡損益の繰延べの規定の適用を受けた場合において、その内国法人が適格合併(合併法人(法人を設立する適格合併にあっては、他の被合併法人の全て)がその内国法人との間に完全支配関係がある内国法人であるものに限ります)により解散したときは、適格合併に係る合併法人の適格合併の日の属する事業年度以後の各事業年度においては、その合併法人を譲渡利益額又は譲渡損失額につき譲渡損益の繰延べの規定の適用を受けた法人とみなして、譲渡損益の繰延べを継続することとされています(法法61の11⑤)。   2 グループ通算制度 グループ通算制度特有の規定はないため、譲渡損益を繰り延べている通算法人が通算グループ内の他の法人との間で合併を行った場合においても、上記の規定を適用することとなります。   3 本件へのあてはめ 当社(A社)を被合併法人、C社を合併法人とする適格合併を行う場合、譲渡法人であるA社が完全支配関係のあるC社との適格合併により解散するため、繰り延べられた譲渡利益額又は譲渡損失額の計上の規定は適用されず、適格合併に係るC社の適格合併の日の属する事業年度以後の各事業年度においては、C社を譲渡利益額又は譲渡損失額につき譲渡損益の繰延べの規定の適用を受けた法人とみなして、譲渡損益の繰延べを継続することとされています。 譲渡損益調整資産を適格合併により取得したC社がその譲渡損益調整資産を譲渡、償却、評価換え、貸倒れ、除却等したとき、又は、譲渡した法人と譲渡を受けた法人との間の完全支配関係がなくなったときに繰り延べていた譲渡利益額又は譲渡損失額が実現(戻入れ)することとなります。   (了)

#No. 687(掲載号)
#川瀬 裕太
2026/09/24

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第105回】「IHI事件 -取引単位営業利益法(TNMM)に準ずる方法と同等の方法による課税処分が取り消された事例-(地判令5.12.7、高判令6.12.11)(その2)」~租税特別措置法66条の4第1項等~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第105回】 「IHI事件 -取引単位営業利益法(TNMM)に準ずる方法と同等の方法による課税処分が取り消された事例- (地判令5.12.7、高判令6.12.11)(その2)」 ~租税特別措置法66条の4第1項等~   税理士 中野 洋     6 検討 (1) TNMMの概要 ① インバウンド取引を想定した規定 わが国のTNMMの原型は、米国におけるCPM(利益比準法:Comparable Profit Method)である。CPMは、法人単位(又は事業セグメント単位)の営業利益指標で比較・検討することから、TNMMとの違いは、概ね、取引単位か、法人単位か、ということになる(※17)。米国で考案・導入されたCPMは、課税執行面での課題を克服するため、情報の入手可能性に配慮し、効率的、かつ、訴訟に耐えうる算定方法を模索した結果とされている(※18)。したがって、TNMMにも同様の効果を期待できよう。しかしながら、CPMは、もともと米国内の法人を比較対象とし、国内のインバウンド取引に適用されてきた経緯がある。その導入期においては、米国に進出する日系企業に対する移転価格課税に適用されてきたことから、もともとはインバウンド取引に対する移転価格課税を想定した手法である。本件のようなアウトバウンド取引については、検証対象法人及び比較対象法人が国外にあることから、情報の入手可能性という課題が再現することになる。また、TNMMがアウトバウンド取引に適用される場合、課税処分を行う課税庁の立場からは、立証が困難なケースが想定される。 (※17) この点について、OECDモデル条約9条1項に規定する独立企業原則は、「取引」を単位とし、「市場取引との比較」において算定すべきことを定めている。したがって、「法人」単位での比較は望ましくない。企業は様々な事業活動を行うことから、国外関連取引とは無関係な事業が混入している可能性が否定できない。しかしながら、結局は、情報の制約などにより、法人単位での比較とならざるを得ず、現状ではほぼ同様の算定方法といえよう。 (※18) 渡辺裕泰「無形資産が絡んだ取引の移転価格課税―TNMM(取引単位営業利益法)導入の必要性―」ジュリストNo.1248号(平15.7)73頁 ② 独自の機能の有無 営業利益率によるALPの算定では、独自の機能(平成23年改正前は「重要な無形資産」)が一方のみにあるのか、あるいは双方にあるのかに応じて、実務上、異なる算定手法が選択されている。TNMM以外のALP算定手法として使用される機会が多いと考えられるのが、利益分割法(PS法)の一つである残余利益分割法(措置法施行令39条の12第8項1号ハ。以下「RPSM」)である。この算定方法も営業利益を配分する方法であるが、合算した営業利益を二段階に分けて各当事者に配分する(両側検証)。第一段階で国外関連者双方に基本的利益を配分し、第二段階では残余利益をその獲得に寄与した程度等に応じて各々配分するが、計算が煩雑である。そして、RPSMも営業利益を配分することから、第一段階における配分では、殆どのケースでデータベースを使用して、TNMMによって各々のルーティン利益を計算する(※19)。 (※19) 本件においてXは、RPSMあるいは寄与度利益分割法(措置法施行令第39条の12第8項第1号ロ)の適用が適切であると主張しているが、実際に使用していたALP算定方法は、取引ごとに、自社における第三者取引のマークアップ率を加算する方法、第三者取引と比準する方法などであった。 実務においては、概ね、「独自の機能(※20)」の有無によってALP算定方法が決まる。例えば、価値ある無形資産を有する側を検証対象とすれば、比較対象法人の選定が困難となる。そのため、国外関連取引の当事者双方が独自の機能を有する場合は、RPSMの適用が合理的とされるが、一方が独自の機能を有さない場合、TNMMの適用が合理的となる。TNMMでは、単純な機能を有する側のコンパラであるべき営業利益率を算定するため、客観的な外部データに基づく簡易な算定手法ということができるが、欠点としては片務的な検証となる(片側検証)ことなどが挙げられる。また、データベースなどの公開情報を利用することから、納税者の立場からは、予測可能性・検証可能性に資するとされている。 (※20) 本事案は平成23年改正後であるため、RPSMの適用においては「重要な無形資産」の有無から「独自の機能」の有無へと判断要素が変更されているが、「独自の機能」については、法令上の定義もなく、納税者と課税庁の間で解釈の相違が生じることが予想される。   (2) 本件におけるTNMMの適用 ① 比較対象法人の選定 TNMMにおいては、国外関連取引の当事者のうち、単純な機能を有する側が検証対象とされ比較対象法人も単純な機能を有する法人が選定される。本件のように、検証対象法人が寡占状態にあるような法人の場合、比較対象法人が存在しないケースもあろう。本件課税処分においては、Yが選定した比較対象法人はタイの上場企業2社であるが、比較対象法人の選定プロセスは極めて重要であるものの、この点が争点となった裁判例は存在しない(※21)。本件においても国税不服審判所においては、比較対象法人選定の合理性が争われたが、本件訴訟においては争点から外れている。 (※21) 岩品信明「移転価格税制に関する裁判例のまとめと税務調査への影響」租税研究916号(令8.2)247~248頁。また、文書化段階でのTNMM使用率は、おそらく8~9割を占めるとの見解を示している(同248頁)。 Yが行った比較対象法人の選定基準については、国税不服審判所の裁決事例(令和2年3月18日)において、概ね次のとおり述べられている。まず、公開データベースのORBIS搭載の法人から、市場の同一性(タイ国所在)、棚卸資産の類似性(自動車関連製品の製造)を加味し、14種類の米国標準産業分類コードの中から、事業活動中である法人を抽出している。次に、事業戦略の類似性の観点から、Sが研究開発型の法人ではないことを踏まえ、平均売上高研究開発費率が1%を超える法人を除外し、Sの一定期間の平均売上高の10分の1以下又は10倍以上の法人を除外している。その他の除外基準としては、他の法人に支配されているものや、営業損益が負の値となる法人、対象事業年度の財務データが得られない法人などを除外している。 ② 机上の空論か 根本的な違和感は、取引単位におけるXの主張に見て取れる。すなわち、争点(1)における取引単位の問題では、Xは複数の取引を一体として(法人単位で)比較する点を批判している。尤も、Xが主張するとおり、比較可能性の検証は、本来は取引単位であるべきだが、しかしながら、そういう自らも、審判書で認定された移転価格分析レポート(以下「TPレポート」)では、Yと同様に、取引の一体的把握により、法人単位のデータベースの情報を基に、TNMMにより四分位レンジを計算している。本件訴訟においてXは、取引を一体的に把握する点、法人単位で比較する点を批判していたが、実は、自らもそのような認識に基づいた計算をしているのである(※22)。 (※22) 納税者は無理と知りつつ企業単位の比較を批判し、課税庁はこれをマニュアル通りだなと思いつつも反論し、裁判所もお約束のやり取りだなと思いつつ判示を述べる。裁判を重ねるごとに、この点があきらかになるのではないか。 ③ フルレンジと四分位レンジ 本件算定方法では、Yは、比較対象法人としてデータベースから2社を選定し、その単純平均値でALPを算定している。一方、Xは、税務調査時に作成・提出したTPレポートにおいて12社を選定し、自社が算定したALPが四分位レンジの範囲内に収まっているとした。ALPが一定のレンジの範囲内にあるときは、移転価格課税は行わないとされているが(※23)、審判所におけるXの主張は採用されなかった。採用されなかった理由は諸々考えられるが、Xが選定した12社が「比較対象取引」ではなく「比較対象取引候補」であるとの理由による可能性があり、この点に注目したい。 (※23) 措置法通達66の4(3)-4では、「比較対象取引が複数存在し、ALPが一定の幅を形成している場合において、当該幅の中に国外関連取引の対価の額があるときは、移転価格課税の適用がない」とされている。このような統計的手法を用いた差異調整が導入されたのは令和元年度改正であるが、ガイドライン_パラ3.57においては、既に、本件各事業年度において、統計的手法の有用性が述べられていた。 そもそも四分位レンジによる算定は、信頼性の低いサンプル群(比較対象取引候補)であるが故の統計的手法であり、比較可能性が認められる比較対象取引によるものではないとされている(※24)。そのため、フルレンジが構成できているときは、四分位レンジを使用することはできない(※25)。しかしながら、YもXも同じデータベースを使用している。裁決文を見る限りは、Yの選定プロセスにおいて、Xとは異なる特別な情報を取得した形跡もない(※26)。選定基準に違いはあるものの、ともに一定の選定基準により絞り込みを行っている。では、比較対象取引と比較対象取引候補の境界線についてはどのように判断するのか。 (※24) 藤森康一郎『実務ガイダンス 移転価格税制(第5版)』中央経済社(平29.5)261~267頁 (※25) 「比較対象取引が存在してフルレンジが構成されている場合には、四分位法を使った中央値による調整は使用できません・・・比較対象取引でレンジを形成できず、定量化できない差異のある比較対象取引しかないときに四分位法を使った中央値による調整ができることになります」-羽床正秀他『令和2年版 移転価格税制詳解 理論と実践ケース・スタディ』大蔵財務協会(令2.3)432~433頁 (※26) 羽床他:前掲(※25)書の414頁では、わが国がTNMM採用した理由の一つとして「進出国等の公開データの範囲内でTNMMを適用できる道を設けておきたかったこと」を挙げている。そもそもTNMMは、情報取得の困難さを克服するための公開データによる算定方法である。したがって、公開データの内容に優劣をつけることは困難であろう。 本件においては、Xも、Yも、比較可能性の検証に使用している情報に質的な差異はない。実務上も、納税者は、殆どのケースで統計的手法による四分位レンジで計算し、逆に、課税庁は納税者よりも踏み込んだ検証をしているわけではないにもかかわらず、フルレンジで算定しているケースがあると思われる。審判所においては、Yの選定基準に相応の合理性が認められるとしたが、XのTPレポートにおける四分位レンジを認めなかった根拠は示されていない。 ④ 合理的な算定方法ではないが、違法性を惹起しないという判示 「4 地裁の判示」の[2]損益単位の問題(3)では、OPMによるTNMM(2号所定の算式)から非関連購入取引に係る原価を減算する算定方法が、本件においては合理的な算定方法ではないとしながらも、結論として、あるべきALPよりも小さく算定されているから、違法性を惹起しないとした。その理由は、国外関連取引に係る資産は希少性のあるもので、一方で、非関連購入取引に係る資産は汎用性がある点に起因する。国外関連取引に係る資産に対しては、市場における比率による営業利益よりも、加重して営業利益が割り当てられるべきところ、本件算定方法は市場における営業利益を割り当てる。あるべきALPより小さいはずだから(※27)という理由により、合理的ではない算定方法が取り消されないのであれば、今後の類似の事案においても少なからず影響があると思われる。 (※27) あるべきALPより小さいとしても、納税者が計算したALPよりは大きくなる。1(1)参照。 さらに、「4 地裁の判示」の[4] 総括においては、Sの市場占有率の高さ、需要の大きさを考慮すれば、SのOPMは比較対象法人のそれよりも高くなり、したがって、比較可能性の観点から、違法であるとする。この点について、本件算定方法の算式上、比較対象法人の営業利益率が、あるべきOPMより低い率により計算されていれば、ALPが過大に算定される。つまり、OPMが過少であれば、ALPが過大になるという関係にある(「2 事案の概要」(2)末尾の計算式を参照)。 上述のとおり、いずれも、あるべきOPMが比較対象法人のそれより大きいことを理由としながら、一方では課税処分を維持(違法性を惹起しないと)し、他方では課税処分を否定している。この点については、合理的な方法ではないとした本件算定方法の違法性の程度は小さいが、比較可能性に関する違法性の程度は大きいと理解すべきであろう。しかしながら、いずれも裁判所の違法性の認定基準が明確ではなく、納税者・課税庁いずれの立場からも、不確定要素としての問題が惹起する。 ⑤ 実際のALP算定方法と最適手法の相違 本件では、Xは、取引ごとに原価基準法(本件部品販売取引及び本件役務提供取引)及び独立価格比準法(本件技術実施許諾取引)によりALPを算定(※28)していた点を審判所において否定され、さらに、複数の取引を一体として評価する方が合理的とされた。一方で、Xは、税務調査時にTPレポートを作成して調査官に提出しているが、そこでは、複数の取引を一取引単位とした上で比較対象法人を選定し、四分位レンジを計算している。また、Xは、地裁において、RPSM又は寄与度利益分割法が最適手法であるとの主張を行っており、実際に選定した算定方法と主張する最適な算定方法が相違しているのである。したがって、Xは、訴訟において、自らが選定していた算定方法が合理的ではないと認識した上で、課税処分の対象となったTNMMを否定することに注力したものと考えられる。そして、結果的に、Xも、Yも、選定した算定方法が適切ではなかったことになるが、勝訴したのはXであり、最適な算定方法の選定やあるべき算定結果は判示されない。 (※28) 本件部品販売取引及び本件役務提供取引については原価基準法、本件技術実施許諾取引については独立価格比準法を各々適用してALPを算定していた。なお、Xは、無形資産取引に独立価格基準法を適用しており、正味販売価格にロイヤルティ料率を乗ずるなどしているが、このような算定方法は比較可能性の観点から問題があり、課税庁から否認される可能性が高いと思われる。   (3) 訴訟上の問題点 ① 取消訴訟の現実 本件においては、納税者が主張するALP算定手法の妥当性について、特に議論されることなく、課税処分の対象となった本件算定方法は、裁判所によってこれが否定された。本件訴訟では、納税者は、課税処分の違法性を主張・立証するが、税務調査の段階とは異なり、自らが適用した算定方法の正当性について、特段の主張をしていない。この点については、納税者の訴訟戦略もあろう。訴訟は、勝訴するために行うもので、「適正な算定方法」や「適正な算定方法の選択」を明らかにするために行うものではない。したがって、課税処分を取消すことが優先されるため、行動原理はどの争点に力点を置くかであり、どのようにすれば課税処分を取消すことができるかである。しかしながら、措置法66条の4第1項では、制度の建付けとして、納税者の自主性を尊重し、先ずは、納税者の判断により申告調整を行うべきとしている。そのため、訴訟においても、納税者の主張するALP算定方法の妥当性や適正な算定方法の選択について、審議を尽くすべきであり、裁判所の権限において検証すべきと思われる(※29)。 (※29) 課税処分におけるALP算定方法に瑕疵があれば、裁判所は、別の算定方法を探すのではなく、課税処分を取り消す点を指摘するものとして、岡村忠生「租税利益と移転価格税制(2)」税研Vol.186(平28.3)86頁。同85頁では、本田技研工業事件を題材に「もし課税庁のALPの算定が誤っていれば、処分は違法として取り消され、これによって訴訟物に対する判断が行われたので、訴訟は終結することになると考えられます。この結果、納税者の申告は、たとえALPに基づかないものであっても、課税庁が判決の拘束力(括弧書き省略)に反しない再処分(括弧書き省略)を行うことができない限り、認められてしまうことになります・・・納税者は、自らの移転価格算定の正しさを証明したわけではないし、その必要もありませんでした。このような訴訟のあり方は、移転価格税制という実体法のあり方にそぐわないと思われます」と述べる。 移転価格訴訟においては、争点の一つにおいて違法であるとの判断が下されると、その余の争点については判断されることなく、訴訟が終結する。したがって、地裁においても最適な算定手法が何であるか(争点2)について、何ら判示されることはなかった。ALPの算定やその選択について、最終的に訴訟の判断に委ねざるを得ない面は多い。いうまでもなく、訴訟においては、裁判所のみに提出された証拠に基づき事実認定する権限が与えられており、課税要件の充足を判断することができる。したがって、あるべき算定方法やその選択について、何ら審議がされない点については、改善が必要であろう。 ② 主張・立証責任 税務調査の場面では納税者に説明責任があるものの、課税処分取消訴訟においては、主要な課税要件事実の立証責任は、基本的に課税庁が負う。しかしながら、事案ごとに、事案の特性に応じて、自由心証主義に基づき事実認定が行われ、それに基づき課税要件の充足が判断されることから、納税者においても、課税処分を否定するための証拠を提示すべきこととなる。納税者は、本件算定方法を否定する立場から、課税庁が選定した比較対象法人の比較可能性を否定する主張・立証を行うが、一方で、課税庁側の主張・立証責任については、自らの課税処分の妥当性のみならず、納税者が主張する算定方法が妥当でない旨の主張・立証責任も負わせるべきではないか。そのようにすることで、Xの主張する算定方法の妥当性についても訴訟で争うこととなり、結果として事案ごとのあるべき算定方法が訴訟の場で示されることに繋がろう。   (4) 移転に対する課税 ① 機能等の移転 海外に子会社を設立し、現地で事業を行っていると、国内親会社が担っていた機能やリスクが海外子会社に移転するケースがある。アウトバウンド取引におけるTNMMの適用では、国外関連者が単純な機能等を有することが前提となるが、例えば、機能等の移転に伴い、国外関連者に「独自の機能」が認められるに至った場合にも、Sにおける超過収益力の源泉はXの貢献にあり、超過収益はXに帰属させるべきとの考えから、課税庁の立場からは、TNMMの適用により事業移転に伴う所得の移転を防止しようとするであろう(※30)。一方で、海外子会社の現地での経営努力により超過収益が生じているような場合には、納税者の立場からは、海外子会社の機能等を的確に捉えていないとの批判が生じ、訴訟に発展する可能性が高まるであろう。 (※30) 例えば、内国法人が、その有する契約上の地位を放棄し、代わりに国外関連者がその契約上の地位を無償で取得したとする。この場合、そもそも比較対象取引が存在しないことから、比較法による課税が困難であるところ、TNMMは、国外関連取引に関する超過利益をすべて内国法人に帰属させ得るALP算定方法ということもできる。ちなみに、本件においてはXからSへの無形資産の移転は認定されていない。 ② 所得の移転 Yは、所得移転の蓋然性を主張するが、地裁は、比較可能性の判断はSとC1・C2の間で行うものであるとする(※31)。この点について、所得移転の蓋然性のベクトル(XからS)と比較可能性の方向性(SとC1・C2間)とは異なる。本件においてYは、XからSへの機能等の移転を主張していないが、所得移転の蓋然性を主張しても、Sにおける超過収益がXに帰属すべき根拠にはならない(「4 地裁の判示」[3](3)参照)。しかしながら、XからSへの機能等の移転とそれに伴う所得の移転を、詳細な分析に基づき認定・評価できるのであれば、それは所得移転の蓋然性とは別の問題として採用されるべきであろう(※32)。しかしながら、所得はフローの概念であるため、移転時に将来の所得を適正に見積もることは困難であり、やはり採用の余地は低いと考えられる。 (※31) Yの主張に対し、『国外関連者と比較対象法人の比較可能性を検討するに当たり、国外関連取引の当事者が果たす機能等を勘案することを求めるものではない』と述べる。 (※32) しかしながら、比較法を基本理念とする現行のALPの算定において、検証対象法人と比較対象法人間の比較可能性を軽視したTNMMの計算は採用され難いであろう。この点について、移転価格の問題ではなく、法22条2項により課税する可能性も考えられるが、それが国外関連取引である場合には、適正所得算出説による解釈とは相容れないものと思われる。 ③ X・S間の機能等の比較 上記を踏まえ、Yは、機能等の移転に伴う所得の移転を、所得移転の蓋然性という視点から、課税することができるか。この点について、4[3](3)の判示は、国外関連取引の当事者の機能等の勘案は、比較可能性の検討要素ではなく、最適方法の選定のためとしている。したがって、所得移転の蓋然性は、ALPの算定上は問題とならない。本件においては、争点(2)の問題であり、争点(1)においては、考慮すべき要素ではない。 (5) ガイドラインの性質 本件における判示では、裁判所は頻繁にガイドラインを引用しているが、この点をどう理解すべきか。ガイドラインが準法源として位置付けられたと解すべきか(※33)。「準法源」といっても、その理解の仕方は論者によって様々であろうが、そもそもガイドラインは抽象的な表現が多く、直接、法規として適用できるものではない。したがって、ガイドラインを法源と解することには無理があるように思われるが、伝統的な独立企業原則との関係で整理すれば、ガイドラインは、OECDモデル租税条約(以下「モデル条約」)9条1項(特殊関連企業条項)の解釈規範と解すべきであろう。この場合、特殊関連企業条項を課税制限規範と捉え、同項が規制する範囲内で租税条約及び国内法が制限される。そして、その解釈に際しては、モデル条約コメンタリー、ガイドラインが参照され、その制限効果は、措置法及び同施行令のみならず、通達、事務運営指針(以下「通達等」)にも及ぶであろう(※34)。 (※33) 例えば、判決文中の判断枠組では『解釈するに当たっては、諸外国の移転価格税制との間の整合性を図るという点から、ガイドラインの内容を考慮に入れるのが相当である』と述べている。「準法源」という用語については、法令上、何ら定義されているわけではなく、その範囲や法的拘束力の程度などについても、統一的な見解が存在しているとはいえないだろう。 (※34) したがって、同条項に反する国内法令・通達等の定めは無効となる。しかしながら「移転価格課税の側面に関する特殊関連企業条項の国内法制限効果はそれほど厳格なものではない。むしろ、移転価格課税の側面に関しては、モデル条約9条1項の規定、そのコメンタリー、ガイドライン等を考慮してもなお広範な裁量が立法者に認められていると考えられる・・・ので、移転価格課税に関する締約国の国内法制度を同条項違反と判断することは、実際にはほとんどの場合できないように思われる」谷口勢津夫『租税条約論―租税条約の解釈及び適用と国内法―』清文社(平11.2)116~117頁。なお、同88頁は「特殊関連企業条項の制限効果は、同条項が移転価格課税に関する法律に対して優位する国内的効力を持つことを前提としている」 この点は、わが国の法律構造にも関係する。わが国の憲法構造においては、租税条約が国内法に優先することから、まずは租税条約に準拠することが求められる。一方で、租税条約の規定は一般的に明瞭性に欠けるため、これを課税根拠規範とすることはできず、国内の法令及び通達等に対して制限的に働くにとどまり、このような意味からも、判示はその都度ガイドラインを参照するものと考える。また、租税条約の解釈については、モデル条約コメンタリーをウィ-ン条約法条約32条に規定する「解釈の補足的な手段として参照されるべき資料」とした最高裁判例が存在する(※35)。 (※35) 拙稿_中野洋「グラクソ事件(最判平21.10.29)(その2)」Profession Journal_491号 _清文社(令4.10)。また、コメンタリーについては「OECD加盟国の行政府、つまり課税する側の解釈であり、課税する側の立場から適宜、公表される可能性が否めないこと・・・国内法のように国会での審議を経て制定されるものではないこと」に留意すべきである。この点について、ガイドラインにも同様のことがいえよう。   7 おわりに 本件を受けて、納税者の実務対応や訴訟戦略も変化するであろうか。「市場占有率」や「需要」は、営業利益指標のみならず、価格や粗利益にも影響を及ぼす競争上の要因である(※36)。本件のように、多国籍企業が東南アジアに製造子会社をおくケースでは、技術力の高い企業の製品ほど、寡占状態が生じ易く、そのような状態下でTNMMによる課税処分を受けた場合、納税者における訴訟戦略としては、機能等による差異ではなく、むしろ、市場の状況の差異等により比較可能性を否定しようとするであろう。すなわち、機能等の差異は、営業利益率には重要な影響を与えないと判断される可能性が高く、効果的な訴訟対応を考えれば、市場の状況の差異を立証することに力点を置くのではないか。しかも、これらの差異は調整が困難とされている。しかしながら、このような「市場の状況」については、どの程度の差異があれば調整が困難といえるのか(※37)について、明確な指標は存在せず、最終的には、裁判所の判断に委ねられることとなり、予測可能性の点での課題が残る。 (※36) ガイドラインパラ2.70。さらに、営業利益指標による比較を前提とした場合、価格や粗利率に関係のない要因によっても、移転価格の妥当性(比較可能性)が判断され得る。つまり、価格以外の要因で価格が決まるという本末転倒な状態が生じることも予測されている。 (※37) 本件においては、Sの市場占有率が70%、C1・C2は5の計算のとおり52.5%であり、17.5%の乖離が生じている。ただ、これは一つの目安に過ぎない。 一方で、納税者がTNMMを選択する場合の対応はどうであろうか。本件訴訟においては、納税者は事後的に市場占有率を立証できたが(※38)、市場占有率を事前に確認するのは、困難な場合も多いと思われる。納税者は、国外の比較対象法人の市場占有率を確認し、かつ、乖離幅を確認した上で、ALP算定方法の選択及び算定をすることになる(※39)が、その時点ではあくまで予測に基づき判断するほかはなく(※40)、特に需要が急増した年度においては、市場占有率を合理的に予測することは困難であろう。納税者としては、エビデンス資料の作成がより重要になり(※41)、収集可能な情報に基づき合理的に判断したプロセス等を、措置法施行規則第22条の10第1項第2号に残すことになる。 (※38) 地裁においては、比較対象法人の市場占有率が不明な状況において、製品の希少性や製造の困難さなどをもとに、Sほどの占有率はないだろうと推定したに過ぎない(但し、高裁においては、比較対象法人の占有率が算定されている)。 (※39) 「本件の課税庁の採用する本件比較対象法人は、ここでいう関連者間取引の事前基準に基づく比較可能性分析と位置付けられる一方、本判決の比較可能性の捉え方は、・・・一連の国外関連取引の結果として生じたと考えられる市場の占有率の高さや需要の大きさという、事後的な視点を基準とした比較可能性分析にもとづくものと評価される」-本田光宏「取引単位営業利益法に準ずる方法と同等の方法の適用において、市場の状況の差異により比較可能性がないとされた事例」ジュリスト1620号.有斐閣(令8.3)149頁 (※40) 本件においては、各年度の課税処分がすべて取り消されたが、例えば、排ガス規制が公表され、需要が急増したSの平成24年の事業年度においては、取引時点に市場占有率を予測することは困難であったと思われる。したがって、当該年度については、事後的な理由により、その時点では予測困難な事由に基づき判断したということができる。 (※41) ガイドラインパラ3.69では「納税者が、グループ内取引が行われた時点において、独立企業原則を遵守するために合理的な努力をしたことを立証するために、その時点で合理的に利用可能な情報に基づいて、事前に、移転価格文書化を行う場合がある(括弧書き省略)。このような情報には、過年度の比較対象取引に関する情報だけでなく、過年度と関連者間取引の年度の間に生じた経済や市場の変化に関する予測も含まれる。実際、比較可能な状況にある独立企業であれば、過去のデータだけに基づいて価格を決定するということはないだろう」としている。 逆に、課税庁にとっても、新たな執行上の問題が生じることになろう(※42)。例えば、国外の比較対象法人について、市場の状況までカバーできるのか、という問題がクローズアップされた形となった。そもそも、TNMM導入当時は、情報の入手可能性がインセンティブとなっていた。しかしながら、この点に関する導入当時の期待は外れつつある。 (※42) 「検証対象企業と比較対象企業とで市場占有率等が異なる場合にはTNMMによる独立企業間価格の算定はできないとなれば、課税当局にとっては、優れた製品を販売する我が国企業の海外子会社を検証対象企業としてTNMMを用いる課税ができる場面は限られることとなる。」-大野:前掲56頁。 (了)

#No. 687(掲載号)
#中野 洋
2026/09/24

【新基準対応版】〈一から学ぶ〉リースの会計と税務 【第6回】「借手の会計処理」~例年処理(減価償却、支払利息)~

【新基準対応版】 〈一から学ぶ〉 リースの会計と税務 【第6回】 「借手の会計処理」 ~例年処理(減価償却、支払利息)~   公認会計士・税理士 喜多 弘美   前回は、リース開始日に「使用権資産」と「リース負債」について、それぞれの計上額の決め方を整理しました。今回は、リース開始後に行う「減価償却」と「支払利息」の会計処理について見ていきます。   1 使用権資産の減価償却 長い期間にわたり使用する資産は、取得した時点で固定資産として計上し、その取得価額を使用する期間にわたって、減価償却費として費用計上します。 前回計上した「使用権資産」は、「借手が原資産をリース期間にわたり使用する権利」を資産として計上したものでした。この使用権資産も、建物や機械などの固定資産と同じように減価償却を行います。 使用権資産の減価償却方法・耐用年数・残存価額は、契約内容によって異なります。具体的には、契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるかどうかによって、取り扱いが分かれます。それぞれのパターンを見ていきましょう。 ① 契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースの場合(基準第37項) 具体的には、(ⅰ)契約書で物件の所有権が借手に移転することが決まっている(所有権移転条項がある)場合、(ⅱ)借手による購入オプションの行使が合理的に確実である場合、(ⅲ)物件が借手専用に作られており、リース会社へ返還したとしても他者での利用が困難な場合があげられます(適用指針43項)。 このような場合は、原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する方法と同一の方法、つまり、物件を購入した場合と同一の方法で減価償却を行います。契約期間が終了した後は、物件の所有権が借手に移り、借手がそのまま物件を使用するため、自己所有の固定資産と実態は変わりないと考えられるからです。また、リース期間終了後も引き続き、物件を使用できるので、耐用年数は原資産を自ら所有していたと仮定した場合の経済的使用可能予測期間とし、残存価額は合理的な見積額となります。 ② 契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースの場合以外の場合(基準第38項) 一方、原資産の所有権が借手に移転すると認められない場合は、借手が原資産を使用できるのは、基本的にリース期間中だけになります。そのため、耐用年数は原則として借手のリース期間、残存価額はゼロとなります。また、償却方法も、定額法等の減価償却方法の中から企業の実態に応じた方法を選択することができ、自己所有の固定資産に適用する減価償却方法と同一である必要はありません。 上記をまとめると以下のようになります。   2 支払利息 前回お伝えしたように、リース料には物件の代金だけでなく、リース会社がお金を立て替えたことに対する利息も含まれています。借入金の返済では、金利部分と元本返済部分に分けるのと同じように、借手がリース料を支払ったときも、原則として、①利息相当額は「支払利息」として計上し、②リース負債の元本返済額は「リース負債」を減らします(適用指針第38項)。住宅ローンをイメージするとわかりやすいかもしれません。 この①利息相当額は、借手のリース期間にわたり、原則として、「利息法」により配分します(基準第36項)。 利息法とは、各期の支払利息相当額をリース負債の未返済部分の残高に一定の利率を乗じて算定する方法です(適用指針39項)。一定の利率とは、リース負債の計上額を計算するのに使った割引率、つまり、貸手の計算利子率、または、借手がリース会社でなく銀行などから同じ金額を借りるとしたら適用されると合理的に見積もられる利率(借手の追加借入利子率)になります。 ただし、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合は、より簡便的な方法(利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期に定額法により配分する方法など)を適用することができます(適用指針第40項)。   3 仕訳例 ここまでの内容を踏まえ、以下の例で、減価償却、支払利息の仕訳を確認しましょう。 【設例】 (1) 減価償却の仕訳 ⑤より、リース期間を耐用年数とし、定額法で減価償却を行うものとします。使用権資産560万円を5年で償却するため、1年分の減価償却費は112万円(=560万円÷5年)となり、仕訳は以下のようになります。 (2) 支払利息の仕訳 リース料は年間120万円ですが、利息相当額とリース負債の元本返済に分けて処理する必要があります。 たとえば、年間の支払額120万円のうち、利息法によって計算された利息相当額が20万円だったとすると、残りの100万円がリース負債の元本返済となり、仕訳は以下のようになります。 *  *  * このように、リース開始後は、使用権資産を減価償却し、リース料をリース負債の元本返済額と支払利息に分けて処理することになります。これまでの流れをまとめると、次のようになります。   (了)

#No. 687(掲載号)
#喜多 弘美
2026/09/24

期中会計基準を学ぶ 【第6回】「役員賞与などの会計処理と6か月ごとより高い頻度で期中財務諸表を作成する場合の固有の取扱い」

期中会計基準を学ぶ 【第6回】 「役員賞与などの会計処理と6か月ごとより高い頻度で期中財務諸表を作成する場合の固有の取扱い」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、役員賞与などの会計処理と6か月ごとより高い頻度で期中財務諸表を作成する場合の固有の取扱いについて解説する。 期中会計基準は、第一種中間財務諸表等及び四半期財務諸表に共通の取扱いと、四半期財務諸表のみに適用される取扱い(「6か月ごとより高い頻度で期中財務諸表を作成する場合の固有の取扱い」という)を区分して規定している(期中会計基準BC18項(1))。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 役員賞与 期中財務諸表における役員賞与の会計処理は、財務諸表における会計処理に準じて処理する(期中適用指針15項)。 ただし、役員賞与の金額が事業年度の業績等に基づき算定されることとなっているため期首からの累計期間において合理的に見積ることが困難な場合や、重要性が乏しいと想定される場合には、期中財務諸表においては、費用処理しないことができる(期中適用指針15項、BC20項)。   Ⅲ 退職給付に係る負債 次のように規定されている(期中適用指針26項~28項)。   Ⅳ 連結会社相互間の債権債務及び取引の相殺消去における簡便的な会計処理 次のように規定されている(期中適用指針29項、30項)。   Ⅴ 未実現損益の消去における簡便的な会計処理 連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産に含まれる期中会計期間末における未実現損益の消去にあたっては、期中会計期間末在庫高に占める当該棚卸資産の金額及び当該取引に係る損益率を合理的に見積って計算することができる(期中適用指針31項)。 また、次のように計算することができる(期中適用指針31項、BC21項、BC22項)。   Ⅵ 6か月ごとより高い頻度で期中財務諸表を作成する場合の固有の取扱い 6か月ごとより高い頻度で期中会計基準に従って期中財務諸表を作成する場合には、期中会計基準26項までの記載に加えて、28項から33項を適用する(期中会計基準27項)。 1 期中財務諸表の範囲 6か月ごとより高い頻度で期中会計基準に従い期中財務諸表を作成する場合には、中間会計期間を除き期中キャッシュ・フロー計算書の開示の省略を行うことができる。この場合には、最初の期中会計期間より行う(期中会計基準28項)。 上記のほか、期中会計基準7項(2)の開示対象期間(期首からの累計期間)に加え、期中会計期間及び前年度における対応する期間の期中損益及び包括利益計算書又は期中損益計算書及び期中包括利益計算書を開示する場合や、前年度において期中会計基準28項を適用していたが当年度は同28項を適用しない場合の取扱いについても規定されている(期中会計基準29項、30項、期中適用指針70項)。 2 会計方針の変更 遡及適用の原則的な取扱いが実務上不可能な場合には、期中会計基準12項を適用する(期中会計基準31項)。 ただし、6か月ごとより高い頻度で期中会計基準に従って期中財務諸表を作成する場合で、最初の期中会計期間よりも後の期中会計期間以降に会計方針の変更を行う際に、当年度の期首時点において、過去の期間のすべてに新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を算定することが実務上不可能なとき(「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)9項(2))は、当年度の期首以前の実行可能な最も古い日から将来にわたり新たな会計方針を適用する(期中会計基準31項)。 3 自己株式の処分及び消却 6か月ごとより高い頻度で期中会計基準に従って期中財務諸表を作成する場合に、自己株式の処分及び消却(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(企業会計基準第1号。以下「自己株式等会計基準」という)10項及び11項)の会計処理の結果、期中決算において、その他資本剰余金の残高が負の値になった場合の取扱い(自己株式等会計基準12項)については、その後の期中決算において、洗替処理を行う(期中適用指針68項、BC28項)。   (了)

#No. 687(掲載号)
#阿部 光成
2026/09/24

〔業種別Q&A〕労使間トラブル事例と会社対応 【第20回】「派遣先でのセクハラ・パワハラ」

〔業種別Q&A〕 労使間トラブル事例と会社対応 【第20回】 「派遣先でのセクハラ・パワハラ」 〈人材派遣業・人材紹介業〔Q3〕〉   弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士 石居 茜   【Q】 当社から派遣先に派遣している有期雇用の派遣労働者から、「派遣先の上司からプライベートでの飲食にしつこく誘われたり、性的な発言をされたりして困っている」との相談(セクハラ被害の申告)がありました。 雇用関係のない派遣先企業に対して、当社からハラスメント対策や環境改善を求めることはできるのでしょうか。また、派遣元である当社は雇用主としてどのような法的義務を負い、具体的にどう対応すべきでしょうか。 なお、これがセクハラではなくパワハラだった場合、対応に違いはありますか。 【A】 派遣労働者に対するハラスメントについては、派遣先企業も法律上の防止措置義務を直接負っています。 派遣法の読み替え規定により、派遣先企業は、派遣労働者を「自社が雇用する労働者」とみなして均等法上のセクハラ防止措置義務や、労働施策総合推進法上のパワハラ防止措置義務を共同して負担することになります。 そのため、貴社は派遣先に対し、事実関係の調査や適正な就業環境の維持に向けた必要な協力を直接求めることができます。 派遣元である貴社は、一義的な雇用主として、派遣労働者の労働環境に配慮する安全配慮義務(職場環境配慮義務)を負っています。被害申告を受けた場合は、派遣先と密接に連携し、迅速かつ正確に事実調査を行い、被害回復や再発防止に誠実に対処する義務があります。また、ハラスメントを理由とした派遣契約の安易な中途解約を容認せず、解雇を回避するための措置を尽くさなければなりません。 パワハラの場合も同様に、派遣先は派遣法に基づきパワハラ防止措置義務や適正な就業環境保持義務を負うため、実務上の貴社の対応方針に大きな違いはありません。 ▲ ▼ ▲ 解 説 ▲ ▼ ▲ 1 ハラスメントにおける派遣先企業の法的責任(読み替え規定) 派遣労働者は派遣元と雇用関係にあるが、実際の業務は派遣先企業の指揮命令下で行われる。この特殊な三面関係に鑑み、派遣法においては、ハラスメント防止に関する各法律を派遣先に「読み替えて適用する」特例が設けられている。 (1) セクシュアルハラスメント・マタニティハラスメント等の防止義務 均等法第11条第1項は、事業主に対し、職場におけるセクハラに関して雇用管理上の防止措置(相談窓口の設置や適切な事後対応等)を講じることを義務づけている。 派遣法第47条の2の読み替え規定により、派遣先も派遣労働者を雇用する事業主とみなされ、均等法第11条第1項等の規定が適用される。この際、同条中の「雇用管理上」という文言は「雇用管理上及び指揮命令上」と読み替えられ、派遣先企業も直接のセクハラ対応・防止措置義務を負う。 育児介護休業法第25条に基づくハラスメント(育児休業等に関するハラスメント)についても、派遣法第47条の3により同様の読み替え規定があり、派遣先が防止措置義務を負担する。 (2) パワーハラスメントの防止義務 労働施策総合推進法の改正(令和2年6月1日施行)に伴い、職場におけるパワハラ防止措置が事業主に義務づけられた。 パワハラに関しても、派遣法第47条の4の読み替え規定により、派遣先が派遣労働者を雇用する事業主とみなされ、パワハラ防止措置を講ずる義務が直接課されている。 このように、派遣先企業は、自社の直接雇用労働者のみならず、派遣労働者に対しても法令上のハラスメント防止・対応措置義務を負担している。   2 派遣元の果たすべき義務 派遣労働者からハラスメントの被害申告があった場合、派遣元が「派遣先での出来事だから」として対応を放置することは、派遣元自身の職場環境配慮義務違反(債務不履行責任)を構成する。 この派遣元の法的義務について、東レエンタープライズ事件(大阪高判平25.12.20)の判旨を基に整理する。 (1) 迅速かつ適正に対処する義務 東レエンタープライズ事件において、派遣労働者からセクハラ被害を相談された派遣元の責任者は、自ら何らの事実調査も行うことなく、派遣先側の対応(他部門による対処等)に委ねて、自身は積極的な関与をしなかった。 裁判所は、派遣元に対し、派遣労働者がハラスメント被害を申告した場合、「派遣元の立場で事実関係を迅速かつ正確に調査し、派遣先に働きかけるなどして被害回復、再発防止のため、誠実かつ適正に対処する義務」を負うと判示した。派遣元がこれを怠った不作為について、義務違反(債務不履行責任)を認め、慰謝料50万円の支払いを命じた。 (2) 安易な中途解除を容認しない「解雇回避義務」 同事件では、ハラスメント被害の申告後、派遣先から労働者派遣契約の中途解除(中途解約)の意向を示された際の、派遣元の交渉態度も厳しく問われた。派遣元の担当者は、一度抗議したのみで中途解約を容認し、その結果、派遣労働者は退職(雇止め)を余儀なくされた。 裁判所は、派遣元は「セクシュアルハラスメントの被害を受けた派遣労働者が、解雇されたり退職を余儀なくされたりすることのないよう配慮すべき義務」を負うと指摘した。派遣元が派遣先に対して直ちに中途解除の撤回を強く求め、その結論を受け入れない姿勢を示すなどの努力を怠ったとして、解雇回避義務違反を認定した。   3 事実確認および職場環境調整における実務上の留意点 派遣元が被害申告を受けて実務対応を進めるにあたっては、以下の点に極めて慎重であるべきである。 (1) プライバシーの保護と相談を理由とする不利益取扱いの禁止 均等法や労働施策総合推進法の指針に基づき、ハラスメントに関わる相談者・行為者等のプライバシー保護は厳格に行われなければならない。また、ハラスメントの相談や事実調査に協力したことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いを行うことは法律上固く禁止されている。 (2) 被害者の意向の尊重と「不適切な隔離措置」の回避 被害者が「これ以上大ごとにしたくない」「加害者に自分の名前を伏せてほしい」と希望する場合、原則として加害者への直接の聴取を含めた本格的な事実調査を行うことは困難となる。 しかし、一切の対応を放棄すれば、事態の深刻化を招き、派遣元は職場環境調整義務違反や使用者責任(民法第715条)を問われるリスクが生じる。そのため、調査自体が実施できなくとも、被害者の意向を十分に踏まえながら、勤務場所や就業シフトを離すなどの「被害を防止するための暫定的な分離措置(職場環境調整)」を派遣先と協議し、実行すべきである。 ただし、被害者が希望していないにもかかわらず、被害の申告を理由に「被害者側のみ」を別の就業部署や他の派遣先に強制的に異動・配置転換させるような措置は、「相談・申告を理由とする不利益な取扱い」または「二次被害(セカンドハラスメント)」とみなされ、それ自体が職場環境調整義務違反を構成することになるため、避けるべきである。 (3) 相談窓口担当者による二次被害の防止 相談窓口の担当者が、事実聴取の際、不用意な発言(「あなたにも隙があったのではないか」などと被害者を責める言動)をしたり、被害を不当に放置したりすると、それ自体が原因で精神的苦痛を増大させる二次被害が発生する。 相談窓口の適切な運用には、あらかじめ対応マニュアルを作成し、担当者に対する教育研修等を実施しておくことが非常に有益である。   4 ハラスメントによる精神障害の労災認定と損害賠償リスク ハラスメントにより派遣労働者がうつ病や適応障害などの精神障害を発症した場合、厚生労働省の「精神障害による労災認定基準」(令和5年9月1日基発0901第2号)に基づいて、業務起因性の有無が審査される。 (1) 心理的負荷評価表における「強」の評価基準 心理的負荷の総合評価が「強」とされる場合、労災と認定される。 (2) すべてのハラスメント行為が評価対象 ハラスメントは出来事が長期間にわたって繰り返される性質を持つことから、労災認定の評価にあたっては、発病前おおむね6か月という期間の枠組みにとどまらず、「ハラスメントの開始時からのすべての行為」を対象として、心理的負荷が一体的に評価される。 派遣元または派遣先が被害申告を軽視・放置し、迅速に対応しなかった結果として精神障害を発症させた場合、労災認定される可能性が高まるだけでなく、安全配慮義務違反(債務不履行)や使用者責任に基づき、被害労働者から、将来の逸失利益や高額な慰謝料(被害が重大な場合など、事案によっては数百万〜数千万円規模)の損害賠償請求を受ける重大な経営リスクに直面することを認識する必要がある。   5 まとめ 派遣先におけるハラスメント問題に対し、派遣元は単なる「契約の仲介者」ではなく、労働基準法や労働契約法、均等法、労働施策総合推進法等のすべての責任を負う一義的な雇用主である。 トラブル発生時には、派遣先企業が負う「指揮命令上の防止措置義務」を前提に、派遣先と密接に連携しながら迅速に事実を解明し、被害者の尊厳と就業環境を守るための具体的な措置(加害者の配置転換や自宅待機命令、被害者の希望に沿った職場調整等)を迅速かつ誠実に実行することが、法的責任の回避および企業の社会的信用の維持において重要である。   (了)

#No. 687(掲載号)
#石居 茜
2026/09/24

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例119】株式会社地域新聞社「当社株式の大量取得行為に関する対応策(買収への対応方針)に基づく共同協調行為の再度の認定、並びに新株予約権の無償割当て、新株予約権の無償割当てに係る基準日設定及び定時株主総会においてそれらについての追認をお諮りすることに関するお知らせ」(2026.7.14)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例119】 株式会社地域新聞社 「当社株式の大量取得行為に関する対応策(買収への対応方針)に基づく共同協調行為の再度の認定、並びに新株予約権の無償割当て、新株予約権の無償割当てに係る基準日設定及び定時株主総会においてそれらについての追認をお諮りすることに関するお知らせ」 (2026.7.14)   公認会計士/開志創造大学大学院事業創造研究科教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社地域新聞社(以下「地域新聞社」という)が2026年7月14日に開示した「当社株式の大量取得行為に関する対応策(買収への対応方針)に基づく共同協調行為の再度の認定、並びに新株予約権の無償割当て、新株予約権の無償割当てに係る基準日設定及び定時株主総会においてそれらについての追認をお諮りすることに関するお知らせ」である。 長いタイトルだが、敵対的買収者に対する買収防衛策の発動を決定したというのが主たる内容である。なお、経済産業省が2023年に公表した「企業買収における行動指針」において、「敵対的買収」は「同意なき買収」に、「買収防衛策」は「買収への対応方針」に言い換えられることになったのだが、わかりにくいように思われるため、本稿では「敵対的買収」と「買収防衛策」を用いることにする。 「新株予約権の無償割当て」とあるように、同社が、同社株主に対して新株予約権を無償で割り当てたうえで、敵対的買収者以外の同社株主がその新株予約権を行使し、同社から同社株式を取得することにより、敵対的買収者の同社議決権比率を低下させるというのが、この買収防衛策である。   2 共同協調行為 今回の開示のタイトルに「共同協調行為の再度の認定」とあるように、この敵対的買収は共同協調行為によるものである。共同協調行為とは、複数の者が協調して株式を買い集める手法であり、ウルフパック戦術ともいわれる。 地域新聞社は2025年7月11日に「主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ」を開示しているのだが、そこで新たに主要株主である筆頭株主になったとされた者は、敵対的買収者のうちの1名だった。その約3か月後の10月17日、買収防衛策を更新するという「当社株式の大量取得行為に関する対応策(買収への対応方針)の更新について」を開示しているのだが、それには次のような記載がある。同社は、この頃、共同協調行為の可能性を認識したのだろう。 その後、同社は、2025年11月10日に「当社株式の大量取得行為に関する対応策(買収への対応方針)に関する共同協調行為の認定に向けた検討開始及び独立委員会に対する諮問に関するお知らせ」を開示し、一部の株主による同社株式の取得が共同協調行為に該当するかについて検討を開始した。その検討にあたり、同年11月17日に「当社独立委員会による共同協調行為等認定基準の制定に関するお知らせ」を開示し、共同協調行為と認定するための基準を制定している。 そして、共同協調行為に加わっている可能性のある株主に対する質問も行い(2025年11月20日開示「当社株主(合同会社YN企画、合同会社Happy horse、KING有限責任事業組合)に対する質問状送付に関するお知らせ」、同年11月25日開示「当社株主(バイオセラミック株式会社)に対する質問状送付に関するお知らせ」、同年11月25日開示「当社に対するウルフパック戦術による経営権奪取に関する一部報道を踏まえた追加質問状の送付について」、同年11月27日開示「当社株主(合同会社YN企画、合同会社Happy horse、KING有限責任事業組合)からの回答書、及び当社株主(バイオセラミック株式会社)からの修正動議提出予告に係る書面の受領に関するお知らせ」)、2026年1月16日に「当社株式の大量取得行為に関する対応策(買収への対応策)に関する共同協調行為の認定についてのお知らせ」を開示して、共同協調行為に認定している。   3 カモフラージュに対して 地域新聞社は2026年3月9日に「主要株主の異動に関するお知らせ」を開示し、同年2月28日現在の株主名簿上、敵対的買収者のうちの1名が主要株主である筆頭株主ではなくなり、証券会社が新たに主要株主である筆頭株主になったとした。しかし、それには次のような記載がある(「合同会社YN企画」は敵対的買収者のうちの1名)。 信用取引が行われている場合、株主名簿の名義は実質株主ではなく、証券会社になる。敵対的買収者は、買収防衛策の発動を避けるため、信用取引により株主名簿の名義が自分達ではなくなるようにしていたのだろう。 これに対して地域新聞社が行ったのは、非整数倍の株式分割だった。同社は2026年5月29日に「株式分割及び株式分割に伴う定款の一部変更に関するお知らせ」を開示し、敵対的買収者が「実質的に保有する当社株式に係る議決権割合を明らかにすることを主な目的として」1株を1.8株とする株式分割を行うとした。 非整数倍の株式分割が行われる場合、信用取引で株式を保有していると、分割比率に応じた株数の増加を受けられないため、証券会社から現物株式を取得する必要があるのである。株式分割が行われた後の2026年6月30日、地域新聞社は「主要株主及び主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ」を開示し、証券会社が、主要株主である筆頭株主どころか、主要株主にも該当しなくなったとしている。 そして、2026年7月14日に今回の開示を行っている。なお、敵対的買収者は、買収防衛策の差止めの仮処分の申立てを裁判所に行ったのだが(2026年7月16日開示「株主による新株予約権無償割当て差止めの仮処分の申立てに関するお知らせ」、同年7月29日開示「株主(オプションハウス株式会社)による新株予約権無償割当て差止めの仮処分の追加の申立てに関するお知らせ」)、裁判所はそれを却下した(2026年8月6日開示「(開示事項の経過)株主による新株予約権無償割当て差止めの仮処分の申立て却下の決定に関するお知らせ~公表済みの新株予約権の無償割当てを予定どおり実施する予定です~」)。   4 なぜ狙われたのか 地域新聞社の業績は良好とはいえず、2021年8月期と2023年8月期は赤字であったし(2021年10月13日開示「2021年8月期決算短信〔日本基準〕(非連結)」、2023年10月11日開示「2023年8月期決算短信〔日本基準〕(非連結)」)、2026年8月期も第3四半期時点では赤字である(2026年7月15日開示「2026年8月期第3四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)」)。 そのため、株価も高いとはいえず、2022年の東京証券取引所の市場区分の見直しに際して、同社はグロース市場を選択したのだが、移行基準日時点において同社はグロース市場の上場維持基準のうち「時価総額」基準に適合していなかった(2021年12月20日開示「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」)。2026年8月までに適合させる計画だったが、結局、適合させることはできず(2025年11月28日開示「上場維持基準(時価総額基準)の適合に向けた計画に基づく進捗状況(改善期間入り)について~事業計画及び成長可能性に関する事項~」)、上場維持基準に「時価総額」基準がないスタンダード市場に市場区分を変更することにした(2026年3月17日開示「東京証券取引所スタンダード市場への市場区分変更承認及び上場維持基準への適合に向けた計画の取扱いに関するお知らせ」)。 こうした会社ならば、買収して経営権を奪取できるかもしれないと敵対的買収者は思ったのかもしれない。しかし、敵対的買収者よりも地域新聞社の方がずっと上手だったようである。適正な手続を踏んだうえでの買収防衛策の発動や、敵対的買収者のカモフラージュに対する非整数倍の株式分割の実施は、共同協調行為に対抗するための模範例となるだろう(実効性のある実質株主確認制度が導入されれば、非整数倍の株式分割などは不要になるのだが)。 なお、地域新聞社による買収防衛策の発動は、2026年7月13日開催の同社取締役会において決議されているのだが、今回の開示は翌14日に行われている。13日に行われていれば、完璧だった。 (了)

#No. 687(掲載号)
#鈴木 広樹
2026/09/24

書く論 【第9回】「正しく畏れる」

〈執筆:編集X〉 書く論 第9回 「正しく畏れる」 原稿を書き上げ書籍として発刊されたり雑誌やWebで公表されたあと、自身で読み返したり読者の方から指摘されて、内容や字句の誤り(誤植)が見つかったとします。 もちろん一切の誤りがないことが大前提で、それに向かって著者の方も編集者も尽力するわけですが、それでも誤植というのは生まれてしまう。その場合、読者の方には丁寧にお詫びをお伝えし、正誤情報を公表するなどの対応を行います。ただ一般的には、相当に大きな誤りでなければ、書籍の販売自体は継続されます。 一方で、その執筆物の内容に盗用や転載といった、著作権法上の違反が判明した場合は、即座に販売が停止され、流通分は市場から回収(Web媒体でしたら公開を中止)されます。その後も著作権者の方への謝罪等々、本当に厳しく辛い状況が待っています。さらに今後、その版元や運営会社からの依頼は途絶えてしまう可能性が高く、特定の業界内の執筆物であった場合は版元間の情報共有も様々な場面であり得ますので、より多くの門戸が一度に塞がれてしまうケースもあるでしょう。 そのぐらい著作権の問題には、いわば一発アウトのリスクがあるのです。 ただ実際には、特に執筆経験の浅い著者の方々はこの問題をあまり強く認識されず、制作途中に問題が発覚し、なんとか事なきを得ることもあります。そして多くのケースは、その著者の方に悪気はなく、ただ「知らなかった」ことで起こります。この「知らなかった」には「その部分が他者の著作物であったこと」よりもむしろ「他者の著作物をこのように使ってはいけないこと」を知らない割合の方が多い。 では、このような問題が起こらないために、まだ執筆経験の浅い著者の方はどのようにすればよいのでしょうか。 まずは原稿執筆前によく編集者へ、他者の著作物を引用する基本のルールを聞いておくことです(版元によっては注意事項をまとめた書面を提示されることもありますが、それでもよくよく確認すること)。悪い例として、出典は非常に正確に明記しているものの、原稿のほとんどが特定の書籍の引用となっており、自身の考えはほとんど書かれていない(主従のルールに沿っていない)ものがありました(当然ながら原稿内は出典表記だらけ)。原稿段階で問題が明白でしたので対応もスムーズに済みましたが、このように基本のルールは漏れなく知っておく必要があります。 そのうえで執筆途中であっても、ルールを守れているか、このような書き方は合っているかなどを編集者へ確認する。さらに原稿を渡す際にも、書きぶりの不安な箇所や参考とした情報などについてきちんと説明しておく。そうすることで編集者側も制作途中で、相談された箇所について気に留め、場合によっては詳しく調査することもできます。 この情報共有がないまま、編集者や校正者が無断転載などの問題に気づけるかというと、該当部分の文体や文章の流れが若干異なることで引っ掛かりを覚えるぐらいしかできず、たいへん難しい。 このような編集者との密なコミュニケーションによって著作権法上の問題を防ぐことができたとしても、書き手としてはまだ不安が残るでしょう。 例えば、他者の著作物を根拠として書くと問題になるのなら、まだ知識のない自身が書く内容すべてが不安だというもの。 多くの先人が尽力されたことで、広く、かつ、深く、実務解説の世界は開拓されています。そのような中で上記のような不安を感じるのはもっともです。ただしあえて言えば、やはり解説文は、法令などの1次情報(原典資料)にあたり、それを咀嚼することで書くべきです。参考になる他者の著作物があったとしても、その根拠をご自身で調べ、納得し、対外的に理路整然と説明できるようになってから筆(指)を動かす必要があるでしょう。 次に、無意識に他者の考えを使っているのではないか、そもそもこれまで読んで学び、身に付けたものも気にしないといけないのか、という不安もあるでしょう。特に読書家の方は読んできた文章量も多いわけで、よけいに強く感じられるかもしれません。 この場合もやはり、すでにご自身の中でその考えが咀嚼され、正確な根拠をもとに責任をもって説明できるという場合は、その考えをご自身の文章で書くこと自体に問題はないと考えます。ただし、その考えが特定の人物の発案であることが明らかな場合は、畏敬の念とともに、注書きなどでその方の著作物の該当箇所を記したり、参考文献として巻末に書籍や論文自体を紹介したりする必要があるでしょう。 ここまでの話でお分かりのとおり、 「著作権なんて厳しいルール、このぐらい緩くとらえても大丈夫だろう」 「この先生の本に書かれているから、(根拠はよく分からないけど)正しいはずだ」 とお考えの方は、事が起きたときの重大性から見ても、原稿を書くことをお勧めしません。 少し話は逸れますが、編集Xは原稿を書く前の著者の方へ、よく以下のようなことをお伝えしています。 「他の方の著作物(≒類書)を読むのは、原稿を書き始める前までにしてください。一度書き始めたら、引用箇所を正確に記載する目的以外、読まない方がご自身のためです。一度手に取ってしまうと、そちらの内容とご自身の原稿の差異ばかり気になってしまい、その穴埋め作業に終始してしまいがちです。執筆中に確認するのは、1次情報に特化されるのがよいでしょう。」 なお、編集Xが信頼する先生方の多くは、文章だけでなく図表についても、そのほとんどがオリジナルのものです。また、一般的にはそのまま原稿に使用しがちな公官庁が公表している図表も、「もっと分かりやすくなるはずだ」と必ず工夫を加えられます。 また、生成AIについては別稿で取り上げるかもしれませんし、正確な表記ではないかもしれませんが、さまざまな状況を鑑みるに、「AIが作ったものは他者の著作物」ぐらいに捉え、その直接の成果物にはご自身の手でオリジナリティを加えるのが、現状ではよいと考えます。 最後に、まだ実務書の執筆経験がない若い方でも、引用のルールを完璧にマスターされておられるケースがあります。そういうしっかりとした原稿をいただいたとき編集Xは、その著者の大学(大学院)時代の指導教官の先生へ、そっと手を合わせるのです。 (注)この連載に書かれている内容は筆者の私見であり、所属する組織とは一切関係ありません<(_ _)> (つづく)

#No. 687(掲載号)
#編集X
2026/09/24

令和8年熊本地震に関する税務・企業経営面の《資料リンク集》(更新)

令和8年熊本地震に関する 税務・企業経営面の《資料リンク集》 このページでは「令和8年熊本地震」に関して各府省庁・主な団体等から公表された情報ページのうち、特に税務・企業経営の面で有用なページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。

#Profession Journal 編集部
2026/09/18

《速報解説》 金融庁、「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表~法人税等に関する会計基準等を受け、規定の削除や定義・一部語句の改正を行う~

《速報解説》 金融庁、「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表 ~法人税等に関する会計基準等を受け、規定の削除や定義・一部語句の改正を行う~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026(令和8)年9月15日、金融庁は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等公表し、意見募集を行っている。 これは、「法人税等に関する会計基準」(改正企業会計基準第27号)等及び「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第74号)等を受けたものである。 意見募集期間は2026年10月16日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 次のように改正する(連結財務諸表規則も基本的に同様)。   Ⅲ 適用時期等 公布の日から施行する予定である。 経過措置に注意する。 (了)

#阿部 光成
2026/09/18

プロフェッションジャーナル No.686が公開されました!~今週のお薦め記事~

2026年9月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.686を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2026/09/17
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