PwC Japan有限責任監査法人 マネージャー 公認会計士 信田 裕介 本稿の概要 本稿は、【前編】で整理したコーポレートガバナンス・コード2026年改訂版(※1)(以下「CGコード2026」という。)を踏まえ、コンプライ・オア・エクスプレインの対象範囲の変化が開示実務に与える影響を整理したうえで、株式会社東京証券取引所(以下「東証」という。)に寄せられたパブリック・コメントの「意見に対する考え方」を手がかりに、企業実務上の対応の視点を論じるものである。 (※1) 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)」(2026年7月21日) なお、本稿では、改訂の趣旨等を示した金融庁・東証「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」(2026年7月21日)を「趣旨紙」という。また、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。 * * * 1 コーポレート・ガバナンスに関する報告書で開示すべき原則の見直し 【前編】で述べたコード構造の再編は、コーポレート・ガバナンスに関する報告書(以下「CG報告書」という。)で具体的な開示が求められる原則の範囲にも及んでいる。従前補充原則に置かれていた開示すべき原則は、中核部分が原則へ格上げ・再配置される一方、法令等と重複するもの等は廃止された。コーポレートガバナンス・コード2021年版(※2)(以下「CGコード2021」という。)において「特定の事項を開示すべき」とされていた原則が、CGコード2026でどのように取り扱われたかを整理すると、〈図表1〉および〈図表2〉のとおりである。 (※2) 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)」(2021年6月11日) 〈図表1〉開示すべき原則の新旧対応 CGコード2026の 開示すべき原則 開示事項の概要 CGコード2021の 開示すべき原則 原則1-1 ● 株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針 原則5-1 原則1-4 ● 政策保有に関する方針 ● 保有の適否に関する検証内容 ● 具体的な議決権行使基準 原則1-4 原則2-2 ● 多様性の確保についての考え方 ● 多様性の確保の自主的かつ測定可能な目標 ● 多様性の確保の状況 ● 人材育成方針、社内環境整備方針、その状況 補充原則2-4① 原則2-4 ● 企業年金の運営を支える人事面や運営面における取組み 原則2-6 原則3-1 ● 経営理念、経営計画等 ● コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針 ● 経営陣等の報酬決定方針と手続 ● 経営陣の選解任と取締役等の候補者 原則3-1 原則4-3 ● 関連当事者間の取引における適正な手続・その枠組み 原則1-7 原則4-7 プライム向け ● 委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等 補充原則4-10① プライム向け 原則4-13 ● 取締役の有するスキル等の組み合わせ 補充原則4-11① ● 取締役会の実効性評価の概要 補充原則4-11③ 原則4-15 ● 個々の取締役・監査役に適合した研鑽の方針 補充原則4-14② (出所) 東京証券取引所「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領(2025年7月版)」、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領(2026年7月版)」、「コーポレートガバナンス報告書の更新について(2026年7月21日更新)」、「「コーポレートガバナンス・コードの改訂について」に寄せられたパブリックコメントの結果について」より筆者作成 〈図表2〉CGコード2026で廃止された開示すべき原則 CGコード2021の開示すべき原則で廃止された原則 開示事項の概要 廃止理由、 CGコード2026に引き継がれている考え方 補充原則3-1③ ● サステナビリティについての取組み等 ✓ 有価証券報告書の記載事項と重複があるため。 ✓ 原則4-5及びその解釈指針にて統合・整理されている。 補充原則4-1① ● 経営陣に対する委任の範囲の決定、概要の開示 ✓ 実務上理解が進み、ある程度浸透したと考えられるため。 ✓ 基本原則4 解釈指針において、「取締役会の在り方について不断に検討を行うべきである」ことが示されており、これには取締役会の経営陣に対する委任の範囲も含まれると考えられる。 原則4-9 ● 独立社外取締役の独立性判断基準 ✓ 有価証券報告書の記載事項と重複があるため。 ✓ 原則4-11解釈指針において独立性判断基準を策定すべき旨が示されている。 補充原則4-11② ● 取締役・監査役の兼任状況 ✓ 重要な兼任・兼職について、事業報告・株主総会参考書類・有価証券報告書の記載事項と重複があるため。 (※) 「廃止」は、CG報告書における開示すべき原則としての位置づけが解消されたことを意味し、本改訂により開示事項から外れたことをもって、当該事項の重要性、その趣旨・考え方がCGコード2026から失われたことを意味するものではない。 (出所) 東京証券取引所「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領(2025年7月版)」、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領(2026年7月版)」、「コーポレートガバナンス報告書の更新について(2026年7月21日更新)」、「「コーポレートガバナンス・コードの改訂について」に寄せられたパブリックコメントの結果について」より筆者作成 このように、CG報告書において具体的な開示が求められる原則は、CGコード2021の14個からCGコード2026では9個へと見直された。この減少は、次の2つの要因による。第一に、法令等との重複を理由に4個が廃止された(〈図表2〉)。第二に、CGコード2021の補充原則4-11①(スキル・マトリックス等)と補充原則4-11③(実効性評価の結果概要)が、CGコード2026では原則4-13に一本化された。これらを除いた残りの開示すべき原則は、原則への格上げ・再配置により維持されている(〈図表1〉)。以上の結果、開示を求める原則は、CGコード2026において9個となった。 なお、開示を求める原則が姿を消したことは、実務対応が直ちに不要になったと解することは適切ではないと考えられる。CGコード2026の本文(第12項)では、コンプライ・オア・エクスプレインの対象から外れ「解釈指針」へ移管された記載やコードから削除された記載について、改訂後にその重要性が失われたと考えることは適切ではない、と明記されている。実際、今回の見直しは「コード内の他の箇所又は法令等との重複がある箇所等」を対象としたものであり、開示を求める原則としては整理された事項も、その趣旨・考え方はコードの他の箇所に引き継がれている。 2 パブリック・コメントの「意見に対する考え方」を実務にどう活かすか パブリック・コメントの「意見に対する考え方」は、東証が各原則・解釈指針をどのように解釈しているかを示すものであり、実務対応を検討するうえで有用な手がかりとなる。主な論点について示された考え方は次のとおりである。 (※3) 経営資源の配分に関する取締役会の議論・運用の実務については、経済産業省「「『稼ぐ力』を強化する取締役会5原則」及び「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス」」(2025年4月30日公表)も参考になる。同ガイダンスは、事業ポートフォリオの組替えや成長投資といった「攻めの経営」に向けた取締役会の取組みの前提となる考え方・進め方・検討ポイント・企業事例を整理している。 (※4) 知的財産等の無形資産への投資に関しては、「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」(事務局:内閣府知的財産戦略推進事務局)が2026年8月3日に公表した「価値創造を加速する知財・無形資産投資・活用のガイダンス」も参考になる。同ガイダンスは、知財・無形資産の創出・取得・強化・保護・収益化への戦略的な取組みの進め方や、投資家への説明の在り方について、実務上の課題への対応の方向性を具体的な事例に基づき整理したものである。 (※5) 取締役会の機能強化に向けた実務の取組みについては、金融庁が2026年7月21日に公表した「取締役会の機能強化の取組みに関する事例集2026」も参考になる。同事例集は、取締役会の在るべき姿・経営陣との役割分担、CEOサクセッション、社外取締役の活用、取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)の組織・体制・役割、取締役会の実効性評価といったテーマごとに、上場企業へのインタビューに基づく取組み事例を整理したものである。 (※6) 有価証券報告書の総会前開示に関する実務上の論点(議決権行使に係る基準日の変更、会社法の事業報告等との一体開示等)や、定時株主総会の2週間以上前に有価証券報告書の提出を予定している上場会社一覧、総会前開示に係る好事例等については、金融庁「有価証券報告書の定時株主総会前の開示について」を参照。同ページには、株主総会前に有価証券報告書を提出する場合の留意点や、総会前開示の状況、相談窓口の案内等も掲載されている。 これらの回答に共通するのは、コードが特定の数値や形式を一律に強制するものではなく、各社が自らの状況に照らして必要性・合理性を判断し、その考え方を丁寧に説明することを求めている、という姿勢である。 3 企業実務における対応の視点 以上を踏まえ、実務上、留意が考えられる点を整理する。 第一に、開示すべき原則の見直しにとどまらず、「解釈指針」に移管され、又は削除された事項についても、実質面では引き続き重要であるとの前提に立ち、これまでの開示・取組みを安易に後退させないという視点が挙げられる。とりわけ、これらの事項(例えばサステナビリティに関する取組みや独立社外取締役の独立性判断基準の運用)は、その趣旨・考え方が他の原則に引き継がれ、又は法令や他の開示枠組みの中で引き続き求められる点に留意を要する。 第二に、コンプライ・オア・エクスプレインのいずれを選択する場合であっても、ひな型的な表現による表層的な説明に終始せず、具体的な取組みの内容とその合理的理由を示す「丁寧な説明」が重要と考えられる。 第三に、CG報告書の更新実務への備えである。上場会社は、遅くとも2027年7月末日までに、CGコード2026に関する事項を記載したCG報告書を提出する必要がある。もっとも、それまでの定時更新は改訂前のコードに沿った更新でも差し支えないとされているため、上場会社は、いつの時点で改訂対応の更新を行うかを主体的に判断することが考えられる。その際、CG報告書の開示すべき原則とされていたものが、番号や構成の変更に伴い更新作業の過程で意図せず欠落してしまうことのないよう留意が必要である。具体的には、〈図表1〉の新旧対応を踏まえた記載箇所の棚卸しに加え、〈図表2〉のとおり開示すべき原則から除外された事項について、その廃止理由(他の開示書類との重複、他の原則・解釈指針への統合等)を踏まえたうえで、既存の開示内容を新様式のどこに引き継ぐかを、あらかじめ確認しておくことが望ましい。 今回のスリム化は、上場会社がガバナンスの「実質」に向き合い、その考え方を丁寧に説明することに注力できるようにすることを意図したものであり、求められる説明の質はむしろ従来以上に問われることになる。残された移行期間は、CG報告書の記載更新にとどまらず、自社の実態に即してガバナンスの在り方を見つめ直す好機である。上場会社各社には、自らの状況に応じて在るべき姿を不断に検証していくことが求められている。 (了)
〈税務ライター・鈴木まゆ子の〉 ここがヘンだよ日本の税制 第7回 JIIMA認証、ホントに必須? 税理士たちを勘違いさせる国税庁のプレゼンを斬ってみた 税理士・税務ライター 鈴木 まゆ子 前回に引き続き今回も青色申告特別控除75万円がテーマです。今回は「JIIMA認証」を斬ります。青色申告特別控除75万円でも電子帳簿保存法でも、多くの解説は「JIIMA認証のあるソフトを使ってね」と言います。 しかし本当にJIIMA認証は必須でしょうか・・・? 今回はJIIMA認証は本当に必須なのか、そしてもし必須とした場合の問題点について解明していきます。 なぜ「電帳法要件を満たすならJIIMA認証必須」と言われるのか 最初に国税庁がWEB上で公表している案内を確認します。 ●国税庁のパンフレットはどう書いているか 解説に入る前に、青色申告特別控除75万円やデジタルシームレス保存についてのパンフレットを見てみましょう。 引用元:75 万円の青色申告特別控除|国税庁 ※赤枠・赤線・赤い矢印等の加工は筆者によるもの 引用元:電子帳簿等保存制度を活用して、デジタル化をさらに進めてみませんか?|国税庁 ※赤枠・赤線・赤い矢印等の加工は筆者によるもの 前者は青色申告特別控除75万円についてのパンフレット、後者は青色申告特別控除75万円の一要件であるデジタルシームレス保存についてのパンフレットです。いずれも「要件を満たしたソフトを買うならJIIMA認証のあるソフト」がさりげなく(?)紹介されています。特にデジタルシームレス保存については、「参考にしてくださいね!」「是非ご活用ください」とまで書いています。 斜にかまえた言い方をするなら「国税庁パンフレットがJIIMA認証ソフトの広告宣伝」になっているかのようです。 ●「電子帳簿保存法一問一答」にもJIIMA認証の記載あり JIIMA認証について書かれているのは、パンフレットだけではありません。税務業界が電帳法対応で参照することの多い「電子帳簿保存法一問一答」にも書かれています。 引用元:電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】(令和8年7月)|国税庁 引用元:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和8年7月)|国税庁 なお、JIIMA認証の話が登場するのは、優良な電子帳簿保存要件やデジタルシームレス保存要件のテーマだけではありません。「JIIMA認証とは何か」について解説をしているQ&Aもあります。 引用元:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和8年7月)|国税庁 ※「電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】(令和8年7月)|国税庁」にも同様のQ&A(問56)あり 問いの立て方と答え方と文字数の使い方が「JIIMA認証のあるものを使いなよ」と言わんばかりの様子です。「Q&A形式をとったJIIMA認証ソフトの宣伝か。マーケティング、上手だな」と思われてもおかしくありません。 何より「JIIMA認証が『電子帳簿保存法一問一答』にそれなりの文字数を使って書かれている」という事実が重要です。「電子帳簿保存法一問一答」といえば、消費税の「インボイスQ&A」のような存在。「国税庁のQ&Aは法令や通達よりも偉い」と冗談半分本気半分で言う税理士もいます(そんなはずは絶対にないのですが)。 そんなQ&Aに、ここまでJIIMA認証について文字数を使って書かれていたら読み手はどう感じるでしょうか。 ・・・と、認識するはずです。 しかし実際には、優良な電子帳簿保存要件もデジタルシームレス保存要件も、JIIMA認証は必須とされていないのです。 「JIIMA認証必須」ではないと言える理由 青色申告特別控除75万円や電子帳簿保存法の解説で「JIIMA認証のあるソフトを選びなさい」と言われる中、なぜ筆者が「必須ではない」と言い切るのか。理由は3つあります。 ●理由1:法令に「JIIMA認証必須」と書かれていない 「Q&Aは法令・通達よりも偉い」と言いますが、日本は租税法律主義です(通達については正論を取るか実務を取るかで意見が分かれるので割愛)。そのため、要件を満たすソフトについては必ず法令のどこかに記載があります。 実際、優良な電子帳簿保存とデジタルシームレス保存それぞれの要件は電子帳簿保存法施行規則に定められています。 【優良な電子帳簿保存】 引用元:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則(令和9年1月1日施行)第二条第2項|e-gov ※上記規定は電子帳簿全体の基本要件。なお、優良な電子帳簿保存の場合、上記のうち第三号は不要 引用元:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則(令和9年1月1日施行)第五条第4項|e-gov ※上記規定は優良な電子帳簿保存特有の要件 【デジタルシームレス保存】 引用元:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則(令和9年1月1日施行)第五条第5項|e-gov この条文のどこにも「公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)により認証されたソフトウェアであること」などとは書かれていません。 ●理由2:届出書の用紙はJIIMA認証以外の記載欄がある 優良な電子帳簿保存もデジタルシームレス保存も、届出書の提出が必要です。提出がなければ青色申告特別控除75万円はもちろん、電帳法ベースの優良な電子帳簿保存の過少申告加算税5%軽減もデジタルシームレス保存の重加算税の10%加重ナシというメリットを享受できません。 届出書には、使用ソフトについて記載する欄があります。それぞれ次のようになっています。 【優良な電子帳簿保存】 引用元:国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る65万円の青色申告特別控除・過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出書|国税庁 引用元:国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出書|国税庁 【デジタルシームレス保存】 引用元:電子取引の取引情報に係る電磁的記録に係る重加算税の加重措置の不適用の特例及び75万円の青色申告特別控除(個人事業者)の適用を受ける旨の届出書|国税庁 いずれもJIIMA認証以外のソフトの記載欄があります。もしJIIMA認証以外が認められないなら「JIIMA認証の有無」などという選択項目は設けず「JIIMA認証を受けたのはいつか」「当該ソフトを事業用として使用し始めたのはいつか」など、JIIMA認証が前提の記載欄となるはずです。しかし現実の届出書はそうなっていません。 ●理由3:特定の税務・会計ベンダーに国が利益供与するのは許されない JIIMA認証を受けている税務・会計ソフトは、実際はごく一部です。特にデジタルシームレス保存については、令和7年度税制改正で創設されたばかりだからなのか、税務業界で著名なベンダーの独壇場となっています(令和8年9月11日現在)。 【参考】 もし「JIIMA認証ソフトを使わなければ優良な電子帳簿保存やデジタルシームレス保存を認めない」ということになれば、次のような事態を生じることになります。 特に2は由々しき問題となります。憲法14条「法の下の平等」に反するからです。 以上の理由から「JIIMA認証は電子帳簿保存法の要件を満たすための絶対的要件ではない」と言えます。JIIMA認証は、課税庁が「このソフトは法令の規定に合致しているか」の判断を省略するためのショートカットでしかないのです。 余談ですが「JIIMA認証があるから絶対大丈夫」とも言えません。電子帳簿保存法一問一答には、次のような記載があります。 引用元:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和8年7月)問86|国税庁 ※引用元:電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】(令和8年7月)問55|国税庁にも同様の記載あり 国税庁はパンフレットや一問一答でこれだけJIIMA認証を強調している一方、「最後は自分の目と手で確認してね」と言っているわけです。 おわりに:「法の下の平等」の意味を考えよう 先ほど「法の下の平等」について触れたので、最後にこの意味を考えてみましょう。 税務の世界では、ときどき「法の下の平等」が問われる場面があります。憲法では次のように書かれています。 引用元:日本国憲法第14条第1項|e-gov ●「法の下の平等」は2つある 課税の世界で「法の下の平等」が日常的に問われるのは「実質的平等」です。具体的には所得税における所得の10種類の区分、所得控除や基礎控除の逓減、所得税の免税・簡易課税の要件などです。それぞれのおかれた状況や担税力に着目し、要件を設けて公平になるようなしくみが設けられています。 一方、電子帳簿保存法の要件は「形式的平等」です。全国民に対し、同じ条件を与え「この条件を満たしたら優遇しますよ」というものとなっています。このほか、措置法の賃上げ促進税制や住宅借入金等特別控除などの政策的な措置もこの形式的平等に当たります。 この場合「特定の誰か」を法令の要件に定め、その人だけに利益供与することは許されません。不平等になるからです。ただ、細かい要件を定めて実質的に特定の人だけが法の対象になることは許されるものと解されます。 ●「特定の誰か、に結果的に該当する」のは許される 「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律」というのがあります。これは日本の半導体の国内生産基盤を強化するために作り替えられた法律です。 法改正当時は台湾のTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)を誘致し補助金を支給することが目的でしたし、実際、要件に事実上当てはまるのはTSMCしか存在しませんでした。しかし現在は、ウエスタンデジタルやマイクロンなども同法を活用し、支援を受けながら事業活動を行っています。 いずれにせよ、今の日本の憲法で「法の下の平等」が強く謳われている以上、特定の自然人や民間団体が法令に明確に要件として規定されることは、あってはならないことです。こう考えると「JIIMA認証を受けたソフトでなければ、優良な電子帳簿保存やデジタルシームレス保存は認められないし、青色申告特別控除75万円なんて受けられない」という認識は、正しくないと言えます。国税庁は納税者に誤認させないような表現を工夫すべきなのです。 (了)
《速報解説》 飲食料品に係る消費税率を2年間限定で1%に引き下げる大綱が公表 ~令和9年4月1日から令和11年3月31日まで、簡易課税・中間申告・総額表示に特例~ Profession Journal編集部 9月15日、社会保障国民会議の「中間とりまとめ」(令和8年7月29日・社会保障国民会議)及び「「給付付き税額控除」の制度導入の基本方針」(令和8年8月5日閣議決定)を踏まえ、「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」が公表された。 大綱では、今回の措置は令和11年度に本格導入する支援金制度までの「つなぎ」として、令和9年4月から2年間に限り飲食料品に係る消費税率を引き下げ、これと飲食料品に係る消費税1%相当分の範囲で実施する支援金を組み合わせるものと位置づけている。 必要な法制上の措置は「可及的速やかに」講ずるとされており、関連法案の提出時期は現時点で示されていない。 以下、消費税に関する部分を中心に概要を紹介する。なお制度の実務的な詳細については、近日中に連載を開始する予定である。 1 税率引下げの対象・期間・税率 令和9年4月1日から令和11年3月31日までの間に事業者が国内で行う飲食料品の譲渡及び保税地域から引き取られる飲食料品について、消費税率を0.78%とする特例が創設される(以下「特例税率」という。)。地方消費税と合わせた税率は1%(現行:8%)となる。 対象となる飲食料品の範囲は、現行の軽減税率の適用対象と同一であり、変更はない。ただし、同じく8%の軽減税率が適用されている「週2回以上発行される新聞の定期購読分」は今回の引下げの対象外とされ、8%が維持される。 適格請求書や仕入明細書等の「適用税率」欄には特例税率を、「消費税額等」欄には特例税率に基づく消費税額等をそれぞれ記載する。また、特例期間中の飲食料品の譲渡について、その後に売上げに係る対価の返還等や貸倒れ、仕入れに係る対価の返還等があった場合も、特例税率に基づいて計算することとなる。 2 予約販売・通信販売の経過措置 過去の税率変更時にも設けられた経過措置のうち、飲食料品に適用され得る「定期供給契約による予約販売」と「あらかじめ提示した条件に従って行う通信販売」について、指定日を税率変更の3か月前である令和9年1月1日とする経過措置が設けられる。 具体的には、令和9年1月1日前に締結した定期供給契約(不特定かつ多数の者に定期的に継続して供給する契約)に基づき、同年4月1日前に対価を領収している場合の同日以後の飲食料品の譲渡(領収済みの対価部分に限る)については、特例税率を適用せず8%のままとする。通信販売についても、令和9年1月1日前に販売条件を提示し、同年4月1日前に申込みを受けた商品の同日以後の譲渡は8%となる。いずれも、特例税率を前提とした契約や条件提示であるものは除かれる。 一方、令和11年4月に税率を8%に戻す際には、税率を戻す時期が2年後に到来することはあらかじめ明らかで、税率が戻ることを踏まえた契約が可能であるとして、この種の経過措置は設けないとされている。 3 本則課税への移行に関する届出の特例 現行制度では、免税事業者や簡易課税事業者が本則課税に移行するには、課税事業者選択届出書又は簡易課税制度選択不適用届出書を課税期間の開始前に提出する必要がある。税率引下げにより飲食料品の売上税額が仕入税額を下回り還付申告を行いたい事業者であっても、令和9年4月1日の属する課税期間が既に開始している法人などは、現行制度上は移行ができない。 このため、飲食料品の譲渡を行う事業者が令和9年4月1日の属する課税期間の末日までにこれらの届出書を提出したときは、その課税期間の初日の前日に提出したものとみなす特例が設けられる。あわせて、簡易課税制度を選択した場合の2年間の継続適用要件(いわゆる2年縛り)は、令和9年4月1日の属する課税期間から本則課税に移行する場合には適用しない。 4 簡易課税制度の特例 簡易課税制度の適用を受ける事業者については、税率引下げ後も飲食料品の譲渡について一定の納付税額が発生するが、本則課税であれば納付税額が生じない場合が多いと見込まれる。これを踏まえ、簡易課税事業者が特例税率の対象となる飲食料品の譲渡を行った場合、その譲渡に対応する仕入控除税額を、業種区分にかかわらず売上税額と同額とする特例が設けられる。結果として、1%対象の飲食料品の販売に対応する納付税額は生じないこととなる。 特例対象以外の課税資産の譲渡等(例:軽減税率対象外の商品の販売)については、従来どおり現行のみなし仕入率で仕入控除税額を計算する。インボイス制度の経過措置であるいわゆる2割特例・3割特例の適用を受ける場合も同様の措置が講じられる。なお、飲食業のみなし仕入率(60%)については、事務負担等の観点から引下げは行われない。 5 中間申告の特例 前年の納付税額を基礎とする中間申告では、税率引下げ後に中間申告税額が過大となることが見込まれる。このため、令和9年4月1日以後に開始する中間申告対象期間については、直前の課税期間の飲食料品に係る取引に特例税率が適用されていたものとして計算した消費税額に基づく中間申告税額(ない場合は零)を記載できる。この計算では、上記4の簡易課税制度の特例も適用されたものとして算出する。 引下げ終了時も同様に、令和11年4月1日以後に開始する中間申告対象期間については、直前の課税期間の飲食料品に係る取引に特例税率が適用されていなかったものとして計算した税額に基づく中間申告ができる。 これらの特例を適用する場合は、仮決算による中間申告書に、特例により計算した中間申告税額(消費税額及び地方消費税額に区分した金額を含む)を記載して提出する。 6 総額表示義務の特例 税込価格(総額)の表示義務は維持され、税抜価格のみを表示する方法や、税抜価格に続けて「+税」とのみ表示する方法は引き続き認められない。 他方、夜間の値札貼替えに対応できない、カタログや商品パッケージに価格が印字されている等の理由で税率変更時の総額表示が間に合わない場合を想定し、総額表示義務に直ちに対応することが困難な事情がある場合に限り、次の期間に限って変更前又は変更後の税率に基づく税込価格の表示が認められる。 表示価格が本来表示すべき税込価格であると誤認されないための措置を講じていることが条件となる。 期間 表示できる税込価格 令和9年2月1日~同年3月31日 特例税率(1%)に基づく税込価格 令和9年4月1日~同年5月31日 軽減税率(8%)に基づく税込価格 令和11年2月1日~同年3月31日 軽減税率(8%)に基づく税込価格 令和11年4月1日~同年5月31日 特例税率(1%)に基づく税込価格 7 農林漁業者等への対応 税率引下げの影響を受ける農林漁業者には、利子負担を考慮した資金繰り支援が行われる。本則課税への移行が困難な簡易課税事業者・免税事業者である農林漁業者に対しては、売上げから回収できない仕入税額が大きくなることによる経営継続への影響を踏まえ、個別の売上高を踏まえた金額を給付する仕組みが導入される。 食品事業者・外食事業者には資金繰り支援や省力化の支援が行われ、外食事業者についてはテイクアウト等の多角化支援が講じられる。簡易課税事業者・免税事業者が本則課税に移行する際の相談対応や税理士費用等の経費に対する支援も盛り込まれており、支援内容は予算編成過程で具体化するとしている。 8 就業者負担軽減支援金の概要 支援金は、中低所得の現役勤労者を対象に、税・社会保険料の負担を軽減するために毎年度支給する現金給付である。従来の経済対策のような一律の給付ではなく、所得の額に応じて金額が変わる点に特徴があり、大綱ではこれを本格的な「給付付き税額控除」に向けた第一歩と位置づけている。導入は令和9年4月からで、消費税率の引下げと同時に始まる。 対象者は個人単位で判定する。令和9年度及び令和10年度は、次の3つをすべて満たす者が対象となる。 ① 前年の勤労所得が所得下限額を超えること *勤労所得は給与収入に応じて算定した額と事業所得と業務に係る雑所得の合計であり、個人事業者やフリーランスも対象になり得るが、事業所得等は就労とみなせる一定額を超える場合に限って合算する ② 前年の合計所得金額が所得上限額以下であること *所得上限額は扶養児童の有無と数に応じて定める ③ 当該年度の住民税額を基礎として算定した金額と前年分の社会保険料控除額との合計から、前年中の公的年金等の収入額を差し引いた「純負担」が純負担基準額を超えること この要件により、就労していて純負担が現役世代並みである中低所得の高齢者も対象に含まれる。令和11年度からは、これらに加えて配偶者の合計所得金額が配偶者所得上限額以下であることが要件となる。なお、基準日(1月1日)に国内に住所がない者には支給しない。 支援額は勤労所得の水準に応じて次のように変わる。 勤労所得(合計所得金額)の水準 支援額 所得下限額超~逓増開始額以下 定額(定額支援額) 逓増開始額超~逓増終了額まで 一定の割合で逓増 逓増終了額超~逓減開始額まで 定額(支援基本額) 逓減開始額超~所得上限額まで 合計所得金額に応じて一定の割合で逓減し、所得上限額で消失 これに、いわゆる「年収の壁」に直面する者への就業促進特例加算と、扶養児童(19歳未満の居住者である扶養親族。令和9年度・令和10年度は16歳未満)の数に応じた定額のこども加算が上乗せされる。 就業促進特例加算は、勤労所得が被用者保険の短時間労働者の適用ライン(所得32万円、給与収入106万円)から手取りの減少が回復する水準までの間にあり、被用者保険の適用に伴う社会保険料相当額を支払った者を対象とする時限措置である。逓増開始額は個人住民税所得割が課税される水準(単身者の非課税限度額は所得45万円、給与収入119万円)を踏まえて定めるとされているが、所得下限額、所得上限額、各支援額のいずれも、大綱では設定の考え方が示されるにとどまり、具体的な金額は法律や政令で定める段階で確定するとされている。支援額は1,000円単位(端数切上げ)とされ、令和9年度及び令和10年度の支援金は、全体の費用が飲食料品に係る消費税1%相当分の範囲に収まるよう定められる。 支給事務は市町村(特別区を含む)が担い、受給資格者の請求に基づき市町村長が認定して、毎年1回、当該年度分を支払う。公金受取口座を登録している者については請求なしで市町村長が職権で認定でき、運用上はこの職権認定を原則とする。支援金には租税その他の公課を課さず、譲渡・担保設定・差押えも禁止される(国税の滞納処分及びその例による差押えを除く)。生活保護制度では収入認定の対象となる。 税務実務との関係では、令和11年度以降の支給に必要な情報(本人が負担した社会保険料控除額、扶養児童の有無と数、基準日に配偶者があり、かつ本人の前年の合計所得金額が配偶者所得上限額を超える場合の当該配偶者の氏名・個人番号等)を市町村が把握できるよう、確定申告書、源泉徴収票、住民税申告書及び給与支払報告書の様式を変更する等の措置を講ずるとされている。様式変更の時期は示されていない。 大綱では、事業者やシステムメーカー等が早期に準備に着手できるよう、関係府省庁が制度の詳細をできる限り早急に公表するとしている。税率引下げまで7か月足らずであり、今後公表される法案や国税庁の周知資料に注視されたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓
令和9年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和9年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
2026年9月10日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.685を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
政府重要資料から 今後の法人税改革等を読み解く 【第1回】 「「骨太方針2026」から読み解く税制の動向」 公認会計士・税理士 荒井 優美子 -連載開始にあたって- 税制改正は、政府税制調査会が中長期的視点から税制のあり方を検討し、毎年度の税制改正は、春から秋にかけて公表される各省庁や業界団体等の税制改正要望等を与党税制調査会が審議し12月の与党税制改正大綱を踏まえて、「税制改正の大綱」が12月に閣議決定される。「税制改正の大綱」には、改正による税収への影響額試算が明記されており、「税制改正の大綱」と同時期に予算政府案が閣議決定される。税制と予算は密接に関係しているが、毎年の予算は6月から7月に決定される「経済財政運営と改革の基本方針」(経済財政諮問会議)、いわゆる骨太方針により、経済財政運営と改革の方向性が示される。その後、秋に内閣府から「総合経済対策」が公表され、12月には「予算編成の基本方針」が公表される。 このように、税制改正の動向は、骨太方針や総合経済対策、更には各省庁の研究会や審議会での議論を確認することで、より深い理解と予見が可能になるものと考えられる。本連載では、政府重要資料を都度取り上げ、税制の動向への知見を深める機会を提供できればと思っている。 * * * 1 「骨太方針2026」の閣議決定 新聞報道によれば、内閣府が発表した2026年4~6月期国内総生産(GDP)は年換算で過去最高となり、企業の研究開発サービスの輸出がGDPを押し上げたとされている(※1)。 (※1) 2026年8月17日付日本経済新聞「名目GDP687.7兆円で過去最高 4~6月の年換算、研究開発が寄与」 高市政権は2025年11月の経済対策(「「強い経済」を実現する総合経済対策~日本と日本人の底力で不安を希望に変える~」以下、「総合経済対策」)において、「強い経済」を実現する総合経済対策の3本の柱(第1の柱:生活の安全保障・物価高への対応、第2の柱:危機管理投資・成長投資による強い経済の実現、第3の柱:防衛力と外交力の強化)を「強い日本経済実現」に向けた具体的施策として掲げ、第2の柱の危機管理投資と成長投資の税制支援として、令和8年度税制改正により、17の戦略分野を対象とする大胆な投資減税を導入した(【図表1】参照)。 【図表1】 総合経済対策の概要 ※画像をクリックすると別ページに遷移します (出典) 内閣府「「強い経済」を実現する総合経済対策:概要(2025年11月21日)」 2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026「責任ある積極財政」元年 ~日本の挑戦を起動する!~」(骨太方針2026)は、総合経済対策の第2の柱を経済財政運営の基本方針に据え、令和9年度(2027年度)を「責任ある積極財政元年」として2040年度までの中長期経済財政計画を策定したものと考えられる(【図表2】参照)。 【図表2】 骨太方針2026の概要 ※画像をクリックすると別ページに遷移します (出典) 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026:概要(2026年7月21日)」 「責任ある積極財政」という表現は、高市総理が就任後初の所信表明(2025年10月24日)でも使われているが、「成長か財政規律かという二者択一ではなく、その両方を実現するのが『責任』の意味」であり(※2)、具体的な財政運営として、①成長率の範囲内に債務残高の伸び率を抑え、政府債務残高の対GDP比を引き下げていくことで、財政の持続可能性を実現し、マーケットからの信認を確保する、②補正予算を前提とした予算編成と決別し、経済成長による税収増なども勘案しながら、必要な予算は当初予算で措置し、投資のための「新たな予算枠」を設定し、市場の信認を得ながら複数年での機動的な財政出動を可能にする、③経済社会の構造変化を踏まえ、経済構造の転換・好循環の実現と再分配機能の回復を図りつつ、経済成長を阻害しない安定的な税収基盤の構築の観点から、税制の見直しを進める、等を掲げる(※3)。 (※2) 2026年8月28日付読売新聞「高市首相「成長と財政規律の両立目指す」、消費税率「2年後に確実に戻す」」 (※3) 自由民主党「重点政策」 骨太方針2026で示された、責任ある積極財政に基づく「中長期経済財政計画」は、このような財政運営を2040年頃までの財政・投資計画として描いたものと思われる。2040年を中長期計画の期間とする考えは、高齢者人口ピークと労働力減少が同時に問題となる「2040年問題」への対応を視野に、「経済界における「投資牽引型経済」へのマインドセットの転換の機運醸成等を踏まえ、2040年度に250兆円の国内投資(※4)を実現することを新たな官民目標と位置付け、官民の連携を従前以上に強化し、その実現に取り組んでいく」(骨太方針2026)というものである。 (※4) 国内民間設備投資 2 「強い経済」の実現に向けた戦略的投資・分野横断的な取組と投資牽引型経済の実現 「強い経済」の実現に向けた戦略的投資では、2040年度まで累計で370兆円超の官民投資を想定し、分野横断的な取組では、8つの分野横断的な課題への対応のための目標数値と具体的な施策が示されている(【図表3】参照)。 【図表3】 8つの分野横断的課題へ取組 分野横断的な取組 主な目標(KPI) 主要な施策(一部抜粋) 新技術立国・競争力強化 ・2040年度に、250兆円の国内投資を実現 ・2026-2030年度の合計で、180兆円の官民研究開発投資を実現 ・「危機管理投資」・「成長投資」の推進 「危機管理投資」・「成長投資」の推進に向けて、『「強く豊かな日本」投資枠』を創設。 ・産業競争力強化に貢献する高い研究力を有する中核大学群への支援 ・スタートアップのシーズ段階から出口まで伴走可能なリードインベスターの育成・呼び込み、スタートアップからの調達加速 スタートアップ スタートアップ数 2025年 2.5万社→将来に 10万社 ・「スタートアップ創出パッケージ」の実行 スタートアップを研究開発段階から一貫して支援。 金融を通じた潜在力の解放 2040年度に、250兆円の国内投資を実現 ・「成長投資を促進するための金融戦略」の実行 金融機関の資金供給・成長支援機能の強化(「官民戦略投資連携フォーラム(仮称)」の設置、大口信用供与等規制の特例の明確化等)。 ・成長志向型コーポレートガバナンスへの転換 改訂「コーポレートガバナンス・コード」と「成長投資ガイダンス」の普及。 人材育成 理工農・デジタル・保健系の定員 2024年 35% → 2040年 50% ・基盤的経費と多様な競争的研究費の充実・強化 労働市場改革 5年間で、労働生産性(労働者1人当たり付加価値額)を 15%上昇 ・柔軟で多様な働き方の実現に向けた労働時間法制等の見直し ・リ・スキリング支援の強化 家事等の負担軽減 第一子出産前後の女性の継続就業率 2021年 69.5% → 2030年 80% ・子育てや介護等と仕事の両立支援 家事支援・ベビーシッター等の利用に対する税制措置を含む支援策の検討。 賃上げ環境整備 2029年度までの間で、日本経済全体で、実質賃金で年 1%程度上昇 ・「労働供給制約社会における中堅・中小企業の『稼ぐ力』強化戦略」の実行 早期の賃上げを促す補助金の見直し。 積極的に賃上げを行う中小企業を重点支援するため、税制も含めた効果的な措置の検討。 サイバーセキュリティ 2031年度末までに、必要な防護策を実施できている重要インフラ事業者等の割合を 100% ・「サイバーセキュリティ戦略」(2025年 12月)に基づく具体的な取組を実行 (出典) 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026:政策ファイル(2026年7月21日)」をもとに筆者作成) 日本経済団体連合会(以下、「経団連」)は、骨太方針2026の公表に先立ち、2026年4月14日に「税・財政・社会保障一体改革に関する基本的考え方~投資牽引型経済の実現による成長と分配の好循環~」において、少子高齢化・人口減少、現役世代の社会保険料負担の増大(いわゆる2040年問題)への対応すべき日本の将来像として、「官民連携により成長と分配の好循環を継続させ、分厚い中間層を形成するとともに、財政の健全性を維持する」ことを掲げ、成長と分配の好循環の加速・拡大のカギは「「投資牽引型経済」の実現である」としている(【図表4】参照)。「企業は、設備投資、研究開発投資、さらには賃金引上げを含めた人的投資に対し、積極果敢に取り組んでいくことが求められ」、この考えからも、骨太方針2026の戦略的投資・分野横断的な取組は、「投資牽引型経済」と軌を一にするものであるとして、高い評価を与えている。 【図表4】 税・財政・社会保障一体改革の全体像 (出典) 日本経済団体連合会「税・財政・社会保障一体改革に関する基本的考え方~投資牽引型経済の実現による成長と分配の好循環~(2026年4月14日)」 3 「責任ある積極財政」と税制措置 骨太方針2026では、戦略的投資等について、令和8年度税制改正による措置に触れているが、ガソリン暫定税率廃止の財源確保に係る令和9年度税制改正以後での対応以外は、特段見当たらない。 一方で、「責任ある積極財政」の下、「予算・税制における各種基準額や閾値について、物価・賃金上昇や経済社会の変化を踏まえ、必要な点検・見直しを進める」とし、「歳出の目安については、一律抑制型の上限としてではなく、予算全般において歳出改革努力を継続する中で、伸ばすべき歳出と見直すべき歳出を峻別する、規律ある資源配分を実現する枠組みとする。このため、租税特別措置や補助金等の点検・見直しを進め、施策の優先順位を洗い直し、大胆に重点化する。危機管理投資・成長投資を強化するとともに、予算編成プロセスにおいて、成長への寄与、民間投資の誘発効果等を精査し、我が国の予算を成長力強化に資するものに変革していく。」との記載から、既存の政策税制についても見直しが行われ、メリハリのある措置の導入が検討されるものと考えられる。 (了)
社長からの無理難題の 断り方・かわし方 第9回 日当による過度な節税 〈JUN税会〉 税理士 中尾 隼大 * * 解 説 * * 1 事実関係の把握 社長へのヒアリングと現状確認により、以下の事実が確認されました。 2 法的論点の整理 (1) 所得税法上の取扱い 本稿の根幹となる部分であるため、根拠となる条文や通達を抜粋して記載します。 【所得税法9条1項】 【所得税基本通達9-3】 (2) 法人税法上の取扱い 法人税を計算するための所得計算は、当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額となります(法法22①)。そして、その損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の収益に係る売上原価等、販売費、一般管理費その他の費用の額とするとされています(同条③)。つまり、損金の額に算入することができる支出は、その法人の業務の遂行上必要と認められるものでなければなりません。裏を返せば、支出した金額のうちその使途の確認ができなかったり、業務との関連性の有無が明らかではなかったりするものについては、損金の額に算入することができません。 また、海外出張を前提としたものではありますが、旅費に関する通達として法人税基本通達9-7-6があります。これは、「当該法人の業務の遂行上必要なものであり、かつ、当該渡航のため通常必要と認められる部分の金額に限り、旅費としての法人の経理を認める。」とするものです。 (3) 消費税法上の取扱い 事業者が役員や従業員に支給する出張旅費、宿泊費や日当等のうち、その旅行に「通常必要であると認められる部分」については、課税仕入れに該当するものとされます。その上で、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められることとなります(消法30⑦、消令49①一二、消規15の4二、消基通11-6―4)。つまり、出張に伴う日当を役員や従業員に支給する場合、その日当に関してはインボイスが不要で仕入税額控除が可能です。 なお、この「通常必要であると認められる部分」は、上記の所得税基本通達9-3に基づいて判断することとなります(国税庁HP 質疑応答事例「出張旅費、宿泊費、日当等に係る仕入税額控除の適用要件」)。 これらの所得税法や消費税法、そして法人税法の規定や通達からは、出張が所得税法9条1項4号の「旅行」に該当し、かつ「通常必要であると認められるもの」といえるのであれば、法人がそれに伴って役員や従業員に支出したものには所得税が課されないばかりか、仕入税額控除が可能となります。そして、法人税における所得計算においても、損金算入が可能です。このような取扱いとなるのは、出張者が、出張しなければ支出せずに済んだ食事代等を支出するわけであり、それに対する手当が日当であるために、実費弁済の性質があるためです。 3 本件事例への当てはめ (1) 日当の妥当性の検討 1回当たり5万円が、所得税が非課税となる「旅行」に対する実費弁済として認められるかどうかを検討する必要があります。仮に実費弁済ではなく実質的な給与であると判断された場合、所得税の非課税及び消費税の仕入税額控除が認められなくなり、さらに法人税法における役員給与の3要件(定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与)に該当しないとして、損金不算入となる可能性が高いです。 (2) 同県同市内の近場への出張 実務感覚的には、日当が高額なのは、海外出張⇒県外遠方出張⇒近場への出張の順です。本件の前提では、県外に行っても同市内の近場に行っても同額の5万円が支給されるため、この5万円が実費弁済として適切であると主張できるかどうかを検討することとなります。 (3) 役員報酬額の減額 役員報酬を月15万円減額し、その補填として月3回程度の日当支給を予定している点は、日当が実費弁済ではなく役員報酬の代替として機能している疑いを生じさせます。本件においては、日当支給額と役員報酬減額額が概ね一致しているため、役員報酬を日当に振り替えたものと評価される余地があります。 また、同業他社の一般的な日当水準と比較して著しく高額である場合には、その超過部分が実質的な給与と認定される可能性があります。 4 実務上の留意点 (1) 日当節税スキームの課題 上記2の規定等により、役員や従業員へ日当を支給すると、会社にとっては損金算入及び仕入税額控除が可能となり、かつ受け取る側にとっては所得税が非課税となることになります。これは、納税者の立場としては非常に有効な節税方法に見えるでしょう。現に、日当が万能な節税方法であるかのように喧伝するものも見聞きしますが、日当の支給を万能な節税方法だと安易に考えることは危険だといえます。 というのは、実務上において頭を抱える問題として、所得税基本通達9-3における「その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品」をどのように判断すべきかという点があるからです。この判断について、法令や通達、裁判例等で明らかにされていません。同通達では、(2)において同業類似法人に照らして判断する旨が示されていますが、役員給与の過大性判定(法法34②)と同じく、それを事前に納税者としてリサーチすることは難しい側面があるでしょう。 (2) 納税者として参考にすべき情報 そのため、納税者にとって参考となり得るのは、以下の財務省や民間シンクタンクなどが公表している統計データです。例えば、財務省によって、「旅費等実態調査(民間企業の旅費規程等に関する実態調査)」というデータが公表されています。 これによれば、日当支給の判断自体について、距離や宿泊の有無、所要時間等によって判断しているとする会社が多いことに加え、対象者の役職によって2以上の区分を設けている割合が7割弱あるとされています(14頁)。そして、国内出張で最も高額な日当は、「『5,000~9,999円』15.0%」とされていることから(15頁)、役員を対象とする日当は、この程度の水準であれば是認される可能性が高いと考えます。あまりに突出した金額を日当として設定することが危険だということです。 日当の金額について問題となるというよりも、上記の支給判断データや所得税法9条1項4号が「旅行」と表現していることに鑑みると、本社等の拠点から極めて近いところに出張をした場合にも日当を支給することが問題だといえるでしょう。また、カラ出張が問題であることは明白です。 (3) 実務上の運用 さらに、実際に遠方へ出張に出向く場合でも、この日当の税務的取扱いを念頭において、役員報酬の額を再設定することには賛成できません。換言すれば、日当の支給を受けることを前提に、本来想定する水準よりも低額の役員報酬額を設定し、対象役員の役員報酬額の補填として出張の度に日当を支給することはすべきではありません。 日当は実費弁済の性質があるために所得税が非課税となるのです。つまり、事実上、役員報酬の不足分に対する補填だとみなされた場合は、法人税において定期同額給与等の役員給与としての損金算入が可能かどうかで判断され、所得税において給与課税される可能性もあり得るといえます。 なお、税務調査を実施する側の国税調査官における状況を確認すると、令和7年4月1日、「国家公務員等の旅費に関する法律施行令」が改正され、宿泊手当として見直されました。具体的には、宿泊を伴う出張のみを対象とし、食事に対応する費用のみが支給されることと改められています。これを受けて同時に見直された「国家公務員等の旅費支給規程」14条及び別表第三では、国内の宿泊出張の場合、最大2,400円とする旨が示されています。改正前は日帰り出張の日当も存在していたことからは、上記民間側と国税側において、日当を受け取る当事者としての感覚には乖離があるといえるかもしれません。 このような状況の中で、上記のリスクを回避するためには、日当を支給することにつき、少なくとも「お手盛り」ではないと説明できるように備えることが肝要です。そのためには、職位毎の日当の支給水準について法人内でバランスが取れる形で旅費規程を整え、移動の事実を示す証憑を具備し、こまめな精算を行うことが必要となります。実際に出張していたとしても、出張の事実、支給額及び業務関連性を客観的な資料によって説明できる体制を整えておく必要があります。国税不服審判所平成26年2月21日裁決においても、辞令、旅費精算書、帳簿書類及び関係者の答述等を踏まえ、出張の事実、業務関連性及び支給額が不当に多額でないことが個別に認定されています。そのため、適正な旅費規程を整備するとともに、これに準拠した運用と証拠資料の保存が重要となります。
〈適切な判断を導くための〉 消費税実務Q&A 【第24回】 「設備投資をした場合の3割特例の適用関係」 税理士 石川 幸恵 【Q】 令和8年10月に個人事業で金属加工業を始めます。インボイス発行事業者の登録も受けます。 税込440万円の中古のレーザー加工機を購入しますので、令和8年分は一般課税により消費税の申告をする予定です。令和9年、10年はどのような申告になるのでしょうか。 【A】 令和9年、10年については、一定の要件を満たせば3割特例の適用を受けることができます。 3割特例とは、令和9年、10年について個人事業者限定で設けられた経過措置です。インボイス制度の導入に伴う2割特例は令和8年9月30日までの日の属する課税期間をもって終了しますが、個人事業者については事務負担に配慮し、さらに2年間、経過措置が続くことになります。 質問者の方は、令和9年については令和8年10月開業であるため、基準期間(令和7年)における課税売上高及び特定期間における課税売上高(令和8年1月~6月)はゼロと考えられますので、3割特例の適用を受けることができます。 令和10年は基準期間(令和8年)の課税売上高が1,000万円以下であり、かつ特定期間(令和9年1月~6月)の課税売上高又は給与等支払額の合計額のいずれかが1,000万円以下であれば、3割特例の適用を受けることができます。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ (1) 3割特例とは 令和8年度税制改正において、3割特例が設けられた。3割特例とは、個人事業者であるインボイス発行事業者の令和9年及び令和10年に含まれる各課税期間において、免税事業者がインボイス発行事業者となる場合に適用がある。 納付税額の計算において控除する金額を、その課税期間における課税標準である金額の合計額に対する消費税額から売上げに係る対価の返還等に係る消費税額の合計額を控除した残額に、7割を乗じた額とすることができる経過措置である(インボイスQ&A問114-2)。 (2) インボイス発行事業者の登録により課税事業者となった場合 質問者は、インボイス発行事業者の登録を受けたことにより課税事業者となっており、課税事業者選択届出書は提出していない。 令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に免税事業者がインボイス発行事業者の登録を受ける場合には、登録希望日から課税事業者となる経過措置が設けられており、登録にあたって課税事業者選択届出書を提出する必要はない(インボイスQ&A問7)。また、新規開業の場合には、登録申請書に課税期間の初日から登録を受けようとする旨を記載することにより、課税期間の初日に登録を受けたものとみなされる(インボイスQ&A問11)。 この場合には、令和8年分について一般課税により申告し、調整対象固定資産であるレーザー加工機について仕入税額控除の適用を受けても、次の(3)の制限は受けない。 (3) 調整対象固定資産の仕入れ等により3割特例が適用できないケース 調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合には、課税事業者選択届出書の提出の有無によって、3割特例の適用が制限されることがある。質問者がインボイス発行事業者の登録に加えて、令和8年中に開業初年度から適用されるように課税事業者選択届出書を提出し、一般課税により消費税の申告をした場合には、レーザー加工機の仕入れ等の日の属する課税期間の初日(令和8年1月1日)から原則として3年間(令和10年まで)は免税事業者となることはできず、簡易課税の適用を受けることもできない。また、この3年間は3割特例の適用も受けられない(インボイスQ&A問115-2)。 (4) 高額特定資産を購入した場合の3割特例の適用 質問者が中古のレーザー加工機ではなく、税込1,100万円の新品のレーザー加工機を購入した場合、レーザー加工機は高額特定資産に該当する。高額特定資産の仕入れ等を行い、一般課税により申告した場合は、課税事業者選択届出書を提出していなくても令和9年、10年は一般課税により申告することとなり、3割特例の適用を受けることはできない(インボイスQ&A問115-2)。 (5) そのほかに3割特例の適用に影響を及ぼす要因 相続があった場合の納税義務の免除の特例により事業者免税点制度の適用が制限される課税期間については、原則として、3割特例の適用を受けることができない。 ただし、相続のあった課税期間については、相続日以前にインボイス発行事業者の登録を受けている場合には、消費税法第10条第1項の規定により納税義務が免除されない場合であっても、相続人自身の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であるなど他の要件を満たせば、3割特例の適用を受けることができる(インボイスQ&A問115-2、28年改正法附則51の3①)。 (了)
〈最短で理解する〉海外取引の税務実務ガイド 【第4回】 「駐在員事務所がPEに変わるとき」 -活動内容の変化から考える課税権の境界線- 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 吉本 壮介 Q 顧問先である日本の機械メーカーは、海外での市場調査のため数年前に海外に駐在員事務所を設置しました。当初は情報収集がメインだったのですが、少しずつ引合いも増え、最近では、現地顧客からの要請を受け、駐在員が機械の点検や簡易なメンテナンスなども行うようになり、徐々に役割が拡大してきております。保守契約の締結、請求、代金回収はすべて日本本社で行っており、支店登記などは今もしておりません。駐在員事務所のままであれば、進出先国で法人税の申告は不要と考えてよいでしょうか。 A 駐在員事務所という形式であっても、法人税の申告が不要になるとは限りません。国際税務では、外国企業が進出先にPE(Permanent Establishment:恒久的施設)を有するかどうかが、その国に事業所得に対する課税権が生じるかを判断する重要な基準となります。当初、市場調査や情報収集などの準備的・補助的な活動にとどまっていたとしても、その後、販売済みの機械の点検、保守、修理など、日本法人の本来の事業の一部を行うようになった場合には、PEに該当する可能性が高まります。重要なのは、駐在員事務所の名称や支店登記の有無だけではなく、今、現地で実際にどのような活動を行っているかが判断のポイントになります。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ 1 PEとは何か -事業所得課税の境界線- 【第1回】で解説したとおり、国際税務では、一つの所得に対して複数の国が課税権を主張する場面において一定の調整機能をもちます。 日本法人が海外で事業を行った場合、日本は居住地国としてその法人の全世界所得に課税しようとし、進出先国は、自国内で行われた事業活動から生じた所得に対して、源泉地国として課税しようとする場面が出てきます。 そこで、租税条約では、一般に、企業の事業所得について、進出先国にPEがあり、そのPEに所得が帰属する場合には、進出先国に課税権を認めるという考え方が採られています。いわゆる「PEなくして課税なし」という国際税務の原則です。 ただし、この原則は、企業の事業所得について定めたものであり、配当、利子、使用料などはPEがなくとも租税条約の別の規定により源泉地国課税の対象となることがあります。 よって、PEとは、外国企業が現地でどの程度の活動を行えば、その国に事業所得への課税権を認めるのか、その境界線を定める仕組みと考えると理解しやすいでしょう。 2 駐在員事務所ならPEにならないのか -名称ではなく、実際の活動内容で判断- 駐在員事務所は、海外進出の初期段階において、市場調査、情報収集、広告宣伝、本社との連絡調整などを行うために設置されるものです。 これらの活動が、日本法人が将来的に現地で事業を開始するための、準備的な活動や後方から支援する補助的な活動に留まる限り、租税条約上、PEに該当しないと整理されることが一般的です。 しかし、駐在員事務所という名称を使用していれば、PEにならないということではありません。 設置当初は情報収集のみでも、その後、顧客対応、点検、保守、修理などへと活動範囲が拡大し、日本法人の本来の事業を現地拠点を介して継続的に行うようになれば、税務上の位置付けも変わる可能性があります。 3 PEの主な類型 -法的な分類と実務上の着眼点- PEの具体的な定義は、進出先国の国内法及び日本との租税条約によって異なってきます。 参考として、日本の国内法ではPEは主に次の3つに区分されています(法法2十二の十九、法令4の4)。 これらは、一般的に、事業所PE、建設PE、代理人PEなどと呼ばれたりします。 また、租税条約によっては、企業が使用人等を通じて進出先国で一定期間を超えて役務提供をした場合、サービスPEが生じる旨を定めていることもあります。 実務上、PEリスクを考慮するときには、以下のとおり、3つの視点から確認するとよいでしょう。 【PEリスクを判断する3つのポイント】 4 設例におけるPEの判定 -駐在員事務所の活動の変遷を踏まえて- では、設例を確認してみましょう。 現地には、日本法人が数年間にわたって継続的に使用している駐在員事務所があります。よって、日本法人が継続して利用する一定の活動拠点が存在しています。 そこに駐在員が常駐し、点検やメンテナンスなど、一度限りの偶発的対応ではなく、顧客からの要請に応じて反復して行われるようになっています。 当初の単なる情報収集から活動範囲が拡大し、現在では駐在員が、販売済みの機械について点検やメンテナンスを行っています。 機械メーカーにとって、販売した製品に対する保守やメンテナンスは、単なる情報収集や本社との連絡調整を超え、日本法人の本来の事業を構成する活動の一部と捉えることができることから、進出先国の国内法及び租税条約の内容によりますが、設例の駐在員事務所は、日本法人が保守・メンテナンス業務を行う事業拠点として、事業所PEに該当するリスクが高いものと考えられます。 5 まとめ PEは、事務所の名称や支店登記の有無だけでなく、現地で実際に行っている活動そのものにスポットを当てて判断されます。 当初から活動範囲が拡大している場合、事業活動に該当するか注意が必要です。 また、リスク判定には、「場所」「期間」「人」の3つの要素に着目して、事業活動に該当しないかという視点が求められるものと考えられます。 次回も引き続きPEに関するテーマを取り上げる予定です。 駐在員事務所のPEチェックリスト ☑ 駐在員事務所の現在の活動内容を具体的に把握しているか ☑ 設置当初に予定していた活動から変化はないか ☑ 継続的に利用する事務所や現場などの場所はあるか ☑ 顧客対応はどの範囲で行われているか ☑ 営業、保守、修理などの事業活動を反復継続して行っていないか ☑ 現地で価格や契約条件などの交渉を行っていないか ☑ 駐在員の業務報告書などの記載と実際の業務内容に齟齬はないか ☑ 活動期間などについて、出張記録、作業報告書に照らして問題はないか ☑ 進出先国のPEの定義、租税条約を確認したか ☑ 現地法上、活動内容によって支店登録や営業許可などが必要となっていないか (了)
期中会計基準を学ぶ 【第5回】 「税金費用の会計処理」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、税金費用の会計処理について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 税金費用 1 簡便的な取扱い 次のように簡便的な取扱いが規定されている(期中適用指針16項~18項)。 簡便的な取扱い 会計処理 (1) 年度決算と同様の方法による税金費用の計算における簡便的な取扱い ① 法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金(以下「法人税等」という)については、期中会計期間を含む年度の法人税等の計算に適用される税率に基づき、原則として年度決算と同様の方法により計算する(期中会計基準 16 項)。 ② 財務諸表利用者の判断を誤らせない限り、納付税額の算出等において、簡便的な方法によることができる (例:納付税額の算出にあたり加味する加減算項目や税額控除項目を、重要なものに限定する方法)。 (2) 繰延税金資産の回収可能性の判断における簡便的な取扱い 経営環境等に著しい変化が生じていない場合における繰延税金資産の回収可能性の判断 重要な企業結合や事業分離、業績の著しい好転又は悪化、その他経営環境の著しい変化が生じておらず、かつ、一時差異等の発生状況について前年度末から大幅な変動がないと認められる場合には、繰延税金資産の回収可能性の判断にあたり、前年度末の検討において使用した将来の業績予測やタックス・プランニングを利用することができる。 経営環境等に著しい変化が生じた場合における繰延税金資産の回収可能性の判断 重要な企業結合や事業分離、業績の著しい好転又は悪化、その他経営環境に著しい変化が生じ、又は、一時差異等の発生状況について前年度末から大幅な変動があると認められる場合には、繰延税金資産の回収可能性の判断にあたり、財務諸表利用者の判断を誤らせない範囲において、前年度末の検討において使用した将来の業績予測やタックス・プランニングに、当該著しい変化又は大幅な変動による影響を加味したものを使用することができる。 2 税引前期中純利益に年間見積実効税率を乗じて計算する期中特有の会計処理 次のように規定されている(期中適用指針19項)。 3 見積実効税率の算定方法等 次のように規定されている(期中適用指針20項)。 4 重要性が乏しい連結会社における簡便的な会計処理 次のように規定されている(期中適用指針22項)。 5 期中連結財務諸表における法人税等の会計処理 次のように規定されている(期中適用指針23項)。 6 期中連結財務諸表における未実現利益消去に係る税効果 次のように規定されている(期中適用指針24項)。 上記のほか、企業結合日に認識された繰延税金資産及び繰延税金負債への取得原価の配分額の見直し、グループ通算制度を採用した場合における税引前期中純利益に年間見積実効税率を乗じて計算する方法の適用の可否が規定されている(期中適用指針21項、25項)。 (了)