〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第90回】 「株式譲渡と株式交換による買収スキームにおける 低額譲渡による課税処分取消事件(東地令3.10.29)(その1)」 ~法人税法22条2項、25条の2、37条、130条~ 税理士 青木 幹 1 事案の概要 (1) Fら(F及びGをいう)及び上場内国法人H社は、内国法人E社(原告。平成18年8月に設立され、インターネット・携帯電話網等の情報処理通信網を利用したマーケティング・広告宣伝・商品の発注・物流・代金決済・管理等のサービス業務等を目的とする会社)を内国法人H社の完全子会社化するスキームについて基本合意をし、平成27年1月6日付けで覚書(以下、「本件覚書」という)を作成した。その後にFらは、平成27年2月設立の内国法人C社の全株式200株をC社の代表取締役から100株ずつ譲り受けて所有した【概要図①】。 ◆平成27年3月29日以前 【概要図①】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ※TAINZコード:Z271-13626の別紙【取引関係図】を参照のうえ、筆者作成(以下、同様) (2) 平成27年3月30日に外国法人D社は保有するE社株式の全部を内国法人C社へ12億1,000万円で譲渡(以下、「本件譲渡」という)した【概要図②】。 ◆平成27年3月30日【概要図②】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (3) 平成27年4月24日にFらは、J市場に上場している内国法人H社に対して株式交換によりC社の全株式200株を移転し、H社株式883,400株(13億1,538万2,600円相当)の移転を受けた【概要図③】。 ◆平成27年4月24日【概要図③】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (4) 平成27年11月●日に合併存続法人を内国法人E社とし、被合併法人を内国法人C社とする合併をし、E社の社名をA社に変更した【概要図④】。 ◆平成27年11月●日合併後【概要図④】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2 当事者間の合意事項 上記事案の概要に記した行為は、以下の合意に基づいて行われた。 (1) 本件覚書(FらとH社の代表との間で締結)において、H社はE社の企業価値を30億2,000万円と評価し、同額の現金等価物のうち最低12億1,000万円は現金とするが、現金が最大となるように両者は努力し、現金部分は、D社を経由して引き渡すものとする。D社が保有するE社株について、Fらによって設立又は所有された会社(C社)が12億1,000万円でE社株式を取得し、その後、H社は、Fらが所有するC社株式とH社株式(18億1,000万円相当)を交換することにより、実質的にE社をH社の子会社にするものとする。 (2) 平成27年3月2日付け基本合意書を(H社、C社、D社、原告E社及びFらの間で)作成した。その要旨は以下のとおりである。 (3) 合意当事者は、C社株式及び本件E社株式の価値算定は収益還元法によることを基本とし、算定資料はC社及びH社が提出した事業計画及びその他の資料であることを確認する。基本合意締結日のC社株式の1株あたりの価値が1,248万6,203円から1,658万3,137円、本件E社株式の1株あたりの価値が843万7,622円から1,031万2,649円であることを相互に確認する。これらは第3者算定機関であるK株式会社により算定されたものである。合意当事者は、この算定に基づく株式価値により、株式交換比率及び譲渡対価を定めるものとする。 (4) 平成27年3月2日又は別途合意した日に、以下のとおり株式交換契約をH社とC社で締結する。H社を株式交換完全親会社、C社を株式交換完全子会社とし、C社株式1株につきH社普通株式4,417株を交付する。H社は、株式交換に際して88万3,400株を新たに発行する。株式交換効力発生日を平成27年4月24日とする。 (5) 平成27年3月30日をめどにC社とD社で株式譲渡契約を締結し、C社は本件E社株式の全部を譲渡対価12億1,000万円を上限にD社から譲り受ける。その他譲渡の諸条件は株式譲渡契約で定める。なお、本件譲渡が行われた平成27年3月30日のH社のJ市場の終値は1株あたり1,489円であった。 (6) 平成27年3月2日付けでH社及びC社は株式交換契約を締結し、平成27年4月24日を効力発生日とし、H社を完全親会社、C社を完全子会社とする株式交換を行った。H社は、FらにH社株式88万3,400株(Fらが保有するC社株式200株に交換比率4,417を乗じた株数)を割り当て交付した。 3 本件訴訟にいたる経緯 C社は、渋谷税務署長に対して平成28年1月24日に本件事業年度の法人税及び地方法人税について青色申告による確定申告書を期限内に提出した。平成30年7月27日付けで行政処分庁はC社分の本件確定申告について、本件更正処分及び賦課決定処分を組織再編成により権利義務を引き継いだA社(旧社名E社)に対して行った。 A社による平成30年10月25日付けの本件処分の取り消しを求めた再調査の請求は、平成30年12月17日付けで東京国税局長により棄却され、令和2年3月2日付けの国税不服審判所での裁決を経て、A社は令和2年9月1日に東京地方裁判所に提訴した。 なお、【概要図③】に示す株式交換及び【概要図④】に示す合併により本件の原告は株式を譲り受けたC社ではなく、C社の権利義務を引き継いだE社(名称変更によりA社)となっている。 4 争点 5 争点1に関する原告の主張 (1) 本件譲渡は、基本合意書に基づいて本件株式譲渡と株式交換を順次行ったものであり、本件E社株式の譲受けと株式交換はスキームの中で一体として行われたものであって、個別に行われたものではない。本件株式の対価12億1,000万円とFらが株式交換によるH社から移転を受けたH社株式88万3,400株(当時の時価13億1,538万2,600円)の取引は一体であり、C社がD社に対して支払った12億1,000万円に加えて、C社D社に13億1,538万2,600円(Fらが移転を受けたH社株式88万3,400株の時価と同額)を加えた金額を支払わなければならないということはあり得ない。C社からD社に13億1,538万2,600円の贈与があったとする本件更正処分の事実認定は誤っており違法である。 (2) 被告の主張は、法人税法22条2項の受贈益の額は、資産が低額譲渡された場合には、常に資産の対価と適正な価額の差額が益金の額に算入されるという解釈を前提にしているが、このような解釈は誤っている。受贈益の額は、資産の対価と適正な価額との差額のうち「実質的に贈与を受けたと認められる金額があるとき」に限られると解される。資産の低額譲渡を定めた法人税法37条8項は、資産の対価と適正な価額との差額のうち、「実質的に贈与(中略)をしたと認められる金額」のみが寄附金となると規定し、同様に、資産の低額譲受け等における受贈益の額について定めた法人税法25条の2第3項も、資産の対価の額のうち「実質的に贈与(中略)を受けたと認められる金額」のみが受贈益の額とされている。 (3) 以上から「実質的に贈与を受けたと認められる金額」は、「全契約の内容」に従って判断されるべきであり、株式交換がされたから、「実質的に贈与をされた金額」はなく、C社には受贈益の額はない。 6 争点1に関する被告の主張 (1) 法人税法22条2項は、当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の収益の額である。同項にいう「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受け」は資本等取引以外の取引の例示であり、それゆえに同項は、「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のもの」に関わる収益の額を益金の額に算入していると解される。資産の低額譲受けの場合であっても、当該資産の適正な価額に相当する経済的価値の実現が認められることは、無償資産の譲受けと同様であるから、当該資産の適正な価額に相当する価値が収益の額として益金の額に算入されるべきである。 本件に関する第三者機関の評価は、36億円を上回るとされており、この評価が不合理であるとする理由も見当たらないことに加えて、本件各合意当事者において、本件株式の価額が25億2,538万2,600円(本件対価の額12億1,000万円+H社株式88万3,400株に1,489円を乗じた金額13億1,538万2,600円)と評価されていたことからすれば、本件株式の適正な価額は、25億2,538万2,600円を下回るものではなく、同金額を適正な価額とみることに合理性がある。 したがって、本件対価の額12億1,000万円は、本件株式の適正な価額25億2,538万2,600円に比して低額であるから、本件譲渡は低額譲渡に当たり、対価と適正な時価の差額13億1,538万2,600円は受贈益の額に当たり、本件事業年度の益金の額に算入されるべきである。 (2) 原告は本件スキームにおける本件株式譲受けと本件株式交換とは一体の取引であって、各取引において本件株式の時価に相当する25億2,538万2,600円で取引されているから、各取引者が贈与をしたり贈与を受けたりすることはないと主張するが、本件株式譲受けと本件株式交換は、取引の当事者、取引の対象となる資産及び取引形態が異なり別々の取引である。原告が指摘する法人税法25条の2第1項は、内国法人が当該内国法人との間に完全支配関係のある他の内国法人から受けた受贈益について、益金の額に算入しない旨を規定し、同条3項は資産の対価の額との差額のうち「実質的に贈与(中略)を受けたと認められる金額」のみが受贈益の額になるとする根拠に上記を主張するが、同項は、あくまで内国法人が他の内国法人との間に完全支配関係のある場合に、同条1項において不算入とされる受贈益についてその額を定めているに過ぎない規定であって、同法22条2項にいう「別段の定め」に該当するものである。このような特則の規定から溯って、益金算入に関する一般規定である同項の解釈を導き出すことは相当でない。 (3) 原告は、法人税法22条2項の解釈について、資産の低額譲受けがあった場合に、益金の額に算入すべき受贈益の額は「実質的に贈与を受けたと認められる金額」に限られると主張するが、そのように限定する理由はない。仮に原告の主張するように「実質的に贈与を受けたと認められる金額」に限られるとしても、上記のとおり本件株式の譲受けにより13億1,538万2,600円の差額が出ている以上、当該差額が「実質的に贈与を受けたと認められる金額」に該当する。 (4) したがって、本件対価の額と適正な価額との差額13億1,538万2,600円は、受贈益の額にあたり、益金の額に算入されるべきであるから、原告の主張には理由がない。 ((その2)へ続く)