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【10/5より「秋の読書フェア」開催】期間限定で人気連載が読み放題!

10月は一部人気連載が無料読み放題 秋の読書フェア 読書を満喫したいこの季節、ふだんは「会員限定」でお届けしているProfession Journalの人気連載が、期間限定ではございますが無料でお読みいただけます。 Profession Journalは、税務・会計を中心に、労務・法務・経営といった幅広いジャンルの最新情報・実務に役立つ情報をお届けする週間Web情報誌です。まだProfession Journalの記事を読んだことのない方に向けて、これまで読者からの反響が大きかった人気連載を無料公開いたします。 通勤の途中、仕事の合間、事務所を閉めたあとの一杯とでも。この機会に気になった記事をぜひ読んでみてください。 公開期間中、対象記事については会員登録不要でお読みいただけます。期間が過ぎたあとは通常どおり会員限定公開となります。 第一弾10月5日(月)〜12日(月) 第二弾10月13日(火)〜19日(月) 第三弾10月19日(月)〜26日(月) 第四弾10月26日(月)〜11月3日(火) 第一弾 10月5日(月)〜12日(月) 【新基準対応版】〈一から学ぶ〉リースの会計と税務 公認会計士・税理士 喜多 弘美 「これはリースだから会計処理に注意してね」。経理の現場で交わされるこの一言の中身を、会計と税務の両面から基礎に立ち返って解説します。 《税務必敗法》 公認会計士・税理士 森 智幸 「勝とうと思って打ってはならない。負けないように打つべきである」。徒然草の双六の名人が説いたこの構えを税務に持ち込み、実務における失敗の原因を一つずつ取り除きます。 〈税務ライター・鈴木まゆ子の〉『ここがヘンだよ日本の税制』 税理士・税務ライター 鈴木 まゆ子 複雑怪奇な条文、場当たり的に見える改正、建前と実態が乖離した制度…日々の実務で感じる、日本の税制の「ヘン」な部分を深堀りします。 第二弾 10月13日(火)〜19日(月) 〈ポイント解説〉役員報酬の税務 税理士 中尾 隼大 税務調査でも厳しくチェックされる役員報酬をめぐる税務論点を1回1テーマで解説。判例や条文、官公庁資料等も参考として実務における正解を探ります。 「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント 税理士 齋藤 和助 頻出となる想定の税賠事例を取り上げ、税理士としてどこで判断を誤ったのか、押さえておくべき知識は何だったのか、何をしていれば防げたのかについて解説します。 〈適切な判断を導くための〉消費税実務Q&A 税理士 石川 幸恵 ポイントの取扱いやインボイスにおける経過措置など、判断に迷う消費税実務の論点をQ&A形式で解説します。 第三弾 10月19日(月)〜26日(月) 暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 東洋大学法学部教授 泉 絢也 税法の知識だけでは足りません。私法も、規制法も、ときに技術まで・・・4年100回以上をかけて暗号資産とNFTの課税関係を追い続け、令和8年度税制改正の申告分離課税にも踏み込んだ長期連載です。 山本守之の法人税“一刀両断” 税理士 山本 守之 法令や通達を無機質的に読むのではなく、「人間の感性で税をみつめる」態度を重視された山本守之先生の考え方を知ることができる名連載です。 社長からの無理難題の断り方・かわし方 JUN税会 「先生、これ何とか経費にしておいてよ」。コンプライアンスを盾に即答すれば信頼にヒビが入る。社長の顔を立てながら適法へ導く、断り方とかわし方を検討します。 〈小説〉『国税審査官エイトの勤務日誌』 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 審判所の中で、合議は何を話しているのか。表に出ない議論を、法人税も所得税も資産税もまたいで描く小説。 第四弾 10月26日(月)〜11月3日(火) 相続税の実務問答 税理士 梶野 研二 多種多様なケースが存在する相続税事案において申告の前後に生じる様々な疑問を、一問一答形式で図解も交えてわかりやすく解説。 組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 公認会計士 佐藤 信祐 組織再編税制がどのようにして現行の規定となったのか。国税庁等から公表された資料に基づいて改正の経緯をたどり、制度趣旨に対する理解を深めます。 谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 原則1回読み切りの「読み物」として税法判例を検討し、税法の視点から判例における重要事項を掘り下げて解説します。 酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 過去の重要判例や税法上の概念、果ては新聞報道なども手掛かりに租税法の考え方を深堀りして検証します。 フェアについて 期間 2026年10月5日(月)〜11月3日(火) ※連載ごとに公開期間が異なります。 読み方 公開期間中は、上の各連載のリンクからそのままお読みいただけます。会員登録・ログインは不要です。 公開する記事の範囲 対象連載の全ての記事を無料公開いたします。 期間終了後 公開期間を過ぎた連載は、通常どおり会員の方のみお読みいただけます。 会員登録のご案内を見る Profession Journal(プロフェッションジャーナル) 発行:株式会社清文社・株式会社プロフェッションネットワーク

#Profession Journal 編集部
2026/10/02

《速報解説》 貸付用不動産の評価に関する法令解釈通達(案)が公表される~課税時期前5年以内取得等の貸付用不動産は「通常の取引価額」で評価~

 《速報解説》 貸付用不動産の評価に関する法令解釈通達(案)が公表される ~課税時期前5年以内取得等の貸付用不動産は「通常の取引価額」で評価~   税理士 柴田 健次   国税庁は令和8年9月18日、「貸付用不動産の評価について」の法令解釈通達(案)を公表し、意見公募手続を開始した。財産評価基本通達とは別の通達として新設するもので、課税時期前5年以内に取得等された貸付用不動産等について、評価方法を見直す内容である。   1 公表の経緯 貸家などの貸付用不動産は、市場価格と相続税評価額の乖離が大きいと指摘されてきた。令和7年11月13日開催の「経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合」(第4回)において、国税庁は「財産評価を巡る諸問題」として次の事例を示した。 事例 取得価額 通達評価額 税額への影響 ①最高裁令和4年判決の事案(一棟賃貸マンションと分譲マンション) 13.8億円 3.3億円 相続税額 2.4 億円が0円 ②相続開始の約2年8か月前に取得した一棟賃貸マンション 21.0億円 4.2億円 相続税額12.3億円が4.4億円 ③不動産小口化商品の贈与 3,000万円 480万円 贈与税額1,195万円が49万円 同資料では、財産評価基本通達6項の適用件数が平成27年度から令和6年度までで計27件(うち不動産13件)とされている。訴訟の増加を背景に、納税者の予測可能性を求める声が、日本税理士会連合会や日本公認会計士協会の意見書でも示されていた。 乖離が生じる構造については、①市場価格は収益性で決まるため賃貸割合が高いほど上がる一方、②通達評価額は借家権・借地権の控除を反映するため賃貸割合が高いほど下がる、という説明がされている。このため、収益性の高い物件ほど乖離が拡大する。 その後、令和8年度税制改正大綱(令和7年12月26日閣議決定)において、貸付用不動産の評価方法を見直す方針が示され、今回の通達案の公表に至った。   2 通達案の内容 通達案は、評価基本通達第2章から第4章まで及び令和5年9月28日付課評2-74、課資2-16「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)の定めにかかわらず適用される。以下、通達案の本文(別紙2)の文言に即して、内容を整理する。 (1) 課税時期前5年以内に取得等された貸付用不動産の評価 ① 対象資産の範囲 対象となる財産は、次のとおりである(通達案1)。 なお、当該貸付用不動産が相続等により取得された場合における当該貸付用不動産を含むものとされている。一部賃貸の物件や区分所有も、この定義上は対象に含まれると読める。 ② 適用除外となる資産 課税上弊害がない限り、当該貸付用不動産に係る土地等又は家屋等が次表に掲げる土地等又は家屋等に該当する場合における当該貸付用不動産は、①の対象から除かれる(通達案1)。次表は別紙2の表を要約したものであり、4・5のイ・ロは原文のとおりである。 土地等又は家屋等 1 代替資産等:収用等に伴い取得等された代替資産(租税特別措置法33条1項)、交換処分等に伴い取得された資産(同法33条の2第1項・2項)、換地処分・権利変換・敷地権利変換等により取得された資産(同法33条の3第 1項・2項・4項・6項・8項・9項)、および収用交換等の特別控除(同法33条の4第1項)の適用を受けた譲渡に伴い収用交換等の日以後2年以内に取得等された代替資産等。いずれも、その取得価額に相当する金額が、これらの規定の適用を受けて譲渡された土地等又は家屋等の譲渡価額の100分の120に相当する金額を超えないものに限る。 2 固定資産の交換の特例:所得税法58条1項の適用を受けた土地等又は家屋等。ただし、譲渡資産の取得等が課税時期前5年以内であるものとの交換により取得されたものは除外されない。 3 特定の事業用資産の買換え:租税特別措置法37条1項の適用を受けた土地等又は家屋等のうち、同項の表の第3号の上欄に掲げる資産の譲渡(令和11年3月 31 日までの譲渡に限る。)に伴い取得等された同号の下欄に掲げる資産に該当するもの。その取得価額に相当する金額が、譲渡された土地等又は家屋等の譲渡価額の 100 分の 120 に相当する金額を超えないものに限る。 4 増改築部分:課税時期前5年以内に、次に掲げる家屋等が増築又は改築された場合における当該増築又は改築に係る部分 イ 課税時期前5年以内に取得等された家屋等以外のもの ロ 課税時期前5年以内に相続等により取得された家屋等(当該家屋等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得等された場合における当該家屋等を除く。) 5 通達制定日までに新築された家屋等:令和8年●月●日〔通達制定日〕までに、次に掲げる土地等に新築された家屋等(同日において建築中のものを含む。) イ 同日前5年以内に取得された土地等以外のもの ロ 同日前5年以内に相続等により取得された土地等 ③ 評価方法 ①の対象資産(②の適用除外に該当するものを除く。)は、次のとおり評価する(通達案1本文・ただし書)。 貸付用不動産の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する。ただし、当該貸付用不動産に係る土地等又は家屋等の取得価額がその取得等の時における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に定める金額の100分の80に相当する金額によって評価することができる。 区分 評価額(次の金額の100分の80) (1) 土地等 土地等の取得価額に地価変動率を乗じた金額 (2) 家屋等 家屋等の取得価額から、当該家屋等の取得等の時から課税時期までの期間の償却費の額の合計額又は減価の額を控除した金額 関連する定義(注)は次のとおりである。 このほか、注6(土地等の価格の著しい変動その他ただし書の方法により難い事情がある場合の考慮)および注7(評価基本通達185に定める土地等又は家屋等への不適用)が置かれている。注7については本稿4(4)で取り上げる。 (2) 不動産特定共同事業等により小口化された貸付用不動産の評価 ① 対象資産の範囲 対象となる財産は、次に掲げる権利(以下「特定小口化商品」という。)の目的となっている貸付用不動産である(通達案2)。 ② 適用除外となる資産 本項には、上記(1)②のような明示の適用除外規定は置かれていない。特定小口化商品は、土地等・家屋等そのものではなく、これらを対象とする権利(収益分配を受ける権利や信託受益権)であるから、土地等・家屋等の取得等自体を前提とする(1)②の適用除外(代替資産等・買換資産等)は、対象財産の性質上、そもそも想定されていないためと考えられる。 ③ 評価方法 特定小口化商品の目的となっている貸付用不動産の価額は、次のとおり評価する(通達案2本文・ただし書)。 特定小口化商品の目的となっている貸付用不動産の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する。ただし、特定小口化商品の元本等相当額が適正な価格情報に基づくと認められる場合には、精通者意見価格、売買実例価額、定期報告書等の不動産の価格等(以下「精通者意見価格等」という。)を参酌して評価することができる(この場合、次に掲げるP1の金額によって評価するものとし、次に掲げるP2又はP3の金額が明らかであるときは、P1、P2又はP3の金額のうち最も低いものによって評価しても差し支えない。)。 区分 内容 P1 特定小口化商品の元本等相当額の100分の90に相当する金額(課税時期前5年以内に開始された事業に係るものである場合には、その元本等相当額を(1)③の定めに準じて修正した金額の100分の95に相当する金額。課税時期前5年以内に開始された事業に係るもの以外のものである場合であって、元本等相当額によって評価することが不適当と認められるときは、売買実例価額等で価格の変動の割合を明らかにするものに基づき修正した金額によることができる。) P2 課税時期における貸付用不動産の精通者意見価格(事業者が有する適正な価格情報を含む。) P3 課税時期前1年以内に行われた鑑定評価による貸付用不動産の鑑定評価額(事業者の依頼により不動産鑑定士が鑑定評価した価額で、当該課税時期に最も近い日におけるものに限る。)の100分の95に相当する金額 なお、事業者の破綻、許可又は登録の取消しその他の事情により、特定小口化商品に係る事業の継続が不可能又は著しく困難であると見込まれ、かつ、精通者意見価格等に該当するものがない場合には、前項(上記(1)の課税時期前5年以内に取得等された貸付用不動産の評価)の定めに準じて評価するとされている。 関連する定義(注)は次のとおりである。 このほか、(1)の注6と同趣旨の注7(価格の著しい変動等がある場合の考慮)が置かれている。一方、(1)の注7(185に定める土地等・家屋等への不適用)に相当する規定は本項には置かれておらず、この点は本稿4(4)で取り上げる。   3 適用時期と意見公募 適用は、令和9年1月1日以後の相続、遺贈又は贈与により取得した財産からである。 意見募集期間は、令和8年9月18日から10月18日まで(必着)である。 提出先は、e-Govの意見入力フォーム又は国税庁課税部資産評価企画官審査係への郵送である。 電話での受付及び個別回答は行われない。   4 実務上の留意点 (1) 取得価額の立証が要点となる。 「取得価額が通常の取引価額に相当すると認められる」ことが80%評価の前提であり、関連者間取引等では通常の取引価額の検討が必要になる。土地建物を一括取得した場合の按分方法は、通達案からは読み取れない。 (2) 贈与も対象である。 贈与についても令和9年1月1日以後に取得した財産が対象となり、相続時精算課税を選択した場合の贈与財産の評価額にも通達案が関係し得る。他方、令和8年中の贈与は改正前の従来どおりの評価によることになるが、市場価格との乖離が大きい貸付用不動産を通達案の公表後に贈与するような場合には、評価基本通達6項(総則6項)が適用される可能性がある点に留意が必要である。 (3) 法人に賃貸する底地の扱いは明確でない。 例えば、個人が4年前に取得した土地を法人に賃貸し、法人が建物を建築した場合である。法人が建物を自社で使うなら借家権の目的となる家屋がなく、対象外と読むのが素直である。法人が建物を第三者に賃貸する場合は、定義が家屋と土地の所有者の同一性を求めていないため、文言上は底地も含まれ得る。その場合の借地権相当額の扱いは、条文からは読み取れない。 (4) 法人が賃貸用不動産を取得した場合は、評価基本通達185との関係で、3年以内・3年超5年以内・5年超に分けて評価方法が異なる。 通達案の注7は、評価基本通達185に定める土地等又は家屋等(課税時期前3年以内に取得又は新築されたもの)には通達案を適用しないとしている。したがって、例えば法人が土地を購入し、建物を建築して賃貸の用に供した場合、その土地・家屋の評価(純資産価額の計算上)は、取得等からの経過期間に応じて次のように整理される。なお、小口化商品については、通達案の第2項に注7に相当する規定が置かれておらず、185の括弧書きも「土地等又は家屋等」に限られるため、保有期間にかかわらず通達案の第2項が適用されると考えられる。 取得等からの 期間 根拠 評価方法 3年以内 評価基本通達185(括弧書き) 通常の取引価額(帳簿価額が通常の取引価額に相当すると認められる場合は帳簿価額)を基に、土地・家屋とも貸家建付地・貸家として借家権控除が可能。80%の割引はない。 3年超5年 以内 通達案(5年ルール) 通常の取引価額。取得価額が取得等の時の通常の取引価額に相当すると認められる場合は、取得価額×地価変動率(土地)・取得価額-償却費(家屋)の80%。借家権控除は認められない。 5年超 評価基本通達(従来どおり) 通常の貸家建付地・貸家の評価(借家権控除あり)。 このように、取得等からの経過期間によって借家権控除の可否が異なる(3年以内は可、3年超5年以内は不可、5年超は可)点に留意したい。なお、3年以内の借家権控除は、取得時の利用区分が自用で課税時期に貸家となっている場合の取扱いであり(平成25年7月1日裁決・TAINSコード:F0-3-394、東京国税局課税第一部資産課税課資産評価官「資産税審理研修資料」(平成27年7月作成)参照)、オーナーチェンジにより賃借人がいる状態で取得した物件は、取得価額(帳簿価額)に既に借家権相当の制約が反映されているため、重ねて減額は行わない。 (5) 保有期間中の増改築(大規模修繕等)は、4号イ・ロの当てはめが要点となる。 例えば、6年前に取得した貸付用不動産について、1年前に大規模修繕を行った場合である。土地・建物とも取得から5年を超えているため、そもそも通達案1(課税時期前5年以内の取得等)の対象にならない。この場合、大規模修繕が「増築又は改築」に当たるとしても、適用除外の4号イ(課税時期前5年以内に取得等された家屋等以外のものに増改築が行われた場合)に該当し、その修繕部分も通達案1の対象から除外される。したがって、通常はこの事例は通達案の影響を受けないと考えられる。 (6) 通達制定日後に新築した家屋は、土地の保有期間が長くても対象になり得るが、土地は対象外にとどまる。 例えば、土地の保有期間が10年の土地の上に、通達制定日後に賃貸用家屋を新築し、その新築から3年以内に相続が発生した場合である。家屋は課税時期前5年以内の新築に当たり、通達案1の対象となる。除外の5号は「通達制定日までに」新築(同日建築中を含む)された家屋を保護する経過措置であり、その要件は新築の時期を制定日以前に限定しているため、制定日後の新築はこの保護を受けられない。他方、土地は10年前の取得であり、土地自体が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得された事実がない。80%基準(取得価額×地価変動率)は、その土地自身の5年以内の取得を前提にした式であり、10年前の取得しかない土地にはこの基準を当てはめる場面がそもそも生じない。したがって、土地は通達案1の対象外にとどまり、従来どおり路線価を基にした評価(貸家建付地としての借地権・借家権・賃貸割合の控除)を行うことになると考えられる。家屋のみが通達案1の対象となり、家屋については新築の工事代金が通常の取引価額に相当すると認められれば80%基準、認められなければ通常の取引価額で評価する。 (7) 「建築中」の定義への該当性も実務上重要である。 通達案は、「建築中」とは、通達制定日までに家屋等の請負契約等が締結され、同日において工事が行われ、かつ、その費用の全部又は一部が支払われていることをいう、と定めている。制定日をまたぐ工事では、着工が制定日前でも、契約締結・工事の実施・費用支払のいずれかが同日時点で満たされていなければ「建築中」に該当せず、家屋について5号の保護(土地が5号イ・ロの要件を満たす場合の家屋の除外)を受けられない可能性がある。逆に、契約締結が制定日前で、同日に着工済み、かつ着手金等の支払があれば「建築中」に該当し、5号の保護を受けられる。契約書・請負契約書・支払記録等により、契約締結日、制定日時点の工事の進行状況、支払の事実を確認しておくことが実務上重要である。 *  *  * 最後に、本稿で述べたとおり、通達案にはなお明らかにされていない部分が残されている。今後の意見公募の結果、確定後の通達の公表、国税庁による解説等を踏まえ、引き続き注視していきたい。 (了)

#柴田 健次
2026/10/02

プロフェッションジャーナル No.688が公開されました!~今週のお薦め記事~

2026年10月1日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.688を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2026/10/01

monthly TAX views -No.164-「法人税と金融所得課税」-資本が生み出す所得への課税を考える-

monthly TAX views -No.164- 「法人税と金融所得課税」 -資本が生み出す所得への課税を考える-   東京財団 シニア政策オフィサー 森信 茂樹   9月15日、消費税減税を含む税制改正大綱が閣議決定された。所得に応じた現金給付制度である就業者負担軽減支援金(給付付き税額控除)を2029年度に本格導入し、それまでのつなぎとして食料品の消費税率を2027年4月から2年間1%に下げ、あわせて1%分の現金給付も実施する。 消費税減税による5兆円の減収を補うための具体的な財源は示されず、「赤字国債に頼らず、補助金と租税特別措置の適正化や税外収入、歳出・歳入全般の見直しにより確保する」と予算編成プロセスに先送りされた。 税制改正法案は、これまで予算関連法として予算案とセットで国会に提出され審議されてきたが、今回は財源(予算)が切り離されるという前代未聞の事態となった。 問題となるのは、就業者負担軽減支援金(給付付き税額控除)の本格導入、防衛費の増額、金利上昇による国債利払い費の増加などが生じる3年目以降の恒久財源の確保である。 消費税増税が困難な中、所得税の抜本改革が候補にあがるが、法人税増税の声も出始めている。そこで法人税を巡る状況を考えてみよう。 *  *  * アベノミクスのもとで40%台の法人税実効税率が20%台まで引き下げられ、法人活動の活性化に役立ってきた。一方で、投資減税や賃上げ減税などを行ってきたにもかかわらず、増加した企業利益は配当や内部留保の増加に回り、設備投資も企業利益並みの伸びにはならず、とりわけ人件費の増加(労働分配率の改善)につながらなかったという事態が生じている。企業収益が高水準にある中で、法人所得の担税力に注目する議論が出てくることには一定の理由があるといえよう。 筆者は、同時に(あるいはその前に)検討すべきことがあると考えている。それは企業が資本を活用して生み出す金融所得、とりわけ配当所得と株式譲渡所得への課税強化である。 そもそも所得は勤労所得と資本所得に二分され、さらに資本所得は、個人・法人の事業所得、不動産所得、金融所得の3つに分かれる。法人税は法人の所得を課税対象とし、金融所得(配当・株式譲渡益)は株主である個人(さらには法人)の所得を対象とし、いずれも「資本から生じる所得」という点で共通する。つまり金融所得の税制を見直すことは、法人所得の税制(法人税)を見直すことと大きくは変わらない。 一方で、金融所得の税制見直しには法人税見直しにはないメリットがある。 *  *  * 第1に、今問題となっている「1億円の壁」を見直すことにより格差問題への対応ができる。 第2に、法人税増税の直接的な影響である設備投資や賃上げの原資の収縮を避けることができる。金融所得課税の強化は、法人税増税に比べ、企業の設備投資や賃上げの原資への直接的な影響を抑えやすい。 第3に、今日課税当局間のグローバルな協調体制ができ、増税による海外への資金逃避という懸念は低下している。マイナンバーが導入され、国外送金等調書、国外財産調書、財産債務調書など資料情報制度の充実が進んできた。 最大の問題は、貯蓄から投資へという政策目標との整合性だ。近年NISA(少額投資非課税制度)が拡充されており、この制度を維持することにより、一般国民にとって貯蓄から投資への流れに影響を及ぼさないようにする必要がある。 次に市場への悪影響だが、日本の株式投資の7割程度の売買高を占める外国人株主については、租税条約を考慮する必要があるが、居住地で課税される場合には大きな影響はない。スタートアップ企業に投資をしたエンジェル投資家の譲渡益には税制の優遇手当がされている。 見直しにあたって留意すべきこともある。金融所得税率の一律引上げではなく、垂直的公平性を高め所得再分配を行うことが重要なので、配当所得と株式譲渡益を名寄せして一定以上の金融所得のある者により高い負担を求めるよう工夫をすることだ。また極めて高い所得の者への追加課税(ミニマム課税)との整合性も考慮する必要がある。 法人税増税の前に(あるいはそれと合わせて)金融所得課税の適正化を議論することが必要だ。これは党税調の長年の懸案でもある。踏み込む勇気を期待したい。 (※) 令和4年度与党税制改正大綱より一部抜粋 (了)

#No. 688(掲載号)
#森信 茂樹
2026/10/01

消費税減税大綱に伴い想定される実務への影響と対応 【第1回】「税率1%の対象範囲、事業者への影響及び税率変更に伴う実務上の取扱い」

消費税減税大綱に伴い想定される 実務への影響と対応 【第1回】 「税率1%の対象範囲、事業者への影響及び 税率変更に伴う実務上の取扱い」 税理士 石川 幸恵   -はじめに- 令和8年9月15日に「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」が閣議決定され、令和9年4月1日から令和11年3月31日までの2年間、飲食料品に係る消費税率が1%へ引き下げられることとなった。実施までの準備期間が短く、事業者においては早めの対応が必要となる。 本連載では、就業者負担軽減支援金の導入に関する論点は割愛したうえで、消費税率の臨時的な引下げに伴う実務上の取扱いや特例について整理する。 【第1回】では、税率1%の対象範囲や事業者への影響、税率変更に伴う実務上の取扱いについて確認する。また、軽減税率の導入時に整理された店内飲食とテイクアウトの区分等について改めて振り返る。 なお、今回の大綱の全体像について知りたい方は、まずは下記を参照いただきたい。   1 消費税率の臨時的な引下げの対象範囲 消費税率の臨時的な引下げの対象範囲は、「飲食料品の譲渡」とされている。「飲食料品」とは、食品表示法に規定する食品(酒税法に規定する酒類を除く。)であり(消費税の軽減税率制度に関するQ&A(制度概要編)問2)、その範囲は、令和9年3月31日以前において税率8%の対象である飲食料品の範囲と同じである。 次に判断に迷いやすいものや、今回の臨時的な引下げの影響を考えるうえで押さえておきたいものを整理した。改めて確認されたい。 ▷ 1%が適用される取引 ●スーパーやコンビニなどでの飲食料品(酒類や医薬品などを除く)の販売 ●飲食店でのテイクアウト(制度概要編問2) ●出前・宅配(個別事例編問77) ●有料老人ホーム等で行う食事の提供(個別事例編問80) ●農家や漁業者などによる野菜や果物・水産物の出荷 ●食品メーカーによる飲食料品の出荷 ●一定の一体資産(個別事例編問84~96) ▷ 10%が適用される取引 ●お酒の販売(制度概要編問2) ●医薬品や医薬部外品の販売(制度概要編問2) ●工業用として販売される塩(制度概要編問2) ●飲食店での店内飲食(制度概要編問2) ●フードコートでの飲食(個別事例編問 65) ●ケータリングや出張料理(個別事例編問 75) ●家事代行(個別事例編問 76) ●果物の苗木や種子の販売(個別事例編問 7) ●農業用資材の販売 ●一定の一体資産(個別事例編問 84~96)   2 テイクアウト、出前、店内飲食の消費税率について 1の表で見たように、飲食店が提供する飲食料品であっても、店内飲食、フードコート、ケータリング等は10%、テイクアウトや出前・宅配には1%の税率が適用される。これらの区分と価格表示について、軽減税率導入時に整理された取扱いを改めて確認しておきたい。 (1) 外食とは? 標準税率10%が適用される外食とは、 をいう(制度概要編問7)。例えば、レストランやフードコートが該当する。 (2) 飲食設備の範囲 飲食設備に該当するかどうかについて、軽減税率Q&Aで整理された主なものを確認しておく。 事例 「飲食設備」を利用させて行う食事の提供に該当するか 社員食堂、カラオケボックス (個別事例編問49、70) 〇(標準税率10%) コンビニエンスストアのイートインスペース、スーパーマーケットの休憩スペース (個別事例編問52、53) 〇(標準税率10%) 屋台のおでん屋やラーメン屋、フードイベント等での飲食料品の提供 (個別事例編問51) 〇(標準税率10%) 公園のベンチのそばで営業する移動販売車 (個別事例編問66) ベンチの設備設置者と移動販売車の事業者との間で顧客に利用させることを合意している場合は〇(標準税率10%) 誰でもベンチを利用できる場合は×(軽減税率1%) 列車内でのワゴン販売 (個別事例編問69) ×(軽減税率1%) (3) 軽減税率が適用されるテイクアウトの範囲について 飲食店業等を営む者が飲食料品を持ち帰りのための容器に入れ、又は包装をして行う譲渡は税率1%が適用される(制度概要編問9)。 また、そばの出前、宅配ピザの配達は顧客の指定した場所まで単に飲食料品を届けるだけであるため、税率1%が適用される(個別事例編問77)。 (4) 適用税率の判定時期 「店内飲食」と「テイクアウト」のいずれも行っている飲食店等において、飲食料品を提供する場合に、どちらに該当するかは、事業者が飲食料品の譲渡等を行う時に判断する。判定は、「店内飲食」か「テイクアウト」かについて、顧客に意思確認を行うなどの方法による(制度概要編問9、11)。 (5) 「店内飲食」と「テイクアウト」の価格設定と表示方法について 「店内飲食」と「テイクアウト」では適用税率が異なるが、事業者がどのような価格設定を行うかは任意である。 店内飲食とテイクアウトで異なる税込価格を設定する場合には、それぞれの税込価格を表示する方法のほか、一方の価格のみを表示し「テイクアウト(店内飲食)の場合、税率が異なりますので、別価格となります」等の表示を行う方法も可能である。 一方、テイクアウトの税抜価格を店内飲食より高く設定するなどして、両者の税込価格を同一とすることもできる。この取扱いは、消費税率の臨時的な引下げ後についても、現時点ではこの考え方が変更されることは示されていない。ただし、両者の適用税率の差が大きくなることから、消費者から価格設定について問われた場合には、合理的に説明できるようにしておくことが望ましい。   3 飲食店、農業等、飲食料品の譲渡を行う事業者への影響 消費税率の臨時的な引下げは、単に取引時の税率を変更するのみでなく、事業者の原価や利益、資金繰りなど経営に及ぼす影響にも注意が必要となる。特に、簡易課税事業者・免税事業者である農林漁業者については、売上げから回収できない仕入税額が大きくなることが予想される。また、外食については税率が標準税率で据え置かれる一方、中食・内食には引下げ後の税率が適用されるため、その税率差による影響も考えられる。 こうした影響に対応するため、農林漁業者、食品事業者、外食事業者に対しては、税制上の特例や各種の支援が講じられる。 詳細は【第2回】以降に取り上げる。   4 飲食料品の譲渡を行っていない事業者への影響 飲食料品は幅広く、また身近な品物であるため、事業として飲食料品の譲渡を行っていない事業者にも会計処理について準備の必要があり、また、扱っている商品・製品によっては納付税額の増加等、影響が考えられる。 (1) 会計処理への対応 飲食料品の譲渡を行っていない事業者も、贈答品や福利厚生などで飲食料品を経費として購入することは多いため、会計処理上、消費税率1%への対応が必要となる。会計ソフトが対応しているかの確認が必要である。 なお、免税事業者や税込経理処理を行っていて簡易課税を適用している事業者については、仕入れに係る消費税額を区分して会計処理していないため、影響は小さいと考えられる。 (2) 納付税額の増加 飲食料品を原材料として仕入れ、飲食料品以外のものを製造している事業者もある。例えば、飲食料品を原材料とする化粧品や動物飼料を製造する事業者である(個別事例編問4、問21)。この場合、仕入れにかかる消費税額が減少する一方、売上げには10%の税率が適用されるため、納付税額の増加が考えられる。   5 インボイスや帳簿の記載内容の変更について 税率1%の適用対象である飲食料品は軽減税率の適用対象であるため、飲食料品の譲渡を行った場合、「軽減税率の対象品目である旨」を記載すればよい。新たに「税率1%の対象品目である旨」という文言を追加する必要はない(飲食料品に係る2年間の消費税率引下げに関するQ&A(以下「消費税率引下げQA」という)問2-1)。 ただし、税率と消費税額の記載は1%への対応が必要である。 また、一般課税の場合の仕入税額控除の要件である帳簿の記載方法に変更はない。 軽減税率の対象品目である旨の帳簿への記載については、軽減税率の適用対象を示す記号(「※」など)等を記載するほか、税率区分欄を設けて、税率や税率コードを記載する方法も認められている。上記の例では税率区分欄に「1%」と記載している。   6 1枚のインボイスに3種類の税率が記載される場合について 飲食料品とそれ以外の商品の卸売りを営む事業者が令和9年3月31日をまたぐ期間の取引をまとめて請求する場合などには、1枚の請求書に、標準税率10%、軽減税率8%、軽減税率1%の3種類が記載される可能性がある。 この場合、消費税率引下げQA問2-2では令和9年3月までの取引と同年4月以後の取引について、請求書を分けて発行する方法(図1)と、同一請求書内で令和9年3月までの取引と同年4月以後の取引を区分して発行する方法(図2)が示されている。 (図1) (図2) (※) 図はいずれも、消費税率引下げQA問2-2より抜粋   7 返品、貸倒れの取扱いについて 返品や貸倒れが税率変更後に生じた場合であっても、その対象となった販売時の税率に基づいて消費税額を計算する。 したがって、令和9年3月31日以前に販売した飲食料品(税率8%対象)について、同年4月1日以後に商品が返品され、対価の返還等を行った場合には、税率8%に基づき売上げに係る対価の返還等に係る消費税額を計算する。 令和9年3月31日以前に行った飲食料品の販売に係る売掛金等(税率8%対象)について、同年4月1日以後に貸倒れがあった場合についても同様である。   8 適用税率の判定における売上計上基準の取扱い 棚卸資産の譲渡を行った日は、その引渡しのあった日とされている(消基通9-1-1)。 消費税率引下げQA問1-3では、営業時間が午前9時から翌日の午前1時であるスーパーが、日々の売上げを午前1時で締めて集計しているケースを紹介している。 この場合、事業者が継続適用している売上計上基準に従い、令和9年4月1日の午前0時から1時までの商品販売を同年3月31日の売上げとして計上しているときは、この1時間に販売した飲食料品についても、3月31日時点の税率8%を適用することとして差し支えないとしている。   (了)

#No. 688(掲載号)
#石川 幸恵
2026/10/01

《初歩から学ぶ》租税条約の読み方・使い方 【第1回】「なぜ租税条約は必要なのか」

《初歩から学ぶ》 租税条約の読み方・使い方 【第1回】 「なぜ租税条約は必要なのか」 公認会計士・税理士 霞 晴久   ◆連載開始にあたって◆ 租税条約は、100年以上にわたり、租税に関する国家間の利害の対立を調整することで、グローバル経済の発展に重要な枠割を演じてきました。一方で、最近では、条約の「抜け穴」を悪用した多国籍企業による税源浸食と利益移転の問題が指摘され、国際的な議論を経て、その対処法が各国に導入されつつあります。したがって、国際税務に従事する専門家は、伝統的な租税条約の考え方の理解に止まらず、最近の国際的な取組みとその動向に注視する必要があります。 ところで、租税条約の一般的な理解として、租税条約が適用されることで新たな税負担が生じることはない、ということが言われますが、果たして本当にそうでしょうか? 特定の場合、租税条約がトリガーとなって課税が行われる事例が報告されています。このように、現実には、その理念とは異なり、かえって利害を生じさせてしまうという局面もあり得ることになります。本連載では、実務家の視点から、そのような問題まで深く掘り下げ、体系的・具体的に租税条約の読み方・使い方について解説していきます。本連載は、国際取引に係る税務を一から学び直したい企業関係者、弁護士・公認会計士・税理士その他の専門家に有用な情報を提供することを目的としています。    QUESTION  私は税理士ですが、自身の顧問先企業が今後海外取引を予定していることから国際課税について新たに学んでいきたいと思います。国際課税に関して租税条約が重要だということはわかっていますが、具体的に租税条約はなぜ必要なのでしょうか?  ANSWER  租税条約は、国と国との間で「税金をどちらの国が、どのように課税するか」を決めるために必要とされています。すなわち、各国の課税権の重複という事態に対し、それを調整する機能を有するものということができます。 ― 解 説 ― 1二重課税の発生 例えば、日本の内国法人が米国に支店を設立し、米国にて事業を展開した場合を考えます。その内国法人の米国支店の所得について、米国のみならず、我が国も課税権を主張するとしたら、同一の所得について日米それぞれで課税される、すなわち二重課税が生じる可能性があります。 なお、次回以降で詳しく検討しますが、日本に本店を有する内国法人は、全世界所得に対して課税される(米国支店の所得も当然含まれる)というルールが適用される一方、米国では、外国である日本で設立された法人であっても、米国を源泉とする所得(米国支店の所得)があれば、米国課税当局は課税権を有することになります。 すなわち、全世界所得課税(居住地国)という考え方と所得源泉主義(源泉地国)という考え方がバッティングするというわけです。 そこで租税条約(※1)によって、主に次のことを規定します。 (※1) 条約とは、一般に、国際法主体間の明示的な合意であり、現代国際法の重要な法令であるとされています。日本国憲法第98条第2項は、日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とすると規定しており、国内法よりも国際間で締結された条約が優先されることが明らかにされています。 《身近な二重課税の具体例》 我が国企業の国際化に伴い海外に派遣される役員・従業員の個人所得についても、次のように、二重課税が生じることがあります。租税条約は、これらの問題解決についても適用されます。 各国共通の国際課税の基本ルールでは、非居住者に対しては、国内源泉所得についてのみ課税が行われます。海外に派遣される我が国企業の従業員は、通常我が国非居住者に判定されるため、同者の海外勤務に対して支給される給与所得については、我が国では課税されません。しかし、海外に派遣される我が国企業の役員に対する役員報酬については、我が国国内源泉所得と判定されるため、我が国に申告・納税する必要があります(所税161①十二イ、所令285①一)。一方、役員の赴任国において、同国の税制により全世界所得に課税される場合、かかる役員報酬に課税されます。ここに二重課税が生じます。 海外赴任期間中、自らの持家を賃貸し、家賃収入を得る場合があります。かかる家賃収入は我が国所得税法上不動産所得に分類され、非居住者の国内源泉所得となる(所税161①七)ため、当該海外赴任者は、納税管理人を選任し、不動産所得を申告しなければなりません。一方、赴任国においても、同国の税制において全世界所得に課税される場合、赴任国の居住者として我が国の不動産所得を含めて申告しなければならないことになります。ここに二重課税が生じます。 海外赴任期間中に赴任先国の老齢年金受給権を取得し、帰国後年金受給年齢に達してから、当該国から老齢年金を受給することがあります。かかる年金は我が国所得税法上、雑所得となります(所税35③、所令82の2)が、一方で、年金支給国が当該年金の課税権を主張する場合、当然に二重課税が生じることになります。   2 租税条約ネットワーク 2026年9月1日現在我が国は、82の国又は地域との間で二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止を主たる内容とする条約(租税条約)を締結しており、その概要は以下の表のとおりとなります(※2)。 (※2) 財務省「我が国の租税条約等の一覧」を基に筆者作成 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (注1) 原条約は未発効のため、条約署名日を記載している。 (注2) 改正議定書には、その他2006年6月28日発効のものがある。 (注3) BEPS条約には、その他2020年6月24日通告のものがある。 (注4) 改正議定書には、その他2011年12月30日発効のものがある。 (注5) 改正議定書には、その他1999年12月25日発効のものがある。 (注6) 旧チェコスロバキアとの間の条約が承継されている。 (注7) 旧ソ連との間の条約が承継されている。 (注8) 英国との間の旧条約が適用されている。 (注9) 新条約は未発効のため、条約署名日を記載している。原条約の発効日は1980年7月20日である。 (注10) BEPS条約には、その他2019年2月25日通告のものがある。 なお、表中「原条約」とは、現時点で有効な条約をいい、署名はされたが、発効(批准)されていない条約については、同条約の署名日を記載しています。 「議定書」とは、条約の一形式で、先に締結された条約と不可分の一体のものとして当事者間で合意されたものをいいます。 また、BEPS条約とは、正式名称を「税源浸食及び利益移転(※3)を防止するための租税条約関連措置を実施するための多国間条約」(※4)といい、OECD(経済協力開発機構)(※5)による多国籍企業の租税回避を防止するためのBEPS行動計画最終報告書(2015年10月5日)に基づき多国間で締結されたもので、我が国は、既存の二国間条約の一部をBEPS条約の適用対象として選択し、2018年9月26日に受託書を寄託(寄託先:OECD事務総長)しました。 (※3) 英)Base Erosion and Profit Shifting(BEPS) (※4) 本連載では、今後、「BEPS防止措置実施条約」と呼ぶこととします。 (※5) 英)Organization for Economic Co-operation and Development 表中の「通告日」とは、我が国の寄託の後、同二国間条約の相手国・地域がBEPS条約の留保及び通告を提出した日であり、同日以降、既存の条約とBEPS条約の統合された規定が適用されることとなります(詳しくは、次回以降で解説します)。   3 租税条約の種類 上記のとおり、租税条約の本来の目的は、二重課税を防止することにあります(※6)が、同時に、租税法の執行における国際的協力の促進(情報交換による脱税の防止・執行共助等)も重要な目的とされています。 (※6) 我が国が締結している租税条約は、基本的に「所得」に対するものですが、米国についてのみ、相続税に関する租税条約も締結されています。 租税に関する情報の交換に関しては、2008年のリーマンショックを契機として、11のタックス・ヘイブン(※7)との租税情報交換協定を締結しています。これには、課税逃れのため、タックス・ヘイブンに金融資産を移動させる事例が顕在化してきたことが背景にあり、タックス・ヘイブンとの間で情報交換に特化した協定を締結する必要性が生じたためです。 (※7) 英領バージン諸島、ガーンジー、ケイマン諸島、サモア、ジャージー、パナマ、バハマ、バミューダ、マカオ、マン島、リヒテンシュタインとの協定をいいます。 一方、上記❷でリストアップした租税条約や上記租税情報交換協定は、いずれもバイラテラルの二国間条約(※8)ですが、二国間条約の交渉から締結までには相当の時間が掛かることや、OECDでのBEPSの議論を踏まえ、多国間でのマルチラテラルな枠組みを模索した結果、2013年には、税務当局間の税務行政の執行について、共助することができる多国間条約であるOECD税務行政執行共助条約(※9)が締結されています。 (※8) ただし、上記❷の租税条約は当初二国間条約として締結されましたが、その後のBEPS条約により多国間条約と統合された、いわばハイブリッドな構造となっています。 (※9) 2013年6月18日現在判明している本条約への署名国は55か国で、このうち発効済又は発効が決まっている国は、29か国(米、英、仏、豪、韓国等)です。   (了)

#No. 688(掲載号)
#霞 晴久
2026/10/01

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例90】「卸売業者が負担した増仕切価格と仲卸業者等への実際の販売価格との差額についての損金性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例90】 「卸売業者が負担した増仕切価格と仲卸業者等への実際の販売価格との差額についての損金性」   拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、中国地方のとある県の県内第二の都市に本社を置き、中国・四国地区にて青果物及びその加工品等を扱っている株式会社X(資本金8,000万円で3月決算)において、経理部長を務めております。 現在、わが業界における税制に関する最大の関心事は、消費税にかかる食料品減税の行方です。2026年の総選挙において、物価高・インフレ対策で急遽争点となった消費税減税ですが、中でも飲食料品を「消費税の対象としない」という公約が有権者に受け、与党自民党・日本維新の会が圧勝したのは記憶に新しいところです。その後紆余曲折があり、どうやら飲食料品への消費税はゼロ税率ではなく1%にして2年間限定で減税し、その後は元の税率8%に戻して給付付き税額控除に移行するという方向で落ち着きそうな情勢です。しかしながら、このようなやり方が物価高・インフレ対策に効くのか大いに疑問であるばかりでなく、外食産業への悪影響や、一度下がった税率を本当に元に戻せるのか、代替財源は本当に確保できるのかといった課題や懸念が山積しており、世界の中で日本がさらに地盤沈下していくのではないかとハラハラするばかりです。 さて、そのような中、先週から税務調査を受けており、法人税に関してとある問題がクローズアップされております。当社は委託を受けて青果物及びその加工品等を仲卸業者に販売していますが、委託者には実際の販売価格よりも高い価格(増仕切価格)から委託手数料を控除した金額を支払っており、当社の経理上は、実際の販売価格を売上原価に算入するのみでなく、増仕切価格と実際の販売価格との差額を「売上雑損」として損金に算入しています。しかし、税務署の調査官は、当該売上雑損から増仕切価格に対する委託手数料と実販売価格に対する委託手数料との差額を控除した金額が「寄附金の額」に該当するものとして、損金性を一部否認しています。調査官の言うロジックがよくわからないのですが、どのように解すべきなのでしょうか、教えてください。 【A】 本来の売上価格ではない架空の吊り上げられた価格である増仕切価格と、実際の販売価格との差額である「売上雑損」から、増仕切価格に対する委託手数料と実販売価格に対する委託手数料との「差額」を控除した金額は、金銭その他の資産又は経済的な利益を対価なく委託者に移転するものであり、その支払いに通常の経済的取引として是認することができる合理的な理由は存在しないことから、寄附金の額に該当するものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 法人税法における損金の意義 法人税法において、損金の意義については、同法第22条第3項において、「別段の定め」があるものを除き、以下の3つの項目を挙げている(法法22③一二三)。 (2) 法人税法における寄附金の意義 法人税法において、寄附金とは、その名義のいかんを問わず、金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は無償の供与のことを指すものとされている(法法37⑦)。 また、法人税法第37条第1項は、内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額の合計額のうち、損金算入限度額を超える部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨を規定している。さらに、同条第7項は、上記寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする旨を規定している。 このように、法人税法が一定額を超える寄附金を損金の額に算入しない旨の制度(統一的な損金算入限度額の制度)を採用しているのは、法人が支出した寄附金の全額を金額の制限なく損金の額に算入するとすれば、国の財政収入の確保を阻害し、課税の公平を害することとなる一方で、法人が支出する寄附金の中には法人の収益を生み出すのに必要な費用としての性質を有するものもあるところ、寄附金は、反対給付がない上、個々の寄附金の支出が当該法人の事業に直接関連があるものであるか否かが明確ではなく、これを区別することが困難であることを踏まえ、専ら行政的便宜及び公平の維持の観点から、統一的な損金算入限度額を設け、その範囲に限り寄附金の損金算入を認めることとしたものと解される(※)。 (※) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)416頁参照。   (3) 卸売業者が負担した増仕切価格と仲卸業者等への実際の販売価格との差額についての損金性が争われた事例 それでは本件と同様に、卸売業者が負担した増仕切価格と仲卸業者等への実際の販売価格との差額についての損金性が争われた事例(東京地裁令和7年3月11日判決・TAINSコード:Z888-2772)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 原告は、委託を受けて青果物及びその加工品等の仲卸業者等への販売等を行う卸売業者であるところ、本件各事業年度の法人税及び本件各課税事業年度の地方法人税の各確定申告において、仲卸業者等に対する実際の販売価格と、売買仕切書等に記載した仲卸業者等に対する販売価格(実販売価格よりも高い価格であり、委託者にはこの価格からこれに対する委託手数料を控除した金額を支払っているが、当該販売価格を「増仕切価格」と称する)との差額を、「売上雑損」として損金の額に算入した。また、原告は、本件各課税期間の消費税及び地方消費税の各確定申告において、本件売上雑損に係る消費税に相当する額を、「売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額」(消費税法第38条第1項)として課税標準額に対する消費税額から控除した。 〇 取引関係図 東住吉税務署長は、原告に対し、本件売上雑損から増仕切価格に対する委託手数料と実販売価格に対する委託手数料との差額を控除した金額は「寄附金の額」(法人税法第37条第7項)に該当するから損金の額に算入することができず、また、本件売上雑損は「売上げに係る対価の返還等」に該当しないから本件売上雑損に係る消費税に相当する額を課税標準額に対する消費税額から控除することはできないなどとして、本件各事業年度の法人税、本件各課税事業年度の地方法人税及び本件各課税期間の消費税等について、それぞれ更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。 本件は、原告が、被告を相手に、本件各処分(更正処分については申告額を超える部分)の取消しを求める事案である。 ② 事案の争点 本件差額(売上雑損から増仕切価格に対する委託手数料と実販売価格に対する委託手数料との差額を控除した金額)が「寄附金の額」(法人税法第37条第7項)に当たるか否かである。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されたが(東京高裁令和7年10月8日判決・TAINSコード:Z888-2926)、棄却されている。 ④ 本裁判例から学ぶこと 本裁判例においては、本件差額、すなわち売上雑損から増仕切価格に対する委託手数料と実販売価格に対する委託手数料との差額を控除した金額の性格を判断するに当たり、裁判所に、「原告が、仲卸業者等に対して増仕切価格という実販売価格とは異なる架空の販売価格で青果物等を販売したことを前提に、本件各取引先に対して支払われるものである」と認定されているところがポイントとなるだろう。すなわち、増仕切価格は「架空」の価格であり、法人税の課税所得計算上使用すべきは実販売価格となる。したがって、原告において売上原価として損金に算入されるのは、実販売価格から(実販売価格に対する)委託手数料を控除した金額となる。 一方で、原告が実際に売上原価として損金算入しているのは、増仕切価格から(増仕切価格に対する)委託手数料を控除した金額であり、そのうち、増仕切価格から実販売価格を控除した金額を売上雑損として損金算入していることになる。そうなると、売上雑損の金額は本来損金に算入すべき金額とはならないが、委託手数料についても、増仕切価格に対するものと実販売価格に対するものとの差額分だけ損金算入額を減じていることから、裁判所は、売上雑損の金額から増仕切価格に対する委託手数料と実販売価格に対する委託手数料との差額を控除した金額が原告から委託者への利益供与額(寄附金の額)ということになると判断したことになるのであろう。 これは、以下の例に即してみていくとわかりやすいであろう。 <例>   (4) 本件へのあてはめ 本来の売上価格ではない架空の吊り上げられた価格である増仕切価格と、実際の販売価格との差額である「売上雑損」から、増仕切価格に対する委託手数料と実販売価格に対する委託手数料との「差額」を控除した金額は、金銭その他の資産又は経済的な利益を対価なく委託者に移転するものであり、その支払いに通常の経済的取引として是認することができる合理的な理由は存在しないことから、寄附金の額に該当するものと考えられる。   (了)

#No. 688(掲載号)
#安部 和彦
2026/10/01

租税争訟レポート 【第87回】「法人税「貸倒損失と債務免除益」(東京地方裁判所令和5年10月31日判決)」

租税争訟レポート 【第87回】 「法人税「貸倒損失と債務免除益」 (東京地方裁判所令和5年10月31日判決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【判決の概要】 〈東京地方裁判所令和5年10月31日判決の概要〉   【事案の概要】 ■■■■■■■■■■■を目的とする株式会社である原告は、原告代表者(以下「本件代表者」という)の子で原告の従業員であった乙の提案により、C社から建物解体業務を受注し、これを外注するという事業(以下「本件解体事業」という)を行うようになり、その後、乙が代表取締役を務めるB社において本件解体事業を引き継ぐことになったが、原告及びB社が行っていた本件解体事業は、実体のない取引であることが判明した。 B社は、これを契機として解散決議がされて清算株式会社となり、原告のB社に対する貸付け等に係る金銭債権(以下「本件金銭債権」という)6億1,504万9,280円について債務免除を受けるなどした上で、その清算を結了した。 本件は、原告が、債務免除を行った金銭債権の額を貸倒損失として損金の額に算入するなどして、平成28年3月期から平成31年3月期の各事業年度の法人税及び平成28年3月課税事業年度から平成31年3月課税事業年度の地方法人税の申告をしたところ、東松山税務署長から、金銭債権の額は貸倒損失として損金の額に算入することはできず、また、平成28年3月期に実体のない本件解体事業により原告が被った損害に係る損害賠償請求権をその益金の額に算入すべきであるなどとして、本件各事業年度の法人税に係る各更正処分並びに重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分並びに本件各課税事業年度の地方法人税に係る各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を受けたため、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分の取消しを求める事案である。   【争点】   【争点に対する原告と被告の主張】   1 本件金銭債権の額を貸倒損失として損金の額に算入することの可否 (1) 被告の主張 被告は、原告の金銭債権が基本通達9-6-2により貸倒損失に当たると認められるためには、平成28年3月期中において、債務者たるB社の資産状況、支払能力等からみて、金銭債権の全額が回収できないことが客観的に明らかであるといえなければならないとしたうえで、B社は、乙に対する損害賠償請求権又は不当利得返還請求権、本件代表者に対する損害賠償請求権を有しており、これらの権利を行使することにより、原告に金銭債権の弁済を行うことが可能であったという限度で、支払能力がなかったとはいえないし、原告としては、金銭債権を保全するため、上記各請求権を代位行使して、自ら直接これを取り立て、金銭債権に充当することも可能であったことから、平成28年3月期中において、金銭債権の全額が回収不能であることが客観的に明らかであったとはいえず、金銭債権の額は、事実上の貸倒れに係る損失として、原告の平成28年3月期の損金の額に算入することはできないと主張した。 さらに、被告は、基本通達9-6-1(4)により金銭債権の額について貸倒損失としての損金算入が認められるためには、①B社の債務超過状態が相当期間継続していること、②本件金銭債権の弁済を受けることができないことの要件を満たす必要があるにもかかわらず、金銭債権の全額について弁済を受けることができないことが客観的に明らかであるといえないこと、債務免除をした平成28年2月29日時点においても、金銭債権が回収不能か否かを判断するために必要な合理的な期間を経過したとは認められないから、上記①の要件を満たさないため、金銭債権の額については、法律上の貸倒れに係る損失としても、原告の平成28年3月期の損金の額に算入することはできないと主張した。 (2) 原告の主張 原告は、平成27年9月30日の臨時株主総会議事録において、「現時点で当社が直接資金支援している貸付債権残高2億4千万円について、B社側から弁済不可能の現状通知があり、また、その外にも同社の銀行債務に対する連帯保証債務も当社として抱えており、莫大な金額の債権回収不能額及び連帯保証債務の履行額を負担せざるを得ないことが現実として受け止めざるを得ない状況にある」と記録されているとおり、同日時点において、B社には乙の資力も含めて返済能力がない状態にあったとし、さらに、県税事務所長が平成28年3月18日付けで、滞納処分をすることができる財産がないときに該当するものとして、B社に対する不動産取得税約1,056万円につき滞納処分の執行を停止していることからもB社に資力がないことが裏付けられることから、原告のB社に対する金銭債権については回収が不能であるというべきであり、金銭債権の額については、事実上の貸倒れに係る損失として、原告の平成28年3月期の損金の額に算入されるべきものであると主張した。 さらに、原告は、基本通達9-6-1(4)の「相当期間」とは、債権者が債務者の経営状態をみて回収不能かどうかを判断するために必要な合理的な期間をいうものであり、個別の事情に応じ、その期間は異なるものとされているところ、B社については、遅くとも平成27年7月30日には債務超過の状態に陥っていることが確認され、B社は解散して清算株式会社となり、本件債務免除の日である平成28年2月29日の時点においては、本件金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合に至っていたのであるから、その時点において上記の相当期間は優に経過しているとして、金銭債権の額については、法律上の貸倒れに係る損失として、原告の平成28年3月期の損金の額に算入されるべきものであると主張した。   2 本件債務免除によりB社に供与された経済的な利益の寄附金該当性及びその額 (1) 被告の主張 被告は、B社は、債務免除の時点では、その負債を更に増大させるおそれはなく、かえって、原告は、B社が、乙又は本件代表者等に対する損害賠償請求権等を行使するなどして、本件金銭債権の支払を受けることができる可能性すら有していたことから、債務免除は、経済的な利益の無償の供与に該当し、債務免除益は法人税法37条7項の寄附金に該当すると主張した。 そのうえで、債務免除益に係る寄附金の額について、被告は、原告のB社に対する金銭債権の額である6億1,504万9,280円から金銭債権の一部について返還がされた2億156万6,739円を差し引いた4億1,348万2,541円と評価することができると主張した。 (2) 原告の主張 原告は、原告とB社との関係性に照らせば、B社の原告以外の全ての債権者に対する債務が支払われた後に残る損失を負担すべき社会的責任があり、また、原告のような中小企業においては、金融機関や取引先からの信用は最も重要なものであるところ、原告が突如として6億円を超える不良債権を抱えるようになったという事態は、金融機関や取引先からの不信を招き、その状態が長期化すればするほど信用を喪失することになるため、原告においては、B社の銀行借入金を代位弁済し、解散後の清算事務を滞りなく遂行し、B社の破産という母体会社である原告にとっての信用喪失の最たる事態を避けつつ、B社の清算を結了させることが必要とされる状況にあったのであるとしたうえで、債務免除は、基本通達9-4-1の定めの内容等に照らしても、経済的合理性が認められるというべきであり、これが不合理であるとの立証はされていない以上、本件債務免除益は寄附金には該当しないと主張した。   3 本件処理費の支払に係る不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権の益金算入時期 (1) 被告の主張 被告は、実際には建物解体業務を外注した事実などなく、建物解体業務自体が行われていないにもかかわらず、乙は、処理費請求書を作成して原告宛てに郵送し、これらの建物解体業務が原告の委託に基づき現実に実施されたと軽信している本件代表者をして、処理費合計103万9,230円(税込み)を振り込ませて領得したものであり、原告は、乙の領得行為により、処理費の振込みと同時に同額の損害又は損失を被るとともに、乙に対する同額の本件損害賠償請求権等を取得したこととなるとして、乙に対する損害賠償請求権等は、原告の平成28年3月期の益金の額に算入されるべきものであると主張した。 (2) 原告の主張 原告は、基本通達2-1-43が、「他の者」に対する損害賠償請求権につき異時両建て等を認めている理由は、①相手方に損害賠償責任があるのかどうかについて当事者間に争いがあることが少なくないこと、②仮に、相手方に損害賠償責任のあることが明確であるとしても、具体的にいかなる金額の損害賠償を受け得るのかについては、当事者間の合意又は裁判の結果等を待たなければ確定しないのが普通であること、③仮に、その損害賠償金の支払を受けること及びその額について当事者間に合意があったとしても、相手方の支払能力などからみて、果たして実際にその支払を受けることができるのかどうかについて問題のある場合が少なくないことにあり、乙に対する損害賠償請求権等についても、上記①ないし③の理由はそのまま妥当するものであるから、損害賠償請求権等については、原告の平成28年3月期の益金の額に算入しなければならないものではないと主張した。   【東京地方裁判所の判断】 東京地方裁判所は、認定事実に基づき、次のとおり判決を言い渡した。   1 本件金銭債権の額を貸倒損失として損金の額に算入することの可否 裁判所は、乙は■■から、解体事業に実体がないことが判明した後の平成27年7月から債務免除の日までの間に、合計512万2,000円の送金を受け、さらに、債務免除の日から平成28年5月1日までの間にも、合計70万5,000円の送金を受けていることが認められ、乙は、債務免除の前後においても、■■との間で金員を受領できるような関係を有しており、債務免除の時点において、乙には一定程度の資力があったことがうかがわれるとしたうえで、債務免除までの間に、乙の資産状況等について具体的な確認がされていないことも踏まえると、債務免除の時点において、B社の乙に対する損害賠償請求権等が回収不能であることについては、単なる見込み以上のものとして客観的に認識できる状況にはなかったというほかなく、その全額が回収不能であることが客観的に明らかではなかったものと認めるのが相当であるという判断を示した。 さらに、本件代表者について、裁判所は、B社代表取締役である乙の業務執行が法令に違反するような場合において監視義務を怠った取締役(本件代表者)は、当該会社に対して損害賠償責任を負うものと解されることから、債務免除の時点において、B社は、乙に対して損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を、本件代表者に対して損害賠償請求権を有しており、それらの債権の全額が回収不能であることが客観的に明らかではないと認められる以上、これらの損害賠償請求権等を代位行使することによって回収を図り得る原告のB社に対する金銭債権についても、その全額が回収不能であることが客観的に明らかではないというべきであり、原告の金銭債権の額については、基本通達9-6-2又は同9-6-1(4)の適用を受けるものではなく、貸倒損失として、原告の平成28年3月期の損金の額に算入することはできないというべきであると結論を導いた。   2 本件債務免除によりB社に供与された経済的な利益の寄附金該当性及びその額 裁判所は、原告の主張を踏まえたうえで、原告が、B社の乙に対する損害賠償請求権等や本件代表者に対する損害賠償請求権の代位行使等を自粛し、債務免除をしてまで、B社の清算を速やかに結了させなければ、取引先や金融機関に対する信用が喪失していたと認めることはできず、債務免除の経済的合理性が直ちに基礎付けられるともいえないとして、何らの給付等の対価や代償を受けることなく行われた債務免除が、客観的にみて法人の収益を生み出すのに必要な費用又は法人がより大きな損失を被ることを避けるために必要な費用であって、その費用としての性質が明白であり明確に区別し得るものであるとは認められないことから、債務免除益は寄附金に該当するというべきであるという判断を示した。 さらに、裁判所は、債務免除による寄附金の額について、債務免除に係る債務相当額と解すべきであるから、原告による債務免除に係る債務相当額である6億1,504万9,280円から、平成27年4月1日から同月30日までの間に原告のB社に対する金銭債権の一部について返還がされたものと評価できる2億156万6,739円を差し引いた4億1,348万2,541円と認めるのが相当であると結論を導いた。   3 本件処理費の支払に係る不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権の益金算入時期 裁判所は、認定事実に基づき、遅くとも平成27年7月30日の時点において、乙が、原告に実体のない解体事業を行わせ、処理費103万9,230円の損害又は損失を被らせたことを理由とする原告の乙に対する本件損害賠償請求権等が存在していることは容易に認識できる状況にあったというべきであり、その権利行使が期待できないといえるような客観的状況にはなかったと認められるとして、損害賠償請求権等については、平成28年3月期において、その収入すべき権利が確定したというべきであり、その益金の額に算入すべきものということができるという判断を示した。 原告の主張に対して、裁判所は、基本通達2-1-43について、損害賠償請求の相手方が「他の者」である場合には、相手方に損害賠償責任があるのかどうかについて争いがあることが少なくなく、仮に、相手方に損害賠償責任があることが明確であるとしても、具体的にいかなる金額の損害賠償を受け得るのかについては、当事者間の合意又は裁判の結果等を待たなければ確定しないのが通常であることなどを考慮したためであり、その一方で、「他の者」以外の法人の役員又は使用人による横領等によって損害を受けた場合には、通常、損害の発生時における権利の内容及び範囲等が明らかであり、損害賠償請求権はその時において権利が確定したものということができることから、法人税法における益金の基本的な認識基準である権利確定主義の観点に照らし、被害発生事業年度において、損失の額を損金の額に算入するとともに損害賠償請求権を益金の額に算入させることとしており、法人と損害賠償請求権の相手方との関係性を踏まえて異なる取扱いをすることを認めたものであるという解釈を示した。 そのうえで、認定事実に基づき、乙は、本件代表者の子であり、平成27年3月31日まで本件代表者が代表取締役を務める原告の従業員であって、原告における解体事業に係る業務は乙に一任されており、乙が原告を退職する前後で、本件解体事業に対する乙の関与の在り方に実質的な変更があったとも認められないことから、原告と乙との関係性、解体事業の業務の態様などに鑑みると、処理費の支払等に係る損害についても、実質的には原告の従業員と同視できる乙の不法行為によって生じたものと評価できる基本通達2-1-43が、「他の者」からの支払を受ける損害賠償金につき上記のような取扱いを認めることを前提にしても、損害賠償請求権等につき平成28年3月期においてその権利が確定したとして平成28年度の益金の額に算入させたことは、同通達の趣旨に沿うものということができ、それをもって違法であるということはできないという結論を導いた。   4 結論 東京地方裁判所は、上記の判断を総合して、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却する判決を言い渡した。   【判決の特徴】 固有名詞が黒塗りになっている部分が多く、読み取りづらい点もあったが、架空の解体事業については、乙が主体に行ったものではなく、首謀者■■によって仕切られており、乙は、架空の外注費の一部を直接領得していただけでなく、首謀者から金銭を受け取っていたようである。 損害賠償請求権の益金算入時期に関する争点では必ず問題になる「他の者」の範囲についても、多くの判決と同様、本判決でも、原告代表者の子であり従業員でもあった乙を「他の者」ではないという判示をしており、いわゆる「同時両建説」に依拠した判断となっている。 個人的には、原告代表者による、B社の原告以外の全ての債権者に対する債務が支払われた後に残る損失を負担すべき社会的責任があり、B社の銀行借入金を代位弁済し、解散後の清算事務を滞りなく遂行し、B社の破産という信用喪失の事態を避けつつ、B社の清算を結了させることを優先した判断は、経営者としては実に立派なものであったと評価するが、課税庁も裁判所も、そうしたビジネス上の倫理については無関心だったようである。   1 国税不服審判所の裁決について 原告は、訴訟提起に先立ち、令和2年3月19日、国税不服審判所に審査請求を行い、翌令和3年3月17日付で、裁決が出ているので、その裁決要旨を国税不服審判所の裁決要旨検索システムから引用しておきたい。 (1) 本件金銭債権の額を貸倒損失として損金の額に算入することの可否 (2) 本件債務免除によりB社に供与された経済的な利益の寄附金該当性及びその額 (3) 本件処理費の支払に係る不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権の益金算入時期   2 原告が乙又は本件代表者に対して損害賠償請求権を代位行使できるか 本件の中心的な争点である、原告の有するB社に対する金銭債権の額を貸倒損失として損金の額に算入することができるか否かについて、東京地方裁判所は、債務免除の時点において、B社は、乙に対して損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を、本件代表者に対して損害賠償請求権を有しており、原告は、これらの損害賠償請求権等を代位行使することによって回収を図り得ることから、B社に対する金銭債権についても、その全額が回収不能であることが客観的に明らかではないという判断を示しているが、この判断には疑問が残る。 たしかに、法律上、原告がB社の損害賠償請求権等を代位行使することは可能であるが、法人がその代表者に対して、別の法人の取締役として善管注意義務違反があったことを理由に損害賠償請求権を代位行使することに、どういう経済的合理性があるのかという点について、裁判所は、説明をしていない。具体的には、B社における乙の不法行為について、本件代表者が監視義務を怠ったかどうかを判断する主体は誰なのか。裁判所に判断を委ねる必要があるとすれば原告はさらに裁判費用を負担する必要を生じるし、弁護士等に調査を委ねても同様であろう。仮に、B社が、本件代表者に対する任務懈怠又は善管注意義務違反に基づく損害賠償を請求しないと書面で意思表示をしていれば、原告が、本件代表者に対するB社の損害賠償請求権を代位行使することはできないため、問題は、乙の資力だけに絞られる可能性はあったと考える。しかし、その場合においても、B社による損害賠償請求権の放棄を課税庁はおそらく認めないであろうし、また、裁判所がどのように判断するのかも、不明である。   (了)

#No. 688(掲載号)
#米澤 勝
2026/10/01

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第99回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第99回】   東洋大学法学部教授 泉 絢也   ② データを損益計算ソフトに取込み 「データを適切に損益計算ソフトに取り込むことができない場合」がある。 例えば、損益計算ソフトが新たにリリースされた又はマイナーなブロックチェーン、取引所、サービス又はプロトコル(規格や技術仕様)に対応していないことがある。 これは、各ブロックチェーンやサービスが独自のルールと仕様に基づいて設計されており、トランザクション構造やデータ出力形式が相互に統一されていないため、損益計算ソフト側の対応を困難にさせていることに起因する。 また、一部のブロックチェーンはAPIやデータ提供の仕組みを備えているが、その仕様は統一されておらず、外部ソフトウェアがトランザクションデータを一貫性のある形式で自動取得・自動分類できるような標準化が十分に進んでいないという事情もある。 技術革新のスピードが速く、新しいプロトコルや多様なトークン規格が次々に提案され、導入されるため、費用対効果やリソースの限界等の問題から損益計算ソフト側の対応が追いついていないという側面もある(※)。 (※) オープンソース、モジュール設計、コンポーザビリティ(分散型アプリケーションやプロトコルがシームレスに連携して動作する性質)により、開発者は既存のコードやプロトコルを活用して迅速に新しいサービスを構築できる。この結果、新規チェーンや新規プロトコルが極めて短期間で登場し、市場実装が進む一方で、損益計算・税務インフラ側の対応が後追いになりやすい。 また、取引タイプに着目すると、例えば、異なるブロックチェーンネットワーク間で暗号資産の移転を可能にするプロセスであるブリッジやDEXへの流動性供給に係るトランザクションについて、損益計算ソフトが取引タイプや損益判定を正確に実行できない、判定の精度が粗いなど、損益計算ソフトにおける仕様上の制約に直面することがある。 なお、国内のものに限らず、暗号資産の損益計算ソフトについて、同一のデータを取り込んだ場合であっても、利用するソフトによって損益計算の結果が異なる場合があることに注意が必要である(※)。 (※) 損益計算ソフトによって損益計算の結果が異なるのは、取引タイプごとの損益処理の相違、対応しているCEXやブロックチェーンの種類や取り込み精度、利用している暗号資産の時価の相違等に起因するものと思われる。 ③ 確認を要する取引や年末数量不一致の問題を解消 「確認を要する取引(※1)や年末数量不一致(※2)の問題を解消することが難しい場合」がある。 (※1) 数量エラー(ポジション不足の取引)、未対応のトークン、価格データ未取得のトークン (※2) 損益計算ソフト等で算出された理論上の年末数量と、CEXやウォレットから提示された年末数量の不一致 この段階は、単なる数値の調整作業ではなく、「データが網羅的に取得されているか」という完全性の検証と、「各取引の経済的実態が適切に反映されているか」という実質面の検証とを同時に行う工程である点に特徴がある。 例えば、ビットコインを3BTC譲渡するトランザクションが存在するが、その譲渡時点で、データ上は2BTCしか保有していないとして、損益計算ソフトにおいて数量エラーが表示される場合がある。 このような数量エラーは、例えば次のような場合に発生するが、納税者がその原因を解明できないこともある。 実務上は、数量エラーが発生した場合、単にエラー表示を修正するのではなく、「どの取引が欠落しているのか」、「どのウォレットの移転が反映されていないのか」、「前年残高が正しいか」を1つずつ確認する作業が必要となる。 また、理論上は、「年初に保有していた暗号資産の数量」と「その年中に入手した暗号資産の数量」の合計から、「その年中に手放した暗号資産の数量」を引いた分が「年末の暗号資産の数量」となるはずである。 しかしながら、実際には、損益計算ソフト等で算出された理論上の年末数量と、CEXのサイト、ブロックチェーンエクスプローラー、ウォレット等で表示される年末数量が一致しないことが珍しくない。 この「理論数量」と「実残高」の不一致は、税務調査において極めて重要な論点となり得る。なぜなら、数量の整合性が取れていない場合、取得価額や譲渡原価の計算の前提自体が崩れ、総平均法や移動平均法による取得価額の算定の基礎そのものが不安定となるからである。 年末数量不一致の原因としては、損益計算ソフトに取り込んだCEXやウォレットの取引等のデータに欠落や誤りがあることが考えられる。このような欠落や誤りの原因は、納税者側のヒューマンエラーによる場合もあるが、容易には特定できないことも多い。 また、ブロックチェーン上の記録と取引所内部データとが時間差や内部処理の違いにより完全には一致しないケースもあり、技術的理解を伴わなければ原因究明が困難な場合もある。 いずれも、納税者以外の第三者が解明することは非常に難しいし、場合によっては納税者も完全には解明できないことがある。 数量不一致が残存する場合、取得価額計算や譲渡原価算定に影響するため、税額計算そのものに直接跳ね返る。 もっとも、暗号資産取引の数量整合性を技術的観点から精査するには、ブロックチェーン構造や損益計算ソフトの仕様に対する相応の理解が必要となる。 しかしながら、上記の事情を考慮すると、税務調査の現場では、「すべての取引を当時の状況どおりに技術的・数量的に完全復元すること」を求めるのではなく、「出金の流れや数量の増減について、客観的な資料に基づく合理的な説明が尽くされているかどうか」という点を実質的な判断基準とせざるをえない面がある。 現時点では、税務調査をする側の知識やレベルが納税者や税理士よりも低い場合が通常であることも考慮すると、実務上は、明白な不整合や多額の影響が見込まれる場合を除き、納税者側の合理的説明や計算過程の整合性が重視せざるをえないであろう。 なお、ブロックチェーンの記録には、スマートコントラクトとやりとりしたもの、悪意のある第三者が勝手に無価値又は少額のトークン(いわゆる詐欺コインなど)を送りつけてきたもの、トランザクションが失敗したものなどが含まれる。 これらは「数量変動を伴わない表示上のトランザクション」や「経済的実体を伴わないトークン付与」を含むことがあり、損益計算ソフト上ではエラーや未分類取引として表示される原因となる。 このため、納税者からすると身に覚えのないトランザクションや、自身の意思で操作したのか判断がつかないトランザクションが存在することも珍しくない。これらは直接的には損益計算に影響を与えない場合が多いが、確認を要する取引の迅速な解明を妨げる一因となっている。   (了)

#No. 688(掲載号)
#泉 絢也
2026/10/01

〈会計基準等を読むための〉コトバの探求 【第13回】「「収益性の低下に基づく簿価切下げの方法」とは何か」

〈会計基準等を読むための〉 コトバの探求 【第13回】 「「収益性の低下に基づく簿価切下げの方法」とは何か」   公認会計士 阿部 光成   ◆はじめに 重要な会計方針の開示に際して、棚卸資産の評価基準及び評価方法において、例えば、「総平均法による原価法(貸借対照表価額は収益性の低下に基づく簿価切下げの方法により算定)」と記載している事例がある。 この「収益性の低下に基づく簿価切下げの方法」とは何であろうか。 今回は、「収益性の低下に基づく簿価切下げの方法」について取り上げる。 なお、本稿では、「企業会計原則」などからの引用に際しても、「たな卸資産」の表記を「棚卸資産」と表記している箇所があることをお断りしておく。   ◆「企業会計原則」 「企業会計原則」は、棚卸資産の貸借対照表価額は、原則として取得原価によると規定し、時価が取得原価よりも下落した場合には時価による方法を適用して算定することができるとしている。そして、棚卸資産に低価基準を適用する場合に生ずる評価損は、原則として、売上原価の内訳科目又は営業外費用として表示しなければならないとする(「企業会計原則」第三貸借対照表原則五のA、注解(注10)たな卸資産の評価損について)。 ここでは、「低価基準」の用語が用いられている。   ◆低価基準 このように、「企業会計原則」は「低価基準」の用語を用いており、「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書 第四 棚卸資産の評価について」(昭和37年8月7日、大蔵省企業会計審議会中間報告。以下「連続意見書 第四」という)は、原価主義に対する例外としての低価主義を容認していると説明している(「連続意見書 第四」第一、一)。 そして、「連続意見書 第四」は、その「三 低価基準」の「1 原価時価比較低価法」において、低価主義を具体的に適用するための評価基準を低価基準と名付けるとし、低価基準は、価格変動に基づいて、期末棚卸資産の取得原価が時価を超える事実が発生している場合には、時価をもって期末棚卸資産の評価額とし、取得原価が時価を超えていない場合には、取得原価をもって期末棚卸資産の評価額とする評価基準であると述べている(「連続意見書 第四」第一、三、1)。 これらの規定を踏まえ、かつては、棚卸資産の評価基準及び評価方法として、「低価基準」や「低価法」の記載が見られた。   ◆「棚卸資産の評価に関する会計基準」の公表 2006年7月5日に、「棚卸資産の評価に関する会計基準」(企業会計基準第9号。以下「棚卸資産会計基準」という)が公表された。 棚卸資産会計基準は次のように規定している。 また、公開草案に対する「主なコメントの概要とそれらに対する対応」では、「低価法の強制適用について」と論点の項目を示し、企業会計基準委員会は、次のようにコメントへの対応を記載している。 このため、棚卸資産会計基準の適用後、私は、棚卸資産の評価基準及び評価方法については、「低価法」と記載するものと考えていた。 ところが、棚卸資産会計基準で示された考え方は「原価法」であるという。 確かに、棚卸資産会計基準は次のように記載している(アンダーラインは筆者が挿入)。   ◆「収益性の低下に基づく簿価切下げの方法」の記載へ 棚卸資産会計基準で示された考え方が「原価法」であるとすると、棚卸資産の評価基準及び評価方法の記載は、それまでの「低価法」から「原価法」へと記載することになってしまう。 おそらく、棚卸資産会計基準の公表により、多くの方が「低価法への一本化」になると解していたと思われるが、それが「原価法」と記載することになると、会計処理が後退するように見えてしまう。 そこで、棚卸資産会計基準で示された考え方が「原価法」であることを踏まえつつ、前述した同会計基準36項の規定に鑑みて、冒頭記載のように、例えば、「総平均法による原価法(貸借対照表価額は収益性の低下に基づく簿価切下げの方法により算定)」として、「原価法」に対するカッコ書きとして、「収益性の低下に基づく簿価切下げの方法」を加えたものと解される。 棚卸資産会計基準36項では、「これまでの低価法を原価法に対する例外と位置付ける考え方は、取得原価基準の本質を、名目上の取得原価で据え置くことにあるという理解に基づいたものと思われる」と記載されており、会計学において、原価法と低価法の関係の整理の仕方は論者によって様々と解されるが、それでも、会計基準等としては、「収益性の低下に基づく簿価切下げの方法」という考え方は、かつての「低価法」の考え方と異なるものと整理すべきと解される。   (了)

#No. 688(掲載号)
#阿部 光成
2026/10/01
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