令和7年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和7年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
2026年5月14日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.668を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.159- 「給付付き税額控除の具体案の公表と論点」 東京財団 シニア政策オフィサー 森信 茂樹 2026年4月23日の本誌(掲載号:No.666)は《編集部レポート》として、先日筆者が責任者として取りまとめた東京財団の「給付付き税額控除の具体的制度設計」について報じた。 筆者のほかに佐藤主光一橋大学教授、土居丈朗慶應義塾大学教授、小黒一正法政大学教授の計4名による共同提言(以下、「提言」)だ。その後、政党や研究会などでこの案を説明し議論を行ったので、今後問題になる論点を論じてみたい。なお、動画も作成しているので、参照いただければ幸いである。 * * * 第1に問題となるのが給付付き税額控除の対象者だ。提言では勤労する個人、つまり厚生年金等の社会保険に加入し保険料を払っている者を対象とした。したがって、年金受給者やパート労働をする第3号被保険者は含まない。 世帯単位にしなかった理由は2つ。ひとつは、給付付き税額控除の制度は勤労して所得が増えると給付が減額・消失する。世帯単位をとる英国や米国では、これを避けようと、世帯の一方(多くは女性)の就労インセンティブが損なわれるという問題が指摘されており、これを回避する必要があるということ。もうひとつは、世帯情報は地方自治体が管理しており、国の制度とすべき給付付き税額控除にはなじまないという点だ。 2番目は、税額控除と給付を組み合わせるという本来の形はやめて給付に一本化したことだ。最大の理由は、先般の岸田定額減税の実施に当たって生じた調整給付(減税し足りない残りの給付)の事務負担を避けるためである。 諸外国の例を見ても、事務の煩雑さを避けるため給付に一本化した例が多い。英国では導入当初、減税は税務当局、残りの給付は社会保障官庁とそれぞれが執行していたが、事務の煩雑性を回避するためユニバーサルクレジットとして社会保障官庁による給付に一本化した。カナダも、逆進性対策としての給付付き税額控除を2026年に給付に統合した。米国では全員申告のため申告時に給付付き税額控除を行っているが、不正が多いことが指摘されている。 3番目にデータベースの構築だ。当面は市町村が保有する所得情報を国が活用することとするが、3年後には本格的な情報連携基盤として英国のような毎月の所得データの取得・情報連携、つまり企業が会計ソフトで管理する毎月の従業員の所得情報(収入や税・社会保険料の源泉徴収額)を活用する「ガバメント・データ・ハブ(仮称)」の構築を目指す。地方自治体の所得は前年所得であり、給付対象者の直近の経済状況を反映していないという大きな問題を避けるためだ。これについては今後改めて解説したい。 * * * 具体案の説明をする。支給開始の所得は社会保険料を払い始める130万円の年収からとした。給付額は20万円(年間)である。これは、130万円を超えると15%程度(本人負担)、つまり20万円程度の社会保険料負担が生じるので働き止めをする「壁」をなくすためである。メインシナリオは、250万円までは年間20万円という定額の給付を維持し、それを超えると給付額は逓減し300万円で消失する。給付の形は台形の右半分というイメージだ。この案では支給対象者は1,500万人超、必要財源は2.8兆円となる。 様々なバリエーションも示しており、例えば250万円まで定額支給を続け、350万円で消失するケースでは1,905万人が対象となり必要財源は3.1兆円と試算される。 国民会議において夏前に具体案をまとめるというが、給付付き税額控除については、プログラム法で工程表に従って順次拡充していく形での導入が望ましい。恒久財源の確保もお忘れなく。 (了)
谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第42回】 「国税通則法と国税徴収法との「一体的」観察・検討」 -国税徴収法の性格の変化:「中間的な通則法」から滞納処分手続法へ- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 1 はじめに これまで本連載をコンメンタール的「読み物」(第1回1参照)として国税通則法の規定を検討してきたが、前回で国税通則法第9章(雑則)までの検討を終えた。 残すは国税通則法第10章(罰則)と第11章(犯則事件の調査及び処分)となったが、この2つの章は租税処罰法ないし租税制裁法のうち、租税危害犯等の租税犯及び租税罰を定める租税刑法に関する規定並びに犯則事件調査及び通告処分を定める租税犯則手続法に関する規定を置く章である。それらの規定のうち煽動犯及び租税犯則手続法に関する規定(税通126条、131条以下)は、平成29年度税制改正(平成29年3月31日法律第4号)前は国税犯則取締法(明治33年3月17日法律第67号)に置かれていた規定が、同改正によって同法の廃止(平成30年4月1日)に伴い国税通則法に移されたものである。 そこで、それらの章に置かれた規定(税通126条~160条)を本連載でどのように取り扱うかを検討したところ、本連載のタイトル及びその基礎にある本連載の構想を考慮して、税法の体系上租税手続法とは区別される租税処罰法の分野に属する上記の規定は本連載では取り上げないことにした(税法の体系については清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)11頁、金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)28-29頁、拙著『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)【86】等参照)。 本連載のタイトルを「国税通則法の構造と手続」としたのは次のような構想(第1回3)が念頭にあったからである。 このような構想からすると、本連載において国税通則法の検討にその実定的構造からアプローチすることは前回で終えたことになるが、その体系的構造からアプローチする場合には、国税徴収法の検討がなお課題として残されていることになる。すなわち、国税徴収法は、国税通則法と同じく、租税実体法に対して目的従属的関係にある租税手続法に属しており、しかも国税通則法の制定前には「いわば中間的な租税通則法」(租税徴収制度調査会「租税徴収制度の改正に関する答申」(昭和33年12月。以下「租税徴収制度調査会答申」という)4頁)ないし「中間的な通則法」(税制調査会「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)」(昭和36年7月。以下「国税通則法制定答申」という)2頁)としての性格をもつと考えられていたことからすると、税法学の体系の観点からは、国税通則法と「一体として」観察し検討すべきものであり、むしろそうすること(国税通則法と国税徴収法との「一体的」観察・検討)によって国税通則法の実定的構造の特色もより明らかになるように思われる。 2 「中間的な通則法」としての国税徴収法 さて、租税徴収制度調査会答申は国税徴収法改正の内容及び法形式について次のとおり述べていた(同答申3-4頁。下線筆者)。 ここからは、租税徴収制度調査会答申が「各税法に分散する租税の共通規定を整理統合し、かつ、租税債権の発生、消滅、時効等の総則的規定を整備した租税通則法」(以下「本来的意味での租税通則法」という)の制定を断念し「改正法にいわば中間的な租税通則法としての性格をもたせること」にとどめた理由が、本来的意味での租税通則法を制定するためには「現行の租税の賦課形態についても根本的に検討すべきものが含まれている」点にあったことを、読み取ることができる。 上記にいう「現行の租税の賦課形態についても根本的に検討すべきもの」を検討したところを、国税通則法制定答申は冒頭の「第一 国税通則法制定の趣旨とその法形式」において次のとおり総括的に述べている(同答申1-3頁。第1回2参照。下線筆者)。少し長くなるが主要部分を以下に引用しておこう。 国税徴収法は、この答申でも、「中間的な通則法としての性格を有している」とされていたが、ただ、上記引用文の冒頭で「現行の国税に関する法律」としては明記されているものの、最後の「国税通則法の法形式の定め方」に関しては、意識的にか否かはともかく、少なくとも明示的には言及されていない(「通則法」に「中間的な通則法」も含まれると読めば別であるが)。この点について、次の解説(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和7年改訂・18版〕』(大藏財務協会・2025年)18-19頁。下線筆者)がされてきたところである。 いずれにせよ、国税通則法の制定後も、国税徴収法は単行法として存置されたが、前記1の最後に述べたように両法を「一体として」検討するためには、両法の関係や性格を明らかにしておく必要があるように思われる。 3 賦課徴収制度と申告納税制度における国税徴収法の適用範囲 既に述べたように、租税徴収制度調査会答申が国税徴収法の改正において「改正法にいわば中間的な租税通則法としての性格をもたせること」にとどめたのは、本来的意味での租税通則法を制定するためには「現行の租税の賦課形態についても根本的に検討すべきものが含まれている」と考えたためであろう。そうすると、国税徴収法と国税通則法との関係を検討するに当たっては、「現行の租税の賦課形態についても根本的に検討すべきものが含まれている」ということの意味を更に検討する必要があるように思われる。 まず、そこでいう「現行の租税の賦課形態」の意味から考えてみると、旧国税徴収法(明治30年3月29日法律第21号)では「賦課権と徴収権は相互に補完して租税債権の実現に奉仕するもの」(税制調査会「国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)」(昭和36年7月。以下「国税通則法制定答申別冊」という)33頁)として税務官庁が徴収権だけでなく賦課権をも行使することが前提とされていたのに対して、第二次世界大戦後とりわけシャウプ勧告(昭和24年)に基づき申告納税制度が国税に関して広く導入された後は、同制度の下では、税務官庁は賦課権を更正決定によって第二次的に行使することとされ、第一次的には納税者が賦課権の行使による租税債権の確定に対応する納税義務の確定を納税申告によっていわゆる自己賦課(self-assessment)として行うこととされたが、前記にいう「現行の租税の賦課形態」はそのような「租税の賦課形態」を意味するものと解される。 ここで「賦課権」とは、「更正、決定その他税務官庁が租税債権を確定する処分をすることができる権利」(国税通則法制定答申6頁)ないし「すでに成立した租税債権の額を確定するもの」(国税通則法制定答申別冊33頁)をいうが、これは申告納税制度の下では「確定権」と呼ぶべきものである。賦課権と確定権については次の用語法(金子・前掲書154頁)によるのが適切である(前掲拙著【99】【110】参照)。 このように考えてくると、戦前にわが国の税制で一般的に採用されていた賦課課税制度は、現行の賦課課税方式(税通16条1項2号)とは異なり、「賦課徴収制度」と呼ぶべきものであると考えられる。賦課徴収制度については次のような説明がされている(租税法研究会編『租税徴収法研究(上)』(有斐閣・1959年)17頁[桃井直造発言]。傍点原文)。 このような賦課徴収制度を採用した実質的な理由について、次の見解(租税法研究会編・前掲書4頁[杉本良吉発言]。下線・傍点筆者)は徴収面における租税債権の特殊性の観点から説明している。 以上で「租税の賦課形態」の観点から賦課徴収制度と申告納税制度をみてきたが、租税徴収制度調査会の設置(昭和30年12月16日閣議決定)当時の両制度の下において、国税徴収法の適用範囲は次のように整理されていた(杉山宗六『国税徴収法の解説』(中央経済社・1954年)2頁。下線筆者)。 要するに、国税徴収法は、賦課徴収制度の下では、「実体法的地位」にある「賦課の基本的規定」との関係で「手続法的地位」にあり「その全部が適用され」ていたのに対して、申告納税制度の下では、その「適用範囲」が「若干狭小せしめ」られることになった、と整理されていたのである。 ただし、「申告納税制度の採用は、国税徴収法の適用範囲を若干狭小せしめることとなった」という前記の整理は、昭和20年代(下記①②にいう「最初」ないし「当初」)における申告納税制度の運用実態(その分析として田中二郎「租税法雜觀」自治研究25巻10号(1949年)39頁、43-44頁参照)を踏まえたものであって、昭和30年代(下記①にいう「最近」、下記②にいう「現在」ないし「今」)以後は、「狭小せしめ」られる「国税徴収法の適用範囲」は「若干」ではなく、申告納税の改善に伴って拡大していったことに注意すべきである(下記①:租税法研究会編『租税法総論』(有斐閣・1958年)148頁[白石正雄発言]、下記②:同149頁[平田敬一郎発言])。 4 納税者主導型租税手続と税務官庁主導型租税手続との接合論 さて、前記の整理を踏まえて考えると、租税徴収制度調査会答申が本来的意味での租税通則法を制定するためには「現行の租税の賦課形態についても根本的に検討すべきものが含まれている」と述べたのは、「国税徴収法の適用範囲」のうち申告納税制度の下で「若干狭小せしめ」られることになった部分を問題にしたものと解される。 その部分には、前記の国税通則法制定答申のいう「このような租税の賦課権と徴収権とについて、その区分が明らかにされていない」部分が含まれると考えられるが、その部分は、国税通則法制定答申の当時には「まずまず申告納税制度は軌道に乗りつつある」(前記②)ことに伴い、拡大しかつ実際上も重要性を増していたことからすると、その部分においては、申告・納付といういわば「納税者主導型租税手続」と更正決定・徴収といういわば「税務官庁主導型租税手続」との関係が明確でなく両者の接合が十分かつシームレスにはされていないところがあったということが、国税通則法制定答申において問題とされたものと考えられるのである。 この問題を論ずる議論を「納税者主導型租税手続と税務官庁主導型租税手続との接合論」ということにすると、「国税通則法の隠れた趣旨」を申告納税制度の拡大・一般化に認める次の見解(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])B13-B18頁[須貝脩一執筆]。下線筆者)の説くところは、その議論の核心を突いたものと考えられる。少し長くなるが、その議論の検討において重要と思われる部分を引用しておこう。 このように申告納税制度の拡大・一般化を国税通則法制定の「隠れた趣旨」として捉えると、納税者主導型租税手続と税務官庁主導型手続との接合論は、国税通則法(昭和37年4月2日法律第66号)の制定によって所期の目的を基本的には達成したとみてよかろう。すなわち、両手続は、従来から賦課権として議論されてきた確定権については「第2章 国税の納付義務の確定」で、また、徴収権については「第3章 国税の納付及び徴収」で、さらに、それらの権利の期間制限については「第7章 国税の更正、決定、徴収、還付等の期間制限」で、それぞれシームレスに接合されて規定され、その後、特に平成23年度[11月]税制改正における「第7章の2 国税の調査」の創設によって、両手続の接合について更なる緊密化が図られてきたのである。 5 「中間的な通則法」から滞納処分手続法へ このように考えてくると、国税通則法は、納税者主導型租税手続と税務官庁主導型租税手続との接合を図るという点では、その名に相応しい内容の規定を整備してきたものと評価することができよう。 ただ、納税者主導型租税手続のうち「国税の納付」(税通第3章第1節)に接合された「国税の徴収」(同章第2節)という税務官庁主導型租税手続のうち最終手続である「滞納処分」(同節第2款)の実質的内容は、国税徴収法がこれを定めるという形で「わが国の租税徴収制度の基本法ともいうべき国税徴収法」(「租税徴収制度調査会第一回会合における大藏大臣(一万田尚登)の挨拶」三ヶ月章=加藤一郎監修・青山善光=碓井光明編『租税法制定資料全集―国税徴収法(昭和改正編)(1) 日本立法資料全集151』(信山社・2002年)69頁)は存置されてきたのである。 勿論、「国税通則法が制定された後の国税徴収法は、その名称こそ従来と同じであるが、その内容において実質的に滞納処分手続法として、これに直接関係する規定のみが残存し、それ以外の規定は、あげて国税通則法に移された」(志場ほか共編・前掲書19頁。下線筆者)が、「滞納処分に関する手続の内容は、・・・・・・、すべて国税徴収法にゆだねることとしているので、[国税]通則法では、ただどのような状態になったときに滞納処分が行われることになるか、及び、滞納処分は、いわゆる自力執行権として、裁判所等の他の国家機関の手を煩わすことなく、債権者たる税務官庁自らが、国税徴収法の規定により、これを行う旨を規定しているにとどまるのである。そしてこれらの関係は、本法[=国税通則法]制定前と変わりはない。」(同70頁。下線筆者)と考えられてきたのである。 6 おわりに 最後に、今回の検討を総括すると、昭和30年代に始まった国税徴収法の改正論議は、「国税徴収法を拡充してこれを通則法にすべきではないかという議論」(志場ほか共編・前掲書18頁)としては展開されず、「中間的な通則法としての性格」(同頁)を有していた国税徴収法を滞納処分手続法にいわば「純化」させ、同法の通則法的な性格の規定を新たに制定する国税通則法に移して統括し、かつ、納税者主導型租税手続と税務官庁主導型租税手続との接合論と結びつき、もって本来的な意味での租税通則法すなわち「各税法に分散する租税の共通規定を整理統合し、かつ、租税債権の発生、消滅、時効等の総則的規定を整備した租税通則法」(租税徴収制度調査会答申3頁)を目指す方向で展開されてきた、ということができよう。 このような認識に基づき、「国税通則法の構造と手続」という本連載においては、次回以降、国税通則法と国税徴収法との「一体的」観察により、税務官庁主導型租税手続の最終段階の手続として国税徴収法による滞納処分手続を検討し、その検討内容・結果をコンメンタール的「読み物」として述べていくことにする。 なお、本連載における筆者の一貫した問題意識となっているところであるが、前記の一連の改正論議は、「納税義務に関する基本的租税債権債務の法律関係が、行政手続によるという他の特徴によつておおいかくされてはならない。その意味において、租税法律関係の明確化が納税者の権利利益の保護に資し、また、行政官庁の手続きを誤りなからしめるために、要請される。」(中川=清永編・前掲書E13頁[須貝脩一=清永敬次執筆])という「租税基本法的要請」(同E16頁[同])に十分に応えるものではなかったということをここでも確認しておきたい(第10回2も参照)。 (了)
社長からの無理難題の 断り方・かわし方 第5回 国外資産で得た所得の申告 〈JUN税会〉 税理士 三木 孝夫 * * 解 説 * * 1 事実関係の把握 社長へのヒアリングと現状確認により、以下の事実が確認されました。 2 法的論点の整理 (1) 所得税の課税所得の範囲 日本の居住者は、原則として日本国内はもちろん国外において稼得した所得も課税対象とされ、非居住者は、日本国内で稼得した「国内源泉所得」のみが課税対象とされますので、当該社長が日本の居住者の場合は、国外資産から生じた不動産所得、株式の譲渡所得や配当等も日本で申告する必要があります。 個人の区分 定義 課税所得の範囲 居住者 非永住者以外の居住者 次のいずれかに該当する個人のうち非永住者以外の者 ・日本国内に住所を有する者 ・日本国内に現在まで引き続き1年以上居所を有する者 国内及び国外において生じたすべての所得 非永住者 居住者のうち、次のいずれにも該当する者 ・日本国籍を有していない者 ・過去10年以内において、日本国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である者 国外源泉所得以外の所得及び国外源泉所得で日本国内において支払われ、又は国外から送金されたもの 非居住者 居住者以外の個人 国内源泉所得 (2) 共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換 経済取引のグローバル化が進展する中で、外国の金融口座を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するために、OECDで策定された「共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)」に従って、金融機関が非居住者に係る金融口座情報を税務当局に報告し、これを各国の税務当局間で互いに提供することとなりました。 CRSは日本では平成27年度の税制改正により導入され、準備期間を経て平成30年に、平成29年分の口座情報に関して初の情報交換が行われました。令和6事務年度は、日本居住者のCRS情報約275万件(個人口座約272万件、同残高約9.6兆円、法人口座約3万件、同残高約8.1兆円)を101か国・地域の外国税務当局から受領し、外国居住者のCRS情報約33万件(個人口座約31万件、同残高約1.3兆円、法人口座約2万件、同残高約6.7兆円)を84か国・地域の外国税務当局に提供しました。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【CRSに基づく自動的情報交換の実施時期に関するコミット状況】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (引用:「令和6事務年度 租税条約等に基づく情報交換事績の概要」│国税庁) CRSの参加国・地域は現在100を超えていますが、米国はCRSに参加していません。米国では2010年に「外国口座税務コンプライアンス法(FATCA:Foreign Account Tax Compliance Act)」が成立しており、独自の情報収集システムを有しているためで、その一方で自国にある外国人の口座情報を他国へ一律に提供する仕組みを持っていません。ただし、日本と米国の間には「日米租税条約」があり、税務調査や租税回避の疑いがある場合には、両国の税務当局間で情報交換が行われる仕組みが整備されていますので、仮に米国に資産を移しても、必要に応じてその情報が日本へ伝わる可能性は十分にあるといえます。 日本の税務署は受領したCRS情報の利用を重点項目の一つに掲げています。税務署は国外で所得が生じているにもかかわらず確定申告にこれらの所得が反映されていないことを把握し、税務調査へ着手しています。 またCRS情報は口座情報であることから、金融資産等に対する収入金額であって所得金額ではありません。例えば株式の売買を繰り返している場合には、税務調査時に各株式の取得価額を示して譲渡損益を証明していく必要があるものの、過去の取引明細書が手元になく、取引明細書の再発行には海外の金融機関の窓口に出向く必要がある場合もありますので、納税者が取得価額等を証明できなければ大きな修正額につながることにもなります。 なお申告書作成において、海外の金融口座を通じて取得する利子・配当所得の円換算は、譲渡所得とは異なりTTBが使用不可であることや、日本が外国と締結している租税条約(協定)で、利子・配当等の投資所得について現地で課される所得税が軽減・免除される場合、その軽減・免除される額を超えて課された外国所得税の額があったとしても、その超える外国所得税の額は外国税額控除の対象不可であること等、国外所得特有の論点もあります。 (3) 国外財産調書制度 近年、国外財産の保有が増加傾向にある中で、国外財産に係る課税の適正化が喫緊の課題となっていることなどを背景として、平成24年度の税制改正により国外財産調書制度が導入され、平成26年1月から施行されています。 具体的には、その年の12月31日において、その価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を保有する居住者(非永住者を除く。)は、その年の翌年の6月30日までに、当該国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した「国外財産調書」を、所轄税務署長に提出しなければならないこととされています(国外送金等調書法5①本文)。 (引用:「国外財産調書の記載例」│国税庁) 期限内に国外財産調書の提出等がない場合に、その国外財産に関する所得税等の申告漏れが生じたときは、その国外財産に関する申告漏れに係る部分の過少申告加算税等について、5%加重される過少申告加算税等の加重措置がとられています。 (4) 公社債・株式等に係る課税の方法と上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除が認められるのは、日本国内の金融口座(内閣総理大臣の登録を受けた金融商品取引業者)を通じて売委託等をして発生した上場株式等の譲渡損失(償還損失)に限定されています。 したがって、国外の金融口座を通じて売委託等をして発生した上場株式等の譲渡損失等は、日本国内の金融口座を通じて売委託等をした上場株式等の譲渡益と相殺することはできるものの、国内外の金融口座を通じて取得する上場株式等の利子所得・配当所得との損益通算や3年間の繰越控除はできません。 したがって、日本国内の金融口座で売委託等が可能な銘柄は、当該金融口座を通じて売買したほうが税制的には有利といえます。 3 本件事例への当てはめ (1) 居住者区分の判定 社長は日本国籍を有し、日本国内に住所を有しているため、「非永住者以外の居住者」に該当します。したがって、日本国内で生じた所得だけでなく、国外で生じたすべての所得(全世界所得)について、日本で申告・納税する義務があります。 (2) 未申告所得の整理 現地で完結して日本へ送金していない場合であっても、シンガポールの不動産から生じる賃貸収入(不動産所得)、現地証券口座での株式売買益(譲渡所得)や配当金(配当所得)、銀行預金の利息(利子所得)はすべて日本での課税対象となります。これらについて、各年分の所得を再計算し、過去に遡って速やかに期限後申告を行う必要があります。現地で納付した税金がある場合は、一定の要件のもと外国税額控除の適用を検討します。 (3) CRS情報による把握リスク 社長はシンガポールに金融口座を保有していますが、シンガポールはCRS(共通報告基準)に参加しており、すでに日本との間で金融口座情報の自動的情報交換が実施されています 。日本の税務署は受領したCRS情報の利用を重点項目の一つに掲げています 。税務署は、自動送付されてきた海外口座の情報と国内の確定申告書を照合し、国外所得の申告漏れを容易に把握して税務調査に着手しています 。したがって「海外の口座だから税務署にはばれない」という考えはもはや通用せず、未申告の事実を税務署から指摘されるのは時間の問題と言わざるを得ません。 (4) 国外財産調書の提出義務 社⻑が保有するシンガポールの不動産、上場株式、預⾦の合計額が2億円を超えており、基準額である「5,000万円超」に該当するため、毎年「国外財産調書」を所轄税務署長に提出する義務があります。未提出の場合、税務調査等で申告漏れが指摘された際の過少申告加算税等が5%加重される重いペナルティが課されます。 (5) 上場株式等の譲渡損失の取扱い シンガポールの現地証券会社を通じて行った上場株式等の売買で仮に譲渡損失が生じていた場合、その損失を日本国内の金融口座を通じた上場株式等の譲渡益と相殺(損益通算)することは可能です。しかし、利子所得・配当所得との損益通算や、翌年以降3年間の繰越控除は適用できません。今後の運用においては、国内の証券口座へ移管できる銘柄がないかなど、税務面を考慮した口座の見直しも検討すべきです。 4 実務上の留意点 (1) 速やかな期限後申告書の提出 未申告の国外所得がある場合、速やかに期限後申告書を提出することが最も重要です。自主的に期限後申告を行った場合には、無申告加算税が5%に軽減される場合があります(通則法第66条第6項)。税務調査の通知を受けた後や、更正・決定を受けた後では、より重いペナルティが課されます。 (2) 国外財産調書の提出 5,000万円を超える国外財産を保有している場合には、国外財産調書の提出が必要です。国外財産調書を期限内に提出している場合、その国外財産に関する所得税等の申告漏れがあったときは、過少申告加算税等が5%軽減されます。一方、提出がない場合には5%加重されます。 (3) 今後の取引口座の見直し 海外の金融口座を通じて取得した上場株式等については、損益通算及び3年間の繰越控除が認められません。日本国内の金融口座で売委託等が可能な銘柄については、国内の金融口座を通じて売買したほうが税制的には有利です。損切りのタイミングについても、このような税制上の制約を考慮に入れる必要があります。
〈適切な判断を導くための〉 消費税実務Q&A 【第20回】 「輸入消費税等が過少申告であった場合、仕入税額控除の減少により納税額の不公平はないとして過少申告加算税は免除されるか」 税理士 石川 幸恵 【Q】 外国の提携企業から製品を輸入しています。先日、税関の事後調査で「製品の開発費や金型製作費が輸入消費税等の課税価格に算入されていない」との指摘を受け、輸入消費税等の修正申告と追加納付を行いました。 輸入消費税等が過少申告であったことは受け入れますが、その一方で、当初申告当時、国内取引に係る消費税等の確定申告において仕入税額控除額が少なくなっていたことから、結果として課税期間を通じて国に納付した消費税等は輸入消費税等を適法に申告した場合と同額になっています。 このような場合でも、何か問題は生じるのでしょうか。 【A】 輸入消費税等と国内取引に係る消費税等は別個の納税義務として規定されており、例えば下の表のような違いがあります。 <申告及び納期限について> 輸入消費税等 原則として課税貨物の引取りの時 国内取引に係る消費税等 原則として課税期間の末日の翌日から2か月以内 このため、輸入消費税等を適法に申告した者と、過少申告して仕入税額控除を少なく受けた者の間には納付時期の差による客観的不公平が生じます。したがって実質的な納付額が同じであっても修正申告は必要であり、当該過少申告については、過少申告加算税が課されます。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 輸入消費税等の申告漏れは、税関の事後調査において頻繁に指摘されている。本稿では、税関による調査の実態を確認したうえで、過少申告加算税が適法とされた裁決事例を紹介する。 1 輸入消費税等に関する製品の開発費等の申告漏れと事後調査の実態 税関による最新の事後調査の事績(令和6事務年度)では、3,609者が事後調査を受けており、そのうち2,690者(調査を受けた者のうち74.5%)が申告漏れ等を指摘されている。 当設問のように開発費や金型製作費、無償提供材料(これらは輸入時の課税価格に含める必要がある)の申告漏れは多く、産業用ロボットの開発費用等の申告漏れ6億7,259万円、追徴税額7,220万円という事例が税関ホームページで紹介されている。 なお、当連載【第2回】「外国企業に製造委託する際に送金した技術開発費用や金型製作費に係る消費税の取扱い」も参照されたい。 2 実質プラスマイナスゼロでも過少申告加算税が課される理由 【Q】のように輸入消費税等につき過少であった分、国内取引に係る消費税等の確定申告において仕入税額控除額が減少し、結果的に、適法に申告した者と国への納付額は同じだから、過少申告加算税は不当として争われた裁決事例がある(TAINSコード:F0-5-362)。本件の理解を深めるため、その概要を確認する。 (1) 事実関係 請求人は、バーコードリーダー等を韓国から輸入していた。図のように、外国貨物の引取りの際、開発費等1,000を輸入消費税等の課税価格に算入していなかったため、適法な納税の場合と比べて、100が過少申告となっていた(適法であれば150納付すべきところ50のみ納付)。 しかし、その課税期間の国内取引に係る消費税等の確定申告において、過少であった輸入消費税等100を仕入税額控除できないため、納付税額が100多くなり(150ではなく250)、結果として課税期間を通じて国に納付した消費税等(300)は輸入消費税等を適法に申告した場合と同額となっていた。 (2) 審判所の判断 審判所は(1)の事実関係と法令を踏まえ、次の2つの理由から過少申告加算税は適法と判断した。 ① 輸入消費税等と国内取引に係る消費税等の納税義務の区別 輸入消費税等と国内取引に係る消費税等とは、消費税法上明確に区分されており、両者には別個の納税義務が規定されている(消法4、5、45、47、49、50)。 <輸入消費税等> 保税地域から引き取られる外国貨物を引き取る者が、納税義務者として、引取りの都度、税関長に申告し、これを国に納付しなければならない。 <国内取引に係る消費税等> 国内において課税資産の譲渡等を行う事業者が、納税義務者として、課税期間の末日の翌日から2か月以内に、税務署長に申告し、これを国に納付しなければならない。 別個の納税義務が規定されている以上、過少申告分が国内取引に係る消費税等の納付税額に含まれて申告されていたという事実があっても、過少申告による納税義務違反の事実があったことに変わりはない。 ② 納付時期の差による客観的不公平 上記①でも確認したとおり、輸入消費税等の納期限は原則として引取りの時であるが、国内取引に係る消費税等は原則として課税期間の末日の翌日から2か月以内である。適法に納税した者との差は明らかに存在していることから、国に納付した消費税等が同額であったとしても、客観的不公平が生じていないとはいえず、過少申告加算税が課されるのは適法である。 (3) 修正申告により納付した輸入消費税等相当額の還付(補足) 修正申告により納付した輸入消費税等は仕入税額控除の対象となる。この裁決事例の請求人は、国内取引に係る消費税等につき税務署長に更正の請求を行い、修正申告により納付した輸入消費税等と同額が還付されている。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第92回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 (2) ブロックチェーン分析の税務調査利用 ア ブロックチェーン分析による追跡・調査選定 国税庁は、調査選定の場面においては国内CEXに一定の条件に合致する日本の納税者の情報を照会することで、また、個別の調査の場面においては国内CEXに対して調査対象者の情報を照会することで、〔1〕「国内CEXの口座」を把握できる。 そこから特定の口座が〔2〕「海外CEXやプライベートウォレット」と暗号資産のやりとりをしていることを確認した上で、ブロックチェーン分析によって、〔1〕と〔2〕が同一人物によって管理している兆候を把握できれば、〔2〕を管理している者の身元を特定できる。 また、他に同一人物によって管理されていることが想定される海外CEXの口座やウォレットも把握できる。このような“芋づる式”の把握は、トランザクションの時間的連続性、資金移動パターン、入出金の集約構造等を手がかりに行われる(本連載第90回参照)。 このように、ブロックチェーン分析は、調査選定や個別の調査の場面の双方において有効な調査手法である。 注目すべきことに、ブロックチェーン分析が単なる「追跡手段」ではなく、「調査選定の高度化」にも寄与しうる点である。 例えば、国内CEXの情報から出金先アドレスを特定し、そのアドレスが海外CEX、DeFi(ブロックチェーン上で提供される分散型金融サービスであり、DEXはその一類型)、NFTマーケット等と高頻度で接触している場合には、潜在的な申告漏れリスクが高いと評価され、調査対象として選定される可能性がある。 これは、単に資金の流れを追跡・把握するにとどまらず、オンチェーンデータを用いたリスク評価モデルの構築が可能であることを意味する。 よって、ブロックチェーン分析は、「調査対象のスクリーニング(リスク評価)」と「個別調査における資金の流れの追跡・把握」の双方において有効な調査手法である。 より意図的に暗号資産の匿名性を高めるツール等が利用されている場合にもブロックチェーン分析が有効に機能する。 例えば、次のような場合にも、ブロックチェーン分析を実施することで、トランザクションや資金の流れの追跡、CEXの口座やプライベートウォレットの管理者の解明につなげることができる可能性がある(※)。 (※) Chainalysis「日本における暗号資産のマネーロンダリング―日本の視点から見たグローバルの共通問題―」(2024.11.21)。 もっとも、これらの手法が用いられた場合には、トランザクションの連続性や資金移動の経路に関する分析精度が低下することがある。 具体的には、あるウォレットと別のウォレットが同一人物によって管理されていると評価するための手掛かり(取引の時間的連続性、数量的一貫性、既知のアドレスとの接触状況など)が分断されるため、「このウォレットは当該納税者のものである」と合理的に説明できる度合いが弱まることがある。 その結果、単なる可能性の指摘にとどまり、課税処分を行うのに十分な水準にまで証拠を積み上げることが難しくなる場合がある。 この点からしても、ブロックチェーン分析は万能ではなく、取引所が保有するKYC(顧客確認)情報、ログイン履歴、登録出金先情報、IPアドレス情報等のオフチェーン情報との照合や、金融機関等から収集した資料との照合といった補完的手段が不可欠となる。 ミキシングサービスやクロスチェーンブリッジ、プライバシーコインが利用された場合には、オンチェーンのみで資金移動経路を把握することの技術的困難性が増す。そのため、税務当局にとっては、法的手続に基づく情報取得の重要性が一層高まる。 また、海外CEXや自己が管理するタイプのプライベートウォレットに関する情報取得には制度的な限界があり、CARF(暗号資産等報告枠組み)に代表される国際的な情報交換枠組みや執行協力の実効性が、実務上の成果を左右する。 結局のところ、自己管理型ウォレットのみを用い、オンランプ・オフランプを国外に限定する場合には、現時点では、税務当局による情報把握は著しく制約されることになる。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第185回】 KDDI株式会社 「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2026年3月31日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【KDDI株式会社特別調査委員会による調査の概要】 【KDDI株式会社の概要】 KDDI株式会社(以下、報告書の表記と同じく「KDDI」と略称する)は、「第二電電企画株式会社」として、1984年1月に設立。商号変更、合併などを経た後、2001年4月から現商号。携帯電話の契約数はNTTドコモに次ぎ国内第2位。連結子会社189社(国内129社、海外60社)、持分法適用会社及び共同支配企業47社(国内38社、海外9社)により企業集団を構成している。売上高5,917,953百万円、税引前当期利益1,104,625百万円、資本金141,852百万円、従業員数64,636人(いずれも訂正前2025年3月期連結実績)。本店所在地は東京都新宿区。東京証券取引所プライム市場上場。会計監査人は、PwC JAPAN有限責任監査法人東京事務所(以下、「PwC」と略称する)。 会計不正が発覚したのは、KDDIの連結子会社であるビッグローブ株式会社(以下、「ビッグローブ」と略称する)とビッグローブの子会社であるジー・プラン株式会社(以下「ジー・プラン」と略称する)であった。 ビッグローブは、日本電気株式会社(NEC)においてインターネットサービス等を提供していた BIGLOBE事業部門が分社独立する形で 2006年7月に設立。BIGLOBEブランドを運営するインターネットサービスプロバイダとして、モバイル・固定通信サービスを提供する通信事業を主たる事業としてきた。2017年1月に KDDIの完全子会社となった後、2022年度からトラベル事業等の新規事業(リアライズ事業)への進出を本格的に開始し、2022年12月、新規事業への進出の一環として、自社の企業規模や信用力等を活用して子会社であるジー・プランの広告代理事業を更に拡大するため、広告代理事業に参入している。売上高145,965百万円、うち広告代理事業売上高7,493百万円(いずれも訂正前の2025年3月期実績)。 ジー・プランは、株式会社博報堂、住友商事株式会社及び三井住友カード株式会社の合弁会社として2001年2月に設立。ポイント事業、メディア事業、ポイントプラットフォーム事業及び広告代理事業を主たる事業とする。2011年3月にビッグローブの子会社となり、2017年1月にビッグローブがKDDIの完全子会社となったことに伴い、KDDIグループに加わった。売上高82,377百万円、うち広告代理事業売上高75,717百万円(いずれも訂正前の2025年3月期実績)。 ジー・プランにおける広告代理事業は、2010年12月にジー・プランに入社したa氏が、前職での経験を活かして、2017年度に立ち上げたものであり、a氏は、2022年4月から副部長、2023年4月から部長の役職に就いていた。 【架空循環取引発覚までの経緯】 2018年 2月、a氏主導で開始したジー・プランの広告代理事業での数十万円の赤字発生及び数千万円単位の売上目標未達による焦りから、赤字補填及び売上目標達成のために架空売上の計上を考える 8月、遅くともこの時期から本件架空循環取引を開始 2020年 4月、広告代理事業増員のため、b氏がジー・プランに入社 2022年 12月、ビッグローブの新規事業開拓を企図し、同社が関与する商流を介しKDDIのグループファイナンスを活用 2023年 1月、a氏及びb氏がビッグローブに兼務出向 2025年 取引金額の増加とともに架空循環取引に係る代理店数が拡大(計21社) 2025年 2月、経営戦略会議で、KDDI代表取締役社長(当時)が「広告代理事業の急成長は不自然」と懸念を表明したことに伴い、ビッグローブ、ジー・プランの広告代理事業の管理体制強化として、社内監査役と内部監査部門により取引の妥当性に関する調査を実施(以下は、「特別調査委員会設置の経緯」のとおり) 【特別調査委員会による調査結果報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 KDDIは、2025年度の監査役監査において、連結子会社であるビッグローブ及びビッグローブの子会社であるジー・プランの広告代理事業における取引の妥当性について、社内監査役及び内部監査部による予備調査を実施し、その過程で、2025年10月、会計監査人であるPwCから、ジー・プランの広告代理事業において不適切な取引が行われていた疑いがある旨の指摘を受けたことを踏まえ、外部の公認会計士も交えた社内調査を実施した。 これらの調査では、不適切な取引の存在を裏付ける客観的な証拠や関係者の供述は得られなかったが、2025年12月中旬、一部の広告代理店からジー・プランに対する入金が遅延したことを契機として、不適切な取引を実行していた子会社従業員による自認が得られ、これを受けて、売上高等が過大に計上されていた可能性が判明した。 さらに、KDDIは、外部の弁護士及び公認会計士を交えた社内調査チームを設置し、追加調査を実施した結果、2026年1月上旬、客観的な証拠が確認され、広告代理事業において、子会社の従業員が関与し、広告運用の実体のない架空循環取引が行われていた疑いの存在が確認された。 これを受け、KDDIは、本件に関する事実関係やその原因等を解明するため、より専門性及び客観性の高い調査を実施する必要があると判断し、2026年1月14日、取締役会において、外部の弁護士及び公認会計士を委員とする特別調査委員会を設置することを決定し、調査を委託した。 2 特別調査委員会による調査結果の概要 本項では、特別調査委員会が、2026年3月31日に開催された説明会で使用した資料を基に、調査結果をまとめたい。 (1) 架空循環取引の概要 特別調査委員会は、事実関係について、次のとおりまとめている。 次いで、架空循環取引の概要は次のとおりである。 (2) 動機 特別調査委員会は、各循環取引の実行者であるa氏及びb氏の動機について、次のようにまとめている。 (3) 隠蔽工作 特別調査委員会は、a氏及びb氏による架空循環取引が長く発覚しなかった理由として、発覚を免れるための隠蔽工作が行われていたことを指摘している。 (4) KDDI連結決算に与える影響額 特別調査委員会による会計上の影響額については、次表のとおりである(単位:億円)。 会計年度 売上高 売上総利益 外部流出額 2023年3月期以前 ▲417 ▲24 ▲17 2024年3月期 ▲543 ▲56 ▲37 2025年3月期 ▲824 ▲169 ▲105 2026年3月期 第3四半期累計 ▲676 ▲250 ▲171 合 計 ▲2,461 ▲499 ▲329 3 原因分析(調査報告書85頁以下) 特別調査委員会は、原因分析の初めに「総論」として、次のように総括している。 そのうえで、「広告代理事業を自ら行う企業としての内部統制の問題」として、ジー・プランとビッグローブについて、次のようにまとめている。 ジー・プラン ビッグローブ 全社 広告代理事業に関する知見の全社的な不足とリスク感度の不足 第1線 特定の担当者への業務の集中と牽制機能の不全 ・業務の属人化 ・下流代理店に対する発注及び支払プロセスにおける不十分な権限分離 第2線 事業部門の不十分な管理 ・与信管理の不十分さ ・下流代理店の受注能力の不検証 ・取引の実在性に関する確認の不足 - グループファイナンスに関する不十分な判断 第3線 不十分な内部監査 次いで、「子会社管理体制の問題」は、次のとおりまとめられている。 ビッグローブ KDDI 全社 広告代理事業に関する知見の全社的な不足とリスク感度の不足 直接管理 部門 上記「第1線」と同じ問題が存在 ・広告代理事業に対するリスク検知の不足 ・業務分掌状況の把握不足 ・子会社管理体制の不足 コーポレート 部門 与信管理の不十分さ ・グループファイナンス管理における極度額偏重 ・管理機能の分散 監査部門 取引の実在性や業務の適正性の検 証を伴う内部監査の不実施 広告代理事業の不正リスクに対するより専門的な内部監査の不実施 そのうえで、各社における原因の項目として次のように上げている。 4 再発防止策の提言(調査報告書119頁以下) 特別調査委員会は、再発防止策についても、総論としてまとめたうえで、各社に対する提言を示している。こちらも順を追って見ていきたい。 まず「総論」として、「同種不正を防ぐため自社として検討すべき再発防止策」は次のとおりである。 ジー・プラン ビッグローブ 全社 新規事業に係る不正リスク評価及びリスク管理体制の強化 第1線 事業部門の体制見直しによる不正の機会の排除 ・業務の属人化の解消 ・発注及び支払プロセスにおける権限分離の徹底 第2線 コーポレート部門による事業精査及び不正検知機能の強化 ・与信管理の強化 ・購買先適格性確認手続の整備 ・売上の計上及び支払プロセスにおける確証確認 - キャッシュフローを重視した経理 第3線 内部監査体制及び監査手法の強化 次に、「同種不正を防ぐため親会社として検討すべき再発防止策」である。 ビッグローブ KDDI 全社 新規事業に係る不正リスク評価及びリスク管理体制の強化 ・知見が乏しい事業への理解促進 ・リスク感度の強化・向上 直接管理 部門 上記「第1線」と同じ再発防止策が妥当する。 ・事業内容の精査及びリスク検知体制の整備 ・子会社の内部統制・業務分掌の実態把握強化 ・出資先管理の人的基盤強化 コーポレート 部門 与信管理における監督 ・グループファイナンスにおける資金需要の妥当性確認強化 ・子会社管理の強化と財務管理機能の集約・統合 監査部門 子会社監査手法の見直し グループ内部監査の高度化 続いて、特別調査委員会による、各社における再発防止策の提言を見ておきたい。 【調査報告書の特徴】 手前味噌な引用で恐縮だが、筆者が共著者の一人として2019年2月に刊行した『新版架空循環取引』(清文社)の帯(腰巻き)にある朱書きのコピーである。KDDI子会社による架空循環取引もまた、資金の供給が止まったことをきっかけにあっけなく破綻した。社外流出した329億円の資金が戻ってくることはおそらくないだろうし、KDDIは、結果として、のれんの減損に伴う損失も646億円計上することになった。 a氏が架空循環取引に手を染めた契機は、広告代理事業で生じた数十万円の損失を隠蔽するためだった。その後約7年間、総額2,461億円の架空売上を作出してきたa氏は、架空循環取引が発覚した時点では「部長職」にまで出世していた。しかし、その出世の理由となった広告代理事業の売上拡大の背景には、売上高の99.7%が架空循環取引で占められていたという特異性があった。 調査報告書公表日である2026年3月31日に開催された「特別調査委員会の調査結果に関する説明会」では、KDDIの松田浩路代表取締役社長が、自ら先頭に立って、再発防止に加え、強固なグループガバナンス構築に向けた取組みを推進すること、親会社が子会社事業に対する強い関心を持ち、グループ全体がこれまで以上に結束を深める契機としたいという説明があった。また、外部流出額の回収に努めるというコメントもあったが、過去の架空循環取引を巡る損害賠償請求事件の多くが泥沼化、長期化してきたことは懸念材料であろう。 1 買収した連結子会社による会計不正事件の特徴 KDDI子会社による会計不正は、本連載【第183回】で取り上げたニデック株式会社(以下、「ニデック」と略称する)子会社の会計不正事件を想起させる点がいくつか存在する。すなわち、不正を隠蔽していた子会社が買収により傘下に収めたものであること、子会社の事業がいわば傍流であり、親会社の主たる事業とはなじみの薄いものであったことなどを挙げることができるだろう。そこで、本項では、両社の会計不正事件の類似点と相違点を比較しながら、買収した子会社に対する親会社のガバナンスについて検討したい。 (1) 類似点 ① 買収後の事業理解が浅く、異常値を異常と認識できなかった。結果的に、親会社の事業理解不足が、子会社のブラックボックス化を招いた。 KDDI ニデック 広告代理事業は本業と遠く、売上が急増しても「広告業界はこういうもの」と誤解してしまった。 買収した子会社の事業構造・会計慣行を十分に把握できず、利益率の異常な高さや在庫の不自然な動きを見抜けなかった。 ② 派遣役員・親会社の監督が形式的で、実質的に機能しなかった。 KDDI ニデック 親会社から派遣された役員は広告代理事業の専門性がなく、子会社の説明を深掘りできず、取締役会が形骸化。 買収先の経営陣に強く依存し、「現地に任せる」姿勢が強すぎて、実態把握が遅れた。 ③ 内部監査が形式化して、手続きチェックに偏り、実在性確認が弱かった。 KDDI ニデック 書類チェック中心で、広告成果の実在性を確認しないまま不正レポートを通してしまった。 子会社の在庫・売上の実在性確認が不十分で、粉飾の兆候を見逃した。 ④ 子会社の属人化・聖域化を許した結果、不正の温床になった。 KDDI ニデック 広告代理事業は2名の担当者が独占し、「ノウハウがあるので自分がやる」という説明が通ってしまった。 買収先の経営陣が業績管理を独占し、親会社が踏み込めない領域が生まれた。 (2) 相違点 → 不正の動機 KDDIの子会社不正は、担当者2名による自己完結型の不正であり、親会社の業績プレッシャーがあったわけではない点が特徴である。 一方、ニデックの子会社不正の直接的な原因は、親会社による業績改善要求が強かった点にあり、子会社は親会社の期待に応えるため粉飾決算を行ったものであるという点で、KDDIの子会社不正とは大きく異なっている。 (3) 買収した子会社をどう統治するか KDDIとニデックの子会社による会計不正は、「買収した子会社をどう統治するか」という日本企業の典型的な課題が顕在化した事案であったと総括することが可能であるが、あらためて、両社の子会社ガバナンスの共通点、つまり、買収した子会社の統治が上手くいかなかった原因を次のようにまとめておきたい。 これらの共通点を反面教師とすることにより、「買収した子会社の統治」について、あらためて検証する必要があるのではないだろうか。 2 KDDIによる再発防止策と関係者の処分 KDDIは、調査報告書の公表と同時に、再発防止策と関係者の処分をリリースしているので、その内容を見ておきたい。 (1) 再発防止策 (2) 役員及び従業員に係る対応 KDDIは、同じリリースで、関与した従業員2名(a氏及びb氏)については、社内規程に基づき懲戒解雇処分とするとともに、役員については、ビッグローブの代表取締役社長山田靖久ほか3名の取締役が辞任、ジー・プランの代表取締役社長竹内庸真ほか1名の取締役が辞任、親会社KDDIの代表取締役会長以下6名の取締役及び2名の常勤監査役がそれぞれ報酬の一部を自主返納することを公表している。 3 東京証券取引所による改善報告書及び上場契約違約金の徴求 東京証券取引所は、2026年4月30日、「改善報告書及び上場契約違約金の徴求」をリリースして、KDDIに対して、6月2日までに改善報告書を提出することを求めるとともに、上場違約金9,120万円を徴求することを公表した。9,120万円という違約金の額は、現行制度上の上限金額である。その理由として、適時開示の規定に違反し、当取引所の市場に対する株主及び投資者の信頼を毀損したと認められるため(有価証券上場規程第509条第1項第1号)として、詳細を次のように説明している。 4月30日は、エア・ウォーター株式会社、ニデック株式会社にも上場違約金が徴求されており、2026年に入って上場違約金を徴求された会社は4社であり、昨年同時期と同じ水準となっている(2025年全体では9社)。 4 バリュークリエーション株式会社特別調査委員会調査報告書 2026年5月8日、かねてよりジー・プランとの取引が存在することをリリースし、特別調査委員会を設置して調査を行っていたバリュークリエーション株式会社(以下、「バリュークリエーション」と略称する)は、5月7日付の調査報告書(公表版)を公表した。 調査報告書によれば、ジー・プランとの取引を含む架空売上高は、1,632百万円を超えており、バリュークリエーションでは、「ジー・プランに対する請求額と外注先からの請求額の純額を売上高として計上している」ということで、この売上高を訂正する必要があることが指摘されている。 同リリースにおけるバリュークリエーションによる「今後の対応」として、「ジー・プランに関連する取引については、売上高から取り消し、営業外収益として計上する」ことが明言されていて、「外部流出額の回収に努める」立場のKDDIとの間で、どのような交渉が行われ、決着するのか、架空循環取引事件はまだ終わっていない。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2026年4月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年4月1日から4月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 企業内容等開示関係 次のものが公布・公表されている。 ① 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則及び連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第28号) (内容:「期中財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第37号)等及び「防衛特別法人税の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」(実務対応報告第48号)を受けたもの) ② コーポレートガバナンス・コード改訂案 (内容:成長投資の促進、取締役会の機能強化、有報の定時株主総会前の開示等について記載している。意見募集期間は2026年5月15日まで) ③ 有価証券報告書レビュー及び大量保有報告書等のレビューについて(令和8年度) (内容:有価証券報告書及び大量保有報告書等の審査について記載している) Ⅲ 会社法関係 次のものが公表されている。 ◎ 「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」に関する意見募集 (内容:会社法制(株式・株主総会等関係)に関する審議結果を取りまとめたもの。意見募集期間は2026年5月22日まで) Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ◎ 監査基準報告書700実務ガイダンス第3号「事業報告等と有価証券報告書の一体書類に含まれる財務諸表等に対する監査報告書に係る実務ガイダンス(2026 年4月版)」の公表及び監査基準報告書700実務ガイダンス第2号「事業報告等と有価証券報告書の一体開示に含まれる財務諸表に対する監査報告書に係る実務ガイダンス」の廃止について (内容:現行の法制度下における一体書類に対する監査報告書の文例について再度検討したもの) (了)
従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第21回】 「部門廃止に伴う解雇の有効性判断における経営上の理由と労働者の帰責事由の位置づけ」 弁護士 柳田 忍 【Question】 当社は、業務効率化のため、収益が継続的に赤字となっているある部門(A部門)を廃止することにしました。A部門に所属する従業員に対しては別の配属先を紹介し、それが嫌なら一定額の特別退職金を支給して合意退職してもらうことになりました。 しかし、A部門のある従業員(B)については、いわゆるトラブルメーカーであり、配転先を見つけることができません。Bは合意退職に応じないのですが、当社の業績があまりよくないこととBの勤務態度が良好ではないことを併せて考慮して、解雇が有効となると考えられないでしょうか。 【Answer】 原則として、経営上の理由と労働者の帰責事由とを併せて解雇の有効性を判断することはできません。もっとも、労働者の帰責事由があるため配転を試みなかったことを主張し、これをもって、整理解雇の四要素のうち「解雇回避努力」を尽くしたことの説明要素の一つとする余地はあると考えられます。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 1 はじめに 筆者は、部門やポジションを廃止するため、当該部門に所属する従業員や当該ポジションに就いている従業員を解雇したい、という相談を受けることが多い。部門やポジションの廃止を理由とした従業員の解雇は専ら会社側の理由による解雇であるから、整理解雇の四要素(①人員削減の必要性、②人選の相当性、③解雇回避努力、④手続の相当性)の観点から解雇の有効性が判断される(拙稿【第4回】参照)。これらの要素は総合考慮され、ある要素の充足が十分でない場合には、他の要素についてより高い程度の充足が求められる可能性がある。よって、会社の経営状態がさほど悪くない場合(①の人員削減の必要性が高くない場合)には、③の解雇回避努力等の他の要素について求められる水準がより高まることになり、会社においては、所属部員等を配転させるなどして解雇を回避する努力がより一層求められることになる。 筆者の経験上、部門やポジションの廃止を実施する会社の多くは、経営危機を回避するためというよりは、経営合理化を目的としてこれらを実施するものであり、経営状態は必ずしも深刻ではないことが多い。よって、そのような会社においては、廃止する部門やポジションに就いていた従業員に別の配転先を提示するなどして解雇回避努力を尽くさなければ、これらの従業員を解雇することは難しい、ということになる。この点、会社としては、廃止する部門やポジションに就いている従業員は余剰人員であり、部門・ポジションの廃止とともに退職してもらいたいと希望することが少なくない。しかし、これらの従業員が人員削減の対象となったのは、あくまで会社の経営方針によるものであり、彼ら自身に何らかの問題があるというわけではない、という場合が大半である。そのため、従業員の帰責事由による解雇として構成することも難しい場合が多く、対応に悩まされるところである。 そこで、本稿においては、このような場合の対応策について検討する。 2 経営上の理由と労働者の帰責事由を併せて考慮することの可否 (1) 裁判所の見解 例えば、労働者の帰責事由による勤務成績不良と経営上の理由が複合する場合の解雇の有効性の判断に際しては、労働者の帰責事由による勤務成績不良と経営上の理由とを区別したうえ、前者については、それ自体として解雇を是とするほど勤務成績不良といえるかを検討し、後者については整理解雇の四要素について充足しているかを検討し、どちらか一方を肯定できる場合でなければ、解雇を有効とすべきではないと考えられている(※)。よって、解雇を是とするほどの勤務成績不良が認められないが、企業の経営状況を併せて考えると解雇は有効である、といった判断は認められないということになる。 (※) 佐々木宗啓他編著「類型別 労働関係訴訟の実務[改訂版]II」399頁 (2) 参考裁判例 しかし、以下の裁判例は、整理解雇の「解雇回避努力」の要素との関係で、従業員の勤務態度等の問題により他部署への配転が難しい場合で、会社の経営状況が厳しいときは、これらを併せて考慮し、他部署への配転を試みなくても解雇回避努力を怠ったとはいえないとしている。すなわち、当該裁判例は、経営上の理由と従業員の勤務態度等の問題を、少なくとも解雇回避努力の評価場面においては併せて考慮し得ることを示したものと評価し得る。 3 まとめ 上記参考裁判例においては、会社の経営状況が厳しかったことが前提とされていることから、会社の経営状況が悪くない場合にも、解雇回避努力について、会社の経営上の理由と従業員の帰責事由とを併せて考慮することができるかは定かではない。 また、上記参考裁判例においては、従業員の帰責事由が比較的大きかったため、そもそも普通解雇が認められる場合であった可能性もある。 もっとも、経営上の理由と労働者の帰責事由とを併せて考慮することはできないという原則を前提としつつも、少なくとも解雇回避努力の有無という一局面においては、経営上の理由と労働者の帰責事由とを併せて考慮して解雇の有効性判断のハードルを下げるロジックを展開できる可能性があるという点で、上記裁判例には一定の示唆があるように思われる。 (了)