《速報解説》 日本監査役協会、「監査役監査と監査役スタッフの業務」を改訂 ~来期の全面見直しに向け中間報告書としての位置づけ~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年7月28日付(ホームページ掲載日8月10日)で、公益社団法人 日本監査役協会の本部監査役スタッフ研究会は「監査役監査と監査役スタッフの業務(中間報告書)」を公表した。 これは、平成23年9月に第38期本部監査役スタッフ研究会報告書として発表された「監査役監査活動とスタッフ業務」(通称「オレンジ本」)のうち、主要な記述部分である「第3章」を最新の内容に改訂したものである。 見直し作業は2年計画となっているため、「中間報告書」としているとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 「中間報告書」は表紙などを含めて258ページに及ぶ大部のものとなっている。 次の事項や会社の機関設計の違いによる対応などについて記載されている。 監査役及び監査役スタッフの業務について、年間の時系列及び活動区分別に、次の6つに分節し、記載している。 (了)
《速報解説》 ASBJより、今後3年間の基準開発等の基本的方針を示した 「中期運営方針」が公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年8月12日、企業会計基準委員会は「中期運営方針」を公表した。 これは、これまでの企業会計基準委員会の活動を振り返るとともに、今後3年間の日本基準の開発の基本的な方針及び国際的な会計基準の開発に関連する活動を行うにあたっての基本的な方針を記載したものである。 なお、同日、「現在開発中の会計基準に関する今後の計画」の改訂も公表している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 中期運営方針の概要 次の事項が記載されている。 Ⅲ 日本基準の開発 1 我が国における会計基準に係る基本的な考え方 我が国における会計基準に係る基本的な考え方として、次のことが述べられている。 2 日本基準を国際的に整合性のあるものとするための取組み 日本基準を国際的に整合性のあるものとするための取組みに関して、次のことが述べられている。 3 具体的な課題 「東京合意において検討対象とした会計基準より後にIASBにより公表された会計基準」として次のものがあり、今後の対応について次のように述べられている。 Ⅳ 国際的な会計基準の開発に関連する活動 IFRSの任意適用企業の拡大に伴い、国際的な会計基準の質を高めることに貢献すべく意見発信することの重要性や、国際的な会計基準の策定の場における我が国のプレゼンスの向上及び影響力の強化について述べている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「国境を越える電子商取引と消費税」に関する研究報告を公表 ~国際動向やインボイスにも言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年7月25日付(ホームページ掲載日8月12日)で、日本公認会計士協会は、「国境を越える電子商取引と消費税について」(租税調査会研究報告第31号)を公表した。 これは、平成27年度税制改正で電気通信利用役務の提供に関する内外判定や課税方式等に関する消費税法の改正が行われたことから、その制度上の課題などについて検討を行ったものである。 また、研究報告では、平成28年度改正消費税法で、今後導入が予定されるインボイス制度の概要と留意点についても解説されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 平成27年度改正消費税法のポイント 1 概要 平成27年度改正消費税法のポイントは次のとおりである(研究報告1~2ページ)。 リバースチャージ方式の下では、国内事業者が国外事業者から「電気通信利用役務の提供」を受ける場合、役務提供を受ける国内事業者側に申告納税義務が生じる。つまり、リバースチャージとは、役務提供者から役務を受ける者への申告納税義務の転換であり、リバースチャージにより役務を受ける者に転換される納税義務は役務を受ける者からみれば、前段階取引にかかる納付税額である(研究報告11ページ)。 2 電気通信利用役務に該当するかどうかの判定 消費税法基本通達5-8-3 において、電気通信利用役務の提供について、次のように例示列挙されている。 「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直し等に関するQ&A」(国税庁消費税室)の記載にも注意が必要である。 3 実務上の論点 次の事項などについて、実務上の判断が分かれる可能性について述べられている。 (了)
《速報解説》 再生可能エネルギー発電設備等、投資対象の追加へ対応した 「投資信託及び投資法人における特定資産の価格等の調査に係る合意された手続業務に関する実務指針」が公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年8月4日付(ホームページ掲載日8月10日)で、日本公認会計士協会は、業種別委員会実務指針第23号「投資信託及び投資法人における特定資産の価格等の調査」を改正し、専門業務実務指針4460「投資信託及び投資法人における特定資産の価格等の調査に係る合意された手続業務に関する実務指針」として公表した。 これにより、平成28年6月24日から意見募集していた公開草案が確定することとなる。 これは、平成26年8月29日に投資信託及び投資法人に関する法律施行令が改正され、投資対象に再生可能エネルギー発電設備・公共施設等運営権が追加されたこと、専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」が公表されたことなどを受けたものである。 なお、公開草案に対するコメントはなかったが、一部表現の修正を行っているとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 適用範囲 実務指針は、「投資信託及び投資法人に関する法律施行令」(平成12年政令第480号)18条、28条及び124条に定める特定資産の価格等を調査する者としての公認会計士又は監査法人(以下「業務実施者」という)が、特定資産の価格等の調査に係る業務を合意された手続業務により実施する場合の合意された手続(以下「特定資産価格調査手続業務」という)、業務実施者の責任、特定資産の価格等の調査に関する合意された手続実施結果報告書(以下「実施結果報告書」という)の作成等について取りまとめたものである(1項)。 2 契約の締結及び更新に関する留意事項 業務実施者は、特定資産価格調査手続業務に関して、専門業務実務指針4400第18項に従い業務契約書を締結するものとする(11項)。 ただし、専門業務実務指針4400第18項(5)「実施する手続の種類、時期及び範囲の詳細」については、手続対象となる特定資産、調査事項等が法令によって定められており(4項)、業務の対象となる特定資産に関する取引が常時反復的に行われる場合があること、取引が行われた計算期間の運用報告書作成までに実施結果報告書の発行が求められること等に鑑み、「投資信託及び投資法人に関する法律」に基づき特定資産価格調査手続業務を実施する旨を定める包括的な契約を締結した上で、調査対象となるファンドの取引ごとに、実施する具体的な手続について覚書を締結し、合意する方法も考えられる(11項)。 次のことに注意する(12項)。 3 再生可能エネルギー発電設備又は公共施設等運営権について 再生可能エネルギー発電設備又は公共施設等運営権(以下、両者を総称して「インフラ資産」という)が調査対象の特定資産である場合には、13項(1)にかかわらず、当該インフラ資産の取引価格と比較可能な価格としての外部の専門家の評価額を会社から入手し、それぞれ売買契約書等の取引価格が記載された証憑及び会社より入手した専門家の評価報告書と照合するとともに、両者の差額につき再計算を行う(13項(3))。 4 確認書 業務実施者は、実施結果報告書の発行に先立ち、業務実施期間中に業務依頼者から提示を受けた資料及びその他の説明について、業務依頼者から確認書を入手しなければならない(14項)。 確認書の日付は、業務依頼者が、業務の対象とする情報等に対して責任を認めた日付であるため、実施結果報告書の日付より後にはならず、通常、実施結果報告書の日付とする(14項)。 確認書の文例として「付録2」が示されている。 Ⅲ 適用時期等 「業種別委員会実務指針第23号「投資信託及び投資法人における特定資産の価格等の調査」の改正について」(平成28年8月4日)は、平成30年4月1日以降に発行する実施結果報告書に適用する。 ただし、専門業務実務指針4400第3項、第4項及びすべての要求事項が適用可能である場合には、平成28年8月4日以後に発行する実施結果報告書から適用することができる。 (了)
《速報解説》 地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の対象となる 「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」の第一弾が公表 ~認定事業数は102、特徴的な事業例の紹介も Profession Journal編集部 地方創生応援税制、いわゆる「企業版ふるさと納税」は、既報のとおり改正地域再生法の施行日である平成28年4月20日からスタートしている。 ただし、この税額控除の適用対象となるのは地方公共団体が国から認定を受けた「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」への寄附に限られており、施行日時点では認定を受けた事業が存在しなかったことから、その具体的検討ができない状況が続いていた。 このほど8月2日付けで、まち・ひと・しごと創生本部のホームページ上において下記の通り、本特例の対象として認定された、第一弾の「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」の内容が明らかとなった。 同事業の第2回の認定は本年11月中、第3回は来年3月中とされていることから、当面は今回公表された事業の中から寄附を行う事業の検討・選択をすることになろう。 今回公表された認定事業数は102事業(一覧はこちら)、全体事業費は323億円に上る(102事業のうち95事業は8月2日に計画認定、7事業は8月下旬に地方創生推進交付金と一体で計画認定の予定)。 事業分野別に見ると、地域産業振興や人材の育成・確保等を目的とした「しごと創生」に関するものが74事業と最も多く、「地方への人の流れ」(移住・定住の促進等)が12事業、「まちづくり」(コンパクトシティ等)が10事業、「働き方改革」(少子化対策等)が6事業となっている。 また都道府県別に見ると、県と市を合わせ認定事業数が最も多いのは岐阜県の8事業、続いて新潟県の7事業、総事業費では大阪府が111億6,630万円と飛びぬけている。ちなみに東京都は本特例の対象となる認定地方公共団体の対象外とされている(「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)活用の手引き」p7)。 寄附の検討を行っている企業としては、今回認定を受けた102事業からどのように選択すべきか悩ましいところだが、本社が所在する地方公共団体への寄附は対象外とされているなど、寄附を行う企業と地方公共団体との関係において制約が設けられているため、まずは下記の資料等を参考にした絞込みから行うのがよいだろう。認定事業へ寄附をすればすべて適用可能というわけではない点には十分留意されたい。 (「地域再生計画認定申請マニュアル(抜粋版)〈地方創生応援税制関係〉(平成28年4月)」p4)。 また今回公表された資料では別紙3として「地方創生応援税制に係る特徴的な事業例」がまとめられており、例えば認定事業数の多い岐阜県であれば、県による「航空宇宙産業を支えるまち・ひと・しごと創生計画」、同県の各務原市による「博物館を核とした航空宇宙産業都市魅力向上事業」が紹介されており、KPI(成果目標)として県内航空宇宙産業の製造品出荷額(県)、企画展来場者数(市)が設定されるなど、県と市が一体となった事業が紹介されている。 他にもバラエティに富んだ事業が紹介されているため、まずはこちらから確認し、自社のブランディング向上につながるような視点で事業を選定することも一考だろう。 なお、寄附金の支払い後は地方公共団体から交付される領収書が、国税・地方税の申告時において、本特例の対象となる特定寄附金の証明となる(詳細は下記の連載を参照されたい)。 〈地方創生応援税制のフロー図〉 (※) 「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)活用の手引き(平成28年4月)」内閣府地方創生推進事務局、P4より (了) ↓お薦め連載記事↓
2016年8月4日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.180を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.43- 「AI(人口知能)とBI(ベーシックインカム)」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 安倍政権は、名目GDP600兆円の実現に向けた成長戦略(日本再興戦略2016)を打ち出しているが、その目玉は、AIを中核とした「第4次産業革命」である。閣議決定された戦略には、 という記述があり、第4次産業革命と中間層の崩壊について触れている。 AIの発達は、新たなビジネスチャンスを生み出すが、一方でわが国の経済・産業・就業構造に計り知れない影響を与える。 * * * 経済産業省の新産業構造部会の中間報告には、職業別の従業者数の変化が記されており、高度サービス業の充実による雇用者の増加の一方で、製造・調達で300万人弱、バックオフィスで143万人などの雇用の減少が予測されている。 筆者の興味は、このような変化が、どのような所得格差をもたらすかということである。 第4次産業革命に適切に対応していかなければ、乗り遅れた者とそうでない者との所得格差が拡大し、健全な思想の中核となる中間層の崩壊が起きかねない。上述の「成長戦略」の記述もそのことを物語っている。 これに対して一部の経済学者から、ベーシックインカム(最低保障制度、BI)のコンセプトが提唱され始めている。 BIというのは、人々が働くかどうかにかかわらず、国民全員に一定の所得を支給し、最低限の生活を保障する制度である。 AIがいくら効率よく生産しても、それを消費する(できる)者がいなければ経済は成り立たない。AIは消費主体ではないのである。そこで、AIの普及により持続的な経済成長が可能になれば、その成果を使って政府が国民生活の最低保証をすることができるので、BIを行うことにより消費を作り出し、経済が維持・発展できるようにしたいという考え方である。 これにより、人々はあくせく働くことから解放され、その分余暇や文化活動に振り向けることができるという、ユートピア思想の一種だ。 驚くのは、今回の参議院選挙で、生活の党など3党がBIの導入を公約に掲げていたことだ。 しかし、そこにたどり着くにはあまりにも乗り越えるべき課題が多い。 * * * まず、勤労をどう考えるかという問題である。BIは勤労を条件としないので、わが国のように、勤労を生きがいの一つとするという健全なモラルの国で受け入れられるのだろうか。 より現実的な問題は、BIのための財源をどうやって調達するのかという点である。現在のわが国税収である56兆円を1億2,000万人の国民全員に配ると、1人当たり50万円弱となる。BIのもとでは、社会保障はなくなるので、今の生活保護受給者は、これでおしまいとなる。 これでは暮らしていけないということになり、結局勤労により所得を得なければならないのだが、AIの発達した世界で、うまく職場が見つかるのだろうか。 ここでさらなる思考実験として、ヘリコプターマネーによる財源調達論が出てくる。これは、政府の決定の下で行われる返済不要の財政追加で、わが国でも一部でこれを主張する論者が出始めている。マイナス金利の先は、ヘリコプターマネーということである。 ここまでくると、何をかいわんやである。問題は、わが国経済はそこまで追い詰められているのであろうか。その現状認識こそ重要な気がする。 今真剣に考えるべきは、フルタイムで働いていても貧困層から抜け出せない人々にどう対応していくかということ、それが健全な世論を形成する中間層の崩壊を防ぐことにつながる。まずは勤労にインセンティブを与える給付付き税額控除(勤労税額控除)の制度を導入することから、地道に議論を始めることが必要である。 霞が関の縦割り社会の中で、このような制度の検討すら一歩も動かない現状こそ喫緊の問題だ。 (了)
贈与税の配偶者控除に係る添附書類の見直しについて ~贈与契約書の作成及び名義変更登記を行わない場合の留意事項~ 税理士法人トゥモローズ 代表社員 税理士 角田 壮平 ▷改正の内容 平成28年度の税制改正において、贈与税の配偶者控除の適用を受ける場合の添附書類の1つである贈与を受けた者が取得した「居住用不動産に関する登記事項証明書」について、「その他の書類で当該贈与を受けた者が当該居住用不動産を取得したことを証するもの」が新たに追加された。 贈与税の配偶者控除の規定は、婚姻期間が20年以上の夫婦間において、専ら居住の用に供するための国内の居住用不動産の贈与が行われ又は居住用不動産の取得のための金銭の贈与が行われた場合には、贈与税の基礎控除額110万円とは別に最高で2,000万円の特別控除を受けることができる制度である(相法21の6)。 この特例の適用を受けるための手続きとして、一定の書類を添付して、贈与税の申告をすることが必要となっている。改正前の添付資料である登記事項証明書は、贈与による所有権移転登記がされたものであることまでは要求しておらず、所有権移転登記前の登記事項証明書が申告書に添付される事案が散見されていた。したがって、実際に居住用不動産の取得の事実が確認できない場合もあったようだ。 本改正において、居住用不動産を取得したことを証する書類に限定されたことから、贈与による取得の事実が判明できる所有権移転登記後の登記事項証明書や贈与契約書等の添付が今後は必要となる。 この改正に併せて、「特定贈与財産を贈与税の課税価格に算入する場合の記載事項」(相規1の5②二)や「信託財産である居住用不動産についての贈与税の配偶者控除の適用」(相基通21の6-9)の添附書類についても改正が行われているので留意が必要だ。 なお、この改正は、平成28年1月1日以後の贈与により取得する財産に係る贈与税について適用が開始され、同日以前の贈与に係る取得については、なお従前の例によることとされている(H28改正相規附則2②)。 ▷「その他の書類で当該贈与を受けた者が当該居住用不動産を取得したことを証するもの」とは 新たに設けられた「その他の書類で当該贈与を受けた者が当該居住用不動産を取得したことを証するもの」とは、贈与契約書を想定しているようである。 この贈与契約書を作成する際には、登記事項証明書に代わるよう、贈与の事実が明確に証明できるように作成することが重要となるために、以下のような作成上のポイントが挙げられる。 なお、不動産に係る贈与契約書には、200円の印紙を貼付する必要がある。不動産をその同一性を保持させつつ他人に移転させることを内容とするものは、対価を受けるかどうかを問わず、第1号の1文書(不動産の譲渡に関する契約書)に該当する。 また、贈与は無償契約であるから、贈与契約書に土地の評価額が記載されていても、その評価額は不動産譲渡の対価としての金額ではないので、記載金額には該当しない。 また、夫婦間の取引であるため、贈与事実を主張するためには、公証役場において確定日付による証明を取っておくとなお良い。 ▷不動産取得税及び登録免許税に係る留意事項 登記事項証明書を添付する必要がなくなり、今まで以上に不動産の名義変更を行わないケースが増えると想定される。このことから、不動産の移転登記の際に課税されるべき不動産取得税や登録免許税の課税漏れが生じる可能性がある。 不動産取得税は、不動産の取得に対し、当該不動産所在の都道府県において、当該不動産の取得者に対して課税が行われるが、この「取得」には贈与も含まれる。そして、不動産取得税は、不動産登記の有無は直接関係せず、未登記であったとしてもその取得(贈与)に対して課税が行われることとなるのが本来の課税方式である。 しかし、所有権の登記が行われれば、登記簿上の所有者とされる者が実態上の真実の所有権の取得者と推定される(最高裁昭和34年1月8日判決昭和33年(オ)第214号)ことから、課税実務上においては、不動産登記を手掛かりとして不動産取得税の課税が行われている。 したがって、不動産取得税は、名義変更による所有権の移転登記が行われない場合には、その移転について課税主体である国や都道府県において、課税客体の補足ができないことがあるため、課税がされないことも想定される。 しかし、不動産取得税は、都道府県の条例によっては、不動産の取得者が取得の事実など条例に定める事項を申告又は報告しなければならず、正当な理由なくこれをしなかった場合には、10万円以下の過料を科される規定が設けられていることもあるので注意が必要だ(地法73の18、73の20)。 これに対し、登録免許税は、登記等について課税が行われ、登記等を受ける者は登録免許税を納める必要があるが、不動産取得税と同様に登録免許税についても、登記等を前提として課税が行われているため、未登記の場合には課税が行われないこととなる。 ▷その他の留意事項 配偶者からの居住用不動産の贈与について、所有権移転登記を行わないことによって、不動産の次の移転手続きが煩雑となるという二次的な問題が想定される。 例えば、贈与を受けた配偶者が、当該居住用不動産を売却する際には、原則として、登記上の所有者が売主となるため、一旦、受贈者である配偶者に所有権移転登記を行ったうえで、売却をする必要がある。 また、贈与を受けた配偶者が亡くなり、贈与時の所有権移転登記が行われていなかったときも、原則として、一旦、受贈者である配偶者に所有権移転登記を行ったうえで、相続人が相続登記を行う必要がある。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q6】 「円建利付債券の償還時に生じた償還差損の取扱い」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 平成26年度税制改正による影響 税務上、公社債の償還差益に対する課税については、従前は原則として雑所得として総合課税の対象とされている一方、償還差損については家事上の損失としてないものとされていました。しかし、平成26年度税制改正により、平成28年1月1日以後は、公社債の償還は譲渡と同様に取り扱われることとなりました。 なお、発行日が平成27年12月31日以前の公社債についても、譲渡日が平成28年1月1日以後の場合は、改正後の税制が適用されます。 2 償還差損益の課税 (1) 償還差損益についての課税方法 平成28年1月1日以後、公社債の元本の償還(買入償還を含む)により交付を受ける金銭の額及び金銭以外の資産の価額(元本の価額の変動に基因するものを含む)は、公社債の譲渡に係る収入金額とみなされます。これについては、債券が特定公社債か一般公社債かを問わず、同じ取扱いとされます。 償還差益については、他の所得と区分し、上場・非上場の区分に応じ、株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(以下、「株式等に係る譲渡所得等」)として、申告分離課税(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)が適用されます。 償還差損の場合、上場・非上場の区分に応じ、株式等に係る譲渡所得等の範囲内での損益通算が可能ですが、株式等に係る譲渡所得等の計算上生じた損失については、生じなかったものとみなされます(すなわち、他の所得(例えば給与所得等)との損益通算を行うことはできません)。 ただし、特定公社債の償還差損については、上場株式等の譲渡損失として以下の特例の対象となります。 詳細については【Q2】を参照ください。 (2) 収入すべき時期 公社債の元本の償還については、以下の区分に応じそれぞれ次に掲げる日が、株式等に係る譲渡所得等の収入すべき時期とされます。 3 本件へのあてはめ おたずねの債券(特定公社債)の償還により支払を受ける金銭等については、公社債の譲渡による収入金額として取り扱われます。 したがって、2,000,000円が上場株式等に係る譲渡損失の金額として取り扱われ、申告分離課税の適用上、他の上場株式等に係る譲渡益との損益通算を行うことができます。 (了)