マイナンバーの会社実務 Q&A 【第16回】 「マイナンバーに関するセミナー参加費・資格取得費の取扱い」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 マイナンバーを業務上取り扱う社員3名を「マイナンバーの実務」をテーマにした有料のセミナーに参加させました。また、マイナンバー実務検定2級を取得してもらうため、資格の学校に講座代金を支払いました。これらの費用は当社の経費になるでしょうか。 詳細は、次の通りです。 〈A〉 経費になる。技術や知識の習得費用は、次のいずれかの要件を満たし、かつ、その費用が適正な金額であれば、経費になる。いずれの要件も満たさない、あるいは、いずれかの要件を満たすものの金額が適正でなければ、社員に対する給与になる。 ポイントは、アンダーライン部分の“仕事に直接必要”の箇所である。今回のケースにおいては、セミナー参加費については上記〈要件1〉、資格取得費については上記〈要件2〉に該当する。また、費用も多額でなく適正な金額である。 したがって、研修費などの勘定科目で経費として処理すればよい。 (了)
連結納税適用法人のための 平成28年度税制改正 【第8回】 「移転価格文書化制度(その1)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 [11] 移転価格文書化制度 1 多国籍企業グループの移転価格文書化制度 多国籍企業グループによるグループ内取引を通じた所得の海外移転に対して、適正な課税(移転価格課税)を実現するためには、国外関連者との取引やグローバルに行う取引の全体像を把握することが必要とされる。 そこで、BEPSプロジェクトでは、経済界のコンプライアンス・コストに配慮しつつ、税務当局のために透明性を高めることを目的として、多国籍企業グループに対して、共通様式に基づいた多国籍企業情報の報告等(移転価格に係る文書化)として、次に掲げる3種類の文書を税務当局に提供等することが勧告された。 この勧告を踏まえ、平成28年度税制改正において、次のように多国籍企業情報の報告等に係る制度が整備された。 なお、改正前の移転価格文書化制度は、租税特別措置法施行規則第22条の74に定められている独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(改正後のローカルファイルに相当する書類)を作成しない場合に、国税当局によって推定課税及び同業者調査が行われるという制度であったが、企業に文書化を義務付ける制度ではなかった。 しかし、改正後は、企業に上記3つの文書を作成することを義務化しており、その点で従来の移転価格文書化制度と大きく異なることとなる。 以下ではそれぞれの文書について、3回にわたって解説することとする。 (1) 国別報告書 ① 概要 特定多国籍企業グループに係る国別報告事項の提供義務者である内国法人(最終親会社等又は代理親会社等)は、特定多国籍企業グループに係る国別報告事項を、最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内に、電子情報処理組織を使用する方法(e‐Tax)により、税務署長に提供しなければならない(措法66の4の4①)。 (*) なお、下記の用語の定義は次のとおりである(措法66の4の4④)。 《多国籍企業グループと構成会社等の範囲》 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ② 提供義務者 国別報告事項の提供義務者は、次に掲げる者とする(措法66の4の4①②)。 上記2及び3については、我が国の国税当局が、特定多国籍企業グループの最終親会社等 (代理親会社等を指定した場合には、代理親会社等)の居住地国(我が国が締結した租税条約等の相手国に限る)を通じて当該特定多国籍企業グループに係る国別報告事項の提供を受けることができないと認められる場合に限る(措令39の12の4①)。 また、上記2又は3の提供義務者に該当する内国法人又は恒久的施設を有する外国法人が複数ある場合は、当該内国法人又は恒久的施設を有する外国法人のいずれか1法人が代表して国別報告事項を提供すればよい(措法66の4の4③)。 この場合、当該1法人が、次に掲げる事項を、最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内に、電子情報処理組織を使用する方法(e-Tax)により、所轄税務署長に提供する必要がある(措規22の10の4⑤)。 (*) ③ 提供義務者に関する国税当局への報告義務 多国籍企業グループに係る国別報告事項の提供義務者等を明らかにするために、特定多国籍企業グループの構成会社等である内国法人又は構成会社等である恒久的施設を有する外国法人は、当該特定多国籍企業グループの最終親会社等及び代理親会社等に関する情報として次に掲げる事項(最終親会社等届出事項)を、最終親会計年度終了日までに、電子情報処理組織を使用する方法(e-Tax)により、税務署長に提供しなければならない(措法66の4の4⑤、措規22の10の4⑨)。 (*) なお、報告義務者に該当する内国法人又は恒久的施設を有する外国法人が複数ある場合は、当該内国法人又は恒久的施設を有する外国法人のいずれか1法人が代表して報告すればよい(措法66の4の4⑥)。 この場合、当該1法人が、次に掲げる事項を、最終親会計年度終了日までに、電子情報処理組織を使用する方法(e-Tax)により、所轄税務署長に提供する必要がある(措規22の10の4⑩)。 (*) ④ 報告事項 国別報告事項は、次に掲げる事項をいう(措法66の4の4①、措規22の10の4①)。 (*) ⑤ 使用言語 英語(措規22の10の4④)。 ⑥ 提供義務の免除 直前の最終親会計年度における多国籍企業グループの連結財務諸表における総収入金額(売上金額、収入金額その他の収益の額の合計額。連結財務諸表がない場合には、多国籍企業グループの財産及び損益の状況を明らかにした書類に基づいて計算した当該合計額に相当する金額)が1,000億円未満である場合における当該多国籍企業グループについては、国別報告事項の提供義務が免除される(措法66の4の4④三、措規22の10の4⑦)。 ⑦ 提供期限 最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内(措法66の4の5①)。 ⑧ 適用時期 平成28年4月1日以後に開始する最終親会計年度に係る国別報告事項について適用する(平成28年所法等改正法附則1、98⑤)。 つまり、連結親法人の平成29年3月期の国別報告事項について、平成30年3月31日までに税務署長に提供する必要がある。 ⑨ 提供義務の担保策 国別報告事項を提供期限内に税務署長に提供しない場合は、30万円以下の罰金に処する(措法66の4の4⑦⑧)。 * * * 次回はマスターファイル(事業概況報告事項)について解説する。 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第17回】 「青色申告承認取消処分の理由付記制度の概要等」 中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 (酒井克彦研究室所属) 泉 絢也 1 はじめに 本連載の【第1回】で述べたとおり、これまでの議論や事例の蓄積状況及び法人の9割以上が青色申告を行っている現状などを踏まえ、第1回~前回まで、法人税の青色申告書に係る更正の理由付記(法人税法130条2項)の十分性が問題となった裁判例・裁決例を中心に検討を行ってきた。 もっとも、理由付記については、青色申告書に係る更正のみならず、青色申告の承認取消しに係るものについても議論や事例が蓄積している。この青色申告の承認取消しは、その取消事由の存在する事業年度にまで遡って行われるものである上、その取消しによって青色申告者のみに認められている繰越欠損金(法人税法57条)や特別税額控除・特別償却(租税特別措置法42条の4、42条の6など)の利用が認められないことになるなど、納税者に対する影響は決して小さいものではない。 そこで、今回から第19回までは、青色申告承認の取消処分の通知書(法人税法127条4項)に係る理由付記の事例研究を行う。 2 青色申告制度の概要 青色申告制度は、適正な課税を実現するために不可欠な帳簿の正確な記帳を推進する目的で設けられたもので、所定の帳簿書類の備付け等を行っている者に限って、税務署長の承認を受けて青色の申告書を提出することを認め(法法121①) 、課税手続や、欠損金の繰越控除及び繰戻還付など税額計算等に関する各種の特典(法法57、80、130、131、措法67条の5など)を与えるものである(最高裁昭和49年9月20日第二小法廷判決・刑集28巻6号291頁、最高裁昭和62年10月30日第二小法廷判決・集民152号93頁参照)。 かような青色申告制度の適正な履行を担保するために、法は、青色申告法人に対し、財務省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならないという、適式の帳簿書類の備付け等義務を課すとともに(法法126①)、当該義務に違反するなど一定の場合には、税務署長は青色申告の承認を取り消すことができるとしている(法法127①)。なお、本稿では、法人税法127条2項に規定する連結納税の承認の取消しに伴う青色申告の承認の取消しについては取り扱わない。 青色申告の承認の取消しがあったときは、当該事業年度開始の日以後その内国法人が提出したその承認に係る青色申告書(納付すべき義務が同日前に成立した法人税に係るものを除く)は、青色申告書以外の申告書とみなされる。この青色申告承認取消処分は、書面により通知しなければならず、かつ、その書面には、その取消しの処分の基因となった事実が、青色申告承認取消事由を定める法人税法127条1項各号のいずれに該当するかを付記しなければならない(法法127④)。 青色申告承認取消処分に係る理由付記については、青色申告書に係る更正の理由付記と同様に、その処分の内容自体に取り消されるべき瑕疵がないとしても、理由付記を欠いていたり、あるいは、理由の記載はあるものの、法が要求する理由付記の記載の程度に照らして十分な内容ではない場合には、処分が取り消される。 しかしながら、青色申告承認取消処分に係る理由付記については、理由付記に当たり、どの程度の記載をすべきであるかの手掛かりとなる条文が存在すること及び少なくとも、条文の文言は「その取消しの処分の基因となった事実」が法人税法127条1項の「いずれに該当するかを付記しなければならない」となっており、処分の「理由」を付記しなければならないとはなっていないことを指摘しておく。 3 青色申告承認の取消事由 (1) 4つの取消事由 青色申告承認の取消事由は以下の4つである(法法126、127①、電子帳簿保存法11③四)。 このうち1号取消事由と3号取消事由について、次の(2)及び(3)で補足をしておく。 (2) 1号取消事由 1号取消事由は、備付帳簿書類の種類、その記載項目、記載方法等の瑕疵など、いわば外観的にその帳簿書類が青色申告の基礎として適応性を欠くことを理由として青色申告承認を取り消す場合である(最高裁昭和42年4月21日第二小法廷判決・訟月13巻8号985頁)。 1号取消事由について、税務調査における帳簿書類の不提示がこれに該当するか否かという点を巡り、積極説に立つ課税庁と消極説に立つ納税者との間で争われてきたが、下級審裁判例はこぞって積極説に立ち、最高裁平成17年3月10日第一小法廷判決(民集59巻2号379頁)は、次のとおり、結論的には積極説を採用しているといえる。 なお、国税庁長官が発遣している平成12年7月3日付「法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」(以下「青取事務運営指針」という。)の1(1)においては、「帳簿書類の提示がない場合には、青色申告の承認の取消事由に該当する旨を告げて、帳簿書類を提示して調査に応ずるよう再三再四その説得に努める。」と定められているが、再三再四の説得を行わずに1号取消事由該当を理由に青色申告承認取消処分を行ったからといって、直ちに当該処分が裁量権の濫用に当たるなどとして、違法なものとなるわけではない。 事務運営指針は、事務の在り方に関する内部的な取決めであって、これの不履行が直ちに違法をもたらすものではないと考えられる上、青取事務運営指針1項は、納税者が帳簿書類を保存していないと自ら申し立てているにもかかわらず、あえて再三にわたって提示を求めるなどという無意味な行為を要求する規定の趣旨ではないと解されているからである(名古屋地裁平成16年10月28日判決・判タ1204号224頁)。 (3) 3号取消事由 現行法は、「その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録したこと」と、「その事業年度に係る帳簿書類の記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること」とが、それぞれ別個の取消事由となる規定振りとなっており、どちらかに該当すれば取消事由となる。前者は故意や意図が存するケースを想定しているが、後者はそのようなケースに止まらない。 なお、次の4で述べるとおり、法人税法127条1項の規定からすると、3号取消事由に該当する事実が認められた場合、所轄税務署長には、青色申告承認を取り消すか否かに関して裁量権があることは明らかであるところ、当該裁量権の行使については、特段の規定は置かれておらず、当該税務署長は、当該取消事由に隠蔽ないし仮装等の内容及び程度、その態様、これらに至る経緯、改善の可能性等諸般の事情を総合的に判断して取消しの有無を判断すべきものと解されている(東京地裁平成16年10月15日判決・税資254号順号9780)。 4 青色申告承認取消処分の裁量処分性 青色申告承認取消処分は、税務署長の裁量処分であると解されている。すなわち、税務署長は、取消事由に該当する事実があれば必ず青色申告の承認を取り消さなければならないというものではなく、現実に取り消すかどうかは、個々の場合に応じ、税務署長がその合理的裁量によって決すべきものであると解されている(大阪高裁昭和38年12月26日・行集14巻12号2174頁、最高裁昭和49年4月25日第一小法廷判決・民集28巻3号405頁、最高裁昭和49年6月11日第二小法廷判決・集民112号101頁等参照)。 実際、青取事務運営指針においても、3号取消事由について不正所得500万円以上などの金額基準を設定したり、4号取消事由について2事業年度連続して期限内に申告書の提出がない場合に取消処分を行うものとするなどの裁量基準が定められている。事務運営指針は法が定める青色申告承認取消要件を満たしている場合に、所轄税務署長が青色申告承認を取り消すか否かについての裁量権を付与されていることを前提に、当該裁量権行使の内部基準を定めたものであるといえよう(大阪地裁平成17年6月17日判決・税資255号順号10058及びその控訴審である大阪高裁平成17年11月10日判決・税資255号順号10198)。 5 青色申告承認取消処分に係る理由付記の程度 青色申告承認取消処分に係る理由付記の程度については、課税庁が支持する条項説(取消事由の該当号数のみを記載すれば足りるとするもの)と、納税者が支持する事実説(取消しの基因となった具体的事実をも記載しなければならないとするもの)との間で対立があったが、最高裁昭和49年4月25日第一小法廷判決(民集28巻3号405頁)は事実説を採用することで、上記対立に決着を付けた(最高裁昭和49年6月11日第三小法廷判決・集民112号101頁も同判決を踏襲)。 この最高裁昭和49年4月25日判決は、青色申告承認取消事由を定めた旧法人税法25条5項及びその取消通知書への理由の付記を定めた同条9項に関するものであるが、同判決の判示内容を現行法人税法127条に即して要約してみると、おおむね次のとおりとなる。 (1) 理由付記の趣旨目的と記載の程度 法人税法が青色申告承認取消しの通知書に理由付記を命じたのは、青色申告承認の取消しがその承認を得た法人に認められる納税上の種々の特典を剥奪する不利益処分であることにかんがみ、取消事由の有無についての処分庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、取消しの理由を処分の相手方に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えるためであり、この点において、青色申告の更正における理由付記の規定その他一般に法が行政処分につき理由の付記を要求している場合の多くとその趣旨、目的を同じくするものであると解されている。 このことから、そこにおいて要求される付記の内容及び程度は、特段の理由のない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのかを、処分の相手方においてその記載自体から了知し得るものでなければならず、単に抽象的に処分の根拠規定を示すだけでは、それによって当該規定の適用の原因となった具体的事実関係をも当然に知り得るような例外の場合を除いては、法の要求する付記として十分でないといわなければならない。 (2) 3号取消事由における記載の程度 青色申告承認取消事由は、青色申告制度の基盤をなす納税者の誠実性ないしその帳簿書類の信頼性が欠けると認められる場合を類型化したものであるが、具体的事案においていかなる事実がこれに該当するとされるのかは必ずしも明らかでなく、特に3号取消事由は極めて概括的で具体性に乏しいため、取消通知書に同号に該当する旨付記されただけでは、処分の相手方は、帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性が疑わしいとされた理由が、取引の全部又は一部を隠蔽し若しくは仮装したことによるのか、それともそれ以外の理由によるのか、また、右の隠蔽又は仮装が帳簿書類のどの部分におけるいかなる取引に関するのか等を、その通知書によって具体的に知ることはほとんど不可能である。 (3) 裁量権行使の適否を争う的確な手がかり のみならず、承認の取消しは、形式上同項各号に該当する事実があれば必ず行われるものではなく、現実に取り消すかどうかは、個々の場合の事情に応じ、処分庁が合理的裁量によって決すべきものとされているのであるから、処分の相手方としては、その通知書の記載からいかなる態様、程度の事実によって当該取消しがされたのかを知ることができるのでなければ、その処分につき裁量権行使の適否を争う的確な手がかりが得られないこととなるのである。 (4) 事実説の採用 以上の点から考えると、法人税法127条1項各号の該当号数を示しただけでは取消しの基因となった具体的事実を知ることができない場合には、通知書に当該号数を付記するのみでは足りず、取消しの基因となった具体的事実自体についても処分の相手方が具体的に知り得る程度に特定して摘示しなければならないものと解するのが相当である。 (5) その他 理由付記を命じた規定の趣旨が、処分の相手方の不服申立てに便宜を与えることだけでなく、処分自体の慎重と公正妥当を担保することにもあることからすれば、取消しの基因たる事実は通知書の記載自体において明らかにされていることを要し、相手方の知、不知には関わりがないものというべきである。 なお、理由付記不備の瑕疵は、後日、異議決定(再調査決定)又は裁決において処分の具体的根拠が示されたとしても、それにより治癒されるものではない。 6 参考裁判例の要旨 (1) 1号取消事由 法人税法は、その取消しの処分の基因となった事実が法人税法127条1項各号のいずれに該当するかを記載すべき旨定めるに止まり、1号取消事由に該当する場合に、備付け、記録又は保存のいずれの義務違反があるかまで記載すべきものとはしていないから、この点の不記載をとらえて本件処分の通知書の記載が不十分であるとすることはできない。 所得税法150条2項〔法人税法127条4項に対応する規定〕の趣旨・目的に照らせば、青色申告取消処分通知書に付記すべき事項としては、取消しの処分の基因となった事実及び当該事実が所得税法150条1項各号〔法人税法127条1項に対応する規定〕のいずれに該当するかを明示すれば足り、それ以上に当該事実が財務省令の定めるどの義務のどの条項に違反するかまでを記載することは要求されていないと解すべきである。 (2) 4号取消事由 付記の内容として法人税法127条1項各号を掲げるほかに、若干の文言が記載されていたとしても、それが抽象的なものであって単に号数を掲げたのと異ならないとみられる場合にも、付記の内容が不十分であるといわねばならないことはいうまでもない(もっとも、同条1項のうち4号については、単に条項号数を記載することをもって、付記理由として十分であると見得るであろう)。 本件青色申告承認取消処分は、法人税法127条1項4号の確定申告書をその提出期限までに提出しなかったことをその理由とするものである。そうすると、本件処分の通知書が、本件取消処分の基因となった事実として、〇〇年度の法人税確定申告書がその提出期限までに提出されていないことを明示したうえで、当該事実が法人税法127条1項4号に該当する旨を記載していることは明らかであるから、この記載は、本件青色申告承認取消処分の基因となった事実を原告が知り得る程度に具体的に特定して摘示するという点で、欠けるところはない。 法人税法127条4項が理由付記を要求するのは、処分庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、取消理由を相手方に知らせることにより不服申立てに便宜を与えることを目的とするものであるところ、一般に、通達は、上級行政庁の下級行政庁に対する命令又は示達であって(国家行政組織法14条2項)、法規範としての性質を有するものではないから、その違反に対しては、行政機関内部において是正されるのは格別、処分の相手方において不服申立てができるものではなく(最高裁昭和33年7月29日第三小法廷判決・税資26号759頁参照)、このことは、青取事務運営指針についても妥当すると解されるから、青取事務運営指針の遵守の事実まで青色承認取消通知書に付記すべきであるとは解されない。 (3) 青色申告書に係る更正の理由付記との関係 青色申告承認取消処分は、青色申告制度の基盤をなす納税者の誠実性ないしその帳簿書類の信頼性が欠けると認められる類型的場合(法人税法127条1項各号)に当たるとしてなされる処分であり、青色申告書の更正処分とは前提とするところが相違するから、理由付記の程度について両者を同列に論じるべきであるとはいい難い。 (4) その他 青色申告承認取消処分の理由として同条項各号のうち2つ以上の号数が掲げられている場合において、その1つでも理由付記として十分であると認められるときは、他の理由が付記として不十分であっても、結局当該取消処分は―裁量権の濫用にあたる場合は格別―適法であるといわねばならない。 その帳簿書類によっては正確な所得算出が不可能であるため、青色申告書提出の承認が取り消されることは両者同様であるとしても、法人税法127条1項1号と3号とでは、処分庁においてその承認取消を相当とするかどうかを認定判断すべき事項を異にすることが明らかであるから、両者それぞれ別個の取消処分を構成するものと解すべきであって、このことは、同条4項が、承認取消を通知するに当たって、その取消の基因となった事実が1項各号のいずれに該当するものであるかを付記すべきことを特に定めていることからも窺うことができる。 青色申告承認取消通知書に理由付記の不備があるとしても、当該取消処分は当然無効ではなく、取消しの原因となるにすぎない。 青色申告承認取消通知書の記載内容に、交付を受けた納税者にとって極めて容易に了知できるような誤記があった場合に、このような極めて明白な誤記をもって、理由付記に不備があるということはできない。 * * * 次回は、上記の内容を踏まえ、1号取消事由及び3号取消事由の双方に該当することなどを理由に行われた青色申告承認取消処分に係る理由付記の事例を取り上げる。 (了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第13回】 「譲渡制限株式の譲渡③」 公認会計士 佐藤 信祐 前回及び前々回は、譲渡制限株式の譲渡が経営権の移動に準じて取り扱うことができる場合として、東京高裁平成20年4月4日決定、福岡高裁平成21年5月15日決定について解説を行った。 本稿では、大阪高裁平成元年3月28日決定、広島地裁平成21年4月22日決定について解説を行う。 3 大阪高裁平成元年3月28日決定・判時1324号140頁 (1) 事実の概要 本事件の原審である昭和61年9月3日決定が公刊物未登載であるため、事実関係や当事者の主張は不明であるが、抗告審で述べられている裁判所の判断は実務においても重要であるため、その部分についてのみ解説を行う。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 本事件では、譲渡人も譲受人もいずれも少数株主であるという点により、ゴードン・モデル方式による配当還元法が望ましいと判断された。 さらに、清算価値に基づく時価純資産価額が売買価格の最低限を画するという点が示されたということも大きい点であろう。 実際の株価算定における基礎数値については、いろいろと疑念もあるが、株価評価の手法が確立されていない時代のものであるため、ここでは、清算価値に基づく時価純資産価額を上回っている限り、ゴードン・モデル方式による配当還元法が少数株主にとっての株式価値であるという裁判所の傾向のみを理解しておけば足りるであろう。 4 広島地裁平成21年4月22日決定・金判1320号49頁 (1) 事実の概要 本事件は、ミカサの発行済株式総数のうち15.88%、議決権ベースでは26.17%を保有するミカサ・ホールディングスが乙野の代表取締役の解任に伴い、支配株主である乙野からミカサ株式を譲り受けた上で、ミカサに対し、譲渡承認請求通知を送付したものの、当該譲渡を承認しない旨の通知を受けたため、売買価格に対して争われた事件である。 (2) ミカサ・ホールディングスらの主張 (3) ミカサらの主張 (4) 裁判所の判断 (5) 評釈 このように、裁判所は、支配株主にとっての株式価値をDCF法により評価し、少数株主にとっての株式価値をゴードン・モデル方式による配当還元法により評価し、これらを1:1で折衷することにより売買価格を決定している。 このような1:1で折衷するというやり方は、裁判所も述べているように、両者の交渉力が対等であると仮定した場合のやり方であり、他の裁判例でも見受けられるものである。 細かなところを見れば、DCF法による永久成長率が0%であるとしながらも、配当が成長すると仮定したゴードン・モデル方式を採用したり、支配株主にとっての株式価値としてDCF法を採用していながら非流動性ディスカウントを用いていたりするなど、いろいろと疑問点も多い。 本連載でこれから紹介する裁判例は、いずれとも支配株主にとっての株式価値と少数株主にとっての株式価値を折衷方式により算定するものであるが、本事件はその基本ケースであるため、支配株主にとっての株式価値と少数株主にとっての株式価値を1:1で折衷するという考え方については理解しておく必要があろう。 次回では、札幌高裁平成17年4月26日決定について解説を行う予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【88】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その16:「「退職所得」の意義③」(最判昭58.9.9)) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 前回の地裁の判断に引き続き、今回は控訴審(東京高裁昭和53年3月28日)の判断についてみていく。 5 裁判所の判断(控訴審(東京高裁昭和53年3月28日)の判断) これは裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。そこには当事者の主張として付加された点も掲載されており、ここでは割愛するため、ぜひ見てもらいたい。 * * * 次回は、上告審(最高裁昭和58年9月9日)の判断を取り上げた上で、判決の意義について解説を行う。 (続く)
〔経営上の発生事象で考える〕 会計実務のポイント 【第8回】 「訴訟があった場合」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 日本公認会計士協会準会員 素村 康一 1 偶発債務の注記 《解説》 偶発債務とは、債務保証や係争事件に係る賠償義務等、現実に発生していない債務で、将来において事業の負担となる可能性のあるものをいう(財務諸表等規則第58条)。なお、「事業の負担」とは、損失が生じることを意味すると考えられる。 このような偶発債務を有しており、将来、確定債務となったときに財務諸表に与える影響が大きい場合には、財務諸表利用者の理解に資するため、財務諸表に注記する必要がある。 したがって、訴訟が提起された場合、将来において損失が生じる可能性があり、当該損失に対して引当金(後述)を計上していないときには、重要性が乏しい場合を除き、財務諸表に以下について注記する必要がある。 訴訟の概要及び相手方等 金額 【図1】 訴訟が提起された場合 2 訴訟損失引当金の計上 《解説》 日本では、引当金に関する包括的な会計基準は設定されておらず、引当金を計上すべきか否かは、企業会計原則注解18が示す4要件を満たすか否かで判断する。なお、実務を拘束するものではないが、日本公認会計士協会より、会計制度委員会研究資料第3号「我が国の引当金に関する研究資料」が公表されている。そちらも適宜ご参照いただきたい。 企業会計原則注解18が示す4要件は以下のとおりである。これらをすべて満たす場合は引当金を計上しなければならない。 今回のケースでは、和解金の支払は将来の特定の損失であり、また、当期以前の事象(特許の取得)に起因するため、①及び②の要件は満たす。 そして、和解金の支払の確定により、③損失の発生可能性が高まり、かつ、④金額を合理的に見積ることができることから、期末日において引当金を認識することになると考えられる。 このケースでは、監査報告書の提出日までに和解金の支払が確定したため、期末日にさかのぼって引当金を計上することになると考えられる。 なお、監査報告書の提出日までに敗訴又は支払を伴う和解が確定しない場合であっても、裁判のいずれかの段階で敗訴した場合には、一般的には訴訟損失の可能性が高まっており、損失金額の合理的な見積りも可能であると考えられるため、通常、期末日において引当金を認識することになると考えられる。 【図2】 【検討事項のチェックリスト】 ~訴訟があった場合~ ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
ファーストステップ 管理会計 【第2回】 「標準による管理の限界」 ~ダイエットには限界がある?~ 〔原価管理編①〕 公認会計士 石王丸 香菜子 ◆標準原価とは何か 原価管理には、「標準」という概念があります。【第1回】の直接材料費の例では、食パン1000斤を作るのに必要なはずの小麦粉の量250kgは「標準消費量」であり、仕入れられる予定だった小麦粉の単価200円は「標準価格」になります。食パン1000斤を作るのにかかるはずだった原価は、「標準原価」と言います。 原価計算基準によれば、「標準原価」とは、 であるとされていますが、これだけではイメージしにくいかもしれません。 ◆ダイエット時の目標体重と同じ ある日、あなたがダイエットを決意したとします。その場合、まずは目標体重を決めるはずですね。 標準原価は、この目標体重に似ています。 では、ダイエットの目標体重はどのように決めるでしょうか。 トップモデルのような体重を目標にするでしょうか。ただし目標が厳し過ぎると、ダイエットは実現せずに終わり、目標の意味をなしません。 標準原価では、これを「理想標準原価」と言います。理論的に最も理想的な価格や能率・操業度を前提とした標準原価です。これは、標準を決める際の出発点として使うことはあっても、理想的過ぎて原価管理には適しません。 ダイエットをするときの目標体重としては、努力すれば達成できそうな体重を選ぶはずです。 標準原価では、これを「現実的標準原価」と言います。 現状で考えられる操業度において、努力次第で達成可能な目標値としての標準原価です。 あるいは、ダイエット前の数年間の平均体重を目標体重とすることもあるでしょう。平均体重を出す場合、例えば女性でお腹に赤ちゃんがいた時期があれば、その時の体重は除外するはずです。標準原価では、これを「正常標準原価」と言います。天災などによる異常値を排除した過去平均値など、正常値としての標準原価です。 原価管理には、「現実的標準原価」か「正常標準原価」を用います。システムを導入して、目的に応じて複数の標準原価を利用しているケースもあります。 ◆ダイエットには限界がある? 標準による管理は、「標準」という目標を目指す、いわばノルマ管理で、その考え方自体は役立つ方法です。特に【第1回】で取り上げたベーカリーのような人手中心のシンプルな製造業では、直接材料費や直接労務費の標準管理が有効です。 ですが、現在では、人手中心のシンプルな製造業ばかりではありません。機械やコンピュータによる自動作業中心の製造業が多く、また、モノを製造するのではないサービス業が国内で最も多い業種です。 このような企業の変化を受けて、標準による管理には限界が生じています。 ◆ロボットはダイエットできない 機械やコンピュータ中心の自動製造では、多くの場合、ミスやロスがほとんど発生せず、コストはほぼ予定通りに生じます。このようなケースでは、ノルマを課してコストを目標値に収めるという標準管理の手法は、意義が低くなります。人間ではないロボットはダイエットできないのと同じです。 ◆コストは製造段階よりも上流で決まってしまう 自動化の進んだ製造業では、製品を作るための直接原価は、製造段階よりも以前の企画・設計段階でほとんど決まってしまうのが実情です。実際に製品を製造する段階では、コストはほぼ計画通りに生じていくだけになります。そのため、製品の企画・設計段階で原価と品質を作りこんでいく「原価企画」の重要性が高くなっています。 ロボットに後からダイエットさせることはできないので、あらかじめスリムなロボットにしてしまうイメージです。 まずは、市場の状況を踏まえて目標売価を決定し、そこから目標利益を差し引いて目標原価を算定します。この目標原価を達成するために、原価低減を行って戦略的に原価を作りこんでいきます。 具体的方法は企業によってさまざまですが、複数製品で部品を標準化したり、競合他社製品を分解してその手法を取り入れたり(「ティアダウン」と呼ばれます)、新規のサプライヤーを開拓したりすることなどで、コストダウンを図っていきます。 ◆原価企画は広義の原価管理 標準による原価管理は、製造段階で原価を目標の範囲内に収めていく原価維持(コストコントロール)を目的としており、「狭義の原価管理」と言えます。一方、原価企画は、製品の企画・設計段階において、市場の状況も考慮したうえで戦略的にコストをマネジメントすることが目的であり、「広義の原価管理」と言えます。 ◆原価の構造を考える ここで、原価の構造について考えてみましょう。 原価を分類するには複数の方法がありますが、形態別に考えると、原価は材料費・労務費・経費の3つに分けることができます。 一方、製品との関連によって分類する方法もあります。製品の製造に関して、原価が直接的に発生する場合は直接費であり、間接的に発生する場合は間接費です。 この2つの分類法を組み合わせると、以下のように分類できます。 間接材料費・間接労務費・間接経費を合わせて、「製造間接費」と呼びます。 ◆原価構造の変化 シンプルな人手中心の製造業では、原価のうちの直接材料費や直接労務費の比率は相対的に高いものでした。しかし、現在のように自動化が進んだ製造業では、これらのウェイトが下がる傾向にあります。原価企画によりそもそもの材料費の低減が行われ、また、自動化により直接製造作業に当たる人員が大幅に少なくなっているからです。 代わりに、機械やシステムの償却費や、間接部門の人員の労務費、市場のさまざまなニーズにこたえるための間接的な経費など、製造間接費が増大しています。サービス業はこの極端な例で、原価のほとんどが製造間接費です。 ◆製造間接費の管理の重要性が増している 直接材料費や直接労務費については、【第1回】で解説したような標準による管理が有効です。 それでは、製造間接費についてはどのような管理を行うべきなのでしょうか。 現在の企業の状況を考えると、製造間接費の管理が、従来よりも重要性を増していると言えます。製造間接費についても標準による管理を行えないことはないのですが、実はその効果には限界があります。 連載の【第4回】以降では、この製造間接費の管理について解説します。 次回はその前提知識として、原価計算の大まかな仕組みを取り扱います。 (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔会計面のアドバイス〕 【第5回】 「固定資産の処理」 公認会計士・税理士 新名 貴則 1 固定資産の被害 大地震や集中豪雨などによって法人が被災した場合、法人の所有する工場や営業所などの建物や、機械設備、車両運搬具などの固定資産に物理的な被害が発生することがある。 このような場合、まずは被災後に固定資産の実地棚卸を行い、被害状況を確認する必要がある。 実地棚卸によって固定資産に対する被害が把握された場合、その被害状況に応じて次のような対応が考えられる。 2 固定資産の被害に対する会計処理 (1) 固定資産が全壊又は消滅した場合 固定資産が全壊又は消滅した場合、被災直前の当該固定資産の帳簿価額の全額を取り崩し、「固定資産滅失損」等の適当な科目を用いて、損益計算書の特別損失に計上する。災害による他の費用・損失とまとめて「災害損失」等の科目で特別損失に計上し、その内訳を注記することもできる。 (2) 固定資産の一部が損壊した場合 固定資産の全部ではなく一部が損壊した場合は、被災直前の当該固定資産の帳簿価額のうち、損壊した部分を取り崩し、「固定資産滅失損」等の適当な科目を用いて、損益計算書の特別損失に計上する。 一部損壊の場合は、全壊や消滅の場合と異なり、その後の対応に複数の選択肢がある。そして、どの対応を選択するかによって会計処理も異なってくる。 具体的には、①原状回復を行って再度稼働させるのか、②そのまま放置(遊休化)しておくのか、あるいは③除却してしまうのかということである。 以下、それぞれのケースについて詳しく見ていく。 ① 原状回復を行う場合 災害により損壊した固定資産の原状回復にかかる費用は、修繕費の会計処理に準ずる。つまり、原状回復に止まらず、価値を増加させたり耐用年数を延長させたりするものであれば、資本的支出として資産計上する必要がある。これには該当せず、原状回復に止まるものであれば、特別損失として計上することになる。 当期に発生した原状回復費用は、当期の特別損失として計上する。決算日時点で未払いであるものは未払金を計上する。決算日後に予定されているものは、引当金の要件を満たすものについては引当金を計上する。 当期に発生した資本的支出についても、決算日時点で未払いであるものは未払金を計上する。ただし、決算日後に予定されている資本的支出については、引当金の計上対象とはならない。 ② そのまま放置(遊休化)する場合 災害により一部が損壊した固定資産について、原状回復を行った上での再稼働や、除却等の意思決定を行わず、当面そのままで放置しておく場合も考えられる。 この場合、当該資産は遊休資産に該当することになる。遊休資産で重要性のあるものについては、他の資産グループから独立した単位として減損の検討を行うことになる。 ③ 除却する場合 災害により一部が損壊した固定資産について、再稼働はせず除却する場合は、被災直前の当該固定資産の帳簿価額の全額を取り崩し、「固定資産除却損」等の適当な科目を用いて、損益計算書の特別損失に計上する。 除却の意思決定は行ったものの、実際の除却処理が決算日までに実行されていない場合には、有姿除却として除却損を計上するか、減損の対象として減損損失を計上することになる。 3 保険金の会計処理 災害により棚卸資産や固定資産に損害が発生した場合、損害保険契約による保険金を受け取るケースも多いと考えられる。 被災した事業年度において保険金を受け取った場合は、当該事業年度の収益として計上することに何ら支障はない。また、決算日までに受取保険金が確定している場合は、未収入金を計上することになる。 しかし、災害という特殊な状況下においては、保険金の受取りが確定するまでに、通常より時間がかかるケースも考えられる。この場合、未収入金を計上せず、付保の状況を注記で開示することが考えられる。 4 減損会計への影響 災害により直接的な損害が発生した固定資産に係る会計処理は、上記「2 固定資産の被害に対する会計処理」で解説したとおりである。 直接的な損害が発生していない固定資産についても、被災による事業計画の見直し等によって、将来キャッシュ・フローに影響が生じる場合が考えられる。 このような場合には、被災後の将来キャッシュ・フローに基づいて減損の判定をやり直す必要性が生じる。また、被災によって経済的残存耐用年数が短くなる可能性も考慮する必要がある。 (了)
「従業員の解雇」をめぐる 企業実務とリスク対応 【第7回】 「普通解雇③」 ~出勤不良、体調不良による解雇~ 弁護士 鈴木 郁子 1 はじめに ~「欠勤の理由は何か?」を確認することから始まる~ 欠勤は従業員の権利ではない。欠勤は理由があれば当然に許されると考えている従業員もいるが、誤解である。欠勤が継続すれば、労務提供義務の債務不履行に当たり、普通解雇原因となり得る。とはいえ、欠勤の理由如何によって、解雇しやすさ、会社が現実になすべき対応は、大きく異なってくる。 まず、欠勤は、大きく分けると、 の2つに分けられる。 また、「正当な理由のある欠勤」の代表的なものは「病欠」であるが、この「病欠」も に分けられる。 以下、これらのケースに分けて企業側の対応を解説していくが、欠勤の場合、普通解雇だけではなく、懲戒解雇、休職、行方不明退職、有給休暇など他の制度との関係も問題となってくるところ、実務上、その関係や位置づけがよく理解されておらず、混乱しているケースが多々見られるので、それらについても簡単に触れることにしたい。 なお、実際の解雇にあたっては、①解雇制限に違反しないこと、②解雇手続の履践は当然必要となるが、この点については【第4回】を参照されたい。 2 無断欠勤・理由のない欠勤 (1) 解雇事由となり得るか 無断欠勤・理由のない欠勤は、労務提供義務の不履行として普通解雇事由となり、また、職場の秩序維持違反として懲戒事由、場合によっては懲戒解雇事由となり得る。 そして、解雇権濫用に当たらず解雇が適法といえるかどうかは、 等の総合考慮によって決まることになる(解雇権濫用法理については【第4回】参照)。 (2) 無断欠勤による解雇 無断欠勤自体は、本来懲戒事由でもあり、欠勤の中でも解雇しやすい類型ではある。とはいえ、無断欠勤といっても、急病でどうしても会社に欠勤を報告できず、やむを得ず無断欠勤となってしまうこともある。 したがって、会社に欠勤の理由を報告できなくなった理由が何なのか、理由のない無断欠勤といえるかを確認する必要がある。 また、就業規則との関係でも注意が必要である。 通常、就業規則における懲戒事由の項には、「**日以上の無断欠勤は譴責」「**日以上の無断欠勤は減給」「**日以上の無断欠勤は懲戒解雇」等と規定されていることが多い。しかしながら、懲戒解雇は、形式的に就業規則上の懲戒事由に該当するだけでなく、実質的に懲戒解雇に該当するといえるだけの実質的該当性が必要であるため、就業規則上の無断欠勤日数の条件を充たしたからといって、直ちに懲戒解雇できるわけではない。 なお、就業規則上、14日以上の無断欠勤の場合には懲戒解雇できる旨規定されていることが多く、これは「労働者の責に帰すべき事由」があるとして即時解雇できる場合として(【第4回】参照)、通達が「原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」をあげていることによるものと思われる。 もっとも、解雇予告手当不要として解雇できる場合(【第4回】参照)と懲戒可能な場合は必ずしもイコールではない(趣旨が異なる)。そして一般に、14日の無断欠勤で懲戒解雇というのは労働者に酷であるとも思えるため、普通解雇の方に留めるべきであるし、また、普通解雇とする場合であっても、出勤の督促は必ず行うべきである。 (3) 無断欠勤の従業員と連絡がとれない場合の対応 ところで、無断欠勤の場合において、そもそも、従業員と全く連絡がとれなくなってしまうこともある。その場合、無断欠勤で解雇という手段を講じるのではなく、就業規則に従業員の行方不明による当然退職の規定がある場合には、これを使うことも考えられる。 行方不明による当然退職の規定は、解雇では、解雇の意思表示が従業員に到達しないと雇用契約終了の効力が生じないところ、行方不明の場合には解雇通知の受領の確認が難しく、公示送達の迂遠な手続によらなければ、いつまでも退職させられないことの支障を回避するため設けられるものである。 行方不明の当然退職の規定では、退職の効力が生じる行方不明の期間について、1ヶ月や1ヶ月に満たない期間が設定されていることが多い。しかしながら、そもそも一定の行方不明期間経過による当然退職が有効とされるのは、行方不明の事実により従業員から黙示の辞職の申入れがあったと擬制し得るからである。そして、法(民法627条2項)によれば、従業員からの辞職の申入れにより退職の効力を生じるのは、給与の締日との関係で申入れ時期にもよるが、申入れから最大で1ヶ月半後である。 そうすると、退職の効力が生じる行方不明期間としては、1ヶ月半程度を見込んでおいた方が安全である。 なお、無断欠勤が連続せず、断続的に生じている場合には、(1)に述べた一般論に基づき、解雇の可否を判断することとなる。使用者から従業員に対し無断欠勤について注意を行い、改善の機会を与えることは必須である。 (4) 理由のない欠勤による解雇 欠勤の理由の報告がある場合であっても、やむを得ない欠勤とそうでない欠勤とでは、後者の方が前者より、期間が短く頻度が少なくとも、解雇が有効となりやすい。 とりわけ会社に病気を理由とする欠勤届を提出しつつ遊びに行っていたなど、会社に報告していた欠勤の理由が虚偽であることが判明した場合には、虚偽申告の事実自体が重大な懲戒事由の1つとなりうる。 したがって、このような場合は、直ちに懲戒解雇処分はできないが(懲戒処分にはすべきである)、懲戒・注意にもかかわらず同様の行為が繰り返されれば、他の欠勤の場合より早期に解雇できる場合がある。 3 私傷病による病欠 (1) 傷病の原因を確認する 病欠の場合、まずは、従業員に対し診断書の提出を求めることになる。しかしながら、傷病に罹患した原因が私傷病か業務起因かで会社の対応は異なってくるため、その確認が必要となる。 病欠の原因が私傷病である場合には、通常、就業規則で普通解雇事由とされている「身体・精神に故障があり、業務に耐えられない」等に該当し、また、欠勤状態自体は病気とのやむを得ない理由であるとはいえ、労務提供義務を履行できていない点において債務不履行に当たり、普通解雇事由となり得る。 (2) 私傷病休職規定に則る もっとも、勤務期間や病欠の期間との関係でどの程度の病欠であれば解雇できるかとの判断は難しく、そのために、私傷病休職規定を設けている会社が多い。 私傷病休職規定とは、私傷病による長期欠勤が一定期間に及んだ場合に一定の期間の休職期間を認め、その期間に治癒し復職できなれば、当然退職とするか解雇するというものである(なお、当然退職ではなく解雇となっている場合には、あわせて解雇手続(【第4回】参照)を行うことも必要である)。私傷病休職規定は、その意味で、解雇の前段階、解雇の猶予措置としての意味を持つ。 したがって、欠勤の原因が私傷病である場合、まずは診断書の提出を求め、業務に耐え得ない傷病なのかを確認し、休職規定のある場合にはこれを適用し、規定に従って処理をすることとなる。 休職命令を発令するかしないかは、本来、使用者の自由であるが、休職制度があるのにこれを適用せず、解雇を行うことは、治癒の見込みがないなどの場合を除き(かかる場合にはそもそも休職制度自体の適用がないと解釈できる)、解雇権濫用に当たると判断される可能性が高い。 (3) 私傷病休職規定がない場合は 私傷病休職規定がない場合には、どのように対応すればよいか問題となるが、ある段階でいきなり解雇をするというよりも、休職と類する対応をとる(※)のが無難であるし、本人の納得も得られやすい。 (※) 例えば、本人に対し、指定した期間内に治癒しなければ解雇することを告げるなど。 その場合の休職期間(解雇猶予期間)については、勤務期間(勤務期間が長い従業員ほど休職期間は通常長く認められる)、症状等に配慮し、一般的な会社の休職規定等を参考に決めればよいと思われる。 4 業務起因による病欠 (1) その病欠が業務起因によるものかを判断 業務起因による病欠の場合には、解雇において一定の法律上の制限が出てくるという点で、また、会社による配慮が必要という点で(労災の問題が生じる上、そのほかに会社に対し損害賠償請求等がなされる場合もある)、会社がなすべき対応は、私傷病の場合とは全く異なる。 このため、まずは業務起因と私傷病の判別が重要となる。 業務中の事故により傷病に罹患し勤務できなくなった場合などは分かりやすいが、注意すべきは、うつ病・心因反応等の精神疾患や過労に基づく疾患の場合である。 長期の病欠が問題となった場合には、本人の申告がなくとも、これが過労によるものではないか(※)、また、社内のセクハラやパワハラによるものではないか等、確認していただきたい(厚生労働省による「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」参照)。その上で、これが業務起因による可能性が高いのであれば、慎重な対応をした方がよい。 (※) 労災の認定においても、残業時間が一定時間を超える場合には業務起因と推認されるので、直近の残業時間は必ず確認したい。 なお余談になるが、明らかに私傷病であるにもかかわらず(例えば、病状が客観的に業務とは全く関係しない)、本人が業務起因としての配慮を求め、労災申請をちらつかせる場合には、むしろ本人に労災申請をしてもらい、業務起因性について労働基準監督署の判断を求めるという方法もある。 (2) 業務起因の病欠による解雇制限 病欠が業務起因の場合には、法律上、次のような制限ある。 まず、業務災害による休業期間中及びその後30日は、従業員を解雇できない(労働基準法19条1項)。 ただし、治癒に何年もかかる場合に、解雇できず雇用を保障しなければならないのでは、使用者にとって酷である。 そこで、療養開始後3年を経過して従業員が治癒しない場合に使用者が打切補償(平均賃金の1,200日分)を支払った場合(労働基準法19条1項但書)、または、傷病補償年金が支給された場合(労災保険法19条)には、解雇制限が解除され、解雇できることになる。 なお、症状固定した場合(それ以上治癒しても回復しない時点)には、その時点から30日を経過すれば解雇制限が解除される。 (3) 会社としての配慮を もっとも、解雇制限が解除される場合であっても、解雇にはなお慎重を期すべきである。 私傷病休職の場合には、原則として休業期間中に治癒しなければ、それも元の職務に復帰できるほど回復できなければ「治癒」とはいえないため、退職・解雇となる余地があるが、業務起因の場合は、同様に解し得ない。 他ならぬ会社の業務が原因であり、本人も望まぬ傷病に罹患し勤務できない状態となっているのであるから、会社としては当然、従業員に対する配慮が必要となる。 元の職務に復帰できるほど回復できなくとも、例えば、職種や仕事の内容を変更すれば、また勤務時間を短縮したり、リハビリ出勤をはさめば勤務可能なのであれば、そのような配慮をすべきである。本人の復職希望や勤務のための配慮全くなくしての解雇は無効であると考えておいた方がよい。 このような配慮なく解雇を強行した場合には、解雇を争われる可能性も高くなり、加えて、労災でカバーできなかった損害分等の損害賠償請求等が提起されるリスクも覚悟する必要がある。 いずれにせよ業務起因の場合には、慎重に対応し、また、従業員側と休業期間中の生活、復職時期、復職の方法等について話し合いを十分に尽くし解決するのがよい。 5 病欠以外の理由のある欠勤について ~限度を超えたものは解雇事由となるか~ 冒頭述べたように、従業員の欠勤は権利ではない。このため、例えば家族の急病等といった理由のあるやむを得ない欠勤といえども、これが一定程度以上になれば、解雇できないわけではない。 この点、どの程度の欠勤があれば解雇できるのかは、その欠勤の程度・態様が業務にどの程度支障を来たすかにもよるため、一概に言うことはできない。 もっとも、有給休暇が1年につき8割以上出勤した者に対する恩恵として付与されるものであり、2割の欠勤を法が見込んでいることからすれば、少なくとも1年の欠勤が2割以下であれば解雇できないと考えておいた方がよい。 いずれにせよ、2の(1)で述べた基準によって解雇の可否を判断することになるが、理由のある欠勤であるため、欠勤の程度、欠勤による業務の支障の程度がどの程度か、その説明をどの程度行ったのか等がポイントとなる。 なお、育児・介護に対する関係では、育児介護休業、子の看護・介護休暇の制度があり、そもそも法が一定の場合に一定の休業・欠勤を認めている点は注意されたい。 6 欠勤と有給休暇の関係に留意 ここで、有給休暇と欠勤処理の関係が実務上問題となることが多いので、最後に触れておきたい。 有給休暇を取得した場合には、当然のことながら、その有給休暇取得分を欠勤(債務不履行)とみて解雇の是非を検討することはできない。 本来、有給休暇の取得については事前の申入れが必要であるが、現実的には多くの会社において、欠勤の場合の事後的な有給休暇の振替えを認めていることが多い。 しかしながら、そのような運用が行き過ぎると、本来なら欠勤として処理し解雇原因の1つとなり得るところが、そのために解雇できなくなってしまうことがある。 したがって、有給休暇は事前申請が原則であることを徹底し、仮に有給休暇の事後的な振替えを認めるとしても、本人の申請があり、事前に申請できないことにつき合理的な理由があり、急な欠勤による業務上の支障が少なかったと会社が判断する場合に限定し、なおかつ、回数制限を設けるなどの工夫をする必要があろう。 また、そもそも事後的な振替えを認めるかについては、上記のリスクを踏まえ、会社としては慎重な判断が必要である。 (了)
税務ピンポイント解説 【第3回】 「マンション購入時に気をつけたい「50㎡の“壁”」」 Profession Journal 編集部 皆さんはマンションを購入する際に、何を重視するでしょうか? 様々な要素がありますが、注意したいポイントに「床面積」があります。 なぜなら、「床面積が50㎡以上」か否かによって、次の各種の税制上の特例が受けられるかどうかが決まってしまうからです。 (※) ④については「240㎡以下」という限度面積が設定されています。 ここでいう「床面積」とは、一般的に物件資料などで使用されている「壁芯面積」ではなく、登記簿上の面積である「内法の面積」であることに注意が必要です。つまり、壁芯面積で50㎡を超えていても内法面積で満たせなければ、上記の特例は受けられないことになります。 まさに「50㎡の“壁”」が立ちふさがっているのです。 ではなぜ「50㎡」が最低面積とされているのかといえば、昭和51年3月26日に閣議決定された「第Ⅲ期住宅建設五箇年計画」(国土交通省、昭和51年)で4人世帯の場合の「最低居住水準」が50㎡と定められたことにより、住宅金融支援機構などのローンの基準が50㎡に引き上げられた状況を鑑みて、各種税制優遇措置が設けられたことによります。 ちなみに「マンション・一戸建て住宅データ白書2015」(東京カンテイ、2016年1月28日)によると、首都圏での平均専有面積は61.90㎡、平均価格は5,183万円であり、日本では3LDK(3K等を含む)の間取りのマンションの供給数が群を抜いているため、3LDKのマンションの購入の際には「50㎡の壁」に阻まれることはほぼないと予想されます。 では、どのような人がこの「50㎡の壁」に注意すればよいのでしょうか。 上記の五箇年計画によれば、標準世帯の最低居住面積水準は35~47.5㎡とされています。2LDKの専有面積は40㎡前後であるため、家計に余裕のない子ども2人の世帯がここに当てはまることがわかると思います。 「平成27年 国民生活基礎調査の概況」(厚生労働省、2016年7月12日)によると、児童のいる世帯の平均所得金額は712.9万円であり、一般的に住宅価格の年収倍率は5~6倍が望ましいと言われるため、もはや3LDKの物件には手が届かない世帯が多いことがうかがえます。 となると、子育て世代の2LDK(2K等を含む)に対する需要はますます高まることが予想されますが、税制上の特例の要件は、果たして現状のままでよいのでしょうか。世相に合った政策の充実が求められます。 (了)