《速報解説》 秋の臨時国会における税制関連法案の成立へ向け、 与党、「消費税率引上げ時期の変更に伴う税制上の措置」を公表 ~インボイスまでの経過期間は4年を存置、大規模事業者の税額計算特例は「措置せず」 Profession Journal編集部 自由民主党・公明党は8月2日(火)、6月に行われた安倍首相による消費税率10%引上げの平成31年10月1日への2年半延期の表明を受け、消費課税だけでなく資産課税や地方法人課税、個人所得課税など関連する税制の改正方針を示した「消費税率引上げ時期の変更に伴う税制上の措置」を公表した。 今後はこの方針に従い、9月に召集される臨時国会において税制関連法案の成立を目指すこととなる。 〇インボイス導入は平成35年10月1日 まず、軽減税率の導入時期については6月に首相が言及したとおり、10%引上げ時(H31.10.1)の導入とされている。 またインボイス(適格請求書等保存方式)の導入時期については、当初、簡易な「区分記載請求書等保存方式」による4年の経過期間が短縮されるのではと見る向きもあったが、こちらも2年半延期の平成35年10月1日(当初は平成33年4月1日)に導入されることが明記された。これによりインボイス導入までの経過期間4年は存置されることとなる(適格請求書発行事業者の登録申請受付も平成33年10月1日へ延期)。 なお、消費税転嫁対策法の適用期限(現行:平成30年9月30日)も平成33年3月31日まで2年半の延長、総額表示義務の特例についても2年半延長となる。 上記を踏まえ、今後の流れをまとめると次のようになる。 なお今回の延期期間が2年6ヶ月であるという特性上、当初のスケジュールと異なり3月決算法人などは期中での改正対応を求められるため、特に、10%引上げに係る平成32年3月期、インボイス導入に係る平成36年3月期については、経理処理から申告実務まで、留意すべき事項が多くなることが予測される。 〇大規模事業者は税額計算特例の時限適用が認められず 平成28年度税制改正による現行規定では、大規模事業者(基準期間(法人:前々事業年度、個人:前々年)における課税売上高5,000万円超)についてもシステム整備が間に合わない場合を想定し、複数税率に対応した売上税額・仕入税額の計算において中小事業者向けに講じられた計算特例(※)を時限的に適用できるとされていたが、今回の延期によりその準備期間が確保されたとするためか、この経過措置は「措置しない」こととされた。 (※) 計算特例の内容については[こちら]を参照されたい。 2年半の延期後もこの特例措置の適用を見込んでいた企業にとっては方針の見直しが必要となる。 〇直系尊属からの住宅取得等資金贈与特例、本年10月からの大幅拡充は見送りへ 平成29年4月からの消費税率の引上げを見据えて本年10月より大幅な拡充が予定されていた直系尊属からの住宅取得等資金贈与に係る贈与税非課税特例(措法70の2)については、その拡充のタイミングとなる契約時期が下表(1)の通り「平成31年4月~」と2年半延期され、その間は下表(2)の現行制度が継続されることとされた(相続時精算課税制度における住宅取得等資金の贈与の特例の適用期限も平成33年12月31日へ2年半延長)。 (1) 特別住宅資金非課税限度額 ※消費税率10%を前提 (2) 住宅資金非課税限度額 上記の拡充延期についてはすでに想定の上クライアントの贈与計画の見直しを行っていた税理士も多いと思われるが、拡充時期が明示されたことで、改めて今後の資産対策について予測を立てることができよう。 〇住宅ローン控除等の各特例は現行制度を平成33年12月31日まで延長 平成31年6月30日までの適用期限とされていた住宅取得に係る下記特例措置については、現行制度がすべて平成33年12月31日まで延長されることとなった(個人住民税における住宅借入金等特別税額控除についても適用期限を平成33年12月31日まで延長)。また、すまい給付金の対象期間も平成33年12月31日までの延長が明記された。 (※) 各制度の控除限度額等については情報ツール[こちら]を参照。 〇H29.4.1から改正予定の地方法人課税の税率等見直しもそれぞれ2年半延期 消費税率10%引上げを前提(※)として本年度改正で規定されていた地方法人課税の偏在是正を目的とした下記の税率等改正についても、それぞれ適用期限が平成31年10月1日(現行:平成29年4月1日)以後開始事業年度へ延期されることとなった。 (※) 平成26年度の与党税制改正大綱において、消費税率10%段階の対応として、「法人住民税法人税割の地方交付税原資化をさらに進める。また、地方法人特別税・譲与税を廃止するとともに現行制度の意義や効果を踏まえて他の偏在是正措置を講ずるなど、関係する制度について幅広く検討を行う。」とされている。 なお、本年3月31日公布の改正地方税法等に基づき、すでに東京都を含む各地方自治体の一部では平成29年4月1日以後開始事業年度の法人住民税(法人税割)・法人事業税の税率について条例改正により規定しているところもあるが、根拠となる法令が改正されることで、その見直しが必要となる。この点については、今回の方針を受けた今後の動向に注視が必要だ。 〇自動車税・軽自動車税における環境性能割は導入延期も税率区分は一旦白紙に 消費税率引上げを前提としていた自動車取得税の廃止は平成31年10月1日へ変更されたほか、本年度改正で創設された自動車税及び軽自動車税における環境性能割についてはその導入時期をそれぞれ平成31年10月1日としたうえで、その非課税及び税率に関する規定の適用を受ける自動車及び軽自動車の範囲については、平成31年度税制改正において、技術開発の動向等を勘案して見直しを行うとされた。 (了)
《速報解説》 公認会計士・監査審査会、 平成28年版の「監査事務所検査結果事例集」を公表 ~会計上の見積りについては継続して不備が頻出~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年7月29日、公認会計士・監査審査会は平成28年版の「監査事務所検査結果事例集」を公表した。 今回の事例集の特徴は次のとおりである。 参考資料として、「監査事務所の概況(平成28年版モニタリングレポート)」も公表されており、監査法人の状況などについて、会計専門家ではない一般の利用者にもわかりやすく説明がなされている。 事例集は、公認会計士・監査審査会が行う監査事務所の検査で確認された指摘事例等を取りまとめたものであり、基本的に、監査事務所に関する内容である。 本稿では、事例集に記載された事項のうち、一般事業会社における会計処理等においても参考になると考えられるものを紹介する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 取締役、監査役、投資者等による活用を期待 事例集は、コーポレートガバナンス・コード等を踏まえ、特に、監査役等に向けて、事例集を十分に活用し、外部会計監査人における品質管理の状況及び品質管理レビューや審査会検査の結果等について積極的に質問するなどにより、外部会計監査人との連携を充実・強化するとともに、外部会計監査人の適切な評価や十分な監査時間の確保等を行い、適正な外部会計監査が行われるための対応をされることを期待していると述べている。 引き続き、会計監査人と監査役等との連携についても述べられている。 Ⅲ 個別業務における「問題となった事例」 事例集は、次のような事例について述べている。 会計上の見積りについては、継続して不備が頻出していると述べられている。 (了)
《速報解説》 公認会計士協会、 「公認会計士業務における情報セキュリティの指針」 及びQ&Aを改正 ~ITの進歩、サイバー攻撃等への対応、クラウドサービス普及やIoTの進化による影響も記載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年7月25日付け(ホームページ掲載日は7月27日)、日本公認会計士協会は次のものを公表した。これにより、平成28年5月27日から意見募集していた公開草案が確定することとなる。 これは、前回の改正(平成24年8月30日)以降のITの進歩への対応、日本年金機構における個人情報流出事案に象徴されるサイバー攻撃等、新たな情報セキュリティリスクとして、サイバーセキュリティへの対応などを行ったものである。 なお、公開草案に対する外部からのコメントはなかったが、内容に影響しない範囲での字句修正を一部行っているとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 実務指針の主な改正内容 1 対象範囲 実務指針は、公認会計士が監査に限定されないすべての業務において留意すべき情報セキュリティについての指針の提供を目的としている。 公認会計士は、実務指針に従って情報漏洩を防ぐ体制を構築し、運用することが必要である。 2 ITの進歩に対応する情報セキュリティ クラウドサービス等のITリソースが、ITの進歩により広く普及し、利用されるようになると、新しいリスクが生じることから、ITの進歩に対応した情報セキュリティ及び体制の見直しを考える必要がある。 電子メールの利用に際しての注意(誤送信防止など)、クラウドサービス等のITリソース利用に係る情報セキュリティ(ログオン時のID、パスワードの漏洩など)、サイバー空間に係る情報セキュリティ(偽装したログイン画面を用意してログオン時のID、パスワードの奪取など)などが述べられている。 3 情報漏洩に関するリスクの認識と対応 業務に直接関係する情報がどのように管理されているのかについて、業務の流れとともにITの利用状況を理解し、関連する内部統制を識別した上で、リスクを認識しなければならないと述べている。 4 適用時期等 「IT委員会実務指針第4号「公認会計士業務における情報セキュリティの指針」の改正について」(平成28年7月25日)は、平成28年7月1日以後開始する事業年度から適用する。 Ⅲ Q&Aの主な改正内容 Q&Aの改正は多くの事項に及んでいるので、下記では特徴的な記載について述べる。 1 サイバーセキュリティと情報セキュリティの違い(Q4) サイバーセキュリティは、サイバー空間を対象としたセキュリティの考え方である。サイバー空間は各種デバイス、コンピュータ、ネットワークその他の電子化された世界のため、サイバーセキュリティにおいては電子化された情報資産がその保護対象となる。 情報セキュリティは、IT委員会実務指針第4号「公認会計士業務における情報セキュリティの指針」でも記載されているように、その範囲を電子の情報に限定しておらず、紙の資料もその対象に含まれる。サイバー空間固有の特徴はあるものの、サイバーセキュリティにのみ特化した対策を行うのではなく、情報セキュリティの一部として検討することが求められる。 2 サイバーセキュリティ対策に関する全体像の把握に適した資料(Q6) IT委員会実務指針第4号「公認会計士業務における情報セキュリティの指針」を活用する。 下記のものも参考になる。 3 IoT(Internet of Things)の動向(Q12) IoTが進んでいくことで便利になる一方、情報セキュリティの面からは管理対象が増加し、その特性上、情報漏洩のリスクが顕在化しやすくなる状況にあると言えると述べられている。 具体的な特性として、①管理が意識から漏れやすい点、②モニタリングの困難さが述べられている。 4 マルウェア対策を実施する上での留意点(Q24) マルウェアから防御するためには、すべてのPC・サーバにマルウェア対策ソフトを導入するとともに、常に最新の状態に維持されるようにする。そのため、情報セキュリティ担当者は、すべてのPCにおいてパターン・ファイルの更新の設定が正しく行われるよう留意する。 5 ファイルサーバとしてクラウドサービスを利用する場合の業者を選ぶ際の留意点(Q27) 委託先選定に当たっては、情報セキュリティ対策、サービスの稼働状況、利用者サポート体制、契約終了時のデータの取扱い、事業者の事業継続性についても考慮することが重要であると述べられている。 Q&Aでは、具体的な留意点が記載されている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「専門業務実務指針4400 『合意された手続業務に関する実務指針』に係るQ&A」を公表 ~実務指針において理解を要する事項を解説~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年7月25日付で(ホームページ掲載は7月28日)、日本公認会計士協会は、監査・保証実務委員会研究報告第29号「専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」に係るQ&A」を公表した。これにより、平成28年4月27日から意見募集していた公開草案が確定することとなる。 Q&Aは、平成28年4月27日に日本公認会計士協会が公表した専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」(以下「専門実4400」という)に基づく合意された手続業務を実施する際に理解が必要と思われる事項について、Q&A方式によって解説を提供し、会員の理解を支援するためのものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 次のQ&Aが取り扱われている。 以下では特徴的な項目について述べる。 1 専門実4400の適用対象となる業務(Q2) すべての調査報告業務に専門実4400の適用が強制されるわけではない。 実施結果の利用者のニーズに応じて合意された手続業務を実施したことを記載する報告書を発行する場合、業務実施者である監査事務所又は監査事務所が支配している事業体には専門実4400を適用することが求められている。 「監査事務所が支配している事業体」とは、公認会計士もしくはその配偶者又は監査法人が実質的に支配しているものと認められる関係(子会社等又は関連会社等との関係)を有する法人その他の団体をいう(Q6、専門実4400第4項及び職業倫理に関する解釈指針Q2-1)。 監査事務所が支配している事業体が合意された手続業務を実施する場合には、監査事務所は専門実4400第3項に関連して品基報第1号を遵守させるように監督することが求められる点に留意が必要である(Q6、専門実4400第4項)。 2 適用対象となる業務の例示(Q3) 専門実4400の適用が想定される業務としては、例えば、次のものがあげられている。 3 会社の買収に関する調査への適用(Q4) 専門実4400付録1には、会社の買収に関連した合意された手続業務に係る実施結果報告書の文例が記載されている。 付録1は例示であり、会社の買収に関する財務状況の調査(以下「買収調査」という)について、常に合意された手続業務として実施することが求められているわけではない。 買収調査について、合意された手続業務として業務を実施するかどうかは、報告書の利用者のニーズに応じて決定されることになる(専門実4400A1項)。具体的には、専門実4400を適用して合意された手続業務として実施するか、合意された手続業務以外の調査報告業務として実施するかを業務契約において定め、業務を実施することとなる。 任意に行う買収調査において、報告書の利用者から「合意された手続」である旨を記載することが特に求められておらず、また手続やその実施結果について、専門実4400の文例のように詳細かつ具体的な記載ではなく概括的なもので足り、むしろ、業務の実施の過程で気が付いた情報の作成や内部統制等に関する助言等の記載が求められているのであれば、報告書の利用者のニーズに照らして、合意された手続以外の調査報告業務として実施することが考えられると述べられている。 (了)
2016年7月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.179を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第25回】 「租税法の解釈②」 -通達の読み方とその問題点(貸倒損失を事例として)- 税理士 山本 守之 1 貸倒れの法律規定 法人税法第22条第3項は所得金額の計算上損金の額に算入すべき金額を次のように規定しています。 「貸倒損失」は上記のうち(3)の損失の額に該当します。 損失の額は、元来、収益との対応にも期間との対応にもなじまないものといえます。その点から考える限りは、収益を得るために直接必要なものであったといえない面もあります。 しかし、損失の額は、法人の生み出した剰余を減殺しており、所得計算上のマイナス要素であることは明らかで、しかも、法人は、その活動の全てを通じて剰余を生み出そうとしており、その活動の中で剰余を減殺するものが存在する限り、それが収益を生むために直接必要であったか否かを問わず損金の額に算入されるべきです。 このような考え方から、その事業年度に発生した損失の額は、所得の金額の計算上の損金の額に算入します。 (注) 純資産が減少しても法人の意図した事業に関係のない支出は、ここにいう損失の額には含まれず、利益の処分とするのであるという考え方もあります。 損失の額は、発生の事実によってこれをとらえるから、法人税法においては、臨時巨額の損失を繰り延べることはしません。 「資本等取引以外の取引に係る」と規定されているのは、剰余の減殺される原因が対資本等取引によるものである場合は、資本等取引として資本の払戻しと考えられますので、所得金額の計算上は損金の額に算入しないのです。 なお、損失の額とは、例えば災害による資産の減損失、貸倒れによる債権の喪失、消滅時効完成による債権の消滅等が考えられますが、資産の譲渡損失はこれには含まれません。資産の譲渡対価は益金の額に算入され、譲渡原価が損金の額に算入されます。 2 貸倒れの通達規定 「貸倒損失とは何か」については、法令は全く規定しておらず、法人税基本通達9-6-1~3に定めているため、課税要件法定主義に反するのではないかという疑問が生じます。 これに対して「何が貸倒損失か」は専ら事実認定の問題ですから、課税要件に該当しないという考え方もあります。 そういえば、国税庁では解説書(『法人税基本通達逐条解説』税務研究会)で、 としています。 国税庁、財務省によるOBの解説もほぼこのようになっています。 しかし、法人税基本通達9-6-1~3は次のように法人の経理要件までも定めており、単なる事実認定ではないとも考えられます。やはり課税要件法定主義に反していると考えられます。 法人税基本通達9-6-1~3で貸倒損失とするのは、次の3つの場合です。 ところで、上記3つの場合は次のように経理要件が付されています。 上記のうち、法人税基本通達9-6-1は法律的に金銭債権が消滅したのですから、法人が貸倒損失の経理をしていようといまいと絶対的な損金ですから「損金の額に算入する」と表現したのです。一般的には、法人が法人税基本通達9-6-1を適用した場合は税務調査で「貸倒処理を否認する」という処理はできません。もっとも、回収不能な金銭債権を放棄したような場合は、「寄附金」という処理はなされるでしょう。 法人税基本通達9-6-2については、解説書等に「損金経理を要する」と書かれていますが、これは誤りです。確かに、昭和55年の改正前までは「損金経理した場合はこれを認める」とされていたのを「損金経理することができる」と改められたのです。 この改正理由については、課税庁で、 と解説しています(『税経通信』Vol.36/No.5/通巻488号/1981戸島利夫)。 つまり、回収不能が明確になった事業年度で貸倒処理をすべきで、「当期は赤字だから、次の事業年度で」という処理は認められないということです。経理処理を「損金経理した場合はこれを認める」から「損金経理することができる」とした理由を事例で考えてみましょう。 平成X年3月でA社がB社に対して有する債権の回収不能が明らかになったが、その事業年度では何の処理もせずに、次の事業年度(平成X+1年3月期)で貸倒れとして損金経理したという場合に、損金経理要件を付していると次のようになってしまいます。 これでは、A社は永久に貸倒損失とする機会を失ってしまいます。そこで、経理要件は「損金経理することができる」としたのです。 いずれにしても、通達で経理要件まで定めながら「これは事実認定だから課税要件法定主義に反さない」とする言い訳は通用しません。 3 法律上の債権消滅 法人の有する金銭債権について、次に掲げる場合に該当することになったときのその金額は、金銭債権が法律上も消滅したのですから、貸倒れとして損金の額に算入されます。法人が貸倒処理をしていない場合であっても、税務においては進んで損金の額に算入するのです(法基通9-6-1)。 ここで、③(イ)の関係者協議における「合理的基準」とは何かが問題になります。 課税庁OBの執筆した解説書では、「切捨額は一律でなければならない」としていますが、そのようなことはありません。 『法人税基本通達逐条解説』(税務研究会)では、 としています。 実務では、債務者の親会社は責任があるから切捨額が多く、他の債権者は切捨額は少ないということはいくらでもあります。 ④の書面による債務免除は、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、金銭債権の弁済を受けることができないと認められるときに、債務者に書面で通知した額が貸倒損失となるという意味です。 ところで、気になるのは「相当期間」について、「3年~5年と解する」とする解説書や質疑応答集等があります。しかし、ここで重要なことは「その貸金の弁済を受けることができない」と認められる場合であり、「債務超過の状態が相当期間継続」というのは、その弁済不能の判断期間における債務者の状態を表しているに過ぎません。 法人の取引先のなかには、債務超過にあるものが少なからず存在し、それだけで債権者が回収を断念することはないでしょう。 金銭債権の回収に関してさまざまな方途を講じ、回収に関して努力をするものと思われます。しかし、ある時期には回収を断念しなければならない時期が到来するかもしれません。 「相当期間」は、債務者の経営状態を見るために、ある程度のウォッチ期間が必要であり、「最終判断のために見極めをつける期間」という意味を持っているのです。 したがって、債務者が天災地変などで回収不能の損害を受け、それが基因となって債務超過の状態になったとすれば、経営状態の判断はごく短期間でつくと考えられます。これに反して、取扱商品に対する消費者のニーズが低下したため慢性的に経営状態が悪化していく場合は、新製品の発売等により反発する機会も十分あるのですから、ある程度長期的に経営状態を判断しなければならないでしょう。 「相当期間」は、回収不能を判断することについて合理的と認められる期間と解すべきであって、一律に3年ないし5年と固定すべきものではありません。 債権者による一方的な処理ですから、債務者に支払能力があるなどその免除が相手方に贈与したと認められるときは、寄附金又は賞与等として取り扱われます。 4 会計認識上の貸倒れ 法律的に金銭債権が消滅した場合でなくとも、債務者の資産状況、支払能力等からみて、全額の回収不能が明らかになった場合、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができます(法基通9-6-2)。 もっとも、担保物がある場合には、その担保物を処分した後でなければ損金経理することができませんし、保証債務については現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象とはなりません。 「資産状況、支払能力からみて」と抽象的に表現したのは、貸倒れに関する事実認定に関し、個々の事案に即した弾力的運用を行うという意味のほか、通常の回収努力も払わずに意識的に貸倒損失にしたというようなものでない限りは、回収不能に陥るまでの動機なりプロセスを問わないという考え方を表現したものです。 昭和42年の改正前では、事実認定に関して破産、和議、強制執行、資産の整理、死亡、行方不明、債務超過の状況が相当期間継続し事業再起の見通しがない場合、天災事故、経済事情の急変など対象となる事実は列挙されていたのです。しかし、「このような基準は・・・一般的には妥当であるが、個々の債権についてその回収不能を認定するに当っては、この基準は多くの場合厳格すぎるきらいがあり、税務官庁と企業との間にこれを巡って争いが絶えない」(昭和41年11月「税法と企業会計原則との調整に関する意見書」)という批判によって列挙しないこととしたのです。 5 日本興業銀行事件に学ぶ 法人税基本通達9-6-2では、貸倒れとするか否かは債務者の資産状況、支払能力等から判断することになっています。しかし、平成16年12月24日の最高裁第二小法廷判決では、債務者の事情だけでなく、債権者側の事情や経済的環境も踏まえて判断しなければならないという判示を行いました。 これについての高裁段階の判決では、債権者を同一の地位にあると判断した場合には、計数的には債権の全額回収は可能であるし、 として貸倒れを否認しました。 この考え方の背後には、貸倒れか否かを判定する場合は、専ら債務者側の事情だけで判断するという古い考え方があったようです。 税務訴訟をめぐる古い考え方では、「訴訟で勝つか負けるかは高裁段階が分かれ目であり、最高裁は憲法違反など一定のものしか受け付けないから高裁判決を最終なものとして覚悟しよう」というものでした。 しかし、最近の租税訴訟では上告審(最高裁)で納税者が逆転勝訴することが少なくありません。これは高裁までは裁判官はしょせん官僚であって、最高裁では弁護士出身者も裁判官になっており(例えば裁判長滝井繁男氏(元大阪弁護士会会長))、民間の感覚が強く出てくるからです。 旧日本興業銀行事件も最高裁で納税者が逆転勝訴したものであり、貸倒れの設定をめぐり、債務者の事情だけではなく、債権者の事情、経済的環境も考慮するという民間の血が入った判決となりました。 この事件では、住宅金融専門会社(A社)の設立母体である銀行(旧日本興業銀行)が、A社の経営が破たんしたため放棄した同社に対する貸付債権について、その金額が当時回収不能となっており、法人税法第22条第3項にいう「当該事業年度の損失の額」として損金の額に算入されるべきであるか否かが争われたものです。 この事件でA社の設立母体5社(旧日本興業銀行、D銀行、証券会社3社)は、平成8年3月29日、旧日本興業銀行、D銀行及び一般行の債権放棄額を確認し、旧日本興業銀行とD銀行は、A社の営業譲渡の日までに同債権放棄額に対応する貸出債権を全額放棄するものとすることを確認する旨の書面を作成し、旧日本興業銀行は、同月29日、A社との間で債権放棄約定書を取り交わし、A社の営業譲渡の実行及び解散の登記が同年12月末日までに行われたことを解除条件として本件債権を放棄する旨を合意しました。 これによって旧日本興業銀行は、A社に対する貸倒れを計上したのですが、課税庁はこれを否認する更正を行い、これが争いとなったのです。 これに対して、最高裁第二小法廷では、下記のとおりとしました。 ここでは、A社の母体行である旧日本興業銀行が非母体金融機関に対して債権額に応じた損失の平等負担を主張することは社会通念上不可能であり、A社の資産等の状況からすると本件債権金額の回収不能は客観的に明らかであり、しかも、「このことは、本件債権放棄が解除条件付でされたことによって左右されるものではない。」としています。 回収不能の金銭債権の貸倒れを定めた法人税基本通達9-6-2では「法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全体額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができる。」としています。 この場合の取扱いを適用する場合、「債務者の資産状況、支払能力等からみて金銭債権の全額が回収できないことが明らかになった」かどうかの事実認定については、 とされており(『法人税基本通達逐条解説』)、ここでは、専ら債務者側の事実については考慮されていますが、最高裁判決でいう「債権者の事情及び経済環境」については考慮されていません。 例えば、債務者P社の債権者会議が開かれ、債権者代表Q社(親会社)から債権の70%一律カットが提案されたとしましょう。これに対して出席債権者は、親会社の責任で、Q社の債権は全額カットとし、不足分については親会社以外の債権者は50%カットと逆提案し、これが可決されたとします。 これなどは債権者側の事情、経済環境などが配慮されたものといえます。債権者が均一の立場で債権放棄をしなければならないという硬直的な考え方は通用しないでしょう。 貸倒損失を弾力的に行うためには、通達等に依存するのではなく、債権者、債務者双方の関係やそれぞれの事情、経済的環境等が配慮されなければならないということです。 しかし、国税庁では、判例解説における と述べられています(最高裁判所判例解説民事篇平成16年度(下)845頁)。 これを基礎にして、 として債務者を中心として貸倒れを判断する通達の表現を変えていません(『法人税基本通達逐条解説』)。 この点は最高裁判所を尊重して債権者の事情も配慮すべきだとする民間の考え方と合致していません。 この訴訟において最高裁の裁判長を務めた滝井繁男氏はその著書『最高裁判所は変わったか』(岩波書店)で次のように述べています。 6 通達と国税庁ホームページ 国税庁では平成24年11月2日にホームページの質疑応答事例を改訂し、貸倒処理について実質的(弾力的)処理方法を明らかにしました。 これは、従来通達等で硬直的に定めていたことを反省したものです。 この意味では、貸倒れについても通達の表現が硬直的でありましたが、これを実務上の処理として弾力的に改訂されるようになったホームページの記述は評価できます。 ただし、本来は通達を直すべきで、ホームページだけ改めるのはよくないと考えます。 これを事例によって解説します。 【問題点】 税務上の貸倒れについては、法人税基本通達9-6-1~3までに記載されていますが、いずれも官僚的、硬直的なものでした。 例えば、担保物がある場合はそれを処分した後でなければ貸倒処理を認めない。保証債務は現実に履行後でなければ貸倒れ対象としない。第三者に対する債務免除後も貸倒処理はできない等です。 しかし、担保物の順位が劣後だったり、保証人の保証能力がない場合は基本通達を表面的に適用するわけにはいきません。この点について、国税庁では後ればせながらホームページを改訂したというわけです。 【検討】 (1) ケース1について 事例の場合の一般的取扱いについては、国税庁ホームページでは、 としています。 しかし、同時にホームページでは、 としています。ここでは注書きで ともしています。 ケース1の事例では、B社は債務超過の状態が相当期間継続して回収の見込みがないということですから、貸倒処理は容認されます。 なお、国税庁ホームページ注書きで、 としていますが、「相当期間」を従来の庁内の研修で「3年~5年」としていた時代よりもかなり進歩しています。 (2) ケース2について 貸倒れの一般的取扱いについては、法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみて全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる(法基通9-6-2)とされています。 しかし、債権に対して担保物がある場合について国税庁ホームページでは、 としています。しかし、これでは、担保物が劣後であってもその担保物を処分した後でなければ貸倒処理ができないことになってしまいます。 幸いなことに今次のホームページ改訂で としています。 ケース2では担保物が第5順位で、担保物を処分しても配当が見込めないのですから、貸倒処理は容認されるでしょう。 (3) ケース3について ケース3の場合は金銭債権に保証人がいる場合について、国税庁ホームページでは、「保証人があるときには、保証人からも回収できないときに貸倒処理ができます。」という簡単な回答になっています。 ただ、ケース3の事情からみると、①保証人の収入は生活保護と変わらない、②有する資産は差押禁止財産(破産法34、民事執行法131)となっているというのですから、実質的に保証人からの回収が見込めない(債務者は自己破産)ので貸倒処理は容認されるでしょう。 7 通達と審理課情報 役員の分掌変更の場合の退職給与については、次のような取扱いがあります(法基通9-2-32)。 通達は分掌変更に際して、「実質的に退職したと同様の事情があること」について、例えば常勤役員が非常勤役員になったこと、取締役が監査役になったこと、その分掌変更後における報酬が概ね50%以上減少したこと等を例示しています。 通達はあくまで例示で、退職と同様の事情があったか否かはその分掌変更後における職務の内容、役員としての地位の激変等の事実により実質的に判定するべきものなのです。 しかし、一般の税実務では、通達に書かれている例示があたかも課税要件のように受け取れます。 その意味からすれば、このような「例示」は通達に書くものではなく、退職という事実の判定は納税者の法解釈に委ねるべきであったかもしれません。 実は、平成18年2月10日の京都地裁判決(平成18年10月25日大阪高裁同旨)では、法人税基本通達9-2-32に定めた事実に該当するとしても、「退職の事実」はあくまでも実質的に判断すべきだとしています。 この意味では、通達に書かれた事実に盲目的に従っている税実務に対して警鐘を鳴らした判決であるといえましょう。 事例では当期中に保険金1億円を収受しているため法人税額の増額を避けるため、甲、乙を退職させたものと受け取られることも考慮すべきかもしれません。 上記の法人税基本通達9-2-32の(1)から(3)は実質的な退職を判定するための通達上の要件を示しているものに過ぎず、退職の事実はあくまでも実質的に判定すべきです。 また、同通達の(1)から(3)は通達が示した例示に過ぎず、役員としての地位の激変は実質的に判定すべきで、通達に頼って税務の解釈をすることは危険です。 通達を適用する場合は、適用上の背景を無視してはなりません。 税理士が租税法を自ら解釈することなく、通達やQ&Aに頼り、これを課税要件のように受け取っていると、税法自体の耐用年数が経過し、賞味期限を過ぎてしまいます。 ところで、京都地裁判決、大阪高裁判決(平成18年10月25日)の後、国税庁審理室は次のような情報を発信しました。 この情報は、課税要件法定主義に反する通達が判決で敗れたことに対する反省がないと批判されても仕方ないでしょう。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第6回】 「別表6(10) 中小企業者等が機械等を 取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、複数の書き方パターンがある様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第6回目は、実務上適用例が増えてきているものの、一般的な書籍等では解説される機会がまだ少なく、かつ最近様式改訂があった「別表6(10) 中小企業者等が機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、いわゆる中小企業等投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)のうち、税額控除を適用する場合に記載する。 本制度の税額控除は、中小企業者等のうち資本金が3,000万円以下の法人(特定中小企業者等という)について、特定の要件を満たした機械等(※1)を 平成29年3月31日までに取得又は製作し、指定事業の用に供した場合に、その取得価額に7%を乗じた金額を法人税額から控除できる(当期の法人税額の20%が上限)ものである。なお、税額控除の限度額を超える金額については、翌事業年度に繰り越すことができる(1年間)。 適用の対象となる主な資産の要件は、次の通りとなっている。 (※1) 中古品、貸付の用に供する設備等は原則として対象外。 (※2) 少額の減価償却資産の取得価額の損金算入(法令第133条)又は一括償却資産の損金算入(法令第133条の2)の規定の適用を受けるものを除く。 指定事業は以下の通り。 なお上記の対象設備のうち、連載【第1回】で解説した生産性向上設備投資促進税制(生産性向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)の特定生産性向上設備等に該当する場合には、以下の特別償却又は税額控除の上乗せ措置の適用がある。 (注) ただし、貨物自動車、内航船舶については上乗せ措置の適用はない。また、デジタル複合機は、上乗せ措置のうちA類型の適用はない。なお、平成28年度の税制改正大綱(2015年12月24日閣議決定)によれば、この生産性向上設備投資促進税制は、平成29年3月31日までの適用期限をもって廃止されることになっている。 特定生産性向上設備等とは、生産等設備を構成する機械及び装置、工具、器具及び備品等並びに一定のソフトウエアで、先端設備(A類型)又は生産ラインやオペレーションの改善に資する設備(B類型)として、産業競争力強化法第2条第13項に規定するものをいう。 この生産性向上設備等の範囲など産業競争力強化法に関する内容については、経済産業省のホームページを参照のこと。 Ⅲ 「別表6(10)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成28年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 〔法人税額の特別控除額の計算〕 〔翌期繰越税額控除限度超過額の計算〕 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例40(贈与税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆同族会社に対する債権放棄とみなし贈与(相法9、相基通9-2) 同族会社に対して、株主等から債権放棄、資産の無償又は低額譲受け等があったことにより、その同族会社の株式又は出資の価額が増加した場合には、債権放棄等を行った者から、他の株主に、その株式の価額の増加分に相当する利益の供与があったものとして、贈与税が課税される。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q5】 「外国法人が発行した外貨建利付債券の利子の取扱い」 ~「国外」で受け取る場合~ PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 所得税法上、公社債の利子は利子所得として取り扱われます。平成27年12月31日以前は、国外発行の公社債の利子で、支払の取扱者による源泉徴収がなされていないものについては、利子所得として総合課税の対象とされていました。しかし平成25年度税制改正により、平成28年1月1日以後は、特定公社債の利子については上場株式等の配当所得等として申告分離課税の対象となります。 なお、発行日が平成27年12月31日以前の公社債についても、利子の支払われるべき日が平成28年1月1日以後の場合は、新税制が適用されます。 1 源泉徴収 国外で発行された特定公社債の利子については、国内における支払の取扱者を通じてその交付を受ける場合、交付の際に支払を受けるべき金額(外国所得税が課されている場合は控除後の金額)に対し源泉徴収がなされます(【Q4】参照)。 おたずねの場合、外国証券会社の国外口座で利子の支払を受けるということですので、利子の金額(円換算額)に対して日本の源泉税は課されません。 2 申告分離課税 国外発行の特定公社債の利子は、支払の取扱者による源泉徴収がなされていない場合、原則として申告が必要となり、上場株式等の配当所得等として申告分離課税20.315%(国税15.315%、地方税5%)が適用されます。上場株式等(特定公社債を含む)に係る一定の譲渡損失との損益通算等が可能です。 この場合における利子所得として収入金額に計上すべき金額は、外貨建の利子の金額をその収入すべき日(利子につき支払開始日と定められた日)におけるTTM(電信仲値相場)により円換算した金額となります。 (了)
連結納税適用法人のための 平成28年度税制改正 【第6回】 「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の創設」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 [8] 地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の創設 1 制度内容 地方公共団体が行う一定の地方創生事業に対する企業の寄附について、現行の損金算入措置に加え、住民税、事業税、法人税の税額控除の優遇措置を新たに講じ、地方創生に取り組む地方を支援する制度として、地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)が創設された。 地方創生応援税制の優遇措置を受けるための手続は次のとおりである。 なお、内閣府地方創生推進事務局のウェブサイトに、「活用の手引き」(企業版ふるさと納税を検討する企業向けに制度の概要、手続の流れ、留意事項等が記載されている)が掲載されている。 以上の内容を盛り込んだ「地域再生法の一部を改正する法律」及び関係する政省令等は、平成28年4月20日に公布及び施行されている。 連結納税適用法人の地方創生応援税制の取扱いは、以下のようにまとめられる。 《連結納税適用法人の地方創生応援税制の取扱い》 具体的な取扱いは次のとおりとなる。 (1) 事業税 連結親法人又は連結子法人が、改正地域再生法の施行日(平成28年4月20日)から平成32年3月31日までの間に、地域再生法に規定する認定地方公共団体に対してまち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関連する寄附金(特定寄附金)を支出した場合には、特定寄附金を支出した日を含む連結事業年度(寄附金支出連結事業年度)において支出した特定寄附金の額(注1)の合計額(注2)の10%に相当する金額を事業税額から控除するものとする(平成28年地法改正法附則9の2の2①、平成28年地令改正法令附則6の2の2)。 ただし、寄附金支出連結事業年度の事業税額の20%(地方法人特別税は廃止される平成29年4月1日以後に開始する連結事業年度から15%)に相当する金額を上限とする(平成28年地法改正法附則9の2の2①、地方法人特別税等に関する暫定措置法2②、平成28年地法改正法9、平成28年地法改正法附則1三)。 (注1) 寄附金支出連結事業年度の法人税の連結所得の金額の計算上損金の額に算入されたものに限る。 (注2) 分割法人の場合は、分割基準により按分して計算した金額とする。 (2) 道府県民税 連結親法人又は連結子法人が、改正地域再生法の施行日(平成28年4月20日)から平成32年3月31日までの間に、地域再生法に規定する認定地方公共団体に対してまち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関連する寄附金(特定寄附金)を支出した場合には、特定寄附金を支出した日を含む連結事業年度(寄附金支出連結事業年度)において支出した特定寄附金の額(注3)の合計額(注4)の5%(平成29年4月1日以後に開始する連結事業年度分にあっては、2.9%)に相当する金額を道府県民税の法人税割額から控除するものとする(平成28年地法改正法附則8の2の2③、平成28年地令改正法令附則5の3)。 ただし、寄附金支出連結事業年度の道府県民税の法人税割額の20%に相当する金額を上限とする(平成28年地法改正法附則8の2の2③)。 (注3) 寄附金支出連結事業年度の法人税の連結所得の金額の計算上損金の額に算入されたものに限る。 (注4) 分割法人の場合は、個別帰属法人税額の分割基準となる従業者の数に按分して計算した金額とする。 (3) 市町村民税 連結親法人又は連結子法人が、改正地域再生法の施行日(平成28年4月20日)から平成32年3月31日までの間に、地域再生法に規定する認定地方公共団体に対してまち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関連する寄附金(特定寄附金)を支出した場合には、特定寄附金を支出した日を含む連結事業年度(寄附金支出連結事業年度)において支出した特定寄附金の額(注5)の合計額(注6)の15%(平成29年4月1日以後に開始する連結事業年度分にあっては、17.1%)に相当する金額を市町村民税の法人税割額から控除するものとする(平成28年地法改正法附則8の2の2⑨、平成28年地令改正法令附則5の3)。 ただし、寄附金支出連結事業年度の市町村民税の法人税割額の20%に相当する金額を上限とする(平成28年地法改正法附則8の2の2⑨)。 (注5) 寄附金支出連結事業年度の法人税の連結所得の金額の計算上損金の額に算入されたものに限る。 (注6) 分割法人の場合は、個別帰属法人税額の分割基準となる従業者の数に按分して計算した金額とする。 (4) 連結法人税 連結親法人又は連結子法人が、改正地域再生法の施行日(平成28年4月20日)から平成32年3月31日までの間に、地域再生法に規定する認定地方公共団体に対してまち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関連する寄附金(特定寄附金)を支出した場合には、連結親法人及び各連結子法人の税額控除限度額(注7)の合計額を寄附金支出連結事業年度の連結所得に対する調整前連結税額(注8)から控除することとする(措法68の15の3①)。 ただし、連結親法人又は各連結子法人ごとに、寄附金支出連結事業年度における税額控除限度額が連結親法人又は連結子法人の寄附金支出連結事業年度の法人税額基準額(注9)を超えるときは、その税額控除限度額は、法人税額基準額を限度とする(措法68の15の3①)。 (注7) 税額控除限度額とは 税額控除限度額とは、連結親法人又は連結子法人の寄附金支出連結事業年度において支出した特定寄附金の額(※1)の合計額の20%に相当する金額から特定寄附金の支出について道府県民税及び市町村民税(都民税を含む)に係る税額控除額として政令で定める金額(※2)を控除した金額をいう。ただし、当該金額が連結親法人又は連結子法人の寄附金支出連結事業年度において支出した特定寄附金の額の合計額の10%に相当する金額を超える場合には、当該10%に相当する金額をいう。 (※1) 当連結事業年度の連結所得の金額の計算上損金の額に算入されるものに限る。 (※2) 特定寄附金の支出について道府県民税及び市町村民税(都民税を含む)に係る税額控除額として政令で定める金額とは、「調整前個別帰属法人税額(個別所得金額に連結法人税率を乗じた金額)から控除対象個別帰属調整額及び控除対象個別帰属税額等を控除した金額(※3)」(個別帰属法人税額)に2.58%(平成29年4月1日以後に開始する連結事業年度は1.4%)を乗じて計算した金額という(措令39の45の3①、平成28年措令改正法令附則28)。この2.58%(1.4%)とは、住民税からの税額控除の限度額である20%に住民税率12.9%(7%)を乗じた率となる。 (※3) 連結確定申告書等に控除対象個別帰属調整額及び控除対象個別帰属税額等の金額を明らかにする書類の添付がない場合には、控除額は0となる(措令39の45の3③)。 (注8) 調整前連結税額とは 調整前連結税額とは、留保金課税、所得税額控除、外国税額控除、租税特別措置法上の税額控除を増額又は減額する前の連結法人税額をいう(措法68の9⑥二。以下、[8]に同じ)。 (注9) 法人税額基準額とは 法人税額基準額とは、次の①又は②の金額のうち、いずれか少ない金額をいう(措令39の45の3④)。 この取扱いは、連結確定申告書及び地方税申告書等に別表の添付があり、かつ、別表に記載された寄附金が特定寄附金に該当することを証する書類として財務省令で定める書類を保存している場合に限り、適用する(措法68の15の3③、平成28年地法改正法附則8の2の2⑤⑪、9の2の2②)。この場合において、税額控除額は、別表に記載された特定寄附金の額を基礎として計算した金額に限るものとする(措法68の15の3③、平成28年地法改正法附則8の2の2⑤⑪、9の2の2②)。 《連結法人税に係る地方創生応援税制の税額控除額》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 [地方創生応援税制に係る税額控除額の個別帰属額の計算方法] 上記で計算された連結税額控除額のうち、各連結法人の個別帰属額は、各連結法人の税額控除額(税額控除限度額又は法人税額基準額)となる(措法68の15の3④、措令39の45の3⑤)。 [地方法人税における地方創生応援税制に係る税額控除額の取扱い] 法人税における地方創生応援税制の税額控除額は、地方法人税の課税標準となる基準法人税額の計算において連結法人税額から控除される(地方法6三)。 この場合、各連結法人の地方創生応援税制の税額控除額の個別帰属額に地方法人税率(4.4%又は10.3%)を乗じた金額が地方法人税個別帰属額の計算において減算される(措法68の15の3④、措令39の45の3⑤、地方法15①)。 [住民税における地方創生応援税制に係る税額控除額の取扱い] 連結親法人又は連結子法人の各連結事業年度の個別帰属法人税額(道府県民税及び市町村民税の課税標準)の計算において、法人税における地方創生応援税制に係る税額控除額の個別帰属額は個別帰属法人税額から控除されない(つまり、連結法人税個別帰属額に加算される。地方税法附則8⑥⑧、地法23①四の三、292①四の三)。 2 適用時期 改正地域再生法の施行日(平成28年4月20日)以後に特定寄附金を支出した場合に,その支出をした日を含む連結事業年度から適用される(平成28年所法等改正法附則1十二、平成28年地法改正法附則1十一)。 (了)