《速報解説》 国税庁、税務に関するコーポレートガバナンスの事務実施要領を公表 ~大企業の効果的な取組事例の紹介も~ 税理士・社会保険労務士 上前 剛 7月15日、国税庁のホームページにて「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組の事務実施要領」が公表され、さらに税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた効果的な取組事例として「大企業の税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組事例」も合わせて公表された。 1 税務CGへの税務当局の対応方針をまとめた事務実施要領 税務に関するコーポレートガバナンスの状況が良好な法人のうち、税務調査の結果に大口・悪質な是正事項がなく調査の必要度が低いと国税局から判断された法人は、次回の税務調査までの間隔が延長される。 ただし、見解の相違が生じやすい取引で取引金額が多額(売上の0.1%以上。売上1兆円超の法人については10億円以上)の場合は自主開示しなければならない。 今回公表された事務実施要領では、税務当局におけるこれらの取扱いについて、以下の構成でまとめられている。まだ制度全体がつかみにくいと感じていた税理士や対象企業にとっては参考となる点が多いだろう。 さらに確認項目の評価・判定を行う際に利用する「別紙1 税務に関するコーポレートガバナンスの確認項目の評価ポイント」及び自主開示を依頼する際に提示される「別紙2 自主開示について」も公表されており、特に別紙2において、見解の相違が生じやすい取引として以下の取引が列挙されている点には注目されたい。 上記の項目は国税局が見解の相違が生じやすいと認めているのだから、法人の規模や取引金額に関わらず注意しなければならないと考える。 2 効果的な取組事例 「大企業の税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組事例」では、国税局が大企業から収集した税務コンプライアンスの維持・向上に効果的な取組事例がまとめられている。 効果的な取組事例を公開した意図としては、効果的な取組事例を参考にしたり真似たりして税務コンプライアンスの維持・向上につなげてほしいというものであろう。 実際に収集された情報だけあって実践的な内容が書かれており、税務CGに取り組む企業にとってはすぐに実行できるものもあるのではないだろうか。 筆者は事例2ページ目「社内監査の効果的な実施」における以下の取組事例に注目した。 上記の「模擬税務調査」については、すでにこれをビジネスにしている税理士も多いが、事例として紹介されたことから税務当局も税務CGにおけるその効果を認めているものと思われる。 (了)
《速報解説》 東証、2016年3月決算会社までの 「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の 開示分析結果を公表 ~IFRS適用(及び適用予定)会社は141社に~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年7月20日、東京証券取引所は、2016年3月決算会社までの「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容について分析を行い、その結果を公表した。 同分析については、平成27年9月1日(2015年3月31日決算会社(早期適用含む))、平成28年4月13日(2015年3月から12月決算会社)にも行われている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 「決算短信・四半期決算短信作成要領等」(2015年3月)の27ページに次の規定が設けられている。 分析対象会社等の推移は次のとおりである。 出所:東京証券取引所の「『会計基準の選択に関する基本的な考え方』の開示内容の分析」の5~7ページをもとに作成。 (了)
《速報解説》 配偶者の居住権保護、法定相続分の見直しなど含む 「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」がパブコメへ ~意見・情報受付締切日は9月末。今後の見通しは? Profession Journal編集部 昨年4月からの「法制審議会-民法(相続関係)部会」における審議を経て、7月12日付けで「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」がパブリックコメントに付された。 今回の改正案に至る流れは平成25年の婚外子の相続差別をめぐる最高裁判決を受け民法900条《法定相続分》が改正されたことが契機となっており、その反動として、遺産分割における「配偶者の権利」に係る改正内容が柱の1つとなっている。 パブコメの期間は9月30日までであり、10月からは寄せられた意見を踏まえ部会における調査審議が再開される予定だ。 以下、主な改正論点と今後の見通しをまとめた。 * * * 〇配偶者の居住権を保護 配偶者が相続開始時に遺産に属する建物に居住している場合に、遺産分割により住み慣れた居住建物からの急な退去が求められることのないよう、「短期居住権」の新設が検討されている。短期居住権とは、遺産分割が確定するまでの間など一定期間、無償でその建物を使用することができる権利のこと。 また、「長期居住権」として、終身又は一定期間、配偶者にその使用を認めることを内容とする法定の権利を創設し、遺産分割において配偶者による選択肢の1つとする案が示された。この長期居住権については、取得した場合、配偶者はその財産的価値に相当する金額を相続したものと扱うとされており、この算定方法については今後の検討課題とされている。 〇被相続人財産の婚姻後増加額や婚姻期間により配偶者の法定相続分を拡大 現在2分の1とされている配偶者の法定相続割合について、被相続人の財産形成に対する配偶者の貢献が類型的に大きいと考えられる一定の条件に応じて、その割合を拡大する案が検討されている。 具体的には、被相続人の財産が婚姻後に一定の割合以上増加した場合(一定の算式による)にその割合に応じて配偶者の具体的相続分を増加させる案や、婚姻後一定期間(20年や30年)経過した場合、協議により(もしくは期間経過で当然に)配偶者の法定相続分を引き上げる案が検討されている。 〇相続人以外の者の貢献を考慮する方策 現行法上では、いわゆる寄与分は相続人にのみ認められているため、例えば相続人の妻が被相続人(夫の父)の療養看護に努めた場合であっても、相続人でない妻が寄与分を主張することはできない。一方で療養看護等を全く行わなかった相続人がその遺産の分配を受けることについて不公平感を覚える者が多いとの指摘もある。 このため、請求権者の範囲を限定する、あるいは寄与行為の態様を限定する等の一定の要件の下、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をした者が、相続開始後、相続人に対して金銭請求をすることができる権利の創設が検討されている。 〇遺留分をめぐる制度の見直し 遺留分減殺請求が行われた場合、物権的効果が生ずるとされている現行の規律を改め、原則として金銭債権が発生するものとする見直しが検討されている。つまり遺留分権利者は減殺請求をすることによって受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求めることになる(協議による現物返還も認められる)。 これは現行法上、減殺請求が行われた場合、遺贈又は贈与の目的財産が受遺者又は受贈者と遺留分権利者との共有になることが多く、共有関係の解消をめぐり新たな紛争となれば円滑な事業承継を困難にするとの問題に対応したものである。 その他遺留分については、算定の基礎となる財産に含めるべき相続人に対する生前贈与の範囲を、相続開始前の一定期間(例えば5年間)とする案なども検討されている。 〇自筆証書遺言の利便性向上へ 一般に相続対策では公正証書遺言の作成が望ましいとされているものの、自筆証書遺言についても家庭裁判所での検認件数が年々増加傾向にあることから、高齢化社会を踏まえその利便性を高める方策が検討されている。 具体的には、自筆証書遺言について、遺贈等の対象となる「財産の特定に関する事項」については、対象を特定するための形式的な事項でありすべての自書が煩雑なことから、自書でなくてもよいものとする案が検討されている。 なお「財産の特定に関する事項」としては、 ・不動産の表示(土地であれば所在、地番、地目及び地積/建物であれば所在、家屋番号、種類、構造及び床面積) ・預貯金の表示(銀行名、口座の種類、口座番号及び口座名義人等) 等が想定されている。 これにより、遺言書の末尾に添付されることが多いいわゆる遺産目録(物件等目録など)についてはパソコン等による作成が可能となるほか、遺言者以外の者による代筆も認められることとなる。 ただし財産の特定に関する事項を自書以外の方法で記載した場合は、その事項が記載されたすべてのページに遺言者の署名及び押印が必要とされる(今回のパブコメでは「緩和方式として考えられる例」が示されている)。 また、作成後の紛失や相続人による隠匿・変造を避ける等の趣旨から、自筆証書遺言の原本の保管を公的機関(例えば法務局、公証役場、市区町村など)に委ねる制度の創設も検討されており、保管された遺言書については家庭裁判所の検認を要しないこととされるなど、公正証書遺言に近づけた制度設計が検討されている。 * * * 上記以外にも、現在は遺産分割の対象外とされている預貯金債権等の可分債権を遺産分割の対象に含める案や、遺言執行者の法的地位及び一般的な権限を明確化する案などが織り込まれている。 〇民法改正の時期は? 今回公表された中間試案では、見直しの方向性や議論の途中経過を示した内容となっており、補足説明においても と述べられていることから、法律の改正までにはかなりの時間を要するだろう。 実際にパブコメの締め切りは9月末であるが、当局は多くの意見が寄せられるとみており、取りまとめが10月までにできるか疑問視されているとのこと。当局としては法案を平成30年の国会提出としたい考えだが、未だ債権法の成立がなされていないことから、予定どおりに進まない可能性が高いとする向きもある。 このため改正法は、周知期間を2年経て施行とした場合、最短でも32年になりそうな見込みであり、これと合わせて税制の対応も最短で32年度改正となろう。 ただし、今回の改正内容が実現された場合、相続対策の見直しや税制への影響など税理士業務へのインパクトは大きい。中間試案自体は16ページと短いものだが、税理士はその審議内容について詳しく解説された補足説明(全85ページ)にも目を通しておきたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2016年7月21日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.178を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第33回】 「譲渡制限付株式を用いた役員報酬制度の創設」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 1 譲渡制限付株式を用いた役員報酬をめぐる法改正の動向 金融庁は6月24日、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案を公表し、7月25日を期限として意見照会を行っている。 改正案では、株式報酬として一定期間の譲渡制限が付された現物株式(いわゆるリストリクテッド・ストック)の割り当てをする場合に、これが役員等に対する報酬の支給の一種であるということで、ストックオプションの付与と同様に、「第三者割当」の定義から除外し、有価証券届出書における「第三者割当の場合の特記事項」の記載を不要とすることとされている(改正内閣府令案19②一ヲ(3))。 このリストリクテッド・ストックについては、昨年の「日本再興戦略」改訂2015において、「攻め」のガバナンスを推進するための環境整備の一環として、仕組みの整備を図ることとされたことを受け、平成28年度税制改正において、付与する側の法人における損金算入、付与される役員側の所得課税の時期・対象となる金額等について制度整備が行われたところであった。 今回の内閣府令の改正と相俟って、企業の役員報酬の選択肢が拡大したといえよう。 2 法人側の損金算入 法人税法では、法人の支払う役員報酬は原則として損金とはならず、例外的に、①定期同額、②事前確定届出、③利益連動、のいずれかに該当する場合にのみ損金算入が認められている(法法34①)。 平成28年度税制改正では、この例外のうち②の類型として、リストリクテッド・ストックを位置づけ、しかも、この場合には、「届出」を不要としている(法法34①二)。 損金算入が認められるリストリクテッド・ストックの要件としては、「特定譲渡制限付株式」(法法54①)であって、かつ、「将来の役務の提供に係るもの」(法法34①二)である必要がある。 まず、「特定譲渡制限付株式」の要件としては、「譲渡について制限その他の条件が付されている株式」であり、かつ、「役務の提供の対価として当該個人に生ずる債権の給付と引換えに当該個人に交付されるもの」であることが求められており(法法54①)、前者の要件については具体的に、次のように規定されている。 一方、「将来の役務の提供に係るもの」の点については、①職務執行開始日から1月を経過する日までに株主総会等において役員個人別の確定額報酬の決議が行われ、かつ、②その決議から1月を経過する日までに、その付与された報酬債権の額に相当する特定譲渡制限付株式が交付されること、が必要である(法令69②)。 これらの要件を満たすリストリクテッド・ストックが交付された場合には、交付を受けた役員個人において給与等課税事由が生じた日において、法人においては、当該役員から役務の提供を受けたものとして、損金算入することとなる(法法54①)。 3 役員側の所得課税 一方、役員側の給与等課税事由が生じた日については、特定譲渡制限付株式の収入金額の価額は、「譲渡についての制限が解除された日の価額」(所令84①)であることから、特定譲渡制限付株式の交付日ではなく、譲渡制限解除日ということなる。 (了)
雇用促進税制に関する平成28年度税制改正のポイント ~適用範囲・雇用形態の見直し・縮減と所得拡大促進税制との重複適用について~ 公認会計士・税理士 八代醍 和也 Ⅰ はじめに 平成28年度の税制改正における改正事項のうち、雇用促進税制に関して、注目すべき改正が行われた。すなわち、適用範囲の縮減や雇用形態の見直しが行われ、従前のものと比較して、非常に使いづらいものになってしまった一方で、これまでは選択適用とされていた所得拡大促進税制との重複適用が一定の調整を加えた上で可能になった。 こうした中で、制度が複雑になり、その詳細についての理解が未だ一般にそこまで浸透していないという実情もあると聞く。 そこで本稿では、これらの制度が税制改正前後でどのように変更されたのか、適用にあたっての留意点を含めて解説する。 なお、文中の意見に関する部分は、筆者の私見であることを申し添える。 Ⅱ 雇用促進税制の変更点の概要(見直し・縮減) 雇用促進税制とは、当期末と前期末の雇用者数とを比較して、5人以上(中小企業者等は2人以上)及び10%以上増加していることなど一定の要件を満たした場合に、増加した雇用者数に応じて1人当たり40万円を乗じた金額を法人税額から控除するものである(ただし、当期の法人税額の10%(中小企業者等は20%)を限度とする)。 この雇用促進税制について、以下の点において今般改正が行われている。 (1) 増加雇用者の範囲の縮減 平成28年4月1日以降開始事業年度から、適用される増加雇用者の範囲が「無期雇用かつフルタイム」に限定されることとなった。これについて、改正前との比較を図示すると以下のようになる。 【図表1】 適用される増加雇用者の範囲の変更 (2) 同意雇用開発促進地域に限っての適用 雇用情勢が特に厳しいと考えられる地域として、都道府県が地域雇用開発促進法に基づいて「地域雇用開発計画」を策定し、厚生労働大臣の同意を受けた地域を「同意雇用開発促進地域」といい、平成28年5月1日現在で28都道府県102地域が定められている。 今般の改正において、雇用促進税制の適用範囲が、上記地域内に所在する事業所における雇用に限定されることとなった。このため、都市部にしか事業所を有していない法人や、上記地域内に事業所を有する法人であっても、当該事業所以外の事業所における雇用については制度の適用を受けることができなくなった。 * * * 上記(1)及び(2)の改正により適用範囲が大きく縮減されたことから、改正前においては適用できていた法人の相当数が改正後においては適用できなくなることが想定され、今般の改正が法人の採用活動に与える影響も少なからずあるかもしれない。筆者は改正前の雇用促進税制について、雇用の創出に関して一定のサポート効果があると評価していたため、租税特別措置の縮減に係る改正方針とはいえ、今回の改正は残念でならない。 Ⅲ 所得拡大促進税制との重複適用 新たな雇用創出を図る雇用促進税制と給与水準の上昇を図る所得拡大促進税制とは、重複適用がこれまで認められていなかった。しかしながら、地方における雇用創出がより一層重要な課題となっている今日の状況において、平成27年度税制改正において創設した地方拠点強化税制をさらに後押しする観点から、雇用促進税制について一定の調整措置を講じた上で所得拡大促進税制と併用することが可能になった。 (1) 所得拡大促進税制の変更点~調整措置の概要 所得拡大促進税制とは、給与等支給額を平成25年4月1日以後に最初に開始する事業年度の支給額から下表の割合以上増加させる等の一定の要件を満たす場合に、その増加額の10%を法人税額及び所得税額から控除するものである。 給与等支給額の増加割合の算定方法等に変更はないものの、今般の改正において可能となった、雇用促進税制との重複適用を行う場合、所得拡大促進税制において10%を乗じる給与等支給増加額については、雇用促進税制の対象となる増加雇用者の給与額として一定の方法により計算された金額(※)を給与等支給増加額から控除して計算することとされた。 (※) 法人の給与等支給額に、全雇用者数に占める雇用促進税制の対象となる雇用者数の割合を乗じた金額の30%相当額 この計算の概要を図示すると、以下のとおりである。 【図表2】 なお、法人税の申告実務において、上記の調整計算は、新設された別表6(19)付表「雇用者給与等支給増加重複控除額の計算に関する明細書」にて行うこととなる。 (2) 所得拡大促進税制適用にあたっての留意点 前述のとおり、平成28年4月1日以後に開始する事業年度より雇用促進税制と所得拡大促進税制の重複適用が認められることとなったことから、同意雇用開発促進地域内にある法人においては、両制度の適用要件を満たした場合に、両制度を併用するのか、それとも所得拡大促進税制のみを適用するのかの有利判断を行う必要が生じる。 雇用者を増加させたことで、人件費が増えている場合においては、通常であれば増加人員数1人当たり40万円の税額控除を受けることができる雇用促進税制を併用することが有利になるケースが多いと考えられる。 一方、同じく雇用者を増加させた場合であっても、即戦力採用によって比較的年収が高い人員を増加させた場合等には、雇用促進税制を併用せず所得拡大促進税制のみを適用する方が有利になる場合もあろう。 (了)
相続税の実務問答 【第1回】 「遺産分割が整わない場合の相続税の申告方法」 税理士 梶野 研二 [答] 相続人間で遺産の分割ができない場合であっても、相続の開始したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告をし、算出された税額を納付しなければなりません。この場合、各共同相続人が法定相続分により遺産を相続したものとして相続税の計算を行うこととなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続税の申告期限 相続や遺贈により財産を取得した者は、相続や遺贈によりその被相続人から財産を取得したすべての者の相続税の課税価格(注)の合計額が相続税の基礎控除額を超える場合には、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に、相続税の申告書を被相続人の死亡時の住所地の所轄税務署長に提出し、申告書に記載した相続税を納付しなければなりません(相続税法27①、33、附則③)。この期限を「相続税の申告期限」といいます。 (注) 相続税の課税価格とは、相続や遺贈により取得した財産の価額から債務・葬式費用を控除し、一定の生前贈与財産の価額を加算した金額です。 2 遺産分割ができなかった場合の申告方法 (1) 相続税の申告期限までに遺産分割ができない場合 相続税の申告期限までに、遺産の分割が行われれば、その分割結果に従って、相続人ごとの相続税の課税価格や相続税額を計算することになります。 しかし、相続税の申告期限までに遺産分割が整わない場合もあります。 例えば、 など、相続税の申告期限までに相続財産の分割をすることが困難な事情は様々です。 民法は、遺言で遺産分割が禁止されている場合を除き、いつでも、共同相続人間の協議により遺産分割を行うことができると定めていますが、遺産分割の期限については特に規定していません(民法907①)。 そのため、必ずしも相続税の申告期限までに分割をする必要はなく、むしろ後日の無用なトラブルを避けるために、相続人全員が納得できるように時間をかけて話し合いをしていくことが望ましい場合もあるでしょう。 (2) 遺産分割ができなかったときの相続税の計算と申告 それでは、相続人間で遺産分割協議が整わない場合に、相続税の申告をどのように行えばよいのでしょうか。 人が亡くなると相続が開始し(民法882)、被相続人のすべての財産及び債務は、相続開始とともにその相続人に承継されることとなります(民法896)。共同相続人間で遺産分割が行われれば、それにより被相続人の財産の帰属が確定的に決まることとなりますが、相続の開始から遺産分割が整うまでの間は、法定相続分により被相続人の法定相続人に権利及び債務が承継されている状態となります。 ところで、共同相続人間で遺産分割につき争いがあるような場合には、法定申告期限までに分割が完了せず、各相続人が現実に取得する財産を確定することができない事態が生じ得ることになりますが、そのような場合に、取得財産を確定するまでは申告をすることができないとして、遺産分割がなされるまで申告義務を猶予することを認めたのでは、長期間にわたって遺産分割を行わないことにより、相続税を免れるという結果を招くこととなってしまいます(参考:平成5年3月29日神戸地裁判決)。 そこで、相続税の申告期限までに、遺産の分割がされていない場合には、その分割がされていない遺産について、民法の規定(第900条から第903条までの規定。したがって、第904条の2(寄与分)は除かれます)による相続分の割合(法定相続分)に従って当該遺産を取得したものとして、相続税の課税価格及び税額を計算して、申告及び相続税の納付をすることとされています(相法55)。 (3) 申告書の提出方法 相続税の申告は、相続人全員が1つの申告書に連署することにより、共同して提出するのが一般的ですが、共同して提出することが困難な場合には、単独又は相続人の一部の者だけで申告をすることもできます。 なお、相続税の計算上、相続人全員の課税価格を明らかにすることが不可欠であることから、申告書上に相続人全員の住所、氏名が記載されますが、申告をする者は申告書上に住所及び氏名の記載に加え、押印することが必要ですので(通法124①②)、押印のない者は、原則として申告書を提出した者とは扱われないことになります。したがって、他の共同相続人と共同して申告書を提出したくない相続人は、別途、申告書を作成して、申告をする必要があります。 3 未分割の場合の特例措置の不適用 相続税の申告期限までに、遺産分割が整わない場合には、法定相続分で遺産を取得したものとして、相続税の課税価格を計算して、相続税の申告をすることになりますが、この場合、特定の者が一定の財産を取得した場合に限って認められる特例、例えば、相続税の配偶者の税額軽減、小規模宅地の特例などについては、未分割の状態では適用することができません。 ただし、その場合であっても、申告期限から3年以内(一定のやむを得ない事情があり、税務署長の承認を受けたときには、この期限が延長されます)に分割がされたときには、相続税の配偶者の税額軽減、小規模宅地の特例などの一部の特例措置については、更正の請求の手続をすることにより適用を受けることができます。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q4】 「外国法人が発行した外貨建利付債券の利子の取扱い」 ~「国内」で受け取る場合~ PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 所得税法上、国外公社債の利子を国内の支払の取扱者経由で受け取る場合、利子について平成27年12月31日以前は源泉分離課税とされていました。しかし平成25年度税制改正により、平成28年1月1日以後は、原則として申告分離課税の対象となります。 なお、発行日が平成27年12月31日以前の公社債についても、利子の支払を受けるべき日が平成28年1月1日以後の場合は、原則として新税制が適用されます。 1 源泉徴収 国外で発行された特定公社債の利子については、国内における支払の取扱者を通じてその交付を受ける場合、交付の際に支払を受けるべき金額(外国所得税が課されている場合は控除後の金額)に対し、20.315%(国税15.315%、地方税5%)の源泉徴収がなされます。 支払の取扱者が支払代理機関等から外国通貨によって利子の支払を受け、当該利子を居住者に外国通貨で交付する場合には、その支払を受けた外国通貨の金額を、次に掲げる国外公社債等の利子等の区分に応じ、それぞれ次に掲げる日(邦貨換算日)におけるTTBにより円換算した金額により源泉徴収がなされます。TTBは、当該支払の取扱者の主要取引金融機関(その支払の取扱者がその外国通貨に係るTTBを公表している場合には、当該支払の取扱者)が公表する換算レートによります。 おたずねの場合、国内の証券会社経由で利子の支払を受けるということですので、利子の金額(円換算額)に対して20.315%の税率にて源泉徴収がなされます。 2 申告分離課税 国外発行の特定公社債の利子は、支払の取扱者による源泉徴収がなされている場合、その金額にかかわらず、源泉徴収で課税関係を完結することができます。その場合、上場株式等(特定公社債を含む)に係る一定の譲渡損との損益通算の適用を行うことはできません。 また、申告をすることも可能です。申告する場合は、上場株式等の配当所得等として申告分離課税20.315%(国税15.315%、地方税5%)が適用されます。申告をした場合、上場株式等(特定公社債を含む)に係る一定の譲渡損との損益通算等が可能です。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第32回】 「収入印紙によらない納付方法②(印紙税納付計器)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は設備保守会社です。取引先との間で毎回、保守契約書を交わしますが、契約件数も多く、収入印紙を管理するのは手間がかかります。そこで、できるだけ事務負担を簡素化したいと考えていますが、何か良い方法はありませんか。 印紙税は、課税文書に収入印紙を貼付し、消印をすることにより納付するのが原則で、収入印紙をあらかじめ用意していなければならない。そのため、印紙税が課される書類を多量に作成するような事業所では、数種類の印紙を常時購入保管しなければならず、管理するうえにおいても負担となる。そこで、事務負担を簡素化する方法として、印紙税納付計器による方法が考えられる。 印紙税納付計器による方法は、あらかじめ納付した金額を限度として、印紙税納付計器により、その課税文書に課税される印紙税額に相当する金額を表示した納付印を押すことで納税する方法である。 承認から利用までの手順は以下のとおり。 【納付印によって押される印影】 ⇒ 金額欄には実際に納付する金額、税務署名記号番号欄には承認を受けた税務署、記号番号が入る。 (※) 国税庁ホームページより [検討] 納付計器を利用するメリット、デメリット (メリット) 印紙を購入する必要がないため、印紙を管理する手間が省ける。 (デメリット) 納付計器を保管、管理する担当者が必要である。 ▷ まとめ (了)
連結納税適用法人のための 平成28年度税制改正 【第5回】 「雇用促進税制の見直し」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 [7] 雇用促進税制の見直し 1 改正の内容 (1) 雇用促進税制の適用地域の限定 雇用促進税制(地方拠点強化実施計画の雇用促進税制及び移転型計画の雇用促進税制を除く。以下、「特定地域の雇用促進税制」という)について、適用の基礎となる増加雇用者数を、雇用機会が不足している有効求人倍率が低い地域(地域雇用開発促進法の同意雇用開発促進地域(※)内)にある事業所における無期雇用かつフルタイムの雇用者の増加数 (新規雇用に限るものとし、 その事業所の増加雇用者数及び法人全体の増加雇用者数を上限とする)に限定した上、その適用期限が2年延長された(措法68の15の2)。 (※) 「同意雇用開発促進地域」は、厚生労働省のホームページで地域一覧が公表されている。 具体的には、連結法人が、適用年度(注1)において、次に掲げる要件のすべてを満たす場合には、適用年度の連結法人税額から、40万円に連結親法人及び各連結子法人の適用年度の特定地域基準雇用者数(注2)の合計(注3)を乗じて計算した金額(税額控除限度額)が控除される(措法68の15の2①)。 この場合において、税額控除限度額が、連結法人税額の10%(連結親法人が中小連結親法人である場合には、20%)に相当する金額を超えるときは、税額控除額はその10%相当額を限度とする(措法68の15の2①)。 また、この制度の適用を受けるためには、連結親法人の事務所の所在地を管轄する都道府県労働局又は公共職業安定所に連結親法人及び各連結子法人の雇用促進計画の提出を行い、都道府県労働局又は公共職業安定所で、上記[要件2]~[要件4]までの要件についての確認を受け、その際交付される連結親法人及び各連結子法人の雇用促進計画の達成状況を確認した旨の書類の写しを連結確定申告書に添付する必要がある(措令39の45の2①⑥、措規22の29①②)。 この場合、この雇用促進計画の達成状況の確認に関する手続は、厚生労働省の業務取扱要領にて示されており、連結親法人の事務所の所在地を管轄する公共職業安定所に、適用年度開始2ヶ月以内に雇用者の目標増加数を示した同計画の書類を提出し、適用年度終了後2ヶ月以内に適用年度の雇用者増加数などの要件を充足した内容を追記した同計画の書類を再度提出する必要がある。 また、この制度は、連結確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に、控除の対象となる特定地域基準雇用者数、控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用することができる(措法68の15の2⑧)。この場合、控除される金額は、連結確定申告書等に添付された書類に記載された特定地域基準雇用者数を基礎として計算した金額に限るものとする(措法68の15の2⑧)。 なお、地方拠点強化実施計画の雇用促進税制(措法68の15の2②)及び移転型計画の雇用促進税制(措法68の15の2③)の取扱いについては、昨年本誌に寄稿した『連結納税適用法人のための平成27年度税制改正/【第8回】地方拠点強化税制の創設(その2)』における「②地方拠点強化実施計画の雇用促進税制及び③移転型計画の雇用促進税制」を参照されたい。 [特定地域の雇用促進税制に係る税額控除額の個別帰属額の計算方法] 特定地域の雇用促進税制で計算された連結税額控除額は、次のように、各連結法人に配分計算される(措法68の15の2⑩、措令39の45の2[21項])。 (※) 以下、「特定地域の雇用促進税制に係る個別帰属額の計算割合」という。 なお、地方拠点強化実施計画の雇用促進税制(措法68の15の2②)及び移転型計画の雇用促進税制(措法68の15の2③)に係る税額控除額の個別帰属額については、上述した拙稿『連結納税適用法人のための平成27年度税制改正/【第8回】地方拠点強化税制の創設(その2)』における「②地方拠点強化実施計画の雇用促進税制及び③移転型計画の雇用促進税制」を参照していただきたい。 [地方法人税における雇用促進税制に係る税額控除額の取扱い] 法人税における雇用促進税制の税額控除額は、地方法人税の課税標準となる基準法人税額の計算において、連結法人税額から控除される(地方法6三)。 この場合、各連結法人の雇用促進税制の税額控除額の個別帰属額に地方法人税率(4.4%又は10.3%)を乗じた金額が地方法人税個別帰属額の計算において減算される(措法68の15の3⑩、地方法15①)。 [住民税における雇用促進税制に係る税額控除額の取扱い] 中小連結親法人又はその各連結子法人の各連結事業年度の個別帰属法人税額(道府県民税及び市町村民税の課税標準)の計算において、法人税における特定地域の雇用促進税制に係る税額控除額の個別帰属額は個別帰属法人税額から控除される(連結法人税個別帰属額に加算しない。地方税法附則8⑥⑧、地法23①四の三、292①四の三)。 中小連結親法人に該当しない連結親法人又はその各連結子法人については、法人税における特定地域の雇用促進税制に係る税額控除額の個別帰属額は、個別帰属法人税額から控除されない(連結法人税個別帰属額に加算する)。 (2) 所得拡大促進税制との重複適用 上記(1)の改正に伴い、所得拡大促進税制(雇用者給与等支給額が増加した場合の税額控除制度)の雇用者給与等支給増加額から雇用促進税制(地方拠点強化実施計画の雇用促進税制及び移転型計画の雇用促進税制を含む)の適用の基礎となった増加雇用者に対する給与等支給額として一定の方法により計算した金額を控除した上、 所得拡大促進税制と雇用促進税制を重複して適用できることとされた(措法68の15の5①)。 具体的には、所得拡大促進税制とは、連結親法人及び各連結子法人が、所定の要件を満たすときは、雇用者給与等支給増加額の10%に相当する金額を調整前連結税額から控除する制度であるが、この雇用者給与等支給増加額について、雇用促進税制(措法68の15の2)の適用を受ける場合には、特定地域基準雇用者数の合計、地方事業所基準雇用者数の合計、地方事業所特別基準雇用者数の合計の算定の基礎となった者に対する給与等の支給額として次に定めるところにより計算した金額を控除した金額とする(措法68の15の5①、措令39の46①②③)。 なお、下記の用語の定義については、上記(1)、拙稿『連結納税適用法人のための平成27年度税制改正/【第8回】地方拠点強化税制の創設(その2)』の「②地方拠点強化実施計画の雇用促進税制及び③移転型計画の雇用促進税制」及び、同連載『【第10回】所得拡大促進税制・その他の租税特別措置法上の見直し』の「[10]連結納税適用法人に係る所得拡大促進税制の見直し」を参照していただきたい。 2 適用時期 上記の改正は、平成28年4月1日以後に開始する連結事業年度について適用される(平成28年所法等改正法附則1、111、113)。 (了)