中小企業等経営強化法に基づく 固定資産税の軽減措置について 中小企業庁事業環境部企画課 課長補佐 佐伯 徳彦 Ⅰ はじめに 平成28年5月24日の衆議院本会議において、「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律の一部を改正する法律」が可決・成立し、6月3日に公布、7月1日に施行された。 本改正により、法律の名称は「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律」から「中小企業等経営強化法」へと改題され、新たに「経営力向上計画」(法第13~14条)が新設された。また、改正法の附則において、地方税法を改正して、新たに地方税法附則第15条第46項を設ける形で、固定資産税の軽減措置が導入された。 本稿では、計画力向上計画の概要と固定資産税軽減措置の制度について、説明させていただく。 Ⅱ 制度について 1 経営力向上計画の概要 経営力向上計画とは、顧客データの分析を通じた商品・サービスの見直し、ITを活用した財務管理の高度化、人材育成等により自社の経営力を向上させるために実施する事業計画のことで、中小企業・小規模事業者等は、この計画の認定を取っていただくことにより、固定資産税の軽減措置などの支援措置を受けることができる。 経営力向上計画には、①自社の現状認識、②経営力向上の目標、③経営力向上の内容などについて、主務大臣(業種を所管する事業所管大臣)が策定した「事業分野別指針」(策定されていない業種の場合は「中小企業等の経営強化に関する基本方針」)を参照して記載いただくことになる。 2 固定資産税の軽減措置の概要 固定資産税の軽減措置の内容は、経営力向上計画に基づいて新たに導入した機械及び装置についての課税標準が、3年間半額になる。この措置は、固定資産税の軽減措置としては、中小企業の設備投資を促進する目的から初めて導入されるものとなる。 ① 固定資産税の軽減措置を利用できる者 固定資産税の軽減措置が利用できるのは、経営力向上計画の申請対象全てではなく、租税特別措置法における「中小事業者」と「中小企業者」のみとなる。 具体的には、個人事業主(中小事業者)としては、常時使用する従業員の数が1,000人以下(租税特別措置法第10条第6項第4号及び租税特別措置法施行令第5条の3第8号)、法人(中小企業者)としては、資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下の法人、出資を有さない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下(同法第42条の4第6項第4号及び同法施行令第27条の4第5項)である。 なお、みなし大企業は対象外となるため注意をされたい。具体的には、発行済株式又は出資の総数又は総額の2分の1以上の大規模法人(資本金の額若しくは出資金の額が1億円を超える法人又は資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人)の所有に属している法人、その発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上が大規模法人の所有に属している法人は、みなし大企業となる。 ② 対象設備 対象となる設備の主な要件としては、①経営力向上計画において記載した機械及び装置であること、②販売開始から10年以内のもの、③旧モデル比で生産性(単位時間当たりの生産量、精度、エネルギー効率等)が年平均1%以上向上するもの、④1台又は1基の取得価額が160万円以上するもの、となる。 本件は、生産性向上設備投資促進税制のA類型の要件から、最新設備の要件が求められないもの、と御理解いただいて、おおむね差し支えない。 〈生産性向上設備投資促進税制A類型との対比〉 Ⅲ 固定資産税の軽減措置に関する留意事項 1 対象設備に関する留意事項 ① 機械及び装置であること 対象設備としては、「機械及び装置」となり、「建物」、「建物附属設備」、「構築物」、「船舶」、「車両及び運搬具」、「工具」、「器具及び備品」は対象とならない。 具体的には、いわゆる耐用年数省令(減価償却資産の耐用年数等に関する省令)第1条第1項第2号に基づく別表第二「機械及び装置の耐用年数表」を参照の上、設備を導入する事業者がどの分類で減価償却資産を管理するかによって対象となり得るかどうかが決まる。 なお、「器具及び備品」との区別について、御質問をいただくことがある。 国税不服審判所の裁決では、「機械及び装置」は、「外力に抵抗し得る物体の結合からなり、一定の相対運動をなし、外部から与えられたエネルギーを有用な仕事に変形するもので、かつ、複数のものが設備を形成して、設備の一部としてそれぞれのものがその機能を果たすものをいう」とされる一方、「器具及び備品」は、「それ自体で固有の機能を果たし独立して使用されるものをいう」とされている。 ただ、こうした定義によっても、必ずしも明確にならない場合がある。この場合については、最寄りの税務署に御相談いただきたい。 ② 生産性向上に係る要件の証明 生産性向上に係る要件として、「旧モデル比で生産性(単位時間当たりの生産量、精度、エネルギー効率等)が年平均1%以上向上するもの」となっている。「等」とあるとおり、単位時間当たりの生産量、精度、エネルギー効率の3つに限定されるわけではない。 また、旧モデル比の生産性向上要件の証明については、あらかじめ定められた工業会等が実施することとなる。 なお、工業会等については、いわゆる耐用年数省令(減価償却資産の耐用年数等に関する省令)第1条第1項第2号に基づき、別表第二「機械及び装置の耐用年数表」を基礎に、設備を利用される事業者ごとに整理されているので、中小企業庁のホームページをご覧いただきたい。 2 手続における留意事項 取得された生産性向上に係る証明書(中小企業等経営強化法の経営力向上設備等に係る仕様等証明書)については、「経営力向上計画」の申請書に、添付していただく。 申請を希望される場合は、あらかじめ申請書を作成する前に、導入を予定している設備を取り扱っているメーカーや商社に対して、工業会等からの証明書の発行を求めていただく必要がある。 また、計画認定を受けた後は、その次の年の1月1日が固定資産税の賦課期日となり、その時の所有者が償却資産について申告することになる。1月1日になる前に、経営力向上計画の認定を取得していただく必要がある。 申告期間は、多くの場合は、1月末日までとなっている。軽減措置は、申告した年の4月から始まる年度から3年間となる。 仮に、機械及び装置の取得した年の年末までに経営力向上計画の認定を取得できなければ、軽減措置を受けられる年度が減って2年間になるので、注意されたい。認定に係る標準処理期間は1か月を予定しているが、年末は申請が増加することが予想されるため、早め早めの申請をお願いしたい。 3 リースの取扱い ① 所有権移転ファイナンスリース 所有権移転ファイナンスリースについては、申請者に所有権が移転されるため、通常の購入と同じ扱いになる。このため、所有権移転ファイナンスリースに対して、固定資産税の軽減措置は適用可能である。 ② 所有権移転外ファイナンスリース 法人税法第64条の2第3項に定める「所有権移転外ファイナンスリース」についても、地方税法附則第15条第46項に基づき適用される。所有権移転外ファイナンスリースは、税務上は、売買契約として処理されている。 所有権移転外ファイナンスリースの適用される要件は、①当該賃貸借に係る契約が、賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないものであること又はこれに準ずるものであること、②当該賃貸借に係る賃借人が当該賃貸借に係る資産からもたらされる経済的な利益を実質的に享受することができ、かつ、当該資産の使用に伴って生ずる費用を実質的に負担すべきこととされているものであることとなる。 所有権移転外ファイナンスリースについては、通常と手続が異なる。すなわち、設備そのものの所有権は、リース事業者にあるため、生産性向上要件の証明の取得や市町村への申請はリース事業者が行うことになる。また、リース事業者は、固定資産税の軽減分だけリース料を引き下げることになるが、その金額の証明を公益社団法人リース事業協会が行うことになっている。これらを取り寄せて中小企業者等が申請を行う必要がある。 なお、所有権移転外ファイナンスリースについては、リース事業者は特に中小企業者に限定されていないため、大企業であっても対象となる。 ③ オペレーティングリースやレンタルの取扱い オペレーティングリースやレンタルについては、税務上も賃貸借契約として処理されるため、機械及び装置の利用者である中小企業は、固定資産税の軽減措置の適用を受けることはできない。 他方、リース事業者やレンタル事業者が租税特別措置法の中小事業者や中小企業者である場合には、貸付を行う事業として使用する場合であっても、固定資産税の軽減措置の対象となるため、留意されたい。 なお、生産性向上設備投資促進税制においては、「貸付けの用」が除かれているため、対象となっていない。この点に違いがあるため、注意されたい。 4 その他の論点 ① 他の税制や補助金との関係 固定資産税以外の税制措置(生産性向上設備投資促進税制や中小企業投資促進税制等)や補助金を受けて購入した場合も適用は可能である。 ② 自作の機械及び装置 自作で機械及び装置を作られた場合にも適用対象となる。 ③ 中古品の取扱い 中古品は「事業の用に供された」ものとして扱われるため、対象とならない。 ④ 比較すべきものがない場合 自社製品について、比較すべきものがない場合、できる限り対象設備との比較を行っていただく必要があるが、10年以内に販売したものであれば適用は可能となる。 ⑤ 圧縮記帳の取扱い 圧縮記帳とは、国庫補助金を受けて固定資産を購入した際、その購入価額から補助金の額を控除して購入価額とすることであるが、地方税では適用できないため、留意をいただく必要がある。 Ⅳ おわりに 以上、本稿では、経営力向上計画に基づき取得する機械及び装置に係る固定資産税の特例措置を中心に説明してきた。説明が不足する部分については当庁のホームページをご覧いただきたい。 今回の改正により、業種ごとに事業分野別指針を整備し、中小企業の本業そのものに対する支援に対して、支援措置を強化することになる。 事業分野別指針や執行体制の整備は、引き続き見直しや拡充を図っていく必要があるが、今回の法改正による整備が、中小企業・小規模事業者等の経営の転換点となることを願ってやまない。 (了)
〈平成28年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第3回】 (最終回) 「注意しておきたい事項Q&A」 ~平成28年分から対応が必要となる事項を中心に~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 最終回は、平成28年分の年末調整から対応が必要となるマイナンバー関連事項や税制改正事項について、実務上注意しておきたい点をQ&A形式でまとめることとする。 取り上げる事項は以下のとおりである。 なお、以下の拙稿にも年末調整に関係する事例を紹介しているので、あわせてご参照いただきたい。 - 解 説 - 【第1回】で解説したとおり、平成28年度税制改正により、通勤手当の非課税限度額が10万円から15万円に引き上げられた(所法9①五、所令20の2①③④)。 この改正は、改正法施行前の平成28年1月1日に遡って適用されるため、平成28年1月から3月までの間に「改正前」の規定に基づいて源泉徴収が行われている役員や従業員(以下、従業員等という)がいる場合には、年末調整で給与の総支払金額の調整を行うことになる。 源泉徴収票の「支払金額」欄には、通勤手当のうち非課税となる部分の金額は除いて記入する。したがって、年の中途で退職した人などに対して、改正前の規定に基づいて源泉徴収を行っており、かつ、すでに平成28年分の源泉徴収票を交付している場合には、「支払金額」欄を訂正し、「摘要」欄に「再交付」と表示した源泉徴収票を交付する必要がある。 なお、年末調整により総支払金額の調整を受けることができない人は、確定申告を行うことにより税額を精算することができる(所法121、122、123)。 - 解 説 - 【第1回】で解説したとおり、平成28年分以後の源泉徴収票と平成29年分以後の給与支払報告書には、受給者本人やその控除対象配偶者等の個人番号と、支払者の法人番号(又は個人番号)を記載する欄が設けられている(所規93)。 しかし、それらの書類に配偶者特別控除の対象となる配偶者の個人番号を記載する欄はない。また、「備考欄」や「摘要欄」に、配偶者特別控除の対象となる配偶者の個人番号を記載することも求められていない。 (注) 配偶者特別控除の対象となる配偶者については、「摘要」欄にその氏名と、配偶者特別控除の対象であることを示すため氏名の後ろに「(配特)」と記載する。 源泉徴収票と給与支払報告書及び支払調書について、個人番号や法人番号の記載の要否をまとめると次のとおりである。 (※) 支払者から受給者本人へ支払調書を交付する義務はないが、実務的には本人に写しを交付しているケースもあるため、本人に写しを交付する場合の取扱いを示している。 - 解 説 - 平成28年1月以降、税務と社会保険の手続を行う書類には、従業員等の個人番号を記載することが求められている。したがって、企業は、従業員等の個人番号を収集しなければならない。 ところが、従業員等の個人の側には、個人番号の提供を義務付ける法律上の規定がないため、従業員等から個人番号の提供を拒否されることも想定される。 現状では、個人番号を記載していないことをもって、税務署や市区町村が書類を受理しないということはないようである(国税庁「番号制度概要に関するFAQ Q2-3-2」参照)。しかし、各書類に個人番号を記載することは、法律で定められた企業の義務であるため、従業員等が個人番号の提供を拒否する場合には、必要性を十分に説明した上で、できる限り提供を求める必要がある。 なお、手を尽くしても従業員等から個人番号の提供を受けられない場合には、提供を求めた経過等を明らかにし、企業側に問題がある場合(提供を受けた個人番号を紛失した等)との区別がつくようにしておきたい。 - 解 説 - 扶養控除等申告書には、原則として、毎年、個人番号を含むすべての事項を記載する必要がある。記載内容に変更がない場合でも、記載事項の一部又は全部を省略することはできない。 ただし、平成29年分以後の扶養控除等申告書については、従業員等の個人番号が記載された一定の帳簿(※)を会社が備えている場合には、個人番号の記載を省略することが認められる。 したがって、平成28年分の扶養控除等申告書に個人番号の記載があり、それに基づいて企業が一定の帳簿を作成している場合には、平成29年分以後の扶養控除等申告書に個人番号を記載する必要はない。ただし、帳簿に記載されている個人番号に変更がある場合には、記載を省略することはできない。 なお、扶養控除等申告書は、原則として税務署に提出されず企業で保管する書類であるため、企業のマイナンバーに対する安全管理措置の負担軽減を目的として、企業と従業員等との間で合意があれば、次の①と②が行われていることを条件に、扶養控除等申告書に個人番号を記載しないこともできる。 ただし、税務署長から扶養控除等申告書の提出を求められたときには、従業員等の個人番号を付記して提出しなければならない。 - 解 説 - 国外居住親族を扶養親族等にする従業員等がいる場合、年末調整の手続においては「送金関係書類」の提出等を受けることになる(所法194⑤、所規47の2⑤)。 「送金関係書類」の提供等を受ける場合には、注意しておくべき点がいくつかある。下記拙稿や国税庁から公表されているQ&A等を参考に、誤った取扱いをしないよう事前に準備をしていただきたい。 また、送金の基準となる金額は特に定められていないが、申告された金額が少額である場合には、生活費や教育費として適正な額であるかどうかの検討も必要になると考えられる。 (連載了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q19】 「上場株式等償還特約付社債(EB債)が株式に転換された場合の課税関係」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 EB債の償還時の課税 平成28年1月1日以後、特定公社債の元本の償還により交付を受ける金銭の額及び金銭以外の資産の価額(当該金銭又は金銭以外の資産とともに交付を受ける金銭又は金銭以外の資産で元本の価額の変動に基因するものの価額を含む)の合計額は、上場株式等に係る譲渡所得等に係る収入金額とみなされます。 すなわち、社債の償還により上場株式等が交付される場合で、その交付される上場株式等の価額(時価)が社債の取得価額と異なる場合、償還時に課税関係が発生することになります。 本件の場合、取得した上場株式の価額(時価)がEB債の取得価額を上回っていれば、その差額は上場株式等に係る譲渡所得等として、20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の申告分離課税が適用されます。 逆に、下回っていれば、差額は上場株式等に係る譲渡損として、他の上場株式等の譲渡益との損益通算が可能です。なお、損失となる場合は、確定申告書の提出等の要件を満たすことを前提として、申告分離課税を選択した配当所得等との損益通算及び損失の繰越控除の適用が受けられます(詳細は【Q2】参照)。 2 上場株式の取得価額 租税特別措置法所得税関係通達において、上場株式等償還特約付社債の償還により取得した上場株式等の取得価額は、当該社債の償還日における上場株式等の価額(すなわち時価)とすることが明らかにされています(措通37の10・37の11共-9)。 したがって、EB債の償還により取得した上場A社株式の取得価額は、当該社債の償還の日における当該上場株式の価額(時価)となります。 (了)
マイナンバーの会社実務 Q&A 【第22回】 「国外居住親族がいる場合の年末調整」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 中国人の従業員から中国に居住する中国人の両親を扶養親族にするにはどうしたらよいかとの質問がありました。 平成29年分給与所得者の扶養控除等申告書に両親のマイナンバーを記載する必要があるかどうかと、扶養控除の適用を受けるために会社に提出してもらう書類を教えてください。 〈A〉 1 マイナンバーの記載 中国に居住する中国人の両親はマイナンバーを有しないので、平成29年分給与所得者の扶養控除等申告書に両親のマイナンバーを記載する必要はない。 2 会社に提出してもらう書類 親族関係書類及び送金関係書類を会社に提出してもらう。 〈親族関係書類〉 中国人従業員の出生証明書の原本を会社に提出してもらう(【図表】参照)。中国語で作成されている場合、翻訳文も提出してもらう。親族関係書類は、原本でなければならない(パスポートを除く)。 【図表】 外国政府等が発行した親族関係書類の組合せ表 出典:国税庁リーフレット「国外居住親族に係る扶養控除等の適用について」 〈送金関係書類〉 外国送金依頼書の控えの原本またはコピー、あるいは、家族カードのクレジットカード利用明細書の原本またはコピーを提出してもらう。中国語で作成されている場合、翻訳文も提出してもらう。 送金関係書類は、コピーでもかまわない。送金関係書類は、両親それぞれの送金関係書類が必要となる。どちらかにまとめて送金している場合、1人分しか扶養控除を適用できない。何万円以上の仕送りが必要といった送金額の基準はない。 (了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第19回】 「租税法上の評価③」 公認会計士 佐藤 信祐 前回では、東京高裁平成12年9月28日判決について解説を行った。本稿では、東京高裁平成17年1月19日判決について解説を行う。 本事件は、形式上、同族関連者に該当しない有限会社が保有している株式に対して、原則的評価方式を採用すべきであるとされた事件である。 3 東京高裁平成17年1月19日判決・TAINSコード:Z255-09900 (1) 事実の概要 本事件は、被相続人が保有していた株式を有限会社設立の際に時価を下回る低額で現物出資して出資口を取得し、その後、当該有限会社の出資口の52%相当を株式会社の取引先に売却した後、その8日後に当該被相続人が死亡したために相続が発生している。 そして、相続人である原告らが、当該有限会社が保有する資産のうち上記の株式の評価額を配当還元方式で評価して純資産の評価額を算出した上、これから評価額と各資産の帳簿価額との評価差額に対する51%相当の法人税額等に相当する金額を控除することにより、当該被相続人が保有する当該有限会社の出資の相続税評価額を算出して、これを前提とした相続税の申告を行った。 しかし、被告が、当該有限会社が保有する資産のうち上記株式の評価額を類似業種比準方式で評価して純資産の評価額を算出した上、これから評価額と各資産の帳簿価額との評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除せずに、当該被相続人が保有する当該有限会社の出資の相続税評価額を算出するなどして、これを前提とした更正処分を行うとともに、過少申告加算税賦課決定処分をしたため、原告らが更正処分のうち原告らの申告額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分の取消しを求めた事件である。 本事件は、平成3年12月13日に相続が行われているが、法人税額等に相当する金額については、その後の通達改正により認められなくなっているため、原告はその遡及適用についても争っている。なお、いずれにしても、現行通達では、法人税額等に相当する金額については認められないため、有限会社が保有していた株式について類似業種比準方式を適用すべきか否かについてのみ解説を行う。 (2) 第一審(東京地裁平成16年3月2日判決・TAINSコード:Z254-9583) (3) 控訴審 控訴審は、第一審の判断を踏襲しているため、詳細な解説は省略する。 (4) 評釈 このように、裁判所は納税者側の主張を認めず、国側の課税処分を認めた。国側の主張が認められた理由は、有限会社の出資金のうち52%は取引先13社が4%ずつ保有していたことから、実質的に同族関係者であると認定すべきであったという点にある。 事実関係がややこしいが、有限会社が株式会社の発行済株式のうち28.6%を保有しており、同族関係者である合名会社(26.6%)、相続人(8.8%)及び被相続人の弟(7.9%)を合計すると、71.9%になるという関係にある。そして、有限会社の出資金のうち、48%しか保有していなくても、相続人一族が当該有限会社の出資金を最も保有していることに疑いはないため、当該有限会社の出資金を原則的評価方式で評価せざるを得ない。 すなわち、有限会社の出資金ではなく、当該有限会社が保有する株式について特例的評価方式を行えるかどうかという争いであり、当該有限会社を法人税法施行令4条に規定する同族関係者から除外することにより、それが可能ではないかというのが原告の主張である。 このように、通達の隙間を狙った手法について、財産評価基本通達6項を用いるまでもなく、課税当局は否認をしている。通達はあくまでも解釈であり、租税法律主義の観点からするとやや否認のハードルが低いということが言える。 次回では、東京地裁平成17年10月12日判決について解説を行う予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【94】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その22:「文理解釈と立法趣旨②」(最判平22.3.2)) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 5 裁判所の判断 (1) 第一審(東京地裁平成18年3月23日)の判断 これは裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。そこには当事者の主張も掲載されており、ここでは割愛するため、ぜひ見てもらいたい。 まず、原告のパブクラブ経営者の、ホステスに対する報酬の計算方法について、以下のように認定している。原告が、報酬の算定要素となるものは勤務時間数であり日数ではない旨主張したが、出勤日毎の管理を基に算定しており業務上の拘束日から切り離して考えることができない旨、判示する(以下、下線は筆者による)。 次に、前回紹介した所得税法施行令第322条の「計算期間」について、各集計期間を指すのか、報酬の算定要素となる業務上の拘束を受ける日を指すのかについて、「「当該支払金額の計算期間の日数」という形式的な文言だけからは、一見すると、判然としていないようにもみえる」と判示し、立法趣旨を検討している。 すなわち、税法の解釈は、文理解釈によるべきところ、文理のみでは明らかでない場合には立法趣旨等からの論理解釈が許される。そこで、文理上「判然としていない」として、ホステス報酬に係る源泉徴収制度の趣旨について、検討している。 上記のような源泉徴収制度の理解に基づき、以下でホステスに係る所得税法施行令322条の「当該支払金額の計算期間の日数」を出勤日のみと見た方が、実際の必要経費の額に近似することになる旨、判示する。 以上の点から、以下の結論を導いている。 なお原告の「期間」という文言の一般的な意義が「ある時点からある時点までの継続した時の区分」であることを根拠に、「当該支払金額の計算期間の日数」とは本件各集計期間の全日数であるという主張に対して、以下のように判示する。 これによれば、計算の期間が、細分化された計算の期間であるとしている。 この点、例示で解説しよう。 例えば、上記のような月において、1ヶ月が計算期間であるなら、通常1日~30日が計算期間と考える。しかし各週の水~日が稼働日であるとした場合の細分化された計算期間は、各週5日間である。すなわち、4日~8日、11日~15日、18日~22日、25日~29日といった5日間がそれぞれの計算期間であり、その合計として20日間になるというものである。 第一審は、このような理解の下で、この「計算期間の日数」は、「本件各集計期間の全日数」ではなく「実際の出勤日の日数」と判示したのであった。 なおこの他にも、様々な角度からの原告の主張に対しての判断が示されているので、是非判決文を一読していただきたい。 * * * 次回は、控訴審及び上告審(最高裁)の判断を見た上で、判決の意義についてまとめることとする。 (続く)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第52回】 社会福祉法人夢工房 「第三者委員会調査報告書(平成28年10月17日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【第三者委員会による調査の概要】 【社会福祉法人夢工房の概要】 社会福祉法人夢工房(以下「夢工房」と略称する)は、昭和22年7月姫路保育園として事業を開始。昭和42年7月に社会福祉法人化。介護事業と保育事業を営む。現理事長黒石誠(報告書上の表記は「A」、以下「理事長」と略称する)は、創業者である黒石長光から数えて4代目であり、歴代の理事長職には黒石家の人間が就任してきた。理事長の配偶者である黒石静香(報告書上の表記は「B」、以下「統括園長」と略称する)は、全地区保育園統括園長であると同時に、夢工房の理事・評議員である。また、理事長の実母である黒石芳子(報告書上の表記は「E」であり、本稿もこれに統一する)、子である黒石正人(報告書上の表記は「I」であり、本稿もこれに統一する)は、ともに夢工房の評議員である。 【第三者委員会調査報告書の概要】 1 第三者委員会設置の経緯 姫路市は、夢工房に対して行った、平成27年8月の定期監査及び同年9月の特別監査により、理事長実母であるE、理事長義母であるG(統括園長の実母)による架空勤務の事実を確認した。 また、兵庫県龍野健康福祉事務所が、平成28年2月に夢工房が運営する特別養護老人ホーム「シスナブ御津」に立入り検査を行ったところ、理事長実母Eの家政婦の賃金を夢工房の職員給与として支払っている事実を確認した。 これを受けて、兵庫県と姫路市が合同で、平成28年5月に夢工房法人本部に特別監査を行ったところ、以下の不正な支出が発覚した。 こうした調査結果を受けて、兵庫県と姫路市は、不適正な経理の実態や原因の究明、及び夢工房のガバナンス等を早期に解明するとともに、責任の所在の追及、夢工房の受けた損害の回復、再発防止へ向けた取組み等を着実に実行していくため、夢工房に対し第三者による調査委員会を設置し、調査を行うよう指示した。 2 夢工房から不正に支払われたと認定された支出 第三者委員会が認定した不正な支払いは多岐にわたるが、大別すると、次のようにまとめることができる。 (1) 勤務実態のない理事長親族に対する給与の支払い 第三者委員会は、架空勤務疑惑の調査結果について、以下のように、実態がないものと認定した。 なお、上記のうち、⑦に掲げる家政婦に対する支出については、夢工房からの不当利得返還請求に基づき、Eから5%の遅延損害金を加算し法人の給与を仮装して支払った金額が返金されていることを、第三者委員会は確認している(報告書p.55)。 (2) 理事長の子供が通う大学院・専門学校の費用の支払い 上記(1)④・⑤で架空勤務とされていた時期、理事長は、F及びIの進学費用を夢工房から支出させていた。 これらの授業料に関しては、「社会福祉法人夢工房職員の専門資格の取得等に関する内規」に則って支払われているものではあるが、当該内規がFの大学院入学直前に理事会において新設され、F及びI以外に当該内規を利用した職員がおらず、また、職員への周知もされていなかったことから、第三者委員会は、「夢工房の費用で、身内のFやIを進学させようとしたにすぎず、(仮に内規があったとしても、)権限濫用行為に当たる」ことから、内規の適用は違法、無効であるとした(報告書p.51)。 (3) 理事長親族による不正な支出 第三者委員会は、上記以外にも、夢工房名義で購入した高級車を理事長娘Fが独占的に使用したり、統括園長が私的に利用するために購入した物品の領収書を夢工房の経費として処理したりするなど、不正な支出があったことを指摘している。 上記のうち②に掲げる支出については、すでに統括園長から夢工房に対して返金がなされている。しかし、第三者委員会は、これらの行為は「夢工房の口座から出金することが自由にできたことを利用して、法人の金員を私的に流用したもの」であり、業務上横領罪の可能性にまで言及している(報告書p.61)。 上記④に掲げる私的流用については、第三者委員会は、学研教材費として理事長名義の口座に保護者から入金させた金員のうち、理事長が私的に流用した金額につき、「業務上横領罪の成立する余地がある」と認定したものである。この点について、理事長は、理事長個人で学研教室を主宰していたと主張するが、第三者委員会は、そうであるとすれば、理事長個人が学研教室に係る収入について確定申告を行っていないことは矛盾を生じるとしたうえで、仮に理事長の主張を認めるとしても、夢工房の施設や人員を無償で利用しているので、これに対する返金が必要であるとして、さらなる調査の必要性を指摘した(報告書p.60)。 3 理事会決議のない簿外借入金 理事長及びその親族による、こうした法人資金の不正な支出の背景として、第三者委員会は、夢工房が平成9年に設立認可を受けた特別養護老人ホーム「シスナブ御津」設立時の前理事長による約2億円の寄付との因果関係を指摘している。 報告書に記載された兵庫県による「高齢者福祉施設整備の手引き」によれば、「建設費から補助金等を差し引いた額の概ね10%以上の額の自己資金が必要」であり、「自己資金は原則として法人の理事等の役員からの寄付により調達することが必要」とされている。このため、第三者委員会は、特別養護老人ホームの認可申請にあたって、前理事長が自己資金で不足する寄付について、理事会の決議なしに法人名義で借り入れを行い、これを法人に寄付する形をとったと判断している。 簿外借入金の調査時点の残高は62,699,401円であり、これについても、理事長は直ちに法人に返還すべきであるとしている。 ただ、第三者委員会は、今回の問題発生の根本的な問題として、「いったい世の中に何の見返りもなく多額の寄付をする人がどれだけいるか?」という発想に欠ける制度的問題も指摘している(報告書p.18)。 4 夢工房による補助金不正受給 第三者委員会が、補助金の不正な取得として、自治体への返還を認めた事例は以下のとおりである。 上記①の「所長設置加算」とは、常勤専従の施設長を設置した場合に市から上乗せ支給される運営補助金のことであるが、夢工房は、上記2(1)②に記載した理事長実母Eの架空勤務について、同人を姫路保育園の施設長として登録し、不正に「所長設置加算」を取得していた。 また、②の「零歳児調理員加算」とは、東京都港区における零歳児の給食のための調理員の増配置に伴う扶助費制度のことであるが、夢工房では、目黒区にある他の保育園に勤務している調理員の所属を偽装する手口で、この扶助費を不正に受給していた。 上記③の補助金受給については、東京都港区の保育所体験特別事業や保育所地域活動事業に対する経費の一部支給の仕組みを悪用して、上記2(3)③に記載した統括園長による不正な支出の一部を補助金請求に含める方法で、不正に補助金を得ていた。 5 委託契約の合意解除 夢工房が、東京都品川区との間で平成28年度から5年契約で運営管理委託契約を締結している区立保育園について、仕様書で求められている常勤看護師の配置や購入備品の内容に疑義があることが判明して、契約が合意解除された。 第三者委員会は、看護師の配置については、「品川区の対応によっては、損害賠償に応じる必要がある」と指摘するとともに、購入備品について、品川区への水増し請求の疑義を述べるにとどまっている。 6 原因分析 第三者委員会による原因分析として、6項目を挙げた。 (1) 理事長一族による法人の私物化 (2) 理事長の専横(ワンマン)に対する抑止力の欠如 (3) 非常勤理事を主体とする理事会の形骸化 (4) 利用者、従業員の便宜を二の次とする利益優先主義 (5) 急激な拡大に伴う組織の疲弊 (6) 職員のコンプライアンスに対する意識の欠如 社会福祉法人の一般的な運営と夢工房について、第三者委員会は次のように述べている(報告書p.64)。 そうなってしまった理由の一つには、理事長が、「専務理事の当時から数えると13年間、大過なく過ごしてきたどころか、華々しい実績を挙げていた」と第三者委員会も認めざるを得ないほどの実力者であったことが挙げられよう。それを支えたのが「利益優先主義」の経営であり、その一方、ワンマンになり、理事会は形骸化し、職員はコンプライアンスよりも理事長一族の指示に従うほかはなかったというところであろうか。 外部理事・評議員の多くは同業者(社会福祉法人の理事等)や地区の自治会長であり、業界における成功者である理事長とその一族の専横を抑止するには力不足だったのかもしれない。しかし、監事の一人は、「社会福祉法人会計支援」を目的とするコンサルティング会社の代表者であり、監事として、夢工房の不正をどの程度認識できる立場にあったのか、気になるところである。第三者委員会は、監事についても、ヒアリングの結果、統括園長による領収書の偽造を見逃していたこと、公用車両を理事長一族が独占的使用していたことに気がついていなかったことなど、職務の執行が不十分であり、監事としての役割を十分に果たしていないと結論づけている(報告書p.64)。 7 再発防止のための提言 第三者委員会による再発防止策の提言は、以下の6項目である。 (1) 理事長、統括園長の退陣、創業者一族の関与の排除 (2) 理事会の一新 (3) 利用者本位の保育体制の構築 (4) 人材の育成 (5) 従業員教育によるコンプライアンスの徹底 (6) 不正を指摘しやすい環境づくり 筆頭に挙げた、理事長をはじめとする創業者一族の経営からの排除ができれば、おそらくは多くの問題は片がつくはずである。そのうえで、一新された理事会によって、利用者本位の保育体制が構築されれば、すべての利害関係者にとって最善の再発防止策となることは言うまでもない。問題は、夢工房の経営を担う人材をどこに求めるかであろう。 【調査報告書の特徴】 「アダルトDVDに高級車レクサス、婦人服まで・・・不正流用1.4億円、社福理事長一族の乱脈経営」――産経新聞がweb版で伝える【衝撃事件の核心】というニュース記事の見出しである 。同記事では、10月19日に行われた第三者委員会による記者会見の模様も詳報されているが、そこで引用された第三者委員会委員長である藤原孝洋弁護士による発言は、 とかなり厳しいものであった。 その後の報道では、理事長、統括園長(理事)、理事長実母(評議員)の3人の役職を解任したことも伝えられているが、残念ながら、夢工房のホームページ上では確認ができない状況である。 補助金の返還問題、業務上横領とも思える行為や補助金不正受給が刑事事件化するのかなど、夢工房理事長一族の不正問題の解決にはまだ予断を許されない要素も多い。 社会福祉法人が寄付により支えられていること、特別養護老人ホームや保育園といった、本来、市民を助けるべき施設を舞台に行われた不正の悪質性について、また、夢工房に対する期待について、第三者委員会による調査報告書の末尾に記されたコメント(報告書p.75)を引用して、本稿を締め括りたい。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第127回】 ESOP② 「受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引」 ―信託が市場から株式を取得する場合 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 〈事例による解説〉 〈従業員への福利厚生を目的として、受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引〉 〈会計処理〉 1 他益信託の設定時(X1年4月) (1) 前提条件 (2) 甲社の会計処理 (※) 信託設定された金銭は、交付される株式の取得、信託の設定及び運営の諸費用に用いられるため、ここでは信託口として処理している。 2 信託による甲社株式の市場からの購入時(X1年4月) (1) 前提条件 (2) 甲社の会計処理 3 甲社による従業員へのポイント割当時(X1年9月) (1) 前提条件 (2) 甲社の会計処理 (※) @2(信託による株式取得時の時価)×120株=240 4 信託による従業員への自社の株式の交付時(X1年9月からX2年3月) (1) 前提条件 (2) 甲社の会計処理 (※) 株式の交付に伴う引当金の取崩処理は、期末に一括して行うものとする。 5 甲社の決算時(X2年3月) (1) 前提条件 (2) 甲社の会計処理 ① 信託の財産を甲社の個別財務諸表に計上 ② 金銭の信託の元本は、甲社で信託口として処理されているため、これを相殺 ③ 信託の損益は、従業員に帰属するため、諸費用を資産に振り替え (※) 便宜的に信託口を使用 ④ 甲社においてポイントの割当に関する費用計上はすでに行われているため、信託における甲社株式交付費用を取り消し、甲社株式に振り戻す ⑤ 信託から従業員に対して株式の交付が行われた部分について引当金を取崩し (※) @2(信託による株式取得時の時価)×90株=180 ⑥ 信託における甲社株式は、甲社において自己株式に振り替え (参考) 〈会計処理の解説〉 従業員への福利厚生を目的として、受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引は、概ね上記の事例のような取引から構成されます。 このような受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引で、対象となる信託が以下の(1)及び(2)の要件をいずれも満たすときは、期末において信託の財産を貴社の個別財務諸表に計上することになります(「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」第4項)。 受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引は、従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引と比べて、従業員にいったん受給権を付与してから自社の株式を交付するという点に特徴があります。 なお、次の2点については、従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する場合と同様です。 ※12月は連結会計を取り上げます。 (了)
税理士業務に必要な 『農地』の知識 【第3回】 「農地法と農業委員会(その2)」 税理士 島田 晃一 前回は農地の定義と農地を売却する場合の許可又は届出(農地法第3条、農地法第5条)について見てきた。今回は、まず、農地の売却等をせず宅地等に転用する場合の手続きから見ていこう。 1 農地の転用に伴う許可(農地法第4条における許可) 農地を宅地等に転用するため、その農地や農地に対する賃借権を譲渡する場合は、前回述べたように農地法第5条の許可(5条許可)が必要である。 一方、農地等の所有権移転がなく自己がその農地を他の用途に転用する場合についても農地法の許可が必要になる。具体的には、農地法の第4条に規定されている許可(4条許可)を受けなければならない。 例えば、農地であった土地を宅地に転用し賃貸住宅を建築するといった場合には、この4条許可が必要になる。 4条許可と前回述べた5条許可に係る許可基準には、「立地基準」と「一般基準」がある。このうち立地基準は次のとおりである。 (※) 農林水産省ホームページより抜粋及び一部改訂 一方、一般基準は申請時の転用目的が実現可能かどうかや、周辺の他の農地や農業経営に何らかの支障を起こさないかどうかにより許可・不許可が判断される。 2 許可・届出のための手続き 4条許可、5条許可は都道府県知事から受けることになっているが、許可申請書は農業委員会を経由して都道府県知事等に提出する形になる。ただし、4ha以上の大規模な農地に関しては都道府県知事と農林水産大臣との協議が必要になるため、都道府県知事に申請書を提出する。 なお、市街化区域内の農地に関しては、4条許可及び5条許可ともに都道府県知事の許可は不要であり、農業委員会への届出を行えば転用することができる(農地法第4条1項7号又は農地法第5条1項6号による届出)。 3 登記地目の変更 農地転用許可を受けた後や転用届出を行った後は、転用許可書や届出受理書をもって登記地目変更を行う。ただし、全域が市街化区域になっている自治体の中には法務局登記官の照会だけで届出受理書の提出を省略している自治体もある。 不動産登記法上は、地目変更があった日から1ヶ月以内に地目変更登記を行わなければならないとされ、行わないときは10万円以下の過料が課される。ただし、この罰則が厳密に適用されることが少ないため、宅地転用された後であっても登記地目が農地(田・畑)となっている場合が散見される。 特に、4条許可による転用についてこのような事例が見受けられる(4条許可により宅地転用を行いその土地に建物を建築する際、金融機関から建築資金の融資を受けるときは地目変更が必要になる)。一方、5条許可を受け転用・売却を行うときは、通常、地目変更を行うことが売買条件になっているため地目変更登記が必須になる。 4 農業委員会 (1) 農業委員会とは 農業委員会とは各市町村に設置される機関で、「農業生産力の発展及び農業経営の合理化を図り、農民の地位向上に寄与されること」を目的としている。 農業委員会の電話番号は各市町村のホームページに掲載されている。もし分からなければ、代表電話で取り次いでもらえばよい。なお、東京都千代田区や中央区など農地がない自治体には農業委員会は設置されない。委員会の構成は各自治体により異なる。 例えば、東京都世田谷区の場合には、公職選挙法を準用した選挙による委員15名、農協等による選任委員2名、学識経験者3名の計20名により構成されている。また、委員の任期は3年となっている。 (2) 農業委員会に提出する申請書・届出書一覧 農業委員会に提出する農地の転用・所有権移転等に係る申請書・届出書については、前回を含めこの連載で述べてきたところであるが、ここで改めて一覧表としてまとめてみた。 (3) 農業委員会と税務(農地の納税猶予) 農地に係る相続税の納税猶予を受けるためには、農業委員会が発行する「適格者証明書」の相続税申告書への添付が必須である。「適格者証明書」の発行は、発行申請書に、納税猶予の適用を受ける農地に係る遺産分割協議書又は遺言書の写しを添付する必要がある。 この申請があった後、農業委員会の会合において承認を受け「適格者証明書」が発行される。ただし、農業委員会の会合は原則として月1回なので、相続税の申告期限から逆算し、早めに農業委員会に申請書を提出する必要がある。 * * * 以上、農地法と農業委員会について簡単にみてきた。いずれも農地を売却したり農地を相続する場面においては必須の知識である。したがって、農地を所有しているクライアントがいる場合には必ず抑えておきたいところである。 (了)
〔新規事業を成功に導く〕 フィージビリティスタディ10の知恵 【第8回】 「陥りがちなF/Sのワナ」 中小企業診断士 西田 純 前回は、「総合性」をキーワードにF/Sの結果を多面的に判断するうえでのポイントについて解説しました。今回はF/Sを実践するうえで担当者が陥りがちな情報共有面のワナについて触れます。 膨大なデータを処理して将来のビジネスをモデル化し、その帰趨を確かめるというF/Sのプロセスは、どうしても担当者を他から隔離しがちになります。外部とのコミュニケーションに気を付けていても、蓋を開けてみればお互いにビックリ、というようなパターンが珍しくありません。予想しなかった彼我の距離感は、やがて組織内の壁を生むことにもなりかねない要素です。なぜそんなことが起きるのか、そうしないためには何が求められるのかについて解説してみたいと思います。 ▷ 関係者が皆、同じ将来展望を共有できているわけではない 仮に今、あなたが社運を賭けたF/Sを担当していたとします。難しい地域で前例のないビジネスを立ち上げるための調査ということで、準備には万全を期そうとします。努力の甲斐あって、経営者の強いサポートも得られ、定期的に情報共有のための報告会も開催し、常に初期目的を振り返る体制も作ったとしましょう。でも、そこまでやればF/Sの結論は、たとえそれがどんなものでも100%社内で受け入れてもらえるものなのでしょうか? 社内外のさまざまな関係者の間には、そもそも将来展望に関する認識の時間差や温度差が存在しています。F/Sチームとしては、自らの仕事がどのような進捗を示しているのかについて情報開示することはできても、それをさまざまな関係者がどのように消化するかについてまで配慮することまではなかなか対応できないのが普通です。同じタネ、同じ肥料を同じように施しても、畑が異なれば野菜の収穫量が異なるように、それぞれの置かれた立場によってF/Sの受け取り方は異なってくるということを認識しておきましょう。 よくあるパターンですが、シナリオ作りで楽観論・中立論・悲観論の3パターンを設定するとして、立場によってその前提条件についての考え方が微妙に変化したりします。 また、楽観論および中立論で満足できる収益性が期待できるという結論になる場合でも、悲観論で同じことが言えるという保証はなく、むしろ「悲観論の場合は想定した収益が確保できない」という結論になることが珍しくありません。それを「3つのシナリオのうち2つが満足できるので、プロジェクトを前に進める」という結論にするのか、あるいは「3つのシナリオのうち1つが満足できないので、プロジェクトは棄却する」という結論にするのか、それはひとえに意思決定によるものだということです。 ▷ 意思決定とシナリオは相互的に関係していて、思わず先走りしてしまうことがある F/Sチームに所属して仕事をしていると、この意思決定を常に意識しながら仕事をする立場に置かれるのですが、そうすると思考はどんどん深化してしまい、事業のその後や客先との関係、担当者の将来といったことまで考えが及ぶようになります。半年も同じことを繰り返していると、今度はその深化した思考がシナリオそのものにも微妙に影響を与えるようになってきます。楽観論の場合でも、無視できない外部環境の変化に気づいたり、逆に悲観論の場合でも将来の役に立つような条件が現れてきたりします。 気づいた担当者としては、当然そのような変化を自らの仕事に反映させ、深化したシナリオに基づいた分析を進めようとするのですが、そうすると最初の段階で社内に説明したシナリオとはズレを持った状態で仕事を進めることになったりします(豊洲市場の盛り土についての事件は記憶に新しいところだと思います)。 ズレが懸念されるようになった段階でいったん立ち止まって情報共有が図れていれば問題ないのですが、忙しいと人間はどうしても短絡的な対応を取ってしまうことがあります。時間がない、面倒くさい、ややこしい、重要度が低い、後で話をすればよい、すぐに説明しなくても直接の影響はない等の判断や自己抑制が働いて、実際には違ってきているのにそれまでと同じ前提条件のまま説明を続けたり書類を作成したりする、という対応を取る例も少なくありません。 それが積み重なると、いつの間にかF/Sそのものの信頼性についてチーム内外で認識の差を生むことにつながったりします。「F/Sチームは勝手なことをやっている」といったような噂が立つ例は、案外このような小さなほころびが原因となる場合がありますので注意してください。 ▷ 忙しい中でどのように情報共有を進めるのか よく行われるのが定期的な報告会の実施ですが、それ以外にもF/Sチームの各メンバーが自ら各方面に出向くなどして積極的な情報開示に努めるという方法がありえるでしょう。ただし、この方法が機能するためにはメンバー間で進捗に関する認識が統一されている必要があり、そのためにはまずチーム内でしっかりとした情報共有がなされている必要があります。 チームリーダー、あるいはプロジェクトマネージャーと呼ばれる責任ある立場の人は、チーム内外との情報共有について常に注意を払うことにより、適切なタイミングで情報発信を行うよう目配りをすることが求められます。新規事業を確実に成功させるためのF/Sが、社内に無用な疑心暗鬼を招く根源になったりすることのないよう、コミュニケーションには十分注意を払うようにしてください。 * * * 次回は、情報の裏付け取りとその重要性についてお話しします。 (了)