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[無料公開中]〔会計不正調査報告書を読む〕 【第52回】社会福祉法人夢工房「第三者委員会調査報告書(平成28年10月17日付)」

筆者:米澤 勝

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第52回】

社会福祉法人夢工房

「第三者委員会調査報告書(平成28年10月17日付)」

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

【第三者委員会による調査の概要】

〔第三者委員会〕

【委員長】

藤原 孝洋(弁護士)

【委 員】

岡本 俊二(公認会計士)

勝木 洋子(神戸親和女子大学教授)

〔調査期間〕

2016(平成28)年6月24日から10月15日まで

〔調査の目的〕

① 理事長等関係者への特別の利益供与に係る実態の把握、原因の究明

② 法人ないし関係行政庁の損害額の把握と回復措置及び責任の明確化に関すること

③ 今後取り組むべきガバナンス上の課題と再発防止に向けた方策の検討に関すること

〔適時開示(調査結果)〕

 

【社会福祉法人夢工房の概要】

社会福祉法人夢工房(以下「夢工房」と略称する)は、昭和22年7月姫路保育園として事業を開始。昭和42年7月に社会福祉法人化。介護事業と保育事業を営む。現理事長黒石誠(報告書上の表記は「A」、以下「理事長」と略称する)は、創業者である黒石長光から数えて4代目であり、歴代の理事長職には黒石家の人間が就任してきた。理事長の配偶者である黒石静香(報告書上の表記は「B」、以下「統括園長」と略称する)は、全地区保育園統括園長であると同時に、夢工房の理事・評議員である。また、理事長の実母である黒石芳子(報告書上の表記は「E」であり、本稿もこれに統一する)、子である黒石正人(報告書上の表記は「I」であり、本稿もこれに統一する)は、ともに夢工房の評議員である。

 

【第三者委員会調査報告書の概要】

1 第三者委員会設置の経緯

姫路市は、夢工房に対して行った、平成27年8月の定期監査及び同年9月の特別監査により、理事長実母であるE、理事長義母であるG(統括園長の実母)による架空勤務の事実を確認した。

また、兵庫県龍野健康福祉事務所が、平成28年2月に夢工房が運営する特別養護老人ホーム「シスナブ御津」に立入り検査を行ったところ、理事長実母Eの家政婦の賃金を夢工房の職員給与として支払っている事実を確認した。

これを受けて、兵庫県と姫路市が合同で、平成28年5月に夢工房法人本部に特別監査を行ったところ、以下の不正な支出が発覚した。

① 理事長実母Eの架空勤務疑惑 1,000万円 ② 理事長義母Gの架空勤務疑惑 1,200万円 ③ 理事長実母Eの家政婦の架空勤務疑惑 380万円 ④ 理事長娘Fの家具・家電製品を保育所備品として購入 170万円特別監査による疑惑金額 合計 2,750万円

こうした調査結果を受けて、兵庫県と姫路市は、不適正な経理の実態や原因の究明、及び夢工房のガバナンス等を早期に解明するとともに、責任の所在の追及、夢工房の受けた損害の回復、再発防止へ向けた取組み等を着実に実行していくため、夢工房に対し第三者による調査委員会を設置し、調査を行うよう指示した。

 

2 夢工房から不正に支払われたと認定された支出

第三者委員会が認定した不正な支払いは多岐にわたるが、大別すると、次のようにまとめることができる。

(1) 勤務実態のない理事長親族に対する給与の支払い

第三者委員会は、架空勤務疑惑の調査結果について、以下のように、実態がないものと認定した。

① 理事長義母Gの架空勤務による給与 12,523,182円 ② 理事長実母Eの架空勤務による給与 2,565,6231円 ③ 理事長娘Fの架空勤務による給与(大学院入学前) 4,954,344円 ④ 同上(大学院進学中) 5,905,214円 ⑤ 理事長息子Iの架空勤務による給与(専門学校進学中) 6,698,494円 ⑥ 理事長娘Fに対する赴任手当 233,955円 ⑦ 理事長実母E宅の家政婦を法人職員として偽装 3,888,486円

なお、上記のうち、に掲げる家政婦に対する支出については、夢工房からの不当利得返還請求に基づき、Eから5%の遅延損害金を加算し法人の給与を仮装して支払った金額が返金されていることを、第三者委員会は確認している(報告書p.55)。

(2) 理事長の子供が通う大学院・専門学校の費用の支払い

上記(1)で架空勤務とされていた時期、理事長は、F及びIの進学費用を夢工房から支出させていた。

① 理事長娘Fの大学院の学費 1,059,000円 ② 理事長息子Iの専門学校の学費 2,916,400円

これらの授業料に関しては、「社会福祉法人夢工房職員の専門資格の取得等に関する内規」に則って支払われているものではあるが、当該内規がFの大学院入学直前に理事会において新設され、F及びI以外に当該内規を利用した職員がおらず、また、職員への周知もされていなかったことから、第三者委員会は、「夢工房の費用で、身内のFやIを進学させようとしたにすぎず、(仮に内規があったとしても、)権限濫用行為に当たる」ことから、内規の適用は違法、無効であるとした(報告書p.51)。

(3) 理事長親族による不正な支出

第三者委員会は、上記以外にも、夢工房名義で購入した高級車を理事長娘Fが独占的に使用したり、統括園長が私的に利用するために購入した物品の領収書を夢工房の経費として処理したりするなど、不正な支出があったことを指摘している。

① 理事長娘Fによる社有車(レクサス)の私的使(専有)用 7,356,082円 ② 理事長娘Fの家具・家電製品を保育所備品として購入 2,100,720円 ③ 統括園長の婦人服の購入代金を保育所経費として処理 1,233,562円 ④ 教材費として集金した金員の理事長による私的流用 2,000,000円 ⑤ 海外旅行などでの私的使用 624,387円

上記のうちに掲げる支出については、すでに統括園長から夢工房に対して返金がなされている。しかし、第三者委員会は、これらの行為は「夢工房の口座から出金することが自由にできたことを利用して、法人の金員を私的に流用したもの」であり、業務上横領罪の可能性にまで言及している(報告書p.61)。

上記に掲げる私的流用については、第三者委員会は、学研教材費として理事長名義の口座に保護者から入金させた金員のうち、理事長が私的に流用した金額につき、「業務上横領罪の成立する余地がある」と認定したものである。この点について、理事長は、理事長個人で学研教室を主宰していたと主張するが、第三者委員会は、そうであるとすれば、理事長個人が学研教室に係る収入について確定申告を行っていないことは矛盾を生じるとしたうえで、仮に理事長の主張を認めるとしても、夢工房の施設や人員を無償で利用しているので、これに対する返金が必要であるとして、さらなる調査の必要性を指摘した(報告書p.60)。

 

3 理事会決議のない簿外借入金

理事長及びその親族による、こうした法人資金の不正な支出の背景として、第三者委員会は、夢工房が平成9年に設立認可を受けた特別養護老人ホーム「シスナブ御津」設立時の前理事長による約2億円の寄付との因果関係を指摘している。

報告書に記載された兵庫県による「高齢者福祉施設整備の手引き」によれば、「建設費から補助金等を差し引いた額の概ね10%以上の額の自己資金が必要」であり、「自己資金は原則として法人の理事等の役員からの寄付により調達することが必要」とされている。このため、第三者委員会は、特別養護老人ホームの認可申請にあたって、前理事長が自己資金で不足する寄付について、理事会の決議なしに法人名義で借り入れを行い、これを法人に寄付する形をとったと判断している。

簿外借入金の調査時点の残高は62,699,401円であり、これについても、理事長は直ちに法人に返還すべきであるとしている。

ただ、第三者委員会は、今回の問題発生の根本的な問題として、「いったい世の中に何の見返りもなく多額の寄付をする人がどれだけいるか?」という発想に欠ける制度的問題も指摘している(報告書p.18)。

 

4 夢工房による補助金不正受給

第三者委員会が、補助金の不正な取得として、自治体への返還を認めた事例は以下のとおりである。

① 姫路市への所長設置加算 36,687,640円 ② 港区への零歳児調理員加算 8,756,820円 ③ 港区の保育所体験特別活動事業等の扶助費 150,636円

上記の「所長設置加算」とは、常勤専従の施設長を設置した場合に市から上乗せ支給される運営補助金のことであるが、夢工房は、上記2(1)に記載した理事長実母Eの架空勤務について、同人を姫路保育園の施設長として登録し、不正に「所長設置加算」を取得していた。

また、の「零歳児調理員加算」とは、東京都港区における零歳児の給食のための調理員の増配置に伴う扶助費制度のことであるが、夢工房では、目黒区にある他の保育園に勤務している調理員の所属を偽装する手口で、この扶助費を不正に受給していた。

上記の補助金受給については、東京都港区の保育所体験特別事業や保育所地域活動事業に対する経費の一部支給の仕組みを悪用して、上記2(3)に記載した統括園長による不正な支出の一部を補助金請求に含める方法で、不正に補助金を得ていた。

 

5 委託契約の合意解除

夢工房が、東京都品川区との間で平成28年度から5年契約で運営管理委託契約を締結している区立保育園について、仕様書で求められている常勤看護師の配置や購入備品の内容に疑義があることが判明して、契約が合意解除された。

第三者委員会は、看護師の配置については、「品川区の対応によっては、損害賠償に応じる必要がある」と指摘するとともに、購入備品について、品川区への水増し請求の疑義を述べるにとどまっている。

 

6 原因分析

第三者委員会による原因分析として、6項目を挙げた。

(1) 理事長一族による法人の私物化

(2) 理事長の専横(ワンマン)に対する抑止力の欠如

(3) 非常勤理事を主体とする理事会の形骸化

(4) 利用者、従業員の便宜を二の次とする利益優先主義

(5) 急激な拡大に伴う組織の疲弊

(6) 職員のコンプライアンスに対する意識の欠如

 

社会福祉法人の一般的な運営と夢工房について、第三者委員会は次のように述べている(報告書p.64)。

社会福祉法人は、個人からの寄付により設立されるが、寄付金の拠出者に持分権などの権利が与えられるわけではなく、拠出者が社会福祉法人の所有者になることもないし、拠出者に利益の分配が行われるわけでもない。このように社会福祉法人の運営は、拠出の有無とは切り離されて行われるべきであるが、夢工房は、創業家であるA家の家業として、切り盛りされている様子が窺える。

そうなってしまった理由の一つには、理事長が、「専務理事の当時から数えると13年間、大過なく過ごしてきたどころか、華々しい実績を挙げていた」と第三者委員会も認めざるを得ないほどの実力者であったことが挙げられよう。それを支えたのが「利益優先主義」の経営であり、その一方、ワンマンになり、理事会は形骸化し、職員はコンプライアンスよりも理事長一族の指示に従うほかはなかったというところであろうか。

外部理事・評議員の多くは同業者(社会福祉法人の理事等)や地区の自治会長であり、業界における成功者である理事長とその一族の専横を抑止するには力不足だったのかもしれない。しかし、監事の一人は、「社会福祉法人会計支援」を目的とするコンサルティング会社の代表者であり、監事として、夢工房の不正をどの程度認識できる立場にあったのか、気になるところである。第三者委員会は、監事についても、ヒアリングの結果、統括園長による領収書の偽造を見逃していたこと、公用車両を理事長一族が独占的使用していたことに気がついていなかったことなど、職務の執行が不十分であり、監事としての役割を十分に果たしていないと結論づけている(報告書p.64)。

 

7 再発防止のための提言

第三者委員会による再発防止策の提言は、以下の6項目である。

(1) 理事長、統括園長の退陣、創業者一族の関与の排除

(2) 理事会の一新

(3) 利用者本位の保育体制の構築

(4) 人材の育成

(5) 従業員教育によるコンプライアンスの徹底

(6) 不正を指摘しやすい環境づくり

 

筆頭に挙げた、理事長をはじめとする創業者一族の経営からの排除ができれば、おそらくは多くの問題は片がつくはずである。そのうえで、一新された理事会によって、利用者本位の保育体制が構築されれば、すべての利害関係者にとって最善の再発防止策となることは言うまでもない。問題は、夢工房の経営を担う人材をどこに求めるかであろう。

 

【調査報告書の特徴】

「アダルトDVDに高級車レクサス、婦人服まで・・・不正流用1.4億円、社福理事長一族の乱脈経営」――産経新聞がweb版で伝える【衝撃事件の核心】というニュース記事の見出しである 。同記事では、10月19日に行われた第三者委員会による記者会見の模様も詳報されているが、そこで引用された第三者委員会委員長である藤原孝洋弁護士による発言は、

「今回の問題を総括すると、理事長一族による法人の私物化が主な原因」
「詐欺罪などで告訴されうる事案で、理事長らは解任されるべきだ」

とかなり厳しいものであった。

その後の報道では、理事長、統括園長(理事)、理事長実母(評議員)の3人の役職を解任したことも伝えられているが、残念ながら、夢工房のホームページ上では確認ができない状況である。

補助金の返還問題、業務上横領とも思える行為や補助金不正受給が刑事事件化するのかなど、夢工房理事長一族の不正問題の解決にはまだ予断を許されない要素も多い。

社会福祉法人が寄付により支えられていること、特別養護老人ホームや保育園といった、本来、市民を助けるべき施設を舞台に行われた不正の悪質性について、また、夢工房に対する期待について、第三者委員会による調査報告書の末尾に記されたコメント(報告書p.75)を引用して、本稿を締め括りたい。

公的支援を受け、公設民営化などの期待がかかる中、働く女性や住民を裏切った行為は許されるものではない。女性活躍推進法ができた今日、待機児童ゼロ作戦で悩む自治体と保護者を手玉にとり、理事長らが今回のような事件を起こしたことは許されず、深い反省を求めるとともに、今後、理事長と総括園長の暴走を止められなかった役員を一掃し、現場園長・保育士の期待に応える管理体制の構築を切に望むものである。

(了)

「会計不正調査報告書を読む」は、不定期の掲載となります。

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会計不正調査報告書を読む

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筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・『架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2011)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

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