マイナンバーの会社実務 Q&A 【第11回】 「就業規則の改定④(「懲戒」の条文の改定)」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 当社の「懲戒」の条文の改定について教えてください。現在の条文は、以下の通りです。 〈A〉 服務規律の条文には、懲戒処分を科す際の根拠条文として以下の条文を規定した(【第10回】〈パターン1〉参照)。 一方、上記懲戒の条文には、服務規律違反が1回の場合は譴責(けんせき)、数回の場合は減給・出勤停止、数回かつ改善の見込みがない場合は諭旨解雇・懲戒解雇と規定されている(アンダーライン部分参照)。 従業員がマイナンバーを社外へ流出したり不正アクセス行為などによりマイナンバーを取得した回数が1回だからといって譴責(けんせき)で済ますわけにはいかない。懲戒処分の中で最も重い懲戒解雇が相当である。 以上を前提に改定を行う。 〈パターン1〉 第7号に“マイナンバーを他にもらしたり、不正アクセス行為などによりマイナンバーを取得したとき”を追加した。 〈パターン2〉 第6号のカッコ書きに“マイナンバーを含む”を追加した。 (了)
養子縁組を使った相続対策と 法規制・手続のポイント 【第25回】 (最終回) 「養親の離婚と養子の相続権」 弁護士・税理士 米倉 裕樹 問 題 【問題①】 A女は婚姻後にBを出産したものの離婚、その後、C男と再婚した。婚姻後、C男はA女の連れ子Bとの間で養子縁組を行ったが、数年後、A女とC男は離婚した。当該離婚によりBは当然にC男の相続権を喪失するか。 【問題②】 【問題①】において、C男がBとの間で養子縁組を行った後に、Bに一定の財産を遺贈する旨の遺言を作成したものの、その後、A女と離婚し、Bとも離縁すれば、当該遺言も当然に効力を喪失するのか。遺贈ではなく、Bに一定の財産を相続させるとの遺言の場合はどうか。 【問題③】 【問題②】において、Bへの遺贈等を回避するための確実な方法は何か。 回 答 【問題①】 A女とC男が離婚しても、C男がBと離縁しない限り、Bは当然にC男の相続権を喪失するものではない。 【問題②】 諸般の事情より観察して、離縁が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかでない限り、その遺言の効力が当然に否定されるものではない。なお、Bに一定の財産を相続させるとの遺言の場合には、あくまでも当該養子が法定相続人であることを前提に、一定の財産を相続させる意思の表れとして、その後の離縁が当該意味を有する遺言と両立しない趣旨のものになされたとの評価を補強する1つの事情とはなりえる。。 【問題③】 協議離縁を行うなどして縁組が解消した場合には、それまでに作成した遺言でかつての養子に財産を与える条項が存在するのであれば、新たな遺言で撤回するか、あくまでも縁組関係の継続を前提または条件として養子へ一定の財産を遺贈する旨を遺言に明記しておくことが望ましい。 解 説 [1] 【問題①】について 連れ子を有する配偶者と婚姻し、連れ子との養子縁組を行ったものの、その後、当該配偶者と離婚したとしても、当該離婚によって直ちに連れ子との親子関係が断絶されることはない。 本問でいうと、C男がBと離縁しない限り、C男が死亡した際には、BはC男の子としての相続人となる。それを回避するためには、C男がA女と離婚するに当たり、Bと離縁する必要がある。 [2] 【問題②】について 養子縁組を行った後、同養子に一定の財産を遺贈する旨の遺言を作成したものの、その後、養子縁組を解消した場合においても、その遺言の効力が当然に否定されるものではない。 この点、養子への遺贈に関し、最高裁昭和56年11月13日判決では、以下のように判示し、一定の要件を満たす場合には、遺贈の効力が後の協議離縁によって取り消されたものとし(一部筆者により編集)、協議離縁を行ったことで養子への遺贈は効力を喪失したものとしている。 つまり、同裁判例では、「諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合」には、民法1023条2項により、後の協議離縁により前の遺言(養子への遺贈)が取り消されたものとした。 すなわち、養子から終生扶養を受けることを前提として養子縁組がなされ、それゆえに養親の所有する不動産の大半を養子に遺贈する旨の遺言を作成したという事情のもと、その後、養親が養子に不信感を抱いて協議離縁したような場合には、その後の協議離縁は、縁組関係の継続を条件ないし前提とした遺言と両立しない趣旨であることが明らかであるとして、養子への遺贈が取り消されたものである。 そのため、同じく、養子縁組をした後に、同養子に一定の財産を遺贈する旨の遺言を作成し、その後、養子縁組を解消したような場合であっても、将来的な縁組の継続を条件ないし前提としたものではなく、過去の養子の貢献等に鑑みて一定の財産を与えるとの遺言がなされたような場合には、その後の養子縁組解消によっても同遺言が取り消されたものと評価することは困難である。 たとえば、東京地裁平成26年11月14日判決では、内縁関係にあった女性(被告)に対する遺贈がその後の内縁関係の解消によって失効した、との遺言者の子ら(原告)の主張に対し、被告へ遺贈する財産の割合も多くはなく、当然に遺言者と被告との内縁関係の継続を前提または条件としているとみることはできず、10年以上生活を共にしたと評価できる相手であったことから、そのことだけからでも、ある程度の財産が遺贈されても不自然ではないとして、問題となった遺言につき、遺言者と被告との内縁関係の継続を前提または条件としてなされたものであると認めることは困難であると判示している。 その結果、同裁判例では、民法1023条2項により、その後の内縁解消によって前の遺言が取り消されたものとはいえないとしている。 そのため本問でも、たとえC男がBとの養子縁組を解消したとしても、諸般の事情より観察して、当該離縁が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかでない限り、その遺言の効力が当然に否定されるものではない。 なお、Bに一定の財産を相続させるとの遺言の場合には、あくまでも当該養子が法定相続人であることを前提に一定の財産を相続させる意思の表れとして、その後の離縁が当該意味を有する遺言と両立しない趣旨のものになされたとの評価を補強する1つの事情とはなりえる。 [3] 【問題③】について 上記裁判例でも争われたように、諸般の事情より観察して後の離縁が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合か否かが関係者によって争われたような場合には、時間、費用、そして何よりも結論が予測不可能であるといったリスクが生じる。 そのため、協議離縁を行うなどして縁組が解消した場合には、それまでに作成した遺言でかつての養子に財産を与える条項が存在するのであれば、新たな遺言で撤回する等しておくことが望ましい。 もしくは、万が一、将来的に養子縁組が解消してしまう場合に備え、あくまでも縁組関係の継続を前提または条件として養子へ一定の財産を遺贈等する旨を遺言に明記しておくことが望ましい。 (連載了)
〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第9話】 「誤指導と信義則」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「困ったもんだよ・・・」 田中統括官は渋い顔をして谷垣調査官に話しかけた。 昼休みの時間で、谷垣調査官は食事が終わった後、新聞を読んでいる。 「何かあったのですか?」 谷垣調査官は新聞から目を離し田中統括官の方に振り向いた。 「確定申告の相談会場で、そこに配置されていた税理士の指導の下で確定申告書を作成したのだが、その確定申告の内容に誤りがあったらしく・・・納税者がひどく怒っているというんだ・・・」 田中統括官は、つい先ほど、トイレで所得課税第一部門の統括官からその話を聞いたところだった。 「しかし、税理士も間違えることはあるでしょう。特に確定申告時期の税務相談は多くの納税者の相手をしますから、すべてに正しく答えることは難しいでしょうね。それに・・・税務職員だって間違えることはありますよ。」 谷垣調査官は税理士に同情的である。 「ところでその誤りって、税務署から連絡があったのですか?」 谷垣調査官が尋ねる。 「そうだ・・・納税者が税務署から、確定申告書が誤っているという連絡を直接受けたらしい・・・」 「なるほど、それで納税者はビックリしたのでしょうね。」 谷垣調査官は苦笑いする。 「納税者は『なんで税理士がこんなミスをするのか信じられない!』と言って、税務署に文句を言いに来たらしい・・・」 田中統括官の声も若干トーンが上がっている。 「ちなみにそれって・・・どんな誤りなのですか?」 谷垣調査官は興味深そうに尋ねる。 「・・・一時所得のマイナスを他の所得と損益通算した、ということらしい・・・」 田中統括官は困った表情を浮かべる。 「エッ! そんなの・・・できないって・・・税理士が知らなかったのですか?」 谷垣調査官は田中統括官を責めるような口調になった。 「・・・その税理士は知らなかったらしい・・・」 田中統括官は自分のミスのように声を小さくして答える。 「その納税者にはかんぽ保険の満期支払があったんだが、その申告に際して、その税理士が受取金額から払込金額を控除するとマイナスになったので、これを他の所得と損益通算することができると指導したらしい・・・」 田中統括官は机の中から確定申告書Bを取り出す。 「この申告書の所得金額欄の⑧「総合譲渡・一時」」のところにマイナスの金額を記載して、⑨「合計」には他の所得と損益通算した後の金額を書いた・・・もっとも、マイナスの金額は80万円ぐらいだったので、所得税額としては6万円ぐらい増額したという話だ。」 「しかし、納税者は『税理士に言われるまま申告書の金額を書いただけで、それが誤っていたなんてまったく知らない!』と、ひどく腹を立てている。所得税の統括官もその納税者を相手にして困っていたよ・・・」 田中統括官はトイレで会った所得税の統括官の顔を思い浮かべた。 「税務署としては、その納税者の確定申告書を見てすぐ誤りに気づいたから、納税者に電話したのでしょうね。」 谷垣調査官の確認に田中統括官はうなずく。 「それにしても・・・税理士なら、一時所得のマイナスを他の所得と損益通算できないことぐらい知っていそうなものだけどなあ・・・」 谷垣調査官はそう言いながら、読んでいた新聞を机の上に置いた。 「ところで、自慢ではありませんが、私なんか、納税者から質問されてその場で答えたことが、後で誤っていたと気づくことがよくありますよ。」 谷垣調査官は少しバツが悪そうに言う。 「もちろん、誰にだってあるさ。」 田中統括官は応じる。 「よく『税務署に聞いて申告書を作成した』という納税者がいますけど・・・これって、たとえ税務署の職員が納税者に対して間違ったことを指導したからといっても、納税者は税金を払わなくてもよいということにはなりませんよね。」 谷垣調査官は田中統括官の顔を見た。 「信義則の問題だな。」 田中統括官は机からファイルを取り出す。 「税務上の信義則の適用は、民法と違って、その適用はとても厳しいんだよ。」 そう言いながら、田中統括官はそのファイルから「信義則の適用要件」(最高裁平成18.1.24判決)と書かれた書類を谷垣調査官に見せた。 「税務上の信義則の適用は、他の納税者との税負担のバランスを考えて判断をしなければならない・・・」 田中統括官は、ファイルを見ながら説明をする。 「要は・・・税務職員の電話相談とか税務調査での指導等については、この信義則の適用要件の①の「公的見解」に該当しないことから、納税者は税務職員の誤指導を理由として税負担の免除を訴えても、ダメだということだな。」 田中統括官はそう力強く言ってファイルを閉じた。 (つづく)
《速報解説》 消費税率10%引上げは平成31年(2019年)10月へ2年半延期 ~税制関連法案は秋の臨時国会での成立を目指す Profession Journal編集部 昨日(6月1日)の安倍首相の記者会見により、消費税率の10%引上げの時期が平成31年(2019年)10月1日まで2年半延期されることが明らかとなった。軽減税率の導入も同様に2年半の延期が明言された。 現在は平成28年度税制改正を踏まえ、下記のスケジュールで消費税率10%引上げ等が行われることとなっている。 平成28年(2016年)10月1日 ⇒経過措置に係る指定日 平成29年(2017年)4月1日 ⇒10%引上げ+軽減税率スタート(区分記載請求書等保存方式) 平成31年(2019年)4月1日 ⇒適格請求書発行事業者の登録申請受付スタート 平成33年(2021年)4月1日 ⇒インボイス(適格請求書等保存方式)導入 これが今回の延期により、次のスケジュールとなる見込みだ。 平成31年(2019年)4月1日 ⇒経過措置に係る指定日 平成31年(2019年)10月1日 ⇒10%引上げ+軽減税率スタート(区分記載請求書等保存方式) 今回の消費税率引上げの延期、及び既報のように直系尊属からの住宅取得等資金贈与特例など法律上の手当ては、秋の臨時国会で審議される予定であり、提出される改正法案により詳細が明らかになる見込みだ。 また、現在、募集を行っている軽減税率対策補助金制度についても、平成28年3月29日から平成29年3月31日までに導入または改修等が完了したものが支援対象とされているため、今後の動向に注意したい。 さて、区分記載請求書等保存方式による4年の経過期間を経たインボイス制度だが、その導入(及び発行事業者の登録開始)時期については、消費税率アップと同様に2年半延期されるかは未定だ。インボイスは現在から準備できるものとして、財務省は軽減税率の導入にかかわらず、平成33年から当初の予定どおり導入するのではないかとの憶測も広がっている。 すでに来年4月からの税率引上げ及び複数税率への対応を始めていた企業や業界団体にとっては予算管理も含めスケジュールの見直しが求められるものの、引上げまで1年を切った現在としては、今回の延期は実務家にとって朗報ともいえよう。 なお、当面の対応は不要となるものの、インパクトの大きい改正であることには変わりないことから、特に軽減税率については経営上の問題点の洗い出しやシステム改修の検討等の対応について、綿密なスケジュールを立て着実に進めておきたい。 また、秋の臨時国会では、昨日の安倍首相の「総合的かつ大胆な経済対策を講じてアベノミクスをいっそう加速させていく」との発言にあったように経済対策を盛り込んだ今年度第2次補正予算案が編成されることから、税制についても何らかの手当てが行われる可能性もあり、7月10日の参議院選挙後の与党及び政府の動向にも注視が必要だ。 (了)
《速報解説》 金融機関により「暦年贈与サポートサービス」で事前照会 ~東京局、サービス契約に基づく連年贈与でも 「定期金給付契約に関する権利」の贈与には該当せずと回答 Profession Journal編集部 東京国税局はこのたび文書回答事例により、金融機関が行う暦年贈与のサポートサービスについて、当初の契約に基づき連年で贈与を行ったとしても、約束をした年に、定期金に関する権利(例えば、10年間にわたり毎年100万円ずつの給付を受ける権利)の贈与を受けたものとして各年の贈与として贈与税が課税されるという相続税法24条の「定期金給付契約に関する権利」の贈与には該当しないとの見解を示した。 暦年贈与は毎年一定額の贈与を行うことにより110万円の税額控除枠を利用するもので、安定的に贈与できるとして従来から活用されている生前贈与策の1つだ。 だが、毎年一定額を贈与する場合、例えば10年間にわたって毎年100万円ずつ贈与を受けることが、受贈者と贈与者との間で約束されている場合には、1年ごとに贈与を受けると考えるのではなく、約束をした年に一定額の贈与を計画し、その金額を定期的に贈与するという定期金に関する権利(10年間にわたり毎年100万円ずつの給付を受ける権利=相続税法24条)の贈与を受けたものとみなされ、贈与総額に対して贈与税が課されることとなる。 今回事前照会を行った金融機関は、贈与者と金融機関による本サービス契約期間となる5年間に、毎年贈与契約書を金融機関から贈与者へ郵送等し、受贈者との間で締結された契約書を一旦受領した後、その贈与金額を贈与者から受贈者の口座へ振り替える等、贈与者と受贈者の間に立って暦年贈与手続に関するサービスを行うというもの。取引概念図及び手続の流れは次のとおり。 《取引概念図》 (※) 国税庁ホームページより 本サービスは、当初のサービス契約に基づき5年間の契約期間中に定期的な贈与が行われることが想定されるため、サービス利用開始時に「定期金給付契約に関する権利」の贈与が行われたものとして総額で贈与税が課税されるのではないかとの疑義が生じることから、東京国税局に対して事前照会がされたと考えられる。 当初のサービス契約によって贈与契約が成立するものではなく、契約期間中の各年に締結する贈与契約の履行に基づき各年の贈与を行うものであるため、定期金給付契約に関する権利の贈与には該当しない、とする照会者からの照会内容に対して、東京国税局は「貴見のとおりで差し支えない」との回答を行っている。 本サービスは、上記【手続の流れ】③下線部の説明のとおり、贈与の都度、贈与者・受贈者間の贈与の意思確認を行った上で、その双方合意による贈与契約の成立を証する贈与契約書に基づいて贈与資金の払出し・振込(預金の振替)を行う点がポイントだ。 そのため、例えば贈与者が認知症となっていても贈与が続いていたり、贈与者が重篤な状態に陥っているにもかかわらず贈与が行われた場合には、上記の「贈与の都度、贈与者・受贈者間の贈与の意思確認を行った」とはいえず、相続税法24条に基づき認定課税が行われることになる。 また、贈与者=親、受贈者=子での契約では、相続が開始した場合は、本契約による贈与によっても、その3年以内に贈与があれば相続財産に取り込まれる点には留意したい。 (了)
《速報解説》 国税庁、法人番号を用いた取引先管理等の利用法をパンフレットで紹介 ~6月末までは研修会の講師派遣も Profession Journal編集部 法人番号の利活用を促進するために、国税庁はこのほど、「法人番号の利活用~法人番号の利活用方法のご紹介~」と題したパンフレットを公開した。 同パンフレットには、法人番号の活用法のほか、利活用のための他の法人等の法人番号の入手方法などが示されている。 〇個人番号と異なり利用制限のない「法人番号」 法人番号は、国税庁長官により登記された法人や人格のない社団等に対して付番された13桁の番号である。対象法人等には昨年10月以降「法人番号指定通知書」により郵送されている。 法人番号は、個人番号(マイナンバー)とは異なり、利用範囲の制限がされていないことから、一般に法人番号の利活用が可能となる。今回、公表されたパンフレットは、その利活用のための手引きという位置づけだ。 〇法人番号を使った顧客管理簿作成事例 法人番号は、「国税庁法人番号公表サイト」で名称及び所在地と共に公表されており、本サイトを通じて誰でも検索・入手ができるようになっている。 法人番号の利用だが、例えば、本サイトで取得した取引先の法人番号を利用して顧客管理簿を作成することで、独自の顧客管理方法を構築する手間が省けることになる。 これにより、売掛金(売上台帳)などで法人番号をキーとすることで、取引先ごとの集計が容易となるばかりでなく、支店・出張所との取引であっても、本店と同一の法人番号であることから取引先ごとの集計を確実に行うことができるとする例が紹介されている。 (※) 国税庁「法人番号の利活用~法人番号の利活用方法のご紹介~」より 〇行政機関の公表情報にも法人番号を記載 行政機関では、平成28年1月より法人情報をWeb ページ等で公開する際には、法人番号を併記することとなった。これは、法人番号による情報の検索・収集・利用を容易にし、公開情報の利用価値を高めることを目的とするもので、下記の情報に法人情報を含む場合には、法人番号が付される。 法人番号を用いた顧客名簿を作成していれば、そのリストと行政機関情報に紐付けられている番号の照合を行うことが可能となるため、これまで容易に管理することが叶わなかった顧客情報管理を行うことも可能となろう。 〇法人番号の一括取得も可能に 上記のような利用を行うためには、目的とする法人に割り振られている法人番号の取得を行わなければならない。 顧客数が少なければ、国税庁法人番号公表サイトで、団体の商号及び所在地から法人番号を検索することで1件ずつの検索が可能だ。また、法人番号から団体の商号や所在地を検索する場合には一度に10件まで検索が可能になっている。 (※) 「国税庁法人番号公表サイト」より 顧客数が多い場合には、上記の検索方法では多くの時間を要することから、次 の4つの方法により全件データの一括提供も行われている。 上記の①や③を通じて取得した法人番号を利用することによって、郵便番号を用いた住所変換を行う入力補助のように、法人番号さえ入力すれば「法人名」「本店所在地」の情報を自動的に補完入力する機能を追加することが可能となるという。これにより誤入力や表記のゆれによる問題が解消できるほか、入力作業の効率化にもつながるという活用例も紹介されている。 (※) 国税庁「法人番号の利活用~法人番号の利活用方法のご紹介~」より 〇国税庁から研修会の講師派遣も 自社が抱える顧客管理の問題をクリアできるとして上記の利活用に興味を持ったとしても、いざ自社で導入するとなると様々な疑問点も生じよう。そこで国税庁法人番号管理室では、平成28年6月30日(木)までの期間、職場や事業者団体での研修会等の要望があった場合、講師を派遣し利活用事例を含めた法人番号についての説明を行うとしている(原則として参加予定人数が50名以上。説明会予定日の2週間前までにメールでの問い合わせが必要)。 下記ホームページ記載によると説明予定時間は20~50分だが、講師への講演料・交通費等は不要とされていることから、利活用を具体的に検討している企業や業界にとっては一考の価値ありだ。 (了)
《速報解説》 ITの進歩、サイバー攻撃等に対応した 「公認会計士業務における情報セキュリティの指針」及び Q&Aの改正(公開草案)が公表 ~クラウドサービス普及やIoTの進化による影響も記載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年5月27日、日本公認会計士協会は次のものを公表し、意見募集を行っている。 これは、前回の改正(平成24年8月30日)以降のITの進歩への対応、日本年金機構における個人情報流出事案に象徴されるサイバー攻撃等、新たな情報セキュリティリスクとして、サイバーセキュリティへの対応などを行ったものである。 意見募集期間は平成28年6月27日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 実務指針の主な改正内容 1 対象範囲 実務指針は、公認会計士が監査に限定されないすべての業務において留意すべき情報セキュリティについての指針の提供を目的としている。 公認会計士は、実務指針に従って情報漏洩を防ぐ体制を構築し、運用することが必要である。 2 ITの進歩に対応する情報セキュリティ クラウドサービス等のITリソースが、ITの進歩により広く普及し、利用されるようになると、新しいリスクが生じることから、ITの進歩に対応した情報セキュリティ及び体制の見直しを考える必要がある。 電子メールの利用に際しての注意(誤送信防止など)、クラウドサービス等のITリソース利用に係る情報セキュリティ(ログオン時のID、パスワードの漏洩など)、サイバーセキュリティに係る情報セキュリティ(偽装したログイン画面を用意してログオン時のID、パスワードの奪取など)などが述べられている。 3 情報漏洩に関するリスクの認識と対応 業務上取り扱う情報がどのように管理されているのかに関して、業務の流れとITの利用状況に沿って理解し、関連する内部統制を識別した上で、リスクを認識しなければならないことについて述べている。 Ⅲ Q&Aの主な改正内容 Q&Aの改正は多くの事項に及んでいるので、下記では特徴的な記載について述べる。 1 サイバーセキュリティと情報セキュリティの違い(Q4) サイバーセキュリティは、サイバー空間を対象としたセキュリティの考え方である。サイバー空間は各種デバイス、コンピュータ、ネットワークその他の電子化された世界のため、サイバーセキュリティにおいては電子化された情報資産がその保護対象となる。 情報セキュリティはIT委員会実務指針第4号でも記載されているように、その範囲を電子の情報に限定しておらず、紙の資料もその対象に含まれる。サイバー空間固有の特徴はあるものの、サイバーセキュリティにのみ特化した対策を行うのではなく、情報セキュリティの一部として検討することが求められる。 2 サイバーセキュリティ対策に関する全体像の把握に適した資料(Q6) IT委員会実務指針第4号を活用する。 下記のものも参考になる。 3 IoT(Internet of Things)の動向(Q12) IoTが進んでいくことで便利になる一方、情報セキュリティの面からは管理対象が増加し、その特性上、情報漏洩のリスクが顕在化しやすくなる状況にあると言えると述べられている。 具体的な特性として、①管理が意識から漏れやすい点、②モニタリングの困難さが述べられている。 4 マルウェア対策を実施する上での留意点(Q24) マルウェアから防御するためには、すべてのPC・サーバにマルウェア対策ソフトを導入するとともに、常に最新の状態に維持されるようにする。そのため、情報セキュリティ担当者は、すべてのPCにおいてパターン・ファイルの更新の設定が正しく行われるよう留意する。 5 ファイルサーバとしてクラウドサービスを利用する場合の業者を選ぶ際の留意点(Q27) 委託先選定に当たっては、情報セキュリティ対策、サービスの稼働状況、利用者サポート体制、契約終了時のデータの取扱い、事業者の事業継続性についても考慮することが重要であると述べられている。 Q&Aでは、具体的な留意点が記載されている。 (了)
《速報解説》 消費税率10%引上げ先送りの場合 「住宅取得等資金の贈与税非課税特例」の大幅拡充枠は施行されず ~3,000万円非課税枠を見越した贈与計画は見直しに? Profession Journal編集部 消費税率引上げの判断について来月初旬にも安倍首相からアナウンスが行われると一部報道がなされているが、もし10%引上げが先送りとなった場合、現在施行されている税法をさらに改正する必要がある。 このときに気をつけたいのが、すでに消費税率10%引上げを前提として施行されている他制度への影響であり、特に注意すべきなのは今年の10月以降の契約分から非課税枠が大幅拡充される予定の『住宅取得等資金の贈与税の非課税特例』(措法70の2)だ。 この制度は父母や祖父母などの直系尊属から一定の住宅取得等資金を贈与により取得した場合に、非課税限度額までの金額について贈与税が非課税となるもの。 そして非課税限度額については27年度改正により、消費税率10%引上げ時の住宅需要の落ち込みを緩和するため、下表の通り「住宅資金非課税限度額」と「特別住宅資金非課税限度額」の2パターンに分かれた非課税枠設定がなされている。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 上表の通り、今年の10月1日以後契約分から制度がスタートする「特別住宅資金非課税限度額」は、省エネや耐震、バリアフリー等の質の高い住宅を取得等した場合、3,000万円という大幅な非課税枠が設けられている。 ただしこの特別住宅資金非課税限度額は、贈与資金を使って取得等する居住用家屋の対価に含まれる消費税等の税率が10%であることが前提となっており、消費税率10%引上げが先送りとなった場合は上表左の「住宅資金非課税限度額」が適用され非課税枠は良質住宅で1,200万円にとどまる。 昨年度の税制改正からこの3,000万円非課税枠を見越して贈与計画を立てている場合は、1,800万円の課税額増になるリスクが高くなっていることから、計画の見直しを迫られることになろう。 また、今年の9月30日までに契約(H29.4.1以後の譲渡)した場合は、請負工事等に係る消費税の経過措置規定として消費税率8%が適用されるが、こちらの規定も見直しとなるため留意されたい。 なお、予定通り消費税率が平成29年4月1日から10%へ引き上げられることとなった場合でも、10月以降で平成28年中に急ぎ住宅取得等資金の贈与を行うと、この特例の適用要件として、贈与年の翌年3月15日までに居住の用に供している必要があり29年4月以降の引渡しとはならないことから、消費税率8%が適用され「特別住宅資金非課税限度額」は使えない。 そのため、特例の適用を受けるならば、贈与は手付時点で行ってはならず引渡しの直前で実行しなければいけないという鉄則はこれまでと変わっていない。新築大型マンションでは3年後の完成というケースも珍しくないため、非課税枠3,000万円狙いで来年の9月30日までに購入契約をした場合でも、手付金は自らの資金で払い、親からの贈与は3年後に受けるといった手順も欠かせない。 * * * 仮に引上げが先送りされた場合、その要因は景気低迷にあるとして、税制含め新たな景気刺激策が採られる可能性もある。そちらの動向も注視しておきたい。 (了)
2016年5月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.170を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第23回】 「税執行における洒落」 税理士 山本 守之 1 軽減税率における「外食」の定義 消費税の軽減税率の対象品目と税率は次のようになっています。 注意したいのは、飲食料品の範囲から外食は除かれますが、消費税法の別表第一のイ、ロでは外食を次のように定義していることです。 外食の定義は場所と態様の2つの要素で判断します。1つ目の要素は取引の場所ですが、2つ目は「サービスの提供といえるか」という態様で判断します。 そこで「定義」では、「食品衛生法上の飲食店営業その他のその場で飲食させるサービスの提供(「食事の提供」)を行う事業を営む者が、テーブル、椅子その他のその場で飲食させるための設備(「飲食設備」を設置した場所で行う「食事の提供」その他これに類するもの)」と定義しています。 このうち「その他これに類するもの」とは、相手方の注文に応じて指定された場所で調理等を行うこと(「ケータリング・出張料理」)をいいます。 当初の財務省の資料によると、次のように区分されていました。 「外食」の定義 (出所) 財務省資料 しかし、その後、次のように区分しています。 2 テイクアウトと言って店内で飲食したら? 問題は、注文時には「テイクアウト」として料金を軽減税率で支払い、実際には帰らずに店内で飲食した場合はどうなるでしょうか。 税理士による解説書では次のように書かれています。 国会における財務省答弁では、「客の申し出がない限り負担を求めない」としていますが、安倍首相の答弁では「テイクアウトと言って店内で食べる子がいたら注意するのが大人の義務である」としています。 このようなことを国会で質問する方もどうかと思いますが、答える方もどうでしょうか。 財務省の答弁は、テイクアウトで税を払い店内で飲食しても本人が申告しない限りは税の追及はしないとしていますが、安倍首相は「大人として税は正しく払うべきだ」というのです。 「先進国ではどうしているのだろうか」と疑問を持った筆者は、3月に確定申告を早めに済ませると早速パリに行きました。 3 フランスで見た大人の税執行 シャンゼリゼ通りの飲食店で休憩のためにフランスパンとピザを買うと、店員から「テイクアウトか店内飲食か」と聞かれましたが、店内飲食という筆者のフランス語が通じず、商品を紙に包んでくれました。 実は、「店内飲食」の場合はトレーに乗せてくれ、「テイクアウト」の場合は紙に包んでくれるのです。「私たちは歩き疲れているので、椅子とテーブルのある2階で食べますよ」と言うように2階を指さすと、「どうぞ」と言うような態度を示してくれました。2階に移り食べながら周りを見渡すと、トレーで食べている人(10%の外食の税を払った人)が50%、紙包みで食べている人(5.5%の軽減税率しか払っていない人)が50%くらいでした。 かつて日本で悪名高き「取引高税」があった時、税務職員が電柱の陰に隠れて、店から出てくる客に「証書をもらいましたか」と聞いて、もらっていなかった場合は店に踏み込んで「脱税だ!」と摘発したものです。 安倍総理の考え方で税務執行をしたら嫌だなと思っていましたが、フランスでは大人の執行をしていることを確認して安心しました。 カナダでは、ドーナツを「その場で食べるかどうか」を軽減税率適用の指標としています。 例えば、5個以下のドーナツを購入した場合は、「その場ですぐに食べられる」ということで「外食」となり、税率は5%、一方6個以上のドーナツを購入した場合は、テイクアウト用の食料品となりゼロ税率となります。 そこで客Aが3個、客Bが3個買うとして、2人が組みになると6個でゼロ税率となり、片目をつぶってニヤリと対応してくれます。 洒落が通じるので、このような執行(ドーナツクラブ)が通用するのです。 日本では国会の審議で、「8%で買ったハンバーガーを店内で食べた場合」という議論を国会議員と総理がしています。 フランスの標準税率は20%ですが、軽減税率は次のようになっています。 筆者は、椅子に座ってパンとピザを食べたのですが、フランスの税法からみればTVA(日本の消費税)は10%となります。しかし、筆者はテイクアウトとして5.5%の税しか払っていません。それでは「脱税」になるのでしょうか。 税を少なく(5.5%)払っている人も悪びた様子もなく、10%を払っている人もこれを責める様子がなく、自然に楽しんでいます。これが自由の国フランスなのです。 日本では首相が国会答弁で「子どもがテイクアウトと言って店内で食べている子がいたら注意するのは大人の義務です」との答弁は正しいかもしれませんが、社会生活としての正義とは必ずしも言えません。 歩き疲れたから椅子に座って食べただけで罪人のように扱われるのはたまらないのです。 「できるだけ税が少なくなるように」と庶民が知恵を使うのと、資産家が資産税で脱税まがいの「節税」をするのとは次元が異なるのです。 4 日本で軽減税率が導入されたワケ 日本の法人税減税を調べてみると、例えば「研究開発減税」は6,746億円(平成26年度)ですが、企業数で全体の0.1%に満たない資本金100億円超の企業の利用が全体の8割です。 このほか、資本金100億円超の法人は生産性向上設備減税で76%、賃上げ促進減税で46%、と利用が集中しています。 実効税率引き下げとともに政策減税で大企業優遇となっています。 財務省と日本税理士会連合会は軽減税率制度を適用することに反対していましたが、自民党と連立を組む公明党の要求で軽減税率制度が実現しました。 筆者は今回の渡仏でベルシーにある財務省には寄りませんでした。それは、わずか2%、(10%→8%)の軽減税率とした理由(選挙対策)が恥ずかしくて説明できなかったからです。 財務省や日税連が軽減税率を反対としていた理由は、「食料品は高所得者ほど支出額が多く、飲食料品軽減税率を適用しても低所得者対策にならない」というもので、野党の主張と同じでした。 これに対して安倍首相の野党代表者の質問に対する答弁は「軽減税率は、日々の生活において消費税の負担感を直接軽減することで、買い物の都度、痛税感の緩和を実感できる利点があり、この点が特に重要だと判断し(軽減税率の)導入を決定した。年収の低い人の飲食料品等の消費支出の占める割合は高収入の人より高くなっており、逆進性緩和の点からも有効だ。消費者の消費行動にもプラスの影響があると期待できる。」というものです。 何のことはない、野党は「飲食料品の消費の額は高所得者の方が多い」としており、首相答弁では、「低所得者は生活に占める食料品購入の割合が高いから有効だ」というのです。 一方は食料品消費の「額」で主張し、他方は生活費に占める食料品の「割合」で答えている。当然のことを使い分けているだけで、当然のことを言っているのですが、国会の中でなければ討論にならない論理です。 政治家や財務省、日税連の主張は同じですが、庶民の生活実態とは乖離しています。 ◆ ◇ 筆者のコメント ◇ ◆ ここからは「自由職業者」としての筆者のコメントです。 はじめに知っておかなければならないのは、消費税法では物を売ったら税を預かれとは書いていないのです。消費税を預かろうと預かるまいと課税売上に消費税率を掛けた金額を課税するとしています。 パンやピザを買った人がテーブルと椅子のある店内で飲食した場合でも、レジで注文した時に「テイクアウト」とした場合は標準税率に再計算する追跡はしないと財務省が答弁しているのは、執行が困難だからでしょうか。 「執行できない」ものを法律で定める方がおかしいのですが、これが国会で論議されている国もおかしいと思います。 フランスで5.5%(テイクアウト)しか払っていない人が店内で飲食することを許しているのは、自由の国フランスの執行上の洒落です。 10%の税を払って店内飲食している人もいますが、これも自由の国だからです。 日本でも10%(標準税率)払った人に「ありがとう」という気持ちがあればトレーの隅に小さいチョコレートでも置いたらどうでしょうか。これが日本の洒落というものです。 日本の税執行に洒落があれば、私たち税理士の仕事も一層楽しくなります。 (了)