相続税の実務問答 【第6回】 「遺産分割協議のやりなおし」 税理士 梶野 研二 [答] いったん有効に成立した遺産分割協議をやり直して、当初の分割とは異なる内容の分割を行った場合には、相続人間で贈与又は交換等が行われたものとして、贈与税や所得税の課税の問題が生じることがあります。 ご質問の場合には、あなたからお兄様に国債の贈与があったものとして、贈与税が課税されることとなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 遺産分割 相続が開始すると、その瞬間に被相続人に属していた財産は、共同相続人の共有財産となりますが、共同相続人の共有となった個々の財産は、遺産分割の手続きを経ることにより、各共同相続人に個別具体的に帰属することとなり、共有状態が解消することとなります。 遺産分割は、共同相続人全員の協議により行うこととなります。しかしながら、共同相続人間に協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、家庭裁判所における審判や審判手続きに先立つ調停の手続きによることもあります。 2 遺産分割のやり直し 遺産分割が成立し、相続財産の具体的な帰属が確定したものの、その後、共同相続人の一部からの申出により、遺産分割をやり直すことがあります。 遺産分割をやり直したいという話が起こる背景には様々な原因が考えられます。たとえば、①他の相続人から示された遺産分割協議書の内容を十分に確認することなく、軽率に押印してしまったが、後からその内容を読み返してみると自分に不利な内容となっていることに気づいた場合、②分割の対象となった財産の一部の価値が著しく上昇したり、その逆に下落したような場合(駅前の再開発が進み地価が急騰したり、相続した株式の発行会社が倒産した場合など)、③共同相続人の一部の者の生活状況や事業の状態に著しい変動が生じたような場合、④親の面倒をみることを確約した相続人に多くの遺産を取得させたが、その相続人が約束を守らなかった場合などにおいては、遺産分割のやり直しの話が持ち上がることもあるでしょう。 どのような理由であれ、共同相続人全員の合意により、いったん有効に成立した分割協議を白紙に戻し、その内容とは異なる内容の分割をすることは、第三者の利益を害さない限り、私的自治の原則の支配するわが国の民法の下では、否定されるものではありません。 〇平成2年9月27日最高裁第一小法廷判決 (土地所有権移転登記抹消登記手続請求事件・最高裁判所民事判例集44巻6号995頁) 3 遺産分割のやりなおしがあった場合の課税関係 いったん有効に成立した遺産分割の全部又は一部を取り消して、それとは異なった内容の分割をすることは、それ自体を否定されるものではないとしても、それは相続人間における財産権の移転を目的とした新たな法律行為であると考えられます。 そうしますと、遺産分割のやり直しにより新たに取得することとなった財産は、もはや相続を原因として取得するものではなく、当事者の自由な意思に基づく相続以外の原因による財産の取得ということになり、その態様に応じて贈与又は交換等が行われたものとし、贈与税又は所得税(譲渡所得等)の課税関係が生ずることとなります。 このことを直接的に明らかにしたものではありませんが、相続税基本通達では、相続税法第19条の2に規定する配偶者の税額軽減の規定の適用に関して、「当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再分配した場合には、その再分配により取得した財産は、同項(筆者注:相続税法第19条の2第2項)に規定する分割により取得したものとはならないのであるから留意する。」と定め、相続税法の適用において、遺産分割のやり直しにより財産の移転があった場合には、相続とは別の原因による財産の移転として取り扱うことを示しています(相基通19の2-8ただし書き)。 〇平成12年1月26日東京高裁判決 (相続税更正処分取消等、贈与税決定処分取消等請求控訴事件・税務訴訟資料246号205頁) もっとも、上記1で述べたように遺産分割のやり直しの原因や経緯は個々の事例ごとに千差万別であり、共同相続人間の意思に従いその態様に応じた課税を行う以上、当初の遺産分割協議後に生じたやむを得ない事情によって当該遺産分割協議が合意解除された場合などについては、合意解除に至った諸事情から贈与又は交換の有無について総合的に判断する必要があるといえるでしょう(『平成27年版 相続税法基本通達逐条解説』326頁(野原誠編・大蔵財務協会))。 4 質問の場合 ご質問の場合、遺産分割協議が調った後に、お兄様の事業が思わしくなくなり、事業の運転資金にも不自由するようになったことから、その支援しようとの趣旨で、遺産分割協議により取得した国債をお兄様に渡したいというものです。遺産分割のやり直しに至った経緯その他の諸事情を総合的にみても、特段のやむを得ない事情があるとは考えられません。 したがって、名目は遺産分割のやり直しということではあっても、その実態は、質問者に有効に帰属している国債を、共同相続人全員の同意を経て、質問者の新たな意思表示によりお兄様に移転するものであって、もはや相続とは切り離された取引であるといえます。 そうしますと、質問者からお兄様が移転を受ける国債は、お兄様が贈与により取得したものと認められますので、お兄様には贈与税が課されることとなります。 (了)
高額特定資産を取得した場合の 納税義務の免除の特例及び簡易課税制度の特例 【第2回】 「高額特定資産を取得した場合」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 本改正は、高額特定資産に係る特例規定(納税義務の免除の特例及び簡易課税制度の特例)であるが、その資産を取得(購入等)したものか、自ら建設をしたものなのかで取扱いが異なる。以下、2つに区分して解説していく。 今回は「高額特定資産を取得した場合」について確認する。 ① 高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例 事業者(免税事業者を除く)が、簡易課税の適用を受けない課税期間中に高額特定資産の仕入れ等(注1)を行った場合には、高額特定資産の仕入れ等を行った日の属する課税期間の翌課税期間からその仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、納税義務は免除されない。 (注1) 国内における高額特定資産(棚卸資産及び調整対象固定資産のうち、その価額が1,000万円以上のもの)の課税仕入れ又は課税貨物の保税地域からの引取りをいう。 (注2) 上記の課税資産の譲渡等からは、特定資産の譲渡等を除く。 ② 高額特定資産を取得した場合の簡易課税制度選択届出書の提出の制限 簡易課税の適用を受けようとする事業者が、高額特定資産の仕入れ等を行った場合には、その仕入れ等の日の属する課税期間の初日からその初日以後3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間は、簡易課税制度選択届出書を提出することができない。 ③ 留意事項 (イ) 適用開始時期 平成28年4月1日以後に高額特定資産の仕入れ等を行った場合に適用される。 (ロ) 経過措置 平成27年12月31日までに締結した契約に基づき、平成28年4月1日以後に高額特定資産の仕入れ等を行った場合には、上記①及び②の規定は適用されない。 (ハ) 高額特定資産を売却等した場合の取扱い 上記①及び②の規定は、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に高額特定資産の仕入れ等を行った場合に適用されるのであるから、その後に当該高額特定資産を廃棄、売却等により処分したとしても、適用されることに留意する。 (ニ) 高額特定資産の支払対価 資産が高額特定資産に該当するかどうかを判定する場合における課税仕入れに係る支払対価の額とは、当該資産に係る支払対価の額をいい、当該資産の購入のために要する引取運賃、荷役費等又は当該資産を事業の用に供するために必要な課税仕入れに係る支払対価の額は含まれない。 (ホ) 共有に係る高額特定資産 事業者が他の者と共同で購入した資産が高額特定資産に該当するかどうかを判定する場合において、高額特定資産の支払対価の額が1,000万円以上であるかどうかについては、その事業者の共有物に係る持分割合に応じて判定する。 -具体例- 平成28年度の税制改正により、高額特定資産の仕入れ等を行った場合には、その仕入れ等を行った課税期間を含めた3年間は「課税事業者、かつ、原則課税」となる。なお、この期間内で資産を売却しても継続して適用される。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q24】 「外国法人発行の債券の利子に外国源泉税が課される場合の 外国税額控除の適用」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 利子の課税方法による外国税額控除の適用の有無 所得税法上、居住者たる個人が、国外において発行された社債に係る利子で国外において支払われるものを、国内の支払の取扱者を通じて支払を受ける場合は、利子に対して20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率による源泉徴収が日本で行われます(水際源泉徴収)。 源泉徴収の対象となる金額は、特定公社債の場合で利子の支払の際に外国所得税が課される場合は、外国所得税控除後の利子の金額とされます。 個人投資家は、受け取った利子について、以下のいずれかの処理が可能です。 ① 申告不要制度 上記の源泉徴収(20.315%)のみで課税関係を終了することができます。 この場合、利子について課された外国所得税について外国税額控除の適用を受けることはできません。 ② 申告分離課税 特定公社債の利子について申告を行う場合、上場株式等に係る配当所得等として、申告分離課税の対象となります。この場合、利子の金額(外国所得税控除前のグロス金額)に対し20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率が適用されます。 利子について課された外国所得税は、外国税額控除の対象とすることができます。 2 外国税額控除の方法 個人の場合、その年において納付する外国所得税額があるときは、所得税額(配当控除等の税額控除後)から、次の算式によって計算した控除限度額を限度として、控除することができます。 外国税額控除の規定を適用する場合の外国所得税の額は、源泉徴収により納付することとなる利子、配当等に係る外国所得税の場合、その利子、配当等の額の換算に適用する外国為替の売買相場により換算した金額となります(【Q5】参照)。 外国税額控除を受けるためには、確定申告書等に控除を受ける金額及びその計算に関する明細を記載した明細書、外国所得税を課されたことを証する書類及び国外所得総額の計算に関する明細書などを添付する必要があります。 外国税額控除は所得税(国税)だけでなく住民税(地方税)においても規定されており、国税から引ききれない分は地方税から控除されます。 また、外国所得税額がその年の控除限度額(国税及び地方税)を超える場合、または、外国所得税額がその年の控除限度額に満たない場合には、一定の手続要件のもと、過去3年間の繰越控除限度額や繰越外国所得税額を利用することができます。 3 具体的計算 利息金額:100ドル×100=10,000円 外国所得税:10,000×10%=1,000円 国内源泉徴収税額:(10,000-1,000)×20.315%=1,828円 申告分離課税の対象となる利息金額:10,000円 外国税額控除の対象となる金額:1,000円 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第42回】 「債務の保証に関する契約書(連帯保証承諾書)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社はクレジット会社です。この文書は、連帯保証人が購入者の債務を連帯して保証することを、クレジット会社に承諾書として提出するものですが、課税文書に該当しますか。 【事例】 連帯保証人がクレジット会社に対して購入者の債務を購入者と連帯して保証することを承諾する文書であり、第13号文書(債務の保証に関する契約書)に該当する。 [検討1] 債務の保証とは 「債務の保証」とは、主たる債務者がその債務を履行しない場合に保証人がこれを履行することを債権者に対し約することをいう(基通別表1第13号文書1)。したがって、第三者が債務者に対してその債務の保証を行うことを約する場合(保証委託契約書等)は、委任に関する契約書に該当し、課税文書には該当しない(基通別表1第13号文書2)。 また、「債務の保証」に類似したものとして、他人の受けた不測の損害を補てんする損害担保契約がある。この場合、債務保証契約は主たる債務(他人の債務)が存在していることを前提にしているが、損害担保契約は、主たる債務が存在しないため、債務の保証には該当しない(基通別表1第13号文書1)。 [検討2] 主たる債務の契約書に併記した債務の保証に関する契約書 主たる債務の契約書に債務保証契約の成立を併記した場合は、その債務の契約書が課税文書に該当しない場合であっても第13号文書とはならない。 第13号文書に該当する場合は以下のとおり。 (1) 保証契約のみが単独で契約される場合 (2) 主たる債務の契約書に併記した債務の保証契約を変更又は補充する契約書 (3) 契約の申込文書に併記した債務の保証契約書 【主たる債務の契約書に併記した債務の保証に関する契約書の例】 保証人が保証債務を承諾する文書であることから、債務の保証に関する契約書に該当するが、主たる債務である賃料の契約の建物賃貸借契約書に併記されている文書であるため、第13号文書には該当しない。 ▷ まとめ (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔税務面(法人税・消費税)のアドバイス〕 【第5回】 「被災資産の復旧費用・評価損等、災害損失欠損金の取扱い」 公認会計士・税理士 新名 貴則 1 固定資産の復旧費用 ① 資本的支出と修繕費の判定 法人が固定資産の復旧作業を行う場合、これに要した費用を資本的支出として資産計上するのか、修繕費として損金算入するのかを判定する必要がある。このとき、どちらに該当するかは通常、次の通りに判定を行う(法基通7-8-1、7-8-2)。 ② 被災時の特例 災害により被害を受けた固定資産(災害による評価損(法法33②)を計上したものは除く)の復旧を行った場合、その費用に係る資本的支出と修繕費の判定については、次の通りとなる(法基通7-8-6)。 (1) 被災資産の原状回復のために支出した費用は、修繕費に該当する。 (2) 被災資産の被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水又は土砂崩れの防止等のための費用について、法人が修繕費として経理しているときは、これが認められる。 (3) 被災資産について支出した費用(上記(1)又は(2)に該当する費用を除く)の額のうちに、資本的支出か修繕費かが明らかでないものがある場合で、法人がその30%相当額を修繕費とし、残額を資本的支出として経理しているときは、これが認められる。 被災した鉄道線路、電線路、ガス管、水道管、コンベアなどの一部を取り替えたような場合は、被災資産の被災前の効用を維持するものと考えられるため、法人が修繕費として経理したときは、これが認められる(国税庁「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」(以下「災害FAQ」)Q6)。 ただし、被災資産の復旧に代えて新たな資産を取得する場合、その取得のために支出した金額は、資産の取得価額に含めることになる(法基通7-8-6(注)1)。 ③ 被災資産の耐震性を高めるための補強工事 二次災害を避けるなどの目的で、被災資産の耐震性を高めるために補強工事を行う場合は、同規模の地震や余震が今後発生することによる当該資産の崩壊等を防止するなど、被災前の効用を維持するためのものが多いと考えられる。したがって、これに係る費用を法人が修繕費として経理しているときは、これが認められる(法基通7-8-6(2)、「災害FAQ」Q5)。 ただし、上記の取扱いはあくまで被災資産に対して補強工事を行った場合に限られる。被災資産でない固定資産に対して耐震性を高める補強工事を行った場合は、原則として資本的支出に該当する点に注意が必要である。 ④ 製造設備等の修繕費用の原価外処理 被災した製造設備等の修繕費用等について、適正な原価計算に基づいて原価外処理(費用処理)をしている場合は、税務上もこの処理が認められる(「災害FAQ」Q12)。 2 資産の滅失損失等 ① 被災資産の滅失損失又は除却損失 法人が所有する棚卸資産や固定資産が被災して滅失又は損壊した場合、それによる損失は損金に算入される。また、被災により固定資産の一部が滅失又は損壊したことにより、当該資産を除却した場合の除却損も損金に算入される。 ② 有姿除却 固定資産が被災したことにより除却の意思決定を行ったものの、事業年度末時点で実際の除却処理が完了していない場合がある。本来は除却処理が完了して初めて除却損が損金に算入されるが、次のような固定資産については「有姿除却」として、当該資産の帳簿価額からその処分見込価額を控除した金額を除却損として損金に算入できる(法基通7-7-2)。 ▷ 使用を廃止し、今後通常の方法による事業供用の可能性がないと認められるもの ▷ 特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来の使用可能性のほとんどないことが、その後の状況等からみて明らかなもの 3 資産の評価損 法人が所有する棚卸資産や固定資産が災害により著しく損傷し、事業年度末における当該資産の評価額が帳簿価額より下落することとなった場合は、当該下落部分を評価損として損金経理することにより、損金に算入することができる(法法33②、法令68①)。 4 災害損失欠損金 青色申告書を提出していない事業年度における欠損金額のうちに、災害損失欠損金額がある場合は、9年間の繰越控除が認められる(法法58①)。青色欠損金の繰越控除制度と同様、中小法人等以外の法人については、控除限度額が設けられている(法法58①但書)。 災害損失欠損金額の発生事業年度において青色申告書を提出していることは要求されないが、その事業年度から連続して確定申告書(青色申告書である必要はない)を提出している必要がある(法法58⑤)。 災害損失欠損金額とは、震災、風水害、火災、冷害、噴火等の災害によって、棚卸資産、固定資産及び特定の繰延資産について発生した次のような損失をいう(法令114・115・116)。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第23回】 「岩瀬事件」 ~最決平成15年6月13日、東京高判平成11年6月21日(高等裁判所民事判例集52巻26頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第29回】 「課税減免規定の限定解釈」 公認会計士 佐藤 信祐 本稿では、課税減免規定の限定解釈について解説する。ヤフー・IDCF事件最高裁判決では、「(組織再編税制)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるもの」が租税回避に該当すると判示されたため、理解しておくべき内容であると考えられる。 1 課税減免規定の限定解釈 課税減免規定の限定解釈とは、外国税額控除余裕枠を利用することを目的とした住友銀行(現三井住友銀行)、大和銀行(現りそな銀行)及び三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)の3銀行が行った海外取引における否認事例により明らかになった否認手法である。 具体的には、課税減免効果を得るためだけに制度の趣旨から逸脱して濫用的な取引を行った場合には、当該課税減免規定の適用を認めないという否認手法である。当初は、課税減免規定は政策目的に限られると解されていた(※1)。しかし、ヤフー・IDCF事件では政策目的なのかどうかは争われておらず、とりわけIDCF事件で否認された資産調整勘定の償却が政策目的であろうはずがないため、政策目的に限られないと解することも可能かもしれない。 (※1) 清水一夫「課税減免規定の立法趣旨による『限定解釈』論の研究」税大論叢59号299頁 さらに、清水一夫教授は、課税減免規定の限定解釈を適用するための要件として、①本件取引に当該税法規定を適用することが、その立法趣旨を著しく逸脱する結果となることの評価根拠事実、②取引自体に経済的実質が認められないこと、③濫用の意図(租税回避目的以外に、本件取引を行った目的が存しないこと)を挙げられていた(※2)。しかし、ヤフー・IDCF事件は、控訴審はともかくとして、第一審では、経済合理性や事業目的が十分に認められるかどうかについての裁判所の判断がなされていないため、包括的租税回避防止規定だけでなく、課税減免規定の限定解釈についても、清水一夫教授が述べられた要件よりも拡大される可能性もあり得る。 (※2) 清水一夫前掲(※1)314頁 なお、清水教授は、「課税減免規定の『限定解釈』による法的効果は、当該規定の不適用という効果にとどまることになるが、行為計算否認の場合には、課税庁の認めるところにより、納税者の行為を引き直す(私法上、真正に成立している法律関係を別のものに組み替えた上で、租税法を適用する)ことが可能であり、法的効果としても強力である」と述べられていた(※3)。すなわち、IDCF事件に当てはめると、本来であれば適格組織再編になるところを非適格組織再編にすることにより資産調整勘定を認識していることから、包括的租税回避防止規定を適用するのであれば、適格組織再編として資産調整勘定の認識を認めず、課税減免規定の限定解釈を適用するのであれば、非適格組織再編であることを認めながらも、資産調整勘定の損金算入を認めないということになる。ただし、包括的租税回避防止規定も、引き直し計算ではなく、繰越欠損金や資産調整勘定を損金の額に算入することを認めないという適用もあり得るのかもしれない。 (※3) 清水一夫前掲(※1)296頁 そのため、租税回避の研究の中では、課税減免規定の限定解釈の考え方を、同族会社等の行為計算の否認、包括的租税回避防止規定にも適用することができるのかを検討する必要がある。 2 制度の濫用論 今村隆教授は、上述の外国税額控除事件について、 とされている(※4)。すなわち、包括的租税回避防止規定が適用される場合を制度の濫用と捉えていることが分かる。 (※4) 今村隆『租税回避と濫用法理』217頁(大蔵財務協会、平成27年) さらに、ヤフー・IDCF事件の第一審判決が、包括的租税回避防止規定が適用される場合として、(ⅰ)取引が経済不合理な場合だけでなく、(ⅱ)組織再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反する場合も含まれることとした点については、①我が国の組織再編税制の趣旨が株主にとっての投資の継続性だけでなく、移転資産に対する支配の継続性もあること、②法人税法132条の2の立法趣旨を上記(ⅰ)の場合にだけ限定するのでは、あえて立法する意味がないこと、③組織再編成には、欠損金のある法人を売買の対象とするといったような場合を除いて、何かしらの事業目的があることが通常であることを理由として、上記(ⅱ)を含めることは妥当であるとされた(※5)。 (※5) 今村前掲(※4)220頁 しかし、①については、ヤフー事件の控訴審で修正されている(※6)。②については、同族会社等の行為計算の否認が同族会社に限られていることから、意味がないわけではない。③についても、組織再編成全体ではなく、その手続きについても合理性がある場合についてまで否認する論拠にはなり得ない。 (※6) 佐藤信祐「ヤフー事件高裁判決からみる実務上の留意点」旬刊経理情報1404号37-38頁(平成27年) また、今村教授は、 とされている(※7)。すなわち、税制適格要件、みなし共同事業要件の制度趣旨に即して濫用か否かが判断すべきであるという主張と思われるが、この点についての異論はない(※8)。 (※7) 今村前掲(※4)221頁 (※8) 今村教授の説明だと、IDCF事件について、税制適格要件は定義規定なので、趣旨・目的を判断するのは資産調整勘定の規定であるとしているが(今村前掲(※4)222頁)、実務的には同じことである。 なお、今村教授は、同族会社等の行為計算の否認について、経済合理性基準が確立していることから、今さら、濫用基準に変更することには問題があるとされている(※9)。そうであるならば、同族会社等の行為計算の否認には、ヤフー・IDCF事件の射程は及ばないということになる。この点については、異なる考え方もあり得よう。 (※9) 今村前掲(※4)242頁 また、ヤフー・IDCF事件も最高裁判決が公表されているため、いずれこの内容についても検討を行いたい。 3 次回以降の解説 本連載ではここまで、租税回避の定義を明らかにするとともに、どのような場合であれば、包括的租税回避防止規定が適用される可能性が少ないのかという分析を行うことを目的に解説を行ってきた。 学術的な視野から分析するのであれば、【第19回】で宣言した通り、ここで租税回避の定義を検討するところであるが、やはり、個別の事案に当てはめたうえで租税回避の分析をしてからの方が、より実務的な視野からの分析が可能になると思われる。 そのため、次回以降では、拙著『組織再編における包括的租税回避防止規定』(中央経済社、平成21年)の第2章から第8章で解説した内容について、グループ法人税制適用後の観点から、再度、検討を行う予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【97】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その25:「政令委任と租税法律主義②」) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 ② 細田商店(ホソダ)事件 第一審 広島地裁昭和41年10月31日(行集17巻10号1232頁) 控訴審 広島高裁昭和45年6月17日(税務訴訟資料59号1001頁) これも、残念ながら、裁判所ホームページでは公開されていない。そこで事案の概略をここで紹介しながら進めていく。 いくつかの争点がある事案ではあるが、政令委任の限界に関しては、事実上使用人としての給与を支給している名目的役員(ただしその名称は専務取締役・常務取締役である)に対する賞与が、使用人に対するものとして損金に算入しえるかが争われたものである。 前事案で示したように、当時の法人税法施行規則第10条の3第6項第1号によれば、専務取締役、常務取締役に対して支給される賞与は使用人賞与とは認められず損金に算入し得ない旨定めてあった。 (A) 第一審の判断 このように、当該政令の規定内容が委任の限度を逸脱していると判示し、違憲無効としたのであった。 (B) 控訴審の判断 前事案の控訴審と同様、原審判決が規則10条の3第6項4号は租税法律主義に反して適用できないとしたのに対し、この控訴審においても「右規定は、一般に専務取締役や常務取締役は定款等の定めるところにより会社の常務に属する事項につき業務執行の権限を付与された者であることに着目した規定」であり「右両名が前記施行規則や定款が予定しているような専務取締役又は常務取締役に該当するものとは認められない」と、当該規定がすべての場合に租税法律主義に反するとする判断を回避しながらも、納税者の主張を容れ、原審同様に、同規則第10条の3第6項第1号の適用を排除している。 なおこの事案も、この控訴審で確定している。 ③ 日通モータース事件 第一審 横浜地裁昭和44年11月6日(行集17巻10号1232頁) 控訴審 東京高裁昭和46年9月7日(税務訴訟資料63号460頁) この事案の第一審は、裁判所HPで紹介されている。是非、入手の上、ご一読頂きたい。 いくつかの争点がある事案ではあるが、政令委任の限界に関しては、使用人としての職務を常時行う名目的な監査役に対して支給された賞与の損金算入の是非が争われている。 (A) 第一審の判断 これらの事実認定に基づき、以下の判断を示している。 この判決においても、上記事案と同様、政令の規定内容を「法律の委任の範囲を超えるもの」と判示した。 (B) 控訴審の判断 この判決においては、明確に「租税法律主義の原則にかんがみると、法律はその規定自体から委任の目的、内容、程度等が明らかにされている場合にかぎり命令に委任することが許される」ことから、「実質的には法律の規定と異なる結果を招来する定めをするのは、租税法律主義の原則に照らし許されない」と判示し、原審の判断を支持した。 なおこの事案も、この控訴審で確定している。 (続く)
ストック・オプション会計を学ぶ 【第5回】 「権利確定日後の会計処理」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 前回の「権利確定日以前の会計処理」に続き、「ストック・オプション等に関する会計基準」(企業会計基準第8号。以下「ストック・オプション会計基準」という)にしたがって、権利確定日後のストック・オプションの会計処理の概要について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 権利確定日後の会計処理 1 概要 ストック・オプションが権利行使され、これに対して新株を発行した場合には、新株予約権として計上した額(ストック・オプション会計基準4項)のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替える(自己株式を処分する場合には、「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(企業会計基準第1号)にしたがう。ストック・オプション会計基準8項)。 権利行使に関する会計処理を仕訳で示すと次のイメージになる。 2 数値例 「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第11号)の[設例1] 基本設例では、次の数値例をもって会計処理が示されている。 「権利確定日以前の会計処理」(X4年3月期からX6年3月期(権利確定日まで))については、【第4回】で示しているので、今回は、ストック・オプションの行使及び失効に関する会計処理を示す。 (了)
ファーストステップ 管理会計 【第6回】 「ABCの考え方」 ~カレーパンはオーブンの償却費を負担するべきか~ 〔原価管理編⑤〕 公認会計士 石王丸 香菜子 【第5回】では、標準原価計算による製造間接費の管理に限界があることを説明しました。 これを克服するべく考案されたのが、「活動基準原価計算(Activity Based Costing)」です。頭文字を取ってABCと呼ばれます。 ◆食パンとカレーパン、それぞれの言い分 あるベーカリーで、食パンとカレーパンを作っているとします。 ベーカリーでの製造間接費には、オーブンの減価償却費や、揚げ油代などの補助材料費、その他さまざまな費用が含まれています。これらをひとまとめにして、作業時間など1つの配賦基準を用いて、半ば強引に、食パンとカレーパンに配賦しているのが、従来の原価計算です。 ここで食パンとカレーパンの気持ちになってみると、どう思うでしょうか。 食パンとしては「自分は揚げられていないのに、油代を負担するのはおかしい!」と思うでしょうし、カレーパンとしても「自分は焼かれていないのだから、オーブンの減価償却費は負担したくない!」と主張しそうですね。 ◆従来の原価計算の考え方 【第3回】で解説したように、従来の原価計算では、種々雑多な製造間接費を1つにまとめ、配賦基準を用いて製品に配賦します。概ね以下のような構造です(単純化のため、部門別計算を省略しています)。 部門別計算を行えば部門ごとの配賦基準を用いるものの、本質的には、“費用のるつぼ”である製造間接費をまとめて、1つの配賦基準で製品に配賦することに変わりありません。 ◆ABCの考え方 これに対して、製造間接費をひとまとめにせずに、個々の費用を、それぞれの性質に応じた基準を用いて細かく集計するのがABCの考え方です。 前提として、製品を製造するためにどのような活動(activity)があるのかを把握します。例えば、「開発」・「設計」・「調達」・「製造」・「検査」などです。 そして、個々の費用(resource)を、その性質に応じた基準を用いて、それぞれの活動に集計します。例えば、機械の減価償却費ならば、開発・製造・検査などそれぞれの活動のために稼働した時間を基準として、各活動に集計します。 次に、各活動に集計した費用を、その性質に応じた基準を用いて、各製品(cost object)に集計します。例えば、「開発」という活動にかかった費用ならば、各製品の開発に要した時間を基準として、各製品に集計するのです。 独特の言い回しが難しく感じられますが、各製品が利用した費用を正確に負担するよう、なるべく細かく集計するということが、ABCの発想です。 ◆食パンとカレーパンの例で考える あるベーカリーでは、定番の食パンと、月替わりする季節のカレーパンを製造しています。ある月の製造間接費に関するデータは以下のようでした。 従来の原価計算の考え方で、直接作業時間を配賦基準として、製造間接費を食パンとカレーパンに配賦するとします。 ◆ABCで計算する 次に、ABCで計算してみましょう。 ベーカリーでの活動は、開発・調達・仕込み・焼成(しょうせい)・仕上げの5つとします。 製造間接費を各活動に集計した結果と、食パンとカレーパンの各活動の利用度合い(すなわち、食パンとカレーパンへの集計基準)は、以下の通りでした。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 月替わりカレーパンは、開発や調達に手間がかかり、油で揚げるので仕上げ回数も多いのが特徴です。食パンはシンプルな定番商品なので、開発や調達には手間がかかりませんが、仕込みや焼成に時間がかかります。 例えば、「開発」という活動にかかった費用は、 と集計できます。 他の活動についても同様に集計すると、以下のようになります。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ◆違いはなぜ生じたのか 従来の原価計算によれば、食パンとカレーパンの1個当たり製造間接費はいずれも100円でしたが、ABCによれば、カレーパンのほうが高くなっていますね。 カレーパンは、オーブンこそ利用しないものの、開発や調達・仕上げのための手間が多くかかることが、ABCによる計算に表れています。従来の原価計算では、製造間接費をすべてまとめて、直接作業時間という1つの基準で配賦していたために、この点が明確にならなかったといえます。 このように、伝統的な原価計算では、標準的な大量生産品が、手間のかかる少量生産品の原価の一部を肩代わりするような計算結果になります。これに対してABCでは、各製品が利用した原価を正確に負担することになります。 ◆ABCを利用してコストを管理する ABCの考え方に基づいて、各活動に集計された間接費の情報をもとに間接費を管理するのがABM(Activity Based Management)です。 標準原価計算による定型的な差異分析よりも、費用がどのような活動によりなぜ発生したのかという点に着目した、実効性ある管理を行うことができます。 例えば、「調達」という活動にかかった費用が多かった場合には、発注回数を減らしたり、物流を見直して配送コストを抑えたりするといった行動をとることができます。 ◆ABCは万能なのか このように、ABCは、合理的で正確な計算ができ、また、サービス業にも応用できる手法です。そのため、少し前まではABCがもてはやされていました。 しかし、ABCを継続利用する企業は、実は多数派ではありません。 これには、次のような理由が考えられます。 ◆データの収集に手間がかかる まず、ABCのためのデータを収集すること自体に、多大な手間がかかります。ベーカリーの例では、開発時間や発注回数などを把握する必要があります。 こうしたデータの収集は、現場で作業する人にとって大きな負担になります。現場の協力が得られないと、精度の低いデータしか集まりません。計算方法が緻密でも、そもそものデータが誤っていれば、精度の低い結果しか得られないのです。 このような面を考えると、ABCを継続利用するのはハードルが高いといえます。「製造間接費の管理」という面だけならば、単発的にABMを行えば足りるということも多いようです。 ◆合理的な計算がすべてではない また、「合理的な計算が最良であるとは限らない」という理由も挙げられます。 ベーカリーの例では、ABCによると、カレーパンの原価が多く計算されました。だからと言って、カレーパンの製造をやめるのがよいでしょうか。いろいろな商品を取りそろえているからこそ、お客が集まるという面もありますね。 つまり、現実には、儲かる製品や、あまり儲からないけれども集客効果がある製品などがあり、それぞれが助け合って、全体として総費用を回収していることも多いでしょう。 ABCの計算は確かに合理的ですが、合理的な計算がすべて、とは言いきれないのです。 ◆適度なバランスで、自社に合った原価管理を これまで、原価管理について、伝統的方法やABCを解説してきましたが、どの方法にも長所と短所があり、すべての企業に当てはまる唯一の方法はありません。 いろいろな考え方の基礎を理解したうえで、バランス感覚を持って、自社に合った管理を行うことが大切です。 * * * * 次回からは〔利益管理編〕として、原価管理よりもひとつ上の視点から、企業の利益管理について考えていきましょう。 (了)