《速報解説》 消費税率10%引上げ先送りの場合 「住宅取得等資金の贈与税非課税特例」の大幅拡充枠は施行されず ~3,000万円非課税枠を見越した贈与計画は見直しに? Profession Journal編集部 消費税率引上げの判断について来月初旬にも安倍首相からアナウンスが行われると一部報道がなされているが、もし10%引上げが先送りとなった場合、現在施行されている税法をさらに改正する必要がある。 このときに気をつけたいのが、すでに消費税率10%引上げを前提として施行されている他制度への影響であり、特に注意すべきなのは今年の10月以降の契約分から非課税枠が大幅拡充される予定の『住宅取得等資金の贈与税の非課税特例』(措法70の2)だ。 この制度は父母や祖父母などの直系尊属から一定の住宅取得等資金を贈与により取得した場合に、非課税限度額までの金額について贈与税が非課税となるもの。 そして非課税限度額については27年度改正により、消費税率10%引上げ時の住宅需要の落ち込みを緩和するため、下表の通り「住宅資金非課税限度額」と「特別住宅資金非課税限度額」の2パターンに分かれた非課税枠設定がなされている。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 上表の通り、今年の10月1日以後契約分から制度がスタートする「特別住宅資金非課税限度額」は、省エネや耐震、バリアフリー等の質の高い住宅を取得等した場合、3,000万円という大幅な非課税枠が設けられている。 ただしこの特別住宅資金非課税限度額は、贈与資金を使って取得等する居住用家屋の対価に含まれる消費税等の税率が10%であることが前提となっており、消費税率10%引上げが先送りとなった場合は上表左の「住宅資金非課税限度額」が適用され非課税枠は良質住宅で1,200万円にとどまる。 昨年度の税制改正からこの3,000万円非課税枠を見越して贈与計画を立てている場合は、1,800万円の課税額増になるリスクが高くなっていることから、計画の見直しを迫られることになろう。 また、今年の9月30日までに契約(H29.4.1以後の譲渡)した場合は、請負工事等に係る消費税の経過措置規定として消費税率8%が適用されるが、こちらの規定も見直しとなるため留意されたい。 なお、予定通り消費税率が平成29年4月1日から10%へ引き上げられることとなった場合でも、10月以降で平成28年中に急ぎ住宅取得等資金の贈与を行うと、この特例の適用要件として、贈与年の翌年3月15日までに居住の用に供している必要があり29年4月以降の引渡しとはならないことから、消費税率8%が適用され「特別住宅資金非課税限度額」は使えない。 そのため、特例の適用を受けるならば、贈与は手付時点で行ってはならず引渡しの直前で実行しなければいけないという鉄則はこれまでと変わっていない。新築大型マンションでは3年後の完成というケースも珍しくないため、非課税枠3,000万円狙いで来年の9月30日までに購入契約をした場合でも、手付金は自らの資金で払い、親からの贈与は3年後に受けるといった手順も欠かせない。 * * * 仮に引上げが先送りされた場合、その要因は景気低迷にあるとして、税制含め新たな景気刺激策が採られる可能性もある。そちらの動向も注視しておきたい。 (了)
2016年5月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.170を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第23回】 「税執行における洒落」 税理士 山本 守之 1 軽減税率における「外食」の定義 消費税の軽減税率の対象品目と税率は次のようになっています。 注意したいのは、飲食料品の範囲から外食は除かれますが、消費税法の別表第一のイ、ロでは外食を次のように定義していることです。 外食の定義は場所と態様の2つの要素で判断します。1つ目の要素は取引の場所ですが、2つ目は「サービスの提供といえるか」という態様で判断します。 そこで「定義」では、「食品衛生法上の飲食店営業その他のその場で飲食させるサービスの提供(「食事の提供」)を行う事業を営む者が、テーブル、椅子その他のその場で飲食させるための設備(「飲食設備」を設置した場所で行う「食事の提供」その他これに類するもの)」と定義しています。 このうち「その他これに類するもの」とは、相手方の注文に応じて指定された場所で調理等を行うこと(「ケータリング・出張料理」)をいいます。 当初の財務省の資料によると、次のように区分されていました。 「外食」の定義 (出所) 財務省資料 しかし、その後、次のように区分しています。 2 テイクアウトと言って店内で飲食したら? 問題は、注文時には「テイクアウト」として料金を軽減税率で支払い、実際には帰らずに店内で飲食した場合はどうなるでしょうか。 税理士による解説書では次のように書かれています。 国会における財務省答弁では、「客の申し出がない限り負担を求めない」としていますが、安倍首相の答弁では「テイクアウトと言って店内で食べる子がいたら注意するのが大人の義務である」としています。 このようなことを国会で質問する方もどうかと思いますが、答える方もどうでしょうか。 財務省の答弁は、テイクアウトで税を払い店内で飲食しても本人が申告しない限りは税の追及はしないとしていますが、安倍首相は「大人として税は正しく払うべきだ」というのです。 「先進国ではどうしているのだろうか」と疑問を持った筆者は、3月に確定申告を早めに済ませると早速パリに行きました。 3 フランスで見た大人の税執行 シャンゼリゼ通りの飲食店で休憩のためにフランスパンとピザを買うと、店員から「テイクアウトか店内飲食か」と聞かれましたが、店内飲食という筆者のフランス語が通じず、商品を紙に包んでくれました。 実は、「店内飲食」の場合はトレーに乗せてくれ、「テイクアウト」の場合は紙に包んでくれるのです。「私たちは歩き疲れているので、椅子とテーブルのある2階で食べますよ」と言うように2階を指さすと、「どうぞ」と言うような態度を示してくれました。2階に移り食べながら周りを見渡すと、トレーで食べている人(10%の外食の税を払った人)が50%、紙包みで食べている人(5.5%の軽減税率しか払っていない人)が50%くらいでした。 かつて日本で悪名高き「取引高税」があった時、税務職員が電柱の陰に隠れて、店から出てくる客に「証書をもらいましたか」と聞いて、もらっていなかった場合は店に踏み込んで「脱税だ!」と摘発したものです。 安倍総理の考え方で税務執行をしたら嫌だなと思っていましたが、フランスでは大人の執行をしていることを確認して安心しました。 カナダでは、ドーナツを「その場で食べるかどうか」を軽減税率適用の指標としています。 例えば、5個以下のドーナツを購入した場合は、「その場ですぐに食べられる」ということで「外食」となり、税率は5%、一方6個以上のドーナツを購入した場合は、テイクアウト用の食料品となりゼロ税率となります。 そこで客Aが3個、客Bが3個買うとして、2人が組みになると6個でゼロ税率となり、片目をつぶってニヤリと対応してくれます。 洒落が通じるので、このような執行(ドーナツクラブ)が通用するのです。 日本では国会の審議で、「8%で買ったハンバーガーを店内で食べた場合」という議論を国会議員と総理がしています。 フランスの標準税率は20%ですが、軽減税率は次のようになっています。 筆者は、椅子に座ってパンとピザを食べたのですが、フランスの税法からみればTVA(日本の消費税)は10%となります。しかし、筆者はテイクアウトとして5.5%の税しか払っていません。それでは「脱税」になるのでしょうか。 税を少なく(5.5%)払っている人も悪びた様子もなく、10%を払っている人もこれを責める様子がなく、自然に楽しんでいます。これが自由の国フランスなのです。 日本では首相が国会答弁で「子どもがテイクアウトと言って店内で食べている子がいたら注意するのは大人の義務です」との答弁は正しいかもしれませんが、社会生活としての正義とは必ずしも言えません。 歩き疲れたから椅子に座って食べただけで罪人のように扱われるのはたまらないのです。 「できるだけ税が少なくなるように」と庶民が知恵を使うのと、資産家が資産税で脱税まがいの「節税」をするのとは次元が異なるのです。 4 日本で軽減税率が導入されたワケ 日本の法人税減税を調べてみると、例えば「研究開発減税」は6,746億円(平成26年度)ですが、企業数で全体の0.1%に満たない資本金100億円超の企業の利用が全体の8割です。 このほか、資本金100億円超の法人は生産性向上設備減税で76%、賃上げ促進減税で46%、と利用が集中しています。 実効税率引き下げとともに政策減税で大企業優遇となっています。 財務省と日本税理士会連合会は軽減税率制度を適用することに反対していましたが、自民党と連立を組む公明党の要求で軽減税率制度が実現しました。 筆者は今回の渡仏でベルシーにある財務省には寄りませんでした。それは、わずか2%、(10%→8%)の軽減税率とした理由(選挙対策)が恥ずかしくて説明できなかったからです。 財務省や日税連が軽減税率を反対としていた理由は、「食料品は高所得者ほど支出額が多く、飲食料品軽減税率を適用しても低所得者対策にならない」というもので、野党の主張と同じでした。 これに対して安倍首相の野党代表者の質問に対する答弁は「軽減税率は、日々の生活において消費税の負担感を直接軽減することで、買い物の都度、痛税感の緩和を実感できる利点があり、この点が特に重要だと判断し(軽減税率の)導入を決定した。年収の低い人の飲食料品等の消費支出の占める割合は高収入の人より高くなっており、逆進性緩和の点からも有効だ。消費者の消費行動にもプラスの影響があると期待できる。」というものです。 何のことはない、野党は「飲食料品の消費の額は高所得者の方が多い」としており、首相答弁では、「低所得者は生活に占める食料品購入の割合が高いから有効だ」というのです。 一方は食料品消費の「額」で主張し、他方は生活費に占める食料品の「割合」で答えている。当然のことを使い分けているだけで、当然のことを言っているのですが、国会の中でなければ討論にならない論理です。 政治家や財務省、日税連の主張は同じですが、庶民の生活実態とは乖離しています。 ◆ ◇ 筆者のコメント ◇ ◆ ここからは「自由職業者」としての筆者のコメントです。 はじめに知っておかなければならないのは、消費税法では物を売ったら税を預かれとは書いていないのです。消費税を預かろうと預かるまいと課税売上に消費税率を掛けた金額を課税するとしています。 パンやピザを買った人がテーブルと椅子のある店内で飲食した場合でも、レジで注文した時に「テイクアウト」とした場合は標準税率に再計算する追跡はしないと財務省が答弁しているのは、執行が困難だからでしょうか。 「執行できない」ものを法律で定める方がおかしいのですが、これが国会で論議されている国もおかしいと思います。 フランスで5.5%(テイクアウト)しか払っていない人が店内で飲食することを許しているのは、自由の国フランスの執行上の洒落です。 10%の税を払って店内飲食している人もいますが、これも自由の国だからです。 日本でも10%(標準税率)払った人に「ありがとう」という気持ちがあればトレーの隅に小さいチョコレートでも置いたらどうでしょうか。これが日本の洒落というものです。 日本の税執行に洒落があれば、私たち税理士の仕事も一層楽しくなります。 (了)
「少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例」 平成28年度改正のポイント 【第1回】 「改正概要と適用上の留意点」 税理士 伊村 政代 1 概要 少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の規定(措法67の5)は平成15年度税制改正における創設以来、適用期限が延長されてきた制度であり、平成28年度税制改正においても平成30年3月31日まで2年間延長されている。 ただし今回の改正では、次のように従業員数による適用対象法人の見直しが行われている。 2 平成28年度税制改正について 今回の改正において、下記の通り租税特別措置法67条の5第1項の適用対象を規定した箇所に「事務負担に配慮する必要があるものとして政令に定めるものに限る」という一文が加えられた(下線が改正部分)。 これは、マイナンバー制度の導入や消費税率変更等により事務負担の増える中小企業を支援するため、適用対象者を見直した上での期限の延長と解釈されている。 この「事務負担に配慮する必要があるものとして政令に定めるもの」については、改正租税特別措置法施行令39条の28第1項において「常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人とする」と規定された。 つまり、改正前に適用対象とされていた中小企業者のうち、従業員の数が1,000人を超える法人は、適用対象からすべて除外されることとなった。 なおこの改正は、平成28年4月1日以後に取得又は製作若しくは建設をする少額減価償却資産について適用され、同日前に取得又は製作若しくは建設をした少額減価償却資産については、従来どおりの制度が適用される(改正法附則101条)。 このように、対象法人の見直しにより今後適用除外となる法人があるため、留意されたい。 なお、上記改正事項の取扱いについては、次回(6/2公開)確認することとする。 3 制度の内容 次に、この制度の適用上の留意点について、あらためて確認しておきたい。 この制度は青色申告法人である中小企業者等が、1組又は1個の取得価額が30万円未満である減価償却資産を取得した場合に、取得価額相当額を即時償却できる制度である。 通常の減価償却資産であれば取得価額相当額を耐用年数により按分し、徐々に事業年度を通して損金としていくが、この制度を適用することで下図のように初年度の即時償却となるため、利益の出ている事業年度に適用を受けることにより、その利益を圧縮する効果がある。 〈例〉 取得価額25万円、法定耐用年数5年のケース 4 適用資産を複数取得した場合 この制度には適用資産の合計額が年300万円以下とする上限額が設けられており、300万円を超えるときはその総額が300万円に達するまでの取得価額の合計額となる。 〈例〉 28万円の資産が12個(28万円×12個=336万円)の場合 5 他規定との組み合わせの検討 上記の通り、この30万円未満の少額減価償却資産の特例は上限額(年300万円)があるため、合計金額が300万円を超えているときは適用を受けることができない資産が生ずることとなる。 よって、取得価額が20万円未満の資産があるときは一括償却との組み合わせも考慮し、効果的な償却方法を選択することとなる。 なお、取得価額が10万円未満のものについては、法人税法上の「少額の減価償却資産」に該当し、その規定の方が優先されるため、結果的に「少額減価償却資産の特例」は適用されない。 ■少額な減価償却資産に適用される制度 (※) 一括償却は、取得価額が20万円未満の資産を3年で1/3ずつ損金とすることができる規定である(法令133の2)。 (出典) 小谷羊太『三訂版 実務で使う法人税の減価償却と耐用年数表』(清文社) (了)
企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)の制度解説 【第2回】 「対象となる寄附・寄附先等の要件」 辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健 今回は本制度を適用するための要件について確認していく。本制度は、各地方公共団体において地域再生計画を策定の上、内閣総理大臣の認定を受け、その上で、企業に寄附を募り、各企業がこれに応じ寄附を実施することで各企業において所定の税額控除を受けることができる。 1 対象法人 青色申告書を提出する法人であること。 2 対象となる寄附先 (1) 認定地方公共団体 地域再生法第8条第1項に規定する認定地方公共団体に対する一定の寄附であること。地域再生制度とは、地域経済の活性化、地域における雇用機会の創出その他の地域の活力の再生を総合的かつ効果的に推進するため、地域が行う自主的かつ自立的な取組みを国が支援するものである。 地域再生法に基づく認定制度は、地域が行う地域再生のための自主的・自立的な取組を総合的かつ効果的に支援するため、地方公共団体が作成しその認定を申請する地域再生計画について内閣総理大臣が認定し、国は認定を受けた地域再生計画に基づく事業に対し特別な措置を講じるものである。この内閣総理大臣の認定を受けた地方公共団体を「認定地方公共団体」という。 ただし、寄附を受ける地方公共団体が次に掲げる場合には、本制度の対象とはならないことに注意が必要である。 ① 都道府県 後述する「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」を行おうとする年度の前年度において、普通交付税の交付を受けていないこと。 ② 市町村 次のいずれにも該当すること。 具体的には、次に掲げる地方公共団体が本制度の対象外となる(「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)活用の手引き(平成28年4月)」内閣府地方創生推進事務局、P7)。 (2) 認定地方公共団体からの経済的利益供与の禁止 なお、認定地方公共団体は、まち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関連する寄附を行う法人に対し、寄附を行うことの代償として経済的な利益を供与してはならないとされる。 例えば、以下の行為を行ってはならないとされる(「地域再生計画認定申請マニュアル(抜粋版)〈地方創生応援税制関係〉(平成28年4月)」内閣府地方創生推進事務局、P4)。 3 対象となる寄附(特定寄附金) 本制度の対象となる「特定寄附金」とは、認定地方公共団体に対して当該認定地方公共団体が行ったまち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関連する寄附金をいう。 ただし、寄附をした者がその寄附によって設けられた設備を専属的に利用することその他特別の利益がその寄附をした者に及ぶと認められるものは除かれる。 「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」とは、認定地方公共団体の作成した認定地域再生計画に記載されているものをいう。 具体的には、次に掲げる要件をすべて満たした事業である。 本制度で想定される事業としては、例えば、次に掲げるようなものがある。 また、法人からの寄附については、次に掲げる要件を満たす必要がある。 寄附の払込みについては、地方公共団体がまち・ひと・しごと創生寄附活用事業を実施し、事業費が確定した後に行うこととなる。また、本制度の対象となる寄附は、確定した事業費の範囲内までとなる。 4 適用事業年度 特定寄附金を支出した日(平成28年4月20日~平成32年3月31日に支出したもの)を含む事業年度において税額控除が適用される。ただし、解散(合併による解散を除く)の日を含む事業年度と清算中の各事業年度は除かれる。 〈地方創生応援税制のフロー図〉 (※) 「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)活用の手引き(平成28年4月)」内閣府地方創生推進事務局、P4より (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第4回】 「別表6(21) 雇用者給与等支給額が増加した場合の 法人税額の特別控除に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、複数の書き方パターンがある様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 今回は、最近創設された制度での中で比較的適用できるケースが多いにもかかわらず、書籍等での掲載頻度が少ない「別表6(21) 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、青色申告書を提出する法人が租税特別措置法第42条の12の4第1項の規定(いわゆる「所得拡大促進税制」)の適用を受ける場合に作成する。 これは、平成25年4月1日から平成30年3月31日までに開始する事業年度において、以下の(イ)、(ロ)及び(ハ)の要件をすべて満たした場合、国内雇用者(注1)に対する給与等支給増加額について、その支給増加額の10%の税額控除ができる(当期の法人税額の10%、中小企業者等は20%が上限)制度である。 (イ) 給与等支給額(注2)が基準事業年度(注3)の給与等支給額と比較して次に掲げる事業年度の区分に応じた割合以上増加していること。 (※1) 中小企業者とは、資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人でその発行済株式又は出資の総数又は総額の一定割合以上を大規模法人に所有されていない法人及び資本又は出資を有しない法人で常時使用する従業員の数が1,000 人以下の法人をいう。 (ロ) 給与等支給額が前事業年度の給与等支給額を下回らないこと。 (ハ) 平均給与等支給額(注4)が前事業年度の平均給与等支給額を超えていること。 なお本別表の所得拡大促進税制と似たものに、雇用促進税制(「別表6(18) 雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」)がある。雇用促進税制は厚生労働省が所管であるが、所得拡大促進税制は経済産業省が所管であり、それぞれ異なる制度となっている。これらの制度はである。 Ⅲ 「別表6(21)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成27年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 [基準雇用者給与等支給額の計算]欄 [比較雇用者給与等支給額の計算]欄 [平均給与等支給額及び比較平均給与等支給額の計算]欄 〔22欄〕から〔27欄〕までの各欄は、「適用年度」の①欄、「前事業年度又は前連結事業年度」の②欄にそれぞれ分けて記入していく。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例38(財産評価)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆旗竿地 袋地から延びる細い敷地で道路(公道)に接するような土地をいい、その形が竿のついた旗に似ていることから旗竿地と呼ばれる。 ◆無道路地の評価(財産評価基本通達20-2) 無道路地とは、道路(注1)に接しない宅地又は接道義務(注2)を満たしていない宅地をいう。無道路地は、道路に面している画地に比べるとその利用価値が低いため、道路に面した画地の価額である路線価を補正してその価額を評価する。 具体的には、無道路地を不整形地として評価した価額から、接道義務に基づき最小限度の通路を設けた場合の通路開設費を控除して評価する。したがって、無道路地の評価額は通常の不整形地の評価額より低くなる。 (注1) 建築基準法における道路とは、原則として「幅員4m(特定行政庁指定区域内においては6m)以上の一定のもの」をいう(建築基準法第42条第1項)。 (注2) 建築基準法においては、原則として「建築物の敷地は、道路に2m以上接していなければならない。」と定められている(建築基準法第43条)。 接道義務は、地方公共団体が条例により、必要な制限を付加することができることとなっている。 (了)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第15回】 「不当の解釈」 公認会計士 佐藤 信祐 前回は、不動産関連で否認された事案として、東京地裁平成元年4月17日判決、福岡地裁平成4年2月20日判決、福岡高裁平成11年11月19日判決についてそれぞれ解説を行った。 本稿では、不当の解釈として、非同族対比説によるのか、合理的基準説によるのかが、第一審と控訴審、上告審でそれぞれ判断が分かれた事件である明治物産株式会社事件について解説を行う。 10 不当の解釈(最高裁昭和33年5月29日判決・TAINSコード:Z026-0618) (1) 第一審(東京地裁昭和26年4月23日判決・TAINSコード:Z010-0068) (2) 控訴審(東京高裁昭和26年12月20日判決・TAINSコード:Z011-0103) (3) 裁判所の判断 (4) 評釈 本事件は、同族会社が合併の前に行った株式の買取りが、清算所得税逋脱の目的があることを理由として、買取代金を合併交付金とみなして同族会社等の行為計算の否認を行った事件である。現在とは、法体系が大きく異なることから、現在の組織再編税制からは想像し難い事件である。また、本事件では、第一審から上告審まで納税者が勝訴しており、やや国側の主張に無理があるようにも思われる。 本事件では、「逋脱の目的」という文言が散見されるが、本事件が昭和20年の課税所得に対する事件であり、昭和25年税制改正前であったことを考えると、当時の同族会社等の行為計算の否認の規定ならではの内容であると思われる。もし、同一の事件が昭和25年税制改正後であれば、「逋脱の目的」という文言はこれほどまでに散見はされなかったであろう。 さらに、第一審では、非同族対比説を採用し、控訴審、上告審では経済合理的基準説を採用しているというのも本事件の特徴である。いずれ、本連載でも明らかにするが、ヤフー・IDCF事件までは経済合理的基準説を採用する租税法学者がほとんどであり、本稿校了段階でもその傾向はあまり変わっていないように思われる。 本事件そのものは、同族会社等の行為計算の否認に対する裁判所の考え方を知るうえで重要なのかもしれないが、最高裁判決にあるように、「右規定の施行前の案である本件についてはかかる課税はなし得ない」というのは当然であり、納税者が勝訴すべくして勝訴した事件であるということができる。 これに対し、上告理由として上告人たる芝税務署長が行った主張を見てみると、 といった主張がなされており、「逋脱の目的」を「制度の濫用」と置き換えれば、ヤフー・IDCF事件で新たに生じた租税回避の概念に近くなっていく。 また、斉木秀憲「組織再編成に係る行為計算否認規定の適用について」税大論叢73号31頁において「純経済人を前提とすれば、『租税回避以外にまったく正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合』は、むしろ稀であり、通常は少なくともその行為又は計算には事業目的がないとはいえないこととなる。」と主張されているが、本事件の上告理由に記載されている「強いていえば概して会社の行為は合理的経済行為であるといいうる」という主張と極めて類似している。 ヤフー・IDCF事件では唐突に租税回避の定義が変わっていたが、本来であれば、より慎重な検討が必要になるように思われる。 なお、本稿では解説を行わなかったが、矢内一好著『一般否認規定と租税回避判例の各国比較』(財経詳報社、平成27年)124-125頁では、非同族対比説の判例として、東京高裁昭和40年5月12日判決、合理的基準説の判例として、東京高裁昭和48年3月14日判決、東京高裁昭和49年10月29日判決、福岡高裁宮崎支部昭和55年9月29日判決が列挙されているため、興味のある読者は、それぞれの判決を一読されたい。 次回では、最高裁昭和53年4月21日判決について解説を行う予定である。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第14回】 「ホステス報酬源泉徴収事件」 ~最判平成22年3月2日(民集64巻2号420頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第28回】 「見積書等に基づく注文書」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は飲食業者です。店舗の新築工事を依頼するにあたり、注文書を建築施工業者へ提出しようと思いますが、工事注文書の場合であっても印紙税の課税文書に該当する場合があると聞きました。事例の場合はどうなりますか。 【事例1】 【事例2】 【事例3】 【事例1】及び【事例3】は第2号文書(請負に関する契約書)に該当する。 【事例2】は印紙税法上の契約書に該当せず、課税文書には該当しない。 [検討] 注文書は課税文書に該当するか 一般的に注文書、申込書などは、契約の申込みの事実を証明する目的で作成されるものであり、契約書には該当しないが、申込書等と表示された文書であっても契約の成立を証明する目的で作成されるものは、標題にかかわらず原則として印紙税法上の契約書に該当する。 【事例1】は、相手方当事者の作成した見積書に基づく申込みであることが記載されており、契約の成立を証明する目的で作成されたものと認められるため、印紙税法上の契約書に該当する。 【事例2】は、見積書に基づく申込みであることが記載されているが、別途、請書等の契約の成立を証明する文書を作成することが記載されているため、契約の成立を証明する目的で作成された文書には該当しない。したがって印紙税法上の契約書には当たらない。 【事例3】は、契約当事者間の署名押印があるため、申込みとは異なり、契約の成立を証明する目的で作成された文書と認められるため、印紙税法上の契約書に該当する。 ▷ まとめ (了)