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日本の企業税制 【第20回】「BEPS行動8:価格付けが困難な無形資産」

日本の企業税制 【第20回】 「BEPS行動8:価格付けが困難な無形資産」   一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久     1 はじめに OECD租税委員会は、6月4日、移転価格ガイドライン改定作業の中で残されていた重要な課題である「BEPS行動8:価格付けが困難な無形資産」に関する公開討議草案を公表した。 公開討議草案は、価格付けが困難な無形資産に係るアプローチを開発するとの行動8の要請に対応し、OECD移転価格ガイドライン第6章D.3の改訂を提案するものであり、わが国の移転価格課税にも重要な影響をもたらすものとなる。 そこで、本稿では、公開討議草案の概要と、その問題点を整理しておきたい。   2 公開討議草案の概要 公開討議草案は、関連者間での一定の無形資産の譲渡(無形資産に係る権利の譲渡を含む)については譲渡時の価格設定が信頼できない、すなわち、比較対象取引がなく、価格付けの基礎となるprojectionその他の情報が納税者の説明に拠らざるを得ず、当局と納税者の間で情報の非対称が顕著であるため、独立企業間であればそのような譲渡については事後的な価格調整メカニズムや契約再交渉メカニズムを講じることもあるとの想定のもと、一定の要件に合致する場合は、譲渡後の結果に基づき、当局による調整メカニズムの発動を許容する。 調整メカニズムの対象となるHTVI(Hard-to-value intangibles)とは、譲渡時に信頼できる比較対象取引がなく、信頼できるprojectionが欠如し又は想定が高度に不確かな無形資産をカバーするものとされ、その具体的な特徴として、以下のような点が示されている。 このような無形資産については、納税者と課税当局の間の情報の非対称が顕著であり、情報の非対称は、価格付けが拠って立つ独立企業の基礎を課税当局が立証する際に直面する困難を悪化させるかもしれない。 結果として、課税当局は、移転後の年度において事後の結果が明らかになるまでは、移転価格目的でリスク評価を行うこと、納税者が価格付けの基礎とした情報の信頼性を評価すること、無形資産が独立企業間と比べ過少又は過大な価格で移転されたかどうかを考慮することが困難である。 このような状況において、課税当局は、移転に係る実際の財務上の結果についての事後の証拠を、事前の価格設定の適切さを決定する際に必要なものと考えるかもしれない。しかしながら、事後の証拠の考慮は、事前の価格付けが基礎とした情報の信頼性を評価するための他の情報がない場合において(そしてない限りにおいて)、そのような証拠を考慮に入れる必要があるとの決定に基づくべきである。課税当局が、事前の価格設定が拠って立つ情報が信頼できるものと確認できる場合は、事後の利益水準による調整は行うべきではない。 事前の価格算定取極を評価する際、課税当局は、独立企業間の価格算定取極(独立企業間であれば取引の時点で締結したであろう条件付支払いの取極を含む)の決定を知らせるため、財務上の結果についての事後の証拠を使用する権限が与えられる。「条件付支払い」とは、支払の量又はタイミング、又は再交渉条項が、将来生じる事象(売上や収益など事前に決定された財務上の閾値、又は事前に決定された開発ステージの達成を含む)に依存する価格算定取極である。 事前の予測と事後の結果に相当の相違(significant difference)がある状況においてのみ、そしてそのような相違が取引の時点で予見可能だった、または予見可能であるべきだった新事態・事象によるものである状況においてのみ、このアプローチが適用されることを確保するため、納税者が次の条件を満たす場合は適用されない。 結果として、財務上の結果に関する事後の証拠は、事前の価格算定取極の適切さを課税当局が考慮する際に関係のある情報を提供するが、納税者が取引の時点で何が予見可能だったのか、何が価格付けに反映されたのか、そして予測と結果の相違につながる新事態が予見不可能な事象から生じたことを納得できるよう証明できる場合には、これらの特別な考慮に基づいた事前の価格算定取極に対する調整は正当化されない。 例えば、財務上の結果に係る証拠が、移転された無形資産を活用した製品の販売が年間1,000に達したことを示している一方、事前の価格算定取極が年間最大でも100にしか達しないとの予測に基づいていた場合、課税当局は売上量がなぜそのように高くなったのか、理由を考慮すべきである。 仮に売上量の増加が、例えば取引の時点で明らかに予見不可能な自然災害や競合他社の予期せぬ倒産に起因する無形資産を含んだ製品への急激な需要の高まりである場合は、事後の財務上の結果以外にその価格設定が独立企業間では生じないことを示す証拠がない限り、事前の価格付けは独立企業間のものであると認識されるべきである。 税務当局は、事後の証拠(譲渡に係る実際の財務上の結果(financial outcome))を、事前の価格設定の適切さを決定する際に必要なものと考えるかもしれないが、事前の価格設定が拠って立つ情報が信頼できるものと税務当局がconfirmできる場合は、事後の利益水準による調整は行うべきではない。 事前のprojectionと事後の結果の相違がsignificantである場合等にのみ、上記アプローチを採用することを確保する必要がある。 また、公開討議草案は、除外規定として以下2つの条件を掲げている。 具体的な事例としては、自然災害や競合他社の突然の倒産に起因する無形資産を含んだ製品への急激な需要の高まり、が示されている。 公開討議草案では、ガイダンスへの全体的なコメントの他、以下の点へのコメントが求められている。   3 公開討議草案の問題点 公開討議草案は、事後の結果から事前の取引価格を引き直すという意味で、後知恵による課税と言わざるを得ず、対策として適切か疑問である。 無形資産の関連する国外関連取引を行う場合、企業としてはその価値測定が困難であるだけに、恣意性を排除すべく、可能な限り多角的な手法による評価を試みている。契約や経営判断、その裏づけとなる納税者による評価は極力尊重されるべきであるにもかかわらず、それが事後の結果により覆されるならば、課税関係は不安定となり、文書化や立証責任に関連する事務負担も増加する。 そもそも、独立企業間であれば必ず価格調整条項を契約に織り込むか、あるいは契約の再交渉を行うかについては議論の余地がある。無形資産が期待した収益を生み出さない場合もある。また、今回の提案は、適用基準が明確・客観的ではなく、当局による拡大解釈の恐れがある。BEPSプロジェクトの各行動計画においてすでに様々な課税強化策が打ち出される中で、このような極めて強力な課税ツールが追加的に採用されることの是非、タイミングの適切さも問われよう。   4 おわりに 今回の提案は踏み込みすぎの印象を受けざるを得ず、今後、移転価格ガイドライン第6章の最終化に際しては、提案されている手法の対象のさらなる絞込みが不可欠である。 経団連としては、公開討議草案に対するコメントを早急に取りまとめるとともに、BIACをはじめ、各国経済団体とも連携して修正を働きかけていきたい。 (了)  

#No. 124(掲載号)
#阿部 泰久
2015/06/18

法人事業税に係る平成27年度税制改正事項~外形標準課税の拡大、所得拡大促進税制の適用など~ 【第1回】「法人事業税の性質と税制改正の経緯」

法人事業税に係る平成27年度税制改正事項 ~外形標準課税の拡大、所得拡大促進税制の適用など~ 【第1回】 「法人事業税の性質と税制改正の経緯」   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   1 はじめに 平成27年度の税制改正では、デフレ脱却・経済再生に向けた税制措置の1つとして「成長志向に重点を置いた法人税改革」が盛り込まれた。先に公表された税制改正大綱によれば、この改正は、課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げることにより、法人課税を成長志向型の構造に変えることを目指すものである、と説明されている。 また、法人事業税についても大幅な改正が行われた。具体的には、資本金1億円超の法人の事業税について、所得割の税率の引下げ、外形標準課税(付加価値割及び資本割)に係る税率の引上げ並びに所得拡大促進税制の事業税への適用が盛り込まれるとともに、経過的な事業税の負担配慮措置が設けられた。 本稿は、法人事業税に係る平成27年度の税制改正の内容について解説することを目的とするが、またとない機会であるので、法人事業税そのものについての説明も付け加えたいと考えている。 現行制度の概要はもちろんのこと、法人事業税の性質および過去の税制改正の経緯を振り返ることによって、今回の改正の趣旨について読者の一層の理解に資することとしたい。 なお本稿は、外形標準課税適用法人のみを取り扱うこととし、文中、意見にわたる部分は筆者の私見である。   2 法人事業税の性質と税制改正の経緯(税収構造の見直し) (1) 応益課税の考え方 法人事業税は、もともとは法人の営む事業から生じる所得を課税標準として都道府県により課される税として創設されたものである(地方税)。 地方税には「応益課税」と呼ばれる考え方がある。これは、企業(事業所)の所在する都道府県・市区町村の提供する行政サービスに対する経費を、その規模に応じて等しく負担するために課税するという考え方である。 例えば住民税均等割などは、応益課税のわかりやすい一例であろう。 法人住民税均等割の算定基礎となる「資本金等の額」及び「従業者数」(市町村民税のみ)は、外観的に企業の規模を近似する指標として用いられたものであり、これによって規模に応じた行政サービス経費の負担を求めるものと考えることができる。 法人事業税もまた、応益課税の考え方に基づき課される税である。 すなわち事業税は、 (金子宏『租税法』(第20版・弘文堂)p.572) に基づき、受益規模を近似するものとして「事業から生じる所得」を用い、これに基づき課されるものである。 課税の前提となる考え方が法人税とは異なることから、法人税における課税所得と事業税における課税所得は若干範囲が異なる。たとえば、国外事業に帰属する所得が事業税の課税所得から控除される(地法72の24)のは、国外事業については国内における行政サービスを受益していないためである。 (2) 所得基準課税の限界と外形標準課税の創設 たしかに、行政サービスの受益規模を「所得」の水準によって測定し、これに応じた課税を行うことは応益課税の考え方に即したものといえるが、所得がマイナスの場合には課税することができないという限界がある。本来、行政サービスは所得の大小にかかわらず受益していると考えられるものであるから、いわゆる赤字法人に対しても一定の税負担を求めるべきである。 ここに、受益規模を「所得」以外の指標に求めることが必要であるとの意見が強まり、平成15年度の税制改正において「付加価値額」及び「資本金等の額」を課税標準とする新たな事業税(外形標準課税)が導入されることとなった。 外形標準課税の導入は、事業税の税収配分の見直しであり、改正の前後で税収が変化しないように税率が設定されている。すなわち、改正前の事業税の税収のうち4分の1を外形標準課税によることとし、さらにその3分の2を付加価値割から、残り3分の1を資本割から得ることとした(下図参照)。 【出典:経済産業省資料を基に加工 】 この改正により、いわゆる赤字法人からも一定の税収を得ることができるようになったが、中小法人への影響を考慮し、外形標準課税は資本金額1億円超の法人に適用されることとされた(地法72の2①一)。 他方、所得割の税率が引き下げられることとなったことを受け、所得水準が十分に大きい法人にとっては、外形基準による税負担の増加を所得基準による税負担の減少が上回り、結果として減税効果をもたらすケースもある。 (3) 地方法人特別税の創設 いわゆるリーマン・ショック後の景気回復局面において、法人住民税及び法人事業税(地方法人二税)の税収が急速に増加したこと等を背景として、地方団体間の財政力格差が拡大していることが大きな問題点として認識されるようになった。 このような背景から、平成18年12月14日にとりまとめられた平成19年度の与党(自由民主党・公明党)税制改正大綱において と指摘された。 その後議論が進み、平成20年度の税制改正において、法人事業税(所得割)の一部を分離して地方法人特別税が創設された。これにより、従来、所得割として徴収されていたものが「事業税所得割」と「地方法人特別税」に分けられることとなったが、これも税収内部の配分であり、地方法人特別税の創設に伴い税負担が変化しないように税率が見直されている。 地方法人特別税は国税とされるが、法人事業税の付加税として、法人事業税と合わせて地方団体(都道府県)により賦課徴収され、その後、その税収の全額が一定の基準で地方団体(都道府県)に再配分されるという仕組みになっている。 (4) 地方法人税の創設 地方法人課税のさらなる偏差の是正を目的として、平成26年度の税制改正において「地方法人税」が創設された。 これは法人住民税の一部を国税化するものであるが、この改正に伴い、法人事業税の地方税収への配分が多くなることから、事業税所得割及び地方法人特別税の税率がそれぞれ見直されている。 (5) 外形標準課税の拡大 平成27年度の税制改正では、応益課税としての性質を一層強くさせるため、段階的に外形標準課税の税率を改正前の2倍に引き上げることとした。従来、事業税の税収の4分の1を外形標準課税から得ることとしていたところ、本改正により、税収の2分の1を外形標準課税から得ることとなる(下図参照)。 【出典:経済産業省資料を基に加工 】   3 まとめ 以上の税制改正を踏まえた事業税の税率の推移をまとめると、下表の通りとなる。 〈事業税率の推移〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (注) 外形標準課税適用法人に適用される税率。標準税率かつ軽減税率不適用法人を前提とする。 (了)

#No. 124(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2015/06/18

ふるさと納税(平成27年度税制改正対応)のポイント 【第1回】「制度の概要と税務上の取扱い」

ふるさと納税(平成27年度税制改正対応)のポイント 【第1回】 「制度の概要と税務上の取扱い」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子     【1】 制度の概要 個人の住民税は、その年の1月1日現在の住所地の自治体が課税団体となる。したがって、通常は今住んでいる自治体に納税することになる。生まれ育った県や町、応援したい市や村等を選んで納税することはできない。 〈イメージ図〉 (総務省ホームページより)  そこで、納税者が、納税額の一部を、自ら選んだ自治体に納税できるようにするという趣旨で創設されたのが、ふるさと納税である。 ふるさと納税は、住所地へ納税する住民税を実質的に他の自治体に移転する効果を持った仕組みであるが、納税額を自治体ごとに分割することは理論的、制度的に困難であるため、法律上は寄附金税制を応用した制度設計となっている。 具体的には、「自治体への寄附」とそれに伴う「所得税及び住民税の軽減」を組み合わせた制度である。 自ら選んだ自治体に対してふるさと納税(寄附)をすると、寄附を受け付けた自治体から「受領証」が発行される。ふるさと納税をした金額について税の軽減を受ける場合には、原則としてこの「受領証」に基づいて確定申告を行う必要がある(※)。 (※) 平成27年度税制改正により、平成27年4月1日以降の寄附については確定申告が不要となる「ワンストップ特例制度」を利用することもできる。詳細は本連載の【第3回】で解説する。   【2】 税務上の取扱い ふるさと納税による税の軽減は、従来の寄附金税制を応用した新たな仕組みである。 自治体に対する寄附の額に応じて、所得税の寄附金控除と住民税の寄附金税額控除を組み合わせることにより、所得税及び住民税が軽減される(所法78、地法37の2、314の7)。 ふるさと納税の基本となる考え方は、納税者が納める税の一部を他の自治体へ移転するということである。そのため、寄附をすることによって納税者の負担額が増加しないよう、原則として寄附した額に相当する税が軽減される仕組みとなっている。 なお、所得税については、確定申告を行うことにより寄附をした年分の所得税が軽減されるが、住民税は翌年課税となるため、確定申告をした年分の翌年度分の住民税が軽減の対象となる。 (例) 平成27年にふるさと納税を行った場合(ワンストップ特例制度の対象とならない場合) 平成27年分の所得税の確定申告を行う(平成28年2月16日~3月15日) [所得税]⇒平成27年分の所得税が軽減される。 [住民税]⇒平成28年度分の住民税が軽減される。 次に、所得税の寄附金控除と住民税の寄附金税額控除により軽減される税額の算式を示すと、〈表1〉の通りとなる。 〈表1〉 ふるさと納税による税の軽減額 〈表2〉 特例控除額の割合 (※) 復興特別所得税も考慮した割合 以上より、所得税と住民税を合わせた税の軽減額は、 「①+(②の1)+(②の2)」 となり、理論的には寄附金から2,000円を差し引いた金額相当分の税が軽減される計算となる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 算式だけではわかりにくいため、次回は、寄附金と税の軽減額との関係について計算例を用いて解説することとする。 (了)

#No. 124(掲載号)
#篠藤 敦子
2015/06/18

連結納税適用法人のための平成27年度税制改正 【第1回】「法人税率の引下げ」

連結納税適用法人のための 平成27年度税制改正 【第1回】 「法人税率の引下げ」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸   ~はじめに~ 「連結納税適用法人にとっての“税制改正”」は、次の4種類に分類される。 上記のうち、①は、損益通算、連結欠損金、時価評価、連結子法人株式の帳簿価額修正など単体納税では制度自体が存在しない連結納税独自の税務上の取扱いについて改正されるものである。 次に、②は、受取配当等の益金不算入制度、研究開発税制、所得拡大促進税制、連結法人税など単体納税にも同じ制度が存在するが、連結納税グループでの全体計算と個別帰属額の計算を行う税務上の取扱いについて改正されるものである。 ③は、貸倒引当金など単体納税にも同じ制度が存在し、単体納税と同様に各連結法人を計算単位とするが、連結法人間の債権及び負債利子を除くなど一部について単体納税とは異なる税務上の取扱いについて改正されるものである。 最後に、④は、減価償却制度、繰延資産、一括償却資産、賞与引当金など単体納税と同じ取扱いとなるものに係る改正である。 そして、平成27年度税制改正についても、連結法人税率の引下げ(②)や連結欠損金の繰越控除制度の見直し(①)、受取配当等の益金不算入制度、研究開発税制、所得拡大促進税制の見直し(②)、タックス・ヘイブン税制の見直し(③)、損金算入配当等の益金不算入の除外措置、事業税率の改正及び負担軽減措置(④)、付加価値割における所得拡大促進税制の導入(③)などの改正があり、連結納税適用法人についても単体納税適用法人と同様に今年度の税制改正の影響は小さくない。 そうした中、毎年度、税制改正については、多くの書籍や雑誌などで解説されているが、連結納税制度に係る取扱いについては、「連結納税制度の場合についても、同様の改正が行われています。」という一言で片づけられてしまうことも多く、連結納税適用法人にとって、従来の税制改正の解説は十分なものではなかったといえる。 以上より、本稿では、連結納税適用法人(注)のための平成27年度税制改正をテーマとして、①~③に限定することなく、連結納税適用法人に関係するすべての税制改正について、平成27年3月31日に公布され、平成27年4月1日以後から施行されている改正税法等に基づいて、その取扱いを解説していくこととする。 (注) 本稿でいう「連結納税適用法人」は普通法人であるものとする。したがって、連結親法人が協同組合等の場合は本稿の対象外としている。 本稿で取り上げる項目は以下のとおりである。 なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。   [1] 連結法人税率の引下げ 1 改正内容 (1) 連結法人税率の引下げ 普通法人である連結親法人の税率が23.9%(改正前25.5%、▲1.6%)に引き下げられる(法法81の12①)。 また、連結法人税及び地方法人税の個別帰属額の計算に適用される税率も、同様に引き下げられることとなる(法法81の18①、地方法15①) (2) 連結親法人が中小法人等に該当する場合の軽減税率の適用 連結親法人が中小法人等に該当する場合の軽減税率の特例(連結所得の金額のうち年800 万円以下の部分に対する税率を19%から15%に引き下げる措置)の適用期限を2年延長する。 具体的には、連結親法人が中小法人等に該当する場合、連結所得金額のうち年800 万円以下の部分に対する税率を19%にする軽減税率の適用制度があるが、平成24年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する各連結事業年度の連結所得に対しては、その軽減税率を15%に引き下げることとなる(措法68の8①、法法81の12②⑥)。 なお、連結納税に係る「中小法人等」とは、連結親法人のうち、各連結事業年度終了の時において資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下であるもの又は資本若しくは出資を有しないものの(次の法人を除く)をいう(法法81の12②⑥、66⑥一~三・六)。   2 法定実効税率(参考) 連結法人税率及び事業税率(所得割)の引下げに伴い、連結納税の税効果会計について、平成27年4月1日以後開始事業年度及び平成28年4月1日以後開始事業年度の法定実効税率は、次のとおりに変更される。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 【平成27年4月1日以後開始事業年度及び平成28年4月1日以後開始事業年度の法定実効税率】 (追記:2015/7/1) 平成27年7月1日付けで東京都主税局より「平成27年度税制改正に伴う外形標準課税法人に係る法人事業税の税率の改正について(平成28年4月1日以後に開始する事業年度)」が公表された。本稿掲載時、上記表内数値については改正案による数値を使用していたが、今回そのままの数値で確定したため、表内の数値に変更は生じていない。   3 適用時期 平成27年4月1日以後に開始する連結事業年度について適用される(平成27年所法等改正法附則21)。 (了)

#No. 124(掲載号)
#足立 好幸
2015/06/18

マイナンバー制度と税務手続 【第6回】「委託」

マイナンバー制度と 税務手続 【第6回】 (最終回) 「 委 託 」   税理士 坂本 真一郎   最終回となる今回は、「委託」について見ていきたい。 番号法では、個人番号関係事務又は個人番号利用事務の全部又は一部について委託することができる規定が設けられており、当該委託を行った場合には、委託者は委託先に対する監督責任を負うこととなる。 また、委託を受けた者は委託者の許諾を受けた場合に限り、当該委託業務を再委託することができる。 1 委託先の監督 (1) 委託先における安全管理措置 個人番号関係事務又は個人番号利用事務の全部又は一部の委託をする者(以下「委託者」という)は、委託した個人番号関係事務又は個人番号利用事務で取り扱う特定個人情報の安全管理措置が適切に講じられるよう「委託を受けた者」に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。 このため、委託者は、「委託を受けた者」において、番号法に基づき委託者自らが果たすべき安全管理措置と同等の措置が講じられるよう必要かつ適切な監督を行わなければならない。 なお、「委託を受けた者」を適切に監督するために必要な措置を講じず、又は、必要かつ十分な監督義務を果たすための具体的な対応をとらなかった結果、特定個人情報の漏えい等が発生した場合、番号法違反と判断される可能性がある。 (2) 必要かつ適切な監督 「必要かつ適切な監督」には、 が含まれる。 委託先の選定については、委託者は、委託先において、番号法に基づき委託者自らが果たすべき安全管理措置と同等の措置が講じられるか否かについて、あらかじめ確認しなければならない。 具体的な確認事項としては、 が挙げられる。   2 再委託 (1) 再委託の要件 個人番号関係事務又は個人番号利用事務の全部又は一部の「委託を受けた者」は、委託者の許諾を受けた場合に限り、再委託をすることができる。 (2) 再委託の効果 再委託を受けた者は、個人番号関係事務又は個人番号利用事務の全部又は一部の「委託を受けた者」とみなされ、再委託を受けた個人番号関係事務又は個人番号利用事務を行うことができるほか、最初の委託者の許諾を得た場合に限り、その事務をさらに再委託することができる。 (3) 再委託先の監督 「委託を受けた者」とは、委託者が直接委託する事業者を指すが、甲→乙→丙→丁と順次委託される場合、乙に対する甲の監督義務の内容には、再委託の適否だけでなく、乙が丙、丁に対して必要かつ適切な監督を行っているかどうかを監督することも含まれる。したがって、甲は乙に対する監督義務だけではなく、再委託先である丙、丁に対しても間接的に監督義務を負うこととなる。 〈委託者(甲)から見たイメージ図〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   3 委託契約等の見直し 委託契約の締結については、契約内容として、 を盛り込まなければならない。 また、これらの契約内容のほか、 を盛り込むことが望ましい。 源泉徴収票作成事務や支払調書作成事務などを顧問税理士等に委託している事業者は、既存の委託契約等を見直し、上記に掲げられた規定等を適宜追加することが必要となる(※)。 (※) 「税理士のためのマイナンバー対応ガイドブック」添付資料【様式5-1~5-3】参照。   4 クラウドサービスや保守サービスを利用する場合 特定個人情報を取り扱う情報システムにクラウドサービス契約のように外部の事業者を活用しているケースで、当該クラウドサービス事業者が当該契約内容を履行するに当たって「個人番号をその内容に含む電子データ」を取り扱う場合には、番号法上の委託に該当する。 一方、当該クラウドサービス事業者が「個人番号をその内容に含む電子データ」を取り扱わない旨が契約条項によって定められており、適切にアクセス制御等を行っている場合には、番号法上の委託には該当しないこととなる。 同様に、特定個人情報を取り扱う情報システムの保守に外部の事業者を活用しているケースでは、当該保守サービス事業者が「個人番号をその内容に含む電子データ」を取り扱う場合には、番号法上の委託に該当する。一方、単純なハードウェア・ソフトウェア保守サービスを行う場合で、「個人番号をその内容に含む電子データ」を取り扱わない旨が契約条項によって定められており、適切にアクセス制御等を行っている場合には番号法上の委託に該当しないこととなる。 源泉徴収票作成事務や支払調書作成事務などを委託している顧問税理士等が、クラウドサービスや保守サービスを利用している場合には、顧問税理士等から当該外部事業者への再委託となる可能性があり、この場合には、最初の委託者である事業者の許諾が必要となるので注意を要する。 (連載了)

#No. 124(掲載号)
#坂本 真一郎
2015/06/18

宅地等に係る固定資産税の軽減措置と特定空家等の適用除外について 【第1回】「宅地等に係る固定資産税の計算方法」

宅地等に係る固定資産税の軽減措置と 特定空家等の適用除外について 【第1回】 「宅地等に係る固定資産税の計算方法」   税理士 島田 晃一 はじめに 固定資産税の税額は「課税標準額×税率(1.4%)」により計算する。課税標準額は固定資産税評価額を基礎として計算される。 固定資産税評価額は3年ごとに評価替えが行われ(途中で土地の地目・境界の変更、家屋の新築・取り壊しなどの事由があった場合や当該市町村の区域内の自然的および社会的条件に鑑み地価が下落していると認められるときはその都度評価替えが行われる)、それに併せて計算方法の改訂などが行われる場合がある。 平成27年度は評価替えの年にあたっているが、計算方法の変更などの大きな改正はなかった。唯一のトピックとしては、「特定空家等の敷地に係る住宅用地の特例除外措置」が設けられたことである。 ここでは、第1回として宅地等(農地以外の土地)の固定資産税の計算方法、第2回として今改正のトピックである「特定空家等の敷地に係る住宅用地の特例除外措置」について解説していく。   1 宅地等の固定資産税の計算方法 (1) 評価単位と宅地等の区分 固定資産税が課税される土地は田、畑、宅地、塩田、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野その他の土地をいう。地目についてはその年1月1日における現況をいい、必ずしも登記上の地目によるものではない。 評価単位は原則として1筆となっている。ただし、1筆の土地の中に異なる用途で利用されているものがあるときは利用状況ごとに区分し、それぞれに地目を付し課税標準額を計算する。また、課税される土地の地積は原則として登記地積になるが、「登記地積>現況地積」の場合は、市役所等に申し出て認定を受けることにより現況地積を課税地積にすることができる。逆に「登記地積<現況地積」の場合は、登記地積によることが著しく不適当な場合を除き登記地積による。 宅地等の固定資産税の計算にあたっては、まず宅地等を「住宅用地」と「商業地等」に区分することが必要である。住宅用地とは住宅の敷地となっている土地をいい、土地所有者自ら居住する家屋の敷地の他、貸家など土地所有者以外の人が所有する家屋の敷地も含まれる(住宅の延床面積の10倍の面積が限度)。一方、商業地等は住宅用地以外の宅地等をいい、店舗や事務所の敷地や駐車場の敷地などが該当する。 (2) 負担水準の計算と住宅用地の特例割合 次に、当該宅地等について負担水準を計算する。この負担水準の数値により当該年度の課税標準額が決定される。「負担水準」とは、その年度の固定資産税評価額に対し、前年度における課税標準額がどのくらいの割合にあるかを示す数値である。 平成27年度の負担水準は次の算式により計算される。 ただし、住宅用地については上記算式の分母の金額が固定資産税評価額に住宅用地の特例割合を乗じた金額になる。 住宅用地の特例割合は、その住宅用地が小規模住宅用地に該当するか否かによって次のように定められている。小規模住宅用地とは住宅用地のうち200㎡までの部分をいい、共同住宅の敷地の場合は、住宅用地のうち「200㎡×住居の数」までの部分が小規模住宅用地に該当する。 例えば、小規模住宅用地に該当する宅地について、平成26年度の課税標準額が1,200万円、平成27年度の固定資産税評価額が9,000万円である場合には、平成27年度の負担水準は次のように計算される。 なお平成27年度税制改正において、宅地について特定空家等の敷地に該当し市町村長から是正勧告を受けたときは、この特例の適用を受けることができなくなることに留意されたい(次回解説)。 (3) 商業地等の固定資産税の計算 商業地等のうち負担水準が70%を超える土地は、課税標準額が固定資産税評価額の70%まで引き下げられる。負担水準が60%以上70%以下の場合については税額が据え置かれる。 一方、負担水準が60%に満たない商業地等に関しては、前年度の課税標準額にその年度の固定資産税評価額の5%を加えた額を当該年度の課税標準額とする方法になっている。ただし、その金額が固定資産税評価額の60%を上回るときは評価額の60%、固定資産税評価額の20%を下回るときは評価額の20%相当額になる。 さらに、「前年度課税標準額+評価額×5%」を課税標準額として計算された税額が、前年度の税額の1.1倍を超えるときは、各市町村の条例により超える部分の税額を減額することができるとされている。 例えば、商業地等で平成27年度の固定資産税評価額が5,000万円、平成26年度の課税標準額が2,000万円の土地の負担水準は40%になる。結果として、平成27年度の課税標準額は「2,000万円+5,000万円×5%=2,250万円」になる。 一方、平成27年度の固定資産税評価額が4,000万円、平成26年度の課税標準額が2,360万円の場合、負担水準は59%となり「前年度課税標準額+評価額×5%」の算式によると「2,360万円+4,000万円×5%=2,560万円」になるが、平成27年度固定資産税評価額の60%相当額が2,400万円(=4,000万円×60%)になるので、低い方の2,400万円が平成27年度の課税標準額になる。 なお、商業地等の場合は、条例により課税標準額の上限を、固定資産税評価額の60%を限度として引き下げる減額制度を設けることができる。この条例減額制度は東京23区において適用されており、平成27年度においては上限が65%になっている。つまり、東京23区内の商業地等については「固定資産税評価額×65%」が課税標準額の上限になる。 (4) 住宅用地の固定資産税の計算 住宅用地の固定資産税については、次表のように負担水準に応じて当該年度の課税標準額が決定される。なお、住宅用地に関しても当年度の税額が前年度の税額の1.1倍を超える場合、各市町村の条例により超える部分の税額を減額できる特例が設けられている。 例えば、平成26年度の課税標準額が850万円、平成27年度の固定資産税評価額が5,400万円の小規模住宅用地の場合、平成27年度の課税標準額は「850万円+5,400万円×1/6×5%=895万円」になる。 当該宅地に対応する固定資産税額は平成26年度119,000円(=850万円×1.4%)、平成27年度125,300円(=895万円×1.4%)になる。 同様に平成28年度について見てみると、仮に平成28年度の固定資産性評価額が5,400万円で変わらないとすると、平成28年度の課税標準額は「895万円+5,400万円×1/6×5%=940万円」と「5,400万円×1/6=900万円」と比較して低い方、つまり900万円になり、税額は126,000円(=900万円×1.4%)に増加する。 平成29年度は同様に固定資産税評価額が変わらないとすると、負担水準は100%になり課税標準額、税額とも平成28年度と同額になる。   2 都市計画税の計算方法 「都市計画税」とは、各市町村が都市整備の財源に充てるため、原則として市街化区域内における不動産(土地・家屋)について任意に徴収する税である。税率は0.3%の範囲内で各市町村が独自に設定する。実務上は固定資産税と都市計画税は併せて課税され、固定資産税と都市計画税が同じ納税通知書に記載される。 都市計画税の計算方法は、税率を除き原則として固定資産税と同様である。「商業地等と住宅用地の区分」、「負担水準の計算」および「負担水準に応じた課税標準額の計算」は固定資産税の項を参照していただきたい。 ただし、住宅用地の特例割合は固定資産税と異なり、小規模住宅用地は1/3(固定資産税は1/6)、一般住宅用地は2/3(固定資産税は1/3)になっている。 (了)

#No. 124(掲載号)
#島田 晃一
2015/06/18

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第8回】「金銭の受取通帳と判取帳とは」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第8回】 「金銭の受取通帳と判取帳とは」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   不動産賃貸業を行っています。 毎月、家賃の受取りを現金にて回収しています。 その際に家賃の受取通帳を作成して、現金受領の都度、受領印を押して借主に渡しています。 この場合、印紙税はかかりますか。 また、かかる場合はいくらの収入印紙が必要ですか。   家賃の受取通帳は第17号の1文書(売上代金の金銭の受取書)により証されるべき事項を付け込んで証明するために作成する通帳であり、第19号文書(請負通帳、金銭の受取通帳)に該当する。作成日は平成26年4月10日で印紙税額は1冊につき400円となる。 この場合、通帳を1年以上継続して使用しており、その通帳を作成した日(最初に付け込みをした日)から1年を経過した日以後最初の付け込みをした時に、新たな通帳が作成されたとみなし、2年目の開始日である平成27年4月7日にはさらに、400円の印紙が必要となる。 なお、第19号文書の作成者(納税義務者)は、一定の事実を継続して付け込んで証明する目的で作成する文書であるため、付け込み証明する側、つまりこの場合は、家賃を受領する側が作成者(納税義務者)となる。    [検討1] 個々の金額が5万円未満の場合あるいは営業に関しない場合 第19号文書には非課税規定がない。したがって金銭又は有価証券の受取事実を付け込んで証明する目的で作成される受取通帳は個々の金額が5万円未満の場合あるいは営業に関しないものであっても、課税文書に該当する(基通別表1第19号文書2)。  [検討2] みなし作成 前述の【解答】において記述したが、1年以上継続する場合は、2年目の最初の付け込みをした時に、新たな通帳が作成されたとみなされる。また、第17号の1文書により証されるべき事項で、その付け込み金額が100万円を超えた時には、第17号の1文書が新たに作成されたとみなされる。したがって、例えば1回の受領が150万円だとすると、付け込みの際にさらに400円の収入印紙が必要となる。   ▷ まとめ 1 第19号文書とは 第19号文書とは、課税物件表の第1号、第2号、第14号又は第17号の課税事項のうち1又は2以上を付け込み証明する目的で作成する通帳で、第18号文書に該当しないものをいい、これら以外の事項を付け込み証明する目的で作成する通帳は、第18号文書に該当するものを除き、課税文書に該当しない(基通別表1第19号文書1)。 また、預貯金通帳と金銭又は有価証券の受取通帳が1冊となった通帳のように、課税物件表の第18号文書に掲げる文書と同表第19号に掲げる文書とに該当する文書は、第19号文書として取り扱うこととなる(基通11②)。 2 第19号文書と第20号文書の違い 第19号文書(金銭の受取通帳等)と第20号文書(判取帳)の違いは、第19号文書の場合は1対1の当事者間における取引内容を付込み証明するための通帳をいい、第20号文書は1対2以上の当事者の間で行われる取引内容の付込み証明を行うものをいう。 なお、作成者は第19号文書の場合、一定の事実を付け込む側が作成者(納税義務者)となるが、第20号文書の判取帳の場合は、一定の事実について取引相手から付込み証明を受ける目的で作成する文書であるため、付込み証明を受ける側(判取帳を所時している者)が作成者となり、1年ごとに4,000円の収入印紙が必要となる。 また、第19号文書と同じように1年以上継続する場合は、2年目の最初の付け込みをした時に、新たな通帳を作成されたとみなされる。その他に、この事例の場合で見ると、第17号の1文書により証されるべき事項で、その付け込み金額が100万円を超えた時には、第17号の1文書が新たに作成されたとみなされ、平成26年4月19日の場合、新たに400円の収入印紙が必要となる。なお、この場合の作成者は、判取帳の納税義務者ではなく、付け込み証明した(株)C物産となる。 (了)

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#山端 美德
2015/06/18

貸倒損失における税務上の取扱い 【第45回】「貸倒損失の法律論②」

貸倒損失における税務上の取扱い 【第45回】 「貸倒損失の法律論②」   公認会計士 佐藤 信祐   第44回においては、貸倒損失について法人税法上の根拠を挙げたうえで、法的に債権が消滅する場合、すなわち、法人税基本通達9-6-1の概要について説明を行った。しかしながら、同通達9-4-1、9-4-2の位置付けが曖昧であるため、実際に債権放棄を行った場合には、同通達9-6-1を使用するのか、それとも、9-4-1、9-4-2を使用するのかということについては悩ましい議論である。 また、実務上、債権の全額が放棄されることはほとんどなく、債権の一部のみが放棄されることがほとんどである。そのため、本稿については、これらの通達の境界線と部分償却の問題について解説を行う。 (2) 法人税基本通達9-6-1と9-4-1、9-4-2との境界線 法人税基本通達9-6-1(1)(2)については法的整理に関するものであるため、同通達9-4-1、9-4-2との境界線の問題は生じないが、同通達9-6-1(3)(4)についてはその境界線の問題が生じ得る。すなわち、第20回から第24回で解説したように、興銀事件においては、全額回収不能であるという貸倒損失の判断において、 とされたことから、同通達9-6-1(3)(4)における回収可能性の判断においてこれらを加味すれば、実質的に同通達9-4-1、9-4-2とほとんど変わらなくなってしまうからである。 この点について、大渕博義教授は、同通達9-4-1、9-4-2については「子会社に対する債権の回収可能性の程度は格別の要件とはされておらずかつ前記のような債権放棄による損失負担と将来の損失回避という関係が対価的意義の関係にある」のに対して、同通達9-6-1(4)については、 と述べられている(『法人税法解釈の検証と実践的展開第Ⅰ巻(改訂増補版)』352頁)。しかしながら、法人税基本通達9-4-1、9-4-2の適用については過剰支援であることは問題になることが多く、興銀事件の判決文は、同通達9-6-1の適用についても、経営的評価を回収可能性の判断に含めるかのように読めるため、これだけで説明しきれない部分もあると考えられる。 これを分析するために、法人税基本通達の構成を見てみると、同通達9-6-1と9-4-1、9-4-2の大きな違いとしては、同通達9-6-1は貸倒損失についての通達であり、同通達9-4-1、9-4-2は寄附金についての通達であるという点が挙げられる。つまり、同通達9-4-1、9-4-2については、寄附の概念はありながらも、寄附金として処理することが実態に沿わないという点から、通達により法令を緩和したという特徴がある。 そもそも、法人税基本通達9-4-1、9-4-2が新設される前の清水惣事件においては、第8回で解説したように、水野忠恒教授は寄附金に該当するか否かの判断において経済目的を考慮する余地がないと批判されている。また、第14回で解説したように、法人税法37条に規定する寄附金の規定は、業務関連性のある寄附金と業務関連性のない寄附金を区別することは困難であることから、ひとつの割り切りとして損金算入限度額を設けているという特徴がある。すなわち、経済合理性のある債権放棄であったとしても、とりあえずは寄附金として処理したうえで、損金算入限度額との比較をするというのが法令上の趣旨に合致していると考えられる。法人税基本通達9-4-1、9-4-2の法令上における根拠を見つけるとすれば、 は見解の分かれるところであるが、そもそもの条文に戻ってみれば、かなり強引な解釈とも言える。 それでは、実務上、どのように取り扱われているかと言えば、子会社等を清算する場合において、特別清算を行ったときには法人税基本通達9-6-1(2)を適用し、通常清算を行ったときには同通達9-4-1を適用するというように解釈しているようである。そもそも、法人税基本通達9-6-1(2)に規定しているのは、「特別清算に係る協定の認可の決定があった場合」であることから協定型(本来型)であるが、和解型(対税型)についてもこれを準用するという解釈がなされることが多い。 そのほかに法人税基本通達9-4-1が適用される場面としては、M&Aにより子会社を譲渡する場合において、子会社の債務超過を解消するために債権放棄や増資を行うときが挙げられる。これは、同通達に規定する「経営権の放棄」に該当するためである。 これに対し、法人税基本通達9-4-2については、第42回で解説した私的整理ガイドラインやRCC企業再生スキームのように文書回答事例により回答が得られたものは、再建支援等事案に係る事前相談を行った場合を除き、ほとんど認められておらず、また、最近では特別清算を利用した第2会社方式を行うことが増えてきたことから、過去に比べて事例が減少している。 このように、法人税基本通達9-6-1(3)(4)と9-4-1、9-4-2との境界線については議論のあり得るところであるが、そもそも同通達9-4-1、9-4-2が特例的なものであると考えると、実務上はあまり問題になることは多くないと考えられる。 (3) 部分償却 例えば、会社更生法の規定による更生計画認可の決定があったとしても、一般更生債権の全部を放棄することはほとんどなく、一部のみが放棄されることから、債権の一部が貸倒れたとしても、それだけで貸倒損失の損金算入が否認されることはあり得ない。しかしながら、法人税基本通達9-6-1(3)(4)の適用については、回収可能部分も含めたうえで債権放棄をしてしまうことや、回収不能部分の一部のみを債権放棄してしまうことも考えられるため、このような債権放棄についても貸倒損失として認められるか否かは問題になるところである。 この点につき、回収可能部分も含めたうえで債権放棄をしてしまった場合には、過去の判例を見てみると、第21回で解説したように、債権放棄を行った金額のうち、回収不能部分だけについて寄附金と認定したのではなく、債権放棄を行った金額の全額について寄附金と認定していることから、理論上はともかくとして、実務上は同様に解さざるを得ないと考えられる。 これに対し、回収不能部分の一部のみを債権放棄した場合には、そもそも回収不能部分についてのみの債権放棄であることから、何ら問題がないように思える。 しかしながら、第22回で解説したように、例えば、1億円の無担保債権のうち50%が回収不能であるとして、30%部分に相当する3,000万円だけ債権放棄をするとした場合において、他の無担保債権者(4億円)が債権放棄をしないのであれば、債権放棄後の無担保債権の総額は4億7,000万円となり、これに対して単純に債権者平等の原則を適用してしまうと、回収可能額は減額される結果になる(*1)(全体の回収可能額2億5,000万円)。すなわち、債権者がほとんど1人しかいない場合でもない限り、回収不能額を特定して債権放棄を行うというのは現実的ではなく、さらに、それがほんの一部であったということは取引条件の変更を兼ねないと考えにくい。 (*1) 自社の債権(7,000万円)×全体の回収可能額(2億5,000万円)÷全体の債権(4億7,000万円)=債権放棄後の回収可能額(3,723万円)<債権放棄前の回収可能額(5,000万円) そのため、実際には、このような議論は債務者が自然人である場合には頻出する事案であると考えられる。 具体的には、ある自然人に対する債権が10億円であり、かつ、他の債権者が存在しないような場合において、このうち、5,000万円しか返済できないようなときは、破産をしないまでも、何らかの和解により、残りの9億5,000万円のうち、9億円のみを債権放棄するような場合が考えられる。このような場合には、回収不能部分を特定して債権放棄を行っており、また、債権放棄後も残った債権の回収可能額は変わらないため、法人税基本通達9-6-1(4)を検討する余地はあると考えられる。しかしながら、債権放棄をしなければ、債権の全額が回収不能であるとはいえないため、同通達9-6-2を適用することはできない。 また、債務者が法人である場合についても考えられなくはないが、通常、そのような場合は、親会社や金融機関のみが主要債権者である場合が考えられ、法人税基本通達9-4-2により判断することが多いと思われるが、同通達の適用については、損失負担の額の合理性というものも求められることから、回収不能額の一部のみを中途半端に放棄する事案については、あまり現実的な議論とは考えにくい。 そうなると、実務上の観点からは、回収可能部分も含めたうえで債権放棄をしてしまった場合には、回収可能部分を含めて寄附金として処理されてしまうことが考えられ、債務者が自然人であるようなケースを除き、回収不能部分の一部のみを債権放棄してしまう場合には、過少支援として法人税基本通達9-4-2の適用を受けることができず、これについても寄附金として処理されてしまう可能性があるという結論になる。 (了)

#No. 124(掲載号)
#佐藤 信祐
2015/06/18

会計上の『重要性』判断基準を身につける~目指そう!決算効率化~ 【第5回】「ガラス片は小さくても危ない」~質的重要性の話

会計上の『重要性』 判断基準を身につける ~目指そう!決算効率化~ 【第5回】 「ガラス片は小さくても危ない」 ~質的重要性の話   公認会計士 石王丸 周夫   重要性の基準値の算定方法を解説する前に、「質的重要性」という考え方に触れておきたいと思います。 まず手始めに、以下の問題にチャレンジしてみてください(解答は問題のすぐ下にあります)。 いかがでしたか? 正解できたでしょうか。 前回まで、金額の大小による重要性判断を前提に話を進めてきましたが、本問では、取引の内容や性質等による重要性という概念を扱っています。以下、この解答について触れながら、解説していきます。   《小さなガラス片が砂に混じっていたら》 【第4回】で取り上げた「砂場の話のたとえ」を再び使います。 これは、砂場の砂をふるいにかけてきれいにする話でした。子供が安全に遊べるように、大きな石が混じっていたら取り除いてあげるというのが、砂をふるいにかける目的です。 砂をふるいにかけると、ふるいの目を通り抜けていかないような石が網の上に残ります。その程度の大きさの石が取り除かれれば、目的は達成されるとします。 しかし、本当にそれで砂場の砂は安全になるでしょうか? 例えば、ガラス片が砂に混じっていたらどうでしょう。 しかも、ふるいの目を通り抜けてしまうような小さなガラス片だとしたら・・・ ふるいの下に落ちたものは、大きさ的にはふるいの目より小さなものばかりです。ところがガラス片は、いくら小さいとはいえ、鋭利な部分があるので、これが砂に混じっていては危険です。 つまり、ふるいの下に落ちたものは、砂に混じっていても問題ない(重要性が乏しい)とは断定できないのです。   《重要性は2つの面から見る》 会計における重要性判断も同じです。 金額的に重要性があるかどうかという側面のほかに、質的に重要性があるかどうかという側面も見ていく必要があります(⇒したがって、問題5のアの記述は正しいです)。 図で表すとこんな感じです。 ABCDについて、それぞれ見ていきましょう。 Aは量的(金額的)にも質的にも「重要」ですから、総合評価は、文句なしに「重要」です。 Bは質的には「重要でない」となっていますが、量的には「重要」です。量的に「重要」であることは、それだけでも無視できないだろうと考え、総合評価は「重要」になります。 ひとつ飛ばしてDですが、Dは量的にも質的にも「重要でない」ですから、当然ながら総合評価は「重要でない」です。 問題はCです。Cは量的には「重要でない」ですが、質的には「重要」となっています。先ほどのガラス片のたとえは、まさしくこのCになります。 質的重要性という考え方を持っていない人は、この総合評価を「重要でない」としてしまいます。しかし、そうしてはいけないことはすでにおわかりだと思います。内容や性質等について具体的に把握した上で、総合評価を下すべきです。   《質的重要性の有無の具体的チェック項目》 経理実務において、金額的に重要性がない場合でも、質的観点から注意しなければいけない事項としては、以下のようなものが考えられます。 上記は例示ですので、すべての事象が網羅されているわけではありません。同様の状況が認められれば、個別に検討して質的重要性を判断していくことになります。 なお、重要性判断における質的側面の検討の必要性については、日本公認会計士協会から以前公表されていた監査基準委員会報告書第5号「監査上の重要性」に見ることができます。 現在この考え方は、監査基準委員会報告書320「監査の計画及び実施における重要性」に引き継がれ、「特定の取引種類、勘定残高又は開示等に対する重要性の基準値」として整理されています。   (了)

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#石王丸 周夫
2015/06/18

〔会計不正調査報告書を読む〕【第32回】株式会社リソー教育「当社元取締役等に対する損害賠償請求の提起に係る意見書」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第31回】 株式会社リソー教育 「当社元取締役等に対する損害賠償請求の提起に係る意見書」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【第三者委員会調査報告書受領後の経緯】   株式会社リソー教育の概要 株式会社リソー教育(以下「リソー教育」という)は、1985(昭和60)年7月設立。TOMASという名称の学習塾を直営方式で経営している。売上高18,776百万円、経常利益978百万円、従業員数527名(平成27年2月期)。本店所在地は東京都豊島区。東証1部上場。 今回損害賠償請求の対象となったのは、リソー教育の元取締役2名と、リソー教育の連結子会社、株式会社名門会(以下「名門会」という)の元社長である。名門会は家庭教師派遣事業を営み、売上高4,770百万円、経常利益59百万円を上げている。   元取締役等に対する損害賠償請求 第三者委員会から調査報告書を受領したリソー教育は、そのわずか4日後、会計不正に主体的な役割を果たしていたとされた2名の取締役及び1名の子会社取締役の辞任を発表した(詳しくは本連載【第15回】を参照されたい)。 すなわち、当時、リソー教育代表取締役社長であった伊東誠氏(第三者委員会報告書ではC専務。以下本稿では、「伊東元社長」という)及び常務取締役であった赤尾光治氏(第三者委員会報告書ではD常務。以下本稿では、「赤尾元常務」という)並びに名門会代表取締役社長であった大森喜良氏(第三者委員会報告書では甲社長。以下本稿では、「大森名門会元社長」という)の3名が、取締役についても辞任したうえで、当時の岩佐実次代表取締役会長(第三者委員会報告書ではA会長。以下本稿では「岩佐会長」という)が代表取締役社長を兼務するというものであった。 今回公表されたリリースでは、この3名を相手方として、平成27年5月8日付で、東京地方裁判所に対して損害賠償請求訴訟の提起を行い、請求金額は各相手方に対してそれぞれ3億円とすることが公表され、同時に、本件訴訟においてリソー教育側の代理人となる弁護士の意見書が添附されている。 本稿では、リソー教育が元取締役等の責任をどのように追及し、本件訴訟の提起に至ったのかを検証したい。   意見書の概要 添附された意見書は4通である。関根修一弁護士らが作成した「リソー教育取締役会向け」「同監査役会向け」のものが各1通(以下、双方を総称して「関根弁護士意見書」という)、須藤修弁護士らが作成した「リソー教育取締役会向け」「同監査役会向け」各1通(以下「須藤弁護士意見書」という)である。 これは、リソー教育元取締役に対する責任追及は同社監査役が、リソー教育元取締役以外(具体的には名門会元取締役)に対する責任追及はリソー教育取締役が、訴訟を提起することに対応している。 なお、須藤弁護士意見書はあくまでセカンドオピニオンとしてのものであり、以下の概要については関根弁護士意見書からの引用である。単に「意見書」と記載した場合には、関根弁護士意見書を意味することをご了承いただきたい。 意見書の中で最も紙幅を費やしているのは、リソー教育代表取締役会長兼社長であり、名門会代表取締役会長であった岩佐会長に対する法的責任の追及の是非・可否である。 1 損害金額の算定 (1) 違法配当等 違法配当の総額約5,155百万円から、一部株主(その過半は岩佐会長からのもの)からの返還金約921百万円を控除する必要があり、売上返戻等引当金の一部取り崩し額約950百万円をも損害額の算定には影響するとしている。 (2) 課徴金 金融庁による徴金納付命令によって納付した課徴金は4億1,477万円であり、これは、「因果関係の割合的認定や過失相殺の類推適用により、課徴金の全部又は一部が、各役員等に対して責任が認められる損害となる」としている。 (3) 決算修正費用 九段監査法人(意見書では「Y監査法人」)に支払った決算修正費用5,040万1,890円も発生した損害である。 (4) 調査費用 リソー教育は、本件事案の調査費用として各専門家に対し、総額2億1,323万7,653円を支払った。 2 岩佐会長の法的責任 岩佐会長の法的責任の追及に関する意見書の主張をいくつか引用する。 その骨子は、岩佐会長には粉飾決算を行う(行わせる)動機がないこと、粉飾決算によって財産上の損失を被るのは大株主である岩佐会長であること、道義的責任と法的責任は異なるというものであり、結論としては、「岩佐会長に対しては、法的な責任を追及するのは、難しいものと考える」としている。 3 本件訴訟の相手方となった3人の元取締役等の法的責任と損害賠償請求額 意見書は、伊藤元社長と赤尾元常務について、不適正会計の事実を認識しており、剰余金の分配可能額を超える配当に関する責任(会社法462条1項)及び任務懈怠に対する責任(同法423条1項)の請求をすべきものと思料する、と結論づけている。 また、大森名門会元社長に対しては、リソー教育は、不法行為(民法709条)、あるいは第三者委に対する任務懈怠責任(会社法429条1項)による責任追及を行うことが可能である、としている。 ただし、具体的な損害賠償請求額については、「同人の資力も含め、どの程度の請求額(一部請求を含む)にするかについては、実務的な配慮は必要(伊藤元社長、赤尾元常務に対するもの)」、「資力等も踏まえて、それなりに考慮する必要(大森名門会元社長に対するもの)」と述べるに止まっている。 4 その他の取締役等の法的責任と損害賠償請求額 その他のリソー教育の元取締役らに関しては、すでに子会社の部下のいない課長に降格する処分がされ、実質的な懲戒を受けていることを理由に「二重処罰の禁止の精神も含め、訴訟提起については、慎重に判断する必要がある」という意見を受け、リソー教育は訴訟の提起を見送っている。 また、名門会の元取締役らについても、リソー教育との関係でいえば、「従業員的な立場にあるもの」であり、大森名門会元社長の指示により「やむなく応じた面もあり」得ること、在任期間が短いことなどを理由に、「責任追及まで行う必要があるのか疑問に感じざるを得ない」という意見を受け、こちらも訴訟の提起を見送っている。   意見書の特徴 1 第三者委員会報告書に対する批判的な記述 意見書の冒頭「検討方法と調査対象について」で触れられているが、関根弁護士意見書作成にあたって、第三者委員会委員長は報告書作成の前提資料の提出をせず、また、各委員もヒアリングに応じなかったということである。 それが理由かどうかは不明だが、意見書は全般に、第三者委員会報告書の表現に対して批判的である。例えば、違法配当の損害額に認定にあたっても、「疑わしきはリソー教育の不利益に」の精神によって算定された報告書の認定額ではなく、会社提供の資料に従っている。それ以外にも、気になる記述をいくつか引用する。 2 岩佐会長に対する法的責任追及の考え方 意見書は、岩佐会長の責任問題について、「道義的責任はともかく、法的責任は追及できない」という立場である。この結論だけを取り上げれば、第三者委員会報告書と意見書には大きな意見の隔たりはない。ではなぜ、元取締役等に対する損害賠償請求訴訟の提起にあたって、改めて「意見書」を公表する必要があったのだろうか。 これはまったくの私見であるが、第三者委員会報告書に対する「第三者委員会報告書格付け委員会(以下「格付け委員会」と略称する)」による厳しい批判に対する、リソー教育からのある種の反論が、本意見書を公表することによってなされているのではないかと思料する次第である。 2014年8月22日を評価日とする格付け委員会の評価は、C評価4名、D評価3名、F評価2名であった。なお、F評価とは、「内容が著しく劣り、評価に値しない報告書(不合格)」(格付け委員会HPより)ということであり、非常に厳しいものとなっている。 批判のポイントは、以下の3点に要約される。 上記①の批判に対して、あらためて、「法的責任の追及・判定」を行ったのが、今般公表された「意見書」であるとの位置付けが可能であろうし、「要約版」と「正式版」の異同についても、意見書には、以下のような記述が存在する。 さらにフォレンジック調査についても、以下のとおりの言及がある。 3 意見書が踏み込まなかった疑問点 上記のとおり、今般の意見書公表には、格付け委員会をはじめとする第三者委員会報告書に対する批判に対する反論であるという趣旨が強いものと思料するが、1点だけ、応えきれていない大きな疑問が残ったままである。 それは、格付け委員会委員である齊藤誠弁護士により指摘された次の事実である。 本件に関しては、リソー教育が株主等との間で係争中の訴訟に影響を及ぼす可能性が高いため、意見書には言及がなかったものと考えられるが、齊藤弁護士の言う「誰によって如何なる判断で行われたか」によっては、意見書の前提条件が変わってしまう可能性もあるのではないかという問題提起を行ったうえで、本稿を締め括りたい。 (了)

#No. 124(掲載号)
#米澤 勝
2015/06/18
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