国境を越えた役務の提供に係る 消費税課税の見直し等と実務対応 【第2回】 「国境を越えた役務の提供に係る消費税の従来の取扱い」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 3 国境を越えた役務の提供に係る消費税の従来の取扱い (1) デジタル財取引に対する消費税課税 EU等における付加価値税と同様に、わが国の消費税の課税対象となる取引は前述のとおり、国内取引、すなわち国内において事業者が行った資産の譲渡等である(消法4①)。したがって、国外において事業者が行った取引(国外取引)には消費税が課されない。 ところが近年、このような課税原則では対処できない取引が問題となっていた。それは、海外の事業者が提供する「電子書籍」や「ネット配信」に対して、果たして消費税の課税ができるのかという問題である。 すなわち、物品の輸入に関しては税関が消費税の徴収実務の一端を担うことにより対応可能であるが、「電子書籍」や「ネット配信」といったサービスの輸入に関しては税関の役割を果たすプレーヤーがおらず、制度の執行が問題となるわけである。 日本における電子書籍の市場規模の成長は以下の図のとおり目覚ましく、2014年度には1,160億円にのぼり、2017年度には2,000億円に達すると見込まれている(※1) 。 (※1) ICT総研「電子書籍コンテンツ市場動向調査」(2014年10月15日) 【電子書籍コンテンツの市場規模】 (出典) ICT総研「電子書籍コンテンツ市場動向調査」(2014年10月15日) 電子書籍や音楽など電子媒体で提供される「デジタル財」は、ネット経由で全世界に配信することが可能である。そのため、海外の事業者が日本国内のユーザーに向けて電子書籍や音楽などをインターネット経由で提供するケースも見られるが、前述のとおり従来の消費税法においては、事業者が行った取引が国内か国外かの判定は、事業者の事務所などの所在地により判定することとなっていた(旧消令6①七、十、②五、七)。そのため、海外の事業者(例えばアマゾン)が電子書籍を日本の消費者にネットを通じて提供した場合、国外取引に該当することから消費税が課されないこととなる(課税対象外ないし不課税取引)。 ところが、同じ取引形態であっても、日本の事業者(例えば紀伊國屋書店)が電子書籍を日本の消費者に提供した場合には、国内取引となるため消費税が課されることとなる。そのため、課税の中立性という観点から、このような提供者の違いによる不均衡ないし不公平に関しかねてから問題視されていたところであった。 仮に課税庁がこの事態を放置した場合、日本の事業者も競争上の不利を解消するため、海外から電子書籍を配信するサービスを提供するのが主流となる可能性がある。実際、楽天はカナダ法人が国内向けに電子書籍を販売する形態を採ることで、消費税の課税を回避することを検討していると報じられたところである(※2) 。 (※2) 2012年6月29日付朝日新聞。 【海外からのデジタル財の販売と消費税課税】 (2) 国際的な取引に対する消費税の課税原則 国際的な取引に対する消費税を含む付加価値税(Value Added Tax, VAT)の課税原則は、一般に、仕向地主義(※3)(destination principle)によることとされている。これに関しわが国の消費税法の規定をみてみると、貨物については、輸出の際には輸出免税の規定(消法7)が適用される一方で、輸入の際には、消費者を含めそれを引き取る者が納税義務を負うこととされている(消法5②)ことから、仕向地主義の原則に合致している。貨物に関し仕向地主義の原則が機能するのは、輸入貨物については税関を通過することが法的に義務付けられていること(関税法67)が前提となっている。 (※3) 一般に、輸出される物品や国外で提供される役務に対する付加価値税について、源泉地国ではなく仕向地国に課税権があるとする考え方をいう。反対に源泉地国に課税権があるとするものを源泉地主義(origin principle)という。金子宏『租税法(第二十版)』(弘文堂・2015年)693頁参照。 ところが、仮に仕向地主義の原則を役務の提供に関しても適用しようとすると、貨物の場合とは様相が異なることに気付かされる。すなわち、海外から提供される役務は税関を通過するわけではないため、仮にそれに消費税を課す場合、提供を受ける者にいつ、どのように申告及び納税を履行させるのかという、制度設計上の困難性が生じるのである。 特に、ネット経由で提供されるデジタル財は、若年層も広く利用する可能性があるため、消費税の申告及び納税の履行は極めて困難となることが想定されるところである。これが、デジタル財等の海外から提供される役務が「国内において行われた」わけではないとして、消費税の課税対象から除外されてきた主たる理由と考えられる。 (3) 「課税の空白」への対応の必要性 このような一種の「課税の空白」ないし「不公平」を課税庁がこれまで許していた理由としては、いずれも推論ではあるが、当該役務提供に課税する仕組みの構築が法技術的に非常に困難であったことや、消費税法導入時の税率が3%と低く従来は不公平がそれほど顕著でなかったこと、国内で提供されるサービスと国外から提供されるサービスがほとんど競合関係になく、課税の仕組みが異なっても問題が表面化しにくかったことなどが挙げられる、とされる(※4) 。 (※4) 佐藤英明「電子的配信サービスと消費課税」『ジュリスト』2012年11月号15頁参照。 このような「課税の空白」に対処するため、財務省は日本で電子書籍や音楽データ(※5)などデジタル財を販売したい海外企業に事前登録を義務付け、国内企業と同様に消費税を課す「課税事業者登録制度」を導入すべく2012年7月に研究会(※6)を立ち上げ、検討を開始していた。これは、EU(欧州連合)が同様の問題に対処するため2003年に導入した制度に倣ったものである。EUでは事前登録制度のほか、特定のサービス等の提供に関しては販売者ではなく購入者にVAT(付加価値税)の納税義務を課すリバースチャージ制度によってこの問題に対処しようとしている。 (※5) なお、音楽データの配信・ダウンロード販売で先行する米アップル社は日本法人を通じて販売しているため、国内取引に該当し消費税が課されている。 (※6) 「国境を越えた役務の提供等に対する消費税の課税の在り方に関する研究会」をいう。同研究会における検討結果は、財務省主税局税制第二課「国境を越えた役務の提供等に対する消費税の課税の在り方について」(2013年11月)として公表されている。 財務省は消費税率が8%に上がる2014年4月1日からの新たな課税制度導入に向け準備を進めていたが、時期がずれ込み、実際には2014年における政府税制調査会での検討を経て、今般の税制改正へとつなげていったというのが導入経緯である。 (了)
改正電子帳簿保存法と企業実務 【第2回】 「スキャナ保存制度の規制緩和」 税理士 袖山 喜久造 (1) 規制緩和に至った経緯 【第1回】で電子帳簿保存法の承認件数が少ないことが問題であるということに触れたが、国税関係書類のスキャナ保存については、書類のスキャンデータの真正性を担保するための措置が非常に厳しくなり、スキャナ保存した場合の経費削減や業務効率化といった効果が紙保存よりも見られないことなどが申請件数が増加しない一番の理由であった。 このような中、政府の中長期的なIT戦略に基づき、平成25年6月には「世界最先端 IT 国家創造宣言」が提言され、現行の制度はインターネットが普及する前のアナログ社会を前提として構築されたものであり、デジタル社会が前提とされたものに変革する必要があるとされ、ITの利活用を阻害している原因を明確にし、規制改革を行っていくこととされていた。 国税関係書類のスキャナ保存制度については、制度創設以来ほぼ10年が経過するにもかかわらず大きな見直しもされず、民間企業等や関係業界団体からの規制緩和要望を踏まえ、「規制改革実施計画(平成26年6月24日閣議決定)」において、規制が厳しすぎるとし、スキャナ保存の要件緩和に係る指摘がなされた。 このような状況を踏まえ、国税庁は適正公平な課税を確保しつつ、電子保存によるコスト削減等を図る観点から、要件緩和等の検討を行い、平成27年度税制改正大綱に国税関係書類のスキャナ保存関連法律の改正が盛り込まれ、平成27年1月14日閣議決定され、同年3月31日に公布された。 (2) 規制緩和の内容 国税関係書類のスキャナ保存制度については、これまで厳しい入力要件や保存要件が義務付けられていたが、今般の規制緩和による法改正により、入力方法や保存に関する要件は規制緩和された。 一方で、納税義務の適正な履行の確保の観点からは、国税関係書類の適正な保存については十分な真正性の担保措置を取るべきであるということから、入力・保存体制についての新たな要件が付け加えられている。 これがいわゆる「適正事務処理要件」である。 大規模法人などにおいては一定の内部統制が図られるよう企業内の体制がとられている会社も多くみられるが、組織内の相互チェックが十分に働かない組織において国税関係書類のスキャナ入力の真正性を保てる体制が構築されていることを新たな要件としたのである。ただし、スキャナ入力前の紙の書類の改ざんについての防止措置は、今回の要件には含まれていない。 具体的な改正内容は以下のとおりである。 以上が規制緩和の内容になる。 国税関係書類のスキャナ保存の申請をするためには、まず帳簿がきちんと備付け、保存されているかどうかを確認する必要がある。帳簿については次回(【第3回】)で詳しく解説するが、帳簿は事業年度中に行ったすべての取引を法令の規定通りに記録し、法定保存年数保存する必要がある。その帳簿に記録された1件1件の仕訳の証憑となるのが国税関係書類であるからである。これらの帳簿と書類のスキャンデータは、相互に確認できる項目を持ち、どちらからでも特定ができるよう相互関連性を保持する必要がある。 紙又はデータによる帳簿と書類が正しく保存ができていることが、スキャナ保存の申請を行う第一歩である。 (出典)国税庁パンフレット「電子帳簿保存法におけるスキャナ保存の要件が改正されました(平成27年8月)」 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第15回】 「土地の賃貸借に関する契約書(駐車場賃貸借契約書)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 駐車場として土地を賃貸借するにあたり、駐車場賃貸借契約書を作成しました。印紙税の取扱いはどうなりますか? 記載金額のない第1号の2文書(土地の賃借権の設定に関する契約書)に該当し、印紙税額200円となる。 [検討1] 駐車場の賃貸借は土地の賃借権の設定に関する契約書に該当するか 駐車場における賃貸借の場合、考えられる事例は以下のとおりである。 事例は、土地の賃貸借に係る契約であり、課税文書に該当する。 しかし、駐車している車両の管理を行っている場合や、駐車場としての地面の整備又はフェンス、区画、建物の設置などをして駐車場として利用させる場合には、施設の賃貸借契約となり不課税文書となる。 [検討2] 土地の賃借権の設定に関する契約の記載金額は 第1号の2文書(土地の賃借権の設定に関する契約書)の記載金額は、設定の対価たる金額とされており、地代や賃借料は含まれない。なお、設定の対価たる金額には、権利金のほか、一般的に礼金や更新料とされており、後日返還が予定されない金額をいう。したがって、後日返還されることが予定されている保証金は契約金額には該当しない。 [検討3] 保証金の受領事実の記載があった場合 賃貸人が賃借人から保証金を受領した旨の記述が、契約書上に記載してあることから、賃借人が所持するものについては第17号の2文書(売上代金以外の金銭の受取書)にも該当するが、通則3のイの規定により、第1号の2文書(土地の賃貸借の設定に関する契約書)に該当する。 ▷ まとめ ◆所属の決定 ◆契約金額の意義(第1号の2文書(設定又は譲渡の対価たる金額)) (了)
〔平成27年分〕 相続税の申告実務の留意点 【第2回】 「小規模宅地等の評価減特例の改正」 ~特定居住用宅地等の適用対象面積の拡充、限度面積要件の緩和~ 税理士事務所ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 (1) 改正内容のポイント 平成25年度税制改正により、小規模宅地等の評価減特例(租税特別措置法69条の4)の改正が行われたが、そのうち、特定居住用宅地等の適用対象面積の拡充、限度面積要件の緩和については、平成27年1月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税について適用される(平成25年改正法附則1⑤ハ、85②)。 (2) 特定居住用宅地等の適用対象面積の拡充 ① 改正内容 特定居住用宅地等に係る適用対象面積の上限が、「240㎡」から「330㎡」へ拡充された(措法69の4②二)。 新たな適用上限面積330㎡は、財務省立法担当者によれは、以下の理由により設定されたものとされている(財務省「平成25年度税制改正の解説」587頁)。 ② 特定居住用宅地等の定義 特定居住用宅地等とは、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で、その被相続人の配偶者又は次に掲げる要件のいずれかを満たすその被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいう(措法69の4③二)。 特定居住用宅地等を一言で分かりやすく言えば、被相続人の居住していた家屋の敷地をイメージしておけば大半のケースでは正解となる。ただし、被相続人と生計を一にしていた親族の居住していた家屋の敷地も該当する可能性があるため(上記ハ)、該当するケースでは留意が必要である。 (3) 限度面積要件の緩和 ① 改正内容 特定事業用等宅地等及び特定居住用宅地等のみを特例の対象として選択する場合については、限度面積の調整を行わないこととし、それぞれの限度面積(特定事業用等宅地等400㎡、特定居住用宅地等330㎡)まで適用が可能とされた。ただし、貸付事業用宅地等を選択する場合については、従来どおりの調整を行う。 具体的には、次のとおりとなる。 ② 特定事業用等宅地等の定義 特定事業用等宅地等とは、「特定事業用宅地等」又は「特定同族会社事業用宅地等」をいう(措法69の4②一)。 (ア) 特定事業用宅地等とは 特定事業用宅地等とは、被相続人等の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業を除く。以下イ及びハにおいて同じ)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たすその被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものいう(措法69の4③一)。 特定事業用宅地等を一言で分かりやすく言えば、被相続人の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業以外。事業的規模でなく業務的規模である場合も含む)の用に供していた家屋の敷地をイメージしておけば大半のケースでは正解となる。 ただし、被相続人と生計を一にしていた親族の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業以外。事業的規模でなく業務的規模である場合も含む)の用に供していた家屋の敷地も該当する可能性があるため(上記ロ)、該当するケースでは留意が必要である。 (イ) 特定同族会社事業用宅地等とは 特定同族会社事業用宅地等とは、相続開始の直前において被相続人及びその被相続人の親族その他その被相続人と一定の特別の関係がある者が有する株式の総数又は出資の総額がその株式又は出資に係る法人の発行済株式の総数又は出資の総額の10分の5を超える法人の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業以外。事業的規模でなく業務的規模である場合も含む)の用に供されていた宅地等で、相続又は遺贈によりその宅地等を取得した個人のうちにその法人の役員であるその被相続人の親族がおり、その宅地等を取得した親族が相続開始の時から申告期限まで引き続きその宅地等を所有し、かつ、申告期限まで引き続きその法人の事業の用に供されている場合におけるその宅地等をいう(措法69の4③三)。 特定同族会社事業用宅地等を一言で分かりやすく言えば、被相続人と一定の関係がある同族会社の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業以外。事業的規模でなく業務的規模である場合も含む)の用に供していた家屋の敷地を想定すればよい。 ③ 貸付事業用宅地等の定義 貸付事業用宅地等とは、被相続人等の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業に限る。以下「貸付事業」という)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たすその被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいう(措法69の4③四)。 貸付事業用宅地等を一言で分かりやすく言えば、被相続人の不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業(業務的規模である場合も含む)の用に供していた家屋の敷地をイメージしておけば大半のケースでは正解となる。 ただし、被相続人と生計を一にしていた親族の不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業(業務的規模である場合も含む)の用に供していた家屋の敷地も該当する可能性があるため(上記ロ)、該当するケースでは留意が必要である。 (4) 相続税申告書様式 小規模宅地特例の適用面積は、相続税申告書様式の第11・11の2表の付表1で計算される。以下の赤線で囲んだ部分が、この税制改正により修正された部分である。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 なお、平成27年分以降用の小規模宅地等特例の適用にあたっては、自己申告する者の増加を見込んで、他の特例適用と混乱しないよう提出書類の明確化が図られている。平成26年分までとは様式番号が異なるため注意しておきたい(詳しくは下記を参照のこと)。 (5) 実務に与える影響・留意点 特定居住用宅地等の適用対象面積の拡充、限度面積要件の緩和という小規模宅地特例の改正により、小規模宅地特例の適用対象となる面積は増加するため、効果的に活用できれば相続税を圧縮できる可能性がある。 特に、特定居住用宅地等(上限330㎡、80%評価減)と特定事業用等宅地等(上限400㎡、80%)とは完全併用可能となったため、該当する相続税申告事案では従前と比較して大幅な税額圧縮となる可能性が高い。しかし、実務的には該当するケースは多くはないと推測され、多くは相続財産が自宅土地のみの場合、又は自宅土地に加えて賃貸アパート敷地を有している場合、であると推測される。 上記を踏まえて、以下、相続財産が①自宅土地のみの場合、②自宅土地に加えて賃貸アパート敷地を有している場合において、改正による影響を考慮する。 ① 相続財産が自宅のみの場合 この場合、特定居住用宅地等の適用対象面積が330㎡までに上限が引き上げられたことのみ影響がある。 ② 相続財産が自宅土地に加えて、賃貸アパート敷地を有している場合 この場合、特定居住用宅地等の適用対象面積が330㎡までに上限が引き上げられたことにより、特定居住用宅地等として適用可能な面積が増加するだけでなく、貸付事業用宅地等として適用できる面積が、改正前と比較して、増加する可能性がある。 事例を示したほうが理解しやすいため、以下事例で示すこととする。 《ケース》 自宅土地:200㎡ 賃貸アパート敷地:400㎡ いずれも小規模宅地特例の適用要件を満たし、かつ、同一価格の路線価に接道しているとする。 〈改正前〉 小規模宅地特例適用対象面積 ・自宅土地:200㎡(<上限240㎡) ・賃貸アパート土地:33.3㎡ (算定式) 条文に従い、算定過程を示すと以下の通りである。 ・200㎡×5/3+貸付事業用宅地等×2=400 ・貸付事業用宅地等=(400-200×5/3)÷2=33.3 〈改正後〉 小規模宅地特例適用対象面積 ・自宅土地:200㎡(<上限330㎡) ・賃貸アパート土地:78.7㎡ (算定式) 条文に従い、算定過程を示すと以下の通りである。 ・200㎡×200/330+貸付事業用宅地等=200 ・貸付事業用宅地等=200-200×200/330=78.7 (了)
〈要点確認〉 非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度 ~昨今の事業承継税制等をめぐる改正事項~ 【第3回】 「平成27年度税制改正事項の確認とケーススタディ」 エアーズ税理士法人 税理士 瀧尻 将都 従来、1代目経営者(先代経営者)より贈与税の納税猶予制度を利用して、株式を取得した2代目経営者が、1代目経営者が存命中に、その株式を3代目経営者に対して贈与する場合、納税猶予が打ち切られ、納税が必要となっていた。 このような取扱いであったのは、1代目から2代目への相続税について、世代飛ばしを認めない趣旨からであった。 高齢化が進むことにより、1代目が超高齢で2代目も高齢である場合、3代目に納税猶予制度が使えないケースが見受けられ、制度が硬直的であるという批判が大きかったことから、平成25年度改正に引き続き、要件緩和がなされた。 平成27年度改正においては、厳格な適用要件が設けられている経営贈与承継期間後であれば、後継者が贈与税の納税猶予の適用を受けることを前提に、経営承継受贈者に係る贈与税が免除される仕組みが法制化された。 また、この改正に伴い、経営贈与承継期間内であっても、経営承継受贈者が経営を継続するにやむを得ない事情があって代表権を喪失した場合には、後継者が贈与税の納税猶予の適用を受けることを前提に、経営承継受贈者に係る贈与税が免除されることとなった。これらの改正は、平成27年4月1日以後に贈与又は相続若しくは遺贈により取得する非上場株式等に係る贈与税又は相続税について適用される。 1 平成27年度改正後の事業承継税制の概要 ① 連続贈与の創設 経営贈与承継期間経過後に、経営承継受贈者(2代目経営者等)が後継者(3代目経営者等)へ特例受贈非上場株式等を贈与(以下「猶予継続贈与」という)した場合において、その後継者(3代目経営者等)が贈与税の納税猶予制度の適用を受けるときは、その適用を受ける特例受贈非上場株式等に係る猶予税額が免除される。 ② 贈与者が死亡した場合のみなし相続制度の改正 贈与者が死亡した場合のみなし相続制度は改正前と同じであるが、再贈与後の1代目経営者が死亡した場合、2代目経営者からの贈与ではなく、1代目経営者から3代目経営者に相続があったものとみなして取り扱うこととなった。この場合、1代目経営者から2代目経営者への贈与(もっとも古い贈与)時の価額が相続税の課税価格となる。 ③ 一定のやむを得ない場合の経営承継期間内の贈与制度の創設 経営贈与承継期間内に、経営承継受贈者(2代目経営者等)が後継者(3代目経営者等)へ特例受贈非上場株式等を贈与した場合(身体障害等のやむを得ない理由(注1)によりその経営承継受贈者が認定贈与承継会社の代表者でなくなった場合に限る)において、その後継者(3代目経営者等)が贈与税の納税猶予制度の適用を受けるときは、その適用を受ける特例受贈非上場株式等に係る猶予税額が免除される(注2)。 (注1) 「やむを得ない理由」とは、例えば介護保険法の規定による要介護認定(要介護状態区分が要介護5に該当するものに限る)を受けたことなどをいう。 (注2) 免除の際、提出することとされている免除届出書は、その贈与に係る贈与税の申告書を提出した日から6ヶ月を経過する日までに提出しなければならない。 ④ その他 認定承継会社等に係る認定事務が都道府県に移譲された。 2 連続贈与の場合のケーススタディ 再贈与が行われた場合、世代飛ばしが可能となり、株価対策を実質的な税負担をすることなく行える。従来、要件が厳しすぎることもあって敬遠されていた制度であるが、今後、有効な対策の1つになると考える。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第52回】 「法人税基本通達9-4-1の具体的内容」 公認会計士 佐藤 信祐 第47回から第51回までは、法人税基本通達9-6-1から9-6-3に規定されている貸倒損失の取扱いについて解説を行った。 本稿では、やや似た規定ではあるが、法人税基本通達9-4-1に規定する子会社整理損失について解説を行う。 7 子会社整理損失 (1) 概要 法人税基本通達9-4-1では、 と規定されている。なお、この場合における子会社等には、「当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる」と規定されている。 このような法人税基本通達9-4-1が設けられた趣旨として、国税庁のHPにおけるタックスアンサーN0.5280「子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等」では、Q2-3において、 としている。 すなわち、法人税基本通達9-4-1の趣旨は、親会社から他の者(一般的には他の債権者)に対して寄附行為があることを前提としながらも、経済合理性がある場合には、寄附金として取り扱わないというものであると考えられる。 (2) 子会社の解散における適用 このように、子会社の解散において法人税基本通達9-4-1を適用することができると考えられるが、実務上は、第48回で解説したように、和解型(対税型)の特別清算を行うことにより、法人税基本通達9-6-1(2)を適用する場面が増えてきている。 それでもなお、子会社の事業をグループ内で継続することが見込まれていない場合には、通常清算により法人税基本通達9-4-1を適用する場面もあり得ると考えられる。 具体的には、債権者平等の原則に反したうえで、親会社が優先的に債権放棄を行う場合が考えられる。そして、連帯保証を行っていなかったとしても、株主平等の原則に反したうえで、親会社が子会社の債務を引き受ける場合が考えられる。さらに、子会社の清算のための事務費用を負担するために、親会社が子会社に対して追加貸付けを行う場合が考えられる。法人税基本通達9-4-1はこのような場面を想定したものであり、多くのケースにおいて適用することが可能であると考えられる。 さらに、グループ法人税制導入前は、親会社が少数株主から子会社株式を買い取る際に、解散直前の時価ではなく、出資した金額で買い取るケースについて、「出資時の経緯からやむを得ないものであると判断される場合には、損金として認められ得ると考えられる。」(※)と解説した。しかしながら、グループ法人税制の導入により、100%子会社が解散し、残余財産が確定したとしても、子会社株式消却損を損金の額に算入することができなくなった(法法61の2⑯)。 (※) 拙稿「赤字子会社の整理に伴う税務Q&A」旬刊経理情報1019号23頁(平成15年) 実務上、このような少数株主からの子会社株式の買取りを行った場合には、買取後に100%子会社になるケースが多いと考えられる。すなわち、少数株主から子会社株式を買い取ったとしても、子会社株式の帳簿価額を引き上げるだけであり、子会社の残余財産の確定時に当該子会社株式の帳簿価額を損金の額に算入することができないため、実務上、このような買取りのために要した費用について、損金の額に算入することができるケースは稀であると考えられる。 (3) 子会社の売却における適用 赤字子会社のM&Aにおいて、買い手側が債務超過の解消を要請するケースは少なくない。さらに、平成10年代におけるM&Aでは、数年間の赤字の見込み額を考慮したいわゆる負ののれんに相当する金額についても、売り手側が負担することを要請してきたケースも存在した。 このような債務超過額や負ののれんに相当する金額の債権放棄については、法人税基本通達9-4-1が想定する「経営権の譲渡」に伴う債権放棄であり、同通達の要件を満たすケースは多いと思われる。 なお、実務上、M&Aの対象となる赤字子会社の繰越欠損金を維持したうえで債権放棄を行ってほしいというニーズが少なくない。このような要請に応えるために、第三者割当増資を行ったうえで、株式譲渡を行うという手法が考えられる。具体的には、以下の仕訳のようになる。 【親会社の仕訳】 ① 増資時 ② 株式譲渡時 【子会社の仕訳】 この手法であれば、赤字子会社の繰越欠損金は維持されるし、親会社において株式譲渡時に認識される株式譲渡損については、法人税基本通達9-4-1により損金の額に算入することが可能になる。 しかしながら、このような増資による債務超過の解消が株式の譲渡段階で損金の額に算入することができるのは「経営権の譲渡」に該当することが前提であり、グループ内で売買する場合には適用されないという点に留意が必要である。 次回では本連載の最終回として、法人税基本通達9-4-2の取扱いについて解説を行う。 (了)
会計上の『重要性』 判断基準を身につける ~目指そう!決算効率化~ 【第12回】 「重要性判断の実践事例③」 ~全面時価評価法とすしネタの時価表示 公認会計士 石王丸 周夫 今回は、連結財務諸表作成時の子会社の資産及び負債の評価における重要性判断を取り上げます。 まず手始めに、連結財務諸表作成手続に関する以下の問題にチャレンジしてみてください(解答は問題のすぐ下にあります)。 いかがでしたか。正解できたでしょうか。 やや細かな論点ですが、こんなところにも重要性判断が顔を出すことを知っておくと、役に立つことがあります。 以下、この解答について触れながら、解説していきます。 《重要性の原則の適用》 連結財務諸表の作成に当たっては、重要性の原則が適用されます。 連結財務諸表における重要性の原則については前回(第11回)でも触れましたが、企業会計基準第22 号「連結財務諸表に関する会計基準」の(注1)のとおりです。企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する利害関係者の判断を誤らせない限り、本来の厳密な会計処理方法に拠らないことができるというものです。 (注1)では、重要性の原則が適用される具体的項目を、例示としていくつか挙げています。 そのうちの1つが、今回取り上げる「子会社の資産及び負債の評価」です。 《評価差額で重要性を判断する》 連結貸借対照表の作成にあたっては、支配獲得日において、子会社の資産及び負債のすべてを支配獲得日の時価により評価する方法(全面時価評価法)により評価します。その評価額と当該資産及び負債の個別貸借対照表上の金額との差額を「評価差額」といい、子会社の資本とします。これが本来の厳密な会計処理です。 これに対して、重要性の原則を適用した場合はどうなるかというと、子会社の個別貸借対照表上の金額をそのまま据え置くことができるのです。これが簡便法です。 そして、この簡便法を適用できるケースはというと、企業会計基準第22 号「連結財務諸表に関する会計基準」第22項のとおり、評価差額に重要性が乏しい子会社の資産及び負債ということです。 ここで注意しておきたいのは、判断基準が評価差額の金額にあるという点です。 資産及び負債自体の金額ではないのです。 資産及び負債の額が少額であっても、評価差額が大きい場合は、重要性が乏しいとはいえないというわけです(⇒したがって、問題12のアの記述は誤りです)。 《評価差額の重要性は項目ごとに判断する》 子会社の資産及び負債の評価に関する重要性の原則の適用については、会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」第13項に、もう一歩踏み込んだ記述があります。 重要性の有無は、個々の貸借対照表項目の時価評価による簿価修正額ごとに判断するというものです(⇒したがって、問題12のイの記述は誤りです)。 なぜこのように判断するのか、その理由も同実務指針に書いてあります。第56項です。 簿価修正額について借方に発生するものと貸方に発生するものとを相殺して純額で判断すると、対象となる資産及び負債の実現時点に差が生じた場合、各実現年度の損益に大きな影響を及ぼすことになるからです(⇒したがって、問題12のウの記述は正しいです)。 では、個々の貸借対照表項目の時価評価による簿価修正額がいくらであれば、重要性が乏しいと判断してよいのでしょうか。 結論から言うと、「明らかに僅少な額」以下であれば、重要性が乏しいと判断してもまず問題にならないと考えられます。 子会社の資産及び負債の評価は、一見、連結貸借対照表の資産及び負債の残高にしか影響しないと思われがちですが、そうではありません。上に述べたとおり損益に影響が及ぶこともあります。したがって、重要性判断に際しては慎重を期す必要があり、明らかに些細なことを示す「明らかに僅少な額」を使用することが適当です。 実務的には、以上を踏まえて、貸借対照表項目のうち土地だけを時価評価するというケースがよく見られます。 寿司屋に例えれば、ネタごとの値段を表示している店で、大トロやアワビのような高級な(重要性の高い)ネタだけは「時価」としているようなものです。 《負ののれんが発生するケースも要注意》 子会社の資産及び負債の評価の省略が損益に影響を及ぼすことは、以下のようなケースからもわかります。 負ののれんが発生する資本連結のケースです。 評価差額を厳密に認識しているケースでは、資本連結の仕訳はこうなります。 親会社の投資勘定と子会社の資本勘定を相殺するに際して、子会社の資産及び負債の評価から発生した評価差額10も消去します。「負ののれん発生益」は貸借差額によって求められ、これは一括して連結損益計算書に利益計上されます。 一方、評価差額に重要性が乏しいと判断して、評価差額を認識しなかったケースでは、同じ資本連結の仕訳はこうなります。 評価差額を認識していないので、投資と資本の消去に際しても評価差額は出てきません。そして、その分だけ「負ののれん発生益」の金額が違ってきています。評価差額を認識するかどうかが、損益にまともに影響してくるのです。 この例から考えても、子会社の資産及び負債の評価を軽く考えてはいけないことがわかります。こうした点に留意して重要性判断を行っていくことが大切です。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第95回】 外貨建取引④ 「外貨建金銭債権債務の決算および決済時の処理」 仰星監査法人 公認会計士 上村 治 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① 取引実行時(X1年3月1日) (※1) 1,000ドル×100円/ドル=100,000円 ② 決算日(X1年3月31日) (※2) (108円/ドル-100円/ドル)×1,000ドル=8,000円 ③ 回収時(X1年4月30日) (※3) 1,000ドル×115円/ドル=115,000円 〈会計処理の解説〉 1 外貨建金銭債権債務の意義 外貨建金銭債権債務は、契約上の債権額または債務額が外国通貨で表示されている金銭債権債務をいいます(外貨基準注解4)。これには外貨預金が含まれます(外貨基準一.2.(1)①)。 2 取引実行時の会計処理 取引価格が外国通貨で表示されている物品の売買は外貨建取引です(外貨基準 注1)。そのため、取引発生時の為替レートで会計処理することになります(外貨基準一.1)。 事例では、製品の輸出取引を行っており、売上高・売掛金ともに取引発生時の為替レートである1ドル100円で会計処理されます。 3 決算日の会計処理 外貨建金銭債権債務については、決算時の為替レートにより換算します。また、決算時における換算により生じた換算差額は為替差損益として処理します(外貨基準一.2.(1)②)。 事例では、決算日において、売掛金1,000ドルを決算時の為替レートである1ドル108円で換算替えします。この換算替えにより生じる8,000円は為替差益として処理します。 なお、金銭債権債務ではない場合でも、決算時の為替レートにより換算する項目があります。それは、未収収益及び未払費用です。 未収収益および未払費用は計算期間末日における期日未到来の経過勘定であり、厳密には金銭債権債務ではありません。しかしながら、外貨建未収収益及び未払費用は、期日が到来した時点で外貨建金銭債権債務となり、将来に外貨の授受があることから、為替換算上、外貨建金銭債権債務に準じて処理します (外貨建取引等の会計処理に関する実務指針27、68)。 4 決済時の会計処理 外貨建金銭債権債務の決済に伴って生じた損益は、原則として、当期の為替差損益として処理します(外貨基準一.3)。 事例では、決算時の為替レートが1ドル108円であるのに対して、決済時の為替レートは115円であり、決済差額が7,000円生じるため、為替差益として処理します。 * * * 次回は、外貨建取引に関する会計処理のうち、外貨で授受した前渡金・前受金の会計処理について解説します。 (了)
[平成27年9月30日施行] 改正労働者派遣法のポイント 【第1回】 「労働者派遣法改正の背景」 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 第1回は、改正の内容をみる前に、なぜ今労働者派遣法が改正されたのか、改正の背景や目的について確認する。 1 改正の契機は「附帯決議」 今回の改正は、平成24年の労働者派遣法改正時に「附帯決議」として衆参両議院の厚生労働委員会で示された事項が契機となっている(【資料1】)。 参議院のサイトによると、「附帯決議とは、政府が法律を執行するに当たっての留意事項を示したものですが、実際には条文を修正するには至らなかったものの、これを附帯決議に盛り込むことにより、その後の運用に国会として注文を付けるといった態様のものもみられます」とある。附帯決議は、法的に拘束力を持つものではないが、決議事項についてはその後の取組について国会で確認されることになるため、政治的には拘束力を持つものとされている。 附帯決議をきっかけに検討がなされ、法律として成立することはしばしばみられるが、今回はまさにこの例であり、平成24年改正時に積み残された課題等について検討が行われ改正されるに至った。 【資料1】 2 わかりにくい現行制度 労働者派遣は、職業安定法で禁止されている「労働者供給」(=供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること)の例外として、“臨時的・一時的な労働力の需給調整手段”として“常用代替のおそれが少ないもの”、つまり、正社員の職場を奪わないことを前提に解禁された。このため、派遣可能期間には制限が設けられ(原則1年、上限3年)、3年を超える長期間の派遣は認めない仕組みとなっていた。 しかし、いわゆる「専門26業務」(政令で定めた業務(【資料2】)、平成24年改正により26業務から28業務へ変更)は、専門的な知識や特別の雇用管理が必要なため“常用代替のおそれがない”として、例外的に派遣可能期間に制限を設けず、長期間の労働者派遣が可能となっていた。 【資料2】 政令で定めた業務 「専門26業務」であれば派遣可能期間に制限がなく長期間の労働者派遣が可能なため、その該当性が重要になるのだが、「専門26業務」にあたるか否かについては判断に迷うことも多く、行政と企業で見解が異なる場面もみられた。また、「専門26業務」の周辺業務として、「付随業務」と「付随的な業務」という2つの考え方があり、派遣労働者を「付随業務」に従事させるのはいいが、「付随的な業務」に従事させる場合は業務全体の1割以下でなければならない等、複雑な仕組みとなっていた。 そこで、実務的にも判断に迷うことがないわかりやすい制度へ変更する必要があった。 3 「10.1問題」 法律の成立からわずか19日で、しかも、通常1日施行が多い中で30日施行となった背景には「10.1問題」がある。これは、平成24年改正時に創設された「労働契約申込みみなし制度」が平成27年10月1日から施行されることに伴い、労務トラブルが多発するのではないかと懸念されている問題だ。 ここで、「労働契約申込みみなし制度」について、改めてその概要を確認しておこう。 「労働契約申込みみなし制度」は、派遣先が違法派遣であることを知りながら派遣労働者を受け入れていた場合、違法状態が発生した時点で、その時点における同一の労働条件で派遣先が派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなす制度だ。 この制度の対象となる違法派遣は4タイプ(【資料3】)。これら4タイプのいずれかに平成27年10月1日以降該当していた場合は、派遣先の意向に関わらず、自動的に派遣先が派遣労働者へ労働契約の申込みをした扱いとなり、派遣労働者が承諾すれば労働契約が成立することになる。 【資料3】 労働契約申込みみなし制度の対象となる違法派遣 先述の「専門26業務」のわかりにくさを解消することは、違法派遣の4タイプのうち「③ 期間制限に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること」と関係する。 例えば、派遣先が「専門26業務」に該当していると考えて3年を超えて労働者派遣を受け入れていたところ、ある日、突然、派遣労働者から『私がやっている業務は「専門26業務」には該当しないのではないですか?既に3年を超えているので「労働契約申込みみなし制度」の対象となり、直接雇ってもらえると聞いたのですが。』と言われたらどうするか。「専門26業務」への該当性を明確に説明できる状況になければ、派遣先は対応に苦慮することになるだろう。 このような状況下で、トラブルを避けるために平成27年9月末までに終了する派遣契約が増えるのではないか、また、平成27年10月以降「労働契約申込みみなし制度」の適用を巡る訴訟が多発するのではないかと考えられていた。そこで、混乱を避けるためにも、期間制限の考え方に関するわかりにくさを10月1日前までに解消しておく必要があった。 4 改正の目的 今回の改正の目的としては、大きく次の3つがあげられる。 まず1つめは、実際に働く派遣労働者や派遣元・派遣先にとってわかりやすい制度にすることである。「専門26業務」にあたるかどうかで派遣可能期間の取扱いが大きく変わる現行制度を見直し、新しい考え方が導入されている。 2つめは、派遣労働者の雇用の安定と処遇改善を推進することである。リーマンショック以降に“派遣切り”が社会問題となり、平成24年改正から「派遣労働者の保護」が法律名にも明記され、派遣労働者を保護する施策が追加されたが、今回の改正でさらに付加されている。 3つめは、派遣事業への規制強化である。労働者派遣は法制定以降、派遣労働が可能となる対象業務を拡大する等の規制緩和を進めてきたが、悪質な派遣業者も少なからずいることから、平成24年改正より緩和から規制へと軸を変えている。今回の改正は派遣事業の許可そのものに関わる内容を含んでいる。 * * * 以上、労働者派遣法が改正された背景や改正の目的について確認したが、労働者派遣を導入して既に30年が経過し、運用上の不具合を是正する時期にきているといえるのではないだろうか。 【第2回】からは、個別の改正点についてみていく。 (了)
経産省研究会による 会社法の「法的論点に関する解釈指針」の ポイントと企業実務への影響 【後編】 西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 柴田 寛子 【前編】に続き、「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」(以下「本研究会」という)が2015年7月24日に公表した「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革」(以下「本報告書」という)の別紙3「法的論点に関する解釈指針」(以下「本指針」という)で示された内容と企業実務への影響について解説していく。 4 役員就任条件(報酬・会社補償・保険料負担・提訴判断) 本指針は、その第3項目として「役員就任条件(報酬・会社補償・保険料負担・提訴判断)」についての解釈指針を示している。 具体的には、①インセンティブを強化した役員報酬の導入、②役員に対する損害賠償請求についての会社補償の許容範囲、③会社役員賠償責任保険(D&O保険)の保険料負担の許容範囲、及び④会社が取締役に対する責任追及訴訟を提訴するか否かの判断プロセスの見直しの各項目について、現行法上の問題点の分析と新たな法解釈を示すものである。 また、これらの各項目の検討に共通して、役員としての責任を適切に限定・軽減することが積極的な職務執行へのインセンティブとして重要である一方で、責任限定・軽減には利益相反を伴うため、手続の適正を確保する必要があるという基本的視点が示されている。 (1) 役員報酬 会社法上、取締役の報酬は、株主総会の決議で定める必要があり(会社法361条1項)、その趣旨は、取締役同士の馴れ合いにより、過剰な報酬を支払うこと、つまり「お手盛り」の防止であると解されている(最判昭和60年3月26日)。 実務においては、株主総会における枠取り決議を行った後、個別の報酬は取締役会又は(取締役会により委任を受けた)代表取締役が決定している場合が多く、かかる報酬決定のプロセスも、上記趣旨に照らし適法であると解されている。 本指針は、報酬にインセンティブの機能を強化するべきとの基本方針を示すが、具体的な報酬内容の決定は、会社の経営戦略と密接に関連するものであるから、株主総会においてその内容を決定することが適切であるとは言い難いとする。したがって、現在の実務以上に、株主総会が報酬決定に関与することを求めるものではない。株主との関係については、むしろ、インセンティブ機能を分かりやすく開示する取組みが重要であるとされている。 報酬制度の決定プロセスに関して、本指針は、社外取締役の関与を求めている。現在の実務における報酬決定手続においては、株主と取締役との間の利益相反は、株主総会における枠取り決議により解消されているが、報酬枠の範囲内で取締役会に委任された具体的な報酬の配分の決定に際して、個々の取締役の配分決定における利益相反は完全には解消されていない。 このような取締役間の利益相反の解消の観点から、社外取締役を構成員とする委員会や社外取締役の同意や意見を得るとの決定プロセスを確保することが望ましいとされている。 (2) 会社補償の許容範囲 会社補償とは、役員がその職務に関して第三者から損害賠償責任を追及された場合に(会社法429条)、会社が当該損害賠償責任額や争訟費用を補償することをいう。 本指針は、役員の職務執行について、故意又は重過失による任務懈怠がない場合には、その職務執行に関し損害賠償を請求されることは、職務執行から生じる不可避的なリスクであり、会社にとっては費用と位置づけられるとの考え方に基づき、〈表3〉の要件を満たす場合には、現行法のもとでも、適法に会社補償を行うことができるとする。 〈表3〉 会社補償の要件 本指針において、補償契約の締結及びこれに基づく補償の実施について、株主総会の決議は不要との考え方が示されたことで(職務執行に伴う相当の費用であり、報酬には該当しないこと、また、利益相反については取締役会決議により解消されることの解釈に基づく)、実務における利用可能性は高まったと考えられる。 もっとも、取締役との利益相反的取引として、補償契約の内容については、事業報告や有価証券報告書での開示が必要となる可能性が高く、株主や投資家の監視には服すると解される。 また、上記の対象としているのは、取締役の第三者に対する責任であり、会社に対する責任は、会社法上の責任減免規定に基づくべきものであり(会社法424条から427条)、上記の対象外とされている点は念のため注意する必要がある。 (3) D&O保険料負担の許容範囲 現在の実務においては、D&O保険の保険料のうち、株主代表訴訟担保特約(代表訴訟に敗訴した場合における損害賠償金と争訟費用を担保する特約)部分の保険料(以下、「本保険料」という)は、役員個人が負担している。この実務は、一般的に、本保険料を会社が負担することは、利益相反・忠実義務違反の懸念があると考えられていることに基づく。 本指針は、役員の会社に対する損害賠償責任の有する意義を2つの観点から検討し、〈表4〉の整理を行うことにより、会社が本保険料を負担することに会社法上の問題点はなく、また、職務執行に伴う不可避的なリスクを緩和する適切なインセンティブと位置づけられるから、上記の利益相反・忠実義務違反の問題は生じないとする。 〈表4〉 会社による本保険料負担がもたらす影響の分析 もっとも、本指針も、会社による本保険料の負担には利益相反の要素があることは否定しておらず、これを解消する手続として、上記(2)の補償契約の締結についての手続要件(〈表3〉のイ)と同じ手続をとるべきことを提案している。 なお、本項目に関しては、現在の税実務では、会社が本保険料を負担した場合、役員に経済的利益の供与があったとして給与課税の対象となるとされている点に留意する必要がある(平成6年1月20日付け個別通達(課法8-2・課所4-2))。 本指針により、本保険料の会社負担について会社法上の問題点が解消された場合でも、負担額が給与所得の対象となるとの税実務に変更がない場合には、(現在も本保険料相当額を報酬に上乗せして支払われていることが多いため)役員にとって実質的なメリットは乏しく、インセンティブ付与との効果を発揮できない可能性がある。 (4) 責任追及訴訟の提訴判断 会社法上、会社が取締役に対して訴えを提起する場合、監査役が会社を代表し(会社法386条1項)、また、監査役が提訴の判断をすると解されている。加えて、株主代表訴訟において、株主が提訴請求すべき相手方は、監査役とされている(同条2項1号)。 これらの規律の趣旨は、取締役間の仲間意識により適切に提訴の判断がされない可能性を考慮して、取締役とは独立した立場にある監査役にその判断をさせるとの点にあり、決定手続の構造的な利益相反性に着目した手続規制である。 本指針は、上記の趣旨に鑑み、提訴判断は、社外取締役の監督機能を発揮すべき場面であり、監査役のみならず、社外取締役を積極的に関与させることが「実務上望ましい」とする。 また、本指針で直接には言及されていないが、将来的な検討課題として、社外取締役の監督機能を適切に活用した上で、監査役が合理的な不提訴の判断を行ったにもかかわらず、株主が代表訴訟を提訴した場合、裁判所が当該訴訟を却下できる仕組みの提案がなされている(経済産業省経済産業政策局産業組織課長・中原裕彦他「コーポレート・ガバナンスの実践〔下〕」商事法務2078号(2015年9月15日)29頁)。 5 新しい株式報酬の導入 本指針の最終項目は、新しい株式報酬の導入に関する解釈指針である。これは、海外において普及している、役員報酬として株式を直接に付与する制度が、日本では実施しにくいとの指摘を受けて、現行法制度のもとでも、それを実現するための解釈を示すものである。 具体的には、本指針は、報酬債権を現物出資することで、役員に対して株式を直接割り当てることが可能との解釈を示している。実務においては、このような割当方法については、仮装払込(会社法209条2項、213条の2、213条の3等)に該当するのではないかとの懸念があったが、報酬債権は株主総会の報酬決議を得ている(上記4(1)参照)ことを根拠に、上記懸念は当たらないとの解釈が示された。 もっとも、株式を直接に割り当てる制度の普及のためには、役職員向けのストック・オプションについての有価証券届出書の提出義務の免除(金融商品取引法4条1項1号、同施行令2条の12、開示府令2条1項・2項)と同様の特例の導入等、金融商品取引法の整備も必要であると考えられる。 さらに、実務では、株式報酬を含むインセンティブ報酬については、法人税法上、損金算入の認められる業績連動報酬の要件(法人税法34条1項各号)が極めて限定されているとの点が、その導入を妨げる一要因となっている。 この点については、本年8月25日に経済産業省が公表した「平成28年度税制改正に関する経済産業省要望」において、複数事業年度の経営指標を用いた業績連動報酬や株式報酬についても、損金算入を可能とする法改正が提案されている。 6 おわりに 以上の通り、本指針は、攻めの経営を可能とするためのインセンティブ強化(職務執行に伴う責任範囲の限定を含む)及び監督機能の確保という観点から、上記4つの項目について、その提言を実現するための法解釈を示すものである。 本指針の策定には、法務省民事局参事官室も参画していることから、従来、解釈上問題があると考えられてきた点についても、立法上の課題と明示されているものを除き、現時点においても、本指針示されている法解釈に依拠することは可能であると考えられる。 その意味で本指針は実務上非常に有用であるが、新制度の実現・普及には、本稿で検討した通り、税務及び金融商品取引法等の関連法制の見直しも併せて必要であり、今後の議論に引き続き注目する必要がある。 (連載了)