酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第124回】 「消費税法判例解析講座(その1)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 令和5年10月から消費税法においてインボイス制度がスタートした。同制度を巡っては、喧々諤々の賛否両論が展開されているが、国民の中には誤解に基づくと思われる議論を展開しているように見受けられるものもある。また、租税専門家の中の議論においても、間接税というものが、担税者と納税義務者を分かちえていることの本質論を無視したような議論や、税制改革法を念頭に置いていないような議論も散見されるのである。 この新たな制度が我が国として経験のないものであることからすれば、導入に当たっての混乱や誤解も無理のない話であるように思われるものの、他方で、今こそ、国民の租税、なかんずく消費税法についての理解が広がるべきであるとも思われる。そもそも、揮発油税や酒税などの間接税についての理解もままならない中にあって、消費税の法的性質を論じるに遅すぎるということはないであろう。 そこで、本連載において、消費税法に特化した議論を展開することとした。差し当たりは、重要と思われる消費税法上の裁判例等の解析を通じて、同法の本質に迫るような議論を展開したいと考えている。 かかる新たな連載の第1回目として、最高裁平成16年12月16日第一小法廷判決(民集58巻9号245頁)を取り上げることから始めてみよう。 1 消費税法30条7項の「保存」の意義(上) (1) 事案の概要 本件は、白色申告者のX(原告・控訴人・上告人)が、昭和63年分から平成2年分の所得税について確定申告をし、平成2年1月1日から同年12月31日までの消費税について確定申告をしなかったところ、税務署長Y(被告・被控訴人・被上告人)が、本件各係争年分について、Xの売上金額をもとに同業者比率により推計してその事業所得金額を算出し、Xに対し、所得税更正処分および過少申告加算税賦課決定処分、消費税決定処分および無申告加算税賦課決定処分(以下、併せて消費税決定処分等という。)をしたことに対し、Xが、消費税決定処分等は、Xが仕入税額控除に係る帳簿等を保存しているのに仕入税額控除を認めなかった違法があるなどとして、本件消費税決定処分等の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 税務調査において帳簿および請求書等を提示しなかった場合に、消費税法30条《仕入れに係る消費税額の控除》7項により仕入税額控除の適用が否定されるか。 (3) 判決の要旨 最高裁平成16年12月16日第一小法廷判決は次のように判示した。なお、判示における「法58条」とは、帳簿の備付けと保存義務を定める消費税法58条を指している(後述)。 (4) 解説 イ 消費税法58条 本件最高裁は、「事業者が、国内において行った課税仕入れに関し、法30条8項1号所定の事項が記載されている帳簿を保存している場合又は同条9項1号所定の書類で同号所定の事項が記載されている請求書等を保存している場合において、税務職員がそのいずれかを検査することにより課税仕入れの事実を調査することが可能であるときに限り、同条1項を適用することができることを明らかにするものであると解される。」としている。ここでは、消費税法は帳簿又は請求書等が検査の対象となり得ることを前提としているのであるから、「課税仕入れの事実を調査することが可能であるときに限り」仕入税額控除を適用することができると論じている。 なるほど、消費税法58条《帳簿の備付け等》は、「事業者・・・又は特例輸入者は、政令で定めるところにより、帳簿を備え付けてこれにその行った資産の譲渡等又は課税仕入れ若しくは課税貨物・・・の保税地域からの引取りに関する事項を記録し、かつ、当該帳簿を保存しなければならない。」と規定しており、帳簿の備付け、記録、保存を義務付けているが、このような規定は、所得課税法においても同様であると思われる。 消費税法58条のみを根拠として、帳簿又は請求書等の提示がなければ調査することが可能であるとはいえないから、同法30条1項に規定する仕入税額控除の適用がないということになるのであろうか。 もっとも、所得税法における必要経費の規定や法人税法における損金の規定は、課税標準の規定であることからすれば、税額控除の規定と単純に比較することはできないが、最高裁はその点、すなわち課税標準の後の計算であるからより厳格な要件が課されるなどという説示は展開していないのである。最高裁は単に、消費税法58条の規定のみを根拠として、「課税仕入れの事実を調査することが可能であるときに限り」仕入税額控除を適用し得るとしているのである。 ロ 税制改革法10条 税制改革法10条《消費税の創設》2項がある中にあって、課税の累積を排除する前段階控除方式が機能しない事態について特段の配慮を見せていない最高裁は、同法をどのようなものと捉えているのか必ずしも判然としない。すなわち、同条項は、「消費税は、事業者による商品の販売、役務の提供等の各段階において課税し、経済に対する中立性を確保するため、課税の累積を排除する方式によるものとし、その税率は、100分の3とする。この場合において、その仕組みについては、我が国における取引慣行及び納税者の事務負担に極力配慮したものとする。〔下線筆者〕」と規定し、「課税の累積を排除する方式」によるもの、すなわち前段階控除方式を採用したものが我が国の消費税であると明定しているのである。 かかる条項は、単なるプログラム的な規定として宣誓的意味合い以上のものを有していないと理解すべきなのであろうか。なるほど、消費税法本法を確認したところで、前段階控除方式であることや、課税の累積を排除するものであることなどという規定は存在しないのである。 消費税の性質論において、消費税法には例えば所得税法183条《源泉徴収義務》のような規定はないのであるから、預り金としての意味は全くないとか、さらに、納税義務者は事業者であって消費者ではないから、消費税が転嫁を前提とするものであるとの議論は成立し得ないなどという意見が散見されるが、税制改革法を無視したかのような議論に正当性はあるのであろうか。ここでは、税制改革法の示す内容が果たして、実定法の解釈論において如何なる意味を有するのかという点に関心が寄せられよう。 (続く)
谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第19回】 「国税通則法42条(41条~45条)」 -42条の「異質さ」と租税債権の本質- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 国税通則法42条(債権者代位権及び詐害行為取消権) 1 国税の納付及び徴収に関する「雑則」の中の債権者代位権及び詐害行為取消権 国税通則法第3章は「国税の納付及び徴収」について規定し、同章では第1節が「国税の納付」について、第2節が「国税の徴収」について、第3節が「雑則」についてそれぞれ規定している。 これらのうち「雑則」は、まさに雑多な事項に関する規定の集合体であるが、「第3節においては、国税の徴収の所轄庁その他前2節の手続に直接関連して必要な事項を規定している。」(武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)1841頁。志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)431頁も同旨)と述べられていることからすると、「雑則」のうち国税通則法43条(国税の徴収の所轄庁)、44条(更生手続等が開始した場合の徴収の所轄庁の特例)及び45条(税関長又は国税局長が徴収する場合の読替規定)こそが、本来的な意味での「雑則」であるように思われる。 そうすると、国税通則法41条(第三者の納付及びその代位)及び42条(債権者代位権及び詐害行為取消権)は、「雑則」の中でも「異質な」規定であるように思われる。もっとも、「41条の規定は、いわば国税の納付およびその効果に関する規定であるから、この章の『国税の納付及び徴収』という章題名のもとにおける雑則規定として設けておくよりも、むしろこの章第1節の『国税の納付』という節題名のもとにおいて規定しておいた方がよかつたのではないかと思われる。」(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])F331頁[吉良実執筆])という正当な指摘によれば、41条の「異質さ」は、規定位置による形式的なものに過ぎないように思われる。これに対して、 42条の「異質さ」については、租税債権の本質にまで立ち返って検討する必要があるように思われるので、以下で項を改めてこの点について検討することにする。 2 国税通則法42条の「異質さ」 国税通則法42条は債権者代位権及び詐害行為取消権に関する民法の規定(423条以下、424条以下)を国税の徴収に関して準用する旨を規定しているが、そもそもこれらの権利は債権の対外的効力として債権債務の当事者以外の第三者に対して主張することが認められるものである。この点については、「債権は相対権であるとはいえ、法的にその地位を保障された権利であるから、その権利内容が実現できるように、また、その権利の内容が危殆化されないように、第三者の行為(作為・不作為)に対して一定の介入をすることが認められるのである。」(潮見佳男『新債権総論Ⅰ』(信山社・2017年)633頁)と説明されるが、その説明は、両権利を「債権の効力を第三者に拡張する(債権の対外的効力)という視点から」(同635頁)ではなく「もっぱら責任財産保全の制度として捉える立場」(同頁。下線筆者)から説かれる、「債務者の一般財産(責任財産)が債権の引当てになっていることを基礎に据え、債権内容の実現が危殆化されたときに債務者の一般財産(責任財産)を保全して、これに続く強制執行に備えるために債権者に認められた権利が債権者代位権と詐害行為取消権であるとする」(同頁。下線筆者)考え方に基づくものである。 他方、税法の分野では、債権者代位権及び詐害行為取消権を定める民法の規定の準用について、一般に、次のような解説がされている(①中川=清永編・前掲書F393-F394頁[吉良執筆]、②志場ほか共編・前掲書528頁。下線筆者。武田監修・前掲書2191頁も同旨)。 このように、納付すべき税額の確定した国税に係る租税債権について、私債権と同様に、当該債権の引当てとなる債務者の一般財産(責任財産)に対する保全制度を設けることは、債権の性質及び効力の観点からも、租税債権保全ないし租税徴収確保という徴税政策の観点からも、合理的かつ妥当であると考えられる。ただ、それらの観点から、直ちに、債権者代位権及び詐害行為取消権に関する民法の規定の準用が要請されることになるかどうかは、検討しておくべき問題であるように思われる。すなわち、とりわけ徴税政策の観点からは、繰上請求制度等(前回参照)、担保の提供制度、第二次納税義務制度など他の租税債権保全・租税徴収確保措置も考えられ、実際に現行税法上も定められている以上、敢えて民法の規定を準用する意味を問い直しておくべきであるように思われるのである。 債権者代理権及び詐害行為取消権と上記のような他の租税債権保全・租税徴収確保措置との間には、適用要件の違いがあるのは当然のこととして、両者の決定的な違いは、前者が訴訟手続による実現(行政に自力執行権を付与しないこと)を前提とするのに対して、後者が行政手続による実現(行政に自力執行権を付与すること)を前提とする点にある(詐害行為取消権と第二次納税義務制度とりわけ税徴39条との関係については、品川芳宣『国税通則法講義-国税手続・争訟の法理と実務問題を解説-』(日本租税研究協会・2015年)124-126頁参照)。その意味でも、国税通則法42条は、同法第3章第3節の「雑則」の中では勿論のこと、同章(「国税の納付及び徴収」)の中でも、更にいえば、基本的には租税行政手続法としての同法それ自体の中でも、「異質な」規定であるとみてよかろう。 国税通則法42条のこのような「異質さ」は、このように、債権保全のための手続として私債権と同じく訴訟手続によること(行政に自力執行権を付与しないこと)に起因するが、より根本的には租税債権の本質にその淵源があると考えられる。この点について、次の3で検討することにする。 3 租税債権の本質 そもそも、租税債権は、その究極的根拠が国家の課税権にあり、課税権の発現形態の1つである(谷口教授と学ぶ「税法基本判例」第1回Ⅱ2参照)。ここにこそ租税債権の本質を見出すことができるが、これを論ずる前に、国家の課税権について筆者の考え方(憲法30条=29条「4項」論。拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【24】参照)を以下のとおり述べておくことにする。 筆者は国家の課税権ないしこれに基づく租税の存在意義を憲法29条の財産権保障との関係で論じてきた。すなわち、憲法は、国家の存在を前提にして、その体制として社会主義体制ではなく、自由主義体制を選択した上で、財産権を基本的人権の1つとして保障している。そのため、国家の資金調達として国家の財産所有及びこれを基礎とする営利経済による資金調達を予定することは、原理的にはできない。そうすると、国家体制の選択の段階で既に、租税による国家資金の調達が、憲法上予定されていることになる。 したがって、国家によって保障される私有財産制には、租税による財産権侵害が、その中核的内容として予め組み込まれている(内在している)、と考えられるのである。この点に関して、憲法における財産権保障規定(29条)と納税の義務規定(30条)との位置関係は、多分に歴史的偶然の所産とはいえ、暗示的である。後者はいわば憲法29条「4項」の如く位置づけられるべきであろう(憲法30条=29条「4項」論)。 このような考え方によれば、租税債権という意味での課税権は、国家が自身でも所有し得る財産について私人による所有を認める場合(私有財産制の保障)、その財産のいわば「代替物」としての租税という名の「国有財産」であるとみることができよう。そうすると、租税債権は、国家の課税権の発現形態の1つという意味では、「債権」とは称しながらも、むしろ物権的性格を有する権利とみるべきであろう。 租税債権に対するこのような見方によれば、債権者代位権及び詐害行為取消権は、むしろ物権的請求権として性格づけるべきであろう。租税債権に係る詐害行為取消権について納税義務の成立を適用要件として要求しない次の大阪高判平成2年9月27日訟月37巻10号1769頁のような考え方(佐賀地判昭和32年12月5日訟月4巻2号163頁、横浜地裁小田原支部判平成7年9月26日訟月42巻11号2566頁、通基通第42条関係6、中川=清永編・前掲書F429頁[吉良執筆]、志場ほか共編・前掲書534頁、武田監修・前掲書2198-2199頁、品川・前掲書122-124頁等参照。なお、反対説として中川一郎編『税法学体系〔全訂増補〕』(ぎょうせい・1977年)203頁[竹下重人執筆]、金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)1036頁等参照)は、詐害行為取消権を物権的妨害予防請求権とみていると解することもできよう(これに対して、民法424条3項参照)。 上記の考え方は、「租税債権の成立過程の特殊性」(中川=清永編・前掲書F429頁[吉良執筆]。武田監修・前掲書2198頁も同旨)を考慮したもののようであるが、しかしながら、その意味するところが「租税債権にあつては、それが税法の規定により一定時点において客観的に成立するものであり、また債務者を選択する自由がないところ」(税制調査会『国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)』(昭和36年7月)61頁)にあるとしても、そのような考慮によって民法の規定の「準用」を正当化することには租税法律主義に照らし疑義があるように思われる。 もし仮にそのような考慮が、前述のように租税債権の本質にまで立ち返って詐害行為取消権を捉える私見のような考え方に基づくものであるとしても、そのような権利は租税行政手続法としての国税通則法の規律事項の範囲を超えるものであることからすると、そのような権利を国税通則法で定めることは、国税通則法42条の「異質さ」の一言では片付けられない問題であり、国税通則法の「体系的構造」(第1回3参照)からしてもその想定を超えるものである。 以上の検討からすると、国税通則法が債権者代位権及び詐害行為取消権を租税債権保全・租税徴収確保措置として規定するのであれば、現行の42条のように民法の規定の準用によるのではなく、それらの適用要件を個別的かつ明確に定めるべきであると考えるところである。 (了)
〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第31回】 「いわゆる「消費者向け電気通信利用役務の提供」の インボイス制度における取扱いの変更点」 税理士 石川 幸恵 【Q】 国外事業者にレンタルサーバー代(※)を支払っています。この国外事業者は登録国外事業者でしたので、レンタルサーバー代につき令和5年9月まで仕入税額控除を受けてきました。令和5年10月以降、インボイス制度下での注意点を教えてください。 (※) レンタルサーバーの運営者は、ホームページ等のデータの置き場所とホームページ等を閲覧させるための仕組みを提供しています。 〔ポイント〕 登録国外事業者制度は廃止され、インボイス制度に移行します。 電気通信利用役務の提供のうち、事業者向け電気通信利用役務の提供以外のもの(以下「消費者向け電気通信利用役務の提供」といいます)は、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについての80%控除の経過措置の適用がありません。 * * * 【A】 登録国外事業者制度はインボイス制度に移行されます。したがって、適格請求書発行事業者である国外事業者から交付を受けた適格請求書の保存と帳簿の記載により、仕入税額控除が可能です。 (1) 「消費者向け電気通信利用役務の提供」の復習 消費者向け電気通信利用役務の提供については、平成27年10月から次のような取扱いとなっています。 ① レンタルサーバー代は「消費者向け電気通信利用役務の提供」に該当 「電気通信利用役務の提供」とは、インターネットを介して電子書籍や音楽を配信するサービスなどのことをいいます(消法2①八の三)。レンタルサーバーのサービスも「顧客に、クラウド上で顧客の電子データの保存を行う場所の提供を行うサービス」に該当することから、「電気通信利用役務の提供」に該当します。 レンタルサーバーのサービスは事業者・消費者ともに同じように利用できますので、事業者向けには当たらず、「消費者向け電気通信利用役務の提供」に当たると考えられます(消法2①八の四)。 ② 内外判定は国内取引 電気通信利用役務の提供の内外判定はサービスの受け手の本店所在地に拠ります(消法4③三)ので、国外の事業者に支払うレンタルサーバー代は国内取引です。 ③ 登録国外事業者かどうかの確認 区分記載請求書等保存方式においては、国税庁長官の登録を受けた登録国外事業者から受ける消費者向け電気通信利用役務の提供については、その仕入税額控除を行うことができるとされていました。 国税庁長官の登録を受けた登録国外事業者かどうかは登録国外事業者名簿で確認することができました。 (2) インボイス制度における消費者向け電気通信利用役務の提供の取扱い ① 登録国外事業者制度はインボイス制度に移行 登録国外事業者制度は廃止され、令和5年9月1日時点で登録国外事業者である国外事業者は適格請求書発行事業者に自動的に移行します。 ② 登録国外事業者の登録番号と適格請求書発行事業者の登録番号は異なる 登録国外事業者の登録番号は5桁でしたが、適格請求書発行事業者の登録番号は国内事業者と同様にT+13桁の法人番号になります。このため、インボイス制度開始後は国外事業者から交付された請求書に適格請求書発行事業者の登録番号(T+13桁)が記載されているかを確認してください。消費税率や消費税額等の記載の確認ももちろん必要です。 ただし、令和6年3月31日までは経過措置として5桁の国外登録事業者の登録番号を使用してもよいとされています。請求書に5桁の国外登録事業者の登録番号が記載されていた場合は、登録国外事業者名簿にて正しく登録されている事業者かどうかを検索してください。 ③ 80%控除の経過措置の適用がないことに注意 適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れについては、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの3年間は仕入税額相当額の80%を仕入税額とみなして控除できる経過措置があります(その後の3年間は50%)。適格請求書発行事業者でない国外事業者から受けた「消費者向け電気通信利用役務の提供」についてはこの経過措置が適用されず、全額控除不可となります(平成30年改正消令附則24)。 (了)
〈徹底分析〉 租税回避事案の最新傾向 【第13回】 「総則6項」 公認会計士 佐藤 信祐 15 判例分析(総則6項) (1) 最三小判令和4年4月19日(判タ1499号65頁) 令和4年4月19日に、原処分庁が、相続税の課税価格に算入される不動産の価額を財産評価基本通達に定める方法により評価するのではなく、異なる評価方法により評価した事件に対する最高裁判決が下された。 本事件は、借入れをしたうえで、賃貸用マンションを購入することで、相続税評価額を引き下げるという手法が用いられており、それほど珍しい手法であるという印象は受けなかったが、最高裁判所は、納税者を敗訴させ、国側の主張を認める判決を下した。 最高裁判所は、「租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される。そして、評価通達は相続財産の価額の評価の一般的な方法を定めたものであり、課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実であるから、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。もっとも、上記に述べたところに照らせば、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。」としたうえで、「被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。そうすると、本件各不動産の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきであるから、上記事情があるものということができる。」と判示した。なお、厳密には、本事件は、財産評価基本通達6項(以下、「総則6項」という。)の適用が争われた事件ではないのかもしれないが、実質的には変わらないことから、ここでは総則6項が争われた事件であるものとして解説を行うこととする。 上記の判決に対して、山本拓「判解」ジュリスト1581号95頁(令和5年)では、「同様のかい離は類似の不動産にも広く存在し得る以上、これを相続する潜在的な他の納税者と同じく通達評価額によったとしても租税負担の均衡が害されることはなく、むしろ、当該納税者についてのみ通達評価額を上回る価額によることは不合理というべきであろう(このようなかい離は、本来、評価通達の見直し等によって解消されるべきものといえる)。」としていることから、最高裁判所としても、国側の主張を認めながらも、一定の歯止めはかけたものと解される。その結果として、マンションの評価方法を定めた個別通達(居住用の区分所有財産の評価について)に係るパブリックコメントが公表されていることから、年内には当該個別通達が確定すると思われる(注)。そうなると、今後の不動産の評価に対する総則6項の適用可能性が問題になるが、本個別通達は、現在の不動産を用いた節税対策にすべて対応できているとはいえないことから、今後も総則6項が適用される余地があると考えられる。 (注) 本稿校了後に個別通達が公表されたが、本稿の内容に影響を与えるものではない。 さらに、山本前掲95頁では、「一定の行為がされた結果、通達評価額によると客観的に租税負担が著しく軽減されることを前提に、当該行為が租税負担の軽減をも意図して行われたものであることを指摘するものであり、主観的な意図のみによって合理的な理由を認める趣旨ではない(意図の強さが軽減の程度を補完するものでもない)と思われる。」としていることから、税負担減少の意図がそれほど重視されていない。そして、同96頁で「明確なスキームの企画・実行といったことまで必須とするものではなく、かつ、他の意図・目的とも併存し得ることを前提としていると考えられる。」としていることから、事業目的や経済合理性が十分に認められたとしても、総則6項が適用される余地が残されており、これは、法人税法132条に規定する同族会社等の行為又は計算の否認及び同法132条の2に規定する包括的租税回避防止規定との大きな違いであると考えられる。この点については、「なお、ここで問題となっているのは、時価に係る事実の(平等な)認定であり、いわゆる租税回避行為の否認ではない(括弧内省略)。本判決が、上記の判断に当たり、否認の根拠規定の有無や本件購入・借入れの経済合理性等を全く問題としていないのは、そのためであると考えられる。」としていることからも明らかである。 一例として、取引相場のない株式の評価について争われた名古屋国税不服審判所令和4年3月25日裁決TAINSコード:F0-3-858でも、遺留分対策のために行った取引であると納税者が主張したものの、遺留分対策であったとしても、相続が近い将来発生することを見越して行われたものであることを理由に、総則6項が適用されている。そのため、税負担減少以外の目的が主目的であったとしても、総則6項が適用される余地があるということになる。 こうなってくると、納税者の行為により相続税が著しく減少する行為については、税負担が減少することを知りながら行ったのであれば、たとえ税負担減少以外の目的が主目的であったとしても、総則6項が適用される可能性があるということになる。 そうなると、税理士の立場としても、なかなか相続税対策を提案することが難しくなってくるため、相続コンサルがやりにくくなってくるという問題がある。それだけであれば、税理士事務所の経営の問題に過ぎないことから、国税庁として配慮する必要はないと思われるが、税負担減少以外の目的が主目的である取引を行った結果として、相続税の負担が減少したことに対して総則6項が適用されかねないということになると、納税者の立場が極めて不安定になるという問題がある。そのため、今後、財産評価基本通達の改正又は追加的な個別通達の公表が行われることが期待される。 (2) 名古屋国税不服審判所令和4年3月25日裁決(TAINSコード:F0-3-858) 本事件は、取引相場のない株式に係る評価に対して総則6項が適用された事件である。本事件では、相続開始前に株式の異動を行ったことにより、相続税評価額が著しく下がっているだけでなく、株式の異動の中には、7,300百万円を借り入れたうえでの株式の購入も含まれていることから、不動産と取引相場のない株式という違いはあるものの、最三小判令和4年4月19日に類似した事件であるともいえる。 ただし、納税者の主張によると、相続開始前に行われた株式の異動は、遺留分対策が主目的であり、かつ、法人税又は所得税の問題が生じないように時価純資産価額で売買しているとのことである。すなわち、納税者らが行った行為に不自然さや不合理さはない。しかし、総則6項は租税回避の否認ではないことから、納税者の行った行為により相続税評価額が著しく引き下げられたのであれば、総則6項が適用される余地がある。 本事件では、「相続発生を見越して本件借入れ及び本件取得に相当するような行為を行わなかった納税者との間での実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであるといえるから、他の合理的な評価方法により、本件相続株式の適正な時価を評価すべき特別の事情があると認められる」としたうえで、DCF法、類似会社比準法及び修正簿価純資産法を折衷することで評価がなされている。すなわち、他の納税者が相続税評価額を算定する際に全く採用していない評価方法により評価を行うという点で、他の納税者との間に公平性があるかどうかが疑わしい。 本事件では、評価会社の子会社株式に対して類似業種比準方式を適用することにより、当該子会社が保有する現金預金や純資産価額が相続税評価額に反映されなかったことが問題視されている。しかしながら、類似業種比準方式を採用すると、評価会社又は子会社が保有する現金預金や純資産価額が相続税評価額に反映されない結果、相続税評価額が著しく安くなるという効果を利用した相続税対策は、多くの場面において行われており、それほど特殊な手法というわけではない。 さらに、株式を異動させるという行為だけでなく、評価会社又は子会社に特別損失を発生させることで年利益金額を引き下げ、一時的に相続税評価額を引き下げるという相続税対策についても、上記のロジックを適用すると総則6項が適用される余地があるということになる。そうなると、株価対策といわれている相続税評価額を引き下げるための対策のほとんどに対して総則6項が適用される余地があるということになり、納税者にとっても、事業承継対策がやりにくくなるという問題が生じる。 今後、どのような判例が公表されるのかが、現時点で明らかではないものの、相続税の軽減を目的とした行為に対しては、総則6項が適用されることがあり得るという整理になる可能性が高く、税理士としても株価対策を提案しにくくなるという問題が生じる。 この点については、特例事業承継税制の恒久化により対応することが望ましいという考え方もあり得るが、いわゆる富裕層優遇という批判を免れ得ないことから、そのハードルは高いと思われる。もちろん、事業承継の円滑化が必要であることまでは否定されていないことから、今後の動向を見守る必要がある。 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第32回】 「〔第5表〕課税時期前3年以内に取得した土地等及び建物等の 取得等の日の判定」 税理士 柴田 健次 Q 経営者甲(令和5年5月1日相続開始)が100%保有している甲株式会社の株式を長男が相続していますが、甲株式会社の資産の中にA土地があります。A土地は令和2年に古家付きの土地として購入しており、その後、古家の取壊しを行ったうえで、アスファルト舗装を行い、駐車場の用に供しています。 甲株式会社は3月決算で直前期末は令和5年3月31日となります。 A土地購入等に係る時系列及び詳細は、下記の通りとなります。 上記の場合に、甲株式会社の第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上するA土地、構築物の相続税評価額及び帳簿価額はそれぞれいくらになりますか。 なお、令和2年から令和5年までA土地の路線価に変動はないものとします。 また、純資産価額の計算においては、直前期末方式(直前期末の資産及び負債の帳簿価額に基づき評価する方式)により計算するものとします。 A 第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上する「3年以内取得土地等(A土地)」及び「3年以内取得家屋等(構築物)」の内訳は下記の通りとなります。 (※) 簡便的な処理方法として、「212,316千円」としての計上も認められます。 ◆ ◆ ◆ ① 3年以内取得土地等及び3年以内取得家屋等の計上金額 評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という)の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとされています。 この場合において、当該土地等又は当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとするとされています(評価通達185括弧書)。 帳簿価額が通常の取引価額として認められない場合として、買い急ぎや関連会社からの有利な価額による取得など適正な時価による取得として認められない場合や取得時期から課税時期までの間における地価の急騰や資材の高騰があった場合など取得時期と課税時期の時価に大きな変動があった場合が考えられます。 ② 取得等の日の判定 財産評価基本通達185括弧書における課税時期前3年以内に取得又は新築した場合における「取得等の日」の定義は、明らかにされていませんが、平成11年11月30日の東京地裁判決(TAINSコード:Z245-8540)では、旧租税特別措置法(以下「旧措置法」という)69条の4(相続開始前3年以内に取得等をした土地等又は建物等についての相続税の課税価格の計算の特例)に係る「取得等の日」の意義について、下記の通り判示しています。 上記の旧措置法69条の4は、昭和63年12月に創設され、平成8年3月の税制改正において廃止されたものとなりますが、この規定は、昭和末期のバブル期において相続開始前の土地等及び家屋等を取得することによる相続税対策が横行したことを背景として、個人が相続開始前3年以内に取得又は新築をした土地等及び家屋等について取得価額で課税するといった内容となります。この旧措置法69条の4は、あくまでも個人の取得に限られていましたが、法人においても同様の租税回避行為があったため、取引相場のない株式においても平成2年8月の財産評価基本通達の改正で課税時期前3年以内取得の取扱いが定められました。 なお、旧措置法69条の4は、地価高騰時においては「取得価額 < 時価」となり課税上の問題はありませんでしたが、反対に地価下落時においては、「取得価額 > 時価」となり、課税処分が憲法29条に規定する財産権の侵害に当たることになります。平成7年10月17日の大阪地裁判決(TAINSコード:Z214-7593)では、相続税の申告において、相続開始前3年以内に取得した土地等をその取得価額で評価するという特例は、地価急落時のような著しく不合理な結果を来すことが明らかな場合には適用できないとして納税者の主張を一部認めた事例となります。このような背景から、前述のとおり旧措置法69条の4は、平成8年3月の税制改正において廃止されましたが、財産評価基本通達185括弧書の課税時期前3年以内取得の取扱いは、廃止されませんでした。これは、財産評価基本通達185括弧書の評価方法は、取得価額ではなく、通常の取引価額(時価)と定め、あくまでも時価評価の観点から肯定され、旧措置法69条の4のような地価下落時においても財産権の侵害には当たらないためと考えられます。 旧措置法69条の4の規定と評価通達の取扱いを比較すると下記の通りとなります。 上記の通り、評価方法に差異はあるものの、取得時期や基本となる適用対象財産(土地等及び家屋等)については、同じとなります。 そして、旧租税特別措置法関係通達69の4-3は、「取得等の日」について、下記の通り規定しています。 なお、所得税においては、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、原則として資産の引渡しがあった日とし、例外として契約の効力発生日を認めています(所基通36-12)。ただし、相続税における取得は、所有権の取得を意味するため、売買契約日ではなく、引渡しが行われた日が取得日となります。 通常の売買契約においては、代金決済の日を資産の引渡日とされていることが実務上の慣行となりますが、その場合には、代金決済の日が取得日になります。本問の場合においても、売買契約書に売主は買主に売買代金全額の受領と同時に引渡しを行う旨が記載されていますので、残代金を支払った令和2年5月15日が土地の取得日となります。 ③ 本問の場合の当てはめ ■A土地の相続税評価額に計上するべき金額 直前期末基準を採用している場合においても相続開始を起算日として3年間遡りますので、令和2年5月1日から令和5年5月1日までの間に土地等及び家屋等を取得していれば、対象となります。本問の場合には、令和2年5月15日に土地を取得していますので、A土地は3年以内取得土地等に該当することになります。 相続税評価額に計上する金額は取得の日から課税時期までにおける路線価の変動がないため、通常の取引価額は、A土地の購入時の土地代金である200,000千円が相当かと考えられます。 仮に路線価の変動がある場合には、通常の取引価額をどのようにして求めるかは、実務上、判断に迷うことになりますが、考えられる方法として、不動産鑑定評価を行う方法、取得価額を基に時点修正を行う方法、相続開始時点における路線価による評価額に1.25倍をする方法等があります。 また、帳簿価額により計上する方法も認められていますが、本問における帳簿価額は、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用が含まれており、これらを除外していいかどうかについては明らかにされていないため、その判断に迷うことになります。 あくまでも財産評価基本通達185括弧書は、「帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとする。」とされていますので、これを厳密に解釈するのであれば、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用も帳簿価額に含まれているため、除外するべきではないと解されます。また、第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」は、相続税評価額と帳簿価額の差額として含み益を算出する目的もあり、帳簿価額には仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用が含まれているため、相続税評価額にも含めないと正しい含み益は算出できないため、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用は除外するべきではないという解釈もできます。 一方で、相続税評価額は、課税時期における通常の取引価額、すなわち時価とされていますので、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用は除外するべきであるという議論も当然あるかと思います。 現時点において、課税時期3年以内の土地等の相続税評価額の詳細な求め方は確立していないためあくまでも私見となりますが、「通常の取引価額」として相続税評価額を求めたという主張で帳簿価額の時点修正を行い、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用を除外したということであれば、通常の取引価額として認められることになろうかと思います。しかしながら、単に帳簿価額を使用するという場合には、簡便的な処理方法ということになりますので、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用を除外しないでそのまま計上することが相当かと考えます。 したがって、本問の場合には、通常の取引価額に相当する金額は200,000千円となりますが、簡便的な処理方法として帳簿価額212,316千円も認められるものと考えられます。 ■構築物の相続税評価額に計上するべき金額 3年以内取得土地等及び家屋等の範囲には、構築物もその範囲に含まれていますので、相続開始前3年以内に構築物を取得した場合には、構築物の評価は、通常の取引価額により計上することになり、実務的には、帳簿価額により計上することになります。 構築物の財産評価は、その構築物の再建築価額から、建築の時から課税時期までの期間(その期間に1年未満の端数があるときは、その端数は1年とする)の償却費の額の合計額又は減価の額を控除した金額の100分の70に相当する金額によって評価する(評価通達97)とされていますが、間違って100分の70を乗じないように注意する必要があります。 ☆実務上のポイント☆ 課税時期前3年以内の起算日は、直前期末ではなく、相続開始日となり、取得の日の判定は、原則として引渡日となります。3年以内取得土地等及び家屋等の相続税評価額に計上するべき金額は、原則として通常の取引価額であり、例外として帳簿価額を認めているという評価通達の規定を確認し、相続税評価額に計上すべき金額を検討する必要があります。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第58回】 「土地交換時の税務上の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 公認会計士・税理士 岩丸 涼一 相談内容 私(X)は、兄YとA土地を共有(2分の1持分)しています。A土地は祖父から遺贈により承継した物件で、この土地には父Z所有の建物があり父Zが居住しています。 私の父Z(90歳)は、B土地を所有していますが、父Zの財産のほとんどはこのB土地となっています。なお、B土地には私が所有する賃貸物件があります。 兄Yは遠方に居住しており、父Zの介護などは近隣に居住する私が日常的に行っているため、最近父Zから私所有の賃貸物件があるB土地を私に相続させたいという話がありました。ただ、当然ながら兄Yへの思いもありいくらかの財産を兄Yにも承継させたいようです。相続税評価額は下図の通りです。 B土地すべてを私が承継する前提で、兄Yが財産を相続する方法はありますでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 土地建物の交換をしたときの特例の利用 X所有の「A土地の2分の1持分」と父Z所有の「B土地の3分の1持分」を等価交換することが考えられます。これにより父Zの所有財産がA土地持分2分の1とB土地持分3分の2となります。 【現状】 【交換後】 当該交換は、原則的にそれぞれが土地を売却したものとして譲渡所得税の課税対象となります。ただし、以下の一定の要件を満たすことによりその譲渡がなかったものとする特例があり、これを「固定資産の交換の特例」といいます。 〈「固定資産の交換の特例」の要件〉(所法58) (※1) 共有持分の交換も、上記要件を満たせば本規定の適用があります。 なお、合理的に算定された時価(所基通58-12)の差額が20%以内であったとしても、贈与税の基礎控除額を大きく超える差額金額がある場合は贈与があったものと課税当局から指摘される可能性がありますのでご留意ください。この場合に交換差金(交換資産の差を精算するための金銭)を支払うこともありますが、交換に伴って相手方から金銭などの交換差金を受け取ったときは、その交換差金に相当する部分について譲渡があったものとして所得税の課税対象になる点にもご留意ください。 [2] 土地建物の交換をしたときの流通税の負担 不動産登記の際の登録免許税や不動産取得税には、譲渡所得税のような固定資産の交換の特例はありません。したがって、交換により不動産を取得した側には登記手続の際の登録免許税、及び不動産所得税が課税されます。 (※2) 不動産取得税の税率は原則4%ですが、2024年3月31日までの土地及び住宅の取得(交換)については3%に引き下げられています(※3)。なお、宅地に限って2024年3月31日まで、評価額の2分の1が課税標準額となっています。 (※3) 原則として不動産取得税申告書の提出が必要ですが、不動産を取得した日から30日以内に登記を申請した場合には申告は不要となります(東京都主税局ホームページ参照)。 [3] 結論 ご相談の場合、X所有の「A土地の2分の1持分」と父Z所有の「B土地の3分の1持分」を等価交換することで、父Zが取得した「A土地の2分の1持分」を兄Yへの相続財産とすることができます。 この場合、父Zが土地交換後に、「B土地の3分の2持分」はXへ相続承継させる、「A土地の2分の1持分」は兄Yへ相続承継させる旨の遺言書を作成することで「B土地の残り持分3分の2」をXに相続させるという父Zの意図に沿った承継が実現でき、父Zの希望も叶います。また、本件では遺留分の問題も生じません(相続税評価額ベースで、Xは2億円承継、兄Yは1億円承継、遺留分は0.75億円)。 それぞれの土地に含み益がある場合であっても上述した通り、一定の要件を満たすことで譲渡所得税は発生しませんので、事前にしっかりと検討する必要があります。一方、登録免許税及び不動産取得税の納税の必要が生じますので、事前にその金額を把握しておいた方がよいでしょう。 なお、相続前に土地交換を行わずB土地すべてをXへ相続させる遺言も考えられ、この場合であれば流通税(不動産取得税及び登録免許税)は相続時の税率を利用でき安価に抑えることができます。 ただし、万が一、兄Yが遺留分侵害請求を行い、これに伴い、相続時に土地を代物弁済するとなれば、譲渡所得税や流通税が原則通り生じ、また代償金を支払うとなればXに資金負担が生じることになります。 最終的にはご家族でどのような財産承継をしたいか、そしてその結果税務上どのような影響が生じるかの検討が必要であります。 実行についての具体的な判断は、税理士等の専門家と相談の上、決定されることをお勧めします。 (了)
租税争訟レポート 【第69回】 「税理士損害賠償請求事件~賠償額制限条項適用の有無 (福岡地方裁判所令和5年6月21日判決)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【判決の概要】 【事案の概要】 本件は、原告代表者が100%出資して平成27年2月16日に設立した、国内外の企業に対する経営コンサルティング事業、遊漁船の経営等を目的とする資本金300万円の株式会社である原告が、税理士である被告に消費税及び法人税の申告に関する事務処理を委任し、被告の指導・助言に従って4事業年度にわたり消費税の申告をしたところ、①課税事業者を選択した方が原告に有利であったのに免税事業者としたこと及び②本則課税のままであった方が原告に有利であったのに簡易課税事業者を選択したことにより、納付する必要のない消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という)を納めることになり、消費税等の還付を受けることができたのにこれを受けられなかったなどと主張して、被告に対し、民法415条の債務不履行又は同法709条の不法行為に基づき、損害賠償金合計605万3,951円及びこれに対する令和元年6月19日(催告日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 【福岡地方裁判所による判決の概要】 1 原告と被告との間の委嘱契約 判決によれば、原告と被告は、原告の開業に係る事業年度(第1期)である平成27年4月2日、原告に係る法人税及び消費税につき、税理士法2条1項の業務及び同条2項の付随業務に係る委嘱契約(本件委嘱契約)を締結した。 本件委嘱契約の報酬は、月次報酬として顧問報酬月額5万円、決算申告報酬として決算書類作成及び税務書類作成が月額顧問報酬の5ヶ月分、消費税決算料が月額顧問報酬の1ヶ月分とされた(いずれも消費税額は別)。 また、本件委嘱契約には、要旨、以下の定めがある。 2 争点 3 福岡地方裁判所の判断 福岡地方裁判所は、それぞれの争点について、以下のような判断を示した。 (1) 原告が「課税資産の譲渡等を行う事業者」に該当するか〔争点1〕 福岡地方裁判所は、事実認定に基づき、原告は、①平成27年2月に設立され、②同月に設立されたA(Inc.)との間で、本件業務委託契約を締結して、A社が行う商品の販売事業に係るコンサルタント業務等(商品の容器等の輸出業務を含む)を行い、A(Inc.)からこれに対する報酬等を得ていたこと、原告は、被告の指示により、第1期及び第2期においては消費税等の免税事業者であるところから、申告をしなかったものの、第3期及び第4期においては上記の業務に関して消費税等の申告及び納付を行ったことを挙げ、原告が上記のように事業として対価を得て行った役務の提供は、実体を伴うものであり、原告は、「資産の譲渡等」を行っているものといえるから、「課税資産の譲渡等を行う事業者」に該当するという判断を示した。 そのうえで、被告による、①仮装行為を行う目的で設立された会社同士で資産の譲渡等の形式がとられたとしても、仮装行為にすぎず、真実の資産の譲渡等はない、②本件業務委託契約は、薬事法違反の責めを免れ、法人税及び消費税の課税を免れるために締結された仮装行為であるから、民法94条1項により無効であること、脱法行為の手段として締結されたもので、公序良俗に反するものであるから、民法90条により無効であることから、A社と原告との間には、課税資産の譲渡等はないという主張に対して、裁判所は、現に原告が本件業務委託契約に基づいてコンサルタント業務を行い、A社からコンサルタント料等の支払を受けており、被告の助言に従い、消費税等の納税もしていたのであり、原告やA社が実体を伴わない仮装の会社であると認めるに足りる的確な証拠があるともいえないから、本件業務委託契約は、通謀虚偽表示であるとはいえないし、薬事法違反又は法人税及び消費税の課税を免れることを目的としたものとして公序良俗に反するともいえないとして、その主張を斥けた。 (2) 原告がベリーズ国に本店を置く株式会社であるA(Inc.)から受託したコンサルタント業務が輸出免税取引に該当するか〔争点2〕 裁判所は、原告がA社に対して行った本件コンサルタント業務という役務の提供が「非居住者」に対して行われる役務の提供に該当するか否か、具体的には、A社が本邦内に「主たる事務所」又は「支店、出張所その他の事務所」を有する法人であるか否かについて、下記の事実認定に基づき、原告とA社は、形式的にも実質的にも独立した別個の法人格であり、原告又は本件事務所がA社の「主たる事務所」又は「支店、出張所その他の事務所」に該当するとはいえないことから、A社は「非居住者」に該当し、原告がA社に対して行った本件コンサルタント業務という役務の提供は、消費税法施行令17条2項7号柱書にいう「非居住者に対して行われる役務の提供」に該当するという判断を示した。 そのうえで、被告による、①A(Inc.)の出資者は、全て日本の居住者であること、②本件事務所で行われているのはA社の業務だけであること、③A社が本件事務所の家賃及び諸経費を負担していることから、本件事務所がA社の「支店、出張所その他の事務所」に該当するという主張に対しては、本件事務所は、あくまで原告代表者が原告自身の業務を行うために賃借したものであり、現に、本件事務所では原告の業務が行われているのであり、A社の原告に対する本件事務所の賃料等の支払は、本件業務委託契約に基づいて行われるものであることに照らし、①A(Inc.)の出資者が全て日本の居住者であること、②原告による本件コンサルタント業務が本件事務所で行われていること、③本件事務所の賃料等が、一次的には原告が負担した後、コンサルタント料等と併せてA社に請求され、A社が原告に対して支払っていたことをもって、本件事務所がA社の事務所であると評価するには足りず、被告の主張は、採用することができないとして、斥けた。 (3) 被告の善管注意義務違反の有無〔争点3〕 裁判所は、被告の善管注意義務違反の有無について、次の3項目を検討したうえで、いずれも、被告は、善管注意義務に違反するという判断を行っている。 ① 第1期及び第2期において、課税事業者を選択しなかったこと 第1期及び第2期において、課税事業者を選択しなかったこと(免税事業者を選択したこと等)について、裁判所は、事実認定に基づき、原告の顧問税理士である被告は、本件委嘱契約に基づく善管注意義務の一環として、第1期及び第2期において、原告に対し、①免税事業者ではなく課税事業者を選択することを指示し、②商品の容器等の輸出について、その経理処理を立替金から販売代金に変更することを指示すべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、①事実関係等についての更なる詳細な調査等を行わないまま、原告が免税事業者を選択すべきとの合理性を欠く判断に基づき、漫然と原告に対して免税事業者の選択を指示し、かつ、②商品の容器等の輸出について経理処理の変更を指示しないままこれを放置し、よって、原告をして免税事業者として消費税等の申告をさせず、かつ、原告に消費税等の還付を受けさせなかったものであるから、善管注意義務に違反するというべきであるとの判断を行った。 ② 第3期及び第4期において、簡易課税事業者を選択したこと 第3期及び第4期において、簡易課税事業者を選択したこと(本則課税事業者のままにしなかったこと)等について、裁判所は、事実認定に基づき、原告の顧問税理士である被告は、本件委嘱契約に基づく善管注意義務の一環として、第3期において、原告に対し、①簡易課税事業者ではなく本則課税事業者を選択することを指示し、②商品の容器等の輸出について、その経理処理を立替金から販売代金に変更することを指示すべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、①原告が簡易課税事業者を選択すべきとの合理性を欠く判断に基づき、漫然と原告に対して簡易課税事業者の選択を指示し、被告において、管轄する税務署長に対し、原告の消費税簡易課税制度選択届出書を提出し、かつ、②商品の容器等の輸出について経理処理の変更を指示しないままこれを放置し、よって、第3期及び第4期において、原告をして、簡易課税制度の適用を前提とした消費税等を納付させ、かつ、消費税等の還付を受けさせなかったものであるから、善管注意義務に違反するというべきであるとの判断を行った。 ③ 第5期において、本則課税事業者に戻さなかったこと 第5期において、本則課税事業者に戻さなかったこと(簡易課税事業者のままにしたこと)について、裁判所は、事実認定に基づき、原告の顧問税理士である被告は、遅くとも平成30年6月1日の時点で、本件委嘱契約に基づく善管注意義務の一環として、原告が本則課税事業者と簡易課税事業者のいずれである方が有利であるかを検討し、本則課税事業者である方が有利であれば、第4期中に簡易課税不適用届出書を提出して、第5期中に本則課税事業者に戻す義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、第4期の期末(平成30年9月末日)までに簡易課税不適用届出書を提出せず、第5期も原告を簡易課税事業者のままにし、よって、第5期において、原告をして、簡易課税制度の適用を前提とした消費税等を納付させ、かつ、消費税等の還付を受けさせなかったものであるから、善管注意義務に違反するというべきであるとの判断を行った。 (4) 原告に生じた損害の有無及び額並びに因果関係〔争点4〕 裁判所は、原告について、①第1期から課税事業者を選択せず、②第3期に簡易課税事業者を選択し、③第5期に簡易課税事業者から本則課税事業者に戻るために必要となる簡易課税不適用届出書を提出しなかったことによって、原告に生じた損害額は、「還付を受けられなかった消費税等」が国内取引分で235万7,218円、輸出免税取引分で233万8,527円、「納付する必要のなかった消費税等」が29万5,800円であると認定した。 (5) 本件賠償額制限条項の適用の有無〔争点5〕 裁判所は、本件委嘱契約における本件賠償額制限条項について、被告に故意又は重大な過失がある場合において、本件賠償額制限条項により、被告の損害賠償義務の範囲が制限されるとすることは、著しく衡平を害するものであって、本件委嘱契約を締結した当事者の通常の意思に合致しないことから、本件賠償額制限条項は、被告に故意又は重大な過失がある場合には適用されないと解するのが相当であるとの判断の枠組みを示した。 そのうえで、上記(3)①から③の被告の善管注意義務違反のうち、①及び②については、被告の判断は、事実上又は法律上の基礎を全く欠いているものとまではいえず、通常あり得る程度の税制選択上の過誤にとどまるというべきであるとしたものの、③については、遅くとも平成30年6月1日の時点で、原告代表者との間で、原告が本則課税事業者と簡易課税事業者のいずれである方が有利であるかを検討し、本則課税事業者である方が有利であれば、第4期中に簡易課税不適用届出書を提出して、第5期中に本則課税事業者に戻すことを明示的に約したにもかかわらず、その検討を怠ったことによるものであることが認められる。そうすると、この点に関する被告の善管注意義務違反は、被告がほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態で行われたものといわざるを得ないとの判断を示して、被告に重大な過失があると結論づけた。 (6) 被告が賠償すべき損害額 裁判所は、被告による上記(3)③に掲げる善管注意義務違反によって原告に生じた損害については、本件賠償額制限条項は適用されず、被告は、その全額について賠償責任を負うため、原告が、第5期において「還付を受けられなかった消費税等」の国内取引分125万5,117円、輸出免税取引分36万9,379円、「納付する必要のなかった消費税等」9万4,000円の合計額171万8,496円に加えて、その余の善管注意義務違反によって生じた損害については、本件賠償額制限条項を適用して、被告は、被告が受けた利益を限度として賠償責任を負うため、本件委嘱契約における消費税決算料の報酬額である月額顧問報酬の1ヶ月分5万円の4期分として20万円の合計額191万8,496円が、被告が原告に対して賠償すべき損害額であると認定した。 【解説】 顧問先の税務申告に関して、もちろん、間違いや誤解のない判断をすることは大切であり、最大限心がけなければならないことではあるが、それでも、人間である以上、ミスを完全に防ぐことは難しい。本判決では、被告である税理士が思い込みによりいくつかの判断を誤り、あるいは重要な手続きを失念したことが争点となり、損害賠償額が争われた。 裁判所の判断の決め手となったのが、原告代表者と被告税理士のメールのやりとりであった。顧問先への説明責任を事後的に証明するツールとして、メールでの回答や文書の交付を行うことは広く利用されているが、本判決では、被告税理士が送信したメールの内容と、訴訟における被告の主張が齟齬を来してしまっており、その点が、「重大な過失」の判断につながったものと思料する。 1 簡易課税不適用届出書の提出失念 判決には、原告代表者と被告税理士とのメールのやりとりが複数、証拠として採用されている。裁判所が認定した事実関係によれば、平成31年2月14日、原告代表者から被告へのメールで、「簡易課税の正当性についての証明」を求められた被告税理士は、明らかに誤った回答をしているようである。 さらに、被告税理士は、簡易課税不適用届出書を提出しなかった点については、次のとおり、謝罪している。 ところが、裁判では、被告は、こうした事実とまったく異なる主張を展開する。第4期中に簡易課税不適用届出書を提出しなかったことに対して、被告は、①第4期中に簡易課税不適用届出書を提出して第5期中に本則課税事業者に戻すことの合意をしていない、②仕入れ分と売上げの明細を明らかにしてもらわなければ簡易課税事業者と本則課税事業者のいずれである方が有利であるかを判断できないため、原告に対し、輸出取引になる売上げと仕入れに関する資料の提出を依頼したが、原告は、第4期の最終日である平成30年9月30日までに資料を提出しなかったため、上記判断をすることができないままになってしまった、③被告が請求書の品番等を見てもどれが容器等に該当するかの判断はできないし、原告は、被告に対し、当初から立替払処理であると説明していたことから、請求書のどの金額が容器等に該当するかの確認までは不可能であると主張した。 これに対して、裁判所は、①の点は、証拠に反する主張であるといわざるを得ないと断じ、②・③の点は、原告は、毎月の被告との打合せの前に、被告に対し、関係帳票を送付しており、この中には容器等の仕入れ先からの請求書も含まれていたのであるから、これを見れば、被告において、どれが容器等に該当するのか、輸出取引になる売上げと仕入れはどれなのかを把握することができたといえるとして、被告の主張を斥けているが、当然の判断であると評価できよう。 2 税理士はどこまで顧問先の事業内容を把握しなければならないか 判決の中で、被告である税理士は、自らの善管注意義務違反に関して、原告が被告に対して説明していない点についてまで、被告が原告の事業内容を把握するために質問したり調査したりする義務はないと主張したが、福岡地方裁判所は、これに対して、「そもそも税理士は、税務に関する法令及び実務の専門知識を駆使し、かつ、依頼者からの事情聴取、適正な調査等を行うなどして、税制の有利選択の判断に必要な程度まで事実関係を把握し、税理士業務を行うもの」であるとの判断を示したうえで、「被告は、原告との間で本件委嘱契約を締結し、原告の顧問税理士として、原告に係る法人税及び消費税に関する税理士業務を行っていたこと」からも、被告の主張は、採用することができないとして斥けている。 税理士として、顧客の事業内容を把握することの重要性が、この判決においても改めて裁判所から説示されたと考える。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第91回】 「冷凍倉庫事件」 ~最判平成22年6月3日(民集64巻4号1010頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
リース会計基準(案)を学ぶ 【第7回】 「借手のリースの会計処理③」 -短期リース、少額リースなど- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 【第5回】及び【第6回】に続き、借手のリースの会計処理について解説する。 今回は、短期リース、少額リースなどについて解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 短期リースに関する簡便的な取扱い 「短期リース」とは、リース開始日において、借手のリース期間が12ヶ月以内であるリースをいう(リース適用指針(案)4項(2))。 借手は、短期リースについて、リース会計基準(案)31項の定めにかかわらず、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができる(リース適用指針(案)18項、BC30項)。 借手は、当該短期リースに関する簡便的な取扱いについて、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごとに適用するか否かを選択することができる(リース適用指針(案)18項、BC31項)。 なお、連結財務諸表においては、個別財務諸表において個別貸借対照表に表示するであろう科目ごとに行ったリース適用指針(案)18項の選択を見直さないことができる(リース適用指針(案)19項)。 Ⅲ 少額リースに関する簡便的な取扱い 借手は、次の(1)又は(2)について、リース会計基準(案)31項の定めにかかわらず、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができる(リース適用指針(案)20項)。 なお、(2)については、①又は②のいずれかを選択できるものとし、選択した方法を首尾一貫して適用する(リース適用指針(案)20項(2)、BC35項)。 Ⅳ 使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合の取扱い 使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合は、次のいずれかの方法を適用することができる(リース適用指針(案)37項、[設例9-1])。 使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合とは、未経過の借手のリース料の期末残高(リース適用指針(案)18項及び20項によりリース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することとしたものや、リース適用指針(案)36項に従い利息相当額を利息法により各期に配分している使用権資産に係るものを除く)が当該期末残高、有形固定資産及び無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10%未満である場合である(リース適用指針(案)38項)。 なお、連結財務諸表においては、リース適用指針(案)38項の判定を、連結財務諸表の数値を基礎として見直すことができる。見直した結果、個別財務諸表の結果の修正を行う場合、連結修正仕訳で修正を行う(リース適用指針(案)39項)。 Ⅴ 資産除去債務 借手は、「資産除去債務に関する会計基準」(企業会計基準第18号)7項に従い、資産除去債務を負債として計上する場合の関連する有形固定資産が使用権資産であるとき、当該負債の計上額と同額を当該使用権資産の帳簿価額に加える(リース適用指針(案)25項、BC48項)。 Ⅵ 建設協力金等 建設協力金等について、差入企業である借手は、差入預託保証金の支払額と時価との差額を使用権資産の取得価額に含める(リース適用指針(案)26項)。 建設協力金等及び敷金については、これらが金融商品に該当する(「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号)10項)ことから、関連する定めは金融商品実務指針に記載されている(リース適用指針(案)BC49項)。 しかしながら、これらの項目は、主にリースの締結により生じる項目であるため、リース適用指針(案)では、これらの具体的な会計処理の定めについては、金融商品実務指針から削除し、リース適用指針(案)において定めることとした(リース適用指針(案)26項から33項、BC49項)。 Ⅶ 敷金 差入企業である借手は、差入敷金のうち、差入敷金の預り企業である貸手から差入企業である借手に返還されないことが契約上定められている金額を使用権資産の取得価額に含める(リース適用指針(案)31項)。 Ⅷ 使用権資産の減損 リース会計基準(案)等においては、これまでオペレーティング・リース取引として資産を計上していなかったリースも含め、借手のすべてのリースについて使用権資産を計上することとしている(「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正(案)BC4項)。 このため、貸借対照表に計上される使用権資産について減損会計基準を適用することとし、ファイナンス・リースのうち通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行っているリースについて、当該リース資産の未経過リース料の現在価値を当該リース資産の帳簿価額とみなして減損会計基準を適用する定めは原則として削除することとしている(「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正(案)BC4項)。 リース会計基準(案)の開発に際して、「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」の改正についても検討され、その審議の過程では、使用権資産への減損会計基準の適用に関する具体的な取扱いを定めてはどうかとの意見が聞かれたとのことである。具体的には、国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」の適用時において、使用権資産への減損会計の適用に混乱が見受けられた論点について明らかにすることを求める意見である(「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(案)144-2項)。 当該論点は、使用権資産とリース負債を合わせて減損会計の単位と捉えることで、使用権資産の減損処理が不要であるとする誤解があったというものであるとのことである(「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(案)144-3項)。 この点、「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(案)では、使用権資産への減損会計基準の適用時におけるリース負債に関する取扱いを定めないこととしたとのことである(「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(案)144-3項)。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2023年9月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年9月1日から9月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 企業内容等開示関係 「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第66号)が公布されている。 新規公開(IPO)の公開価格設定プロセス等について見直すものであり、上場承認前届出書の記載事項に関する改正である。 Ⅲ 内部統制関係 内部統制関係として次のものが公表されている。 ① 「内部統制報告制度に関するQ&A」等の改訂について(内容:企業会計審議会の意見書の公表を受けて改訂する。金融庁) ② 財務報告内部統制監査基準報告書第1号周知文書第1号「「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(2023年4月)等を受けた内部統制監査上の留意事項に関する周知文書」(内容:改訂内部統制基準及び内部統制実施基準等に基づく内部統制監査業務を実施するに当たって、日本公認会計士協会の会員の実務の参考に資するもの。日本公認会計士協会) Ⅳ 「企業買収における行動指針」 経済産業省から次のものが公表されている。 上場会社の経営支配権を取得する買収を巡る様々な論点を取り扱っている。 〇 「企業買収における行動指針―企業価値の向上と株主利益の確保に向けて―」 Ⅴ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 業種別委員会研究資料「Web3.0関連企業における監査受嘱上の課題に関する研究資料」(公開草案)(内容:暗号資産やNFT(Non-Fungible Token)などのトークン(電子的な記録・記号)を活用するWeb3.0ビジネスに関連する監査受嘱について記載。意見募集期間は2023年10月6日まで) ② 倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正、倫理規則研究文書第1号「倫理規則に基づく報酬関連情報の開示に関するQ&A(研究文書)」 及び「公開草案に対するコメントの概要及び対応」(内容:会計事務所等が改正倫理規則に基づいて報酬関連情報の集計、算定及び開示を行う際の実務上の参考となる考え方を示すもの) (了)