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〈一問一答〉副業・兼業に関する担当者のギモン 【第5回】「副業・兼業先との労働時間の通算」

〈一問一答〉 副業・兼業に関する担当者のギモン 【第5回】 「副業・兼業先との労働時間の通算」   弁護士法人東町法律事務所 弁護士 木下 雅之   ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 労働時間の通算 労働基準法第38条第1項は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定する。 かかる規定は、戦前の工場法に由来し、昼間は甲工場で労働し、夜間は乙工場で労働するというような場合の長時間労働から労働者を保護する趣旨である。 ここでいう「事業場を異にする場合」の意味について、行政解釈は、同一事業主に属する異なった事業場において労働する場合のみならず、事業主を異にする事業場において労働する場合も含まれるとしており(昭和23年5月14日基発第769号)、副業・兼業ガイドラインの内容も、かかる行政解釈を前提としている(副業・兼業ガイドライン3(2)、副業・兼業Q&A・Q1-1、令和2年9月1日基発0901第3号)。 したがって、従業員の副業・兼業を認める場合、本業先の企業は、副業・兼業先の下での従業員の労働時間も通算して、労働基準法の労働時間に関する規定を遵守しなければならない。 なお、労働基準法第38条第1項は、労働基準法の労働時間規制の適用について労働時間を通算する規定であるため、一方の事業主との関係で、労働時間規制の適用を受けない場合(フリーランス等の自営的就労型の副業・兼業の場合や、管理監督者に該当する場合など)には、労働時間は通算されない(副業・兼業ガイドライン3(2)ア(ア))。   2 労働時間通算の具体的な方法(ルール) 副業・兼業ガイドラインによると、副業・兼業の場合における労働時間通算の基本的な考え方は、次のとおり整理されている(副業・兼業Q&A・Q1-1)。 具体的な事例ごとに、労働時間の通算方法を見ていく。 〈事例1〉 まず、上記(ア)のルールに従い、「労働契約の締結の先後」の順に「所定労働時間」を通算するので、①A事業場における所定労働時間8時間、②B事業場における所定労働時間2時間の順に通算することとなる。 ①の時点で、1日の法定労働時間(8時間)に達するので、②のB事業場で行う2時間の労働は法定時間外労働となり、使用者Bは、当該2時間について割増賃金の支払義務を負う。 〈事例2〉 〈事例1〉とは労働の順序が逆になっている。この場合も、まずは上記(ア)のルールに従い、①A事業場における所定労働時間8時間、②B事業場における所定労働時間2時間の順に通算する。 ①の時点で、1日の法定労働時間(8時間)に達するので、②のB事業場で行う7時~9時の2時間の労働は法定時間外労働となり、使用者Bは、当該2時間について割増賃金の支払義務を負う。 〈事例3〉 残業が発生する場合の通算である。まず、上記(ア)のルールに従い、「労働契約の締結の先後」の順に「所定労働時間」を通算するので、①A事業場における所定労働時間3時間、②B事業場における所定労働時間3時間の順に通算することとなる。この例の場合、所定労働時間を通算しても1日6時間に留まり、1日の法定労働時間を超えていない。 次に、上記(イ)のルールに従って、「労働の先後」の順に「所定外労働時間」を通算するので、③B事業場における所定外労働時間1時間(通算後の所定労働時間との合計7時間)、④A事業場における所定外労働時間2時間(合計9時間)の順に通算することとなる。 ④の時点で、1日の法定労働時間(8時間)に達するので、A事業場で行う18時~19時の1時間の労働は法定時間外労働となり、使用者Aは、当該1時間について割増賃金の支払義務を負う。   3 副業・兼業先における労働時間の把握方法 副業・兼業ガイドラインが示す労働時間通算の基本となる通算方法は上記2のとおりであるが、かかる労働時間の通算管理を行うためには、副業・兼業先における労働者の実労働時間を把握する必要がある。 しかしながら、異なる使用者間において、日常的に当該労働者の実労働時間に係る情報を共有することは、実務上困難である場合が少なくない。 そこで、副業・兼業ガイドラインは、副業・兼業先の下での実労働時間について、労働者からの自己申告によって把握する方法を許容している(副業・兼業ガイドライン3(2)ウ(ア)b)。 また、自己申告による実労働時間把握の頻度について、副業・兼業ガイドラインは、必ずしも日々把握する必要はなく、例えば、一定の日数分をまとめて申告させる、所定労働時間どおり労働した場合には申告等を求めず、実労働時間が所定労働時間どおりでなかった場合のみ申告等をさせるなど、労働基準法を遵守するために必要な頻度で把握すれば足りるとしている(副業・兼業ガイドライン3(2)ウ(ウ)c)。   4 管理モデル 上記3のとおり、副業・兼業ガイドラインは、異なる使用者間において日常的に当該労働者の実労働時間にかかる情報を共有することの実務上の困難等から、労働者の自己申告による実労働時間の把握を許容しているが、それでも副業・兼業の日数が多い場合や本業先、副業・兼業先の双方において所定時間外労働がある場合等においては、労働時間の通算管理において、労使双方に手続上の負担が伴う。 そこで、副業・兼業ガイドラインは、簡便な労働時間管理の方法として、いわゆる「管理モデル」の選択肢を提案しているが、管理モデルの具体的内容については、次回解説することとしたい。 (了)

#No. 541(掲載号)
#木下 雅之
2023/10/26

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例88】株式会社ネクステージ「代表取締役の異動に関するお知らせ」(2023.9.11)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例88】 株式会社ネクステージ 「代表取締役の異動に関するお知らせ」 (2023.9.11)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社ネクステージ(以下「ネクステージ」という)が2023年9月11日に開示した「代表取締役の異動に関するお知らせ」である。同社の代表取締役社長である浜脇浩次氏(以下「浜脇氏」という)が退任し、同社の創業者でもある代表取締役会長の広田靖治氏が代表取締役会長兼社長に就任するという内容だが、「異動の理由」には次のような記載がある(下線は筆者による)。 この記載によると、インセンティブとともに、浜脇氏自身も「不適切と評価される事象」の「発生する要因や環境そのもの」のようである。同社の有価証券報告書によると、同氏は2016年に社外から取締役副社長に就任し、2022年に代表取締役社長に就任している。もともと期待されていたのだろうし、取締役副社長就任以来の働きも評価されていたのだろう。「不適切と評価される事象」の「発生する要因や環境そのもの」としながら、他方では「生涯取引の拡大に尽力」と同氏をたたえるような表現もある(「生涯取引」は「渉外取引」の誤りだろうか)。   2 なぜ第三者委員会を設置しないのか? 「詳細につきましては、当社IRサイトに掲載しております、2023年9月1日付の『報道機関様からのご質問状につきまして』に記載」とあるように、ネクステージは、「不適切と評価される事象」について、適時開示ではなく自社のホームページ上で開示している。 2023年9月1日に「報道機関様からのご質問状につきまして」を、9月8日に「株式会社文藝春秋様からのご質問状につきまして」を自社のホームページ上に掲載しているのだが(「株式会社文藝春秋様からのご質問状につきまして」の記載から「報道機関様からのご質問状につきまして」の「報道機関」は株式会社文藝春秋だと分かる)、報道機関からの個別の質問に回答する形で記載されており、「不適切と評価される事象」について詳細に説明しようとはしていない。それらの記載から、「それらの事象を隠蔽等することなく、関係各所に正しく報告」の「関係各所」に投資家が含まれていないことが分かるし、それらの開示も、投資家に対する正しい報告の仕方とはいえない。 9月8日には「当社に対する報道等につきまして」も自社のホームページ上に掲載している。その全文は次のとおりである(下線は筆者による)。 まず投資家が知りたいのは「不適切事案」の詳細とその原因だが、「報道機関様からのご質問状につきまして」を「詳細な内容」といっている時点で、プライム企業の開示姿勢とは思えない。また、「不適切事案」への対応が、その都度関係者を処分するといった場当たり的なもので、その根本原因を突き止めようとはしていない。「当社の企業風土とは無関係」と主張しても、まったく説得力がない。 なぜ同社は第三者委員会を設置しないのだろうか。第三者委員会に調査してもらって、すべてを明らかにしてもらわない限り、理解してもらうのは難しいだろう。「然るべき法的措置をとることを検討」する前に、理解される努力をすべきである。 これまで関係者の処分といった場当たり的な対応に終始してきたが、今回も同様に浜脇氏の退任で幕引きにしようとしているように見える。   3 社内調査委員会を設置したことはあるが 遡ると、ネクステージは、第三者委員会ではなく社内調査委員会を設置したことがある。2018年12月21日に「当社元従業員による不正行為に関するお知らせ」を開示しているのだが、その「本件の概要と業務上横領と疑われる事実が判明した経緯」に元従業員の不正行為の概要が次のように記載されている。 元従業員の不正行為は同社に損害をもたらしたもののようである。だからであろうか、「今後の対応」で「常務取締役を委員長とする調査委員会を設置」して調査するとしている。そして、2019年1月17日に「当社元従業員による不正行為に対する再発防止策に関するお知らせ」を開示したのだが、そこで「本件不正行為の発生原因」は簡単に箇条書きで示されているだけで、調査内容は不明である。 当時の対応もまったく十分とはいえないが、それでも一応社内調査委員会は設置した。しかし、今回は社内調査委員会すら設置しようとしない(第三者委員会でなければ無意味だが)。やはり公にできない何かがあるのだろうかと思われてくるし、そう思われても仕方がないだろう。そうした疑念を持たれないためには、第三者委員会の調査を受けて、すべてを明らかにするしかない。 (了)

#No. 541(掲載号)
#鈴木 広樹
2023/10/26

プラス思考の経済効果 【第20回】「2023年阪神「アレ」の経済効果」

プラス思考の経済効果 【第20回】 「2023年阪神「アレ」の経済効果」   関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩   1 はじめに 2023年の阪神タイガース(以下「阪神」といいます)は、2005年以来18年ぶりの「アレ(優勝)」を達成しました。大勢の阪神ファンはまだ「阪神(半信)半疑」であるかもしれません。今回は阪神の「アレ」の経済効果を推計しました。   2 阪神「アレ」の直接効果 「アレ」を達成した2023年と、優勝できなかった2022年との経済効果の比較を行って、その差額を今年の「アレ」の経済効果と考えて分析をします。そして、阪神がクライマックスシリーズに出場するまでの経済効果を推計しています。 (1) 直接効果の項目と金額 阪神が「アレ」をした時の直接効果の項目と金額を次のように推定します。 ① 球場に来た観客の消費増加額 2022年の阪神の主催ゲームにおける観客動員数は、1試合平均で36,370人、合計261万8,626人でした。さらに、2023年の8月28日までの主催ゲームでの観客動員数は、1試合平均で40,679人でしたので、これを基にして推計すると、今シーズンの観客動員数は、313万2,283人となり、昨年より51万3,657人の観客増加が見込まれます。 そして、球場に足を運んだ観客は、交通費、入場代、飲食費、グッズ代、雑費などで今年は1人平均で約11,000円を消費すると仮定します。その結果、球場に来た観客の増加する消費金額は約56億5,023万円となります。 ② 阪神ファンのビヤホール、飲み屋、自宅などでの飲み代の増加額 スポーツ新聞の記事によると、阪神球団のネット調査に基づいた数値では「2015年度の阪神ファンは930万~1,000万人である」と推定されています。本稿では平均値の約965万人と仮定します。これに基づいて阪神ファンで飲酒する人の数を飲酒率のデータを用いて推計すると約323万4,632人となり、1人当たり1回の飲酒金額を3,350円、年に3回飲酒の機会を増やすと仮定すると約325億805万円となります。 ③ 阪急・阪神百貨店やスーパー、商店街などでの「アレ」の祝賀セールの売上増加額 2005年に阪神が優勝した時、阪神百貨店の「優勝セール」の売上は約30億円でした。この金額を参考にして、今年は阪急・阪神百貨店、スーパー、商店街、家電店などの売上は約40億円と想定します。 ④ 阪神の「アレ」によって増加する広告料、放映権、監督・選手のテレビ、ラジオ、新聞、雑誌などのマスコミ、CM、講演、座談会、サイン会などへの出演による収入増加額 過去の優勝時の金額を参考にして、今年のこれらの金額は約10億円の増加になると想定します。 ⑤ 阪神グッズの売上増加額 過去に、元日本ハムの大谷翔平選手や楽天の田中将大選手などの有名選手が活躍した時のグッズの売上は、1人で年間最高で約3億円でした。これらの金額を参考にして、阪神が「アレ」を達成した時のグッズの売上増加額は、シーズンを通して全部で約5億円であると想定します。 ⑥ スポーツ新聞、スポーツ雑誌、週刊誌などの売上増加額 最近は、新聞や雑誌の売上は減少傾向にありますが、過去の例から阪神が優勝すると売上が増えますので、売上増加額を約1億円と仮定します。 ⑦ 阪急阪神ホールディングスの株価の上昇により増加する投資、消費額 阪神の「アレ」達成により、阪急阪神ホールディングスの株価は上昇します。今春の平均株価と比較して約20円上昇したと仮定すると、阪急阪神ホールディングスの発行株式数は約2億5,428万株ですので、約50億8,560万円の株式価値の上昇となります。このうち株式が売却され、売却益が保有もされずに投資や消費に回る割合を約1割と仮定すると、経済効果に影響を与える直接効果額は約5億856万円となります。 ⑧ 阪神「アレ」の祝賀パレードが実施された時の消費額 優勝の祝賀パレードが実施されますが、過去のデータから少なくとも約20万人が参加すると想定されます。これらのファンの平均消費支出を1人約3,000円と想定すると、約6億円となります。 (2) 阪神「アレ」の直接効果の合計 以上の計算により、阪神「アレ」の直接効果の合計は、約448億6,684万円となります。   3 経済効果 これまで計算してきた直接効果約448億6,684万円を基にして、2023年の阪神の「アレ」の経済効果を計算します。経済効果のほとんどが関西地域に集中すると考えられますが、阪神ファンは全国にも散在しているので、全国の産業連関表を用いて推計します。総務省が作成した最新の全国の「産業関連表」(2019年に発表した2015年の「産業関連表」の修正版)を用いると、2023年の阪神の「アレ」の全国における経済効果は約969億1,238万円となります。 〈阪神の「アレ」の経済効果〉 しかし、阪神関係の品物、例えば弁当やレストランの食事などの食料品、ビールなどの飲料品、ユニフォームなどのグッズの一部は、関西地域以外で製造されて関西地域で消費されています。したがって、それらの売上代金の一部は製造販売された地域(例えば北海道、中部地域、関東地域、中国地域など)に還元されます。つまり、産業連関分析でいう関西地域の「自給率が低い(自分の地域で製造されていない)」ということになります。そこで、全国産業連関分析で得た経済効果の約9割が関西地域、残りの1割は他の地域にもたらされる経済効果であると仮定します。その結果、2023年の阪神「アレ」の経済効果は関西地域で約872億2,114万円となります。   4 まとめ 2023年の阪神の「アレ」の経済効果は、関西地域において約872億2,114万円となりました。この金額は、プロ野球の球団が優勝した時の経済効果としては非常に大きい金額です。参考までに過去の球団の優勝時における経済効果を以下に示しています。 〈プロ野球球団の優勝時における経済効果〉 過去の経済効果と比べてかなり大きくなった理由として、以下の要因が考えられます。 また、今年春の大谷翔平選手が活躍したWBCでの「侍ジャパン」の優勝の経済効果は約654億3,329万円でしたので、阪神「アレ」の効果はWBCの経済効果を上回りました。これはシーズンを通して優勝した阪神の方がWBCよりも試合数や観客数が多かったことなどの理由が考えられます。 このように、スポーツによって多くの人が元気をもらうことで、日本が今後ますます発展していくことを願っています。 (了)

#No. 541(掲載号)
#宮本 勝浩
2023/10/26

プロフェッションジャーナル No.540が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年10月19日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.540を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/10/19

日本の企業税制 【第120回】「令和6年度税制改正に向けた外形標準課税の見直しに係る議論」

日本の企業税制 【第120回】 「令和6年度税制改正に向けた外形標準課税の見直しに係る議論」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   〇総務省検討会における議論の状況 去る10月12日、総務省の「地方法人課税に関する検討会」(第7回)が開かれた。今後は11月6日の第8回会合において、外形標準課税の対象法人のあり方に係る基本的な枠組みのとりまとめに向けた議論が予定されている。 今年度の検討課題は、「法人事業税の外形標準課税」と「国際課税」の2つである。第7回会合で示された検討の方向性では、外形標準課税の対象法人のあり方については、 と具体的な検討項目が提示される一方、国際課税については「OECDにおける議論の進捗を見ながら、今後検討(する)」とされるにとどまり、実質的には、外形標準課税に関する検討が中心課題となっている。 与党の令和5年度税制改正大綱では、 とされ、また、本年6月の政府税制調査会の中期答申においても同様の指摘がなされている。 一方、経済産業省の令和6年度税制改正要望では、法人事業税の外形標準課税の適用対象法人のあり方に関する検討を行う際には、地域経済・企業経営への影響も踏まえ慎重に行うよう求めている。   〇減資への対応 今回の第7回検討会資料では下図の通り、減資のパターンを、 の3つに分類したうえで、項目振替型減資にターゲットを絞った対応を検討している。 (※) 総務省ホームページより 現行の資本金1億円で適用対象を区切っていることからくる問題への対応として、新たな指標を付け加えることが検討されており、新たな指標の候補として、 の5つが挙げられている。 このうち①は、資本金から資本準備金ではなく、その他資本剰余金への振替えがなされた場合に対応できないことから除外され、また④及び⑤は利益剰余金等まで含まれることから所得の状況にも左右されるため除外された。このため残る候補は②又は③ということになる。 なお、地方法人税法上の「資本金等の額」は、法人税法上の「資本金等の額」を基礎として無償増減資の額を加減算し、さらに持株会社特例や圧縮特例等を適用して計算されている。②及び③は、ほぼ同様の概念ではあるが、③については自己株式の取得が行われた時点で(消却が行われなくても)減少する点が、②との違いである。 なお、平成27年度税制改正では、自己株式取得による減算による法人事業税資本割の課税ベースがマイナスになる事例が生じていたことから、「資本金等の額」をベースとする法人事業税資本割の課税標準及び法人住民税均等割の税率区分の基準について、「資本金等の額」が会社法上の「資本金+資本準備金」を下回る場合には、会社法上の「資本金+資本準備金」を用いることとされた経緯がある。つまり、上記①が採用された。本来であれば、「資本金+資本剰余金」の方がより「資本金等の額」との間で親和性があるのではないかと考えられるところ、あえて「資本金+資本準備金」とされたのは、税法上の数値である「資本金等の額」と会計上の数値である「資本金+資本剰余金」の額との間には、適格組織再編成その他の理由により大きく乖離している場合があり、基準として用いるのは適切ではないと考えられたことによる。   〇持株会社化・分社化への対応 法人税では、中小法人を区分するため「資本金1億円」を原則的な基準としつつ、その中小法人から、資本金が5億円以上である法人との間にその法人による完全支配関係がある法人等を除くこととしている。 こうした制度を参考に、また、減資対策として、資本金に新たな指標を付け加えることも念頭に、見直しを行う方向が示されている。 (了)

#No. 540(掲載号)
#小畑 良晴
2023/10/19

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第28回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第28回】   東洋大学法学部准教授 泉 絢也   ウ 「③暗号資産の譲渡益の性質」と「④結論」 通常、所得は、その国の法定通貨で計算され、申告される(Nick Pantaleo & J. Scott Wilkie, General Report, in IFA, Foreign exchange issues in international taxation, Cahiers de droit fiscal international, VOL.94b, 29(2009)参照)。 日本の所得税法も、円単位で所得を測定し、税額を算定することを予定しており、円という通貨(邦貨)は、価値を計る物差しであり、円という通貨で構成される現金については他の資産について観念するような形で譲渡損益を観念することはないという見解がありうる(増井良啓「債務免除益をめぐる所得税法上のいくつかの解釈問題(上)」ジュリスト1315号196頁参照。所得税法が金額の単位を円としていることについて、所得税法89条など参照) また、現金は、経済的な価値があって、ある人から他の人に移転可能であるが、誰が持っていてもその額面どおりの価値があり、値上がりや値下がりを考えることができないため、譲渡所得を発生させる資産とはいえず、いわば、それ自体が他のモノや利益の価値を測る尺度であるから、譲渡所得の基因となる資産には当たらないという見解もある(佐藤英明『スタンダード所得税法〔第3版〕』89頁(弘文堂2022))。 租税法律主義への抵触に対する配慮の必要性を抱懐しつつも、円という通貨は、それ自体が他のものや利益の価値を測る価値尺度であり、値上がりや値下がりを考えることができないため、キャピタルゲインを生まず、譲渡所得の基因となる資産には該当しないという見解は一応理解できる。 他方、古銭や記念硬貨は、普通に流通している現金とは異なり、値上がりしたり値下がりしたりするため、譲渡所得の基因となる資産に当たると解されているが、外貨については、ドルのような外貨は交換レートにより、円で価値を計ることができるし、円で表した価値が変動するが、これは譲渡所得の基因となる資産には当たらないという見解もありうる。また、為替相場の変動による損益は、通常、雑所得とされているといわれる(佐藤・前掲書89頁参照)。 このように、邦貨も外貨も譲渡所得の基因となる資産に該当しないという考え方がありうるとしても、邦貨の譲渡からは所得の発生を観念しないこと及びこの点で外貨の場合と相違があることに注意が必要である。 そうすると、外貨はなぜ譲渡所得の基因となる資産に該当しないのか、その理由に関心が向けられる。 この点に関して、上記の見解のうち、古銭や記念硬貨は値上がりしたり値下がりしたりするため、譲渡所得の基因となる資産に当たるが、外貨は譲渡所得の基因となる資産には当たらないという部分はやや言葉足らずのように思われる。 古銭や記念硬貨の値上がり・値下がりの仕組みと、外貨の交換レートの変動の仕組みがどのように異なり、それが譲渡所得の基因となる資産該当性の判断にどのような影響を与えているかが明らかではないからである。ここでは、所得税法は、円単位で所得を測定し、税額を算定することを予定しており、外貨で所得を測定したり、税額を算定したりすることは予定していないこと、他方で、外貨には換算規定(所法57の3)が用意されており特殊な取扱いを受けていること(ただし暗号資産には用意されていないこと)にも目を向けておくべきである。 「譲渡所得の相当部分は物価上昇による名目的利得であるが、その多くの部分は需要と供給の関係によって定まる真正の利得である」という指摘があるところ(金子宏『租税法〔第24版〕』264頁(弘文堂2021))、外貨も暗号資産も需要と供給によって価格が上下に変動し、定まるものである。 もちろん、為替レートや暗号資産の交換レートの決定要因の説明理論を用いて、所得区分判定のために為替差損益の性質を掘り下げることも考えられる。 しかしながら、次のような疑問も同時に浮かんでくる。 為替差損益の所得区分について、ある論者は、「サラリーマンの有する家計に属する外貨の売買については譲渡所得とすることが妥当である」とし、その論拠について、次のとおり論じている(武田昌輔「サラリーマンの有する外貨についての譲渡損益」税経通信52巻15号204頁)。 この論者は、外貨は値上がり等の観念しうる資産、キャピタルゲインを生む資産であると理解しているのであろう。 さて、譲渡所得の本質を外的条件によってもたらされた価値の増加益であると解した場合に(岡村忠生『所得税法講義』216頁(成文堂2007)参照)、通貨の需給バランスによって決定される為替相場の変動による損益はこの譲渡所得の本質と合致するという論理で、上記のような理解を後押しすることもできるであろうか。 このほか、「外貨そのものは、円貨との関係においてキャピタル・ゲインを生むと考えて良い」という見解もある(吉村典久「通貨と租税」金子宏監修『現代租税法講座 第2巻 家族・社会』318頁(日本評論社2017))。 以上のほか、暗号資産の譲渡による所得の所得区分について、譲渡所得に該当せず、原則として雑所得に該当するという国税庁の見解に対しては、諸外国との比較などの観点から疑問を投げかけることも可能である(泉絢也「仮想通貨(暗号通貨、暗号資産)の譲渡による所得の譲渡所得該当性」税法学581号3頁以下、同「オーストラリアのキャピタルゲイン税制と暗号資産(仮想通貨)課税」千葉商大論叢58巻2号141頁以下参照)。   (了)

#No. 540(掲載号)
#泉 絢也
2023/10/19

相続税の実務問答 【第88回】「法人税の調査において死亡退職金の額が過大であると認定された場合」

相続税の実務問答 【第88回】 「法人税の調査において死亡退職金の額が過大であると認定された場合」   税理士 梶野 研二   [答] 法人税の調査において死亡退職金2億5,000万円の支給の事実が否定されたわけではありませんので、法人税の計算上、その一部の損金算入が否認されたことを理由とした相続税の課税価格及び相続税額の減額を求める更正の請求は認められません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 死亡退職金に対する相続税の課税 相続税は相続又は遺贈により取得した財産の価額の合計額に対して課されますが、相続又は遺贈により取得した財産ではなくとも、これらの事由により取得したのと同視することが相当と考えられる一定の財産について、相続税法は、相続又は遺贈により取得したものとみなして相続税の課税対象とする規定を設けています。 その1つが、被相続人の死亡により相続人その他の者(以下「相続人等」といいます)が取得した当該被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与 (以下、これらを「死亡退職金」といいます)です。すなわち、相続人等が被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金の支給を受けた場合には、その死亡退職金は、その支給を受けた相続人等が相続又は遺贈により取得したものとみなされて相続税の課税対象とされます(ただし、一定の金額については相続税の非課税財産とされています)(相法3①二、12①六)。 相続人等に支払われた金員が死亡退職金に該当するかどうかは、その金員が退職給与規程その他これに準ずるものの定めに基づいて支払われる場合にはこの退職給与規程等により、役員に対するものなど退職給与規程等の適用されない場合や退職給与規程が存しない場合においては被相続人の地位、功労等を考慮し、被相続人の雇用主等が営む事業と類似する事業におけるその被相続人と同様な地位にある者が受け、又は受けると認められる額等を勘案して判定するものとされており(相基通3-19)、また、その名義のいかんにかかわらず実質上被相続人の退職手当金等として支給されるものであれば、死亡退職金として相続税の課税対象とされます(相基通3-18)。   2 法人税における過大退職金の損金不算入 法人税の申告においては、その法人が支払った死亡退職金の額は損金の額に算入されます。しかしながら、退職した役員の業務に従事した期間、その退職の事情、その会社と同種の事業を営む会社でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える部分については損金の額に算入されないこととされています(法法34②、法令70二)。 相当であると認められる金額を超える高額な役員退職給与が損金不算入とされるのは、役員退職給与の損金性を決定する尺度たる当該役員の会社に対する貢献度について算数的正確さをもって客観的に測定すべき基準がないために、その判断が主観的に流れやすい上、個々具体的な退職給与金額には多分に利益処分としての性格を有する支出の含まれる事例が少なくないことから、役員退職給与の損金算入を認めるに当たっては、実体に即した適切な課税と租税負担の公平を期する見地に立って、法人の行為計算にとらわれることなく、一般に相当と認められる金額に限って収益を得るために必要な経費として損金算入を認め、それを超える部分は益金処分として損金算入を認めないものとした趣旨であると考えられます(岐阜地判平成2年12月26日税務訴訟資料181号1104頁)。   3 相続税課税における死亡退職金と法人税における過大退職金 相続税の課税において、退職金支給規程等のない場合、相続人等が支払いを受けた金員が相続又は遺贈により取得したものとみなされる死亡退職金に該当するかどうかは、当該被相続人の地位、功労等を考慮し、当該被相続人の雇用主等が営む事業と類似する事業における当該被相続人と同様な地位にある者が受け、又は受けると認められる額等を勘案して判定することとなります。一方、法人税の課税においては、適切な課税と租税負担の公平を期する観点から、死亡退職金として支払われた金員のうち一定の金額を超える部分について損金の額に算入しないものとされますが、これはあくまでも法人税における所得金額計算上の扱いであって、これによって支払われた金員が死亡退職金に該当しないと判断されたわけではありませんし、また、死亡退職金の支払いの事実が否定されるものでもありません。したがって、法人税の課税上、死亡退職金が過大であるとしてその一部の損金算入が認められないとしても、それが直ちに相続税の課税に影響するものではありません。   4 ご質問の場合 A社は、法人税の税務調査においてお父様の死亡に伴い支給されることとなった死亡退職金の額が過大であると指摘され、当該過大部分の金額を損金不算入として法人税の更正処分を受けたとのことですが、A社から支払われた「死亡退職金」が死亡退職金に該当しないと判断されたわけではありませんし、ましてや死亡退職金の支給それ自体が否定されたわけでもありません。したがって、お父様の死亡退職金のうちの5,000万円部分について法人税の損金算入が認められないとしてA社に対する法人税の更正処分があったとしても、みなし相続財産である死亡退職金の額が減少することとはなりませんので、法人税の更正処分を根拠にして相続税の課税価格及び相続税額の減額を求める更正の請求は認められません。 (了)

#No. 540(掲載号)
#梶野 研二
2023/10/19

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第54回】「役員給与の損金不算入と同族会社の行為計算否認規定」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第54回】 「役員給与の損金不算入と同族会社の行為計算否認規定」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 同族会社の行為又は計算の否認 同族会社は、株主が一族に集中しているため、非同族会社では不可能な取引を行うことが事実上可能であり、これが税負担の軽減に利用される場合も想定される。そこで、法人税法は132条1項において以下のような規定を定めている。 同族会社の取引の選択肢は無数にあるため、法人税法の個別規定では対処できなくなるようなケースも想定される。そこで、法人税の税負担を不当に減少させる結果となると認められた場合には、正常な取引が行われたものとして更正処分等を行うことができるとする規定が用意されたと思われる。すなわち、実際にこの規定を根拠とした更正処分を行う場合には、その行為が「不当」である必要があるが、「不当」の解釈には2つの異なる傾向があるとされる(※1)。これによれば、 という2つの考え方を示しつつ、①は何がその行為にあたるのかという判断が困難であるとして、②が妥当である旨が示されている。 (※1) 金子宏『租税法 第24版』(弘文堂、2021)542頁。 この「不当」の解釈に関する詳細な議論は他に譲るが、役員給与に関する事例において同族会社の行為計算否認が適用されたのは、過大役員給与として否認された東京高裁昭和34年11月17日判決(※2)、法人から代表者の妻に対する支出を交際費と偽ったことに対して適用された東京高裁平成22年8月26日判決(※3)等、いくつかの事例が見られるのみである。 (※2) 税務訴訟資料29号1176頁、TAINS:未登載。 (※3) 税務訴訟資料260号順号11497、TAINS:Z260-11497。 このように、役員給与の損金算入を対象に同族会社の行為計算否認が実際に適用された例は数少なく、これらの事例をみても、同族会社の行為計算否認が適用された直接の理由が判然としていない。例えば、同様の比較的新しい事例として以下のようなものがある。   (2) 役員給与の支給につき同族会社の行為計算否認が適用された事例 同族会社の行為計算否認が適用されて役員給与の損金算入が認められなかった比較的新しい事例として、長崎地裁平成21年3月10日判決がある(※4)。以下にその概要について紹介する。 (※4) 税務訴訟資料259号順号11153、TAINS:Z259-11153。 本件は、更正処分等の対象となった期間中に従業員から役員へ立場が変わった代表者長男乙への支給について、従業員である期間は「使用者の指揮命令に服して継続的ないし断続的に労務又は役務を提供できる常況にあるとは認められない」として、役員である期間は「勉学の傍ら海外において納税者の常況を把握し、業務決定の意思決定に参加できる常況にあるとは認められない」として、課税庁によって、同族会社の行為計算否認規定を根拠に、それぞれ損金算入が否認されたものである。 裁判所は、上記の通り課税庁の判断を支持しており、同族会社の行為計算否認が適用される「不当」と判断した理由について、「乙に対する本件給与等の支給は、その全額が、甲が同族会社であり、乙が甲代表者の子であることから可能であったということができ、これを甲の所得の計算上損金として認めることは、純経済人の行為として不自然、かつ不合理な行為又は計算であって、それによって甲の法人税の負担が減少するといわざるをえない」と示している。 この点、あたかも役員の業務の対価として役員報酬を支給していたことからすれば、隠ぺい仮装事案とみることもできる他、法人税法34条あるいは同法22条3項を根拠とすることもできたのではないかという指摘がある(※5)。これによれば法人税法132条1項を直接の根拠としたことは判然としないが、過去の先例(最高裁平成11年1月29日判決・税務訴訟資料240号407頁、TAINS:Z240-8327)に従ったと推測している。 (※5) 酒井克彦『裁判例からみる法人税法(三訂版)』(大蔵財務協会、2019)414頁。 なお、ここで先例とされた最高裁平成11年1月29日判決は、就学中の未成年への役員報酬の支給を損金算入していたところ、実質的には代表者への報酬であるとして、課税庁が更正処分段階では役員給与の損金不算入の規定により否認しつつ、係争段階では同族会社の行為計算否認規定に差し替えて主張したことが認められたというものである(※6)。 (※6) 税務訴訟資料240号407頁、TAINS:Z240-8327。 ここで、例えば法人税法34条の役員給与の損金不算入の規定が根拠となって損金算入が認められなかった事例として、代表者の妻の実態は非常勤役員に過ぎないことを認定し、同業類似法人の非常勤役員の水準に照らして判断された東京高裁平成23年2月24日判決がある(※7)。裁決例を見ても、同様のケースとして国税不服審判所平成17年12月19日裁決(※8)、国税不服審判所平成9年9月29日裁決(※9)等があるが、通常はこちらのロジックにより否認されるケースの方が大半であるように思われる。 (※7) 税務訴訟資料261号順号11623、TAINS:Z261-11623。 (※8) 裁決事例集70集215頁、TAINS:J70-3-14。 (※9) 裁決事例集54集306頁、TAINS:J54-3-16。   (3) 実際に同族会社の行為計算否認が持ち出される可能性はほとんど無い このように、役員給与の損金算入性について否認される場合、法人税法132条1項を直接の根拠とされるケースは僅少であると思われる。翻せば、勤務実態のない取締役に対する役員報酬について損金算入を否認しようとする場合、上記のように通常の役員給与の損金不算入の規定によって処理されるケースが多いからであり、特に税務調査段階で決着しているものが多いだろうことは想像に難くない。 また、(2)の通り、同族会社の行為計算否認が実際に適用されたケースにおいても、隠ぺい仮装と認定したり、法人税法34条等で対処したりすることができた旨の指摘があるように、実務上、役員給与の損金算入性を対象として同族会社の行為計算否認が適用されるケースはほぼ考えにくいのではないかと思われる。 実務においては、少なくとも、役員給与の損金算入性の判断について、対象となる役員が「納税者の常況を把握し、業務決定の意思決定に参加できる常況」にあるかどうかを確認することで、損金算入性に関する論拠を整えておくべきだろう。   (了)

#No. 540(掲載号)
#中尾 隼大
2023/10/19

基礎から身につく組織再編税制 【第57回】「適格株式交換(完全支配関係)」

基礎から身につく組織再編税制 【第57回】 「適格株式交換(完全支配関係)」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   前回は組織再編税制における「株式交換」に関する基本的な考え方を解説しました。今回からは数回にわたり適格株式交換に該当する場合の要件について整理していきます。 今回は「完全支配関係がある場合」の適格株式交換の要件について確認します。 なお、完全支配関係の定義については、本連載の【第2回】を参照してください。   1 完全支配関係がある場合の適格株式交換の要件 完全支配関係がある場合の適格株式交換の要件は、次の2つです。   2 金銭等不交付要件 金銭等不交付要件とは、株式交換完全子法人の株主に株式交換完全親法人株式以外の資産が交付されないことをいいます(法法2十二の十七)。 ただし、次の①から④を交付しても金銭等不交付要件には抵触しません。 以下で1つずつ確認していきましょう。 ① 剰余金の配当としての金銭 剰余金の配当として金銭その他の資産を株主に交付しても、金銭等不交付要件に抵触しないこととされています。 ② 反対株主の買取請求に基づく対価としての金銭 買取請求に基づく対価として金銭その他の資産を株式交換に反対する株主に交付しても、金銭等不交付要件に抵触しないこととされています。 ③ 1株未満の端株相当の金銭 株式交換により交付する株式交換完全親法人株式に1株未満の端数が生じたために、その1株未満の株式の合計数に相当する数の株式を他に譲渡し、又は買い取った代金として交付したときは、1株未満の株式に相当する株式を株主に交付したこととなり、金銭等不交付要件に抵触しないこととされています。 ただし、交付された金銭が、交付の状況その他の事由を総合的に勘案して実質的にその株主に対して支払う株式交換の対価であると認められるときは、株式交換の対価として金銭が交付されたものとして取り扱います(法基通1-4-2)。 ④ 株式交換完全支配親法人株式 株式交換完全子法人の株主に株式交換完全支配親法人株式を交付しても金銭等不交付要件に抵触しないこととされています。 (※) 「株式交換完全支配親法人株式」とは、株式交換の直前に株式交換完全親法人と株式交換完全親法人以外の法人との間にその法人による直接完全支配関係があり、かつ、株式交換後に株式交換完全親法人とその法人(親法人)との間にその親法人による直接完全支配関係が継続することが見込まれている場合におけるその親法人の株式をいいます。平成31年度税制改正前は直接保有に限定されていましたが、改正後は間接保有の株式交換完全支配親法人株式を対価として交付する場合についても適格株式交換となります(法令4の3⑰)。 なお、下図のように株式交換完全支配親法人株式を交付する株式交換を「三角株式交換」といいますが、株式交換完全支配親法人株式の1株未満の端数相当の金銭についても④と同様に取扱います(法令139の3の2④)。   3 完全支配関係継続要件 完全支配関係継続要件とは、完全支配関係がある法人同士の株式交換の場合に、再編後においても完全支配関係が継続する見込みがあることをいいます(法法2十二の十七イ、法令4の3⑱)。 (1) 当事者間の完全支配関係 株式交換前に株式交換完全子法人と株式交換完全親法人との間に株式交換完全親法人による完全支配関係がある場合には、株式交換後にも株式交換完全子法人と株式交換完全親法人との間に株式交換完全親法人による完全支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の株式交換後は、C社(株式交換完全子法人)とA社(株式交換完全親法人)との間にA社(株式交換完全親法人)による完全支配関係が継続することが求められます。 (2) 同一の者による完全支配関係 株式交換前に株式交換完全子法人と株式交換完全親法人との間に同一の者による完全支配関係がある場合には、株式交換後に株式交換完全子法人と株式交換完全親法人との間に同一の者による完全支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の株式交換後は、B社(株式交換完全親法人)とC社(株式交換完全子法人)との間にA社(同一の者)による完全支配関係が継続することが求められます。 (3) 株式交換後に適格合併が予定されている場合の要件 ① 当事者間の完全支配関係 (ア) 適格合併で株式交換完全親法人が被合併法人となる場合 株式交換後に株式交換完全親法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、その適格合併に係る合併法人を株式交換完全親法人とみなして完全支配関係を継続する見込みがあることが求められています。 平成31年度税制改正により、株式交換後に株式交換完全親法人を被合併法人、株式交換完全子法人を合併法人とする適格合併を行う場合には、適格合併の直前の時まで完全支配関係が継続すれば、適格合併に該当することとなりました。 (イ) 適格合併で株式交換完全子法人が被合併法人となる場合 株式交換後に株式交換完全子法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、株式交換の時からその適格合併の直前の時まで完全支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 ② 同一の者による完全支配関係 (ア) 適格合併で株式交換完全親法人が被合併法人となる場合 株式交換後に株式交換完全親法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、その適格合併に係る合併法人を株式交換完全親法人とみなして合併法人と株式交換完全子法人の間に合併法人による完全支配関係が継続する見込みがあることを求められています。 (※) 同一の者との完全支配関係は、適格合併の直前まで継続する見込みがあることが求められています。ただし、同一の者と合併法人との間に同一の者による完全支配関係がある場合には、適格合併後も株式交換完全子法人と合併法人との間に同一の者による完全支配関係が継続する見込みがあることが求められます。 (イ) 適格合併で株式交換完全子法人が被合併法人となる場合 株式交換後に株式交換完全子法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、株式交換の時からその適格合併の直前の時まで株式交換完全子法人と株式交換完全親法人との間に同一の者による完全支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 (ウ) 適格合併で同一の者が被合併法人となる場合 株式交換後に同一の者を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、その適格合併に係る合併法人を同一の者とみなして完全支配関係を継続する見込みがあることが求められています。   ◆完全支配関係がある場合の適格株式交換の要件のポイント◆ 金銭等不交付要件において、原則として株式交換完全親法人株式以外の対価を交付しないことが求められています。 完全支配関係継続要件は、合併の場合と異なり株式交換完全子法人が消滅しないため、当事者間の完全支配関係がある場合でも求められます。 株式交換後に合併が見込まれている場合には留意が必要です。   (了)

#No. 540(掲載号)
#川瀬 裕太
2023/10/19

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第27回】「グローバル・トレーディング事件(東裁平20.7.2)(その1)」~租税特別措置法施行令39条の12第8項、OECDレポート(Report on the Attribution of Profits to Permanent Establishments)Part III~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第27回】 「グローバル・トレーディング事件(東裁平20.7.2)(その1)」 ~租税特別措置法施行令39条の12第8項、OECDレポート(Report on the Attribution of Profits to Permanent Establishments)Part III~   大阪芸術大学教授・米国公認会計士 原 光代   〈本件の概要(図)〉   1 グローバル・トレーディング グローバル・トレーディングとは、金融機関等が行う世界規模での金融商品等の取引をいう。ここでいう世界規模での取引とは、3つの主要な時間帯(ニューヨーク、ロンドン、東京又は香港)に跨って行われるものを指す。OECDの「金融商品のグローバル・トレーディングを実施する企業のPEに帰する利益についてのディスカッション・ペーパー(※1)」によれば、グローバル・トレーディングとは、24時間顧客の注文に応じて世界市場で金融商品を売買する金融機関等の活動とされ、取り扱う金融商品は債券、株式、金融先物や金融派生商品等多岐にわたり、利益の形態も株式貸与(※2)やレポ取引からの利子、証券ブローカーとしての手数料等様々である。 (※1) Discussion Draft on the Attribution of Profits to Permanent Establishments(PES: Part III(Enterprises Carrying on Global Trading of Financial Instruments), B-1 Definition of global trading of financial instruments. (※2) 「証券会社は、信用取引において、投資家に資金(=買い建てる場合の買付代金)や株券(=売り建てる場合の売付株式)を貸すが、制度信用取引において、投資家に貸すべきものを調達できない場合には、証券金融会社から売付株式や買付代金を借り入れる。」(野村證券ホームページ「野村證券用語解説集:貸借取引」より抜粋) 同ペーパーが示すグローバル・トレーディングの機能は、(1)販売とマーケティング、(2)トレーディングと日々のリスク管理、(3)資本/リスク引受け及び(4)サポート(バックオフィス)の4つ(※3)に分かれる。この他、グローバル・トレーディングの構成要素として、金融取引の基本方針を指示するマネージメント(※4)機能もあげられている。 (※3) Ibid. Discussion Draft, B-3 Functional analysis: a) Sales and Marketing Functions, b) Trading and Day to Day Risk Management, c) Treasury, d) Support (※4) 宮武敏夫「グローバル・トレーディング」金子宏編『国際課税の理論と実務:移転価格と金融取引』(有斐閣、1997年)、275頁   2 本件概要 本件請求人(納税者)は、A国に本店を置き日本国内の支店を通じてグローバル・トレーディング事業を実施しており、その事業所得を国内源泉所得として日本で法人税の確定申告を行っている。本請求人に加え、A国法人α社、B国法人β社の国外関連者は、顧客との間でα社を契約当事者としてエクイティ・デリバティブ(※5)の売買等(以下「本件事業」)を行っていた。本件事業に係る損益は契約当事者であるα社に計上(book(※6))されるため、請求人は、本件事業に係る自己の役務提供の対価を、「ヘッジファンドにおける利益分割割合」を用いた利益分割法により算定した独立企業間価格でα社に請求していた(※7)。 (※5) 株式の値動きをヘッジするストックオプションなど。 (※6) 「全世界24時間取引型のグローバルトレーディングでは、それぞれの金融機関がブック(book)というものをもつ。ブックとはinventory of financial productsで、自分の持っているファイナンシャル・プロダクツを一つの在庫表としてコンピュータの中に記録しているものである。例えば、ニューヨークの取引時間中に、そのブックはニューヨークが管理している。ニューヨークの取引時間がクローズになって次に東京に移そうという時、そのコンピュータはもちろん東京の支店なり子会社につながっているから、コンピュータによってその管理を東京に渡す。」前掲(※4)書(黒澤利武)、274頁 (※7) 国税不服審判所裁決要旨(平20.7.2東裁(法)平20−4)参照 請求人が本件各事業年度の法人税について確定申告書を提出したところ、原処分庁は、本件事業には「トレーダーの人件費」を分割要因とした利益分割法を用いるのが合理的とし、この方法により独立企業間価格を算定すべき旨を主張、平成17年6月29日付で、所得の金額及び翌期に繰り越す欠損金の額を修正する各事業年度の法人税の各更正処分並びに平成14年11月期及び平成15年11月期の過少申告加算税の各賦課決定処分がなされた。請求人はこれらの処分を不服として、平成17年8月29日に審査請求を行った(※8)。 (※8) 前掲(※4)書(伊藤剛志・水島淳)、178頁 その結果、国税不服審判所は、本件に係る独立企業間価格の算定方法は、請求人が用いた方法も原処分庁の主張する方法も合理性に欠けるとした上で、(1)トレーダーの人件費、(2)α社が本件事業に係る取引を計上(Book)するために金融当局に義務付けられる規制資本にかかる利子相当額の2つを分割要因とする利益分割法が合理的であると結論し、この方法で独立企業間価格を算定したところ国外移転所得が原処分の額を下回るため、原処分はその一部を取り消すべきであると裁決した(※9)。 (※9) 国税不服審判所裁決要旨(平20.7.2東裁(法)平20–4)参照 ((その2)へ続く)

#No. 540(掲載号)
#原 光代
2023/10/19
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