法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例63】 「個人間契約の貸付金を法人間契約に変更した場合の貸倒償却の是非」 拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、関東甲信越地方のある都市に本社を置き、首都圏を中心にフラワーショップを10店舗程度展開する株式会社X(資本金1,000万円で3月決算)に勤務しており、現在経理部長を務めております。わが業界は小規模で個人経営の店が個人客向けに花卉を販売する形態が大半を占めており、最大手であっても全国で200店弱(シェア1%強)というチェーン展開が難しい業界であるとされています。その主たる理由は、扱う花卉が規格化されておらず、また、鮮度が極めて重視されること、また、生活必需品ではなく個人の嗜好に左右されることにあるとされています。 そのような規模の経済を生かしにくい業界において、わが社は、一般のフラワーショップのように個人向けの花卉の販売も行っていますが、わが社独自のマーケット戦略として、主たる顧客ターゲットを、繁華街の高級クラブやラウンジ、ホストクラブ等とし、文字通り「華やかな」雰囲気を作り出すような花束やアレンジメントを納入するという分野に特に注力しており、この点から業界内において顕著な差別化が図られていると言えます。それもあって、コロナ禍で同業他社の業績が厳しい中、おかげさまでわが社の業績は堅調に推移しております。 一方で、最近受けた税務調査で1点解決していない事項があります。それは、わが社の代表取締役Yが取引先で飲食店業を営むZ社の代表者Aに対して行った貸付金債権につき、それをわが社とZ社間の貸付金に振り替えてから数年後、Z社がコロナ禍の業績不振により倒産したため、当該貸付金債権を償却し損金算入したことについての税務署との見解の相違です。Z社が倒産したのは客観的事実であることから、Z社に対する貸付金債権が回収不能となるのは当然であり、それを償却し損金算入することに何ら問題はないと思われるのですが、税務署の調査官は、当該貸付金は契約書の通り個人間のもので、わが社の損益には関係がないと主張します。これはどのように考えるべきなのでしょうか、教えてください。 【A】 法人税法において、貸付金等の金銭債権が現実に貸倒れとなった場合や、債務者の資産状況や支払能力等からみてその全額が回収できなくなることが明らかな場合には、その金額が債権者の貸倒損失として損金に算入されることとなるのですが、それは、当該金銭債権が法人に属することが前提となっています。 仮に、事実認定の問題として、契約書の存在の有無やその内容等から当該前提が崩れ、その金銭債権が損金を計上した法人に帰属するものではないとされる場合には、当然のことながら、その法人における損金算入は認められないこととなるでしょう。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 金銭債権の貸倒損失と貸倒引当金 法人税法において、貸付金等の金銭債権が現実に貸倒れとなった場合は、当然のことながら、その金額が貸倒損失として損金に算入されることとなる(法法22③)。 また、資本金1億円以下の中小法人等については、その債務者が会社更生法による更生計画認可の決定等に基づいて金銭債権の弁済が猶予され、または賦払により弁済される場合等において、その一部について貸倒れその他これに類する事由による損失が見込まれる金銭債権(個別評価金銭債権)の損失見込額として、各事業年度において損金経理により貸倒引当金勘定に繰り入れた金額のうち、その事業年度の終了時において、取り立て又は弁済の見込みがないと認められる部分の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額(個別貸倒引当金繰入限度額)に達するまでの金額は、その事業年度の損金の額に算入される(個別貸倒引当金、法法52①)。 さらに、資本金1億円以下の中小法人等については、売掛金、貸付金その他これらに準ずる金銭債権(一括評価金銭債権)の貸倒れによる損失の見込額として、各事業年度において損金経理により貸倒引当金勘定に繰り入れた金額のうち、当該事業年度終了の時において有する一括評価金銭債権の額及び近年における売掛金、貸付金その他これらに準ずる金銭債権の貸倒れによる損失の額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額(一括貸倒引当金繰入限度額)に達するまでの金額は、その事業年度の損金の額に算入される(一般貸倒引当金、法法52②)。 法人税法においては、従来、企業会計に準じて幅広く引当金に係る損金計上が認められていたが、平成10年度の税制改正以降、課税ベースの拡大の観点から、徐々に廃止・縮小が進められた。貸倒引当金についても、従来通達で認められていた債権償却特別勘定を平成10年度の税制改正により個別貸倒引当金として法令化する一方で、その適用対象法人が限定されるなど、縮小化されつつある。 (2) 事実認定と証拠 租税訴訟を含む裁判は、確定された事実に法規を適用し、その法的効果を評価するという過程を取るのが通常である。したがって、裁判においては、法規の適用対象となる具体的な事実が、適正な手続きを通じて、客観的に確定されることが求められる(※1)。 (※1) 中野貞一郎・松浦馨・鈴木正裕編『新民事訴訟法講義(第3版)』(有斐閣・2018年)305頁参照。 このような事実認定は、裁判の過程において証拠によりなされるが、その中で一般に証拠能力が高いとされるものは文書である。取引当事者間でその合意内容を記した文書である「契約書」はその典型例であるが、訴訟においては、証明しようとしている法律行為が契約書に記載されていれば、当該契約書は「処分証書」となり、その成立の真正が認められることにより、作成者がそこに記載された法律行為を行ったことが認められ、反証を挙げてそれを覆すことは非常に困難になる(※2)。取引の当事者が法人である場合、その内容を記した契約書を作成するのが通常であるが、個人間取引や同族会社が関与する取引の場合においては、文書の作成を怠ることが少なくない。その場合、租税訴訟において、そのような取引の成立の真正を証明することは困難となることが想定される。 (※2) 中野他前掲(※1)書353頁参照。 (3) 個人間契約の貸付金を法人間契約に変更した場合の貸倒償却の是非が争われた事例 ここでは、本件と同様に、個人間契約の貸付金を法人間契約に変更した場合における貸倒償却の是非が争われた事例(東京地裁平成28年2月23日判決・税資266号-27(順号12805)、TAINSコード:Z266-12805)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 原告は、パチスロ遊技機等の販売、宅地建物取引業等を行うことを目的として、平成14年5月に設立された株式会社である。原告の平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度(平成18年3月期)及び平成20年3月期において、不動産の売買、賃貸、管理及びその仲介等を商業登記簿上の目的とする有限会社B(代表取締役乙)に対する仮払金として計上した合計3,500万円が貸し倒れたとして、平成20年3月期において同額を貸倒償却として計上し、損金の額に算入した。 このような申告内容に関し、東京上野税務署長は、原告は、原告の代表取締役である甲の個人的な貸付金を原告の貸付金のごとく仮装したものであるとして、原告に対し、平成20年3月期以後の法人税の青色申告の承認の取消処分並びに平成20年3月期から平成22年3月期までの各事業年度の法人税に係る各更正処分及びこれらについての本件各事業年度の重加算税の各賦課決定処分を行った。原告は、これを不服としてその取消しを求めて提訴した。 当該裁判例で問題となった取引を図示すると以下の通りとなる。 〇 貸付金取引の概要 なお、③の判決文中に出てくる「本件経理処理2」及び「本件経理処理3」とは以下の経理処理を指す。 ② 事案の争点 個人間契約の貸付金を法人間契約に変更した場合において、当該貸付金に係る貸倒償却を損金算入することができるか。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されたが棄却され(東京高裁平成28年9月8日判決・税資266号-121(順号12899)、TAINSコード:Z266-12899)、確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 本件は、個人間の金銭消費貸借契約を法人間に変更したことが、法的に有効であったのかという、専ら事実認定に関する争いが課税関係に影響を及ぼした事案である。当該契約が個人間のものであり、原告を含む法人間のものでなければ、原告が行った貸倒償却はそもそも存在しない貸付金について行ったものとなり、損金算入をしようにもその根拠がなく、架空の費用計上であるということになる。 事実認定の問題となると、それを証明する証拠の有無が重要となるケースが多いが、取引や契約の有無や内容を証明する場合には、やはりそれを裏付ける「文書」ないし「書面」が重要な役割を果たすと言えよう。本件の場合、個人間契約については書面がありながら、原告が主張する法人間契約には書面(契約書)がないことから、その主張には説得力が決定的に欠けていると言わざるを得ない。もちろん、虚偽の内容を記載した書面や形式的な書面を作成することもあるため、書面に全面的に依拠することは困難であるものの、書面の内容を覆すためには、それ相応の証拠を積み上げる必要があり、実際には困難を極めることとなるであろう。 やはり、中小企業といえども、一定期間経過後における事実関係の証明を容易にするために、課税関係に影響を及ぼす可能性のある取引等については、契約書や覚書等を厭わずに作成し、当事者間の署名等を得るようにすべきといえよう。 (4) 本件へのあてはめ 法人税法において、貸付金等の金銭債権が現実に貸倒れとなった場合や、債務者の資産状況や支払能力等からみてその全額が回収できなくなることが明らかな場合には、その金額が債権者の貸倒損失として損金に算入されることとなるのであるが、それは、当該金銭債権が法人に属することが前提となっている。 仮に、事実認定の問題として、契約書の存在の有無やその内容等から当該前提が崩れ、その金銭債権が損金を計上した法人に帰属するものではないとされる場合には、当然のことながら、その法人における損金算入は認められないこととなるだろう。 (了)
〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第18回】 「租税法律主義において信義則違反の主張はどう評価されるか」 公認会計士・税理士 大橋 誠一 1 大阪国税不服審判所平成28年7月25日裁決(TAINSコード:F0-3-499) (1) 事実関係の概要 下記で使用している用語の定義を含めて、本連載【第17回】を参照されたい。 (2) 双方の主張の概要 ① 被相続人の相続人である兄弟姉妹の審査請求人ら(請求人ら) ② 原処分庁 (3) 租税法律主義における信義則に係る法令解釈 (4) 審判所の判断の概要・請求人らの主張の排斥 2 法令解釈の出所 上記1(3)の法令解釈は、最高裁第三小法廷昭和62年10月30日判決を基礎としているものと考えられる。 また、他の審査請求事件(大阪国税不服審判所平成27年7月14日裁決)においては、下記の説示が付加されており、これは東京地裁平成26年7月18日判決(TAINSコード:Z264-12510)を参酌したものと考えられる。 3 信義則違反の主張のハードルの高さ 「過去の税務調査においても同様の事実関係があったにもかかわらず、それを指摘することなく、今の段階になってどうして指摘するのか? 過去の税務調査において、その論点は是認したのではなかったのか?」という納税者の本音を仄聞するところであり、これは長年関与をしていた税理士にとっても同じ思いであろう。 しかし、過去の税務調査において指摘がなかったことが、税務官庁が積極的に当該処理を是認したとはいえず、有り体にいえば、「調査官の能力経験の希薄さ・税務官庁の当時の調査方針における論点外であったこと・時間的資源の制限による調査項目の取捨選択」といった各種事情によってたまたま着眼されなかったにすぎず、不服申立てにおいて上記主張を展開しても報われないケースがほとんどであろう。 また、税務署長が不利益処分の前に個別事案について公的見解を提示するということは(正式に事前照会制度などを経由しない限り)通常は考えづらい。 ちなみに、不服申立て事件を裁く担当審判官の立場においても、審査請求人が上記の主張に拘泥する以上は、これを信義則違反として主張整理した上で争点化し、上記1(3)の法令解釈を判断の物差しとして請求人の主張を排斥するという手法をとらざるを得ないのが通常だろう。 (了)
◆◇◆◇◆ 決算短信の訂正事例から学ぶ実務の知識 【第3回】 「連結範囲変更時における連結キャッシュ・フロー項目」 公認会計士 石王丸 周夫 決算短信において、連結キャッシュ・フロー計算書は訂正が発生しやすい箇所です。作成のタイミングが連結貸借対照表と連結損益計算書の後になるため、決算短信開示までの時間的余裕がその分少なく、チェックが十分になされないのかもしれません。 中でも、毎年出てくるわけではない変則的な項目は要注意です。今回はそうした例の1つである連結範囲変更時における連結キャッシュ・フロー計算書の処理について、訂正事例から学んでいきます。 訂正事例の概要 連結範囲の変更とは、連結財務諸表を作成する際に連結対象とする子会社を変更することをいいます。この変更は頻繁に行われるものではありませんので、それに伴う処理に関わる機会も少なく、間違いやすいと考えられます。 連結範囲変更時の連結キャッシュ・フロー計算書において、「現金及び現金同等物の期首残高」の直後に表示されている「新規連結に伴う現金及び現金同等物の増加額」の計上を取り消したという決算短信の訂正事例があります。 この事例では、同時に、投資活動によるキャッシュ・フローの「連結範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出」を同額増額し、項目名を「連結範囲の変更を伴う子会社株式の取得による収入」に変更するという訂正を行っています。 連結キャッシュ・フロー計算書のフォームのイメージにより、この訂正内容を確認してみます。 〈訂正箇所のイメージ〉(数字はすべてXで表示(以降同様)) この結果、上記2項目のほかに、投資活動によるキャッシュ・フローの計及び「現金及び現金同等物の増減額(△は減少)」が訂正となり、さらに、決算短信の「サマリー情報」と「経営成績等の概況」で引用した上記数値についても連動して訂正を行っています。 「新規連結に伴う現金及び現金同等物の増加額」とは 上記の訂正事例は、なぜ間違いなのかわかりにくいと思います。そこで、訂正により削除された「新規連結に伴う現金及び現金同等物の増加額」という項目が何を示しているか確認していきます。 会計基準では次のように定められています。 (会計制度委員会報告第8号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」46項) すなわち、これまで連結していなかった子会社を新たに連結する場合は、その子会社が保有しているキャッシュを加算し、これまで連結していた子会社を連結対象外の子会社とする場合は、その会社のキャッシュを減算するということです。 訂正で削除された「新規連結に伴う現金及び現金同等物の増加額」は、前半の方に該当します。そして、この加算は、簡単にいうと連結範囲に次のような変化が起きた際に発生すると整理できます。 すなわち、連結対象ではない子会社について、重要性が増した等の理由で連結対象に含めたということです。 しかし、この事例の企業について、連結の範囲の変更状況を確認してみると、他の企業の株式を新たに取得して連結子会社としたことがわかります。すなわち「他社 ➡ 連結子会社」であって、「非連結子会社 ➡ 連結子会社」ではありません。したがって、「新規連結に伴う現金及び現金同等物の増加額」に該当するケースではないとわかります。 「他社 ➡ 連結子会社化」の場合の処理方法 では、「他社 ➡ 連結子会社」の場合の処理方法を確認していきます。 それは、会計基準に次のように定められています。 (会計制度委員会報告第8号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」46項) ここでは、新たに取得した企業について、次により計算された額を「連結範囲の変更を伴う子会社株式の取得による収入」として、連結キャッシュ・フロー計算書の投資活動によるキャッシュ・フローに計上することになります。 〈取得による収入の算定方法〉 本事例では「株式取得価額<現金及び現金同等物」であったため、取得による収入としていますが、「株式取得価額>現金及び現金同等物」であれば、取得による支出になります。【第1回】で扱ったのがそのケースでした。 上記訂正事例では、株式取得価額(ア)をもって「連結範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出」に計上するとともに、新たに取得した企業がその時点で保有していた現金及び現金同等物(イ)を、「新規連結に伴う現金及び現金同等物の増加額」に計上してしまったというわけです。訂正後は、(イ)の額で計上した「新規連結に伴う現金及び現金同等物の増加額」を取り消し、(ウ)の額で「連結範囲の変更を伴う子会社株式の取得による収入」としています。 開示前のチェックポイント 以上の知識を前提に連結キャッシュ・フロー計算書を作成することになりますが、正しく作成できたことを開示前にチェックすることも必要です。 「新規連結に伴う現金及び現金同等物の増加額」の項目が発生しているときは、その年度において、「非連結子会社 ➡ 連結子会社化」という変更があったかどうかを確認しましょう。 (了)
〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第49回】 「士業別のM&A対応、企業の見方に関する留意点とポイント」 ~弁護士・中小企業診断士編~ 公認会計士・税理士 荻窪 輝明 《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒士業の特性に応じて異なる企業の見方を知り、検討と相談の際に活かす。 売り手企業 ⇒士業の特性に応じて異なる企業の見方を知り、検討と相談の際に活かす。 支援機関(第三者) ⇒士業の特性に応じて異なる企業の見方を知り、支援や提案に活かす。 その他の対象者 ⇒士業の特性に応じて異なる企業の見方を知る。 前々回、前回と同様に、士業の種類によって微妙に異なるM&Aに対する視点を取り上げます。この視点の違いを知ることで、M&Aの買い手、売り手、支援機関などの第三者は、ご自身のおかれた環境に応じて士業を使い分けられると思います。 今回は、弁護士と中小企業診断士の特性を紹介します。前回までに取り上げた税理士や公認会計士は筆者の職業であったのに対して、今回ご紹介する2つの職業は筆者自身が有していない資格であるため、あくまでも業務上の関係を通じた私見である点をご了承ください。 1 弁護士の特性 (1) 経済的実態に偏らない法的判断が可能 中小企業M&Aであっても、M&Aである以上、契約、法的根拠、条件など手続き開始前からクロージング、M&A後のPMIに至るまで、法の領域に触れない論点を見つけるのが難しいほど、M&Aと法は大きく関係します。この領域で、弁護士の右に出る者はいません。 この点から、法的判断において圧倒的な強みのある弁護士は、M&Aで欠かせないプレイヤーの1人です。ただし、規模が相対的に劣る中小企業M&Aでは、弁護士が必要なケースが多いとはいえず、法的判断や手続きを伴う際にも司法書士がその役割を担うケースも少なくありません。 筆者が実務上、弁護士の方々とご一緒した経験から感じるのは、税の判断は法令に基づくため、比較的弁護士の感覚と近いですが、会計の判断に関しては、ある取引における会計上の判断や解釈が、法的な判断や解釈と異なる点が多いことです。 会計は会計基準等の会計のルールに基づきますが、実際に会計処理をする際は、経営上のある出来事や取引の実態、つまり、中身を重視してその妥当性を判断しています。時には、契約書を単に形式的に当てはめるのではなく、仮に記載された文言とは異なっていても、経済的な実態にそぐわないのであれば、会計処理をするしないの別が生じ得るし、契約書の記載内容と異なる別の判断を用いるケースもあり得るのが、会計のルールに従う会計の世界です。特に、M&Aで生じる可能性が高い時価評価の判断では、経済的実態に基づく判断過程を軽視できません。 しかし、こうした判断は、行きすぎると恣意的になりやすいという欠点、弱点もあります。詳細説明は控えますが、それがゆえに相当規模以上の企業には会計監査が要求されており、こうした判断の妥当性を含めて監査が行われます。 このような恣意的な判断、自主的な判断が入りづらいのが、法的な根拠に基づく判断、なかでも記録や形式に基づく判断の長所であり、弁護士が関与するM&Aにおいては、契約書の文言1つをとっても細心の注意が払われますので、この点から安心できます。当事者間の利害が相反しやすいM&Aにおいては、手続き、文書、交渉が多くの段階において必要となりますので、各段階で弁護士に関わってもらうと、法的側面からの体制が万全になります。 とはいえ、法的な裏付けがすべての状況において正しいとは言えませんし、そもそも、中小企業M&Aで算定する取引価額自体、誰が算定しても一緒の結果になるとは限りません。ファイナンスの観点から考えると、中小M&Aは法だけでは割り切れない数多くの論点がありますので、形式で判断してしまうと、かえって実態にそぐわない可能性が高まるという留意点もあります。 また、実態と形式の双方のバランスが求められる中小企業M&Aにおいては、あまり法的な観点にこだわらないのが賢明なケースもあります。弁護士が関与する場合は、弁護士的な視点になりすぎずに、実態とのバランスを踏まえたうえで、各当事者が主体的に、柔軟に判断していくのがよいと思います。 (2) 代理人としての高い交渉能力 公認会計士と異なり、弁護士、税理士は代理人としての業務経験が多いことから、一方の当事者のエージェントとして、相手との直接交渉に臨む経験に長けています。しかも、税理士がどうしても税務判断に偏るのに対して、弁護士が体系的に身につける能力はリーガルマインドですから、M&Aの交渉の場面では様々な士業の中でも弁護士が群を抜いて交渉能力が高いと思います。案件によりますが、交渉を士業に任せ、自社に有利に進めたい意向がある場合や、案件が複雑で随所に交渉のテクニックが必要な場合には、弁護士の積極的な活用を検討できると思います。 ただし、弁護士は、どちらかというと争いのある案件の交渉で力を発揮しますので、中小企業M&Aのように両者が終始円満に臨む案件においても、積極的に活用した方がよいとはいえません。当然のことながら、フィーが発生しますので費用対効果も考えなくてはなりません。 しかも、中小企業M&Aでは、M&A仲介会社や金融機関といったM&A当事者の間に入って両者を繋ぐプレイヤーが関与するのが通常ですので、実務上は、弁護士が必要とされるケースはさほど多くないと考えられます。 (3) 計数感覚 M&A実務において、決算書の知識は必須です。いわゆる計数感覚は、財務諸表の作成過程を知ることと、申告書の作成過程を知ることによって磨かれます。 この点、ある出来事が(取引の把握)、会計・税務上どのような取扱いとなり(会計・税務上の解釈)、会計処理を通じて(仕訳起票)、決算システムにどのように組み込まれていき(勘定科目・元帳・試算表作成)、反映され(組替表・決算書)、決算書の承認を経て、申告書の作成(別表・申告書)に至るかの業務フローが経験値として定着しているのが重要です。 弁護士や金融機関の方々の中にも会計に明るい方々はたくさんいらっしゃいますが、決算書を知っている(Know)のと、決算書が作成されるまでの仕組みを知ったうえでわかっている(Understand)のでは、決算書を読めるスキルは残念ながら全く違います。ですから、財務内容の調査を行う財務デューデリジェンスをはじめとして、決算書や申告書の作成過程に接近する中小企業M&Aにおいては、計数感覚の点や決算書を扱う点においては、弁護士が力を発揮する場面は限定的かもしれません。 2 中小企業診断士の特性 中小企業のコンサルタントたる国家資格である中小企業診断士は業務独占資格ではありませんので、中小企業診断士でなくとも中小企業へのコンサルティング業務を行えます。ですから、中小企業診断士であるだけでは、中小企業M&Aにおいて能力を発揮する場面は多くないかもしれません。 それでも、中小企業M&Aの実務上は、中小企業診断士が活躍されるケースは多く、中小企業診断士に期待される役割は高いと筆者は思います。 (1) ネットワーク 中小企業M&Aに関わる中小企業診断士の多くは、豊富な社会人経験を有しており、キャリアは様々で、出身業界もバラバラです。特に販路において独自のネットワークを持ち、特定の業種、職種に精通している方々は、それが強みになる印象を受けます。つまり、経験に勝るものはないといえるほどの、その人ならではの過去のキャリアを強みに活躍されるケースが多いと感じます。 中小企業M&Aでは、M&A後の当事者間の統合プロセスを表すPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)が重要であり、「物理的な統合だけでなく、人的にも文化的にも両社の持つリソースが融合することで、統合前に比べて高い価値を生んでほしい」という当初の期待を、M&A後に期待したとおりに実現できるようにしていかなければなりません。 多くの中小企業M&Aにおいて、まず両当事者が期待するシナジーといえばセールスの拡大であり、この点において、中小企業診断士が持つネットワーク力はPMIの時に発揮されやすい力です。 (2) 中小企業にマッチする経験値 商工会議所の会員である中小企業では、中小企業診断士との接点が過去にもあったかもしれません。中小企業診断士が対象とする規模のカテゴリーは、資格の名の通り中小企業であり、非上場企業が中心です。中小企業M&A業務を行う税理士、弁護士も中小企業寄りですが、これらが税、法といった専門性をウリにするのに対して、中小企業診断士は、「〇〇の拡大」という経営活動の拡大全般を広く担うことをウリにしますので、ビジネスを推進するパートナーとして、中小企業M&Aにおいて力を発揮しやすい職業だと思います。 中小企業M&Aは大半の企業が1度しか経験しませんので、M&Aを効率的に進める観点から、中小企業M&Aでは中小企業診断士の活用を考えるのは選択肢の1つとして検討に値するのではないでしょうか。 (了)
電子書類の法律実務Q&A 【第19回】 「インターネット通販で電子契約をする場合、最終確認画面での表示事項は何か」 弁護士法人 咲くやこの花法律事務所 弁護士 池内 康裕 〔Q〕 インターネットを利用した通信販売(インターネット通販)で、消費者と電子契約をする場合、最終確認画面に表示すべき項目が決まっていると聞いたことがあります。最終確認画面についての法的規制の内容と注意すべきポイントを教えてください。 〔A〕 最終確認画面に、特商法で定められた6項目を表示する必要があります。この6項目については、消費者を誤認させるような表示も禁止されています。特に、定期購入契約については、誤解が生じやすいので、丁寧な説明が必要です。 また、契約の申込みになることについて、消費者を誤認させる表示は禁止されています。例えば、「送信する」「次へ」というような契約の申込みにならないと考えられるボタンを、契約の申込ボタンとすることは禁止されます。 事業者がこれらのルールに違反したことにより、消費者が誤認して契約した場合、契約の取消事由となります。さらに、電子契約法と異なり、特商法の規定に違反した場合には、刑事罰や業務停止処分の対象とされているので、特に注意が必要です。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 特商法の規制 (1) 最終確認画面に表示すべき6項目 インターネットを利用した通信販売で電子契約をする場合、最終確認画面に表示する項目については、特定商取引に関する法律(以下「特商法」という)の規制対象となる。特商法12条の6第1項により、最終確認画面には、以下の6つの項目を表示しなければならない。後述するとおり、これら6項目については消費者を誤認させる表示も禁止されている(特商法12条の6第2項2号)。 これら6項目は、契約締結するかどうか判断する際に重要な情報である。 これら6項目については、最終確認画面に表示するのが原則だ。ただし、表示事項に係る全ての説明を最終確認画面上に表示すると、かえって消費者に分かりづらくなるような場面では、最終確認画面に表示しないことも許される。 消費者庁のガイドラインによれば、このような例外が認められる場面として、「複数の販売業者が販売する商品をまとめて購入することが可能なモール型のインターネット通販サイト」があげられている。 上記①から⑥の項目を表示しないことにより、消費者が誤認をして契約した場合、消費者は契約自体を取り消すことができるとされている(特商法15条の4第1項2号)。さらに、上記①から⑥の項目を表示していても、事実と異なっていたため、消費者が誤認をして契約した場合も同様に、消費者は契約自体を取り消すことができるとされている(特商法15条の4第1項1号)。 民事上の問題だけではない。6項目を表示しない場合や6項目について事実と異なる表示をした場合には、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金の対象となる(特商法70条2号)。さらに、通信販売に係る取引の公正及び購入者もしくは役務の提供を受ける者の利益が著しく害されるおそれがあると判断された場合等は、業務停止処分の対象となる(特商法15条1項)。 (2) 消費者を誤認させるような表示の禁止 消費者を誤認させる表示も禁止されている(特商法12条の6第2項)。違反した場合には、100万円以下の罰金の対象となる(特商法72条1項4号)。さらに、通信販売に係る取引の公正及び購入者もしくは役務の提供を受ける者の利益が著しく害されるおそれがあると判断された場合等は、業務停止処分の対象となる(特商法15条1項)。 消費者を誤認させる表示として、特商法で禁止されているのは、以下の2つだ。 ① 契約の申込みになることについて誤認させる表示 契約の申込みになることについて、消費者を誤認させる表示は禁止されている(特商法12条の6第2項1号)。例えば、「送信する」「次へ」というような契約の申込みにならないと考えられるボタンを、契約の申込ボタンとすることは禁止される。 違反した場合に、消費者が契約の申込みにならないと誤認して契約したとき、消費者は契約自体を取り消すことができるとされている(特商法15条の4第1項3号)。 消費者庁のガイドラインによれば、具体的には以下のようなケースが考えられる。 ② (1)の6項目について誤認させる表示 (1)の6項目について、事実と異なる表示とまでは言えないケースでも、消費者にその意味するところを誤認させるような表示も禁止される(特商法12条の6第2項2号)。 違反した場合に消費者が(1)の6項目について誤認して契約したとき、消費者は契約自体を取り消すことができるとされている(特商法15条の4第1項4号)。 「誤認させる表示」かどうかは表示の記載自体から形式的に判断されるのではなく、①表示の位置、形式、大きさ及び色調等も考慮され、②他の表示と組み合わせて見た表示の内容全体から消費者が受ける印象・認識により総合的に判断される。 消費者庁のガイドラインによれば、具体的には以下のようなケースが考えられる。 2 定期購入契約の場合の注意点 定期購入契約の最終確認画面については、特に注意が必要だ。この点については、消費者庁のガイドラインでも注意喚起されている。 ここでいう定期購入契約とは、販売業者が購入者に対して商品を定期的に継続して引き渡し、購入者がこれに対する代金の支払をすることとなる契約のことだ。例えば、1ヶ月に1回、健康食品が到着するような契約とイメージしていただきたい。 定期購入契約の主なポイントは、以下の6つだ。 第1に、上記1(1)の①商品、権利又は役務の分量との関係では、各回に引き渡す商品の数量等のほか、当該契約に基づいて引き渡される商品の総分量が把握できるよう、引渡しの回数も表示する必要があるとされている。 つまり、「各回につき〇個をお届け ➡ 計〇回分計〇個となる」という趣旨の表示が必要だ。回ごとに、商品の個数が異なる場合は、「1回目〇個、2回目〇個、3回目〇個 ➡ 計3回計〇個となる」という趣旨の表示をする必要があるだろう。 第2に、①商品、権利又は役務の分量との関係では、消費者が解約を申し出るまで定期的に商品の引渡しがなされる無期限の契約の場合には、その旨を明確に表示する必要がある。 なお、消費者庁のガイドラインによれば、「この場合には、あくまでも目安にすぎないことを明確にした上で、1年単位の総分量など、一定期間を区切った分量を目安として明示することが望ましい」とされている。 「望ましい」とされているので、1年単位の総分量を表示しなくても直ちに特商法に違反するものではないという理解も可能である。 第3に、①商品、権利又は役務の分量との関係では、自動更新のある契約である場合には、自動更新について表示する必要がある。 第4に、②商品、権利の販売価格又は役務の対価との関係では、各回の代金のほか、消費者が支払うこととなる代金の総額を明確に表示しなければならないとされている。例えば、初回の料金を半額にしているような場合、「1回目2,000円(税込)、2回目4,000円(税込)、3回目4,000円(税込)➡ 計3回の支払総額10,000円(税込)」という内容で表示する必要がある。 第5に、③代金又は対価の支払の時期・方法、④商品の引渡時期、権利の移転時期又は役務の提供時期について、回ごとに内容が異なる場合、内容の相違が分かるように具体的に明記する必要がある。 第6に、⑥契約の申込みの撤回又は解除に関する事項との関係では、定期購入契約において、解約の申出に期限がある場合には、その申出の期限、また、解約時に違約金その他の不利益が生じる契約内容である場合には、その旨及び内容も記載しなければならないとされている。 なお、違約金については、「平均的な損害の額」を超えるものは、無効となるので、注意が必要だ(消費者契約法9条1項1号)。 3 電子契約法との関係 本連載の【第18回】では、電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律(以下「電子契約法」という)について取り上げた。 電子契約法上の「電子消費者契約」に当たると、「重大な過失」により誤って契約した場合でも、取消しが認められる(電子契約法3条1項本文)。ただし、電子契約法により、事業者が「消費者の申込み(中略)の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置」をとっているときは、「重大な過失」による場合でも、錯誤取消しができないことになっている(電子契約法3条1項ただし書)。 電子契約法は、民事上のルールを定めたものである。確認を求める措置をとっていなかった場合、「重大な過失」による場合でも、契約取消しが認められてしまうだけだ。特商法と異なり、電子契約法上の「確認を求める措置」をとっていないことのみを理由に刑事罰や業務停止処分の対象となることはない。 (了)
プラス思考の経済効果 【第25回】 「2024年ドジャースにおける大谷選手の経済効果」 関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩 1 はじめに 2024年のシーズン開幕時から大谷翔平選手は大変な事件に巻き込まれて、大きな精神的プレッシャーを受けたと想像されます。しかし、そのプレッシャーをはねのけて、大谷選手は移籍したドジャースでも笑顔を絶やさず活躍を続けています。今回は、ドジャースに移籍した2024年の大谷選手の活躍と経済効果を推定しました。 2 2024年における大谷選手の活躍の予想 2024年5月30日現在の大谷選手の打撃成績は、打率0.330、ホームラン14本、打点38、盗塁13です。この数字と過去3年間のシーズンの成績を参考にして今年の大谷選手の打撃成績を予想してみましょう。 【第1表】は大谷選手の2021~2023年のエンゼルス所属時の打撃成績です。 【第1表】 2021~2023年の大谷選手の打撃成績 多くのファンが関心を持っている2024年のホームランの数を推計してみます。2021~2023年の大谷選手の月別のホームラン数は【第2表】の通りです。 【第2表】 2021~2023年の大谷選手の月別ホームラン数 【第2表】から大谷選手は暑くなるとホームランを増産していることが分かります。特に、6月、7月にはホームランを沢山打っているので、2024年も夏が楽しみです。 ドジャースには強打者が揃っており、大谷選手が2番DHで出場すると、打席が多く回ってきて、エンゼルス時代と比べて敬遠は少なくなるので、打数が増えると考えられます。ホームランを打つ平均打数を【第2表】より13.4とすると、打数が600を超えれば、約45本のホームランを打つ可能性があります。また、やや不振でホームランの数が少なかった2022年の数値を考慮しないで、ホームラン1本に必要な打数を12と仮定すると、2024年は50本という大台に届く可能性も出てきます。 3 2024年ドジャースでの大谷選手の直接効果 大谷選手の経済効果の計算の基になる直接効果は以下の通りです。 (1) アメリカ国内の直接効果 ① ドジャー・スタジアムとビジターでの他球団の球場における観客増加による消費増加額 ドジャースは人気球団であるので、今年は主催試合で約400万人(前年より約16万人の増加)を集めると予想されています。また、ビジターでも「オオタニ効果」で観客数が増加していて、今年は約24万人増加すると予想されています。 アメリカチーム・マーケティング・レポートが2023年に発表した「Fan Cost Index of MLB teams in 2023」によれば、主催試合で4人家族の消費金額は約5万3,781円、ビジターでは約4万1,512円ですので、合計約47億1,343万円の観客の消費額が増加すると予想されます。 ② 大谷選手の年俸 大谷選手のドジャースとの契約は、10年契約で約7億ドル(契約時のレートで約1,015億円)です。ただし、最初の10年間で契約金の約3%(約30億円、年間約3億円)を受け取る契約になっています。 ③ 大谷選手のスポンサー契約料 大谷選手とドジャースのスポンサー契約はうなぎのぼりです。2024年のはじめにスポンサー契約を結んでいるのは約20社であり、アメリカのスポーツメディア「Sportico」によると、総額は6,500万ドル(約101億2,180万円)になるとのことです。 ④ 大谷選手による放映権収入 アメリカでの人気スポーツの放映権料は日本とは桁違いです。ウォール・ストリート・ジャーナルによるデータをもとにして筆者が推計すると、今年のNHKとMLBの契約金約8,000万ドル(約125億円)のうち、大谷選手の放映分は約87億2,032万円と推計されます。 ⑤ その他の大谷選手の直接効果 大谷選手のグッズの売上高や、球場などへの日本企業の広告料など、その他の直接効果は【第3表】の通りです。 (2) 日本国内の直接効果 大谷選手応援観戦ツアーの売上高と日本におけるグッズの売上高の予測額は【第3表】の通りです。 (3) アメリカと日本における大谷選手の直接効果の総額一覧 アメリカと日本における大谷選手の直接効果の総額は、下記の通り約400億5,555万円となります。そして項目別の金額は【第3表】に示されています。 【第3表】 2024年の大谷選手の項目別直接効果 4 2024年のドジャースにおける大谷選手の経済効果 これまでの直接効果を用いて経済効果を分析すると、以下の通り約865億1,999万円になります。 〈2024年ドジャースにおける大谷選手の経済効果〉 5 まとめ (1) 最近の大谷選手の経済効果の推移 大谷選手の2021年以後の経済効果は以下の通りです。 〈大谷選手の経済効果(2023年、2024年は予測値)〉 (2) 分析の結論 分析結果をまとめると、以下の通りです。 昨年18年ぶりのリーグ優勝で、大阪・関西地域のみならず日本中を興奮させた阪神優勝の経済効果は約872億2,114万円でした。阪神優勝の経済効果は阪神の約70数名の選手全員で創り出したものでしたが、大谷選手はたった1人でその額に匹敵する約865億1,999万円の経済効果を創り出すと想定されます。いかに大谷選手が偉大な選手であるかがお分かりいただけると思います。 大谷選手がドジャースでも大活躍をして、初めての三冠王、2度目のホームラン王、3度目のMVPを獲得して、ワールドシリーズで世界一になることを願っています。 (※) 本稿における円換算の記載は、その当時の為替レートによります。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第81話】 「信託型ストックオプションと実質主義」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 浅田調査官は、先ほどから国税庁が公表している「ストックオプションに対する課税(Q&A)」(令和5年7月7日改訂)の問3を熱心に読んでいる。 そこに中尾統括官がやってくる。 「何を熱心に読んでいるの?」 中尾統括官は、浅田調査官の見ている「ストックオプションに対する課税(Q&A)」を手に取る。 「・・・信託型ストックオプションか・・・これは・・・以前、君と議論したことがあるな・・・」 中尾統括官は、穏やかな顔をして言う。 「ええ・・・それで、課税庁が・・・信託型ストックオプションについて、給与所得であるという見解であることは知っているのですが・・・」 そう言いながら、浅田調査官は、税務六法で所得税法施行令84条(譲渡制限付株式の価額等)3項を開く。 「・・・すなわち、この条文を適用するためには、役員・従業員等が『発行法人から・・・与えられた場合』であることが必要だと思うのですが・・・」 浅田調査官は、条文を読みながら、コメントする。 「・・・信託型ストックオプションにおいて、役員・従業員等は、受託法人から新株予約権を取得するのであって、発行法人は役員・従業員等に対して新株予約権を発行しない・・・ということは、同条が信託型ストックオプションに適用できないのでは・・・」 浅田調査官は、中尾統括官を見る。 「・・・しかし・・・実質的には発行法人が役員・従業員等に対して、新株予約権を発行しているのだろう・・・確かに、信託型ストックオプションは、形式的には、受託法人が役員・従業員等に新株予約権を付与しているが・・・」 中尾統括官は、図を描く。 中尾統括官は、満足そうに自分の描いた図を見る。 「・・・この図を見れば分かるように、形式的には信託会社が役員・従業員等にストックオプションを付与しているように見えるが、実質的には、発行会社が受益者を指定し、ストックオプションを付与していることから、所得税法施行令84条3項を根拠にすることは、実質的な課税関係から、何ら問題がないように思える」 中尾統括官は、浅田調査官を見る。 「・・・しかし、信託型ストックオプションにおいて、役員・従業員等は、受益権確定によって、信託会社から新株予約権を取得するのであって、発行会社が役員・従業員等に対して、直接新株予約権を発行するわけではない・・・条文を文言どおり解釈すると、所得税法施行令84条3項をそのまま適用できないと思うのですが・・・」 浅田調査官は、首を傾げながら言う。 「・・・税法は、基本的には、事実関係も実質的に判断しなければならないと思う・・・法律上の形式を重視すると、結論がおかしくなるケースが多々生じる・・・信託型ストックオプションも、実質的には、発行会社がストックオプションを役員・従業員等に付与していることは間違いない・・・そして、受託者である信託会社は、ストックオプションに関する決定権を有していないのだから・・・実質的には、発行会社が役員・従業員等にストックオプションを付与したと解するのが妥当である・・・もともと、このスキームは、給与所得の課税を回避し、譲渡所得にするために、頭の良い弁護士が考えたものだ・・・」 中尾統括官の語調が強くなる。 「・・・法解釈の出発点である文理解釈から離れて、発行会社と受託者はイコールであるという飛躍した解釈は、許されるのでしょうか?」 浅田調査官は、まだ、納得しない表情をしている。 (つづく)
《速報解説》 JICPAが「サイバーセキュリティリスクへの監査人の対応」に係る研究文書を公表 ~被監査会社でのインシデント発生時に必要となる監査上の対応等を紹介~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年5月30日、日本公認会計士協会は、「サイバーセキュリティリスクへの監査人の対応(研究文書)」(テクノロジー委員会研究文書第10号)を公表した。 研究文書は、財務諸表監査や財務報告に係る内部統制の監査において、サイバーセキュリティリスクを考慮する重要性の増加を踏まえ、監査を実施するに当たっての留意点などについて研究したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ サイバーセキュリティリスクと財務諸表監査・内部統制監査の関係 サイバーセキュリティ・インシデントとして、フィッシングメール、不正アクセス、ランサムウェアなどを紹介し、財務諸表監査における、サイバーセキュリティリスクの識別と評価、及び当該リスクへの対応は、リスクが顕在化した場合に監査へどのような影響を与えるかを考慮した上で実施することが重要と考えられると記載している。 財務報告に影響を与える代表的なリスクとしては、データ漏洩、データ改竄、システム停止及び暗号化があり、これらのリスクの顕在化によって、損失の見積りが必要になる可能性や財務諸表を適時かつ正確に開示できなくなる可能性がある。 Ⅲ 通常の財務諸表監査・内部統制監査における対応(平時の対応) サイバーセキュリティリスクはどの企業においても晒されているリスクであり、財務諸表監査では、重要な虚偽表示リスクの識別と評価における考慮事項として、サイバーセキュリティリスクに関する企業の環境及び内部統制システムを理解することが求められると考えられる。 Ⅳ サイバーセキュリティ・インシデント発生時の対応(有事の対応) インシデントが発生した旨の通知を受けた際には、事実関係及びその影響範囲を踏まえて、財務報告への重要な影響の有無について判断することになると考えられる。 当該判断を行う際に想定される検討項目例(発生日時、発生範囲、影響など)が記載されている。 財務報告への重要な影響(開示等)の有無について評価することになるが、当該評価に当たっては、復旧費用、調査費用、補償費用、規制当局に対する罰金等、既に顕在化している費用に加え、例えば、機密情報(取引先の情報を含む)や個人情報の漏洩を原因とする訴訟費用、取引先等との関係において重要な債務履行ができなかったこと等に起因する損害賠償金等、将来の費用又は損失に対する引当金の計上や偶発債務等の開示を検討することが考えられる。 インシデントの発生を完全に防止することは困難であり、インシデントの発生が直ちに不備の存在を示すものではない。 しかしながら、インシデントの発生により財務報告に重要な影響が生じている場合には、内部統制の不備が存在している可能性があると考えられる。インシデントが発生した原因を明らかにするとともに、それらの原因を分析して、内部統制の不備の識別と評価を行い、追加手続を実施する。 インシデントが発生したことを決算日後、監査報告書日までの間に会社が検知した場合、それが後発事象に該当するか否かを検討することが考えられる。 インシデントの検知が決算日後であったとしても、不正アクセス等の実質的な原因となるサイバー攻撃は決算日以前に行われている可能性があり、インシデントの発生経緯を詳細に検討することが重要である。 例えば、不正アクセス等が決算日以前に行われており、情報の窃取やランサムウェアによる情報の暗号化等の被害も決算日以前に発生しているのであれば、当該インシデントは後発事象ではなく決算日以前に発生したインシデントとして取り扱うことになると考えられる。 (了)
《速報解説》 国税庁、インボイスに関して 「多く寄せられる質問(令和6年4月以降版)」を更新 ~課税売上高1,000万円以下の登録事業者が1,000万円超となった場合の届出は不要~ Profession Journal編集部 既報のとおり、令和6年4月10日にインボイスに関して「多く寄せられるご質問」の令和6年4月以降版が国税庁から公表されたところ、5月30日にこの内容が更新され、新たに2つの設問が追加された。 新たに追加された設問は次のとおり。 まず、問ⓑでは、物品切手等を割引・割増価格により購入した場合の仕入控除税額の算出方法が質問されており、物品切手等を割引価格にて購入した場合は、受領した適格請求書等に記載された金額により仕入控除税額を算出し、実際に支払った金額との差額を雑収入等(消費税課税対象外の売上げ)として計上するとしているが、実際に支払った金額により、仕入控除税額を算出しても差し支えないとしている。 一方、割増価格で購入した場合には、受領した適格請求書等に記載された金額を上限として仕入控除税額を算出することとなる旨を明らかにしている。 また、問ⓒでは「当社は、適格請求書発行事業者です。この度、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えることとなりましたが、『消費税課税事業者届出書』の提出は必要でしょうか。」という問いに対して、適格請求書発行事業者は、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えるかどうか等にかかわらず、課税事業者となることから、適格請求書発行事業者の登録を受けている課税期間(登録日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間に限る)については、「消費税課税事業者選択・・届出書」の提出を行った場合と同様に、「消費税課税事業者届出書」を提出しなくて差し支えない旨を回答している。 2割特例を適用するため、本来基準期間における課税売上高が1,000万円に満たない免税事業者がインボイス制度を機に適格請求書発行事業者となるケースも多くみられるが、このような事業者が基準期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合には「消費税課税事業者届出書」を提出は不要との見解を示している。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2024年5月30日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.571を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。