ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第43回】 「ジャニーズ事件の調査報告書に見るハラスメント事案対応のポイント」 弁護士 柳田 忍 【Question】 先日、ジャニー喜多川氏による性加害に関する調査報告書が公表されましたが、ハラスメントの対応において参考になる点がありましたら教えてください。 【Answer】 主に被害者側の供述を中心とした事実認定の手法や、加害取締役以外の取締役の責任、外部通報窓口の設置や人権の専門家をCCOとして採用すること等の再発防止策に関する見解などがセクハラ事案においても参考になると思われます。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 はじめに 2023年8月29日、ジャニー喜多川氏(以下「ジャニー氏」という)による性加害事件について、弁護士、精神科医、臨床心理士により構成された外部専門家による再発防止特別チームから調査報告書(以下「本調査報告書」という)が公表された。その内容は、ジャニー氏による多数の未成年の男性タレントに対する性加害の事実や株式会社ジャニーズ事務所(以下「ジャニーズ事務所」という)の取締役がこれを認識し、又は認識し得たにもかかわらず適切な対応を怠っていたことなどを認めるものであり、これにより芸能界のみならずスポンサー企業を含むビジネス界においても激震が走っていることは周知のとおりである。 性加害は、加害者の性的言動により被害者が身体的・精神的損害を被るものであり、加害行為が密室で行われることが多い点や、その性質上、被害申告がなされにくい点など、セクハラ事案と共通点が多いことから、本調査報告書においてもセクハラ事案の対応において参考になる点が多々あるため、以下解説する。 2 調査・事実認定の手法 ハラスメント事案においては、基本的には、被害者(とされる者)、加害者(とされる者)双方に対するヒアリングを行い、被害者ないし加害者の供述や客観的裏付けに基づいて事実認定が行われる。 しかし、ハラスメント事案において、特にセクハラ事案については目撃者がない密室で行われることが多いことから客観的裏付けがないことが多い。 本件においても、本調査報告書を見る限り、個々の性加害行為を裏付ける決定的な客観的証拠は確認できていないようであり、更に加害者が死亡しているため、加害者による供述すら存在しない状況において、多数の被害者の供述を中心に性加害の事実が認定されている。本件においては、ジャニー氏による性加害が問題となった過去の裁判例、ジャニー氏による性加害に関する報道の事実などが存在するといった特殊事情はあるものの、その調査・事実認定の手法は一般的なセクハラ事案の事実認定においても参考になる。 3 加害取締役以外の取締役の責任 取締役は他の取締役の行為について監視・監督義務(会社法362条2項2号)を負う。本調査報告書は、メリー喜多川氏等一部の(ジャニー氏による性加害当時の)取締役にジャニー氏による性加害の認識があったことを認めているが、他の取締役についても、週刊誌のジャニー氏による性加害に関する記事について、仮に事実であれば、芸能事務所としての信用・名誉を著しく毀損するものであり、そのような会社を存亡の危機にさらすことにもなりかねない重大な記事が掲載された以上は、ジャニー氏の性加害の事実を徹底的に調査し、事実が認められれば是正・再発防止策を講ずるなどの義務があったとして、これを怠ったことなどについて監視・監督義務違反に基づく損害賠償義務を認めている。 この点、特に昨今、セクハラ事案に対して世間の厳しい目が注がれていることに照らすと、取締役によるセクハラ事案についても、これが明らかになれば会社の信用・名誉を著しく毀損するものであり、事案にもよるが会社の存亡にも関わる可能性があると思われる。よって、取締役においては、他の取締役のセクハラ加害について監視・監督義務が認められる場合があり得ることを前提に行動すべきであろう。 4 内部通報制度の外部窓口の設置 本調査報告書は、ジャニーズ事務所において設置された内部通報窓口が会社内部の窓口に限られている点について、社員や関係者が内部通報制度に社内の法令違反等を通報すると自分が不利益を受けるのではないか、内部通報しても自浄力はないのではないかなどという懸念を有していると内部通報制度が活用されないなどと内部窓口の問題点について指摘し、ジャニーズ事務所の「企業風土」などに照らすと、内部窓口に加えて外部窓口を設置し、通報者の保護に対する安心感を持たせるべきであると述べている。 外部窓口の有用性については以前から言及されているところであり、2016年時点のデータ(※1)によると、内部通報制度(※2)を導入している企業のうちおよそ3分の2超の企業が外部窓口を設置しているが、外部窓口を設置していない企業においては、本調査報告書の意見を参考に外部窓口の設置を検討するのがよいと思われる。 (※1) 消費者庁「平成28年度民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書」 (※2) ここでいう内部通報制度とは、公益通報者保護法を踏まえ、不正を知る従業員等からの通報を受け付け、通報者の保護を図りつつ、適切な調査、是正及び再発防止策を講じる事業者内の仕組みを意味する。 5 チーフコンプライアンスオフィサー(CCO)として人権の専門家の採用 本調査報告書は、CCO(チーフコンプライアンスオフィサー・コンプライアンス部門のトップ)を設置して、外部から人権に関する専門家を採用し、これに充てるべきであると述べている。 近年、企業活動における人権の尊重が重視されており、諸外国においてはビジネスと人権に関するハードロー化(法制化)が進んでいる。日本においては、2022年9月に経済産業省が公表した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」といった法的拘束力のないソフトローが存在するに留まっているが、諸外国におけるビジネスと人権のハードロー化の進展等を受けて、ハードローの整備に向けた議論が進められており、ビジネスと人権の重要性は年々に高まっているところである。このような情勢を踏まえると、CCOに人権の専門家を充てることは、ハラスメント防止の観点からはもちろんのこと、ビジネス的観点からも有益であると思われる。 6 最後に 性加害もセクハラも、人の性的自由に対する軽視が根底にあるものである。本調査報告書公表後、ジャニーズ事務所がジャニー氏の性加害の事実を認め謝罪したことを受けて、各界の著名人がコメントを発表しているが、その中に、ジャニー氏の性加害について多くの関係者が見て見ぬふりをしていたのは時代のせいであったといった発言が散見される。しかし、いつの時代・いかなる性別においても性的自由を侵害されることは苦痛であり許されるはずのないことであり、セクハラ事案対策においてもかかる意識は不可欠であるといえる。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和5年1月~3月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2023(令和5)年9月27日、「令和5年1月から3月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、国税通則法関係と所得税法関係が各3件、法人税法関係、相続税法関係とたばこ税法関係が各1件で、合わせて9件となっている。 【表:公表裁決事例令和5年1月から3月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された裁決事例のうち、重加算税の賦課決定処分において、隠蔽・仮装の認定判断が分かれた2件の裁決(前掲表②、③)と、原処分庁による寄附金認定を取り消す判断を示した裁決(前掲表⑦)について、国税不服審判所の判断内容を概説したい。 なお、複数の争点がある裁決については、下記の概要の中で、その一部を割愛して、中心となった争点のみに絞らせていただいたことを、あらかじめお断りしておく。 1 請求人による行為を隠蔽又は仮装であると認定した事例・・・② (1) 事案の概要 本件は、宅地建物取引業者として、不動産賃貸物件の仲介、広告、リフォーム及び管理等の事業を営む個人である審査請求人が、不動産の売買取引及び不動産の売買の仲介取引に係る収入金額等を申告しなかったところ、原処分庁が、不動産の売買取引及び不動産の売買の仲介取引についての事実の隠蔽・仮装が認められるとして、重加算税の賦課決定処分を行ったことから、請求人が、事実の隠蔽・仮装はないとして、原処分のうち過少申告加算税又は無申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、事実認定に基づいて、請求人は、各確定申告に当たり、売買計算表により算出した各売買取引に係る所得金額等も含めて申告すべきであることを知りながら、当該所得金額等を申告しないことを意図して、各売買取引に係る収入金額等を除外した内容虚偽の各収支内訳書の下書を作成してL税務署に持参し、同署の職員に提示して相談したうえで、その結果に基づいて、所得金額等を意図的に過少に記載して本件各確定申告をしたことを認め、請求人は、各売買取引に係る売買計算表を物件ごとに作成して当該物件の取引に係る帳票類と共にファイルに入れて整理しており、各売買取引が、請求人の事業全部の中で大きな金額を占める重要な取引であると考えられることからすれば、請求人が各売買取引について失念することは考え難いところ、原処分庁職員による調査において、当初、調査担当職員から繰り返し質問を受けたにもかかわらず、複数回にわたって各売買取引を行っていることを否認し、売買計算表を提出することもなかったことからすれば、各売買取引の存在及びその内容を秘匿する意図に基づくものと推認されるという判断を示した。 そのうえで、国税不服審判所は、請求人の主張立証を考慮しても、請求人の主張を裏付ける事情は見受けられないことから、請求人が各売買取引及び各売買仲介取引に係る所得金額等を申告しなかったことについては、国税通則法第68条第1項及び第2項に規定する隠蔽又は仮装が認められることから、請求人のした過少申告行為、又は無申告行為は、国税通則法第68条第1項及び第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすと認められ、請求人の主張にはいずれも理由がなく、所得税等及び消費税等に係る賦課決定処分はいずれも適法であり、審査請求は理由がないから、これを棄却すると結論づけた。 2 請求人による行為が隠蔽又は仮装には当たらないと認定した事例・・・③ (1) 事案の概要 本件は、会社員である審査請求人が、副業で行っていたインターネット販売(以下「ネット販売」という)に係る収益について、所得税等及び消費税等の期限後申告をしたところ、原処分庁が、ネット販売において実在しない会社名や親族の名を使用するなどの隠蔽又は仮装の行為があったとして、重加算税等の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装の事実はないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 (2) 原処分庁の主張 原処分庁は、請求人は、ネットショップにおいて、出品者プロフィール画面の正式名称欄に「H社」と実在しない会社名を記載し、代表者欄に請求人の母の名を記載するなどして、取引名義を仮装することにより、ネット販売を行っていた事実を隠蔽しており、重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽、仮装行為を原因として無申告の結果が発生したものであれば足りるものと解され、税を免れる目的があったか否かは必要でないことからすると、請求人が故意に自らの名前を記載せず、借名等した行為を原因として無申告の結果が発生しているのであるから、国税通則法第68条第2項の規定に該当すると主張した。 (3) 審査請求人の主張 審査請求人は、ネットショップの出品者プロフィール画面の出品者情報は、任意記載項目であり、正式な名称の記載を求められているものではなく、自身の名前を記載しなかったのは、勤務先では副業が認められておらず、勤務先に対して副業が知られないようにするためであったこと、代表者欄に母の名を記載したのは、母が商品の梱包発送作業に従事していたからであり、また、ネット販売で売上代金を受領していた預金口座は請求人名義であること、商品発送時には、発送者名に自身の名を記載していること、発送元の住所も請求人の自宅住所を記載していること、ネット販売で顧客との連絡等に使用していた電話番号は請求人が契約しているものであることから、取引名義を仮装したことにはならず、請求人の存在を隠匿する意図はなく、課税を免れるために取引を隠蔽するという意識は一切なかったと主張した。 (4) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、認定した事実関係に基づき、請求人は、商品の仕入れ、商品の出品や顧客への引渡し、F社を通じての代金回収といったネット販売の各取引段階において、取引上の名義に関し、あたかも請求人以外の者が取引を行っていたかのごとく装い、故意に事実をわい曲するなどの仮装行為を行っていた又は請求人に帰属するネット販売の売上げを秘匿する等の隠蔽行為を行っていたと認めることはできない。そして、他に、請求人がネット販売に係る売上げを隠蔽し、又は売上げが請求人に帰属しないかのごとく取引名義を仮装したことを示す証拠は見当たらないことから、本件ネット販売において、課税標準等又は税額の計算の基礎となる事実の隠蔽又は仮装の行為があったとは認められず、請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとは認められないという判断を示した。 そのうえで、原処分庁による所得税及び消費税に係る重加算税の賦課決定処分のうち無申告加算税相当額を超える部分の金額については、取り消すべきであるとして、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととすると結論づけた。 3 仕入金額の寄附金認定が争われた事例・・・⑦ (1) 事案の概要 本件は、販売業を営む法人である審査請求人が、特定の仕入先からの仕入金額を損金の額に算入していたところ、原処分庁が、当該仕入先に対する仕入金額は時価相当額と比較して高額であるため、当該仕入金額の一部は法人税法上の寄附金の額に当たるなどとして更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、まず、法人税法上の寄附金について、法人税法第37条第8項において、対価性のある資産の譲渡又は経済的利益の供与について、その対価と譲渡の時における価額又は供与の時における価額との間に差がある場合には、その差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額が寄附金の額に含まれると定め、寄附金に該当する利益供与の形態と損金の額に算入されない寄附金の範囲を明らかにしており、時価とは、当該資産につき不特定多数の当事者間における自由な取引において通常成立すると認められる価額をいうものと解されるという法令解釈を示した。 そのうえで、認定した事実として、請求人が仕入れている商品の取引価格は、「重量」、「歩留り」、「相場」、「加工賃等経費・利益」(精製するための加工賃及び利益)によって目安の金額が計算される、というのが業界における一般的な考え方であるが、取引当事者が協議して決定される場合もあり、「相場」は、業界紙に掲載されている取引相場が用いられることが多く、「歩留り」は、日々仕入れるごとに多少変化し、特に製造工程に変更があった場合には、大きく変化するものであるとの業界の取引慣行を挙げた。 さらに、国税不服審判所は、請求人による各仕入先からの仕入単価は、営業部長が、仕入単価計算式によって算出された金額を目安に親族事業者と交渉して合意した金額であるところ、本件仕入単価計算式による算出に当たっては、「建値」として相場を基にした金額が、「歩留り」として営業部長が親族事業者と目利きにより判断した数値がそれぞれ用いられ、国税不服審判所に提出された証拠資料並びに国税不服審判所の調査及び審理の結果によっても、この目利きによる「歩留り」の判断が不合理であるとは認められないし、各仕入先に対する「加工賃」の額が不相当に低額であるとも認められないことから、営業部長が親族事業者と仕入単価を交渉する際に仕入単価計算式により算出した金額は、不特定多数の当事者間における自由な取引において通常成立すると認められる価額、すなわち時価に比して不相当に高額であったとは認められないとの判断を示した。 一方、国税不服審判所は、原処分庁が原処分庁算出金額を計算するに当たり用いた「歩留り」の数値は、本件取引期間における「歩留り」の数値であるとはいえないから、原処分庁算出金額は時価相当額であるとはいえないとして、原処分庁の主張を斥け、原処分庁算出金額と本件仕入金額との差額は法人税法第37条に規定する寄附金の額には該当しないとして、原処分庁による法人税に係る更正処分の一部と過少申告加算税を取り消すべきであるとして、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととすると結論づけた。 (了)
《速報解説》 ASBJ及びJICPA、パーシャルスピンオフの会計処理に係る 自己株式等会計適用指針案等や資本連結実務指針案を公表して意見募集 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年10月6日、企業会計基準委員会は、次のものを公表し、意見募集を行っている。 これは、いわゆるパーシャルスピンオフの会計処理を取り扱うものである。 また、同日、日本公認会計士協会は、次のものを公表し、意見募集を行っている。 意見募集期間は、いずれも2023年12月6日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 基準開発の範囲 令和5年度税制改正において、完全子会社株式について一部の持分を残す株式分配のうち、当該一部の持分が当該完全子会社の株式の発行済株式総数の20%未満となる株式分配について、他の一定の要件を満たす場合には、完全子会社株式のすべてを分配する場合と同様に、課税の対象外とされる特例措置が設けられている(いわゆるパーシャルスピンオフ税制)。 基準開発の範囲は、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合に限定している。 これは、いわゆるパーシャルスピンオフ税制が時限的なものであり早期に基準開発を完了すべきことから、まずは発生する可能性が高いと考えられるケースとしたためである。 完全子会社以外の子会社株式の一部の配当、現物配当実施会社の株主の会計処理などは、今回の公開草案の範囲外とし、その取扱いは示していない。 Ⅲ 個別財務諸表の会計処理 現物配当実施会社の個別財務諸表上、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する(自己株式等会計適用指針案10項(2-2)、38-2項)。 つまり、基準開発の範囲のケースについては、配当財産の時価ではなく、配当財産の適正な帳簿価額をもって会計処理することになる。 Ⅳ 現物配当実施会社の税効果会計 現物配当実施会社の税効果会計については、現行の「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第28号)の定めを変更しない。 一方、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合において、連結決算手続の結果として生じる一時差異については、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異に準ずるものとして定義に追加する(税効果適用指針案4項、124-2項)。 Ⅴ 適用時期等 公表日以後ただちに適用することを提案している。 また、適用日の前に行われた自己株式等会計適用指針案10項(2-2)で定められた取引については、適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないことを提案している。 Ⅵ 「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針(案)」 保有する完全子会社株式のすべて又は一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合、次のとおり、連結財務諸表上の会計処理を行う(資本連結実務指針案46-3項、46-4項、66-8項、66-9項)。 (了)
《速報解説》 国税庁、パブコメを経てマンション評価に係る通達「居住用の区分所有財産の評価について」を公表 ~原案より一部修正、令和6年以後の相続等から適用~ Profession Journal編集部 国税庁は2023年10月6日、年初からの「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」での議論を経て8月31日まで意見募集(パブリックコメント)を行っていた「居住用の区分所有財産の評価について」を公表した。この新たな個別通達は令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価から適用される。 なお、原案に対し寄せられた意見と国税庁の考え方は意見募集の結果ページで示されており、評価の指標となる「補正率」について他の補正率と区別するため「区分所有補正率」と名称を変更するなど、指摘を受け原案より一部修正が行われている。 新通達で示された評価方法は、一室の区分所有権等に係る敷地利用権及び区分所有権の価額は、自用地としての価額に一定の補正率(区分所有補正率)を乗じて計算するというもの。新通達の構成は、「1 用語の意義」で各用語を定義した後、「2」では一室の区分所有権等に係る敷地利用権の評価方法、「3」では一室の区分所有権等に係る区分所有権の評価方法が、それぞれ下記の通り示されている(下線部が原案からの修正箇所(「1」は軽微な修正のみ))。 なお、結果ページで公表された「非常に分かりにくい。簡便に計算できる手段を提供すべきではないか。」との意見に対し、国税庁からは「納税者が簡易に計算するための簡単なツールを用意する予定です。今後、国税庁ホームページに資産評価企画官情報等による解説を掲載する予定です。」との考え方が示されているが、本稿公開時点でそれらの情報は確認できていない。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2023年10月5日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.538を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.128- 「大型経済対策がインフレタックスを加速させる」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 岸田首相は9月26日、10月中に経済対策をとりまとめるよう指示するとともに、「成長の成果である税収増を国民に適切に還元すべきだ」と語った。現在生じている税収増は本当に「成長の成果」といえるものなのか、検証してみたい。 * * * 財務省が本年7月に公表した令和4年度(2022年度)一般会計税収は、71兆1,374億円(前年度比6.1%増)で、3年連続で過去最高を更新した。 昨年11月の補正予算編成時点に見込んだ税収は68兆3,590億円なので、2.8兆円の「税収増」が生じたことになる。問題は、それが本当にわが国の経済成長によるものなのか、という点だ。 「税収増」の要因を見てみよう。所得税収は22.5兆円(5.3%増)で0.5兆円の増収となったが、その主な要因は、名目ベースでの賃上げを反映したものだ。 厚生労働省の毎月勤労統計調査を見ると、令和4年度の現金給与総額はほぼ2%程度の伸びをしてきたが、消費者物価が4%程度上昇したため、実質賃金は2%程度のマイナスとなっている。税収増は経済成長による賃上げ(実質賃金の増加)というよりインフレの結果である。 ちなみに本年7月は現金給与総額が1.3%伸びているが消費者物価は3.9%伸びており、実質賃金は2.5%のマイナスだ。 法人税収は、14.9兆円(9.5%増)と補正後から1.2兆円増えている。これはコロナ禍からの企業業績回復の結果だが、円安や資源価格高騰による物価上昇を転嫁した結果ともいえる。 最後に消費税収だが、個人消費の持ち直しで消費税収が23.1兆円(5.4%増)と0.9兆円の増収となっている。令和4年度の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年度より3.0%上昇し、1981年度以来41年ぶりの水準となっており、増収はこれ(インフレ)を反映したものといえよう。 つまり、令和4年度の想定外の「税収増」は、「成長の成果」というよりインフレの結果もたらされたものである。個人や法人から国に所得が移転したことによるもので、インフレタックスの結果といっても差し支えない。 * * * 先進諸国の財政政策を見ると、ここ3年のコロナ禍に伴う需要不足への対応という需要拡大策から、インフレ抑制、供給重視の財政政策に舵を切っている。例えば、バイデン大統領が大統領選挙をにらんで打ち出した「バイデノミクス」は、労働者の職業訓練の強化など人的資本の向上策や、低所得者に勤労インセンティブを与える勤労税額控除(給付付き税額控除)を充実するなど、供給重視の財政政策に転換を図っている。 冒頭述べた経済対策の規模について、自民党内には15兆円から20兆円という声も出ている。しかし、わが国の需給ギャップがプラスになったこのタイミングで、国債の増発(借金)により大型経済対策を打てば、本格的なインフレにつながりかねない。 この「税収増」は、コロナ対策などで大きく水膨れしたわが国予算の返済に充てて、予算を正常化することが必要だ。 今求められる対策は、人的資本の向上や雇用の流動化により生産性の向上を目指し、実質賃金のマイナスを防ぐことではないか。規模を競う経済政策から脱却する必要がある。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例56】 「有価証券評価損の誤計上に対する減額更正に係る嘆願書の効力」 拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、中部地方の政令指定都市に隣接する市において、主として光学医療機器の製造・販売を行う株式会社X(資本金30億円で3月決算)に勤務し、現在経理部長を務めている者です。医療機器は、分野によって異なりますが、海外の製品が強い分野があったり、逆にわが国のメーカーが強い分野があったりと様々な状況といえますが、わが社が扱う光学医療機器(医用光学機械)は、比較的わが国のメーカーが強い分野ではないかと思われます。そのため、わが社もこれまで順調に利益を計上し内部留保を積み上げてきましたが、その再投資先として同業ないし隣接する分野の他社の株式(いずれも上場企業)を購入してきたという経営トップの意思決定は、結果としてみれば、あまり適切ではなかったように思われます。 すなわち、それらの会社の業績が思わしくなく、明らかに当初の出資額よりも大幅に価値が減価しているところばかりとなってしまいました。無論、わが社も手をこまねいているばかりではなく、わが社の精鋭を出資先に何人も送り込んだりしましたが、結果として業績が上向くことはありませんでした。そのため、会計上、これらの出資先の帳簿価額を大幅に引き下げざるを得ず、税務上も泣く泣く評価損を計上することを余儀なくされました。 しかし、その後顧問税理士から国税庁の「上場有価証券の評価損に関するQ&A」(平成21年4月)を知らされ、その時点における出資先の今後の財務状態から更なる評価損の計上が可能である旨告げられましたが、減額更正の期限が徒過していたため(平成23年12月の改正前で請求期間は1年)、嘆願書により減額更正を依頼しました。 ところが、国税局の担当官は、わが社の場合税法に照らして評価損の計上が可能となる要件を満たしていないため、嘆願書にかかわらず減額更正はできないと言ってきました。当方は、国税庁の上記Q&A(特にQ3)により初めて、事業年度末においてその時点における出資先の今後の財務状態を検討すべきことを知ったのであり、確定申告時には当該Q&Aの存在自体を知らなかったため、検討することは物理的に不可能であるから、国税局の主張は不当と考えております。わが社の考え方で問題ないでしょうか、教えてください。 【A】 国税庁のQ&Aである「上場有価証券の評価損に関するQ&A」(平成21年4月)は、法人税法及び同施行令、法人税基本通達に基づきその内容を解説したものであって、法令の規定にないものを新たに定めたものではありません。したがって、上場有価証券の評価損の計上基準は、同Q&Aにかかわらず法令に基づき行うべきものですが、通達の規定が法令の解釈として妥当である限りにおいて、通達の規定は有効であるものと考えられます。そのため、有価証券の価額に関する回復可能性の判断は、通達の規定等に基づき納税者自身が、事業年度末においてその時点における出資先の今後の財務状態等をもとに検討すべきであり、それを行っていない場合には、嘆願書の提出の有無にかかわらず、評価損の計上はできないものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 有価証券の評価損の計上 内国法人がその有する資産の評価換えをして帳簿価額を減額した場合には、原則として当該金額は損金の額に算入されない(法法33①)。しかし例外として、災害による著しい損傷によってその資産の価額が帳簿価額を下回ることとなったことその他の政令で定める事実が生じた場合においては、損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、当該評価減につき損金の額に算入することとされている(法法33②)。「災害による著しい損傷」による評価減の対象資産としては、政令で棚卸資産、有価証券、固定資産及び繰延資産が挙げられている(法令68①)。 このうち「有価証券」については、評価損が計上できる要件として、以下の事実が生じた場合とされている(法令68①二)。 (2) 市場有価証券等に係る評価損計上の要件 上記(1)①の「その価額が著しく低下したこと」とは、通達において、当該有価証券の当該事業年度終了時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことをいうとされている(法基通9-1-7)。 また、ここで低下の幅が「50%相当額」とされる理由について、国税庁担当官の解説書では、株式相場は常に2~3割程度の変動を繰り返しており、その程度の低落では著しく低落したとは言い難いためとされている(※1)。さらに、「近い将来その価額の回復が見込まれないこと」という要件は、企業会計原則第三・五Bや会社法(会規5③一)にも定めがある。 (※1) 松尾公二編著『法人税基本通達逐条解説(十一訂版)』(税務研究会・2023年)848頁 ところで、国税庁は平成21年に「上場有価証券の評価損に関するQ&A」を発表し、そこで「株価の回復可能性の判断の時期(Q3)」についての基準を示している。それによれば、法基通9-1-7(注)2を受けて、株価の回復可能性の判断は、あくまでも各事業年度末時点において、納税者自身により、その合理的な判断基準に基づいて行うものであり、翌事業年度以降に状況の変化(株価の上昇など)があったとしても、そのような事後的な事情は当事業年度末時点における株価の回復可能性の判断に影響を及ぼすものではなく、当事業年度に評価損として損金算入した処理を遡って是正する必要はない、としている。 (3) 有価証券評価損の誤計上に対する減額更正に係る嘆願書の効力が争われた事例 それでは、本件と同様に、有価証券評価損の誤計上に対する減額更正に係る嘆願書の効力が争われた事例(東京地裁平成26年4月25日判決・税資264号-83(順号12464)、TAINSコード:Z264-12464)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 本件は、元々眼鏡、コンタクトレンズ、光学機器及び補聴器の製造、販売等を目的とする株式会社であったが、平成21年4月、上記事業等を100%子会社である株式会社Jに移管し、現在は、株式会社J及び上記事業等に相当する業務を営む外国会社の株式又は持分を保有することにより、当該会社の事業活動を支配又は管理することを目的とする、いわゆる持株会社で、株式を上場している原告が、会計上特別損失に計上した株式の評価損について所得金額に誤って15億2,858万3,606円を過大に計上したため、4億5,857万5,200円の法人税を過大に納付しているとして、法人税の減額更正処分を求める旨の嘆願書を数回にわたり提出し、京橋税務署長において減額更正処分の根拠たるべき事実が存在することを客観的に認識し得る状況になり、同署長は減額更正処分を行う義務を負ったのに、減額更正処分が行われなかったと主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求として、還付されたはずの過大納税額4億5,857万5,200円及びこれに対する損害賠償請求権発生の日の翌日である平成23年6月28日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。 原告は各事業年度の法人税の確定申告書において、決算上、有価証券の評価損として計上した以下の金額につき、本件各事業年度の所得に加算した。 〇有価証券評価損計上額 また、納税者は課税庁に対して嘆願書を提出しているが、その経緯は以下のとおりである。 乙税理士と丙経理部長は、東京国税局で、被告に対し、平成22年12月1日、嘆願書を提出した。同嘆願書には、本件各事業年度の法人税に係る確定申告につき更正の請求をしておらず、かつ、更正の請求をすることができる期間を経過しているが、これは、本件各事業年度当時は、本件Q&A(国税庁「上場有価証券の評価損に関するQ&A」(平成21年4月))が発表されておらず、株価の回復可能性に関する判断ができなかったためであり、嘆願による減額更正処理をお願いしたい旨記載されている。 これに対し被告は、今さらなぜこのような請求をしているのか、決算当時の判断では税務上損金にならないとして自己否認したのではないか、本件Q&Aにより評価損の取扱いが変わったわけではないなどと回答した。 ② 事案の争点 ③ 裁判所の判断 争点1 争点2 なお、原告は控訴せず確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 本裁判例は、平成23年12月の税制改正前で、減額更正の請求期間が1年と短かったため、その期限が徒過していたことから、嘆願書の提出により減額更正を認めてもらおうとした事案であるが、その判断以前に、有価証券評価損の計上要件を満たしていないため、門前払いを食らったものである。そもそも法人税法施行令68条1項2号イの「有価証券の価額が著しく低下したこと」とは、法基通9-1-7によれば、当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことをいう旨規定しているが、特に「帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ること」という具体的な数値基準は、文理解釈から直ちに導かれるものではない。この点につき裁判所は、「前記ア(筆者注:法人税法33条及び同施行令68条)の解釈に照らし、具体的判断基準として合理性を有するものと解される」として肯定している。 また、「近い将来有価証券の価額の回復が見込まれないことにつき納税者が判断する必要があるか否か」について裁判所は、「申告する納税者が第一次的に株価の回復可能性につき判断を行う必要があると解され、その判断は、判断当時に定められていた合理的な判断基準あるいは合理的な根拠に基づいて行うことが必要であると解される」として、事業年度終了時に(法基通9-1-7(注)2参照)、納税者自身が主体的に、合理的な基準に基づき判断すべきと判示している。これは前述の国税庁Q&Aによって新たに追加された基準ではなく、「本件Q&Aは、そのような趣旨で記載されていると解される」というものである。 むしろ、同Q&AのQ3では、「翌事業年度以降に株価の上昇などの状況の変化があったとしても、そのような事後的な事情は、当事業年度末の株価の回復可能性の判断に影響を及ぼすものではなく、当事業年度に評価損として損金算入した処理を遡って是正する必要はありません。(※2)」としており、納税者による事業年度末の判断が合理的で根拠のあるものであれば、税務調査で(実際の株価情報から)事後的に否認するということはできないということを示しており、実務上参考になる解釈を示していると考えられる。 (※2) 松尾前掲(※1)書851頁も同旨と考えられる。 (4) 本件へのあてはめ 国税庁のQ&Aである「上場有価証券の評価損に関するQ&A」(平成21年4月)は、法人税法及び同施行令、法人税基本通達に基づきその内容を解説したものであって、法令の規定にないものを新たに定めたものではない。したがって、上場有価証券の評価損の計上基準は、同Q&Aにかかわらず法令に基づき行うべきものであるが、通達の規定が法令の解釈として妥当である限りにおいて、通達の規定は有効であるものと考えられる。そのため、有価証券の価額に関する回復可能性の判断は、通達の規定等に基づき納税者自身が、事業年度末においてその時点における出資先の今後の財務状態等をもとに検討すべきであり、それを行っていない場合には、嘆願書の提出の有無にかかわらず、評価損の計上はできないものと考えられる。 (了)
〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第10回】 「所得税基本通達2-47に定める「生計を一にする」の判定」 公認会計士・税理士 大橋 誠一 1 大阪国税不服審判所平成27年11月4日裁決 (1) 事実関係の概要 (2) 請求人の主張の概要 (※) 所得税基本通達2-47(生計を一にするの意義) (3)「生計を一にする」の法令解釈 (4) 審判所の判断の概要・請求人の主張の排斥 2 法令解釈の出所と判断基準のポイント 上記1(3)①の「日常生活の資を共通にしていた」という表現は、最高裁第一小法廷昭和51年3月18日判決(TAINSコード:Z087-3746)に見ることができる。 一方、上記1(3)②は、その敷衍を試みようとしたものと考えられるところ、「少なくとも居住費、食費、光熱費その他日常生活に係る費用の主要な部分を共通にしていた関係にあったことを要する」という表現は、東京国税不服審判所平成20年6月26日裁決(TAINSコード:J75-4-38)に見ることができる。 「日常生活の資」というと、「資力」という熟語から収入面を想起させるかもしれないが、上記1(3)②は専ら支出面に焦点を当てた解釈となっており、日常生活の支出について区分していないということが「生計を一にする」の判断基準のポイントとなるだろう。 3 所得税基本通達2-47の読み取り方 (1) 同居か別居か 同居であれば、通常は「生計を一にする」に該当することになる。 (2) 別居の場合 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q83】 「付与契約の内容を変更した税制適格ストックオプションの行使により取得した株式の譲渡」 PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美 ●○ 検 討 ○● 1 付与契約に係る条件を変更することによる税制適格性への影響 上場を目指すスタートアップ企業では、役職員へのインセンティブとしてストックオプション制度を導入することがあります。ストックオプションに関する税制適格要件のうちには、ストックオプションの権利行使価額が当該ストックオプションの付与に係る契約の締結時における1株当たりの価額に相当する金額以上であること(権利行使価額要件)が定められているため、1株当たりの価額の算定が容易ではない非上場企業にとっては権利行使価額を保守的に(つまり高めに)設定せざるを得ない状況がありました。 この実務慣行に対応するため、2023年7月、国税庁から税制適格ストックオプションの権利行使価額要件に係る付与契約時の株価の算定についてガイドラインが公表され、一定の条件の下、財産評価基本通達の例によって算定することもできることが明らかにされました。さらに、ストックオプションについては当初の付与契約で定められた事項を変更した場合は、原則として税制適格ストックオプションとして取り扱うことはできないところ、今般のガイドライン公表を受けて権利行使価額を引き下げる変更を行った場合には、適格要件に抵触しないものとして取り扱われることも明示されました。 2 税制適格ストックオプションの行使により取得した株式を譲渡した場合の課税関係 税制適格であるストックオプションについては、その行使により取得した株式が上場株式である場合には、当該株式の譲渡益は一般株式等(いわゆる上場株式等以外の株式等)の譲渡所得とは区別して、「上場株式等の譲渡による事業所得、雑所得及び譲渡所得の金額」として申告分離課税の対象となり、適用税率は20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)です。上場株式等について譲渡損が生じた場合には、他の上場株式等の譲渡益との通算や、一定の要件を満たす場合には3年間の繰越控除、また、上場株式等の配当との損益通算が認められています。 なお、税制非適格ストックオプションの場合と異なり、税制適格ストックオプションを行使することにより取得した株式は特定口座やNISA口座で管理することが認められていません。 3 本件へのあてはめ 原則として、税制適格ストックオプションの付与契約を変更した場合には税制適格ストックオプションとは取り扱われなくなりますが、2023年7月の租税特別措置法通達改正を受けて権利行使価額を引き下げたものである場合には、税制適格性には影響がないものとして取り扱われると考えられます。その場合、ストックオプションの行使時には課税関係は生じず、当該行使により取得した株式を譲渡した場合に譲渡所得として確定申告をすることとなります。この譲渡所得の金額は申告分離課税の対象となり、20.315%の税率で所得税等が課されますが、譲渡時に上場株式に該当する場合には、他の上場株式等の譲渡損益との通算や譲渡損の繰越控除の適用も考えられます。また、譲渡損については、上場株式等の配当所得との損益通算も認められます。 なお、税制非適格ストックオプションと異なり、税制適格ストックオプションの行使により取得した株式を特定口座、NISA口座で管理することは認められていませんので、申告不要の取扱いをすることができない点については注意が必要です。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第27回】 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 イ 「②支払手段性」 暗号資産について、資金決済法上、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値と規定されていることや、消費税法上も支払手段に類するものとして位置付けられていること自体はそのとおりであるが、いくつか指摘しておくべきことがある。 資金決済法上の暗号資産は1号暗号資産と2号暗号資産に区分されており、それぞれ下図のとおり整理できる(本連載第2回の図再掲)。なお、令和4年6月3日の資金決済法改正により、同法における暗号資産の定義規定は2条5項から14項に移されるとともに、暗号資産の定義から電子決済手段が除かれた(令和5年6月1日から施行)。 1号暗号資産については、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができるものであることが前提とされており、発行者と店舗等との間の契約等により代価の弁済のために使用可能な店舗等が限定されていないかなどを考慮して判断される。 よって、1号暗号資産は支払手段としての機能を有したものといえるであろう(なお、国内の暗号資産交換所に上場されている暗号資産は基本的に1号暗号資産に該当すると考えられているようである。一般社団法人日本暗号資産取引業協会「取扱暗号資産及び暗号資産概要説明書」(2023.9.1更新)参照)。 もっとも、そのような機能を有している暗号資産であったとしても、投資手段、投票権、アクセス権など支払手段以外の機能や性質を有することもありうる。 例えば、暗号資産界隈では、コミュニティやプロジェクトの意思決定をガバナンスと呼んでおり、ガバナンスに係る投票権(議決権)が付与されたトークンをガバナンストークンというが、暗号資産がガバナンストークンに該当する場合、そのような暗号資産をもって支払手段としての側面のみを強調して課税関係を考えることには疑問を提起しうる。 また、トークン保有者は一定のサービスにアクセスできる、コミュニティに参加できるなど、何らかの実用性のあるトークンをユーティリティトークンと呼んでいる。このようなユーティリティトークンを想定するとしても、同じように疑問を投げかけることができる。 本連載第24回で確認したとおり、政府は、「支払手段としての性質や資産の価値の増加益が生じる性質を複合的に有する資産」が譲渡所得の基因となる資産に該当するか否かについて、「個別具体的な資産の性質により判断される」と述べている(「暗号資産モナコインの譲渡等に係る税務上の取扱いに関する質問に対する答弁書」(R4.4.15))。 そうすると、国税庁は、支払手段としての性質を有する暗号資産の中には資産の価値の増加益を生ずる性質を複合的に有するものもあることを認めた上で、そのようなものが譲渡所得に該当する余地を認めているように見える。 しかしながら、政府は、その後の回答で、「現時点では、御指摘の『モナコイン』を含む暗号資産について、仮に、支払手段としての性質のほかに、資産の価値の増加益が生じる性質があるとしても、当該性質については、一般に独立した経済的価値が認められて取引の対象にされているとは考えていない」としている(「暗号資産モナコインの譲渡等に係る税務上の取扱いに関する再質問に対する答弁書」(R4.4.28))。 そうすると、国税庁は、事実上、あるいは少なくとも現時点では、譲渡所得への扉を固く閉ざしているように思われるが、設計が自由で複合的な性質を有する暗号資産の特質に、そろそろ正面から向き合う必要があるのではないか。 他方、支払手段としての側面にスポットライトを当てるとしても、もっともポピュラーなBTC、あるいはこれに次ぐETHですら、現状では、支払手段として使用できる実店舗は限られているという事実を等閑視してよいのかという疑問がある。 ヒアリングによる集計値のため、必ずしも全容を表す数値ではないが、次のとおり、暗号資産を支払いに使うことができる店舗等は徐々に増えてはいるものの、それでも10万店舗程度である(実店舗及びネットショップ等のECサイトなどで支払いが暗号資産で行えるサービス数を含む)。 (出典) 一般社団法人日本暗号資産取引業協会「暗号資産取引についての年間報告2021年度(2021年4月~2022年3月)」31頁(R4.9.30) 「④結論」と関わる部分もあるが、次のような疑問を示しておく。 2号暗号資産との関係では、要旨次のような見解が示されている(太田洋=佐々木秀「仮想通貨(暗号資産)と所得税に関する諸問題」中里実ほか編著『デジタルエコノミーと課税のフロンティア』158-159頁(有斐閣2020)参照)。 上記の見解に触れると、ある資産が支払手段としての性質を有すると、なぜそれだけで清算課税説との関係で譲渡所得の基因となる資産該当性が否定されるのかなど更なる疑問が出てくる。 「③暗号資産の譲渡益の性質」とも関わる疑問である。 (了)