税理士・公認会計士事務所 [ホームページ]再点検のポイント 【第6回】 「ホームページの移管に 制約があるケースも・・・」 データライズ株式会社 代表取締役社長 公認会計士・税理士 河村 慎弥 前回、前々回と、ホームページの管理会社を替える、いわゆるホームページの移管についてお話してきました。今回は、その最後の話として、とても大切な、移管が制約されてしまうことがある「法律的な問題」と、「技術的な問題」についてお話します。 * * * まず、法律的な問題とは、著作権の問題です。 ホームページの管理会社を替えるとか、制作会社と違う会社にホームページの改変を依頼する場合には、必ず著作権が問題になります。 ただしここで、ホームページの著作権について、法律的な問題を延々とお話するつもりはありません。 税理士事務所や公認会計士事務所のホームページの移管において、 さらに これら2点に必要な注意点だけをお話していきます。 * * * 税理士事務所や公認会計士事務所のホームページに関する著作権について考えた場合、文章や事務所メンバーの写真などの掲載事項と、ホームページのデザインがその対象となるのが一般的です。 著作権の帰属は制作時の契約にもよりますが、掲載事項については制作委托者である税理士事務所や公認会計士事務所に、ホームページのデザインについては制作受託者であるホームページ制作会社に著作権があることが多いようです。 トラブルに巻き込まれないことが第一、という前提で考えると、まず、現在の管理会社の著作権に関する理解を確認する必要があります。 管理会社変更時において、既存のホームページを丸ごと持ち出して再使用できるのか、または、持ち出せるのは掲載事項だけなのか、はたまた、一切持ち出せないのかを確認しましょう。 さらに、持ち出せるとして、その後自由に改変できるのか、ということも確認します。 自由に改変できないとなると、ホームページの更新ができなくなってしまうからです。 現在の管理会社が、著作権について、制作時の契約と異なる主張をしてきた場合等を除き、現在の管理会社の理解に合わせてホームページの移管を考えるのが、トラブル回避という点からは得策です。 既存のホームページを丸ごと持ち出すことができるのでしたら、後は、技術的な問題点の検討になります(この点は後述します)。 また、掲載事項しか持ち出せない場合は、その掲載事項を使って、新しい管理会社で新たなデザインでホームページを制作することになります。 新規制作料金はかかってしまいますが、ゼロから新規制作する場合に比べれば遙かに短い日数で、かつ、新しいデザインのホームページが出来上がります。 具体的には、1~2週間程度もあれば充分でしょう。 「持出しは一切不可」とか、「持出後の改変は禁止」と言われてしまった場合には、移管ではなく、既存のホームページを廃棄して、新たな管理会社で制作し直すのが無難です。 その際も、以前のホームページをタタキ台にして新たな掲載内容や新たなデザインを決めていけば、ゼロから制作する場合に比べて遙かに短い日数で出来上がります。 具体的には2~3週間程度もあれば充分でしょう。 なお、現在のホームページのドメイン(第2回参照)を使い続けることができるのなら、ホームページを見ている人には、管理会社が変更されたことはわかりません。 * * * 最後に、移管が制約されてしまう技術的な問題です。 それは、CMSで制作されているホームページ(第3回参照)や、通販などのシステムが組み込まれているホームページの場合に生じ得ます。 くわしい解説は省きますが、そのようなホームページの場合には、丸ごと持ち出すことが不可能なケースもあるのです。 そうなると、たとえ上記でお話した著作権の問題がなくとも、部分的または全面的に制作し直す他なくなります。 これに該当するのか否かは、移管先の管理会社から移管元の管理会社に技術的な事項を問い合わせてもらうことにより、明らかにできます。 * * * ここまで3回にわたり、ホームページの移管についてお話してきました。 ホームページは半永久的に公開しているものですので、コスト的には制作コストよりも管理コストの方が重要である場合が多くなります。 問い合わせや更新依頼などへの対応も含め、納得のいく管理会社を選定しましょう。 (了)
《速報解説》 所得拡大促進税制の延長・拡充 ~民間投資活性化等のための税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 平成25年10月1日、与党(自由民主党及び公明党)より「民間投資活性化等のための税制改正大綱」が公表された。 この時期に税制改正大綱が公表されることは極めて異例であるが、同日に消費税率の引上げが決定されたことを受け、これに伴う経済対策と成長力強化のための総合的な対策が必要であることから、日本再興戦略(平成25年6月14日閣議決定)に盛り込まれている民間投資活性化のための税制措置について、通常の年度改正とは切り離して前倒しで決定することとされたものである。 この大綱に係る税制改正法案については、今後臨時国会において議論されることとなると予測されるが(※)、この大綱の中では、平成25年度税制改正で新たに導入された所得拡大促進税制(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)に関する見直しが行われている。 そこで本稿では、上記の所得拡大促進税制の改正内容について解説することとしたい。 なお、現行の本制度の詳細については、かねてより連載していた拙稿「雇用促進税制・所得拡大促進税制の実務」の【第3回】の記事を参照いただきたい。 2 所得拡大促進税制の概要 平成25年度税制改正により創設された所得拡大促進税制の概要は以下のとおりである(上記連載【第3回】より再掲)。 青色申告法人が平成25年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する各事業年度(以下「適用年度」という)において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、以下の①~③の要件を満たすときには、その雇用者給与等支給増加額の10%の税額控除ができる。ただし、法人税額の10%(中小企業者については20%)を限度とする(改正措法42の12の4①)。 さらに中小企業者については、適用年度における道府県民税及び市町村民税(法人税割)の額も、税額控除後の法人税額を基礎として計算される(地方税法附則8⑨)。 3 改正の概要 (1) 適用期限の延長 適用期限が2年延長され、平成30年3月31日までの間に開始する事業年度に適用されることとなった。 (2) 雇用者給与等支給割合要件の見直し 適用要件の1つである、「雇用者給与等支給増加額割合要件」(上記①の要件)について、以下の適用年度の区分に応じて要件充足割合が変更された。 図示すると、以下のようになる。 (3) 平均給与支給額に係る要件の見直し 適用要件の1つである「平均給与支給額に係る要件」(上記③の要件)について、平均給与等支給額の計算基礎となる「国内雇用者に対する給与等」を「継続雇用者に対する給与等」に見直した上、平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を「上回ること」(現行:以上であること)とされた。 「継続雇用者に対する給与等」とは、適用年度及びその前年度において給与等の支給を受けた国内雇用者に対する給与等のうち、雇用保険法の一般被保険者に対する給与等をいい、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の継続雇用制度に基づき雇用される者に対する給与等を除く。 この「継続雇用者」という概念は、雇用促進税制における「雇用者」の範囲(※)を念頭に置いたものと考えられるが、「継続雇用者」が用いられるのはあくまでも平均給与等支給額の計算についてのみであり、その他の要件及び控除税額の計算については変更が加えられていない(雇用者給与等支給額を用いる)点には留意が必要である。 (4) 地方税の取扱い 中小企業者等の雇用者給与等支給額が増加した場合に係る法人住民税の特例措置についても、(1)~(3)と同様の改正が加えられている。 4 改正の適用時期 ※下記編集部追記②参照 今回の改正は、平成26年4月1日以後に終了する事業年度について適用される。 したがって、3月決算法人以外の法人については、既に進行している事業年度から今回の改正が適用されることとなるので、留意が必要である。 さらに、平成26年4月1日を含む適用年度に改正後の制度を適用する場合において、経過事業年度(平成25年4月1日以後に開始し、平成26年4月1日前に終了する事業年度で改正前の制度の適用を受けていない事業年度)において改正後の要件のすべてを満たすときは、その経過事業年度について改正後の規定を適用して算出される税額控除相当額を、その適用年度において、その税額控除額に上乗せして法人税額から控除できることとされた。 この「経過事業年度」は、平成25年4月1日以後開始し平成26年4月1日前に終了する事業年度であるから、期間としては1年未満の状況が想定される。例えば一定の組織再編や連結納税グループへの加入等で「みなし事業年度」が発生するような場合や、決算期変更を行った場合などが該当すると考えられる。 本来、経過事業年度には改正後の制度は適用されないところ、改正後の適用要件を満たしている場合には、追加的に税額控除が認められるという有利な取扱いが定められているので、該当する可能性がある読者においては留意が必要である。 (了)
《速報解説》 国税庁情報「相続税法における民法第900条第4号ただし書前段の取扱いについて(平成25年9月4日付最高裁判所の決定を受けた対応)」 (9/24公表)について 税理士 齋藤 和助 1 はじめに 平成25年9月4日、最高裁判所で、民法第900条第4号ただし書前段の「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1」が違憲と判断された(平成24年(ク)第984号、第985号、大法廷決定)。これにより、嫡出子と非嫡出子の法定相続分を同等とする民法改正が検討されている。 このような状況の中、国税庁は、上記最高裁判所の決定を受け、その趣旨を尊重し、平成25年9月5日以後の対応を9/24付けでホームページで公開した。 その内容は以下の通りである。 2 平成25年9月5日以後に新たに相続税額が確定する場合(嫡出子1:非嫡出子1) 平成25年9月5日以後、新たに相続税額が確定する場合(平成13年7月以後に開始された相続に限る※)には、嫡出子と非嫡出子の法定相続分を同等として法定相続分の規定を適用した相続分に基づいて相続税額を計算する。 ※今回の最高裁決定の前提となった具体的事案における相続の開始時点が平成13年7月であることによる。 3 平成25年9月4日以前に相続税額が確定している場合(嫡出子2:非嫡出子1) 平成25年9月4日以前に、申告等により相続税額が確定している場合には、上記規定は適用されない。つまり、申告済みの事案について、最高裁決定に基づく相続分で相続税の計算をし直すことで、過去の納めた相続税が減少する場合でも更正の請求は認められない。 ただし、平成25年9月4日以前に、申告等により相続税額が確定している場合で、同年9月5日以後に、財産の申告漏れ、評価誤りなどの理由により、相続人が更正の請求又は修正申告をする場合や、税務署長が、更正又は決定を行う場合には上記2の規定が適用される。 4 相続税額が確定した日で区分 今回の法定相続分の変更の適用は、相続開始日で区分するのではなく、相続税額が確定した日で区分している点に注意が必要である。 例えば、平成13年7月以後に開始した相続で、嫡出子と非嫡出子が登場する事案で、これから相続税額が確定するものについては、上記2と同様の取扱いになる。 実務上、稀なケースであるが注意したい。 【嫡出子と非嫡出子の法定相続分】 (注1) 平成13年7月以後に開始された相続に限る。 (注2) 財産の申告漏れ、評価誤りなどに係る部分は「嫡出子1:非嫡出子1」。 (了)
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第6回】 「ホステス報酬事件(その3)」 ~ホステス報酬の必要経費計算と基礎控除方式~ 国士舘大学法学部教授・法学博士 酒井 克彦 ホステス報酬は事業所得に該当するケースが多いという点を前回までに確認した。ところで、ホステスは事業所得者であるが、所得税法の規定によれば、ホステス報酬は源泉徴収の対象となるため、店側にホステスへの報酬支払の際に源泉徴収義務が課されている。そこで、その源泉徴収税額の計算が問題となるのである。 本連載の第4回において説明したとおり、ホステス報酬は次の計算式による源泉徴収を受けることになる(所令322)。 そこで、問題となるのは、上記計算式における「当該支払金額の計算期間の日数」の意味するところである。 ここで当事者の主張をみておこう。 1 解釈手法の対立 (1) 国側の主張―目的論的解釈によるべき! 国Yは、この「当該支払金額の計算期間の日数」とは、本件における原告らとホステスとの契約内容、源泉徴収制度及び基礎控除方式の趣旨及び目的、並びに、租税負担の適正及び公平の観点からすれば、ホステス報酬の支払金額の計算の対象となった日の合計数(当該支払金額の計算期間の出勤日数)たる本件各集計期間のうちの出勤日数と解すべきである旨主張した。 これは、基礎控除方式の趣旨などを考慮に入れた解釈をすべきであるとの主張である。 すなわち、前回みたようにホステスは事業所得者であるから、事業所得の金額の計算で控除される必要経費額の代わりに計算するのが、式内にいう「5,000円×当該支払金額の計算期間の日数」を引くという基礎控除方式の趣旨である。そうすると、その趣旨からして、10日しか出勤していないホステスの必要経費の計算をするのに、出勤していない日数までカウントして15日分控除するのは法の趣旨に反するというのである。 このように条項の趣旨によって解釈をするやり方は、いわゆる「目的論的解釈」という解釈手法である。 なお、目的論的解釈とは、条項の趣旨に応じて解釈を行うという手法をいい、次のような解釈の仕方を織り交ぜて行うことがある(拙著『フォローアップ租税法』2頁以下(2010年、財経詳報社))。 (2) 源泉徴収義務者側の主張―文理解釈によるべき! これに対して、源泉徴収義務者たるX1らは、一般に「期間」とはある時点からある時点までの継続した時の区分であるから、上記「当該支払金額の計算期間の日数」とは、当該支払金額の計算の対象となる起算点から満了点までの継続した日数であって、本件各ホステス報酬の計算期間の日数は本件各集計期間の全日数である旨反論した。 ここでは、条文が「当該支払金額の計算期間の日数」という表現をしており、出勤日数をカウントするような規定となっていないのであるから、条文通りに解釈して、欠勤している日をも含めた「計算期間の日数」である全日数に5,000円を乗じて控除額を計算すべきだというのである。 このように条文に書き表されている文章をできるだけ素直にそのまま解釈すべきというのが、「文理解釈」という解釈手法である。 2 文理解釈を優先すべきとする考え方 例えば、別の事案において、東京高裁平成4年12月17日判決(行裁例集43巻11=12号1520頁)では、文理解釈にとらわれるべきではないと主張する納税者側の主張を排斥している。 同判決は、まず、 とする。 そして、そのこととともに、 としている。 もっとも、「例外的にかかる文理解釈によっては明らかに不当な結果となるような場合」がある場合には、その場合に とする。 つまり、まずは、租税法律主義や申告納税制度の見地からできるだけ、文理解釈によるべきであり、それでも明らかに不当な結果となるような場合には、目的論的解釈を展開する必要があるというのである。 このような考え方は、租税法の解釈において通説として理解されているところである。 租税法が侵害規範であるとみれば、できるだけルールブックに書いてあるとおりに解釈をすることが、納税者の予測可能性にも資するし、何よりも解釈の不安定な揺らぎを排除することができるということにもなろう。 ひいては、恣意的な課税を排除することにもつながるし、納税者X1らが自己に都合の良いような解釈をすることを防止することにもなると考えれば、文理解釈が優先的になされるべきとの考え方は納得のできるものであろう。 本件は、最高裁において、納税者の主張が採用され、文理解釈を基調とした判断が展開された。すなわち、最高裁は、 として、全日数を控除するという解釈が妥当だとしたのである。 もっとも、文理解釈が優先されるべきとはいっても、そもそもの法の趣旨を没却することになっては法の解釈として問題がある。そのような意味では、文理解釈によって導き出された解釈が法の趣旨に明らかに反するものであるような場合には、妥当な解釈とはいえないことになるのはいうまでもない。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例6(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 平成14年から平成24年分の所得税につき、平成14年に依頼者の父親である被相続人から相続により取得した貸店舗について、被相続人の取得価額で引き継ぐべきところ、未償却残高で引き継いでしまった。 このため減価償却費が過少となり、結果として納付税額が過大となり、過大となった税額2,800万円につき賠償請求を受けたものである。 なお、税理士は平成14年から平成24年分の所得税について同様の処理を行っていたが、平成23年から24年の2年分は更正の請求により、平成20年から22年の3年分は更正の申出により損害額が回復しているため、損害期は平成14年から平成19年分の6期にわたる。 《賠償請求の経緯》 ・依頼者の父親の所得税の申告も同一の税理士が行っていた。 ・平成14年の所得税につき、相続により取得した貸店舗について、被相続人の取得価額で引き継ぐべきところ、未償却残高で引き継いで減価償却費を計算してしまった。 ・以後見直されることなく同様に減価償却費を計算して申告。 ・貸店舗の一部を譲渡することになり取得価額を確認して発覚。 《基礎知識》 ◆減価償却資産の取得価額(所法126②) 相続により被相続人の財産を取得した場合には、原則として被相続人の取得価額及び取得時期を引き継ぐ。 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 相続の際に取得価額で引き継いでいれば過大納付にはならなったことから、税理士に責任がある。 なお、本事例のような単純なミスの場合、更正の請求等が認められることが多いことから、その手続を積極的に活用したい。 (注) 平成23年度税制改正により、平成23年12月2日以後に法定申告期限が到来する国税については、更正の請求期間が5年に延長された。また平成23年12月1日以前であっても、減額更正ができる期間内に「更正の申出書」を提出すれば、還付が受けられる可能性がある。 《予防策》 [ポイント①] 毎年新しい「目」で確認する 所得税の確定申告で特に不動産所得の場合には、確定申告だけを依頼される、いわゆる「年一の関与先」も多い。また、売上金額、経費の額が毎年同じであることが多いため、本事例のように長年にわたってミスに気づかず、気づいた時には更正の請求の期限を徒過しており、金額も多額になっていたというケースが多い。 このようなケースの場合、1人の確認ではなかなかミスに気づかないため、担当者の変更や、所内でのダブルチェック等、毎年新しい「目」での確認ができる体制の構築が必要である。 [ポイント②] 相続により取得した減価償却資産については特に注意する 本事例は単に取得価額と未償却残高を取り違えたものであるが、相続による減価償却資産の引継ぎにはミスが多発しているので注意が必要である。 相続により取得した減価償却資産は、その資産を取得した者が引き続き所有していたものとみなされる。したがって、取得価額だけでなく、取得時期、耐用年数も被相続人のものを引き継ぐ。 しかし、償却方法については、減価償却資産の償却方法を規定している所得税法施行令第120条及び120条の2の第1項の「取得」には、購入や自己建設のほか、相続等によるものも含まれると解される(所基通49-1)ため、被相続人の償却方法を引き継がない。 したがって、被相続人が法定償却方法以外の方法で減価償却を行っていた場合で、引き続き同じ償却方法を採りたい場合には、その年分の確定申告期限までに、「所得税の減価償却資産の償却方法の届出書」を所轄税務署長に提出する必要がある。 なお、平成10年4月1日以後に取得した建物の償却方法は旧定額法又は定額法が強制されているため、被相続人が旧定率法を選択していても定率法は選択できない。 (了)
〔書面添付を活かした〕 税務調査を受けないためのポイント 【第4回】 (最終回) 「書面添付を円滑に実施するための クライアント・事務所(スタッフ)運営」 公認会計士・税理士 田島 龍一 これまで3回にわたり、書面添付制度により税務調査を回避しうること、また、そのための具体的な準備について考察してきた。 結果として、納税者であるクライアント(顧客)と適切なコミュニケーションをとりつつ、きちんとした会計指導や税務処理指導を行い適切な添付書面を記載することが、「税務調査が来ない企業」にする方法であることがご理解いただけたものと思われる。 ここで、様々なクライアント(税理士の顧客である納税者)を抱えている場合に、どのようにしてクライアントをそのレベルまで引き上げていくか、また、書面添付実務を円滑化するために事務所スタッフをどのように指導するかを考察する。 1 クライアント指導 (1) クライアントも様々 正直なところ、筆者が関与するクライアントの会計事務能力レベルは様々である。 完全自計化が進み、決算時にチェックのみを行って、若干の修正指導のみを行い、その修正仕訳をクライアントが入力すれば決算書が完成するケースもあれば、社長御一人で、かつ、手書きで帳簿処理され、年に一度独自の多桁式帳簿を郵送して、決算と確定申告をよろしくお願いしますというものまである。 後者の場合は、今まで何度が指導を行い、やっとその多桁式帳簿まで辿り着いたが、現状としては、その会社は損益トントンであり、こちらも、その帳簿に慣れ、そこから一定の修正を入れた後に会計ソフトに入力して決算書ができるので、これ以上時間をかけて指導することを筆者も社長も望んでいない。 このようなクライアントは、書面添付をする対象から外れてしまうが、規模と内容から税務調査対象にならないようで、25年以上同様な状況であるが、臨場税務調査は、そのクライアントには実施されていない(やはり、税務署も税務調査の効率を考えるものと思われる)。 (2) 第一歩は自計化 クライアントが書面添付制度の対象となりうる第一歩は、筆者の考えでは、少なくとも自計化(会社自らが月次で会計ソフトに入力して計算書類を作成すること)が必要である。 その具体化に向けた留意点は下記の通りである。 (3) 証憑(基礎資料)の整理 会計記録は、企業の行うすべての経済取引を事実に基づき記録し、その結果が集計されて損益計算書と貸借対照表(財務諸表)が作成される。その財務諸表(計算書類)により経営者や金融機関・税務署等利害関係者に年間の経営成績と年度末の財政状態を公表する。 それら個々の取引の基礎となる資料を整理するための具体的な留意点は以下の通りである。 (4) 税務相談等のコンサルティング 様々な税務相談等は、確実にその場で回答できるものもあると思われるが、筆者の場合、「方向性としてはこうなると思われるが、事務所に戻って確認して後日回答する」旨を伝え、文書で質問の趣旨と回答及びその根拠を示してメールやファックスでクライアントに送るようにしている。 そうすることによって、お互いに質問の趣旨を後日確認でき、誤解を生じないこと、また、他の事例(判例等)や根拠を併記することで、その内容はそのまま、書面添付に利用可能となりうる。 2 事務所スタッフ指導 (1) 往査指導 「書面添付」の各項目をワードやエクセル等の表形式にし、それを事務所スタッフに持たせて、クライアントの月次処理チェックの往査時にそれに記入させる。 具体的な留意点は、以下の通り。 (2) 税務質問 以上をスタッフに徹底させることで、自分がクライアントに行ったのと同様な効果を得ることが可能となる。 * * * 以上4回にわたり、「〔書面添付を活かした〕税務調査を受けないためのポイント」について考察した。 この内容が読者に少しでも役立てれば幸いである。 (連載了)
租税争訟レポート【第14回】 理由附記の不備による課税処分の取消し 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【事案の概要】 納税者である控訴人(第1審原告)は、東大阪市が全額寄附をし、大阪府から設立許可を受けて設立された財団法人(公益法人等に該当する)であり、処分行政庁から法人税の青色申告の承認を受けている。 控訴人は、その行う事業を、公益事業会計及び収益事業会計の2つの事業に区分して経理しており、本件各事業年度において、収益事業会計として区分していた事業のみを法人税法2条13号に規定する収益事業に該当するとして、本件各事業年度の法人税の確定申告をした。 処分行政庁は、控訴人が営む事業のうち、公益事業会計に区分して経理していた事業についても収益事業に該当するとして、平成19年11月28日付けで、控訴人に対し、各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分をした。 控訴人は、本件各更正処分等を不服として、異議申立て、審査請求を経て、平成21年11月5日、本訴を提起した。 【争点となった東大阪税務署長による「更正の理由」(平成19年3月期の例)】 【本件理由附記に関する当事者の主張】 1 控訴人 本件各附記理由は、帳簿の記載に誤りがあるのか、法の適用の結果であるのかが不明であり、違法であって、取り消されるべきである。 仮に、本件各附記理由が帳簿記載を否認しないでしたものであるとしても、本件各附記理由には、本件各事業が収益事業に該当するとの結論に至る判断過程について何の記載もなく、処分行政庁が自己の判断過程を逐一検証することは全く不可能である。 加えて、本件の場合は、収益事業と判断するには膨大複雑な法人税法施行令、施行規則を検討して判断する必要があるから、少なくとも関係法規の適用関係だけでも理由に記載すべきである。 よって、本件各附記理由は、処分行政庁の判断の慎重と合理性を担保しその恣意を抑制するという趣旨目的に反するものであり、この要件を欠いた本件更正処分は違法である。 2 被控訴人 本件各附記理由は法人税法130条の求める要件を満たすものである。 (1) 法の適用については結論のみを示せば足りる 更正の理由には、①更正の原因となる事実、②それへの法の適用、③結論の3つを含むところ、②に関連して生ずる法の解釈の問題や収入・支出の法的評価ないし法的判断の問題については、結論のみを示せば足り、結論に到達した理由ないし根拠を示す必要はないと解されている。 (2) 判断過程を逐一容易に検証することができる 本件各附記理由には、①「更正の原因となる事実」について、更正処分の対象として個々の業務について、契約等年月日、契約書名及び計上漏れとなっていた金額が記載され、更正の原因となる事実はすべて網羅されており、③「結論」についても、「収益事業収入計上漏れ」として、「当該事業年度の所得金額に加算しました。」と記載されている。 そして、②「法の適用」についても、公益法人等は、収益事業から生じた所得についてのみ法人税が課され(法人税法7条)、その収益事業の範囲については、同法2条13号において定められているところ、本件各附記理由には、上記更正の原因となる事実について、法人税法2条13号に該当する旨を明記していることから、更正理由の附記として欠けるところはない。 【裁判所の判断】 1 本件各附記理由について 以下の認定判断を総合すると、本件各附記理由は、法人税法130条の求める理由附記として不備があるものといわざるを得ない。 (1) 本件各附記理由の内容 本件各附記理由は、収益事業の収入に該当すると認定した収入の金額については、各契約書に基づきその算定過程について具体的に記載するものであるが、法適用に関しては、「法人税法2条13号に規定する収益事業の収入に該当する」との結論を記載するにとどまり、なぜ収益事業の収入に該当するのかについての法令等の適用関係や、なぜそのように解釈するのかの判断過程についての記載が一切ない。 (2) 本件各更正処分の理由等 処分行政庁は、本件各更正処分をした理由として、本件各事業がいずれも法人税法施行令5条1項10号に規定する「請負業」に該当するものであり、また、法人税法施行規則4条の3が定める要件(実費弁償原則)を満たさず、さらに、実費弁償通達が定める実体要件及び手続要件の双方を満たすものではない旨判断したことが認められる。 ところが、本件各附記理由には、こうした施行令、施行規則及び通達の各規定、その適用関係についての判断過程の記載が一切ないことから、処分行政庁が本件各更正処分をするに当たり、そうした法令等の適用関係やその判断過程を経ていることを検証することができない。 2 被控訴人の主張の検討 (1) 法の適用については結論のみを示せば足りるのか 更正通知書に更正の理由を附記すべきものとされているのは、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨によるものであるところ、法の適用について課税庁と納税者との間で見解が対立する場合等においては、課税庁の恣意の抑制や納税者の不服申立ての便宜等の要請は、法の適用判断の過程について生ずるものと考えられる。 事実関係を示すことで法の適用関係が一義的に明らかである場合やこれを容易に推測することができる場合等、法の適用については結論のみを示せば足りる事案が存することは否定できないが、一般的に法の適用については常に結論のみを示せば足りるとする被控訴人の主張は採用しがたい。 (2) 判断過程を逐一容易に検証することができるか 本件各附記理由の「収益事業収入計上漏れ」の記載は、本件各事業が収益事業に該当するとの判断を前提として、その所得金額ひいては税額を算出する判断過程を記載したものであって、本件各事業が収益事業に該当するか、実費弁償となっているかについての判断過程を記載したものとは解されない。 本件各附記理由の記載によって、実費弁償となっていないとする処分行政庁の判断過程を検証することが可能であるとは認めがたいところであるし、処分行政庁の判断過程が控訴人に示されたとみることは困難である。 (3) まとめ 以上のとおり、被控訴人の各主張は、いずれも採用することができず、本件各附記理由について不備があるとする当裁判所の判断を左右するものではない。 3 本件各更正処分等の違法性の検討 本件各附記理由は、法人税法130条2項の求める理由附記として不備があり、違法であるといわざるを得ず、その余の争点につき判断するまでもなく、本件各更正処分及びこれを前提とする本件賦課決定処分はいずれも取消しを免れない。 【解説】 改正国税通則法の施行により、平成25年1月から、すべての処分について理由附記が実施されることとなった。 本判決は、更正処分における理由附記に不備があるとして、裁判所が処分の全部取消しを命じたものであり、課税実務に与える影響は大きいといえよう。 冒頭の引用した「更正の理由」は、それなりの体裁を整えているように読める。しかし、裁判所は、附記理由については、法の適用に関する結論のみでは足りず、法の下位規定の適用に関する処分行政庁の判断過程を示す必要があるとして、被控訴人側の主張を一蹴した。 特に、法の適用について課税庁と納税者との間で見解が対立する場合において、課税庁の恣意を抑制し、また、納税者の不服申立ての便宜を図るという法の趣旨から、納税者において、「課税庁の判断過程を検証することが可能である」理由の附記を求めた点は、たいへん評価できる。 なお、改正国税通則法74条2項では、調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、「その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする」と規定されていることから、調査結果の説明が不十分であった場合、納税者からの質問に対する回答がなかった場合、結果説明と更正決定処分の内容が違っている場合など、いずれも処分の違法性を問える可能性が生じるため、調査結果の内容説明(事務運営指針によれば、原則として口頭で行われる)については、納税者側で記録を残しておくことが、これまで以上に重要になることは間違いない。 (了)
「商業・サービス業・ 農林水産業活性化税制」の解説 【第4回】 「経営改善に関する 指導及び助言について」 公認会計士・税理士 新名 貴則 本税制の概要は次のとおりであり、中小企業等が器具備品及び建物附属設備を取得した場合に、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除(当期の法人税額の20%が上限)を認める税制措置である(措法42の12の3)。 ただし、下記の要件を満たす必要がある。 今回は、この中の「指導及び助言」について詳細に解説する。 1 認定経営革新等支援機関等による指導・助言 平成24年8月30日に「中小企業経営力強化支援法」が施行され、税務、金融及び企業財務に関する専門的知識や支援の実務経験が一定水準以上の個人・法人を、中小企業に対して専門性の高い支援事業を行う経営革新等支援機関として認定する制度が創設された。 「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」は、この認定を受けた「認定経営革新等支援機関」から、経営改善に関する指導及び助言を受けて行う設備投資が対象となる。 具体的には、次のような個人・法人が「認定経営革新等支援機関」となっている。 税理士や税理士法人、公認会計士や監査法人などであれば、そのすべてが「認定経営革新等支援機関」であるというわけではなく、その中でも認定を受けている者だけが「認定経営革新等支援機関」に該当する。 また、「認定経営革新等支援機関」に準ずる機関として、次の機関による指導及び助言を受けて設備投資を行う場合も、本税制の対象となる。 2 指導及び助言を受けた旨を明らかにする書類 本税制の適用要件として、「認定経営革新等支援機関等による経営改善に関する指導及び助言を受けて行う設備投資」であることが要求されている。そのため、指導及び助言を受けた認定経営革新等支援機関等から、「指導及び助言を受けた旨を明らかにする書類」の交付を受け、これの写しを法人税申告書に添付する必要がある。 「指導及び助言を受けた旨を明らかにする書類」には、次のような事項の記載が必要であるが、特に定められた様式はない。ただ、中小企業庁から当該書類のイメージが公表されているので、これを参考にするとよい。 (了)
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第6回】 「資本的支出と修繕費」 ―蛍光灯をLED照明に取り替えた場合― 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久 1 修繕費と資本的支出の区分 固定資産の維持管理や原状回復のために支出した金額は、基本的には「修繕費」となります(法基通7-8-2)。一方、固定資産の価値を高め、使用可能期間を延長させるために支出した金額は、基本的には「資本的支出」となります(法令132、法基通7-8-1、7-8-2)。 2 LED照明の効果 一般的には、LED照明の導入効果として、次のような点が挙げられます。 3 照明設備(建物附属設備)については交換工事を行わないケース LED照明の節電や長寿命化等の効果により、固定資産の価値を高め、使用可能期間を延長しているものとして、資本的支出に該当するとも考えられます。 しかしながら、LED照明等の照明器具は、建物附属設備である照明設備を構成する部品の1つであり、その部品の性能が高まったことにより建物附属設備自体の価値が高まったとはいえないと考えられますので、蛍光灯のみをLED照明に取り替えるケースでは、修繕費として処理することができます(国税庁・質疑応答事例「自社の事務室の蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えた場合の取替費用の取扱いについて」)。 例えば、ある事業所で蛍光灯を200本使用している場合、1本9,000円の蛍光灯型LED照明にすべて交換し、取替費用が1本当たり1,000円かかるとします。この場合、2,000,000円〔=(9,000+1,000)×200本〕の費用が発生しますが、全額を修繕費として処理することができます。 4 照明設備(建物附属設備)についても交換工事を行うケース 建物天井のピットに装着された照明設備も交換し、一定規模の配管工事を併せて行う場合には、単なる部品の交換ではなく照明設備の取替えに該当しますので、新たに照明設備を取得したものとして検討することが必要となります。 具体的には、資産計上、消耗品費処理、修繕費処理のいずれに該当するかについて、金額や取引内容に応じて、資本的支出と修繕費の判定を行います。また、修繕費に該当するかどうかの判定は修繕費や改良費等の費目によって判断するのではなく、その実質によって判断することが必要ですが、以下の支出に該当する場合には、その支出した金額を修繕費とすることができます。 (1) 少額又は周期の短い費用(法基通7-8-3) 修理・改良等の金額が20万円未満の場合 おおむね3年以内の期間を周期として行われる修理や改良等である場合 (2) 形式基準による修繕費の判定(法基通7-8-4) 修繕費であるか資本的支出であるかが明らかでないケースで、以下のいずれかの場合 支出した金額が60万円未満 支出した金額が修理や改良等をした固定資産の取得価額のおおむね10%以下 (3) 資本的支出と修繕費の区分の特例(法基通7-8-5) 修繕費であるか資本的支出であるかが明らかでないケースで、継続適用を要件として、以下のいずれか少ない金額を修繕費としている場合 支出した金額の30%相当額 修理や改良等をした固定資産の取得価額の10%相当額 例えば、天井への埋め込み型の蛍光灯や、廊下やエレベーターホール等の埋め込み型のダウンライト等の場合には、天井に設置された照明器具そのものを交換する等、一定規模の配管工事や電源工事が発生します。 このような場合には、照明設備として資産計上することが必要になるケースも生じてくると思われます。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第2回】 「各税法における貸倒損失の取扱い」 公認会計士 佐藤 信祐 税務上の貸倒損失というと、法人税法の規定のみを想定してしまうことがあるが、所得税法、消費税法、相続税法においても、貸倒損失についての議論が存在し、実務上、法人税法のみの検討だけでは不十分なことが多い。 また、例えば、法人税法における取扱いが、消費税法における取扱いに影響を与えることもあり、複数の租税法を横断的に検討することで理解が深まることもある。 本稿では、法人税法、所得税法、消費税法及び相続税法における貸倒損失の取扱いについてそれぞれ解説を行う。 1 法人税法 法人税法には貸倒損失に係る規定は存在せず、法人税法22条4項において、「第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」と規定されているに過ぎない。 そのため、法人税基本通達9-6-1から9-6-3においては、貸倒損失に係る取扱いが定められており、法人税基本通達9-4-1、9-4-2においては、子会社支援損失に係る取扱いが定められている。 詳細な取扱いについては、本連載を通じて解説する予定であるが、大雑把に言うと、以下のような取扱いになっている。 2 所得税法 (1) 貸倒損失に係る規定 所得税法51条2項においては、 と定められている。 また、具体的な内容については、所得税基本通達51-10~17に定められているが、同通達51-11~13の規定内容を見る限り、法人税基本通達9-6-1~9-6-3の内容と大きくは変わらない。 なお、不動産所得、事業所得又は山林所得についてのみ貸倒損失の計上が認められていることから、例えば、オーナー社長が、自身が経営する法人に対して有する金銭債権について債権放棄を行ったとしても、オーナー社長においては法人から受け取る給与所得の計算上、必要経費に算入することは認められない。 (2) 譲渡所得の特例 前述のように、譲渡所得の計算においては貸倒損失の計上が認められていない。しかしながら、所得税法64条においては、資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例が定められており、以下の場合には、譲渡所得の計算上、回収することができなかった部分等については、譲渡がなかったものとして取り扱うことが可能である。 3 消費税法 消費税法39条においては貸倒れに係る消費税額の控除等の取扱いが定められており、課税資産の譲渡等の相手方に対する売掛金その他の債権に対する貸倒損失が発生した場合には、消費税額から控除することが可能である。 また、貸倒れに係る消費税額の控除等が認められる場合として、消費税法施行令59条、消費税法施行規則18条において具体的に定められているが、その内容を見る限り、法人税基本通達9-6-1~9-6-3の内容と大きくは変わらない。 そのため、法人税基本通達9-4-1、9-4-2により子会社支援損失を計上した場合には、貸倒れに係る消費税額の控除等が認められないことになるが、子会社等に対する金銭債権については、売上債権ではなく、貸付債権であることが多く、そもそも、法人税基本通達9-6-1~9-6-3に該当したとしても、貸倒れに係る消費税額の控除等の対象にすることができないため、実務上、これが問題になることはほとんどない。 4 相続税法 相続税法においては、貸倒損失に関する規定は存在しない。これは、被相続人から相続人に対して相続しようとした金銭債権が、そもそも相続の段階で貸し倒れていた場合には、架空財産であることから、相続財産に含めることができないからである。なお、相続前に債権放棄を行い、相続財産を減らしたことについて争われた事案(浦和地裁昭和56年2月25日判決)があるが、いずれ本連載においても、解説を行う予定である。 そのため、理論上は、法人税基本通達9-6-2、9-6-3に該当するような金銭債権について、法的には存在するものの、実質的には回収が不能なものについて、どのように評価して相続税の課税所得の計算に算入すべきであるかという点が問題になる。 この点については、財産評価基本通達204、205には明確に定められていないが、法人税基本通達9-6-2、9-6-3の要件を満たすようなものについて、相続財産に含めるべきであると争われることは稀であるため、実務上はほとんど問題にはならないと考えられる。 5 総括 このように、貸倒損失についての取扱いは、法人税法のみならず、その他の税目についても検討が必要になる。 なお、本稿においては省略したが、所得税法においては貸倒引当金に係る取扱いや、債務免除を受けた者における取扱いについても、通達において明らかにされている。 実務においては、例えば、法人から個人に対して債権放棄を行った場合には、以下のような分析が必要になってくる。 さらに、法人税法における貸倒損失の分析において、所得税法、消費税法における貸倒損失に係る事例が参考になる場面もあるかもしれない。ひょっとしたら、それぞれの租税法における目的が異なることから、異なる分析をする必要がある場面もあるかもしれない。 この分析については、それぞれの事案に応じ、慎重に検討をする必要があると考えられる。 本連載においては、基本的には法人税法における取扱いを分析することを目的にしているが、このような事情を鑑み、必要に応じ、所得税法、消費税法、相続税法の判例や裁決事例についても触れる予定である。 (了)