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〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う実務上の注意点 【第12回】税率変更の問題点(11) 「経過措置に関する注意点(その2)」

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第12回】 税率変更の問題点(11) 「経過措置に関する注意点(その2)」   アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩   3 工事の請負等に関する経過措置について (1) 経過措置の対象となる請負契約等の意義 第9回でも述べたように、平成26年4月1日の施行日以後に目的物の引渡しがなされる請負工事等については、原則として新税率が適用されることとなるが、指定日(5%適用の場合は平成25年10月1日、8%適用の場合は平成27年4月1日)の前日までに契約を締結した場合など一定の要件を満たしたときには、施行日後の引渡しであっても旧税率を適用することが、以下の経過措置の規定により認められている。 なお、事業者(工事等の請負業者)がこの経過措置の規定の適用を受ける場合には、その相手方に対し、当該規定の適用を受けることにつき書面で通知しなければならない(同附則5条8項)。 また、上記規定における施行令で定める請負等の契約の範囲について、平成9年の税率改正当時の施行令や改正通達では、以下の要件のいずれも満たすものであることとしていた。 上記①における契約において、その請負工事等に係る契約書がない場合には、その工事の着工が指定日前に行われていたとしても経過措置の対象とならないことに注意しなければならない。 これは、上記②の要件である指定日の前日までに締結した契約かどうかについて、その請負に係る契約書その他の書類により判断することとなるため、経過措置の適用を受けるには契約書等が必要となる。 上記②の指定日の前日までに契約を締結する場合において、その指定日の前日までにその締結した契約を変更した場合であっても経過措置の対象となるが、その指定日の前日までに締結した契約書等において、その対価の額を定めていないときには、要件を満たしたことにはならず、経過措置の対象とはならないので注意が必要である。 上記③の仕事の期間については、経過措置の対象となる契約のうち、測量・地質調査に係る契約、工事の施工に関する調査・企画・立案・設計に係る契約、ソフトウエアの開発に係る契約などその仕事の性質上その仕事が完成するまでに長期間を要するのが通例であることから定めたものであり、実際に長期間を要するかどうかは問わないこととしている。 上記④の「注文」の内容について、具体的には以下のような契約をいい、その注文の複雑さの程度及びその注文に係る対価の額の多寡は問わないこととしている。 上記内容から、名入れのアルバム、タオル、トロフィーなどの製作、絵画等の修復、肖像画の製作、パック旅行の引受け、インテリアなどの製作、宝飾品等の加工なども該当することとなる。 上記⑤における「目的物の引渡しが一括して行われるもの」について、運送、設計、測量等の目的物の引渡しを要しない請負契約でその役務の全部の完了が一括して行われる場合には経過措置の対象となるが、目的物の引渡しを要しない役務の提供で、契約期間の定めがある月極めの警備保障、ビル等の清掃・メンテナンス業務、機械・器具等の資産の保守・管理業務など契約期間中に継続して役務の提供を行うもので、目的物の引渡しが一括して行われない場合には、経過措置の対象とならないので注意しなければならない。 また、機械設備等の販売に伴ってその据付工事を行う場合において、設備等の販売自体は資産の譲渡となり経過措置の対象とならないが、その据付工事は、工事の請負に該当することとなるため、その機械設備等の販売に係る契約において、その設備等の対価の額と据付工事の対価の額を合理的に区分しているときは、その据付工事に係る部分は経過措置の対象となる。 (2) 建売住宅又は分譲マンションなどの建物等の譲渡契約 建売住宅又は分譲マンションなどの建物等の譲渡契約において、当該建物の内装若しくは外装又は設備の設置若しくは構造につき譲渡を受ける者の注文に応じて建築される建物に係るものであれば、上記(1)④の要件である「相手方の注文」を付した契約となり、経過措置の対象とすることを認めている。 この場合における「注文」とは、平成9年の税率改正当時において、以下の区分に応じ、それぞれに掲げるものを注文できることをいい、その注文の複雑さの程度及びその注文に係る対価の額の多寡は問わないこととしている。 なお、上記内容については、すべてを注文で行う必要はなく、いずれか1つでも注文が付されている契約であれば経過措置の対象となる。 例えば、壁の色を選択することができる完成前のマンションの譲渡契約の場合において、その契約書等に内装等について購入者が注文をつける旨を明示していれば、注文を付して建築されるものに該当することとなり、指定日の前日までに契約した上で、施行日以後に引渡しを受けたときは、経過措置の対象となる。 また、完成前のマンションの譲渡契約で厨房設備を標準仕様か特別仕様かを選択できる場合において、標準仕様を選択したときにも経過措置の対象となるが、指定日の前日までに標準仕様で契約を締結し、指定日以後に特別仕様に変更した場合には、その特別仕様にすることで対価の額が増加したときのその増加部分については、経過措置の対象とならず、新税率が適用されることとなるので注意しなければならない。 この取扱いは、あくまで建物や建物附属設備に該当するものについて「注文」を付した場合に適用できることとなっており、建物の譲渡契約において希望者に浄水器を取り付けることができる旨の契約の場合には、浄水器自体が商品の販売となるものであり、この浄水器の取付けというだけでは経過措置の対象とならない。ただし、その浄水器を取り付けることでその流し台も変更するような場合には、建物附属設備の注文を付すこととなり経過措置の対象となる。 (3) 経過措置の適用を受ける工事等に係る課税仕入れ 工事の請負を行う事業者が、経過措置の対象となる工事につき施行日以後にその目的物の引渡しを行った場合において、旧税率を適用することとなるのは、あくまで売上げに関する規定であり、経過措置の適用を受ける工事等に要する課税仕入れにつき施行日前に行った課税仕入れについては、旧税率を適用して仕入税額控除を計算することとなり、施行日以後に行った課税仕入れについては、新税率を適用して仕入税額控除を計算することとなるので注意が必要である。 (4) 経過措置の適用を受けたものであることの通知書 工事の請負等について経過措置の適用を受ける場合には、その請負工事を行う事業者がその旨を書面にて相手方に対し通知することとなっているが、その通知書の記載内容について、今回の改正では未だ具体的な内容は発表されていないが、平成9年の税率改正当時、以下のような事項を記載することとしていた。 なお、この通知については、請求書等に上記内容を明記しても差し支えないこととしている。 また、この通知書を相手方に対し発行しなかったことで経過措置の対象外となることはなく、上記(1)の要件を満たしていれば経過措置の適用を受けることとなる。 (5) 経過措置の具体例 上記規定に基づき契約の締結をした日及び引渡日が次のそれぞれのケースの場合における適用税率については、以下のようになる。 〈経過措置の適用例〉   この工事の請負に係る経過措置については、その対象となる契約かどうか、契約書の内容、契約書の締結日など注意すべき点が多い。 また、建物等の請負工事などのように、その対価の額が多額となることで税率の違いによる影響が大きいことから、慎重に対応しなければならない。 (了)

#No. 8(掲載号)
#島添 浩
2013/02/28

平成25年3月期 決算・申告にあたっての留意点 【第4回】「減価償却における定率法の改正」

平成25年3月期 決算・申告にあたっての留意点 【第4回】 「減価償却における定率法の改正」   アクタス税理士法人 税理士 藤田 益浩   〈定率法の償却率の改正〉 平成23年12月の税制改正で、法人税率引下げに対する課税ベース拡大措置のひとつとして「定率法の償却率引下げ」とそれに伴う整備が行われた。 具体的には、平成24年4月1日以後に取得される減価償却資産に適用する定率法の償却率が定額法の償却率を2倍した償却率(以下「200%定率法」という)に変更された。 これにより、平成19年度税制改正で導入された250%定率法の償却率から、200%定率法へ引き下がることになる。 間もなく決算を迎える3月決算法人においては、200%定率法が適用される最初の事業年度となる。 なお、この改正においては、250%定率法から200%定率法への移行にあたっての経過措置が設けられている。 経過措置の内容をまとめると、大きく次の2点となる。   〈資本的支出について〉 平成24年4月1日以後に支出する資本的支出については、その本体資産が250%定率法適用資産であっても、200%定率法により償却限度額を計算する。 また、250%定率法適用資産と200%定率法適用資産では異なる償却率であるため、資本的支出の取得価額の特例(翌期首からの合算償却)は適用できない。 ※画像をクリックすると拡大します。   (了)

#No. 8(掲載号)
#藤田 益浩
2013/02/28

税理士が知っておきたい e‐Tax(電子申告)最新の常識 【第3回】「実務上の失敗談とQ&A」

税理士が知っておきたい e‐Tax(電子申告)最新の常識 【第3回】 「実務上の失敗談とQ&A」   (株)よつばコンサルティング 税理士 石渡 晃子 税理士 青木 岳人   ■5 【ありがちな失敗談】 初めてのe‐Taxというのは、とかく緊張するものである。 パソコン操作に自信がない場合はなおさらである。 筆者自身も初めてe‐Taxによる申告及び納税を行った時は、心拍数が上がり、手に汗を握りマウスをクリックしたものである。 また、クリック一つで申告及び納税が完了するというあまりの簡単さに、逆に不安を抱き、税務署及び地方公共団体に完了の問合せをしたほどである。 税務署もe‐Taxを強く推奨しているせいもあってか、こういった問合せにも即座に丁寧に対応していただき、心強い限りである。 筆者自身の体験談はさておき、今回はありがちな失敗談や注意すべき点を挙げる。 (1) パスワードを忘れた! まずは、オンライン手続であるが故にありがちな失敗が、各種パスワードの紛失である。 e‐Taxの場合、利用開始時に提出する「電子申告・納税等開始(変更等)届出書」の作成時に各種パスワードも設定するのだが、パスワードには“暗証番号”と“納税用確認番号”の2種類がある。 “納税用確認番号”については、忘れてしまった場合でも再設定可能なため、紛失によるリスクはない。しかし、“暗証番号”はメッセージボックスの確認時、申告書への税理士電子署名及び送信時、前述の“納税用確認番号”の再設定時等に不可欠であり、これを忘れてしまうと何もできなくなる。 利用開始時に“秘密の質問”とその答えを設定することで、万が一の場合にもオンラインにて“暗証番号”を再設定することができるため、ある程度リスク回避できるが、パスワード管理には細心の注意が必要だ。 利用者番号通知画面にて“暗証番号”も表示されているため、書面及びPDF等データにて保管しておくと良い。 それでも万が一暗証番号が分からない場合は、書面又はオンラインにて「電子申告・納税等開始(変更等)届出書」を提出し、暗証番号(仮)を再発行してもらうこととなる。 いずれの提出方法の場合も、暗証番号(仮)が記載された通知書は書面にて郵送されるため、最短でも1週間程度日数が必要となる。 また、発行される番号は仮暗証番号のため、変更が必要だ。 (2) 暗証番号を間違えてログインできなくなった! これも暗証番号についてだが、複数回間違えた場合、その日はログインすることができなくなり、翌日にならないとログインできなくなる。 仮に、申告期限日にこの失敗をした場合のリスクは、言うまでもないであろう。 (3) PINコードの入力ミスで証明書が失効! また、税理士用ICカードにて電子署名をする際に“PINコード”の入力が必要となるが、これは15回連続して間違えると証明書失効となるため、注意が必要である。 (4) 書類の提出モレがあった! e‐TaxやeLTAXに電子送信できなかった書類については、別途税務署等窓口へ提出又は郵送にて提出する必要があるが、書類の提出モレには細心の注意を払う必要がある。 特に、複数企業の申告が重なっている場合や提出すべき地方公共団体が多数ある場合などは、提出モレが発生する危険性は高い。 それを防ぐためにも、必要手続を一覧化し、事務所単位での確認が必要である。 (5) クライアントとの連携ミス 税理士が電子申告又は納付情報データ送信を行い、その通知によってクライアント側が納税操作をする場合、税理士が納税の完了まで配慮しないと納付忘れをする可能性がある。 e‐Taxによる代理送信は、ともすればクライアント側に自分たちは何も行う必要がないと誤解されがちである。申告及び納税手続について、旧来の方法との違いをしっかりと説明し、互いの役割分担を確認しあう必要があるだろう。 また、【第1回】■2の3にて述べたとおり、ダイレクト納付の場合は税理士が納税まで代理することが可能であるが、旧来は申告までの責任を負っていたところに、さらに、納税の責任まで負うかたちとなる。 クライアントごとに電子申告の適用有無や電子納税の適用有無は異なることが予想されるため、旧来のように手続の統一化が図れないなかで、利便性と責任リスク増加のジレンマをどう解消していくかを検討しておくことも大切である。 (6) 電子証明書の期限切れ? これは個人の電子証明書に関する失敗ではあるが、いざ送信時になってはじめて電子証明書の期限切れに気付く場合がある。 電子証明書情報が格納されている住民基本台帳カードの有効期限は10年であるが、電子証明書の有効期限は3年であるためである。 税理士にとって一番回避したい失敗は、クライアント側から事後否認を受けることであろう。電子申告及び電子納税は、クライアントの押印等を必ずしも必要としないため、「知らないうちに勝手に申告書を提出された」とか「説明を受けたものとは違う申告書を提出された」といったトラブルが発生する恐れがある。 さらに納税まで代理している場合は、「勝手に預金口座から引き落としされた」といったトラブルが発生する恐れもある。 こういった無用のトラブルを回避するためには、 ① 電子申告等を導入するにあたりクライアントと利用同意書を取り交わす ② 申告書(控)にクライアント側の押印をしてもらうなり、メール等にて意思疎通を交わしたデータを保存するなり、その申告に関して承諾を受けているというエビデンスを取っておく といった対応が必要である。 また、単なる押印のための打合せをなくすことや書面ベースでの納付書発行をなくすことは、クライアントとの接触回数を減らすこととなり、「サービスが低下した」と受け取られる可能性もある。 アナログからデジタルへの移行にあたっては、さらなる信頼関係の構築と事前の説明を心がけたいものである。   ■6 【導入及び利用に伴うQ&A】 1 申告及び納税に関するQ&A   2 税理士用ICカードに関するQ&A   3 その他のQ&A   終わりに サービス発足から今年で10年目を迎えようとするe‐Taxであるが、その整備は着々と進められ、現在も税理士等の意見を取り入れつつシステム構築進行中である。 旧来の申告及び納税方法とはだいぶ勝手が変わるため、利用者側の業務体制や管理体制の再構築が必要となり、労力を必要とするのもまた事実である。 また税理士にとっては、責任が重くなるという危険性をはらんだシステムであるかもしれない。さらに、真のメリットは税務署側にしかないのではないか、という批判もあろう。 しかし、ここまで述べてきた通り、税理士にとってメリットがあるシステムであることは明白である。また、顧客にとってもメリットがあることは間違いない。 e‐Taxを含む「国税業務関係の業務・システムの最適計画」(平成18年3月策定・平成24年2月改定)が完了すると、試算ベースではあるが、なんと年間約173億円の経費削減効果があるとのことだ。実績値では平成22年度で64億円の経費削減効果を生んでいる(「国税庁レポート2012」より)。 ランニングコストを超える域にはまだ達していないようだが、ぜひともその経費削減効果は、国民に還元されたいものである。 国を挙げた一大事業であるe‐Tax、この普及に協力するのもまた税理士の職務の一つではなかろうか。 本稿がe‐Tax導入の検討材料となることを願いたい。 (連載了)

#No. 8(掲載号)
#石渡 晃子、青木 岳人
2013/02/28

法人の破産をめぐる税務 【その4】破産会社の役員及び株主の税務

法人の破産をめぐる税務 【その4】 ―破産会社の役員及び株主の税務―   ミレニア綜合会計事務所 代表税理士 甲田 義典   はじめに 前回は、破産した会社(以下「破産会社」という)を取り巻く利害関係者(破産会社の債権者、役員、株主)の破産特有の税務処理のうち、破産会社の債権者に焦点をあてて解説した。 本稿では、破産会社の役員及び株主の以下の項目に係る税務処理について解説する。   1 破産会社の役員の税務 (1) 資産の譲渡代金が回収不能となった場合の譲渡所得の計算の特例 オーナー企業が金融機関から融資を受ける場合、融資の条件として役員が連帯保証人になるケースが多い。 オーナー企業が破産した場合、通常役員はその保証債務を履行するために保有する資産があればそれを処分して、破産会社に代わって債務を弁済することになる。 税務上は、個人が債務保証を履行するために資産を譲渡して譲渡益が発生した場合には、譲渡所得に対して課税される(所法33①)。 しかし、役員が債務を肩代わった結果生じた破産会社に対する求償権(他人の債務を弁済した者が、その他人に対して返還の請求をする権利。つまり連帯保証人が債務者に対して有する返還請求権)が行使できないこととなった場合には、その行使できないこととなった金額を資産の譲渡代金の回収不能額とみなして、譲渡所得の金額の計算上譲渡がなかったものとされている(所法64②)。 つまり、連帯保証人である役員が資産の譲渡代金で破産会社に代わって債務を弁済した後、その肩代わった債務について破産会社から回収できなかった場合には、その回収不能額について所得税を課税しないというものである。 なお、求償権が行使できなくなった場合でも、債務を保証する時に既に債務者であるオーナー企業が債務を返済する能力がない場合には、役員は形式的に債務を保証しているにすぎず、実質的には肩代わった債務について、役員からの贈与があったと考えられるため、この特例を適用することはできない。 また、この特例は、譲渡所得の金額の計算上の特例であるため、棚卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得には適用できない点に留意が必要である(所法64②カッコ書)。 (2) 非課税とされる資力喪失による譲渡所得 役員が破産会社の債務保証を履行できなかった場合には、通常、自己破産や差押えなどにより役員保有の資産は法的手続の中で強制的に処分されることになる。 税務上は、以下①②により法的手続の中で強制的に処分された結果生じた資産の譲渡による所得は非課税となる(所法9①十、所令26)。 上記の国税通則法2条1項10号に規定する強制換価手続とは、滞納処分、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続及び破産手続をいう。 なお、棚卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得については非課税の対象から除かれている点に留意が必要である(所法9①十カッコ書)。 (3) 役員の破産会社に対する貸付金がある場合 オーナー企業では、役員が会社の経費を立て替えたり、会社のキャッシュポジションが悪化して運転資金の目的で貸し付けるなどにより、役員の会社に対する貸付金が発生していることが多い。 税務上、役員の破産会社に対する貸付金の回収不能による損失は、役員個人の事業又は業務に係るものでないことが通常であるため、役員の税金計算上なんら控除されないと考えられる。 なお、貸付金に係る未収利息について回収不能となった場合には、雑所得として収入金額を計上した年に遡り、その収入がなかったものとみなされ、更正の請求をすることにより過大納付の税金を取り戻すことが可能と考えられる(所法64①、152)。しかし、通常は、役員からの貸付金は無利息で行われることが多いため、あまりないケースと思われる。   2 破産会社の株主の税務 (1) 法人株主の株式消却損の取扱い 株式の発行会社の破産により法人が所有する株式の価値が失われた場合には、税務上その損失は原則として、譲渡損(消却損)として扱われことになる(法法61の2①)。 しかし、法人株主と破産会社が完全支配関係にある場合(通常は、100%子会社である場合)には、平成22年税制改正に伴うグループ法人税制が適用され、この譲渡損(消却損)は計上されず(法法61の2①、⑯)、一方で、破産会社の残余財産が確定した場合には、残余財産の確定の日の翌日前9年以内に開始した各事業年度において生じた一定の青色欠損金は、法人株主へ引き継がれることになると考えられる(法法57②③)。 したがって、リストラクチャリングの一環で100%子会社を法的整理する際のタックスプランニングには十分留意が必要である。 (2) 個人株主の株主消却損の取扱い 株式の発行会社の破産により個人が所有する株式の価値が失われた場合には、税務上その損失は、原則として他の株式等の譲渡益や他の所得の金額から控除することは認められていない。 しかし、特例として特定口座に保管されていた内国法人の上場株式が、上場廃止となった日以後に特定管理株式又は特定保有株式に該当していた場合で、その株式を発行した株式会社に清算結了等の一定の事実が生じた時は、その株式の譲渡があったものとして、その株式の取得価額を譲渡損失の金額とみなすこととしている(措法37の10の2)。 なお、この特例により譲渡損失とみなされた金額は、その年の他の株式の譲渡益から控除可能となるが、その譲渡益から控除しきれなかった場合には、その部分は翌年以降に繰り越すことはできず切り捨てられることになるため留意が必要である。 (連載了)

#No. 8(掲載号)
#甲田 義典
2013/02/28

中国における営業税改革の概要、改革効果の検証及び展望 【第2回】

中国における営業税改革の概要、 改革効果の検証及び展望 【第2回】   有限責任監査法人トーマツ 鄭 林根   3 上海市の改革効果の検証 上海市を最初の試験地域として選んだのは、上海市が中国経済の最も発展している地域である、また第三次産業の発展も全国でリードし、更にサービスの業種も多様化となっているので、改革結果の検証に期待できるためである。 また、上海市が潤沢の財源を持ち、改革による税収減の許容能力が高い。更に、国税局と地方税務局の徴収機関が分離していないため、徴収管理においても実行しやすいという利点がある。 減税効果について、改革実施後、小規模納税者を中心に大半の納税者は、改革前より税負担が軽減されている。 上海市税務当局の統計では、2012年6月末までに上海市の13.9万社の企業が試験範囲に入り、営業税収入(試算)については合計減税額が12.4億元で、減税幅が10.57%となる。そのうち、一般納税者の減税額は6.3億元で、減税幅は6.16%である。一方で、小規模納税者の減税額は6.1億元で、減税幅が40.4%である(1)。 (1) 2012年6月末まで、上海市には13.9万社の企業が試験範囲に入り、納付した増値税額は104.39億元である。そのうち、一般納税者(3割相当)の納付額が95.9億元で、91.4%を占める。小規模納税者(7割弱)の納付額が9.0億元で、8.6%を占める。 なお、対象サービス業の負担減が明らかになり、対象外の製造業も仕入控除の増加(2)により負担減に繋がった。特に、営業税改革により二重課税の問題が解決され、税負担の軽減により一部の企業において、資金圧力が緩和され、業務の細分化及びサービスの輸出にも意欲が現れている。 (2) 2012年1月-6月、上海において、試験対象企業(一般納税者)が試験対象外の納税者に発行した増値税専用領収書に記載した増値税額は95億元で、改革前と比べると、試験対象外の一般納税者には仕入控除額が70.9億元増加した。 ただし、改革により一部の業種で税率の変更に伴い税負担が増加しており、徴収管理に関して未解決問題が残っている。 政府としては、上海改革における諸問題を対応しつつ、第三次産業の発展、産業構造のグレードアップを最優先することで、下記の通り、試験地域の拡大を実施した。   4 試験地域の拡大 2012年7月25 日に、営業税改革の試験地域を上海市に続き北京を含む8省(市)に拡大することが公表され、同年7月31日に、財政部・国家税務総局が共同で財税「2012」71号(3)を公表し、同年8月1日から年末にかけて下記の地域において、順次営業税を増値税に移行した。 (3) 2012年7月31日財政部、国家税務総局「北京など8省市における交通運輸業及び一部の近代サービス業に対する営業税を増値税の徴収に変更する試験通知」(財税「2012」71号)。 上記の追加試験地域における適用業種は上海市と同じ、交通運輸業及び一部の近代サービス業に限る。他にも、適用税率、計算方法なども上海市と同じものである。 今回の試験地域の拡大においては、北京や天津、深センなどの都市部だけでなく広東省などの沿海にある省及び湖北省と安徽省といった内陸部に属す地域も加えられていることに注目したい。 (了)

#No. 8(掲載号)
#鄭 林根
2013/02/28

平成26年1月から施行される「国外財産調書制度」の実務と留意点【第4回】

平成26年1月から施行される 「国外財産調書制度」の実務と留意点 【第4回】   税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦   (第1章 制度の概要・1-3 制度創設の背景) ((3) 国外財産報告制度の実効性の裏付けとなる他制度の整備) ロ 国外送金調書の提出対象範囲の拡大 税務当局にとって、国外に所在する財産に関する情報を把握することは困難であるが、国外で財産を購入するためには何らかの形で資金を国外に送金する必要があり、資金が国外に出た情報を把握することによって、その後の調査における申告漏れ国外財産把握の端緒とすることは可能である。 我が国では、平成9年に国外送金調書の提出が義務化され、当初は1回200万円超の送金が対象であったが、平成21年4月以降は100万円超に範囲が拡大された。1回当たり100万円を超える国外送金をすると、送金を依頼した金融機関から国税当局へ国外送金調書が提出される。 国外送金調書だけでは、送金した後に国外において何に使われたのかは分からないが、所得税や相続税の調査の際に、それが課税漏れ所得や課税漏れ財産を把握する端緒になり得る。 金融機関から提出された送金調書の記載により、送金した金額や送金先口座名義人は明らかであるから、質問された者は何のための送金か、また、もし自分の口座や親族への送金であれば答えなくてはいけない。 回答がない場合や回答の信憑性に疑義がある場合には、送金先の相手国が租税条約相手国や情報交換協定相手国である場合は、国税当局は相手国当局に調査を依頼することができる。 国外送金調書が提出されない方法で、合法的に多額の資金を国外に持ち出すことは困難である。国外送金を偽名で行うことについては、マネーロンダリング防止のための金融機関に対する規制が厳しくなっている。小口に分けて多数の送金をした場合、同じ金融機関でそれを行うと、金融機関から見て「怪しい取引」となり、組織的犯罪処罰法(いわゆるマネーロンダリング規制法)に基づいて顧客属性等を調査の上金融庁に届け出る義務がある。金融機関は届け出たことを当該顧客に知らせてはいけないことになっている。 前出のBirkenfeldは、顧客からダイヤモンドを預かって歯磨用チューブの中に入れ国境を超えて運んだと証言しているが、そんなことでもしない限り、多額の資金を当局に知られることなく国境を越えて移動させることは非常に難しくなっていることを示しているものといえる。 したがって、国外への資金の送金を税当局が把握する手段として、国外送金調書は非常に有効な武器になっているといえるであろう。 以上から、国外財産調書が創設された1つの背景として、国外送金調書が大きく寄与していることが窺われる。 ハ 富裕層の課税漏れ所得の把握に関する税務当局間における国際的な対策の進展 また、国際的にも富裕層(英語では一般にHigh Net Worth Individual略してHNWIという)によるタックス・ヘイブン等を利用した課税逃れが問題になっているところであり、OECD租税委員会では、「富裕層プロジェクト」と称する富裕層のコンプライアンス向上策を進めている。 その中の施策の1つとしてJITSICがある。これは、日、米、英、豪、加、中、韓、独、仏の9ヶ国の税務当局が国際的租税回避スキームの情報を交換するために創設した組織であり、ワシントンDCとロンドンに事務所を置いて日常的に情報交換を行っている。国税庁レポートでも、「国際的租税回避行為への対応」として、以下のように述べている。 (「国税庁レポート(2012年度版)」) (4) 相続税の課税強化も背景に? 平成25年度の税制改正で相続税の基礎控除が大幅に減額され、妻、子2人の場合、基礎控除が従来の7,000万円から4,200万円に引き下げられることとなった(平成27年~)。 この水準では、普通のサラリーマンでも都内等土地の評価額の高い所に家を持っていれば容易に課税対象となる。税率についても、課税財産が2億円以上の場合について引き上げられ、最高税率は50%から55%に引き上げられた。 また、来年度以降の改正になるとみられるが、財務省が非居住者で日本国籍をもたない相続人にも課税対象を拡大するという改正案を検討中であるとの報道もある。 こうした課税強化は、国内にある財産を国外に移そうという動きを加速させる要因になりうるものであり、国外財産調書制度の創設の背景には、今のうちに国外財産を把握する体制を強化しておきたいという財務省の思惑があるのかもしれない。 (了)

#No. 8(掲載号)
#小林 正彦
2013/02/28

法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第8回】

法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第8回】   弁護士 木村 浩之   6 退職給与 (1) 退職給与の意義 退職給与は、退職により支払われる臨時的な給与として、長年の勤務に対する勤続報償的な性質を有するものと解されており、法人税法上、基本的に損金算入が認められる。 もっとも、役員に対して支給される場合、また、役員でなくても、役員の親族など特殊の関係のある使用人(特殊関係使用人)に対して支給される場合には、退職給与の支給が利益調整などに利用されるおそれがあることから、退職給与の額のうち不相当に高額な部分の金額(過大退職給与)については、法人税法上、損金算入が否定される(法法34②、36)。 ここでいう退職給与については、本来退職しなかったならば支払われなかったものであり、退職に起因する給与という実質を有するものであれば、その名目いかんにかかわらず、退職給与に該当することになる。したがって、経済的利益の供与や現物給付によるものであっても、その実質が過去の労務提供の対価に相当するものであれば、退職給与に該当することになる。 他方、そのような実質を伴わないものであれば、たとえ退職手当等の名目を有していたとしても、退職給与には該当しないことになる。 例えば、役員の死亡による退職に伴い、遺族に対する弔慰金ないし見舞金の名目で金銭が支給される場合であっても、その金額が遺族に対する弔意の趣旨を超えているような場合には、その支給は死亡した役員の過去の労務提供に対する対価とみられるのであり、退職給与に該当することになる(大阪地判昭和44年3月27日・訟月15巻6号721頁、高松地判平成5年6月29日・判時1493号65頁参照)。 他方、役員の退職前に、退職者のみならず在籍者に対しても一律に長期勤続功労金を支給することが決定され、その分を加算して退職金の名目で支給がなされた場合であっても、その加算された部分は本来退職しなかったとしても支払われたものであり、退職に起因する給与という実質を有するものではないので、退職給与ではなく、賞与に該当することになる(大阪高判昭和36年3月18日・行集12巻3号429頁参照)。 (2) 「退職」の意義 以上でみたとおり、退職給与は、退職に起因する給与という実質を有するものであるから、原則として、その支給を受ける者が現実に退職することが必要である。 もっとも、現実に退職しない場合であっても、実質的に退職と同視できる事情に基づいて給与の支給がなされる場合には、それは退職に起因する給与と同様の性質を有するものであるといえることから、なお退職給与に該当するものと解される。 この点、代表取締役が監査役に就任した際に支給された給与につき、退職給与に該当するか否かが争われた裁判例で、「役員の分掌変更又は改選による再任等がされた場合において、例えば、常勤取締役が経営上主要な地位を占めない非常勤取締役になったり、取締役が経営上主要な地位を占めない監査役になるなど、役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められるときは、上記分掌変更又は再任の時に支給される給与も、『退職給与』として損金に算入することとされるのが相当である」と判示されたものがある(東京地判平成20年6月27日・判タ1292号161頁)。 なお、通達においても、現実の退職がない場合であっても、一定の場合に退職給与として取り扱うことが認められている(法基通9-2-32以下参照)が、前記裁判例においては、「通達が具体的に規定している事情は飽くまで例示にすぎないのであるから、分掌変更又は再任の時に支給される給与を『退職給与』として損金に算入することができるか否かについては、当該分掌変更又は再任に係る役員が法人を実質的に退職したと同様の事情にあると認められるか否かを、具体的な事情に基づいて判断する必要がある」と判示しており、必ずしも通達に列挙されているものには限定されないことが明らかにされている。 例えば、使用人が役員となった場合の退職給与について、通達では、退職給与規程に基づくことなどが要件として定められているが、そのような場合に限らず、退職給与を支給する慣習があると認められる場合についても、なお退職給与に該当し得るものと考えられる(前記大阪高判昭和36年3月18日参照)。 以上を整理して、実質的に「退職」と同視できる事情があると認められる主な場合を挙げるとすれば、以下のとおりとなる。 なお、以上とは逆に、一定の勤続年数が経過することにより、形式的にはいったん退職することが就業規則において定められていたとしても、実際には再雇用ないし継続雇用が予定されているような場合には、実質的には「退職」に当たらないものと判断され、そのような形式的な退職時に支給される給与は退職給与とは認められないことになる(最判昭和58年12月6日・訟月30巻6号1065頁参照)。 (了)

#No. 8(掲載号)
#木村 浩之
2013/02/28

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載8〕 会社分割における不動産取得税の非課税規定

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載8〕 会社分割における 不動産取得税の非課税規定   税理士 岡野 訓   《1》 制度の概要 不動産取得税は不動産の取得に対し課税される税目であるが、形式的な所有権の移転等に対する不動産取得税は非課税とされている。 具体的には、相続や合併による不動産の取得のほか、一定の要件を満たす会社分割や現物出資による取得も非課税の対象とされている。 会社分割の場合には、次の要件を満たす必要がある。ただし、法人税法上の適格要件とは異なるものであり、仮に法人税法上の適格要件に該当しない場合であっても、不動産取得税が課されないこともあり得る。   《2》 会社分割による事業の譲渡 事業再生の場面で、不採算部門をスポンサー等に引き受けてもらうということがある。 このとき、単なる資産の売買とするのか、それとも事業ごとまとめて移転するのかによりスキームが異なり、後者の場合にはさらに事業譲渡、会社分割等の選択肢が考えられる。 仮に事業譲渡を選択した場合には、次のような課税関係が生じることになる。 これに対し、分社型による会社分割を行った場合には、次のような課税関係が生じる。 事業譲渡との相違点は、消費税と不動産取得税ということになる。登録免許税は、事業譲渡であっても会社分割であっても共に生じることになるが、税率は会社分割の方が若干低く設定されている。   《3》 主要な資産及び負債の移転とは 上記のように、会社分割を利用すれば、不動産取得税を免れることができる場合がある。《1》で示した要件に該当する必要があるわけだが、条文の解釈について、多少の混乱が見受けられる。 例えば、次のようなケースだ。 この事例は、1)分割承継法人株式以外の資産が交付されず、2)主要な資産の移転が行われ、3)分割後の事業継続と、4)従業者全員の引継ぎが行われているため、不動産取得税は非課税となるようにみえる。 ところが、ホテル事業に係る負債の移転が全く行われていないため、地方税法施行令37条の14第1項1号にいう、「当該分割により分割事業に係る主要な資産及び負債が分割承継法人に移転していること。」という要件を満たしていないのではないかとの疑義が生じている。 つまり、主要な資産だけではなく、主要な負債をも分割承継法人に移転している必要があるとの見解である。 適格分割の要件を規定している法人税法2条12号の11ロにも、「当該分割により分割事業に係る主要な資産及び負債が当該分割承継法人に移転していること。」との規定がある。 不動産取得税の非課税要件と同様の規定であるが、この部分について、『コンメンタール法人税法』(第一法規)P621の11には、次のような解説がある。 すなわち、「分割事業に係る主要な資産及び負債の移転にあっては、少なくとも当該事業に属する生産設備や営業用設備等を引き継ぐ必要がある。」との解説である。 法人税法上は必ずしも主要な負債を移転させることを適格の要件とはしていないようである。 また、立法当時の『改正税法のすべて(平成13年版)』(大蔵財務協会)P549には、次のような解説がある。 立法当時の商法では、承継する会社の権利義務について、分割計画書もしくは分割契約書に記載した範囲内で行う旨の記載があるに止まり、必ずしも主要な負債の移転を会社分割の要件にするような規定は見当たらない。 また、「会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」に至っては、会社分割を機に、労働者の不当解雇や労働契約の不利益変更等が行われないように規制をする法律であるため、主要な負債の移転を求める規定が存在しないことは言うまでもない。   《4》 負債の移転は非課税措置の要件か 分割交付金が交付される分割については、分割法人又はその株主の分割承継法人に対する完全な支配関係が失われると考えられるので、非課税措置の対象から除外されている。 また、分割後の事業継続や、主要な資産及び負債の移転と従業者の引継ぎが非課税措置の要件として求められている理由は、分割事業が単なる名目的な移転でないことを認定するためのものであると考えられる。 すなわち、分割事業に係る主要な資産及び負債、従業員及び業務についても分割承継法人に移転されて営業活動が引き続き行われることを要件としているということである。 したがって、活動をしていない事業の移転や資産処分等による整理のためにする分割は、非課税措置の対象から除かれることになる。 〈事例〉の会社分割は、主要な資産の移転と従業者の引継ぎがされていることにより事業の実態が移転して、その後の事業継続に何ら支障はないのであるから、移転すべき『主要な負債』はなく、不動産取得税の非課税措置から除外する理由はないものと考えられる。 (了)

#No. 8(掲載号)
#岡野 訓
2013/02/28

税効果会計を学ぶ 【第4回】「適用する法定実効税率」

-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。   税効果会計を学ぶ 【第4回】 「適用する法定実効税率」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ 税効果会計で使用する税率 本稿では、税効果会計で使用する税率について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 1 法定実効税率 「税効果会計に係る会計基準」第二、二、2は、繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払いが行われると見込まれる期の税率に基づいて計算すると規定している。 「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号。以下「個別税効果会計実務指針」という)は、税効果会計で使用する税率を「法定実効税率」と呼び、次のように算定すると規定している(個別税効果会計実務指針17項)。 【法定実効税率の算定方法】 2 法定実効税率算定上の留意点 法定実効税率の算定方法は上記のとおりであり、一時差異等が解消又は消滅する際の将来の各会社の法人税、住民税及び事業税の各適用税率を合理的に見積もる(個別税効果会計実務指針37項)。 実務上、将来の所得水準を考慮し、複数の事業所を有する会社においては、代表的な事業所(例えば、本社所在地、主な所得源泉地)に適用されている税率をもとに法定実効税率を算定する。 このため、標準税率が必ずしも法定実効税率の算定基礎になるとは限らないことに注意が必要である。 事業税の課税標準には、所得のほか、外形基準により付加価値割と資本割によるものも含まれる。これらの外形基準による税率は利益に関連する金額を課税標準とする税金ではないため、上記の算式の「事業税率」には所得割のみを含めることになる(個別税効果会計実務指針17項なお書)。 3 改正税法の公布がポイント 税効果会計上で適用する税率は、決算日現在における税法規定に基づく税率による(個別税効果会計実務指針18項)。 したがって、改正税法が当該決算日までに公布されており、将来の適用税率が確定している場合は、改正後の税率を適用することになる(個別税効果会計実務指針18項)。 この点については、税法の改正により税率の変更が予定されている場合には可能な限り改正内容を取り込むべきであるとの意見もあったようだが、会計のルールとしては、改正税法が当該決算日までに公布されているかどうかで判断するものと決めたものと解される。 このため、税制改正が行われ、法定実効税率の算定に影響する場合には、当該税制改正の公布日がいつなのかについて注意しておく必要がある。税制改正の内容は重要であるが、その公布日も重要であるということである。   Ⅱ 平成25年3月決算における税効果会計で使用する税率 平成23年度税制改正及び復興特別法人税の創設の概要は、次のようなものである。 平成24年4月1日以後に開始する事業年度の所得金額に対する法人税の税率が、現行の30%から25.5%に引き下げられている。 復興財源確保法においては復興特別法人税が創設され、平成24年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する事業年度において、各課税事業年度の基準法人税額に10%の税率を乗じて復興特別法人税額が計算される。 このため、平成25年3月決算においては、次のように事業年度によって適用される税率が異なることから、税効果会計の適用に際して注意が必要になる。なお、実際の会計処理に際しては、各社で実効税率の算定を行うようにお願いしたい。 【事業年度ごとの税率】 (期末資本金の額が1億円超法人に対する東京都の税率の場合) 前回用いた滞留棚卸資産に関する数値例では、当該将来減算一時差異1,000が、将来のどの事業年度において解消し、税務上、損金算入となる見込みかについて、スケジューリングを行うことになるとしていた。 【将来減算一時差異に関するスケジューリング】 将来減算一時差異の解消見込が、×1年から×3年までに行われると合理的に予測されているとする。 この場合、解消見込年度ごとに適用する税率が異なることから、【事業年度ごとの税率】と解消見込年度を照らし合わせて、将来減算一時差異に乗ずる法定実効税率を決定することに注意が必要である。 このようにスケジューリングと適用する法定実効税率の関係が重要となるので、税効果会計上のポイントとしては、スケジューリングの合理性ということになると考えられる。 (了)

#No. 8(掲載号)
#阿部 光成
2013/02/28

「学校法人会計基準の在り方について 報告書」改正のポイント 【第2回】

「学校法人会計基準の在り方について 報告書」 改正のポイント 【第2回】   有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 奈尾 光浩   5 資金収支計算書 当該年度の活動との関連において資金の流れを整理する資金収支計算書は、補助金の配分の基礎資料として、また学校法人の予算管理のための手法として現在も有用であり、今後も維持すべきとされた。 資金収支内訳表及び人件費支出内訳表に加えて、新たに資金収支計算書に附属する表として、活動区分別資金収支表を作成することが求められている。 学校法人においても活動区分別に資金の流れを把握することが重要であるため、活動区分別資金収支表によって、法人全体の資金の流れを教育研究事業活動、施設等整備活動、財務活動に区分して示すこととされたものである。 また、3つの活動区分ごとにキャッシュ・フローの流れが明確にできるよう、各活動区分の末尾に、それぞれ対応する調整勘定を置く必要がある。 なお、知事所轄法人については、活動区分別資金収支表の作成は義務付けられていない。 活動区分別資金収支表のイメージを簡単に示すと、以下のとおりである。 ※画像をクリックすると、PDFファイルが開きます。   6  貸借対照表 現行の貸借対照表について、その構造は引き続き維持するが、学校法人の財政状態をより分かりやすく表示するという観点から、表示区分や科目について以下の変更を行うべきとされている。   7 その他の論点 その他の論点についても検討されており、その結果は以下のとおりである。 この他、例えば、基準を私立学校法で閲覧に供する義務のある財務情報の基準としての位置付けを法制的により明確にすべきではないか、あるいは、合併・分離、引当金、外貨建て、図書、臨時償却、固定資産の評価替え等に係る在り方についても検討課題とすべきではないか等の意見があったとのことである。 これらの論点についても、今後議論を深めることが望まれる。   おわりに 今回の改正は、昭和46年に基準が制定されて以来、最大のものといっても過言ではなく、今後の実務に多大な影響を及ぼすことになる。 2年程度の準備期間はあるものの(知事所轄法人の場合は3年)詳細な実務上の論点の検討はこれからである。 今後発出ないし公表される文部科学省通知や日本公認会計士協会等による実務指針等に十分留意するとともに、改正後の基準に基づき、早めに計算書類の作成シミュレーションを行う等の対応が必要と考える。 【参考】 文部科学省ホームページ ・「学校法人会計基準の在り方について 報告書」 ・「学校法人会計基準の在り方に関する検討会」 (連載了)

#No. 8(掲載号)
#奈尾 光浩
2013/02/28
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