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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第6回】「ホステス報酬事件(その3)」~ホステス報酬の必要経費計算と基礎控除方式~

筆者:酒井 克彦

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酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第6回】

「ホステス報酬事件(その3)」

~ホステス報酬の必要経費計算と基礎控除方式~

 

国士舘大学法学部教授・法学博士
酒井 克彦

 

ホステス報酬は事業所得に該当するケースが多いという点を前回までに確認した。ところで、ホステスは事業所得者であるが、所得税法の規定によれば、ホステス報酬は源泉徴収の対象となるため、店側にホステスへの報酬支払の際に源泉徴収義務が課されている。そこで、その源泉徴収税額の計算が問題となるのである。

本連載の第4回において説明したとおり、ホステス報酬は次の計算式による源泉徴収を受けることになる(所令322)。

そこで、問題となるのは、上記計算式における「当該支払金額の計算期間の日数」の意味するところである。

ここで当事者の主張をみておこう。

 

1 解釈手法の対立

(1) 国側の主張―目的論的解釈によるべき!

国Yは、この「当該支払金額の計算期間の日数」とは、本件における原告らとホステスとの契約内容、源泉徴収制度及び基礎控除方式の趣旨及び目的、並びに、租税負担の適正及び公平の観点からすれば、ホステス報酬の支払金額の計算の対象となった日の合計数(当該支払金額の計算期間の出勤日数)たる本件各集計期間のうちの出勤日数と解すべきである旨主張した。

これは、基礎控除方式の趣旨などを考慮に入れた解釈をすべきであるとの主張である。

すなわち、前回みたようにホステスは事業所得者であるから、事業所得の金額の計算で控除される必要経費額の代わりに計算するのが、式内にいう「5,000円×当該支払金額の計算期間の日数」を引くという基礎控除方式の趣旨である。そうすると、その趣旨からして、10日しか出勤していないホステスの必要経費の計算をするのに、出勤していない日数までカウントして15日分控除するのは法の趣旨に反するというのである。

このように条項の趣旨によって解釈をするやり方は、いわゆる「目的論的解釈」という解釈手法である。

なお、目的論的解釈とは、条項の趣旨に応じて解釈を行うという手法をいい、次のような解釈の仕方を織り交ぜて行うことがある(拙著『フォローアップ租税法』2頁以下(2010年、財経詳報社))。

① 拡張解釈・・・法令の規定の文字等をそれが普通意味するところよりも広げて解釈することをいう。

② 縮小解釈・・・法令の規定の文字等をそれが普通意味するところよりも狭く解釈することをいう。

③ 変更解釈・・・法令の規定の文字等を変更して、本来それが意味するところとは別の意味に解釈することをいう。

④ 反対解釈・・・ある法令の規定をもとにして、別の規定にあることが書いてないとすればその場合には逆の効果が生ずるような趣旨の規定を含んでいるとして解釈することをいう。

⑤ 類推解釈・・・似通った事柄のうち、一方についてだけ規定があって、他方については明文の規定がない場合に、その規定と同じ趣旨の規定が他方にもあるものと考えて解釈することをいう。

⑥ もちろん解釈・・・ある法令の規定の立法目的、趣旨等からみて、明文の規定はないものの条理上当然のこととして解釈することをいう。

(2) 源泉徴収義務者側の主張―文理解釈によるべき!

これに対して、源泉徴収義務者たるX1らは、一般に「期間」とはある時点からある時点までの継続した時の区分であるから、上記「当該支払金額の計算期間の日数」とは、当該支払金額の計算の対象となる起算点から満了点までの継続した日数であって、本件各ホステス報酬の計算期間の日数は本件各集計期間の全日数である旨反論した。

ここでは、条文が「当該支払金額の計算期間の日数」という表現をしており、出勤日数をカウントするような規定となっていないのであるから、条文通りに解釈して、欠勤している日をも含めた「計算期間の日数」である全日数に5,000円を乗じて控除額を計算すべきだというのである。

このように条文に書き表されている文章をできるだけ素直にそのまま解釈すべきというのが、「文理解釈」という解釈手法である。

 

2 文理解釈を優先すべきとする考え方

例えば、別の事案において、東京高裁平成4年12月17日判決(行裁例集43巻11=12号1520頁)では、文理解釈にとらわれるべきではないと主張する納税者側の主張を排斥している。

同判決は、まず、

租税法律主義の原則上、課税要件のすべては法律又は法律に基づく命令に規定されていなくてはならないが、課税要件を定めた法令の規定は、それが多様な解釈を許すような抽象的かつ多義的な文言で構成されると、租税法律主義の趣旨が実質的に損われることがあり得るので、できる限り一義的に明確なものであることが要請される

とする。

そして、そのこととともに、

租税法律主義の原則は課税作用が国民の財産権に対する侵害であることに基づいて認められている建前であること、及び法人税のように申告納税制度を採用するものについては、課税要件を定めた法令の規定は納税者が課税準備及び納付すべき税額を算出する拠り所となるものであることからすれば、課税要件を定めた法令の規定が、経験上一定の具体的な意味内容を示すものとして用いられることが通常である文言や法令自身によってその内容が定義された文言を用いて課税要件を定めている場合においては、その課税要件は、原則的には当該文言の通常の用例に係る意味内容や法令によって定義された内容に即して文理的に解釈されなければなら〔ない〕

としている。

もっとも、「例外的にかかる文理解釈によっては明らかに不当な結果となるような場合」がある場合には、その場合に

はじめて当該文言の通常の用例に係る意味内容や法令によって定義された内容を拡大若しくは縮小し、又はこれに別異の意義を付与して解釈することができるものと解すべきである。このことは、当該法令の規定が一定の計算方法によって算出される金額につき、特別控除として損金に算入すべき旨を定めている場合であっても何ら変るところはない。

とする。

つまり、まずは、租税法律主義や申告納税制度の見地からできるだけ、文理解釈によるべきであり、それでも明らかに不当な結果となるような場合には、目的論的解釈を展開する必要があるというのである。

 

このような考え方は、租税法の解釈において通説として理解されているところである。

租税法が侵害規範であるとみれば、できるだけルールブックに書いてあるとおりに解釈をすることが、納税者の予測可能性にも資するし、何よりも解釈の不安定な揺らぎを排除することができるということにもなろう。

ひいては、恣意的な課税を排除することにもつながるし、納税者X1らが自己に都合の良いような解釈をすることを防止することにもなると考えれば、文理解釈が優先的になされるべきとの考え方は納得のできるものであろう。

本件は、最高裁において、納税者の主張が採用され、文理解釈を基調とした判断が展開された。すなわち、最高裁は、

一般に、『期間』とは、ある時点から他の時点までの時間的隔たりといった、時的連続性を持った概念であると解されているから、施行令322条にいう『当該支払金額の計算期間』も、当該支払金額の計算の基礎となった期間の初日から末日までという時的連続性を持った概念であると解するのが自然であり、これと異なる解釈を採るべき根拠となる規定は見当たらない。

として、全日数を控除するという解釈が妥当だとしたのである。

もっとも、文理解釈が優先されるべきとはいっても、そもそもの法の趣旨を没却することになっては法の解釈として問題がある。そのような意味では、文理解釈によって導き出された解釈が法の趣旨に明らかに反するものであるような場合には、妥当な解釈とはいえないことになるのはいうまでもない。

〔凡例〕
所令・・・所得税法施行令
(例)所令322・・・所得税法施行令322条

(了)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週・4週に掲載します。

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筆者紹介

  • 酒井 克彦

    (さかい・かつひこ)

    法学博士(中央大学)。
    国税庁等での勤務を経て、現在、中央大学商学部教授として、学部のほか大学院やロースクール等でも教鞭をとる。
    一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。

    一般社団法人ファルクラム http://fulcrumtax.net/
    一般社団法人アコード租税総合研究所 http://accordtax.net/

    【著書】
    「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈―判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』(2015年、清文社)
    「相当性」をめぐる認定判断と税務解釈―借地権課税における「相当の地代」を主たる論点として』(2013年、清文社)
    『スタートアップ租税法〔第3版〕』(2015年)、『クローズアップ保険税務』(2016年)その他5冊のアップシリーズ(財経詳報社)
    『裁判例からみる所得税法』(2016年、大蔵財務協会)
    『裁判例からみる法人税法〔2訂版〕』(2017年、大蔵財務協会)
    『レクチャー租税法解釈入門』(2015年、弘文堂)
    『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕、Ⅱ〔第2版〕』(2018年、中央経済社)
    『アクセス税務通達の読み方』(2016年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -法人税裁判事例精選20』(2017年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -所得税裁判事例精選20』(2018年、第一法規)
    『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(2019年、ぎょうせい)
    その他書籍・論文多数

     

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