「生産等設備投資促進税制」 適用及び実務上のポイント 【第5回】 「特別償却・税額控除の適用を 判断する際の留意点」 マネーコンシェルジュ税理士法人 税理士 村田 直 ◆中小企業等投資促進税制との有利不利 本連載では「「生産等設備投資促進税制」適用及び実務上のポイント」として、第1回から概要、要件、手続などをご紹介してきたが、第5回となる今回は、実際に生産等設備投資促進税制を適用するに当たっての有利不利の判定、要件を満たさない場合の対処法などを解説する。 生産等設備投資促進税制の詳細は、これまでの連載で十分にご理解いただけたことと思うが、最終的なタックスプランニングにおいて、実務上の判断を左右する重要なポイントとしては、以下の5点が挙げられる。 実務においては、最初から生産等設備投資促進税制の適用が決まっているわけではなく、会社の状況から判断して、適用可能な優遇税制を検討し、それが複数ある場合には、どの税制を適用するのが最も会社にとって有利かを判断した上で、適用することとなる。 そういった場面において、上記5点は、有利不利を判断する際のポイントとなる。 例えば、既存の投資優遇税制として、中小企業等投資促進税制がある。 この制度は、中小企業者等が平成26年3月31日までの期間内に新品の機械及び装置などを取得し又は製作して国内にある製造業、建設業などの指定事業の用に供した場合に、その指定事業の用に供した日を含む事業年度において、基準取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除を認めるものである。 中小企業の投資優遇税制の中で、最も適用する機会の多いものであろう。 この中小企業等投資促進税制のポイントを、上記の生産等設備投資促進税制のポイントと比較する形で挙げると、以下のようになる。 特別償却の償却率はどちらも30%だが、税額控除の率では、中小企業等投資促進税制の方に軍配が上がる。同様に、税額控除限度超過額の繰越しが認められる点も中小企業等投資促進税制が有利である。 一方、対象となる資産は、生産等設備投資促進税制の場合は機械装置のみ、中小企業等投資促進税制の場合は、器具備品やソフトウェアなども対象になる、という違いがある。 また、中小企業等投資促進税制においては、取得価額要件や、税額控除の対象法人における資本金要件などの制限があるため、この点においては生産等設備投資促進税制が有利となる。 以上のように考えてみると、生産等設備投資促進税制を選択するケースとしては、例えば以下のような場合が想定される。 ◆要件を満たすためのひと工夫 以上のような有利不利をシミュレーションした上で、生産等設備投資促進税制を適用するとした場合には、本連載でも繰り返しご紹介してきた通り、以下の2つの要件を満たす必要がある。 ①の要件については、事前に予定している「生産等設備への年間総投資額」も含めたところで、「適用事業年度の減価償却費」を計算すれば、要件を満たすかどうか、おおよその見込みは立つだろう。 この段階で、もし要件を満たさないとしたら、どうすればよいだろうか。 この場合の選択肢は2つ。「生産等設備への年間総投資額」を増やすか、「適用事業年度の減価償却費」を減らすか、のどちらかである。 後者で要件を満たそうとすると、会計上、損金経理する減価償却費を減らす、又は事業年度を変更し、12ヶ月未満の事業年度にすることで計上する減価償却費を減らす、などの方法が考えられる(しかし、これらの方法が実務上認められるものになるかどうかは、今後の適用事例等の公表を待ちたい)。 ②の要件については、現在がどの時点なのかによって取れる選択肢が変わってくる。現在進行中の事業年度が平成25年3月31日以前開始事業年度であれば、進行事業年度における年間総投資額をできるだけ減らし、大型設備投資はできるだけ来期に延期することで、10%超増加の要件を満たしやすくすることができる。 一方、現在進行中の事業年度が平成25年4月1日以降開始事業年度であれば、前事業年度における調整はできない。この場合は、事業年度を変更し、12ヶ月未満の事業年度にすることで、比較取得資産総額(連載第3回参照)を月割計算することができ、その分10%増加の要件を満たしやすくすることができる(しかし、この方法も認められるものになるかどうか、今後の適用事例等の公表を待ちたい)。 ただし、事業年度は、経営上の様々な見地から総合的に決定すべきものであり、税制面の有利不利のみでむやみに変更すべきものではないため、十分注意していただきたい。 最後に、生産等設備投資促進税制において、特別償却と税額控除のいずれを選ぶか、ということだが、一般的には税額控除の方が有利である。特別償却は、減価償却の前倒しというだけであり、来期以降に計上される減価償却費はその分少なくなる。その結果、トータルで計上できる減価償却費は変わらない。 ただし、生産等設備投資促進税制では、税額控除限度超過額の繰越しが認められないため、適用事業年度において赤字である場合には、税額控除を選択しても意味がない。 その場合は特別償却を選択せざるを得ないことになるが、中小企業者等で前期が黒字であれば、欠損金の繰戻し還付を適用するなどの選択肢が考えられる。 (了)
中小企業のM&Aでも使える 税務デューデリジェンス 【第6回】 「親族への事業承継における 税務の取扱い」 公認会計士・税理士 並木 安生 1 はじめに 第6回では、親族への事業承継の際に活用される各手法の内容及びその税務上の取扱いやポイント、税務デューデリジェンスの必要性等について解説する。 2 親族への事業承継の手法 事業承継を含むグループ内再編では、対象会社の株式異動を伴うケースがほとんどである。 一般に税務上は、株主構成に変化がある場合はグループ内再編における適格要件等を満たさなくなることがあり、その場合は含み益を益金算入させざるを得ない状況となる。 一方で、今回のテーマである親族間の事業承継を前提とした株式異動であれば、実質的には株主構成に変化がなかったと捉えることが多く、その場合は適格要件を満たすことで含み益が益金算入されないことになる。以下にその具体例を記載する。 ① 株式譲渡を行うケース オーナー経営者(個人)が、後継者となる子などの親族(個人)に対して自社(A社)株式を譲渡し、A社株式売却の代金として現金を受け取るものとする(図①)。 この株式譲渡は原則として組織再編税制の対象ではないため、適格要件を判定する必要はない。そのため、A社が保有する資産に含み損益があった場合でも損金(又は益金)に算入されることはない。 なお、売り手となるオーナー経営者側では、譲渡損益が所得税における申告分離課税の対象となる。 図① 株式譲渡 [ステップ1] [ステップ2] ただし、譲渡時点においてA社に含み損のある資産や青色繰越欠損金がある場合、欠損等法人に該当することで、含み損のある資産の売却による損失や青色繰越欠損金に対してA社が損金算入制限を受ける可能性がある。 これは、親族間で発行済株式総数の50%超の株式を売買したに過ぎず、親族全体を1つのグループとして考えると株式異動はなかったと考えられる場合であっても、条文上は株式異動があったと解釈され得るためである。 ② 分割型分割を活用するケース オーナー経営者が保有する自社(A社)で営んでいる複数の事業を親族に当たるそれぞれの後継者(B及びC)へ承継させたい場合、分割型分割の手法を利用してA社を複数の会社(A社及びA1社)に分け(図②)、将来の相続発生時にそれぞれの後継者が各々の事業を含む会社の株式を相続できるように備えておく方法、あるいは生前にA社及びA1社それぞれの株式を譲渡する等の方法が挙げられる。 分割型分割は組織再編税制の対象となるため、適格要件の判定が必要となる。 この点、オーナー経営者が従前より発行済株式総数の100%を保有している場合は、「同一の者が分割後もそれぞれの会社の株式を100%保有し続ける見込みがあること(完全支配関係継続見込要件)」が求められるが、親族間の株式譲渡や相続を見込んでいるのであれば、「同一の者」による完全支配関係の継続見込があると考えられことになるため、この分割は適格再編扱いとなる。 したがって、分割時点においてオーナー経営者が株式譲渡損益やみなし配当を認識する必要はなく、分割法人(A社)が譲渡損益を認識する必要はないことになる。 図② 分割型分割 [ステップ1] [ステップ2] ③ 株式移転を活用するケース 1) 完全子会社が複数(共同株式移転)の場合 オーナー経営者が複数の会社株式(発行済株式総数のうちすべて)を保有しており、子などの相続人がそれらの株式の相続又は贈与を受け後継者となる予定であるとする。 この場合、株式移転の手法を用いて持株会社を組成し複数の会社をその傘下の完全子会社とし(図③-1)、持株会社株式を相続・贈与対象とする方が、相続税計算における株式評価上や事務処理の簡素化の点で有利となるケースが多い。 株式移転は組織再編税制の対象となるため、適格要件の判定が必要となる。 本ケースの下では「同一の者が株式移転後も持株会社株式及び完全子会社株式を100%保有し続ける見込みがあること」が求められるが、持株会社株式の相続・贈与が見込まれている場合だけではなく、相続発生前に親族の後継者へ持株会社株式を譲渡することを見込んでいる場合でも、税務上は親族全体を「同一の者」として捉えることから、「同一の者」による100%保有の継続見込があると考えられるため適格再編扱いとなる。 したがって、資産評価損益を認識する必要はないことになる。 図③-1 共同株式移転 [ステップ1] [ステップ2] 2) 完全子会社が1社(単独株式移転)の場合 オーナー経営者が保有する会社(A社)にオーナー以外の少数株主が存在しており、子などの相続人がその株式の相続又は贈与を受け後継者となる予定であるとする。 この場合、上記1)と同様に、株式移転の手法を用いて持株会社を組成しその会社を傘下の完全子会社とし(図③-2)、持株会社株式を相続・贈与対象とする方が、相続税計算における株式評価の点で有利となるケースが多い。 1)と同様に、この株式移転は適格要件の判定が必要となる。本ケースの下では「株式移転後も持株会社が完全子会社の100%を保有し続ける見込みがあること」の条件を満たせば足り、各株主による持株会社株式の保有継続見込が適格要件を満たすために必要となるわけではない。 したがって、持株会社株式の相続・贈与が見込まれている場合だけではなく、相続発生前にオーナー経営者が親族内外いずれの後継者へ持株会社株式の譲渡を行うことを見込んでいる場合でも、適格要件に影響を与えることはなく、上記カギ括弧内の条件を満たせば資産評価損益を認識する必要もないことになる。 図③-2 単独株式移転 [ステップ1] [ステップ2] ④ 事業譲渡を行うケース オーナー経営者が保有する会社から後継者となる子などの親族が保有する会社に対して事業譲渡を行う方法(図④)も、事業承継の手法としてしばしば利用される。 この点、事業譲渡は組織再編税制の対象ではなく単なる資産の譲渡取引であるため、税務上時価で譲渡されたものとして取り扱わない限り寄附金・受贈益認定を受けることになる。 また、本ケースのようにそれぞれが発行済株式のすべてを保有する会社間での事業譲渡の場合は、税務上「一の者」の間の取引に該当するためグループ法人税制の適用対象となり、一定の資産の譲渡損益は譲渡会社と譲受会社の間の完全支配関係が将来解消される時点まで繰り延べられることになる。 なお、グループ法人税制が適用される場合、先述の寄附金・受贈益は損金又は益金不算入扱いとなり、かつ子法人株式の寄附修正の対象として扱われる。 図④ 事業譲渡 [ステップ1] [ステップ2] 3 税務デューデリジェンス 親族間の取引であっても第三者間取引の場合と同様に、取引当事者において寄附金・贈与認定リスクが生じないようにするためにも、税務上は時価での取引が必要となる。 したがって、税務デューデリジェンスを実施することで税務リスク額を試算し取引価額へ反映させることが有用といえる。 また、親族間のトラブルを避けるためにも、税務デューデリジェンスにより税務リスクを事前に洗い出し、税務上の問題点や課題を当事者の共通認識としておくことが望まれる。 なお、事業承継の各手法が図らずも非適格再編に該当し、不測の含み益課税を受けてしまうことを避けるためにも、上記2に記載したそれぞれの税務の取扱いを参考として、将来予定している株式異動等の取引が適格要件を満たすか否かに影響を与えるかを事前にチェックしておくことも必要といえる。 事業承継における税務デューデリジェンスの手続は、買収や統合の場合のものと基本的に大きな違いはない。詳細については第2回「具体的な調査項目とは」を参照されたい。 (了)
交際費課税Q&A ~ポイントを再確認~ 【第5回】 「交際費と寄附金を区別する」 公認会計士・税理士 新名 貴則 法人税法上、交際費等と寄附金は次のとおりに定義されている。 上記のとおり、一般的には「交際費、接待費、機密費」などの名目の支出であれば交際費等に、「寄附金、拠出金、見舞金」などの名目の支出であれば寄附金に該当する。ただし、必ずしも名目のとおり税務上も取り扱われるとは限らない。 したがって、寄附金になるのかそれとも交際費等になるのかは、個々の実態に応じて判定する必要がある。 ここで、事業に直接関係のない者に対して金銭、物品等の贈与をした場合には、寄附金なのか交際費等なのかは個々の実態により判定することになる。ただし、次のような金銭による贈与は原則として寄附金とし、交際費等にはならない(措通61の4(1)-2)。 交際費等と寄附金の判定でよく問題となるのが、政治資金パーティーのパーティー券代の取扱いである。政治資金パーティーとは、政党等が政治資金を集めるために開催するもので、その催物の収益から必要経費を差し引いた残金を政治活動に使うというものである。 このパーティー券代には、パーティーでの実際の飲食等の実費に相当する部分と、政治資金としての献金に相当する部分から構成されるといえる。そのため、実費相当部分については交際費等とし、献金部分は寄附金とするのが適正な取扱いと考えられる。 【パーティー券代の取扱い】 ただし、実際にはパーティー券代のうち実費相当部分は僅かで、大部分が献金相当部分であるケースが多く、またそれらを区分することも難しい。さらに、実際の出席者より多い人数分のパーティー券を購入するようなケースも多い。 そこで実務上は、全額を寄附金として取り扱うことも妥当と考えられる。 役員給与として取り扱う必要があるかどうかも問題となるが、本来は法人自体が何らかの目的で政党との関わりを持ちたいという意思があるものである。したがって、通常は法人としての経費と認められると考えられる。 ただし、法人とは関係がなくあくまで役員の個人的関係しかないにもかかわらず、法人がパーティー券を購入しているような場合は、役員給与として処理すべきと考えられる。 (了)
小説 『法人課税第三部門にて。』 【第12話】 「調査終了時の「理由」の説明義務」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「めんどくさいです・・・」 山口調査官は忌々しそうにつぶやいた。 「何が?」 田村上席は、新聞を読んでいる。 今は昼休みで、法人課税第三部門には、今日も出遅れた2人以外、誰もいない。 「国税通則法74条の11第2項ですよ。すなわち、税務調査の終了に際し、調査担当職員は更正決定等をすべきと認める場合には、その調査結果の内容を説明する・・・と書かれているでしょ・・・そして、その内容としては、更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含むとなっている」 山口調査官は、条文を怒ったように読み上げた。 「そんなことは、今までもやっていただろう」 「ええ、しかし、こう法律ではっきりと規定されると、それをしなかった場合、違法な調査になってしまうでしょう」 田村上席も頷く。 「確かに、そうだな・・・あまり法律で縛り過ぎると、税務職員の調査が萎縮してしまう可能性があるんだが」 「僕なんか、税務調査で、ややこしい否認事項が出てきたら、もう知らないことにして、更正処分をしないでおこうか、なんて考えちゃいますよ」 「おいおい、それは困るよ」 田村上席は苦笑いをして、山口調査官を諭す。 「それに・・・事務運営指針でも、納税者に対しての理由の程度について、びっくりするくらい我々税務職員に対して、説明をするように求めている」 山口調査官は、事務運営指針の該当箇所を読み上げる。 「調査結果の内容の説明等については・・・必要に応じ、非違の項目や金額を整理した資料など参考となる資料を示すなどして、納税義務者の理解が得られるよう十分な説明を行うとともに、納税義務者から質問等があった場合には分かりやすく回答するように努める・・となっている・・・これって、えらく、納税者に配慮していますね・・・現場の我々の苦労を、もっと上の人は考えてくれてもいいのに・・・」 山口調査官はそう言うと、事務運営指針が書かれた資料をポンと机の上に投げた。 「まあ、納税者の権利を保護しようというのが、近頃の風潮なんだろうな」 「あの・・・納税者権利憲章のことですか?」 山口調査官は、まだふてくされている。 「僕なんか・・・納税者には納税の義務しかなくて、納税の権利なんて・・・ありえない・・・だって、税務大学校でも、あそこの教授が説明していたけれど、一旦、課税要件が充足されると、その途端、国と納税者の間で、「租税」という債権債務関係が自動的に発生するものだから、租税実体法において、納税者に権利などありえない・・・まあ、手続法において納税者の権利はあるのでしょうけどね」 「へえ、山口君はよく勉強しているんだな・・・君のような税務職員が大勢いると、税務行政も安泰なんだがなあ」 田村上席は、笑いながら、山口調査官を褒めた。 「ところで、我が国に納税者権利憲章なんて作っても、何の効果があるんでしょうか?」 山口調査官が質問する。 「そりゃあ、納税者の権利の保護と救済のためだろう・・・」 田村上席は、新聞をたたんで、机の上に置く。 「別に納税者権利憲章を創らなくても、国税通則法にきっちりとした手続規定を設ければ、それでいいじゃないですか・・・どれだけ立派な法律を作っても、それを実行するのは人間なんですから」 「・・・アジアや東欧そして南アフリカにも納税者権利憲章を制定しようとする動きがあるとか、イタリアやスペインでは、既に制定しているとか・・・」 田村上席は、以前読んだ本の記憶を辿るように語った。 「東南アジアなんて、アンダーテーブルの世界ですからね」 山口調査官は、冷たく言い放つ。 「そう言えば、山口君は、よく東南アジアに旅行をすると聞いているけど・・・どんな国に行ったことがあるの?」 田村上席が質問する。 「そうですね・・・ベトナム、タイ、カンボジア、それと・・・そうそう、3ヶ月前に、ラオスにも行って来ましたよ」 「へえ、私なんか、東南アジアは、どの国にも行ったことがないよ」 「これらの国には、立派な税法はあるんですけれど・・・さっき言ったように、ほとんど賄賂の世界で・・・税務調査なんて、まともに行われていない。そんな国で納税者権利憲章を創っても、何の意味もないと思うのですが」 田村上席は、山口調査官の話を聞きながら、椅子の上で、腕を頭の後ろに廻し、大きく体を反らせている。 「イタリアなんかも、納税意識が低い国だから・・・政府が如何に納税者から効率よく税金を徴収するか、いろいろと知恵を出している」 田村上席は、学生時代にイタリアに旅行し、半年ほど滞在したことがある。税務職員になってからも、何度か訪れているイタリア通である。 「イタリアでは、税金をまともに納める奴は馬鹿だという考えを持っている人が多いから、政府は、コンドーノという制度を採用しているんだ」 「こんどーの、ですか?」 ポカンとしている山口調査官を見て、田村上席は笑いながら説明を続ける。 「イタリア語で、コンドーノは、“免罪符”という意味なんだ。5年に一度、納税者に一定のお金を支払わせ、それに応じたら、過去の脱税等を許すというものだ。逆に、もしお金を支払わない場合には、その納税者に対し、徹底して税務調査を行うという」 「それって、脅迫じゃないですか」 「そうかもしれないな」 田村上席がそう言うと、2人は大きな声で笑った。 (つづく)
租税争訟レポート【第12回】 架空外注費の認定による 課税処分を否認した裁決 (国税不服審判所公表裁決) 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【事案の概要】 本件は、製造業を営む審査請求人(以下「請求人」という)が総勘定元帳の運搬勘定に計上した運搬費について、原処分庁が、その一部は過大に計上されたものであるとして、法人税並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という)の更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該運搬費は過大に計上されたものではないなどとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 【原処分庁の主張】 1 本件各運搬費は過大に計上されたものか否か 請求人の取締役業務部長(以下「P2」という)は、海上運送を行う取引先(以下「H社」という)の担当者(以下「P3」という)と通謀して、請求人の海上輸送等に係る運搬費を水増しして請求させたうえで、請求人が支払った代金の一部を返金させていた。 このことは、税務調査担当者に対するP3の申述から明らかである。 2 請求人が本件各運搬費を計上したことに関して、通則法70条5項に規定する偽りその他不正の行為があるか否か 本件各運搬費等は、請求人のP2が、P3から受け取る資金を捻出するため、正当な輸送代金を水増しして過大に計上し、又は、P3に偽造請求書等を作成させて架空の運搬費を計上するなどしたことが明らかである。 そして、これらは、いずれも社会通念上不正と認められる行為であるから、請求人が本件各運搬費を計上したことに関して、国税通則法(以下「通則法」)70条5項に規定する偽りその他不正の行為がある。 3 請求人が本件各運搬費を計上したことに関して、通則法68条1項に規定する隠ぺい仮装行為があるか否か 本件各運搬費は、P2が、P3から受け取る資金を捻出するため、正当な輸送代金を水増しして過大に計上し、又は、P3に偽造請求書等を作成させて架空の運搬費を計上するなどしたことが明らかであるところ、本件各事業年度において、P2は請求人の取締役で輸送に係る業務の統括責任者の立場にあり、P2の行為は請求人の行為と同一視できるから、請求人が本件各運搬費等を計上したことに関して、通則法68条1項に規定する隠ぺい仮装行為がある。 【審査請求人(納税者)の主張】 1 本件各運搬費は過大に計上されたものか否か 本件各運搬費は、コストが最少となるように、請求人の担当者が、取引先担当者と価格交渉をした上で決定しているのであり、過大に計上されたものではない。 原処分庁は、H社のP3による申述を原処分の根拠とするが、請求人のP2が、本件税務調査中の平成23年11月23日にP3の不正行為を問いただすために面会した際に録音した会話の内容から、P2とP3が通謀して、請求人に対し、正当な輸送代金を水増しした金額を請求していたとは認められないのであるから、H社P3による申述を根拠に、本件各運搬費が過大に計上されたものであると認めることはできない。 2 請求人が本件各運搬費を計上したことに関して、通則法70条5項に規定する偽りその他不正の行為があるか否か 請求人は、本件各運搬費について過大に計上しておらず、一部の運搬費について、P2が請求書の処理を誤り、運搬費を二重に計上した過失があるにすぎない。 したがって、請求人が本件各運搬費を計上したことに関して、通則法70条5項に規定する偽りその他不正の行為はない。 3 請求人が本件各運搬費を計上したことに関して、通則法68条1項に規定する隠ぺい仮装行為があるか否か 本件各運搬費は過大に計上されておらず、また、請求人が、一部運搬費を二重に計上したことは過失にすぎないから、請求人が本件各運搬費を計上したことに関して、通則法68条1項に規定する隠ぺい仮装行為はない。 【国税不服審判所の判断】 1 本件各運搬費は過大に計上されたものか否か 本件において、請求人がH社に対して支払った本件各運搬費が過大に計上されたものであるというためには、①請求人が、故意に、本件各運搬費を当該海上輸送等に係る適正な運搬費を超える過大な金額としたこと、また、②緊急に納品しなければならないような場合など、通常の取引においても過大な金額を支払うこともあり得ることからすれば、その過大な金額であることを認識している場合には、その過大な金額を支払うことについて通常の取引と認めるべき合理的な理由がないことが必要である。 しかしながら、本件において、全証拠を精査しても、請求人が、本件各運搬費が適正な運搬費を超える過大な金額であることを認識していたことを直接認めるべき客観証拠はなく、P2などの請求人の海上輸送等の担当者から、P3に対して、適正な海上輸送等の金額を水増しして請求人に対する海上輸送等の見積額とする旨連絡した書面などの証拠も存在しない。 原処分庁が、本件各運搬費は過大に計上されたものであるとの主張の根拠とする直接証拠は、P3の本件調査担当者らに対する「P2と通謀して、請求人に対し、H社等で必要となる運搬費を水増しした額を請求していた。」などの申述のみであるところ、P3の当該申述は、P2のP3に対する指示、返金された金員の使途、P2に対する返金など、P2がP3と通謀して本件各運搬費を過大な金額としていたことを認定する根幹となる申述のすべてが信用できず、裏付証拠も一切存在しないのであるから、P3の申述に基づき、請求人が、本件各運搬費が過大な金額であることを認識して計上したと認めることはできない。 2 請求人が本件各運搬費を計上したことに関して、通則法70条5項に規定する偽りその他不正の行為があるか否か 上記のとおり、請求人が本件各運搬費を過大に計上したとは認められない。また、一部の運搬費については、過失により運搬費を二重に計上したものと認める余地はあるものの、P2とP3との間に運搬費の計上及び支払いに関する通謀があったと推認することはできない。 したがって、請求人が本件各運搬費を計上したことに関して、通則法70条5項に規定する偽りその他不正の行為があると認めることはできない。 3 請求人が本件各運搬費等を計上したことに関して、通則法68条1項に規定する隠ぺい仮装行為があるか否か 請求人が本件各運搬費を過大に計上したとは認められないから、本件各事業年度及び本件各課税期間について、請求人が本件各運搬費を計上したことに関して、通則法68条1項に規定する隠ぺい仮装行為はない。 また、一部の運搬費の二重計上については、通則法70条5項に規定する偽りその他不正の行為があるとは認められないから、平成17年3月期の法人税及び平成17年3月課税期間の消費税等の各更正処分は、同条1項に規定する更正の期間を徒過しており違法であるから、通則法68条1項に規定する隠ぺい仮装行為の有無について判断するまでもなく、平成17年3月期の法人税及び平成17年3月課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分は取り消すことになる。 4 結論 法人税及び消費税等の課税処分については、その一部を取り消すべきであり、法人税及び消費税等の重加算税賦課決定処分については、その全部を取り消すべきである。 【解説】 税務調査において反面調査先の担当者が申述した不正経理。これに飛びついてストーリーを創り上げ、重加算税の課税処分まで行った処分行政庁。筆者は、不正の探査・発見能力に関して、国税調査官の優秀さを大いに評価しているのであるが、本件は、残念ながら、国税調査官らの思惑が外れ、国税不服審判所において、課税処分の一部取消し・重加算税の賦課決定処分の全部取消しという裁決が下された。 では、本件税務調査のどこに問題があったのであろうか。 請求人の取引先であるH社の担当者(P3)により自白された不正は、次のようなものであった。 《不正経理の流れ》 請求人の取締役業務部長が、H社の担当者に対して運搬費の水増し請求を指示、これを受けたH社担当者は、下請会社に水増し請求を指示する。作成された請求書が、下請先→H社→請求人へと回送され、これに従って、代金が請求人→H社→下請先と支払われる。そして、水増し請求の一部が、取締役業務部長の手に渡るというのが不正の構図である。 ところが、請求人の取締役業務部長の関与というのは、自らの罪を免れようとしたH社担当者による虚偽の証言であった。 本件税務調査では、H社担当者の申述以外に証拠はなかった。「水増し請求」を指示した証拠も、取締役業務部長に金員が還流した証拠もないまま、重加算税の賦課決定処分を含む重い課税処分が行われた背景に何があるのかまでは、裁決では明らかにされていないが、税務調査担当者の思入れや先入観が、無理な課税処分につながったのかもしれない。 それくらい、発注する側の担当責任者によるこうした形態の不正が多いのは間違いないところだ。 書証をはじめとする証拠が十分にない中での、いわば、処分行政庁の勇み足的な課税処分について、審査請求制度が機能していることを示す裁決例であるといえよう。 (了)
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載28〕 普通法人から公益法人等への移行時における 別表5(1)利益積立金額の記載方法について 公認会計士・税理士 濱田 康宏 〈解説〉 《1》 普通法人から公益法人等への移行時における課税関係 普通法人が公益法人等に移行する場合、みなし事業年度が設けられて(法法14①二十)、そこで課税所得範囲の変更に備えての課税関係の清算が行われる(法法10の3・法令14の11)。普通法人は全所得課税であるのに対して、公益法人等は収益事業課税であり、課税所得範囲が異なる法人に移行するためである。 普通法人である医療法人が公益法人である社会医療法人になる場合には、認定日の前日までをみなし事業年度として、そこで貸倒引当金の取崩し(法法52⑫、53⑨)・一括償却資産の損金算入(法令133 の2⑤)・繰延消費税額等の取崩し(法令139の4⑩)など、所要の調整が行われる。 このほか、例えば、以下の項目も調整が必要である。その金額によっては大きなミスとなり税賠問題につながりかねないので、要注意である。 ●欠損金の繰戻しによる還付(法法80④) 全所得課税時代の青色欠損金がここで切捨てになるため、認定日の前日前1年以内に終了した事業年度又は該当日の前日の属する事業年度において生じた欠損金について、繰戻し還付規定の適用を受けることができる。 ●国庫補助金等に係る特別勘定の金額の取崩し(法令81、90) 認定日の前日において、有している特別勘定の金額の全額を取り崩し、取り崩した日の属する事業年度の益金の額に算入する。 ●繰延デリバティブ取引等の決済損益額の計上時期等(法令121の5①) ヘッジ対象資産等の未決済により繰り延べた決算損益額を、認定日の前日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入する。 なお、本設例では、平成19年4月1日以後に設立される医療法人は全て出資持分の定めない医療法人であることに鑑みて、普通法人として出資持分の定めのない社団医療法人を前提としている。 しかし、現在の多くの医療法人は、経過措置型医療法人とも呼ばれる持分の定めのある社団医療法人である。このような持分の定めのある医療法人の場合、社会医療法人になる時点で定款変更により出資金を喪失し、会計上は、その出資金相当額が資本剰余金に振替処理がなされる(旧医療法施行規則30の39②・社会医療法人債を発行する社会医療法人の財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則36)。 法人税法上は、法人税申告書別表4において、①喪失された出資金相当額の益金認定処理を行うとともに、②益金不算入とする減算・社外流出処理して、利益積立金に振替処理をして、法人税の課税関係を生じないようにする(法令9①一チ・法令136の4②)。 《2》 社会医療法人移行後の別表5(1)記載の前提となる認定取消し時の調整 公益法人等に移行した後の法人税申告書別表5(1)については、会計と税務との期間差異調整の意味以外にも、将来の課税所得範囲の変更に備えて、課税済利益である利益積立金額を管理するとの機能がある。 この課税所得範囲の変更とは、収益事業課税である公益法人等が、その後に全所得課税である普通法人に該当することとなった場合に、普通法人移行前の収益事業以外の事業から生じた所得の累積額つまり累積所得金額を益金の額に算入することを意味する(法法64の4)。 累積所得金額は上記の計算式で算定すると規定されているので、社会医療法人が認定取消しになると、課税済利益である利益積立金額を除いた簿価純資産額を益金算入することで、未課税部分の清算を行うことになる。 ここで問題となるのが、この場合の「資産」「負債」の範囲である。この資産及び負債については、法人全体の資産及び負債ではなく、非収益事業部分だけの資産及び負債であるとの見解が示され、当惑することがある。 実は、筆者も課税実務の現場で、当初課税当局から提示されたのがこの考え方であった。確かに、法人税法64条の4第1項・法人税法施行令131条の4第1項では「収益事業以外の事業から生じた所得の金額の累積額として」との文言があるので、条文上はこのように解しても不思議ではない。 この見解からは、上記の控除される利益積立金額も、収益事業課税時代に稼得されたものだけが控除されるということになり、算式で控除できる利益積立金額で、当初の全所得課税時代で課税済である利益積立金額からなる部分もゼロになってしまう。「解散」「設立」との条文(法法10の3)の言葉から、別表5(1)の利益積立金額がリセットされるとの思い込みが、このような思考につながるのかもしれない。 だが、これが不都合を生じるのは、下記のような例を考えてみれば明らかである。 上記計算式が正しいとすると、[1]の全所得課税時代の課税済利益積立金相当額1,000に対して二重課税が生じてしまう。これは不合理である。 この資産・負債の範囲について、課税当局によって記載されたものは筆者の知る限りないが、『平成20年度税制改正完全対応 公益法人税制』(監修者朝長英樹、法令出版、平成20年8月11日発行)では、 「特に制限が付されていませんので、この場合の資産と負債は、収益事業と収益事業以外の事業の双方の事業に属する資産と負債となると考えられます。」(同書p161) としている。このように、収益事業に係る資産と負債ではなく、法人全体の資産と負債と考えるのならば、控除する利益積立金額は、[2]の収益事業課税移行後時点で、[1]の全所得課税時代の課税済利益積立金額も引き継がれ、控除することとなると考えるのが当然である。そうなれば、1,040-1,040=0で課税が生じず、穏当な結論となる。 《3》 社会医療法人移行後の別表5(1)記載方法 上述のとおり、移行時の別表5(1)期首は、普通法人時代のものをリセットするのではなく、それをそのまま引き継いだ上で、新たに収益事業課税分の利益積立金額をゼロからカウントするという、言わば利益積立金額の新旧二重構造になると考える。 実際の記入に際しては、移行時残高が残っていることが明確になるよう、区分欄で記入しておくことが望ましいだろう。 《4》 収益事業と非収益事業との区分に誤りがあった場合の税務調整 本論から外れるが、税務調査で、過年度処理した収益事業と非収益事業との区分に誤りが判明した場合の税務調整についても悩ましいところがあるので、ここで触れておきたい。 収益事業課税時代の過年度に処理した収益事業と非収益事業との区分に誤りが判明した場合、例えば、保健予防活動収益が収益事業だと思って申告していたところ、非収益事業であることが判明した場合である。 つまり、ここでは、まず、過年度の収益事業課税の申告書を更正・修正することとなるが、その際の調整は、社外流出処理ではなく、留保金額の調整であることに留意したい。収益事業だけが課税され、非収益事業は課税の対象外であるため、一見、別表4社外流出処理で調整してしまってよいようにも思える。 しかし、ここでは両者の区分だけでなく、会計と税務との区分の期ズレ問題をも含んでいる。よって、一旦留保で処理した上で、収益事業会計の前期損益修正損益計上時に期ズレ解消させることで対応させることになる。 つまり、ここでは、まず、過年度の収益事業の申告書を更正・修正することとなるが、その際には留保金額の調整である(社外流出処理ではない)ことに留意したい。 この場合、相手科目は、例えば、収益事業純資産・非収益事業純資産などとして別表5(1)に記載することが考えられる。 (認容期の処理) 【収益事業会計】 (了)
-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。 税効果会計を学ぶ 【第14回】 「その他有価証券の 評価差額の取扱い②」 公認会計士 阿部 光成 前回に続き、その他有価証券の評価差額に係る税効果会計の取扱いについては、「税効果会計に関するQ&A」(以下「税効果Q&A」という)にも規定がある。 税効果Q&AのQ3は、過年度にその他有価証券の減損処理を実施し(税務上は有税処理)、その後、時価が上昇しその他有価証券評価差額金(評価差益)が発生した場合の税効果会計の適用について述べている。 そこで今回は、このQ3について取り上げることとする。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 税効果Q&AのQ3の基本的な考え方 税効果Q&AのQ3では、次の前提条件において、税効果会計の取扱いを示している。 税効果会計は資産負債法を採用しており、貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額を「一時差異」と定義し、当該一時差異について繰延税金資産又は繰延税金負債を認識する会計処理である(「税効果会計に係る会計基準の設定に関する意見書」Ⅲ、1、「税効果会計に係る会計基準」第二、一、2、第二、二、1)。 税効果Q&AのQ3は資産負債法の考え方で整理しており、設例における減損処理したその他有価証券に係る当期末の将来減算一時差異は、会計上の簿価(貸借対照表価額)600と税務上の簿価1,000との差額である400となる。 この数値の関係については、資産負債法で考えて、減損処理により生じた将来減算一時差異600と、その後の時価上昇に伴う将来減算一時差異200の戻入という関係で整理されている。 つまり、一時差異が同一の有価証券から生じているため、減損処理後の時価上昇に伴い発生する評価差益は、将来加算一時差異ではなく、将来減算一時差異の戻入という整理である。 Ⅱ 会計処理 前述のように整理すると、過年度にその他有価証券の減損処理(税務上は有税処理)を実施し、減損処理後に、その銘柄の時価が上昇して、その他有価証券評価差額金(評価差益)が発生した場合には、期末における時価の回復が減損前の価額に達するまでは、次のように取り扱うことになる。 1 投資有価証券の減損処理に関して、前期に繰延税金資産を計上していたケース ① 前期末 ② 当期 2 投資有価証券の減損処理に関して、前期に繰延税金資産を計上しなかったが、当期に繰延税金資産を計上できると判断されたケース ① 前期末 ② 当期 3 投資有価証券の減損処理に関して、前期に繰延税金資産を計上しなかったが、当期も繰延税金資産を計上できないと判断されたケース ① 前期末 ② 当期 4 その他の留意点 税効果Q&AのQ3は、「その他有価証券の評価差額及び固定資産の減損損失に係る税効果会計の適用における監査上の取扱い」(監査委員会報告第70号)に従い、その他有価証券の評価差額を評価差益と評価差損とに区分せず、各合計額を相殺した後の純額の評価差益又は評価差損について税効果会計を一括して適用することができるが、減損処理したその他有価証券に関しては、個別の銘柄ごとにスケジューリングを行うことが必要になるため、それ以外のその他有価証券に係る評価差額と一括して税効果会計を適用することはできないと考えられると述べている。 このため、前期以前に減損処理したその他有価証券については、原則どおり、減損処理後の株価の変動を踏まえて、個々の銘柄ごとに税効果会計を適用することになると述べている。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第13回】 棚卸資産会計③ 「棚卸資産評価の会計処理」 -正常な営業循環過程から外れた棚卸資産 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 〈事例による解説〉 期末に正常な営業循環過程から外れた滞留在庫(帳簿価額1,000)がある。また、この滞留在庫は売却することが難しい状況で、近年においても販売実績はない。さらに、今後も販売できないと予測されることから、当該在庫は処分する方針である。 〈会計処理〉 〈会計処理の解説〉 正常な営業循環過程から外れた滞留又は処分見込等の在庫は、販売実績が乏しく、期末日前後の正味売却価額を把握することができないと考えられます。 そのため、このような在庫は、帳簿価額を正味売却価額まで切り下げるのではなく、以下の2つの方法により収益性の低下の事実を適切に財務諸表に反映するように会計処理します(棚卸資産の評価に関する会計基準9項)。 上記(1)の方法は、例えば、在庫自体が物質的に劣化しており、今後、販売できる見込みがなく、処分することしかできない場合等に採用することが考えられます。 一方(2)の方法は、例えば、商品のライフサイクルが短く、一定の期間を超えると、販売可能ではあるものの、市場価格が下がることにより、値引きしないと販売することが困難な場合等に採用することが考えられます。 (2)の方法では、例えば以下のように、正常な営業循環過程から外れた在庫について、それぞれの会社が独自で、その実態を適切に財務諸表に反映させるように在庫評価のルールを定め、評価損を計上します。 本事例の正常な営業循環過程から外れた滞留在庫は、売却することが難しい状況であり、近年においても販売実績がないことから、正味売却価額を把握することができません。 そのため、前回解説した棚卸資産会計②「棚卸資産評価の会計処理-収益性の低下による簿価切下げ」と同様の会計処理を行うことはできないため、上記の(1)又は(2)の方法により帳簿価額を切り下げることになります。 本事例では、売却すること自体が難しく、さらに今後も販売することができない(在庫の販売により得られる収入はない)と予測されていることから、在庫を処分する方針であるため、(2)ではなく、(1)の方法により、「一度に」帳簿価額を切り下げる方が、収益性の低下の事実を適切に財務諸表に反映することができると考えられます。 なお、本事例で(2)の方法を採用した場合、会社の定めたルールによっては、一定期間、在庫が財務諸表に計上されるため、販売により得られる収入がないにもかかわらず、在庫が財務諸表に計上されてしまいます。したがって、(2)の方法よりも(1)の方法の方が、在庫の評価方法として適切であると考えられます。 以上から、本事例では(1)の方法により備忘価額(1円)まで、帳簿価額を切り下げています。なお、備忘価額を残さず、当該在庫の評価を0円まで切り下げることも妥当な会計処理です。 本事例の棚卸資産評価損も前回同様、原則、売上原価(又は製造原価)として計上します。 ただし、正常な営業循環過程から外れた原因が、臨時の事象(例えば、重要な事業部門の廃止、災害損失の発生等)によるものであり、かつ評価損の金額が多額である場合には、特別損失に計上することができます(棚卸資産の評価に関する会計基準17項)。 (了) ※8月はソフトウェア会計を取り上げます。
長時間労働と労災適用 【第3回】 「安全配慮義務違反をめぐる裁判例」 特定社会保険労務士 大東 恵子 労働安全衛生法は、労働基準法と相まって、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を形成することを目的として定められている。 企業は労働災害を防止するために、法で定められた最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境を作り、労働条件を改善することで、労働者の安全と健康を守らなければならない。 《事例1》 電通事件 【概要】 A氏は24歳で電通に入社し、ラジオ局に配属され企画立案等の業務に携わっていたが、長時間残業・深夜勤務・休日出勤等の過重労働が続いた結果、うつ病になり、自宅で自殺した。 【結論】 以下の内容で合意に至った。 《事例2》 システムコンサルタント事件 【概要】 B氏(33歳)はソフト開発会社でSEとしての業務に従事していた。 入社以来、年間総労働時間は平均して約3,000時間近くに達していた。 B氏は就任してから死亡するまでの約1年間、プロジェクトリーダーとしてプロジェクトの進捗管理、要因管理、品質管理及び発注元及び協力会社との調整作業にあたっていた。 クライアントと作業者の間での板挟み状態の中、労働時間だけでなく、精神的負荷まで強いられていた。 その後、B氏は自宅で倒れ、脳幹部出血により死亡した。 【結論】 安全配慮義務を尽くさなかった債務不履行がある旨主張し、逸失利益、慰謝料等の損害賠償を求められ、3,200万円の損害賠償責任となった。 労働基準監督署が労災認定した場合、被災した従業員又はその遺族に対して、労災保険から、治療費、休業補償、あるいは遺族への保障など一定の給付が支払われる。 この場合、労災保険から受けた給付は、損害補填とみなされ、その給付は損害賠償額から差し引かれる。 しかし、損害賠償請求では、逸失利益、葬儀代金、慰謝料など全損害の賠償を求めることができるのに対して、労災保険からの給付で賄えるものはそのうちの一部に限られるため、企業が負う損害賠償リスクが膨大であることに変わりはない。 〈労災差額リスクの具体例〉 35歳(被扶養家族2人)、年収500万円の従業員が死亡した場合 (了)
〔税理士・会計士が知っておくべき〕 情報システムと情報セキュリティ 【第5回】 「IT監査の基礎的な理解」 公認会計士 中原 國尋 IT監査の目的・意義 「IT監査」という用語はしばしば利用されているものの、その意味するところについて明確に説明することは難しい。 IT監査は、何の目的で行われることが多いのだろうか。 ITは情報技術(Information Technology)であり、コンピュータを用いて情報処理を行う一連の仕組みを指す。組織における業務では、現業からバックオフィスに至るまで何らかの形でITを用いている場合が多く、今や組織活動においてITは不可欠な存在である。 そのようなITが、突然使えなくなってしまったら? あるいは、処理の方法が間違ってしまっていたら? 業務処理に与える影響は大きくなる一方である。 そこで、ITを用いた情報システムが行う処理が正確なのか、ITが継続的に利用可能な状況にあるのか、などについて独立的な立場で評価を行うことで不意なトラブルを事前に防ぐことなどを目的に、IT監査は実施されることが多い。 このように、ITの維持管理からITを用いた業務処理の方法に至るまで、IT監査が対象とする領域は広い。そのため、目的に応じて様々な観点でIT監査が行われることが一般的である。 主な観点は次の3つに整理される。 (3) は、ITを用いた情報システムを対象にしたものではないが、電子データを用いて様々な検証を行うことによって、監査の有効性や効率性を高めることができる手段になり得るため、近年ではIT監査の1つとして説明されることもある。 (1) ITを用いた情報システムが継続的に稼働し続けられること 会計システムをはじめとした情報システムは一般に、サーバと呼ばれるコンピュータで稼動しており、それら情報システムに対してネットワークを介して接続し利用されている。このように業務で利用されている情報システムは、情報システム部門等によって管理され、メンテナンスが行われている。 情報システム部門がどのように管理することによって情報システムの利用可能性を維持しているのか、という観点での監査を行うことにより、情報システムが業務において不都合なく利用できるように運営されていることを検証することができる。 ところで、情報システムの管理を全般的に監査対象とする場合、例えば次の3つの分野に大きく分けることができる。 すなわち、ITを用いた情報システムが継続的に稼働できる状況にあるのかという観点での監査は、情報システム部門が日々の業務をどのように行っているかについての視点が比較的大きいことが見て取れる。一方、情報セキュリティについては、昨今では情報システム部門だけでは対応できないケースも多くなっているため、専門の部署が設置されているケースが増加傾向にある。 このように、情報を管理・運営する部門及びその担当者が、どのような意識・視点で日々の業務を行っているのかに対する評価によって、ITを利用した情報システムが継続的に利用可能な体制にあるのか判断することが可能になるのである。 (2) ITを用いた情報システムが適切な処理を行っていること 情報システムを(1)のように全般的に評価することは、全体的な管理水準の評価には繋がるが、情報システムの個別の処理が正確に行われていることを直接的に検証するわけではない。情報システムの処理の正確性を検証することも、IT監査の目的の1つである。 例えば、自動化された債権消込みの処理や、月末在庫の評価額の算定、固定資産の減価償却計算、業務システムと会計システムとの連携などについて、個別の機能を明らかにし、処理の正確性を検証することが想定される。 特に、情報システムから出力された情報の正確性の検証が通常行われているケースはそれほど多くないと思われるが、設定条件があるべき定義とは異なること等を理由にして、本来出力されるべき情報と異なった情報が出力されている可能性は否定できない。出力帳票に基づいて、経営意思決定を行い、開示情報を作成することを想定すれば、重要な出力帳票については第三者たる監査人が検証することが望まれる。 (3) データを用いて検証を行うこと 例えば、情報システムで保持しているデータを入手し、あるべき処理をした結果を情報システムの処理結果と照合することで取引記録を対象にした分析を行うことにより、直接的に情報システムの処理の正確性を検証することができる。 データを用いて監査手続を適用することをCAAT(Computer Assisted Audit Techniques:コンピュータ利用監査技法)といい、内部統制の有効性検証や実証的検証、処理の正確性検証などに用いられている。CAATを効果的に利用することによって、検証手続の有効性や効率性の向上が見込まれている。 データを用いて検証を行うことで、特定の取引の一部ではなく、取引全体を対象に網羅的に検証することも可能になる。そのため、不正の兆候や、不正が行われた履歴を発見することが可能な場合もある。 このように、データを用いて検証を行うIT監査は監査手続を適用するための技法の1つであるが、情報技術の進展と、情報システムの高度化に伴い、採用される局面が増加している。 まとめ これまで述べたように、IT監査は目的や対象によって複数の観点で行われる。 IT監査は抽象的な表現であるため、IT監査を行うときに、何を目的としてどのような検証を行うことが最も必要性が高いのかを適切に判断し、実施することが求められる。 データを用いた検証はIT監査の1つと考えられるが、必ずしも情報システムの管理体制や処理方法を監査対象にしているわけではなく、適用範囲は非常に広い。 そのため、監査に携わる人もそうでない人も、データを用いた検証の技術を習得することはスキルアップにもつながると考えられる。 (了)