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〔形態別〕雇用契約書の作り方 【第4回】「契約社員の雇用契約書」

〔形態別〕雇用契約書の作り方 【第4回】 「契約社員の雇用契約書」   社会保険労務士 真下 俊明   契約社員の定義 前回はパートタイマーの雇用契約書について記述したが、パートタイマーを雇う際には、契約期間を限定する(有期雇用契約)場合が多いのではないだろうか。 そこで今回は、有期雇用の社員(フルタイム・パートタイムとも)の雇用契約書について解説したい。 一般的には「契約期間の定めのある従業員」を契約社員というが、法的な定義があるわけではない。 雇用期間を区切って雇用契約を交わす場合は、主に以下のようなケースが考えられる。 フルタイム勤務だが契約期間を限定しているケース パートタイマーを契約期間を定めて雇用し、更新を繰り返すケース 新規に雇い入れた社員を試用期間の何ヶ月かを有期契約で雇うケース 定年退職後の再雇用 どのケースでも共通する、期間を定めた雇用契約書を作るうえでのポイント・注意点を以下に説明する。   雇用契約書作成のポイント 〈ポイントⅠ〉について 有期雇用契約における契約期間は、原則3年を超えることはできない。これは、長期の契約により労働者を不当に拘束することを避けるためである。 ただし、システムエンジニアなど専門的な知識を有する者との契約(最長5年)や、建設工事など一定の事業のための契約(必要な期間)など、いくつか例外もある。 一方、パートタイマーに対しては、短期契約を繰り返しているケースも見受けられるが、必要以上に短い期間を設定することは、労働者保護の観点からも望ましいことではない。   〈ポイントⅡ〉について 有期契約により雇う者に対しては、契約締結時に、次の2つの事項を明示する必要がある(今年4月より書面での明示が義務化される)。 上記2つの事項を雇用契約書に明示する際の記載例を挙げると、以下のようになる。 上記「② 契約更新の判断基準」については、できるだけ労働者が自ら判断しやすい客観的な表現が望ましい。 有期雇用契約については、雇止め(更新しないこと)についても注意が必要だが、ここでは割愛する。 ちなみに、雇用契約期間途中の解雇は、「やむを得ない事由」がなければできない。労働者からの退職申出も「やむを得ない事由」がある場合に限られる。 しかし、契約期間の初日から1年経過すれば、退職の申出をすれば退職することができる(上限期間が3年の場合)。 以下に、有期契約社員の雇用契約書のひな型の一部(抜粋)を掲載する。   〔有期契約社員の雇用契約書(ひな型)の一部(抜粋)〕   雇用契約を交わす意義 以上、本連載では4回にわたり雇用契約書の説明をしてきたが、雇用契約を交わすときに大事なのは、会社がその社員に期待することを書面で明示することである。 法的に義務付けられているいないにかかわらず、会社と社員のベクトルを合わせるためのツールとして、前向きに活用することをお勧めする。 (連載了)

#No. 8(掲載号)
#真下 俊明
2013/02/28

誤りやすい[給与計算]事例解説〈第8回〉 【事例⑪】死亡退職の場合の源泉徴収 ・ 【事例⑫】アルバイトの少額給与

誤りやすい [給与計算] 事例解説 〈第8回〉   税理士・社会保険労務士  安田 大   (4 控除額の計算―源泉所得税) 【事例⑪】―死亡退職の場合の源泉徴収― 〔正しい処理〕 〔解   説〕 1 死亡した人の給料 死亡した人の給料で、死亡日後に支払日の到来するものについては、遺族に対して支払われるものであり、所得税は課税されないため、源泉徴収は行わない。なお、その給料については、遺族に対する相続税の課税対象とされる。 なお、死亡した人の給与で、死亡日以前に支給日が到来しているもの(支給日当日に死亡した場合を含む)については、所得税の課税対象となり、源泉徴収が必要となる。 2 年末調整 年の中途で死亡退職した場合には、その時点で年末調整を行う必要がある。事例の場合には、1月以降7月25日支給分までの給与(賞与)を対象に年末調整を行うことになる。   【事例⑫】―アルバイトの少額給与― 〔正しい処理〕 〔解   説〕 1 源泉徴収税額表の適用 源泉徴収税額表には、月額表と日額表があり、日額表は、日払いや週払いの場合に使用し、月額表は、月払いの場合に使用することになる。 次に、月額表には、甲欄と乙欄があり、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」が提出されている場合には甲欄を、提出されていない場合には乙欄を使用することになる。 2 扶養控除等申告書の提出 給与の支払いを受ける者は、その年の最初に給与等の支払いを受ける日の前日までに、扶養控除等申告書に扶養親族等の状況を記載し、提出しなければならないことになっている。 同時に2ヶ所以上から給与の支払いを受ける場合には、原則としてそのうち1ヶ所(主たる給与の支払者)にしか提出できないので、注意する必要がある。 なお、控除対象配偶者や扶養親族がいない場合でも、扶養控除等申告書を提出する必要がある。 3 事例の場合の源泉徴収 事例の場合において、扶養控除等申告書が提出されていなければ、月額表乙欄を適用することになるので、源泉徴収税額(月額8万円の場合、2,450円)が発生することになり、源泉徴収が必要である。 その学生が、同時期に他で給与所得を得ていなければ、扶養控除等申告書を提出することによって月額表甲欄適用され、扶養親族等の数が0人であっても、月額8万円であれば源泉徴収税額が発生しないことになる。 (了)

#No. 8(掲載号)
#安田 大
2013/02/28

事例で学ぶ内部統制【第12回】「運用評価のサンプルの対象期間とサンプル件数の工夫」

事例で学ぶ内部統制 【第12回】 「運用評価のサンプルの対象期間と サンプル件数の工夫」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 今回は、PLCの運用評価のサンプルの対象期間とサンプル件数の工夫を取り上げる。 筆者(株式会社スタンダード機構)主催の実務家交流会では、運用評価のサンプルの対象期間とサンプル件数について監査法人が求める要請に応えながら、社内の実情に応じて運用評価を有効かつ効率的に行うため、どのように対応しているかについて意見交換を行った。 各社の創意工夫を見てみよう。   サンプルの対象期間 まず、議論を整理するため、サンプルの対象期間の意義を確認したい。 実施基準によれば、経営者による内部統制の有効性の評価は、期末日を評価時点として行うことになっている。監査法人による内部統制監査も、期末日における内部統制の有効性の評価について意見表明することで、経営者評価に平仄を合わせている。 つまるところ、経営者評価も内部統制監査の意見表明も、その対象は期末日を含む一会計期間のすべてのコントロール母集団となる。 しかし、期末日にすべての運用評価を行うことは不可能なので、期中の適切な時期を決め、その期間に属するコントロールから一定のサンプルを抽出し、運用評価を行うのが実務である。 このようにサンプルの対象期間とは、運用評価を行うために抽出するサンプルが属する母集団の期間をいう。   サンプルの対象期間の事例 では、各社はサンプルの対象期間をどのように設定しているのだろうか。 参加企業が3月決算、一会計期間で200件以上日常反復継続的に発生する取引に対する運用評価と仮定して話を進める。 参加企業Aは、「4月から9月までの間の3ヶ月分をサンプルの対象期間として、上期に運用評価を終えている」(航空会社)と話した。 参加企業Bは、「当初はA社さんと同じ3ヶ月分だったが、過年度の内部統制の評価結果が良好な状態が続いたので、監査法人と協議し、3ヶ月分から2ヶ月分に短縮した」(商社)と話した。 他方、参加企業Cは、「4月から9月までの間の2ヶ月分をサンプルの対象期間としているが、実際に運用評価を行うのは、その取引が完了する下期にしている。評価される部門から、取引が継続中の上期に証憑を提出したり、コピーしたりするのは、日常業務の妨げになるという意見が出たので、運用評価のスケジュールをずらした」(商社)と話した。 これに対して、参加企業Dは、「皆さんの話に驚いている。わが社のサンプルの対象期間は、4月から12月までの9ヶ月分であり、皆さんと比べて圧倒的に長い。監査法人が、できるだけ期末に近い時期までサンプルの対象期間を延ばすことを求めてきたからだ。わが社も、皆さんと同じように、サンプルの対象期間を上期で短くしたいが、監査法人が認めてくれない。皆さんの会社の監査法人の姿勢を聞きたい」(情報通信)と、自社と他社の現状に大きな乖離を発見し質問を投げかけた。 これに対して、複数の参加企業は、「制度が始まった当初は、監査法人の保守的な姿勢がサンプルの対象期間にも響いていて、期末に近いサンプルを要求された。当時は、運用評価の結果、不備が多発し、それを是正するため、期末までに業務改善しコントロールを頻繁に変えた。制度が5年目を迎えて、不備の数が少なくなってくると、必ずしも期末に近い下期でなくても、上期からサンプルの対象期間を設けることを承認し始めた。内部統制が良好という心証を持ったのかもしれない」と、過去の複数年度の運用評価の結果に裏書されたコントロールの安定性が、サンプルの対象期間を決める重要な要素になっているとの見解を示した。   サンプル件数の事例 では、サンプル件数については、各社どのようになっているのだろうか。 議論に入る前に、押さえておくべき基礎がある。 実施基準では、日常反復継続的に発生する取引について、アサーション毎に少なくとも25件のサンプルを取ることが例示されている。 このサンプル件数は、全社レベルの内部統制(ELC)が有効であり、母集団の中に存在すると予想される内部統制からの逸脱率(予想誤謬率)が0%だろうとの前提が成り立つときに、監査人が受け入れることのできる所定の内部統制からの逸脱率(許容誤謬率)を9%、サンプリングの信頼度を90%とした場合に統計的サンプリングから導かれる。 もしELCに不備があり、プロセスレベルでその母集団の中に内部統制の大きな逸脱が予想される場合、予想誤謬率が上昇するため、サンプル件数の拡大を検討する。 今回は、参加企業のELCがいずれも有効であったので、企業全体としては内部統制の大きな逸脱はなく予想誤謬率が0%であることを前提に、PLCの運用評価のサンプル件数の実態を意見交換した。 前出の参加企業Aが、「日常反復継続的に発生する取引について25件のサンプルを取っている。これより減らすことはできていない。抽出方法は、あらかじめ決めたサンプルの対象期間から無作為に取っている」と報告し、他のすべての参加企業がこれに一致した。 ただ、前出の参加企業Dは、「4月から12月までの9ヶ月のサンプルの対象期間を4月から9月までの1回目の運用評価期間と10月から12月までの2回目の再運用評価期間に区切り、1回目の母集団から17件、2回目の母集団から8件、合計で25件を抽出している。1回目も2回目も各期間の母集団からランダムに抽出するため、手間も2回分かかる感覚だ」と、サンプル抽出の方法を工夫していた。 これに対して、複数の参加企業が、「母集団を2つに分けるなら、各母集団から25件のサンプルを抽出しなければ各母集団を推定することができないのではないか」と疑問を投げかけた。 この疑問に対し、参加企業Dは、「二項分布を前提にした統計学を厳格に適用すればそうかもしれないが、その場合、年間サンプル件数は合計50件となり、同じ程度の心証形成に必要な証明としては理論的にかえって過剰となる。9ヶ月という通常の2倍以上のサンプルの対象期間が要請されている代わりに、各母集団から抽出するサンプル件数を減らして、業務負荷が増えないようにしたいと監査法人と交渉した」と答えた。   日常反復継続的に発生する取引以外の取引のサンプル件数 では、日常反復継続的に発生する取引以外の取引のサンプル件数はどうだろうか。 参加企業Eは、「週次、月次、四半期、年次などの頻度に従い、監査法人と協議して、適切なサンプル数を決定した」(部品メーカー)と話した。 まとめて表すと、次のとおりである。 参加企業Fは、「月次が2件でなく3件抽出しているが、特段の理由はないと思うので、減らすことを検討したい」(運輸)と、次のようなサンプル件数を報告した。 参加企業Gは、「週次が6件で他社さんより多いが、四半期次は1件で済んでいる」(商社)と、次のようなサンプル件数を報告した。 このように、日常反復継続的に発生する取引に比べて、サンプル件数に企業間のバラツキが目立った。 次回は、運用評価でエラーが発生した場合の再評価の対応の工夫について取り上げる。 (了)

#No. 8(掲載号)
#島 紀彦
2013/02/28

資産の海外移転をめぐる シンガポール最新事情【第4回】─富裕層はテイラーメイド型の資産運用─

資産の海外移転をめぐる シンガポール最新事情 【第4回】 ─富裕層はテイラーメイド型の資産運用─   Advance Business Support Pte. Ltd. 代表 大曽根 貴子    ■富裕層の投資術 普通の人は、資産を増やすために資産を運用する。 一方、富裕層は、次の世代に資産を繋げるため、資産保全のために投資をする。 これが、普通の人と富裕層との違いである。 普通の人は銀行預金、不動産、有価証券など、銀行や証券会社が販売しているパッケージ型の金融資産に投資する。 富裕層は、プライベートバンクやファミリーオフィスを利用し、テイラーメイド型の資産運用により資産を次の世代へ承継する。   ■プライベートバンクとは プライベートバンクとは、富裕層や機関投資家向けに資産の管理を包括的に行う金融機関である。ウェルスマネジメントともいう。 プライベートバンクに口座を開設する際の最低額は、金融機関によって異なるが、1億円(100万USドル)~3億円(300万USドル)程度が多い。 プライベートバンクは、クライアントの投資スタンスに基づいたポートフォリオを作成し、投資アドバイスを行う。 普通の人がアクセスできない投資機会を提供することで、富裕層はさらに有利に資産を増やすことが可能である。 またプライベートバンクは、投資アドバイスのみならず、税金や法律に関する専門家の紹介、住宅や教育に関する相談などにも応じている。 クライアントのニーズに応じ、柔軟できめ細やかな対応をするコンシェルジュのような存在である。 シンガポールのプライベートバンクでは、日本人富裕層のためにジャパン・デスクを設置しているところもある。 ここ数年で新たにジャパン・デスクを設置した金融機関や、日本人や日本語スピーカーを増員した金融機関が多い。 あるプライベートバンカーによれば、5年前は1月に数人程度の訪問者だったが、最近は毎月50名以上の訪問者がいるという。 シンガポールに資産を移転する日本人は、明らかに増えている。   ■ファミリーオフィスとは アメリカの産業が発達した19世紀初頭に誕生したファミリーオフィスは、ロックフェラーやカーネギー等の事業に成功した一族の資産を保全し、次世代へ継承することを目的として発達した。 一族のためにアセット・マネジャー、弁護士、会計士及び税理士等の専門家チームを雇用し、資産運用及び保全、子息が受ける学校教育のアレンジ、購入する美術品や骨董品の品定めなど、ありとあらゆるサービスを提供する。 プライベートバンクは、一般的に1人のリレーションシップマネジャーが担当者として顧客とコンタクトを取り、必要に応じて専門家とチームを組み対応する。 これに対し、ファミリーオフィスは、専門家チームがその一族のためだけに専属で従事する。 ファミリーオフィスを雇っているのは、金融資産200億円(2億USドル)超の超富裕層である。   ■シンガポールのプライベートバンクを利用する利点と注意点 シンガポールのプライベートバンクは、金融商品取引法の適用対象外である。 そのため日本のプライベートバンクと比べると商品力が高く、ハイリスク・ハイリターンの商品を購入することも可能である。 例えば、日本では取り扱うことができない不良債権ファンド、生命保険証券取引、融資付き生命保険などが購入できる。 シンガポールはキャピタルゲイン、インカムゲインが非課税である。 BVI(ブリティッシュ・バージン・アイランド)などのタックスヘイブンを利用したスキームを組むことにより、実質無税で資産を運用することができる。 ここ数年、日本人富裕層に爆発的に売れている商品にオフショア生命保険がある。 この保険では、死亡保険金が元本の2倍以上となっており、相続税を払っても元本を維持することができる。 保険料は契約時に一括払いだが、保険を担保として借入れが可能であり、実質的な負担は少ない。 (参考) 日本の居住者がシンガポールで資産運用し、利益を出した場合、シンガポールでの税金はゼロである。 しかし、これらの利益は日本の所得税法上、課税所得に該当するため、確定申告時に申告・納税する義務がある。 日本から海外に資産を移転する目的には、資産運用と税金対策がある。 日本に比べシンガポールは、金融商品の種類が多く、金融機関の手数料は安い。また、キャピタルゲインは非課税なので、資産を増やすチャンスが日本より大きいといえる。 ただし、日本の居住者である限り、海外に資産を移転しても、その利益及び資産は所得税又は相続税の対象となるため、節税の余地は少ない。 (連載了)

#No. 8(掲載号)
#大曽根 貴子
2013/02/28

女性会計士の奮闘記 【第2話】「ピカピカの月次決算書とは?」

女性会計士の奮闘記 【第2話】 「ピカピカの月次決算書とは?」   公認会計士・税理士 小長谷 敦子     〈ワンポントアドバイス〉 お客様の声に耳を傾けて、必要があれば月次決算書に組み込みましょう。 (了)

#No. 8(掲載号)
#小長谷 敦子
2013/02/28

中国における営業税改革の概要、改革効果の検証及び展望 【第1回】

中国における営業税改革の概要、 改革効果の検証及び展望 【第1回】   有限責任監査法人トーマツ 鄭 林根   中国における一部の業種に対する営業税を増値税に移行する税制改革(以下「営業税改革」)がスタートして1年間が経過した。 以下、改革の概要と改革効果及びその展望を簡単にまとめることとする。 なお、本稿中の見解は執筆者の個人的見解であり、執筆者の所属する法人の公式見解ではない。 本稿の実際の活用にあたっては、専門家と相談のうえ実行することを強く推奨する。   1 営業税改革のスタートと概要 2011年10月26日付けで、国務院により上海市の交通運輸業及び一部のサービス業等において営業税改革を試験的に開始することを決定した。 この決定を受けて、財政部・国家税務総局より「営業税を増値税へ移行する試験案」(1)及び「上海市における交通運輸業と一部の近代サービス業に対する営業税を増値税へ移行する試験に関する通知」(以下「財税[2011]111号(2)」。)を公布、施行した。 (1) 2011年11月16日財政部・国家税務総局「営業税を増値税へ移行する試験案」(財税[2011]110 号)。 (2) 財税[2011]111号には「交通運輸業と一部の近代サービス業の営業税を増値税へ移行する試験実施弁法」などの3つの付則が含まれている。 これにより、2012年1月1日以降、上海市の該当業種では営業税が廃止され増値税に統一され、売上増値税から仕入増値税額が控除されることになった。 概要は以下の通りである。 (1) 適用対象 ① 上海市にある役務提供者 上海市にある課税役務を提供する企業又は個人(以下「役務提供者」)が適用対象となる。 上海市にある役務提供者とは、機構所在地が上海市にある企業、個人事業者及び上海市に居住する個人を指す。 役務提供者の所在地が上海市に所在すれば、原則、役務受益者の所在地が上海市にあるか否かにかかわらず適用対象となる。上海市の役務提供者が上海市以外で役務を提供した場合には、その提供地で営業税を納付し、上海で増値税納付時に控除する。 なお、役務提供者が上海市以外の企業で、上海市の企業又は個人に対して役務を提供した場合には、当該役務提供者は、これまで通り営業税を納付する。 ② 国外にある役務提供者 国外にある企業と個人(非居住者)が上海市にある企業又は個人に対して課税役務を提供する場合も、適用対象となる。 (2) 対象となる業種、税率及び計算 対象業種及び適用税率は下記の通りであるが、詳細は「課税サービス範囲注釈」を参照。 (3) 気体、液体、固体物質の運輸役務等を指す。 (4) 設計、商標著作権譲渡、知的財産権、広告役務等 (5) 財務、税務、資産評価、法律、不動産土地評価等の鑑定認証役務等 (6) 財務、税務、法律、内部管理、業務運営、工程管理等の情報及びアドバイス等の業務活動等 (7) 2011年12月29日財政部、国家税務総局「課税サービスに増値税のゼロ税率及び免税政策を適用することに関する通知」(以下「財税「2011」131号」)によりゼロ税率の適用対象が明らかになった。   上記の業種及び税率を基に、以下の通り税額計算を行う。 増値税額=売上税額*1-仕入税額*2 *1:売上税額=売上額×適用税率    売上額(税込の場合)=税込売上額÷(1+適用税率) *2:仕入税額:物品の購入又は加工、修理補修、組立労務サービス受領時に支払い又は負担した増値税額   非居住者の外国企業と個人が中国に営業機構を有していない場合、その代理人又は役務受益者が税額を源泉徴収して納付することになる。 源泉徴収義務者が下記計算式に基づき、納税額を源泉徴収する。   2 営業税改革の背景と目的 今回の営業税改革の主な目的は、現行の間接税制における二重課税問題の解決及び構造的な減税措置を通じて、サービス業をはじめとする第三次産業の税負担を軽減する。また、分業発展を促進し、産業構造の調整を成し遂げ、雇用の創出にも寄与することである。 中国の増値税は1994年に導入されたが、経済状況・税収、徴収管理などの制約を受け、物の販売、加工・修理役務の提供及び輸入(全取引の60%相当)については課税対象とされたが、他の役務提供、無形資産の譲渡及び不動産の譲渡は対象外とされ、営業税の課税対象(全取引の40%相当)とされている。 増値税の一般納税者は売上税額から仕入税額を控除することができる。 これに対して、営業税は、原則として営業額全額に対して課税され、増値税のような仕入税額控除の仕組みはない。 この両税が並存していることにより、二重課税等の問題が生じることになる。 営業税の適用対象となると、対象業種(サービス業)の分業化が進むほど控除の仕組みがないため、価格に含まれる税コストが重なり、税負担が重くなることにより分業を阻害している。 また、増値税の納税者にとっては役務を仕入れるときに負担した営業税がコストとなり、営業税の納税者にとっては仕入れた物品を役務提供に用いる場合は、仕入れた物品に係る仕入税額を控除できないので、増値税を負担することになる。これにより、業種間の分業・提携が阻害されている。 営業税改革が全国で実施された場合、税収額が年間で1,000 億元(1元が12.5円に相当する)以上減少すると試算されているが、サービス業の税負担減、第三次産業分業発展の促進、産業構造の調整などを考え、政府は営業税改革による経済全般の発展にプラス(8)の働きをもたらすことから、営業税改革の実施を踏みきった。 (8) 国家税務総局では2009年をベースに試算すると営業税改革を実施する場合、GDPは0.5%増をもたらし、第三次産業及び生産性サービス業の付加価値はそれぞれ0.3%、0.2%増、また、社会投資が0.2%増、輸出が0.7%増、就業が70万人増をもたらすことができるという。   (了)

#No. 7(掲載号)
#鄭 林根
2013/02/21

平成25年3月期 決算・申告にあたっての留意点 【第3回】「繰越欠損金の使用制限と控除期間の延長」

平成25年3月期 決算・申告にあたっての留意点 【第3回】 「繰越欠損金の使用制限と 控除期間の延長」   アクタス税理士法人 税理士 藤田 益浩   〈欠損金の繰越控除の改正の概要〉 欠損金の繰越控除制度は、法人の各事業年度開始の日前7年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合、その欠損金額に相当する金額を、各事業年度の所得の金額を限度として損金の額に算入する制度である。 平成23年12月改正により、繰越欠損金制度の改正が行われた。その内容は大きく2つになる。 1つは、中小法人等以外の法人について、欠損金の控除限度額は、その事業年度の所得の金額の80%相当額になる点。 もう1つは、繰越欠損金(青色欠損金、災害損失金及び連結欠損金)の繰越期間が7年から9年に延長された点である。 この改正は平成24年4月1日以後開始の事業年度から適用され、間もなく決算を迎える3月決算法人においては、最初の適用事業年度となる。 改正内容についてのポイントをまとめると、次のようになる。 《欠損金の繰越控除のイメージ図》   ― 記 入 例 ― ※法人税申告書 別表七(一)より抜粋 (了)

#No. 7(掲載号)
#藤田 益浩
2013/02/21

税理士が知っておきたい e‐Tax(電子申告)最新の常識 【第2回】「手続フローとメリット・デメリット」

税理士が知っておきたい e‐Tax(電子申告)最新の常識 【第2回】 「手続フローとメリット・デメリット」   (株)よつばコンサルティング 税理士 石渡 晃子 税理士 青木 岳人   ■3 【e-Tax(イータックス)の手続フロー】   ■4 【e-Taxのメリット・デメリット】 (1) メリット (2) デメリット (了)

#No. 7(掲載号)
#石渡 晃子、青木 岳人
2013/02/21

組織再編税制における不確定概念 【第2回】「支配関係継続要件等における 『見込まれていること』とは」

組織再編税制における不確定概念 【第2回】 「支配関係継続要件等における 『見込まれていること』とは」   公認会計士 佐藤 信祐   組織再編税制における税制適格要件の判定においては、「見込まれている」という文言が散見され、支配関係継続要件、従業者引継要件、事業継続要件、主要資産等引継要件、株式継続保有要件、完全親子関係継続要件においてそれぞれ規定されている。 実務上、「見込まれている」という文言については、組織再編成時の見込みで判定することとされているが、どのようなケースについて、「見込まれている」と判断するのかという点について不確定概念が存在するため、本稿においては、「支配関係継続要件」を例に挙げて、その具体的な内容についての解説を行う。   1 支配関係継続要件の内容 組織再編税制における適格組織再編成は、適格現物分配を除き、 ① グループ内の適格組織再編成 ② 共同事業を営むための適格組織再編成 の2つに大別される。 また、①グループ内の適格組織再編成は、 (ⅰ) 100%グループ内の適格組織再編 (ⅱ) 50%超100%未満グループ内 の適格組織再編成に分けられる。 この場合における100%グループ(完全支配関係)、50%超100%未満グループ(支配関係)の判定であるが、組織再編成の直前における完全支配関係又は支配関係と、組織再編成後の完全支配関係又は支配関係の継続見込みで判定するという点に特徴がある。 しかしながら、親会社が子会社を吸収合併する場合のように、物理的に組織再編成後に発行済株式を保有する関係が継続することを要求することができない場合については、その関係が要求できる組織再編成の直前の完全支配関係又は支配関係のみを要求するという整理になる。 また、単独新設分割のように、物理的に組織再編成の直前における発行済株式を保有する関係を要求することができない場合については、その関係が要求できる組織再編成後の完全支配関係又は支配関係の継続見込みのみを要求するという整理になる。 このように、組織再編成後において、「継続することが見込まれている」ことが必要になるが、どのような場合に「見込まれている」と判断することができるのかという点が不確定概念となっている。 この点につき、「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」(日本租税研究協会)84頁において、平成12年10月11日開催分の質疑応答として、「後発事由によって企業グループ外となったときに、組織再編成時に遡って特例の適用を否認する仕組みにすることは、基本的には考えていません。但し、一定の場合には株式の継続保有期間を設けることとした方が良いとの意見もありますので、検討中です。」と記載されている。 組織再編税制は平成13年度税制改正により導入されたものであり、上記の質疑応答は組織再編税制を検討している段階のものである。すなわち、実際には、但書きにあるような株式の継続保有期間は設けられていない。 このように、完全支配関係又は支配関係の継続期間ではなく、組織再編成時の見込みで判断するという不確定概念を用いた理由としては、完全支配関係又は支配関係の継続期間で税制適格要件の判定を行ってしまうとそれを逆手に取った租税回避行為が行われるという点と、後発事象による完全支配関係又は支配関係の消滅を税制適格要件に影響させてしまうと組織再編成時の実態と異なる課税関係が構築されてしまうことを避ける点にあったと言われている。   2 実務上の留意点 それでは実際の運用はどのように行われているのかというと、東京国税局調査第一部特官付主査であった五枚橋實氏は、「租税研究2004年8月号」(日本租税研究協会)61頁において、「100%保有関係が継続するかどうかは合併等のときに判断することになり、後発事由で決まったことについては当然ですが、その合併時だとか、或いは会社分割時にはわからないことでございますので、その後発事由に係るものは、基本的に適格か非適格かには関係がないことお答えしました。」と解説されており、組織再編成時における見込みで判定することが明らかにされている。 すなわち、組織再編成の検討段階や合併契約書等の作成段階で判断するのではなく、組織再編成の日で判断するということになるため、検討段階では完全支配関係又は支配関係が継続する見込みであったけれども、組織再編成の日においては完全支配関係又は支配関係が継続することが見込まれていなかった場合には、非適格組織再編成として取り扱われることになる。 さらに、同頁において、「ここで注意していただきたいのですけれども、大きな会社になればなるほど、合併などの組織再編成というものは、株価にも影響しますし、その決定はトップが秘密交渉で決められることがあるようです。そうしますと、経理担当者としては、「そんなことは全然考えてなかったのだけど」という話があって、一夜明けたら、合併することになると、先ほど言った継続保有要件を満たさなくなってしまう場合があります。」と解説されている。 このように、会社の判断として組織再編成の日に見込まれていたかどうかという点が問題になることが明らかにされているが、実務においては、どの段階までになれば会社の判断と言えるのかという点が問題になりやすい。 すなわち、条文の解釈としては、組織再編成の日における見込みで判断するということはそれほど解釈が分かれるところではないと考えられるが、例えば、後発事象により売却が行われるような場合には、①どのレベルまでであれば「継続することが見込まれている」と言えるのか、②社内における機関決定としてどのレベルまで行われていれば「継続することが見込まれていない」と判断することになるのかが、実務においても見解が分かれるところである。 この点において、拙著『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』(稲見誠一、佐藤信祐共著、中央経済社)88頁において、「しかしながら、前述のように、譲受人が特定されていないような場合において、P社によるA社に対する完全支配関係が継続する蓋然性が高いときは、「譲渡する見込みがない」ということで差し支えないと考えられるため、①事業計画または財務戦略が、A社株式を譲渡しないという前提で立てられており、かつ、②A社株式の譲渡に係る交渉が合併後に始まったという社内文書が作成されており、これらの証拠書類が真実に基づいて作成されているのであれば、実務上、「A社株式を譲渡する見込みがあった」ものとして否認すべきではないと考えられます。」と解説した。 具体的には、組織再編成の日における確定的な事項のみで判断し、値段次第では売りたいと思っているとか、譲受人を探しているというレベルであれば、結果として、完全支配関係又は支配関係が継続しなくなったとしても、後発事象として取り扱われることになる。もちろん、譲渡ができなければ清算をするという意思があるのであれば、いずれにしても、完全支配関係又は支配関係が継続しなくなるため、非適格組織再編成として取り扱われることになろう。 このように、実務上、後発事象なのか否かについては、意思決定機関の状況、相手との交渉経緯その他の状況を総合的に勘案しておく必要があるため、何月何日にどのような社内手続、社外との交渉が行われたかどうかというのは記録に残しておく必要があるし、E-mailの受信内容、送信内容についても税務調査においては有効な証拠資料となり得る。 いずれにしても、実務上は、かなりの不確定概念の要素が含まれる内容であるという点に留意が必要になる。 (了)

#No. 7(掲載号)
#佐藤 信祐
2013/02/21

平成26年1月から施行される「国外財産調書制度」の実務と留意点【第3回】

平成26年1月から施行される 「国外財産調書制度」の実務と留意点 【第3回】   税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 (第1章 制度の概要・1-3 制度創設の背景) (3) 国外財産報告制度の実効性の裏付けとなる他制度の整備 これまで述べてきたように、国税当局にとって居住者が保有する国外財産を把握することについては、質問検査権の及ぶのが日本の領土内に限られるという制約があり、租税条約による情報交換にも限界があるという問題があった。 このままでは、居住者に国外財産報告義務を課しても、正確性をチェックする手段がないのでは実効性がなく、“画に描いた餅”にならざるを得ない。 ところが、最近のタックス・ヘイブン諸国との情報交換協定の締結の進展や、租税条約の情報交換規定の見直しによる実効性の確保の動きが目覚ましく進展したことなどにより、脱税の防止に対する国際間の協力体制が急速に整備されてきたことで、状況が変化しつつある(詳細は下記イで述べる)。 また、国外送金調書制度により、国税当局は、一般の金融機関を使って海外送金した場合には、1回の送金で100万円以上のものについては、金融機関から自動的に情報を入手できる仕組みができている。 外国に資金が出て行った後に、それがどのように使われたかは国税当局には分からないが、海外送金された事実がつかめていれば、あとは税務調査によって追跡する余地は残されており、実際に国外送金調書は国外財産に係る申告漏れを把握する端緒として顕著な活用効果を示しているようである。 また、仮に国内における調査では外国での使途が追跡しきれなくても、その仕向先の銀行口座の所在地国政府と日本政府の間で租税条約又は租税情報交換協定が締結されていれば、当該外国政府の税務当局に対して、流出した資金のその後の足取りを調査してもらうことも可能となる。 相手先を特定しない情報交換要請はできないこととされており、仕向先の銀行名しか分からない場合は情報提供要請はできないが、国外送金調書は相手先の口座名義人の名前が書いてあるので、口座の動きに関する情報提供要請をすることができる。 こうした国外送金調書の制度により、資金のフローの情報が得られるという保障があるからこそ、国外財産調書によるストックの報告制度が有効な情報となり、納税者の自主的コンプライアンスが期待できるようになったと言えるであろう。 国外送金調書の詳細については、下記のロ(次回)で述べる。 イ 政府間の情報交換制度の発展 租税条約の正式名称が「二重課税の回避と脱税を防止するためのA国とB国の間の条約」となっていることにみられるように、租税条約は脱税を防止することを1つの目的としており、そのために情報交換に関する規定を盛り込んでいる。 我が国の租税条約も、すべての条約で情報交換規定がある。 情報交換規定が実効性あるものであるためには、相手国から情報提供要請があった際に、我が国の税務当局が我が国の国民に対して質問検査権を行使し、情報を収集できることが法的に可能でなければならない。 任意ベースの情報収集しかできないのでは、相手が協力的でない場合には情報を入手することはできないため、実効性を確保できない。 しかし、実際には、自国にとって情報交換に応ずることによる明確な利益がない場合には、我が国のリソースを使って、我が国の国民に対して公権力を行使して情報提供を半ば強制することは問題があるのではないかとの意見があった。 このため、外国からの情報交換要請に応えるために、質問検査権を行使することができなかった。 また、我が国をはじめ先進諸国はタックス・ヘイブン諸国とは租税条約を結ばない方針を基本的に採用していたため、先進国の資金がタックス・ヘイブンに流出していることに対する問題意識はあったものの、そうした諸国に情報提供を積極的に求めるという動きはなかった。多くの関係者は、はじめから諦めていたと言ってもよいかもしれない。 こうした状況が変化したのは、2008年に発覚した2つの国際的な脱税事件である※1。 ※1 米国上院スタッフレポート「Tax haven banks and U.S. tax compliance」(2008年7月17日)   1つは2008年2月にリヒテンシュタインの王室が所有するLGT(リヒテンシュタイン・グローバル・トラスト)銀行の元従業員が、1,400名の顧客情報を外国情報機関に売り渡した事件である。 ドイツ税務当局は、このうち600件から700件の自国納税者関連の口座情報を500万ユーロで購入した。そして、税務調査を行った結果、その中の1つが、ドイツの有名企業のトップが複数の口座を用いて100万ユーロの脱税を行っていたとして逮捕される事件に発展した。 我が国でもドイツ当局から提供された情報により、某私立大学の元総長の相続に関係して15億円の相続財産の申告漏れの指摘につながっている※2。米国IRS、イタリア、フランス、スペイン、豪州当局も、同様に口座情報に基づく調査を行ったようである。 ※2 日本経済新聞2010年11月4日   もう1つは、UBS AG事件である。2007年までUBS銀行の行員であったBradley Birkenfeldが、上院調査局の職員に対して、UBSの行員であったときに米国市民である顧客との取引に関係した広範囲に及ぶ問題について情報を宣誓供述したという事件である。 その後Birkenfeldは2008年に、顧客であった米国市民Igor Olenicoffと共謀して2億ドルの資産をオフショア口座に隠し、7.2百万ドルの税を免れたとの容疑で米国に逮捕さた。 議会の調査に対してUBSは約20,000件、金額にして179億ドルの米国市民である顧客の口座を管理しており、そのうち約19,000件がQI(適格仲介)制度による報告をしていないUndeclared accountであると認めた。 その後、米国課税当局がUBS銀行に対してすべての米国人顧客の情報開示を求めるJohn Doeサモンズ(名宛人氏名を特定しない召喚状)の発行をフロリダ州の地方裁判所に訴えて認められた。召喚状は発行されたが、UBSは顧客情報を開示することはスイスの法律で禁止されているとして拒否したため、その執行をめぐって米国政府とスイス政府の間の外交交渉が行われた。 最終的には2010年に米国とスイスとの間の租税条約を改正し、スイスが米国に米国人顧客の情報を提供する形で決着した。 UBSは2009年に刑事訴追を免れる見返りとして、4,000人分以上の口座名義者情報をIRSに提供し、和解金として7憶8,000万ドルを支払った※3。 ※3  New York Times, 2012年9月11日‘Whistle-Blower Awarded $104 Million by I.R.S.’   Birkenfeldは40ヶ月の禁固刑に処せられたが、IRSは内国歳入法7623条に基づいて、情報提供者に対する報奨金として、Birkenfeldに1憶400万ドルを支払うことを決定している。 UBSから口座情報の提供を受けた後、IRSは調査を開始する前に、米国市民が国外財産の開示漏れがあることを認めた場合にはペナルティを軽減するとのタックス・アムネスティ・プログラムを発表した。IRSの発表によれば、この結果33,000人以上が未報告の国外財産を保有していることを認め、修正申告とペナルティにより50億ドル以上の税収が上がった※4。 ※4 Wall Street Journal, 2012年9月11日 ‘Whistleblower Gets $104 Million’   こうした動きと並行して、OECDの租税委員会において、情報交換に関する「国際的に合意された租税基準」と呼ばれる新しい情報交換の基準が形成された。 その特徴は、 である。 このような新基準が国際社会に受容された背景には、さらに2008年秋以降、リーマンショックに端を発した世界的な金融危機が発生し、金融システムの安定化などの観点からも、不透明な資金の流れが国際社会の中で問題視されるようになったことがあった。 2009年4月に開催されたG20サミットにおいて「銀行機密の時代は終わった」との宣言が発せられ、その後、OECD新基準による情報交換規定の見直しや、タックス・ヘイブン国との間の多数の情報交換協定が締結されるに至っている。 我が国も、主として2005年以降の租税条約の新規の締結・既存条約の改正において、情報交換に際しての、自国の課税利益による制限の撤廃及び金融機関保有情報へのアクセス、という点を明記するようになっている。また、バミューダ、バハマ、ケイマン諸島、マン島、ジャージー、ガーンジー、リヒテンシュタイン※5といったタックス・ヘイブン国との間で、情報交換協定を締結している。 ※5 サモア独立国との情報交換協定は2012年9月4日に基本合意に達している。   したがって、我が国において調査を行った結果、これらの国に所在する金融機関や会社との間での送金や取引の内容について不審な点があれば、相手国の税務当局に対して、疑問点の解明するための情報収集を要請することができるようになっている。 スイスも以前は銀行秘密を盾に銀行口座情報は提供しなかったが、以上に述べたような国際的な動きの中で方針転換を余儀なくされ、租税条約改正に応じるようになった。 その結果、日本との条約も改正され、日本の課税当局がスイス税務当局に対して、日本の納税者のスイスにある銀行口座の情報を要請することも可能となっている。日本・スイス間の租税条約を改正する議定書は2011年12月1日に発効しており※6、改正後の規定による情報の交換は、2012年1月1日以後に開始する各課税年度について認められることとなっている。 ※6 http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/press_release/sy231201sw_1.htm   (了)

#No. 7(掲載号)
#小林 正彦
2013/02/21
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