「なんにしましょうか」 「メニューあります?」 「メニューはないんですよ。こっちがスコッチで、こっちがバーボンです」 私はバックバーの酒が並ぶ真ん中ぐらいで手をささっと振る。 輸入洋酒はすぐに値上がりするのと、酒の種類も入れ替えるので書き換えが面倒になりメニューはやめた。 「じゃあ、ジャック・ダニエルをロックで」 「会社はご近所ですか」 新顔の客には、だいたいこのセリフを使う。客の緊張を解すつもりで話し掛けている。 「近いですね。すぐそこですよ」 「お仕事は何屋さんで」 客が応えたその後にこれを続ける。 「え、まあ、普通のサラリーマンですよ」 客は「詮索好きなヤツだな」と続くせりふを飲み込んでいる。 私はここまでのやり取りで、話して面白い相手かどうかも探っている。今夜最初の客はあまり面白い人ではなさそうだ。 「なにか聴きたいのありますか」 「いえ、ジャズはあまり詳しくないんで」 「じゃあ、マイルスのカインド・オブ・ブルーでもかけますか」 CDを交換していると、石さんがドイツ人2人を連れて入ってきた。続いて田中さん、会計士の本橋さん、小山田さんも会社の同僚3人と、ギターの川上くんとピアノの瞳ちゃん、奥にある小部屋を除いてほぼ満席になった。 石さんはオールド・クロウのロック+チェイサー、ドイツ人2人は銘柄は決まっていないがスコッチのシングルモルトをストレートで(ほとんどのドイツ人はウイスキーをストレートでしか飲まない)、田中さんはこの時間だとメイカーズをロックで、本橋さんは冷凍庫のタンカレーをストレート+チェイサー、小山田さんグループはボウモアのロックを4つ、川上くんはターキーのロック、瞳ちゃんはアードベックのロック。この人たちの飲むものはだいたい決まっている。 「これでいいですよね」オールド・クロウの酒ビンを右手で持ち上げながら石さんの方を見れば頷いている。以下も銘柄だけ一応確認しながらどんどん作る。全員に酒を出し終わっても「カインド・オブ・ブルー」1曲目の『ソー・ホワット』はまだ途中だった。 月末の金曜日。時刻は9時を過ぎたところ。昼間から空は晴れ、さわやかな風が吹いていた。こんな夜はぶらぶらと2軒目へ足を向けるにはもってこいで、客の多さに不思議はない。 「私は招き猫なんですよ。客が1人もいない店に私が入るとそのあとにいっぱい入ってくるんですよ」と普通のサラリーマン。 こんなことをいうヤツがよくいる。 「そうですね」と笑って答えておくが、ほとんどの店の人は(そうじゃない、おれの日々の努力の結果だ)と思っているのではないだろうか。努力などしていない私もあんたのお陰じゃないとは思ってる。 普通のサラリーマンは得意そうに微笑を浮かべている。 「あんたは普通に客が多い日に来た普通のひとだ」といいたいが我慢する。その通りにいったら来なくなったひとがいるのだ。 (了)
日本の企業税制 【第1回】 「法人税実効税率引下げへの道筋」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久 1 はじめに 法人実効税率の引下げが、にわかに現実味を帯び始めている。 10月1日に取りまとめられた与党「民間投資活性化等のための税制改正大綱」(以下、大綱)では、復興特別法人税の1年前倒し廃止について12月中に結論を得ると表記されたのに続き、以下のような記述がなされている。 これには官邸よりの強い要請があったとされるが、その伏線は8月に遡る。 8月13日の日本経済新聞朝刊1面に、安倍首相が法人税率の引下げを検討するよう関係省庁に指示したと報じられた。これを好材料として株価は13日、14日と続伸したが、15日に至り麻生副総理兼財務大臣、菅義偉官房長官等がこれを否定したため、株価は大きく下落した。 この記事の信憑性はともかく、市場が法人実効税率引下げを強く待望していることが、改めて明確になった。 その後、9月10日に至り、今度は本当に総理から実効税率引下げが提案され、これに対して財務省は復興特別法人税の1年前倒し廃止ならば、と応じたのが、この大綱に至る経緯である。 もともと消費税率の引上げを決めた消費税法改正法(平成24年8月22日成立)では、法人実効税率の見直しは平成27年度以降の検討課題とされていたのであるが、ともかくも、「速やかに検討を開始する」こととなった。 2 なぜ、法人実効税率引下げか それでは、なぜ、法人実効税率の引下げなのか。 法人税負担を軽減するのであれば、税率だけが唯一の手段ではない。現に「税制秋の陣」では、経済活性化のために生産性向上設備等投資促進税制の創設や所得拡大税制の見直しなど、政策税制が大胆に拡充された。 今後も、政策税制により、日本経済を支えていくべき企業の税負担を実質的に軽減していく方が、すべての企業を対象に税率を引き下げるよりも、効果が高く、財源も少なくて済むのではないか。 実効税率引下げか政策減税かは、この10年以上、わが国の法人税のあり方をめぐる根本的な問題であり、経団連も税率引下げを絶えず主張しながら、毎年の税制改正では政策税制を取りに出ていたことも事実である。 私見であるが、日本に既にある企業、とりわけ国際競争に直面している企業には、投資減税等の政策税制を有効に活用していくことで実質的な税負担を軽減していくことでもよい。 一方、目を外に転じると、企業が立地先を選ぶ重要な条件が税負担であるが、政策税制は大部分が時限措置であり、また毎年のように改正され、対象や要件も当然のことながらバラバラであり、一目瞭然とはなり得ない。 そこで、分かりやすい実効税率(表面税率)が重要となる。 日本再興戦略では、「2020 年における対内直接投資残高を35 兆円へ倍増(2012 年末時点17.8 兆円)することを目指す」とされているが、その実現のためには「国家戦略特区」だけでは不十分であり、法人実効税率をアジア近隣諸国並みの25%にまで引き下げることが必要であろう。 まさに、法人実効税率の引下げは、わが国の立地競争力を強化し、国内における生産・開発拠点等を維持するとともに、内外の企業による投資を促進する上で、避けて通ることのできない改革の本丸である。 【法人実効税率の国際比較-財務省資料より】 (2013年1月現在) 3 課税ベースと実効税率 しかしながら、復興特別法人税廃止後も実効税率は35.64%(東京都)に止まり、25%までには未だ10%ポイントもの開きがある。これは税収としては4兆円にも上り、経済活性化による自然増収がある程度は期待できるとしても、実効税率引下げを実現するためには、財源を確保することが不可欠になる。 大綱では、財源として「政策減税の大幅な見直しなどによる課税ベースの拡大」が明記されているが、実効税率の引下げ分だけ課税ベースを拡大したのでは全く意味がないとしても、それなりの対応はしなければならない。 平成23年度税制改正では、実効税率を5%引き下げるために、国税の法人税率を30%から25.5%に引き下げたが、そのための財源のおよそ半分を法人税の課税ベース拡大で捻出している(下表参照)。 減価償却制度の見直しや欠損金の繰越控除制度の見直しなどが主なものであったが、これらをこれ以上深堀りすることになれば、企業活力をかえって損ないかねない。 政策税制の見直しは当然であるとしても、仮に今回創設された投資減税等を含めすべての政策税制を廃止しても、税率換算で4%にもならない。 また、政策税制の多くが中小企業の特例であるが、その廃止は困難である。 【平成23年度税制改正の法人税(国税のみ)増減収】(単位:億円) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 4 「他税目」とは何か 大綱では「他税目での増収策による財源確保」も言及されている。従来、法人税の中で税収中立が言われてきたことからは大きな前進である。 しかし、実効税率引下げを可能とするような「他税目」とは、何であろうか。 個人所得課税を増税して法人税減税では政治的には通らない。実効税率引下げで企業収益が向上し、株価の上昇や配当の増大が期待できるとすれば、株式譲渡益や配当への課税を見直すことはあり得るとしても、来年からの20%への引上げの先にすぐ増税ができるであろうか。資産課税の強化や酒税・たばこ税も考えられるが、それぞれ税収には限界がある。 結局は消費税となるが、8%、10%ヘの引上げ分は社会保障財源とされている。その先の消費税率引上げを見通すとすれば、2020年のプライマリーバランス回復を目標とする財政再建との絡みで、2016年度から2020年度のどこかで、さらなる消費税率引上げがあり得るとしても、かなり先のことでしかない。 5 地方法人課税をどうする 法人税の課税ベース拡大にせよ、他税目を勘定に入れるにせよ、国税だけで実効税率10%分の財源を得ることは困難であり、地方法人課税の見直しが不可欠である。 もともと、わが国の法人実効税率が高いのは、法人事業税、法人住民税のためである。また、地方税全体の中でこの“法人2税”のウエイトが高いために、景気変動による税収の不安定さとともに偏在性の問題がつきまとっている。 地方法人特別税は、消費税率引上げまでの暫定措置という経緯からしても廃止すべきものだが、それが困難である場合は、地方法人2税の全部又は一部、とりわけ所得に対する課税部分を国税の法人税に統合し、その全額を、地方交付税の不交付団体に対する一定の配慮を行いつつ、各自治体に配分することが考えられる。その上で、地方消費税も含む財源を見出しながら、実効税率を国際的な水準へと段階的に縮減すべきである。 なお、消費税改正法では、地方税制については、次に定めるとおり検討することとされていた(第7条五号)。 6 実効税率引下げへの道筋を早急に 法人実効税率の引下げをめぐっては、いくつか批判的な見解も存在する。 欠損法人割合が7割のため税率引下げの効果は限定的との意見、減税をしても内部留保が積み上がるだけであるとの批判、国際競争にさらされているのは製造業等の一部業種に過ぎず一律減税には意味がない、といった主張である。 しかし、欠損法人が永久に欠損状態であるということはあり得ない。法人実効税率の引下げは、利益計上法人の税引後当期純利益を増大させ、新たな投資や雇用を生み出すということのみならず、欠損法人から利益計上法人へと復帰した企業を強力に後押しするという効果もある。 また、創業期にある企業のキャッシュ・フローの改善による開業率の向上や海外からの直接投資の増加を通じた雇用の創出と産業構造変革の推進という効果も忘れてはならない。 日本はこの面で諸外国に大きく見劣りしており、改善が急務である。 内部留保については、まず、議論の前提として、余剰資金を意味しないということを認識すべきである。 内部留保は、会計上、利益剰余金を指すことになるが、これらは貸借対照表において現金預金のみならず、機械・設備などにも対応している。すなわち、企業は内部留保を源泉として、広く事業用資産への投資を行っている。 企業が保有する現金預金がマクロで増加していることは事実であるが、その要因としては、第1に、需給ギャップの存在により企業の設備投資意欲が低下していたこと、第2に、先行き不安によるリスク回避傾向があったと考えられる。ただし、これらも安倍政権が進める経済政策とあいまって、解消の傾向にあると考えられる。 法人実効税率の引下げによるメリットを享受するのは、製造業に留まらない。今や非製造業を含め、熾烈な国際競争が行われている。法人実効税率の引下げについては、改めて大所高所に立った議論を行い、平成26年度税制改正において、具体的な道筋=スケジュールを明らかにする必要がある。 (了)
〈平成25年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第5回】 (最終回) 「実務上、判断に迷うケースQ&A」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 連載最終回となる今回は、筆者がこれまで年末調整に関し質問を受けた事項のうち、特に質問の多かったもの、又は、その判定が難しいものを選定し、実務的な観点から解説を行うこととする。 【Q1】 控除対象配偶者等の判定の時期 〈解 説〉 居住者の配偶者その他の親族が、控除対象配偶者若しくは扶養親族に該当するかどうかの判定、及び控除対象配偶者や扶養親族が障害者に該当するかどうかの判定は、原則としてその年の12月31日の現況による(所法85②③)。 居住者がその年の中途で死亡した場合(又は出国する場合)には、その者の死亡時(又は出国時)の現況により判定し、居住者の配偶者その他の親族のうちに年の中途で死亡した者がいる場合には、それらの者の死亡時の現況により判定する(所法85①②③)。 また、居住者本人が障害者、寡婦(寡夫)、勤労学生に該当するかどうかの判定も、その年の12月31日の現況によることが原則であり、居住者がその年の中途で死亡した場合(又は出国する場合)には、死亡時又は出国時の現況によって判定する(所法85①)。 年末調整に係る控除対象配偶者等の判定の時期についての事例を以下に示す。 [事例①]従業員が年の中途で死亡したケース 従業員が死亡した時の現況により、従業員本人が障害者、寡婦(寡夫)、勤労学生に該当するかどうか、また、配偶者その他の親族が控除対象配偶者、扶養親族、障害者に該当するかどうかを判定する。 この場合、配偶者その他の親族の合計所得金額は、従業員が死亡した時の現況によりその年の1月1日から12月31日までの金額を見積もることとされている(所基通85-1(2))。 なお、死亡時の現況で控除対象配偶者や扶養親族と判定された人の合計所得金額が、死亡時以後の状況変化により結果として38万円を超えたとしても、死亡時に行った年末調整をやり直す必要はない。 また、判定の時期が異なることにより、死亡した従業員の控除対象配偶者や扶養親族と判定された人が、12月の年末調整において他の給与所得者の控除対象配偶者や扶養親族に該当することもある(所基通83~84-1)。 [事例②]配偶者が年の中途で死亡したケース 配偶者が死亡した時の現況により、その配偶者が従業員等の控除対象配偶者、障害者に該当するかどうかを判定する。控除対象配偶者として申告されていない配偶者であっても、年の中途で死亡したため合計所得金額が38万円以下となり、その年は控除対象配偶者に該当するケースもある。 [事例③]配偶者と死別し、その年中に再婚したケース 年の中途において控除対象配偶者に該当する配偶者と死別した者が、その年中に再婚した場合、控除対象配偶者として扱う配偶者は死別した配偶者か再婚した配偶者のいずれか1人に限られ、2人分の配偶者控除を適用することは認められない(所令220①)。 この場合、控除対象配偶者としなかった方の配偶者は、扶養親族の定義を充たさないため扶養控除の対象とすることもできない。 【Q2】 合計所得金額の範囲 〈解 説〉 年の中途で海外転勤し非居住者となった者については、出国前の最後に支給する給与で年末調整を行う(所基通190-1(2))。【Q1】で解説した通り、年の中途で出国する場合は、出国時の現況により控除対象配偶者や扶養親族の判定を行うこととされている(所法85③、所基通85-1(2))。 この場合、判定の基礎となる合計所得金額には、非居住者の国外源泉所得は含まれない。したがって、配偶者その他の親族が、出国後に海外で働くことにより所得を得るとしても、その所得は0として合計所得金額を計算する。 【Q3】 住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の再適用 〈解 説〉 (1) 特別控除の適用要件 特別控除の主な適用要件は、次の通りである(措法41①、措通41-2(1))。 (2) 転勤等により居住の用に供することができなくなった場合の取扱い 転勤等の事情により、それまで特別控除の適用を受けていた家屋を居住の用に供することができなくなった場合、特別控除の適用関係は次の通りとなる。 ① 国内転勤の場合 〈単身赴任の場合〉 (1)①~④をはじめとする特別控除の適用要件をすべて満たしていれば、(年末調整で)特別控除の適用を受けることができる。 〈家族と共に赴任する場合〉 (1)④の要件を満たしていないので、特別控除の適用を受けることはできない。 ② 海外転勤の場合 1年以上の予定で海外転勤する者は、出国日の翌日から非居住者となるため、海外赴任中は(1)①の要件を満たしていないことになる。したがって、単身赴任であるか、家族とともに赴任するかにかかわらず、特別控除の適用を受けることはできない。 (3) 特別控除の再適用(再び居住の用に供した場合の再適用) 特別控除の対象となっていた家屋を再び居住の用に供した場合には、一定の要件の下、一定の手続を行うことにより、特別控除の再適用を受けることができる。 下記①と②のケースについて、再適用に必要となる手続及び要件を解説すると、次の通りとなる。 ① 海外へ単身赴任していた場合 海外へ単身赴任していた者が帰国した場合には、帰国した年から(1)①の要件を満たすことになる。その他の要件もすべて満たしていれば、通常の年末調整の手続(*)により残存控除期間内につき特別控除の再適用を受けることができる。 (*) 通常の年末調整の手続 「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」に住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書を添付して勤務先に提出する。 ② 家族と共に赴任していた場合(国内、海外) 特別控除の適用期間内に勤務先からの転任の命令等により転居した場合には、次のすべての要件を満たしていれば、再び居住した年以後の残存控除期間について特別控除の再適用を受けることができる(措法41⑪)。この制度は、平成15年4月1日以後に対象となる家屋に居住しなくなった場合に適用される(平成15年改正法附則83)。 【Q4】 年末調整後の再調整 〈解 説〉 年末調整後、所得控除に異動があった場合には、その年分の源泉徴収票が作成される時(翌年の1月末日)までにその異動に関する申告があれば、異動後の状況により年末調整のやり直しをすることができる(所基通190-5)。 年末調整のやり直しをしなかった場合には、確定申告により精算することができる(所基通190-5(注))。 質問のケースの他、次のような場合には年末調整のやり直しをすることができる。 ① 年末調整後に控除対象配偶者や控除対象扶養親族の異動があった場合 年末調整後、その年の12月31日までの間に控除対象配偶者や控除対象扶養親族に異動があった場合には、異動申告の内容に基づいて年末調整をやり直すことができる。 例えば、次のようなケースが該当する。 ② 年末調整後に「生命保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書」や「住宅借入金等特別控除申告書」の提出があった場合 年末調整後に「生命保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書」や「住宅借入金等特別控除申告書」の提出があった場合には、その申告の内容に基づいて年末調整のやり直しをすることができる。 ③ 年末調整後に生命保険料等の追加支払いがあった場合 年末調整後、その年の12月31日までの間に生命保険料や地震保険料等の支払いがあった場合で、「生命保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書」の再提出を受けた時には、再提出された申告書の内容に基づいて控除額を再計算し、年末調整のやり直しをすることができる。 ◆ ◆ ◆ なお、年末調整のやり直しができるのは「給与所得の源泉徴収票」を受給者に交付することとされている翌年の1月末日までである。 また、年末調整後に給与の追加払いがあった時には、追加支払額を給与等の支払金額に含めたところで年末調整のやり直しをすることとされている(所基通190-4)。この場合は、必ず年末調整のやり直しをしなければならない。 (連載了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第7問】 「区分所有に係る建物とその単独所有の土地を譲渡した場合」 -居住用財産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、下図のような居住用財産を譲渡しました。 家屋は区分所有に係るもので、1階はXの所有(Xが居住)であり、2階はY(Xの長女の夫)の所有(Yが居住)であって、生活するにあたってそれぞれ独立した機能を有しています。 また、YのXに対する土地使用関係は使用貸借です。 この場合、Xについて「3,000万円特別控除(措法35)」の適用対象となる居住用財産の範囲はどこまででしょうか? A 家屋のうちX所有部分(1階)と、敷地の用に供されている土地のうちX所有の家屋に対応する部分(全体の1/2)が、「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができる居住用財産に該当する。 〈解説〉 敷地の用に供されている土地のうちY所有の家屋に対応する部分(全体の1/2)については、Yに無償で使用させていることになる。 したがって、土地については、X所有の家屋に対応する部分(全体の1/2)が居住用財産となる。 (了)
鵜野和夫の不動産税務講座 【連載8】 路線価図の読み方(5) 税理士・不動産鑑定士 鵜野 和夫 (一) 私道 ―不特定多数の通行の用に供されているものは非課税だが 図表1 図表2(ア) 図表2(イ) 図表2(ウ) (二) 私道の評価は 図表3 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 図表4 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (三) 崖地のある宅地の評価は 図表5 崖地のある住宅団地の例 〈がけ地補正率表〉 (注) がけ地の方位については、次により判定する。 1 がけ地の方位は、斜面の向きによる。 2 2方位以上のがけ地がある場合は、次の算式により計算した割合をがけ地補正率とする。 3 この表に定められた方位に該当しない「東南斜面」などについては、がけ地の方位の東と南に応ずるがけ地補正率を平均して求めることとして差し支えない。 図表6 ① がけ地割合 ② 1㎡当たりの価格 図表7 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【23】 〔第5章〕法令用語 (その9) 自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 7 法の「適用」に関する法令用語 (① 適用する・施行する)【前回参照】 ② 適用する・準用する では次いで、「準用する」との差異について見ていく。 前回記したように「準用する」は、ある事項に関する規定をそれとは異なるが本質的には類似する他の事項について当てはめることをいい、これに対して、「適用する」は、ある事項に関する規定を本来その規定が対象としている事項について、そのまま当てはめることをいう。 通常「準用する」場合は、その準用ないし適用される法令の規定中の用語等(例えば、目的語、引用条文等)とその準用ないし適用する場合に関する法令の規定中のこれらの用語等とが異なるところから、 元の「適用する」とされている条文に若干の変更を加えることを要する。 そのため通常、「○○を△△と読み替える」などのいわゆる読替規定により、その用語を置き換える規定が設けられている。 この読替規定は、通常、準用規定の後段として規定され、例えば、 などと規定される。 国税通則法38条(繰上請求)第4項には、以下のようにある。 国税徴収法の159条は、保全差押について規定している条文であるが、同条第2項では国税局長の承認、同条第3項では書面通知といったように、第2項 から第11項 までに手続き等について規定している。国税通則法38条による繰上保全差押の場合にも、保全差押の場合と同様の手続き等を課すことを規定するにあたり、保全差押の条文を準用しているのである。なお第5項においては、保全差押においては書面通知した日から6ヶ月を経過した日までに税額の確定がない場合には差押を解除すべき旨等が規定されている。 上記読替規定は、保全差押のこの「6ヶ月」の期間が、繰上保全差押の場合には「10ヶ月」となることを規定している。 なお、保全差押と繰上保全差押は、異なるものではあるが本質的には類似するために「準用する」としている。 これに対し次の国税通則法第61条第1項では、「の規定を適用する」としている。 この前条である第60条は延滞税の規定であり、第2項には延滞税の利率が定められている。そしてこの61条の第1項も第2項とも、当初からこの60条の規定が適用されるものとして規定されており、「同項の規定を適用する。」と規定されている。 もう1つ別の例を示そう。 これは国税通則法第3条(人格のない社団等に対するこの法律の適用)である。 これはいわゆる「みなし法人」の規定である。法人格を持たない社団や財団であっても代表者又は管理人の定めがあるものは、税法上の法人として扱うことを規定している。 法人の規定をみなし法人に「準用する」のではなく、法人格を持たない社団や財団であっても代表者又は管理人の定めがあるものは、税法上は法人と本質的に同じであるとして、法人の一種として扱うため「適用する」としている。 ③ 例による これは、ある事項に関する法令上の制度を他の事項について包括的に借りてきて、これについても同様の取扱いをしようとする場合に用いられる。 「準用する」が個々の規定を他の事項について借用しようとするものであるのに対して、「例による」は一つの制度を全体として借用しようとする場合に用いる。 税法においては「従前の例による。」という中で使われることが圧倒的に多いのであるが、これ以外の使い方の例を一つ挙げる。 この第3号では利子所得及び配当所得に係る源泉徴収義務が挙げられており、第240条においては源泉徴収に係る所得税を納付しなかった場合の罪について規定している。 このように、他の規定を包括的に借りてきてそれと同様の取扱いをしようとする場合に「例による」が用いられるのである。 (次回に続く)
「企業結合に関する会計基準」等の 改正点と実務対応 【第3回】 「共通支配下の取引の会計処理①」 ~子会社株式の追加取得に関する連結財務諸表上の会計処理~ 有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 布施 伸章 (注)本連載記事において、文中、意見に関する部分は筆者の私見である。 1 はじめに 今回は、平成25年改正会計基準のうち、子会社株式の追加取得に関する連結財務諸表上の会計処理について解説する。 解説に当たっては、以下の設例をもとに、会計基準の改正前と改正後の会計処理及び連結財務諸表への影響を比較しながら行う。 なお、以下の文中、「改正前(後)仕訳○」は、設例中の「改正前(後)会計基準」欄の仕訳No.を示している。 2 子会社株式の追加取得の会計処理 子会社株式を追加取得した場合、改正前会計基準では、以下の改正前仕訳⑥のように、追加取得した株式に対応する持分60を非支配株主持分から減額(※)し、追加取得により増加した親会社の持分(追加取得持分(※))60を追加投資額100と相殺消去したうえで、追加取得持分と追加投資額との間に生じた差額40をのれんに計上し、20年以内の効果の及ぶ期間にわたり償却することとされていた(負ののれんが計上された場合には一時の利益に計上する)。 改正後会計基準では、改正後仕訳⑥のように、追加取得持分(※)60と追加投資額100との間に生じた差額40を、資本剰余金とすることとされた(改正連結会計基準28項)。 (※) 追加取得持分及び減額する非支配株主持分は、追加取得日における非支配株主持分の額により計算する(連結会計基準(注8))。 【図表】 設例の仕訳No.6を抜粋 なお、本設例のように、上記の差額を資本剰余金から控除した結果、資本剰余金が△40と負の値となる場合(X3/3期の連結B/S参照)には、連結会計年度末において、資本剰余金をゼロとし、当該負の値を利益剰余金から減額することになる(改正連結会計基準30-2項)。 3 改正による連結財務諸表への影響 設例では、X2/3期とX3/3期のいずれの期も、親会社の損益はゼロ、子会社の当期純利益は50としている。 (1) X2/3期(持分比率60%) X1/3期末に子会社株式の60%を取得しているため、X2/3期に子会社で計上された利益50のうち、親会社帰属額(60%)は30、非支配株主持分帰属額(40%)は20となる。 また、支配獲得時に計上した親会社持分(60%)に係るのれん償却額4が控除されるため、当期純利益のうち、親会社帰属額は26(=30-4)となる。 (2) X3/3期(持分比率100%) ① 連結P/L 期首に子会社株式のすべてを追加取得しているので、その年度に子会社が計上した利益はすべて親会社に帰属することになる。 改正前会計基準では、追加取得時の差額40はのれんに計上され(改正前仕訳⑥)、それに対応するのれんの償却額8が新たに生じることになるため(改正前仕訳⑧)、当期純利益のうち親会社帰属額は38(=50×100%-(4+8))となる。 改正後会計基準では、改正後仕訳⑥のように、追加取得時にはのれんは追加計上されないため、のれんの償却額は当初取得時持分(60%)に対応する額4のみが計上される。このため、当期純利益のうち親会社帰属額は46(=50×100%-4)となる。 このように、子会社株式を追加取得した場合には、子会社が計上した利益の親会社帰属割合(100%)とのれん償却額の親会社帰属割合(60%)とは異なることになる(子会社株式を追加取得したときは、改正後会計基準による方が当期純利益及び親会社帰属利益が大きくなる)。 ② 連結B/S 改正前会計基準では、追加取得時ののれんは資産に計上したうえで償却するため、のれんの減損がない限り、純資産が一時に大きく減少することはなかった(X3/3期の連結B/Sの純資産は564)。 改正後会計基準では、追加取得時の差額40すべてが資本剰余金から控除されるため、純資産が一時に大きく減少することがあるので、留意する必要がある(X3/3期の連結B/Sの純資産は532)。 4 設例 【買収年度(X1/3/31)】 ●P社はX1/3/31にS社株式の60%を80で取得した。 ●支配獲得時のS社の諸資産の時価と簿価は同じである。 ●P社及びS社のX1/3/31のB/Sは以下のとおりである。 【翌年度(X2/3/31)】 ●P社の当期純利益は0、S社の当期純利益は50である。 ●のれんの償却期間は5年(年間償却額4)である。 ●P社及びS社のX2/3/31のB/Sは以下のとおりである。 【追加取得年度(X3/3/31)】 ●P社は期首(X2/4/1)にS社株式の40%を100で追加取得した。 ●P社の当期純利益は0、S社の当期純利益は50である。 ●のれん償却期間は5年(年間償却額4)(改正前の追加取得に係るのれん償却期間は5年(年間償却額8)) ●P社及びS社のX3/3/31のB/Sは以下のとおりである。 【参考】 会計基準の改正前と改正後の連結上の評価額の推移 【参考】 会計基準の改正前と改正後の子会社の当期純利益の帰属額の比較 (了)
減損会計を学ぶ 【第3回】 「減損会計の対象」 公認会計士 阿部 光成 「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という)の表題を見てもわかるように、同会計基準は固定資産を対象としている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 対象資産 1 固定資産 減損会計基準は、固定資産を対象に適用すると規定している(減損会計基準一)。 固定資産には、有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産が含まれる(「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号。以下「減損適用指針」という)5項)。 2 減損会計基準の対象とならない資産 減損会計基準では、他の基準に減損処理に関する定めがある資産については対象とされていない(減損会計基準一)。 また、減損適用指針でも減損会計基準の対象とならない資産が示されている(減損適用指針6項、68項、69項)。 これらの規定をまとめると、次の資産が減損会計基準の対象外となる。 Ⅱ 対象となる固定資産の留意点 前述のように、減損会計基準の対象は固定資産である。 例えば、次のような資産についても対象となるので注意が必要である(減損適用指針6項、68項、69項)。 「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)では、ファイナンス・リース取引は、リース契約上の諸条件に照らしてリース物件の所有権が借手に移転すると認められるもの(所有権移転ファイナンス・リース取引)と、それ以外の取引(所有権移転外ファイナンス・リース取引)に分類されている(リース会計基準8項)。 ファイナンス・リース取引の会計処理は、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行うとされており、所有権移転外ファイナンス・リース取引についても通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理されることから、いずれのファイナンス・リース取引についても貸借対照表に計上されることになる(リース会計基準9項)。 ただし、「リース取引に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第16号)79項では、リース取引開始日がリース会計基準適用初年度開始前のリース取引で、リース会計基準に基づき所有権移転外ファイナンス・リース取引と判定されたものについては、「リース取引に関する会計基準の適用指針」第77項又は78項の定めによらず、引き続き通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を適用することができるとされている。 このため、上記⑥の所有権移転外ファイナンス・リース取引のうち、借手側が通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行っている資産が存在することになり、減損会計基準の対象となるものが存在することになる。 そのほか、貸借対照表上、「固定資産」という科目を用いていない業種においても、その内容から、一般の企業における有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産に該当するものは、減損適用指針の対象となる固定資産に含まれることに留意する。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第25回】 純資産会計③ 「自己株式の処分と新株発行を同時に行った場合の会計処理」 仰星監査法人 公認会計士 石川 理一 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 (単位:百万円) ○ケース1 (*1) 払込金額1,000×自己株式処分割合(10,000/50,000)-150=50 ○ケース2 ○ケース3 〈会計処理の解説〉 会社計算規則第14条では、第1項で資本金等増加限度額を規定し、第2項第1号で上の行為を実施した後のその他資本剰余金の額を規定しています。 その他の条件①より、資本金等増加限度額のうち、その他資本剰余金とならなかった金額は全額資本金として処理します。 会社計算規則第14条第2項第1号に基づいて計算されるその他資本剰余金の増減額及び増加する資本金の金額は、 の三者の関係で以下のとおり算定されます。 ケース1の場合、自己株式対価額が自己株式の帳簿価額を上回る金額だけその他資本剰余金が増加し、払込金額から自己株式対価額を控除した金額だけ資本金が増加することになります。 ケース2の場合、その他資本剰余金は変動しません。そして、払込金額から自己株式の帳簿価額を控除した金額が資本金の増加額となります。これは払込金額に株式発行割合を乗じた金額から、自己株式の帳簿価額が自己株式対価額を超過する金額を控除した金額と同額です。 ケース3の場合、処分する自己株式の帳簿価額が払込金額を上回っているため、資本金は増加しません。当該超過額だけその他資本剰余金を減少させることになります。 (了) ※12月は連結会計を取り上げます。
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載45〕 会社分割の会計処理 ~株主資本の内訳を中心として 公認会計士・税理士 安原 徹 Ⅰ 会社計算規則の条文 本稿では、まず吸収分割が行われたときに承継会社において変動する株主資本等について、会社計算規則の条項に従い、原則的な処理方法を定める37条とその例外処理である38条を検討する。 引き続いて、新設分割についても、新設分割設立会社の株主資本等の額に係る原則的な処理方法の49条とその例外処理である50条を取り上げることとする。 Ⅱ 吸収分割の条文 1 原則規定としての37条 会社計算規則37条は「吸収型再編対価の全部又は一部が吸収分割承継会社の株式又は持分である場合」の株主資本等の変動額について規定する。 「対価の全部又は一部が吸収分割承継会社の株式又は持分である場合」という要件を設けた理由は、もし対価の全部が承継会社の株式以外のもの(例えば対価が現金のみ)である場合には、承継会社において株式が発行されないのであるから、吸収分割によって株主資本等の額が変動しないことになるためである。 本条第1項は、承継会社において変動する株主資本等の総額の算定方法を定めている。 1号は承継会社から見て支配取得に当たるため時価受入れとする場合(逆取得を除く)。 2号は共通支配下関係だが企業結合会計基準にいう事業に該当しないものが吸収分割の対象となる場合に時価受入れとするもの。 3号は共通支配下関係にあるため簿価受入れとする場合。 4号は共同支配企業の形成や逆取得の場合に簿価受入れとするものである。 また第2項は、承継会社の資本金、資本剰余金(資本準備金、その他資本剰余金)の増加額は、株主資本等変動額の範囲内で吸収分割契約の定めに従いそれぞれ定めた額とし、一方、株主資本等変動額がマイナスの場合を除いて利益剰余金(利益準備金、その他利益剰余金)は変動しないと規定する。これは37条の吸収分割が、現物出資の発想に基づくため、原則として利益の性質を持つ項目を変動させることはできないという考え方によるものである。 2 例外規定としての38条 会社計算規則38条は、吸収分割における承継会社の株主資本等変動額を定める37条の特則として、株主資本等の内訳科目を引き継ぐことを認める規定である。吸収型再編対価の全部が承継会社の株式である分割型吸収分割の場合(第1項)と吸収型再編対価が存しない場合(第2項)について規定する。 本条第1項の「吸収型再編対価の全部が吸収分割承継会社の株式又は持分である場合」とは、交付される対価のなかに現金等が含まれず、承継会社株式のみを交付する場合である。 これは、もし吸収型再編対価のなかに吸収分割承継会社の株式以外のものが混じると、分割会社と承継会社において株主資本等の額が一致しなくなり、株主資本等を引き継ぐことができないからである。 また、同項には、「吸収分割会社における吸収分割の直前の株主資本の全部又は一部を引き継ぐものとして計算することが適切であるとき」という要件が定められている。 これは、組織再編を、現物出資と同じ発想のものと捉えるのではなく、会社と会社が合同する行為と捉え貸借対照表をそのまま合算させるという考え方によるものである。上記の要件は、このような会計処理によることを前提とする旨を表現したものである。 なお、「株主資本等を引き継ぐ」とは株主資本の内訳の資本金、資本準備金等の科目をそのまま引き継ぐという趣旨である。 ところで、第1項の適用場面は、例えば2つの事業を営む甲社が、そのうち1つを乙社に対して分割型の吸収分割する際、甲社の貸借対照表を事業別に2つに分けて、その1つの事業別貸借対照表を乙社の貸借対照表に合算させるといった場合である。このような場面では、旧商法の下での人的分割(分割型の分割)のように、吸収分割会社自体が2つに分割したものとして株主資本の内訳を配分することを認める実務上の必要があることから、会社法上でもこれを認めたものと説明される。 もっとも、旧商法時代の分割型吸収分割では、分割事業の受皿会社である乙社が、対価として乙社株式を分割会社甲社の株主に直接交付したが、会社法では、一旦乙社株式を甲社に割り当て、甲社が、割り当てを受けた乙株を、剰余金の配当もしくは分割会社甲発行の全部取得条項付種類株式の対価として甲社株主に交付することになった(後者は非按分型の分割で利用される)。 それでは、次に38条第1項の株主資本等変動額の内訳をどう決めるか。会社事業を2つに分けるのなら、株主資本の各項目もタテ割りにプロラタ配分しなくてはならないのかという疑問が生じる。ところが、38条第1項本文では、「変動する吸収分割会社の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の額をそれぞれ当該吸収分割承継会社の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の変動額とすることができる」とだけ規定して、これらの計数の決め方については何も定めがない。 一方、会計基準においては、承継会社の増加資本金の処理について、「親会社で計上されていた株主資本の内訳を適切に配分した額をもって計上することができる。この場合、株主資本の内訳の配分額は、親会社が減少させた株主資本の内訳の額と一致させる。」と定められている(「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」234(2)、409(3)、446(以下「指針」という))。 したがって、38条第1項によって資産負債を切り出す際、承継会社で増加する株主資本の内訳については、分割会社の株主資本の各項目の金額の範囲内で、自由に決めることができると解される。 その結果、例えば分割会社が減資、準備金の減少を行わない場合、「その他利益剰余金」のみを変動させる処理も可能となる。 一方、第2項は、吸収分割会社と吸収分割承継会社が共通支配下関係にある場合で、無対価の吸収分割を対象とする。実務上完全親子会社関係にある組織再編で、対価の受渡しが行われない場合が数多く見受けられるので、そのような場合に対応するために設けられた規定である。 もっとも、会社計算規則は指針203-2のように「完全親子会社関係の存在」という要件を課していないが、手続の煩雑さ等もあって、実務において無対価吸収分割が利用されるのは、適用指針に掲げられた完全親会社→完全子会社、完全子会社→完全子会社、完全子会社→完全親会社のケースに限られるようである。 ただし、このうち38条2項が対象とするのは前二者の場合だけと考えられる。なぜなら、完全子会社→完全親会社の場合は親会社において抱合せ株式の価値の増減の問題として処理されるので、株主資本の変動を前提とする本条と関係ないことになるからである(平成21年改正前会社計算規則では18条第5項に規定があり子会社株式の目減り分を特別損益に計上する旨定められていた。21年改正では条文の簡素化が図られこの規定は削除されたが、法の趣旨は変わっておらず、また、改正後の規則では取扱いを会計慣行に委ねたと考えられることから、会計基準に従った処理をすることになる)。 また、無対価吸収分割の場合も分割会社では株主資本の各項目を適宜減少させることができるが、承継会社における株主資本の変動額には制限がある。すなわち、第2項本文が「吸収分割の直前の資本金及び資本剰余金の合計額を承継会社のその他資本剰余金の変動額と・・・」と定めた理由は、対価が存在しない場合には承継会社で株式が発行されず、払込資本や資本準備金の額を増加させることが適当でないことから、その他資本剰余金が変動するとしたものである。 さらに、同項では「吸収分割により変動する吸収分割会社の利益剰余金の額を当該吸収分割承継会社のその他利益剰余金の変動額とする」と定めており、分割会社で利益準備金やその他利益剰余金が変動するときには、承継会社ではその他利益剰余金だけが変動するとしている。これは、資本金や資本準備金の額を変動させないのに利益準備金の額を変動させるのは不自然なので、利益準備金を動かす代わりにその他利益剰余金を変動させるものである。 設例で示すと次のようになる。 分離する事業の株主資本が資本金のうち1,000、利益準備金の1,000、その他利益剰余金のうち21,000だったとする。この分割が無対価で行われると承継会社において資本金や利益準備金が増加せず、その他資本剰余金とその他利益剰余金が変動することになる。 なお、吸収分割を行う場合には、債務が吸収分割会社から吸収分割承継会社に移転することになり、また、会社分割により分割当事会社の資産状況に大きな影響を与えるため、吸収分割会社・吸収分割承継会社では原則として債権者保護手続が必要とされる(会社法789条①、②、799条①、②)。 この手続に加え、38条に従った吸収分割では、分割会社の資本金額や準備金額が変動することが多く、その際には、同条第3項による債権者保護手続が別途必要となる。このため、37条の吸収分割に比べ、手続がやや面倒なものとなっている(38条第3項では、会社「法第2編第5章第3節第2款の規定その他の法の規定に従うものとする」と規定されている)。 3 吸収分割のまとめ 会計計算規則37条と38条の概要をまとめると、次のとおりである。 Ⅲ 新設分割の条文 1 原則規定としての49条 会社計算規則49条は、単独新設分割の場合における新設分割設立会社の株主資本等について定める。 単独新設分割において、新設分割設立会社は新設分割会社の完全子会社となり、共通支配下関係の取引となるので、株主資本等変動額は、原則として分割対象財産の帳簿価格を基礎として算定される。また、新設分割は現物出資の発想に基づくため(ただし、共通支配下なので簿価ベース。なお、例外的な処理として、企業結合会計基準等における「事業」に該当しない財産が新設分割の対象となる場合等に時価処理によるべきことがありうることを想定した規定が設けられている)、株主資本等の内訳については資本性の科目のみとなり、損益取引から生ずべき利益剰余金はゼロとなる。 つまり、株主資本変動額をどのように資本金、資本準備金、その他資本剰余金の額に割り振るかについては、資本金額及び資本準備金額がいずれもゼロ以上の額である限り、新設分割会社が新設分割契約の定めに従って自由に定めた額とすることができる。 2 例外規定としての50条 会社計算規則50条は、49条の例外として株主資本等を引き継ぐ場合における新設分割設立会社の株主資本等についての規定である。 これは、新設型再編対価の全部が新設分割設立会社の株式である場合に、分割型新設分割により変動する新設分割会社の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の額を、それぞれ新設分割設立会社の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の額とすることができるとするもので、吸収分割における38条とパラレルな規定振りとなっている。 すなわち、分割型新設分割の対価の全部が設立会社の株式である場合においては、旧商法の下での人的分割(分割型の分割)のように分割会社自体が分割したものと捉え、株主資本の内訳を配分することを認める実務上の必要があることから、設けられた規定である。 「新設型再編対価の全部が新設分割設立会社の株式である場合」に限って本条の適用が認められる理由は、もし新設型再編対価の一部のみが新設分割承継会社の株式であったとすると、新設分割により分割会社において減少する株主資本等の各項目の金額と設立会社の株主資本等の各項目の額が一致しなくなるからである。また、例外的に「新設型再編対象財産に時価を付すべき」(49条①括弧書)の場合には、分割会社で減少する株主資本の額と設立会社の株主資本の額を一致させることができないため、本条を使うことはできない。 また、分割型新設分割の場合も、分割型吸収分割と同様、旧商法時代には新設会社の株式が分割会社の株主に直接交付されていたが、会社法では一旦分割会社に割り当てられたうえで、同社経由で分割会社株主に交付されることになっている。 次に、分割設立会社の株主資本の内訳が問題となる。50条1項本文では、「変動する新設分割会社の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の額をそれぞれ新設分割設立会社の設立時の資本金、資本剰余金及び利益剰余金の額とすることができる」と規定するのみで、これらの計数をどのように決めるのかについて何も定めがない。一方、会計基準においては、「親会社が子会社に事業を移転する場合の子会社(吸収分割承継会社)の会計処理に準じて処理する。」と定められている(指針261)。 そこで、吸収分割の場合と同様に、資産負債を切り出す際、新設分割設立会社の株主資本の内訳については、分割会社の株主資本の各項目の金額の範囲内で、自由に決めることができると解される。その結果、例えば分割会社が減資、準備金の減少を行わない場合、「その他利益剰余金」のみを変動させる処理も可能となる。 なお、50条の新設分割では、38条の吸収分割と同様に、分割会社の資本金額や準備金額が変動する際には、債権者保護手続が必要となる(50条②)。 3 新設分割のまとめ 会計計算規則49条と50条の概要をまとめると、次のとおりである。 (了)