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〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第6回】「DPCⅡ群病院の意義」

〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第6回】 「DPCⅡ群病院の意義」   東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕   1 基礎係数による新たな評価 2012年度診療報酬改定によって、DPC/PDPSにおける医療機関別係数に変更が加えられた。 従来の「機能評価係数Ⅰ+機能評価係数Ⅱ+調整係数」による評価から、「機能評価係数Ⅰ+機能評価係数Ⅱ+暫定調整係数+基礎係数」とされた。特に基礎係数という新たな評価が始まったことは新たな一歩を踏み出したことになる。 基礎係数は、病院の基礎体力を評価したものであり、3つの病院群が設定され、各群ごとに係数の設定が行われた。Ⅰ群は大学病院本院であり(全国80病院、基礎係数:1.1565)、Ⅱ群は高診療密度病院群(全国約80病院、基礎係数:1.0840)、その他がⅢ群とされた(全国約1,300病院、基礎係数:1.0422)。このような格付けによる係数設定は、史上初めてのことである。 従来も地域医療支援病院やがん診療連携拠点病院などの評価は存在したが、その承認にあたっては政策的な意味合いもあり地域格差などもあり必ずしも公平なものではなかった。しかし、基礎係数はDPC参加病院が同じフォーマットのデータを提出し、全国一律の基準で評価が行われたことは注目に値する。   2 Ⅱ群病院の特徴 2012年度診療報酬改定によるⅡ群とⅢ群の基礎係数は4%程度の違いであり、暫定調整係数も存在するため、必ずしもⅡ群が係数全体で有利になるとは限らない。むしろⅡ群で下の方にいるよりは、Ⅲ群で上位に位置した方が経済的には有利になることもありえる。しかしながら、今後、2018年に向けて暫定調整係数は段階的に廃止されると、基礎係数の重みは増すことが予想される。 図表1 Ⅱ群病院の一覧    ※画像をクリックすると、別ウィンドウで拡大表示されます。 Ⅱ群病院は、診療密度、医師研修の実施、高度な医療技術の実施(手術1件当たり外保連指数、DPC算定病床当たりの同指数、手術件数)、重症患者に対する診療の実施の4項目によって評価される(図表2)。 図表2 調整係数の見直しに係る対応と経過措置 手術件数についてはDPC病院の平均である3,200件が要件とされ、その他は大学病院本院の最低値(外れ値を除く)をすべてクリアすることが求められている。これら要件のうち、高度な医療技術の実施、特に手術1件当たり外保連指数を満たせなかった病院が非常に多い。これは、図表3に示すように、外保連の第8版で行われている手術難易度、協力医師数及び手術時間が考慮されて決定されたものである。 図表3 保連手術試案(第8版)  ※画像をクリックすると、別ウィンドウで拡大表示されます。 手術1件当たりの外保連手術指数の基準値:14.69 簡単に言えば、高難易度手術の割合が多い病院が有利になる傾向がある。つまり、がんセンターや大学病院の分院などの医師が多く、高度な医療提供を行う病院が多くを占めている。この外保連手術指数によって、白内障手術などを外来化する病院が多くなってきており、このことは中長期的には、急性期病院に甚大な影響をもたらすものと予想される。   3 Ⅱ群に入るためには Ⅱ群に入るためには、高難易度手術の割合を高める必要がある。特に、全身麻酔手術の多い病院がⅡ群に分類されている傾向が強い(図表4)。 図表4 100床当たりの全身麻酔件数の月平均 手術室の機能を重視した病院運営を行い、手術室の稼働率を高めるべく、重点的に人員配置を行うことが求められる。そのためには、外来の縮小なども視野に入れる必要があるだろう。 Ⅱ群かⅢ群かは、病院にとってはプライドをかけた戦いでもあり、経済性だけでは語れないのも事実である。将来的には基礎係数の重み付けにより、様々な制度設計が可能となる。また、高診療密度を有するⅡ群に今後、優秀なスタッフが集中するようなこともありえるかもしれない。必ずしもⅡ群に入ることばかりが目標ではないが、まずは、自院のポジショニングを明確にすることが求められている。 (了)

#No. 15(掲載号)
#井上 貴裕
2013/04/18

NPO法人 “AtoZ” 【第3回】「NPO法人の管理運営①」~事業報告書の提出・備置き・定款変更・役員変更・登記事項の変更~

NPO法人 “AtoZ” 【第3回】 「NPO法人の管理運営①」 ~事業報告書の提出・備置き・定款変更・役員変更・登記事項の変更~   税理士 岩田 聡子   1 事業報告書等の備置き・提出等 NPO法人は、毎事業年度初めの3ヶ月以内に、前事業年度の次に掲げる書類を作成して、翌々事業年度末日まで、事務所に備え置かなければならない(NPO法28①)。 また、これらの書類は、条例の定めるところにより、毎事業年度に1回、所轄庁に提出しなければならないこととされている(NPO法29)。 この他、定款・役員名簿(最新のもの)も事務所に備え置くことが必要である。 なお、これらの書類は、正当な理由がある場合を除き、その社員及利害関係人に閲覧させなければならない。   2 役員変更等の届出(NPO法23、24) NPO法人は、役員の氏名、住所又は居所に変更があった場合、任期満了により再任された場合(役員の任期は2年以内)等には、 ① 役員の変更等届出書 ② 変更後の役員名簿 を所轄庁に届け出なければならない。 役員が新たに就任した場合(任期満了と同時に再任された場合を除く)には、上記に加え、新たに就任した役員の ③ 就任承諾及び誓約書の謄本 ④ 役員の住所又は居所を証する書面 を提出する。 また、代表を有する者の氏名、住所及び資格に関する事項に変更が生じた場合には、変更後2週間以内に、主たる事務所の所在地での登記が必要である。   3 定款変更(NPO法11、25) NPO法人が定款を変更しようとする場合には、定款に定めるところにより、社員総会で議決しなければならない。 社員総会の議決は、定款で特別の定めがない限り、社員総数の2分の1以上が出席し、その出席者の4分の3以上の多数をもってしなければならない。 なお、下記の定款の変更事項には、所轄庁の条例により、社員総会の議事録の謄本及び変更後の定款を添付した書類を所轄庁に提出し、所轄庁の認証が必要となる(下記③及び⑧の事項の変更の場合は、当該定款の変更の日の属する事業年度及び翌事業年度の事業計画書及び活動予算書の添付も必要である)。 提出した書類の一部は、受理した日から2ヶ月間、公衆の縦覧に供され、所轄庁は、受理した日から4ヶ月以内に認証又は不認証の決定を行う。 変更事項に登記事項があった場合には、認証後、2週間以内に主たる事務所の所在地での登記、3週間以内に従たる事務所の所在地での登記をすることが必要である。 さらに、登記完了後、定款変更の登記完了提出書を所轄庁に提出する。   4 登記事項の変更 NPO法人は、設立の際、次の事項を登記しなければならない。 上記⑦以外の登記事項に変更が生じた場合には、2週間以内に主たる事務所の所在地での登記を、3週間以内に従たる事務所の所在地での登記をすることが必要である。 「⑦資産の総額」の登記は、毎事業年度終了後2ヶ月以内に行う。 NPO法人は、所轄庁への事業報告書等の提出期限が、条例の定めるところにより、毎事業年度終了後3ヶ月以内であることから、資産の総額の登記もそれに合わせて行う法人も多いのだが、組合等登記令では、毎事業年度終了後2ヶ月以内と定められていることに注意しなければならない(組合等登記令3③)。 特に、認定NPO法人を目指すようなNPO法人は、登記の遅れが問題となる可能性もあるため、このことはしっかり認識したうえ、登記を行う必要がある。 (了)

#No. 15(掲載号)
#岩田 聡子
2013/04/18

雇用促進税制・所得拡大促進税制の実務 ~要件・手続の確認から両制度の適用比較まで~ 【第1回】「雇用促進税制の適用要件」

雇用促進税制・ 所得拡大促進税制の実務 ~要件・手続の確認から両制度の適用比較まで~ 【第1回】 「雇用促進税制の適用要件」   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   1 はじめに 最近の雇用失業情勢を概観すると、新規求人倍率、有効求人倍率、完全失業率などの指標については平成21年度から平成23年度にかけて改善がみられ、平成24年度は比較的安定している状況にあると見受けられる(『最近の雇用失業情勢(平成25年2月分)』東京都労働局)。 雇用対策は経済成長戦略上も重要な課題である。税制上の措置としても、平成23年度税制改正において「雇用促進税制」が創設され、平成25年度税制改正においては「所得拡大促進税制」が創設されたほか、「雇用促進税制」の拡充が図られている。 そこでこの連載では、雇用対策のための2つの税制である「雇用促進税制」及び「所得拡大促進税制」の実務について取り上げることとし、まずは雇用促進税制の概要及び適用要件についての解説を行う。なお、内国法人以外の法人及び連結納税に係る部分は対象外とし、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを予め申し添える。   2 雇用促進税制の概要(平成25年度税制改正後) 青色申告法人が平成23年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する各事業年度(以下「適用年度」という)において、雇用者を5人以上(中小企業者※においては2人以上)増加させ、かつ、雇用者増加割合が10%以上である等の一定の要件を満たす場合には、増加雇用者1名当たり20万円(平成25年4月1日以後開始事業年度については、1名当たり40万円)を法人税額から控除することができる(措法42の12)。ただし控除税額は法人税額の10%(中小企業者は20%)を限度とする。 ※ここでいう「中小企業者」とは、資本金の額が1億円以下の法人のうち、以下のいずれかに該当する法人以外の法人をいう(措法42の12、措法42の4⑥、⑫五、措令27の4⑩)。 ・発行済株式総数の2分の1以上が同一の大規模法人(資本金の額が1億円を超える法人)の所有に属している法人 ・発行済株式総数の3分の2以上が大規模法人の所有に属している法人  なお中小企業者に該当するかどうかは、適用年度終了時の現況によって判定する(措通42の12-1)。   3 雇用促進税制の適用要件 青色申告法人が雇用促進税制の適用を受けるためには、以下の(1)~(5)のすべての要件を満たすことが必要である。 (1)  離職者要件(措法42の12①一) 離職者とは、その法人の都合により離職した雇用者及び高年齢雇用者をいう。 つまり、事業主都合による離職者がいないことが必要となる。 事業者都合による離職は、雇用保険被保険者資格喪失届の喪失原因の「3 事業主の都合による離職」に該当するものであるが、具体的には以下のようなものが該当する。 ① 事業主の都合による解雇 ただし、以下のものは該当しない。 ② 事業主の勧奨等による任意退職 ただし、実質的には労働者の都合による任意退職であるのに事業主が退職金等を支給するために勧奨退職の形式を取った場合は該当しない。   (2)  基準雇用者数要件(措法42の12①二イ) 基準雇用者数は、適用年度終了の日における雇用者の数から、前事業年度終了の日における雇用者(適用年度終了の日において高年齢雇用者に該当する者を除く)の数を減算した数をいう(改正措法42の12②四)。 基準雇用者数 = 適用年度末の雇用者数 - 適用年度の前事業年度末の雇用者数 つまり、基準年度末における雇用者の数が前事業年度末に比べて5人以上(中小企業者については2人以上)増加していることが必要である。 また、「雇用者」の定義については留意が必要である。 ここでいう「雇用者」とは、法人の使用人※のうち、雇用保険の一般被保険者に該当するものをいい、高年齢雇用者(高年齢継続被保険者)は含まれない(改正措法42の12②二、三)。 このため、基準雇用者数を計算するに当たって、前事業年度末において「雇用者」であった者が当該適用年度末において「高年齢雇用者」に該当する場合には、基準雇用者数の計算から除かれることに留意が必要である。 ※「法人の使用人」には、以下の者は含まれない。 ・役員 ・役員と特殊の関係のある以下の者 (A) 役員の親族 (B) 役員と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者 (C) (A)(B)以外で役員から生計の支援を受けているもの (D) (A)(B)と生計を一にするこれらの者の親族 ・法人の使用人としての職務を有する役員(使用人兼務役員)   (3) 基準雇用者割合要件(措法42の12①二ロ) 基準雇用者割合は、基準雇用者数の適用年度開始の日の前日における雇用者の数に対する割合をいう(改正措法42の12②五)。 基準雇用者割合 = 基準雇用者数 ÷ 適用事業年度の前事業年度末の雇用者数 つまり、適用年度における雇用者数の増加割合が10%以上であることが必要である。 なお、適用年度の前事業年度末の雇用者数がゼロである場合には、基準雇用者割合要件については考慮不要である(措法42の12①二)。   (4)  給与等支給額増加要件(措法42の12①二ハ) ① 給与等支給額 給与等支給額は、法人の給与等の支給額のうち、適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される金額をいう(改正措法42の12②七)。 ここでいう「給与等」とは、所得税法28条1項に規定する給与等(雇用者に対して支給するものに限る)をいう(改正措法42の12②六)。具体的には、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与をいう(所法28①)。 給与等の支給額については、その給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額※がある場合には、その金額を控除した金額とし、高年齢雇用者に係るものを除く点に留意が必要である。 ※「他の者から支払いを受ける金額」とは、例えば次に掲げる金額が含まれる(措通42の12-2)。 ・雇用保険法施行規則110条に規定する特定就職困難者雇用開発助成金、雇用対策法施行規則6条の2に規定する特定求職者雇用開発助成金など、労働者の雇入れ人数に応じて国等から支給を受けた助成金の額 ・法人の使用人が他の法人に出向した場合において、その出向した使用人(出向者)に対する給与を出向元法人が支給することとしているときに、出向元法人が出向先法人から支払いを受けた給与負担金の額(出向先法人の負担すべき給与に相当する金額に限る)   ② 比較給与等支給額 比較給与等支給額は、以下のように計算される(改正措法42の12②八)。 比較給与等支給額 = (A÷B)+(A÷B×C×30%) 雇用者数が増加しても、給与等支給額が増加しなければ雇用環境がむしろ悪化することとなり、雇用対策としての税制措置の恩典を与えることは適当でないという価値判断が含まれているものと考えられる。 そこで、税制措置の恩典を与えるというメルクマールとして、雇用者数の増加割合の3割程度の給与支給額の増加額(比較給与等支給額)を設定しているものと考えられる。 例えば、適用年度前事業年度(12ヶ月)の給与等支給額を3,000万円、基準雇用者割合を15%とした場合の比較給与等支給額は、 3,000万円÷1+(3,000万円÷1×15%×30%)=3,135万円 となる。 (5)  適用事業要件(措法42の12①本文) 雇用保険法5条1項では、「労働者が雇用される事業を適用事業とする」と広く一般的に定めているが、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条1項に規定する風俗営業又は同条5項に規定する性風俗関連特殊営業を適用事業から除くこととされている(措令27の12③)。 つまり、風俗営業又は性風俗関連特殊営業以外の事業を行っていることが必要である。   4 適用手続 この制度の適用を受けるためには、適用事業年度開始後2ヶ月以内に、主たる事業所を所轄する公共職業安定所(ハローワーク)に「雇用促進計画」の提出を行い、都道府県労働局又は公共職業安定所で上記の(1)~(3)までの要件について確認を受け、その際交付される雇用促進計画の達成状況を確認した旨を記載した書類の写しを確定申告書に添付する必要がある(措法42の12①、措令27の12①②、措規20の7①)。 次回は、それぞれの適用手続について詳細に確認していくこととする。 (了)

#No. 14(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2013/04/11

建物(旧定率法)を合併により受け入れた場合の減価償却

建物(旧定率法)を 合併により受け入れた場合の 減価償却   税理士 石井 幸子   Q 当社(A社:3月決算法人)は、平成25年4月1日にB社を被合併法人とする適格吸収合併を行いました。B社から引き継いだ資産の中には次の建物があり、B社はこの建物を旧定率法により償却計算を行っていました。 当社は、建物の償却方法は定額法を選定していますが、引き継いだ建物の償却計算はどのように行えばよいですか。 A 適格合併により移転を受けた建物の償却計算の基礎となる帳簿価額及び取得日は、被合併法人の帳簿価額48,370千円及び取得日平成9年4月1日を引き継ぐ。また、償却方法は、合併法人が選定している方法によることとなる。 耐用年数は、その建物の法定耐用年数によることが原則であるが、中古資産を取得した場合の耐用年数を適用することも可能である。 それぞれ次のように考える。 ◆ 解説 ◆   1 取得価額・帳簿価額と取得日の考え方 合併により資産等が移転をしたときは、これらの資産等は、原則として、その合併の時の「時価による譲渡」をしたものとして、時価と被合併法人における帳簿価額との差額は譲渡損益として計上することとしている(法法62①)。 この原則的な取扱いに対する例外として、適格合併による資産等の移転については、被合併法人の合併直前の「帳簿価額による引継ぎ」をしたものとして、移転する資産等の譲渡損益を繰り延べることとしている(法法62の2①)。法人税法では、合併により資産等を移転する前後で経済実態に実質的な変更がないと認められるもの、すなわち、移転する資産等に対する支配が合併後も継続しているなどの「適格要件」を満たす合併を「適格合併」と位置付け、例外的な取扱いを認めているのである。 適格合併により合併法人に引き継いだ資産の取得価額は、被合併法人における取得価額に、合併法人が事業の用に供するために要した費用の額を加算した金額とされている(法令54①五イ)。 したがって、適格合併により移転するこの建物は、被合併法人B社での取得価額及び帳簿価額を引き継いで、A社における取得価額は100,000千円、帳簿価額は48,370千円となる。 このように法人税法では、合併による資産等の移転を、適格要件を満たすか否かにより、「時価による譲渡」と「帳簿価額による引継ぎ」という異なる取扱いをしている。この規定の仕方の違いにより、「譲渡」とすると移転を受ける側は新たな「取得」となり、「引継ぎ」とすると移転を受ける側は被合併法人から「引き継ぐ」という違いが生じる。適格合併による資産等の移転は、被合併法人から、これらの資産等のいわば歴史の「引継ぎ」を受けたものであり、移転によって新たに「取得」したものではないと考える。 そのため、適格合併により移転を受けた建物の取得日は、合併の日である平成25年4月1日ではなく、被合併法人B社の当初の取得日である平成9年4月1日となる。 ところで、法律上の「取得」には、承継取得と原始取得がある。合併による権利の承継は、包括承継であり承継取得に含まれる。合併により資産の移転を受けることは、法人税法上の適格要件を満たすか否かにかかわらず、私法上は「取得」に当たる。 そのため、適格合併による資産の移転は「引継ぎ」を受けたものであり、新たに「取得」したものではないとする考え方は、適格合併等の課税関係を整理するための税法独自のものといえる。 しかしながら、下記2の「減価償却資産の償却方法の届出書」や、3の「中古資産を取得した場合の耐用年数」に関する規定では、適格合併による資産の引継ぎを「取得」に含めるとしている。 このように、税法における「取得」という用語の使い方が、登場する局面により異なる点には注意が必要である。   2 償却方法は引き継げるか 適格合併により移転した資産の取得日や帳簿価額は、被合併法人から引き継ぐこととされているが、償却方法は被合併法人から引き継ぐという規定はない。被合併法人から引き継いだ資産の償却方法は、合併後は、合併法人が選定している償却方法による。 したがって、合併により被合併法人B社から引き継いだ建物は、合併後は、合併法人A社の選定している定額法により償却計算を行うこととなるが、取得日はB社の取得日である平成9年4月1日となるので、平19年3月31日以前に取得した資産に適用される定額法として、旧定額法により償却計算を行う。 このように被合併法人と合併法人の選定している償却方法が異なっていても、「減価償却資産の償却方法の届出書」を提出することにより、被合併法人が選定していた償却方法を合併後も継続して適用できるケースがある。 この届出書を提出することができるのは、次の2つのケースである(法令51②四・五)。 適格合併により移転を受けた建物が、合併法人が行っていた事業とは独立しているような場合には、上記②に該当することになると考えられる。このような場合には、届出書を提出することにより、合併により引き継いだ建物について、合併法人においても旧定率法による償却計算を行うことが可能である。 この届出書の提出期限は、新たに事業所を設けた日、つまり、合併の日の属する事業年度の確定申告書の提出期限までとなっている(法令51②五)。 したがって、ご質問のケースで、合併後も旧定率法による償却計算を希望する場合における届出書の提出期限は、平成26年3月期の確定申告書の提出期限である平成26年5月31日となる。   3 中古資産の耐用年数を適用できるか 適格合併により引き継いだ資産の償却費を計算する際の耐用年数は、原則として、その資産の法定耐用年数によるが、中古資産を取得した場合の耐用年数を適用することも可能である。この中古資産を取得した場合の耐用年数が適用できる「取得」には、適格合併による被合併法人からの引継ぎが含まれるからである(耐令3①)。 この規定は、「適用することができる」規定なので、適格合併により引き継いだすべての資産に適用せず、特定の資産にのみ適用することも可能である。 ところで、この中古資産を取得した場合の耐用年数が適用できる「取得」に、適格合併による被合併法人からの引継ぎが含まれることとされたのは、平成15年度税制改正後のことである。改正前は、旧耐用年数の適用等に関する取扱通達関係1-5-13に、適用できない旨が明記されていた。これは、適格合併による資産の移転は「引継ぎ」を受けたもので、新たに「取得」したものではないとする考えからであり、上記1でも述べたとおり、現在においてもこの考えは変わっていない。 根幹にある考えが変わっていないにもかかわらず、適格合併での適用を認めた背景には、同じ適格組織再編成である適格分社型分割などにより移転を受けた資産に、中古資産を取得した場合の耐用年数の適用が認められていたことにある。適格合併についても適用を認めることは、上記の考えとは矛盾することになるが、適格組織再編成により移転を受けた資産についての取扱いを一本化するために、適格合併により移転を受けた資産についても適用を認めることとしたのである。 中古資産を取得した場合の耐用年数を適用して、定額法や旧定額法により償却計算を行う場合の計算の基礎となる取得価額は、被合併法人における取得価額をそのまま使うことはできない。被合併法人の取得価額から被合併法人で既に損金算入した金額を控除した金額、つまり被合併法人における合併直前の帳簿価額を取得価額として償却計算を行うこととなる(耐令3③)。具体的な計算方法は、下記4(2)の計算例を参照のこと。   4 計算例 (1) 法定耐用年数を適用して旧定額法で償却した場合 B社から適格合併により移転を受けた建物について、法定耐用年数を適用して、旧定額法により償却計算を行うと、次のようになる。   (2) 中古資産の耐用年数を適用して旧定額法で償却した場合 B社から適格合併により移転を受けた建物について、中古資産を取得した場合の耐用年数を適用して、旧定額法により償却計算を行うと、次のようになる。   (3) 中古資産の耐用年数を適用して旧定率法で償却した場合 B社から適格合併により移転を受けた建物について、中古資産を取得した場合の耐用年数を適用して、償却方法の届出書の提出により旧定率法で償却計算を行うと、次のようになる。 (了)

#No. 14(掲載号)
#石井 幸子
2013/04/11

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第5話】「修正申告の勧奨(その1)」

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第5話】  「修正申告の勧奨(その1)」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「そうか・・・修正申告をしないのか・・・」 田村上席調査官は、隣に座っている山口調査官の話を聞きながら、腕を組む。 「非違事項は、交際費と棚卸資産だけなんですが・・・」 山口調査官は困った顔をしている。 山口調査官は、先週から3日間、太田工業の実地調査をした後、「調査結果の内容の説明等」を納税者に行ったのである。 交際費の否認の内容は、会社が主催した「創立20周年の記念祝賀パーティー」の費用である。パーティーの請求書の金額は、850万円であった。 しかし、招待客から、「祝い金」を合計で198万円を受け取っていたのである。 実地調査で、山口調査官が記念行事の名簿を調べているとき、それぞれの招待客の名前の横に、金額が記されていた。 「ここに書かれている金額は何ですか?」 山口調査官が質問した。 「招待客から頂いた祝い金ですが・・・」 と経理担当者は応えた。 しかし、帳簿には、雑収入として「祝い金」が計上されていない。 会社の伝票では、次のように仕訳がなされていた。 経理担当者は「会社が実質的に負担した費用のみを、交際費として処理した」と答えた。すなわち、198万円は、招待客が負担した費用であるから、交際費の弊社の実際の負担は、652万円であると主張した。 これに対して、山口調査官は、次のような仕訳を書き、経理担当者に示した。 そして、税務上はこのように処理すべきで、交際費は850万円であると述べた。 棚卸資産については、申告書に添付されている決算書の棚卸金額と集計用紙が30枚の綴りとなっている棚卸表の合計金額に900万円の差があった。 「この差の原因は何ですか?」 山口調査官の質問に、経理担当者の表情が変わる。 「ちょっと・・・調べてみます」 山口調査官から棚卸表を経理担当者が受け取ると、そそくさと自分の机に持っていき、計算をし始めた。 しばらくして、少し青ざめながら、山口調査官が調査をしているテーブルにやって来た。 「集計誤りです・・・」 山口調査官は、経理担当者が指で示す一枚の集計用紙の小計欄を見た。 10,000,000円という数字が書かれている右端に、1,000,000円と書かれている。 そして、1,000,000円の数値の上に二重丸◎が付いている。 「どちらの数字が正しいのですか?」 「・・・確か・・・10,000,000円が正しかったと・・・」 経理担当者は困ったような表情をした。 「でも、この集計用紙では、1,000,000円の数値で計算されている」 山口調査官は、もう一度、集計用紙の数値を電卓で叩く。 「・・・おかしいな。どう計算しても、この小計欄の金額は10,000,000円になる・・・」 少し声を大きくして経理担当者に言う。 「・・・なんで、ここに1,000,000円が記載されているのですか?誰が書いたのですか?」 経理担当者は、矢継ぎ早の質問に青ざめて黙っている。 「これが、隠ぺい・仮装だったら、重加算税の対象ですよ」 山口調査官は、少し興奮して、経理担当者に伝えた。 以上の税務調査の状況から、山口調査官は、調査結果の内容の説明等を口頭で行い、交際費と棚卸資産について、「修正申告等の勧奨」を行った。さらに、棚卸資産については、重加算税を賦課決定する旨を伝えた。 山口調査官の調査結果の内容の説明を、社長、経理課長、経理担当者そして若い税理士の4名が机を挟んで聞いている。 しばらくして、若い税理士が尋ねる。 「これって、以前と違って、新しい国税通則法では、修正申告を提出しても、更正の請求ができるはずですよね」 「ええ、それについては、これから説明しようと思って・・・」 山口調査官は、修正申告書を提出した場合、不服申立てはできないが、更正の請求をすることができる旨を記載した「教示文」を鞄から取り出して、机の上に置いた。 4人が一斉に、その教示文の内容を確認するために、前かがみになる。 「申し訳ないのですが・・・この教示文は、国税に関する法律の規定に基づき交付する書面なので、署名・押印を頂きたいのですが・・・」 山口調査官は、4人を前にして、少し頭を下げる。 「修正申告・・・しかも、重加算税か・・・」 社長が横に座っている経理課長をチラッと見る。 「棚卸の洩れは・・・集計ミスで・・・」 そう言いながら、経理課長は、経理担当者の方向をみる。経理担当者は、黙って俯いている。 そのとき、若い税理士は、はっきりした口調で、社長に問うた。 「この際、税務署に更正処分をしてもらいましょうか」 (つづく)

#No. 14(掲載号)
#八ッ尾 順一
2013/04/11

〔平成25年4月1日以後開始事業年度から適用〕 過大支払利子税制─企業戦略への影響と対策─ 【第6回】「超過利子額の損金算入」

〔平成25年4月1日以後開始事業年度から適用〕 過大支払利子税制 ─企業戦略への影響と対策─ 【第6回】 「超過利子額の損金算入」   アースタックス税理士法人 税理士 中村 武   前回までの解説において、「関連者支払利子等の額」「控除対象受取利子等合計額」「関連者純支払利子等の額」「調整所得金額」及び「適用除外」に関して、その意義や算出方法等のポイントを確認してきた。これにより、本制度における「損金不算入額」の計算過程についての解説を終えたこととなる。 今回は、本制度のもう一つの特徴である、翌年度以降の「超過利子額(損金不算入額の繰越額)の損金算入」について解説を行う。   1 超過利子額の損金算入 法人の各事業年度開始の日前7年以内に開始した事業年度において、本制度により損金の額に算入されなかった金額(この措置及び本制度に係る超過利子額と外国子会社合算税制との適用調整によりその各事業年度前の事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたものを除く)(以下「超過利子額」)がある場合には、その超過利子額(本制度に係る超過利子額と外国子会社合算税制との適用調整により各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されるものを除く)に相当する金額は、その法人の各事業年度の調整所得金額の50%に相当する金額から関連者純支払利子等の額を控除した残額に相当する金額を限度として、その法人のその各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することとされる(措法66の5の3①)。 〈ポイント1〉 損金算入制度の趣旨 前回までの解説のとおり、本制度は「所得金額に比して過大な支払利子」について損金算入を制限し、租税回避を防止するために導入されたものであり、課税の繰延べをその目的とするものではない。 しかしながら、その判断の基礎となる所得金額及び支払利子の水準は、短期的な市況・当該企業の状況等、企業を取り巻く様々な要因により大きく変動する要素となっている。 したがって、当該変動による影響を緩和する目的で、単年度の状況だけでなく、事後の一定期間(7年間)の状況を踏まえて、過大な支払利子に該当するかどうかの判断を行うこととしている。 具体的には、本制度の適用により生じた損金不算入額を翌年度以降に繰り越し、調整所得金額の50%に相当する金額が関連者純支払利子等の額を上回る事業年度において、その差額に相当する金額を限度として損金算入することとされている。 〈ポイント2〉 翌年度以降の損金算入イメージ 第2回においても簡単な事例を用いて超過利子額の損金算入について概略を解説したが、理解を深めるため、再度二期連続でのイメージを下記に記載する。 〔イメージ図〕 〈ポイント3〉 翌期以降の確認ポイント 上記イメージ図においても確認できるように、当該年度の超過利子額が繰り越され、翌期以降、調整所得金額が多い事業年度(正確には調整所得金額の50%に相当する金額が関連者純支払利子等の額を上回る事業年度)において、超過利子額が損金算入されることとなる。 したがって、本制度による損金不算入額の最終的な影響を考える際には、当期のみならず、当該企業の経営計画等に基づき、翌期以降の関連者純支払利子等の額及び予想所得金額を考慮する必要がある。 〈ポイント4〉 適格合併等があった場合の超過利子額の引継ぎ 適格合併が行われた場合において、被合併法人の引継対象超過利子額がある時は、合併法人等の事業年度において生じた超過利子額とみなされる。 また、その法人との間に完全支配関係がある他の法人でその法人が発行済株式等の全部若しくは一部を有するものの残余財産の確定についても、適格合併と同様に超過利子額の引継ぎが行われる。 〈ポイント5〉 連結納税の承認を取り消された場合の超過利子額の引継ぎ 連結納税の承認を取り消された場合等において、その連結納税の承認を取り消された場合等の最終の連結事業年度終了の日の翌日を含む事業年度開始の日前7年以内に開始した各連結事業年度において生じたその法人の連結超過利子個別帰属額があるときは、その連結超過利子個別帰属額は、その連結超過利子個別帰属額が生じた連結事業年度開始の日を含むその法人の事業年度において生じた超過利子額とみなされる。   2 適用要件 超過利子額の損金算入の規定の適用を受けるには以下の申告要件を満たす必要があり、この規定の適用を受けようとする事業年度だけでなく、超過利子額が発生した過年度の申告書に超過利子額に関する明細書の添付が必要とされていることに留意が必要である。 この規定は、超過利子額に係る事業年度のうち最も古い事業年度以後の各事業年度の確定申告書にその超過利子額に関する明細書の添付があり、かつ、この措置の適用を受けようとする事業年度の確定申告書に、適用を受ける金額の申告の記載及びその計算に関する明細書の添付がある場合に限り適用する。 この場合において、これらの規定の適用を受ける金額は、当該申告に係るその適用を受けるべき金額に限るものとする(措法66の5の3⑧)。 *  *  * 次回(第7回)においては、本制度と他規定(過少資本税制等)との二重課税の調整について、解説を行うものとする。 (了)

#No. 14(掲載号)
#中村 武
2013/04/11

租税争訟レポート 【第7回】法定外普通税の規定は地方税法違反で、無効〔納税者勝訴〕 (神奈川県臨時特例企業税通知処分等取消請求事件上告審判決)

租税争訟レポート【第7回】 法定外普通税の規定は 地方税法違反で、無効〔納税者勝訴〕 (神奈川県臨時特例企業税通知処分等取消請求事件上告審判決)   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     【事案の概要】 1 神奈川県臨時特例企業税の概要   2 条例成立の経緯 平成13年3月21日、神奈川県議会で可決された神奈川県臨時特別企業条例(平成13年神奈川県条例第37号、平成13年8月1日施行。以下「本条例」という)は、地方税法4条3項及び259条以下の規定に基づく道府県法定外普通税として、臨時特別企業税(以下「特例企業税」という)を定めたものである。 その課税標準は、繰越控除欠損金額を損金の額に算入しないものとした場合における当該各課税事業年度の所得の金額に相当する金額であり、かつ、当該金額が繰越控除欠損金額に相当する金額を超える場合には、当該繰越控除欠損金額に相当する金額であることから、特例企業税は、繰越控除欠損金額に相当する金額を課税標準として課税するものである。   3 訴訟の経緯 本訴訟は、本条例に基づき特例企業税を課された原告(被控訴人、上告人)が、本条例は、法人事業税の課税標準である所得金額の計算上、欠損金額を繰越控除することを定めた地方税法の規定に違反し、違法・無効であると主張して争ったものである。 訴訟では、当事者双方から、行政法、租税法学者を中心とする多数の専門家の意見書が書証として提出され、納税者と神奈川県とのどちらを支持するかで、意見が分かれていた。裁判所の判断も、第一審である横浜地方裁判所は納税者の訴えを認め、東京高等裁判所が神奈川県の主張を認めていた。 本件は、そうした難しい争点に、最高裁判所が判断を示したものである。   【原審(控訴審)の判断】 原審は、条例が法律に違反するか否かは、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかにより決すべきである旨を判示した上で、上告人の請求をいずれも棄却すべきものとした。   【最高裁判所の判断】 地方税法に定める法定普通税についての規定は、別段の定めのあるものを除き、任意規定ではなく強行規定であると解されるから、普通地方公共団体は、地方税に関する条例の規定や改正に当たっては、同法の定めに拘束され、これに従わなければならないというべきである。 したがって、法定外普通税に関する条例において、同法の定める法定普通税についての強行規定に反する内容の定めを設けることによって当該規定の内容を実質的に変更することも、これと同様に、同法の趣旨、目的に反し、その効果を阻害する内容のものとして許されない。 本件条例の実質は、繰越控除欠損金額それ自体を課税標準とするものにほかならず、法人事業税の所得割の課税標準である各事業年度の所得の金額の計算につき欠損金の繰越控除を一部排除する効果を有するものというべきである。 特例企業税の課税は、各事業年度の所得の金額の計算につき欠損金の繰越控除を実質的に一部排除する効果を生ずるものであり、各事業年度の所得の金額と欠損金額の平準化を図り法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨、目的から欠損金の繰越控除の必要的な適用を定める同法の規定との関係において、その趣旨、目的に反し、その効果を阻害する内容のものであって、法人事業税に関する同法の強行規定と矛盾抵触するものとしてこれに違反し、違法、無効であるというべきである。   【解説】 神奈川県のホームページには、「県財政の危機的状況を訴える」と題した黒岩祐治知事の県民への訴えが掲載されている。 そこでは、「危機的状況にある県財政」を立て直すため、「身を削る行政改革の実施」が続けられていることが紹介され、「子や孫の世代のために」に、県民の皆様と危機感を共有し、この難局を乗り越えていきたいという、知事の考えが示されている。 特例企業税が、こうした県の財政難を克服するための一つの政策であったことは間違いない。そして、県として、地方税法の規定に則り、条例を可決し、総務大臣の認可を得て、法定外普通税として課税してきた。 最高裁判決が強調しているのは、地方税法に規定する法定普通税に関する規定は強行規定であり、地方公共団体が法定外普通税に関する条例を定めることによって、法定普通税の内容を変更すること、地方税法の趣旨、目的に反し、その効果を阻害することは許されないということである。なお、一部報道には、本判決を「課税自主権の侵害である」と捉える声もあるようだが、本判決は、法定外普通税そのものを否定したものではなく、法定外普通税においても強行規定たる地方税法に違反することは許されないとしたものに過ぎず、この批判は当たらないのではないかと筆者は考える。 神奈川県は、最高裁の判断が「違法・無効」となったことで、上告人以外の約1,700社に対しても、利息を含め約635億円を自主返還することを発表した。 (了)

#No. 14(掲載号)
#米澤 勝
2013/04/11

法人税の解釈をめぐる論点整理 《寄附金》編 【第2回】

法人税の解釈をめぐる論点整理 《寄附金》編 【第2回】   弁護士 木村 浩之   (前回はこちら) 4 貸倒損失等との区分 (1) 総論 損失については、通常は「任意に」生じるものでないことから、寄附金には該当しない。例えば、貸し付けていた債権が債務者の資力の悪化によって回収不能になった場合には、その損失は「任意に」生じたものではなく、債権放棄をしたとしても、貸倒損失として損金算入が認められる。 これに対して、法人が特段の理由なくして、債権放棄、債務引受などの損失負担をする場合には、その損失は「任意に」生じたものであり、単なる利益の移転行為として寄附金に該当することになる。 このように、債権放棄等には、貸倒損失等として寄附金には該当しない場合と任意の利益移転として寄附金に該当する場合とがあり得ることになる。そこで、それらの区分が問題となる。 この点、一般には、寄附金に該当するか否かは、債権放棄等が「任意に」なされたものか否かという観点から区別されるのであり、その任意性については実質的に判断されることになる。実質的に判断して、その債権放棄等に任意性がないと評価される場合には、寄附金には該当せず、貸倒損失等として損金算入が認められる。 そのように任意性がないものとして寄附金の範囲から除かれる貸倒損失等には、次のようなものがあり得る。 以下では、それぞれの要件等について解説することしたい。   (2) 事実上の貸倒債権の放棄 ア 要件 貸倒損失として寄附金の範囲から除かれるための要件は、債権の全額が回収不能であることが客観的に明らかであることが必要であり、そのことは、 などを踏まえて、社会通念に従って総合的に判断されるべきものであると解されている(最判平成16年12月24・民集58巻9号2637頁)。 なお、通達においても、貸倒損失の計上が認められる場合が具体的に定められている(法基通9-6-1ないし3)が、必ずしもそれに限られるものではなく、上記判例が掲げる要素に照らして、その全額が回収不能であると認められれば、貸倒損失の計上は認められる。 イ 具体的な方法 債権の全額が回収不能であることを客観的に明らかにするためには、例えば、次のような方法が考えられる。 ① 執行不能 債権回収のために訴訟等の法的手続を踏んだ上で、強制執行を実施し、それが執行不能に終わった場合には、客観的に貸倒れが明らかであることから、その時点での貸倒損失の計上が認められる。 ② 無資力 債務者の財産等を調査した結果、換価可能な資産がなく、その収入状況等から今後も支払いの見込みがないことが判明した場合には、客観的に貸倒れが明らかであることから、その時点での貸倒損失の計上が認められる。 なお、その調査の程度については、債権者として相当な範囲の調査(債権額との比較において、過分な費用や労力がかからない程度の調査)を行った結果、資産等の把握ができないということで足りるものと解される。 ③ 所在不明 債務者の所在を調査した結果、その所在が不明であり、補足可能な資産がないことが判明した場合には、客観的に貸倒れが明らかであることから、その時点での貸倒損失の計上が認められる。 なお、その調査の程度については、②に準じて考える。 ④ 長期不払い 債務者の客観的な状況が明らかではない場合であったとしても、支払いがない状態が長期間継続しているという状況で、債権者が債権回収を断念したという事実も一事情として考慮することができるものと解される。 そこで、債権の回収や管理に要する費用を踏まえた上で、債権放棄の処理をする(債権放棄通知書を債務者に送付する、あるいは、取締役会等において債権放棄の意思決定をし、帳簿上の貸倒処理をする)ことにより、客観的に貸倒れが明らかになったものとして、その時点での貸倒損失の計上が認められる。 ⑤ 費用倒れ 債務者の状況から、仮に何らかの回収が可能であると考えられたとしても、費用倒れに終わる可能性が高い場合には、④に準じて、債権放棄の処理をすることにより、客観的に貸倒れが明らかになったものとして、その時点での貸倒損失の計上が認められる。 ウ 損益両建て処理が必要な場合 なお、損失そのものは任意に生じたものでないとしても、その原因となる行為が任意になされた場合(典型的には、貸倒れが予想される状況で敢えて貸付けを実行した場合)については、債権放棄等によって後に現実の損失が生じたとしても、直ちに損失計上のみの処理ができない場合があり得る。 すなわち、会社に損害を与えたことにつき、役員等に過失があり、その者に対する損害賠償債権が同時に発生するとみられる場合には、損益を両建てすることになる。その場合、役員等に対する責任追及をしないのであれば、その損害賠償債権を放棄したものとして、当該役員等に対する認定賞与の処理をすることになると考えられる(拙稿《役員給与》編・6(5)参照)。   (3) 債務整理手続における債権放棄等 破産、民事再生その他の債務者の法的な債務整理手続(倒産処理手続)において債権の一部又は全部の回収ができないことが確定した場合には、その時点において回収不能額についての損失処理が認められる。 また、任意の債務整理手続であっても、その処理が法的な手続に準じてなされるものであり、債務の整理として合理的な内容を有するものである場合には、同様に、債権の一部又は全部の回収ができないことが確定した時点において、回収不能額についての損失処理が認められる(法基通9-6-1(3)参照)。   (4) 子会社等の再建支援のための損失負担 ア 要件 やむを得ない理由により子会社等の再建支援をする場合には、その支援のための損失負担は寄附金には該当しない。それが認められるための要件としては、 ことが必要であると解される(法基通9-4-1、9-4-2参照)。 イ 子会社等の範囲 ここでいう子会社等には、出資関係のみならず、取引関係その他の事業関連性を有するものも含まれており、支援者と経済的な結び付きのある者が広く含まれることになる。 ウ 支援の必要性 債務超過に陥っており、倒産するおそれがあることなど、子会社等が経済的に困窮していることが必要である。 エ 支援者の利益 子会社等を支援することにより、支援者にも経済的利益がもたらされる場合である必要がある。 例えば、子会社等が重要な販路を握っていることや主要な商品の仕入先であることなどにより、子会社等の事業継続が支援者の利益にもなる場合、現在の損失を負担して子会社等の整理をしなければ今後より大きな損失負担を求められる可能性がある場合などが考えられる。 オ 相当な範囲 支援が相当な範囲にとどまる(支援によって支援者が得られる利益と負担との均衡を失しない)場合は、その支援のための損失負担は寄附金には該当しないことになる。 例えば、事業継続のメリットがある子会社等を再建するために合理的な再建計画に基づいて支援する場合、支援をしない場合の損失負担に関する分析結果に基づいてその損失を超えない範囲で支援する場合などは、相当な範囲の支援として寄附金には該当しない。 (了)

#No. 14(掲載号)
#木村 浩之
2013/04/11

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載14〕 税額控除の対象となる試験研究費の範囲と税務調整

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載14〕 税額控除の対象となる 試験研究費の範囲と税務調整   税理士 鈴木 達也   1 研究開発税制の概要 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除は、大法人及び中小法人でも活用できる制度である。また、大法人は平成24年4月1日開始事業年度から青色欠損金の損金算入制限(法法57①)が適用され、青色欠損金額を有していても、課税所得が生じることがあるため、研究開発税制による税額控除により納税額を軽減することができる。 この税額控除の制度は、青色申告書を提出する法人の各事業年度において、その事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費の額がある場合には、試験研究費の12%相当額をその法人のその事業年度の所得に対する法人税の額から控除することとされている(措法42の4①)。   2 試験研究費の意義 税務上の試験研究費とは、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する費用(措法42の4⑫一)で一定のものをいう。 この試験研究は、工学的・自然科学的な基礎研究※1、応用研究※2及び工業化研究※3(開発・工業化等)を意味するもので、新製品や新技術の試験研究に加え、現に生産中の製品の製造や既存の技術の改良等のための試験研究であっても対象となる。例えば、製造現場における量産化のための試験研究も含まれる。 逆に、「製品の製造」又は「技術の改良、考案若しくは発明」に当たらない人文・社会科学関係の研究は対象とはならない。したがって、例えば、次のような費用は含まれない※4。 なお、会計上は試験研究費という文言がなく、研究開発費等に係る会計基準(以下「会計基準」という)では、研究開発費が定義されている。研究開発費とは、新製品の計画・設計又は既存製品の著しい改良等のために発生する費用(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針(以下「実務指針」という)4)をいい、税務上の試験研究費に含まれる製造現場における量産化のための試験研究や現に生産している製品の改良のために継続的に行われる試験研究は、研究開発費に含まれない。 ※1 自然現象に関する実験等によって法則を決定するための研究 ※2 基礎研究の結果を具体的な物質、方法等に実際に応用して工業化の資料を作成する研究 ※3 基礎研究及び応用研究を基礎として工業化又は量産化をするための研究 ※4 国税庁『Q&A研究開発減税・設備投資減税について(法人税)』(平成15年10月)   3 試験研究費の範囲 製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する費用で一定のものとは、他社への委託研究費、その試験研究を行うために要する原材料費、人件費(専門的知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限る)及び経費をいう(措令27の4⑥一、二)。会社の経理処理によっては、試験研究費が各勘定科目に計上されているため、集計漏れがないように注意が必要である。 その試験研究費のうち損金算入されない金額及び試験研究に充てるために他者から受けた金額を除いたものが、税額控除の対象となる試験研究費となる。 以下、実務を想定して試験研究費を考察していく。 (1) 委託研究費 例えば、製造子会社が基礎研究を親会社に委託している場合など、他社に試験研究を委託する費用は、試験研究費の対象となる(措令27の4⑥二)。 なお、委託研究費は、研究開発の内容について検収(中間検収を含む)を行った時点で費用として処理すべきであり、契約金等は前渡金として処理しなければならないが、その契約金等の支払時に費用処理しているケースが散見されるので、研究開発の委託契約や検収書を確認した上で適切な処理をする必要がある。 なお、自社で行う試験研究費を集計することが難しい場合には、この委託研究費のみを申告することもできる。 (2) 新製品の開発に係る試験研究費 自社の試験研究費を把握する上で、まず次の事項を確認し、あわせてその会計処理も知っておきたい。 ① 研究プロジェクトとスケジュール 新製品の開発に係る試験研究の研究プロジェクトとそのスケジュールにより全体像を把握する。会社の経理担当者も、どのような試験研究が行われているかを知らない場合がある。そのようなときは経理担当者を同席の上、開発責任者から試験研究の内容を聞くようにすると、経理担当者の試験研究に対する意識も高まる。 ② 試験研究の開始時期 試験研究の開始時期は、機関決定の書類や稟議書等により確認できる。一般的に試験研究には多額の費用が投じられるため、会社として研究テーマや研究内容を決めている。中小企業では少人数で試験研究を行うため機関決定をしていない場合もあるかもしれないが、税務調査に備え書類を用意しておくことがよいであろう。 ③ 量産化の決定時期 会計上、製品の量産化の決定をもってその製品の研究開発は終了する。それまでの経費は費用処理とされ、それ以降の経費はその製品の製造原価となる。そのため、量産化の決定時期は会計処理をする上での重要なメルクマールとなる。量産化が決定するときには、その試験研究により開発された製品が一定レベルに達しているかどうかの評価会議が開かれ、その会議で量産化の承認がされる。なお、このような会議が開かれない場合には、取締役会や稟議書等の書類によりその時期を明らかにしておくのがよいであろう。 また、ソフトウェア開発における量産化の決定時期は、製品マスターの完成時点、具体的には、機能評価版のソフトウェアであるプロトタイプが完成した時点とされ、量産化の決定前の費用は、研究開発費となる。また、プロトタイプを制作しない場合には、製品として販売するための重要な機能が完成しており、かつ重要な不具合を解消した時点とされる(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A Q10)。 ④ 量産化後、新製品発売までの期間における業務 会計上、量産化のための開発が行われ、新製品が発売されるまでに生じた費用(試験研究費を含む)は、新製品の製造原価としてその新製品の棚卸資産に配賦されることとなる。また、この期間中に事業年度末が到来した場合には、仕掛品として資産計上しなくてはならない。 この期間に行われる量産化のための試験研究は、製品の製造又は技術の改良のための試験研究に該当するため、試験研究費となる(会計上の研究開発費には該当しない)。ただし、すべての研究者が試験研究を行っているわけではなく、試験研究以外の業務(例えば、営業への説明や顧客対応)を行うことがあるため、その業務の有無を確認しておく必要がある。 【新製品の製造に係る試験研究】 【ソフトウェア開発に係る試験研究】   (3) 原材料費 試験研究のために要した原材料費は、試験研究費となる。なお、その原材料を用いて試作品を製作した場合に、その試作品が販売可能なものであれば、棚卸資産として評価すべきであろう。一方で、試作品が転用・売却できず廃棄するしかないものであれば、棚卸資産として評価する必要もない。 (4) 人件費 ① 試験研究の専従者とそれ以外の者 開発部門に属する人件費のうち、試験研究費の対象となる人件費は、専門的知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限られる(いわゆる直接人件費)。そのため開発部門に所属する者であっても、例えば事務職員、守衛、運転手等のように試験研究に直接従事していない者に係るもの(いわゆる間接人件費)はこれに含まれないこととなる(措通42の4(1)-3)。 また、評価や分析などの業務を行い開発部門に属さない者であっても、相当期間試験研究の業務に従事する者の人件費であれば、試験研究費の対象となる。なお、「専門的知識をもって当該試験研究の業務に専ら従事する者」については、下記の個別通達が出ているので参考にしていただきたい。 ② 管理職の人件費 開発部長など、その部門を管理する業務が多い者であっても、実態として専門的知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者に該当するのであれば、その者の人件費は試験研究費に含まれる。一般的に開発部長は、研究者として専門的知識を持ちプロジェクト全般にわたり業務を担当していると考えられる。 中小企業の場合には、役員が研究プロジェクトの中心な役割を果たすことも少なくない。このような場合には、その役員が専門的知識をもってプロジェクトに参加し、その職務や従事状況が明確であれば、その人件費(他の研究者と比べ同程度の役員報酬部分に限る)は試験研究費に含まれると考えられる。 ③ 従事比率 新製品の製造に係る試験研究を行う者であっても、常に試験研究をしているわけではない。既に発売された製品の保守や簡単な改良、営業サポートをすることがある。そのため、すべての時間を試験研究に費やしているということにならず、試験研究に従事していない時間を除く必要がある。 原則的には、各人別に作業日報を作成し、明確に試験研究への従事状況を管理するのが理想であるが、大企業であってもそこまでは管理できていないようである。このような場合には、月次単位で各人別に作業内容を明確することで合理的な試験研究費が集計できる。 ④ 賞与引当金・退職給付引当金 試験研究費のうち損金算入されない金額は、税額控除の対象とならないため、人件費のうち期末に税務調整をしている賞与引当金(その社会保険料を含む)や退職給付引当金について、試験研究費の調整が必要である。 つまり、試験研究の業務に専ら従事する者の人件費を計算する上で、これらの者の期首の賞与引当金等を加算し、期末の賞与引当金等を減算して、損金に算入された人件費を計算する。 (5) 試験研究に係る経費 試験研究に係る経費とは、開発部門や試験研究をする者の家賃、光熱費、交通費など間接的に試験研究に要した経費をいう。これらの経費に特許申請費用、工業所有権の実施権の取得費用など試験研究後の経費が含まれている場合には、これらの費用を試験研究費から除く必要がある。加えて、上記(4)で試験研究に従事していない期間に対応する経費についても試験研究費に該当しないこととなる。 また、税額控除の対象となる試験研究費は、損金算入された金額に限られる(措法42の4①)ため、交際費や寄附金が損金不算入となる法人では、これらの損金不算入とされる金額を除くこととなる。 なお、増加試験研究費の特別控除(措法42の4⑨一)の適用にあたっては、比較年度、基準年度及び適用年度の試験研究費の範囲、試験研究費を計算する場合の共通経費の配賦基準等については、継続して同一の方法によることとなる(措通42の4(1)-2)。 (6) 補助金や他社から受けた受託研究費 その試験研究費に充てるため他の者(その法人との間に連結完全支配関係がある他の連結法人を含む)から支払いを受ける金額がある場合には、その金額を控除した金額が税額控除の対象となる試験研究費となる(措法42の4①)。 その他の者から支払いを受ける金額には、次のものが含まれる(措通42の4(1)-1)。 上記(1)~(6)を図で示すと、アミかけ部分が税額控除の対象となる試験研究費となる。 ※1 量産化後の製品の保守対応に係る人件費、税務調整した賞与引当金等 ※2 上記※1の人件費に対応する間接費や交際費損金不算入部分など (次ページへ続く)   4 税務調整が必要な試験研究費 次に掲げる項目については、試験研究費の会計上と税務上の処理が異なることがある。 税務調査においても調査項目となることがあるので、注意が必要である。 (1) 製造原価となる研究開発費 会計上、研究開発費はすべて発生時に一般管理費又は当期製造費用として費用処理することとされている(会計基準3、同注2)。一般的な研究開発費は、原価性がないと考えられるため一般管理費として処理し、工場などの製造現場で発生する研究費であっても、製造原価に含めることが不合理であると認められるときは、当期製造費用に算入してはならないとされている(実務指針4)。 一方、法人税基本通達では、試験研究費を基礎研究、応用研究及び工業化研究に分け、そのうち工業化研究に該当することが明らかなものは製造原価に算入し、それ以外のものは、製造原価に算入しないことができることとされている(法基通5-1-4(2))。ここでいう「工業化研究に該当することが明らかなもの」とは、特定の製品の製造に係る研究、採用している製造技術や製法の改良を目的として継続的・経常的に行われる研究が該当すると考えられる。 つまり、工業化研究に該当することが明らかな試験研究費については、会計で費用処理され、税務上は製造原価に算入しなければならず、この部分で税務調整が必要となる。会計上一時の費用として処理された製造原価となる試験研究費は原価差額として税務調整することとなる。 具体的には、その試験研究費を他の原価差額に加算し、その加算後の原価差額がプラスのときは、期末棚卸資産に対応する部分の金額をその期末棚卸資産に加算することとなる(法基通5-3-1)。また、その原価差額を一括して次に掲げる算式により期末棚卸資産に配賦する方法も認められている(法基通5-3-5)。 この税務調整した金額は、損金の額に算入されていないため、控除対象となる試験研究費に含まれないので注意が必要である。 (2) 自社利用ソフトウェアの開発費用 ① 税務調整 会計上、ソフトウェアの開発費用のうち、試験研究に該当する部分は、費用処理する(会計基準3)。 一方、法人税基本通達では、ソフトウェアの取得価額に算入しないことができるものとして、研究開発費の額を挙げている(法基通7-3-15の3(2))。ただし、自社利用のソフトウェアの研究開発費の額については、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかなものに限られており、それ以外のものはソフトウェアの取得価額に算入しなくてはならないとされている(同括弧書)。 実務上、自社利用のソフトウェアが開発中止になるまでは、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかになることはないため、自社利用のソフトウェアの開発費用の全額がソフトウェアの取得価額とされる。 そのため、自社利用のソフトウェアの開発費用で、会計上、研究開発費として費用処理された部分は、税務調整が必要となる。もっとも、会計監査上、ソフトウェアの資産計上については、厳密な処理が行われているとは言い難く、研究開発費であっても資産計上されている部分が多いように見受けられる。 ② 税額控除の対象金額 ここで問題となるのは、上記①の通達によりソフトウェアの取得価額とされた部分が税額控除の対象となる試験研究費に該当するか否かである。 この通達の趣旨は、次のとおりである。 『法人税基本逐条解説(六訂版)』(税務研究会)P550 私見ではあるが、試験研究費がソフトウェアの取得価額となったとしても試験研究であることに変わりはないため、試験研究費として税額控除の対象となる余地があるのではないか。ただし、税額控除の対象となる試験研究費は損金算入されることが条件となっているため、ソフトウェアの取得価額になったときには税額控除の対象とならず、そのソフトウェアが減価償却され損金算入された時点で税額控除の対象になると考えられる。 過去においても試験研究費が法人税法上の繰延資産とされていたときには、法人の選択により繰延資産とすることができた。この場合には、その繰延資産である試験研究費の償却額が、税額控除の対象となる試験研究費とされていたようである。 (3) 特定の研究開発目的の機械装置等 会計上、特定の研究開発目的にのみ使用され、他の研究に使用できない機械装置や特許権等を所得した場合には、取得時に研究開発費として処理することとされている(実務指針5)。 一方、税務上は他に使用ができないものであっても、減価償却資産として実態を備えているものであれば、研究開発用減価償却資産(耐用年数省令別表六)として法定耐用年数で償却する必要がある。そして、その機械装置等が役目を終え除却したときに、未償却残高を費用処理することとなる。 この除却費用が試験研究費に該当するかどうかについては、その除却が試験研究の継続過程において通常行われる取替更新に基づくものであれば試験研究費に含まれ、災害、研究項目の廃止等に基づき臨時的、偶発的に発生するものであれば試験研究費に含まれない(措通42の4(1)-5)。 (了)

#No. 14(掲載号)
#鈴木 達也
2013/04/11

会計リレーエッセイ 【第4回】「IFRS雑感」

会計リレーエッセイ 【第4回】 「IFRS雑感」   有限責任あずさ監査法人パートナー (前IASB理事) 山田 辰己   1 アジアにおけるIFRS採用国の拡大 筆者は、2001年4月から2011年6月まで国際会計基準審議会(IASB)の理事を務めた。その後、有限責任あずさ監査法人に勤め、そこでは、アジア地域の国際財務報告基準(IFRS)の普及に関する仕事をしている。 その関係で、韓国、マレーシア、インドネシア及び台湾といった国々を訪問する機会がある。これらの国々では、2011年又は2012年からIFRSが導入され、少なくともすべての上場企業に強制適用されている。また、韓国やマレーシアの場合には、IASBが新設・改訂する都度自国で適用しているIFRSに反映されている。 しかし、インドネシアの場合には、2009年版のIFRSが、台湾では2010年版が、2012年に導入されている。最新IFRSとのタイムラグを埋めるため、今後どのようにキャッチアップするかが、これらの国では大きな課題となっている。さらに、インドネシアやマレーシアでは、一部のIFRSのカーブアウトをしているため、厳密には、IFRSと完全に同一ではない。 ただし、このような多様性があるものの、香港やシンガポールも全面的な採用に動いており、アジア諸国では、IFRSの採用が着実に進んでいる。また、これらの国々では、IFRSの設定における日本のより積極的なリーダーシップに対する期待は強く、我が国が、アジア諸国のこの期待に応えてほしいものと感じている。   2 我が国のIFRSの任意適用 我が国は、2010年3月期からIFRSの任意適用を認めている。任期適用を行う企業は、金融庁長官が指定する「指定国際会計基準(現時点では、2012年10月までのIFRSがそのまま指定されている)」を適用しなければならない(IFRSのアドプション)。 一方、任意適用をしない企業は、日本基準に基づいて連結財務諸表を作成しなければならないが、この日本基準を、2007年8月にIASBと企業会計基準委員会(ASBJ)との間で結ばれた「東京合意」に基づいて、IFRSと同じにする努力が継続して行われている(コンバージェンス)。 2009年には、企業会計審議会から2012年を目処に、日本の上場企業にIFRSを採用するかどうかの意思決定を行うというロードマップが示され、日本でのIFRS導入の機運が高まったが、2011年6月の内閣府特命担当大臣(金融担当)の発言以降は、その機運が急激に冷めている。 そのような背景には、のれんの非償却、開発費の資産認識、非上場株式の公正価値測定及び企業年金の会計処理といった日本の経営者の感覚に合わないIFRSの処理に対する反対がある。筆者は、このような反対がある現状では、当面は、強制適用に向かうより、任意適用の継続の方がベストと考えている。   3 モニタリング・ボードのプレスリリースのインパクト(2013年3月) モニタリング・ボードは、IASBが所属するIFRS財団の組織の一部を構成しており、評議員の選任の承認や評議員の責任の遂行のレビューを行うとともに助言を提供するなどといった権限を持っている。モニタリング・ボードは、現在5名(EC(欧州委員会)、金融庁長官、SEC(米国証券取引委員会)委員長、IOSCO(証券監督者国際機構)の新興市場委員会議長及びテクニカル委員会議長)のメンバーで構成されているが、これを最大11名まで拡大することが2012年2月に公表されている。 そして、今年3月には、既存のメンバーが、今後もメンバーであるために満たさなければならない要件が示され、その中に、そのメンバー国の国内市場で、IFRSが「顕著な適用(prominent application)」をされていることが含まれた。また、メンバーとしての資格要件の評価は、2013年から開始され、3年に1度見直すこととされており、この要件を満たすためには、IFRSを任意適用する(又は任意適用を行う意向を表明する)企業が、2016年までにかなり増大する必要があると考えられる。それを達成できない場合には、日本の国際的な地位に影響が出ると予想される。   4 IFRS問題は経営上の大きな問題 冒頭にも触れたように、IFRSは、現在アジア諸国で相次いで採用されている。世界で100を超える国々が何らかの形でIFRSを受け入れている現状から見ると、米国の今後の動向いかんという面もあるが、今後10年といった長さで見ると、IFRS採用国が減少することはあまり考えられない。 日本では今後とも任意適用が続くとしても、IFRSが世界標準として定着すると予測するなら、この問題は、各企業が投資家などの外部関係者とどのようにコミュニケーションをはかるかという経営方針に係る大きな問題だと言える。 また、モニタリング・ボードのメンバーの要件を満たすためには、2016年までにIFRS採用企業数が拡大する必要があるが、現在の適用企業数は10社を超える程度である。 任意適用の拡大には、日本の経営者が納得しないIFRSの会計処理についてIASBとどのように折り合いをつけるかという方向性が重要だと思われるが、この問題に対処している関係者には、この困難な方程式を短期間に解いてもらいたいと願っている。 (了)

#No. 14(掲載号)
#山田 辰己
2013/04/11
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