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林總の管理会計[超]入門講座 【第10回】「経費を分類する」

林總の 管理会計[超]入門講座 【第10回】 「経費を分類する」   公認会計士 林 總   「外注費」とそれ以外に分類する   経費予算の管理は難しい (了)

#No. 35(掲載号)
#林 總
2013/09/12

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第18回】工事契約会計②「契約変更があった場合の会計処理」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第18回】 工事契約会計② 「契約変更があった場合の会計処理」   仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広   〈事例による解説〉 受注から完成・引渡しまでの請負金額、原価予算及び発生原価は以下のとおりです。 〈会計処理〉 ① 完成工事高及び完成工事原価の計上(×1年3月期)  (*1) 1,000百万円×180百万円/900百万円=200百万円  (*2) 諸口には材料費、労務費、経費等が含まれます。 ② 完成工事高及び完成工事原価の計上(×2年3月期)  (*3) 1,100百万円×646百万円/950百万円-200百万円=548百万円 ③ 完成工事高及び完成工事原価の計上(×3年3月期)  (*4) 1,100百万円-(200百万円+548百万円)=352百万円 〈会計処理の解説〉 前回述べたとおり、工事進行基準は、工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗度を合理的に見積もり、これに応じて当期の工事収益及び工事原価を計上する方法です。したがって、これら3つの要素の見積りが変更された場合には、変更後の見積りにより工事収益及び工事原価を認識します。 ×1年3月期は見積りの変更がないため、当初の見積り(請負金額1,000百万円、原価予算900百万円)に基づき、工事収益及び工事原価を認識します。 本事例では、×1年4月1日に契約変更が行われ、請負金額が1,100百万円、原価予算が950百万円に変更されています。したがって、×2年3月期以降は、変更後の見積り(請負金額1,100百万円、原価予算950百万円)に基づき、工事収益及び工事原価を認識します。 次回は、工事損失引当金の会計処理について解説します。 (了)

#No. 35(掲載号)
#大川 泰広
2013/09/12

競業避止規定の留意点 【第2回】「競業禁止義務と秘密保持義務」

競業避止規定の留意点 【第2回】 「競業禁止義務と秘密保持義務」   特定社会保険労務士 大東 恵子   前回説明したように、現行法上「競業避止義務」が課せられるためには、企業の経営に直接関与し、企業との利害の一致が要請される。つまり、取締役や支配人、幹部労働者が対象となる。 一般労働者は、企業経営に直接関与しないため、企業と利害の一致にはならないケースが多い。ただし、一般労働者も労働契約上の義務として、使用者の秘密を保持すべき義務を負っている。 これに対し、退職した労働者が退職後も秘密保持義務を負うか否か、という点では議論が分かれている。 なお、在職中に競業行為が行われた場合には、就業規則に沿った懲戒処分が行われる。労働者は不正な競業によって使用者の正当な利益を侵害しない競業避止義務を信義則による労働契約上の付随的義務として負うことに関しては、学説・裁判判例上の争いはない。 退職した労働者が退職後も秘密保持義務を負うか否か、についての判例は以下のとおりである。 《判例1》 競業禁止を認めた判例 「新大阪貿易事件(大阪地裁・平成3.10.15)」 〔概要〕 会社は、印字機、チケット・ラベル等の製造販売会社。 被申請人Nは、会社の元営業部長である、退職後、即日、自ら代表となって新会社を設立し、退職した会社が取り扱う商品の販売を開始した。 その際、Nは在職当時会社の名で、取引先に対し会社の業務を発展的に継承すべく新会社を設立した旨の挨拶状を送付。また、Nは退職に当たり顧客情報の具体的内容を伴う引継ぎを行わなかった。退職した会社の在庫品を無断で持ち出し一部を新会社で販売、さらに、退職した会社の従業員3名中2名を新会社に移籍させたなどにより、会社の月商が10分の1程度に落ち込んだため、Nに対して競業避止義務に基づく営業停止の仮処分を申請した。 〔ポイント〕 被申請人Nの入社時の雇用契約書には競業避止義務負担特約条項がある。その特約内容は「社員である限り、かつ社員の地位を喪失後3年間に限り、(中略)商品を製造、組立、取扱い若しくは販売してはならない。」とするもの。被申請Nは、この契約書を締結していた。 〔判決〕 裁判所は、事業の性質上重要な顧客情報の利用に関し、得意先を奪うといった競業の禁止行為を、その行為の申請人(会社)に対する影響が最も大きい退職後の3年間に期間を限定し、特約によって禁止することは不合理ではなく、被申請人のいう職業・営業の選択の自由や存在権を侵すものでなく、公正な取引を害するものではない、とした。 《判例2》 競業禁止を否定した判例 「中部日本広告社事件(名古屋高裁・平成2.8.31)」 〔概要〕 控訴人は23年11ヶ月の在職の後、広告業を営む被控訴人会社を退職。退職後直ちに自営の広告代理業の経営を始めた。会社は就業規則に基づき退職金を不支給とした。 〔ポイント〕 会社の就業規則には、退職後6ヶ月以内に同業他社に就職した場合(自営を含む)には退職金を支給しない旨の定めがあった。 〔判決〕 退職金の全額不支給は控訴人に大きな不利益をもたらすものである。それが許認されるには、「顕著な背信性」がある場合に限る。 就業規則に上記の定めがあったとしても、上記①~③の理由により控訴人の退職金をゼロにすることが適当と考えられる「背信性」は認めがたいとして、退職金の不支給を無効とした。 上記判例を見ても、有形無形にかかわらず、技術、ノウハウ、顧客情報など重要となる情報を競合に流失させないため、就業規則、契約書等の作成は急務である。 (了)

#No. 35(掲載号)
#大東 恵子
2013/09/12

民法改正(中間試案)―ここが気になる!― 【第9回】「債権譲渡」

民法改正(中間試案) ─ここが気になる!─ 【第9回】 「債権譲渡」   弁護士 中西 和幸   民法改正の中間試案の中で、最も複雑なものが債権譲渡に関する部分である。 特に、債権譲渡の対抗要件を、債務者を情報センターとする方法(債務者に対する通知や債務者の承諾とする方法:現行の民法に規定される方法)と、債権譲渡登記を活用する方法(「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」により定められた方法)と二通りが並行して考えられており、結論が出ていない点が大きい。 この点が改正の中心となるようであり、実際、「法制審議会民法(債権関係)部会第74回会議(平成25年7月16日開催)」にて議論されているが、その他にも重要な点がある。   1 対抗要件 (1) 債権譲渡登記(甲案) まず、金銭債権の譲渡については対抗要件を登記とし、非金銭債権については、譲渡の事実を証する書面に確定日付を付することを対抗要件とする考え方である。 この考え方は、債務者がいわば「情報センター」として機能するため、債務者が債権者や譲渡を受けようとする者から照会を受けたりすることが煩雑であり、債権譲渡の当事者が債務者に照会したところ債務者が守秘義務を理由に回答しない等の問題が生じることもあるとのことである。これに加え、債務者を債権譲渡通知の順序を正確に把握しなければならない煩雑さから開放することや、特に金銭債権についての取引の安全を保護することを主眼とする。 もっとも、現在、債権譲渡登記は法人に限って認められているため、自然人への拡張をどのようにするか、債権譲渡があまり広く開示されると譲渡人の信用状態が拡散するおそれがあること、取引の安全のために登記申請に対するアクセスをどうするか等の解決すべき点がある。 (2) 通知(乙案) 債権譲渡登記に対し、現行民法の制度(民法467条)を基本とし、債権譲渡通知を対抗要件とする制度である。この点、乙案は、債務者の承諾は対抗要件とはならないとする案であるが、債務者の承諾を対抗要件から除く理由がないという、現行制度を維持する案も並列している。 なお、スペースの関係上詳細は省略するが、債権譲渡が競合した場合の処理についても、甲案、乙案双方とも提示されている。 (3) 権利行使要件 上記(1)(2)の対抗要件は、いずれも債務者以外の第三者に対する対抗要件である。債務者に対する対抗要件について、中間試案では「権利行使要件」と呼ばれている。甲案の場合は債権譲渡登記がなされたことを証する書面(金銭の場合)を債務者に交付しなければならないとし、乙案は、債権譲渡通知を行えばよいとし、いずれも債務者の承諾は要件としていない。 (4) 異議をとどめない承諾の廃止 債権譲渡に関する承諾に関しては、現行法上、債権譲渡の対抗要件や権利行使要件としての承諾について「異議をとどめない承諾」という制度がある。 債権譲渡において特段異議なく「承諾」をすることにより、債務者が債権者に対して主張できる事由(例えば、期限の利益、時効、相殺等)たる抗弁が、異議なき承諾により一切消滅してしまう制度である(民法468条1項)。 これに対し、改正案では、「抗弁の放棄」という、書面による特別の意思表示を要求する制度に変更している。これにより、想定外に抗弁を放棄するという不意打ちが解消されることになる。 また、債権譲渡と相殺の抗弁の関係についても整理されている。   2 将来債権の譲渡 判例上認められている将来債権の譲渡を明文化するとともに、対抗要件の具備が必要であることや権利行使要件等の関連事項についても、明確化の趣旨で明文化するものとされている。 ただし、債権譲渡後の譲渡制限特約について、債務者が譲渡制限特約を譲受人に主張できないことや、譲渡人の地位に変動があった場合の効力、また不動産賃料債権の譲渡に関する不都合の回避(詳細はスペースの都合上省略する)など、周辺にいくつかの細かな論点が残っている。   3 譲渡制限特約 現行法では、契約上、債権譲渡禁止特約を付することは有効とされている(民法468条2項)。そして、債務者としては債務の弁済先が変動しないメリットがあることから、譲渡制限特約が盛り込まれることは多い。しかし、この譲渡禁止特約は、外部から見えず、そのわりには効果が強いことから、裁判上もいろいろと問題になっている。 一方、ファクタリングやバルクセール、また債権の流動化や債権担保融資など、ファイナンスに関連する債権譲渡に関する必要性は高い。そこで、譲渡禁止特約について、中間試案では、譲渡禁止特約が債務者の利益(弁済先を確定する効力等)を保護するためのものであることを貫徹し、ファイナンスの支障となっている部分を改善しようとするものとなっている。 そのため、譲渡制限特約について善意無重過失の譲受人には対抗できないという判例を明文化したほか、債権譲渡の効力を有効とし、譲渡制限特約が有効であれば債務者は譲渡人に対して弁済や相殺をすればよいものと整理している。 最も影響が大きい事案が、譲渡人が第一譲受人(先)と第二譲受人(後)の双方に債権を二重譲渡した事例である。 このとき、第一譲受人が債権譲渡を受け対抗要件と権利行使要件を備えたが、譲渡制限特約について知っていた一方、第二譲受人が、第一譲受人の対抗要件及び権利行使要件の具備の後に、対抗要件と権利行使要件を具備した場合である。   この場合、現行法の解釈では、判例は見当たらないが、譲渡禁止特約に反する悪意者への債権譲渡が無効となることを貫徹すると、第一譲受人に対する債権譲渡が無効となり、第二譲受人が債権を有効に譲り受けることになろう。 これに対し、譲渡禁止特約と債権譲渡の対抗要件の当事者を確定する機能を切り離し、上記の事例の場合、債務者は譲受人からの履行請求に対して譲渡禁止特約の有効性を主張し弁済や相殺は譲渡人に対して行えばよいが、第二譲受人が債権を有効に譲り受ける余地はないということである。 この他に、債務不履行や債務者が破産等をした場合の処理についても譲渡禁止特約を一定の場合に対抗できないことが提案されている。   4 債権譲渡に関連する制度 (1) 債務引受 中間試案では、判例で認められてきた免責的債務引受と併存的債務引受を明文化することが提案されている。 併存的債務引受については、成立後の債務が連帯債務であること、債権者と引受人の合意又は債務者と引受人の合意であれば足り三者合意が不要であること、債権者の権利は債権者が承諾をしたときに発生することなどを明文化している。 免責的債務引受については、債権者が関与することにより債権者の損害を防止するため、効力発生時期を債権者の免責の意思表示の時とし、また債務者と引受人の合意については債権者の承諾を要件とした。さらに、担保権と保証は免責的債務引受と同時に移転することができるものとし、保証と第三者が提供した担保については第三者の承諾を要件とすることを明文化している。 (2) 契約上の地位の移転 中間試案では、実務上の一般的な理解を明文化するものとしているが、特段詳細な規定は明確にされていない。   5 実務への影響 (1) 対抗要件が未確定 債権譲渡に係る対抗要件については、中間試案に対するパブリックコメント後の現在も早い段階で法制審議会において議論されていることからわかるとおり、どのようになるか方向性が明確でない。 また、施行されるとしても、債権譲渡登記が中心となるのであれば、法務局のシステムを変更する時間が必要となるため、検討し対策を講じる時間が確保でき、焦る必要はないものと思われる。 (2) 債権譲渡登記が金銭債権に限定されていること(甲案) 債権譲渡登記が金銭に限定されている場合、金銭債権と非金銭債権が一体化している債権の譲渡(各種会員権等)については、現時点での解決策は明確でない。 (3) 債務者による承諾が選択肢から外れること 債権譲渡における権利行使要件及び第三者対抗要件から、債務者の承諾が除かれている。 現行法上は選択することが可能であったことから、債務者の承諾による便宜(例えば、債権譲渡の承諾と譲渡禁止特約に対する承諾を兼ねることや、一括決済システムのように多数の債権譲渡にかかる承諾を包括的に取ることなど)が失われる可能性がある。 (4) 譲渡禁止特約の影響 債務者が倒産した場合の処理については、ファイナンスとの影響がどの程度か明確でない。債務者が倒産した場合はもとより、譲渡人の倒産もあり得ることであり、その実務上の影響についての詳細な検討はまだ不十分なように思われる。今後の法制審議会の検討を待つことになろう。 (5) その他 債務引受と契約上の地位の移転については、全く明文がない制度を法律に明文化するものである。 明文がある制度と異なり、明文化する意義は一定程度あろうが、どのような内容が明文化されるか、また、新しい解釈が設けられるかどうかなど、不明確な点が多い。 (6) まとめ 中間試案では、一般的(何が一般的かという問題は残る)実務や判例が明文化される部分が多い中、債権譲渡については制度変更が提案されている部分が多い。この制度変更により、実務自身が大きく変化を余儀なくされる可能性があり、かつ、登記制度自身の見直しという法的制度も影響が大きい可能性がある。 法制審議会では、これほどの改正をしなければならない必要性がどこにあるかを十分検討してもらいたいところではあるが、現場としては、決定されたものに従うしかないのが現実である。 そのためには、結論が出ていない現在は準備のしようがないが、法制審議会の議論をフォローしてある程度方向性が見えた段階で対応を始めることになろう。 (了)

#No. 35(掲載号)
#中西 和幸
2013/09/12

会計事務所 “生き残り” 経営コンサル術  【第9回】「実務では変動費・固定費の区分なんて子供騙しだ」

会計事務所 “生き残り” 経営コンサル術 【第9回】 「実務では変動費・固定費の区分なんて子供騙しだ」   株式会社 経営ステーション京都 代表取締役 京セラ株式会社 元監査役 公認会計士・税理士 田村 繁和   本を読みますと、経費は変動費と固定費に分けられ、変動費は管理可能で固定費は管理不能だと書かれています。 「管理不能だ」という意味は、一度支出すれば長期間にわたって支払いが続いていくため、管理することが難しいということです。 私は学生時代に損益分岐点の本を読んで、このように学びました。そして、固定費とは家賃や地代、リース料のことをいうのだと知ったのでした。 当時は、「なるほど、このように経費を分析していき、損益分岐点を求めるのか」と感心したものでした。 しかし実際に仕事をしていて、中小企業の優秀な社長から次のように言われびっくりしてしまいました。 「俺たち会社経営する者にとっては、変動費と固定費の区分なんて全く関係ない。ましてや固定費が管理不能費だなんて、笑わしちゃいけないよ。そんな子供騙しのようなことで経営なんかできない。俺たちにとって、経費はすべて管理可能費だ。管理不能費だなんてありえない」と言われたのです。 私は「しかし、家賃や地代は一度支出を決めたら、ずっと続いていくので、管理不能の固定費になるのでは?」と反論しました。 するとその社長から「それじゃ、安い家賃の所へ引っ越せば家賃は下がる。だから家賃は管理可能費だ。 それでもあなたが固定費だと言うのなら、あなたの頭が“固定”費じゃないの」と言われたのでした。 私はその時「そう言えばそうだ。固定費だってすべて管理可能だ。事業に失敗すれば社長の自宅が失くなるのだから、すべての経費が管理可能だと思って経営していかなければ倒産してしまう」と思いました。 そしてこの業界で生きていくには、中小企業の社長の考え方をよく知っておかなければ、成功なんかしないということを教えられたのでした。 (了)

#No. 35(掲載号)
#田村 繁和
2013/09/12

〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第16回】「手術室の有効活用」

〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第16回】 「手術室の有効活用」   東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕   1 手術室の稼働率推計方法 急性期病院で入院診療収益を増加させるために最も有効な施策が手術件数の増加である。 手術料は、DPC/PDPSの環境下でも出来高で評価されており、外科系診療科においては入院診療単価のうち半分以上を占めている。2012年度改定でDPC対象病院をⅠ~Ⅲ群にグルーピングされたが、Ⅱ群病院のうち手術1件当たり外保連手術指数が最もハードルが高かった。 当該指数が高い病院は、100床当たり全身麻酔件数がⅢ群病院よりも有意に多く、手術室を効率的に利用している。つまり、高度急性期病院か一般急性期病院かの分かれ目は手術室の利用状況にあるといっても過言ではない。 図表1は、手術1件当たり外保連手術指数と100床当たり全身麻酔件数を病院ごとにプロットしたものである。 図表1 100床当たり全身麻酔件数が多い病院は、手術1件当たり外保連手術指数が高く、全身麻酔を伴う手術であれば外保連でも相応の評価がされることを意味している。しかし、横軸の100床当たりの全身麻酔件数が多く手術室を有効利用している病院であっても、縦軸の手術1件当たり外保連手術指数は基準値未満であるケースも散見される。このような病院は、2万点未満の手術割合が多く、小児の手術患者が多いなどの事情があることが推察される。 なお、外保連手術指数が高い病院と低い病院では、100床当たりの全身麻酔件数が同じであっても、手術室の稼働状況は異なることが予想される。外保連手術指数は手術の難易度や時間が考慮されているため、当該指数が高い病院の方が、長時間手術が多い傾向がみられる。 100床当たり全身麻酔件数≒手術室の稼働率と捉えるのには理由がある。全身麻酔が実施可能な手術室数は、一般的に100床当たり1.5~2部屋である。1.5部屋未満の病院は、老朽化が進んでいるケースを除いて、相応の機能を有する急性期病院では稀である。 また、2部屋を超える病院は、手術に関するアクティビティーが非常に優れているか、あるいは麻酔科医が足りない等の理由で実質的には稼働していない手術室を有する病院が多い。つまり、ほとんどのケースでは100床1.5~2部屋に収まるので、全身麻酔件数を病床数で除してみれば手術室の稼働率を推計することができる(図表2)。 図表2 100床当たり全身麻酔件数 Ⅱ群病院トップ30 2 高稼働率病院の特徴 手術室の稼働率が高い病院には3つの特徴がある。 まず1つ目の特徴は、手術室にスタッフを重点的に配置していることである。手術室の稼働率が高い病院は、手術室1部屋につき麻酔科医1名、看護師4名以上を配置している。手術件数が多いから、スタッフを手厚く配置する必要があると捉えることもできるが、手術件数の増加のためには当該部門に対して医療資源を大量に投入することが求められる。 2つ目は、超緊急手術に対応するための空部屋を持たず、予定手術が中心になっている。このような運用が可能かどうかは、地域の実情を見据えた自院の戦略が問われていると言えよう。 3つ目は、短時間手術が一定割合あり、その待機患者が多数いることである。長時間手術ばかりの病院では、手術室の稼働率は上がりづらい傾向がある。空枠があったとしても、時間が収まらない手術ばかりを実施する病院は稼働率が低くなることはやむを得ない。しかし、短時間の予定手術が一定数あれば、空枠に当てはめやすくなるであろう。   3 インターバルをどう考えるか 手術室の稼働率を高めるためには、TAT(Turn around time:ターンアラウンドタイム)を短くすることが必要であり、手術と手術のインターバルを30分以内にすることが望ましいと言われる。確かに、清掃時間等を短くし、効率的に手術室を運営することは重要である。しかし、TATは一律に何分以内にすべきとは言えない。 ある病院のTATが15分だからといって、それがすべて参考になるわけではない。大手術が多い病院は術後のTATは長くなり、比較的難易度が低い手術が多ければTATは短くなる。患者構成や術式等の状況に影響される要素も考慮に入れる必要がある。つまり、手術室の利用状況は機能が似通った病院と比較することが有効なのである。 図表3は、縦軸に手術患者に占める全身麻酔割合を横軸に100床当たり全身麻酔件数をとり、一定の機能を有する病院とするため、300床以上の病院のみを抽出している。さらに、救急とがん患者を一定以上みる病院との比較を行うため、100床当たり救急車搬送入院件数が月に25件以上、100床当たり化学療法件数が300件以上の病院のみに限定している。 図表3 100床当たり全身麻酔件数と手術患者に占める全身麻酔割合 救急に関するアクティビティーが高く、がん診療連携拠点病院並みの診療機能を有する病院だけが抽出されていることになる。この右上の象限にある病院は、高難易度手術が多く、救急も行いながら、手術室を有効に活用していることが予想される。実際にかなりの病院がⅡ群病院に指定されている。 これらの病院だけが、急性期病院として優れた機能を有していると言いたいわけではない。同機能病院との比較を通じて自院の課題を炙り出すことが必要である。また、当該図表には含まれていないが、手術室の稼働率が高い病院は病床当たりの医師数が多い傾向がある。手術を朝から実施するためには、外来機能をどう考えるかという問題が出てくるからだ。 医師数も補正した上で、自院と適切な比較対象病院を抽出して、手術室の有効活用を図ることが期待される。 (了)

#No. 35(掲載号)
#井上 貴裕
2013/09/12

顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第14回】「仕入・買掛債務管理のKPI(その① 仕入計上)」

顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第14回】 「仕入・買掛債務管理のKPI (その① 仕入計上)」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 前回までは「売上・売掛債権管理」のKPIを取り上げたが、今回から3回にわたり、「仕入・買掛債務管理」のKPIを取り上げる。 「仕入・買掛債務管理」は、販売用の商品・製品・サービス等を取得又は生産するために要する原材料、商品、役務の購入を管理する業務である。 スコアリングモデルを構成する18種類の業務の流れに照らすと、仕入・買掛債務管理は、原材料・商品・役務の購買、仕入・買掛金計上、棚卸資産管理、原価計算、決算という一連の流れの最初のトリガーとなる業務であり、そのサービスレベルが後に続く業務のサービスレベルを左右する点で重要な業務である。 そこで今回は、仕入・買掛債務管理の入口で、仕入計上の評価の妥当性、実在性を担保する業務管理の基本を問うKPIを取り上げる。 なお、調査項目では、勘定科目を重視して「買掛金計上」と呼んでいるが、仕入計上によって勘定科目として買掛金が計上されるのは周知のとおりであるので、以下では、業務の流れに即して「仕入計上」と呼ぶ。   KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 経済産業省スタンダードによれば、仕入・買掛債務管理において、会社が担う一般的な機能として、「購買業務」、「債務残高管理」、「値引・割戻」という3つの機能が挙げられる。 これらの3つの機能のうち、「購買業務」に着目してその機能を分解すると、「購入契約」、「仕入」、「期日別債務残高管理」、「決済」で構成される。 今回解説するKPIは、購買業務の最初の機能である「購入契約」と「仕入」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:仕入・買掛債務管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より)   さらに、経済産業省スタンダードでは、「購入契約」と「仕入」に関連する業務プロセスを次のようにまとめている。 購入契約では、仕入先との間で、受渡条件、決済方法等、多岐にわたる契約条件を確認し、社内の承認を経て、契約締結に至る。 契約締結後、実際に仕入を行う。仕入では、仕入先から引渡しを受けた時点で仕入を計上するが、どの時点で引渡しを受けたと認めるかによって、発送時、入荷時、検収時、消費時、支払時等が実務で採用されている。 これらのうち、経済産業省スタンダードでは、「入荷基準」と「検収基準」について業務プロセスをまとめている。いずれも、証憑と契約内容に基づいて仕入事実を確認し、仕入計上を行うという流れとなっている。 今回のKPIは、仕入計上の基本である仕入事実を確認する業務を安定的に運用する重要性に着目し、仕入先から入手すべき証憑を文書化しているか否かを問うものである。 〈経済産業省スタンダード:2.1.1契約条件検証〉   〈経済産業省スタンダード:2.2.1仕入計上(入荷基準)〉   〈経済産業省スタンダード:2.3.1仕入計上(検収基準)〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より)   定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 「仕入形態」とは、仕入先との契約に定める所有権移転要件に基づき、仕入先から購入する原材料や商品の所有権移転に伴う危険負担がどうなっているか(委託仕入、消化仕入、買取仕入)という観点や、仕入計上基準(入荷基準、検収基準)の観点等によって区別された仕入の類型をさす。 所有権移転に伴う危険負担の問題と仕入計上基準の問題は相互に関連するが、危険負担の分類を終えてから、仕入計上基準を整理するのが分かりやすいと思われる。 例えば、買取りであれば、受渡しによる所有権移転に伴い危険負担も移転するので、残る問題は、いつ所有権が移転したのかという仕入計上基準に帰着する。ところが、委託仕入では、原材料や商品の受渡しが発生するものの、そもそも仕入を観念しない。 また、所有権を留保する消化仕入や消化率仕入では、上場企業等で適用が検討されている国際財務報告基準(IFRS)を採用した場合に収益の純額表示が論点となるが、それとの表裏一体として、仕入計上要件を実態に即したものに整理するという吟味が必要となる。 「仕入品目別」とは、成分や重量の変化が仕入金額に影響を与える場合の品目の分類や、仕入金額に計上する諸掛の分類をさす。 「書類」とは、購買取引の実在性と金額の正確性を照合することができる証憑をさす。 入荷基準の場合、納品書や送付状だが、検収基準の場合、自社が作成した検収報告書控、返品や値引を要請する場合の仕入先による返品物品受領書、値引合意書の追加が考えられる。   KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルにおいて、このKPIを設定したのはなぜか。 価値判断は極めて単純であり、このKPIは、物品又は役務の購入取引に基づく適正な仕入計上を担保するため、証憑を明確化することが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 要するに、いつ、誰(仕入先)から、何を、いくらで(単価)、いくつ(数量)、どのような支払条件で仕入れたかを証憑で把握できるようにすることが重要ということである。 しかし、適正な仕入計上のために何が必要となるかという問題は、実務においては意外に複雑である。 筆者(株式会社スタンダード機構)がこれまで行った業務改善コンサルティングで見聞した経験則では、どのような仕入計上基準を採用するかにかかわらず、特殊な品目を輸入する場合、適正な仕入計上のためには、船荷証券、商業送り状に加え、重量や成分を証明する通関書類が必要となる場合が多かった。 また、仕入先から販売先に直送する会社が未着取引を行う場合、売上と仕入において、それぞれの数量と単価を改竄し売上総利益を嵩上げする不正を隠蔽するため未着品勘定を計上する不正手口があるので、内部統制の設計に工夫が必要となる。 そういうわけで、筆者の実感としては、適正な仕入計上のために必要な証憑は何かという問題は、仕入計上基準だけで安易に形式的に定義できるものではなく、その会社の仕入形態や購入する仕入品目の中身に応じて実質的に検討されるべき問題であると捉えている。   顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まず、読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、購買業務に関連する業務プロセスが仕入・買掛債務管理に組み込まれていることを確認いただきたい。その上で、購買業務における仕入計上に関して定めた文書を特定する必要があるが、どのような文書が考えられるだろうか。 例えば、購買規程や経理規程を閲覧していただきたい。さらに、必要に応じて、売買契約書も閲覧していただきたい。 それらに、顧問先の実態に即して取引形態が整理されていること、特殊な品目の対応、諸掛の仕入計上に必要な証憑が明記されていること、さらに、社内で発注を希望し証憑を活用する主管部門、購買部門、経理部門の職務分掌が定められていることを確認することが考えられる。 さて、読者の顧問先の規程に、仕入形態別又は仕入品目別に、買掛金計上のために仕入先から入手すべき書類は定められていただろうか。 *  *  * 次回も引き続き「仕入・買掛債務管理」を構成する複数のKPIのうち、「仕入値引等対応」に関連する業務プロセスを評価するKPIを取り上げる。 (了)

#No. 35(掲載号)
#島 紀彦
2013/09/12

《速報解説》 「金融商品取引法第六章の二の規定による課徴金に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」の改正ポイント

《速報解説》   「金融商品取引法第六章の二の規定による課徴金に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」の改正ポイント   宝印刷総合ディスクロージャー研究所 顧 問  小谷  融 (大阪経済大学教授) Ⅰ 改正された内閣府令 金融商品取引法等の一部を改正する法律(平成24年法律第86号)の一部の施行日を定めた「金融商品取引法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」(平成25年政令第257号)が平成25年9月4日に公布され、同法律の一部の施行日は平成25年9月6日とされた。 これに伴い、平成24年金融商品取引法等改正(1年以内施行)等に係る政令・内閣府令として、「金融商品取引法施行令等の一部を改正する政令」(平成25年政令258号)及び「金融商品取引法第六章の二の規定による課徴金に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(以下「改正内閣府令」という)(平成25年内閣府令第58号)が平成25年9月4日に公布され、平成25年9月6日から施行された。 改正内閣府令には、「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令(以下「有価証券取引府令」という)の一部改正」及び「企業内容等の開示に関する内閣府令(以下「(開示府令)」という)の一部改正」が含まれている。   Ⅱ 主な改正内容等 (1) 改正の背景 上場会社の決定事実や発生事実がインサイダー取引の重要事実に該当するか否かの判定基準に「軽微基準」がある。この軽微基準は、投資家の投資判断に及ぼす影響が軽微なものについては、規制の対象となる事実から除外するためのものである。 改正前の軽微基準は、会社に係る事実に関し、会社の単体の売上高や純資産等との対比で一定水準未満の影響しか生じない事実について、類型的に投資家の投資判断に及ぼす影響が軽微なものと定められていた。これに対して、関係者から純粋持株会社に対する投資家の投資判断は、連結ベースで行われているとの指摘があった。 このため、有価証券取引府令が改正され、上場会社が純粋持株会社等(特定上場会社等)(注)の場合には、インサイダー取引の規制の対象とならない重要事実の軽微基準のうち、上場会社の規模との対比で定められる数値基準について、連結ベースの係数を用いることとされた(第49条~第53条)。 (注) 有価証券報告書に含まれる最近事業年度の損益計算書において、関係会社(財務諸表等規則第8条第8項に規定する関係会社をいう)に対する売上高(製品売上高及び商品売上高を除く)が売上高の総額の100分の80以上であるものをいう(有価証券取引府令第49条第2項)。   (2) 開示府令の改正内容 上場会社が純粋持株会社等(特定上場会社等)に該当する場合には、その旨及びその内容を有価証券報告書等の【事業の内容】に記載することとされた(開示府令第2号様式記載上の注意(27)c、第3号様式記載上の注意(7)、第8号様式記載上の注意(14))。 これは、上場会社が純粋持株会社等(特定上場会社等)に該当する場合には、インサイダー取引の軽微基準に連結ベースの係数が用いられることを注意喚起するためのものである。   Ⅲ 適用時期 改正府令施行の日(平成25年9月6日)以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書について適用される。 (了)

#No. 34(掲載号)
#小谷 融
2013/09/05

monthly TAX views -No.8-「消費税にまつわる“3つの神話”」

monthly TAX views -No.8- 「消費税にまつわる“3つの神話”」   中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹   消費税率を来年4月から8%に引き上げる(かどうかの)決断ができない。 政治家が「増税を回避したい」という気持ちは分からないではないが、そうであるなら、国際公約となっている財政目標達成のための代替案(例えば社会保障の歳出削減など)を示すべきだろう。 それもなく、景気回復に水を差さないかどうか見極めて、という慎重な対応ぶりだけでは「決められない政治」への逆戻りである。 ところで、決断をギリギリまで引き延ばす背景には、消費税にまつわる“3つの神話”がある。 1つ目は、1997年のトラウマである。 97年の消費税率の引上げが、その後の長期にわたるデフレ経済の引き金になったという見解だが、この議論が正しいかどうかは、消費税率引上げ前後の経済動向を詳細に見ていけば分かることである。 この点については、すでに多くの経済学者が結論を出している。 それは、「97年4-6月期は、消費税率引上げによる購買力の減少と駆け込み需要の反動で、実質経済成長は大幅に鈍化したが、7-9月期は、それを乗り切り実質経済成長や実質消費支出は前期比、前年同期比両方ともプラスとなった。問題は10-12月期で、アジア金融危機に加えて山一証券など国内金融危機が発生した結果、わが国経済は今日までの停滞に陥った」という見解である。 消費税率の引上げが経済にマイナスの影響を及ぼしたことは事実だろうが、その後の停滞の主因ではないということである。 2つ目は、1つ目に関連するのだが、「消費税率を引き上げても、景気悪化のため所得税収や法人税収が落ち込むので、増税の意味はない」というものである。 これは97年の消費税率引上げ以降、税収は落ち込んだまま、という事実を前提にした議論である。 国の一般会計税収をみると、97年は54兆円で2013年度は43兆円と確かに落ち込んでいる。しかしこれは、100年に一度と言われるリーマンショックがあったせいであり、リーマンショック前後を比較することはフェアではない。 そこで、97年とリーマンショック前の07年とを比較してみよう。 07年度は51兆円と、97年の54兆円から税収は減っている。しかしこれは、小渕減税(所得税・法人税合計6.6兆円、所得税についてはその後2.7兆円取り戻し)と小泉内閣時の国から地方への税源移譲(3兆円)の結果である。 この分を補正すると、07年の税収は所得税、法人税共に97年と比べて上回っている。 つまり、「消費税を増税しても所得税・法人税が減少するから意味がない」という言い方も事実に反することになる。 3つ目は、「経済成長すれば増税は必要ない」という考え方である。 名目経済成長を1%とした場合、税収が何%増えるかという比率は“税収弾性値”と呼ばれている。 税収の伸び率と名目成長率の双方が安定していた1980 年代の税収弾性値は1.3 程度である。これを前提とすると、経済成長が実質2%、名目4%となる場合、税収の伸びは5%強(4×1.3=5.2)である。本年度の税収が43兆円だから、税収増は2兆円程度となる。 しかし、名目4%の経済成長のもとでは、金利も2%程度は上がっている。すると、利払い費は少なくとも1兆円増加する。加えて、社会保障の自然増が1兆円強あるので、どうやっても財政健全化には回らない。 ある論者は、「2000年代の税収弾性値は平均して4程度あった」と言うが、この間は経済も税収もマイナスなので、弾性値の意味はない。 もう1つ、金利が上昇すれば、金融機関の抱える大量の国債に含み損が生じるので、彼らの貸し渋りを通じて、中小企業の倒産をもたらす可能性がある。まさにパニックの引き金となる可能性が高い。 このような“3つの神話”を冷静に分析し、乗り越えることこそ政府の役割である。 消費税率引上げの先延ばし観測が、結果的に景気の足を引っ張っていることを忘れてはならない。 (了)

#No. 34(掲載号)
#森信 茂樹
2013/09/05

〔書面添付を活かした〕税務調査を受けないためのポイント 【第1回】「税務調査が来ない企業とは」

〔書面添付を活かした〕 税務調査を受けないためのポイント 【第1回】 「税務調査が来ない企業とは」   公認会計士・税理士 田島 龍一   1 税務調査の実調率 (税務調査は税務項目ごとにありうるが、本連載では断りがない限り、法人税の税務調査を対象とする。) さて、日本の申告法人数は約255万社であり、そのうち利益法人は約64万社(25%)である。 一方、税務職員は約5万名だが、そのうち調査担当者数は限られる。 さらに消費税等税目の増加、取引の国際化、金融取引等取引自体の複雑化等があり、また、平成25年1月より適用されている国税通則法の改正による調査手続の負荷等によって、実調率を上げることは困難になりつつある。 年間に税務調査を受ける会社数は約14万社であり、申告法人数に占める割合は約5%。単純計算すると、調査は20年に1回の計算になる。しかし、仮装・隠蔽等の不正を行っている企業は別であるが、赤字企業に増差額が出ても結局赤字により納税がなければ、税務調査は効率的ではないとされる現状がある。 こういったケースを除くと実調率は約22%となり、一般に言われている「5年に1回くらいは調査される」ということになる。 いずれにしても税務当局は、効率的な税務調査対象の選定等の実行を目指していることは明らかであろう。   2 「税務調査が来ない企業」と「それを育てる会計事務所」 では、「利益が出ていても税務調査が来ない中小企業」というのはあるのだろうか。 筆者の知る、ある中堅税理士事務所は、10名程度の職員を有し数多くのクライアントを指導しているが、ここ数年、クライアントが税務調査を一切受けていない、というところがある。 その背景に何があるかというと、その事務所では、すべてのクライアントの税務申告書に「書面添付」をしているのである。 書面添付制度について、クライアントに説明をし、理解を得た上で、そのための準備をし、徹底指導をして必要十分な根拠を確認し、決算及び申告書を作成している。その上で、税務調査官の目線で書面を作成し添付する。 重要な点は、金額の重要性がないものはいい加減でよしとはせず、少額なものについてもきちんとした処理を行っておくことである。すると税務調査官は、「ここまできちんとしているのだから、この会社(指導している会計事務所)の申告には、間違いはないであろう」との印象を持つという。 事実、この税理士事務所では、現状では税務調査通知前の税務職員から税理士への意見聴取で、すべて終わっているとのことである。 書面添付制度をここまで徹底して利用している税理士事務所があると知り、筆者も驚きであった。   3 税理士と税務当局の協力 日本の主要な税務項目である法人税・所得税等は、申告納税制度を原則としている。すなわち、納税者が自ら1年間の経済活動の取引を会計記録し、それに基づき法令に従って自らが課税所得と税額を計算し、税務当局に申告し納税する制度である。 この制度を適正に行うことを支援するのが税理士の役割である。税理士は独立の立場で、納税者の税務代理として会計帳簿の整理や申告書の作成・提出を行う。 一方、税務当局側が、納税者が申告した書面が事実に基づき適正かつ適法に処理されているかをチェックする制度が税務調査である。 つまり、申告納税制度と税務調査は、どちらも適正な会計処理と税法に基づく適法な申告を行うことを、その目的とする制度である。 したがって、原理原則として、税理士と税務当局の両者が協力し合って、適正な税務行政を確立することができると考えられる。 このことを実現しているのが、上記で紹介した税理士事務所であろう。 では、このようなことを実現しうる「書面添付制度」について見ていきたい。   4 「書面添付制度」の有効活用 「書面添付制度」は、平成13年度の税制改正と事務運営指針の改正により大幅に改善され、「税務調査」通知前に、「書面添付」をし、かつ、「税務代理権限証書」を提出した税理士からは、必ず、書面添付に関する内容につき「意見聴取」を行うことが義務付けられた。 税務調査の選定は、過去の会計データや申告書のデータ分析等により、異常が認められる企業や所得の多い企業等が選定対象となると思われる。税務調査においては、調査官として税務申告書に記載された金額が事実に基づき正確に記載されているかを確認でき、疑問点が解決されれば、本来税務調査を行ったのと同様な目的を達成できることになる。特に、収益の計上漏れがないか、費用の水増しはないかが主なポイントになり、特定科目の著しい変動の原因については合理的な説明が求められる。 それらの不安を「書面添付」において適切に解消でき、税務職員に対して安心感を与えることができれば、臨場調査を省略しうるのは当然である。 それを具体的に担保する手続として、税務署では、税理士への意見聴取時に「応接簿(意見聴取用)(別紙1)」が作成され、その記載要領も指定されている。 意見聴取の結果、税務調査を行わない判断をした場合には、その通知「意見聴取結果についてのお知らせ(別紙2)」が発行される。 「応接簿(意見聴取用)(別紙1)」 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます(国税庁ホームページへ)。 「意見聴取結果についてのお知らせ(別紙2)」 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます(国税庁ホームページへ)。 しかし、実際には、多くの中小企業は会計処理能力に乏しく、会計事務所に記帳代行を依頼し、「会計及び税務のことは会計事務所に任せています」という企業もかなり見受けられる。 このようなクライアントを抱えている税理士事務所では、先ほど紹介した税理士事務所のように、すべてのクライアントに「書面添付」を行うことは困難であろう。 なぜなら書面添付は、税理士の責任において作成するのであり、その内容に虚偽記載があれば、罰則の対象になりうる。書面添付は、税理士自身が税務調査官であるとしたとしても適切な根拠・法令に基づき正しく申告していると確信がもてる内容であるときにのみ、添付可能となるのである。 書面添付はe‐Taxと比較して人気がないのが現状であるが、次回は、「書面添付制度の概要とその現状」について取り上げる。 (了)

#No. 34(掲載号)
#田島 龍一
2013/09/05
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