親族図で学ぶ相続講義 【第4回】 「数次相続と遺産分割(その3)」 司法書士 Wセミナー専任講師 山本 浩司 さて、前回(2013年3月7日 No.9)は、甲野太郎が所有していたX不動産を(亡)甲野一男に相続させることに成功しました。 次の問題は、第二の相続(平成24年4月10日に甲野一男が死亡)において、X不動産を甲野一郎に相続させるための方法です。 第二の相続における相続人は、甲野桜子(配偶者)、甲野一郎(長男)、甲野次郎(次男)の3名です。この3名はすべて存命ですから、この点についてはややこしい問題はありません。 しかし、第二の相続における難問は、甲野一郎(長男)と甲野次郎(次男)が未成年者であることなのです。 つまり、単純にこの三者で遺産分割をすると、次のカタチになってしまうのです。 上記のパターンは、親と子の利益相反行為に当たります。 利益相反とは、「親にとって得であれば子にとって損、子にとって得であれば親にとって損」というパターンのことです。 遺産分割で共に相続人である親子において親が子を代理すると、親が好きなようにその内容を決定できますから、子の損害の元に親が利得を図る可能性が生じます。 そこで、こういった場合は、「親が子を代理することはできない」というのが民法の考え方です(無権代理となる)。 つまり、次のパターンはアウトなのです(遺産分割協議の末尾)。 本事例では、X不動産は子の甲野一男が相続するのだから、親に利得はないようにも思えます。 しかし、判例は、親と子の利益相反についてはその行為の外形から判断する(外形標準説)という考え方です(最判昭42.4.18 親の内心や行為の意図を問題としない)。 ですから、「親子間で遺産分割をすること」自体が利益相反行為となります。 さらに本事例では、子と子の利益相反もあります。 遺産の分割により「長男にとって得であれば次男にとって損、次男にとって得であれば長男にとって損」という関係が生じています。 この場合、親権者は、その双方を代理することができません。 つまり、次のパターンもアウトなのです(遺産分割協議の末尾)。 さて、今日の結論に入りましょう。 では、こういう場合はどうしたらよいか、以下に条文を引用します。 要するに、親権者が子を代理することができないので、家庭裁判所の手を借りて、子を代理する人(特別代理人)をわざわざ選任しなければならないのです。 本事例は、1項の利益相反と2項の利益相反の双方が存在しますから、親権を行う者(甲野桜子)が家庭裁判所に選任を請求すべき「特別代理人」の数は「2名」です。 そして、特別代理人(通常は、叔父や叔母など利害関係のない親族を起用する)を選任する手続が終わった後に、次の内容の遺産分割をすれば目的(X不動産を甲野一郎の名義とすること)を達成することができます。 (了)
「石原産業役員責任追及訴訟 第一審判決」から読む 会社経営者としての責任の分水嶺 【2】 弁護士 中西 和幸 8 本判決上の区分 本判決では、Y1以外の取締役の注意義務違反行為を、 の2種類に義務を分類し、その中で、 に区分して責任の有無を論じている。 以下、責任の有無について紹介する。 9 QMSに関する調査・確認義務違反として責任が認められた取締役 (1) 工場長としての責任について ア Y5について まず、取締役Y5に対して問われた責任は、顧客から回収を要請され、実際に回収せざるを得ない商品を他の顧客に販売・搬出することについて、Y1がQMSを遵守していたかどうかの調査・確認義務違反であり、フェロシルトが最初に売却・搬出される意思決定がなされた平成13年8月6日の推進会議や同月10日付の稟議が争点とされていた。 石原産業には平成7年6月1日に制定された品質マネジメントシステムにかかるマニュアルであるQMSが制定されており、Y5は、四日市工場長として、この社内マニュアルにY1が違反してフェロシルトを搬出したか否かを調査・確認することを怠ったとして、善管注意義務違反が認定されている。 イ Y6について これに対し、その後に工場長に就任したY6については、QMSが履行されているか否かを調査・確認する義務はなかったとして、責任を認めていない。 ウ Y23について Y23については、工場長に就任していた期間中はフェロシルトが販売・搬出されておらず、そもそもQMSは、四日市工場長としてのY23については、問題にならないとしている(もっとも、Y23については、四日市工場長としての経験や知識等が、その他の善管注意義務違反を基礎付ける根拠となっている)。 エ 小括 このように、四日市工場長としての責任については、四日市工場がフェロシルトを生産、販売、搬出しており、フェロシルトが販売・搬出された際にQMSに違反していたかどうかをY1の上司として確認する義務があったとして、Y5について責任を認めており、一方、Y6については、善管注意義務違反が認められていない。なぜであろうか。 オ Y5の責任を認めた根拠 Y5について責任を認める根拠となった事実として主要なものを挙げると、 を読み取ることができる。 このように、工場長であるならば、社内マニュアル違反であることを認識することができ、販売や搬出を止めるべきであったと認定しているのである。 カ Y23の責任を認めなかった根拠 これに対し、判決は、Y23については取締役四日市工場長としての責任は、その任期中はフェロシルトのQMS違反が問題にならないこと、すなわちQMS違反が問題となった平成13年8月頃はすでに四日市工場長の職務から離れていたとして、認めていない(ただし、後述するとおり、Y23については、推進会議の構成員としての責任を認定している)。 キ Y6の責任を認めなかった根拠 一方、Y6については、部下等や会議体での報告においてフェロシルトの開発、生産について、QMSが実施されていないことを疑わせるような報告がされたことはなかったことや、会社が平成14年5月以降三重県と共同でフェロシルトに関する特許を出願し、また、三重県との共同研究を実施したという事実を認定し、その事実から、フェロシルトの開発、生産、管理、搬出がQMSに沿ってされていないことを疑わせる事情を認識しておらず、認識し得た状況にもなかったと判断している。 ク まとめ 以上のとおり、四日市工場長としての責任はY5が負っている一方、Y6及びY23については、工場長としての責任を負っていない。それは、工場長としての責任を問われた根拠が、平成13年8月6日開催の推進会議の会議までにQMS違反を認識することができたにもかかわらず販売・搬出を阻止しなかった責任が問われているため、当時の四日市工場長であったY5のみが責任を問われているのである このように、本判決では、工場長という抽象的な地位に基づく責任ではなく、具体的にQMSに沿っていない商品の販売を阻止できたかどうか、こうした阻止の機会における事実認識や権限等が問題となっているものと解される。 (2) 実行本部構成員の責任 実行本部は、平成5年度から9年度にかけて発生した赤字決算解消のための会議体であり、平成9年4月頃に設置され、平成11年1月9日に解散した。 そして、実行本部の構成員が、フェロシルトの生産が開始された平成11年1月当時、その経歴、属性や認識していた事情に照らして、フェロシルトについて、QMSの開発が完了せず、フェロシルトの安全性規格が整備されず、安全性が確認されないまま、将来搬出されることにより、重金属や放射線による環境汚染を生じさせ、会社に回収費用等の損害が生じることを予見し得たといえる場合に責任があるとした。 そして、取締役毎に重金属等による環境汚染の予見可能性及びQMSからの逸脱の予見可能性の2点を検討し、実行本部の構成員である取締役全員について、責任がないものとした。なお、Y23も実行本部の構成員であるが、実行本部の構成員としての責任は認定していない。 (3) 推進会議構成員の責任 推進会議は、コア事業である酸化チタン事業の事業構造を改革し高収益率の事業に発展させるための会議体であり、平成13年6月28日に設立が決定された。そして、推進会議は、本部会と実行委員会から構成され、本部会の構成員は、会長(Y7)、社長(Z2)、副社長(Y21)、専務取締役(Y23、Y21、Y5)、常務取締役(Y14)、取締役(Y22)であった。また、実行委員会の構成員は、委員長(Z2)、委員長代行(Y5)、副委員長(Y22)、委員長付(Y1 ほか2名)、事務局長2名、委員7名であった(いずれも平成13年6月28日当時)。 本判決は、こうした推進会議の構成員について、その経歴や属性に基づく見地から、フェロシルトの安全性や適法性に問題があることを認識し、認識し得た場合には、安全性や適法性の面からの社内規程の遵守を含めた調査・確認をすべき注意義務を負うことになるとの基準を示した。 そのうえで、Y23、被告Y5、被告Y1を除く取締役については、フェロシルトの受入れがT国際空港から既に断られていることを知らなかったのであるから、Y1やY5の虚偽の説明に依拠したことを前提として、フェロシルトについてQMSから逸脱した運用がされていることを明らかに認識し得たなどの特段の事情がないとして、その担当していた職務上知り得た知識、経験に照らして、上記計画や報告の是非について検討すれば足りるというべきであるとし、責任を認めなかった。 一方、Y5、及びY23について、その役職と属性及びフェロシルトに関する認識から、QMSの内容を詳細に把握しておくべき立場にあり、QMS違反に関する調査・確認を怠ったとして責任を認めたのである。 Y23については、工場長の責任ではないが、四日市工場長の時期を含め、長年四日市工場に勤務しており、また、平成11年6月以降は、四日市工場長ではなく、会社全体の品質管理状況の把握を業務とする品質保証部を統括する地球環境本部長を務めていた職歴等に基づき、QMSの内容を詳細に把握しておくべき立場にあったと認定した。 さらに、平成13年5月には、T国際空港からフェロシルトの受入れが断られたと聞いたにもかかわらず、平成13年8月6日午後の推進会議本部会において、ゴルフ場の整地用、石材採掘跡の埋立用、茶畑造成用、ゴルフ場調整池埋立用という用途でフェロシルトを搬出する旨の本件新規搬出計画の報告を受けたのであるから、QMS上は本件新規搬出先の用途に応じた開発が別途必要であるはずなのに、開発期間が短すぎるのではないかという疑問を抱いてしかるべきであり、QMSから逸脱した運用がされていることを認識し得たといわざるを得ないと認定している。 Y5については、推進会議の実行委員としては平成13年8月6日の推進会議本部会の説明そのものが過失であると結論付けたわけではないが、同本部会において虚偽の説明をしたことが、フェロシルトの販売・搬出が当時QMSに従っていなかったことを認識することができた根拠として取り扱っている。 以上のとおり、Y5については、工場長であることの責任と同時に、推進会議の構成員という視点からも、その責任を問われているものと解される。 (4) フェロシルト生産・搬出開始時の取締役 本判決では、実行本部や推進会議の構成員ではなかったもののフェロシルト生産・搬出開始時の取締役であった者の責任も検討している。これらの取締役については、役職と属性及びフェロシルトに関する認識を検討したうえで、QMS違反を認識し得なかったとして、責任がないと認定している。 (5) まとめ 本判決では、QMS違反に対する調査・確認義務違反について、Y5及びY23についてのみ責任が認められている。 その認められた責任を見る限り、不良品(本件の場合は、環境を汚染する有害物質が流出する可能性がある商品)が販売・搬出されることを防止する責任がどの取締役にあるか、といった点につき、Y5及びY23にあるものと結論付け、その方法として、QMSのとおりに業務が行われているかどうかをチェックすれば搬出防止が可能であったとし、Y5及びY23についてはこれが可能であったと述べられている。 そのため、賠償すべき損害については、会社が負担した回収費用が認定されており、産業廃棄物処理法違反による罰金が当該損害に算入されていないことに注目したい。 本解説記事は、裁判所が公表した判決文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121119105409.pdf の記号を使用しています。 参考文献 資料版商事法務342号131頁以下(但し、上記判決文と記号が一部異なる) (了)
NPO法人 “AtoZ” 【第1回】 「NPO法人とは何か」 税理士 岩田 聡子 1 NPO法人とは? 平成24年4月に改正特定非営利活動促進法(以下、「NPO法」という)が施行された。 これは、特定非営利活動法人(以下、「NPO法人」という)を新しい公共の担い手として、医療、福祉、子育て、その他様々な分野の市民活動をさらに公益活動に生かしていくことが期待されており、そのための法整備を行う改正である。 その前段階として、平成22年7月にNPO法人会計基準が公表されたことにより、それまでNPO法人ごとに異なっていた会計基準も統一されていた。 現在のNPO法人数は47,000余(H25/1/31現在、内閣府NPOホームページより)であり、その活動も介護から市民イベントまで多種多様であるが、これからもその数が増えていくことが予想されている。 ただし、「NPO法人」という名称は知っていても、「NPO法人とは何か」を知っている読者は少ないかと思われる。また、すでにご存知の読者も、本連載により、改めてNPO法人の活動について、理解を深める一助としていただければと思う限りである。 NPOとはNonprofit Organizationの略語で、非営利組織の総称であり、ここでいう非営利とは「収益を分配することを目的としないこと」である。 NPO法人とは、このNPOのうち、特定非営利活動を行うことを主たる目的として、NPO法による要件を満たし、法人格を与えられた社団で、正式名称を「特定非営利活動法人」という。 2 特定非営利活動とは? 特定非営利活動とは、以下のいずれにも該当するものをいう。 上記(1)で定める20分野は、以下のものをいう。 なお、上記(2)の「公益の増進に寄与することを目的とするもの」とは、法人の活動により利益を受ける者が特定の者のみに限定されず、広く一般の利益となる活動である。 3 NPO法人となるための要件 NPO法人となるための主な要件は、次のとおりである。 4 NPO法人となるメリットと情報公開 任意団体での活動では、公的な法人格がないため、NPO名での銀行口座の開設や不動産の契約、登記等ができないが、NPO法人となって法人格を持つことにより、これらをNPO名義で行うことが可能となる。 また、法人格を持つことにより、任意団体での活動に比べ、社会的な信用も増すことが期待できる等のメリットがある。 ただし、NPO法に従って法人を運営しなければならず、その運営上、NPO法人の主たる事務所や所轄庁において、情報公開をしなければならない。 なお、税法上では、人格のない社団等と同様に収益事業を行った場合、納税義務が生ずることとなるので、収益事業に該当するかしないかについては、特に注意を払うべきである。 次回は、NPO法人の認証申請から登記までの流れについて紹介する。 (了)
〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第5回】 「DPC/PDPSにおける医療機関別係数」 東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕 DPC/PDPSでは、医療機関別係数が存在し、医療機関ごとの係数に基づき診療報酬の支払いを受ける。DPC/PDPSが包括払いだからといって、必要な検査や投薬を行わない粗診粗療は行うべきではなく、大切なことは王道に立ち返り、医療機関別係数を高めることである。医療機関別係数が高い病院と低い病院では1.5倍の差がついており、1点10円全国一律が診療報酬の常識である中で、特別な存在ともいえる。 医療機関別係数は、基礎係数、暫定調整係数、機能評価係数Ⅰ及び機能評価係数Ⅱの4つから構成されている。このうち、機能評価係数Ⅰは、主に医療機関の構造的な側面が評価されたものであり、7対1入院基本料などDPC/PDPSに固有のものではない(図表1)。係数の金額的な重みは今のところ大きく、体制を整備し、施設基準等の届出を適切に行うことが期待される。 図表1 機能評価係数Ⅰ(一部) 次に基礎係数は、2012年度診療報酬改定で導入されたものであり、医療機関群ごとに異なる係数設定が行われている。基礎係数における医療機関群は、Ⅰ群・Ⅱ群・Ⅲ群の3群から構成されており、Ⅰ群が大学病院の本院(80病院、基礎係数:1.1565)、Ⅱ群が大学病院本院に準ずる高診療密度を有する病院(90病院、基礎係数:1.0832)、Ⅲ群がその他急性期病院(1,335病院、基礎係数:1.0418)とされている(図表2)。 図表2 調整係数の見直しに係る対応と経過措置 暫定調整係数は、DPC/PDPSが導入された当初より、前年度並みの収入を保証する役割を果たしてきたものであり、平成30年までには廃止されることになっている。ただし、現状では暫定調整係数の高い医療機関も存在し、これらの医療機関は今後、他の係数を高めなければ大幅な減収になる可能性がある(図表3)。 図表3 暫定調整係数/機能評価係数Ⅱ 全国トップ30病院 暫定調整係数には、その性格が不明瞭であるという批判もあり、また、地域差も存在する。特に北海道は当該係数が高く、出来高算定時代に標準化が進んでいなかった、あるいは標準化しづらい患者が多かったということを意味する可能性がある(図表4)。 図表4 都道府県別 暫定調整係数の平均値 最後に機能評価係数Ⅱが医療機関の質的面からの機能を評価したものであり、6項目から構成されている(図表5)。 図表5 機能評価係数Ⅱの見直し 2012年度診療報酬改定において、地域医療係数、救急医療係数、データ提出係数については多少の変更が加えられたが、基本的な仕組みは変更されず、今後も大きな方向性は変わらないものと予想される。 2012年度診療報酬改定では、前述したように、医療機関群の設定が行われ、DPC対象病院全体で評価された項目(データ提出係数、効率性係数、救急医療係数)と医療機関群ごとに評価された項目(複雑性係数、カバー率係数、地域医療係数)に分かれた。 今後、暫定調整係数が廃止され、機能評価係数Ⅱのウェイトが高くなるため、当該係数の向上に向けた取組みが期待される。 (了)
《速報解説》 金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う 金融庁関係内閣府令の整備等に関する内閣府令の一部を改正する 内閣府令の改正ポイント 宝印刷総合ディスクロージャー研究所 顧 問 小谷 融 (大阪経済大学教授) 研究員 増田 美和 Ⅰ 改正された内閣府令 「金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う金融庁関係内閣府令の整備等に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第14号)が平成25年3月29日に公布された。 Ⅱ 主な改正内容等 平成21年6月24日に公布された「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(平成21年法律第58号)。以下「改正法」という)による金融商品取引法の改正により、「有価証券の売出し」に係る開示規制は大きく見直しが行われた。これらを実施するための政府令に、平成21年12月28日に公布された「金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う金融庁関係内閣府令の整備等に関する内閣府令」(平成21年内閣府令第78号。以下「改正府令」という)がある。 改正法による改正前の法23条の14第1項ただし書に基づき、日本証券業協会の規則に定めるところによる有価証券の内容等を説明した文書(外国証券内容説明書)を投資者に交付することなどにより「海外発行証券の少人数向け勧誘」が行われた有価証券(少人数向け勧誘対象海外発行有価証券)が存在していた。 改正法により、この「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」を開示の行われないまま転売するには、「外国証券売出し」(法4条1項4号、27条の32の2)又は「少人数私売出し」(法2条4項2号イ・ハ)を行うことが必要となった。しかしながら、その「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」が「外国証券売出し」の対象有価証券に該当しない場合には、「少人数私売出し」を行うことになり、転売制限が付される。 その結果、改正前に、譲渡制限が付されていない「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」を取得した投資者がそれを売却する際には、一括譲渡以外の譲渡が禁止されるなどの譲渡制限が付されることとなり、売却が困難となることがある。このため、「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」のうち、「外国証券売出し」の対象有価証券に該当しないものについては、平成25年3月31日までの間、「少人数私売出し」の要件を「改正前の外国証券内容説明書を交付すること」とすることができるとされた(改正府令附則4条1項)(注)。 (注) 谷口義幸「有価証券の売出しに係る開示規制の見直しの概要(上)」『商事法務』No.1902(2010.6.25) これにより、「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」を転売する際には、一括譲渡以外の譲渡が禁止される等の譲渡制限は付されず、その勧誘の相手方に外国証券内容説明書を交付することにより、「少人数私売出し」を行うことができることとなった。なお、この場合、「少人数私売出し」である旨の告知を勧誘の相手方に行う必要がある(法23条の13第4項) 本改正は、「少人数向け勧誘対象海外発行有価証券」について、「少人数私売出し」の要件に関するこの経過措置を3年間延長し、平成28年3月31日までの間とするものである。 Ⅲ 適用時期 平成25年3月29日から適用する。 (了)
《速報解説》 金融庁 企業会計審議会開催 ~不正リスク対応基準を承認。 IFRSの議論はかみ合わず Profession Journal編集部 金融庁は3月26日、企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議を開き、「監査基準の改定及び監査における不正リスクの対応基準の設定に関する意見書」を承認するとともに、IFRSについて、カナダと韓国における適用状況の報告及び我が国の当面の対応について意見交換を行った。 出席した島尻安伊子内閣府金融担当大臣政務官から「日本における国際会計基準適用の在り方については様々な考え方があり、適用の今後の方向性については、幅広い共通理解が得られるよう、引き続き議論を行っていく必要がある。国際情勢を踏まえ、日本が孤立することのないように留意をしつつ、日本にとって最適な対応を総合的に検討してほしい」という発言があり、当面、これまでの議論を続けるという政府のスタンスを明らかにした。 IFRSのカナダ・韓国での適用状況 事務局(金融庁)より、カナダ、韓国ともIFRS適用についておおむね順調に適用されているという報告があった。しかしそれを受け、佐藤行弘委員(三菱電機常任顧問)から、経済産業省企業財務委員会が、韓国高麗大学のジョン・ソクウ教授を招請し行った「韓国でのIFRS導入について」の講演の中で、「韓国でのIFRS適用はほぼ問題なく進捗したが、企業間の比較可能性が低下し、また海外からの投資、特に欧州からの投資が低下した」という指摘があったことを報告した。 経団連の当面の対応 谷口進一委員(新日鐵住金常任顧問)から、日本経済団体連合会(経団連)企業会計委員会の立場から「国際会計基準(IFRS)への当面の対応について」報告があった。 原則主義といわれるIFRSを実務で適用する際には様々な課題が生ずることから、円滑な任意適用を進めるために、具体的解決策を互いに紹介し合い、後に続く企業に実例としてフィードバックする必要がある。 具体的には、ゼロベースで会計実務を変更しなければならないという誤解や、当期利益に代表されるマネジメントの考え方からは受け入れ難い基準があること、さらに開示負担が過大であることなどが挙げられる。 これらの課題に実務的に対応していくためには、タイムリーにガイダンスを作成し、データベース化等により実務を共有する仕組みが必要であり、また、受け入れ難い基準についての改善、開示の簡素化等をIASBに要求していく必要がある。そのために、我が国の発言力を高めていかなければならない。 現在、IFRS適用企業が8社、任意適用公表企業が8社である。報道等により明らかになっている適用を検討している企業を含めると、約60社が任意適用の対象企業である。この約60社の時価総額は2月末ベースで約75兆円。2012年末の市場の時価総額は韓国が100兆円、ロシア70兆円、シンガポール65兆円であり、ロシア・シンガポールの時価総額に匹敵する。また、我が国の時価総額上位50社のうち約4割の企業が任意適用の公表あるいは検討を行っていると考えられる。 今後の検討課題として、IFRSの適用に関する予見可能性を高められるような時間軸(ロードマップ)を示すことが重要であること、受け入れ困難な基準については、我が国での取扱いのプロセスを明確化していく必要があることを挙げ、その場合でも、諸外国の証券市場での使用を可能とするため、ピュアなIFRSの適用が必須である。 補足説明として、経団連企業会計委員会委員長の釜和明委員が、IASBに対する発言力を高めていく必要性について、リース、収益認識の開示などに我が国の意見が十分に反映されていないという懸念を示した。 ロードマップ また、別の委員から、「グローバルな枠組みが構成されていく中で、2012年7月のSECの最終報告書で米国はコンドースメントアプローチを採用し、US-GAAPを残すことが明確になった以上、IFRSの強制適用はないという、我が国の企業会計制度の枠組みの方向性を明確化するタイミングに来ているのではないか」という意見があった。 ロードマップについて事務局から、「時間軸を早く示すべきであるという意見が多々あることは承知しているが、国際情勢の変化もあり、容易ではないことはご理解いただきたい。とりあえずは、2012年7月に公表された「中間的論点整理」の検討課題を順番にやっていく」との考えを示した。さらに、もし強制適用になった場合には、ロードマップがないと困るのではないかという意見に対し、「その場合は、強制適用が決まった時点からその先どういう工程で進めるのかという強制適用のロードマップを、その時点で作ることになる」という考えを示した。 金融庁、基準作成サイド、企業サイドの意見がかみ合っておらず、2012年の「中間的論点整理」以降、議論が進んでいない現状が明らかになった。 (了)
《速報解説》 商業・サービス業・農林水産業 活性化税制の創設 ─平成25年度税制改正─ 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成25年1月29日に閣議決定した平成25年度税制改正大綱(本稿公開時点では改正法案が参議院にて審議中)において、中小企業活性化のために設備投資を促進する税制が創設された。 具体的には「商業・サービス業及び農林水産業を営む中小企業等の経営改善に向けた設備投資を促進するための税制措置の創設」という(改正法案では租税特別措置法42条の12の3)。 ここではその内容について解説する。 税制の概要 中小企業等が器具備品及び建物附属設備を取得した場合に、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除(当期の法人税額の20%が上限)を認める税制措置を創設する。 ただし、下記の要件を満たす必要がある。 〔イメージ図〕 (了)
後発的事由による更正の請求と 未分割財産 税理士 小林 磨寿美 解 説 1 申告期限後3年以内に分割取得した財産についての配偶者の税額軽減等の適用 配偶者の税額軽減の特例及び小規模宅地等の減額特例については、未分割財産には適用されない。しかし、対象としたい財産が相続税の申告期限において未分割であっても、申告期限後3年以内に分割されれば、これらの特例の対象財産となることとなり、相続税の更正の請求を行うことで、軽減規定等の適用を受けることができる(相法19の2②ただし書、同32①八、措法69の4④ただし書、相基通19の2-4(7))。 もっとも、この規定の適用を受けるためには、この期限内申告書の提出時に、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出していたということが必要となる(相規1の4③二、措規23の2⑦五)。 ところで、平成23年12月改正により、一般の場合の更正の請求期間が原則として法定申告期限から5年となったことにより、上記の場合の更正の請求期限は、相続税法32条1項の「事由が生じたことを知つた日の翌日から4月以内」と、国税通則法23条1項の「法定申告期限から5年以内」のいずれが適用されるか疑問が生じる。 もともと、後発的事由による更正の請求の規定は、既に確定した課税要件事実が、遡って変動することとなった場合に、その事由が生じた日から一定期間に限り、更正の請求ができる旨を定めたもので、国税通則法23条2項の他、各個別税法において設けられているものである。そしてこの規定は、課税要件事実の変動により、課税の根拠が失われたことに対応したものであり、「確定済みの租税法律関係を変動した状況に適合させるために認められた救済手続」(金子宏『租税法(17版)』721頁)という性格のものである。 そして、遺産の分割は、相続開始の時に遡ってその効力を生ずることから(民909)、申告期限後に遺産分割が行われた場合、期限内に行われた当初申告は、「国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたこと」により、その申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときという要件を満たすこととなり、相続税法32条1項と、国税通則法23条1項の両方の規定がそのまま適用できることになる。 また、国税通則法23条2項括弧書に、「納税申告書を提出した者については、当該各号に定める期間の満了する日が前項に規定する期間の満了する日後に到来する場合に限る。」とあることからも、後発的事由が生じた場合の更正の請求の期限が後になる場合を除き、一般の更正の請求の規定が優先されることが分かる。 2 分割期限を伸長した場合にやむを得ない事情が解消され特例の適用を受ける場合 相続税の申告期限から3年以内に遺産分割を行うことが、配偶者の税額軽減の特例及び小規模宅地等の減額特例の規定の適用を受けるための要件であるが、やむを得ない事情があるときは、税務署長の承認を得て、3年という分割制限を伸長することができる(相令4の2①、措令40の2⑪、相基通19の2-15)。 そして、分割できることとなった日から4ヶ月以内に分割することを条件に、更正の請求により、これらの規定の適用を受けることができることとなる(相法19の2②括弧書、措法69の4④括弧書)。 この税務署長の承認を得るためには、申告期限後3年を経過する日の翌日から2ヶ月を経過する日までに、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出する必要がある(相令4の2②④、相規1の4②、同1の6②、措令40の2⑪)。 この特例については、上記のような承認を必要とすること及び平成23年改正前は一般の場合の更正の請求期限に間に合い得なかったことから、分割後4ヶ月以内の更正の請求が特例適用のためには必要と考えられていた。 しかし、分割取得財産について軽減特例等の適用対象とするための要件は、その分割可能となった日から4ヶ月以内に分割により取得することのみであることから、この分割期限を満たしたならば、3年以内の分割規定と同様に、相続税法32条1項と、国税通則法23条1項の両方の規定がそのまま適用できることになり、そのいずれか遅い日までに更正請求書を提出すればよいこととなる。 3 相続させる旨の遺言があった場合 遺産全部を一部の相続人に「相続させる」旨の遺言は、遺言書の記載からその趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺産の分割の方法を定めた遺言であり、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに遺産全部について分割の効果が発生し、もはやその遺産について再度の分割がなされる余地はなく、また、その相続人に法定相続分を超える遺産を相続させることになるから、遺産分割方法の指定と同時に相続分の指定がなされたものと解すべきであるとした裁決例がある(平23.12.6裁決)。 この判断は、最高裁平成3年4月19日第二小法廷平成1年(オ)174号土地所有権移転登記手続請求事件判決(民集45巻4号477頁)をベースとしたものである。 判決では、「「相続させる」趣旨の遺言は、正に民法908条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである」としている。 一方、実務的にはすべての相続人及び受遺者の合意により、遺言に従わない遺産分割が認められている。そうすると、相続税の申告期限までに遺言に従うかどうか、関係者間で方針が定まらない場合に、3年以内の分割見込書を提出し、その後遺産分割がされたとして配偶者の税額軽減や小規模宅地等の減額特例を適用したところで更正の請求書を提出できるかという疑問が生じる。 しかし、上記裁決、そして最高裁判決の趣旨からは、このような分割見込書の提出は遺産が未分割であるという前提を欠くものとなり、国税通則法23条1項に該当し得ないこととなる。 4 当初申告において特例の適用を選択した宅地等を変更する場合 小規模宅地等の減額特例の規定では、「第1項の規定は、同項の規定の適用を受けようとする者の当該相続又は遺贈に係る相続税法第27条又は第29条の規定による申告書(これらの申告書に係る期限後申告書及びこれらの申告書に係る修正申告書を含む) に第1項の規定の適用を受けようとする旨を記載し、同項の規定による計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。 」(措法69の4⑥)とあることから、当初申告においてこの特例を適用した宅地について、税務調査等によりその要件に該当しないことを指摘された場合に、別の宅地について特例の申請を前提に修正申告を行うことも可能とされている。 しかし、納税者が申告期限までに適法に選択した宅地について、申告期限後に別の宅地を選択した方が納税額が少ないことが分かったとしても、更正の請求によって選択替えの変更はできない。さらに、同特例の適用を受けた相続人が他の相続人と共有している宅地であっても、申告期限後においては選択した適用者を変更することはできない。 これに対し、当初の遺産分割協議が錯誤により無効とされ、申告期限後3年以内に改めて分割がされた場合、小規模宅地等の減額特例が適用できるかという問題がある。法律行為が無効とされた場合、その行為は始めから生じなかったこととなる。したがって、3年以内分割特例の適用は、選択替えには該当しない。しかし、3年以内分割特例については、上述のように、期限内申告書の提出時の「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出が要件となることから、やはり、この場合も特例の適用は受けられないこととなり、国税通則法23条1項の前提を欠くこととなる。 (了)
〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第16回】 税率変更の問題点(15) 「税込処理における 消費税の転嫁に関する問題」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 1 消費税の転嫁における問題点 平成9年4月の税率改正時においても問題となった項目であるが、消費税につき税込価格を前提として事業を行っている事業者が1円単位まで徴収することが可能かどうかといった問題点がある。 今回の税率改正では、平成16年4月の総額表示義務規定の創設により、平成9年の改正時よりも価格の表示や設定につき厳密に取り扱われる可能性があり、注意が必要である。 この問題において、特に注意が必要な事業として、事業の性質上、消費税込みの対価の額を10円単位や100円単位で設定しなければならない事業者が考えられる。 例えば、10円単位で価格を設定している事業者で本体価格を400円とした場合には、税率によって以下のようになる。 上記の場合において、10%の税率においては、5%と同様に消費税額を転嫁しても10円単位となり問題は生じないが、8%の税率においては、10円単位にするには、430円として2円分を切り捨てて販売するのか、又は8円分を上乗せして販売するのかといった問題が生ずる。 また、上記の8%の取引を継続的に行う場合において、その価格を430円又は440円にした際の消費税の計算は、以下のようになる。 なお、上記の取扱いについては、10円の端数処理をしていることから、第3回で紹介した旧規則22条の規定の適用はないことに注意しなければならない。 上記のように、税込価格を430円にて販売すると消費税の納付税額が3,185,000円となり、消費税として転嫁した部分の3,000,000円を超えることから、本体価格を実質的に値引販売したこととなり、事業者の収益を大きく減少させる可能性がある。 これに対し、税込価格を440円で販売すると消費税の納付税額が3,259,100円となり、消費税を転嫁した部分の4,000,000円よりも少なくなることから、本体価格を実質的に値上販売したこととなり、「便乗値上げ」ということで独占禁止法等の問題が生じる可能性がある。 10円単位や100円単位で価格を設定しなければならない事業には、以下のようなものがある。 これらの事業における対応策として、自動販売機の場合には、その販売する商品等の容量を減量して対応することも考えられ、同様の手法によれば、旅客運賃やタクシーの場合には距離の短縮、コインパーキングの場合は時間の短縮を行うことで消費税を適正に転嫁できる可能性がある。 また、各事業者の企業努力により本体価格を値下げして対応することも考えられるが、先ほども述べたように収益が減少する点、値下げしたことにつき「消費税を転嫁しない」や「消費税を還元する」旨の広告等を打ち出せば景品表示法などの規定に違反する可能性がある点につき注意しなければならない。 これとは逆に、仕入れのコストが上がったことを理由に端数を切り上げて対応する方法も考えられるが、やはり「便乗値上げ」になるのではないかという懸念が生じることとなる。 上記のように、いずれの方法によっても問題が生じることから、消費税転嫁に関する対応策については慎重に検討しなければならない。 また上記以外にも、経過措置の適用がない請負契約や賃貸借契約において、その契約書が「税込」という文言しかないような場合において、収受すべき金額が施行日後も同額になるときは、実質値下げとなるので注意しなければならない。 同様に、機械やシステム等の保守契約で5年分を前受金として受領している場合において、施行日後に係る部分につき相手先から税率の増加分を受け取ることができないときは、実質的に値下げとなる。 さらに、元請業者から事業を受注している下請業者がその消費税込みの対価の額について、施行日後においても施行日前と同額の対価の額で取引を行うこととされた場合には、消費税の増税部分だけ値下げしたこととなる。 このように、1円単位まで厳密に消費税の徴収を行うことができない事業者、実質的に増税分を追加で徴収できない事業者など、多くの事業者がこの消費税の転嫁に関する問題を抱えており、消費税の転嫁ができない場合には、その事業による収益が減少し、さらに徴収した消費税よりも多額の消費税を納付することから、その事業者のキャッシュフローが悪化し、会社の経営状態にも大きな影響を及ぼすこととなる。 さらに、平成9年当時にもみられた消費税率の上昇に伴う個人消費の冷込みが想定され、それによる売上減少の可能性も踏まえた上で、この消費税の転嫁問題に対応する経営計画の策定を検討する必要がある。 なお、今回の改正では、政府側もこの消費税の転嫁に関する問題点につき、改正消費税法とは別に特別措置法を制定して対応する方針を打ち出しており、各事業者はその法律の内容を確認した上で対応策を検討する必要がある(下記2参照)。 2 「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」の制定 上記1の問題に対応するために、政府は今回の税率改正に伴う「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」案を制定し平成25年3月22日に閣議決定した。 この法案については、今国会での成立を目指しているが、その具体的な内容は、以下のとおりである。 また、公共料金やその他の業種の価格表示の方法については、その基本的な考え方を4月以降に公表することとしている。 消費税の転嫁に関する問題点については、上記の法案が可決され、価格の表示方法の具体例などが公表された時点で、各事業者において関連する項目を把握した上で対応策を講じる必要があり、時間的な余裕が少ない状況での対応を余儀なくされることから注意しなければならない。 連載終了に当たって 今回の税率改正について、平成9年の改正時において実務上問題となった論点を中心に確認してきたが、今回の改正においても流用できる項目が多く、経過措置規定の内容については、平成9年当時の規定とほぼ同じ内容となっている。 したがって、本稿の各論点は、税率改正に伴って事業者が事前に準備・検討しなければならない対応策の参考として位置付けていただければ幸いである。 しかしながら、この税率改正については、未だ決まってない項目も多く存在し、今後政府や各省庁から発表される法案やそれに関連する情報等についても確認が必要となるので留意されたい。 (連載了)
『日米租税条約 改定議定書』 改正のポイントと実務への影響 【第3回】 「徴収共助の拡大」 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 1 はじめに “徴収共助”とは、異なる国家間における租税債権の徴収に関する相互協力の枠組みをいう。 例えば、外国企業が我が国から撤退する際に税金の滞納をしたままであった場合、我が国の滞納税金の徴収を当該外国企業の所在地を管轄する外国政府に要請し、外国政府が税金を徴収して送金してくれるといったことを可能にする。 相互協力が基本なので、逆に我が国が外国から要請された場合は、国税庁が外国の税金を徴収し、外国政府に送金しなければならない。 現在の日米租税条約にも徴収共助の規定はあるが、対象が租税条約の規定の濫用により発生する租税債権の徴収の場合に限定されているため、実際に行われたという例を聞かない。 改正後は、対象が滞納租税債権一般に拡大されることになるため、実例も出てくるだろう。 例えば、米国法人で日本に支店等を有しない企業に対し国税当局がPEありと認定して法人税を課しても、自主的に納付されない限り、日本国内に資産がないので差押えなどの滞納処分手続を行うことができず、課税しても実際の税収に結び付かないという問題があった。 今回の改正により、こうしたケースで日米間での協力が進むものとみられる。 ただし、懸念される事項もある。 といった問題がある。 今回の改正において、こうした問題がどのように扱われることになったかが注目される。 2 徴収共助規定の内容 (1) 対象となる租税の税目 日本は、所得税、法人税、特別復興所得税、特別復興法人税、消費税、相続税、贈与税が対象となる。 米国は、連邦所得税、連邦遺産税及び連邦贈与税、外国保険業者の発行した保険証券に対する連邦消費税、民間財団に関する連邦消費税、被用者及び自衛業者に関する連邦税が対象となる(議定書13、新条約27④)。 (2) 対象となる租税債権 支援の対象となるのは、次に掲げる租税債権の徴収のみである(新条約27②)。 ただし、条約の恩典を受ける権利のない者が恩典を受けないようにするための租税債権の徴収も支援の対象になる(新条約27③) なお、要請の対象となる租税債権は、要請国の法令の下において「最終的に決定されたものである」ことについての権限のある当局の証明を付する必要がある。 「最終的に決定されたものである」とは、自国の法令に基づき徴収する権利を有し、かつ、納税者が当該租税債権に関する争訟のために行使できる行政上及び司法上のすべての権利が消滅し、又は尽くされていることをいう(新条約27⑤)。 (3) 自国の租税債権との関係 要請が受理された租税債権は、受理されたときに、被要請国の法令に基づき確定した租税債権として取り扱われ、自国の租税債権と同様に徴収される(新条約27⑥)。 (4) 被要請国がとった時効中断等の措置の要請国における効果 支援の要請に従い、被要請国がとった徴収のための措置であって、要請国の法令によれば、要請国が当該措置をとった場合に要請国において租税債権の徴収の時効を停止し、又は中断する効果を有することとなるものは、当該租税債権に関して、要請国の法令の下においても同様の効果を有する。 被要請国は、当該措置について要請国に通報する(新条約27⑦)。 (5) 被要請国の法令による時効の援用の否定 被要請国による支援が行われている租税債権は、被要請国において、被要請国の法令の下で租税債権であるとの理由により適用される時効の対象とされず、かつ、その理由により適用される優先権を与えられない(新条約27⑧)。 (6) 被要請国における行政・司法上の審査を受ける権利の否定 被要請国による支援が行われている租税債権が、自国の租税債権と同様に徴収されるからといって、被要請国において行政上又は司法上の審査を受ける権利を生じさせるものと解してはならない(新条約27⑨)。 (7) 要請国において租税債権を徴収する権利を喪失し、又は徴収を終了する場合 要請国において支援を要請した租税債権が消滅した場合には、要請国の権限のある当局は、徴収における支援の要請を速やかに撤回し、被要請国は、当該租税債権の徴収に係るすべての措置を終了する(新条約27⑩)。 (8) 要請国において自国の法令に従い租税債権の徴収を停止する場合 要請国が自国の法令に従い要請の対象である租税債権の徴収を停止する場合には、要請国は被要請国に速やかに通報し、被要請国の選択により要請を停止し、又は撤回する(新条約27⑪)。 (9) 徴収した額の送金 この条の規定に基づき被要請国が徴収した額は、要請国の権限のある当局に送金される(新条約27⑫)。 (10) 徴収費用の負担 両締約国の権限のある当局が別段の合意をする場合を除くほか、徴収における支援を行うに当たり生じた通常の費用は被要請国が負担し、特別の費用は要請国が負担する(新条約27⑬)。 (11) 被要請国の義務(新条約27⑭) 被要請国に次のことを行う義務を課すものと解してはならない。 (a) 被要請国又は要請国の法令及び行政上の慣行に抵触する行政上の措置をとること (b) 公の秩序に反することとなる措置をとること (12) 要請国の措置が不十分である場合の被要請国の義務の免除(新条約27⑮) 次のいずれかに該当するときには、被要請国は要請を受理する義務を課されない。 (a) 要請国が支援の要請の対象となる租税債権を徴収するために自国の法令又は行政上の慣行の下においてとることができるすべての適用な措置をとっていないとき (b) 要請国が得る利益に比して被要請国の行政上の負担が著しく不均衡であるとき (13) 実施方法に関する合意(新条約27⑯) 実際に支援が行われる前に、両締約国の権限のある当局は、以下を含む実施方法について合意する。 ・各締約国に対する支援の程度の均衡を確保するための方法 ・一方の締約国が特定の年において行うことができる支援の要請の数の上限 ・支援を要請することができる租税債権の最低金額 ・この条の規定に基づいて徴収された額の送金に関する手続規則 (14) 支援の程度に不均衡が生じたときの支援の停止 一方の締約国は、他方の締約国の措置により両国の支援の程度において不均衡が生じたと認める場合には、支援を停止することができる。 この場合には、両締約国は、新条約27条16項の規定に整合的となる支援の程度の均衡を回復するため、協議を行うとされている(新議定書14⑮(b))。 (15)適用対象 徴収共助の規定は議定書が効力を生ずる日から適用される(議定書15④)。 具体的には、両国における承認手続が終了し、交換公文が交わされた日から適用されることになる。 3 実務への影響 実際に問題になりそうなケースとして、米国法人が日本に恒久的施設を持たずに投資活動を行っているようなケースが考えられる。 国税当局が米国法人の日本における活動がPEに該当するとして課税を行ったのに対し、米国法人は納得せず税金を納付しようとしない。しかし、日本国内に資産がないために滞納処分もできないといったケースである。 また、個人について問題になりそうなケースとして、日本の居住者が国税の調査で多額の追徴課税を受けたが、税金を納付せずに行方不明になってしまったが、国税は、本人が保有する資産が米国の銀行に預けられていることは把握している、といったケースが考えられる。 これまでは、上記のようなケースで日本の国税が税金を徴収する手段はなかったが、今後はIRSに徴収支援を要請することにより徴収できる道が開かれた。 今回の改正は日米間における徴収協力に限られるが、今後こうした国際間の税務執行協力のネットワークはますます拡大していくことが予想される。 【参考】財務省ホームページ ・「アメリカ合衆国との租税条約を改正する議定書が署名されました」 ・「アメリカ合衆国との租税条約を改正する議定書のポイント」 (連載了)