会計事務所 “生き残り” 経営コンサル術 【連載のご紹介】 「“とにかく会計っておかしいね” という疑問に答える」 株式会社 経営ステーション京都 代表取締役 京セラ株式会社 元監査役 公認会計士・税理士 田村 繁和 会計業界の中には、一般の常識で考えていくと、おかしいことが一杯あります。おかしいなあと気付いたことを列挙してみました。 実力がなくても試験に合格すれば先生と呼ばれる お金をもらっているお客様から、お中元やお歳暮が贈られてくる 社長は会計の素人なのに、専門用語で難しい説明をする 決算書で利益が出ていても、お金が残らないのは会計の常識だと信じている 社長は明日どうすればいいのかを知りたいのに、経営分析だの過去の資料ばかり出してきて話をする どうすれば利益が出るのかという質問に対して、「○○費を○%下げれば利益が出ます」と自信をもって答える 高い顧問料を毎月もらっていても、毎月出張に行かない人もいる 申告期日のギリギリになって納税額を伝えても、そんなに気にしていない 上記はその一部ですが、これらのことにおかしいと気付かない人も多いようです。 私は公認会計士・税理士になって34年になります。無一文から始めた会計事務所の事業が、45人ほどのスタッフになり、幸せな毎日を送れるようになりました。 現在、顧問料が1万円を切る時代になってきたと言われていますが、私どものような地方にあっても、新規の平均顧問料はけっこういただいています。社員もほとんど辞めないし、20年以上の人もかなりおられます。良いお客様と信頼できる社員に囲まれて、会計事務所ってなんてすばらしい業界だろうと思っています。 世間では顧問料が1万円になったとか、新規が1年間で200件増えたとか、すごい広告が氾濫しています。これらの情報に、右往左往されている会計人がたくさんおられるように聞いております。 私は、そんな広告を気にしていません。また、売上高や新規獲得数や事務所の規模を誇らしげに自慢できるほどの事務所でもありません。 ただ、会計事務所には一般常識から考えておかしいことが一杯あります。それを一つずつ見つけ出し、普通のことを当たり前に行っていけば、ある程度の幸せな生活が送れるようになれるのではないかと思っております。 ぜひ、これからの連載にご期待下さい。 (了)
事例で学ぶ内部統制 【第4回】 「監査部員1名当たりの コントロール数を比較する」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 前回は、企業の内部に設置された監査部が、限られた人員の制約の中で独立性を保つため、監査部による第三者評価だけでなく、コントロールオーナーによるクロスチェックやセルフチェックを織り交ぜながら、経営者評価に取り組む事例を紹介した。 監査部の人員体制のあり方について意見交換が進むにつれて、議論のテーマは、企業の監査部が経営者評価で担う業務負荷へ移行した。 監査部の業務負荷を示す指標として考えられるのは、経営者評価を担当する監査部員1名当たりコントロール数であろう。この指標の多少は、規模や業種が異なる企業間で、その監査部の業務負荷を比較するおおよその目安となる。 そこで今回は、「経営者評価で監査部員1名当たりいくつのコントロールを担当しているのか」という論点について、筆者主催の実務家交流会で報告された事例を紹介する。 監査部員1名当たりコントロール数とは? まず、監査部員1名当たりコントロール数を定義する。 内部統制で設定されたコントロールを、 という3つの視点で整理すると、図1のように、12種類の組み合わせが考えられる。 図1 コントロールの分類 例えば、経営者評価における重要性で、キーコントロール(タイプ7から12まで)、セカンドコントロール(タイプ1から6まで)と分かれる《①の視点》。 また、経営者評価の主体で見れば、セルフチェック(タイプ1、4、7、10)、クロスチェック(タイプ2、5、8、11)、監査部による第三者評価(タイプ3、6、9、12)と分かれる《②の視点》。 さらに、監査法人が直接監査するコントロール(タイプ1、2、3、7、8、9)と監査法人が企業の経営者評価結果に依拠し直接監査しないコントロール(タイプ4、5、6、10、11、12)という分類もできる《③の視点》。 今回の議論の対象は、《②の視点》から、監査部による第三者評価(タイプ3、6、9、12)のコントロール数を所属する監査部員数で割って算出した監査部員1名当たりコントロール数が、参加企業においてどうなっているかという点である。 監査部員1名当たりコントロール数の事例 【パターン1】監査部による第三者評価を採用する企業 参加企業A(監査部員1名当たりコントロール数:49個)は、「わが社は、すべての評価は監査部が行っている。セカンドコントロールも運用状況の評価において監査部による第三者評価の対象としている。キーコントロールだけに絞れば、22個となる。セカンドコントロールも経営者評価の対象としている分、監査部を35名体制として充実させたので、業務負荷は高くないと考えている」(プラント会社)と、監査部によるけん制を強化するため、分子である監査部による第三者評価のコントロール数と、分母である監査部員数の両方を増やしたと話した。 参加企業B(監査部員1名当たりコントロール数:108個)は、「わが社も、運用状況の評価の対象には、セカンドコントロールも含めているが、A社さんと異なり、監査部の人員が6名しかいないため、監査部員1名当たりコントロール数が増えている。実感としても、監査部員は1年中内部統制の評価に関わっていて余裕がない」(情報通信会社)と、コントロールの絞込みをせず、監査部の人員を制限している実情を報告した。 参加企業C(監査部員1名当たりコントロール数:23個)は、「わが社も、すべての評価は監査部が行っているが、A社さんやB社さんと異なり、運用状況の評価の対象としているのはキーコントロールだけで、セカンドコントロールは除外した。それから、監査部の人員は12名から9名に減らした。過去3年間の経験から、キーコントロールの絞込みをしても大きな不祥事は起きていないので、問題ないと考えている」(精密機器メーカー)と、過去数年間のリスクの発生度合いに応じて、分子である監査部による第三者評価のコントロール数と分母である監査部員数の両方を減らして対応していた。 【パターン2】クロスチェックやセルフチェックを採用する企業 参加企業D(監査部員1名当たりコントロール数:35個)は、「評価対象はキーコントロールに絞っているが、わが社の場合、すべてのキーコントロールの評価を2名の監査部だけで行うことは不可能と判断し、全体の30%はクロスチェック、70%はセルフチェックとした。ただ、セルフチェック部分の70%とクロスチェック部分の一部に相当する10%の合計80%のコントロールの評価を現業部門だけに任せることはせず、監査部が事後確認するので、結果として、業務負荷を測る工数として監査部が関与するコントロール数はさほど減っていない」(医療機器メーカー)と、セルフチェックやクロスチェックを許容したものの、監査部による事後確認を残したため、業務負荷が軽減されていない実情を話した。 参加企業E(監査部員1名当たりコントロール数:8個)は、「わが社も、運用状況の評価の対象はキーコントロールだけだ。そして、クロスチェックとセルフチェックを織り交ぜている。D社さんと異なるのは、クロスチェック部分については現業部門に委ねて、監査部が経営者評価を行うことはないという点。さらに、監査部は3名だけなので、キーコントロールの絞込みも進めた」(食品流通会社)と、クロスチェックをさらに進めて監査部の関与を減らし、キーコントロールの絞込みによって、分子である監査部による第三者評価のコントロール数を大幅に減らして、少人数である監査部の業務負荷を軽減していた。 監査部の業務負荷の軽減に向けて 以上のように、各企業の監査部員1名当たりコントロール数を比較すると、100個を超える企業もあれば、1桁台にとどまる企業もあった。 しかし、どの企業も監査部の業務負荷を軽減し、有効かつ効率的な内部統制報告制度の運用を目指している。 筆者には、監査部員1名当たりコントロール数に差があっても、監査部の業務負荷の軽減を志向する点において企業間に本質的な違いはなく、ただ、各企業が軽減に向けて歩んでいる時間軸上の現在位置に多少の前後差があるに過ぎないと見える。 参加企業Fは、「内部統制が定着し、財務報告の信頼性リスクの低減が実感できるにつれ、経営層から監査部に求められる守備範囲として、業務の有効性と効率性やコンプライアンスという従来からの業務監査の範疇が復活してきた。しかし、監査部人員を増やすという経営判断は取れないので、結果的に、監査部が内部統制報告制度の運用に費やす業務負荷を軽減する必要がある(食品メーカー)」と話した。 分子となる監査部人員が少ないままだからこそ、分母となる監査部による第三者評価のコントロール数の削減が必要となる。そこで、上記《①の視点》のように、運用状況の評価の対象をキーコントロールに絞り込み(タイプ7から12まで)、《②の視点》のように、クロスチェックやセルフチェックを導入して監査部の関与を絞り込む(タイプ9、12)。 参加企業がこうした取組みを継続している事実が明らかとなった。 次回は、全社レベルの内部統制の評価項目について取り上げる。 (了)
香港と日系企業をめぐる最新事情② 「変化する日系企業の進出状況」 アースタックス税理士法人 アースタックス・ビジネスコンサルティング(香港)有限公司 税理士 白水 幹範 〈根強い人気の「出前一丁」〉 香港では、日本食は広く認知され人気がありますが、最近は日本のラーメン店がブームで、日本で人気のラーメン店や日本で修行を積んできた香港人のオーナーラーメン店などが巷を賑わせています。 地元香港人の台所、茶餐廳(昔ながらの喫茶レストラン)を覗いてみると、面白いメニューがあります。 “Any Noodle + Two Eggs and Sausage + Drink HKD27” そして麺類のところには “Demae Iccho Additional HKD3” 実はこれ、お好みの麺類に卵2個とソーセージが入っているドリンク付きのセットなのですが、麺類を日清食品の「出前一丁」に変えると、追加料金で3香港ドル(約30円)がかかるということなのです。 出前一丁を知らない香港人はいないといっても過言ではなく、香港の人たちにとって一番身近な日本食と言えるかもしれません。手軽で美味しいインスタントラーメンは香港の食卓にも欠かせないもの、中でも圧倒的シェアを占めるのが出前一丁。どこのスーパーでも日本では見たことがない牛肉味、鶏肉味、東京醤油豚骨味、北海道味噌豚骨味など、またビーフンやマカロニバージョンなど何種類もの出前一丁がずらりと陳列してあります。 時には地下鉄MTRの駅構内に「清仔」(日清の清に男の子を意味する仔で、チェンジャイ)として親しまれている出前坊やのキャラクターが一面にあったり、またある時には二階建て路面電車トラムの前面に出前一丁の宣伝広告が貼ってあったり、人気の高さが伺えるとともに、さすが香港と思わせる派手なマーケティングが印象的で、現地でのブランド化に成功した日系企業の代表的な例といえるでしょう。 〈香港における日系企業〉 香港で事業を行っている外資系企業(中国を含む)は7,250社、そのうち1,218社が日系企業となっています(2012年10月18日現在、香港政府統計処と香港政府投資推進局が行った香港の外国企業を対象とした2012年度年次調査)。 ただし、この数には地場系日系企業や個人出資の日系企業は含まないため、これらも含めると2,000社は超えると推定されます。 日本人在留数は、約2万2,000人となっています(2011年10月1日現在、外務省領事局「海外在留邦人数調査統計」)。 治安も良く、ジャスコやユニーなどの日系スーパー、日本人学校(小学部2校、中学部1校)、日本語通訳のいる病院などが揃っており、日本人にとって非常に生活しやすい環境といえるでしょう。 香港における進出日系企業は、時代の推移とともに変化してきています。 1979年中国の経済開放政策に伴い広東省や福建省の都市が経済特区に指定されたことにより、それまで香港において行われていた製造活動は、1980年代には中国の深セン市や東莞市などの華南地区に移転され始めました。香港法人を起点として、「来料加工」といわれる委託加工型生産が行われるようになります。それまでに安価な労働力を求めて香港に進出していた製造業の日系企業の多くも、その製造拠点を華南地区へ移転し始めました。 これに伴い、今では日系企業を含むほとんどの香港法人で製造の機能はなくなり、金融・物流の機能に転換していくことになります。 しかしながら近年は、中国における人件費の高騰、工場労働者の確保の問題、工場におけるストライキやデモの問題などから、中国以外に製造拠点を置く企業が増えてきており、これまでの委託加工型の進出は少なくなってきています。 現在はというと、日系企業の香港への進出は非製造業がメインとなっています。サービス産業や小売業、レストランなど、中国市場への進出を視野に入れたマーケットとして進出が増えています。 香港自体のマーケットは人口710万人強と、最終消費者向けのマーケットとしては限定的といえます。しかしながら、中国と香港との間で発効された2004年1月から実施されているCEPA(経済貿易緊密化協定)の一環として、2003年後半から中国人の香港への個人旅行が段階的に解禁されました。香港のどのショッピングモールでも、中国人の旅行客がたくさんのショッピングバッグを抱えて歩いており、尖沙咀(チムサーチョイ)にあるブランド店には長蛇の列ができるのが日常の光景となっています。 香港は、巨大な中国市場へ参入するためのショーケースの役割を担っており、テストマーケティングが行われています。今後もこのような日系企業の進出はますます増えてくるでしょう。 数年前に香港国際空港に降り立った時、“Exciting Hong Kong”というキャッチフレーズが目に入りました。まさにそのとおり、人にも街にも活気があってエキサイティングなここ香港。 きらびやかな超高層ビルと昔ながらの佇まいの店が同じ通りに同居する混沌とした街に、世界中の企業や多くのビジネスマンが、金融・貿易などの拠点として毎日出入りしているのです。 (了)
《速報解説》 「平成23年度における租税条約等に基づく 情報交換事績の概要」について 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 平成24年11月、国税庁より「平成23年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要」(以下単に「概要」という)が公表された。 「概要」では、日本の税務当局による租税条約等に基づく情報交換の実施状況が明らかにされるとともに、情報交換の具体的な実施例が紹介されている。 本稿では、「概要」の内容を概観するとともに、注目すべきポイントについて解説することとする。 2 租税条約等に基づく情報交換とは 租税条約等に基づく情報交換には、以下の3類型がある。 3 「概要」のポイント (1) 租税条約等に基づく情報交換の実施状況 平成23年度においては、「要請に基づく情報交換」及び「自動的情報交換」の件数が大幅に増加していることや、情報交換要請の約7割がアジア・大洋州の国・地域向けに行われていたという報告が印象的である。 件数の大幅増加は、平成23年度中にいわゆる“タックス・ヘイブン”と呼ばれる国・地域(香港、バハマ、ケイマン諸島等)との間で、多くの租税条約等が発効されたことが背景にあると考えられる。 情報交換は、国際的な取引の実態や海外資産の保有・運用の状況の解明、海外投資所得等についての内容確認、税務調査の実施など効果的に活用されている。 情報交換件数の増大からは、国際的な租税回避行為や課税逃れに対する国税当局の厳しい姿勢を垣間見ることができるほか、特にアジア・大洋州の国や地域を中心に海外取引関連の税務調査件数の増加が推察される。 (2) 情報交換の実施例及び効果的な情報交換の実施に向けた取り組み 「概要」には、「要請に基づく情報交換」の実施例として、タックス・ヘイブン国に設立された海外子会社の実態が不明であったので、タックス・ヘイブン国に対し当該海外子会社に関する登記情報や財務諸表等に関する情報提供を要請し、回答を受領した例などが紹介されている。 特に平成23年は、日本とタックス・ヘイブン国との間で、情報交換を主体とした租税協定の締結が相次いだ。外国税務当局との「情報交換ミーティング」の実施や「国際タックスシェルター情報センター」等の活用と相まって、情報収集体制が大幅に向上した年といえる。 かつては情報収集体制の不備を突いて行われていた資産や所得の海外移転等を通じた租税回避スキームについて、国税当局の「網の目」がより一層細かくなったと見るべきであろう。 (了) 【参考】国税庁ホームページ 「平成23年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要」
改正通則法と重加算税の今後① 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 重加算税は、「隠ぺい・仮装」をその要件の一つとしている。そして、「隠ぺい・仮装」は、不正手段による租税徴収権の侵害行為を意味し、「事実を隠ぺい」するとは、事実を隠匿しあるいは脱漏することを、「事実を仮装」するとは、所得・財産あるいは取引上の名義を装う等事実を歪曲することをいい、いずれも行為の意味を認識しながら故意に行うことを要するものといわれている(和歌山地裁昭50.6.23判決)。 ただ、その行為が客観的にみて、隠ぺい又は仮装と判断されるものであれば、納税者の「故意の立証」までも要求しているものではないと解されている。 したがって、「客観的な隠ぺい・仮装の事実」があれば、課税庁は「故意の立証」が要求されないということになる。逆にいえば、「客観的な隠ぺい・仮装の事実」がなければ「故意の立証」が課税庁に求められることになる。 今回の国税通則法74条の14の改正で、国税に関する申請却下及び不利益処分について、書面による理由附記が要求されることになった。したがって、重加算税も、不利益処分(下図参照)であるところから、その処分に対して「理由の附記」が要求されることになった。 そして、重加算税の「理由の附記」については、当然のこととして、その要件である「隠ぺい・仮装」の事実を明らかにしなければならない。 以上の重加算税の取扱いを前提とするならば、改正通則法の下の「税務調査」では、重加算税の課税の状況は、どのようになるのであろうか。 所得税法の旧通達においては、「隠ぺい・仮装」に該当するものとして、次のようなものを例示していた。なお、それぞれの例示における隠ぺい・仮装に係る「物的証拠」と考えられるものを、以下、示すこととする。 上記の例示の中で、課税庁は、どのような「隠ぺい・仮装の事実(又は物的証拠)」を把握することができるのであろうか。 思うに、多くの税務調査では、例えば、二重帳簿を発見するとか、虚偽の帳簿などの「隠ぺい・仮装の物的証拠」を見つけ出すことは容易ではない。 上記の③についても、仮に、棚卸資産の漏れが発見されたとしても、それが「故意」に行われたものなのか、「単なるミス」によって生じたものか、その判断のベースとなる「客観的な隠ぺい・仮装の事実」を掴むことは困難である。 平成25年1月1日からスタートする改正国税通則法において、理由附記が求められる重加算税の賦課決定処分の件数は、減少するのではないかと思われる。 (了) 【参考】拙著『第4版 事例からみる重加算税の研究』清文社(2012年)
制度改正と適用要件に注意! 青色欠損金の繰越控除制度 【第1回】 「平成23年12月改正を再確認」 弁護士 木村 浩之 1 はじめに 平成23年12月の税制改正(「経済社会の構造の変化に対応した税制の構築を図るための所得税法等の一部を改正する法律」(平成23年法律第114号))により、青色欠損金の繰越控除につき、その繰越期間が7年から9年に延長されるとともに、中小法人等以外の法人については、その控除額が欠損金額を控除する前の所得金額の100分の80相当額に限られるという、いわゆる「80%ルール」が設けられた(法人税法(以下、法法)57①)。 本稿は、青色欠損金の繰越控除につき、上記税制改正に伴う新制度の適用上の留意点について解説した上で、関連する論点についても解説することにより、改めて同制度の適用に当たっての論点整理を行うものである。 2 80%ルールについて (1) 適用対象法人 80%ルールの適用対象となるのは、中小法人等以外の法人であり、具体的な適用の有無については、下記表のとおりである(法法57⑪、法人税法施行令(以下、法令)14の10⑥)。 なお、資本金の額が1億円以下であるかどうかなど、中小法人等の要件に該当するか否かについては、各事業年度終了の時を基準として判定されることになる。 (2) 適用対象事業年度 80%ルールについては、平成24年4月1日以後に開始する事業年度の所得に係る法人税について適用され、同日前に開始した事業年度の所得に係る法人税については、従前どおり100%の繰越控除が認められるものとされている。 したがって、下記表のとおり、最も適用時期の早い3月決算法人については、平成25年3月期の法人税の確定申告から適用されることになり、最も適用時期の遅い2月決算法人については、平成26年2月期の法人税の確定申告から適用されることになる。 2 繰越期間の延長について (1) 適用対象欠損金 繰越期間が7年から9年に延長されるのは、平成20年4月1日以後に終了した事業年度において生じた青色欠損金である。同日前に終了した事業年度において生じた青色欠損金については、従前どおり、その繰越期間は7年となっている。 したがって、3月決算の法人を例にすれば、下記表のとおり、平成20年3月期に生じた青色欠損金については、平成27年3月期まで(7年)の繰越控除が認められるにとどまり、平成21年3月期に生じた青色欠損金については、平成30年3月期まで(9年)の繰越控除が認められることとなる。 (2) 関連する税制改正 なお、青色欠損金の繰越期間が9年に延長されたことに伴い、法人税に係る純損失等の金額についての更正の期限も、法定申告期限から9年(従前は7年)に延長されている(国税通則法(以下、通法)70②)。 また、併せて、法人税に係る純損失等の金額についての更正の請求期限も、法定申告期限から9年(従前は1年)に延長されている(通法23①)。 3 帳簿書類保存要件の新設 今回の税制改正により、青色欠損金の繰越控除を受けるための要件として、新たに帳簿書類保存要件が設けられることとなった(法法57⑩)。 すなわち、欠損金額が生じた事業年度の青色欠損金を繰越控除するためには、当該事業年度(繰越控除の適用を受けようとする事業年度ではなく、欠損金額が生じたときの事業年度)の帳簿書類を9年間保存している必要があることとされた。 従前は、青色申告法人については、もともと帳簿書類を7年間保存することが義務付けられていたこともあり、特段、青色欠損金の繰越控除を受けるための要件としては帳簿書類の保存義務は課されていなかった。 ところが、今回、青色欠損金の繰越期間が9年に延長されたことに伴い、青色申告法人の帳簿書類の保存年数(7年)との間に齟齬が生じたことから、改めて青色欠損金の繰越控除の適用要件として9年間の帳簿保存義務が課されることとなった。 したがって、今後は、青色欠損金の繰越控除を受けるために、もともと作成している帳簿書類のほかに別途新たな帳簿書類を作成する必要まではないものの、作成した帳簿書類については、7年間ではなく9年間保存しておくことが必要となる。 次回は上記改正事項を踏まえた同制度適用上、論点となる事項についてまとめる。 (了)
大きく変わる?税務調査手続 【その2】 「平成25年1月1日以降の変更点」 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 (承前)平成23年12月2日に公布された国税通則法の改正の中、調査手続に関する規定は原則として平成25年1月1日以降開始される調査から適用されるが、一部は平成24年10月1日から先行実施されている。 前回【その1】では、先行実施された項目については解説したが、今回はそれ以外、来年1月1日の本格施行後に初めて適用される規定について解説する。 なお、「1月1日以降開始する調査に適用される規定」と、「それ以前に開始している調査について1月1日に適用される規定」があるので、注意が必要である。 1 平成25年1月1日以降の変更点 (1) 1月1日以前に開始している調査にも適用される規定 次の事項については、1月1日以前に既に開始している調査についても、1月1日から適用になる。 イ 提出された物件の留置き 質問検査権の内容として、必要があるときは当該調査において提出された物件を留置くことができるとされた(改正通則法74条の7)。留置きとは、税務官庁の庁舎内において占有する状態をいう(手続通達2-1)。 事務運営指針によれば、留め置く必要がある場合や、相手方の負担軽減から留置きが合理的であると認められる場合に、留め置く必要を説明し、提出者の理解と協力の下、その承諾を得て実施するとしている。返還を求めたにもかかわらず返還されない場合は、不服申立てができることを教示しなければならない(事務運営指針第2章3(5)注)1)。 現場では、コピーの取扱いが問題になるかもしれない。 調査官が、納税者の提示した書類を納税者のコピー機でコピーした場合、そのコピーは納税者の所有する書類であるから、特に断りのない限り返還を求めることができると考えられる。 ただし、手続通達2-1によれば、「提出された物件が、調査の過程で当該職員に提出するために納税義務者等が新たに作成した物件(提出するために新たに作成した写しを含む。)である場合は、当該物件の占有を継続することは法第74条の7に規定する「留置き」には当たらないことに留意する。」としており、コピーが新たに提出したものであるときは、留置きに当たらないとしている。しかし、コピーを許諾することは必ずしも写しを提出したとは限らないので、この点の認識の食い違いがあると、トラブルになる可能性が考えられる。 最初にコピーを許諾する際に、コピーは後で返すように求めるか、預り証の項目の中に含めることによりトラブルを避けることができるだろう。 ロ 処分理由の附記 原則として、すべての不利益処分について、理由附記が行われることになる。 ただし、自主的な期限後申告書の提出や源泉の期限後自主納付の場合の無申告加算税又は不納付加算税の賦課は、質問検査等を行うものではないので、理由の附記はしないこととされている(手続通達1-1)。 なお、個人の白色申告者については、平成25年中には記帳義務が課されない者については、平成26年1月1日以降適用となる。 (2) 1月1日以降開始の調査に対してのみ適用される規定 以下の点が変更される。 イ 質問検査の根拠となる法律 従前は各税法に定められていた質問検査権の根拠規定が、国税通則法74条の2から74条の6に変わる。 ロ 事前通知 1月1日以降開始の調査については、下記表1の11項目すべてについて事前通知が行われる。 表1 事前通知事項 来年1月1日以降無予告調査が入った場合は、通則法74条の10の要件(「申告や過去の調査結果その他の情報から、違法又は不当な行為を容易にし正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすと認める場合」)を満たしていることが必要になる。 事務運営指針によれば、無予告の場合には、臨場後速やかに表1の中のNo.4からNo.9に当たる項目を通知し、No.11の項目を説明することに留意するとしている。 なお、事前通知を行わないことが許容される要件が法定されているが、その中で「その営む事業内容に関する情報」という文言の意義について、手続通達4-7は「単に不特定多数の取引先との間において現金決裁による取引をしているということのみをもって事前通知を要しない場合に該当するとはいえないことに留意する。」として、単に現金商売というだけでは無予告の理由には足りないとしている。 ハ 終了の手続 ① 是認通知 調査の結果更正決定等をすべきと認められない場合は、書面による通知が出されることとなった(改正通則法74条の11第1項)。 積極的に是認する場合だけでなく調査打切りの場合を含むかどうかは明らかでないが、更正決定等をすべきと認められる場合以外はすべて「更正決定等をすべきと認められない場合」に当たると考えれば、調査打切りの場合でも調査は終了したことになり、書面による通知は行われなければならないであろう。 手続通達3-1(1)によれば、通知は税目・期間ごとに行わなければならない。 ② 調査結果の説明 更正決定をすべきと認める場合には、調査官は調査結果の内容を説明しなければならないし、修正申告の勧奨を行う場合には、前回【その1】の2(2)で述べた口頭の教示と書面の交付を行わなければならないこととされた(改正通則法74条の11第2項)。 事務運営指針(第2章4(2))によれば、「当該非違の内容等……について原則として口頭により説明する。その際には、必要に応じ、非違の項目や金額を整理した資料など参考となる資料を示すなどして、納税義務者の理解が得られるよう十分な説明を行うとともに、……質問等があった場合には分かりやすく回答するよう努める。」としている。また、「当該調査結果の内容の説明等をもって原則として一連の調査手続が終了する旨を説明する。」としている。 したがって、修正申告の勧奨を行った場合に、納税者がそれを受け入れない場合であっても、それ以上調査を続けることはできないことになる。 従来は修正申告の勧奨を受け入れない場合には調査を続行することも可能であったが、今後はそれができなくなる。この点は納税者にとっては非常に好ましい変化である。 ただし、手続通達5-4によれば、「調査結果の内容の説明を行った後、当該調査について納税義務者から修正申告書……の提出がなされるまでの間……において、当該説明の前提となった事実が異なることが明らかとなり当該説明の根拠が失われた場合など当該職員が当該説明に係る内容の全部又は一部を修正する必要があると認めた場合には、必要に応じて調査を再開した上で、その結果に基づき、再度、調査結果の内容の説明を行うことができることに留意する。」としている。 調査結果の説明を受けた結果、調査官の事実認識が誤っていることが明らかになり、納税者が別の証拠を提示した結果理解が得られ、調査結果の修正が行われた、といった場合がこれに当たるだろう。 なお、結果説明は納税者本人の同意がある場合には、税務代理人に対してすることができる。 ニ 再調査 改正通則法74条の11第6項では、是認通知、修正申告、更正決定をした年分についても、「新たに得られた情報に照らして非違があると認められる場合」には再調査ができることとされた。 どのような場合に「新たに得られた情報に照らして非違があると認められる」のかが問題になるが、事務運営指針第2章4(6)では、法令及び手続通達(5-7,5-8,5-9)に基づき、個々の事案の事実関係に即してその適法性を適切に判断するとして、再調査に対して慎重な対応を要求している。「新たに得られた情報」とは、調査結果の説明を行った時点で、説明を行った調査官が有していた情報以外の情報をいう(手続通達5-7)としているので、その解釈によれば、客観的に気づくことができる範囲に存在する情報であったのに見過ごしていただけであっても、新たに得られた情報ということになるだろう。 しかし、このような通達の解釈が法律の文言である「新たに得られた情報」の解釈として適切かどうかについては議論の余地があろう。 再調査となる範囲については、手続通達3-1は、「税目と課税期間によって特定される納税義務」を単位と捉えており、同一の「課税期間」の意義については、手続通達3-2に規定している。それによると、課税期間がある国税については原則として暦年又は事業年度が課税期間となる。源泉税の場合は、同一の法定納期限となる源泉所得税を一の課税期間として取り扱うこととしている。 ホ 理由附記 行政不服審査法は行政上の不利益処分を行う場合には理由附記を原則としているが、従来、国税に関する法律に基づく申請に対する拒否処分や不利益処分を行う場合については、国税通則法によって原則として理由附記は不要とされていた(改正前通則法74条の2)。ただ、青色申告の更正については、個別税法で例外的に理由附記が必要とされ、それが青色申告の特典のひとつとされていた。 平成23年度の国税通則法の改正により、原則として、すべての申請の拒否や不利益処分について理由附記を要することとなった。 青色申告については従来から理由附記の対象になっているが、その内容については、計算過程しか書いておらず更正の根拠が分からないため、不服申立てをすべきかどうかを判断するには不十分だという声が聞かれることが多い。 今回の改正をきっかけに、改善が期待できるのであろうか。 事務運営指針(第2章5)によれば、「処分の適正性を担保するとともに処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を図るとの理由附記が求められる趣旨が確保されるよう、適切にこれを行う。」としている一方、「青色申告に係る更正の理由附記は従前のとおり理由附記を行うことに留意する」としているので、青色申告の理由附記については従前のレベルにとどまるかもしれない。 白色申告者に対する更正の理由附記が開始する時期は、①平成20年から25年までのいずれかの年において記帳義務・記録保存義務があった者については平成25年1月から、②それ以外の者は平成26年1月1日からとなる。 (次ページへ続く) 2 更正の請求の期間延長と増額更正期間の延長 〈更正の請求期間が5年に〉 調査手続の改正とは異なるが、平成23年12月2日公布の通則法の改正においては、更正の請求期間を原則1年から原則5年に延長するとの改正も行われた。 この改正の目的は、「法定外の手続により非公式に課税庁に対して税額の減額変更を求める「嘆願」という実務慣行を解消するとともに、納税者の救済と課税の適正化とのバランス、制度の簡素化を図る観点から、納税者が申告税額に減額を求めることができる「更正の請求」の期間を延長する」(平成23年度税制改正大綱)ことにある。 更正の請求期限が延長されたことに伴い、調査の結果修正申告を行った後でも、更正の請求を出すことが可能となった。 調査官は修正申告の勧奨を行う際に、「不服申立てはできないが更正の請求はできることを説明し書面も交付しなければならない」ことが法定された(改正通則法74条の11③)。勧奨に従って修正申告をしても、再度検討した結果誤りがあった場合には、原則法定申告期限から5年以内であれば更正の請求をすることができる。 例えば、調査の際には見つからなかった書類が後日見つかったことによって、当初申告の内容が正しいことが明らかになったようなときには、法定納期限から5年以内なら更正の請求ができることになる。 〈増額更正期間の延長〉 今回の改正では、同時に増額更正の期間も原則3年から5年に延長された。これにより、増額更正の期間と更正の請求の期間は一致することとなった※。 ※原則5年の例外は、贈与税6年、移転価格税制適用法人税6年、法人税の純損失の金額9年、脱税7年である。 これにより、法人税調査は従来どおり5年間遡及で変わらないが、個人所得税や消費税の調査は、従来の3年遡及から5年遡及が可能になる。 これらの改正は、平成23年12月2日以降に法定納期限が到来する国税について適用される。 〈事実を証する書類〉 更正の請求に際しては、更正の請求の理由の基礎となる、「事実を証明する書類」の添付が義務化された(改正前の「添付するものとする。」から、「添付しなければならない。」と改正された)(改正通則法施行令6条2項)。この改正は、平成24年2月2日以後に行う更正の請求から適用される(改正通則法附則1条1号)。 〈罰則〉 また、偽りの記載をして更正の請求書を提出した者に対する罰則が創設され、内容虚偽の記載をして更正の請求書を提出した者に対して1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されることになった(改正通則法127条)。この改正は、平成24年2月2日以後に行う更正の請求から適用される。 〈更正の申出書〉 平成23年12月2日より前に法定申告期限が到来する国税の申告については、従来同様、更正の請求期限は1年であるが、国税庁は「更正の申出書」の提出があれば減額更正を実施するよう努めるとしている。 この取扱いは、従前から「嘆願書」により運用として行われてきたものを尊重する趣旨であり、嘆願書と同様、却下されても不服申立はできない。この「更正の申出書」の提出できる期間は、改正前の増額更正期間と同じである。「更正の申出」を行う際には、「事実を証明する書類」の提出が必要である。 3 更正の請求の範囲の拡大 当初申告の際、申告書に適用金額を記載した場合に限り適用が可能とされていた措置のうち、一定の措置については、更正の請求(又は修正申告書)の提出により事後的に適用を受けることができるようになった。1つは当初申告要件の廃止、もう1つは控除額の制限の見直しである(下記【参考】参照)。 これも実務的には極めて大きな改正であり、納税者にとって好ましい改正である。 4 おわりに 今回の改正は、納税者にとって好ましいものになっている。 課税庁にとっては、調査手続を一つ一つ履行する手間が増えることは確かだと思われる。 税制改正大綱に当初盛り込まれていた納税者憲章を創設する案が廃案となったことが示唆するように、この流れを逆行させようとする力は常に働いている。今回の改正の趣旨を生かすためには、調査の場面における納税者と税務代理人の持続的な努力が求められると思われる。 (連載了) 【参考】国税庁ホームページ ・「当初申告要件が廃止された措置」 ・「控除額の制限が見直された措置」
特定役員退職手当等の 実務上の留意点 税理士 柴田 知央 1 退職所得の改正の概要 退職所得は、原則、退職手当等から退職所得控除額を控除した後の金額の2分の1が課税対象となる。 しかしながら、平成24年度の税制改正により、特定役員に対する退職手当等(以下「特定役員退職手当等」)については2分の1が廃止され、退職手当等から退職所得控除額を控除した金額が、そのまま課税対象となる。 この改正により、特定役員退職手当等に係る退職所得は、課税対象が従来の倍となるため、税負担が非常に重くなる。 2 いつから適用されるのか この改正は、平成25年分以後の所得税について適用される。退職所得の収入計上時期は、退職手当等の収入すべきことが確定した日の属する年分の所得となる。 「収入すべきことが確定した日」とは、原則、退職手当等の支給の基因となった退職の日をいう。 役員に支給する退職手当等については、株主総会など権限を有する機関の決議を要するものについては、その役員の退職後、その決議があった日となる。 ただし、その決議において、具体的な支給金額を定めていない場合には、支給金額が具体的に定められた日となるので、注意が必要である。 3 特定役員退職手当等とは この改正の影響を受けるのは、特定役員退職手当等だけである。 したがって、特定役員退職手当等以外の退職手当等(以下「一般退職手当等」)の場合、従来通り、2分の1の適用が存続される。 「特定役員退職手当等」とは、役員等勤続年数が5年以下である人が、その役員等勤続年数に対応する退職手当等として支払いを受けるものをいう。 したがって、役員等勤続年数が5年以下であるかどうかによって、税負担が大きく左右される。 役員等とは、次に掲げる者が該当する。 また、「役員等勤続年数」とは、退職手当等に係る勤続期間のうち、その者が役員等として勤務した期間の年数(1年未満の端数がある場合には、その端数は1年に切上げ)をいう。 勤続年数の計算の基礎となる勤続期間は、それぞれ暦に従って計算し、1月に満たない期間は日をもって数え、これらの年数、月数及び日数をそれぞれ合計し、日数は30日をもって1月とし、月数は12月をもって1年として計算する。 受給者が、一時勤務していなかった期間がある場合には、勤続期間の調整が必要となる。 4 使用人から役員に昇格した者に対し、退職手当等を支給する場合の税額の計算 例えば、入社してから退職するまでの勤続年数が40年であっても、役員等勤続年数が5年以下であれば、退職手当等のうち役員退職金部分については、特定役員退職手当等に該当する。 このときの、退職所得の金額及び税額は、次のとおりである。 【退職所得の金額】 ① 特定役員退職手当等分:(1,000万円-200万円(注1))=800万円 ② 一般退職手当等分:(2,200万円-2,000万円(注2)))×1/2=100万円 ③ 退職所得(①+②): 900万円 【課税退職所得金額に対する税額】 ① 所得税及び復興特別所得税:(900万円×23%-63.6万円)×102.1%=1,464,114円 ② 住民税:900万円×10%(注3)=900,000円 ③ 税額合計(①+②):2,364,114円 退職所得の源泉徴収税額の速算表(平成25年分) 仮に、退職手当等がすべて一般退職手当等に該当すれば、税額は1,084,522円(注4)となり、その差は1,279,592円にもなる。 そのため、実務上、役員等勤続年数には、常に注意を払っておく必要がある。 5 使用人の期間と役員の期間が重複する場合の退職所得の計算 使用人の勤続年数と役員等勤続年数が重複する場合の退職所得の金額は、次のように計算する。 【退職所得の金額】 ① 特定役員退職手当等分:(1,000万円-160万円(注5))=840万円 ② 一般退職手当等分:(2,200万円-2,040万円(注6))×1/2=80万円 ③ 退職所得(①+②): 920万円 6 取締役から監査役に就任した場合の役員等勤続年数 取締役及び監査役は、いずれも法人税法第2条第15号に規定する役員に該当する。 役員等勤続年数は、役員等として勤務した期間の年数なので、取締役及び監査役として勤務した期間の合計が役員等勤続年数となる。 (了)
〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第3回】 税率変更の問題点(2) 「レジスター等のシステム変更」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 1 システムの変更について 現在使用しているレジスター等については、この税率変更に伴ってシステムの変更をしなければならない。 販売する商品等のバーコードラベルなどをバーコードスキャナで読み込んで集計するレジシステムの場合には、発行側のバーコードの情報変更と読取り側のレジシステムの情報変更の双方を行わなければならず、かなりの事務作業となるため、早急に対応策を検討しなければならない。 また、外部にシステム設計を依頼している場合には、システム設計会社側が各企業より同時に発注を受けることとなり、その構築に必要以上の時間がかかる可能性もあるので注意しなければならない。 さらにPOSレジシステムなどを採用している企業の場合には、販売管理システムや会計システムと連動しているケースも少なくないことから、システム変更につき多額のコストが発生することとなり、設備投資資金も踏まえて検討する必要がある。 レジシステムの変更においては、レシートや領収書の表示についても5%から8%又は10%に変更しなければならず、注意が必要である。 平成9年の税率変更の際には、本体価額を集計しその合計額に税率を乗じる「外税方式」の計算システムが主流であったため、税率のみを変更するだけで容易に集計システムや表示方法を変更することができた。 しかしながら、平成16年の総額表示義務規定により消費税を含めた「内税方式」により計算しなければならなくなったことで、1円単位の端数処理をどのように処理するのか、レシート等の表示について消費税額をどのように表記するのかといった問題が生じるため、事業者側でどのようなルールで処理するのかを選択した上で、レジシステムを変更しなければならない。 さらに、このレシート等の表示については、レジシステムを内税方式により計算し、1円未満の端数処理後の消費税額を明示しなければ旧消費税法施行規則22条1項の規定を適用することができないことから、この対応も含めて検討しなければならない(下記2参照)。 また、税率変更前に販売した商品等が税率変更後に返品された場合については、5%で返品処理をすることとなり、その対応をレジシステムで処理しなければならないことから注意が必要である。 2 旧消費税法施行規則22条の適用について 事業者が売上代金に係る決済上受領すべき金額について、本体価格とこれに係る消費税額等とを区分して領収している場合において、その消費税額等につき本体価格に税率を乗じて生じた1円未満の端数を処理しているときは、その端数処理後の消費税額等の合計額を基礎としてその課税期間中の課税標準額に対する消費税額を計算することが、消費税法施行規則22条1項の『課税標準額に対する消費税額の計算の特例』(下記具体例参照、以下「旧規則22条」という)の規定により認められていた。 この旧規則22条の規定は、総額表示義務規定により税込価格で計算することが前提となったため、税抜価格で表示されている場合の端数処理の問題は生じないということから、平成16年3月31日に廃止された。 しかしながら、当時において、税抜価格を前提とした外税方式により処理をしていた事業者が多いこと、税込価格を前提とした内税方式のレジシステム等に変更するために相当の時間を要することなどの理由により、以下のような3つの経過措置が設けられた。 上記の各経過措置を適用するためには、それぞれの経過措置に定める方法により1円未満の端数処理を行った後の消費税額等とその基礎となった税込価格又は税抜価格とを領収書又は請求書等において明示することが要件となっているため、そのためのレジシステムを構築することが必要となる。 ただし、実際の運用については、期限付きで認められていた【経過措置3】のように税抜価格に税率を乗じて計算するレジシステムを採用している事業者が未だに少なくないことから、今回の改正においてもこの【経過措置3】を認める方向で検討されている。 具体的には、『転嫁対策・価格表示に関する対応の方向性についての検討状況(中間整理)』において「いまだに外税方式による税額計算をせざるを得ない業界に対しては、その事情を把握した上で、必要があれば『外税方式の端数処理の特例』を再び措置する方向で検討する。」としている(『消費税の円滑かつ適正な転嫁・価格表示に関する対策の基本的な方針(中間整理の具体化)』にも明記されている)。 したがって、レジシステム等の変更については、上記の経過措置の規定を適用するかどうかも含めて検討する必要がある。 3 システムの運用について レジシステム等の変更については、税率が変更される施行日(平成26年4月1日)から稼働しなければならないが、その導入時期をいつにするのかも検討する必要がある。 24時間営業をしている事業者の場合には、変更したレジシステム等を導入した後でも施行日前に販売したものは旧税率により計算し、施行日の0時からは新税率により計算することとなる。 同様に、商品等のバーコードについてもそのラベルをいつ貼り替えるのか、あるいは新旧税率に対応できるラベルに変更するのかも含めて検討しなければならない。 また、このシステム等の変更についても、今回の税率変更が2段階であることから、8%と10%の両方を対応させるのか、それぞれに分けて対応させるのかといった点についても検討が必要である。特に回転率が悪い商品等を取り扱う事業者にとっては重要な項目となる。 さらに、現在の政府の検討事項である複数税率について、導入されることとなればシステム変更がより一層複雑になることから、今後の法改正にも注意しなければならない。 (了)
改正「退職給付会計」の要点と 実務上のポイント 【第4回】 「退職給付制度・年金資産運用の再検討」 有限責任監査法人トーマツ 堀田 晃裕 2012年5月17日に企業会計基準委員会より、企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」が公表された。改正後基準(前述の会計基準及び適用指針を総称してこう呼ぶことにする)の改正前基準からの主な変更点は5点あり、以下のとおりである。 前回は改正適用時の実務(財務諸表への影響)について述べたが、今回はそれらを踏まえ、退職給付制度や年金資産運用について再検討すべきポイントなど、いくつか検討ポイントを挙げてこれについて述べる。 なお、本記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではないことをあらかじめお断りしておく。 本改正の財務諸表への影響 第1回でも述べたとおり、本改正によって損益計算書の取扱いに変更はない。「退職給付債務及び勤務費用の計算方法」の変更により、改正前基準と改正後基準で勤務費用の水準は変動することが予想される。また退職給付債務の計算方法が変更されることで、利息費用の水準は変動することが予想されるし、数理計算上の差異の発生の仕方も変わるので数理計算上の差異の費用処理額も変動することが見込まれる。 しかし「退職給付費用=勤務費用+利息費用-期待運用収益±数理計算上の差異の費用処理額±過去勤務費用の費用処理額」が損益計算書に計上されるという大枠が変更されるわけではない。 本改正によって大きく変わるのは、貸借対照表の「純資産の部」である。発生した数理計算上の差異は、(翌期からこれを費用処理する会計方針の企業では)その発生した期にはその他の包括利益を通じて、純資産の部のその他の包括利益累計額に「退職給付に係る調整累計額」として計上される。したがって数理計算上の差異の発生は貸借対照表の「純資産の部」を直接増減させることになる。 これによって「純資産の部」の変動が大きくなることが見込まれる。 なお数理計算上の差異は、年金資産から発生するものと退職給付債務から発生するものに分けられる。年金資産から発生する数理計算上の差異は、期待運用収益と実際の運用収益の差から生じる。また退職給付債務から発生する数理計算上の差異のうち金額的影響が大きいのは、割引率の変更によるものである。 退職給付制度の再検討 退職給付制度を再検討することによって何を期待するかは、企業の置かれている状況によって異なる。コスト削減すなわち退職給付費用の絶対額の削減を求める場合もあるだろうし、今般の会計基準改正を受けて数理計算上の差異の発生の抑制を追求する場合もあるだろう。あるいはその両方という場合も考えられる。 ただ留意しておきたいのは、コスト削減は従業員側から見れば給付削減に他ならないということである。 以下で退職給付制度を構成する要素(給付水準、支払方法、給付算定式、制度の枠組み)ごとに再検討のポイントを見ていく。 これらから退職給付制度の再検討の方向性は、 コスト削減を目指すのであれば、給付水準・支払方法を従業員の同意を得られる範囲で適正化する 数理計算上の差異の発生を抑制するのであれば、確定給付企業年金を確定拠出年金へ移行することを検討する、あるいはキャッシュバランスプランの導入を検討する などが考えられる。 確定拠出年金は2001年に日本で導入されて以来、何度かの拠出限度額の引上げや従業員による拠出(いわゆるマッチング拠出)の導入など着実に規制緩和が行われてきている。ただ60歳まで原則として引出しができないことや、拠出限度額の関係で(給付水準が比較的高い企業の場合は)退職給付をすべて移行できるとは限らないことから、退職給付制度をすべて確定拠出年金とするのではなく、他制度と併用するのが現実的かもしれない。 年金資産運用の再検討 前述のとおり、年金資産から発生する数理計算上の差異は、期待運用収益と実際の運用収益の差から生じる。数理計算上の差異の発生を抑制するためには、期待運用収益と実際の運用収益の差があまり生じないようなリスクのより低い資産運用に移行する必要があり、その結果、多くの場合は期待運用収益を引き下げざるを得ないだろう。 なお、退職給付制度を再検討して必要に応じこれを見直した場合、年金資産運用も再検討する必要があるだろう。従来型の年金ALMを通じてリスクのより低い資産運用に移行するだけでなく、LDI(Liability Driven Investment、年金債務に基づく投資)のような手法の採用も検討対象となるだろう。 その他の検討すべき事項 期末における退職給付債務や年金資産の金額は、これまで期末の財務諸表に反映されることはなかった(数理計算上の差異を翌期から費用処理する会計方針の会社の場合)。 本改正により連結財務諸表の貸借対照表上、未認識項目が廃止され退職給付債務と年金資産の差額がそのまま負債又は資産として計上されることとなるため、従来は主に開示のために入手していた期末における退職給付債務や年金資産の額を、よりタイムリーに入手する必要があるだろう。また年金資産については開示目的で株式・債券などの種類ごとの割合又は金額の入手が必要になる。 こういった情報は子会社の分に関しても同様に入手が必要となるので、その内容やスケジュールについて事前に関係者間での十分な擦合せが必要となろう。 (連載了)