検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10197 件 / 9931 ~ 9940 件目を表示

〔会計不正調査報告書を読む〕【第5回】明治機械連結子会社・不適切な会計処理「第三者調査委員会調査報告書」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第5回】 明治機械連結子会社・ 不適切な会計処理 「第三者調査委員会調査報告書」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】   【明治機械株式会社の概要】 明治機械株式会社(以下「明治機械」という)は、東京都に本店を置く産業機械メーカーで、創業1899(明治32)年。連結売上高8,348百万円、連結経常利益388百万円。従業員205名(数字はいずれも2012年3月期)。東証2部上場。 今回不正会計が発覚したラップマスターエスエフティ株式会社(以下「ラップ社」という)は、明治機械が2004(平成16)年に株式取得により子会社化(議決権割合85%)した半導体製造装置メーカーであるが、明治機械の2012年3月期有価証券報告書によれば、2,670百万円の債務超過と報告されている。   【報告書のポイント】 1 ラップ社の不適切な会計処理が発覚した経緯 明治機械は、2012年10月、金融庁証券取引等監視委員会から、ラップ社における不適切な会計処理の疑義について指摘を受けたことから、自社において不正会計の実態と責任の所在の解明及び再発防止策立案等が必要であると判断し、第三者委員会を設置した。   2 調査結果により判明した事実 (1) 押込・架空売上の計上 ラップ社が売上計上した装置機械のうち、2008年3月期に売上計上した6台及び翌年3月期に売上計上した11台、売上代金約15億円が長期滞留債権として資金回収がなく、調査の結果、押込販売あるいは架空販売であったことが判明した。 17台のうち、未出荷であったものが4台、保管されたままになっているものが5台、他のオーダーに転用された後事業譲渡されたものが1台(したがって、本機は2台とカウントされている)、販売又は事業譲渡されたものが6台であり、これらの販売・譲渡代金の合計は約2億4,000万円であった。 (2) 不正な原価流用 調査の過程で、ラップ社において、本来売上原価に計上すべき金額の一部を仕掛品として増額する、不正な原価流用が判明した。 原価流用とは、明治機械において、製造委託をしていた装置機械が完成した時点で、余った部材が他の仕掛中の装置機械の製造部材として転用できる場合に、製造委託先とラップ社の判断により、完成済み装置機械の原価の一部を他の仕掛中の装置機械の部材に付け替えることをいう。 この結果、明治機械の損益計算書上の「売上原価」が減少し(利益が増加)、貸借対照表上の資産である「仕掛品」の金額が増加することとなる(報告書22ページ)。 利益の水増し等のために行われた不正な原価流用が行われ始めた時期、金額は特定できていない。   3 原因分析と責任の所在 (1) 債務超過回避、親会社からの圧力 明治機械は、会計監査人に対し、ラップ社の減損の判断を2008年3月期に行う旨の報告書を提出しており、ラップ社の債務超過回避が最重要問題となっていた。 ラップ社幹部は、そうした親会社からのプレッシャーを受け、同期に約6億8,000万円、翌期に13億6,000万円の押込・架空売上を計上し、それだけでは足りないことから、不正な原価流用により利益を捻出したものである。 これに加え、ラップ社では、幹部から多数の従業員に対して押込・架空販売の処理を指示するメールが公然と送信されており、コンプライアンス意識も欠如していた。 (2) 明治機械社長の責任 ラップ社の元社長はじめ不正の当事者の責任が問われるのは当然であるが、明治機械社長のもとにも、ラップ社H氏から、「注文書を捏造します」「無理やり船積みもします」「時期が来るまで海外代理店の保全倉庫で保管してもらう」といった不正の具体的手口にまで言及したメールが送信されており、同社長が不正や隠蔽工作を指示した、あるいは知っていながら阻止しなかったとまでは言えないまでも、不正な会計を是正する措置をとることができた可能性が十分にあり、かつ、そうすべき立場であったことから、その責任は否定できない、と調査委員会は判断した。 (3) 明治機械監査役会 2009年12月8日、ラップ社元社長が送信したとされる内部告発メールが会計監査人宛てに届いたため、明治機械監査役会が調査に当たった。 調査の結果、「事実無根」という一部関係者の証言や出荷関係書類が形式的に整っていたことから、不正会計を否定する結論を出した。 しかし、監査役会が、広く関係者をヒアリングし、販売先に現物確認等を行っていれば、内部告発メールには事実が含まれており、不正の発見、是正につながった可能性があり、不正が早期に是正できなかったことについての責任の一端があると、調査委員会は指摘した。 (4) 会計監査人 会計監査人は、2009年3月期に多額の売掛債権(前期の押込販売)が回収されていない状況にもかかわらず、長期滞留の原因調査が十分であったと考えられるし、ラップ社が採用していた出荷基準により売上計上を研修基準に変更させるべきではなかったかとも考えられる。 また、上記の内部告発メール後の監査においても、仕掛品の現物確認にあたっては一層注意を払う必要があったし、売上原価を仕掛品に付け替えていないかについて慎重に検討するなど、十分な監査を行う必要があったと、調査委員会は指摘した。   4 調査報告書の特徴 報告書の冒頭「調査の限界」の中で、ラップ社の本件調査に係る事業が、2011年3月に事業譲渡されており、従業員のほとんどが転籍・退職している上、PCや証憑書類が残っていないこと、ラップ社元社長へのヒアリングが病気のためできなかったこと、明治機械幹部も、記憶が明確でないという陳述に終始することが少なくなく事案の解明は困難を極めたという記述があり、調査は、ラップ社H氏の証言と、同氏のメールの分析を中心に行われたようである。 報告書は、会計監査人宛てに届いた内部告発メールに対し、監査役会が十分な調査をしないまま事実無根であるとの結論を出しただけではなく、その報告を受けた会計監査人も、独自に調査をすることも、その後の監査において特段に注意を払うこともなく、監査を行っていた結果、不正の発見・是正が遅れたものであると指摘し、こうした不正の端緒につながる情報に接したとき、監査役、会計監査人はどうあるべきかを改めて考えさせられる内容になっている。 また、内部告発メールに止まらず、ラップ社H氏から発信された、明治機械社長へのメール、監査役への説明、会計監査人担当者に対する監査における虚偽説明を認めたかのようなメールなど、不正会計の是正につながる可能性があった事象を詳細に取り上げ、彼らの責任を理詰めで追及した記述には、説得力を感じると同時に、共感させられる点も多い。 【追記】 本調査報告書受領後の明治機械の適時開示は以下のとおり。 2月22日、同日開催の取締役会において、社長の解職を決議。これを受けて、同氏が取締役を辞任したことを発表した。 同月26日、監査法人との間で監査契約の解除を合意し、一時会計監査人を選任したこと、22日に就任した新社長を委員長とする社内調査委員会を設置したことを発表した。 委員会設置の目的は、以下のとおりである。 (了)

#No. 10(掲載号)
#米澤 勝
2013/03/14

改正高年齢者雇用安定法の実務上の留意点 【第2回】「継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止」

改正高年齢者雇用安定法の 実務上の留意点 【第2回】 「継続雇用制度の対象者を限定できる 仕組みの廃止」   社会保険労務士 平澤 貞三   背景 報酬比例部分に関する厚生年金の支給開始年齢が引き上げられ、平成25年4月には60歳であっても年金を一切受けられない人が出てくることになる。 年金の支給開始年齢の引上げは、平成25年4月1日から平成37年3月31日の期間で、以下のように予定されている。 (老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢) 年金を含めた一切の収入が絶たれないようにするためには、60歳以後も安定して職に就ける環境を整備する必要がある。 これが継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みを廃止した理由である。   経過措置 改正高齢法の趣旨は、無収入、無年金状態に陥ってしまう人を極力出さないという点にあるので、年金支給開始年齢に到達した者については継続雇用の対象者基準を適用してもよい、という経過措置が設けられている。 つまり、平成25年4月に60歳で定年となった者の場合、その者が希望する限り一定の場合を除いて自動的に継続雇用となるが、翌年から61歳で年金を受けられるようになったら、労使協定に定める継続雇用の対象者基準でふるいにかけ、基準を満たさない時はその時点で雇用を打ち切られることもあり得る、ということである。 ただし、労使協定で定める継続雇用の対象者基準は、平成25年4月1日以後に定めることは不可とされているので、対象者基準を設ける場合には、平成25年3月31日までに労使協定を締結しておく必要がある。 (厚生労働省ホームページ「高年齢者雇用安定法Q&A」Q1-1より)   経過措置の具体例と留意点 平成28年4月に60歳を迎える者が同年4月に定年退職となる場合、老齢厚生年金の支給開始年齢は62歳となるから、本人が継続雇用を希望する限り、原則として定年時点では継続雇用しなければならない。 その後、62歳になった時点で継続雇用の対象者基準を適用することが可能となり、継続か否かの判定ができるようになる。 ここで留意したいのは、対象者基準は、60歳定年時の状況で判断するのか、それとも62歳時点で判断するのか、という点である。 多くの企業では、直近の健康状態、過去の懲戒処分、出勤率、人事考課(平均点以上)などを継続雇用の対象者基準として設けているが、たとえ60歳時点ではそのような基準をクリアしていなくとも、希望する限り62歳までの雇用は保障されることになる。 一方、62歳になった時点で今後も雇用を継続すべきかどうかの判断において、2年前の定年退職時に遡って対象者基準に沿った評価ができるのか、という疑問が残る。 これについては法律上の制約は特に設けられておらず、労使協定で定めるルールに従うことになるため、決め方によっては60歳時点に遡った評価も可能なのである。 つまり、労使協定において継続雇用の対象者基準を平成25年3月31日までに定めておくことはもちろん、その評価の判断時点は定年時点なのか基準対象年齢時点なのかを明確にしておくことも重要であるといえる。 これらを踏まえて、次回では、改正高齢法対応の就業規則と労使協定について触れていきたい。 (了)

#No. 10(掲載号)
#平澤 貞三
2013/03/14

誤りやすい[給与計算]事例解説〈第10回〉-賞与計算(1)-【事例①】退職時の社会保険料控除

誤りやすい [給与計算] 事例解説 〈第10回〉 -賞与計算(1)-   税理士・社会保険労務士  安田 大   【事例①】―退職時の社会保険料控除― 〔正しい処理〕 〔解   説〕 1 社会保険の被保険者資格喪失 被保険者が退職した場合には、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者資格を喪失することになるが、資格喪失日は退職日の翌日とされている。 したがって、事例の場合には、12月28日が退職日であるため、資格喪失日はその翌日の12月29日になり、資格喪失月は12月となる。 2 社会保険料の負担 社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)については、月単位で保険料を負担することになっている。原則として、資格を取得した月分から資格を喪失した月の前月分まで、社会保険料を負担する必要がある。 事例の場合には、社会保険料の負担は資格喪失月(12月)の前月分(11月分)までであり、賞与についても資格喪失月の前月である11月までに支給する賞与は対象となるが、資格喪失月である12月に支給する賞与については、社会保険料を負担しないことになる。 このため、賞与から社会保険料を控除する必要はないし、会社負担分も必要ないことになる。 もっとも、実務上は12月5日の賞与支給時(賞与計算時)に退職することがわからなかった場合には、当然、賞与から社会保険料を控除していることになるので、控除した社会保険料を後から還付する必要がある。    3 源泉徴収税額の再計算 12月5日支給の賞与に対する所得税等の源泉徴収税額について、社会保険料の負担を前提として計算されているため、社会保険料の負担がないものとして源泉徴収税額の再計算が必要となる。 また、本年分の年末調整についても、賞与に対する社会保険料負担を前提として計算が終了している場合には、その再計算(社会保険料控除が減少するため、年税額は増加することになる)も必要となる。 4 末日退職の場合 今回の事例では、12月28日の退職であるが、その月の末日(12月31日)に退職した場合には、退職日の翌日である翌年1月1日が資格喪失日となるため、資格喪失月は1月である。 したがって、資格喪失月の前月である12月に支給する賞与については、社会保険料を控除することになるので、還付する必要はないことになる。  (了)

#No. 10(掲載号)
#安田 大
2013/03/14

会社が取り組む社員の健康管理【第2回】「健康診断を実施する際のポイント」

会社が取り組む 社員の健康管理 【第2回】 「健康診断を実施する際のポイント」   社会保険労務士 佐藤 信   1 はじめに 健康診断において脳・心臓疾患に関連する所見をはじめ、何らかの所見を有する労働者が年々増加する傾向にあり、労働者の健康確保は大きな課題となっている。 労働者が健康を維持しながら働き続けるためには、会社が労働者の健康状態を的確に把握し、適切な健康管理を行うことが不可欠である。   2 健康診断のポイント 会社が実施する健康診断について、認識しておきたい点は次のとおりである。 特に④の「事後措置」については、既に生じている健康障害の悪化や再発を防ぎ、他の労働者の予防に活かしていくためにも重視したい(事後措置の具体的な方法については、次回解説する)。   3 健康診断の実施目的 健康障害の早期発見、業務上の事故や疾病の防止につなげていくためにも、健康診断が形式的なものとならぬよう、以下のような目的を持って実施していくことが望ましいといえる。   4 健康診断の種類 労働安全衛生法において、会社が実施することとされている健康診断には次のものがある。 (1) 一般健康診断 一般健康診断には、以下のようなものがある。 (2) 特殊健康診断 じん肺健康診断、高気圧業務健康診断、石綿健康診断など業務の種類に応じ定められた健康診断。 以下では、(1)一般健康診断のうち、主に①雇入時の健康診断及び②定期健康診断について、実施時の注意点等を触れていくこととする。   5 雇入時の健康診断 常時使用する労働者を雇い入れるときは、一定項目について医師による健康診断を行わなければならない。 (1) 「常時使用する」とは 「常時使用する労働者」については、期間の定めがない労働者のほか、次のような労働者も含まれる(後述する「定期健康診断」も同様)。 (2) 検査項目 実施項目については、以下のサイト(厚生労働省:安全衛生情報センター)をご確認いただきたい。 (3) 検査の省略 入社前に医師による健康診断を受けてから3月を経過しない者を雇い入れる場合、その者が健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、既に実施した項目については雇入時の健康診断を行わないことができる。   6 定期健康診断 会社は、常時使用する労働者(上記「5 雇入時の健康診断」参照)に対し、1年以内ごとに1回、定期に、一定項目について医師による健康診断を行わなければならないとされている。 (1) 検査項目 検査項目は、「5 雇入時の健康診断」の「(2) 検査項目」の内容に、「喀痰(かくたん)検査」を追加したものである。 (2) 実施スケジュール 定期健康診断については、労働者への周知から事後措置まで考慮した計画を立て、上記「3 健康診断の実施目的」の達成に向けたものとなるように実施していくことが望ましい。 スケジュール例を示すと、以下のとおりである。   今回は、雇入時及び定期の健康診断を実施する上での基本的事項を触れた。 冒頭に述べたとおり、一定の目的を持って実施し、健康障害の予防や再発防止に努めることのほか、近年は職場内のパートタイム労働者比率が高まっていることから、対象者の範囲・事後措置実施の実態など、現在職場で行われている健康診断が適正なものとなっているか否かを見直しながら今後の健康診断実施計画を立てていただきたい。 次回は、健康診断の費用負担、健診を勤務時間中に実施したときの給与の支払い、事後措置の実施など、引き続き健康診断に関連のある事項を取り上げていく予定である。 (了)

#No. 10(掲載号)
#佐藤 信
2013/03/14

企業の香港進出をめぐる実務ポイント 【第3回】「香港の会計制度」

企業の香港進出をめぐる実務ポイント 【第3回】 「香港の会計制度」   アースタックス税理士法人 アースタックス・ビジネスコンサルティング(香港)有限公司 税理士 白水 幹範     概要 香港における会計処理の基準については、主に会社法(Companies Ordinance)及び香港財務報告基準(HKFRSs: Hong Kong Financial Reporting Standards)にて定められている。 会社法においては基本事項が規定されているのみであり、具体的な会計処理の規定は定められていない。 実務上は、主に香港公認会計士協会(HKICPA: Hong Kong Institute of Certified Public Accountants)によって定められる会計基準に従い会計処理を行う。   香港の会社法における規定 香港の会社法における会計関連の規定は、日本の会社法「第五章 計算等」に相当する規定であり、以下のような基本事項が規定されている。 1) 会計帳簿の作成義務 すべての会社は会計帳簿を適切に作成し、原則として登記住所に保管し、常に取締役の閲覧に供することができる状態にしておく必要がある。 2) 会計帳簿の保管期間 会計帳簿は決算日後7年間保管しなければならない。 3) 連結財務諸表 子会社を持つ会社は、一定の要件に該当する場合を除き、連結財務諸表を作成することが要求される。 4) 取締役報告書(Directors’ Report) 取締役は、取締役が開示すべきと考える当期中の重要な事項などについて記載した取締役報告書を作成し、取締役会の承認を得る必要がある。 5) 会計監査 すべての会社は会計監査人を株主総会で任命し、任命された監査人により決算期ごとに会計監査が行われ監査報告書が作成される。 監査報告書は、株主総会の承認を得る必要がある。   香港の会計基準における規定 1) 香港財務報告基準 (HKFRSs: Hong Kong Financial Reporting Standards) 香港の会計基準は、香港財務報告基準(HKFRSs: Hong Kong Financial Reporting Standards)と呼ばれ、一般目的財務諸表において重要な取引及び事象を取扱う認識、測定、表示及び開示要件が規定されている。 香港財務報告基準(HKFRSs)は、香港公認会計士協会(HKICPA)により設定される香港財務報告基準(HKFRSs)、香港会計基準(HKASs: Hong Kong Accounting Standards)、及びこれらの解釈指針の総称であり、13の財務報告基準、41の会計基準及びこれらの解釈指針から構成されている(詳細は論末の添付資料参照)。 2) 国際財務報告基準(IFRSs: International Financial Reporting Standards)へのコンバージェンス 日本における国際財務報告基準(IFRSs)の強制適用は不透明となっている一方で、香港においては香港財務報告基準(HKFRSs)のIFRSsへのコンバージェンスを完了させており、2005年1月1日より適用されている。 HKFRSsの構成はIFRSsと一致しており、またその内容においてもほぼ同等のものとなっている(詳細は論末の添付資料参照)。 したがって、HKFRSsについて日本語で解説している実務書はほとんどないが、IFRSsの解説書にて概ね代用することが可能である。 3) 作成が要求される財務諸表 ・財政状態計算書(A statement of financial position) ・包括利益計算書(A statement of comprehensive income) ・株主持分変動計算書(A statement of changes in equity) ・キャッシュ・フロー計算書(A statement of cash flows) ・会計方針及び注記(Accounting policies and explanatory notes) 4) 中小企業向け会計基準 香港においては、中小企業向けの会計基準として、中小企業に関連の低い項目を削除するなどHKFRSsを大幅に簡素化した以下の会計基準が設けられている。 ① 中小企業向け財務報告フレームワーク及び財務報告基準 (SME-FRF & SME-FRS: Small and Medium-sized Entity Financial Reporting Framework and Financial Reporting Standard) 2005年1月1日より適用となっており、私的会社(①株主の株式譲渡に制限がある、②株主数が50人以下に限定されている、③株式・社債の公募が禁止されている、の要件を満たす会社)で、そのすべての株主の書面による同意を得ているなどの一定の要件を満たす会社に適用できる。 ② 非公開企業向け香港財務報告基準 (HKFRS for PE: Hong Kong Financial Reporting Standards for Private Entities) 2009年7月に公表された中小企業向けIFRS(IFRS for SMEs)を受けて、香港向けに修正が加えられたHKFRS for PE が2010年4月30日より適用となっている。 公的説明責任を有しない会社(社債又は資本が公開市場で取引されない会社など)で外部利用者に一般目的財務諸表を公表しているなどの一定の要件を満たす会社に適用できる。 (了)

#No. 10(掲載号)
#白水 幹範
2013/03/14

会計事務所 “生き残り” 経営コンサル術 【第3回】「社長は会計の素人なのに、なぜ会計人は難しい専門用語を使って話をするのか」

会計事務所 “生き残り” 経営コンサル術 【第3回】 「社長は会計の素人なのに、 なぜ会計人は難しい専門用語を使って 話をするのか」   株式会社 経営ステーション京都 代表取締役 京セラ株式会社 元監査役 公認会計士・税理士 田村 繁和   バリバリ仕事をされている社長の中にも、会計が苦手な方がたくさんおられます。 商学部出身で学生時代は簿記を受講されていたのですが、勉強不足だったのか、P/L、B/Sそのものをわかっていない方も多いようです。 そんな社長に対して、難しい専門用語を使って話をしている会計人がいます。社長はP/LやB/Sの見方もわからないし、それらをベースにした経営分析なんて、とんでもない話なのです。 本当のところは、そんな難しい話より、勘定科目の意味そのものがわからないのです。 例えば、租税公課の科目の中にどんなものが入っているのかや、会議費と交際費、未払金と未払費用の違いなども聞きたいのです。 しかし、こんな基本的なことは恥ずかしくて誰にも聞けないようです。 私たちにとっても、そんな当たり前のことを説明することはマイナーな仕事のように思ってしまい、難しい話をすることが社長に役立つことと考えてしまうのです。 私も若い頃は、少しでも自分のレベルの高さを他人に認めてもらうために、難しい話をしていました。 そして、本で書いてあるような難解な分析手法で、決算書を分析し説明していたのです。当時売れていた「会計の基本」とかの本を小馬鹿にしていたものでした。 しかし、年齢とともにキャリアも付いてきて余裕が生まれ、肩の力が抜けてきました。 そんな時、ある社長から「賢い人は難しいことをやさしく話し、馬鹿な人はやさしいことを難しく話す。社長のほとんどは、会計をよくわかっていない。わかったフリをしているだけだ。絵や図で難解な文章がわかるようなものをつくれば面白いよ」とアドバイスされました。 私は目が覚めました。 そこで当時数十万部売れていた京セラの稲盛名誉会長の『実学』(日本経済新聞出版社)という本を読んで、この本を絵や図で解いていけば、もっと会計に興味をもってもらえるのではと思いました。 そして、京セラの稲盛名誉会長にお願いして書かせていただいたのが『京セラに学ぶ 新・会計経営のすべて』(実業之日本社)という本でした。この本では、左ページにイラストを描き、右ページに文章を記載しました。 この本は13年前に出版されたものですが、結構好評でした。 これに味をしめたのか、私の本や連載は、難しい文章を絵や図・イラストを使ってわかりやすく解説していく手法に変わっていったのでした。 (了)

#No. 10(掲載号)
#田村 繁和
2013/03/14

事例で学ぶ内部統制【第14回】「内部統制の開示すべき重要な不備の判断をめぐる実務」

事例で学ぶ内部統制 【第14回】 「内部統制の開示すべき 重要な不備の判断をめぐる実務」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 今回は、内部統制の開示すべき重要な不備の判断をめぐる実務の実態を紹介する。 3月決算企業であれば、5回目の内部統制報告書の提出に向けてとりまとめに奔走している最中であり、時季に合ったテーマであろう。 実施基準によれば、①金額的重要性と質的重要性の判断基準を設定し、②不備がもたらす虚偽記載の影響額、③虚偽記載の発生可能性を勘案して、内部統制の不備が開示すべき重要な不備に該当するか否かという重要性の判断を行うことになる。 筆者(株式会社スタンダード機構)主催の実務家交流会でも、この順序で意見交換を行った。 各社の実務の実態を見てみよう。   金額的重要性の判断基準の事例 多くの参加企業は、実施基準に基づき、連結総資産、連結売上高、連結税引前利益などの指標に対する比率で金額的重要性を判断していた。対応が分かれたのは、連結税引前利益の取扱いについてであった。 参加企業Aは、「連結税引前利益に対する比率は決めていない」(資材メーカー)と話した。 参加企業Bは、「連結税引前利益の金額の概ね5%にした」(商社)と話した。 参加企業Cは、「過去の連結税引前利益の金額の平均値の概ね5%とし、過去5年の平均値をとった」(食品メーカー)と話した。 参加企業Dは、「C社さんと同じく、過去の連結税引前利益の金額の平均値の概ね5%としたが、過去3年の平均値にとどめた」(情報通信)と話した。 もっとも、参加企業Eは、「連結税引前利益の金額の概ね5%としているが、別途、運用評価において、不備件数率20%以上、もしくは金額影響度が1件当たり1,000万円以上のエラーを重要な不備とした」(食品メーカー)と、独自の金額的重要性の判断基準を設けていた。 また、参加企業Fは、「連結総資産の3%、連結売上高の3%、連結税引前利益の3%」(食品流通会社)と、3つの指標に対して比率を設定していた。   質的重要性の判断基準の事例 多くの参加企業が、「上場廃止基準や財務制限条項に関する記載事項などが投資判断に与える影響の程度、関連当事者との取引や大株主の状況に関する記載事項などが財務報告の信頼性に与える影響の程度で判断する」と、実施基準の定めをそのまま自社の判断基準としていた。 前出の参加企業Fは、「計算の複雑性、恣意的判断・見積りの有無、不正リスク、例外・特殊取引、過去の内部監査と外部監査での重要な指摘の有無などを考慮し、財務報告の信頼性に与える影響の程度で判断する」と、実施基準よりも詳しい判断基準に落とし込んでいた。   重要性判断の実態 参加企業Gは、「皆さんの話を聞いていてちょっと言いにくいが、内部統制報告制度が始まって以来、エラーが年度末の有効性を評価する時点まで残ったことがないため、金額的重要性、質的重要性の具体的な判断基準は決めていない」(情報通信)と、いささか遠慮を交えて実情を吐露した。 これに呼応するかのごとく、多くの参加企業が、「期中に発見されたエラーは必ず期末まで何としてもつぶしてきた経験から、経営者評価に関与する責任者の意識としては、開示すべき重要な不備を判断するなどという異常な局面を想定していない。だから、いわば平時に重要性の判断基準を定めてはいるものの、深く考えたことがない」と話した。 このように、重要性の判断基準を定めつつも、重要性の判断が迫られるような開示すべき重要な不備は発生しないというアプリオリな予断を持って経営者評価にあたっている実態が浮かび上がった。   不備がもたらす虚偽記載の影響額の算定方法の実態 次に、不備が発見された場合、その不備がもたらす潜在的な影響額の算定方法を議論した。 この論点でも、多くの参加企業が、「エラーが発見された場合には、期末までに改善を行うことに注力するため、そのエラーが与える金額的な影響を吟味した経験がなく、具体的定めがない」と話した。 もっとも、前出の参加企業Cは、「まず、発生した不備がどの勘定科目に影響するかを判断する。次に、不備となった業務が対象となる勘定科目に横断的に影響しない場合については、勘定科目の数値のうち影響を及ぼす部分を特定する。もし、補完的統制によりリスクが低減されると考えられる場合には、その金額を控除する。以上により算出した数値に、サンプリングの結果を用いて統計的に導き出した発生確率を乗じて影響額を計算する」と、具体的な手順を定めていた。 また、前出の参加企業Eも、「その不備が他でも起きていると予測される場合、あるいは追加で評価したサンプルに許容範囲を超える不備が発見された場合、これを加味して算定する」と、独自の基準を定めていた。   虚偽記載が発生する可能性の検討方法の実態 では、不備により重要な虚偽記載が発生する可能性の検討方法はどうなっているのだろうか。 この論点は、全社レベルの内部統制(ELC)の場合、プロセスレベルの内部統制(PLC)の場合、ITに係る全般統制(ITGC)の場合に分けて議論した。 ① ELCの不備による虚偽記載の発生可能性の検討方法 参加企業の対応は、ELCの不備に対する基本的な考え方の違いに基づき、次のように分かれた。 前出の参加企業Cは、「ELCの不備は、内部統制の有効性に重要な影響を及ぼす可能性が高いために発生可能性を検討する意味はなく、その不備そのものが重要な虚偽記載を発生させる欠陥と考える」と話した。 前出の参加企業Gは、「ELCの不備のうち、経営者のガバナンスに関する項目の不備は、その不備そのものが重要な虚偽記載を発生させる欠陥と考えるが、それ以外の不備は、PLCにどのような影響を及ぼすかも含め、財務報告に重要な虚偽記載をもたらす可能性について検討する」と、発生可能性を検討するメルクマールとして経営者のガバナンスとの関連性を挙げた。 前出の参加企業Dは、「ELCの不備が必ずしも虚偽記載を発生させる欠陥ととらえるのではなく、発生した不備については内部監査員による毎年の見直しと経営者確認を実施し、虚偽記載が発生する可能性を検討する」と、個別に対応していた。 ② PLCの不備による虚偽記載の発生可能性の検討方法 前出の参加企業Bは、「勘定科目などに虚偽記載が発生する場合に、その影響が及ぶ範囲を推定する。さらに、内部統制の不備による影響額を推定するときに、虚偽記載の発生可能性も併せて検討する。また、内部統制の不備が複数存在する場合には、それらの内部統制の不備が単独で、又は複数合わさって開示すべき重要な不備に該当していないかを評価する」と、実施基準に沿った内容を定めていた。 前出の参加企業Eは、「不備集計表により全体状況を把握し、内部統制の是正措置とその是正結果を総合的に勘案し検討する」と話した。 ③ ITGCの不備による虚偽記載の発生可能性の検討方法 基幹会計システムのITGCについて、参加企業の対応が分かれた。 前出の参加企業Cは、「基幹会計システム自体に発見されたITGCの不備は、財務諸表数値に影響を及ぼし、重要な虚偽記載を発生させるものと考える」と、厳格な姿勢を示した。 他の複数の参加企業は、「基幹会計システムであっても、その他のシステムであっても、ITGCの不備は、財務報告の重要な事項に虚偽記載が発生するリスクに直接に繋がるものではないと考え、代替的又は他の内部統制により、財務報告の信頼性という目的が達成されているかを検討する。そして、ITGCの不備がITアプリケーションにより自動化された内部統制(ITAC)の有効な運用に影響を及ぼす場合については、PLCの不備と同様に対象となる業務への影響度を算定する作業の中で、虚偽記載の発生可能性を検討する」と話した。 次回は、平成23年度に取り組んだ内部統制の簡素化事例を取り上げる。 (了)

#No. 10(掲載号)
#島 紀彦
2013/03/14

鵜野和夫 平成25年度税制改正を読む① 「教育資金をまとめて贈与して一安心」

鵜野和夫 平成25年度税制改正を読む① 「教育資金をまとめて贈与して一安心」 ~父母・祖父母等からの教育資金の一括贈与には、 1,500万円までの非課税の特例~   税理士・不動産鑑定士 鵜野 和夫   (一) さる有名大学の医学部長を勤め上げ、定年退職してから、自宅を改装して個人医院を開業したところ、その高名のたまものか、患者は引きも切らず繁盛。 「親の心、子知らず」ともいうが、この医院を息子に引き継がせようと夢に見ていたところ、ままならぬのが世の習いとか。 息子は病人の顔を見て一生を送るのは、まっぴらとのこと。それより人を笑わせてと、お笑いタレントの道に足を突っ込む。 これでこの医院もオレ一代で終わりかと、つぶやいていると、庭先から聞こえる、なにやら孫のキャキャと、楽しそうな声。 なんだろうかと、窓ごしに見ると、幼稚園に通い出した孫が、隣の女の子と、お医者さんごっこ。 ありゃ「栴檀(せんだん)は双葉より芳し」「門前の小僧習わぬ経を読む」とは、このことか。 この孫こそ、おれの後継者だ。   (二) ところで、この孫が、めでたく医学部に入学、卒業、インターンを経て、一人前の医者になるまで、どれくらいの金がかかるか、胸算用したところ、まあまあ、俺の目の黒いうちは大丈夫として、しかし、オレももう歳だしなぁ、その後、頼りない息子がこの孫に教育資金を払ってやれるくらい稼いでくれるのかなぁ。どうも心許ない。 では、今のうちに、それだけの学費を孫に贈与しておくとして・・・・。少なくとも1,500万円は必要だろうな。 ところで、贈与をしたら贈与税がかかるというが、いくらくらい課税されるのか。顧問の税理士先生に電話して聞いてみよう。   (三) えっ。1,500万円を贈与すると、贈与税が、525万円も課税される。 だけど、毎年110万円ずつ贈与したのなら課税されない。 じゃぁ、そうするか。でも、14年もかかる計算か。 それまで生きていられればいいが。なに、医者の不養生ってこともあるな。 と、悩みが絶えない。 数日後。 孫の学資金に一括して贈与しても、1,500万円までなら贈与税は課税されないという税制が創られることになりそうだよと、税理士から連絡。 それなら、と。   (四)   (五)   (六)   (七)   (八)   (九) (了)

#No. 10(掲載号)
#鵜野 和夫
2013/03/14

《速報解説》 グリーン投資税制(環境関連投資促進税制)の拡充について─平成25年度税制改正─

 《速報解説》 グリーン投資税制 (環境関連投資促進税制)の 拡充について ─平成25年度税制改正─   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   1 はじめに 平成25年3月1日、「所得税法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され国会に提出された。 今回の税制改正では、「成長による富の創出」を一つのキーワードとして、一定の投資促進を図るための減税措置がいくつか講じられている。 本稿ではその中でも、再生可能エネルギーと省エネ設備の導入を最大限推進するための減税措置である「グリーン投資税制(環境関連投資促進税制)」の拡充について解説を行う。   2 改正前のグリーン投資税制の概要 青色申告書を提出する法人が、指定期間内に、事業の用に供されたことのない対象資産(エネルギー環境負荷低減推進設備等)の取得等をして、その取得等の日から1年以内にその法人の事業の用に供した場合には、事業供用年度において特別償却ができる(措法42の5①)。 また中小企業者等については、特別償却に代えて税額控除を選択することができる(措法42の5②)。 (1) 指定期間と適用対象資産 本税制の適用対象資産及び指定期間は、下表の通りである。 対象資産の詳細については、資源エネルギー庁のHPを参照されたい。 (2) 適用要件 指定期間内に対象資産を取得等(取得、製作若しくは建設)し、取得等の日から1年以内に法人の事業の用に供することが必要である。 対象資産を所有権移転外リース取引により取得した場合には、同税制の適用を受けることができない(措法42の5⑥)。 (3) 特別償却限度額 通常の特別償却については、取得価額の30%相当額を限度とする。 即時償却については、取得価額から普通償却限度額を控除した金額が特別償却限度額となる。すなわち普通償却限度額と特別償却限度額を合計すれば、取得価額の全額について償却することができるということである。 (4) 税額控除限度額 中小企業者等は、(3)の特別償却に代えて、取得価額合計額の7%相当額を法人税額から控除することができる。ただし、その事業年度の法人税額の20%を限度とする。   3 改正の概要 即時償却の対象資産に「コージェネレーション設備(熱電併給型動力発生装置)」が追加された上で、その適用期限が2年延長される。 すなわち通常の特別償却及び即時償却に係る指定期間末日が、それぞれ平成28年3月31日及び平成27年3月31日まで延長される。 また対象資産から、交付を受けた補助金をもって取得等をしたものが除外される。 コージェネレーション設備は、従前は「二酸化炭素排出抑制設備等」に含まれ、通常の特別償却の対象となっていたものであるが、本改正により即時償却の対象資産として追加されたものである(改正法案による措法42の5①一・⑥)。 なお、税制改正大綱及び経済産業省公表資料においては、通常の特別償却の対象資産に「定置用蓄電設備等」(中小水力発電設備、下水熱利用設備、LED照明、高効率空調等)を加えるとの記載が見られるが、改正法案においては明らかとされていない。これは、具体的な対象資産の範囲については政令に委任されており(措法42の5①)、さらにその細目については「財務大臣が指定するもの」とされている(措令27の5①~⑤)からである。 この部分については今後、改正法及び政省令の成立後に、「財務大臣の指定」として財務省告示により明らかにされるものと考えられる。 (了)

#No. 9(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2013/03/12

《速報解説》 文書回答事例(東京国税局)「小規模企業共済契約者の死亡に伴い小規模企業共済掛金及び掛金納付月数を相続人が承継通算した場合の相続税の課税関係について」

《速報解説》 文書回答事例(東京国税局) 「小規模企業共済契約者の死亡に伴い 小規模企業共済掛金及び掛金納付月数を 相続人が承継通算した場合の 相続税の課税関係について」   税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良   平成25年1月25日付で、東京国税局から事前照会に対する文書回答事例として「小規模企業共済契約者の死亡に伴い小規模企業共済掛金及び掛金納付月数を相続人が承継通算した場合の相続税の課税関係について」が公表された。 本稿では、小規模企業共済の掛金・共済金の課税関係を確認するとともに、本文書回答事例の意義を検討する。   小規模企業共済の課税関係 小規模企業共済は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する、小規模企業の個人事業主、法人(会社など)の役員又は共同経営者を対象とした「退職後の生活の安定や事業の再建を図ることを目的とした資金」を準備するための共済制度であり、経営者の退職金共済制度の性質を有する。 加入者は、掛金(月額最高70,000円)を支払い、事業を廃業したなどに共済金を受け取ることができる。また、共済契約の解約によって解約手当金を受け取ることができるが、掛金納付月数が240ヶ月未満では、掛金支払総額よりも受け取る解約手当金は少なくなる。 掛金を支払った個人は、所得税上、支払った掛金全額が、小規模企業共済等掛金控除として所得控除の対象となる。生前に共済金を受け取る場合、退職所得もしくは雑所得(公的年金等)として所得税が課税される。死亡後に共済金を受け取る場合、みなし相続財産(死亡退職金)として相続税の課税対象となる。解約手当金を受け取る場合には、退職所得又は一時所得として所得税が課税される。 どのような場合に退職所得、雑所得、一時所得となるのかは、独立行政法人中小企業基盤整備機構のホームページに記載がある。 このように、掛金支払時に、所得税を所得控除することで節税を行い、また、共済金受取時に、退職所得(所得税)又はみなし相続財産(相続税)として有利な課税となるため、個人事業主などの節税の手段として有効なものとなっている。   承継通算の課税関係 小規模企業共済契約に加入していた個人が他界した場合、被相続人は共済金を受け取ることができる。ただし、請求する権利(受給権)には順位があり、相続人であれば誰でも受給権があるというわけではないので、その点は注意が必要である。 この場合、受給権者が、個人事業の全部を相続する等一定の要件を満たす場合には、共済金を受け取る代わりに、小規模企業共済契約の承継通算ができる。 承継通算を行うと、相続人である受給権者は、被相続人が加入していた小規模企業共済契約を承継し、被相続人が加入していた共済契約期間(掛金納付月数)を加えた期間が、相続人である受給権者の共済契約期間(掛金納付月数)となる(掛金納付月数の通算)。 従前、承継通算の課税関係は明確化されていなかったが、本文書回答事例により、承継通算の場合においても、みなし相続財産(死亡退職金)として相続税の対象となること、相続税の対象となる金額は、相続時に一時金の支給を請求した場合に受け取ることができる金額(つまり一時金の金額)であること、が明確化された。 なお、承継通算の場合、一時金相当額が死亡保険金として相続税の課税対象となるため、死亡保険金の非課税(500万円×法定相続人の数)の適用もあることは言うまでもない。 平成25年度税制改正により、平成27年1月から相続税の増税(基礎控除の圧縮等)が実施される可能性が高い状況となっている。 個人事業主(不動産賃貸業を含む)の場合には、小規模企業共済に加入することで、相続財産となる現預金を死亡退職金へ組み替えることが可能となり(同時に、掛金支払時に所得税の節税も可能)、相続税の計算上、死亡退職金の非課税枠の活用が可能となる。 したがって、今後、小規模企業共済の活用がより多くされていくと思われ、小規模企業共済の課税関係につき、本件文書回答を含め、理解を深めておく必要があると思われる。  (了)

#No. 9(掲載号)
#根岸 二良
2013/03/12
#