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「学校法人会計基準の在り方について 報告書」改正のポイント 【第1回】

「学校法人会計基準の在り方について 報告書」 改正のポイント 【第1回】   有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 奈尾 光浩   はじめに 文部科学省は、私立学校の特性を踏まえ私立学校の振興に資するよう、一般に分かりやすく、かつ経営者の適切な経営判断に資する計算書類とすることを目的に、学校法人会計基準の在り方について有識者による検討を行うこととした(学校法人会計基準の在り方に関する検討会、以下「検討会」)。 検討会による8回の会議の結果として、平成25年1月31日付けで「学校法人会計基準のあり方について 報告書」(以下「報告書」)が公表されたが、これを受けて学校法人会計基準(以下「基準」)が早い時期に改正されることが予定されている。 なお、改正された基準は平成27年4月から施行されるが、知事所轄法人については1年間の猶予を置き、平成28年4月から実施するものとされている。 本稿では報告書の内容について解説する。 なお、本文中意見にかかる部分は執筆者の私見であり、日本公認会計士協会及び所属する監査法人の意見と異なる可能性がある。   1 見直しの方向性 現行の基準は、私立学校の特性を踏まえ、その財政基盤の安定を図り、私学助成を受ける学校法人が適正な会計処理を行うための統一的な会計処理の基準として制定されたものであるが、報告書では、この目的は今後も維持すべきとしている。 一方で、近年の社会・経済状況の変化を踏まえ社会に対する説明責任が一層求められているとともに、学校法人が適切な経営判断を行う必要性が増している。 したがって、 学校法人の作成する計算書類等の内容がより一般に分かりやすく、かつ的確に学校法人の経営状態を把握できるものとなるよう、改善・充実を図ることが見直しの方向性とされている。   2 見直しに関する基本的な考え方 私立学校は、それぞれの建学の精神に基づく教育研究活動を、将来にわたり継続的に実施していくことが求められている。 そのため、会計処理についても、利益の追求を主たる目的とする企業等とは異なり、長期的視点から継続的な運営を可能にすることを前提とした収支の均衡が図られているかどうかを把握することが求められるという特性を有している。 したがって、学校法人会計の基本となる以下の事項については、従来と同じ考え方を維持するものとしている。 (1) 基本金制度 基本金制度は、現在でも、学校法人の健全性が維持されているかどうかを判断するための有効な仕組みであるため、更なる明瞭性を確保しつつも基本的な考え方を維持すべきである。 (2) 長期的な収支均衡 基本金組入額を控除した収支差額を表示することで、長期的に収支が均衡しているかを判断する仕組みは、学校法人の教育研究活動を将来的に継続していくことができるかを財務的に判断する上で、私立学校を取り巻く経営環境が厳しくなる中、その重要性がより高まっていると考えられることから、今後も維持すべきである。   3 基本金 基本金について基本的な考え方を維持すべきではあるが、さらに以下の点を明確にすべきとしている。   4 事業活動計算書 消費収支計算書の目的が、毎期、基本金組入額を控除した収支差額の均衡の状態を明らかにすることに変わりはない。 しかしながら、学校法人の経営状況をより的確に把握する観点から、長期的な収支均衡と毎期の収支均衡の両方を表示できるようにすることが重要であり、基本金組入前の毎期の収支についても表示すべきとされた。 また、近年の臨時・教育研究事業外の収支が増加し複雑化している傾向を踏まえると、その状況をより的確に把握することが重要であり、区分経理を導入し、収支差額を“経常的なもの”(「経常収支の部」)と“臨時的なもの”(「特別収支の部」)とに区分し、さらに経常的な収支を“事業”(「教育研究事業収支の部」)と“事業外”(「事業外収支の部」)とに分けて表示することを求めている。 なお、消費収支は事業の活動の状況を表すことが本来の趣旨であることを踏まえて、「消費収支計算書」は「事業活動計算書」に名称変更すべきとされた。また、「消費支出準備金」等は廃止すべきとされている。 事業活動計算書のイメージを簡単に示すと、以下のとおりである(大科目のみ記載している)。 ※画像をクリックすると、PDFファイルが開きます。 【参考】 文部科学省ホームページ ・「学校法人会計基準の在り方について 報告書」 ・「学校法人会計基準の在り方に関する検討会」 (了)

#No. 7(掲載号)
#奈尾 光浩
2013/02/21

訂正報告書に見る不適正会計処理の現状(2)

訂正報告書に見る 不適正会計処理の現状(2)   大阪経済大学教授 小谷 融   5 不適正会計に係る業種別傾向 不適正な会計処理を行い訂正報告書を提出した会社を業種別に見ると、情報・通信業、建設業、卸売業が比較的目につく。 特に情報・通信業の中のIT関連企業は、売上対象物が有体物ではないことを悪用した不正が多数見られ、協力会社を伴う例も少なくない。 IT業界については、日本公認会計士協会が平成17年3月に「情報サービス産業における監査上の諸問題について」(IT業界における特殊な取引検討プロジェクトチーム報告)を取りまとめているが、かねてから不適正な会計処理に繋がりやすい業界の特質が指摘されているところである。 卸売業は、取引商品によっては商慣習の延長から不正な循環取引を行いやすい土壌がある業態だ。建設業では、収益の認識時期に絡んで工事進行基準の工事進行率の見積りに係る不正経理が行いやすく、さらに、完成基準を採用していても収益の前倒し計上による不正経理が行われやすい傾向がある。 また、資産の減損手続を行わないなど業種に関係のない資金取引や固定資産に係る不適正な会計処理の事例も見られる。   6 金融庁の不適正会計に対する処分 金融商品取引法において、粉飾決算等の重要事項に虚偽の記載のある有価証券報告書を提出した場合には、懲役刑を含む刑事罰が規定されている。 しかし、違反行為といっても、現実には悪質性の度合いは千差万別で、刑事罰は対象者に与える影響が極めて大きいため、抑制的に運用する必要がある。 その結果、刑事罰を科すに至らない程度の違反行為は、放置されることになってしまう。 このような状況は、規制の実効性の確保の面から、また、法適用の公平性の観点からも、望ましいものではない。 このため、平成17年4月1日から課徴金制度が導入された。 これは、ルール破りは割りに合わないという規律を確立し、金融商品取引法令の実効性を確保するという行政目的を達成するため、行政上の措置として、金融商品取引法の一定の規定に違反した者に対して金銭的負担を課すものだ。有価証券報告書等の開示書類の虚偽記載(不適正な会計処理)も、この課徴金の対象となる違反行為である。 しかし、不適正な会計処理があったとして訂正報告書を提出した会社に、すべて課徴金が課されているかというと、そうでもない。課徴金を課すほどのものでもない軽微なものは「行政処分なし」となっている。 どういう不適正な会計処理が告発されるのか、また課徴金の対象となるのか、あるいは行政処分を受けないのかということが、有価証券報告書提出会社や公認会計士にとって気になるところである。 もちろん、金融庁や証券取引等監視委員会は、その悪質性に応じて処分を決めているのであろう。しかし、外部からは、どのような基準で処分(「告発」「課徴金」「行政処分なし」)が決められているのかは明らかでない。 今回、この3つの処分を統計学的に検討することを考えた。 それには、説明変数に悪質性を表す客観的な指標を用意する必要がある。量的な面からは、訂正前後の連結財務諸表の主な項目の増減額及び増減率を用いればよい。これについては、それほど問題はない。難しいのが、質的な面からの悪質性である。 思いつくのは、次のようなものである。 悪質性を表すこれらの説明変数により「不適正な会計処理が発覚した会社の悪質性」と「処分」の関係を統計的に分析すると、金融庁・証券取引等監視委員会の処分を概ね支持する結果が得られた。 この詳細については、拙編著『不適正な会計処理と再発防止策』を参照されたい。   7 具体的な事例 ここでは、売上高に係る不適正な会計処理の事例を紹介する。 売上高は全体の金額が大きく、水増し額も大きな金額とすることが可能であり、また、営業部門の担当者だけでも起こり得る可能性もあるなどさまざまな理由から、事例件数が多くなっている。 (1) 売上の前倒し計上 これは、契約、引渡し、検収等、売上計上基準を満たしていないものを、売上として計上することをいう。 売上高の操作としては初歩的な手法であり、一般的に期ズレの状態が生じるが、一度前倒し計上をすると減収回避の観点から次期以降も継続することになりやすく、業績が好調になるまで正常に復すことが難しい。 事例からみると「売上の前倒し計上」には、①検収基準を採用していた会社が顧客に検収書の発行を依頼するなどして、翌期首出荷分の前倒し計上を行ったもの、②建物引渡完了日基準を採用している会社が未完工で引渡し未了の物件につき、建物引渡済みであると仮装して前倒し計上を行ったもの、などがある。 期末における取引を精査すれば発見は可能であり、比較的素朴な粉飾決算手法だ。 (2) 売上の過大計上 これには、 ① 協力会社を経由して取引先に資金提供し売上を計上したもの ② 交換取引を売上に計上したもの ③ 取引先との合意書を偽造し売上の取消し処理を回避したもの ④ 工事進行基準が適用される工事において、総発生原価を過少に見積もることにより、工事進捗率が高くなり売上を過大計上したもの ⑤ 偽装した検収書に基づいて売上を過大計上したもの ⑥ 偽造した証憑類を用いることにより架空の販売先に係る売上を計上したもの などがある。 (3) 架空売上 これは、実際に売買が行われていないにもかかわらず、売買があったものとして売上を計上することをいう。 「架空売上」を計上した事例としては、①取引先との間に協力会社を介在させ、循環取引を行っていたもの、②架空のコンサルティング料や匿名出資を通じた不正な資金循環取引を行うことにより架空売上を計上したものなどがある。 (連載了)

#No. 7(掲載号)
#小谷 融
2013/02/21

企業予算編成上のポイント 【第4回】「『売上関係の連結予算』と『予算編成実務上の留意点』」

企業予算編成上のポイント 【第4回】 「『売上関係の連結予算』と 『予算編成実務上の留意点』」   公認会計士 児玉 厚   1 売上関係の連結予算 「売上関係の連結予算」について、以下簡潔に考察してみよう。 連結予算については参考となる文献等がないので、以下私見として解説する。 図1の流れに従って、予算作成の手順の例を見てみよう。 図1 売上関係の連結の内部予算及び外部予算の作成 手順1 【4】「当期実績予想:連結精算表」を作成し、予実分析を行う。 連結子会社の次期予想のヒアリングを行う。 〈例:売上高〉   ※画像をクリックすると拡大します。 注:内訳としての上半期連結精算表は別途作成・監査済。 個別:当期外部予算「売上高」 =(9)100,000千円÷(11)98%×100% =102百万円(端数切捨)・・・(50) 連結:当期外部予算「売上高」 =(47)109,500千円÷(49)95%×100% =115百万円(端数切捨)・・・(51) 手順2 【5】「連結予算編成方針」の明示 ・目標売上高、目標利益(セグメント別)  目標営業キャッシュ・フローを明示することが望ましい。 ・連結会社間予想取引の内容(当期比較形式で明示) ・想定為替レートの設定(例:1米ドル=②85円) ・連結会社への予算額の配分 ・連結経営戦略の明示 ・連結範囲の変更の有無(設例では「ない」と仮定) 手順3 連結会社の個別予算財務諸表より、【6】「予算連結精算表」を作成する。 〈例:売上高〉   ※画像をクリックすると拡大します。 注:内訳としての上半期連結予算も作成する。 内部予算はできだけ高い目標の実現を図ることが求められるが、上場会社の投資家向けの外部予算としての業績予想数値は、達成の確実性が求められる。 設例の会社3CCは、予算作成のルールにおいて、下記の計算式の結果を基礎として外部予算額を決定している。 個別予算の「外部予算:売上高」 =(60)113,400千円÷1,000円×(11)98.0% =111百万円・・・(99) 同前期(実績)増減比率 ={(99)111百万円-(9)100,000千円}÷(9)100,000千円 ×100%=11.0%増・・・(100) 連結予算の「外部予算:売上高」=(97)123,040千円÷1,000円×(49)95.0% =116百万円・・・(101) 同前期(実績)増減比率={(101)116百万円-(47)109,500千円}÷(47)109,500千円 ×100%=5.9%増・・・(102) 手順4 「実績予想:連結精算表」及び「予算連結精算表」より、「予算連結キャッシュ・フロー精算表」を作成する。紙幅の関係上、説明省略。 手順5 【6】「予算連結精算表」「予算連結キャッシュ・フロー精算表」より、「予算連結財務諸表」を作成し、取締役会の承認を得る(連結予算:内部予算)。 1 【7】予算連結損益計算書・予算連結包括利益計算書 2 予算連結貸借対照表 3 予算連結株主資本等変動計算書 4 予算連結キャッシュ・フロー計算書 手順6 【6】「予算連結精算表」及び当期外部予算達成率並びに次期4月の予実動向等を勘案して、【8】外部公表の業績予想を作成し、取締役会の承認を得る(連結予算:外部予算・個別予算:外部予算)。   2 平成25年度の予算作成実務上の留意点 今回が、連載の最終回です。 ご購読ありがとうございました。 予算実務は「膨大なシミュレーションの世界」です。 「予算力」とは「予算作成システム構築力」です。 予算力を身につけるためには、「予算作成の体系的な理解」が不可欠です。 今回の連載はその入り口に過ぎません。 本連載が、様々な形で「予算力」を身につけるためのきっかけになれば幸いです。 (連載了)  

#No. 7(掲載号)
#児玉 厚
2013/02/21

〔形態別〕雇用契約書の作り方 【第3回】「パートタイマーの雇用契約書」

〔形態別〕雇用契約書の作り方 【第3回】 「パートタイマーの雇用契約書」   社会保険労務士 真下 俊明   パートタイマーの定義 今回は、いわゆるパートタイマーの雇用契約書を取り上げる。 まず、パートタイマーの定義だが、パートタイム労働法(正式には「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)2条において「1週間の所定労働時間が同一の事業所に適用される通常の労働者(正社員)の1週間の所定労働時間に比べ短い労働者」とされている。 時間は正社員と同じでも、給料が時間給だからという理由でパートタイマーと社内的に読んでいるケースもあるが(フルパート)、法的にはあくまでも所定労働時間の短い従業員のこととご理解いただきたい。 また、契約期間を定めて雇用しているケースも多いと思われるが、ここでは、期間の定めのない短時間労働者の雇用契約書について記述する。   雇用契約書作成のポイント パートタイマーの雇用契約書作成のポイントは、以下の3点である。 〈ポイントⅠ〉について パートタイマーについては、第1回に掲載した「書面により明示しなければいけない事項」に加え、パートタイム労働法により、次の3項目について文書の交付等(書面あるいは本人から希望があればメール、FAXなども可)で明示することが義務付けられている。 正社員に関しては、①は口頭でもよく、②③は「定めをした場合に明示しなければならない」相対的記載事項になっている。 これは、パートタイマーが特にあいまいな条件で雇われ、その後のトラブルが想定されるために、法的に保護しようという趣旨によるものである。 パートタイマーの昇給に関しては、原則として実施しない企業も多いと思われるが、降給(マイナス昇給)も含め、勤務態度・成績などに応じて改定する旨を明記すべきである。   〈ポイントⅡ〉について パートタイマーの就業規則を作成していない会社もあると思うが、その場合には、正社員の就業規則が適用されるとの誤解が生じないよう、明記するとともに、十分な説明が特に望まれる。 誤解を避けるためにも、パートタイマー向けの就業規則を整備し、雇用契約書締結とあわせ交付又は提示することをお勧めする。 以下に、パートタイマー就業規則がある場合の、雇用契約期間の定めのないパートタイマー用の雇用契約書のひな型を掲載する。 〔期間の定めのないパートタイマー用の雇用契約書(ひな型)〕 ※画像をクリックすると、PDFファイルが開きます。 (了)

#No. 7(掲載号)
#真下 俊明
2013/02/21

誤りやすい[給与計算]事例解説〈第7回〉 【事例⑩】海外赴任の場合の源泉徴収

誤りやすい [給与計算] 事例解説 〈第7回〉   税理士・社会保険労務士  安田 大   (4 控除額の計算―源泉所得税) 【事例⑩】―海外赴任の場合の源泉徴収― 〔正しい処理〕 〔解   説〕 1 非居住者となる場合の源泉徴収 給与計算期間の途中で、海外赴任等により非居住者となった人に支払われる給与で、非居住者となった日以後に支給日が到来するものについては、国内勤務期間に対応する部分について、非居住者に支払う国内源泉所得として20.42%の税率による源泉徴収が必要となる。 2 計算期間が1ヶ月以下である場合 上記1の場合であっても、その計算期間が1ヶ月以下であるものについては、その全額が国内勤務に対応するものでない限り、国内源泉所得に該当しないものとして取り扱うことができるため、源泉徴収は不要となる。 したがって、6月25日支給の給与(計算期間は5月16日から6月15日)について、たとえば、5月31日に出国した場合には、源泉徴収は不要となる。 しかしながら、事例の場合には、給与計算期間(5月16日~6月15日)のすべてが国内勤務に対応するものに該当するため、原則どおり20.42%の税率での源泉徴収が必要となる。 なお、賞与のように計算期間が1ヶ月を超えるもので、非居住者となった日以後に支給日が到来するものについては、原則どおり、国内勤務期間に対応する部分について、20.42%の税率による源泉徴収が必要となる。 3 非居住者の判定 非居住者とは、「国内に住所も1年以上の居所も有しない個人」をいう。 日本人が海外に居住することとなった場合には、「その人が国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する」ときは、非居住者と推定される。海外赴任の場合には、赴任期間が1年以上予定されているときは、出国の翌日から非居住者となり、赴任予定期間が1年未満のときは、非居住者にはならない。 なお、1年以上の予定で海外赴任した人は非居住者となるが、業務上の都合で海外赴任期間が1年未満となることが明らかとなった場合には、その時点で非居住者ではなくなり、逆に、1年未満の予定で海外赴任した人は非居住者ではないが、業務上の都合で海外赴任期間が1年以上となることが明らかとなった場合には、その時点で非居住者となる。 (了)

#No. 7(掲載号)
#安田 大
2013/02/21

消費税転嫁と独占禁止法・下請法

消費税転嫁と独占禁止法・下請法   弁護士 大東 泰雄   1 独占禁止法・下請法は消費税転嫁を目指す企業の味方? 平成24年8月、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」(以下「消費税法改正法」という)及び「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律」が成立した。 これにより、消費税の税率(国と地方の合計)は、平成26年4月1日に8%、平成27年10月1日に10%へと、2段階で引き上げられる見通しである。 税率引上げの幅が大きいだけに、引き上げられた消費税相当額を円滑かつ適正に転嫁することは、企業にとって死活問題ともなり得る極めて重要な課題である。 しかし、独占禁止法及び下請法が、消費税の円滑かつ適正な転嫁を実現するためのツールとして重要な役割を果たすことになりそうだということを、読者の皆様はご存知だろうか。   2 消費税法改正法、推進本部基本方針 消費税法改正法7条1号ホは、消費税の円滑かつ適正な転嫁に向けて、政府が諸々の措置を講ずるべき旨を規定している。 そして、上記規定に基づき内閣が設置した消費税の円滑かつ適正な転嫁等に関する対策推進本部は、平成24年10月26日、「消費税の円滑かつ適正な転嫁・価格表示に関する対策の基本的な方針(中間整理の具体化)」(1)(以下、「推進本部基本方針」という)を決定、公表した。 (1) http://www.kantei.go.jp/jp/singi/shouhizei/pdf/kettei_121026.pdf 消費税法改正法7条1号ホ及び推進本部基本方針には、消費税の円滑かつ適正な転嫁のための様々な対策が盛り込まれているが、その骨子は、独占禁止法・下請法と関連性の深い以下の2点に集約することができる。 そこで、本稿は、上記2点について、本稿執筆時点で判明している限りの情報を概観することとしたい。   3 消費税転嫁拒否等と優越的地位の濫用・下請法 消費税率の引上げは、優越的地位にある事業者や親事業者にとっても深刻な問題であるため、消費税率の引上げに伴って、例えば、一方的に消費税転嫁を拒否する、自己の納入先への消費税転嫁ができなかったことを理由に下請事業者に支払うべき下請代金から消費税率引上げ相当額を減額する、消費税率引上げ相当額の転嫁を受け入れる代わりに手伝店員の派遣を要求するなどといったように、優越的地位の濫用や下請法違反に該当する「弱い者いじめ」が多発する可能性がある。 そこで、消費税法改正法及び推進本部基本方針は、以下のとおり、消費税転嫁拒否等の取締り及び監視の強化、公正取引委員会及び中小企業庁による転嫁拒否事案等の調査・指導・勧告に関する独占禁止法・下請法の特例立法措置、取締り・監視強化のための体制整備等を行うことを明らかにしている。 既に、平成25年度予算案における公正取引委員会の予算には、新たに4億3,000万円の消費税転嫁対策費用や、管理職及び28名の消費税転嫁対策対応人員の投入が盛り込まれるなどしており(2)、消費税転嫁対策に本気で取り組む公正取引委員会の姿勢が伺われる。 (2) http://www.jftc.go.jp/pressrelease/13.january/13012902.pdf   今後、立場の強い取引先による消費税転嫁拒否等に直面した中小企業等は、円滑かつ適正な消費税転嫁を実現するため、上記の特例立法や、公正取引委員会等が新たに整備する体制についてよく理解し、独占禁止法の優越的地位の濫用や下請法を消費税転嫁のツールとしてフル活用することが必要になるであろう。 他方、大企業等にとっては、消費税率引上げに際して、転嫁拒否など優越的地位の濫用及び下請法違反に該当する可能性のある行為が行われることのないよう、コンプライアンス体制を具体的に見直すことが重要である。   4 転嫁カルテル・表示カルテル 同業者同士が話し合って製品の販売価格を決めることは、いうまでもなくカルテルとして独占禁止法違反であり、同業者同士話し合って消費税転嫁の方法を決めることも、通常であれば許されない。 しかし、特に交渉力の弱い中小企業等の場合、取引先に引上げ分の消費税相当額の転嫁を求めても、「御社の競合先は消費税を転嫁しないと言っている」などと転嫁を認めてもらえないことが考えられるため、「業界が足並みをそろえて、引上げ分の消費税相当額の転嫁を求められないものか」という切実な要望を持つ中小企業等は多いと思われる。 そこで、消費税法改正法及び推進本部基本方針は、以下のとおり、転嫁カルテル(3)及び表示カルテル(4)を独占禁止法の適用除外とする特例立法措置を行うことを明らかにしている。 (3) 消費税の転嫁の方法の決定についての共同行為。 (4) 消費税についての表示の方法の決定についての共同行為。 転嫁カルテル及び表示カルテルは、消費税の円滑かつ適正な転嫁を行う上で有用なツールとなり得る一方、特例立法措置の対象から外れる行為はカルテルとして独占禁止法違反とされる可能性があるため、企業は、今後、適用除外の対象となる企業の範囲、対象行為の範囲、公正取引委員会への届出の方法などについて正確な情報を把握することが必要不可欠である。   5 今後の特例立法措置等の見通し 転嫁拒否対策及び転嫁カルテル・表示カルテルの適用除外に関する特例立法法案、公正取引委員会が行う体制整備やガイドラインの具体的内容は、本稿執筆時点においてはまだ公表されていない(5)。 (5) 一部国会議員がインターネット上で公表している「第183回国会(常会)内閣提出予定法律案等件名・要旨調」によれば,内閣は,「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための特定事業者による消費税の転嫁の拒否等の行為の是正等に関する特別措置法案(仮称)」を平成25年3月中旬に提出する予定とされている。 しかし、自由民主党及び公明党の平成25年度税制改正大綱(6)にも消費税転嫁対策が明記されており、平成26年4月の消費税率引上げに先だって、これらの措置が行われると見込まれるため、早め早めの情報収集が肝要である。 (6) http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/pdf085_1.pdf 今後、法案やガイドラインが公表され次第、このProfession Journal誌上において、その内容をご紹介することとしたい。 (了)

#No. 7(掲載号)
#大東 泰雄
2013/02/21

会計事務所の事業承継~事務所を売るという選択肢~ 【第2回】「個人事務所の有償引継ぎ」

会計事務所の事業承継 ~事務所を売るという選択肢~ 【第2回】 「個人事務所の有償引継ぎ」   公認会計士・税理士 岸田 康雄    1 税理士業務の安定性 商品販売を行うような一般事業会社は、消費者との単発取引を繰り返さなければならないため、商品を販売する営業活動を常に行わなければならない。 また、外部経営環境が変化した場合には、事業戦略を練り直し、会社の経営資源を再構築しなければならない。 事業会社の経営者は、絶えず経営環境の変化を捉え続ける必要があり、気が休まる時がない。 これに対して、税理士業務を提供する会計事務所は、一度顧問契約を締結してしまうと、よほどの大失敗がない限り、顧客との関係が継続する。それゆえ、営業活動を継続して行う必要がない。 また、直面する経営環境が変わらないため、提供するサービスや担当する職員を変える必要はなく、そもそも事業戦略を立案する必要性すらない。 このように、会計事務所が一般事業会社と異なる点は、いったん顧問契約を結んでしまえば、キャッシュ・フローを安定的に獲得できることにある。このキャッシュ・フローの安定性は、税理士業務の特徴であり、事業価値源泉の一つといえる。 このため、会計事務所の事業承継においては、顧問契約を切られることなく引き継ぐことが重要な課題となる。   2 個人事務所の事業承継 個人事務所を前提とすれば、その税理士業務の事業承継には、以下の4つの方法がある。 現在、ほとんどの開業税理士は、上記(1)子供に税理士資格を取得させて会計事務所を引き継ぐ方法をとっている。つまり、事業会社の場合と同様に、親族内承継が一般的な方法である。 しかし、事業承継問題に悩む事業会社の経営者とは対照的に、個人事務所の事業承継は、これまでもスムーズに行われてきている。 この理由の一つとして、中小規模でも法人化して経営を行うことが多い一般の事業とは異なり、ほとんどの会計事務所が個人事業として経営されていることが挙げられる。 個人事業のメリットは、その事業承継に際して、相続税が非課税であることにある。事業会社の場合も同様ではあるが、税理士の場合でも、営業権は課税財産とはならない。例えば、税理士業務を営業目的とする開業税理士の「営業権」については、「評価しない。」とされている。 すなわち、会計事務所を個人事業として営む税理士が、その税理士業務を子供へ相続する場合、どれだけ高収益の事業であったとしても相続税が課されることはないのである。 つまり、会計事務所の税理士業務は、後継者となる子供が税理士資格を取得することができれば、無税で親族内承継されるものなのである。 しかしながら、近年は子供が他の職業に就いたために税理士として働かないケースが増えてきている。 このような場合には、会計事務所内の職員や、親しい知人の税理士、あるいは、同じ税理士会支部の他の税理士に税理士業務を無償で引き継がれるケースが一般的であろう。 このように、親族内承継と身近な税理士への無償引継ぎによって、税理士の事業承継はスムーズに実現していたのである。後述するような有償引継ぎは、あまり行われてこなかったようである。   3 個人事務所の有償引継ぎ 近年、増えてきている事業承継の方法が、無償ではなく有償で他の税理士に引き継ぐ方法、すなわち、会計事務所M&Aである。 それでは、有償での引継ぎ、つまり会計事務所の譲渡は、どのように行われるのであろうか。 まず、商法上の事業譲渡のスキームが適用できるかどうか検討してみると、税理士業務は、商法501条及び502条に規定する商行為に該当するものではない。 「業とする」の解釈についても、税理士が業として反復継続してなす行為は、たとえ本人が主観的に営利目的をもって行うとしても、営業行為とは認められないものと解されている。 したがって、税理士は商法上の「商人」として扱われることがないことから、事業譲渡のスキームは適用することができない。 また、以下のように、個人事務所は譲渡可能なものとして扱うことができないとされている。 このことから、個人事務所の有償引継ぎは、税理士業務の営業権を引き継ぐというわけではなく、什器備品などの個別資産を売却するとともに、顧客との顧問契約や職員との雇用契約が切れることなく引き継がれるよう、買い手に「斡旋」することによって行われる。 つまり、個人事務所の有償引継ぎの対価は、「斡旋」の手数料として扱われ、引退する所長(売り手)は、後継者(買い手)から現金を受け取るのである。 それゆえ、顧客の承継には、顧客の同意を得て新たな顧問契約を結ぶ必要があり、職員の承継も同様に新たな雇用契約の結ぶ必要がある。 もちろん、すべての顧客や職員の同意を得られることが保証されるものではなく、顧客や職員が多数の場合には、「斡旋」のために相当の時間と労力が必要となるであろう。 ちなみに、引退する所長が税理士業務の有償引継ぎを行って得られる利益は、斡旋の一時金の支払いだけではない。 所長が引退を決意した場合でも、新しい所長への事業承継のために、数年間は会計事務所に職員として残ることが一般的である。その数年間に受け取る給与や退職金も、実質的には斡旋の対価の一部を構成するものといえよう。   4 個人事務所の有償引継ぎの税務 税理士業務の有償引継ぎを行った場合に受け取った対価について、理論的には、 (1) 譲渡所得とみる考え方 (2) 事業所得とみる考え方 (3) 雑所得とみる考え方 がある (1)譲渡所得とする考え方は、税理士業務を営業権に類似した無形財産権であると理解し、その対価を受け取ったと考えるものである。また、(2)事業所得とする考え方は、弁護士業務の事業承継の事案において国税不服審判所がとった解釈である。 しかし、個別通達では、受け取った対価は、顧客を引き継ぐための役務(斡旋)の対価であると考え、税務上「雑所得」としている。 これについては、近時の国税不服審判所(平成22年6月30日裁決)においても、同様に取り扱われていることから、有償引継ぎの際に受け取った対価は「雑所得」になると考えられる。 ちなみに、会計事務所の有償引継ぎを行う場合、引退する所長の税負担を考慮に入れた引継方法を検討しなければならない。 すなわち、対価を雑所得となる一時金の支払いではなく、引き継ぐ税理士から支払われる給与と退職金に回したほうが有利になる可能性があるため、これらを考慮したうえで支払方法を決めるべきである。 税理士法人の場合、個人事務所の事業承継とは異なるのだろうか。 これについて次回検討を行う。 〈税務上有利な支払方法〉 (了)

#No. 7(掲載号)
#岸田 康雄
2013/02/21

〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第2回】「外来診療の経済性」

〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第2回】 「外来診療の経済性」   東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕   1 外来診療収益の構成比 第1回では、病床規模別の利益率と業績格差を生む要因を取り上げ、そこでは、医業費用の削減よりも、医業収益の増加が重要であることについて言及した。第2回は、医業収益の実態に迫っていきたい。 医業収益は、一般的な病院では、入院7割、外来3割という構成比になっている。ただし、図表1に示すように、病床規模別でみると中小規模の病院では外来比率が高く、大規模な病院ほど入院依存度が高くなっている。 図表1 病床規模別 医業収益の構成比 外来依存度が高いということは、100床未満の病院は診療所に近いことを意味しており、大規模病院は手術や救急医療などを伴うより重篤な患者を受け入れている高機能病院であることを意味しているのであろう。 しかし、図表2に示すように、病院機能別でみると、急性期病院よりも療養型病院のような慢性期的な病院の方が入院収益の比率が高くなっている。これは、慢性期病院が高機能であることを意味するわけではなく、外来での診断・治療機能を有していない結果、入院の比率が高くなることを意味している。 図表2 病院機能別 医業収益の構成比 つまり、慢性期病院では、高額なCTやMRIなどを保有しておらず、迅速で正確性を要する検査なども必要とする患者が少ないため外来診療収益が少ない傾向にあることが予想される。 これが急性期病院では、たとえ3割であっても外来診療収益が重要であり、外来患者を縮小することは困難であると主張する論者がいることに関係する。 しかし、筆者は外来よりも入院機能に重点を置くことが必要だと考えている。もちろん入院患者を獲得するためにも外来機能を強化することは重要であるが、風邪などの軽傷な一般外来患者が増加したところで、入院につながることはない。病院では、入院患者がいることを前提として設備投資と24時間の人員配置をしているわけであるから、固定費を回収するためにも入院患者をいかに獲得するかが重要となる。 一般外来の患者が入院する確率は1%と言われていることからも、自院の機能に見合った外来患者に焦点を絞ることも有効である。通常、高機能な病院では、外来は紹介制をとっていることが多いと思う。紹介患者は検査や画像診断を実施し、高収益にもつながるだけでなく、入院確率も高い。 外来も手術も救急も、何でもやりたいと思うのが病院経営層の思いかもしれない。しかし、現実的には医療資源は限られている。その限られた資源であるマンパワー等をどこに配分するか、それこそが戦略であり、適切な戦略が高い経営効率につながる。地域の実情を見据えて、自院が何をすべきかを考えることが求められているのである。   2 入院と外来、どちらの収益性が高い? 最後に、入院と外来、いずれの収益性が高いかのデータを示しておきたい。 まず、診療所は全体的に収益性が高い傾向にある。その中でも病床を持つ有床診療所は、一般の診療所よりも利益率が低いようだ(図表3)。 図表3 一般診療所(全体)の業績推移 ただし、診療所全体としては、病院よりも利益率が高いことは一般に指摘されているとおりである。また、病床を有する病院では外来は不採算だが、入院は高収益である傾向が強くみられる。 図表4・5は、30程度の総合病院で診療科別管理会計を実施した結果である。細かくみれば計算の妥当性が問われることもあるかと思うが、傾向としては入院が高収益で、外来は不採算であることが一目瞭然である。 図表4 外来診療に関しては、半数以上の診療科で赤字に陥っている。 図表5 入院診療に関しては多くの診療科で黒字であり、採算性が優れている。 (了)

#No. 7(掲載号)
#井上 貴裕
2013/02/21

事例で学ぶ内部統制【第11回】「効率化のために他社が取り組んだ評価対象部門の集約事例」

事例で学ぶ内部統制 【第11回】 「効率化のために他社が取り組んだ 評価対象部門の集約事例」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 今回から3回にわたり、プロセスレベルの内部統制(PLC)の運用評価のあり方をめぐるテーマを取り上げる。 有効かつ効率的に内部統制報告制度を運用するためのテーマは数多いが、効率化の要請に応えるとすれば、焦眉の急は運用評価の効率化であろう。 そこで、今回は、運用評価の効率化に向けた評価対象部門の集約事例を紹介する。 筆者(株式会社スタンダード機構)主催の実務家交流会では、PLCの運用評価で評価対象部門を集約することの可否、その要件、留意点について意見交換した。 各社の創意工夫を見てみよう。   評価対象部門の集約 まず、評価対象部門の集約とは何の議論であるかを確認する(下図参照)。 複数の事業や大規模な事業を行う企業では、コントロールが複数の部門で運用されている場合がある。例えば、A、B、Cという3部門でコントロールが運用されている場合、そのコントロールの運用状況の有効性の評価で、評価対象となるサンプルを抽出する母集団をどのような単位で設定するかが問題となる。 原則は3部門を別個独立した3個の母集団と捉えて各母集団からサンプルを抽出する。 では、この原則を修正しAからCまでの3部門を集約し、1個の母集団と捉えてサンプルを抽出することは可能か。 これが運用評価における評価対象部門の集約の問題である。 〈評価対象部門の集約〉   評価対象部門の集約の実態 筆者が、「このような評価対象部門の集約をしているか」と切り出したところ、参加企業の対応は次の3つのパターンに整理できた。 【パターン1】 個別評価型 参加企業Aは、「集約しておらず、部門毎に評価している。わが社は、半導体事業と機器事業に大きく分かれ、全部で約20部門が営業している。整備評価のため20部門がリスクコントロールマトリクス(RCM)を作った。運用評価では20部門を別々の母集団と考えて評価している。例えば、25件のサンプルが必要な場合、20部門からそれぞれ25件を抽出するため、評価件数は20部門に25件を掛けて500件となってしまう」(部品メーカー)と話した。 参加企業Bも、「部門が異なる場合は、仮に同一のコントロールであっても、母集団を集約していない。しかし、例えば、食品と生活用品のように扱う商材が異なるだけで、財務報告に至る処理には同じコントロールが運用されている場合、まとめて評価するべきかが今の課題だ」(小売)と話した。 このように、同一のコントロールが複数の異なる部門で運用されている場合でも、運用評価のサンプル抽出にあたり、それらの部門を集約せず、原則に則り個別に評価する企業は4割となった。 【パターン2】 運用集約型 参加企業Cは、「一定の要件を満たせば、集約している。わが社は、機械、金属、エネルギー、食料、生活資材、金融などを扱う総合商社で、部門は100以上ある。管理業務は、扱う商材が異なっても同じITインフラで処理されているものの、業務の流れや利用する証憑の確認項目に相違がある。 そこで、整備評価では、異なる100部門についてそれぞれRCMを作成したが、運用評価では、複数の部門のコントロールを横串で比較し、一定の要件に照らして同一のコントロールであると判断できれば、複数の部門を同一の母集団とみなしてサンプルを抽出している」(商社)と、整備評価の段階では個別に評価するが、運用評価の段階では集約していた。 【パターン3】 整備・運用集約型 参加企業Dは、「さらに進めて、そもそもRCMを部門毎に作らず、全社として1つに統一した。わが社は、本社と支店に約10部門で構成されるソフトウェア開発会社だが、異なる部門に対しても統一した業務規程とコントロールを整備した。だから、C社さんのように部門毎にRCMを作成するのではなく、10部門共通のRCMを作成し整備評価することができた。必然的に運用評価も10部門を1個の母集団としてサンプルを抽出した」(情報通信)と、運用評価だけでなく、整備段階も含めたコントロールの標準化を図っていた。 【パターン2】と【パターン3】を合わせて、評価対象部門を集約している企業は6割となった。   コントロールが同一であるための要件 評価対象部門を集約している企業は、いずれもそのコントロールが同一であれば、部門が異なっても運用評価の母集団としてそれらの部門を集約している。そこで、【パターン1】の参加企業が、「どういう要件がそろえば、そのコントロールが同一であると認識できるのか」と問うた。 参加企業Eは、「業務の流れと利用するITインフラが同一であれば、コントロールを運用する部門や実施者が異なっても、同一のコントロールであると認識している」(食品メーカー)と答えた。 参加企業Fは、「まず、全社共通のルールに準拠していることが必須条件だ。それに加えて、全社共通の基幹システムを使用していること、全社共通の帳票が使用されていることが満たされれば、部門の差異を問わず集約している」(精密機器メーカー)と答えた。 また、前出の参加企業Cは、「理屈の問題として、そのコントロールのアサーションが同一であることが必要だ。さらに、運用評価で異なる部門を同じ母集団とするという実務上の要請から、そのコントロールの実施頻度と実施タイミングが同一であることを要件としている」と付け加えた。   評価対象部門を集約する際の留意点 さらに議論は、運用評価において異なる評価対象部門を集約して得られる効果に及んだ。 《正の効果》 すべての参加企業が、メリットとして、「運用評価におけるサンプル数の総数を削減することによって、評価時間の短縮、評価工数の削減ができる」という点で一致した。 複数の参加企業は、「部門間のコントロールを比較することを通じて、各部門間の業務の差異や関連性が可視化され、全社共通のルールによる業務の標準化と効率化につながる」と、副次的効果を報告した。 《負の効果》 他方、集約していない複数の参加企業【パターン1】が、 「過度の集約を行うと、事業部門、支店などの部門の固有性による対応状況の違いを反映した有効な評価ができない」 「取引金額や取引形態の違いが存在する部門を集約して、その母集団から取引データに基づきランダムにサンプルを抽出してしまうと、少額であるが取引件数が多い部門が選ばれて、高額な取引を行う部門が選ばれにくくなり、リスクアプローチとは逆の結果となってしまう」 と、集約に躊躇する理由を話した。 また、集約している参加企業【パターン2・パターン3】も、 「集約した部門のサンプルから不備が発見されたとき、不備が発生した部門だけでなく集約対象となった他の部門全体も是正や再評価が必要となるので、かえって業務負荷が増える場合もある」 「集約した母集団からランダムにサンプルを抽出すると、評価対象から漏れてしまう部門が発生し、結果として評価の網羅性が担保できなくなる。それを回避するため、集約した部門を万遍なく網羅的に評価しようとすると、サンプル抽出に恣意性が働いてしまう」 と、集約に伴う悩みを話した。 これらの負の効果は、いずれも運用評価の効率化に向けて評価対象部門を集約する際に対応すべき留意点と捉えるべきである。 次回は、運用評価のサンプルの対象期間とサンプル件数の工夫を取り上げる。 (了)

#No. 7(掲載号)
#島 紀彦
2013/02/21

資産の海外移転をめぐる シンガポール最新事情【第3回】─「移住する」という選択─

資産の海外移転をめぐる シンガポール最新事情 【第3回】 ─「移住する」という選択─   Advance Business Support Pte. Ltd. 代表 大曽根 貴子    ■富裕層に人気の移住先、シンガポール 富裕層への課税が強化されている。1月24日に公表された平成25年度税制改正大綱では、所得税の最高税率が45%(現行40%)、相続税の最高税率が55%(現行50%)に引き上げられることが明記されている。 富裕層課税の強化に加え、日本の財政問題や原子力問題等のジャパンリスクを避けるために、シンガポールへ移住したいという相談が増えている。 シンガポールが移住先として富裕層に人気の理由は、第一に税金の安さ(第1回参照)があるが、その他に治安の良さ、教育水準及び医療水準の高さが挙げられる。   ■居住者と非居住者 合法的に日本の税金を少なくするには、日本での課税根拠をなくすことである。この課税根拠をなくすには、生活拠点や資産を海外に移すことが必要となる。 所得税法は、「居住している場所」によって課税対象範囲が異なる。 所得税法では、納税義務者を「居住者」と「非居住者」に区分しており、それぞれ課税対象範囲が異なる。 (1) 居住者 居住者とは、国内に「住所」を有し、又は、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいう。居住者は、「非永住者」と「非永住者以外の居住者」とに区分される。 ① 非永住者 非永住者とは、居住者のうち日本国籍がなく、かつ、過去10年以内の間に日本国内に住所又は居所を有する期間の合計が5年以下である個人をいう。 非永住者は、国内において生じた所得(国内源泉所得)と、これ以外の所得(国外源泉所得)で日本国内において支払われたもの又は日本国内に送金されたものが課税の対象となる。 ② 非永住者以外の居住者 非永住者以外の居住者とは、居住者のうち日本国籍のある人、又は、過去10年以内の間に日本国内に住所又は居所を有する期間の合計が5年超である個人をいう。 ほとんどの日本人は、非永住者以外の居住者に該当し、所得が生じた場所が日本国の内外を問わず、そのすべての所得に対して課税される。 (2) 非居住者 非居住者とは、上記の居住者以外の個人をいう。 非居住者は、日本国内において生じた所得(国内源泉所得)のみが課税対象となる。 海外移住者は、所得税法の非居住者となり、課税範囲が狭くなる。   ■シンガポールへの移住方法 では、日本人はどのようにして、シンガポールへ移住しているのか。 (1) エンプロイメント・パス シンガポールに住む日本人の多くは、駐在員や現地採用の従業員として企業に勤務している。これらの人たちはエンプロイメント・パス(Employment Pass)という就労ビザを取得している。 数年間勤務した後に永住権(Permanent Residence: PR)を取得する人もいるが、最近は承認件数が減っており、狭き門となっている。 富裕層や起業家が移住するときも、このエンプロイメント・パスを取得することが一般的である。 まず、会社を設立し、その会社から自分のエンプロイメント・パスを申請する。 シンガポールでは資本金1シンガポールドルから会社を設立できる。しかし、エンプロイメント・パスを申請する場合は、資本金10万シンガポールドル以上とすることが多い。 また、エンプロイメント・パスを申請する際は、月給をP1ビザの基準額である8,000シンガポールドル以上とすることが多い。 資本金と給与額を多めに設定することで、審査が厳しくなっているエンプロイメント・パスが取得しやすくなる。 (2) グローバル投資家プログラム 最初から永住権を取る方法には、グローバル投資プログラム(GIPスキーム)がある。 グローバル投資プログラム(GIP)は、海外投資家、起業家、ビジネス・エグゼクティブによるシンガポールでのビジネスの立上げ、経営を容易にするためのプログラムである。 〈投資オプション〉 以下の投資オプションのいずれかを選択することができる。 〈投資家に関する適用基準〉 グローバル投資家プログラムは、多額の資金が必要であり過去の実績が評価されるため、対象者は限定されるが、最初から永住権が取得できるのが大きなメリットである。 申請者の配偶者及び21歳未満の未婚の子も申請者の永住権申請と一緒に永住権を申請できる。 シンガポールの男性は兵役の義務がある。永住権申請者は免除となるが、その子供が男性の場合はこの義務を果たさなければならない。 上記の他、個人がシンガポールで新たな事業を始める場合には、アントレ・ビザ(起業家ビザ)を取得する方法もある。   ■出国税の導入 前述のとおり、シンガポールは税金が安く、治安が良い。 教育水準や医療水準も高く、日本とほぼ変わらない生活ができる。 しかし、東南アジアの中では著しく物価が高く、特に家賃や人件費が高い。 税金は安いが総合的なコストは高くつき、他国へ事業拠点を移す企業もある。 日本の富裕層の海外移住が増加した場合、結果として日本の税収は減少してしまう。 アメリカやオーストラリアでは、移住による租税回避の対策として出国税が導入されている。出国税とは、居住者が非居住者になるために出国する際に、保有財産について税金を課すというものである。 今後も富裕層の海外移住が増加した場合、日本も出国税を導入することになるかもしれない。 (了)

#No. 7(掲載号)
#大曽根 貴子
2013/02/21
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