税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第62回】 「アスベストの使用と建物価格への影響」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 前回は、建物に関する「有害な物質の使用の有無及びその状態」について、ポリ塩化ビフェニル(PCB)の使用状況及び保管状況の調査や建物価格との関連を中心に述べました。 今回は、PCBと同じく不動産鑑定評価基準運用上の留意事項に掲げられている「建設資材としてのアスベストの使用の有無及び飛散防止等の措置の実施状況」(留意事項Ⅱ.2.(1))に関連する調査及び建物価格への影響について述べていきます。 2 アスベストとは アスベストとは、石綿(せきめん、いしわた)とも呼ばれる天然の繊維状の鉱物を指しています(原石をほぐして繊維状にしたものです)。 そして、日本では輸入された以下の3つのものが大半を占めるといわれています。 〈アスベストの種類〉 ご承知のとおり、現在、これらについては製造や輸入が禁止されています。 アスベストは、耐熱性が高い、薬品にも強く絶縁性がある、柔軟性がある等の点から建設資材の原料として使用されてきました。 しかし、次の理由により、昭和50年以降段階的に使用が禁止(又は中止)され、平成24年3月以降は全面的に禁止されています(※1)。 (※1) アスベストの使用が段階的に禁止(又は中止)されてきた経緯については、東京都環境局「アスベストQ&A基本的知識」に解説があります。 3 アスベストの使用されている用途 東京都環境局の資料(上記(※1))によれば、アスベストの使用用途は3,000種類以上に上るといわれ、その9割以上が建築物の壁材、屋根材、外装材、内装材に利用されています。そして、住宅や倉庫では、軒裏、外壁、屋根等にセメント板が使用され、ビルでは、空調機械室等の天井、壁に吹付け材が使用されていることも報告されています。 それだけでなく、自動車のブレーキ、電線の被覆材、器具の断熱材、シーリング材等として使用され、一部の家電製品にも使用されていましたが、現在市販されているものに関しては、アスベストは使用されていないとされています。 4 アスベスト使用の有無の調査と建物価格への影響の評価 アスベスト使用の有無の調査と建物価格への影響の評価ですが、これに当たっては次の2段階を経ることになります。 すなわち、鑑定評価に当たってのポイントは、アスベストが使用されている場合でも、その影響は建物撤去時に顕在化するため、建物を継続使用することが最有効使用であれば特段の減価は必要ないという捉え方です。 仮に、対象建物が老朽化し撤去することが合理的と判断され、しかもアスベストが使用されているという場合には、その除去費用を織り込んだ建物撤去費(通常よりも割高となります)を更地価格から控除して評価することが必要となります。このような場合に撤去費が割高となる理由としては、建物を撤去する際にその建物に使用されているアスベストが周囲に拡散されるのを防ぐため、除去作業を外気と隔離して実施する必要があることがあげられています。 5 アスベストの除去費用 (1) アスベスト除去(処理)費用の目安 国土交通省ホームページ「アスベスト対策Q&A(Q40)」には、アスベスト除去費用の目安が以下のとおり示されています(公表されている資料としては数少ないものです)。 詳細は同ホームページを参照ください。なお、このなかには、仮設、除去、廃棄物処理費等のすべての費用が含まれます。 (2) 上記(1)の資料の取扱い方 上記(1)の資料は、(そのなかに付されている)国土交通省の解説にもみられるとおり、費用の目安については、施工実績データの費用単価分布から処理件数上下15%を除いたものであり、施工条件によってはこの値を大きく上回ったり、下回ったりする場合があり得ます(※2)。そのため、当該資料はあくまで目安値として考える必要があります。 (※2) 筆者注。この他に、障害物の有無や足場設置の必要性等によっても費用は大きく異なるようです。 また、次の点についても追記されているため留意が必要です。 6 鑑定評価上の条件との関係 前回も述べましたが、不動産の鑑定評価に当たり、不動産鑑定士の通常の調査の範囲では、対象不動産の価格への影響の程度を判断するための事実の確認が困難な特定の価格形成要因が存する場合には、これを価格形成要因から除外する(=調査範囲等条件を付す)ことも可能とされています。アスベストの取扱いについてもその対象とされています。 ただし、このような条件を付して鑑定評価を行えるのは、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないと判断される場合に限られています。 不動産鑑定士としては、仮に調査範囲等条件を設定して鑑定評価を行う場合でも、本稿で述べた必要最低限の調査を省略することはできません。併せて、アスベストの使用の有無と価格上の取扱いについて鑑定評価書に明記しておくよう留意しています。 (了)
《速報解説》 会計士協会、補助金等に関する会計基準の不存在を踏まえ、 「補助金等の会計処理及び開示に関する研究報告」の公開草案を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年2月19日、日本公認会計士協会は、会計制度委員会研究報告「補助金等の会計処理及び開示に関する研究報告」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、補助金等に関する会計処理及び開示について研究したものである。 意見募集期間は2025年4月19日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 我が国には、現時点においては補助金等に関する会計基準は存在しておらず、補助金等に係る会計処理及び開示について、様々な実務が行われていることが想定されるとのことである。 以下に述べる問題のほか、圧縮記帳や補助金等の会計処理について詳細に検討している。 1 会計処理 我が国においては補助金等の認識に関する会計基準は存在しない。 このため、「企業会計原則」などの定めを参考に、補助金等の交付額確定通知の受領時や付帯条件を満たした時点等、具体的にどの時点で企業が計上すべきかについて、事実と状況に応じて判断することになると考えられる。 なお、補助金等の交付に付帯条件が付された場合には当該条件を満たしているか、満たす可能性が確実かどうかの検討が必要となると考えられる。 2 表示 原則として、事業対象に係る費用と補助金等を純額処理することはなく、補助金等は営業外収益に計上することになると考えられる。 3 実務上の課題 研究開発助成金について、原則として、研究開発費と助成金を純額処理することはなく、助成金は営業外収益に計上することになると考えられるとしている(純額処理した場合には追加情報の開示)。 雇用調整助成金について、政府は、雇用を維持する企業(事業主)に対して雇用の安定を図るために雇用調整助成金を支給するものであり、政府が従業員に対して支給することを目的として企業(事業主)に支給するものではないため、雇用調整助成金が支給される場合、人件費のマイナスではなく、当該支給金額を営業外収益として表示することが考えられるとしている(純額処理した場合には追加情報の開示)。 4 会計方針 補助金等の会計処理は会計事象等に関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に該当すると考えられ、重要性がある場合には重要な会計方針として注記することが考えられるとしている(「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)4-2項等)。 (了)
《速報解説》 JICPAより「独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー」等の改正(公開草案)が公表される ~一部記載の明確化等を行い2025年4月1日以後の期中レビューから適用~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年2月14日、日本公認会計士協会は、「独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー」(期中レビュー基準報告書第1号)などの期中レビューに関する報告書を改正する公開草案を公表し、意見募集を行っている。 意見募集期間は2025年2月28日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 Ⅲ 適用時期等 2025年4月1日以後開始する期中財務諸表に係る会計期間の期中財務諸表に対する期中レビューから適用する予定である。 (了)
《速報解説》 会計士協会が「財務報告に係る内部統制の監査」の改正を確定 ~「監査基準報告書及び関連する公表物の体系及び用語」に基づく要求事項と適用指針を明確化~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年2月13日付けで(ホームページ掲載日は2025年2月14日)、日本公認会計士協会は、「財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正」を公表した。これにより、2024年11月15日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられたコメントの概要とその対応も公表されている。 これは、監査基準報告書(序)「監査基準報告書及び関連する公表物の体系及び用語」に基づく要求事項と適用指針の明確化を行うものである。 なお、改正内容には、改正監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」(2023年1月12日改正)に関連する改正も含まれている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主に次の改正を行うとともに、重複箇所を整理するなど記載内容を整理している。 Ⅲ 適用時期等 2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度に係る内部統制監査から適用する。なお、97項(2)及び116項(3)の改正並びにこれに関連する改正(付録5)については、倫理規則(2024年7月18日変更)を早期適用する場合には、併せて適用する。 ただし、他の監査人の作業の利用に関する要求事項(90項)及びこれに関連する改正(97項(4)、付録5)は、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度に係る内部統制監査から適用する。また、公認会計士法上の大規模監査法人以外の監査事務所においては、2024年7月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度に係る内部統制監査から適用する。なお、それ以前の決算に係る連結会計年度及び事業年度に係る内部統制監査から適用することを妨げない。 (了)
《速報解説》 JICPA、報酬依存度に関する取扱いにつき理解不足との意見踏まえ、 「監査報告書に係るQ&A」を改正 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年2月13日付けで(ホームページ掲載日は2025年2月14日)、日本公認会計士協会は、監査基準報告書700実務ガイダンス第1号「監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正を公表した。これにより、2025年1月17日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対して特段の意見は寄せられなかったとのことである。 これは、報酬依存度に関する取扱いが十分に理解されていないことなどについて補足するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 (了)
2025年2月13日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.606を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第137回】 「消費税法における「課税仕入れの日」(その1)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 消費税が「消費」に対する課税であるとするならば、消費の段階で課税がなされるべきことになろう。例えば、消費者が商品(アイスクリーム)を購入したとすると、それを食べた時に課税がなされるべきであるように思われる。 しかしながら、実際問題として、消費者がアイスクリームを購入してそれを持ち帰ったとしても、自宅の冷蔵庫の中に入れっぱなしにして賞味期限が切れてしまってゴミ箱行きになるかもしれないし、そもそも、購入してお店から出た時に袋の開け方をミスして中身が地面に落ちてしまって食べることができなくなってしまうかもしれない。 「消費」を食べることと理解するとすれば、結局上記の場合には消費はなされなかったということになるし、そもそも、口に入ることを消費というのではなく、胃の中で消化・吸収されたときに初めて消費というのかもしれない。もっとも、持ち帰ったことや冷蔵庫に入れたことや、ごみ箱行きになったことをもって「消費」という理解もあり得るが、いずれにしても、持ち帰ったタイミングや冷蔵庫に入れたタイミング、ごみ箱行きになったタイミング、胃の中で消化・吸収されたタイミングはどう捉えればよいのであろうか。例えば、商品は買ったものの、持ち帰るのを忘れて店内に置いてきてしまった場合はどのように考えるべきなのであろうか。さらにいえば、購入したことが既に「消費」であるという考え方はあり得るであろうか。 しかし、一般的にいえば支出は消費のために行われるのであるから、支出=消費と考えて、支出時に課税するというのは難しそうである。本当に消費に対する課税というのであれば、消費税法においても、いわば減価償却のような購入資産の効用に応じた課税が観念されてしかるべきである。むしろ、より現金主義に接近した考え方を消費税法は採用しているように思われる。 消費課税ではなく、消費支出課税であると捉えることもできそうであるが、そうであるとすると、「支出」に関心を寄せることになるが、支出というものが現金主義的なものとなると未払いや掛けによる購入の場合には支出のタイミングが遅れることになろう。そのような際には、即時払い決済の取引よりも課税のタイミングが遅れるということで問題ないのであろうか。 いずれにしても、消費税とはどうも「消費」のタイミングで課税されているようではなさそうである。単に、代金を支払ったときをいうのであろうか、あるいは商品なりの引渡しを受けたときをいうのであろうか。売買契約締結の日をもって、消費税の課税のタイミングを考えるべきなのであろうか。 他方、消費税額の計算において、税の累積を排除するために仕入税額控除が設けられているが、かかる税額控除のタイミングが議論されることもある。 そこで、これら消費税法におけるタイミングの問題を考えることとしたい。 まずは、仕入税額控除のタイミングの問題が争点となった事例(大阪地裁令和2年3月11日判決(税資270号順号13393)及びその控訴審大阪高裁令和2年11月26日判決(税資270号順号13485))を素材として、これらの論点に踏み込んでいくこととしよう。 Ⅰ 素材とする事案 1 概観 不動産賃貸業を営むX(原告・控訴人)は、本件建物の取得に係る支払対価の額について、本件建物及びその敷地である土地(以下、本件建物と併せて「本件不動産」という。)の売買契約の締結日である平成24年11月30日が課税仕入れを行った日であることを前提として、本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含めて消費税等の確定申告をし、また、平成24年11月期及び平成25年11月期の法人税の各確定申告をした。これに対して、所轄税務署長は、本件建物の取得に係る支払対価の額に係る課税仕入れを行った日は、本件建物の引渡しがあった平成24年12月21日である等として、本件課税期間について本件消費税等更正処分、本件各法人税更正処分等を行った。本件は、Xが国Y(被告・被控訴人)を相手取って、本件各処分が違法であるとして各取消しを求めて訴訟を提起した事例である。 2 事実関係 (1) 本件売買契約の締結 Xは、平成24年11月30日、株式会社D(以下「本件売主」という。)との間で、本件不動産を、代金2億円で購入する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。本件売買契約には、要旨、次のような定めがある。 (2) 本件売買契約締結後の経緯 3 争点 本件建物の取得に係る「課税仕入れを行った日」(消法30①一)が本件課税期間に属する日であるか否か。なお、本件更正通知書における理由付記に違法があるか否か、及び国税通則法65条⦅過少申告加算税⦆4項の「正当な理由」の有無についても争われているが、本稿においては省略する。 4 当事者の主張 (1) Xの主張の要旨 (2) Yの主張の要旨 5 判決の要旨 (1) 大阪地裁令和2年3月11日判決 (2) 大阪高裁令和2年11月26日判決 6 検討 (1) 「課税仕入れを行った日」と「資産の譲渡等を行った日」 本件地裁判決は、「課税仕入れを行った日」は、「資産の譲渡等」の時期と同様の基準により判断すべきである旨のXの主張が、「資産の譲渡等」の時期の問題は、消費税の課税対象となる「資産の譲渡等」について、譲渡人との関係で、どの課税期間に行われたものとして課税するかという問題であるのに対して、「課税仕入れを行った日」の時期の問題は、租税負担の累積の防止という観点から、譲受人との関係で、どの課税期間において消費税額の負担が確定的になったものとして仕入税額控除をするかという問題であるから、両者の時期が当然に同様の基準により判断されるべきものとは解されないとした。すなわち、「課税仕入れを行った日」は、「資産の譲渡等」の時期と同様の基準により判断すべきである旨のXの主張は排斥された。 これに対して、本件高裁判決は、事業者間において、「資産の譲渡等」と「課税仕入れ」が連鎖的に繋がることを前提に、消費税の負担の累積を防止する仕入税額控除の仕組みが定められていることに照らせば、譲受人事業者の「課税仕入れ」と譲渡人事業者の「資産の譲渡等」は、表裏一体的な関係にあるというべきであるとし、譲受人が「課税仕入れを行った日」と、譲渡人が「資産の譲渡等を行った日」は、同じ日をいうものと解するのが相当であるとした。 本件地裁判決が、「課税仕入れを行った日」が「資産の譲渡等」の時期と必然的に一致するものということはできないとしたのに対して、本件高裁判決はそれとは異なる判断をしたのである。 このように本件事案では、原審と控訴審との間に消費税法の「課税仕入れを行った日」と「資産の譲渡等を行った日」の時期の一致・不一致を巡る見解の対立があるのである。 その上で、本件高裁判決は、消費税等の納税義務を負うのは譲渡人であって、譲渡人が課税資産の譲渡等をした時に消費税等の納税義務が生じることからすると、譲渡人に消費税の納税義務を負わせるには、単に契約の締結により譲受人が譲渡人に対して当該資産に係る消費税の支払義務を負うことになるというにとどまらず、当該資産の付加価値が譲受人に対して現実に移転することにより、譲受人から当該消費税が実際に支払われたか、あるいは実質的に支払われたものと評価できる客観的事実が存在することが必要というべきであるから、譲渡人が消費税の納税義務を負うことになるのは、譲渡人が引渡し等の本旨的債務を履行することにより、譲受人からその対価を現実に収受すべき権利が確定した時点であると解するのが合理的であるとするのである。 いずれの見方が妥当なのであろうか。 (続く)
谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第34回】 「国税通則法84条(81条~83条・85条・86条)」 -再調査の請求の審理・決定手続- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 国税通則法84条(決定の手続等) 1 はじめに 国税通則法上の不服申立制度については、平成26年の行政不服審査法改正(同年法律第68号)を受けて「行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(同年法律第69号)によって、異議申立前置主義(改正前税通75条3項)の廃止、「異議申立て」(同条1項)の「再調査の請求」(現行税通75条1項1号イ)への改変、再調査の請求と審査請求との自由選択主義の採用(同号)等の改正がされた。 今回は、再調査の請求について、審理・決定手続を中心に、検討を行うことにするが、その前に、不服申立ての種類を原則として審査請求に一元化した平成26年行政不服審査法改正の考え方(不服申立種類の原則一元化)に対して、国税通則法がその例外として再調査の請求を定めている理由をみておこう(行審5条1項本文参照)。その理由については、次の解説(宇賀克也『解説 行政不服審査法関連三法』(弘文堂・2015年)24-25頁)がされている。 これとはニュアンスの異なるところもあるものの異議申立てに積極的な意義を認める考え方は、次の解説(水野武夫「国税審査請求制度改革の意義と今後の課題-行政不服審査法・国税通則法の改正を踏まえて-」税法学574号(2015年)199頁、204-205頁)にもみられる。 2 異議申立て及び再調査の請求に関する統計資料の分析 ここで、以上の解説内容の合理性ないし妥当性の有無を検証するために、国税庁のホームページにおいて現時点(2025年2月8日)で確認できる統計資料(国税庁「平成25年度における異議申立ての概要」から同「令和5年度における再調査の請求の概要」まで)に基づき、平成16年度から平成27年度までの異議申立ての発生件数、処理件数(取下げ等を含む)、処理件数に対する3か月以内処理件数の割合(処理率)及び認容率と、平成28年度から令和5年度までの再調査の請求の発生件数、処理件数(取下げ等を含む)、処理件数に対する3か月以内処理件数の割合(処理率)及び認容率を表にまとめておくと、下記の表となる。 【異議申立て】 【再調査の請求】 この表によれば、前記の解説で示された異議申立ての存在意義や再調査の請求の存置理由には一定の合理性ないし妥当性が認められることは確かであるように思われる。ただ、再調査の請求の発生件数が異議申立ての発生件数に比べて相当減少している(年度によっては半減している)のも事実であるが、これは、下記の表(国税庁「平成25年度における審査請求の概要」から同「令和5年度における審査請求の概要」までの統計資料に基づき作成したもの)によれば、審査請求の発生件数が平成28年度以後も然程増加していないことからすると、必ずしも自由選択主義の採用(再調査の請求を経ずに審査請求を行うことができるようになったこと)の影響によるものとは解されない(なお、下記の表中の「処理率」は処理件数に対する1年以内処理件数の割合である)。 【審査請求】 【審査請求】 このようにみてくると、異議申立前置主義の廃止及び再調査の請求と審査請求との自由選択主義の採用を過大評価することはできないように思われる。確かに、「すべての処分についてただちに審査請求をすることができるようになったことに意義がある」(木村浩之「行政不服審査法の抜本改正 新国税不服審査制度の要点解説」旬刊経理情報1388号(2014年)32頁、36頁)とは考えられるが、ただ、前記の解説でも述べられているように、また、「事実認定のレベルで解決できそうなものは、この再調査の[請求]制度を利用していったほうがよい」(木山泰嗣=三木義一=藤曲武美「座談会■行政不服審査法 半世紀を経た大改正!! 国税不服審査制度はこう変わる」税務弘報62巻6号(2014年)61頁、71頁[藤曲発言])、「再調査の請求も、異議申立てと基本的に変わらないと考えれば、基本的には3か月でほとんどの結論が出るという簡易迅速な手続ですので、今後も一定の意義がある」(同72頁[木山発言])といわれるように、再調査の請求の存置それ自体には一定の合理性ないし妥当性があるといえよう。 とはいえ、「この再調査の請求につきましては、基本的には現行の異議申し立ての手続と変わりのないものになってございます。」(平成26年5月8日衆議院総務委員会における塩川鉄也委員の質問に対する星野次彦政府参考人の答弁[第186回国会(常会)会議録総務委員会第19号])といわれる以上、再調査の請求は異議申立ての手続の意義及び課題も引き継いでいることになると考えられるので、以下では、再調査の請求の手続的意義及び課題を検討しておくことにする。 3 再調査の請求の手続的意義及び課題 再調査の請求については、「例外的なものであり原処分庁に処分の見直しを求めるものであるから、処分前の『手続』と処分後の『救済』との中間に位置するもの」(水野・前掲論文205頁。下線筆者)として、「再調査の請求が審査請求の前段階で簡易迅速に処理を図る手続であることを踏まえ、再調査の請求の審理手続については、事件の内容等に応ずる弾力的な運営が行われるよう規定が簡素化されている(なお、審査請求の審理手続については、審査請求人及び原処分庁の双方の協力を得て、公正かつ能率的な手続により審理を進めることができるよう、規定の充実が図られている。)。」(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)1150頁)と解説されている。 もっとも、再調査請求の審理手続は、異議申立ての審理手続と比べると、再調査の請求人及び参加人の口頭意見陳述の整備・充実等(税通84条1項~5項)並びに再調査の請求人及び参加人からの証拠書類等の提出の明文化(同条6項)が図られた点では、審査請求の審理手続(同95条の2、96条)に準ずる手続的権利を保障するものとして、「処分後の『救済』」(水野・前掲論文205頁)の方向で改善がされたものと評価することができよう。 これに対して、再調査の請求の手続は、その他の点とりわけ決定(税通83条。再調査決定)の手続の点では、異議申立ての手続と「変わりのないもの」(星野政府参考人・前掲答弁)といってよい。特に再調査決定に係る理由の記載及び程度に関する定め(税通84条7項・8項)は異議決定に係るそれをそのまま踏襲したものである。 ここで、再調査の請求に係る処分の全部又は一部を維持する決定の理由の程度については、「その維持される処分を正当とする理由が明らかにされていなければならない。」(税通84条8項。下線筆者)と定められているが、この規定は、その文言(特に下線部)からすると、総額主義を前提とする定めであると理解することができるようにも思われるかもしれない。総額主義とは、課税処分取消争訟における審理の範囲は課税処分を根拠づける一切の理由に及ぶという考え方をいうが(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【164】)、再調査の請求の調査(再調査決定のための調査)を質問検査等(課税処分等のための調査)と同じ法的根拠に基づくものとして捉える下記の通達の立場(不服審査基本通達(国税庁関係)84-3。野一色直人『国税通則法の基本 その趣旨と実務上の留意点』(税務研究会出版局・2020年)145頁も同旨)からすると、上記の理解も成り立ち得るようにも思われるかもしれないのである。 確かに、前記の理解は、平成23年度[11月]税制改正前は、異議申立ての調査(異議決定のための調査)については成り立ち得たように思われる。というのも、同改正前は、現行国税通則法74条の11第5項が定める再調査の制限に相当するような制限は、各個別税法上の質問検査権等について定められていなかったからである。ここで再調査の制限とは、先行の調査(いわゆる前回調査)の終了後に質問検査等(いわゆる再調査)を行うことができるのは、「[当該職員が]新たに得られた情報に照らし非違があると認めるとき」という要件(再調査要件)が充足される場合に限られることをいう(再調査の制限については前掲拙著【139】(ハ)、拙著『税法創造論』(清文社・2022年)911頁以下[初出・2020年]参照)。 しかしながら、平成23年度[11月]税制改正によって「国税の調査」が国税通則法第7章の2で統一的に規定され、再調査についても再調査要件による制限が定められたことから、同改正後は、異議決定のための調査についても、また、再調査決定のための調査についても、前記の通達のように「当該職員の質問検査権等に基づいて行うもの」と解する立場によれば、再調査要件による制限が適用され、したがって、不服申立審理庁の当該職員は「[当該不服申立てによって]新たに得られた情報に照らし非違があると認めるとき」に限り再調査を行うことができるものと解される。 そうすると、再調査の請求を受けて再調査審理庁の当該職員が再調査を行う場合には、当該非違の故にその請求に理由があると判断され、その請求に係る処分が取り消され又は変更される(税通83条3項)のが通常であるように思われる。逆に、当該職員が再調査の請求によって新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときに、再調査決定においてその請求に係る処分を維持するような場合は考え難いように思われる(ただし、平成27年度税制改正により再調査要件の適用対象が実地の調査に限定されたことから、再調査の請求に係る非違以外の理由を実地の調査以外の調査で認定し再調査決定においてその理由に基づき原処分を維持することも考えられなくはない。しかし、そのような再調査決定は権利救済の趣旨に適合するものとはいえないであろう)。 換言すれば、原処分維持の理由の記載に関する国税通則法84条8項の規定は、国税に関する法律に基づく処分に係る理由附記規定(税通74条の14第1項括弧書・行手14条、所税155条2項、法税130条2項)の確認規定としての性格を有するにとどまるのではないかと考えられる。なお、白色申告に対する更正処分等に係る理由附記の現状を踏まえ、「白色申告の納税者は、理由付記の記載がある程度明らかにされている再調査の請求を通じて、更正処分等の理由や根拠をより詳細に知ることができます。更正処分等の取消訴訟を検討する納税者にとって、再調査の請求を行うことには一定の意味があると考えられます。」と説く見解(野一色・前掲書145頁)もある。 このように考えてくると、再調査の請求の審理・決定手続は、総額主義を前提としてではなく、再調査の制限(税通74条の11第5項)の下で、請求に係る非違に即して調査・審理・決定を行う一種の争点主義を前提として運営されると考えるのが相当である。この考え方は、再調査の請求と国税不服審判所に対する審査請求を争点主義的運営による権利救済手続という同一平面上に位置づけようとするものである(国税不服審判所の争点主義的運営については次回検討するが、差し当たり前掲拙著『税法基本講義』【164】参照)。 (了)
国際課税レポート 【第11回】 「米国大統領令とOECD国際課税合意のゆくえ」 税理士 岡 直樹 (公財)東京財団政策研究所主任研究員 国際課税についてのはじめての大統領令 1月20日に第47代アメリカ合衆国大統領に返り咲いたドナルド・トランプ氏は、「OECDの国際課税合意について」と題する大統領令に署名した。 事実上2021年10月のOECD/G20・BEPS包摂的枠組み(「2つの柱による解決策」を指す)からの米国の離脱を宣言するとともに、財務長官に対して、合衆国通商代表部(USTR)と協議の上で、外国による差別的・域外適用的な税制をリストアップし、かかる課税から米国の利益を守るための「保護的な措置」の選択肢とともに、60日以内に大統領に報告することを命じている。 大統領令は2つの点で衝撃的だ。 第一は、対象となる外国の制度を特定し、それに対して米国が自国の利益を守るための措置(対抗措置)を講じる枠組みを示していることだ。 第二は、関税や移民についての大統領令への署名は予測されていたものの、就任初日に国際課税についての大統領令に署名することは誰も予想していなかったことだ。これは、第二次トランプ政権が、バイデン政権が進めたOECD国際課税合意の巻き戻しを政権の重要な政策の1つに位置付けていることを意味している。 差別的・域外適用的な税として大統領令の念頭にあるのは、欧州各国が導入した「デジタルサービス税」(DST)や、様々な経緯を経て2022年12月15日夜になんとか合意にこぎつけたEUミニマム税指令に基づいて加盟国が導入を義務付けられ、2025年1月から適用されている「軽課税所得ルール」(Undertaxed Profits Rule・UTPR)であると考えられる。 しかし、2021年10月のOECD国際課税合意に従いUTPRを国内法に導入する国はEU以外にも多い。仮に米国が本当に「保護的な措置」の適用を始めれば、その影響は多くの国に及ぶことになる。 わが国も令和7年度税制改正でUTPRを導入することとし、2月4日に国会に法案を提出しており、他人事ではない。 大統領令により顕在化したのは、世界一の多国籍企業大国であり、長年国際課税ルールの形成と安定に貢献してきた米国が、自らの選択により国際課税ルールの形成から離脱するという国際課税の世界における大事件だ。個々の企業や実務家の努力でダメージコントロールできる範囲を超える問題である。各国政府や民間企業がどのように対応するかについての情報も現時点では断片的なものしかない。 しかし、クロスボーダーの事業活動・投資において極めて重要な影響を持ちうることから、以下では現時点の情報を基に大統領令の背景と今後の展望を紹介することとしたい。 〈OECD国際課税合意(※1)についての大統領令の概要(2025年1月20日)〉 (※1) 事実上、2021年10月の「2つの柱による解決策」合意を指す。 米国の反発の背景 2つの柱による解決策は、第1の柱(利益A)は超大規模(収入200億ユーロ・3.4兆円超)の超過利益(10%超)を売上に応じて市場国に再配分するものであり、第2の柱は大規模多国籍企業(収入7.5億ユーロ・1,100億円以上)に15%のグローバルミニマム税を課税するためのものである。 米国議会事務局レポートの推計によると、利益Aの対象となる企業は全世界で68のうち、米国に31存在し、利益Aの対象となる利益全体に占める米国企業の割合は63.8%だが、これはドイツの1.6%、イギリスの3.8%に比べて突出している(※2)。 (※2) Congressional Research Service R47988(2024.4) また、米国合同租税委員会の推計によると、米国以外の国が15%のグローバルミニマム税を導入した場合、米国は10年間で1,220億ドルの税収を失うとされている(※3)。 (※3) Joint Committee on Taxation(2023.6) 2025年1月16日の上院財政委員会指名承認公聴会で、OECD第2の柱を「ひどいポリシー」(terrible policy)と呼んだスコット・ベッセント氏は、民主党バイデン政権時代の国際課税合意を巻き戻す所信を述べたにもかかわらず、1月27日の上院本会議では民主党議員15名がベッセント氏の信任に回り、賛成68票で承認されている。 バイデン政権は、看板政策であったBuild Back Better法を下院で僅差で可決し、第2の柱に沿った国内法の導入を試みたが(2024年グリーンブック)、上院では大統領と同じ民主党議員からの反対などもあり、上院で審議されたInflation Reduction Act of 2022からは除外されている。 こうしたことに鑑みれば、2つの柱による解決策に対する米国議会の反発は共和党やトランプ政権に限られたものではない。超党派のものと考えるべきであろう。 UTPRが租税条約違反にならないことをOECDは十分に説明していない UTPRの規定の下では、非居住者(外国法人)に対して自国での活動や株式保有とは直接関係のない課税が行われるが、租税条約のPE条項は、このような非居住者に対する課税を明確に禁止しているという有力な見解がある(※4)。 (※4) 例えば、Angelo Nikolakakis, Jinyan Li,(2023)「UTPR — No Taxation Without Value Creation!」Tax Notes(2023.4.3) UTPRと租税条約の関係について、OECDはこれまで「条約違反にならないように設計されている」という宣言しかしてきておらず(※5)、租税条約違反でない理由が示されていないことなどについて、複数の論者から指摘がなされてきている。このため、後述するように、司法審査に付すべきだという動きにもつながっている。 (※5) OECD(2023), Tax Challenges Arising from the Digitalisation of the Economy – Administrative Guidance on the Global Anti-Base Erosion Model Rules(Pillar Two), OECD/G20 Inclusive Framework on BEPS, Executive Summaryの第2パラグラフ 今回の大統領令により、米国財務省はUTPRが条約違反かどうかについての見解を明確にすることになる。仮に租税条約違反であると結論が示されれば、米国の主張には法律的な根拠があるということになる。2021年10月の国際課税合意を根拠に国内法を導入した国々のためにも、OECDはきちんとした解釈を示すべきであろう。 ベルギーは2023年12月にEU指令に基づく国内法を制定し、2025年以降に開始する事業年度に適用されるUTPRを導入したが、米国自由商工会議所はこれがベルギー憲法などに違反しているとして2024年に訴訟を提起している。米国自由商工会議所は、UTPRは「設計と実施の両面で根本的な欠陥があり、司法による精査が必要だ」として支持を表明している。 米国がとり得る「保護的な措置」とは それでは、米国財務省が提案する選択肢は何があるか。情報が限られた現時点で整理することは困難だ。しかし、この点についても簡単に触れておく必要があるだろう。 次の大きな動きは3月末 大統領令は、財務長官に60日以内の報告を求めている。どのような措置が対象になるかについては、デジタルサービス税とUTPRが対象になることは確実だ。財務長官がどのような「保護的な措置」を提案するのかについては、現時点では不明だ。 大統領令がターゲットにしているのは、EUの措置であることは間違いない。米国の専門誌の報道(※6)によれば、ホークストラEU税制委員は、第2の柱についての方針を変更することはないが、米国企業のための恒久的なセーフハーバーを設けることにはオープンな姿勢で臨む、と表明したそうだ。 (※6) 「EU Tax Commissioner Vows to Keep an Open Mind on Pillar 2」Tax Notes(2025.2.7) 現在、米国を念頭に、究極の親会社所在国の法定税率が20%であればUTPRを適用しない規定を2026年まで適用することにしているが、これを恒久的なものにする案などが候補としてあるようだ。切迫感は理解する。しかし、第2の柱のポイントは、実効税負担率によることと、15%の負担を求めることであったはずだ。これら2つの原則を恒久的に放棄してまでUTPRに固執する意味は、理屈の上ではもはや失われているということにならないか。 各国は2021年10月の国際合意に従い第2の柱について国内法を整備しているが、世界第1・第2の多国籍企業大国である米国と中国が第2の柱のための国内法改正に参加しないことが明らかになった(参加しないどころか米国は対抗措置をとることを誓っている)枠組みを「国際合意(the Global Tax Deal)」と呼んでよいかどうかは疑問がある。 それでは、米国は国際課税制度改革についての議論のテーブル(2本の柱による解決策)に戻る可能性はあるだろうか。 報道によれば、OECDの2本柱税制交渉への関与を継続するかどうかについて問われた米国財務省はコメントに応じていない。しかし、1月16日、財務長官候補のスコット・ベッセント氏は、米国企業の課税は主権問題であり、その権限は議会のみが有しているため、第2の柱を導入する国は「重大な過ちを犯すことになるだろう」と述べている。米国が第2の柱についての議論のテーブルに戻る望みは薄いと考えたほうが現実的といえそうだ。 おわりに まとめよう。今回の大統領令は、欧州のデジタルサービス税及びEUによるUTPRが差別的であり、米国の主権を犯していることについての米国における超党派の異議申し立てと見てよい。こうした米・欧紛争の種を生んだ背景としては、2021年10月のOECD国際合意では「common approach」として、制度の採用を各国の任意(いわばソフトロー)として導入した15%のグローバルミニマム課税を、域内軽課税国対策のため、EUは2022年12月の指令案で加盟国に導入を強制したためであることを指摘できる。 しかも、その後の事情(米国の反発など)に対応するために現在の指令案を変更したくても、加盟国の全会一致が必要というEU固有の事情が影響し、身動きがとれなくなっている。 2021年10月の2つの柱による解決策は、100年に1度の国際課税の改革と謳われた。国際課税原則は、立場の異なる関係者の数も多く、長期間にわたる安定が必要だ。米国そして中国を欠いた合意が真に「グローバルな合意」といえないことは明らかである。2つの柱による解決策に対する米国の反発の強さを踏まえると、現在が国際課税を検討するのに適した時期であるかどうか、十分考えてみる必要があるだろう。 (了)
〈適切な判断を導くための〉 消費税実務Q&A 【第6回】 「自社ポイントを他社運営の共通ポイントへ交換した場合の取扱い」 税理士 石川 幸恵 【Q】 当社では、顧客へ付与した自社ポイントを、ポイント運営事業者が運営する共通ポイントに交換できるサービスを提供することになりました。この場合、ポイント交換に係る消費税の取扱いについて教えてください。 【A】 自社の顧客へ付与したポイントを他社が運営する共通ポイントに交換しても、顧客本人に消費税の課税関係は生じません。 一方、ポイント交換の際には、自社から共通ポイントの運営会社へ、一定の金員が支払われると考えられます。この支払いが消費税の課税対象となるかどうかは、ポイントプログラムのサービス内容や契約内容等に基づき、その「対価性」について検討、判断しなければなりません。 対価性がないと判断された裁判例がありますので、概要を見てみましょう。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 「ポイント交換に伴い授受した金員が資産の譲渡等の対価に当たるかどうか」が争われた裁判例として、大阪高等裁判所令和3年9月29日判決(TAINSコード:Z271-13609)がある。本判決では、「資産の譲渡等に当たらず消費税は不課税」と判断され、国側が敗訴したが上告等しなかったため、そのまま確定した。 以下その概要を見ていくが、本判決における判断は本判決の事例に基づくものであり、同様の取引であっても契約内容や取引の実態によって異なる判断が示される可能性があることには注意されたい。 1 ポイント交換の概要 (1) ポイント交換の関係者 ポイント交換に関わるのは次の3者である。 提携法人が付与したポイントは、会員からの申請により、ポイント運営事業者の共通ポイントへ交換することができる。会員が提携法人のポイントよりもポイント運営事業者の共通ポイントの方が魅力的だと判断すれば、ポイント運営事業者の共通ポイントに交換すると考えられる。提携法人にとっては、ポイント運営事業者の共通ポイントと交換できることで、サービスの向上・販売促進につながることが期待される。 (2) ポイント交換の流れ ポイント交換は次の流れで行われる。 2 ポイント交換における争点と裁判所の判断 (1) ポイント運営事業者と国側それぞれの主張 ポイント運営事業者と国側それぞれの主張は次のとおりである。 (2) 裁判所の判断 上記の主張に対し、裁判所の判断の要点は次のとおりである。 消費税は「国内において事業者が行った資産の譲渡等」を課税の対象としており(消法4①)、資産の譲渡等とは消費税法第2条第1項8号にあるとおり、「対価を得て」行われるものである。その「対価を得て」とは「資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に対して反対給付を受けること」をいう。 本件のポイント交換により授受される金員の額は、ポイント運営事業者が負うポイント還元額に等しくなるよう定められているという事実があるので、本件のポイント交換により生じた金員の授受は、ポイント還元の原資を提供する行為にほかならない。 国側の主張するような条件関係が存するとしても、反対給付としての性質を有さず、無償取引に該当する場合には「対価」には該当しないとの解釈を示し、この金員の支払いは消費税の不課税取引と判断した。 (3) ポイント交換に係る会計処理として考えられる仕訳 「ポイント交換に関する金員の授受が対価ではない」という考えに基づいて処理される場合の仕訳例を示すと、以下のとおりである。 ① 提携法人 (※) 勘定科目は筆者による例示である。 ② ポイント運営事業者 (※) 勘定科目は筆者による例示である。 ③ 会員 処理なし 共通ポイントサービス市場が広がる中で、昨年は老舗のポイントサービスがクレジットカード系ポイントサービスと統合されるなど、大きな変化が起こっている。消費税、法人税等の課税関係については契約や取引の実態を踏まえた個別の判断が必要となり、国税庁ホームページの情報や裁決・裁判事例だけで判断しないよう注意されたい。 (了)