事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第75回】 「賃貸不動産の承継上の留意点」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 佐藤 達夫 相談内容 私は、製造業を営むX社を経営しており、X社株式及びX社へ賃貸している不動産1棟(本社として使用)を所有しています。X社株式は昨年の12月に長男へ生前贈与を行いましたが、X社への賃貸不動産は、私がまだ所有しています。 この賃貸不動産はX社が本社ビルとして使用しているため、将来的にはX社自らが所有することが望ましいと考えています。そのため、賃貸不動産について、生前にX社へ譲渡することを考えていますが、賃貸不動産からの収益があるため、相続まで所有したいという考えもあります。 当該不動産について、生前にX社へ譲渡する場合と、相続まで所有し続け、長男が相続により承継した後に、長男からX社へ譲渡するときのそれぞれの課税上の留意事項を教えてください。 私が所有する資産・負債は、次のとおりです。 相続人は、長男になります。 《私の資産・債務》 (注1) 賃貸不動産 市場価格(時価):600,000千円 取得価額:500,000千円 帳簿価額:400,000千円 (注2) 借入金は、賃貸不動産を購入する際に銀行から借り入れたものです。 (注3) 預り敷金は、賃貸不動産をX社へ賃貸するにあたり、X社から差し入れられたものです。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 課税上の留意点 賃貸不動産について、生前に譲渡するか、相続後に譲渡するかを判断するための課税上の留意点は、次のとおりです。 (1) 賃貸不動産の相続税評価 相続時における賃貸不動産の相続税評価額は、次のとおり計算します。 (注1) 借地権割合:30%~90% (注2) 借家権割合:30% 賃貸不動産の市場価格(時価)は、主に収益性によって価格決定が行われているのに対し、相続税評価額は、路線価評価又は倍率評価をもとに借家権等を評価減して算定されます。そのため、将来の期待収益の上昇につれて市場価格(時価)が上昇するほど、相続税評価額との乖離が大きくなる傾向にあります。そのため、相続税評価額は市場価格(時価)の25%~30%程度になります。 こうした観点から、賃貸不動産を生前に譲渡した場合には、市場価格(時価)の80%程度(市場価格(時価)から譲渡所得税・住民税を控除後)が相続税の課税対象になるのに対し、相続後に譲渡した場合には、市場価格(時価)の25%~30%程度が相続税の課税対象になることから、賃貸不動産の市場価格(時価)が高い物件ほど、相続後に譲渡したほうが有利になります。 (2) 小規模宅地等の特例 相続又は遺贈により取得した賃貸不動産について、相続人が相当の対価を得て申告期限まで継続的に賃貸しているときは、土地の相続税評価額から限度面積までの一定の金額が減額されます(措法69の4)。 この場合の限度面積や減額割合は、X社の事業内容や親族の発行済株式に占める所有比率により、次のとおりになります。また、この減額を受ける場合には、相続又は遺贈により取得した賃貸不動産について、相続税の申告期限までに、遺産分割が成立していることが必要です。 この規定により、相続財産としての賃貸不動産のうち、土地については相続税評価額から一定額減額することが可能となります。 (3) 相続税の取得費加算の特例 相続又は遺贈により財産を取得し、相続税が課された者は、相続又は遺贈により取得した財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税申告書の提出期限の翌日以後3年以内(相続開始のあった日の翌日から3年10ヶ月以内)に譲渡した場合には、課された相続税額のうち、譲渡した資産に対応する部分の金額として次の算式により計算金額が、譲渡した資産の取得費に加算して譲渡所得を計算することができます(措法39)。 そのため、長男が、相続後に相続開始のあった日の翌日から3年10ヶ月以内に、X社へ賃貸不動産を譲渡した場合には、譲渡所得の計算において、課税された相続税の一定額を取得費に加算することができるため、生前に譲渡する場合に比べて、譲渡所得税・住民税が軽減されます。 [2] 事例へのあてはめ 生前に譲渡した場合と相続後に譲渡した場合との比較は、次のとおりです。 〈前提〉 《比較検証》 (注1) 譲渡所得税・住民税 〈生前に譲渡した場合〉 譲渡所得:200,000千円(売却代金600,000千円-帳簿価額400,000千円) 譲渡所得税・住民税:40,630千円(200,000千円×20.315%) 〈相続後に譲渡した場合〉 譲渡所得:198,596千円(売却代金600,000千円-帳簿価額400,000千円-相続税の取得費加算1,404千円(注2)) 譲渡所得税・住民税:40,345千円(198,596千円×20.315%) (注2) 相続税の取得費加算 17,000千円×36,000千円(※1)÷436,000千円(※2)=1,404千円 (※1) 土地180,000千円-小規模宅地等の減額144,000千円 (※2) 土地180,000千円-小規模宅地等の減額144,000千円+現預金400,000千円 (注3) 相続税のうち賃貸不動産対応分 〈生前に譲渡した場合〉 課税価格:639,370千円(売却代金600,000千円-譲渡所得税・住民税40,630千円+現預金400,000千円-借入金・預り敷金320,000千円) 基礎控除後の課税対象:603,370千円(課税価格639,370千円-基礎控除36,000千円) 相続税:259,854千円(603,370千円×55%-72,000千円) 相続税のうち賃貸不動産対応分:97,286千円(相続税259,854千円×239,370千円(※)÷課税価格639,370千円) (※) 売却代金600,000千円-譲渡所得・住民税40,630千円-借入金・預り敷金320,000千円 〈相続後に譲渡した場合〉 課税価格:116,000千円(賃貸不動産180,000千円-小規模宅地等の減額144,000千円+現預金400,000千円-借入金・預り敷金320,000千円) 基礎控除後の課税対象:80,000千円(課税価格116,000千円-基礎控除36,000千円) 相続税:17,000千円(80,000千円×30%-7,000千円) 相続税のうち賃貸不動産対応分:0千円(相続税17,000千円×0千円(※)÷課税価格116,000千円) (※) 賃貸不動産180,000千円-小規模宅地等の減額144,000千円-借入金・預り敷金320,000千円 ∴△284,000千円 ⇒ 0千円 [3] 結論 賃貸不動産については、市場価格(時価)と相続税評価額が大きく乖離しやすいため、賃貸不動産の市場価格(時価)を不動産鑑定等で把握してから、相続税評価額の算定を行うことにより、生前に譲渡するか、相続後に譲渡するかのシミュレーションが可能になります。 なお、相続開始直前に、市場価格(時価)と相続税評価額が大きく乖離する賃貸不動産を購入し、相続税を圧縮する行為については、税務調査により否認される可能性があるため留意が必要です。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第187回】 unbanked株式会社 「調査委員会調査報告書(公表版)(2026年2月27日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【unbanked株式会社調査委員会による調査の概要】 【unbanked株式会社の概要】 unbanked株式会社(以下、「unbanked」と略称する)は、1972年11月、第一商品株式会社と高津商事株式会社との新設合併により設立。設立時の社名は第一商品株式会社。2024年7月、商号をUNBANKED株式会社に変更した後、2025年7月に現商号に変更した。金地金事業を主たる事業とし、連結子会社でノンバンク事業(貸金業)を行っている。連結子会社4社、持分法適用会社1社によりグループを構成している。売上高9,489百万円、経常利益308百万円、資本金100百万円、従業員数8人。取締役5名のうち、代表取締役社長の安達哲也氏(以下、「安達氏」と略称する)及び取締役管理本部長の七條利明氏(以下、「七條氏」と略称する)の2名が業務執行を行い、他の3名は社外取締役監査等委員である(いずれも2025年3月期有価証券報告書による)。本店所在地は東京都渋谷区。東京証券取引所スタンダード市場上場。会計監査人は、2025年3月期決算までフロンティア監査法人、2025年6月27日付で、監査法人アリアが就任している。 【unbankedが調査報告書公表に至るまでの経緯】 2025年7月25日 unbankedの筆頭株主が、CB戦略1号投資事業有限責任組合から、Akatsuki Capital Works株式会社(以下、「Akatsuki」と略称する)に変更。Akatsukiは議決権の17.94%を保有。 7月29日 Akatsukiから派遣されたY氏から、安達氏に対して、新たに刻印のないスクラップ品の金地金取引を行いたいと提案 7月31日 第1回のスクラップ金地金取引を開始 11月19・20日 第26回、第27回のスクラップ金地金取引を実施 12月1日 第26回取引に係る販売代金が回収期日までに未入金となる 12月2日 第27回取引に係る販売代金が回収期日までに未入金となる 12月15日 売上債権1,340百万円に対して、貸倒引当金の計上見込を公表 2026年1月30日 調査委員会の設置を公表 2月4日 回収遅延取引の経緯と今後の対応に関するお知らせ 2月24日 Akatsukiを債務者とする仮差押決定 2月27日 Akatsuki等に対する訴訟の提起 3月2日 調査委員会による調査結果を公表 【調査委員会による調査結果報告書の概要】 1 調査委員会設置の経緯 unbankedは、2025年11月19日及び同月20日に行った同一の販売先との間の2件の金地金取引について、代金の支払日である同年12月1日及び同月2日を過ぎても当該販売先から支払がなされなかったことから、同月15日、計13億4,000万円の売上債権に対する貸倒引当金の計上見込みに関する開示を行った。その後も当該販売先から上記の金地金取引に係る販売代金の支払がなされなかったことから、unbankedは、2025年12月30日、上記の売上債権の全額について貸倒引当金を計上することを決定した。 2026年1月になっても上記の販売先から販売代金の支払がなされることはなかったため、unbankedの監査等委員会は、同月28日、独立した立場を有する外部の弁護士に対し、本件の事実関係等の調査等を行う目的で、外部弁護士による調査委員会を設置して調査を委嘱することを決定し、同月30日、unbankedの取締役会は、同様の決議を行った。 2 調査委員会による調査結果の概要 調査委員会による調査結果の概要は次のとおりである。 (1) スクラップ品の金地金取引の開始経緯 unbankedは、株式譲渡が行われる前から、Akatsukiとの間で業務委託契約を締結して人員(X氏、Y氏など)を受け入れていたところ、Akatsukiがunbankedの株式を取得してから7日後の2025年7月29日、Y氏は、安達氏に対し、unbankedにおいて新たにスクラップ品の金地金取引を行いたいとの提案を行った。安達氏は、unbankedの金地金取引の実務に深く関与していなかったことから、Y氏に対し、七條氏に相談するよう伝え、同日、Y氏は、七條氏及びunbankedにおける金地金取引の実務を担当するA氏に対して、同様の提案を行った。 Y氏の説明の概要は次のとおりである。 七條氏及びA氏は、unbankedにおいてそれまでスクラップ品の金地金取引を行ったことがなかったことに加え、スクラップ品の金地金は出所についての疑義(例えば、盗品や密輸品であるなど)が払しょくできないことから、Y氏の上記提案に対し懸念を示した。 これに対し、Y氏は、オーナー案件なのでどうしても行いたい、オーナーが保証するなどと述べ、自身が提案するスクラップ品の金地金取引を行うことを強く求めた。 その後、Y氏に対する質問への回答などから、七條氏としては、循環取引ではないことの確認が取れたことや、筆頭株主であるAkatsukiが取引の安全性を保証していること、何より、筆頭株主であるAkatsukiが出資先であるunbankedに対しあえて不利益を与えるような取引を提案しないだろうと考えたことから、当時unbanked単体の業績が赤字であったことも踏まえ、本件取引によりunbankedの毎月の販売費及び一般管理費(約2,000万円)を賄える程度の利益を確保できる規模感で本件取引を行うことを考えて、Y氏の提案に応じることにした。 (2) 回収遅延に至った経緯 unbankedにおける26回目の取引に係る販売代金の支払期限は2025年12月1日であったところ、同日の前営業日になってもc社から予約振込を行ったことを証する画面のスクリーンショットが送られておらず、また、同社の担当者に電話をしても応答がなかったため、七條氏は、Y氏に対し、別の手段で連絡を取ることができないか尋ねたところ、Y氏は、自身も電話番号以外の連絡先は把握していないと返答した。 七條氏は、c社の状況を確認するため、同日午後、同社の本店所在地に赴いたが、そこはシェアオフィスであり、当該シェアオフィスの受付で確認したところ、同社との間で利用契約は締結されていないことが判明した。 支払期日である12月1日午後になっても入金はなかったが、午後3時33分頃、c社担当者から七條氏に電話があり、c社は転売先複数社から入金がないためunbankedへの支払が行えない状況であるとの連絡があった。これに対し、七條氏は、c社に対し、状況が分かり次第、逐一報告するとともに、c社の代表者の連絡先、経理担当者の連絡先及び転売先の会社名・住所・取引書類を至急共有するよう要求した。 翌2日午前9時59分、c社経理担当者からの転売先の情報として、同社がg社に発行した2025年11月19日付の請求書及び同月20日付の請求書のPDFデータが送付された。なお、それぞれの請求書に記載されたスクラップ品の重量は、unbankedがc社に販売した重量と一致していた。 翌3日昼頃、七條氏が、c社代表取締役のマイナンバーカードに住所として記載されていたマンションを訪問し、インターフォンで呼び出したが、応答はなかった。マンションの受付で確認したところ、c社代表取締役の名前の契約者は存在しない、住所として記載されていた当該マンションの部屋には2025年2月から別の入居者が居住しているとの説明を受けた。 同日午後8時3分、c社経理担当者から、七條氏に対し、メールで、同月19日には全額支払うことができる見通しである、部分的にでも支払ができる分は都度支払う、という連絡があった。 同月5日午後1時30分頃、七條氏は、c社からunbankedの口座に871万1,371円が入金されたことを確認し、c社経理担当者に対し、メールで、入金確認の連絡をするとともに、債務確認書の提出及び回答を要請した各事項に対する回答を要請した。 同月11日午後8時37分、七條氏からY氏に対し、「c社の経理担当者と本日ついに連絡がとれなくなりました。オーナーが責任をもって支払わなければ、回収不能です。どう解決するつもりなのか、状況を教えてください。」と連絡した。 翌12日午後2時40分頃、七條氏は、c社からunbankedの口座に1,000万円が入金されたことを確認した。 同月19日午前9時55分、七條氏は、c社経理担当者に対し、メールで、残金である13億4,000万円の入金が確認できないがいつまでに全額支払われるのかを確認し、並行して、電話もしたが、応答しなかった。その後、同日午後3時34分、c社経理担当者から、「お支払いが遅れており大変申し訳ございません。こちらへの着金予定が遅れており取引先へ問い合わせをしている次第です。予定わかりましたらご連絡させて頂きます。」との返信があった。 これ以降、c社経理担当者、代表取締役、他の担当者とは連絡が取れていない。 (3) 調査委員会による評価 調査委員会は、本件取引は、unbankedの筆頭株主となったAkatsukiの「オーナー」なる人物が、Y氏を通じてunbankedに提案し、実行させたものであり、Akatsuki側の主導の下で行われたものであって、本件取引の取引日時、取引量、代金の支払期限といった具体的な取引条件については、Akatsuki側が決定し、それがY氏を通じて七條氏らに伝えられており、22回目の取引で取引量の増加が見送られた時を除けば、Y氏から伝えられたとおりの内容で本件取引が実行されており、本件取引により生じるunbankedの利益額(買取価格と販売価格の差額)の設定についても、unbankedの要望が受け入れられることはなく、Akatsukiのオーナーの意向を踏まえて決定されていたことが認められると事実認定を行った。 そのうえで、調査委員会は、Y氏が、Akatsukiのオーナーの伝書鳩としての役割しか果たしていないと述べており、Akatsukiのオーナーからの指示を受けて動いていたことは事実であると考えられるものの、Y氏は、七條氏らの確認依頼や質問に対して数分以内に回答している場面が何度もあり、c社の取引担当者と直接連絡を取っている事実も認められることから、Y氏に対し、全く裁量が与えられていなかったとまでは認めがたく、Y氏自身も、本件取引の全体像やAkatsukiとc社等の取引先との関係性を一定程度理解した上で、本件取引を実行するために重要な役割を果たしていたというべきであり、伝書鳩としての役割しか果たしていないと評価されるものではないと考えるとしている。そして、こうしたY氏とAkatsukiとの関係性からすれば、Y氏は、Akatsukiのオーナー、株主、実質的支配者に関する情報を(少なくとも部分的には)知っていると考えられるにもかかわらず、調査委員会のヒアリングにおいて、オーナー等の氏名その他の具体的な情報を回答することはなかったとまとめている。 3 原因分析(調査報告書31頁以下) 調査委員会は、原因分析として、次の4項目を挙げている。 (1) 新株主に関する事実確認等を行わないまま本件取引を実施したこと 調査委員会は、本件取引はAkatsukiの主導の下で行われたものであるとしたうえで、株主の意向により行う取引であるとしても、その取引自体に経済合理性が認められること、つまり、取引により得られるリターンと取引におけるリスクが見合っていることも含まれると述べた。そのうえで、本件取引における主なリスクとは、スクラップ品の金地金の出所に係る法的リスク、循環取引やマネー・ロンダリングの該当性、販売先に対する債権回収の可能性等が挙げられるところ、これらの点についてリスクが低いとunbankedが判断したのは、自社の株主であるAkatsukiへの信頼が前提となっていた。安達氏及び七條氏が、「筆頭株主であるAkatsukiが出資先であるunbankedに対しあえて不利益を与えるような取引を提案しないだろう」と考えた点にあると認定した。 調査委員会は、安達氏及び七條氏は、Akatsukiが資本金30万円の設立後間もない会社であること、unbanked株式の取得にあたり多額の借入を行っていることなど、Akatsukiには代表取締役のほかに実質的支配者が存在する可能性が高いことを認識していた。にもかかわらず、Akatsukiの実質的支配者が誰であるかについて深く追及しないまま、株式譲渡が行われる前から、Akatsukiとの間で業務委託契約を締結して人員を受け入れたうえ、株式譲渡から10日も経たないうちにAkatsukiから派遣されたY氏の提案を受け入れて本件取引を行っている。その際にも、安達氏及び七條氏が、「オーナーが保証する」というY氏の説明を鵜呑みにしたことについても、オーナーの実態が不明であるにもかかわらず説明を鵜呑みにした点は、unbankedの経営責任を担う取締役の対応として不適切であったと言わざるを得ないうえ、「筆頭株主が出資先に対しあえて不利益を与えるような取引を提案しないだろう」と安易に考えたことは、取締役として慎重さを欠いていたと評価せざるを得ないと分析している。 そして、調査委員会は、Akatsukiの実態が何ら明らかになっていないまま、筆頭株主というだけでAkatsukiを信用してY氏の提案に応じたことが、取引先の実態の確認不足に繋がったのであり、まさに、本件取引において未収金が発生した根本の原因であると考えられるとまとめている。 (2) 取引開始にあたり取引先の実態に関する事前確認が不十分であったこと 次に、調査委員会は、本件取引のリスクや、これまで取り扱ったことがないスクラップ品を対象とすること、5営業日とはいえ数億円を超える多額の売掛債権が生じることといった本件取引の内容に鑑みれば、本件取引の販売先について信用調査の必要性が高いことは明らかであったと評価した。しかし、unbankedが、取引開始にあたって販売先であるc社の実態や与信情報等について十分な確認を行わなかったことが、本件取引において未収金が発生した原因の一つであると考えられるとした。特に、本件取引に関与した役職員の全員が与信管理規程という重要な規程の存在を失念していたことは、あまりにも稚拙であったと言わざるを得ないと断じている。 (3) 取引開始後、c社の与信について懸念を持つ契機となる事象が生じていたにもかかわらず、信用調査等を行わないまま本件取引を継続したこと 調査委員会は、本件取引の開始当初から、c社からの販売代金の支払が円滑に行われないことが何度もあったが、Y氏を通じて得たc社の回答は、合理的・説得的な回答とは思われないにもかかわらず、七條氏らは、支払が遅れた理由をそれ以上追及することはなかったと認定したうえで、七條氏らは、少なくとも、与信懸念事象が生じた段階で、c社の信用調査を実施する、掛け取引を止める、取引量を減らす、取引自体を停止する、といった対応について具体的に検討・実施すべきであったと考えられ、そのような対応を全く行っていなかったことが、本件取引において未収金が発生した原因の一つであると考えられるという判断を示している。 (4) 取締役会に十分な情報が提供されていないこと 調査委員会は、unbankedの取締役会には、本件取引に関する情報が十分に共有されていたとはいえないが、unbankedの機関設計がモニタリングモデルに親和的な監査等委員会設置会社であることも踏まえれば、事業上の取引の一つにすぎない本件取引に関する細かな報告が取締役会において十分になされていなかったとしても、そのこと自体は直ちに不適切であるとはいえないと考えられるとの見解を示している。 しかし、実態として、unbankedの取締役会では、毎月、当月の金地金の売上高及び販売量や毎月の損益計算書及び貸借対照表の状況など、事業上の細かな情報についても報告がなされていたことからすれば、グループ会社から貸付金の繰上返済を受けてまで掛け取引である本件取引を行っていたことや、本件取引における販売先からの入金が円滑に行われない事象が何度も生じていたことについても、明示的に報告することが望ましかったものという考えを示し、仮に、unbankedの取締役会において本件取引に関する情報が十分に報告されていれば、監査等委員の指摘等により、本件取引の見直し等について議論がなされ、未収金の発生を防げた可能性はあるのではないかと指摘した。 さらに、監査等委員会について、調査委員会は、スクラップ品という違いがあるとはいえ、本件取引が金地金事業の中の一つの取引という位置づけであり、全くの新規事業とは異なること、また、販売先との間で掛け取引となることの説明を明示的に受けていなかったことに鑑みると、監査等委員から本件取引の詳細について積極的に確認しなかったこと自体は、不合理とまではいえないとしながらも、Akatsukiについて実質的支配者などの詳細な説明が安達氏及び七條氏からなかった点については、監査等委員として、疑問を呈するなど、積極的に確認するなどの行動があってしかるべきであったとしている。 4 再発防止策の提言(調査報告書34頁以下) 調査委員会は、再発防止策の提言として、次の3項目を挙げている。 (1) 株主とのコミュニケーションの実質化 調査委員会は、本件取引において未収金が発生した根本の原因は、その実態が何ら明らかになっていないまま筆頭株主というだけでAkatsukiを信用したことにあると考えられるとしたうえで、unbankedとしては、自社の株主、特に、主要株主や相当程度の株式を新たに取得した株主について、株主の実質的支配者の確認に努めることはもちろん、株主がどのような目的で自社の株式を保有しているのか、株主からの提案が自社の企業価値を真に高めるものであるのか、しっかりと対話を行い、確認すべきであると提言を行った。そのうえで、unbankedとしては、まずもって、各経営陣が株主との対話の重要性を意識する必要があるといえ、その上で、株主と実質的なコミュニケーションを行うための仕組みや体制を策定することが望ましいとまとめている。 (2) 与信管理の徹底 調査委員会は、unbankedの役職員は与信管理規程の存在そのものを失念しており、まずは、社内規程の存在を再度周知し、各役職員が、与信管理の重要性を認識したうえで、与信管理規程に定められたルールを理解し、実践する必要があるとしたうえで、金地金取引のように1回の取引金額が多額となる取引については、売掛先の与信管理が特に重要となる。unbankedにおける金地金取引の実態を踏まえた上で、実効的かつ継続的に運用可能な与信ルールを策定することが望ましいと提言している。 (3) 取締役会における議論の実質化 調査委員会は、unbankedの取締役会では、新たに筆頭株主となったAkatsukiの具体的な情報について、社内取締役から特に報告もなく、監査等委員からの指摘や質問もなかったこと、七條氏から本件取引について実態と反する報告がなされた際も、他の取締役や陪席者から訂正がなされることもなかったことが認められたとしたうえで、取締役会としては、月次の財務情報の確認などの定例的な報告事項を処理するだけでなく、監査等委員を含む各取締役が、中長期的な企業価値向上に向けた経営戦略や自社が有するリスクへの対処のために取締役会として議論すべき事項が何であるかを認識し、そのような議論が実質的になされているかどうか、取締役会の実効性評価等の過程で、確認・検討することを提言している。 【調査報告書の特徴】 大手金地金取扱業者による刻印のない金地金を「スクラップ品」と呼ぶことはもちろん、スクラップ品の金地金が流通していること自体、筆者は、unbankedが公表した調査報告書を読んで初めて知ったわけだが、売買契約書だけで資金が移動する本件取引は、取引金額が回を追って多額になっていくこと、支払いが常に先行し、売掛金の回収は滞りがちであったこと、販売先による支払遅延の理由が合理的・説得的でなかったことなど、架空取引であることを推認させる事態が頻出しており、架空循環取引であると評価していいだろう。 筆頭株主により斡旋された取引により多額の未収金を生じたunbankedは、その後、筆頭株主らを被告とする訴訟を提起するが、その機先を制するかのように、Akatsukiは臨時株主総会の開催を請求し、取締役の解任を求めるという事態に陥っている。 なお、会社の概要でも記したとおり、unbankedの取締役会は5名で構成されており、うち3名は社外取締役監査等委員であるが、常勤の監査等委員は置かれていない。 1 Akatsukiに対する訴訟の提起 2026年2月4日にunbankedは、「(開示事項の経過)回収遅延取引の経緯と今後の対応に関するお知らせ」をリリースして、販売先である調査報告書上の「c社」は、株式会社アニススタイル(以下、「アニススタイル」と略称する)であったことを公表した。 次いで、同月24日にunbankedは、「Akatsuki Capital Works株式会社を債務者とする仮差押決定に関するお知らせ」をリリースして、東京地方裁判所に申し立てていたAkatsukiに対する仮差押えが、2月13日付で決定したことを公表した。 さらに、同月27日には、unbankedは、「Akatsuki Capital Works株式会社等に対する訴訟の提起に関するお知らせ」をリリースして、Akatsuki、アニススタイルを含む法人6社と個人9名(のちに8名に修正)に対して、総額1,417百万円余りの損害賠償請求訴訟を提起したことを公表した。請求金額については、次のように説明している。 2 Akatsukiによる臨時株主総会招集 unbankedが調査委員会の設置を公表した同日の1月30日、「株主による臨時株主総会の招集請求に関するお知らせ」もリリースされて、Akatsukiから1月29日付で、臨時株主総会招集の請求があったことを公表した。株主総会の目的事項としては、現在の取締役5名全員の解任と、新たに2名の取締役及び3名の監査等委員である取締役の選任となっている。 unbankedは、5月13日、「(開示事項の経過)臨時株主総会の開催日時及び場所、付議議案並びに株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」をリリースして、臨時株主総会を6月5日に開催すること、会社提案による付議議案として、取締役7名選任、監査等委員である取締役3名選任の件を公表した。 その後、5月29日において、unbankedは、「(開示事項の経過)株主による臨時株主総会の招集請求の撤回に関するお知らせ」をリリースして、Akatsukiから、臨時株主総会の招集請求及び株主提案を撤回する旨の通知書を受け取ったことを公表した。Akatsukiによる撤回の理由は次のとおりである。 撤回の通知書を受けて、unbankedは、株主提案の議案をすべて取り下げたうえで、会社提案による、取締役7名選任(6月3日付で6名に修正)、監査等委員である取締役3名選任の件のみを取り扱うこととなった。 予定どおり、6月5日に開催された臨時株主総会では、会社提案の第1号議案と第2号議案が承認可決され、unbankedは6名の取締役(うち2名が社外取締役)と監査等委員である社外取締役5名で構成されることとなった。なお、引き続き、常勤の監査等委員は置かれていない。 3 再発防止策 2026年3月6日、unbankedは、「再発防止策の策定に関するお知らせ」をリリースして、調査委員会の提言を踏まえた再発防止策を公表した。その項目は次のとおりである。 なお、unbankedは、再発防止策の説明の前文で、次のように今後の方針を述べており、与信管理上は、この方針が遵守されることがベストだと評価できる。 4 東京証券取引所による改善報告書及び上場契約違約金の徴求 東京証券取引所は、2026年5月25日、「特別注意銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求」をリリースして、unbankedに対して、株式を5月26日付で特別注意銘柄に指定するとともに、上場違約金1,440万円を徴求することを公表した。その理由として、企業行動規範の遵守すべき事項(業務の適正を確保するために必要な体制整備)の規定に違反し、当取引所の市場に対する株主及び投資者の信頼を毀損したと認められるため(有価証券上場規程第509条第1項第2号)として、詳細を次のように説明している。 旧社名だった2020年7月11日付での特設注意市場銘柄指定に続き2回目の措置であり、特別注意銘柄指定の解除には高いハードルが課せられることになることが予想される。 (了)