国際課税レポート 【第7回】 「国連『国際租税協力枠組条約』とは何か」 税理士 岡 直樹 (公財)東京財団政策研究所主任研究員 2024年8月、国連・国際租税協力枠組条約(以下「枠組条約」)起草委員会は、枠組条約の骨子(Terms of Reference)案を賛成110、反対8で採択した。ナイジェリアをはじめとするアフリカ諸国のイニシアチブで議論されてきたものだ。日本は、反対票を投じている。(※1)。 (※1) 反対はオーストラリア、カナダ、イスラエル、日本、ニュージーランド、韓国、英国、米国の8ヶ国。賛成した主な国には中国、ブラジル、インド、インドネシア、メキシコ、マレーシア、南アフリカ、ロシア等が含まれる。なお、棄権した主な国は、フランス、ドイツ、イタリア、シンガポール、アラブ首長国連邦など。 今後、毎年3回以上政府間交渉を行い、枠組条約と、規範形成の対象となる具体的な事項についての2つの議定書を策定し、2027年の国連総会に提出することが予定されている。 本稿では、今後、2024年12月に開催される第79回国連総会で採択される見込みとなった「枠組条約」及び「議定書」の骨子案について簡単に紹介するとともに、OECDとは別にこうした議論が登場した背景、そして国際的な租税ポリシー形成に与える影響について考えてみたい。 枠組条約の概要 枠組条約の目的、原則、そして目指すもの(コミットメント)についてのポイントは以下のようなものである。 (出所) Draft Terms of Reference for a United Nations Framework Convention on International Tax Cooperation(Report A/79/333)12~13頁より抜粋して筆者作成 枠組条約の対象となる個別具体的な項目(議定書) また、規範形成の個別具体的な項目について、議定書が作成されることが予定されている。加盟国は、議定書の締約国となるかについて、議定書ごとに選択できることが予定されている。さしあたり、次の項目を盛り込むことが提案されている。 (出所) Draft Terms of Reference for a United Nations Framework Convention on International Tax Cooperation(Report A/79/333)14頁より抜粋して筆者作成 枠組条約が登場したのはなぜか デジタル経済における課税権の配分を巡る議論は、2016年に日本で第1回会合が開催されたOECD/G20・BEPS包摂的枠組(以下「IF」)で行われてきた。枠組条約は、国際的な課税権の配分について、これとは別のフォーラムを国連に創設するものとなる。 それでは、なぜ枠組条約の議論が登場したのか。背景には、OECD(IF)におけるBEPSプロジェクトの議論を巡る途上国のフラストレーションと第1の柱(Amount A多国間条約)を巡るOECDの議論の停滞があると思われる。 2012年にOECD租税委員会で始まったBEPSプロジェクトの議論の歴史は、2つの期間(フェーズ)に分けて振り返ることができる。第一のフェーズは、多国籍企業が経済実態と既存の課税ルールの間に生じたズレを利用して利益移転・課税逃れを行う問題(Base Erosion and Profit Shifting)への対応であり、2015年に最終報告書をとりまとめている。 そして、とりまとめられたBEPSパッケージをOECDやG20以外の国においても時機を逸することなく実施するため、OECDは2016年1月に「各国が対等の立場で参加する枠組み」という触れ込みでIFを創設した。IFのメンバーとなるためには、各国はBEPS最終報告書の内容(ミニマム・スタンダード)を受け入れること等が必要とされている。 BEPSの議論の第二のフェーズは、2018年から本格的に議論が始まった、デジタル経済に即した課税権の分配を巡る議論である。これは、15あるBEPSプロジェクトの行動計画のうち行動計画1とされていたもので、BEPSプロジェクトを象徴するテーマであるが、GAFAといったデジタル巨大企業を多数抱える米国と、多くのユーザー・市場を持つ欧州の間の意見の対立が大きく、第一のフェーズではコンセンサスを得るまでには至らなかったものである。 しかし、米国で法人税率の引上げ等の政策を掲げるバイデン政権が2021年1月に誕生し、税率引下げ競争に歯止めをかけるため(外国の税率が低いままだと、米国企業の課税ベースが軽課税国に流出するおそれがある)OECDでのコンセンサスの達成に方針を転換したことなどから、困難な議論と妥協を経て「2本柱による解決」として2021年10月の「最終合意」にこぎつけたものである。 OECD(IF)プロセスの問題 しかし、IF最終合意の内容を実際の条約や各国国内法に落とし込む作業が進むにつれ、「2本柱による解決」の内容が複雑で、途上国を中心に多くの国にとって実施困難なため、実質的な普遍性を欠いている問題が露呈することにもなった。 国連事務総長が2023年8月に公表した「国連事務総長報告書」は、OECD(IF)プロセスには実質面の問題、手続面の問題があるとして次を指摘している。 (出所) 本田光宏「国際課税システムにおけるグローバルサウスの存在感の高まり」「具体化する国際課税改革の展望・提言」東京財団政策研究所研究プログラム「デジタル経済と国際課税」(2024)及び国連事務総長報告書(2023)より筆者作成 OECD主要国の団結と影響力の低下 枠組条約が登場した背景として、より深刻と思われるのは、米国、EU各国等のOECD主要国(コアメンバー)の団結力・統一的な規範形成力の弱体化があると思われる。Amount Aのための多国間条約締結のための議論は、下記「年表」に示すように、合意時期について目途が立っていない(しかも、OECDで合意しても米国議会が承認し、条約が発効する見込みがない)。 OECD主要国が、自国の主張に過度に固執しはじめ、あるいは国内で議会を説得できず、議論を膠着させていることが、開発途上国やグローバルサウスと言われる国々の存在感を高めている面があると思われる。 〈OECDの議論と国連の議論の経緯(年表)〉 (出所) 筆者作成 国連租税委員会との関係 経済社会理事会(ECOSOC)の委員会の1つである国連租税委員会は、個人の資格で参加する25人の専門家で構成され、国連モデル租税条約(2021)、国連移転価格マニュアル(2021)、環境税、炭素税ハンドブック(2021)等を作成している。枠組条約はこれとは別個の動きであり、租税委員会の活動は今後も従前と同じように行われ、その成果は国連モデル租税条約のアップデート等に反映されるものと推察される。 国連モデル租税条約は、OECDモデル租税条約と比べ、源泉地国の課税権を広く認める内容になっており、従前から第12条A「テクニカル・サービス・フィー」(デジタルサービス等技術的役務等について支払地国での課税を認める規定)があったが、2021年のアップデートでは第12条B「自動的デジタルサービス所得」(オンライン広告等、インターネットを通じて提供されるサービスに源泉地国(市場国)での課税を認める規定)が新たに追加されるなど、国連租税委員会としての経済のデジタル化への対応についての措置が盛り込まれている。 おわりに 2024年7月の国際租税協力に関するG20閣僚リオデジャネイロ宣言は、枠組条約の骨子(ToR)作成に向けた国連の作業に言及し、 を指摘している(パラ5,14)。前述したように、OECD・IFにおけるAmount A多国間条約締結に向けた合意形成が停滞している現状を謙虚に受け止めれば、耳を傾けるべき指摘であろう。 OECDのBEPS包摂的枠組みが140もの国の参加を得ていながら、国連における枠組条約新設提案の登場を許した背景を、単にグローバルサウス(開発途上国)とOECD(先進国)の利害の相克であり、これまでにもよくあった問題として片づけるのであれば問題の本質を見誤るだろう。 1番目の問題としては、国際課税のルール作りにリーダーシップを発揮してきたOECD主要国間で利害対立を自律的に解決できていない点があるように思う。OECDの議論に不満を持つ米国上院議員(共和党)の一部は、OECDの予算の停止を求める歳出委員会委員長(民主党)宛の書簡を連名で発出したほどであり(※2)、米国議会のOECD、そして米財務省に対する不信には根深いものがあるようにも見える。 (※2) 2024年7月24日、Mike Crapo(上院財政委員会共和党トップ)他。 2番目の問題としては、OECD・IFが生み出した数百~千ページにも及ぶ膨大なガイダンスへの異議申立てがありそうだ。OECDは、簡素なルールを作ることに失敗しており、国連事務総長レポートが指摘するIFプロセスの実質面の問題(OECDは専門性の高いガイダンスを大量に作成するが、ニーズや優先度に対応しないものが多く、実施することができないことが多い)という指摘に共感する国は多そうだ。これは、リソースが十分でないといわれる開発途上国に限られないだろう。 国連の枠組条約が具体的に動き出すのは2027年以降であり、本当に条約が成立するのか、あるいは実際にどのように運用されるのか等は現時点で見通すことはできない。 言うまでもないが、資源や市場に乏しいわが国の多国籍企業にとって、安定してグローバルに活躍できる環境が必要であり、国際協調主義は日本にとって重要である。国連の枠組条約についても、多数の国が賛成しており、議論していく流れができてしまった以上、議論の中に入って発言権を確保していく工夫が必要であろう。 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第47回】 「〔第5表〕直前期末の直前に土地の売買契約を締結した場合の 買主法人における資産の部及び負債の部の計上金額の留意点」 税理士 柴田 健次 Q 経営者甲(令和6年8月1日相続開始)が100%所有している甲株式会社の株式を長男が相続していますが、甲株式会社の資産の中に駐車場として賃貸しているA土地があります。A土地は令和6年3月1日に売買契約を締結し、同日に10,000千円の手付金を支払い、令和6年6月1日に引渡しを行っています。 甲株式会社は3月決算で直前期末は令和6年3月31日となり、売買契約の内容及び時系列の詳細は下記の通りです。 この場合に、甲の相続税の甲株式会社の株式価額の算定上、第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」のA土地の購入に関連する資産の部及び負債の部に計上する相続税評価額及び帳簿価額はそれぞれいくらになりますか。 なお、純資産価額の計算においては、直前期末方式(直前期末の資産及び負債の帳簿価額に基づき評価する方式)により計算するものとします。 A土地の令和6年における路線価に基づく相続税評価額は70,000千円です。 A 第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部及び負債の部に計上する相続税評価額及び帳簿価額は、下記の通りが相当かと思料されます。 ◆ ◆ ◆ ① 仮決算方式と直前期末方式 第5表の純資産価額の計算は、原則として仮決算方式で評価するべきこととされていますが、評価会社が課税時期において仮決算を行っていないため、課税時期における資産及び負債の金額が明確でない場合において、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がなく評価額の計算に影響が少ないと認められるときは、直前期末方式により計算することができるものとされています。 したがって、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がある場合については、直前期末方式により計算ができません。 仮決算方式と直前期末方式を比較すると下記の通りとなります。 (※) 帳簿価額は、会計上の帳簿価額ではなく税務上の帳簿価額となります。 ② 売買契約締結後に課税時期が到来した場合の買主側における相続財産の種類と相続税評価 売買契約締結後、引渡しの前に買主に相続が発生した場合には、相続又は遺贈により取得した財産は、原則として土地等又は建物等の引渡請求権等となり、被相続人から承継した債務は、相続開始時における残代金支払債務となります。 最高裁判決と国税庁情報でその取扱いの内容が明確にされています。 (1) 最高裁判決における取扱い 昭和61年12月5日の最高裁判決(TAINSコード:Z154-5841)は、被相続人が農地の買受契約を締結し、農地法3条による許可申請に対する許可通知が被相続人の死亡後に到達した場合、相続に係る相続税の課税財産は農地であるのか債権であるのか、その評価はどうするかが争われた事例です。 納税者は、相続財産は農地であり、財産評価基本通達に定める農地の評価方法によるべきであると主張しましたが、最高裁は次のとおり判示し、納税者の請求を棄却しました。 なお、本事例においては、相続後に支払った残代金及び仲介手数料は債務として認められています。 本連載【第45回】で解説した最高裁判決(売買契約中に売主に相続が発生した場合)と上記の最高裁判決(売買契約中に買主に相続が発生した場合)は、同日に行われており、売主側と買主側における財産の種類及び相続税評価の取扱いをまとめると下記の通りとなります。 (2) 国税庁情報における取扱い 上記(1)の最高裁判決を踏まえて、国税庁の取扱いにおいても、土地等又は建物等の売買契約締結後、売主から買主への引渡しの日(農地法所定の許可又は届出を要する農地等である場合には、その許可の日又はその届出の効力の生じた日後にその土地等の所有権が売主から買主へ移転したと認められる場合を除き、その許可の日又は届出の効力の生じた日)前に買主に相続が開始した場合には、相続又は遺贈により取得した財産は、その売買契約に係る土地等又は建物等の引渡請求権等とし、被相続人から承継した債務は、相続開始時における残代金支払債務とされました。 なお、土地等又は建物等の引渡請求権等の価額は、原則としてその売買契約に基づく土地等又は建物等の取得価額の金額とされていますが、その売買契約の日から相続開始の日までの期間が通常の売買の例に比較して長期間であるなどその取得価額の全額がその相続開始の日におけるその土地等又は建物等の引渡請求権等の価額として適当ではない場合には、別途個別に評価した価額によります。 また、その土地等又は建物等を相続財産とする申告があったときは、それを認めるものとされていますが、課税処分が訴訟事件となり、その審理の段階で引渡し前の相続財産が「土地等」であるとして争われる場合には、相続財産が「土地等」であるとしてもその価額が当該売買価額で評価すべきである旨を主張する事例もあるとされています(国税庁資産税課情報第1号(平成3年1月11日付))。 売買契約中に買主に相続が発生した場合の相続財産の種類と相続税評価について、国税庁情報の取扱いをまとめると下記の通りとなります。 本連載【第45回】で解説していますが、売買契約中に売主に相続が発生した場合には、最高裁判決と同様に「売買契約に基づく残代金請求権」を相続財産としています。これに対して、売買契約中に買主に相続が発生した場合には、国税庁情報では、「土地等又は建物等」を相続財産とする例外処理を認めており、この部分については最高裁判決と異なりますので、注意が必要です。 ③ 本問への当てはめ 本問の場合には、令和6年3月1日の売買契約の締結時において手付金10,000千円を支払っていますので、会計上及び税務上の仕訳は下記の通りとなり、前渡金が資産の部に計上されます。 そして、上記②の取扱いにより、土地の売買契約締結後、引渡しの日までの間に課税時期が到来した場合には、原則として引渡請求権、例外として土地となります。これを直前期末方式の場合に準用すると土地の売買契約締結後、引渡しの日までの間に直前期末が到来した場合には、原則として引渡請求権、例外として土地となります。引渡請求権として計上したほうがいいのか、土地として計上したほうがいいのかについて考察すると、課税時期においては土地の引渡しが行われていること及び仮決算方式との整合性の観点から土地として評価することが相当かと思料します。 仮に引渡請求権(債権)として計上した場合に土地保有特定会社に該当せず、土地として計上した場合に土地保有特定会社に該当したときは、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がある場合に該当することになり、直前期末方式が認められません。 したがって、財産の種類は土地として計上することが適正な評価実務になります。 また、相続税評価額の計上金額は、課税時期前3年以内に取得した土地に該当するので、相続税評価額ではなく、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価を行います。「帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとする」とされていますので(評価通達185括弧書き)、本問の場合には取得価額である100,000千円を計上することになります。 第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部及び負債の部に計上する相続税評価額及び帳簿価額の計上金額の考え方としては、直前期末時点において土地の引渡しが行われた場合の仕訳を考えると分かりやすいかと思います。 上記の通り、土地の引渡しがあったものとして、土地を計上し、前渡金は消滅したものとして考えます。 なお、帳簿価額をどのように処理するかについては、下記の2通りの考え方があります。 《A案》 《B案》 上記の《A案》も《B案》も評価差額に対する法人税等相当額は生じませんので、評価に影響はありませんが、本問の場合には、課税時期前に土地の引渡しが完了していますので、仮決算方式との整合性を考慮し《A案》が相当かと考えます。 ☆実務上のポイント☆ 直前期末から課税時期までの間に資産の変動がある場合には、直前期末方式を採用する場合であっても、仮決算方式ではどのように処理がされるかを考えることが重要となります。 (了)
〈適切な判断を導くための〉 消費税実務Q&A 【第2回】 「外国企業に技術開発費用や金型製作費名目で送金した金額に係る消費税の取扱い」 税理士 石川 幸恵 【Q】 外国の提携企業に新製品の製造を委託しました。完成した製品は日本に輸入しますが、製造にあたって技術開発や金型製作が必要であることから、輸入に先立って技術開発に要する費用や金型製作費を送金しました。 なお、完成した製品を輸入する際の仕入書(インボイス)の価格は、この技術開発費用や金型製作費を除いた金額となっています。技術開発費用や金型製作費に日本の消費税はかからないと考えてよいのでしょうか。 【A】 技術開発費用や金型製作費として送金した金額も、完成した製品を輸入する際の輸入消費税の課税標準額に含めなければなりません。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 外国貨物を保税地域から引き取る者は、原則としてその引取りの時までに輸入申告書を提出し、消費税を納付しなければならない(国税庁タックスアンサー「No.6563 輸入取引」)。輸入申告書には仕入書(インボイス)や船荷証券、包装明細書等を添付するが(税関カスタムアンサー「1107 輸入申告の際に必要な書類」)、技術開発に要する費用や金型製作費が含まれていない仕入書(インボイス)に基づいて輸入申告書を作成した場合、輸入消費税の過少申告となり得る。 そこで、今回は輸入前に送金した技術開発費用や金型製作費がある場合の、外国貨物の課税標準について確認したい。 (1) 保税地域から引き取られる課税貨物に係る消費税の課税標準 保税地域から引き取られる課税貨物に係る消費税の課税標準は、消費税法第28条第4項において次のとおり規定されている。 関税定率法第4条から第4条の9までの規定に準じて算出した価格は一般に「関税課税価格」と呼ばれるが、この関税課税価格に技術開発費用や金型製作費は含まれるかを確認してみよう。 (2) 関税課税価格に技術開発費用や金型製作費は含まれるか 税関のホームページに掲載されている関税定率法に関する「質疑応答事例」によれば、技術開発費用や金型製作費は関税の課税標準において次のように取り扱われる。 当設問とは異なるが、売手である外国企業に金型を無償で提供し、製品を輸入する場合もその金型製作費を関税課税価格に加算する必要がある点も留意しておく必要がある。 (3) 税関による企業などへの調査事績 輸出者又は輸入者に対しては、税関職員が事後調査や犯則調査を行っている。最新のデータである令和4事務年度では3,312者が事後調査を受けており、そのうち2,337者(調査を受けた者のうち73.6%)が申告漏れ等を指摘されている。申告漏れ等に係る課税価格は884億9,259万円、消費税の過少申告額85億3,461万円となっている。 輸入に関しては企業内で専門の部署が対応しており、税理士や経理部門は通関業者への支払いで初めて輸入消費税の額を把握することが多いと思われるが、外国の提携企業への送金額が正しく輸入申告書に反映されているか注意されたい。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第65回】 「高所得者に対する所得税の改正」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 西田 尚子 相談内容 私は、医療機器の製造販売を行うX社の創業者で、X社の株式は私が100%所有しています。X社の業績は堅調ですが、私には親族や従業員の中に後継者がいないため、M&Aによる第三者への事業承継を行いたいと考え準備してきましたところ、最近、M&Aの仲介会社からM&A先の紹介を受けました。仲介会社から、2025年以降に株式を売却する場合には所得税が増税になるので、今年中に売却した方がよいと聞いたのですが、具体的にどのように影響するのか教えてください。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] M&Aに関する課税関係 後継者問題の解決策として、M&Aによる事業承継を行う中小企業は増加傾向にあります。事業承継型M&Aの場合、オーナーは所有する株式を譲渡して引退することが一般的です。株式を譲渡する際には、譲渡時の対価から株式の取得費やM&Aに関する諸費用を控除した譲渡益に対して譲渡所得税が課されます。 [2] 高所得者に対する所得税の改正 給与所得や事業所得などに係る所得税は、累進課税制度により収入に応じて増える仕組みになっていますが、株式や長期保有不動産の譲渡、上場株式の配当金に係る所得税については、一律20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)の税率が適用されます。高所得者層において、所得に占める金融所得等の割合が高いことにより、所得税率が低下する状況がみられ、これを是正し税負担の公平を確保する観点から、「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」いわゆるミニマム税が導入されました。 [3] 制度の概要 2025年以降は、その年分の基準所得金額から3億3,000万円の特別控除額を控除した金額に22.5%の税率を乗じた金額が基準所得税額を超える場合には、その超える部分の金額を追加的に申告納税しなければなりません(措法41の19)。 (1) 基準所得金額 その年分の所得税について申告不要制度(確定申告を要しない配当所得等の特例及び確定申告を要しない上場株式等の譲渡による所得の特例)の適用がないものとして計算した合計所得金額(その年分の所得税について適用する特別控除額を控除した後の金額)をいいます。 合計所得金額には、源泉分離課税の対象となる利子所得は含みません。また、NISA制度及び特定中小会社が設立の際に発行した株式の取得に要した金額の控除等の特例において非課税とされる金額も含みません。 (2) 基準所得税額 その年分の基準所得金額に係る所得税及び復興特別所得税の額をいいます。ただし、外国税額控除などを適用しない場合の所得税額で、附帯税及びこの制度により課される所得税の額を除きます。 [4] 追加納税額のシミュレーション 以下の表は、株式譲渡益が10億円から50億円である場合の試算例です。所得控除及び地方税は考慮していません。株式譲渡益が10億円を超えると追加納税額が発生する可能性が高まりますが、高い税率が課されている給与などの所得が多い場合には、計算結果が異なります。実際には、他の所得の状況を勘案しての試算が必要です。 〈例1:他に所得はなく、株式譲渡所得のみの場合〉 〈例2:給与所得1億円と株式譲渡所得の場合〉 〈例3:給与所得5億円と株式譲渡所得の場合〉 [5] 結論 ご質問の場合、M&Aによる株式譲渡益が10億円を超えるようでしたら、2025年以降に売却すると追加納税が必要になる可能性がありますので、ご自身の他の所得と合わせて実際に試算してみることをお勧めします。M&Aの場合、売却価額が希望価額とマッチしているか、事業承継先として問題ないかなど、相手先との交渉が必要になりますので、早めに準備する必要があります。 実際の具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第161回】 株式会社アクアライン 「調査結果報告書(公表版)(2024年9月13日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【株式会社アクアライン特別調査委員会の概要】 【株式会社アクアラインの概要】 株式会社アクアライン(以下、「アクアライン」と略称する)は、1995年11月設立。設立時の社名は有限会社アクアライン。2000年5月、株式会社に組織変更。水まわりサービス支援事業、広告メディア事業及びミネラルウォーター事業(※1)を主たる事業とする。連結売上高4,838百万円、連結経常損失239百万円、資本金673百万円。従業員数67名(訂正前の2024年2月期実績)。 (※1) ミネラルウォーター事業に関しては、2024年6月28日付で、河上薬品商事株式会社(岐阜県関市)に事業譲渡を行っている。「当社事業の一部譲渡及び事業譲渡益発生に関するお知らせ」 生活トラブル解決サービスを主たる事業とするジャパンベストレスキューシステム株式会社(愛知県名古屋市)が、19.9%の株式を所有する筆頭株主であり、同社とは業務提携及び商品売買に関する基本契約を締結している。本店所在地は広島県広島市中区。東京証券取引所グロース市場上場。会計監査人は、2023年2月期から監査法人やまぶき東京事務所、2022年2月期までは有限責任監査法人トーマツ広島事務所。 【特別調査委員会による調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 アクアラインは、外部機関による調査(資料の提出、ヒアリング)の過程において、アクアラインが保有する投資有価証券(暗号資産転換可能社債)及び暗号資産関連の取引及び水まわりサービス支援事業における取引に関して、過年度より不正確な会計処理が行われていた可能性を指摘された。 具体的な事案の内容については、以下のとおりである。 アクアラインは、これらの指摘を受けて、2024年7月5日、本事案の事実関係及び本事案の類似案件の調査、本事案によるアクアラインの財務諸表等への影響の有無及びその内容の確認、本事案の原因分析と再発防止策の提言等を目的として、アクアラインと利害関係を有しない外部専門家のみを委員とする特別調査委員会の設置を決定した。 なお、アクアラインが特別調査委員会の設置を公表したリリースによれば、本事案⑦及び⑧に関連して、2024年2月末時点で保有する投資有価証券(暗号資産転換可能社債)及び暗号資産の合計は、約220百万円ということである。 2 特別調査委員会による調査結果の概要 (1) 本事案① 特別調査委員会は、疑義の対象となっている3加盟店とアクアラインとの間の契約について、次のように評価している。 特別調査委員会は、収益認識会計基準に基づいてアクアラインの計上すべき売上高の算定を行った結果、ROY社に対する売上高については修正する必要を認めたものの、JUN社及びUB社に対する送客サービスに係る収益認識については問題ないと判断している。 (2) 本事案② 特別調査委員会の調査により認定された事実は次のとおりである。 特別調査委員会は、連結財務諸表に関する会計基準に基づき、アクアラインと3加盟店の間には資本関係がないことから、「他の企業の意思決定機関を支配している企業」のうち、緊密者又は同意者に該当するかどうかの検討を行った結果、3加盟店の株主であり、代表者である者は、いずれもアクアラインの緊密者又は同意者に該当しないことから、アクアラインが3加盟店の意思決定機関を支配している事実は認められないとして、3加盟店は、いずれもアクアラインの子会社には該当しないと判断している。 (3) 本事案③ 特別調査委員会は、調査の結果、大垣内氏からアクアラインに対する資金援助の際、アクアラインが管理するUB社名義の口座を経由させる取引と、ROY社からアクアラインが管理しているJUN社名義の口座に資金移動した後、JUN社名義の口座からアクアライン口座に振込が行われた取引について、JUN社向けの未収入金の入金として処理されている取引があったことが判明したため、それぞれの債権債務の名義を適切なものに修正する必要があると判断している。 (4) 本事案④ 特別調査委員会は、調査の結果、アクアラインとROY社との間の債権債務が確定しておらず、また、ROY社からアクアラインへの送金の一部が会計処理をされていないことが判明したため、アクアラインとROY社との間の債権債務を修正する必要があるという判断を示している。 なお、本事案に係る不正に関する調査として、特別調査委員会は、3加盟店の債権に対する貸倒引当金の設定について、JUN社を通常債権として取り扱っているアクアラインの会計処理を是認しているが、ROY社とUB社は、貸倒懸念債権として、債権残高の50%を貸倒引当金として設定する必要があると指摘している。 (5) 本事案⑤ 特別調査委員会は、アクアラインが、ROY社から回収した未収入金50百万円について、30百万円はJUN社経由で、20百万円はD社経由でROY社に返金していたことを認め、一連の取引を循環取引であると認定したうえで、正しい会計処理に修正するとともに、ROY社に対する未収入金50百万円については貸倒引当金の設定が必要であるとの判断を示している。 (6) 本事案⑥ 特別調査委員会は、ROY社から入金された140百万円は、資金繰りの悪化していたアクアラインに対して大垣内氏が貸し付けたものであると認定し、有価証券報告書等に関連当事者取引として開示することを避けるために、ROY社を経由したものであると判断している。そのうえで、会計処理を修正するとともに、2024年2月期の連結財務諸表に関連当事者取引として注記を行う必要があるとともに、キャッシュフロー計算書についても、表示項目を修正する必要があると指摘している。 (7) 本事案⑦ 特別調査委員会は、本事案で指摘されている疑義の存在を認め、■■コイン転換可能社債について、ROY社が購入後、アクアラインが買い戻すこと、損失が発生した場合にはアクアラインが負担することなどの合意があったと認定し、また、社債の分類については、満期保有目的債券に分類するための要件のうち①満期まで保有する積極的意思は有していたものの、②価格変動リスクがないこと及び③発行体の信用リスクが高くないことという要件を具備していなかった可能性が高いことから、現行の会計処理である「満期保有目的債券」の分類を変更して、「その他有価証券」として分類する必要があること、さらに、社債の評価については、発行元のF社が債務超過であることから、社債を■■コインに転換したうえで、これを市場で処分する場合の価格とすることが考えられるが、■■コインの流動性が低下している現状では、償還不能見積高を算定して、評価すべきであると指摘している。 (8) 本事案⑧ 特別調査委員会は、アクアラインが取得した■■コインについて、活発な市場が存在しない暗号資産として、取得原価をもって貸借対照表価額とし、海外の暗号資産取引所2社の市場価格の1年間の平均値を、期末における処分見込価額としているが、本■■コインは暗号資産取引所において市場価格で処分される点、また、市場流動性の観点からも処分困難性が認められない点を踏まえると、本■■コインは、各四半期末及び年度末時点の暗号資産取引所における市場価格を処分見込額として会計処理を実施することが妥当であると指摘している。 3 特別調査委員会による原因分析(調査報告書68ページ以下) 特別調査委員会は、原因分析の冒頭、本事案が発生した原因は、アクアラインの経営状態、資金繰りの悪化にあるとして、今後、資金繰りが改善され、経営陣が資金繰りに追われなければ、冷静・適切な判断を行うことが一定程度期待できると思われるが、仮に資金繰りが改善されなかったとしても、自ら厳然と適切な会計処理を行うためには、やはり、本事案が生じた原因を仔細に検討する必要があると述べている。 特別調査委員会による原因分析は、次のとおりである。 特別調査委員会が原因の筆頭に挙げたのが、創業者であり、アクアラインの資金繰りのためにかなりの株式を手離したとはいえ、いまだ15.2%を所有する主要株主である代表取締役社長の大垣内氏が、本事案の全てにおいて直接的又は間接的に関与しており、大垣内氏が主導したと思われる事案すら存在したことである。特別調査委員会は、大垣内氏について、基本的なコンプライアンス意識及び適正な会計処理を実施するという意識・姿勢が希薄であるといわざるを得ないと断じたうえで、大垣内氏は、2021年事案による行政処分を受けて代表取締役としてリーダーシップを発揮し、全社的なコンプライアンス体制の構築・運営に尽力しなければならない立場にあったにもかかわらず、本事案の全てにおいてこのような姿勢・立場に反する関与をし、株主をはじめとする利害関係者からの信頼を失墜させた責任は、誠に重大であると批判している。 次いで、特別調査委員会は、アクアラインに特有な事情として、調査の対象となった3加盟店との馴れ合いを挙げる。例として、本事案①では、アクアラインと3加盟店との間で、利益分配やキャンセル数の調整等が、書面による合意に基づかない形で継続されてきたことから、売上の認識方法等についてアクアラインと加盟店との間で客観的な指標が存在しないことになり、合意内容の事後的な確認が困難となるうえ、当事者以外の第三者に対する合意内容の説明が困難となっていたことを挙げた。また、本事案②及び本事案⑤では、アクアラインが、加盟店の銀行口座の管理を行い、3加盟店の銀行口座を利用できたという極めて特殊な事情が不透明な資金移動を可能にしたと考えられるとして、このように、アクアラインと3加盟店との間で馴れ合い関係にあったという、いわば不適切な取引の隠れ蓑に使うようなことができる特殊な関係性が本事案の一要因と考えられると指摘している。 4 特別調査委員会による再発防止の提言(調査報告書73ページ以下) 特別調査委員会は、再発防止策の提言の冒頭、アクアラインが、適切な事業計画に基づく予実管理を実施し、かつ、資金繰りの状態を逐次把握したうえで、経済的基盤を強化してキャッシュフローを改善させることが1番の再発防止策になると、結論を述べた。そのうえで、本事案の全てについて大垣内氏が直接又は間接に関与している点に注目すると、本事案に関して大垣内氏が負う責任は誠に重大なものであり、アクアラインが株主をはじめとする利害関係者からの信頼回復を図るためには、大垣内氏が取締役を退任することも十分検討に値するところであるとまで、言い切っている。 しかし、特別調査委員会は、社内外の関係者に詳細なヒアリングを行い、後継の代表候補者の選定を試みようとしたが、事業開発、顧客営業に通暁している大垣内氏は代替の利かない存在であり、適切な後継者を見出すことはできなかった。この点において、アクアラインの人材不足問題が露呈したと評したうえで、大垣内氏が代表取締役に留任することを念頭に置いた具体的な再発防止策の提言を行うとして、以下の再発防止策を挙げている。 特別調査委員会による再発防止策の提言の1つ、「内部監査室から経営監査部への改組等」は、他の調査報告書では見ることの少ない提言であるため、詳細を確認しておきたい。 特別調査委員会は、本事案の原因の1つとして「内部監査が必ずしも十分に機能していなかったこと」を挙げ、その対策として、内部監査室から経営監査部へと格上げすることにより、内部監査の質の向上を図るとともに、経営戦略会議をはじめとする各種社内の委員会等に対して広く助言をする組織として、各部門の上位の組織へと改組することを提言している。 そのうえで、特別調査委員会は、内部監査のレポートラインを見直し、現状の代表取締役及び監査役会から、取締役会及び監査役会とするべきであること、内部監査部門(経営監査部)の人員については、その業務量に鑑み、早急に増員すべきであること、内部監査責任者、すなわち経営監査部部長の人事権を代表取締役に委ねることは適切ではないことから、その人事権は取締役会の決議事項とすることも考えられるとしている。 【消費者庁による行政処分】 調査報告書の中で、繰り返し、「2021年事案」として言及されている消費者庁による行政処分の内容(※2)は、次のとおりである。 (※2) 消費者庁「訪問販売業者【株式会社アクアライン】に対する行政処分について」 (注) 一部、条文を簡略化し、省略している。 【調査報告書の特徴】 創業社長に対して重大な責任があり、信頼回復のためには取締役の退任も検討に値するとして、後継者の選定作業に近いことまで行いながらも、なお「余人をもって代え難い」ことを理由に再発防止策の提言を行った特別調査委員会は、調査報告書の最後に次のような言葉を置いている。 本稿では、アクアラインが、行政処分による業績悪化 ➡ 新たな業態への移行 ➡ 逼迫する資金繰りという経過をたどる中で、2021年調査委員会から受けた提言が、どのように実行されてきたのか、見ておきたい。 1 アクアラインが行政処分を受けた不法行為 2021年8月31日付で消費者庁が公表した行政処分(※3)では、「処分の原因となる事実」として、以下の行為を、訪問販売に係る取引の公正及び役務の提供を受ける者の利益が著しく害されるおそれがあると認定している。 (※3) 消費者庁「特定商取引法違反の訪問販売業者に対する業務停止命令(9か月)及び指示並びに当該業者の代表取締役等2名に対する業務禁止命令(9か月)について」 2 2021年に設置した第三者委員会による再発防止策の提言 消費者庁の行政処分を受けて設置した第三者委員会が、アクアラインに対して提言した再発防止策(※4)は次のとおりであった。 (※4) 「第三者委員会の調査報告書受領等に関するお知らせ」 3 アクアラインによる再発防止策 第三者委員会による再発防止策の提言を受けて、アクアラインは、12月15日、「再発防止策の策定及び新たな事業開始に関するお知らせ」を公表した。 再発防止策の1つの柱が、特別調査委員会設置の契機となり、調査の結果、取引関係の見直しを再発防止策として提言された、新たな事業である「加盟店事業」である。アクアラインは、加盟店事業について、次のように説明している。 4 役員報酬の自主返上と役員人事 2022年3月17日、アクアラインは、「役員報酬の自主返上に関するお知らせ」をリリースして、大垣内氏以下全取締役及び全監査役が報酬の一部を返上し、各関係部門の責任者4名についても、給与の5%返上の申し出を受けたことを公表した。 さらに4月28日は、「役員人事に関するお知らせ」をリリースして、大垣内氏以下全5名の取締役全員の再任を公表した。 5 再発防止策の実施状況 「役員報酬の自主返上に関するお知らせ」リリースの同日、アクアラインは、「再発防止策の実施状況に関するお知らせ」をリリースして、予定どおり加盟店事業を開始して加盟店向けに人的支援・技術支援を行うとともに、加盟店で業務を行っている全サービススタッフ(約150名)向けにコンプライアンス研修を行ったことをはじめ、コンプラインス・法務室を設置し2名体制で運用していること、内部監査部は1名増員済みであることなど、再発防止策を確実に実施していることが公表された。 アクアラインによる新規事業である加盟店事業に問題があったことはすでに見てきたとおりであるが、特別調査委員会による再発防止策の実施状況に対する評価は低い。 6 2025年2月期第1四半期報告書提出遅延 アクアラインは、調査報告書受領時のリリースで、提出期限を9月30日とする延長承認を受けていた2025年2月期第1四半期報告書及び過年度の有価証券報告書等の訂正報告書を、9月30日までに提出するとしていたが、同日になって、「2025年2月期第1四半期報告書提出遅延並びに当社株式の監理銘柄(確認中)指定の見込みに関するお知らせ」をリリースして、特別調査委員会の調査報告書の受領が当初想定の受領日から遅れたことに加えて、財務報告に係る内部統制の評価等、決算及び開示の進捗が遅延して、それに伴う監査等に想定以上の時間を要したことから、2025年2月期第1四半期報告書の提出が困難であること、それに伴い、アクアライン株式が、東京証券取引所から、監理銘柄(確認中)に指定される見込みであり、さらに、上場廃止基準により、延長承認後の提出期限経過後8営業日以内(2024年10月10日まで)に当該第1四半期報告書の提出ができなかった場合には、アクアライン株式は整理銘柄に指定された後、上場廃止となることを公表した。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2024年9月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年9月1日から9月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 新会計基準関係 企業会計基準委員会は次のものを公表している。 ① 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等(内容:借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上するリースに関する会計基準の開発) ② 移管指針公開草案第15号(移管指針第9号の改正案)「金融商品会計に関する実務指針(案)」(内容:ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等の構成資産である市場価格のない株式の時価評価に関する改正案。意見募集期間は2024年11月20日まで) Ⅲ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 四半期開示制度の見直しに伴う監査基準報告書等の改正(内容:今般の四半期開示制度の見直しを受けて、関連する監査基準報告書等について所要の見直しを行うもの) ② 監査基準報告書260「監査役等とのコミュニケーション」、監査基準報告書700「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」、監査基準報告書700実務指針第1号「監査報告書の文例」及び関連する監査基準報告書等の改正(内容:2023年10月に国際監査・保証基準審議会(The International Auditing and Assurance Standards Board:IAASB)から公表された、IESBA倫理規程の改訂により会計事務所が社会的影響度の高い事業体(PIE)に対する独立性に関する要求事項を適用している場合の開示要求に伴う狭い範囲の改訂を受けたもの) (了)
従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第2回】 「従業員を労務提供能力の欠如や規律違反行為を理由に 解雇する場合の注意点」 弁護士 柳田 忍 前回において、解雇には、大別して、労働者側に存する理由に基づく解雇と、会社側の経営上の事情等による解雇がある旨説明したが、今回は、労働者側に存する理由に基づく解雇(懲戒解雇以外)のポイントについて説明する。 1 はじめに 労働者側に存する解雇の理由としては、①勤務成績や勤務態度(以下「勤務成績等」という)の不良、病気・けがによる労務提供能力や適格性の欠如や②規律違反行為(職場での暴行・脅迫、業務妨害、業務命令違反、ハラスメント、横領・背任等の不正行為、遅刻・早退・欠勤等)が挙げられる。 前回において、解雇は客観的合理性と社会的相当性が認められなければ無効となる旨説明したが(労契法16条)、①ないし②の理由による解雇に客観的合理的・社会的相当性が認められるためには、(i)雇用契約上の労務提供義務の不履行に至っているといえるほどに労務提供能力や適格性が欠如している、ないし、雇用契約を継続することが困難なほどに信頼関係を破壊する程度の規律違反がある場合で、(ii)指導や教育訓練、配置転換や休職などによっても改善等が期待できず、解雇を回避することが難しいといえる必要がある。従業員に上記(i)が認められれば解雇できると考えている使用者が少なくないが、そのような認識は誤っている。 よって、従業員を労務提供能力の欠如や規律違反行為を理由に解雇する場合、(i)及び(ii)の裏付けを具備しておくことが重要になるが、それぞれの実務上のポイントは以下のとおりである。 2 労務提供能力の欠如や規律違反行為等の裏付け確保のポイント 勤務成績等の不良により労務提供能力や適格性が欠如しているといえるためには、勤務成績等の不良の程度が雇用契約の継続が難しいといえる程に深刻な程度に達していることが必要となる。裁判所においては、勤務成績等の不良により企業経営に支障が生じるなどして企業から排斥すべき程度に達していることを要すると考えられているようである(※1)。 (※1) 東京地裁平成13年8月10日決定(エース損害保険事件) 当該従業員が担当業務を指示どおりに遂行することができず、他の従業員が肩代わりをしたり、後始末のために少なからぬ時間を割いたりしなければならず、会社の業務に支障を与えたような場合も、勤務成績等の不良による労務提供能力や適格性の欠如を示す一事情に該当し得るので(※2)、ある従業員の勤務成績等の不良により他の従業員が肩代わりや後始末を行わなければならないという事情がある場合、肩代わりや後始末にかかった時間を記録するなどしてこれを裏付けにすることも検討に値する。 (※2) 東京地裁平成12年7月28日判決(東京海上火災保険事件) また、従業員に対する人事評価は、労務提供能力や適格性の欠如を示す1つの裏付けとなり得る。しかし、筆者が企業から、従業員を解雇したいという相談を受けて、当該従業員の人事評価を聞いてみると、解雇の検討の対象となっているとは思えないような評価がつけられている場合が少なくない(例えば、5段階評価で下から2番目であったり、場合によっては3番目(真ん中)であったりする)。このような場合、勤務成績等の不良を否定する方向に働く可能性が高いため、特に解雇を検討する対象となる従業員の人事評価は日頃から慎重に行っておくべきである。 3 指導や教育訓練などによっても改善等が期待できないことの裏付け確保のポイント 労務提供能力・適格性の欠如や規律違反行為が認められ、指導や教育訓練などにより改善等が期待できないといえるためには、原則として、指導や教育訓練などを行ったという前提が必要となる。この点、いざ、ある従業員の解雇の検討を開始したところ、上司が当該従業員に対して何度も指導を行った事実はあるものの、口頭で実施したために裏付けは残っていないという場合が多い。仮に解雇の有効性が争われた場合に裏付けとすることができるよう、指導等は書面やメールで実施したり、口頭で実施した場合にも記録化したりしておくべきである。 また、特に外資系企業などにおいては、パフォーマンスが芳しくない従業員に対して業績改善プラン(Performance Improvement Plan・PIP)を実施することが多い。業績改善プランとは、一定の期間を設定して、具体的な目標や課題を定めて、その達成状況等を評価するものであり、適切に運用されれば、改善の機会を与えたことの裏付けとなり得るが、目標や課題の設定が適切でなかったり、指導や教育訓練を実施したと評価できるほどのコミュニケーションがなされていなかったりするケースが多い。PIPの対象となる従業員全員が解雇の対象になるわけではないであろうが、その可能性を踏まえて実施することが重要なポイントとなる。 4 改善の機会等を与えるべき程度 なお、従業員に労務提供能力や適格性の欠如が認められる場合、どこまで指導や配置転換などにより改善の機会等を与える必要があるかについては、実務上しばしば問題となるが、雇用契約上、職務の範囲が限定されているか否かや、特定の職務や職位のために採用されて高度の専門性を発揮することが期待されているか否か等によって、その程度は異なる。概要は以下のとおりである。 (1) 職務の範囲が限定されている・高度の専門性の発揮が期待されているといった事情がない場合 この場合、指導や教育訓練などの改善等の機会が与えられないままになされる解雇は無効となる可能性が高い。また、担当職務について、度重なる指導によっても改善しない場合であっても、他の職務や職位を検討することが求められることが多い。職務の範囲が限定されていない以上、ある職務について労務提供能力や適格性の欠如が認められるとしても、雇用契約の内容等に照らして当該従業員が現実的に就労することが可能である職務に関して労務提供が可能となる可能性があるのであれば、上記(ii)を満たさないといえるためである。 (2) 職務の範囲が限定されている場合や、高度の専門性の発揮が期待されている場合 この場合、解雇の有効性は比較的緩やかに判断される。雇用契約上職務の範囲が限定されている従業員に対しては、基本的には他の職務等に従事する機会を与える必要はないし、高度の専門性を期待されて採用された従業員については、指導や教育訓練等がなされるまでもなく期待されたレベルで労務を提供することが求められているともいえるためである。 (3) はじめから改善等が見込めない場合 指導や教育訓練、配置転換などにより改善の機会等を与えたとしても、およそ改善等が期待できないほどに勤務成績等の不良の程度が著しい場合や、病気・けがの程度が深刻な場合などにおいては、これらの機会を与えずに解雇を実施したとしても、解雇が有効となる可能性がある。 (了)
〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第11回】 「親族から通帳を見せてほしいと言われた場合の対応」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 顧客の成年後見人を引き受けましたが、あるとき本人の家族から「通帳を見せてほしい」と言われました。応じなければならないのでしょうか。 【A】 後見人には、本人の家族に財産を開示しなければならないというような、法律上の義務はありません。個別の事案に応じて慎重に対応すべきです。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 本人の家族からの問い合わせへの対応 本人の家族から、「通帳を見せてほしい」というように、財産の管理状況について問い合わせが入ることがあります。残念ながら後見人による横領事件などが発生し、大きなニュースとして取り上げられているため、家族としても心配になることがあるようです。 後見人としてはしっかりと管理しているのであれば「見せてあげてもいいかな」という気持ちに傾くかもしれませんが、あくまで本人の情報であるという認識を持って慎重に対応すべきです。一部の家族に財産状況を安易に開示したことによって、他の家族からクレームが寄せられる可能性も否定できません。 まず認識しておきたいのは、後見人には、本人の家族に財産を開示しなければならないというような、法律上の義務はないということです。よって、家族から執拗に開示を求められるような場合には、きっぱりと開示しない旨の意思表示をすることが必要になるケースもあります。 2 裁判所で記録の閲覧・謄写申請を行う 「法律上の義務はないので開示しない」とだけ伝えると、無用に家族から不信感を抱かれてしまうことが心配な場合には、裁判所で後見人が提出した報告書等の資料の閲覧や謄写申請ができることを伝えてあげてもよいでしょう。裁判官の許可が必要ですが、許可が出れば報告書等の資料を家族が閲覧や謄写をすることができます。 3 家族関係をよく把握したうえでの対応が必要 家族からの問い合わせに対してどのように対応すべきかについては、家族関係を把握したうえで個別に判断していく必要があります。 例えば、通帳の預金残高がいくらあるのかといった問い合わせがあった場合でも、家族の意図としては本人が入居している施設の利用料の支払いが難しくなるような事態が生じて、本人が困らないかを心配しているということもあります。このような場合には、おおよその収入と支出の状況を説明して、理解を得るというのも選択肢の1つです。 後見人としては無用に不信感を持たれないように、本人の財産の管理をしっかりと行うことは当然として、家族関係を理解したうえで必要な情報は適切に開示するという考えも必要になると思われます。 (了)
令和7年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和7年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
2024年10月3日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.588を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。