〈小説〉 国税審査官エイトの勤務日誌 ~ある国税不服審判所の記録~ 第1話 7月は人事異動の季節 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「永途、統括官が呼んでいるよ」 傍らにいた佐伯上席が告げる。 7月。税務署の人事異動の季節である。 永途は神妙な顔をして、山口統括官の前に立った。 「君は以前、税務大学校を希望していたが・・・今回は、大阪国税不服審判所に配属になった」 山口統括官は笑顔だった。 「国税不服審判所も、税務大学校同様に、税法の勉強ができる所だ。君には良いところだよ」 永途の顔を見ながら、統括官は続けた。 「もちろん、国税審査官として行くことになる。私も7年前は、統括官から、国税審査官として、国税不服審判所に勤務していた。国税調査官クラスの君は、審判所では若い国税審査官になるだろうね」 山口統括官は組織図を見せながら、 「審判所では、毎日、署長クラスの国税審判官と一緒に仕事をすることになる・・・」 と冗談めかして笑った。 国税審判官 指定官職 署長クラス 国税副審判官 副署長クラス 国税審査官 一般職員 統括官・上席・ 調査官クラス (注) 指定官職とは、辞令を発する者が国税庁長官で、一般職員は国税局長が辞令を発する。 「・・・次に、齋藤君を探してきてくれないか」 山口統括官は永途の内示を終えると、そう頼んだ。 齋藤は席を外している。 永途は礼をしながら、後輩の齋藤を探しに行く。 「それにしても審判所に転勤か・・・」 新しい職場を想像して、永途の心は躍った。 三階の法人課税第三部門から二階へ階段を降りると、齋藤が壁際で携帯電話を内ポケットにしまうところだった。 「おい齋藤、内示だ。山口統括官が呼んでいるよ」 永途の声に、齋藤は驚いて振り向いた。 「お前も異動だな・・・」 永途は、笑いながら言った。 「・・・ということは、先輩も転勤ですか?」 齋藤がニコニコしながら訊く。 「審判所だったよ。それより早く、山口統括官のところに行けよ、統括官が待っている」 齋藤を急かすと、彼は勢いよく階段を駆け上がっていった。 永途は自分の席に戻り、税務大学校の授業で聞いた国税不服審判所の話を聞いたことを思い出した。 税務大学校の授業で、担当教授は国税不服審判所の特色として、「争点主義的運営」を強調していた。 国税通則法の一部改正(参議院大蔵委員会の付帯決議:昭和45年3月24日)では、次のように規定されている。 「争点主義的運営か・・・審判所は、税務署と大分違うな」 永途は呟きながら、思案顔になる。 そんな説明を、永途は税務大学校の授業で聞いたことがあった。 永途はパソコンで国税不服審判所の組織図を見ながら、新しい職場に期待を膨らませた。 (注) 支部は、東京、大阪など12支部あり、支所は各支部に7つある。 (つづく)
【重要】 会員2万人突破記念! 新連載開始キャンペーンのお知らせ 平素より株式会社プロフェッションネットワークのサービスをご愛用いただき、厚くお礼申し上げます。 既報のとおり、当社が運営しております税務・会計Web情報誌プロフェッションジャーナル(Profession Journal)はおかげさまで会員2万人を突破いたしました。 会員2万人突破に伴い、2025年10月1日(水)より、本誌掲載の連載第1回をすべて無料公開とさせていただいておりますが、今回これに続くキャンペーンの一環として、2026年1月より複数の新連載を順次開始してまいります。 以下、新連載の概要及び開始時期等をお知らせさせていただきますので、どうぞご期待ください。 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ※下記の新連載のタイトルをクリックすると詳細箇所に遷移します。 ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ※上記新連載の内容は随時更新し、今後も追加を予定しています。 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ 今後ともプロフェッションジャーナルをご愛読賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
《速報解説》 グローバル・ミニマム課税に係る 国際合意を踏まえた措置が閣議決定される ~特定多国籍企業グループの最終親会社等に該当する場合、税負担等軽減の可能性~ 公認会計士・税理士 霞 晴久 政府は、本年1月23日、グローバル・ミニマム課税に係る国際合意を踏まえた措置を閣議決定した。これは、多国籍企業に対して各国ごとに最低税率15%以上の課税を確保する仕組み、すなわち国際最低課税額に対する法人税として令和5年に初めて法制化され、その後数次の改正を経た制度について、国際課税システムの安定化の要請の下、米国等独自のミニマム課税制度を有する国の制度との共存を図る観点から、令和7年6月以降「BEPS (※1)包摂的枠組み」において議論され、令和8年1月5日に合意が成立したことから、令和8年度税制改正において、見直しを行ったものである。 (※1) Base Erosion and Profit Shifting : 税源浸食と利益移転 1 措置の内容 本措置は、国税及び地方税を対象とするが、地方税については、国税の取扱いに準じて所要の見直しが行われる。 (1) 各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税(※2)について (※2) グローバル・ミニマム課税のうち、所得合算ルール(Income Inclusion Rule:IIR)として、令和5年度税制改正において法制化された。 ① 特定多国籍企業グループの最終親会社等の所在地国又は地域について、財務大臣が、次に掲げる要件その他を満たしているとして当該所在地国又は地域を指定する場合には、その特定多国籍企業グループに属する構成会社等に係るグループ国際最低課税額及びその特定多国籍企業グループに係る共同支配会社等に係るグループ国際最低課税額は零とされる(適用免除基準)。当該改正は、令和8年1月1日以後に開始する対象会計年度から適用される。 イ その国又は地域の租税に関する法令(※3)において、20%以上の税率により会社等の所得に対する租税を課することとされていること。 (※3) 令和11年1月1日前に制定されたものに限る。ロ及びハにおいて同じ。 ロ その国又は地域の租税に関する法令において、自国内最低課税額に係る税を課することとされていること、又はその会社等の各対象会計年度に係る当期純損益金額を基礎とした金額に対して15%以上の税率により租税を課することとされていること。すなわち最終親会社等が、国内ミニマム課税(QDMTT)が既に法制化されている国又は地域に所在している場合をいう。 ハ その国又は地域の租税に関する法令において、他の会社等に持分を直接・間接に所有される会社等(「子会社等」という。)がその本店又は主たる事務所の所在する国又は地域においてその事業の管理、支配及び運営を自ら行っていない場合その他の場合において、その子会社等の所得の金額を当該他の会社等の収益の額とみなして益金の額に算入する規定であって、原則としてその子会社等の全ての所得の金額を基礎としてその益金の額に算入する金額を算出するものが設けられていること。すなわち、最終親会社等が、我が国でいう外国子会社合算税制類似の制度を法制化している国又は地域に所在している場合をいう。 ② 一定の国別報告事項における記載事項等を用いた経過的な適用免除基準の適用期限(現行:令和8年12月31日)は令和9年12月31日まで1年延長される。また、各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税に係る一定の国別報告事項における記載事項等を用いた経過的な適用免除基準についても同様の見直しが行なわれる。 ③ 税額控除制度等(※4)の適用を受けることが認められる金額のうち一定の金額(原則として、一定の従業員の給与等の額の合計額に5.5%を乗じて計算した金額と一定の有形資産に係る減価償却費の合計額に5.5%を乗じて計算した金額とのいずれか多い金額を按分した金額を上限)を調整後対象租税額に加算することができる特例が設けられる。上記の改正は、令和8年1月1日以後に開始する対象会計年度から適用される。 (※4) 投資を促進するための税額控除制度又は所得控除制度として次に掲げる要件を満たすものに限定される。 イ その適用を受けることができる金額が支出の額を基礎として計算される税額控除制度又は所得控除制度であること。 ロ その適用を受けることができる金額が所在地国における有形資産の生産量等を基礎として計算される税額控除制度であること。 ④ その他所要の措置が講じられる。 (2) 各対象会計年度の国際最低課税残余額(※5)に対する法人税について 特定多国籍企業グループの最終親会社等の所在地国又は地域について、財務大臣が、国際的に20%以上の税率(※6)により所得に対する租税が課されていると認められることその他の要件を満たしているとして指定する場合には、当該特定多国籍企業グループのグループ国際最低課税残余額には、当該最終親会社等の所在地国に係る部分の金額は含まれないものとされる(適用免除基準)。 (※5) グローバル・ミニマム課税のうち、軽課税所得ルール(Undertaxed Profits Rule:UTPR)として、令和7年度税制改正において法制化された。 (※6) 令和8年1月1日において当該所在地国又は地域で施行されている法令に従って課される場合に限られる。 2 我が国法人への影響 本措置の適用については、財務大臣の指定を待つことになると思われるが、上記(1)については、我が国法人が特定多国籍企業グループの最終親会社等に該当する場合、①イ~ハの要件を満たすことになるため、適用免除基準が適用され、グループ国際最低課税額は零となり、税負担及び事務負担は軽減される可能性がある。 また、上記(2)について適用があるのが、外国法人の我が国に所在する子会社及び恒久的施設ということとなるが、最終親会社等の所在地国又は地域が税率20%未満の軽課税国でない限り、適用免除となると思われる。 (了)
令和7年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和7年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
2026年1月29日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.654を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第55回】 「「譲渡所得課税の趣旨」法理と「趣旨内競い合い」の遅れ挽回」 -土地譲渡代金割賦弁済事件・最判昭和47年12月26日民集26巻10号2083頁- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 本連載の方針(第1回Ⅰ参照)に従い拙著『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)の叙述の順に、今回からは、譲渡所得課税に関する判例をいくつか取り上げ検討することにする。まず、譲渡所得課税の趣旨に関する最高裁の考え方からみておこう。 最判昭和43年10月31日訟月14巻12号1442頁(以下「昭和43年最判」という)は譲渡所得課税の趣旨について次のとおり判示した(下線筆者)。 この判示の下線部は、原々審・浦和地判昭和39年1月29日行集15巻1号105頁(以下「昭和39年浦和地判」という)の次の判示内容(下線筆者)、すなわち、「資産の利益が当該資産そのものの値上りという形で発生し、それが所有者に帰属しているから、その資産の増加益を所得としてこれに課税するという基本的課税理論」に立脚しつつも、「資産の値上りによる増加益を所得としてこれに課税する場合、厳密にいえば、当該資産の市場価値の一年内の増加額を毎年査定し、これに対して課税すべきであるが、かような方法は技術的に困難である。そこでこの所得に対する課税の時期を資産譲渡の時という特定の時にした、すなわち、資産の値上りによる増加益がある年間に生じた場合でもこれに対して課税することなく、資産が売却されるなどして、所得が現金その他に換価されたときに始めてその年分の所得として課税の清算を行なうことにしたのである。すなわち、これを規定したのが所得税法第9条第1項第8号である。」と判示した内容を是認し要約したものと解される。 昭和43年最判やそれが引用する昭和39年浦和地判が判示した譲渡所得課税の趣旨は、シャウプ勧告(Report on Japanese Taxation by the Shoup Mission, Volume III Appendix B Section D. 邦訳は福田幸弘監修=シャウプ税制研究会編『シャウプの税制勧告』(霞出版社・1985年)311頁によった(下線筆者)。以下におけるシャウプ勧告の引用は同書による)の中で次のとおり述べていたものと解されている(藤田良一「判批」税経通信33巻14号(1978年)98頁、99頁、清永敬次「判批」㋐別冊ジュリスト79号(租税判例百選〔第2版〕・1983年)70頁、71頁等参照)。 ここで「勧告にいう課税理論は、ヘイグ(Haig)やサイモンズ(Simons)の包括的所得概念を指すもの」(清永・前掲「判批」㋐71頁)と考えられる。ただ、包括的所得概念に従う場合でも、実際の制度上は、実現した利得(realized gain)のみに課税することはやむを得ないとされてきた(金子宏『所得概念の研究 所得課税の基礎理論 上巻』(有斐閣・1995年)57頁以下[初出・1975年]、前掲拙著【184】等参照)。 昭和43年最判における譲渡所得課税の趣旨に関する前記判示の下線部は、後で検討する土地譲渡代金割賦弁済事件・最判昭和47年12月26日民集26巻10号2083頁(以下「昭和47年最判」という)で下記①のとおり(下線筆者)「当裁判所の判例」とされ、これが次回検討する財産分与者譲渡所得課税[名古屋医師]事件・最判昭和50年5月27日民集29巻5号641頁(以下「昭和50年最判」という)で下記②のとおり参照されて以降、判例法理として確立された、とみてよかろう(以下この判例法理を「『譲渡所得課税の趣旨』法理」という)。 「譲渡所得課税の趣旨」法理は、学説では、「増加益清算課税説」(三木義一編著『よくわかる税法入門〔第19版〕』(有斐閣・2025年)110頁等参照)ないし単に「清算課税説」(佐藤英明『スタンダード所得税法〔第4版〕』(弘文堂・2024年)85頁等参照)と呼ばれることが多い(前掲拙著【277】では第7版(2021年)までは「増加益清算課税説」と呼んでいたが、第8版(2025年)では「増加益実現時清算課税説」と呼ぶことにした)。 なお、「譲渡所得課税の趣旨」法理は、内容的には、山林所得課税の趣旨としても妥当するものとされた(最判昭和50年7月17日訟月21巻9号1966頁)。 Ⅱ 「譲渡所得課税の趣旨」法理と「趣旨内競い合い」随走 「譲渡所得課税の趣旨」法理は、大別して次の2つの部分から成ると整理することができる。すなわち、1つは、昭和43年最判の前記判示の下線部のうち前半の「資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益」を「所得」として課税するという部分(❶)であり、昭和39年浦和地判のいう「基本的課税理論」に立脚する部分である。もう1つは、後半の「その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する」という部分(❷)であり、所得税法は昭和39年浦和地判のいう「基本的課税理論」に「厳密に」従った課税方法が「技術的に困難」であることを考慮して譲渡所得課税を定めたという理解を述べる部分である。 筆者は従来から、「譲渡所得課税の趣旨」を上述のように2つの部分に区分し整理した上で、上記❶の部分が「譲渡所得の本質的意義(理論[包括的所得概念論]的意義)」を述べ上記❷の部分が「譲渡所得の実定法的意義」を述べているという理解を示してきた(前掲拙著【272】以下参照)。この2つの意義にそれぞれ対応する譲渡所得課税を、以下では、「譲渡所得課税❶」と「譲渡所得課税❷」ということにする。 前記Ⅰで引用したシャウプ勧告によれば、譲渡所得課税❶は、「発生した所得に対する厳格な課税理論」に従って「納税者の資産の市場価値の一年内の増加額」に対して毎年行われるべき課税であり、譲渡所得課税❷は、「納税者が、その資産を売却して 、利得を現金または他のより流動的な形態で実現する場合に限って」その「実現」した利得に対して行われる課税であり、「この実現が適当な期間内に行われる限り」譲渡所得課税❶が「僅かに延期された」にすぎないものである。 このように、譲渡所得課税❶と譲渡所得課税❷とは「譲渡所得課税の趣旨」の内部で並列的・一体的な関係にあるのではなく、課税時期の点ではむしろ譲渡所得課税❶が先行し譲渡所得課税❷が遅れるという関係にあると考えられる。 ここで、「譲渡所得課税の趣旨」の内部のこの関係(「趣旨内競い合い」)を陸上トラック競技に、譲渡所得課税❶と譲渡所得課税❷を陸上トラック競技で競い合う2人の走者にそれぞれ見立てると、シャウプ勧告では、譲渡所得課税❷は譲渡所得課税❶の「僅かに」後を随走するものとして想定されていた、といってよかろう。これに対して、その想定を外れ譲渡所得課税❷が譲渡所得課税❶に「無制限に」遅れる場合については、前記Ⅰでの引用部分に続けて、次のとおり述べられていた(福田監修=シャウプ税制研究会編・前掲書311頁。下線筆者)。 これは、「税制改革の方針の目的を十分に達成しようとするならば、キャピタル・ゲインの全額課税は、絶対に逸脱や妥協の許されない一点なのである。」(福田監修=シャウプ税制研究会編・前掲書311頁)とするシャウプ勧告の基本的立場を貫徹する提言であり、譲渡所得課税❷の「無制限の延期」の防止を必要とするものであるが、そのためにみなし譲渡課税が規定されたのである(旧所税5条の2。現行所税59条1項参照)。この点について、昭和43年最判は前記Ⅰでの引用部分に続けて次のとおり判示した(下線筆者)。 要するに、シャウプ勧告は、贈与・相続等による資産の無償移転の場合に起こり得る譲渡所得課税❷の「無制限の延期」をみなし譲渡課税によって防止し、もって「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の大きな(「無制限の」)遅れを明文のルールによって挽回し、譲渡所得課税❷が譲渡所得課税❶の「僅かに」後を随走するとの想定を維持しようとしたのである。 ただ、その後(特に昭和48年所得税法改正後は)、シャウプ課税の上記の想定は、原則として所得税法上維持されなくなり、代わって、譲渡所得課税❷の遅れは、取得費の引継ぎによる課税繰延べ(現行所税60条1項)によって所得税法上と正当化されることになった。 Ⅲ 「趣旨内競い合い」の遅れ挽回の試み 1 代金長期延払に係る譲渡所得の課税時期に関する裁判所の判断 ところで、シャウプ勧告の前記の想定がなお基本的に維持されていた当時、代金の長期延払による不動産売買の場合の「趣旨内競い合い」において譲渡所得課税❷のかなりの(部分的・逓減的な)遅れを認めるかどうかが争われたことがある。昭和47年最判の争点は、譲渡所得の課税時期について「要するに、代金の長期延払による譲渡所得について、そのような代金の延払によらない通常の譲渡所得におけると同じように課税するのが相当であるかどうか」(清永敬次「判批」㋑民商法雑誌69巻1号(1973年)159頁、164頁)であるが、これを「趣旨内競い合い」の観点から表現すれば、上記のようになろう。 原々審・熊本地判昭和38年2月1日行集14巻2号257頁(以下「昭和38年熊本地判」という)は、「譲渡所得課税の趣旨」法理(これが裁判所の判断で初めて採用されたのは昭和39年浦和地判においてであったと思われる)の登場前の判断であったためであろうか、本件の争点を「趣旨内競い合い」の観点からは捉えず、むしろ譲渡所得の年度帰属の観点だけから捉えた上で、下記のとおり判示して(下線筆者)、「衡平の見地から」、「本件においては権利確定主義の原則をそのままに適用すべきものではなく、例外的に現実収入主義を適用すべき場合であると認めるのが相当である。」として、本件がその例外の場合に当たる旨の判断を示したが、ただ、本件の争点を「趣旨内競い合い」の観点から捉え直すと、結局のところ、本件の「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れを認めたことになるといってよかろう。 これに対して、原審・福岡高判昭和41年7月30日訟月12巻10号1457頁(以下「昭和41年福岡高判」という)は下記のとおり判示して(下線筆者)、旧所得税法9条1項8号及び10条1項の規定を、「譲渡所得の本質」に立脚して「権利確定の時期を基準として譲渡所得の帰属年度を決すべきもの」として理解し、本件の「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れを認めなかった。 昭和47年最判も結論としては昭和41年福岡高判と同じく本件の「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れを認めなかったが、ただ、同最判は次のとおり判示して(下線筆者)その結論を「譲渡所得課税の趣旨」法理(昭和43年最判)だけから導き出した。 2 「趣旨内競い合い」の遅れ挽回の法的根拠 昭和38年熊本地判は、控訴審・昭和41年福岡高判のように「譲渡所得の本質」あるいは上告審・昭和47年最判のように「譲渡所得に対する課税制度の本旨」(「譲渡所得課税の趣旨」法理)には言及せず、専ら「権利確定主義」及び「現実収入主義」の妥当範囲の観点から譲渡所得の課税時期について判断を示したが、上級審の判断との関係では、権利確定主義が譲渡所得の課税時期の判断基準として「常に絶対的なものではな[い]」旨を判示したところに重要な意義があると考えられる(同熊本地判を支持する見解として清永敬次「判批」㋒シュトイエル15号(1963年)1頁参照)。 この判示は、「収入すべき金額」(旧所税10条1項)に関する「『権利の確定』について法はなにもいつていない。」(清永敬次「判批」㋓シュトイエル56号(1966年)16頁、20頁)という正当な指摘(権利確定主義が「収入すべき金額」の解釈によって定立された規範でないとの筆者の見解については前掲拙著【336】参照)に照らして、妥当であると考えられる。その妥当性は、その後、利息制限法制限超過利息[所得税]事件・最判昭和46年11月9日民集25巻8号1120頁(以下「昭和46年最判」という)がいわゆる管理支配基準を示したこと(前掲拙著【335】参照)から、より一層明らかになったといえよう。 しかし、昭和38年熊本地判のように、代金の長期延払に係る譲渡所得の課税時期を現実収入主義によって判断することを認めてしまうと、当該譲渡所得に対する課税(譲渡所得課税❷)が前記Ⅱでみたシャウプ勧告の想定から外れることになってしまう。その結果生じる譲渡所得課税の遅れを挽回するために、昭和41年福岡高判は、昭和39年浦和地判がシャウプ勧告に立脚して判示した譲渡所得課税の趣旨に相当する「譲渡所得の本質」を援用し、これに基づき権利確定主義による譲渡所得の課税時期の判断を補強し、もって本件の「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れを挽回しようとしたものと解される。 これに対して、昭和47年最判は、昭和46年最判による管理支配基準の採用により権利確定主義のいわば「絶対性」の崩壊が明らかになったこと(清永・前掲「判批」㋑166頁はこのことを示唆するように思われる)に加え、本件当時の通達上の割賦販売の取扱いや昭和40年全文改正後の所得税法132条による延払条件付譲渡に係る所得税額の延納(同166-167頁参照)をも考慮して、譲渡所得の課税時期の判断について権利確定主義を援用せず、「譲渡所得課税の趣旨」法理のみによってその判断を行ったものと解される。すなわち、昭和47年最判については、「帰するところ当該資産の所有権の移転の時に譲渡所得にかかる収入金額が発生するとする考え方に立っていることは明らかであろう。そして、とくに代金の支払が長期にわたるような場合でもこれと別異に解すべきではないとした点に本判決の意義が存在するのである。」(同166頁)との理解が示されているところである。 しかし、譲渡所得の課税時期の判断を「譲渡所得課税の趣旨」法理のみによって行い、もって本件の「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れを挽回しこれが譲渡所得課税❶の「僅かに」後を随走するようにするのは、無理があるように思われる。というのも、「譲渡所得課税の趣旨」法理は、あくまでも譲渡所得課税の趣旨を述べるものにすぎず、実定租税法規そのものではなく、「趣旨内競い合い」の遅れ挽回の法的根拠としては薄弱なものといわざるを得ないからである(なお、「租税法規の趣旨・目的の法規範化論」の問題性については、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第7回Ⅲ参照)。 この点については、確かに、下記のとおり説いて(下線筆者)昭和47年最判を擁護する見解(堺澤良「判批」税経通信28巻6号(1973年)209頁、215-216頁。渡辺徹也「判批」別冊ジュリスト178号(租税判例百選〔第4版〕・2005年)74頁、75頁も参照)もあるが、しかし、無償譲渡の場合についてみなし譲渡課税を定めるような明文の規定が、本件のような代金の長期延払の場合については定められていない以上、そのような擁護論にも無理があるように思われる。 そうすると、昭和47年最判が前記引用のとおり「割賦払いの期間が長期にわたるときは、売主は、初年度において現実に入手した代金額が過少であるにもかかわらず、より多額の納税を一時的に必要とすることになるわけで、これはもとより好ましいことではないが、前述のように、年々に蓄積された増加益が一挙に実現したものとみる制度の建前からして、やむをえないところといわなければならない。」と判示したのは、妥当でないように思われる。そのような判示をもって、本件において「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れの挽回を正当化するのは、譲渡所得に対する課税制度に対して無理を強いる過重な負担を課すことになると考えられる。 むしろ、昭和38年熊本地判のように、本件においては「衡平の見地から」延払支払期ごとに当該譲渡所得に対して部分的に課税していく考え方によるのが妥当であると考えるところである。その考え方によれば、「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷がかなり遅れることになるとしても、その遅れは、贈与・相続等の無償譲渡の場合のみなし譲渡課税のような特別な措置を所得税法上定める立法によって、挽回すべきものであって、司法に対する租税法律主義の要請としての司法的救済保障原則(前掲拙著【27】参照)の下では、裁判所とりわけ最高裁判所は「衡平の見地」を重視して(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)119頁以下、特に136-138頁[初出・2022年]参照)、本件における「課税上の衡平」の実現を追求すべきであったように思われる(清永・前掲「判批」㋑167-168頁も参照)。 Ⅳ おわりに 以上、今回は、昭和43年最判によって示されその後判例法理として確立されるに至った「譲渡所得課税の趣旨」法理について、本質的・理論(包括的所得概念論)的観点からみた譲渡所得課税❶と実定法的観点からみた譲渡所得課税❷とが課税時期の点で同法理の内部で競い合う関係にあると考えた上で、「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れをシャウプ勧告の想定内にとどめるためにその遅れを挽回する措置ないし法的根拠を検討した。 昭和43年最判は、みなし譲渡課税の事案において「譲渡所得課税の趣旨」法理を判示したものであるが、そうであるが故に、シャウプ勧告の想定どおり「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れをみなし譲渡課税によって挽回することができ、その遅れの問題性を顕在化させることはなかった。 これに対して、昭和47年最判は、不動産譲渡代金の長期延払の事案において「譲渡所得課税の趣旨」法理を判示し、これのみによって「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れを挽回しようとしたものであったがために、譲渡所得に対する課税制度に対して無理を強いる過重な負担を課すことになった。 昭和47年最判をこのように理解すると、同最判には「譲渡所得課税の趣旨」法理の「独走」の始まりを認めることができるように思われる。ここで「独走」という表現は、昭和50年最判に対する下記の論評(竹下重人「判批」別冊ジュリスト79号(租税判例百選〔第2版〕・1983年)76頁、77頁。下線筆者)から、借用したものであるが、次回検討する昭和50年最判では、まさに「譲渡所得課税の趣旨」法理の「独走」がより一層顕著になり、「趣旨内競い合い」における譲渡所得課税❷の遅れの問題性が拡大・増幅され、昭和47年最判とは異なる意味・文脈でも検討を要することになったと考えるところである。 (了)
グループ企業の税務Q&A 第 1 回 グループ通算制度を適用していて 譲渡損益調整資産が通算子法人株式の場合 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター/税理士 川瀬 裕太 ◆連載開始にあたって◆ グループ企業に特有の税務として、グループ法人税制、組織再編税制、グループ通算制度などがあり、各制度は複雑で導入や適用にあたっては多くの注意点があります。 本連載ではそれら実務上の注意点を取り上げQ&Aの形式で解説を行いますが、その中でも特に、一方の制度を適用した場合に他方の制度にどのような影響があるかといった制度横断的な論点を中心に取り上げ、わかりやすく解説を行いたいと思います。 * * * ◆ ◆ ◆〈解説〉◆ ◆ ◆ 1 グループ法人税制 (1) 譲渡利益額又は譲渡損失額の繰延べ 内国法人(普通法人又は協同組合等に限ります)がその有する譲渡損益調整資産(下記(2)参照)をその内国法人との間に完全支配関係がある他の内国法人(普通法人又は協同組合等に限ります)に譲渡した場合には、その譲渡損益調整資産に係る譲渡利益額又は譲渡損失額に相当する金額は、その譲渡した事業年度の所得の金額の計算上、損金の額又は益金の額に算入することとされています(法法61の11①)。 (2) 譲渡損益調整資産 譲渡損益調整資産とは、固定資産、土地(土地の上に存する権利を含み、固定資産に該当するものを除きます)、有価証券、金銭債権及び繰延資産で一定の資産以外の資産をいいます(法法61の11①、法令122の12①)。 なお、譲渡損益調整資産から除かれる一定の資産は、次に掲げる資産をいいます(法令122の12①)。 (3) 譲渡直前の帳簿価額が1,000万円に満たないかどうかの判定 譲渡直前の帳簿価額が1,000万円に満たない資産かどうかの判定単位については、次に掲げる資産の区分に応じその定めるところにより区分した単位とされています(法令122の12①三、法規27の13の2、27の15)。 (4) 繰り延べられた譲渡利益額又は譲渡損失額の計上 内国法人が譲渡損益調整資産に係る譲渡利益額又は譲渡損失額につき譲渡損益の繰延べの適用を受けた場合において、譲渡を受けた法人において、その資産の譲渡、償却、評価換え、貸倒れ、除却等が生じたとき、譲渡した法人と譲渡を受けた法人との間の完全支配関係がなくなったとき、譲渡法人がグループ通算制度の開始・加入・離脱等に伴う時価評価を行うこととなったときには、繰り延べられた譲渡利益額又は譲渡損失額を計上することとされています(法法61の11②③④、法令122の12④)。 2 譲渡対象資産が通算子法人株式の場合 (1) 譲渡利益額又は譲渡損失額の繰延べ 他の通算法人の株式で当該他の通算法人以外の通算法人に譲渡されたものは、完全支配関係がある法人の間の譲渡損益の調整の対象外となる「譲渡の直前の帳簿価額が1,000万円に満たない資産」から除かれており、帳簿価額が1,000万円に満たないときであっても、譲渡損益が計上されないこととなります(法令122の12①三)。 (2) 繰り延べられた譲渡利益額又は譲渡損失額の非計上 通算法人が譲渡損益調整資産に係る譲渡利益額又は譲渡損失額につき譲渡損益の繰延べの適用を受けた場合において、譲渡損益調整資産の譲渡が他の通算法人(損益通算の規定の適用を受けない初年度離脱通算子法人及び通算親法人を除きます)の株式の当該他の通算法人以外の通算法人に対する譲渡であるときは、その譲渡損益調整資産については、上記1(4)の繰り延べられた譲渡利益額又は譲渡損失額の計上の規定は適用せず、譲渡利益額又は譲渡損失額を益金の額又は損金の額に算入することはありません(法法61の11⑧)。 なお、譲渡損益を計上しないこととされた他の通算法人の株式の譲渡利益額に相当する金額から譲渡損失額に相当する金額を減算した金額については、利益積立金額の期末の増加項目とされています(法令9一チ)。 3 本件へのあてはめ 通算子法人A社がC社株式(通算子法人株式)を通算子法人B社に対して譲渡した場合、通算グループ内で通算子法人株式を譲渡することとなるため、帳簿価額が1,000万円に満たないときであっても、譲渡損益調整資産に該当し、グループ法人税制の規定により譲渡利益額又は譲渡損失額が繰り延べられます。 通算グループ内の通算子法人株式の譲渡に伴い、通算子法人A社がC社株式(通算子法人株式)に係る譲渡利益額又は譲渡損失額につき譲渡損益の繰延べの適用を受けた場合には、損益通算の規定の適用を受けない初年度離脱通算子法人株式及び通算親法人株式を除き、繰り延べられた譲渡利益額又は譲渡損失額を計上する規定が適用されないため、C社株式(通算子法人株式)について繰り延べられた譲渡利益額又は譲渡損失額が再度計上されることはありません。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例154(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(賃上げ促進税制) (1) 原則(措法42の12の5①) 青色申告書を提出する法人が、令和4年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度(設立事業年度、解散(合併による解散を除く。)の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度を除く。以下同じ。)において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、その事業年度においてその法人の「継続雇用者給与等支給額」からその「継続雇用者比較給与等支給額」を控除した金額のその「継続雇用者比較給与等支給額」に対する割合が3%以上であるときは、その法人のその事業年度の所得に対する法人税額から、その法人のその事業年度の「控除対象雇用者給与等支給増加額」の10%を控除する。ただし、法人税額の20%相当額が限度となる。 (2) 中小企業等の特例(措法42の12の5③) 中小企業者等(適用除外事業者に該当するものを除く)が上記(1)の適用を受ける事業年度を除き、平成30年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、その事業年度においてその中小企業者等の「雇用者給与等支給額」からその「比較雇用者給与等支給額」を控除した金額のその「比較雇用者給与等支給額」に対する割合が1.5%以上であるときは、その中小企業者等のその事業年度の所得に対する法人税額から、その中小企業者等のその事業年度の「控除対象雇用者給与等支給増加額」の15%を控除する。ただし、法人税額の20%相当額が限度となる。 ◆中小企業者等の法人税率の特例(法66②⑤、措法42の3の2①) 普通法人のうち中小企業者等の各事業年度の所得の金額のうち年800万円以下の部分に適用される税率を15%(本則課税19%)に軽減する。 ◆中小企業者(措令27の4⑰) 資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下の法人のうち次に掲げる法人以外の法人又は資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人。 ◆適用除外事業者(措法42の4⑲八) 中小企業者のうち、その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度(以下「基準年度」という。)の所得の金額の合計額を各基準年度の月数の合計数で除し、これに12を乗じて計算した金額が15億円を超える法人をいう。 ◆適用除外事業者が制限を受ける中小企業向け特例 中小企業者が適用除外事業者に該当する場合には、主に次のような法人税関係の中小企業向けの各租税特別措置の適用を受けることができない。 中小企業者等の法人税率の特例(措法42の3の2①) 研究開発税制(措法42の4④~⑥) 中小企業投資促進税制(措法42の6①②) 地方拠点強化税制(措令27の11の3) 中小企業経営強化税制(措法42の12の4①②) 賃上げ促進税制(措法42の12の5③) 被災代替資産等の特別償却(措法43の2①②) 特定事業継続力強化設備等の特別償却(措法44の2①) 中小企業者等の貸倒引当金の特例(措法57の9①②) 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(措法67の5①) (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第56回】 「中古の機械及び装置について、設備の相当部分が中古資産によって成り立っていると評価することができる場合に該当しないから、簡便法による耐用年数での償却が認められなかった事例」 税理士 菅野 真美 ▷減価償却と耐用年数 有形固定資産には、時の経過や使用により価値の減少するものと、このような理由により価値の減少しないものに分かれる。時の経過や使用により価値の減少するもの(減価償却資産)については、使用可能期間に応じ、一定のルールにより価値の減少部分を費用化する減価償却という方法が用いられる。 減価償却を行う際に、必ず決めるものが、使用可能期間、すなわち、耐用年数である。この耐用年数は、資産の種類や使用状況等により変化するため当初に見積もることは難しい。 しかし、耐用年数を恣意的に決めると租税回避に利用されかねないので、税務上、損金又は必要経費に算入できる減価償却費や耐用年数については、減価償却資産の耐用年数等に関する省令で定められている。 ▷中古資産の耐用年数と簡便法 減価償却資産は新品の時だけに購入等するとは限らない。中古の減価償却資産を取得してから、事業の用に供する場合の耐用年数について、新品と同様の耐用年数を使用するのは不合理である。 耐用年数省令3条第1項において中古資産の耐用年数が定められている。中古資産については、その資産をあと何年使えるかを合理的に見積もる方法(見積法)(同条1項1号)により計上することが認められているが、適切な見積耐用年数を見出すのは難しい。そこで、中古資産を事業の用に供するために支出した金額が、取得価額の100分の50相当額以下の場合には、次の算式による方法(簡便法)(同条1項2号)で償却することも認められている。 【簡便法】 法定耐用年数の全部を経過した資産 法定耐用年数×20% 法定耐用年数の一部を経過した資産 (法定耐用年数-経過年数) +経過年数× 20% ただし、減価償却資産を事業の用に供するに当たって支出した資本的支出の金額が減価償却資産の再取得価額の100分の50に相当する金額を超えるときは、法定耐用年数により償却をしなければならない(耐用年数通達1-5-2)。 ▷機械及び装置における「総合償却」の壁 ところで、中古資産である機械及び装置についても簡便法の適用は認められている。しかし、複数の資産により構成される設備の稼働によってはじめて、本来の機能を発揮し、収益の獲得に寄与するものであるから、個々の償却資産毎に耐用年数を決めて償却するのではなく、設備を構成する一体のものについては、共通の耐用年数で償却費を計算する総合償却法が用いられている。 設備の一部の機械が使用できなくなったために中古の機械及び装置を購入した場合の耐用年数を個別に算定していいのかという問題が生ずる。法人が工場を一括して取得する場合等別表第二(機械及び装置)に掲げる一の「設備の種類」又は「種類」に属する資産の相当部分につき中古資産を一時に取得した場合に限り、総合耐用年数を見積って中古資産以外の資産と区別して償却することができる(耐用年数通達1-5-8)。この相当の部分とは、取得した資産の再取得価額の合計額が、その資産の属する設備全体の再取得価額の合計額のおおむね100分の30以上(耐用年数通達1-5-10)と定められている。 今回は、中古の機械及び装置を取得し、資本的支出をした場合の耐用年数について、簡便法で償却できるかで争われた事案を検討する。 ▷どのような事案か 化粧品及び医薬部外品の製造業を営む法人が、法定耐用年数の全部又は一部経過した機械及び装置を取得し、資本的支出をして事業の用に供した。そして、簡便法による耐用年数(2年、3年)で減価償却を計算して申告をしたところ、課税庁から、本件機械及び装置は総合減価償却資産に該当し、法定耐用年数(8年)で償却をすべきであるとして更正処分等をした。この処分に不満な法人が審査請求をしたが棄却され、不服な法人が訴訟を提起したのが本件である。 本件で問題となった機械及び装置の取得価額は以下のとおりである。 充填機 (法定耐用年数全部経過) 4,463,500 円 充填機の資本的支出 6,400,000 円 包装機 (法定耐用年数一部経過) 1,593,000 円 合計 12,456,500 円 本法人の機械及び装置の取得価額 535,695,322 円 ▷争点 争点は、設備の一部を構成する中古資産を取得した場合における耐用年数省令3条1項2号(簡便法)の適用と、各資産の耐用年数である。 ▷判決 判決は、納税者の請求を棄却した。 「機械及び装置」については、設備を構成する各資産を個別の償却年数により償却するのではなく、それらを一体のものとして共通する耐用年数で償却する総合償却法を採用している。だから、耐用年数は、設備の種類ごとに「細目」を定め、「細目」も、事業の目的に応じて、どのような製造等に用いられている設備であるかによって総括的に定められている。 このような機械及び装置について、簡便法が適用されるためには、総合償却法との整合が取れるような場合に限られる。すなわち、法人が既に稼働している工場を一括で取得した場合など、設備の相当部分が中古資産によって成り立っていると評価することができる場合に限られる。 ▷各資産の耐用年数 工場において化粧品等の生産に用いられる各種機械は、各部門の連携の下で、多種類の化粧品等を生産するという目的を実現しているものであるから、各部門に属する資産は、連動あるいは連携して、集団的に生産手段として用いるものということができる。したがって、これらの資産の総体が、耐用年数表にいう「設備」の単位となる。 機械及び装置の取得価額について535,695,322円で申告しており、 設備を構成する各資産の再取得価額の合計金額も同程度と推認される。 他方、取得した各資産の合計額は12,456,500円であるから 設備総額の約2.3%である。また法人が主張する充填機の再取得価額が42,500,000円を考慮したとしても取得した各資産の合計額が50,493,000円であるから設備総額の約9.4%である。よって、各資産が設備の相当部分を占めるものといえない。 したがって、各資産について簡便法を適用することができず、法定耐用年数によるべきである。化粧品等の生産設備の一部を構成する資産だから、「化学工業用設備」の細目「その他の設備」に該当し、法定耐用年数は8年となる。 本件は、控訴したが控訴審でも棄却され、上告及び上告受理申立てをしたが、上告審でも上告は棄却され、不受理となり確定している。 このように総合償却が適用される機械及び装置の場合は、取得した単体の中古資産だけを切り出して簡便法で耐用年数を適用することには厳しい制約がある。機械及び装置の取得価額は高額なことが多く、耐用年数の間違いによる追加税額も大きくなるから、中古の機械及び装置を取得した場合の簡便法による耐用年数の適用には慎重な検討が必要である。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第85回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 ク CARFとプライベートウォレットアドレスの情報 CARFにおける情報交換の対象となる税務情報には、暗号資産の残高情報は含まれていないものの、利用者や事業体に係る実質的支配者の氏名、住所・所在地、居住地国、納税者番号、生年月日、出生地のほか、報告対象となる暗号資産の種類、法定通貨による購入や売却、暗号資産の交換、受領及び移転に係る暗号資産の名称、総額、総数量、件数などが含まれる(本連載第73回の29(1)参照)。 このようにCARFでは、取引件数や総数量など一定期間における集計データも含めて報告対象としており、定量的把握によって課税対象取引・取引額の検出を可能とする設計が採用されている。 他方、CARFでは、単純な売買取引にとどまらず、暗号資産の移転や取得を伴う様々な経済活動についても、RCASPによる把握が可能である限り、その内容に応じて、取引タイプとして分類され、報告対象となる。 このような取引タイプには、以下のようなものが含まれる。 (※) UK LAW COMMISSION, DIGITAL ASSETS: FINAL REPORT xv(2022); ETHEREUM.ORG, Blocks(last updated November 28, 2025)参照。 こうした取引は、従来の金融資産とは異なる報酬メカニズムを伴うため、その経済的価値や取得原因の特定が、実務上の課題となりうる。 CARFにおいては、取引の正確な内容までを把握するのではなく、RCASPが認識している取引タイプに従って報告情報を整理することに主眼が置かれている。したがって、RCASPの取引分類能力や取引内容のラベル付けの精度が、報告制度全体の正確性と実効性に直結する可能性がある。 今後はRCASPに対する明確な分類基準の提供や監査可能性の確保が論点に上がってくるかもしれない。 ところで、CARFは、外部のウォレットアドレスに暗号資産が送付されている場合に、RCASPにそのウォレットアドレスの報告を義務付けるものではない。 当初の草案ではウォレットアドレスも報告対象であったが、業界からの要望により変更されたようである。 代替策として、税務当局はフォローアップ要請を利用して、特定のウォレットアドレスに係る情報(5年間以上、保存する義務あり)を追加で入手することが可能であるとされている。 しかしながら、5年以上保存義務では場合によっては更正の期間制限を徒過することになるし、結局、代替策が有効に機能せずに、プライベートウォレットと分散型アプリケーションがもたらす課税の抜け穴を放置することになりはしないかといった問題がある(See OECD, INTERNATIONAL STANDARDS FOR AUTOMATIC EXCHANGE OF INFORMATION IN TAX MATTERS: CRYPTO-ASSET REPORTING FRAMEWORK AND 2023 UPDATE TO THE COMMON REPORTING STANDARD 4, 21, 35, 48(2023) ; Roger Brown & Norman Hannawa, Reporting Obligations of the OECD Crypto Asset Reporting Framework, CHAINALYSIS (Oct. 25, 2022)、Bob Michel, EU Ambition for DAC8 Transparency on Crypto Is Cut Short by Failure to Think Outside the OECD Box, TAX JUSTICE NETWORK (May 25, 2023))。 なお、日本版CARFにおいても、報告暗号資産交換業者等は、利用者(暗号資産等取引実施者)に係るプライベートウォレットのアドレスの情報までを所轄税務署に報告しなければならないとされているわけではない。 ただし、暗号資産等の移転や受け入れに係る取引も報告対象に含まれており、ここには外部のプライベートウォレットに移転をした又は外部のプライベートウォレットから受け入れた暗号資産等が含まれるであろう。 よって、税務当局が、報告暗号資産交換業者等に積極的に働きかけて利用者に係る外部のプライベートウォレットのアドレスの情報を当該業者等から入手することは可能である。 この点について、報告暗号資産交換業者等による報告事項の提供に係る税務職員の質問検査権が設けられている。 すなわち、国税庁、国税局又は税務署の当該職員は、報告事項の提供に関する調査について必要があるときは、その報告事項の提供をする義務がある者に質問し、その者の報告対象契約に関する帳簿書類その他の物件を検査し、又はその物件(その写しを含む)の提示若しくは提出を求めることができるほか、報告事項の提供に関する調査について必要があるときは、その調査において提出された物件を留め置くことができる(実特法10の13①②、実特規16の21、通令30の3)。 上記の質問検査権が元来報告対象外である外部のプライベートウォレットのアドレスに関する事項や物件等についてまで及ぶかどうかは明らかにされていないが、少なくとも国税庁は「及ぶ」と考えるであろう。 なお、日本版CARFにおいては、例えば次に掲げる行為をした者に対して、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金を用意することで、制度の実効性を確保している(実特法13④)。 また、暗号資産等取引を行った者等による報告事項の提供の回避を主たる目的とする行為等があった場合の特例を設けている。 すなわち、暗号資産等取引を行った者、その関係者又は報告暗号資産交換業者等が、その暗号資産等取引に係る契約に関する報告事項について、その提供を回避することを主たる目的の1つとしてその報告事項に係る行為を行った場合等には、その行為がなかったもの等として日本版CARFが適用される(実特法10の11)。 例えば、報告暗号交換業者等との間で暗号資産等の売買を行った者が、その居住地国をCARF不参加国に変更しない場合にはその取引情報を税務当局に報告されてしまうため、これを回避する目的をもって当該CARF不参加国に住所移転手続等を行うことなどが、上記の行為に該当するものと考える。 (了)