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社長からの無理難題の断り方・かわし方 【第6回】「妻のへそくり」

社長からの無理難題の 断り方・かわし方 第6回 妻のへそくり 〈JUN税会〉 税理士 杉澤 雄一   * * 解 説 * * 1 事実関係の把握 社長の奥さんへのヒアリングと現状確認により、以下の事実が確認されました(※1)。 (※1) 平成19年4月11日裁決 東裁(諸)平18-230【TAINSコード:F0-3-312】を参考に筆者が作成。   2 法的論点の整理 (1) 名義預金の定義 名義預金については、相続税法上に明確な定義はありませんが、国税庁HPでは、被相続人名義以外の財産に関して次のとおり記載されています(※2)。 (※2) 国税庁 HP「誤りやすい事例⑥-申告書第11表の付表3関係-」より引用。 すなわち、名義預金とは、被相続人以外の者の名義となっている預金のうち、被相続人の財産と認められるものをいいます。 (2) 名義預金に該当するかの判断基準 ある預貯金が名義預金であるかどうかの判断基準として、裁判例を確認すると、東京地方裁判所平成20年10月17日判決 において次のような判断が下されています。 この判示を整理すると次の5つのポイントを総合的に勘案して事実認定が行われることになります。 これらの要素は、どれかひとつを満たせば成立するというものではなく、各自が相互に関連しながら事実認定が実施されます。また、それぞれの間で明確な優先順位は定められていませんが、税務調査の際には特に①の出捐者と②の管理及び運用について、重点的に質問や確認が行われています。 なお、税務調査の際には事実関係を調べるために次のような確認作業が行われます。   3 本件事例への当てはめ (1) その財産又はその購入原資の出捐者→誰が資金の拠出者なのか 奥さんのへそくりは、社長が働いて稼いだお金をもとに形成された現預金と推認されます。したがって、この要件にあてはめると社長の財産に該当することになります。 たとえ「残りのお金はお前にやる。好きにしてよい。」と約束していたとしても、このような生活費として手渡された金銭の法的性質は、裁判例等において夫婦共同生活の基金と解されています(※3)。 (※3) (※1)裁決事例参照。 そのため、預金の名義が奥さんのものになっていたとしても、直ちにその全額が奥さん固有の財産になるとはいえないでしょう。 (2) その財産の管理及び運用の状況→誰が管理・運用していたのか 奥さんが自身の口座の開設や入出金の手続きを行い、印鑑や通帳も手元で管理していたのは、この要件を検討するうえで、重要な判断材料となります。また、社長の通帳や預金の管理もしていたということですが、この点については、一般的に夫婦間においては、妻が夫の財産について管理及び運用をするのはよくあることです。 事実認定については意見の分かれやすいところではありますが、要するに奥さんが口座を実際に管理していた事実があったとしても「老後の楽しみに備えて貯める一方で特に使っていなかった」という運用実態では、奥さんがその預金を夫の意向にかかわりなく自己のものとして利得したことを示す根拠としては乏しいといえるでしょう。そのため、今回の説例に関しては、夫の意向にかかわりなく自己のものとして利得したという実質が伴っていないため、名義預金として認定される可能性が高いと考えます(※4)。 (※4) 東京地方裁判所平成20年10月17日判決【TAINSコード:Z258-11053】参照。 (3) その他の要件について 加えて、次の事情を考慮すると、奥さん固有の財産と主張するための要素は乏しいと評価せざるを得ません。 以上の各要素を総合的に勘案すると将来的に社長に相続が発生し税務調査が実施された場合には、今回の設例の奥さんのへそくりは、名義預金として税務署から指摘を受ける可能性が高いといえるでしょう。今あるへそくりは、これ以上増えないように使っていくなど対策を講じる必要があります。これを機に奥さんには、贈与の手続きが曖昧なへそくりは、節税にはならないと認識を改めてもらいましょう。   4 調査の現場で経験した事例 実際に税務調査で名義預金として指摘された事例を紹介します。 【資金移動が行われた際に、受贈者に収入がなかった事例】   5 実務上の対応策 今回の無理難題のような事態をかわすために実務では、次のようなポイントに注意しましょう。 (1) まずは、贈与者と受贈者の間で贈与の意思確認を行いましょう。なお、民法549条(贈与)によると「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」と定められており、贈与者と受贈者の贈与の意思表示が合致すれば口頭による場合でも成立しますが、証拠資料として主張するためにも生活費の残額について贈与契約書を作成しましょう。なお、贈与契約書については、公証役場で確定日付を付けてもらうのが良いでしょう。 (2) 受贈者が口座の開設等の手続きを行い、通帳や印鑑の管理も行いましょう。そのうえで、自身がその預貯金について自由に使える状態であることがポイントになります。名義預金という疑義を持たれないためにもお金は貯めるだけでなく必要に応じて実際に使うことが重要です。なお、印鑑は家族で使い回すのではなく各自のものを使用するのが望ましいといえます。 (3) 税務調査の際には、その預貯金が贈与されたものなのか、親からの相続等により取得したものなのか説明ができるようにしましょう。仮に「分からない」など曖昧な返答をすると名義預金かもしれないという心証を調査官に強く与えてしまいます。 (4) 現時点で、名義預金が発生している場合には、その預金を解消するために貯めるのではなく今後の生活費として費消していくか、出捐者の元へ返金するのかを慎重に検討する必要があります。 (※5) 国税不服審判所令和元年9月10日裁決【TAINSコード:F0-3-725】参照。 (※6) 国税不服審判所令和4年2月15日裁決【TAINSコード:J126-3-04】参照。名義預金の立証責任は課税庁側にありますが、審判所は課税庁が採用した収入比率を用いたあん分計算による財産の帰属を判断する方法について「原処分庁の主張する本件被相続人及び本件配偶者の収入比率は、正確性を欠くものといわざるを得ず、これを前提に本件現金等の帰属を判断することはできない。」と判断しました。すなわち、収入比率は、客観的合理性を有する方法により各人の生涯収入の金額を推認できなければならないものと考えられます。

#No. 672(掲載号)
#杉澤 雄一
2026/06/11

〈適切な判断を導くための〉消費税実務Q&A 【第21回】「税務申告の名義と実態はどのように判断されるのか」

〈適切な判断を導くための〉 消費税実務Q&A 【第21回】 「税務申告の名義と実態はどのように判断されるのか」   税理士 石川 幸恵   【Q】 家族で建築業を営んでいます。一般建設業の許可を受けているのは弟であり、許可の更新手続きの都合上、弟の名義で所得税や消費税の申告を行っています。一方で、実質的な営業活動や契約、資金管理はすべて私が行っていますが、税務上、どのような問題が生じますか。 【A】 実質的に事業を経営しているあなた自身の所得として所得税の申告をし、消費税もあなた自身が資産の譲渡等の対価を享受したものとして申告しなければなりません。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 1 実質所得者課税に関する規定 所得税法には次のように実質所得者課税の原則が設けられており、消費税法にも資産の譲渡等又は特定仕入れを行った者の実質判定という規定が設けられている。 〈所得税法第12条:実質所得者課税の原則〉 〈消費税法第13条:資産の譲渡等又は特定仕入れを行った者の実質判定〉 なお、法人税法第11条にも「実質所得者課税の原則」が規定されている。   2 実質所得者の判断ポイント 鉄筋工事業に係る事業所得が誰に帰属するかについて、納税者と税務署の間で争われた裁判例(大阪地裁令和3年1月27日判決(TAINSコード:Z271-13513))がある。本裁判例から、税務上「実質所得者が誰であるのか」を判定する際のポイントを確認したい。 (1) 事案の概要 本件は、一般建設業の許可や税務申告は「弟」名義でしていたものの、裁判所は、事業に係る収益を管理・処分していたのは「兄」であると認め、兄が所得税、消費税の納税義務者であり、かつ源泉所得税の徴収義務を負う者であると判断した事案である。 本来の納税義務者である兄が申告していなかったことから、無申告加算税も課されることとなった。 (2) 実質所得者の認定理由と兄弟の役割 裁判所は、事業に対する弟と兄の関与の実態を比較したうえで、一般建設業の許可を受け、税務申告を行ったのは弟であったが、所得税法上の事業から生ずる収益及び消費税法上の資産の譲渡等に係る対価を享受しているのは兄であると認めた。 〈弟(名義人)の役割〉 〈兄(実質所得者と判断された者)の役割〉 (3) 実務上の留意点 本件の背景には、一般建設業許可の更新手続きに確定申告書の写しが必要となるため、便宜上、許可の名義に合わせて弟名義で税務申告を行っていたという事情がある。 しかし、裁判所は名義ではなく、事業の収益を実際に管理・処分していた者を真の納税義務者として厳格に判断している。許認可の維持等の目的であったとしても、事業の実態に合わせて許認可名義や事業形態を適正に見直し、事業主体と申告名義人を一致させることが望ましかったと考えられる。 (了)

#No. 672(掲載号)
#石川 幸恵
2026/06/11

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第75回】「賃貸不動産の承継上の留意点」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第75回】 「賃貸不動産の承継上の留意点」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 佐藤 達夫   相談内容 私は、製造業を営むX社を経営しており、X社株式及びX社へ賃貸している不動産1棟(本社として使用)を所有しています。X社株式は昨年の12月に長男へ生前贈与を行いましたが、X社への賃貸不動産は、私がまだ所有しています。 この賃貸不動産はX社が本社ビルとして使用しているため、将来的にはX社自らが所有することが望ましいと考えています。そのため、賃貸不動産について、生前にX社へ譲渡することを考えていますが、賃貸不動産からの収益があるため、相続まで所有したいという考えもあります。 当該不動産について、生前にX社へ譲渡する場合と、相続まで所有し続け、長男が相続により承継した後に、長男からX社へ譲渡するときのそれぞれの課税上の留意事項を教えてください。 私が所有する資産・負債は、次のとおりです。 相続人は、長男になります。 《私の資産・債務》 (注1) 賃貸不動産 市場価格(時価):600,000千円 取得価額:500,000千円 帳簿価額:400,000千円 (注2) 借入金は、賃貸不動産を購入する際に銀行から借り入れたものです。 (注3) 預り敷金は、賃貸不動産をX社へ賃貸するにあたり、X社から差し入れられたものです。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 課税上の留意点 賃貸不動産について、生前に譲渡するか、相続後に譲渡するかを判断するための課税上の留意点は、次のとおりです。 (1) 賃貸不動産の相続税評価 相続時における賃貸不動産の相続税評価額は、次のとおり計算します。 (注1) 借地権割合:30%~90% (注2) 借家権割合:30% 賃貸不動産の市場価格(時価)は、主に収益性によって価格決定が行われているのに対し、相続税評価額は、路線価評価又は倍率評価をもとに借家権等を評価減して算定されます。そのため、将来の期待収益の上昇につれて市場価格(時価)が上昇するほど、相続税評価額との乖離が大きくなる傾向にあります。そのため、相続税評価額は市場価格(時価)の25%~30%程度になります。 こうした観点から、賃貸不動産を生前に譲渡した場合には、市場価格(時価)の80%程度(市場価格(時価)から譲渡所得税・住民税を控除後)が相続税の課税対象になるのに対し、相続後に譲渡した場合には、市場価格(時価)の25%~30%程度が相続税の課税対象になることから、賃貸不動産の市場価格(時価)が高い物件ほど、相続後に譲渡したほうが有利になります。 (2) 小規模宅地等の特例 相続又は遺贈により取得した賃貸不動産について、相続人が相当の対価を得て申告期限まで継続的に賃貸しているときは、土地の相続税評価額から限度面積までの一定の金額が減額されます(措法69の4)。 この場合の限度面積や減額割合は、X社の事業内容や親族の発行済株式に占める所有比率により、次のとおりになります。また、この減額を受ける場合には、相続又は遺贈により取得した賃貸不動産について、相続税の申告期限までに、遺産分割が成立していることが必要です。 この規定により、相続財産としての賃貸不動産のうち、土地については相続税評価額から一定額減額することが可能となります。 (3) 相続税の取得費加算の特例 相続又は遺贈により財産を取得し、相続税が課された者は、相続又は遺贈により取得した財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税申告書の提出期限の翌日以後3年以内(相続開始のあった日の翌日から3年10ヶ月以内)に譲渡した場合には、課された相続税額のうち、譲渡した資産に対応する部分の金額として次の算式により計算金額が、譲渡した資産の取得費に加算して譲渡所得を計算することができます(措法39)。 そのため、長男が、相続後に相続開始のあった日の翌日から3年10ヶ月以内に、X社へ賃貸不動産を譲渡した場合には、譲渡所得の計算において、課税された相続税の一定額を取得費に加算することができるため、生前に譲渡する場合に比べて、譲渡所得税・住民税が軽減されます。   [2] 事例へのあてはめ 生前に譲渡した場合と相続後に譲渡した場合との比較は、次のとおりです。 〈前提〉 《比較検証》 (注1) 譲渡所得税・住民税 〈生前に譲渡した場合〉 譲渡所得:200,000千円(売却代金600,000千円-帳簿価額400,000千円) 譲渡所得税・住民税:40,630千円(200,000千円×20.315%) 〈相続後に譲渡した場合〉 譲渡所得:198,596千円(売却代金600,000千円-帳簿価額400,000千円-相続税の取得費加算1,404千円(注2)) 譲渡所得税・住民税:40,345千円(198,596千円×20.315%) (注2) 相続税の取得費加算 17,000千円×36,000千円(※1)÷436,000千円(※2)=1,404千円 (※1) 土地180,000千円-小規模宅地等の減額144,000千円 (※2) 土地180,000千円-小規模宅地等の減額144,000千円+現預金400,000千円 (注3) 相続税のうち賃貸不動産対応分 〈生前に譲渡した場合〉 課税価格:639,370千円(売却代金600,000千円-譲渡所得税・住民税40,630千円+現預金400,000千円-借入金・預り敷金320,000千円) 基礎控除後の課税対象:603,370千円(課税価格639,370千円-基礎控除36,000千円) 相続税:259,854千円(603,370千円×55%-72,000千円) 相続税のうち賃貸不動産対応分:97,286千円(相続税259,854千円×239,370千円(※)÷課税価格639,370千円) (※) 売却代金600,000千円-譲渡所得・住民税40,630千円-借入金・預り敷金320,000千円 〈相続後に譲渡した場合〉 課税価格:116,000千円(賃貸不動産180,000千円-小規模宅地等の減額144,000千円+現預金400,000千円-借入金・預り敷金320,000千円) 基礎控除後の課税対象:80,000千円(課税価格116,000千円-基礎控除36,000千円) 相続税:17,000千円(80,000千円×30%-7,000千円) 相続税のうち賃貸不動産対応分:0千円(相続税17,000千円×0千円(※)÷課税価格116,000千円) (※) 賃貸不動産180,000千円-小規模宅地等の減額144,000千円-借入金・預り敷金320,000千円 ∴△284,000千円 ⇒ 0千円   [3] 結論 賃貸不動産については、市場価格(時価)と相続税評価額が大きく乖離しやすいため、賃貸不動産の市場価格(時価)を不動産鑑定等で把握してから、相続税評価額の算定を行うことにより、生前に譲渡するか、相続後に譲渡するかのシミュレーションが可能になります。 なお、相続開始直前に、市場価格(時価)と相続税評価額が大きく乖離する賃貸不動産を購入し、相続税を圧縮する行為については、税務調査により否認される可能性があるため留意が必要です。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。   (了)

#No. 672(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2026/06/11

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第187回】unbanked株式会社「調査委員会調査報告書(公表版)(2026年2月27日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第187回】 unbanked株式会社 「調査委員会調査報告書(公表版)(2026年2月27日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【unbanked株式会社調査委員会による調査の概要】   【unbanked株式会社の概要】 unbanked株式会社(以下、「unbanked」と略称する)は、1972年11月、第一商品株式会社と高津商事株式会社との新設合併により設立。設立時の社名は第一商品株式会社。2024年7月、商号をUNBANKED株式会社に変更した後、2025年7月に現商号に変更した。金地金事業を主たる事業とし、連結子会社でノンバンク事業(貸金業)を行っている。連結子会社4社、持分法適用会社1社によりグループを構成している。売上高9,489百万円、経常利益308百万円、資本金100百万円、従業員数8人。取締役5名のうち、代表取締役社長の安達哲也氏(以下、「安達氏」と略称する)及び取締役管理本部長の七條利明氏(以下、「七條氏」と略称する)の2名が業務執行を行い、他の3名は社外取締役監査等委員である(いずれも2025年3月期有価証券報告書による)。本店所在地は東京都渋谷区。東京証券取引所スタンダード市場上場。会計監査人は、2025年3月期決算までフロンティア監査法人、2025年6月27日付で、監査法人アリアが就任している。 【unbankedが調査報告書公表に至るまでの経緯】 2025年7月25日 unbankedの筆頭株主が、CB戦略1号投資事業有限責任組合から、Akatsuki Capital Works株式会社(以下、「Akatsuki」と略称する)に変更。Akatsukiは議決権の17.94%を保有。 7月29日 Akatsukiから派遣されたY氏から、安達氏に対して、新たに刻印のないスクラップ品の金地金取引を行いたいと提案 7月31日 第1回のスクラップ金地金取引を開始 11月19・20日 第26回、第27回のスクラップ金地金取引を実施 12月1日 第26回取引に係る販売代金が回収期日までに未入金となる 12月2日 第27回取引に係る販売代金が回収期日までに未入金となる 12月15日 売上債権1,340百万円に対して、貸倒引当金の計上見込を公表 2026年1月30日 調査委員会の設置を公表 2月4日 回収遅延取引の経緯と今後の対応に関するお知らせ 2月24日 Akatsukiを債務者とする仮差押決定 2月27日 Akatsuki等に対する訴訟の提起 3月2日 調査委員会による調査結果を公表   【調査委員会による調査結果報告書の概要】 1 調査委員会設置の経緯 unbankedは、2025年11月19日及び同月20日に行った同一の販売先との間の2件の金地金取引について、代金の支払日である同年12月1日及び同月2日を過ぎても当該販売先から支払がなされなかったことから、同月15日、計13億4,000万円の売上債権に対する貸倒引当金の計上見込みに関する開示を行った。その後も当該販売先から上記の金地金取引に係る販売代金の支払がなされなかったことから、unbankedは、2025年12月30日、上記の売上債権の全額について貸倒引当金を計上することを決定した。 2026年1月になっても上記の販売先から販売代金の支払がなされることはなかったため、unbankedの監査等委員会は、同月28日、独立した立場を有する外部の弁護士に対し、本件の事実関係等の調査等を行う目的で、外部弁護士による調査委員会を設置して調査を委嘱することを決定し、同月30日、unbankedの取締役会は、同様の決議を行った。 2 調査委員会による調査結果の概要 調査委員会による調査結果の概要は次のとおりである。 (1) スクラップ品の金地金取引の開始経緯 unbankedは、株式譲渡が行われる前から、Akatsukiとの間で業務委託契約を締結して人員(X氏、Y氏など)を受け入れていたところ、Akatsukiがunbankedの株式を取得してから7日後の2025年7月29日、Y氏は、安達氏に対し、unbankedにおいて新たにスクラップ品の金地金取引を行いたいとの提案を行った。安達氏は、unbankedの金地金取引の実務に深く関与していなかったことから、Y氏に対し、七條氏に相談するよう伝え、同日、Y氏は、七條氏及びunbankedにおける金地金取引の実務を担当するA氏に対して、同様の提案を行った。 Y氏の説明の概要は次のとおりである。 七條氏及びA氏は、unbankedにおいてそれまでスクラップ品の金地金取引を行ったことがなかったことに加え、スクラップ品の金地金は出所についての疑義(例えば、盗品や密輸品であるなど)が払しょくできないことから、Y氏の上記提案に対し懸念を示した。 これに対し、Y氏は、オーナー案件なのでどうしても行いたい、オーナーが保証するなどと述べ、自身が提案するスクラップ品の金地金取引を行うことを強く求めた。 その後、Y氏に対する質問への回答などから、七條氏としては、循環取引ではないことの確認が取れたことや、筆頭株主であるAkatsukiが取引の安全性を保証していること、何より、筆頭株主であるAkatsukiが出資先であるunbankedに対しあえて不利益を与えるような取引を提案しないだろうと考えたことから、当時unbanked単体の業績が赤字であったことも踏まえ、本件取引によりunbankedの毎月の販売費及び一般管理費(約2,000万円)を賄える程度の利益を確保できる規模感で本件取引を行うことを考えて、Y氏の提案に応じることにした。 (2) 回収遅延に至った経緯 unbankedにおける26回目の取引に係る販売代金の支払期限は2025年12月1日であったところ、同日の前営業日になってもc社から予約振込を行ったことを証する画面のスクリーンショットが送られておらず、また、同社の担当者に電話をしても応答がなかったため、七條氏は、Y氏に対し、別の手段で連絡を取ることができないか尋ねたところ、Y氏は、自身も電話番号以外の連絡先は把握していないと返答した。 七條氏は、c社の状況を確認するため、同日午後、同社の本店所在地に赴いたが、そこはシェアオフィスであり、当該シェアオフィスの受付で確認したところ、同社との間で利用契約は締結されていないことが判明した。 支払期日である12月1日午後になっても入金はなかったが、午後3時33分頃、c社担当者から七條氏に電話があり、c社は転売先複数社から入金がないためunbankedへの支払が行えない状況であるとの連絡があった。これに対し、七條氏は、c社に対し、状況が分かり次第、逐一報告するとともに、c社の代表者の連絡先、経理担当者の連絡先及び転売先の会社名・住所・取引書類を至急共有するよう要求した。 翌2日午前9時59分、c社経理担当者からの転売先の情報として、同社がg社に発行した2025年11月19日付の請求書及び同月20日付の請求書のPDFデータが送付された。なお、それぞれの請求書に記載されたスクラップ品の重量は、unbankedがc社に販売した重量と一致していた。 翌3日昼頃、七條氏が、c社代表取締役のマイナンバーカードに住所として記載されていたマンションを訪問し、インターフォンで呼び出したが、応答はなかった。マンションの受付で確認したところ、c社代表取締役の名前の契約者は存在しない、住所として記載されていた当該マンションの部屋には2025年2月から別の入居者が居住しているとの説明を受けた。 同日午後8時3分、c社経理担当者から、七條氏に対し、メールで、同月19日には全額支払うことができる見通しである、部分的にでも支払ができる分は都度支払う、という連絡があった。 同月5日午後1時30分頃、七條氏は、c社からunbankedの口座に871万1,371円が入金されたことを確認し、c社経理担当者に対し、メールで、入金確認の連絡をするとともに、債務確認書の提出及び回答を要請した各事項に対する回答を要請した。 同月11日午後8時37分、七條氏からY氏に対し、「c社の経理担当者と本日ついに連絡がとれなくなりました。オーナーが責任をもって支払わなければ、回収不能です。どう解決するつもりなのか、状況を教えてください。」と連絡した。 翌12日午後2時40分頃、七條氏は、c社からunbankedの口座に1,000万円が入金されたことを確認した。 同月19日午前9時55分、七條氏は、c社経理担当者に対し、メールで、残金である13億4,000万円の入金が確認できないがいつまでに全額支払われるのかを確認し、並行して、電話もしたが、応答しなかった。その後、同日午後3時34分、c社経理担当者から、「お支払いが遅れており大変申し訳ございません。こちらへの着金予定が遅れており取引先へ問い合わせをしている次第です。予定わかりましたらご連絡させて頂きます。」との返信があった。 これ以降、c社経理担当者、代表取締役、他の担当者とは連絡が取れていない。 (3) 調査委員会による評価 調査委員会は、本件取引は、unbankedの筆頭株主となったAkatsukiの「オーナー」なる人物が、Y氏を通じてunbankedに提案し、実行させたものであり、Akatsuki側の主導の下で行われたものであって、本件取引の取引日時、取引量、代金の支払期限といった具体的な取引条件については、Akatsuki側が決定し、それがY氏を通じて七條氏らに伝えられており、22回目の取引で取引量の増加が見送られた時を除けば、Y氏から伝えられたとおりの内容で本件取引が実行されており、本件取引により生じるunbankedの利益額(買取価格と販売価格の差額)の設定についても、unbankedの要望が受け入れられることはなく、Akatsukiのオーナーの意向を踏まえて決定されていたことが認められると事実認定を行った。 そのうえで、調査委員会は、Y氏が、Akatsukiのオーナーの伝書鳩としての役割しか果たしていないと述べており、Akatsukiのオーナーからの指示を受けて動いていたことは事実であると考えられるものの、Y氏は、七條氏らの確認依頼や質問に対して数分以内に回答している場面が何度もあり、c社の取引担当者と直接連絡を取っている事実も認められることから、Y氏に対し、全く裁量が与えられていなかったとまでは認めがたく、Y氏自身も、本件取引の全体像やAkatsukiとc社等の取引先との関係性を一定程度理解した上で、本件取引を実行するために重要な役割を果たしていたというべきであり、伝書鳩としての役割しか果たしていないと評価されるものではないと考えるとしている。そして、こうしたY氏とAkatsukiとの関係性からすれば、Y氏は、Akatsukiのオーナー、株主、実質的支配者に関する情報を(少なくとも部分的には)知っていると考えられるにもかかわらず、調査委員会のヒアリングにおいて、オーナー等の氏名その他の具体的な情報を回答することはなかったとまとめている。 3 原因分析(調査報告書31頁以下) 調査委員会は、原因分析として、次の4項目を挙げている。 (1) 新株主に関する事実確認等を行わないまま本件取引を実施したこと 調査委員会は、本件取引はAkatsukiの主導の下で行われたものであるとしたうえで、株主の意向により行う取引であるとしても、その取引自体に経済合理性が認められること、つまり、取引により得られるリターンと取引におけるリスクが見合っていることも含まれると述べた。そのうえで、本件取引における主なリスクとは、スクラップ品の金地金の出所に係る法的リスク、循環取引やマネー・ロンダリングの該当性、販売先に対する債権回収の可能性等が挙げられるところ、これらの点についてリスクが低いとunbankedが判断したのは、自社の株主であるAkatsukiへの信頼が前提となっていた。安達氏及び七條氏が、「筆頭株主であるAkatsukiが出資先であるunbankedに対しあえて不利益を与えるような取引を提案しないだろう」と考えた点にあると認定した。 調査委員会は、安達氏及び七條氏は、Akatsukiが資本金30万円の設立後間もない会社であること、unbanked株式の取得にあたり多額の借入を行っていることなど、Akatsukiには代表取締役のほかに実質的支配者が存在する可能性が高いことを認識していた。にもかかわらず、Akatsukiの実質的支配者が誰であるかについて深く追及しないまま、株式譲渡が行われる前から、Akatsukiとの間で業務委託契約を締結して人員を受け入れたうえ、株式譲渡から10日も経たないうちにAkatsukiから派遣されたY氏の提案を受け入れて本件取引を行っている。その際にも、安達氏及び七條氏が、「オーナーが保証する」というY氏の説明を鵜呑みにしたことについても、オーナーの実態が不明であるにもかかわらず説明を鵜呑みにした点は、unbankedの経営責任を担う取締役の対応として不適切であったと言わざるを得ないうえ、「筆頭株主が出資先に対しあえて不利益を与えるような取引を提案しないだろう」と安易に考えたことは、取締役として慎重さを欠いていたと評価せざるを得ないと分析している。 そして、調査委員会は、Akatsukiの実態が何ら明らかになっていないまま、筆頭株主というだけでAkatsukiを信用してY氏の提案に応じたことが、取引先の実態の確認不足に繋がったのであり、まさに、本件取引において未収金が発生した根本の原因であると考えられるとまとめている。 (2) 取引開始にあたり取引先の実態に関する事前確認が不十分であったこと 次に、調査委員会は、本件取引のリスクや、これまで取り扱ったことがないスクラップ品を対象とすること、5営業日とはいえ数億円を超える多額の売掛債権が生じることといった本件取引の内容に鑑みれば、本件取引の販売先について信用調査の必要性が高いことは明らかであったと評価した。しかし、unbankedが、取引開始にあたって販売先であるc社の実態や与信情報等について十分な確認を行わなかったことが、本件取引において未収金が発生した原因の一つであると考えられるとした。特に、本件取引に関与した役職員の全員が与信管理規程という重要な規程の存在を失念していたことは、あまりにも稚拙であったと言わざるを得ないと断じている。 (3) 取引開始後、c社の与信について懸念を持つ契機となる事象が生じていたにもかかわらず、信用調査等を行わないまま本件取引を継続したこと 調査委員会は、本件取引の開始当初から、c社からの販売代金の支払が円滑に行われないことが何度もあったが、Y氏を通じて得たc社の回答は、合理的・説得的な回答とは思われないにもかかわらず、七條氏らは、支払が遅れた理由をそれ以上追及することはなかったと認定したうえで、七條氏らは、少なくとも、与信懸念事象が生じた段階で、c社の信用調査を実施する、掛け取引を止める、取引量を減らす、取引自体を停止する、といった対応について具体的に検討・実施すべきであったと考えられ、そのような対応を全く行っていなかったことが、本件取引において未収金が発生した原因の一つであると考えられるという判断を示している。 (4) 取締役会に十分な情報が提供されていないこと 調査委員会は、unbankedの取締役会には、本件取引に関する情報が十分に共有されていたとはいえないが、unbankedの機関設計がモニタリングモデルに親和的な監査等委員会設置会社であることも踏まえれば、事業上の取引の一つにすぎない本件取引に関する細かな報告が取締役会において十分になされていなかったとしても、そのこと自体は直ちに不適切であるとはいえないと考えられるとの見解を示している。 しかし、実態として、unbankedの取締役会では、毎月、当月の金地金の売上高及び販売量や毎月の損益計算書及び貸借対照表の状況など、事業上の細かな情報についても報告がなされていたことからすれば、グループ会社から貸付金の繰上返済を受けてまで掛け取引である本件取引を行っていたことや、本件取引における販売先からの入金が円滑に行われない事象が何度も生じていたことについても、明示的に報告することが望ましかったものという考えを示し、仮に、unbankedの取締役会において本件取引に関する情報が十分に報告されていれば、監査等委員の指摘等により、本件取引の見直し等について議論がなされ、未収金の発生を防げた可能性はあるのではないかと指摘した。 さらに、監査等委員会について、調査委員会は、スクラップ品という違いがあるとはいえ、本件取引が金地金事業の中の一つの取引という位置づけであり、全くの新規事業とは異なること、また、販売先との間で掛け取引となることの説明を明示的に受けていなかったことに鑑みると、監査等委員から本件取引の詳細について積極的に確認しなかったこと自体は、不合理とまではいえないとしながらも、Akatsukiについて実質的支配者などの詳細な説明が安達氏及び七條氏からなかった点については、監査等委員として、疑問を呈するなど、積極的に確認するなどの行動があってしかるべきであったとしている。 4 再発防止策の提言(調査報告書34頁以下) 調査委員会は、再発防止策の提言として、次の3項目を挙げている。 (1) 株主とのコミュニケーションの実質化 調査委員会は、本件取引において未収金が発生した根本の原因は、その実態が何ら明らかになっていないまま筆頭株主というだけでAkatsukiを信用したことにあると考えられるとしたうえで、unbankedとしては、自社の株主、特に、主要株主や相当程度の株式を新たに取得した株主について、株主の実質的支配者の確認に努めることはもちろん、株主がどのような目的で自社の株式を保有しているのか、株主からの提案が自社の企業価値を真に高めるものであるのか、しっかりと対話を行い、確認すべきであると提言を行った。そのうえで、unbankedとしては、まずもって、各経営陣が株主との対話の重要性を意識する必要があるといえ、その上で、株主と実質的なコミュニケーションを行うための仕組みや体制を策定することが望ましいとまとめている。 (2) 与信管理の徹底 調査委員会は、unbankedの役職員は与信管理規程の存在そのものを失念しており、まずは、社内規程の存在を再度周知し、各役職員が、与信管理の重要性を認識したうえで、与信管理規程に定められたルールを理解し、実践する必要があるとしたうえで、金地金取引のように1回の取引金額が多額となる取引については、売掛先の与信管理が特に重要となる。unbankedにおける金地金取引の実態を踏まえた上で、実効的かつ継続的に運用可能な与信ルールを策定することが望ましいと提言している。 (3) 取締役会における議論の実質化 調査委員会は、unbankedの取締役会では、新たに筆頭株主となったAkatsukiの具体的な情報について、社内取締役から特に報告もなく、監査等委員からの指摘や質問もなかったこと、七條氏から本件取引について実態と反する報告がなされた際も、他の取締役や陪席者から訂正がなされることもなかったことが認められたとしたうえで、取締役会としては、月次の財務情報の確認などの定例的な報告事項を処理するだけでなく、監査等委員を含む各取締役が、中長期的な企業価値向上に向けた経営戦略や自社が有するリスクへの対処のために取締役会として議論すべき事項が何であるかを認識し、そのような議論が実質的になされているかどうか、取締役会の実効性評価等の過程で、確認・検討することを提言している。   【調査報告書の特徴】 大手金地金取扱業者による刻印のない金地金を「スクラップ品」と呼ぶことはもちろん、スクラップ品の金地金が流通していること自体、筆者は、unbankedが公表した調査報告書を読んで初めて知ったわけだが、売買契約書だけで資金が移動する本件取引は、取引金額が回を追って多額になっていくこと、支払いが常に先行し、売掛金の回収は滞りがちであったこと、販売先による支払遅延の理由が合理的・説得的でなかったことなど、架空取引であることを推認させる事態が頻出しており、架空循環取引であると評価していいだろう。 筆頭株主により斡旋された取引により多額の未収金を生じたunbankedは、その後、筆頭株主らを被告とする訴訟を提起するが、その機先を制するかのように、Akatsukiは臨時株主総会の開催を請求し、取締役の解任を求めるという事態に陥っている。 なお、会社の概要でも記したとおり、unbankedの取締役会は5名で構成されており、うち3名は社外取締役監査等委員であるが、常勤の監査等委員は置かれていない。 1 Akatsukiに対する訴訟の提起 2026年2月4日にunbankedは、「(開示事項の経過)回収遅延取引の経緯と今後の対応に関するお知らせ」をリリースして、販売先である調査報告書上の「c社」は、株式会社アニススタイル(以下、「アニススタイル」と略称する)であったことを公表した。 次いで、同月24日にunbankedは、「Akatsuki Capital Works株式会社を債務者とする仮差押決定に関するお知らせ」をリリースして、東京地方裁判所に申し立てていたAkatsukiに対する仮差押えが、2月13日付で決定したことを公表した。 さらに、同月27日には、unbankedは、「Akatsuki Capital Works株式会社等に対する訴訟の提起に関するお知らせ」をリリースして、Akatsuki、アニススタイルを含む法人6社と個人9名(のちに8名に修正)に対して、総額1,417百万円余りの損害賠償請求訴訟を提起したことを公表した。請求金額については、次のように説明している。 2 Akatsukiによる臨時株主総会招集 unbankedが調査委員会の設置を公表した同日の1月30日、「株主による臨時株主総会の招集請求に関するお知らせ」もリリースされて、Akatsukiから1月29日付で、臨時株主総会招集の請求があったことを公表した。株主総会の目的事項としては、現在の取締役5名全員の解任と、新たに2名の取締役及び3名の監査等委員である取締役の選任となっている。 unbankedは、5月13日、「(開示事項の経過)臨時株主総会の開催日時及び場所、付議議案並びに株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」をリリースして、臨時株主総会を6月5日に開催すること、会社提案による付議議案として、取締役7名選任、監査等委員である取締役3名選任の件を公表した。 その後、5月29日において、unbankedは、「(開示事項の経過)株主による臨時株主総会の招集請求の撤回に関するお知らせ」をリリースして、Akatsukiから、臨時株主総会の招集請求及び株主提案を撤回する旨の通知書を受け取ったことを公表した。Akatsukiによる撤回の理由は次のとおりである。 撤回の通知書を受けて、unbankedは、株主提案の議案をすべて取り下げたうえで、会社提案による、取締役7名選任(6月3日付で6名に修正)、監査等委員である取締役3名選任の件のみを取り扱うこととなった。 予定どおり、6月5日に開催された臨時株主総会では、会社提案の第1号議案と第2号議案が承認可決され、unbankedは6名の取締役(うち2名が社外取締役)と監査等委員である社外取締役5名で構成されることとなった。なお、引き続き、常勤の監査等委員は置かれていない。 3 再発防止策 2026年3月6日、unbankedは、「再発防止策の策定に関するお知らせ」をリリースして、調査委員会の提言を踏まえた再発防止策を公表した。その項目は次のとおりである。 なお、unbankedは、再発防止策の説明の前文で、次のように今後の方針を述べており、与信管理上は、この方針が遵守されることがベストだと評価できる。 4 東京証券取引所による改善報告書及び上場契約違約金の徴求 東京証券取引所は、2026年5月25日、「特別注意銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求」をリリースして、unbankedに対して、株式を5月26日付で特別注意銘柄に指定するとともに、上場違約金1,440万円を徴求することを公表した。その理由として、企業行動規範の遵守すべき事項(業務の適正を確保するために必要な体制整備)の規定に違反し、当取引所の市場に対する株主及び投資者の信頼を毀損したと認められるため(有価証券上場規程第509条第1項第2号)として、詳細を次のように説明している。 旧社名だった2020年7月11日付での特設注意市場銘柄指定に続き2回目の措置であり、特別注意銘柄指定の解除には高いハードルが課せられることになることが予想される。 (了)

#No. 672(掲載号)
#米澤 勝
2026/06/11

〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2026年5月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2026年5月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026年5月1日から5月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 企業内容等開示関係 次のものが公表されている。 ① 関東財務局管内の上場企業における人的資本及び政策保有株式の開示と関連する取組 (内容:関東財務局管内の上場企業における人的資本及び政策保有株式の開示について紹介するもの。関東財務局) ② 「事業報告等と有価証券報告書の一体開示・一体的開示FAQ(制度編)」の更新 (内容:会社法・金融商品取引法等の改正、株主総会前に有価証券報告書を提出する企業の増加傾向などを受けて更新。経済産業省)   Ⅲ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① サステナビリティ及び外部の専門家の作業の利用等に関する「倫理規則」の改正(定期総会に付議する予定の改正案の公表)及び「倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」」の改正について (内容:サステナビリティ情報の開示と保証の制度化の議論が進められていることなどを踏まえ改正するもの) ② 倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正に関する公開草案(報酬依存度及び支配関係) (内容:報酬依存度に関する会員からの相談が多く寄せられていることに対応するもの) (了)

#No. 672(掲載号)
#阿部 光成
2026/06/11

従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第22回】「人員削減局面における退職勧奨の実務」-トーキングポイントと禁止事項-

従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第22回】 「人員削減局面における退職勧奨の実務」 -トーキングポイントと禁止事項-   弁護士 柳田 忍   【Question】 当社においてはAIの導入等に伴い省人化が進んでおり、ここ数年、新卒採用数を減少していますが、いまだに人員の余剰を感じています。 そこで、一定数の従業員に対して退職勧奨を行うことになりましたが、退職勧奨に際して準備すべきことや注意すべきポイントがあったら教えてください。 【Answer】 退職勧奨に際しては、対象者の自由な意思を抑圧しないよう、言動に気を付ける必要があります。 よって、事前に「トーキングポイント」(伝えるべき要点)と「べし・べからず集」(伝えるべきことと伝えるべきでないことをまとめたリスト)を準備し、これに沿って退職勧奨を実施することをお勧めいたします。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 1 はじめに 新卒採用について、つい最近までは空前の売り手市場であるといわれていたが、一転、最近は新卒採用を減らす企業が増えている。読者においても、様々な事情により採用を増やしてきたものの、最近は人員の余剰を感じており、削減を考えているという企業が少なくないのではないか。 人員削減を行う場合は、まず、退職勧奨を行って、対象従業員がこれに応じる場合は合意退職する、という流れを経ることが一般的である。この点、日本企業において従業員を退職させることはよくあることではないため、退職勧奨を行うことに慣れていない会社が多い。従業員の自由な意思を抑圧し社会的相当性を欠く退職勧奨は不法行為に該当し、損害賠償請求の対象となり得るし、そのような退職勧奨によりなされた合意退職は無効となる可能性がある(拙稿第6回参照)。よって、退職勧奨に際しては、対象者の自由な意思を抑圧しないよう、言動に気を付ける必要がある。 また、退職勧奨の面談においては、対象者が動揺し、怒ったり、時には泣き出したりすることもあり、退職勧奨を行う者においては冷静な対応が求められる。よって、退職勧奨が違法となるリスクを避けつつ落ち着いて退職勧奨を実施できるよう、事前に「トーキングポイント」(伝えるべき要点)と「べし・べからず集」(伝えるべきことと伝えるべきでないことをまとめたリスト)を準備し、これに沿って退職勧奨を実施することが推奨される。 本稿においては、人員削減のための退職面談におけるトーキングポイント及び「べし・べからず集」の例並びにポイントを解説する。   2 トーキングポイント (1) 具体例 (2) ポイント   3 べし・べからず集 対象者の自由な意思を抑圧しないように退職勧奨を進めるための留意点及び禁止事項は以下のとおりである。 (1) 面談実施にあたっての留意点 (2) 禁止事項 (了)

#No. 672(掲載号)
#柳田 忍
2026/06/11

〈Q&A〉税理士のための成年後見実務 【第31回】「本人が亡くなったら?」

〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第31回】 「本人が亡くなったら?」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 成年後見人として業務を行ってきましたが、本人の体調が悪化し残念ながらあまり長くないと医師から連絡がありました。 本人が亡くなるとどのようなことをしなければならないのでしょうか。 【A】 原則として成年後見人の権限は本人の死亡により消滅します。 あとは死亡時点での財産目録を作成し、東京法務局へ終了の登記を申請、財産を相続人に引き渡し、家庭裁判所に報告を行えば業務完了となります。 ただし、実際には本人の死亡後に発生する様々な事務を成年後見人が担わなければならないケースが多く、頭を悩ませることになります。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 本人が死亡すれば原則として業務が終わる 成年後見人の権限は本人の死亡により消滅します。成年後見人であった者としては、死亡時点の財産目録を作成し、東京法務局への後見の終了の登記申請、相続人への財産の引き渡し、家庭裁判所への報告を行えば業務が終了します。 本人の遺体の引き取りや、火葬や葬儀の手配、病院代などの債務の支払いの仕事は本来相続人が行うことです。しかし、相続人と連絡が取れない、あるいは連絡は取れても協力的でないケースも少なくないため、事実上本人の死亡直後に発生する様々な事務を成年後見人が担う必要に迫られることがあります。   2 事務を行う法的根拠 成年後見人が本人の死亡後に発生する事務を担うといっても、成年後見人ではなくなっているため、どのような根拠で事務にあたっているのかを理解しておく必要があります。 成年後見の実務では、民法上の「事務管理」(民法697条~702条)と委任契約における「応急処分義務」(民法654条、874条において後見に準用)に根拠を求めて死後事務が行われてきました。 「事務管理」とは、依頼を受けるなどして義務が生じているわけでないけれども、他人の事務を始めたケースに適用される規定です。事務管理の規定が適用される事例としてよく紹介されるのは、隣家の留守中に窓ガラスが破損した場合に、親切心で補修をしてあげた場合などがあります。事務管理の規定のなかでは、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務管理を行い、本人またはその相続人もしくは法定代理人が管理をすることができるようになるまで、事務管理を継続しなければならないとされています。 「応急処分義務」とは、委任が終了した場合において急迫の事情があるときは、受任者が委任者やその相続人等が事務処理を行えるようになるまで必要な対応をとることを義務付けている規定です。委任契約に関する規定ですが、後見人にも準用がされています。 実務の現場ではこれらの規定を根拠に試行錯誤しながら対応が行われてきましたが、正面から成年後見人が行う死後事務について定めた規定ではないため、根拠として弱い面があることは否めませんでした。善意で対応したにもかかわらず、のちに相続人から権限外の行為であるとしてクレームを言われるリスクにも慎重に気を配る必要がありました。 そこでこうした状況を改善するため法律が改正され、以下に定める死後事務については成年後見人の権限に含まれることが明記されました。 【民法で定められた成年後見人の死後事務(民法873条の2)】 ① 個々の相続財産の保存に必要な行為 ② 弁済期が到来した債務の弁済 ③ 死体の火葬または埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為 ①の「個々の相続財産の保存に必要な行為」の具体例としては、本人が所有していた不動産に雨漏りが生じている場合に修繕することが挙げられます。 ②の「弁済期が到来した債務の弁済」の具体例としては、本人が入院していた病院の費用の支払いや、公共料金の支払いが挙げられます。 ③の「死体の火葬または埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為」の具体例としては、明記されている遺体の火葬に関する契約の締結のほか、本人の居室に関する電気やガスの契約の解約が挙げられます。 ただし、成年後見人がこれらの死後事務を行うためには、(ⅰ)成年後見人が死後事務を行う必要があること、(ⅱ)相続人が相続財産を管理することができる状態に至っていないこと、(ⅲ)成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかな場合でないこと、という要件を満たしている必要があります。③の「死体の火葬または埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為」を行うためには家庭裁判所の許可が必要とされていることにも注意が必要です。 なお、この規定は成年後見人を対象にしたものであり、保佐や補助には適用がありません。 (了)

#No. 672(掲載号)
#北詰 健太郎
2026/06/11

PJ Bookmark-June 2026- 「税務調査への『備え』、どこから手をつけますか?」

B PJ Bookmark ── June 2026 ── ◇ 税務調査への『備え』、 どこから手をつけますか? 7月は税務署の事務年度の始まりであり、税務調査が本格化する時期です。調査の連絡はある日突然やってきますが、そのときになって慌てるのではなく、日頃からの備えが結果を左右するのかもしれません。 今回は「税務調査への備え」をテーマに、調査の全体像から日常業務で気をつけたいポイントまで、5本の記事をご紹介します。   〇 税務調査に備えて、何を確認しておくか   税務調査への備えといっても、まず調査がどのような流れで行われるのかを把握していなければ、準備の方向は定まりません。相続税の調査を例に、事前通知から実地調査、終了手続までの流れと近年の動向を確認しておくことは、法人税の調査への備えにも通じるところがあります →1本目。 経営 事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第46回】「相続税の税務調査の流れと最近の動向」 執筆:太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会 相続税の税務調査について、事前調査の段階で税務当局が何を確認しているか、実地調査ではどのようなことが聞かれるかを、相談事例を通じて解説した記事です。実地調査の非違割合が8割を超える高水準にあること、富裕層プロジェクトチームや海外資産への調査強化の動向なども紹介されており、相続税に限らず「税務当局がどのような視点で調査先を選定するか」を知る手がかりになります。相続案件を扱う機会がある方だけでなく、調査の全体像を把握しておきたい方にも参考になる内容です。 この記事を読む 調査の流れを知ったうえで、次に押さえておきたいのは、調査官が行使する質問検査権の法的な位置づけです。国税通則法における「調査」の単位はどう画されるのか、一度終わった調査が再開されるのはどのような場合か、こうした論点を整理しておくと、調査の場面で冷静に判断する手がかりになります →2本目。 税務 〔弁護士目線でみた〕実務に活かす国税通則法 【第2回】「改めて『税務調査とは何か』を理解する」 執筆:下尾裕 弁護士 「税務調査とは何か」という問いを、国税通則法の条文と通達に即して整理した記事です。国税通則法上の「調査」は質問検査権の行使と位置づけられ、一般にイメージされる「実地の調査」はその一態様にすぎないこと、「調査」の単位は「納税義務者・税目・期間」の3つで画されること、再調査制限規定はどこまで及ぶのかといった論点が、2つの具体事例をもとに解説されています。再調査が認められる「新たに得られた情報」の解釈など、実務で争点になりうる場面については筆者の私見も示されており、税務調査の法的な枠組みを改めて整理しておきたいときの手がかりになりそうです。 この記事を読む 制度の理解と並行して考えたいのが、そもそも臨場調査を受けないための予防策です。書面添付制度を徹底して活用することで、意見聴取の段階で調査が終了するケースもあり、税理士と税務当局の協力関係を前提とした制度として改めて検討してみる余地がありそうです →3本目。 税務 〔書面添付を活かした〕税務調査を受けないためのポイント 【第1回】「税務調査が来ない企業とは」 執筆:田島龍一 公認会計士・税理士 書面添付制度を徹底活用することでクライアントがほとんど税務調査を受けていないという、中堅税理士事務所の事例を紹介しながら、「税務調査が来ない企業」はどのように育てられているのかを考察した記事です。金額の重要性が乏しいものも手を抜かず処理しておくこと、書面添付によって税務職員の疑問を事前に解消することで、意見聴取の段階で調査が終了するケースがあることが示されています。書面添付は虚偽記載があれば罰則の対象となるため慎重な運用が求められますが、税務調査の予防策として書面添付を改めて位置づける際の入り口になりそうです。 この記事を読む 調査を受けた後の事後対応も見逃せません。過年度の申告漏れを指摘されて修正申告を行った場合、指摘事項が過去の誤謬に起因するものか、税務署との見解の相違によるものかで会計処理の方向が分かれます。遡及処理(修正再表示)や訂正報告書の提出が必要かどうか、判断の流れを確認しておきたいところです →4本目。 会計 〔経営上の発生事象で考える〕会計実務のポイント 【第6回】「税務調査により過年度の申告漏れについて修正申告を行った場合」 執筆:仰星監査法人 渡邉徹 公認会計士・永井智恵 日本公認会計士協会準会員 税務調査で過年度の申告漏れを指摘され修正申告を行った際に、会計上どのような処理が必要になるかを、上場企業を想定した事例を通じて整理した記事です。出発点は「指摘事項が過去の誤謬に起因するものか、税務署との見解の相違か」の判断で、前者であれば遡及処理(修正再表示)や訂正報告書の提出、後者であれば過年度法人税等の計上へと分岐する流れが、キャビネットの耐用年数を題材とした具体例とフローチャートで示されています。巻末のチェックリストは、修正申告を受け入れる判断を顧問先と共有する場面でも役立ちそうです。 この記事を読む そして、調査当日だけでなく、日常の記帳業務にも落とし穴があります。会計ソフトで仕訳を修正する際の操作ひとつで、悪意がなくても隠蔽又は仮装を疑われる可能性があるという点は、オンラインツールの利用が進むなかで改めて意識しておきたいポイントです →5本目。 税務 《税務必敗法》 【第7回】「振替伝票を削除した」 執筆:森智幸 公認会計士・税理士 仕訳を修正する際に振替伝票を削除してしまうと、たとえ悪意がなくても隠蔽又は仮装を疑われる可能性がある。この問題を、会計ソフトの操作レベルから実務的に解説した記事です。削除や上書き修正によって生じる5つの問題点(隠蔽・仮装の疑義、修正過程の不明化、過去の試算表との不整合、顧問先からの信用失墜、不正の温床化)が整理されており、対策としてのロック機能の活用や優良な電子帳簿への移行も紹介されています。国税庁がオンラインツールの利用を進めていることにも触れられており、帳簿データの取扱いをスタッフや顧問先に指導する際の材料としても活用できる内容です。 この記事を読む Afterword 今回は「税務調査への備え」を切り口に5本の記事をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。プロフェッションジャーナルには税務調査に関する記事がこのほかにもたくさん掲載されています。今回紹介できませんでしたが、米澤勝税理士・公認不正検査士(CFE)の連載「企業不正と税務調査」なども面白い記事がたくさん掲載されていますので、ぜひご一読ください。 Profession Journal (了)

#No. 672(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2026/06/11

《速報解説》 国税庁、R8改正における基礎控除の引上げ等のQ&Aを公表~令和8年12月以後の源泉徴収事務に関する事項を取りまとめ~

《速報解説》 国税庁、R8改正における基礎控除の引上げ等のQ&Aを公表 ~令和8年12月以後の源泉徴収事務に関する事項を取りまとめ~   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   5月29日、国税庁より「令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A」が公表された。 令和8年度税制改正では、所得税の基礎控除の引上げ、給与所得控除の最低保障額の引上げ及び扶養親族等の所得要件の改正が行われている。本Q&Aには、これらの改正のうち令和8年12月に行う年末調整など、令和8年12月以後の源泉徴収事務に関する事項がまとめられている。 なお、所得税の基礎控除の引上げその他の改正内容の詳細は、下記拙稿をご参照いただきたい。 以下、本Q&Aに記載されているもののうち、本稿では、実務上のポイントとなるものを取り上げ、解説を行う。   (1) 改正事項の適用時期(Q1-1) 以下の改正事項は、令和8年分以後の所得税に適用されるが、法律の施行日は令和8年12月1日である。 よって、これらの改正事項は、令和8年11月までの給与の源泉徴収事務には影響を及ぼさない。令和8年12月1日以後に行う年末調整の際に適用することとなる。 なお、年末調整は、その年最後の給与等の支払の際に行うこととされているため、死亡退職や海外転勤等により令和8年分の最後の給与等が令和8年11月30日以前に支払われる場合には、その年末調整において①から③の改正内容は適用されない(※)(Q1-3)。 (※) 確定申告等により改正後の控除等の適用を受けることができる(Q6-1~6-3)。   (2) 年末調整関係書類の記載事項(Q2-1~2-4) 上記(1)の①②③の改正は令和8年12月1日に施行されるため、令和8年12月1日以後に行われる年末調整にかかる関係書類については、次の対応が必要となる。 ① 扶養控除等申告書 上記(1)の②及び③の改正により、新たに扶養控除等の対象となる扶養親族等を有することとなった場合には、その旨を記載した「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(以下、「扶養控除等申告書」という)を給与支払者に提出する必要がある。この場合には、扶養控除等申告書の「異動月日及び事由」欄に「令和8年12月1日 改正」などと記載する。 ② 基礎控除申告書 合計所得金額に応じた改正後の基礎控除額を記載する。 ③ 配偶者控除等申告書 配偶者に給与所得がある場合には、改正後の給与所得控除額を適用した合計所得金額を算出し、その合計所得金額に応じた配偶者(特別)控除額を記載する。 ④ 特定親族特別控除申告書 特定親族に給与所得がある場合には、改正後の給与所得控除額を適用した合計所得金額を算出し、その合計所得金額に応じた特定親族特別控除額を記載する。   (3) 令和9年1月以後の源泉徴収事務(Q1-1) 令和8年度税制改正事項を反映した「源泉徴収税額表」の改正は、令和9年1月1日に施行される。よって、改正後の「源泉徴収税額表」は、令和9年1月1日以後に支払うべき給与等から適用される。 (了)

#篠藤 敦子
2026/06/09

《速報解説》 非上場株式評価改正に係る第3回有識者会議が開催~日本商工会議所・日本税理士会連合会・会計学者(櫻井委員)の三者三様の視点~

 《速報解説》 非上場株式評価改正に係る第3回有識者会議が開催 ~日本商工会議所・日本税理士会連合会・会計学者(櫻井委員)の三者三様の視点~   税理士 柴田 健次   国税庁は令和8年6月4日、「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第3回を開催し、その資料が公開された。   1 はじめに 第1回有識者会議が評価額の著しいかい離の実態整理と圧縮スキームの開示に、第2回有識者会議が学術・実務家による評価通達本体への根本的問題提起に充てられたのに対し、第3回有識者会議では、日本商工会議所、日本税理士会連合会、櫻井久勝委員(昭和女子大学グローバルビジネス学部特命教授・神戸大学名誉教授)の3者からの提出資料を中心に、中小企業の立場・実務家の視点・会計学の理論という三者三様の観点から議論がなされた。本稿では、各提出資料の要点を整理し、第3回会議で明らかになった論点を読み解く。   2 日本商工会議所-中小企業の立場からの提言 日本商工会議所は、阿部貴明特別顧問・税制委員長(丸源飲料工業株式会社代表取締役社長)と玉越賢治税制専門委員会学識委員(税理士法人ゆいアドバイザーズ代表社員)の連名で提出資料を提示した。中小企業がわが国の企業数の99.7%、雇用の約7割を担い、地域経済の中核的存在となっているという基本認識のもと、中小企業の現場からの強い問題意識が示された。 基本的考え方として、「中小企業の株式を相続する際、ゴーイングコンサーンとして存在しているにも関わらず、解散価値で評価されることは大きな問題である」「中小企業は地域経済を支える公器である」とし、「『中小企業の円滑な事業承継』の視点を最も重要視すべき」と強調された。他方、「租税回避を目的とした極端な事例に対しては、徹底的な対策を講じるべき」とし、「こうした極端な事例と一般の事例とは明確に区別して議論すべき」とも指摘された。 特に注目すべきは、第2回会議までで指摘された「評価通達による評価額と時価との著しいかい離」への対応について、商工会議所は次のような独自の解決方向を提示した点である。すなわち、「会計検査院報告における評価方法の違いによる価額の乖離については、むしろ割高となっている純資産価額方式について、在庫等の換価コストを加味した評価減や退職給付引当金・賞与引当金等の計上を認めることなどによる評価額の引下げにより対応すべき」とした。これは類似業種比準方式の評価額を引き上げる方向ではなく、純資産価額方式の評価額を引き下げる方向で乖離を是正すべきという、第2回会議までの議論とは方向性を異にする主張である。 時価概念についても、「『時価』とは、通常『不特定多数で成立する価格』のことであり、取引相場のない株式の取引は、不特定多数で成立するものはないことを重視すべき」とし、「事業承継の場面における取引相場のない株式の価格を、解散価値で評価することに大きな違和感」が表明された。さらに、上場企業においても「PBR1倍割れ」が常態化していることから、「将来の収益性が資本コストを賄えない場合に、時価(企業の解散価値)が純資産を下回ることは経済学的に正当な結果」であることを裏付けるとの指摘もなされた。 また、2025年以降の日経平均株価が会計検査院による調査期間と比較して2倍以上に上昇していることから、「類似業種比準方式における評価額と純資産価額方式における評価額との乖離は、縮小していると推測される」との分析も示された。 結論として、「事業承継税制の特例措置を拡充・恒久化したうえで、事業承継に悩む全ての中小企業が低コストで簡便に利用できるよう、猶予・免除のあり方や評価減も含め、制度の見直しが不可欠。一方的に評価方法のみを議論することには断固反対」とし、「円滑な事業承継の促進には評価と措置の両方からの支援が必要不可欠」と明確に主張された。   3 日本税理士会連合会-客観的交換価値の追求と実務的課題 日本税理士会連合会調査研究部は、令和7年6月25日付け「令和8年度税制改正に関する建議書」を踏まえ、「客観的交換価値の追求(実際の取引で用いられる算定方法や実例を重視する)」を基本方針として提出資料を提示した。建議書では3点が指摘されている。すなわち、①継続企業の前提(換金性が乏しいことのほか、通常、株式取得者は事業を継続することから、継続企業を前提とした評価の在り方について併せて考慮すべき)、②会社実態の適正な反映(純資産価額方式について確実な退職給付債務や資産除去債務等を負っている場合の一定の控除、類似業種比準方式における非経常的な損失金額の計上等の恣意性への留意、比準要素数1の会社等の特殊な評価方法の見直し)、③納税者の予測可能性の担保(評価通達6項の多用は予測可能性を損なうため、財産評価方法の不断の見直しが必要)の3点である。 実務的に困っている点として、6項目が指摘された。まず第1に「類似業種比準価額と純資産価額の評価の乖離」が指摘された。具体的には、「取引相場のない株式の評価上の区分(評価通達178)の大会社と中会社で評価が逆転(大会社の評価<中会社の評価)するケースがある」「『会社規模が小さくなったが評価が上昇した』というような場合も散見」され、「納税者の理解が得られ難い」状況が明示された。 また、「評価乖離が節税スキーム開発を誘発し、財産評価基本通達『総則6項』の適用を巡る争訟が激化している(令和4年4月19日最高裁判決以降顕著)」として、仙台薬局事件、配当・増資の実施事案、決算期変更と配当事案が下記のとおり表形式で整理された。 (※) 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 2026年6月4日(第3回)日本税理士会連合会調査研究部提出資料」の3頁より抜粋 第2に、「算定作業の過度な負担と複雑性」が指摘された。「大会社以外の中会社・小会社では純資産価額の算定が必要」であり、「評価の都度、膨大な資料収集が必要」「特に中・小会社ほど相対的な手間とコストが甚大」「純資産価額が限度額となる仕組みが負担を助長」する状況である。さらに、類似業種比準価額算定でも「評価会社がどの類似業種に該当するかの判定が極めて困難」「業種判定誤りによる重大な税務リスクを内包」する点が課題として挙げられた。 第3に、「類似業種比準価額の在り方、算定に係る問題点」が指摘された。特に「制度の穴」として、「1株当たりの年利益金額の計算において、『非経常的な利益』は控除されるが、『非経常的な損失』は加算されない(非経常的な利益損失が共にある場合は通算)」点が挙げられ、「固定資産売却損や役員退職慰労金の意図的な計上により、利益要素を圧縮可能」となる構造的問題が示された。 第4に、「課税時期の会社の状況等によって評価方法が変更になること」の問題が指摘された。下記の図のとおり、「特定の評価会社」に該当した瞬間に評価方式が変更される「不連続で不合理な時価評価」の問題であり、「赤字続きでの株価急騰(比準要素数1の会社の株式)」や「資産の一時的変動による特定会社化(土地保有特定会社等)」が困りごととして挙げられた。 (※) 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 2026年6月4日(第3回)日本税理士会連合会調査研究部提出資料」の6頁より抜粋 第5に、「今後の議論の俎上に上がることが想定されるもの」として、「子会社への利益集約スキーム(類似業種比準方式の死角)」が指摘された。これは、グループ法人税制を活用し、親会社の評価を不当に引き下げるスキームの構造であり、具体的には、下記の図のとおり3段階の手順で構成される。 (※) 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 2026年6月4日(第3回)日本税理士会連合会調査研究部提出資料」の7頁より抜粋 第1段階として、親会社から100%子会社へ会社分割等により収益事業・資産を移転する「利益集約」段階(譲渡損益繰延等のグループ法人税制を活用)、第2段階として、親会社単体の利益のみで類似業種比準価額が算定されることで「親会社単体の利益のみで過小評価=株価過小評価」となる「過小評価・承継」段階(その評価額で次世代への株式承継を実施)、第3段階として、相続後に配当・子会社株売却により親会社の「利益・純資産急増し、株価が一気に上昇」する「復元」段階、というものである。これは第1回会議で国税庁から「圧縮スキーム」の一類型として指摘された「グループ法人税制を活用した親会社株式の評価圧縮」を、税理士会の立場から類似業種比準方式の構造的「死角」として整理したものであり、現行評価通達がグループ全体としての企業価値を捕捉できていない構造的欠陥を示すものである。 第6に、「持株会と無配当会社における制度と実態の乖離」も今後の論点として指摘された。前者の従業員持株会の問題については、持株会の取得価格である「固定価格」と税務上の「通達評価額」との間に「二重構造」が発生する点が問題とされた。すなわち、「税務評価額との乖離により、従業員の取得価格が低すぎる場合は『給与課税(経済的利益)』、高すぎる場合は『従業員の不利益(損失的状態)』が発生」する。さらに「退会・譲渡時の買取価格トラブルの原因」にもなっており、「固定価格での買取が適正なのかどうか」が論点として明示されている。後者の無配当会社における最低価格の問題については、「同族株主以外の者で評価において、無配当というだけで形式的に配当還元価額が最低額(2.5円)となる不合理」が指摘された。「配当未計上会社が約80%を占める中、資本金が巨大でも極端に低い株価が算定され、適正な企業価値を反映していない」状況であり、加えて「少数株主の判定の困難性」という問題点も挙げられた。これらはいずれも、現行の配当還元方式(評価通達188-2)が前提とする経済環境(昭和39年当時の金利水準を反映した還元率10%の据置き等)と、現代の経済実態との乖離が根本原因となっており、配当還元方式自体の構造的見直しに直結する論点である。 見直しの具体案・方向性として、税理士会は次の4点を提示した。 特に税理士会は、「評価制度と事業承継税制は趣旨が異なるが、実務上は不可分」「基礎となる『評価』が正しく機能しなければ、いかに『猶予』を整備しても、中小企業を守ることはできない」とし、「非上場株式の評価見直し」と「新たな事業承継税制の創設」の「一体的改革」を提言した。   4 櫻井久勝委員-会計学から見た企業価値評価の理論 会計学者である櫻井委員(昭和女子大学特命教授・神戸大学名誉教授)の提出資料は、「会計学における企業価値評価の研究状況」と題し、現行の類似業種比準方式に代わりうる具体的な評価モデルを理論的に提示した点で画期的である。 櫻井委員はまず、株主からみた企業価値の源泉を「保有する純資産(貸借対照表)+その増殖能力(損益計算書)」と定義した上で、伝統的経営では有形資産が重視されてきたが、「貸借対照表に反映されない無形項目(研究開発投資、従業員の勤労意欲など)の重要性が増加」しているため、「企業価値評価には、無形項目がもたらす企業業績の反映が不可欠」とし、企業業績を反映できるインカム・アプローチが必要であるとした。 インカム・アプローチの3つのモデルとして、配当割引モデル(DDM)、割引キャッシュフローモデル(DCFM)、残余利益モデル(RIM)が紹介され、仮設例による試算により、「評価モデルが必要とする将来期間のデータ(配当、キャッシュフロー、純利益)が正しく予測されている限り、どのモデルを用いても同じ評価額に到達する」ことが示された。 3つのモデルの定性的な優劣比較において、櫻井委員は、①適用が不可能または無意味なケース、②モデルが必要とする将来データの予測の難易度、③ターミナル価値への依存度、という3つの判断基準に照らして「残余利益モデルが最も優れているという定性的判断が可能」と結論付けた。 残余利益モデルの基本的な考え方は、「企業価値=現時点の自己資本簿価+将来生み出される『残余利益』の現在価値」というものである。ここでいう「残余利益」とは、会計上の当期純利益から株主資本コストを控除した「超過利益」を指す。すなわち、自己資本簿価に対する期待収益(資本コスト)を上回って稼ぎ出した部分のみが、簿価を超える企業価値の源泉となるという発想である。 純利益が毎期一定額Aで永続すると仮定した場合の算式は次のとおりである。 櫻井委員の仮設例(自己資本簿価800、純利益204、自己資本コスト10%)に当てはめると、まず残余利益は204-(800×10%)=124となる。これは、当期純利益204のうち、株主が期待する最低限の収益(800×10%=80)を超えて稼ぎ出した超過利益分である。この超過利益124が毎期永続するとすれば、その現在価値は124÷10%=1,240となり、現在の自己資本簿価800と合算した2,040が企業価値として算定される。 櫻井委員資料では、同じ仮設例について配当割引モデル、割引キャッシュフローモデル、残余利益モデルの3つで試算した結果、いずれも企業価値2,040という同一の評価額に到達することが示されている。3つのモデルは予測データが正確である限り理論的には同等であるが、現実には予測精度や適用可能性の差から、残余利益モデルが実務適合性において最も優れているということになる。 残余利益モデルを適用する場合の検討事項として、①現在の自己資本簿価の把握(資産・負債の時価評価を行うか否か)、②将来期間の当期純利益の予測値(恣意的な予測値は不可、過去の損益計算書の実績値との紐付けが必要、法人税の節税を狙って利益圧縮された過年度分の損益計算書を是認するか矯正するか)、③自己資本コスト(株主の期待収益率)を何%とするか、その画一的な設定方法の合理性が論点となる。 櫻井委員の提案は、現行の類似業種比準方式(マーケット・アプローチ)に対する具体的な代替案として示唆に富む。   5 総括(私見) 筆者としては、日本商工会議所が示した中小企業の現場からの声も重要な視点であるとしつつ、相続税法22条の時価とは何かという原点に立ち返れば、時価は時価として適正なあるべき評価方法を構築し、事業承継への配慮は事業承継税制等の特例措置によって税負担の軽減を図ることが肝要であると考える。 類似業種比準方式に関する過去の数次の改正(昭和47年改正のしんしゃく率0.7の導入、昭和58年改正の小会社への併用方式(類似業種の適用割合0.5)の導入等)は、いずれも事業承継への政策的配慮を評価通達の中で実現しようとしたものであるが、結果として時価と評価通達との乖離を恒常化させ、昨今の時価と評価通達の乖離を利用した相続対策スキームの温床ないし引き金となっている以上、今回の改正において、再び事業承継への政策的配慮を評価方法の中に組み込むような安易な評価の引下げを行えば、同じ轍を踏むことになりかねない。 今回の改正は、昭和39年の評価通達制定以来の抜本的な改正であり、かつ、時価評価の観点から納得のいく評価ルールを構築するとともに、円滑な事業承継を下支えする軽減措置も併せて整備されるべきものであるとの認識のもと、評価通達と事業承継税制の役割分担を明確にした制度設計こそが、今回の改正の核心となるべきである。 今後の有識者会議の議論を引き続き注視していきたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#柴田 健次
2026/06/08
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