有価証券報告書における作成実務のポイント 【第13回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 今回は、有価証券報告書のうち、【経理の状況】の【注記事項】税効果会計関係と企業結合等関係の作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2025年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。 1 税効果会計関係 税効果会計について注記が求められている。連結の注記であるため、連結子会社の分も含めて注記が必要であることから、連結子会社の情報も収集する必要がある。 また、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、下記2二及び3については、個別財務諸表における注記は不要である。 【事例:(株)伊藤園 2025年4月期の有価証券報告書】 【事例:三谷産業(株) 2025年3月期の有価証券報告書】― 法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との間の差異が法定実効税率の100分の5以下であり、注記を省略している場合 (省略) (省略) 【事例:(株)ラクーンホールディングス 2025年4月期の有価証券報告書】― グループ通算制度を適用している場合 (省略) (省略) 2 企業結合等関係 企業結合等関係では、(1)取得による企業結合、(2)共通支配下の取引等、(3)共同支配企業の形成、(4)事業分離における分離元企業、(5)事業分離における分離先企業、(6)子会社の企業結合について注記する。 (1) 取得による企業結合 【事例:ニフティライフスタイル(株) 2025年3月期の有価証券報告書】 【事例:ミガロホールディングス(株) 2025年3月期の有価証券報告書】―条件付取得対価がある場合 【事例:トーカロ(株) 2025年3月期の有価証券報告書】―暫定的な会計処理がある場合 【事例:住友林業(株) 2024年12月期の有価証券報告書】―前連結会計年度において暫定的な会計処理を行い、当連結会計年度において取得原価の配分額に重要な見直しが行われた場合 (省略) (省略) (2) 共通支配下の取引等 【事例:(株)日本創発グループ 2024年12月期の有価証券報告書】―子会社株式の現金による追加取得、子会社による合併の場合 (省略) (3) 共同支配企業の形成 (4) 事業分離における分離元企業 【事例:セガサミーホールディングス(株) 2025年3月期の有価証券報告書】 (省略) (5) 事業分離における分離先企業 (6) 子会社の企業結合 (了)
〔業種別Q&A〕 労使間トラブル事例と会社対応 【第6回】 「チェーン店の店長の管理監督者性」 〈流通・小売業・卸売業〔Q1〕〉 弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士 織田 康嗣 〈流通・小売業・卸売業の特徴と特有の労務問題〉 流通・小売業・卸売業は、生産者から消費者へと商品をつなぐサプライチェーンの中核を担う、社会に不可欠な産業である。必ずしも流通・小売業・卸売業のみで生じる労務問題ではないが、その業界の特徴から、以下のような問題が生じやすい。 (1) 残業代の問題 消費者の利便性の追求や多店舗との競争から、店舗の営業時間が長時間化し、年中無休で営業している店舗も存在している。また、慢性的な人員不足の問題を抱え、十分な人員配置ができなかった結果、長時間労働につながることもある。 労働時間管理が適正に行われていなければ、未払い残業代の問題を生じさせることがある。また、店舗の店長等を管理監督者扱い(深夜残業を除く残業代の支給対象外)にしたものの、その実態は「名ばかり管理職」となっており、管理監督者性に疑義が生じることもある。 (2) シフト制の問題 小売業等においては、シフト制が採用されているケースも少なくない。シフト制の下では、一定期間ごとに作成される勤務表等によって、具体的な労働日や労働時間が確定するが、従前よりシフトが削減された等として紛争が生じるケースがある。所定労働日数(最低限シフトの保障をする日数)の合意があるか否か、仮に合意がないとしても、濫用的な削減ではないかといった点が問題になり得る。 (3) 雇止めの問題 小売業等では、時間帯や曜日によって繁閑の差が大きく、繁忙期に集中的に人員を配置できるよう、アルバイト・パートといった非正規労働者を多く雇用していることがある。 期間の定めのある非正規雇用であるからといって、安易に雇止め(契約不更新)とし、その後に紛争に発展してしまうケースが存在する。 (4) 同一労働同一賃金の問題 前述のとおり、小売業等では、非正規雇用が多く見られるなど、多様な雇用形態が存在しているケースがある。通常の労働者(正社員)と短時間・期間の定めのある従業員・派遣労働者との間で、不合理な待遇の相違や差別的取扱いを解消すべく、同一労働同一賃金が求められているが、自社の給与体系が同一労働同一賃金に反しないか問題になることがある。 (5) ハラスメントの問題 小売業では、顧客との接客業務も伴うところ、顧客とのトラブル(顧客からのクレーム等)が生じることがある。社内のハラスメントだけでなく、顧客によるハラスメント(カスタマーハラスメント)の問題も発生する。 (6) 労災の問題 ハラスメントによるメンタル不調のほか、店舗内で転倒した、商品の納品作業中に怪我をした、腰痛になるなどの労災が発生することがある。 これらが労災といえるか(業務起因性が認められるか)という点に関しては、厚生労働省の労災認定基準をもって判断される。さらに、会社に安全配慮義務違反が認められる場合には、会社に対する損害賠償の問題に発展することもある。 【Q】 当社はチェーン店展開で多店舗を運営しています。各店の店長は管理監督者として取扱い、深夜残業を除く残業代を支給していませんが、問題ないでしょうか。 【A】 形式的に店長というだけでは足りず、①職務内容や労務管理上の権限、②勤務態様(出退勤の自由)、③管理職としての地位に相応しい待遇の有無といった各要件を充足する場合に限り、管理監督者扱いとすることが可能です。 ▲ ▼ ▲ 解 説 ▲ ▼ ▲ 1 管理監督者とは 一般に管理監督者は、労働時間規制を超えて活動することが要請される重要な職務と職責を負っており、その勤務態様が労働時間規制になじまないといえる。そのため、労働基準法の管理監督者に該当する場合、労働時間、休憩、休日に関する規程は適用除外とされ(労働基準法41条2号)、深夜労働を除き、管理監督者への残業代の支払は不要となる。 ただし、留意しなければならないのは、管理監督者であっても、労働安全衛生法で求められている労働時間の状況把握義務の対象からは、管理監督者は除外されていないということである(労働安全衛生法66条の8の3)。同法上の義務としては、通常の従業員と同様に労働時間の状況を把握する必要がある。 2 管理監督者性の判断基準 行政解釈では、管理監督者について、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体の立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきと解している(昭和22年9月13日発基17号、昭和63年3月14日基発150号)。 裁判例では、①職務内容が、少なくともある部門全体の統括的な立場にあること、②部下に対する労務管理上の決定権等につき、一定の裁量権を有しており、部下に対する人事考課、機密事項に接していること、③管理職手当等の特別手当が支給され、待遇において、時間外手当が支給されないことを十分に補っていること、④自己の出退勤について、自ら決定し得る権限があることの各要件を求めるものがある(ゲートウェイ21事件・東京地判平成20年9月20日労判977号74頁)。 すなわち、①職務内容や労務管理上の権限(経営者との一体性)、②勤務態様(出退勤の自由)、③管理職としての地位に相応しい待遇の有無といった各要件を充足する必要がある。 3 代表的な裁判例(日本マクドナルド事件) 管理監督者に関する代表的な裁判例かつ小売業に関わる事例として、日本マクドナルド事件(東京地判平成20年1月28日労判958号10頁)がある。 同事件は、ファーストフード店の店長の管理監督者性が争われた事件であり、裁判所は、結論として、管理監督者性を否定し、会社側に割増賃金の支払を命じている。前述の各要素について、裁判所は、概ね次のような認定をした。 4 日本マクドナルド事件後に出された通達 日本マクドナルド事件後、チェーン展開する店舗等における店長等の実態を踏まえ、特徴的に認められる管理監督者性を否定する要素を整理した、「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について(平成20年9月9日付け基発第0909001号)」という通達が発出された(後述資料)。この通達は店舗の店長を念頭に発出されたものであり、特に、チェーン展開されている店舗における判断においては、参考になる。 5 その他の裁判例 上記の日本マクドナルド事件以外にも、小売業(飲食業)において、管理監督者性が争われた裁判例として、以下のような事例がある。 (1) フォロインプレンディ事件(東京地判平成25年1月11日労判1074号83頁) 飲食店の店長または店長代理の管理監督者性が問題となった事案である。 店長または店長代理は、アルバイト従業員の採用やその従業員らの労働時間の決定について一定の権限を有し、店長会議や毎年度末に開催される経営者会議に参加していたものの、各店長または店長代理は、フランチャイズも含めれば50を超える店舗がある中、その1人として参加するにすぎなかった。 店長または店長代理固有の業務は、営業日報・営業月報の作成、毎月のシフトの作成等であり、それ以外は、店舗の営業時間のほとんどにおいて、配下のアルバイト従業員と同様の業務に従事していたこと、役職手当等の権限ないし役職に対応する手当が支給されていたこともなかったこと、労働時間についても自由に決定することができる状況にあったとは認め難いこと等から、管理監督者性が否定された。 (2) 穂波事件(岐阜地判平成27年10月22日労判1127号29頁) これも飲食店の店長の管理監督者性が問題となった事例である。 店長の権限に関し、店舗の営業時間を変更することはできず、パート等従業員の給料や、昇給等についても一定の枠の範囲内での権限であったこと、会社の経営全体について、決定に関与していなかったこと、勤務態様に関し、タイムカードへの打刻が求められ、出退勤について管理されていたこと、店長が担当店舗の営業日や営業時間を自ら決定する権限はなく、休むためにはアシスト等代行者を確保する必要があったこと等から、管理監督者性が否定された。 6 まとめ 以上のとおり、管理監督者性が争われたケースは多く存在するものの、経営者との一体性、労務管理上の権限を有さず、管理監督者性が否定されてしまったケースも少なくない。裁判例の判示をみると、管理監督者の権限として、企業全体の事業運営への関与を要するような趣旨を述べるものもあるが、各管理者の権限配分の状況によっては、批判もあり得るところである。 いずれにしても、管理監督者性に関しては、形式面ではなく、実体判断が重要である。今一度、自社において管理監督者扱いとされている従業員に関し、疑義が少しでもある場合には、各要素を充足するか否か入念に確認するべきである。 《参考資料》 「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について(平成20年9月9日付け基発第0909001号)」 (了)
〈2026年1月施行〉 下請法改正と企業対応のポイント 【後編】 「改正に伴い企業が注意すべきポイント」 弁護士法人東町法律事務所 弁護士 木下 雅之 本連載の【前編】では、2026年1月に施行となる下請法改正の概要について解説した。【後編】では、改正に伴う企業対応において注意すべきポイントを確認する。 1 適用範囲の拡大に伴い注意すべきポイント (1) 従業員基準の追加 資本金規模が小さく、これまで現行法の対応をしてこなかった委託事業者であっても、自社の従業員数が300人(製造委託等)又は100人(役務提供委託等)を超える場合には、中小受託取引適正化法上の「委託事業者」として、新たに責任を負うこととなる。 したがって、自社が従業員基準を満たす場合には、あらためて中小受託取引適正化法の適用のある取引がないかどうかを確認する必要があるほか、自社の子会社等についても同様に、資本金基準を満たさないがためにこれまで現行法の対応をしてこなかった子会社等がないかどうかを確認しなければならない。 従業員基準によって新たに中小受託取引適正化法の適用を受ける場合には、発注書の内容や支払期日の設定を見直すなど、「委託事業者」に課される4つの義務(①支払期日を定める義務、②書面の交付義務、③書類の作成・保存義務、④遅延利息の支払義務)に適切に対応しなければならない。 一方、資本金規模が大きく、これまで「下請事業者」として取り扱ってこなかった取引先についても、従業員数が300人以下(製造委託等)又は100人以下(役務提供委託等)であれば、従業員基準によって新たに「中小受託事業者」として取り扱う必要が生じるため、そのような取引先がないかどうかの洗い出しも必要となる。 なお、資本金の額は登記事項とされているため、会社の登記簿謄本によって客観的に確認することができるが、従業員数は一般的に公表されるものではなく、常時変動する可能性もあることから、従業員基準との関係で、いかにして取引先の従業員数を把握するかは実務上悩ましい問題となる。 委託契約書において従業員数の表明保証条項や従業員数に変更があった場合の通知義務を定める条項を設けたり、電子メールで相手方に確認したりするなど、当事者双方にとって過度な負担とならず、かつ、記録が残る方法で従業員数の把握に努めることが望ましいが、取引先が事実と異なる回答をする可能性もあり、リスクを完全に回避することは困難である。そのため、保守的な対応としては、明らかに中小受託取引適正化法の適用対象に含まれないと判断できる取引を除いて、一律に中小受託取引適正化法が適用される前提で対応することも検討に値しよう。 (2) 特定運送委託の追加 発荷主と運送事業者との間の運送委託取引(特定運送委託)は、これまで独占禁止法の物流特殊指定によって対応されてきたが、中小受託取引適正化法の施行後は、新たに同法の適用対象となる。 物流特殊指定は、中小受託取引適正化法と同様に、支払遅延や減額などの委託事業者の禁止行為を定めているが、中小受託取引適正化法が適用されることとなれば、「委託事業者」に課される4つの義務(①支払期日を定める義務、②書面の交付義務、③書類の作成・保存義務、④遅延利息の支払義務)に新たに対応する必要があるほか、違反した場合には公正取引委員会による勧告の対象となる点などで物流特殊指定とは異なる。 そのため、運送を委託している取引を洗い出し、新たに中小受託取引適正化法の適用対象となる取引がないかどうかを確認したうえ、これに該当する場合には、書面の交付義務を含め、中小受託取引適正化法に準拠した取引内容・取引条件となっているかどうかの確認が必要となる。 (3) 金型以外の木型、治具等の製造委託先の確認 現行法は、物品等の製造に用いられる金型のみが製造委託の対象とされ(現行法2条1項)、木型、治具等については製造委託の対象物とされていないが、中小受託取引適正化法は、金型に加え、もっぱら製品の製造のために用いられる「木型その他の物品の成形用の型若しくは工作物保持具その他の特殊な工具」についても、新たに「製造委託」の対象物として追加した(中小受託取引適正化法2条1項)。 そのため、製品の製造のために用いる木型や治具等の製造を委託している場合、これらの委託先が中小受託事業者に該当し、新たに中小受託取引適正化法の適用対象とならないかどうかの確認が必要となる。 2 禁止行為の拡充に伴い注意すべきポイント (1) 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止 中小受託事業者から価格協議を求められた場合、委託事業者は協議に応じ、当該協議において求められた事項について必要な説明や情報提供を行ったうえで、代金額を決定しなければならない。 もっとも、コストが上昇しているにもかかわらず一方的に代金額を据え置く行為については、現行法上も「買いたたき」に該当するものとして対処が行われてきたことから、すでにこれに対応している企業にとっては、実務への影響は限定的であると思われる。 なお、新たに追加されたこの禁止行為類型は、あくまでも中小受託事業者から価格協議の求めがあった場面を前提としているため、「求め」がなければ、仮に協議を経ずに代金額を決定したとしても直ちにこの禁止行為類型に抵触するわけではない。 しかしながら、公正取引委員会が定める現行法の運用基準(下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準)においては、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率など経済の実態が反映されていると考えられる公表資料においてコストの著しい上昇が把握できるにもかかわらず、代金額を据え置く行為は「買いたたき」に該当するとの考えが示されていることから、たとえ中小受託事業者側からの「求め」がなかったとしても、公表資料からコストの上昇を把握できる場合には、引き続き、「買いたたき」に該当することのないよう注意が必要である。 (2) 手形払い等の禁止 これまで製造委託等代金の支払に手形を利用してきた委託事業者は、改正法の施行後は、手形による支払が禁止され、支払を繰り延べることができなくなる。 また、電子記録債権やファクタリングなどの一括決済方式を利用してきた委託事業者も、改正法の施行後は、その決済日を製造委託等代金の支払期日に揃えるか、あるいは、現金化するための手数料等の費用を製造委託等代金に上乗せして支払わなければならなくなる。 いずれにしても、これらの対応は委託事業者にとって自社の資金繰りに直結しうるため、早めの準備が必要となろう。 なお、公正取引委員会が定める現行法の運用基準においては、事前の書面による合意があれば、製造委託等代金を振り込む際の振込手数料を中小受託事業者の負担としても、代金減額にはあたらないとされていたが、改正にあわせてこの点の運用基準が改定される見込みであり、改定後は、事前の書面による合意の有無にかかわらず、振込手数料を控除して製造委託等代金を支払うことは「代金減額」にあたると評価されてしまうため、この点も対応が必要となる。 (連載了)
《速報解説》 2025年版「上場会社等における会計不正の動向」をJICPAが公表 ~雇用調整助成金等の不正受給に関する事案は後を絶たず~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 日本公認会計士協会(経営研究調査会)は、2025年7月24日付けで経営研究調査会研究資料第12号「上場会社等における会計不正の動向(2025年版)」を公表した。 「上場会社等における会計不正の動向」(以下「研究資料」と略称する)は、2018年から毎年公表されているものであり、研究資料における分類項目を当初から変化させることなく、比較可能性が維持されている。 本稿では、公表された研究資料の概要を紹介するとともに、2018年3月期以降の会計不正の動向の変化について検討をしたい。 1 会計不正の定義 研究資料では、過去の研究資料と同様に、会計不正(Accounting fraud)の類型を、主に「粉飾決算」と「資産の流用」に分類したうえで、「粉飾決算」と「資産の流用」とに明確に区分できないものは「粉飾決算」に含めて集計している。 巻末に【参考】として記載されているそれぞれの定義の一部を引用する。 なお、定義については、2018年版から変更されていない。 2 会計不正の動向 研究資料で集計、分析を行っている項目は次の9つに分類されている。この分類についても、上述のとおり、2018年版以降、変更はない。 3 集計・分析結果の特徴 (1) 会計不正の公表会社数 会計不正を公表した会社の数は、2021年3月期から2025年3月期までの5年間で196社となっている。当該5年間では、2025年3月期の56社が最大であり、2020年3月期の46社、前年同期の45社を上回って、研究資料が公表されている2018年3月期以降で、最多となっている。 (2) 会計不正の類型と手口 会計不正を「粉飾決算」と「資産の流用」に分類した場合、2025年3月期までの5年間の平均で「粉飾決算」の割合が77.6%となっている。2025年3月期においては、件数ベースでは76.6%が「粉飾決算」で、調査対象の5年間で最も少なかった前年同期の75.3%からやや増加している。粉飾決算の割合は、年度によってばらつきが見られるものの、75.3%から80.4%の範囲内に分布している。 粉飾決算の公表が80%程度で推移していることについて、研究資料では、「資産の流用による影響額よりも、粉飾決算による影響額の方が多額になる」ことから、「上場企業等が適時開示基準に準拠して公表する数は、粉飾決算の方が多くなると考えられる」と分析しており、この分析は2018年版以降、同じ表現となっている。 不正の手口としては、収益関連の会計不正(売上の過大計上、循環取引、工事進行基準)の割合については5年間平均で32.2%となっている。2025年版の特徴として、「雇用調整助成金等の不正受給に関する事案は後を絶たず、一部の上場会社でも調査対象となって」いると記述されている。 (3) 会計不正の主要な業種内訳 2025年3月期までの5年間で、会計不正が行われた事業を基に分類した業種別の公表件数では、サービス業が46社でトップ、次いで、卸売業27社と上位2業種の順位に変動はなかったものの、建設業が21社で、前年3番目だった情報・通信業20社を抜き、以下、電気機器および小売業がそれぞれ11社となっている。 (4) 会計不正の上場市場別の内訳 会計不正を公表した会社が上場している市場別に分類したところ、2025年3月期においては、東証プライム市場29社(前年同期20社。以下括弧内の数字が前年同期を示す)、東証スタンダード市場21社(15社)、東証グロース市場5社(7社)、その他1社(3社)となり、プライム市場に分類される会社においては、3年連続して会計不正の発覚社数が増加している。 また、2025年3月31日現在の市場別上場会社数と、東証において市場区分の見直しが行われた後4年間の市場別の会計不正の件数の割合を比較した表は、次のとおりである。 (5) 会計不正の発覚経路 2025年3月期までの5年間における会計不正の発覚経路は、当局の調査等が47社(前年同期は42社。以下括弧内の数字が前年同期を示す)、内部統制等が31社(34社)、内部通報が28社(29社)、取引先からの照会等が26社(28社)、公認会計士監査が16社(16社)となっていて、前回同期との比較では、当局の調査等が2年連続して1位であり、それ以下の発覚経路についても、前年同期と変化はない。一方、調査報告書に発覚経路が公表されていないケースは26件(構成比14.1%)を占めている。 (6) 会計不正の関与者 2025年3月期までの5年間における会計不正の主体的な関与者、共謀の有無などを分析した結果、関与者の役職や共謀の有無については年度ごとのばらつきが見られるものの、役員と管理職については、共謀して会計不正を行うことが多く(共謀が90社、単独が45社)、非管理職については、単独37社、共謀16社と、単独での会計不正が共謀を上回っている傾向が、2025年3月期も継続していることが明らかになった。 (7) 会計不正の発生場所 2025年3月期までの5年間における会計不正の発生場所を上場会社(本社)、国内子会社及び海外子会社の別に分類して集計した結果、上場会社本体が82社、国内子会社が82社、海外子会社が25社となった(複数の場所で発生している会社については、それぞれ集計している)。2021年3月期及び2022年3月期は、上場会社本体での会計不正の発生社数(7社及び12社)を国内子会社(12社及び17社)が上回った状態が続いていたが、2023年3月期以降は、上場会社本体が国内子会社を上回る傾向が続いている。一方、海外子会社における会計不正の件数は、2021年3月期以降、6社➡4社➡3社➡3社と少ない状態が続いていたが、2025年3月期には10社となり増加が顕著であった。 会計不正が発覚した海外子会社の所在地については、中国が46%、北米・南米が273%、中国を除くアジアが19%となっている。 (8) 会計不正の不正調査体制の動向 2025年3月期までの5年間における会計不正発生時の調査委員会の組成を、「社内のみ」「社内+外部専門家」「外部専門家のみ」の3つに分類して集計したところ、それぞれ、26社、62社、96社となった。「外部専門家のみ」の調査委員会設置数については、2022年3月期及び2023年3月期は過半数を超えていたが、2024年3月期は過半数割れ、2025年3月期になって44社中28社と大きく過半数を超えている。 会計不正の分類別に不正調査体制を比較すると、「粉飾決算」では「外部専門家のみ」で組成されている調査体制を採用する会社が多く(55.6%)、「資産の流用」では「社内のみ」または「社内+外部専門家」で調査に当たる会社が多くなっている(「社内のみ」が41.7%、「社内+外部専門家」が37.5%)ことがわかる。 (9) 会計不正と内部統制報告書の訂正の関係 2025年3月期までの5年間において、会計不正の発覚に伴って、過年度の内部統制報告書を訂正した上場会社は73社であった。訂正を行った会社のうち62社は、会計不正の類型が「粉飾決算」であった。 内部統制報告書の訂正割合の変化に注目すると、調査を開始した2018年3月期の51.7%をピークに、2021年3月期は26.9%まで減少したものの、2022年3月期以降は、42.4%➡38.9%➡44.4%と推移して、2025年3月期は32.1%であった。今回の調査で割合が減少している点について、コメントは記されていない。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2025年7月24日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.628を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
令和7年度税制改正の基礎控除の見直し等による 源泉徴収事務への影響 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 令和7年度税制改正では、所得税の基礎控除及び給与所得控除に関する見直し、特定親族特別控除の創設等が行われた。これらの改正は、源泉徴収事務(月々の給与・賞与からの源泉徴収及び年末調整)に大きく影響する。 本稿では、改正事項の源泉徴収事務に対する影響を実務的な観点から解説する。 (※) 本稿では、給与の源泉徴収事務に関連する各申告書を次のとおり表記する。 【1】 令和7年度税制改正の概要 令和7年度は、所得税について、源泉徴収事務に関係する以下の改正が行われた。 各改正の詳細については、以下の記事をご参照いただきたい。 【2】 源泉徴収事務への影響 【1】①~④の改正(基礎控除、給与所得控除、特定親族特別控除、扶養親族等の所得要件)は、令和7年分の所得税から適用される。しかし、改正後の法律は、令和7年12月1日に施行される。よって、令和7年11月までの源泉徴収事務は改正前の法律に基づいて行い、令和7年12月以後の源泉徴収事務、具体的には令和7年12月以後に実施される年末調整の際に、改正後の基礎控除等を適用し、税額の精算を行うこととなる。 なお、【1】⑤の改正(生命保険料控除の特例)は、令和8年分の所得税に限り適用される。よって、令和7年分の源泉徴収事務には影響しない。 【3】 令和7年分の給与・賞与からの源泉徴収における留意事項 【1】①~④の改正は、令和7年分の所得税から適用されるが、改正後の法律の施行日は令和7年12月1日である。よって、令和7年11月までの給与・賞与及び公的年金等の源泉徴収事務に変更は生じない。給与・賞与について改正内容を反映するのは、令和7年12月1日以後に行う年末調整からとなる(※)。 (※) 公的年金等の源泉徴収事務においては、基礎控除について改正前と改正後の控除額に基づいて令和7年12月の支払の際に精算が行われる。公的年金等の受給者が、令和7年分の所得税について、特定親族特別控除の適用を受ける場合や、扶養親族等の所得要件の改正により扶養控除等の適用を受けることができることとなった場合には、原則として確定申告をする必要がある。 【4】 令和7年分の年末調整における留意事項 令和7年12月1日以後に行う年末調整における留意事項は、以下のとおりである。 (※) 特定親族特別控除申告書は、基礎控除申告書、配偶者控除等申告書及び所得金額調整控除申告書との兼用様式とされている。 なお、海外転勤等の理由により、令和7年11月30日以前に年末調整を行う場合には、改正前の法律に基づいた計算を行うことになる。 【5】 令和8年分以後の給与・賞与からの源泉徴収における留意事項 令和8年分以後の給与・賞与からの源泉徴収における留意事項は、以下のとおりである。 (※) 国税庁ホームページに、令和7年8月末頃掲載される予定である。 特定親族特別控除の創設に伴い、令和8年分以後の扶養控除等(異動)申告書には、源泉控除対象親族を記載することとなった(所法194①五)。源泉控除対象親族とは、次の①又は②のいずれかに該当する人をいう(所法2①三十四の五)。 【参考:親族の範囲】 (出典) 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係)」の7頁より抜粋 なお、給与や賞与からの源泉徴収税額は、扶養控除等(異動)申告書に記載された扶養親族等の数により求めることとされている。令和8年分以後における扶養親族等の数は、源泉控除対象配偶者及び源泉控除対象親族の数に基づいて算定する(所法185①、186①②)。 (了)
国家安全保障から見る令和7年度及び近年の税制改正 -防衛特別法人税等の企業への影響- 【第1回】 公認会計士・税理士 荒井 優美子 1 地政学リスクの増大と経済安全保障を確保する経済政策 我が国の安全保障確保への対応は、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻前では、我が国周辺の安全保障環境の変化への対応に必要な防衛力を大幅に強化し、多次元統合防衛力を構築する、として具体的な計画のタイムスケジュールは明記されていなかった(経済財政運営と改革の基本方針2021)。 その後、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、新たな「中期防衛力整備計画」を策定し、防衛力を5年以内に抜本的に強化する(経済財政運営と改革の基本方針2022)ことが明記されるに至った。与党の令和5年度税制改正大綱は、この方針を受けて、税制による財源確保の対応を明確にしたものである。 ロシアによるウクライナ侵攻を契機に、我が国の安全保障確保を担保する防衛力強化の方針が明確にされただけではなく、エネルギー安全保障の強化や金属鉱物資源等の安定確保、国内外のサプライチェーンの強靱化等の経済安全保障政策についても更なる見直しを行い、税制措置の検討も行われている。 本稿では、11回にわたり国家安全保障に関連する税制措置について、防衛特別法人税を中心に政策税制の解説を行い、企業活動への影響を検討する。 2 防衛力の抜本的強化の財源としての防衛特別法人税の創設 2025年6月13日に、「経済財政運営と改革の基本方針2025 ~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~」(骨太方針2025)が閣議決定された。 骨太方針2025では、当面のリスクへの対応として米国による一連の関税措置を掲げているが、今後の経済政策の柱として掲げる、賃上げの普及・定着、地方創生2.0の推進、「投資立国」及び「資産運用立国」等は、2024年の骨太方針(「経済財政運営と改革の基本方針2024 ~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~」)や2024年11月23日に閣議決定された総合経済対策(「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」、以下、「総合経済対策」)における経済政策を踏襲するものである。 令和7年度税制改正は、総合経済対策の第1の柱とされた、賃上げ環境の整備としての中堅・中小企業の生産性向上や地方創生2.0の方針を受け、政策税制の中心は中小・中堅企業支援の措置とされ、大企業向けの政策税制として注目すべきものは見られない。 その一方で、「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法」の改正により創設された防衛特別法人税は、増税による将来のキャッシュフローへの影響や、2025年3月31日以後に事業年度の末日を迎える企業の財務諸表への影響(税率変更に伴う繰延税金資産、繰延税金負債の積み増し)等、令和7年度税制改正の中でも企業の関心が高い項目の1つである。 防衛特別法人税の創設については、与党の令和5年度税制改正大綱において、我が国の防衛力の抜本的な強化を行うに当たり、歳出・歳入両面から安定的な財源を確保するために、税制部分については、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、法人税、所得税、たばこ税を対象に令和6年以降の適切な時期に実施することが明記された。 そして、令和6年度に成立した、所得税法等の一部を改正する法律附則第74条において、所得税、法人税及びたばこ税について所要の検討を加え、適当な時期に必要な法制上の措置を講ずることが、明記されていた。令和7年度税制改正により、法人の2026年4月1日以後に開始する各事業年度を課税事業年度とする、防衛特別法人税が導入され、たばこ税は加熱式たばこの課税方式の見直しが行われたが、所得税は引き続き検討することとされている 。 3 経済安全保障政策と税制措置 サプライチェーンの強靭化が経済政策として提唱されたのは、パンデミックが発生した2020年の総合経済対策においてである。 コロナ危機を契機に浮き彫りとなった海外での生産拠点の集中度が高いサプライチェーンの脆弱性に対処するべく、国内外でサプライチェーンの強靱化支援(国内増産等に寄与する設備投資(サプライチェーン対策のための国内投資促進事業)や、海外生産拠点の多元化に資する設備投資に対して支援を実施)が補助金制度により手当された。この経済政策は、ロシアによるウクライナ侵攻と円安の進行により、一層加速されることとなった。 令和7年度税制改正では、エネルギーサプライチェーンの強靱化のための税制支援として、減耗控除制度(探鉱準備金又は海外探鉱準備金、新鉱床探鉱費又は海外鉱床探鉱費の特別控除)の拡充及び延長が行われた。 減耗控除制度は、「民間企業による継続的かつ安定的な探鉱活動を下支えし、持続的な鉱山経営を後押しすることにより、エネルギー・鉱物資源の安定供給確保に着実に寄与してきた」(経済産業省の令和7年度税制改正要望)税制措置であり、「鉱物資源不足によるDX、GX本格化への制約と中長期的権益確保の必要性」や、今後の供給量不足が見込まれる、石油・天然ガスの上流投資の必要性から税制改正要望に盛り込まれたものである。 令和6年度税制改正では海外投資等損失準備金の見直し及び延長も行われている。海外投資等損失準備金制度は、石油・天然ガスや鉱山における探鉱・開発を行う際、必要な資金の一部を準備金として積み立て、損金算入を認めることで、手元に資金を残し、さらなる投資を促進する税制措置として60年以上前に導入された海外投資支援措置である。 令和6年度税制改正で創設された戦略分野国内生産促進税制は、経済安全保障の確立及び国内生産基盤の強化に係るインフラ整備を目的とするアメリカの「インフレ削減法(Inflation Reduction Act)」(2022年8月16日に成立)に倣い、立法化された。 戦略分野国内生産促進税制は、国として特段に戦略的な長期投資が不可欠となるGX・DX・経済安全保障の戦略分野における国内投資を促進するため、産業競争力基盤強化商品の生産設備の新設等を行った場合に、産業競争力基盤強化商品生産・販売量に応じて法人税額の控除を認めるもので、戦略分野への投資を自国内に誘導する政策税制として位置付けられる。 改正後の産業競争力強化法の施行日(2024年9月2日)から2027年3月31日までに産業競争力強化法の認定を受けた事業者(認定産業競争力基盤強化商品生産販売事業者)が適用の対象とされる。産業競争力基盤強化商品とは、電気自動車等(蓄電池)、グリーンスチール、グリーンケミカル、SAF(持続可能な航空燃料)、半導体である。 (続く)
令和7年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第4回】 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 2 グループ通算制度における取扱い (1) 改正後の分割割合及び分配割合の計算方法 改正後の分割割合及び分配割合の計算方法は次のとおりとなる(法令8①十五・十七・②、23①二・三・②、119の8、119の8の2、法規8の2の3②、8の5の2②)。 ① 分割割合 [分割割合の計算方法] (注1) 分割法人の移転簿価純資産価額とは、分割法人の分割直前の移転資産の帳簿価額(※1)から移転負債の帳簿価額を控除した金額(その金額が分母の金額を超える場合(分母の金額が0に満たない場合を除く)には、分母の金額)をいう。 (注2) 分割法人の簿価純資産総額とは、分割法人の分割日の属する事業年度の前事業年度(その分割日以前6ヶ月以内に仮決算による中間申告書を提出し、かつ、その提出日からその分割日までの間に確定申告書を提出していなかった場合には、その中間申告書に係る期間)終了の時の資産の帳簿価額から負債(新株予約権及び株式引受権に係る義務を含む)の帳簿価額を減算した金額(その終了の時からその分割の直前の時までの間に資本金等の額又は利益積立金額(当期の所得金額等に基づく留保金額に係るもの及び投資簿価修正額を除く)が増加し、又は減少した場合には、その増加した金額を加算し、又はその減少した金額を減算した金額(※2))をいう。 (※1) 調整対象通算法人の株式にあっては、その株式の修正帳簿価額を分割法人がその分割の直前に有していた調整対象通算法人の株式の数で除し、これにその分割により分割法人から分割承継法人に移転をした調整対象通算法人の株式の数を乗じて計算した金額とする。 (※2) その分割の直前の時において調整対象通算法人の株式を有する場合にはその株式の修正前帳簿価額が修正帳簿価額に満たないときにおけるその満たない部分の金額を加算し、又はその株式の修正前帳簿価額が修正帳簿価額を超えるときにおけるその超える部分の金額を減算した金額とする。 ② 分配割合 [分配割合の計算方法] (注1) 株式分配法人の株式分配の直前の完全子法人の株式の帳簿価額(※1)(その金額が0以下である場合には0とし、その金額が分母の金額を超える場合(分母の金額が0に満たない場合を除く)には分母の金額)とする。 (注2) 株式分配法人の簿価純資産総額とは、株式分配法人の株式分配の日の属する事業年度の前事業年度(その株式分配の日以前6ヶ月以内に仮決算による中間申告書を提出し、かつ、その提出日からその株式分配の日までの間に確定申告書を提出していなかった場合には、その中間申告書に係る期間)終了の時の資産の帳簿価額から負債(新株予約権及び株式引受権に係る義務を含む)の帳簿価額を減算した金額(その終了の時からその株式分配の直前の時までの間に資本金等の額又は利益積立金額(当期の所得金額等に基づく留保金額に係るもの及び投資簿価修正額を除く)が増加し、又は減少した場合には、その増加した金額を加算し、又はその減少した金額を減算した金額(※2))をいう。 (※1) 調整対象通算法人の株式にあっては、その株式の修正帳簿価額とする。 (※2) その株式分配の直前の時において調整対象通算法人の株式を有する場合にはその株式の修正前帳簿価額が修正帳簿価額に満たないときにおけるその満たない部分の金額を加算し、又はその株式の修正前帳簿価額が修正帳簿価額を超えるときにおけるその超える部分の金額を減算した金額とする。 ③ 調整対象通算法人・修正前帳簿価額・修正帳簿価額の定義 [定義] (続く)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例148(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆収用換地等の場合の所得の特別控除(措法65の2) 所有する資産が土地収用法等の規定により収用されたとき、又は買取り申出を拒めば収用されることとなる場合において買い取られたときで、その収用等が次の全ての要件に該当しているときは、その資産の譲渡益(補償金等の額から譲渡直前の帳簿価額及び譲渡経費の額の合計額を控除した金額)と5,000万円とのいずれか低い金額をその譲渡の日を含む事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することができる。 ◆収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例(措法64) (1) 内容 法人の所有する資産が収用等され、交付を受けた補償金等(対価補償金および移転補償金などで対価補償金として取り扱うものに限る。)により代わりの資産(以下「代替資産」という。)を取得した場合には、代替資産について圧縮限度額の範囲内で帳簿価額を損金経理により減額するなどの一定の方法で経理したときは、その減額した金額を損金の額に算入する圧縮記帳の適用を受けることができる。 (2) 適用要件 この特例の適用を受けるためには、次のいずれの条件も満たすことが必要である。 (3) 特例を受けるための経理方法 この特例を受けるためには、次のいずれかの経理方法を採用する必要がある。 (4) 圧縮限度額 圧縮限度額は次の算式により計算する。 (5) 手続き この特例を受けるためには、確定申告書等に損金の額に算入される金額を記載するとともに収用換地等に伴い取得した資産の圧縮額等の損金算入に関する明細書(別表13(4))など一定の書類を添付し、かつ、一定の書類を保存することが必要である。 (6) 選択適用 法人が収用等の補償金等についてこの特例を受けない場合には、一定の要件を満たすときに限り、「収用換地等の場合の所得の特別控除」の規定を適用することができる。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第51回】 「食堂の冷房のために設置されたクーラーは簡単に取り外すことができ、7組の室内機と室外機が各々稼働又は休止しているから建物附属設備ではなく、単体の冷房用機器(器具及び備品)の集合体とされた事例」 税理士 菅野 真美 ▷建物附属設備と器具及び備品 建物附属設備とは、暖冷房設備、照明設備、通風設備、昇降機その他建物に附属する設備(法令13一)と法人税法上定義されている。この中の冷暖房設備であるが、耐用年数省令の別表によると冷暖房設備(冷凍機の出力が22キロワット以下のもの)の耐用年数は13年であり、その他のものは15年とされている。 他方、工具、器具及び備品の中においても冷房用又は暖房用機器があり、この耐用年数は6年である。 冷暖房設備と冷房用又は暖房用機器の違いについて耐用年数通達では「冷却装置、冷風装置等が1つのキャビネットに組み合わされたパッケージドタイプのエアーコンディショナーであっても、ダクトを通じて相当広範囲にわたって冷房するものは、「器具及び備品」に掲げる「冷房用機器」に該当せず、「建物附属設備」の冷房設備に該当する(耐用年数通達2-2-4)とされている。 では、大きなスペースを冷房するためにいくつもの冷房装置があり、室内機は天吊り式であり、配管が天井内を伝わっているものは建物附属設備に該当するのか、それとも、器具及び備品となるのか。この件で争われた事案を検討する。 ▷どのような事案か 日用品の供給及び食堂事業等を行う生活協同組合である納税者が、食堂ホールの冷房のために設置したクーラーを主たる減価償却資産における器具及び備品として申告したところ、課税庁が、大部分は建物附属設備として更正処分をしたことから不服な納税者が審査請求したのが本事案である。 なお、更正の理由として「ダクトを通じて相当広範囲にわたって冷房をするものに該当するから建物附属設備の冷暖房設備に該当する」とされていたが、ダクトは、冷媒配管の屋外を通る部分を隠すための化粧用ダクトであり冷風を通すためのものではないことが確認されたため、「①7組の各冷房設備が相互に結合して1つの設備として機能している。②大学会館の建物本体に固着しているから建物附属設備に該当する。」として更正処分を維持する異議決定がなされた。 ▷争点 争点は、課税庁の行った上記減価償却に係る更正処分は取り消されるべきかである。 ▷裁決 裁決は、課税庁の更正処分を全部取り消すとした。理由は要旨以下のとおりである。 本事例では、納税者の主張が全面的に認められた。 これは、各設備が相互に結合して1つの冷房設備として機能しているのではなく、1組の室内機と室外機で冷房として機能し、それが7組あったと認められたこと、簡易に取り外しができることから、建物に固着しているとはいえないこと、以上から建物附属設備ではないとされたからである。 クーラーが建物附属設備に該当するか器具及び備品に該当するかを判断する際には、書類だけでなく実際に現物を見て、上記のポイント等を確認することが重要であることをこの事例は語っている。 (了)