〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例118】 昭和ホールディングス株式会社 「代表取締役選任が出来ていないこと、経営の現況と今後の方針」 (2026.7.8) 公認会計士/開志創造大学大学院事業創造研究科教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、昭和ホールディングス株式会社(以下「昭和ホールディングス」という)が2026年7月8日に開示した「代表取締役選任が出来ていないこと、経営の現況と今後の方針」である。 同社の開示は本連載【事例95】でも取り上げたが、それは、定時株主総会において、定足数が満たされないため、取締役を選任できないという内容だった。今回の開示は、タイトルのとおり、取締役会において新たな代表取締役を選ぶことができないという内容である。今度は、取締役会の定足数を満たすことができないのだろうか。 2 代表取締役の「選任」ができない? 今回の開示の「代表取締役の選任が出来ていないことと今後の見込み(対応方針)」の記載は、次のとおりである。 やはり取締役会の定足数を満たすことができないからであった。定時株主総会だけでなく取締役会までも定足数を満たさないとは、上場会社としてはもちろん、会社としての体をなしていない。 なお、タイトルだけでなく本文中においても何度も、新たな代表取締役を選ぶことについて「選任」といっているが、正しくは「選定」である(会社法362条2項・3項)。今回の開示の問合せ先とされている昭和ホールディングス取締役の細野敦氏(以下「細野氏」という)は、同社の第125期有価証券報告書の「役員の状況」によると、弁護士である。 3 定時株主総会の定足数は? 本連載【事例95】で見たとおり、昭和ホールディングスの定時株主総会は、2021年3月期から2024年3月期にかけて、ずっと定足数を満たさないため、取締役を選任できていなかった。2025年3月期の定時株主総会も同様だった(2025年1月10日開示「第123回定時株主総会継続会における定数を必要とする議案の結果について」、2025年6月30日開示「第123回定時株主総会終結及び第124回定時株主総会における定数を必要とする議案の結果について」、2026年3月19日開示「第124回定時株主総会継続会における定数を必要とする議案の結果について」)。 しかし、今回の開示の「代表取締役の選任が出来ていないことと今後の見込み(対応方針)」に「2026年6月29日に開催された株主総会後、選任された取締役」とあるように、2026年3月期の定時株主総会では、定足数を満たすことができたのか、取締役を選任できたようである。 同社は、今回の開示の前、2026年6月30日に「第125回定時株主総会における代表取締役の異動(退任)と取締役選任結果に関するお知らせ」を開示していた。それによると、これまで同社の取締役だった此下竜矢氏(以下「此下氏」という)・渡邉正氏・庄司友彦氏・戸谷雅美氏の4名(2025年3月期の定時株主総会まで取締役は選任できていなかったのだが)は取締役に選任されず、此下氏がこれまで同社の代表取締役であったため、新たな代表取締役の選定が必要になったということのようである。 4 取締役間の対立 今回の開示の「代表取締役の選任が出来ていないことと今後の見込み(対応方針)」に「2026年6月30日、代表取締役選任を議題として取締役会を開催する旨全取締役に招集通知を発出し、ニコラス・ジェームズ・グロノウ取締役と細野敦取締役が出席」とあるが、「第125回定時株主総会における代表取締役の異動(退任)と取締役選任結果に関するお知らせ」によると、ニコラス・ジェームズ・グロノウ氏(以下「ニコラス氏」という)と細野氏は取締役に選任されている。 ニコラス氏と細野氏も、これまで同社の取締役だったのだが(2025年3月期の定時株主総会まで取締役は選任できていなかったのだが)、彼らと取締役に選任されなかった此下氏ら4名との間には対立があったようである。昭和ホールディングスは2025年9月26日に「当社(監査等委員である取締役を除く)取締役の地位確認等請求訴訟の判決についてのお知らせ」を開示しているが、その「判決の内容」の記載は次のとおりである。 この判決に対して、同社、すなわち、その時点では此下氏側は控訴することとして、2025年10月10日に「当社(監査等委員である取締役を除く)取締役の地位確認等請求訴訟についてのお知らせ」を開示している。このように、ニコラス氏・細野氏と此下氏ら4名は、お互いに「俺たちがこの会社の取締役だ。お前らは取締役ではない。出て行け」といいあって、争っていたようである。 5 監査等委員である取締役とは 「第125回定時株主総会における代表取締役の異動(退任)と取締役選任結果に関するお知らせ」によると、これまで監査等委員だった取締役(2025年3月期の定時株主総会まで取締役は選任できていなかったのだが)は、引き続き取締役に選任されている(同社の第125期有価証券報告書の「役員の状況」によると、戸谷雅美氏はそれまで監査等委員ではなかった)。 今回の開示の「代表取締役の選任が出来ていないことと今後の見込み(対応方針)」には「監査等委員である取締役3名が出席せず、取締役会は成立しませんでした。なお、その際、監査等委員である取締役は、取締役会を招集した細野敦取締役に対して一切の連絡をしてこず、現在まで監査等委員である取締役3名とは、連絡は取れておりません。」とある。 「当社(監査等委員である取締役を除く)取締役の地位確認等請求訴訟の判決についてのお知らせ」の「判決の内容」にあるとおり、2021年3月期の定時株主総会において、ニコラス氏や細野氏を取締役候補者とする動議が提案された。昭和ホールディングスは2021年7月15日に「当社監査等委員会による第120回定時株主総会における議決権及び運営に関する調査結果に関するお知らせ」を開示しているが、それによると、監査等委員である取締役は、その当時からニコラス氏と細野氏に対して良い心証を持っていなかったようである。 同社の第125期有価証券報告書の「役員の状況」によると、監査等委員である取締役は、ニコラス氏と細野氏よりも前に同社の取締役に就任しており、此下氏ら側と交流があることがうかがえる。また、同有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの概要」には、2026年3月期の取締役会への各取締役の出席状況が記載されているのだが、ニコラス氏と細野氏はすべて欠席であるのに対して、ほかの取締役のほとんどはほぼすべてに出席している。ニコラス氏と細野氏は、監査等委員である取締役とも良好な関係を築けていなかったようである。 6 子会社が子会社でなくなった結果 今回の開示には「当社の経営の現況と今後の方針」も記載されており、それは次のとおりである。 昭和ホールディングスの事務は、子会社の昭和ゴム株式会社(以下「昭和ゴム」という)が行っていたようなのだが、「昭和ゴム株式会社が当社の子会社でなくなった結果」とあるとおり、昭和ゴムは、昭和ホールディングスの子会社ではなくなっている。 少しややこしいのだが、昭和ゴムは、昭和ホールディングスの他の子会社に取得されたため、昭和ホールディングスの子会社ではなくなっているのである。昭和ホールディングスは子会社から資金を借りており、昭和ゴムの株式はその子会社から担保として取られたのである(2026年6月25日開示「連結子会社からの借入に伴う連結子会社に対する子会社株式の担保提供に関するお知らせ」、2026年6月26日開示「連結子会社からの担保権行使通知書の受領、及び連結子会社の異動に関するお知らせ(連結子会社から持分法適用関連会社への異動)」)。 子会社から子会社を取られるという奇妙な話なのだが、昭和ゴムの株式を取得した他の子会社の取締役会長は此下氏、代表取締役は庄司友彦氏である。 7 もっと早く ニコラス氏と細野氏は此下氏ら4名をようやく追い出すことができたのだが、勝者といえるだろうか。今回の開示の「当社の経営の現況と今後の方針」に「当社は、実印、会計帳簿、預金通帳等一切の物・データ類を占有しておらず、その占有場所・保管場所も不明の状態」とあるように、もう昭和ホールディングスはどうにもならない状態といえる。ニコラス氏と細野氏は法的措置を取ろうとしているのかもしれないが、ここまで来ると、そうする意義があるのか疑問に思えてくる。 こうした状態であるので、当然といえば当然なのだが、同社は上場廃止となることが決まった(2026年7月27日「当社株式の上場廃止の決定及び整理銘柄の指定に関するお知らせ」)。東京証券取引所が2026年7月24日に出した「上場廃止等の決定」の「理由の詳細」の記載は次のとおりである。 しかし、「上場会社として必要な内部管理体制が確保されていること」は、本連載【事例95】のときから確認できていなかったはずである。会社としての体をなしていない、こうした会社をこれまで上場させておいてよかったのだろうか。もっと早く「内部管理体制等が適切に整備される又は適切に運用される見込みがないと認められるか否かについて」確認すべきではなかったのだろうか。 (了)
《速報解説》 会計士協会が金融商品会計実務指針の改正等を受け、 「投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱い」の改正案を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年8月21日、日本公認会計士協会は、「業種別委員会実務指針第38号「投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱い」の改正」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、2025年3月11日公表の改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」、2025年6月23日公表の「投資事業有限責任組合契約書例及びその解説(令和7年版)」(経済産業省産業組織課・新たなモデルLPAの作成等のための有識者検討会)に対応するものである。 意見募集期間は2026年9月18日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 用語の一般性や有限責任事業組合(LLP)と区別するため「有責組合」を「LPS」に変更している。 改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」では、特定の要件を満たした場合に、組合員はその出資する組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とすることが認められている。 また、「投資事業有限責任組合契約書例及びその解説(令和7年版)」が公表され、その25条4項では、「無限責任組合員は、本組合が保有する投資証券等の評価を、[時価/IFRS会計基準で定める公正価値/米国において一般に公正妥当と認められる会計基準で定める公正価値/International Private Equity and Venture Capital Valuation Guidelineで定める公正価値測定のガイドラインに準拠した方法]を用いて実施するものとする」と記載されている。 上記を受けて、次のように改正する提案を行っている。 監査報告書の文例なども改正する。 Ⅲ 適用時期等 2027年1月1日以後開始する事業年度又は会計期間に係る監査から適用する。 ただし、2026年12月31日以後終了する事業年度又は会計期間に係る監査から適用することを妨げない。 適用初年度の取扱いに注意する。 (了)
《速報解説》 国税庁、第5回有識者会議にて非上場株式の評価見直しの方向性を明示 ~簿価純資産を基礎とする残余利益方式の採用を示唆~ 税理士 柴田 健次 国税庁は令和8年8月20日、「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第5回を開催し、その資料が公開された。 1 はじめに 第1回から第4回までの有識者会議では、会計検査院指摘の実態整理と国税庁が問題視する圧縮スキームの開示(第1回)、学術・実務家による評価通達本体への根本的問題提起(第2回)、中小企業・実務家・会計学の三者三様の視点(第3回)、国税庁による論点整理と当局として意見を求める6事項の提示(第4回)と、議論が段階的に進展してきた。 これに対し、第5回有識者会議では、「これまでの議論を踏まえた、国税庁の考える評価の見直しの方向性」として、国税庁が具体的な改正方針を初めて明示した点で、極めて重要な会議となった。 本稿では、第5回資料の要点を整理し、改正の方向性を読み解く。改正時期については、これまでの速報においても申し上げたとおり、令和9年度税制改正大綱において法人版事業承継税制の見直しと併せて議論がなされ、令和9年中に非上場株式の評価方法を明らかにした上で、令和10年の相続・遺贈・贈与から適用されるものと筆者は推測している。 2 国税庁が示した評価の見直しの方向性 ―3つの柱 第5回資料は、「これまでの議論を踏まえた、国税庁の考える評価の見直しの方向性」として、①評価体系、②評価方式、③インカムアプローチ、の3つの柱で改正の方向性を示した。 第一に、評価体系については、「評価方式間におけるかい離により、異なる規模の企業間の不公平と租税回避スキームの横行」を問題として指摘した上で、「規模別の区分を廃止し、広範の企業を共通の評価方式で評価することが考えられるか?」との方向性が示された。これは、第4回会議において「当局として意見を求める6事項」の第二として提示された「評価方式の一本化」を、より具体的な方向性として一歩踏み込んだものである。現行の大会社・中会社・小会社という会社規模区分自体を廃止し、単一の評価方式へ移行する方針が明確化されたといえる。 第二に、評価方式については、次の3つの方向性が示された。 第三に、インカムアプローチについては、(a)配当還元方式、(b)DCF法、(c)残余利益方式の3方式について、①適用ができない企業、②予測期間以降の残存価値、③将来予測の難易度、の3つの観点から特徴が比較整理された。配当還元方式は「配当を操作している企業(配当をゼロに抑制している企業等)」で適用不可、DCF法は「成長期(スタートアップ等)の企業(設備投資等によりFCFがマイナスの企業)」で適用不可であるのに対し、残余利益方式は「特には見あたらない」とされた。予測期間以降の残存価値についても、配当還元方式・DCF法が相対的に大きいのに対し、残余利益方式は「明らかに小さい」とされ、その理由として「現時点の保有資産を評価するため、将来予測への依存が小さい」ことが示された。将来予測の難易度についても、残余利益方式は「将来利益の予測は比較的容易」であり、「過去の実績から一定の予測可能」と整理された。 3 残余利益方式(簿価純資産ベース)の評価方法イメージ 第5回資料は、「仮に」残余利益方式(簿価純資産ベース)を採用した場合の評価方法のイメージを具体的に示した。株価の計算に必要なものは、①直前期末の貸借対照表(簿価純資産)と②過去数年分の損益計算書等(当期純利益)のみであり、配当金の額は資本変動計算書から確認するとされている。これにより、「複雑な業種目判定や時価純資産価額の算定が不要」となり、「法人税申告書等から容易に把握可能」との実務適用上の利点が示された。第3回にて日本税理士会連合会が指摘した「算定作業の過度な負担と複雑性」の問題への根本的対応となる。 企業収益と株式評価額の水準のイメージとしては、下記図のとおり、「期待収益率以上の収益率の会社」については「簿価純資産価額以上の株式評価額」となり、他方「期待収益率以下 又は 赤字の会社」については「簿価純資産価額以下の株式評価額」となる旨が示された。 (※) 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 2026年8月20日(第5回)資料」3頁より抜粋 「還元率」については、「例えば『上場株式の平均期待収益率』等を参考にCAPM(資本資産価格モデル)により算定してはどうか」との方向性が示されている。 この評価方法は、第3回会議で櫻井委員が提案した残余利益モデルを、簿価純資産ベースに簡素化した形といえる。時価純資産(清算価値)ではなく簿価純資産を用いる点で、第3回の日本税理士会連合会の建議書が示した「税務上の簿価純資産価額の採用」との親和性が高く、また実務家・税理士の事務負担への配慮もなされている。 4 租税回避スキーム(評価額圧縮スキーム)への対応の方向性 第5回資料は、「今回の見直しにおいては、多種多様な租税回避スキームへの対応も実施する必要がある」とし、「スキームへの対応は、企業価値評価の実務において当然に行われている対応も参考としてはどうか」との基本認識を示した上で、4類型のスキームへの具体的対応の方向性を明示した。 第一に、会社規模等の操作による評価額圧縮への対応である。「大会社ほど相対的に低い評価額となることから、意図的に会社規模を操作し、評価額を圧縮するスキーム」に対する対応として、「会社規模に応じて異なる方法を用いるのではなく、規模に関わらず単一の評価方式とすることで対応できないか?」との方向性が示された。これは、上記2で示された「規模別の区分を廃止し、広範の企業を共通の評価方式で評価する」との方向性と整合するものであり、会社規模操作型のスキーム(第4回別添2の事例①・③等)への根本的対応となる。 第二に、利益等の恣意的な操作による評価額圧縮への対応である。「オペレーティング・リース・役員報酬・役員退職金等により、利益等を一時的に操作することで、評価額を圧縮するスキーム」に対する対応として、「企業価値評価の実務における対応を参考に、評価は企業の正常利益により行い、非経常的な損益を除外して評価することにより、評価額の恣意性を排除することができないか?」との方向性が示された。第2回会議で熊谷委員(日本M&Aセンター)が指摘した「営業権算定上の損益修正(高額な役員報酬、節税目的の保険、オペレーティングリースなど節税商品の損益、非経常的な損益の修正)」の実務が、税務評価の場面にも導入されることが明確化された。 第三に、グループ法人税制を活用した評価額の圧縮への対応である。「完全支配関係法人間でグループ法人税制を活用し、税負担なく親会社の利益・資産を子会社へ移転し、評価額を圧縮するスキーム」に対する対応として、「企業価値評価の実務における対応を参考に、完全支配関係にあるグループ法人はグループ全体として評価を行うことで、評価額の操作性を排除することとしてはどうか?」との方向性が示された。第4回資料でも「連結財務諸表を前提とした株式の評価を行い、子会社・孫会社の収益・資産状況を親会社の株価に反映」との対応方針が示されていたが、第5回では「完全支配関係にあるグループ法人はグループ全体として評価を行う」とより明確な方針として提示された。 (※) 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 2026年8月20日(第5回)資料」7頁より抜粋 第四に、株主構成等の操作による配当還元方式の濫用への対応である。「株主構成や議決権割合を操作することで、配当還元方式のみを適用し、評価額を90%以上圧縮するスキームも可能」であり、また「従業員持株会等により、固定価格で買取る株式を活用することで、支配株主の株価を引き下げるスキーム」への対応として、「特例的評価方式である配当還元方式の趣旨を貫徹できるよう、適用する株主の範囲について整理、あわせて、固定価格株式の取扱いも見直してはどうか?」との方向性が示された。「株主構成の操作では、企業価値の総額から最大で約98%もの評価額圧縮を行う事例も存在」との具体的圧縮効果も示されており、第4回別添2の事例⑥(評価額約98%減)への具体的対応となる。 5 総括(私見) 最後に、第5回会議の資料を踏まえた筆者の私見を述べておきたい。 第一に、第5回会議は、これまでの4回の議論を踏まえて、国税庁が具体的な評価見直しの方向性を初めて明示した点で、有識者会議の議論が実質的な最終段階に入ったことを示す極めて重要な会議といえる。特に、(イ)規模別区分の廃止と単一評価方式への一本化、(ロ)類似業種比準方式の存置は困難、(ハ)インカムアプローチ(残余利益方式)を主軸とする、(ニ)簿価純資産ベースで評価する、という4点は、改正の骨格として概ね明らかになったといえる。第4回では「意見を求める6事項」として提示されていたものが、第5回では「国税庁の考える見直しの方向性」として一歩踏み込んで示されており、議論が具体化する段階に入ったことがうかがえる。 第二に、注目すべきは、「清算を前提とした『時価』ではなく、継続を前提として『簿価』を用いるべきではないか?」との方向性である。これは、時価純資産(清算価値)による評価に代わり、簿価純資産を基礎とする残余利益方式の採用を示唆するものであり、実務家・税理士の事務負担軽減の観点からも合理的な方向性といえる。第3回会議で日本税理士会連合会が提示した「税務上の簿価純資産価額の採用」の提案が、国税庁の方向性として採用された形となる。もっとも、簿価純資産をベースとすることで、時価との乖離が別の形で生じる可能性もあり、その点は評価の安全性配慮としてどう位置付けるかが今後の論点となろう。例えば、帳簿に記載のない借地権については、計上する必要がないとすると実際の企業価値を適正に反映していないとの問題もあるため、一定の簿価純資産の修正は必要になるものと思料される。 第三に、租税回避スキームへの対応として、①規模別区分の廃止、②正常利益による評価(非経常的損益の除外)、③グループ全体としての評価、④配当還元方式の対象株主範囲の整理、の4類型が具体的に示された点は極めて重要である。特に②の「非経常的な損益の除外」及び③の「グループ全体としての評価」は、これまで実務家が退職金等を活用した株価対策及び組織再編・グループ法人税制を活用して行ってきた株価対策の多くを、根本から見直す方向性であり、実務家への影響は極めて大きい。改正リスクと総則6項適用リスクの双方の観点から、現行スキームの継続には慎重な判断が求められる段階に入ったといえる。 次回以降の有識者会議では、これらの方向性を踏まえた具体的な制度設計、租税回避スキームへの対応等、いよいよ最終段階に入るものと予想される。 今後の有識者会議の議論を引き続き注視していきたい。 (了) ↓お勧め関連記事↓
2026年8月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.682を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第154回】 「消費税減税に関する総理の決意表明に対する経済界の反応」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 魚住 康博 高市早苗総理大臣は7月30日、総理大臣官邸で「飲食料品に係る消費税率の引下げ」及び「給付付き税額控除」についての会見を行った。前日の社会保障国民会議の親会議において策定された「中間とりまとめ」では、消費税減税に関する与野党間の意見の相違が解消されないまま各党の主張が並記されていたことから、高市総理による決意表明が行われた。 総理会見に先立って、高市総理は自民党幹部に対して党内の意見集約を指示しており、8月5日の党内手続きを経て同日に政府での閣議決定に至ったことから、秋から始まる臨時国会への法案提出の準備が進められている。 国民会議では、2月に検討が開始されて以降、22回に及ぶ「給付付き税額控除等に関する実務者会議」と7回に及ぶ「有識者会議」が開催されており、短期間で精力的な検討が進められてきた。総理の決意表明で示された改正案は、国民会議の小野寺五典実務者会議議長による提案に基づいて、次のステップで進められる予定である。 〈今後のステップのイメージ〉 消費税減税に関しては、実務上で様々な影響が生じることが懸念されることもあり、今後の検討継続の必要性を含めて、経済界では総理の決意表明を受けたコメントを公表した。「給付付き税額控除」の最終形の導入に向けて、さらなる議論の深掘りや環境整備が重要となる。 〇経団連:社会保障国民会議中間とりまとめを踏まえた高市総理表明に関する筒井会長コメント 〇日本商工会議所:飲食料品に係る消費税減税に関する高市内閣総理大臣の表明に対する小林会頭コメント 〇経済同友会:飲食料品に係る消費税の実質ゼロ化について(山口明夫代表幹事コメント) (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【特別編:第1回】 「暗号資産の分離課税の全体像」 -令和8年度税制改正- 東洋大学法学部教授 泉 絢也 1 特別編を設ける理由 本連載第38回「10 暗号資産に係る所得を分離課税にしてほしいという改正要望」では、業界団体及び与党プロジェクトチームによる分離課税の要望を紹介したうえで、国会答弁を見る限り「要望が通る道は険しいようである」と述べた。 その後、事態は動いた。 令和8年3月31日、所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号。以下「改正法」という)が成立・公布され、租税特別措置法に、特定暗号資産の譲渡による所得に対する申告分離課税(措法38の2)と、特定暗号資産に係る譲渡損失の繰越控除(措法38の3)が創設された。 20%(所得税15%、個人住民税5%)の比例税率による課税と、3年間の繰越控除である。要望の中核部分は、ほぼ要望どおりの形で実現したことになる。 もっとも、実現したのは「暗号資産一般の分離課税」ではない。 分離課税の対象は、「特定暗号資産」を「暗号資産取引業者を通じて」「譲渡」した場合に限られる。それ以外の暗号資産、それ以外の経路による譲渡、そして譲渡に当たらないマイニング、ステーキング、レンディング、エアドロップ等は、従来どおり総合課税である。 改正後の暗号資産税制は、分離課税と総合課税が併存する二重の構造をとることになった。この点を見落とすと、実務判断を誤る。 そこで本連載では、特別編として3回にわたり改正の全体像を紹介する。 第1回にあたる本稿では、改正に至る経緯と、改正がどの法律のどこを動かしたのかを俯瞰する。第2回では分離課税ルートの要件と計算を、第3回では総合課税ルートに残された取扱いと「経路選択」を扱う。 2 改正に至る経緯 ―「金商法への移管」が扉を開いた 長らく、分離課税の要望に対する政府の回答は否定的であった。 第38回で紹介したとおり、住澤整財務省主税局長は令和4年3月16日の参議院財政金融委員会で、鈴木俊一国務大臣は同年4月13日の衆議院財務金融委員会で、それぞれ、上場株式等の譲渡益等に20%の分離課税が採用されているのは、税制の中立性・簡素性・適正執行の確保に加え、貯蓄から投資へという政策的要請と、一般投資家が投資しやすい税制を構築するという考え方によるものであると説明していた。 そのうえで、暗号資産については、給与や事業で稼いだ者に最大55%の税率が適用されることとのバランスについて国民の理解を得られるか、株式のように家計が暗号資産を購入することを国として推奨することが妥当かといった課題を挙げていた。 この膠着を動かしたのは、暗号資産の規制法上の位置付けを見直すという発想である。 自由民主党デジタル社会推進本部と金融調査会の連名による「暗号資産を国民経済に資する資産とするための緊急提言」(令和6年12月)は、暗号資産取引の振興や分離課税への道を拓く観点から、暗号資産の一部を金融商品として法的に位置付け、金融商品取引法の規制対象とすることも考えられるとして、規制法の移管を正面から取り上げた。 考え方はこうである。暗号資産を資金決済に関する法律上の「決済手段」から金融商品取引法上の「金融商品」へと位置付け直せば、同法の規制下にある上場株式やFX取引と課税上の取扱いを揃える道が開かれる。 実態の面でも、国内の暗号資産の口座開設数は1,400万を超え、利用者の取引動機のほとんどは長期的な値上がりを期待したものであるとされており(金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料」2頁)、投資対象としての利用実態と規制法上の位置付けとの隔たりは大きくなっていた。 以後の経緯は次表のとおりである。 【分離課税導入に至る主な経緯】 時期 事項 令和元年8月 JVCEA・JCBAが「2020年度税制改正に関する要望書」で分離課税を要望 令和4年11月 自由民主党デジタル社会推進本部 web3PT「web3関連税制に関する緊急提言」。20%申告分離課税・3年繰越控除・デリバティブ取引の対象化を提言 令和6年12月 自由民主党デジタル社会推進本部・金融調査会「暗号資産を国民経済に資する資産とするための緊急提言」。規制法の金商法への移管に言及。同月の与党令和8年度税制改正大綱に「検討事項」として記載 令和7年6月 閣議決定「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」に分離課税の導入を含む見直しの検討を明記 令和7年8月 JVCEA・JCBAが「2026年度税制改正に関する要望書」を公表。金融庁の令和8年度税制改正要望にも分離課税の導入を含む見直しが盛り込まれる 令和7年12月 与党の令和8年度税制改正大綱に分離課税の導入が明記され、閣議決定された政府大綱に具体的措置が示される 令和8年3月31日 改正法(令和8年法律第12号)成立・公布 令和8年7月23日 金商法等改正法(令和8年法律第64号)公布(同月15日成立) 3 改正の全体マップ 今回の改正は、租税特別措置法だけの話ではない。所得税法本法から国税徴収法にまで及んでいる。 【令和8年度税制改正における暗号資産関連の改正】 法令 主な改正事項 根拠条文 所得税法 暗号資産の定義を金商法2条49項に変更 所法2①十六括弧書 譲渡所得に「暗号資産の譲渡による所得」の区分を新設 所法33③三 暗号資産の譲渡益から50万円特別控除を排除 所法33④⑤ 暗号資産の譲渡所得を2分の1課税の対象から除外(保有期間の長短を問わない) 所法22② 暗号資産の譲渡所得の損失を損益通算から排除 所法69② 租税特別措置法 特定暗号資産の譲渡による所得の申告分離課税(20%)の創設 措法38の2①~③ 特定暗号資産に係る譲渡損失の3年間繰越控除の創設 措法38の3 特定暗号資産年間取引報告書の提出制度の創設 措法38の2④~⑨ 先物取引の分離課税の対象に特定暗号資産デリバティブ取引を追加 措法41の14①二 上場証券投資信託等の償還金等に係る課税の特例の対象拡大 措法9の4の2①二 ミニマムタックスの基準所得金額に特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額を追加 措法41の19②九 地方税法 個人住民税5%の分離課税 地法附則35の3の6①④ 消費税法施行令 暗号資産の譲渡を「支払手段に類するもの」から「有価証券に類するもの」へ再分類 消令9①一 課税売上割合の計算上、譲渡対価の5%相当額を分母に算入 消令48⑤ 暗号資産の貸付け(レンディング)の利用料を非課税化 消令10③十一 国税徴収法 自己管理暗号資産(特定電子移転財産権)の差押手続の整備 徴法72①、72の2 実務上の関心が集中するのは租税特別措置法38条の2の分離課税であるが、射程がより広いのは所得税法本法の改正である。所得税法本法の改正は、分離課税ルートと総合課税ルートの双方に共通して適用されるからである。 とりわけ、暗号資産の譲渡による所得が譲渡所得に区分されうることが法律上明記された一方で(所法33③三)、その譲渡所得からは50万円の特別控除も2分の1課税も奪われている(所法33④⑤、22②)。 これらは措置法の読替えによるものではなく、所得税法本法そのものの改正によって行われている。したがって、海外取引所やDEXでの譲渡であっても、これらの制限を免れることはできない。この点は第3回で詳述する。 4 3つの柱 改正の中身は、投資形態別に次の3つの柱で構成されている。 【令和8年度税制改正の3つの柱】 対象取引 課税上の位置付け 課税グループ 柱 ① 特定暗号資産の現物取引(暗号資産取引業者への売委託又は同業者に対する譲渡) 申告分離課税を新設 特定暗号資産の現物取引グループ (単独) 柱 ② 特定暗号資産デリバティブ取引 既存の先物取引の分離課税に追加 先物取引グループ (FX・商品先物等と同一) 柱 ③ 特定暗号資産ETF 一部の手当てのみ。個人の譲渡に係る分離課税は今後、措置される可能性 上場株式等グループ 柱①が改正の中核であり、本特別編でも中心的に扱う。 柱②は、新たな分離課税の枠組みを創設するものではなく、既にFX取引や商品先物取引について分離課税が適用されている「先物取引グループ」(措法41の14)に、特定暗号資産を原資産とするデリバティブ取引を追加するものである。 暗号資産デリバティブ取引は、原資産である暗号資産の有用性についての評価が定まっていなかったこと等から、令和2年度税制改正で同特例の対象から明示的に除外されていた経緯があり、今回はその取扱いを覆すものである。 実務上は、暗号資産のデリバティブ取引の損益をFX取引の損益と通算できるようになる点が大きい。 もっとも、対象となるのは、特定暗号資産を原資産とする市場デリバティブ取引と、金融商品取引業者又は登録金融機関を相手方とする店頭デリバティブ取引に限られる。外国市場で行われるものや、特定暗号資産以外の暗号等資産に係るものは、金融商品先物取引等から除外され、総合課税のままである(措法41の14①二)。 柱③は、限られた措置がとられたにとどまる。 閣議決定された大綱は、投資信託及び投資法人に関する法律施行令の改正を前提として、①上場証券投資信託等の償還金等に係る課税の特例の適用対象に一定の投資信託を加えること、②一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例等の対象となる株式等の範囲に特定暗号資産を投資の対象とする投資信託の受益権を加えることの2つを掲げていた。 しかし、令和8年度税制改正で法制化されたのは①のみである(措法9の4の2①二)。しかも、この特例は内国法人等が支払を受ける収益の分配について源泉徴収を要しないこととするものであり、個人に対する申告分離課税の措置ではない。 個人が暗号資産ETFの受益権を譲渡した場合の課税関係については、上記②が法制化されていない。投資信託及び投資法人に関する法律施行令の改正により暗号資産ETFの組成が認められた場合に、分離課税の適用に関して措置法上の整備的な規定が置かれるかどうかは、現時点では明らかではない。 そもそも暗号資産ETFの組成自体が上記施行令の改正を前提としており、その改正時期も未確定である。 ここで、決定的に重要な点を確認しておきたい。 3つの柱は、それぞれ別個の課税の枠組みであり、柱をまたいだ損益通算はできない。特定暗号資産の現物取引で生じた損失を特定暗号資産デリバティブ取引の利益から控除することはできず、その逆もできない。 もちろん、上場株式等の譲渡益と通算することもできない。「分離課税になったのだから株式やFXと通算できる」という理解は誤りである。 5 いつから適用されるのか 改正規定の適用開始日は、金商法等改正法の施行の日の属する年の翌年1月1日である(改正法附則1十イ・ロ、39①)。 金商法等改正法は令和8年7月23日に公布されたが、暗号資産に係る規制見直しの施行日は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされており、本稿執筆時点でこの政令は定められていない。 もっとも、公布日が確定したことにより、遅くとも令和9年7月22日までには施行されることとなった。新制度への準備期間を踏まえると令和9年中の施行が見込まれ、その場合、適用開始日は令和10年1月1日となる。 注意を要するのは、関連する制度の適用時期が一律ではない点である。以下、令和9年中に施行された場合を前提に、実務上とくに重要なものを挙げる。 まず、分離課税と繰越控除の本体は、令和10年1月1日以後に行う特定暗号資産の譲渡について適用される(改正法附則39①)。所得税法本法の改正、すなわち暗号資産の定義、譲渡所得の区分、50万円特別控除、2分の1課税及び損益通算に関する改正も、令和10年分以後の所得税について適用される(改正法附則4、6①、7)。 次に、個人住民税は前年課税であるため、その分離課税(5%)の適用は所得税より1年遅れ、令和11年度分以後となる(改正地法附則3十六、11十三)。 さらに、暗号資産取引業者が税務署長に提出する特定暗号資産年間取引報告書の制度も、分離課税本体より1年遅れ、令和11年1月1日以後に行う行為から開始する(改正法附則39②)。 * * * 次回は、分離課税ルートの適用要件と計算を、特定暗号資産の意義と取引経路の限定を中心に取り上げる。 (了) 本連載の筆者による新刊 暗号資産の税金はこう変わる -分離課税の仕組みと実務- 泉絢也 著/清文社 令和8年度税制改正で創設された特定暗号資産の申告分離課税(措法38の2)と譲渡損失の繰越控除(措法38の3)を、適用要件・計算・経路選択まで条文に沿って解説しています。 書籍の詳細をみる ▶
税理士が押さえておきたい「社宅」の税務と周辺知識 第4回 従業員用の借上げ社宅④ ~水道光熱費と寄宿舎の非課税要件~ 公認会計士・税理士 桝井康弘 〇社宅の水道光熱費 〇寄宿舎等の所得税非課税 (次回に続く)
相続税の実務問答 【第122回】 「共同相続人中に不在者がいる場合」 税理士 梶野 研二 [答] あなたが本年2月10日のうちにお母様の亡くなられたことを知ったとすれば、その日の翌日から10か月後の本年12月10日があなたの相続税の申告書の提出期限となります。 一方、お兄様につきましては、お母様が亡くなられたことを知らないうちは、相続税の申告期限は到来しませんが、お兄様の財産管理人が選任されますと、その者がお母様の亡くなられたことを知った日が、お兄様がお母様の亡くなられたことを知った日となり、その日の翌日から10か月以内に、その財産管理人がお兄様の相続税の申告をすることとなります。 お兄様の財産管理人がお兄様の法定代理人の立場で遺産分割を行うことができるとしても、お兄様の利益を害するような遺産分割に応じることはできないでしょうし、お兄様の利益を害することのない遺産分割ができたとしても、小規模宅地等の適用のための選択において、お兄様の利益を害することとなるような同意をすることはできません。 このため、あなたがお母様と同居していた建物の敷地を相続し、その敷地について小規模宅地等の特例を適用したいとのお考えであったとしてもそのような遺産分割や小規模宅地等の特例の適用ができるとは限らないことに注意する必要があります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 音信不通の相続人等以外の相続人等の相続税の申告 相続税の申告は、原則として、被相続人の相続開始を知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません(相法27①)。通常は、被相続人に相続が開始すれば、その日のうち又はそれに近接した日のうちには、被相続人に相続が開始したことを知ることになりますので、その日の翌日から10か月以内に相続税の申告をすることとなります。 相続人又は受遺者(以下「相続人等」といいます。)の一部の者が、従来の住所地又は居所を離れ、音信不通の状態になっている場合(このような相続人等を本稿では「音信不通の相続人等」といいます。)で、次の2で説明する不在者の財産管理人がいないため、あるいは、不在者の財産管理人がいても申告期限内に遺産分割ができない場合には、相続税の申告においては、相続税法第55条の規定により、民法(第904条の2(寄与分)を除きます。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って遺産を取得したものとして相続税の課税価格を計算することとなります。 この相続税法第55条の規定に従った相続税の申告においては、租税特別措置法第69条の4第1項に規定する「小規模宅地等に係る相続税の課税価格の計算の特例」(以下「小規模宅地等の特例」といいます。)を適用することはできません。なお、遺産分割がされた場合に、小規模宅地等の特例の適用を受けようとする場合には、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付します。 2 音信不通の相続人等の相続税の申告 音信不通の相続人等であっても、被相続人に相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告書を提出しなければならないという原則に変わりはありません。しかしながら、音信不通の相続人等は、被相続人に相続が開始したことを知り得ない場合が多いだろうと思います。被相続人に相続の開始したことを知らない限り、相続税の申告期限は到来しません。 (注) ただし、税務署長は、相続又は遺贈により財産の取得があった場合には、被相続人の相続開始があった日の翌日から10か月を経過したときには、相続税の申告書の提出期限前であっても相続税の課税価格又は相続税額の決定をすることができるとされています(相法35②一)。 ところで、従来の住所地又は居所を去った者(このような者を「不在者」といいます。)が、その財産の管理人を置く場合があります。また、不在者がその財産の管理者を置かなかった場合には、利害関係者又は検察官の請求により家庭裁判所が財産の管理人を選任することができます。このような管理人を「不在者の財産管理人」又は「財産管理人」といいます。 不在者の財産管理人は、不在者の法定代理人と解されており(名古屋高裁平成26年9月18日判決(裁判所ホームページ))、不在者の財産の保存行為及び不在者の財産又は権利の性質を変えない範囲内において不在者の財産の利用又は改良を目的とする行為を行う権限を有します(民法28、103)。また、不在者の財産管理人が権限を有する行為以外の行為であってもその行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得ることによりその行為を行うことができます(民法28)。 音信不通の相続人等が被相続人に相続が開始したことを知らないとしても、その法定代理人である不在者の財産管理人が被相続人に相続が開始したことを知った場合には、音信不通の相続人等が被相続人の相続開始を知ったものと解することが相当であると考えられます。不在者の税務申告は不在者の財産の保存行為と考えられます(注)ので、音信不通の相続人等の相続税の申告は、不在者の財産管理人が被相続人に相続が開始したことを知った日の翌日から10か月以内に同財産管理人が行うこととなります。 (注) 不在者の財産管理人が家庭裁判所の権限外行為の許可を得て、不在者の財産を譲渡した事例において、当該譲渡についての納税申告は保存行為に該当すると解されることから、不在者の財産管理人は、家庭裁判所の権限外行為の許可を得ることなく、不在者の代理人として納税申告を行うことができるとされています。 (国税庁ホームページ/法令等/質疑応答事例/譲渡所得/「不在者財産管理人が家庭裁判所の権限外行為許可を得て、不在者の財産を譲渡した場合の申告」) 3 小規模宅地等の特例の適用 小規模宅地等の特例を適用するためには、同特例を適用する者が特例を適用しようとする宅地等を遺産分割等により確定的に取得していることが必要です。不在者の財産管理人は、家庭裁判所の許可を得た上で、不在者を代理して遺産分割協議に参加することができると解されます。ただし、その内容は不在者の利益を害することのないものでなければなりませんし、同相続人等の利益を害することのない遺産分割がされたとしても、小規模宅地等の適用のための選択において、同相続人の利益を害することとなるような同意をすることはできないと考えられます。 なお、原則として、相続税の申告書の提出期限から3年以内に遺産分割ができない場合には、小規模宅地等の特例を適用することができなくなりますが、租税特別措置法施行令に定めるやむを得ない事情がある場合において税務署長の承認を受けたときには、特例対象宅地等の分割ができることとなった日の翌日から4か月以内に分割されたときには、その分割された特例対象宅地等については、更正の請求等の手続きにより、小規模宅地等の特例を適用することができます(措法69の4④⑤)。 このやむを得ない事情として租税特別措置法施行令には、相続又は遺贈に係る財産が当該相続又は遺贈に係る申告期限の翌日から3年を経過する日までに分割されなかつたこと及び当該財産の分割が遅延したことにつき税務署長においてやむを得ない事情があると認める場合が掲げられています(措令40の2㉓、相令4の2①四)。その具体例として、通達において相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日において、共同相続人又は包括受遺者の一人又は数人が行方不明又は生死不明であり、かつ、その者に係る財産管理人が選任されていない場合が示されており(相基通19の2-15(1))、これに該当する場合には、その事情の消滅の日、すなわち相続人等の所在又は生死が明らかになった日、又は財産管理人が選任された日の翌日から4か月以内に分割されたときには、小規模宅地等の特例の適用が可能になります。 (注) 音信不通の相続人等について小規模宅地等の特例の適用の可能性がある場合には、不在者の財産管理人は、「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出や3年経過後の税務署長の承認の手続きを行う必要があります。 4 ご質問の場合 相続等により財産を取得した相続人等は、相続人等が被相続人の相続開始を知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告をしなければなりません。お母様が亡くなられたのは、本年2月10日ですから、あなたがその日のうちにお母様の亡くなられたことを知ったとすれば、本年12月10日が相続税の申告書の提出期限となります。一方、お兄様につきましては、お母様が亡くなられたことを知らないうちは、相続税の申告期限は到来しませんが、不在者の財産管理人が選任された場合には、その不在者の財産管理人がお母様の亡くなられたことを知った日が、お兄様がお母様の亡くなられたことを知った日となりますので、その日の翌日から10か月以内に、その不在者の財産管理人がお兄様の相続税の申告をすることとなります。 相続税の申告書は相続人等の全員あるいは一部の者が共同して提出することが多いとは思いますが、お兄様と共同で相続税の申告書を提出することができなければ、あなたは単独で相続税の申告書を提出することとなります。その際、相続税の課税価格は、法定相続分の割合により遺産を取得したものとして計算することとなります。 お兄様と連絡が取れない限り、いつまでもお母様の遺産を分割することはできませんが、家庭裁判所にお兄様の財産管理人の選任を申し立て、選任された財産管理人が、家庭裁判所の許可を得れば、その財産管理人が法定代理人の立場で遺産分割を行うことができます。しかしながら、財産管理人は、お兄様の利益を害するような遺産分割に応じることはできないでしょうし、お兄様の利益を害することとならない遺産分割がされたとしても、小規模宅地等の適用のための選択において、お兄様の利益を害することとなるような同意をすることはできません。 このため、あなたがお母様と同居していた建物の敷地を相続し、その敷地について小規模宅地等の特例を適用したいとのお考えであったとしても、そのような遺産分割や小規模宅地等の特例の適用ができるとは限らないことに注意する必要があります。 (了)
令和8年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第8回】 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 Ⅲ 租税特別措置の不適用措置の見直し 1 改正の概要 大企業につき研究開発税制等の生産性の向上に関連する税額控除の規定(特定税額控除規定)を適用できないこととする措置について、次の見直しを行った上、その適用期限を令和11年3月31日まで延長する(措法42の13⑤⑦)。 (出典) 経済産業省「経済産業関係 令和8年度税制改正について(令和7年12月)」を筆者一部加工 この改正は、令和8年4月1日以後に開始する事業年度について適用される(令8改所法等附1、50)。 2 グループ通算制度における取扱い 租税特別措置の不適用措置の見直しについて、グループ通算制度における取扱いは以下のとおりとなる。 1 適用時期 特定税額控除規定の適用可否の個社判定については、令和8年4月1日以後に開始する事業年度について改正後の取扱いが適用される(令8改所法等附1、50)。 通算特定税額控除規定の適用可否の全体判定については、令和8年4月1日以後に開始する事業年度について改正後の取扱いが適用される(令8改所法等附57③)。 ただし、通算子法人については、通算親法人の令和8年4月1日以後に開始する事業年度終了の日に終了するその通算子法人の適用対象事業年度については、改正後の取扱いが適用され、通算親法人の同日前に開始した事業年度終了の日に終了するその通算子法人の適用対象事業年度については、改正前の取扱いが適用される(令8改所法等附57③)。 つまり、通算特定税額控除規定の適用可否については、通算グループ全体で判定するため、通算子法人の改正法の適用時期を通算親法人の適用時期に合わせることにしている。 2 大企業の租税特別措置の不適用措置 大企業の租税特別措置の不適用措置とは、収益が拡大しているにもかかわらず、賃上げにも投資にも消極的な大企業に対して、研究開発税制等の一部の租税特別措置の税額控除の適用を停止する措置をいう。 具体的には、非中小企業者等について、「所得金額に係る要件」、「継続雇用者給与等支給額に係る要件」、「国内設備投資額に係る要件」のいずれも満たさない場合に、研究開発税制の適用ができないこととなる。 また、非中小企業者等について、「所得金額に係る要件」を満たさない場合で、「継続雇用者給与等支給額に係る要件」又は「国内設備投資額に係る要件」のいずれかを満たさない場合に、地域未来投資促進税制やカーボンニュートラル投資促進税制等の一部の租税特別措置の適用ができないこととなる。 グループ通算制度では、大企業の租税特別措置の不適用措置について、通算グループ全体で税額控除限度額を計算する税額控除規定(通算特定税額控除規定)については、通算グループ全体で適用可否の要件判定を行い、各通算法人単独で税額控除限度額を計算する税額控除規定(特定税額控除規定)については、その通算法人単独で適用可否の要件判定を行うこととなる(措法42の13⑤⑦、42の4①⑧、42の4の2①②、42の5①③二、42の11の2②、42の12の6②)。 [通算グループ全体で不適用措置の判定を行う租税特別措置(通算特定税額控除規定)] [通算法人単独で不適用措置の判定を行う租税特別措置(特定税額控除規定)] また、戦略分野国内生産促進税制(こちらは中小企業者等も不適用措置の対象となる)及び特定生産性向上設備等投資促進税制(こちらは即時償却規定も不適用措置の対象となる)についても、各税制内に同様の不適用措置の規定を設けている(措法42の12の6③⑥⑭⑮、42の12の7①②⑧⑨)。 3 通算特定税額控除規定の適用可否の全体判定 通算法人(中小企業者(適用除外事業者(通算加入適用除外事業者を除く)又は通算適用除外事業者に該当するものを除く)又は中小通算農業協同組合等を除く)(注1)が、令和8年4月1日から令和11年3月31日までの間に開始する各事業年度(対象年度)(注2)において、通算特定税額控除規定の適用を受けようとする場合において、その対象年度において次の適用条件に該当しないときは(注3)、その対象年度においては、通算特定税額控除規定を適用できない(措法42の13⑤⑦⑧、42の12の5④五・六、措令27の4①②、27の13⑨~⑬⑮⑯、法令24の3)。 [通算特定税額控除規定と適用条件] 通算特定税額控除規定 適用条件 研究開発税制(通算グループ全体計算によるものに限る。また、中小企業技術基盤強化税制、重点産業技術試験研究費の繰越税額控除制度を除く) 次の要件のいずれかを満たす場合に当該規定を適用することができる。 ❶ 所得金額に係る要件 ❷ 継続雇用者給与等支給額に係る要件 ❸ 国内設備投資額に係る要件 [通算特定税額控除規定の適用可否の要件の内容(全体判定)] ❶ 所得金額に係る要件 各通算法人のその対象年度の所得金額の合計額(注4)が各通算法人のその対象年度の前事業年度(注5)の所得金額の合計額(注4)以下であること(ただし、その対象年度が合併等事業年度(通算法人のいずれかが、合併・加入・離脱等をする場合における合併・加入・離脱等の日を含む事業年度をいう)(注9)に該当しない場合に限る)(注6)。 ❷ 継続雇用者給与等支給額に係る要件 各通算法人の継続雇用者給与等支給額(注7)の合計額が各通算法人の継続雇用者比較給与等支給額(注7)の合計額と比べて1%以上増加すること(注8)。 ただし、次のいずれにも該当する場合、各通算法人の継続雇用者給与等支給額の合計額が各通算法人の継続雇用者比較給与等支給額の合計額と比べて2%以上増加すること。 ⅰ.「通算法人のいずれかが資本金の額が10億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1,000人以上である場合」又は「通算法人のいずれかが、常時使用する従業員の数が2,000人を超える場合」 ⅱ.その通算法人の対象年度が合併等事業年度(通算法人のいずれかが、合併・加入・離脱等をする場合における合併・加入・離脱等の日を含む事業年度をいう)(注9)に該当しない場合であって各通算法人の対象年度の前事業年度の所得金額の合計額が0を超える場合、又は、その通算法人の対象年度が合併等事業年度に該当する場合 ❸ 国内設備投資額に係る要件 各通算法人の国内設備投資額(注7)の合計額が各通算法人の当期償却費総額(注7)の合計額の30%(上記❷のⅰ及びⅱのいずれにも該当する場合には、40%)を超えること。 (注1) 通算特定税額控除規定の不適用措置は、中小企業技術基盤強化税制の適用対象となる法人以外の法人(大企業)が対象となる。 (注2) 通算子法人の対象年度は、通算親法人の対象年度終了日に終了するその通算子法人の事業年度とする。 (注3) 通算特定税額控除規定の適用可否は、通算法人全社を1つの法人とみなして判定を行う。 (注4) 所得金額の合計額とは、「各通算法人の対象年度の基準通算所得等金額の合計額」又は「各通算法人の前事業年度の基準通算所得等金額の合計額」をいい、それぞれがマイナスの場合には、それぞれ0とする。基準通算所得等金額とは、損益通算・繰越欠損金控除前の所得金額となり、各事業年度のA及びBの金額の合計額からC及びDの金額の合計額を減算した金額とする。ただし、通算対象外欠損金額がある場合、その通算対象外欠損金額を加算する。 A その事業年度の所得金額(被合併法人の最終事業年度にあっては、非適格合併による移転資産等の譲渡利益額の益金算入額又は譲渡損失額の損金算入額を除いた所得金額) B 次のイ)~ニ)の合計額 イ) 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越しの規定(法法57)により損金の額に算入された金額 ロ) 会社更生等による債務免除等があった場合の欠損金の損金算入の規定(法法59)により損金の額に算入された金額 ハ) 損益通算の規定(法法64の5①)により損金の額に算入された金額 ニ) 通算法人の合併等があった場合の欠損金の損金算入の規定(法法64の8)により損金の額に算入された金額 C 次のイ)~ハ)の合計額 イ) 中間申告における繰戻しによる還付に係る災害損失欠損金額の益金算入の規定(法法27)により益金の額に算入された金額 ロ) 損益通算の規定(法法64の5③)により益金の額に算入された金額 ハ) 欠損金の通算における修更正の場合の配賦欠損金額の益金算入の規定(法法64の7⑥)により益金の額に算入された金額 D その事業年度において生じた欠損金額(被合併法人の最終事業年度にあっては、非適格合併による移転資産等の譲渡利益額の益金算入額又は譲渡損失額の損金算入額を除いた欠損金額) (注5) 前事業年度とは、対象期間内に終了したその通算法人の各事業年度をいう。対象期間とは、通算法人の対象年度終了日に終了する通算親法人の事業年度(基準事業年度)開始日の1年(基準事業年度が1年に満たない場合には、その基準事業年度の期間)前の日からその開始日の前日までの期間をいう。ただし、通算親法人の最初通算事業年度以後の期間に限られている。なお、その通算法人の最初通算事業年度開始日前に終了した各事業年度は、この前事業年度から除かれる。 (注6) 特定税額控除規定の適用可否の個社判定と異なり、通算法人のいずれかの対象年度が設立事業年度であっても、所得金額に係る要件の判定を行うことが可能となる。 (注7) 継続雇用者給与等支給額、継続雇用者比較給与等支給額、国内設備投資額、当期償却費総額の定義は、特定税額控除規定の適用可否の個社判定と同じとなる。 (注8) 各通算法人の継続雇用者給与等支給額の合計額及び継続雇用者比較給与等支給額の合計額が0である場合には、継続雇用者給与等支給額に係る要件を満たすこととなる。 (注9) 合併等事業年度とは、その通算法人又は他の通算法人のいずれかが、次に掲げる場合のいずれかに該当する場合におけるそれぞれ次に定める日を含む事業年度をいう。 該当する事由 定める日 イ 分割又は現物出資(事業を移転するものに限る。イ及びロにおいて「分割等」という)に係る分割法人又は現物出資法人である場合(その分割等に係る分割承継法人又は被現物出資法人がその通算法人又は他の通算法人との間に通算完全支配関係がある法人である場合を除く) その分割等の日 ロ 合併又は分割等に係る合併法人又は分割承継法人若しくは被現物出資法人である場合(その分割等に係る分割法人又は現物出資法人がその通算法人又は他の通算法人との間に通算完全支配関係がある法人である場合を除く) その合併又は分割等の日 ハ 事業の譲渡をした法人である場合(その事業の譲受けをした法人がその通算法人又は他の通算法人との間に通算完全支配関係がある法人である場合を除く) その譲渡の日 ニ 事業の譲受けをした法人である場合(その事業の移転をした法人がその通算法人又は他の通算法人との間に通算完全支配関係がある法人である場合を除く) その譲受けの日 ホ 特別の法律に基づく承継に係る被承継法人である場合(その承継に係る承継法人がその通算法人又は他の通算法人との間に通算完全支配関係がある法人である場合を除く) その承継の日 ヘ 特別の法律に基づく承継に係る承継法人である場合(その承継に係る被承継法人がその通算法人又は他の通算法人との間に通算完全支配関係がある法人である場合を除く) その承継の日 ト 他の法人(初年度離脱通算子法人を除く)が通算親法人との間に通算完全支配関係を有することとなった場合(当該他の法人の設立日にその通算完全支配関係を有することとなった場合を除く) その有することとなった日 チ 他の法人(初年度離脱通算子法人を除く)が通算親法人との間に通算完全支配関係を有しないこととなった場合 その有しないこととなった日 なお、通算特定税額控除規定の不適用措置(全体判定)に係る継続雇用者給与等支給額に係る要件、国内設備投資額に係る要件に該当することにより、法人が対象年度において、通算特定税額控除規定の適用を受けようとする場合、その通算特定税額控除規定の適用要件となる確定申告書等の添付書類(別表添付要件)には、通常の添付書類のほか、不適用措置が適用されないための継続雇用者給与等支給額に係る要件、国内設備投資額に係る要件に該当することを明らかにする書類を追加で添付する必要がある(措法42の13⑧)。 (続く)
給与計算の質問箱 【第79回】 「旅費日当」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 当社では旅費規程を作成し、役員や従業員が出張した際に旅費日当を支給することにしました。旅費日当の所得税、消費税、労働保険、社会保険の扱いについてご教示ください。 A 旅費日当は、給与計算の対象外である。 以下、解説する。 * * 解 説 * * 1 所得税 旅費日当のうち、通常必要であると認められるものは非課税である。 【所得税法9条1項4号】 (※) 下線筆者 2 消費税 国内出張にかかる旅費日当は、課税仕入れになる。役員や従業員は適格請求書発行事業者ではないが、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる。 海外出張にかかる旅費日当は、課税仕入れにならない。 3 労働保険 旅費日当は、労働保険の賃金とならない。 (出典) 厚生労働省「令和8年度 労働保険 年度更新 申告書の書き方」 4 社会保険 旅費日当は、社会保険の報酬とならない。 (出典) 日本年金機構「算定基礎届の記入・提出ガイドブック(令和8年度)」 (了)