〈小説〉 国税審査官エイトの勤務日誌 ~ある国税不服審判所の記録~ 第5話 義足の浅川審判官① 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 永途が、審理部のドアを開けると、末席に座っている葛本審査官が、熱心に議決書を読んでいる。 葛本審査官の机の上には、書類が高く積まれている。 「・・・あの・・・」 永途は、葛本審査官の机の傍らに行き、声をかける。 審理部はシーンとしている。 職員は、黙々と書類を読んで、誰も喋っていない。 そのとき、小柄なメガネをかけた初老の職員が立ち上がった。 初老の職員は、永途を見ると、ニコッと笑いかけて、ドアに向かう。 少し足を引きずるように歩くので、そのたびに床の音が響く。 「・・・永途さんか」 葛本審査官は、顔を上げて、永途を見る。 永途は、慌てて、ドアから葛本審査官に振り向く。 「・・・ちょっと、事案についてお伺いしたいことがあって・・・」 永途は、持参してきた袋の中から事案の綴りを取り出す。 葛本審査官は、頷きながら、静かに立ち上がって、座席から少し離れたところにあるテーブルに永途を導く。 「どんな質問ですか?」 葛本審査官は、椅子に座ると、小さな声で訊ねる。 「・・・あの・・・交際費の件ですが・・・」 永途もつられて、小声になる。 「・・・交際費と会議費の区分なのですが・・・」 永途は、言葉を続ける。 「・・・通達で・・・交際費に該当しないものとして『会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用』となっています・・・この場合、会議の場所は、問われないのでしょうか?」 「・・・会議の場所・・・どういうことですか?」 葛本審査官は、永途の顔を見る。 永途は、袋に入っていた通達集を取り出し、それを開く。 「措置法通達61の4(1)-16では、次のように規定されています」 そう言うと、永途は、同通達を読み上げる。 「・・・このように、通達では、交際費か会議費かの区分について、会議としての実体があるかどうか、すなわち、実質的に判断すると規定しています・・・」 「・・・永途さんの事例は、どのようなケースなんですか?」 葛本審査官が再び訊ねる。 「ええ、審査請求人は、スナックの費用も会議費だと主張するのですよ・・・実際、そこで、会議を行っているのだから、交際費ではないと・・・」 永途は、苦笑しながら言う。 「・・・実質的判断ですか・・・」 そう言いながら、葛本審査官は、永途の持っている通達集を借りて、今度は、措置法通達61の4(1)-21を開く。 「・・・これも通達だけれど・・・会議費は、『通常会議を行う場所において』・・・となっていることから、スナックや料亭などは・・・一般的に、会議を行う場所でないことから、会議費とは認められず、交際費として扱われるだろう・・・」 葛本審査官は、通達を見ながら、言う。 「・・・審査請求人は・・・ドイツから取引先が来て、その担当者がたまたま日本のビールが飲みたいと言ったので、会社の近くのスナックに、その外人を連れて行き、そこでビールを飲みながら、日本で取扱う商品についての打ち合わせをしたと審査請求書で主張しているのです・・・ドイツでは、ビールは水と同じレベルの飲み物だと・・・」 永途は、審査請求人に同情的である。 「・・・法令では・・・会議の場所について・・・通達に書かれているように『会議に際して社内又は通常会議を行う場所』とは規定していないでしょう・・・」 こんどは、永途は法令集を袋から取り出す。 「・・・交際費の定義は、措置法61条の4第6項に規定していますが、その中で1号から3号まで、次のようになっています・・・」 「・・・この3号については、措置法施行令37条の5第2項で、1号から3号まで挙げていますが、『通常会議を行う場所』との規定はどこにもありません・・・」 永途は、自信を持って答える。 (つづく)
《速報解説》 ASBJが「金融商品に関する会計基準」等の改正を公表 ~譲受人が特別目的会社である場合の金融資産の消滅範囲を明確化~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年6月2日、企業会計基準委員会は、「金融商品に関する会計基準」(改正企業会計基準第10号)、「金融商品会計に関する実務指針」(改正移管指針第9号)等を公表した。 これにより、2026年2月27日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対する主なコメントの概要とそれらに対する対応も公表されている。 これは、金融資産の譲渡において、譲受人が特別目的会社である場合の金融資産の消滅範囲の明確化を行うものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 金融資産の消滅の認識要件 金融商品会計基準の(注4)を次のように改正し、特別目的会社が発行する「証券」を保有している投資者と特別目的会社に対して「貸付け」を行っている融資者とで異なる取扱いを設ける特段の理由はないと考えられるため、特別目的会社に対する融資者を特別目的会社に対する投資者と同様に取り扱うことを示す(アンダーラインが改正点)。 上記の改正に合わせて、「金融商品会計に関する実務指針」35項、40項など、「連結財務諸表に関する会計基準」7-2項なども改正(新設を含む)する。 Ⅲ 適用時期等 2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後実施される金融資産の譲渡から適用する。 上記の定めにかかわらず、2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後実施される金融資産の譲渡から2026年改正会計基準を適用することができる。 経過措置に注意する。 (了)
《速報解説》 国税庁が「防衛特別所得税及び復興特別所得税(源泉徴収関係)Q&A」を公表 ~令和9年1月1日以後に生ずる所得から源泉徴収実務に影響、合計税率2.1%は据置き~ Profession Journal編集部 令和8年5月、国税庁は、「防衛特別所得税及び復興特別所得税(源泉徴収関係)Q&A」を公表した。 これは、令和8年度税制改正により創設された防衛特別所得税及び改正された復興特別所得税について、源泉徴収義務者からの照会が想定される事項を整理したものであり、令和9年1月1日以後に生ずる所得に対する源泉徴収実務を見据えた取扱いの明確化を図るものである。 1 改正の概要 令和8年度税制改正により、所得税の源泉徴収義務者は、所得税を徴収する際に防衛特別所得税(源泉徴収すべき所得税の額の1%相当額)を併せて徴収し、所得税の法定納期限までに所得税と併せて納付しなければならないこととされた。 同時に、復興特別所得税については、税率が2.1%から1.1%に引き下げられるとともに、課税期間が令和19年12月31日までから令和29年12月31日までに10年間延長された。 これらの改正は、令和9年1月1日以後に生ずる所得に対する所得税について適用される。 ここで実務上特に重要な点は、改正前(復興特別所得税2.1%)と改正後(防衛特別所得税1.0%+復興特別所得税1.1%)とで合計税率(2.1%)に変更はないということである。すなわち、源泉徴収税額の計算方法そのものに変更は生じない。 2 Q&Aの主な内容 公表されたQ&Aは全16問で構成されており、源泉徴収義務者、対象となる支払、税額の算出方法、年末調整、退職手当等、租税条約適用時の取扱い、法定調書等の各論点について取りまとめられたものである。主なポイントは以下のとおりである。 (1) 源泉徴収義務者及び対象支払(Q2、Q3) 防衛特別所得税及び復興特別所得税は、所得税の源泉徴収義務者が所得税と併せて源泉徴収することとされており、所得税の源泉徴収義務者がそのまま両税の源泉徴収義務者となる。源泉徴収の対象も、所得税法及び租税特別措置法の規定により所得税を源泉徴収すべきこととされている支払の全般に及ぶ。 (2) 源泉徴収税額の算出(Q5、Q6) 源泉徴収すべき税額は、支払金額等に合計税率(所得税率×102.1%)を乗じて算出し、1円未満の端数を切り捨てる。所得税率10%の場合の合計税率は10.21%、20%の場合は20.42%となる(改正前と同じ)。 端数計算については、所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税の合計額で行う点に留意が必要である。 (3) 給与等及び年末調整(Q7、Q8) 毎月の給与等に係る源泉徴収については、各年分の「源泉徴収税額表」に当てはめて算出する。令和9年分以後の源泉徴収税額表は防衛特別所得税及び復興特別所得税を含んだ税額表となる予定であり、令和8年8月頃に国税庁ホームページに掲載される見込みである。 年末調整についても、年調所得税額に102.1%を乗じる方法に変更はなく、令和8年分と令和9年分とで計算方法に違いは生じない。 (4) 退職手当等(Q9) 退職所得の源泉徴収税額の速算表についても、令和8年分と令和9年分とで変更はない。「退職所得の受給に関する申告書」の提出がない場合に退職手当等の収入金額に20.42%を乗じる取扱いも従前どおりである。 (5) 令和8年分年末調整の超過額の処理(Q11) 令和8年分の年末調整により生じた超過額を、令和9年1月以後に支払う給与等から源泉徴収した所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税から控除する場合であっても、所得税徴収高計算書(納付書)の「年末調整による超過税額」欄にその控除額を記載する。令和8年分の年末調整には防衛特別所得税が含まれていないものの、納付書の記載方法は通常どおりで差し支えない点が明確化された。 (6) 租税条約等が適用される場合(Q13、Q14) 租税条約の規定により限度税率が適用される場合又は所得税が免除される場合、及び外国居住者等所得相互免除法の規定により税率が軽減される場合又は所得税が非課税とされる場合には、防衛特別所得税及び復興特別所得税は課されない。なお、非居住者等への支払について、両税が含まれた税額と含まれない税額の双方を同時に納付する場合には、それぞれ別葉の所得税徴収高計算書(納付書)による必要があるとされた。 (7) 既存の納付書の使用(Q15) 「令和○年○月支払分源泉所得税及び復興特別所得税」と印字された手元の納付書は、令和9年1月以後の納付にもそのまま使用することができる。「納期等の区分」等の補正も不要である。 (8) 法定調書の記載(Q16) 「給与所得の源泉徴収票」「利子等の支払調書」等の法定調書の「源泉徴収税額」欄には、所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税の合計額を記載する。 3 実務上の留意点 今回のQ&Aから読み取れる実務対応の要点は、以下のとおりである。 第一に、合計税率2.1%は変わらないため、毎月の給与等の源泉徴収や年末調整の計算について、源泉徴収義務者側の事務処理に大幅な変更は生じない。ただし、令和9年1月1日以後に生ずる所得から適用が開始されるため、令和9年分以後の源泉徴収税額表への切替えや、給与計算システムにおける税額の内訳(所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税)の表示・集計方法の見直しが必要となる場合がある。 第二に、令和9年1月1日「以後に生ずる所得」の判定について、Q1の(注)に給与等の場合の判定基準(支給日基準、株主総会決議日基準、給与規程改訂による遡及支給の場合の取扱い等)が示されており、年末年始をまたぐ支給に係る適用関係の判定実務において、当該基準の確認が必要である。 令和9年分の源泉徴収税額表の公表(令和8年8月頃予定)等に合わせて追加情報が示されることが見込まれるため、実務担当者においては国税庁ホームページの更新情報に引き続き留意する必要がある。 (了)
2026年5月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.670を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第93回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 イ 実際のブロックチェーン分析ツール 現時点では、税務当局は民間企業が提供するブロックチェーン分析ツールに頼らざるをえないであろう。 この点について、米国財務省の担当官は、次の点を述べている(※)。 (※) U.S. GOVERNMENT ACCOUNTABILITY OFFICE, Economic Sanctions: Agency Efforts Help Mitigate Some of the Risks Posed by Digital Assets, GAO-24-106178(Dec. 13, 2023) ブロックチェーン上のデータ自体は公開されているものの、ウォレットアドレスの関連づけ(クラスタリング)、エンティティの推定、リスクスコアリング、トランザクション履歴の可視化といった高度な分析処理には、大量のデータの蓄積と専門的なアルゴリズムが必要となる。 これらは単にブロックチェーンエクスプローラーを閲覧するだけでは実現できない。 よって、税務当局が単独で対応できるものではない。 これは、公開データであっても、それを意味ある情報に変換する能力は高度に専門化されていることを示している。 「誰でも閲覧できる」ことは、「誰でも分析できる」ことと同じ意味ではない。 ブロックチェーンの分析それ自体は、一般に公開されている(無料で使用できる)サイトやサービスを利用して行うことも可能である。 例えば、ブロックチェーンエクスプローラーを用いれば、特定アドレスの送受信履歴や残高を確認することができるし、無料サイトの中にはトランザクション履歴のグラフ化(資金移動経路のグラフ表示)のサービスを提供しているものもある。 しかし、無料ツールでは、アドレス同士の関係性の自動クラスタリング、既にアドレスの管理者を把握している場合の当該アドレスへのタグ付け、リスク評価、複雑な資金移動経路のグラフ表示などの機能は限定的である。 他方で、例えば、ブロックチェーン分析会社として著名なChainalysisが提供している暗号資産のトランザクションを追跡するリアクター(Reactor)というツールを使うことで、より精度の高い分析が可能となる。 リアクターに特定のウォレットアドレスを入力すると、そのアドレスと関連性のある複数のウォレットアドレスを1つのグループとしてまとめたクラスタが保有するアドレス群を認識できる。 このクラスタリングは、取引パターン、同時使用、入出金構造などのヒューリスティック(経験則)に基づいて行われるものである。 補足すると、特定のアドレスがどのようなエンティティ(個人、組織、CEX、団体など)につながっているのかを確認したり、トランザクションの流れをグラフ化し、資金がどのような経路でどこに渡ったのかを明らかにしたりできる(※)。すなわち、リアクターを使うと、次のことが可能となる。 (※) アンカーテクノロジーズ株式会社HP参照。ヒューリスティックを使用してアドレスをクラスタリングするリアクターの仕組みについて、United States v. Sterlingov, 719 F. Supp. 3d 65, 71-77(D.D.C. 2024)参照。 また、リアクターは、取引の流れやクラスタ間のつながりをヴィジュアル化することで、資金がどのように移動しているかを視覚的に理解させるものであり、資金の最終移転先や保管先を突き止めたい場合にも有効なツールである。 この可視化機能は、単なる追跡にとどまらず、調査仮説の構築や証拠化においても重要な意味を持つ。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第60回】 「相続税の申告を受任した税理士が空き家特例不適用の指摘をしなかったことは、税理士の説明・助言指導義務違反で損害賠償責任があるとされた事例」 税理士 菅野 真美 ▷空き家特例とは 少子高齢化の進む日本の課題の一つとして、空き家が放置されていることがある。適切な管理・修繕をせずに家屋を放置することは、倒壊リスク等の問題が大きいことから、政府は空き家対策の政策をいくつも実施している。この空き家対策の税制として、空き家に係る譲渡所得の3,000万円控除(以下「空き家特例」)がある(措法35③)。 この措置法35条3項で「相続又は遺贈(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下第5項までにおいて同じ。)による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人(包括受遺者を含む。以下この項において同じ。)」と定められていることから、家屋と敷地の両方を同一の被相続人から相続した場合についてのみ適用があり、敷地と家屋を異なる被相続人から相続した場合は適用がないとされる。 ところで、何代も相続された土地や家屋の相続が登記されず、登記の名義人が直近の被相続人でないことがある。このような不動産を売却する場合は、売却当事者に名義を変更する必要がある。そこで、直近の被相続人からの相続ではなく、以前に他界した被相続人からの相続による取得とすると、登録免許税等のコストが安くなる。しかし、直前の被相続人からの相続ではないことが登記から明らかとなる場合には、空き家特例の適用を受けるのは難しいと考えられる。 今回は、相続税の申告を受任した税理士が、遺産分割協議書の内容に関連して空き家特例が不適用であるという指摘をしなかったことにより、相続人から損害賠償請求を受けた事例を紹介する。 ▷事案の概要 令和3年3月5日 税理士は、母の相続税の申告を相続人であるX1、X2から受任。 【財産状況】家屋(亡父名義のまま)、敷地(母名義)(父母が居住) 令和3年8月27日 司法書士から2通の遺産分割協議書の案文をCCメールで受領。 【母遺産分割協議書案】母名義の敷地 X1、X2が2分の1ずつ相続。 【父遺産分割協議書案】父名義の家屋 X1、X2が2分の1ずつ相続。 令和3年9月2日 税理士の事務所で遺産分割協議書の署名押印。 【建物の登記名義を父から直接子供に変更することについての司法書士の説明】 【相続した不動産を売却した時の税金を懸念する相続人に対する税理士の回答】 令和3年9月6日 司法書士が不動産の相続手続き実施。 令和3年11月6日 【不動産売却の仲介業者からの疑問】 令和3年11月24日 【税理士の回答】 令和4年1月11日 土地を8,800万円で売却する契約を締結。 令和5年3月9日 空き家特例を適用せず確定申告。 ▷争点 争点は説明・助言指導義務違反による不法行為及び債務不履行の有無と損害額及び過失相殺の正否である。 ▷判決 地裁は以下のように判示した。 【争点1】説明・助言指導義務違反による不法行為及び債務不履行の有無 【争点2】損害額及び過失相殺の成否 ▷まとめ 本件は、譲渡所得の申告自体を受任していないにもかかわらず、相続税の申告業務に関連して行った助言が責任の対象となった。この事案を前提に税理士職業賠償責任保険の観点から考えると、税理士の説明助言義務違反による損害賠償義務が確定した場合、「主契約」の対象ではなく「事前税務相談業務担保特約」の対象となる可能性が高い。 税理士業務の無償独占(税理士法52)という権利の裏側が、顧客の売却のニーズを把握し、具体的に節税額まで提示した場合、たとえ、無償の助言であったとしても、確認ミスに基づく不十分な説明により損害を与えた場合は、責任を免れないという重い義務がある。 本件は、控訴されており、控訴審がどのように判断したか気になるところである。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例158(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆免税事業者の登録 (1) 登録申請書を提出することができる事業者(消法57の2、消令70の2) 適格請求書発行事業者の登録を受けることができるのは、課税事業者に限られる。免税事業者が課税事業者となる課税期間の初日から登録を受けようとするときは、原則として、その課税期間の初日から起算して15日前の日までに「登録申請書」を提出しなければならない。 (2) 登録に関する経過措置(消基通21-1-1) 免税事業者が令和5年10月1日から令和 11 年9月30日までの日の属する課税期間中に「登録申請書」を提出し、登録を受けることとなった場合には、登録日から課税事業者となる経過措置が設けられている。この経過措置の適用を受ける場合には、登録日から課税事業者となるため、「課税事業者選択届出書」を提出する必要はない。この経過措置の適用を受けて適格請求書発行事業者の登録を受けた場合には、基準期間の課税売上高にかかわらず、登録日から課税期間の末日までの期間について、消費税の申告が必要になる。 (3) 経過措置と2年縛り(平成28年改正法附則44⑤) 経過措置の適用を受けて令和5年10月1日を含む課税期間に適格請求書発行事業者になった場合には、いわゆる2年縛り(2年間は課税事業者として拘束される)の適用はない。しかし、令和5年10月1日を含まない課税期間に経過措置の適用を受けて適格請求書発行事業者になった場合には2年縛りの適用がある。 ◆登録のとりやめ(消法57の2⑩、消令70の5③) 適格請求書発行事業者は、納税地を所轄する税務署長に「登録取消届出書」を提出することにより、適格請求書発行事業者の登録の効力を失わせることができる。 この場合、原則として、「登録取消届出書」の提出があった日の属する課税期間の翌課税期間の初日に登録の効力が失われる。ただし、「登録取消届出書」を、翌課税期間の初日から起算して15日前の日を過ぎて提出した場合は、翌々課税期間の初日に登録の効力が失われる。 ◆提出期限が土日休日等の場合 提出日は発信主義(郵便等による場合はその郵便等の通信日付印により表示された日に提出されたものとみなす)により判断する。なお、「登録取消届出書」の提出期限である「翌課税期間の初日から起算して15日前の日」が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)に規定する休日その他一般の休日、土曜日又は12月29日、 同月30日若しくは同月31日であっても、期限はその翌日に延長されない。 (了)
グループ企業の税務Q&A 第 5 回 通算グループ外の法人との合併が行われた場合 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター/税理士 川瀬 裕太 ◆ ◆ ◆〈解説〉◆ ◆ ◆ 1 共同事業を行うための適格合併の要件 資本関係がない法人と合併する場合、下記の共同事業を行うための適格合併の要件を満たす必要があります(法法2十二の八、法令4の3④)。 (1) 金銭等不交付要件 金銭等不交付要件とは、被合併法人の株主に合併法人株式以外の資産が交付されないことをいいます。 (2) 従業者引継要件 従業者引継要件とは、被合併法人の合併直前の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が合併の後に合併法人の業務に従事することが見込まれていることをいいます。 (3) 事業継続要件 事業継続要件とは、被合併法人の合併前に行う主要な事業が合併の後に合併法人において引き続き行われることが見込まれていることをいいます。 (4) 事業関連性要件 事業関連性要件とは、被合併法人の合併前に行う主要な事業のうちのいずれかの事業(被合併事業)と合併法人の合併前に行ういずれかの事業(合併事業)とが相互に関連するものであることをいいます。 (5) 事業規模要件又は経営参画要件 事業規模要件とは、事業関連性要件を満たす対象事業それぞれの売上金額、従業者の数、被合併法人と合併法人のそれぞれの資本金の額若しくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないことをいいます。 経営参画要件とは、合併前の被合併法人の特定役員のいずれかと合併法人の特定役員のいずれかとが、合併後に合併法人の特定役員となることが見込まれていることをいいます。 (6) 株式継続保有要件 株式継続保有要件は、合併により交付される対価株式(議決権のないものを除きます)のうち、支配株主に交付されるものの全部が支配株主により継続して保有されることが見込まれていることをいいます。 2 合併法人の繰越欠損金の使用制限 (1) 法人税の繰越欠損金 完全支配関係又は支配関係がある適格合併のうち、次のいずれにも該当しない適格合併については、合併法人の未処理欠損金額の使用が制限されます(法法57④、法令112⑨⑩)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています(法令112④⑨)。 したがって、共同事業を行うための適格合併については、合併法人の未処理欠損金額の使用が制限されません。 (2) 住民税の繰越欠損金(控除対象通算適用前欠損調整額、控除対象通算対象所得調整額、控除対象配賦欠損調整額) 合併法人の未処理欠損金額の使用を制限する規定はありません。 (3) 事業税の繰越欠損金 完全支配関係又は支配関係がある適格合併のうち、次のいずれにも該当しない適格合併については、合併法人の未処理欠損金額の使用が制限されます(法法57④、法令112⑨⑩、地令20の3)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています(法令112④⑨)。 したがって、共同事業を行うための適格合併については、合併法人の未処理欠損金額の使用が制限されません。 3 被合併法人の繰越欠損金の引継制限 (1) 法人税の繰越欠損金 完全支配関係又は支配関係がある適格合併のうち、次のいずれにも該当しない適格合併については、被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎが制限されています(法法57③、法令112③④)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています(法令112④)。 したがって、共同事業を行うための適格合併については、被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎが制限されません。 適格合併が行われた場合において、被合併法人の未処理欠損金額があるときは、その金額は、それぞれの未処理欠損金額が生じた各事業年度の開始の日の属する合併法人の各事業年度において生じた欠損金額とみなし、特定欠損金額に該当するものは特定欠損金額として、非特定欠損金額に該当するものは非特定欠損金額として引き継ぐこととなります(法法57②、法法64の7③)。 (2) 住民税の繰越欠損金(控除対象通算適用前欠損調整額、控除対象通算対象所得調整額、控除対象配賦欠損調整額) 被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎを制限する規定はありません。 適格合併が行われた場合において、被合併法人の未処理欠損金額(控除対象通算適用前欠損調整額、控除対象通算対象所得調整額、控除対象配賦欠損調整額)があるときは、その金額は、それぞれの未処理欠損金額が生じた各事業年度の開始の日の属する合併法人の各事業年度において生じた欠損金額とみなされます(地法53⑤⑮㉑、321の8⑤⑮㉑)。 (3) 事業税 完全支配関係又は支配関係がある適格合併のうち、次のいずれにも該当しない適格合併については、被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎが制限されています(法法57③、法令112③④、地法72の23①②、地令20の3)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています(法令112④)。 したがって、共同事業を行うための適格合併については、被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎが制限されません。 適格合併が行われた場合において、被合併法人の未処理欠損金額があるときは、その金額は、それぞれの未処理欠損金額が生じた各事業年度の開始の日の属する合併法人の各事業年度において生じた欠損金額とみなされます(地令20の3)。 4 本件へのあてはめ 資本関係がない通算グループ外の法人A社を被合併法人、P社を合併法人とする適格合併を行う予定とあり、本件合併は、共同事業を行うための適格合併の要件を満たす必要があります。 完全支配関係又は支配関係がある適格合併のうち、一定のものについては、合併法人の法人税及び事業税の未処理欠損金額の使用が制限されていますが、本件合併は、共同事業を行うための適格合併に該当し、合併法人P社の法人税及び事業税の未処理欠損金額の使用が制限されません。 また、合併法人P社の住民税の未処理欠損金額の使用を制限する規定はありません。 同様に、完全支配関係又は支配関係がある適格合併のうち、一定のものについては、被合併法人の法人税及び事業税の未処理欠損金額の引継ぎが制限されていますが、本件合併は、共同事業を行うための適格合併に該当し、被合併法人A社の法人税及び事業税の未処理欠損金額の引継ぎも制限されません。 また、被合併法人A社の住民税の未処理欠損金額の引継ぎを制限する規定はありません。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第97回】 「国際興業事件(混合配当に関する事案)-プロラタ計算違法判決-(地判平29.12.6、高判令元.5.29、最判令3.3.11)(その2)」 ~法人税法23条1項1号・23条の2第1項・24条1項3号・61条の2第1項・61条の2第17項、法人税法施行令23条1項3号・119条の9第1項~ 公認会計士・税理士 西川 浩史 4 事案の検討(引用部分は一部要約等しており、下線は筆者追加。以下同様。) (1) 混合配当に適用されるべき規定は何か(争点1) 高裁は、混合配当については、利益剰余金を原資とする部分には法人税法23条1項1号が適用され、資本剰余金を原資とする部分には法人税法24条1項3号が適用され、例外として、いずれの配当が先に行われたとみるかによって課税関係に差異が生ずるものについては、これを「資本の払戻し」と整理するとした。その理由として、「法人税24条1項3号が資本剰余金及び利益剰余金の双方を原資とする配当一般を規律するものであると解するとすれば、利益剰余金をこれとは別の法的性格を有する資本剰余金として取り扱うことになり、株主拠出部分と法人稼得利益とを峻別する原則に整合しないことになり、許される拡張解釈の限度を超えるおそれがある。」とした。 一方、最高裁は、混合配当については、その全体に法人税法24条1項3号が適用されるとした。その理由としては、「平成18年改正後の法人税法においては、23条1項1号と24条1項3号の適用の区別につき、会社財産の払戻しの手続の違いではなく、その原資の会社法上の違いによることとされた。」ことを述べたうえで、「会社法における剰余金の配当をその原資により区分すると、①利益剰余金のみを原資とするもの、②資本剰余金のみを原資とするもの及び③利益剰余金と資本剰余金の双方を原資とするものという3類型が存在するところ、法人税法24条1項3号は、資本の払戻しについて『剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)・・・』と規定しており、これは、同法23条1項1号の規定する『剰余金の配当(・・・資本剰余金の額の減少に伴うもの・・・を除く。)』と対になったものであるから、このような両規定の文理等に照らせば、同法は、資本剰余金の額が減少する②及び③については24条1項3号の資本の払戻しに該当する旨を、それ以外の①については23条1項1号の剰余金の配当に該当する旨をそれぞれ規定したものと解される。」とした。 法人税法24条1項3号は、「資本の払戻し(剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)・・・)」と規定しており、この規定だけをもとに文理解釈した場合には、高裁のいうように「資本剰余金の額の減少に伴う剰余金の配当」のみを意味するものと思われ、「資本剰余金のみを原資とする剰余金の配当及び資本剰余金と利益剰余金の双方を原資とする剰余金の配当」を意味するものとまでは理解することはできない。 しかしながら、最高裁が述べているように、会社法の改正に伴う法人税法の改正内容や法人税法23条1項1号と法人税法24条1項3号を対として捉えて文理解釈した場合には、財務省担当者の見解と同じく「払戻し原資が利益剰余金のみである場合には利益部分の払戻し(法法23①の配当等)と、払戻し原資に資本剰余金が含まれている場合にはそれ以外の払戻し(資本部分と利益部分の払戻し(法法24①三のみなし配当)と規律することとしたもの(※2)」と理解する方が適正であると考える。このように条文を解釈することが、「文理解釈によって規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合に、規定の趣旨目的にてらしてその意味内容を明らかにしなければならない(・・・)。(※3)」との趣旨に合った適切な解釈であると思われる。 (※2) 財務省「平成18年度 税制改正の解説」財務省HP(2006)262頁参照 (※3) 金子宏『租税法[第24版]』弘文堂(2021)124頁 一方、高裁は、会社法が資本剰余金からの配当も利益剰余金からの配当も統一的に「剰余金の配当」と整理したものと解しても、それによってその基本的な性格や内容を変更するものではないという前提に立っており、仮に高裁のこの考え方が正しいとしても、例外とした部分に関しては、明確な規定なしにこのような例外的な取扱いをすることには無理があると言わざるを得ないと考える(※4)。 (※4) この点について、大淵博義教授は、「かかる相違が生じるのであれば、資本剰余金と利益剰余金の双方を原資とする剰余金の配当は、法人税法24条1項3号の『剰余金の配当』が先行して行われたとみなす、という規定を措定すべきであり、少なくとも解釈通達において明確にすべきである。」(大淵博義「資本剰余金と利益剰余金の双方を原資とするみなし配当等の計算規定を違法・無効とした最高裁判決-その判示内容の検証と制度改正の方向性-」『税理』64巻7号(2021.6)7頁)と述べておられる。 高裁と最高裁でこのような解釈の違いが生じたのは、条文自体に問題があるのではないかと考える。法人税法の規定は、その適用にあたり、誤解を生じないように明確かつ丁寧な表現が必要であると考える。今後については、単に最高裁の判断を根拠とするだけでなく、補足的条文を付加して解釈の明確化と統一的取扱いを図ることが不可欠であると思料する(※5)。 (※5) この点についても、大淵教授は、「法文解釈に疑義が生じる余地のある『資本剰余金の額の減少に伴う剰余金の配当』につき、『資本剰余金と利益剰余金の双方を原資として行われる配当を含む』という補足的条文を付加して解釈の明確化と統一的取扱いを図るべきであり、今後の税制改正の検討に際して考慮すべき法律事項であると考える。」(大淵・前掲(※4)7頁)と述べておられる。 (2) 本件資本配当と本件利益配当とは別個独立のものか、又は1個のものか(争点2) 高裁は、争点1の判断結果からは争点2について判断することを要しないとしながらも、事案の内容及び本件の経緯に鑑みて判断を行い、本件資本配当と本件利益配当は私法上別のものであり、本件資本配当と本件利益配当は法人税法上、一つの剰余金の配当に当たらないとした。その理由としては、「本件資本配当に係る決議及び本件利益配当に係る決議は、別個のものとして順次、かつ、各配当の承認のほか、これらを実行することを含むものであったと認められ、他にこの認定を妨げるべき証拠はない。」とし、「本件資本配当はB社において減少させた資本を原資とするものであり、本件利益配当は同社の留保利益を原資とするものであることが明らかであるというべきであって、課税庁が指摘する決議日及び効力発生日の同一性等の事情は、形式的なものであるにすぎず、それらの事情が、本件利益配当及び本件資本配当の各性質を変じさせて単一のものとして取り扱うことが許容される基礎を創出するものではない。また、本件資本配当及び本件利益配当の各会計処理が適正でなく、又は不適法であるとうかがうべき証拠も見当たらない。」とした。 私法上の行為を重視する立場からは、本件では、別個独立の2つの配当決議に基づく2つの剰余金の配当があったとみるべきと考える。つまり、納税者は、「資本の払戻し」を行うことによる税務メリット(多額の株式譲渡損計上可能)を理解した上で、1つの混合配当とみなされるという税務リスクを避けるために、「利益の配当」と「資本の払戻し」を別の決議にて行い、それに伴う2つの配当を行ったと理解する。 最高裁では、この争点については何らコメントを述べていないが、本来はこの争点が一番先に議論されるべき内容であったのではないかと考える。上記3(2)で述べたように、納税者及び最高裁の判決に基づく税務仕訳には違いはあるものの、課税所得に与える影響額は同額になっている。しかし、本件は、「資本金等の額がゼロ超で利益積立金がマイナスかつ払戻資本割合が1」という特別なケースであり、いわゆる配当先後関係問題は生じない場合であった。配当先後関係問題が生じる場合(資本金等の額と利益積立金がゼロ超のケース、資本金等の額がゼロ超で利益積立金がマイナスかつ払戻資本割合が1でないケース)においては、争点2は重要な論点になりうると考える(※6)。 (※6) この点に関して、坂本雅士教授は、「今般の判決により混合配当の取扱いが確定した以上、その意義を明らかにすべきことは言うまでもない。」として、効力発生日が別日だった場合の取扱い等に不明瞭な点が残ることを指摘されている(坂本雅士「混合配当に係る最高裁判決を受けて-残された課題-」『會計』200巻5号(2021.11)469頁)。 (3) 法人税法施行令23条1項3号は法人税法24条3項の委任の範囲を超えない適法なものか(争点3) 最高裁は、法人税法は資本部分と利益部分とをしゅん別するという基本的な考え方に立つものであることを述べたうえで、法人税法24条1項3号のみなし配当規定の趣旨を、「配当に係る課税の回避を防止し、適正な課税を実現すること」と解釈し、同法24条3項の委任を受けて法人税法施行令23条1項3号で規定されている株式対応部分金額の計算方法(プロラタ計算)それ自体については、この趣旨に適合したものであるとした。 しかしながら、「利益剰余金のみを原資とする払戻しは、23条1項1号により、資本部分が含まれているか否かを問わずに一律に利益部分の分配と扱った上でその全部又は一部を益金の額に算入しないこととする一方で、資本剰余金のみを原資とする払戻しは、24条1項3号により、資本部分の払戻しと利益部分の分配とに分け、後者の金額を23条1項1号の配当とみなすこととするという仕組み」に照らしてみれば、「減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出される結果となる限度において、法人税法の趣旨に適合するものではなく、同法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。」とした。 最高裁は、法人税法24条1項3号のみなし配当規定の「趣旨」及びそこから作られている「仕組み」をもとに、本件のような場合に限れば、法人税法の趣旨に適合するものではなく、同法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきであるとした。このようなアプローチについては、適正な方法であると理解する。しかし、法人税法24条3項の委任を受けて法人税法施行令23条1項3号で規定されているプロラタ計算それ自体の適正性についても、もっとより深く検討が必要であったのではないかと思料する。 法人税法施行令23条1項3号で規定されているプロラタ計算においては、配当直前資本金等の額に施行令規定割合(減少資本剰余金/前期末の簿価純資産額)を乗じて、株式対応部分金額を計算することになっており、今回のような期中に生じたC社からの利益配当により得た利益は、この計算上は考慮されないことになっている。このことこそが、A社において多額の株式譲渡損を計上できた要因である。C社からの利益配当により得た利益は、今回のB社からの配当の原資であることは明らかであり、本来はプロラタ計算時に調整されるべきものであったのではないかと考える(※7)。 (※7) 渡辺徹也教授は、最高裁が上告を受理した理由として「最高裁が、結論が変わらない本件の上告をわざわざ受理して、委任の範囲を逸脱したことを示したのは、令23条1項3号の改正をもとめたからだとも推測される。」と述べ、今後の改正にあたっては、「同号改正の過程では、上記計算式(プロラタ計算式:筆者追加)の分母が前年末の簿価純資産でよいのかどうかについても、検討されてよいであろう。」としている(渡辺徹也「法人が資本の払戻しを行った場合における法人税法施行令23条1項3号の法適合性」『ジュリスト』1567号(2022)134頁)。 そこで以下にて、C社からの利益配当により得た利益を調整する場合(施行令規定割合の分母に当該配当を追加する場合)の試算を行った。なお、B社からの配当はすべて資本の払戻しとして扱った(※8)。 (※8) 利益配当と資本配当(資本の払戻し)を別のものとして、資本配当・利益配当の順に計算した結果は同じになる。しかし、逆に利益配当・資本配当の順に計算すると、先に行われた利益配当の関係で施行令規定割合が大きくなり、結果は異なる。 今回行った試算による課税所得への影響額は19億円加算で、最高裁判決による影響額の△108 億円減算との差額は127億円と多額となった。もし、B社が外国法人でなく内国法人であった場合には、グループ税制の適用にて、株式譲渡損益は計上されない(※9)。内国法人からの資本の払戻しと今回のような外国法人からの資本の払戻しで、課税所得に関してこのような多額の差が生じるのは問題ではないかと考える。 (※9) 完全支配関係がある法人間のみなし配当事由に該当する場合は、譲渡対価を譲渡原価に相当する金額として扱い、株式の譲渡損益は計上されない(法人税法61条の2第17項)。 本件においては、マイナスの利益剰余金をもっているB社が、期中にC社から受け取った利益配当を財源にA社に配当を行っているが、これはB社がデラウェア州LLC法に基づいて設立された法人であったからである(デラウェア州LLC法では、配当後に債務超過にならない限り配当が可能と解されている)。我が国であれば、中間配当を受け入れて臨時決算を行い、株主総会等の承認を得た後でなければできないものであった(※10)。このことが、今回の問題が生じた要因であるように思う。つまり、B社がC社から利益配当を受け取った事業年度(この事業年度末においては、多額のプラスの利益剰余金が計上される)の翌期に、B社からA社に本件のような配当をしていた場合には、上記の試算のような結果になっていたと思われる。このように配当時期が少し違うだけで、その課税に多額の差が生じてしまう現行の税制それ自体に問題があると考える。 (※10) 大野真弓「資本剰余金と利益剰余金の双方を原資とする配当を受けた場合の法人税法上の区分について-最高裁令和3年3月11日判決を題材として-」税務大学校論叢第106号(2022.6)61-62貢参照 5 おわりに 本件事案は、委任立法の授権の範囲を逸脱した施行令は無効と言い切った数少ない判決である。今回の最高裁判決を受けて、令和3年10月15日、課税庁はウェブサイトにて、本件のような混合配当で再計算の結果、納付税額等が過大となる場合には更正の請求ができる旨を公表した(※11)。また、令和4年度税制改正において、資本の払戻しの直前の払戻等対応資本金額等の計算方法等が整備され、減少資本剰余金額が限度となることが明確化された(※12)。しかし、その改正内容は、必要最低限の内容であり、プロラタ計算における施行令規定割合の分母に関する改正(前年末簿価純資産価額に必要な調整を加える等の改正)までは、行われなかった。 (※11) 国税庁HP「最高裁判所令和3年3月11日判決を踏まえた利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当の取扱いについて」 (※12) 法人税法施行令23条1項4号イ(現行法)参照 現行の税制においては、海外子会社からの資本の払戻しを利用して多額の株式譲渡損を計上するスキームは、私法上の適正な手続きのもと行われている限り、租税回避行為ではなく合理的な節税策の1つとなっている。このような節税策に歯止めをかけるためには、税法の改正によるしかない。また、税務上、配当に関しては会社法に縛られるのではなく、税法独自に利益積立金からの配当を優先する方法等の検討も必要と思料する(※13)。 (※13) この点について、大野真弓は、「プロラタ計算自体が『一種の割り切り』計算なのであるから、納税者に過度の厳密さを求めるのではなく、むしろ、納税者の恣意性を排除する方法への転換を検討してもよいのではないだろうか。」と述べられ、米国やドイツでの取扱いを説明されている(大野・前掲(※10)86-87貢参照)。 また、最高裁は本件事案が混合配当であることを前提に判断をしていると思われるが、争点2で高裁が述べているように「利益配当」と「資本の払戻し」の2つを別の配当と考えることが認められていれば、納税者処理がそのまま承認される結果もあったのではないかと考える。その意味でも、混合配当の意義を明確にすることがより重要であると理解する。 (了)
【新基準対応版】 〈一から学ぶ〉 リースの会計と税務 【第2回】 「リースのメリットとデメリット」 公認会計士・税理士 喜多 弘美 【第1回】では、レンタルや購入との違いを確認し、リースの定義を整理しました。設備投資をする際には、主に「自己資金」「借入」「リース」といった資金調達を用いて設備を購入しますが、どの方法で設備を使える状態にするかは選択する必要があります。 そのため今回は、設備投資の際の判断の一助となるよう「リース」を選択した場合のメリット・デメリットを整理し、解説していきます。 1 リースのメリット まず、リースの主なメリットを5つ見ていきましょう。 (1) 初期投資負担を軽減できる 設備投資を行う際、自己資金や金融機関からの借入によって設備を購入すると一度に多額の資金が必要になりますが、リースの場合はリース料を契約期間にわたり、毎月少しずつ支払うため、一度に多額の資金を準備しなくても設備を導入できます。 そのため、設備を購入する場合には必要だった資金を抑えることができ、その分、他の事業資金や運転資金として使うことができます。例えば、多店舗展開を図る企業では、複数店舗への同時出店や設備投資を進めやすくなります。 また、金融機関からの借入枠を温存することもでき、将来、資金調達が必要になった際に借入できるといったメリットもあります。 (2) 資金繰りが安定しやすい リースの場合、リース料は契約期間にわたり、毎月ほぼ一定額を支払うことが多いです。そのため、資金管理がしやすく、費用計画も立てやすいというメリットがあります。設備を購入した場合は、修繕費や維持費など突発的な支出が生じることもあるので、リースの方が資金繰りの見通しを立てやすいです。 また、金融機関から借り入れて設備を購入する場合は、金利の変動を受け、利息の支払額が増えることも多いです。一方、リースの場合は、契約締結時にリース料が固定されることが多いので、将来の金利変動の影響を受けにくく、支払額が増加するリスクを抑えやすいというメリットもあります。 (3) 事務負担を軽減できる リースでは、償却資産税(固定資産税)の申告・納付や保守・メンテナンスなどをリース会社側が行うケースも多く、事務負担の軽減が期待できます。また、借り入れて設備を購入すると借入金の返済管理や金融機関との契約管理が必要になりますが、リースの場合は、このような事務負担の軽減にもつながります。 さらに、一般的にリースは借入よりも審査手続が比較的簡単な場合が多く、必要なタイミングで設備を導入しやすいといったメリットもあります。 (4) 設備の陳腐化に対応しやすい 設備を購入する場合、一般的には法定耐用年数などに基づいて、長期間にわたって使用・費用化されますが、パソコンやIT機器など技術進歩が早い業界の場合、導入しても短期間で古くなってしまいます。その点、リースの場合は設備が古くなるタイミングを見越して契約期間を設定することで、比較的新しい設備へ入れ替えやすいというメリットがあります。 (5) 設備廃棄時の処分負担を軽減できる 近年は、廃棄物処理法などのルールが整備され、廃棄物の処分手続きが複雑になっています。そのため、設備を購入した場合は、環境関連法制に従って自社で適切に設備を処分しなければなりません。もし不適切に処理した場合には法律違反だけでなく、企業イメージの低下につながるリスクもあります。 一方、リースでは、契約期間が終了すれば、リース会社へ設備を返還するため、処分手続きを軽減できることも多いです。また、リース会社に返還後、3R(リデュース・リユース・リサイクル)を念頭に置いた処理が進められると、資源循環への貢献も期待できます。 2 リースのデメリット 次に、リースの主なデメリットを5つ見ていきましょう。 (1) 総支払額が高くなることがある リース料には、設備の購入代金の他に、リース会社の資金調達コスト相当額、固定資産税、保険料などの付随費用、さらにリース会社の利益が含まれます。そのため、リース料総額は、設備を購入した場合よりも割高になることがあります。 また、契約期間が終了しても、自社に所有権は移らず、使用を続ける場合には再リース料(契約延長のための料金)をリース会社へ支払わなければなりません(所有権を移転する条項が付いている契約もあります)。 そのため、長期間にわたって設備を使用する場合は、自己資金での購入を選択する会社もあります。 (2) 長期間支払いが必要になる リースでは、契約期間にわたり、毎月リース料を支払い続けることになります。また、リース料は契約開始時の金利水準を基に設定されることが多く、契約後に市場金利が低下した場合でも、原則としてリース料は変わりません。 このように、長期間にわたり固定された支払いが続く点は、リースのデメリットの一つといえます。 (3) 中途解約ができない リースは基本的に中途解約することができず、陳腐化などにより途中で設備を使用しなくなった場合でも、契約期間中はリース料を支払い続けなければなりません。もし途中解約できたとしても、残りのリース料に相当する違約金の支払いを求められるケースもあります。 (4) 設備が自社のものにならない リースの場合、その設備の所有権はリース会社にあります。そのため、自社の資産として自由に処分したり、改造したりすることに制限が生じる可能性が高いです。自社独自の技術や機密情報を扱う設備では、技術や情報の外部流出を懸念し、購入を選択する会社もあります。 (5) 特別償却などの税制優遇を受けられない場合がある 省エネルギー設備など、一定の条件を満たす設備を購入する場合は、通常の減価償却に加え、特別償却が認められることがあります。リースの場合、これらの税制優遇を受けられないことがあるため、購入する方が税務上有利となるケースもみられます。 3 リースのメリット・デメリットまとめ 最後に、リースのメリットとデメリットを整理しましょう。 リースにはこのようなメリット・デメリットがあります。 設備投資を行う際は、「自己資金」や「借入」による購入とも比較しながら、自社の資金状況や特性に合った方法を選択することが重要です。 (了)