「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例161(相続税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆市街地農地(評通36-4) 市街地農地とは、次に掲げる農地のうち、そのいずれかに該当するものをいう。 ◆市街地農地の評価(評通40) 市街地農地は宅地比準方式又は倍率方式により評価する。なお、その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額については、その農地が宅地であるとした場合において「地積規模の大きな宅地の評価」の定めの適用対象となるときには、これを適用して計算することに留意する。 ◆地積規模の大きな宅地の評価-市街地農地等(国税庁HP) ◆地積規模の大きな宅地の評価(評通20-2) (1) 地積規模の大きな宅地の意義 地積規模の大きな宅地とは次の全ての要件を満たしている宅地をいう。 (2) 評価方法 ① 路線価方式適用地域 (※1) 各種補正率とは、奥行価格補正率・間口狭小補正率・奥行長大補正率・不整形地補正率である。 (※2) 規模格差補正率とは、次の算式より求めた率をいう。 上の算式中の「Ⓑ」及び「Ⓒ」は、地積規模の大きな宅地が所在する地域に応じ、それぞれ次に掲げる表のとおりとする。 イ 三大都市圏に所在する宅地 ロ 三大都市圏以外の地域に所在する宅地 (注) 上記算式により計算した規模格差補正率は、小数点以下第2位未満を切り捨てる。 ② 倍率方式適用地域 次のイとハのうちいずれか低い金額。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第63回】 「遺産分割により各土地の有効な土地利用を図ることができないものとは認められないから、著しく不合理な分割とは認められなかった事例」 税理士 菅野 真美 ▷「分割が著しく不合理であると認められるとき」とは 相続税の土地の価額は評価単位ごと(例えば、宅地、雑種地は別のものとして)に評価するとされている(財産評価基本通達(以下「財基通」)7-2)。例えば、住宅の敷地の用に供されている土地と、駐車場の用に供されている土地がある場合、共同住宅の敷地の用に供されている土地は宅地として、駐車場の用に供されている土地は雑種地として別のものとして評価する。しかし、例外として入居者専用の駐車場のような場合は一体評価が認められる。 財産の評価は、取得者ごとに評価することが原則であるが、贈与、遺産分割等による宅地の分割が親族間で行われた場合において、例えば、分割後の画地が宅地として通常の用途に供することができないなど、その分割が著しく不合理であると認められるときは、その分割前の画地を「1画地の宅地」とする(財基通7-2(注))と定められている。この分割が著しく不合理であると認められるときとはどういうときなのか。これに関して、国税庁の質疑応答事例「宅地の評価単位-不合理分割(1)、(2)」でいくつかの事例が紹介されている。 たとえば「不合理分割(1)」の(1)、(6)は次のような事例である。 (※) 国税庁質疑応答事例「宅地の評価単位-不合理分割(1)」より一部抜粋 A部分とB部分を別々の相続人が取得した場合の宅地の評価単位であるが、(1)については現実の利用状況を無視した分割であり、(6)は接道義務を満たさないような間口が狭小な土地を創出する分割だから、分割時のみならず将来においても有効な土地利用が図られず、通常の用途に供することができないため、著しく不合理な分割と認められるとされている。 今回は、相続により共同住宅の敷地や駐車場を相続人らが取得した場合の評価について、駐車場も含めて共同住宅の敷地の用に供されている宅地等に該当するか、また、分割が著しく不合理であると認められるものであるかについて争われた事案を検討する。 ▷事案の概要 相続が開始され、相続人が3人いた。彼らは遺産分割協議を行い、相続人Aは本件1土地(青色と黄色部分の土地)と共同住宅を、相続人Bは本件2土地を取得した。 〈別図 本件1土地及び本件2土地の形状等〉 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) TAINSコード:F0-3-861の「別図 本件1土地及び本件2土地の形状等」を筆者一部加筆 相続税の申告において、本件1土地を1画地の宅地(一の評価単位)として、不整形地の評価をして申告を行った。 その後、相続税の調査が入り、本件1土地の価額は、不整形地として評価せず、当初は、本件1土地については、共同住宅の敷地部分(A、B、H、F、Aに囲まれた部分)と、雑種地である駐車場部分(別図のG、H、M、L、Gに囲まれた部分)は、土地の利用の一体性が認められないから、分けて評価することとした。 この更正処分等に不服な相続人らが審査請求をしたが、ここで、課税庁は、共同住宅の敷地部分をA、B、E、C、Aに囲まれた部分(青色)であり、雑種地である駐車場部分はC、E、M、L、G、F、Cに囲まれた部分(黄色)であると主張を変更している。 なお、土地等の状況のうち主要なものは次のとおりである。 共同住宅は、相続開始日において、9室のうち6室が賃貸されていた。 南側部分(「別図のC、E、M、I、Cに囲まれた部分」(黄色の部分と本件2土地の部分))は、相続開始日において、16台の月極駐車場であり、全て貸し付けられていた。そのうちの4か所については、共同住宅の居住者4名に貸していたが、共同住宅の入居者専用ではなかった GとL、FとGの間にフェンスなどはなかったが、CとDの間にはアルミ製の柵があった。さらにLとMの間にもフェンスがあった。 共同住宅の住人は、敷地内を通って南側の駐車場部分に移動することはできなかった。なぜなら東側には玄関と塀の間に植栽が設置され、西側は、塀と共同住宅の間が約47センチと狭かったからである。 ▷争点は 争点は、本件1土地北側部分(青色部分)及び本件1土地南側部分(黄色部分)ごとに土地を評価すべきか。具体的には、本件1土地の地目につき、本件1土地北側部分(青色部分)は宅地、本件1土地南側部分(黄色部分)は雑種地とし、それぞれの評価単位ごとに土地の価額を評価すべきか否か。 ▷裁決は 審判所は相続税の更正処分の一部を取り消し、相続人2人の過小申告加算税の賦課決定処分の一部を取り消し、相続人1人の賦課決定処分の全部を取り消した。 ▷まとめ 本裁決において、本件1土地を「宅地部分」と「雑種地(駐車場部分)」に分けて評価するという課税庁の主張自体は認められた。しかし、駐車場部分を含む本件1土地南側部分(黄色部分)と本件2土地との分割が著しく不合理であるため、「本件2土地と併せて評価する」という課税庁側の主張は退けられた。 本件1土地南側部分(黄色部分)の形状自体は極めて歪なものだが、分割後においても本件1土地(共同住宅・駐車場)及び本件2土地(駐車場)の利用が著しく制限されることはなかった。共同住宅部分は北側道路に接道しており、本件1土地南側駐車場及び本件2土地(黄色部分)の駐車場も南側道路からスムーズに出入り・利用が可能であったためである。 つまり、財産評価における「不合理分割」に該当するかどうかの判断基準は、単に分割後の形状が歪であるか否かではなく、「分割時のみならず将来にわたっても有効利用が阻害され、通常の用途に供することができないか否か」が本質的なポイントであるといえる。 (了)
グループ企業の税務Q&A 第 8 回 適格株式交換でグループ通算制度に加入した場合 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター/税理士 川瀬 裕太 ◆ ◆ ◆〈解説〉◆ ◆ ◆ 1 共同事業を行うための適格株式交換の要件 資本関係がない法人と株式交換を行う場合、下記の共同事業を行うための適格株式交換の要件を満たす必要があります(法法2十二の十七、法令4の3⑳)。 (1) 金銭等不交付要件 金銭等不交付要件とは、株式交換完全子法人の株主に株式交換完全親法人株式以外の資産が交付されないことをいいます。 (2) 従業者引継要件 従業者引継要件とは、株式交換完全子法人の株式交換直前の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が株式交換の後に株式交換完全子法人の業務に引き続き従事することが見込まれていることをいいます。 (3) 事業継続要件 事業継続要件とは、株式交換完全子法人の株式交換前に行う主要な事業が株式交換の後に株式交換完全子法人において引き続き行われることが見込まれていることをいいます。 (4) 事業関連性要件 事業関連性要件とは、株式交換完全子法人の株式交換前に行う主要な事業のうちのいずれかの事業と株式交換完全親法人の株式交換前に行ういずれかの事業とが相互に関連するものであることをいいます。 (5) 事業規模要件又は経営参画要件 事業規模要件とは、事業関連性要件を満たす対象事業それぞれの売上金額、従業者の数若しくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないことをいいます。 経営参画要件とは、株式交換前の株式交換完全子法人の特定役員の全てが株式交換に伴って退任するものでないことをいいます。 (6) 株式継続保有要件 株式継続保有要件とは、株式交換により交付される対価株式(議決権のないものを除きます)のうち、支配株主に交付されるものの全部が支配株主により継続して保有されることが見込まれていることをいいます。 (7) 完全支配関係継続要件 完全支配関係継続要件とは、株式交換の後に株式交換完全親法人と株式交換完全子法人の間に株式交換完全親法人による完全支配関係が継続することが見込まれていることをいいます。 2 株式交換完全子法人の時価評価 (1) 時価評価 通算制度の承認を受け加入する内国法人が、通算加入直前事業年度(※)終了の時に有する時価評価資産の評価益の額又は評価損の額は、通算加入直前事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することとされています(法法64の12①)。 (※) その内国法人について通算承認の効力が生ずる日の前日の属するその内国法人の事業年度をいいます。 (2) 時価評価対象外の法人 通算法人を株式交換等完全親法人とする適格株式交換等に係る株式交換等完全子法人については、時価評価の対象にならないこととされています(法法64の12①二)。 3 株式交換完全子法人の繰越欠損金の持込制限 (1) 法人税の繰越欠損金 ① 繰越欠損金の切捨て 通算法人が時価評価対象法人に該当する場合には、その通算法人の通算制度の承認の効力が生じた日以後に開始する各事業年度については、同日前に開始した各事業年度において生じた欠損金額はないものとされます(法法57⑥)。 ② 繰越欠損金の切捨てがない法人 通算法人で時価評価除外法人に該当する法人が、通算制度の承認の効力が生じた日の5年前の日又はその通算法人の設立の日のうちいずれか遅い日からその承認の効力が生じた日まで継続して通算親法人(その通算法人が通算親法人である場合には、他の通算法人のいずれか)との間に支配関係がある場合に該当しない場合で、かつ、通算制度の承認の効力が生じた後にその通算法人と他の通算法人とが共同で事業を行う一定の場合(下記③参照)に該当しない場合において、その通算法人が通算親法人との間に最後に支配関係を有することとなった日(支配関係発生日)以後に新たな事業を開始したときは、その承認の効力が生じた日以後に開始する各事業年度については、次に掲げる未処理欠損金額はないものとされます(法法57⑧、法令112の2③④)。 なお、通算法人の最初通算事業年度開始の日前10年以内に開始した各事業年度において生じた欠損金額で切り捨てられずに持ち込まれたものは特定欠損金となります(法法64の7②一)。 ③ 「共同で事業を行う一定の場合」とは 共同で事業を行う一定の場合とは、イからハまでに掲げる要件、イ及びニに掲げる要件又はホに掲げる要件に該当する場合をいいます(法令112の2④)。 (2) 住民税の繰越欠損金(控除対象通算適用前欠損調整額、控除対象通算対象所得調整額、控除対象配賦欠損調整額) 法人税の未処理欠損金額について切捨てがあった場合においても、切り捨てた未処理欠損金額に対応する住民税の未処理欠損金額(控除対象通算適用前欠損調整額)を認識することとなります。 また、住民税の他の未処理欠損金額(控除対象通算対象所得調整額、控除対象配賦欠損調整額)については、切り捨てる規定はありません。 (3) 事業税 事業税では、通算法人が時価評価対象法人に該当する場合の繰越欠損金の切捨て(法法57⑥)や新たな事業を開始した場合の繰越欠損金の切捨て(法法57⑧)の規定は適用されず、特別の定めをする場合を除き、法人税の所得の計算により算定することとされています(地法72の23①②)。 したがって、法人税の未処理欠損金額が切り捨てられた場合でも、事業税の未処理欠損金額は切り捨てられません。 4 本件へのあてはめ 資本関係がない通算グループ外の法人A社を株式交換完全子法人、P社を株式交換完全親法人とする適格株式交換を行う予定とあり、本件株式交換は、共同事業を行うための適格株式交換の要件を満たす必要があります。 通算法人を株式交換等完全親法人とする適格株式交換等に係る株式交換等完全子法人については、時価評価の対象にならないため、グループ通算制度に加入する株式交換完全子法人A社については時価評価する必要はありません。 株式交換完全子法人A社が時価評価対象外法人に該当し、共同で事業を行う一定の場合には、A社の法人税の未処理欠損金額は持込制限なく、切り捨てられることはありません。また、株式交換完全子法人A社の住民税及び事業税の未処理欠損金額については、法人税の未処理欠損金額の切捨ての有無に関わらず、切り捨てられません。 (了)
令和8年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第9回】 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 Ⅳ 投資簿価修正制度の見直し 1 改正の概要 令和8年度税制改正において、投資簿価修正における資産調整勘定等対応金額の加算措置について、通算完全支配関係発生日以前に離脱法人株式の譲渡をした場合の資産調整勘定対応金額等の減額調整の対象となる「譲渡」から、全部取得条項付種類株式に係る取得決議による完全子法人化の際における離脱法人株式の「譲渡」が除外されることとなった。 具体的には、次の株式の譲渡が、資産調整勘定対応金額等の減額措置の適用対象から除かれる(法令119の3⑥、法法2十二の十六イ、61の2⑭)。 (※1) 法人税法第2条第12号の16イに掲げる行為とは 全部取得条項付種類株式(注1)に係る取得決議によりその取得の対価として対象法人の最大株主(注2)以外のすべての株主(注3)に一に満たない端数の株式以外の対象法人の株式が交付されないこととなる場合のその取得決議をいう。 (注1) 全部取得条項付種類株式とは、ある種類の株式について、これを発行した法人が株主総会その他これに類するものの決議(取得決議)によってその全部の取得をする旨の定めがある場合の当該種類の株式をいう。 (注2) 最大株主とは、対象法人以外の対象法人の株主のうちその有する対象法人の株式の数が最も多い者をいう。 (注3) 最大株主以外のすべての株主からは、対象法人及び最大株主との間に完全支配関係がある者は除かれる。 (※2) 法人税法第61条の2第14項の規定とは 「全部取得条項付種類株式に係る取得決議によりその取得の対価としてその取得をされる株主等にその取得をする法人の株式(注1)以外の資産(注2)が交付されない場合の当該取得決議」により全部取得条項付種類株式を譲渡し、かつ、その取得をする法人の株式又は新株予約権の交付を受けた場合(注3)に、その全部取得条項付種類株式の譲渡について、株式譲渡損益が生じないものとする取扱いをいう。 (注1) その株式と併せて交付されるその取得をする法人の新株予約権を含む。 (注2) その取得の価格の決定の申立てに基づいて交付される金銭その他の資産を除く。 (注3) その交付を受けた株式又は新株予約権の価額がその譲渡をした有価証券の価額とおおむね同額となっていないと認められる場合を除く。 2 改正に関係する加算措置の取扱い 今回の改正に関係する加算措置の取扱いは次の2つとなる。 1 資産調整勘定対応金額等の減額の取扱い 法人税法施行令第119条の3第6項では、資産調整勘定等対応金額の計算について、次の取扱いが定められている。 2 資産調整勘定対応金額等の計算対象となる離脱法人株式(対象株式)の範囲 資産調整勘定対応金額等の計算対象となる離脱法人株式(対象株式)は、時価で取得した株式となる。 3 全部取得条項付種類株式に係る取得決議による完全子法人化 全部取得条項付種類株式とは、ある種類の株式について、これを発行した法人が株主総会の決議(取得決議)によってその全部の取得をする旨の定めがある場合の当該種類の株式をいう。 そして、全部取得条項付種類株式に係る取得決議による完全子法人化とは、例えば、以下の手順により、買収会社が少数株主を排除し、対象法人を完全子法人とする行為をいう。 手順1 買収会社がTOBを含めた株式の買取り等により、対象法人の株式の一定数の議決権を確保する。 ⇒ ❶株式の取得が行われる。 手順2 株主総会の特別決議により、対象法人の定款変更を行い、普通株式を全部取得条項付種類株式へ変更する。 手順3 全部取得条項付種類株式の取得決議を行い、取得の対価に係る交付比率の調整により、買収会社には普通株式を1株以上、少数株主には1株未満の端数株式を交付する。 ⇒ ❷全部取得条項付種類株式の譲渡と❸普通株式の取得が行われる。 手順4 1株未満の端数株式を合計した整数株式を、裁判所の許可を得て、買収会社又は対象法人へ任意売却し、少数株主に1株未満の端数株式に対応する現金を交付することにより、買収会社が対象法人を完全子法人とする。 そして、買収会社がグループ通算制度を適用している場合、例えば、買収会社が通算親法人である場合、対象法人はグループ通算制度に加入することとなる。 あるいは、全部取得条項付種類株式に係る取得決議による完全子法人化後に、買収会社及び対象法人がグループ通算制度を開始すると、その対象法人は通算子法人に該当することとなる。 4 改正の趣旨・目的 全部取得条項付種類株式に係る取得決議による完全子法人化について、改正前の法令では以下の取扱いとなる。 このように、改正前の法令では、完全子法人化の際の全部取得条項付種類株式の取得決議による対象法人株式の譲渡と取得は、実質的には、全部取得条項付種類株式から普通株式への株式の内容(種類)の変更に過ぎないにもかかわらず、資産調整勘定対応金額等が消滅してしまう(あるいは、新たに発生しない)という問題が生じていた。 そのため、令和8年度税制改正で、通算完全支配関係発生日以前に離脱法人株式の譲渡をした場合の資産調整勘定対応金額等の減額調整の対象となる譲渡から、全部取得条項付種類株式に係る取得決議による完全子法人化の際の離脱法人株式の譲渡を除外する取扱いに見直すことになった。 なお、この取扱いからは、「全部取得条項付種類株式に係る取得決議により交付を受けた離脱法人株式の価額がその譲渡をした株式の価額とおおむね同額となっていないと認められる場合」は除かれる(法令119の3⑥、法法61の2⑭)。この点につき、このような場合の離脱法人株式の取得は、法人税法施行令第119条第1項第18号に該当するものではなく、同項第27号に掲げる株式の取得に該当する。その結果、普通株式の取得に伴い新たに資産調整勘定対応金額等が生じることから、全部取得条項付種類株式の譲渡については、原則どおり減額措置が適用される(法令119の3⑥⑦二、119①十八・二十七・法法61の2⑭)。 5 他のスクイーズアウトの手法との比較 この改正により、全部取得条項付種類株式に係る取得決議による完全子法人化について、株式併合による完全子法人化と同様に、完全子法人化前に生じた資産調整勘定対応金額等が消滅しないこととなった。 スクイーズアウトの手法ごとの資産調整勘定対応金額等の取扱いは、次のとおりとなる。 〈図表:スクイーズアウトの手法ごとの取扱い〉 完全子法人化時の資産調整勘定対応金額等の取扱い 現金交付型株式交換 株式売渡請求方式 株式併合方式 全部取得条項付種類株式方式 完全子法人化前の株式取得(買取)分 譲渡に該当しないため、消滅しない。 譲渡に該当しないため、消滅しない。 譲渡に該当しないため、消滅しない。 改正前:譲渡に該当するため、消滅する。 改正後:譲渡に該当するが、消滅しない。 完全子法人化時の株式取得分 法令 119①二十七に該当するため、新たに発生する。 法令 119①一に該当するため、新たに発生する。 株式取得はない。 株式取得はない。 6 適用時期 改正後の取扱いは、内国法人の令和8年4月1日以後に終了する事業年度から適用される(令8改法令附5①)。 〈図表:全部取得条項付種類株式の取得決議による完全子法人化の際における離脱法人株式の「譲渡」と資産調整勘定対応金額等の減額措置からの適用除外〉 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (続く)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第103回】 「アジレント事件(高判令5.2.16)(その2)」 ~所得に対する租税及びある種の他の租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とルクセンブルク大公国との間の条約10条1項、2項、3項~ 税理士 大野 道千 2 検討 本件は、条約に定めがない用語の解釈について、日蘆租税条約3条2項が定める文脈に従って、「the accounting period for which the distribution of profits takes place」の政府訳文「利得の分配に係る事業年度の終了の日」にある「事業年度」の意義を国内法令(法人税法13条)を参照して日本の法令における用語の意義を検討した。二重課税の排除という租税条約の目的を達成するためには、条約用語の解釈においては、両締約国間で統一された一義的かつ明確な規定が望ましいと考えられる。しかしながら、租税条約の適用実務上、実行可能性確保の観点から租税条約には多数の不確定概念が用いられ(※1)、国内法参照は一定程度不可欠な要素となっている。 (※1) 木村弘之亮「二重課税条約の解釈」法学研究68巻6号4頁(1995)。 そこで、本稿では、租税条約の解釈における租税条約の国内法参照規定の意義と解釈の安定性について検討する。 (1) 租税条約における国内法参照規定の意義と課題 日蘆租税条約3条2項のような国内法参照の規定は世界中のほとんどすべての租税条約に取り入れられており(※2)、国内法を参照することによって租税条約の負担を軽減し、租税条約における適用の実行可能性を高めるという利点を有する(※3)。 (※2) 木村・前掲(※1)43頁。 (※3) 同上[木村]。 一方、両締約国がその都度異なる意義を同一の条約において適用した結果、二重課税や二重非課税が生じる可能性がある(※4)。また、租税条約は「実行可能性を確保するため多数の不確定概念を用いて」(※5)おり、「国内租税法の場合よりもさらに一層相違なる解釈を施される余地を残している」(※6)ため、解釈する締約国に利するような傾向になる(※7)という懸念もある。 (※4) 木村・前掲(※1)43-44頁。 (※5) 同上[木村]4頁。 (※6) 同上[木村]。 (※7) 同上[木村]。 (2) OECDモデル租税条約における国内法参照規定の前提要件 OECDモデル租税条約3条2項は、租税条約上の「用語」の解釈のみを規制したものである(※8)。すなわち、国内法参照は条約上の言葉または言葉のグループの解釈のみにおいて必要とされ、国内法の一般的法思想を用いて条約を解釈したり、国内法を援用して不明瞭な条約問題を解明したりする余地はない(※9)。また、「参照される国内法は税法であるかどうかを問わないが、租税条約上定義されていない用語が、当該租税条約の対象税目に適用される租税法令と他の法令(当該租税に適用されない租税法令を含む)とで異なる意味を持つ場合には、前者における意味が優先する」(※10)。 (※8) 木村・前掲(※1)44頁。 (※9) 同上[木村]。 (※10) 谷口勢津夫『租税条約論』22頁(清文社、1999)。 (3) 解釈の安定性の観点からみた静態的解釈と動態的解釈の対立 どの時点の国内法を参照するかについて、静態的解釈と動態的解釈の2つの解釈手法がある。動態的解釈とは、条約適用時に有する意義を有すべきものとして解釈する手法を指し、静態的解釈とは、条約締結時に有する意義を有するとして解釈する手法を指す(※11)。現在OECDモデル租税条約では、動態的解釈手法によって解釈するよう定められている(※12)。動態的解釈は実行可能性の点で優れており、国内法に法改正があった場合も条約が対応している場合にはその条約は有効性を維持し続ける(※13)。 (※11) 川端康之「我が国の租税条約の解釈適用に関する省察」日税研論集78号235頁(2020)。 (※12) 同上[川端]235頁。 (※13) 木村・前掲(※1)55-56頁。 一方、国内法に重大な改正があった場合に、租税条約をそのまま適用することは妥当性を欠くこともあり得る(※14)。OECDモデル租税条約3条2項において、動態的解釈が明確化される契機となった判例が「メルフォード」事件である。「メルフォード事件」では、加独租税条約の「利子」条項に関して、静態的解釈と動態的解釈のいずれの解釈手法によって解釈するか(保証料を利子に含めないとする静態的解釈をとるか利子に含めるとする動態的解釈をとるか)をめぐって争われ、カナダ最高裁は最終的に静態的解釈を採用した(納税者勝訴)。本事件の敗訴を受け、カナダ財務省は最高裁判決を否定する租税条約解釈法を制定し、さらにOECDモデル租税条約への動態的解釈の要件化を主張した結果、1995年OECD改定モデル条約3条2項において動態的解釈が明確化された(※15)。 (※14) 木村・前掲(※1)56頁。 (※15) 村井正『入門国際租税法[改訂版]』36頁(清文社、2020)。 (4) まとめ 租税条約の適用実務上、多数の不確定概念が用いられる租税条約の解釈において、条約に定めのない用語の解釈にあたり、実行可能性の観点から国内法参照はやむを得ないかもしれない。しかし、条約解釈の余地の中で恣意的に国内法の法意によって条約の文言を解釈するようなことになれば、条約の文言を無視することになり、treaty overrideとの批判を招きかねない。 また、条約に定めのない用語の解釈にあっては、条約はできる限り条約や文脈を参照して解釈しなければならず、3条2項に拠って機械的に国内法の意味に変換してしまうことも避けなければならない。加えて、当該租税に適用される租税法令と他の法令とで異なる意味を持つ場合に当該租税に適用される租税法令における当該用語の意義を優先することは、通説の借用概念統一説から大きく乖離することにもなりかねない。借用先の私法概念から大きく離れることになれば、税務当局に利するような恣意的な解釈の余地を与えることになる。恣意的な解釈の余地を排除し、法的安定性を確保する観点からも3条2項の適用によって条約と国内税法の関係が逆転することはあってはならない。 「メルフォード事件」を契機とする3条2項の改定が実質的に税務当局を利する方向に向けた修正となった経緯に鑑みても、同項の適用においては、納税者の予見可能性や法的安定性の観点から極めて慎重な解釈が求められる。本件は、日本で租税条約に定めがない用語の解釈について争われた最初の事例であるとされる(※16)。本件の「複数の観点から文言の解釈について検討した上で、それらが実質的に一致することを確認して最終的な解釈を確定するという手法」(※17)は、条約文言に対する慎重な解釈手法として位置づけられる。しかし、条約文の解釈をめぐる問題を包括的に解消するものではなく、今後も詳細な議論を重ねる必要がある。 (※16) 「日本:国税庁が公表した『租税条約における「利得の分配に係る事業年度の終了の日」の取り扱いについて』が及ぼす実務への影響について」Corporate & TaxGlobal Update ニューズレター Vol. 85(30August2023)。 (※17) 木村浩之「租税条約上の配当所得条項における保有期間要件に係る文言の解釈」ジュリ1578号11頁(2022)。 (了)
【新基準対応版】 〈一から学ぶ〉 リースの会計と税務 【第5回】 「借手の会計処理」 ~リース開始日~ 公認会計士・税理士 喜多 弘美 【第4回】では、リースの識別とリース期間について整理しました。今回からは借手の会計処理を見ていきます。まず今回は、リース開始日における会計処理からスタートです。 借手は、リース開始日に「使用権資産」と「リース負債」を計上します。 「使用権資産」とは、「借手が原資産をリース期間にわたり使用する権利を表す資産」をいいます(会計基準第10項)。簡単にいうと、借りた物件を契約期間中に使用できる権利を資産として計上するということです。 一方、「リース負債」とは、将来支払うリース料の支払義務を表す負債をいいます。 では、それぞれの計上額はどのように決まるのでしょうか? ポイントは、計算の順番です。まず、「リース負債」から計算した後、その金額を基に、「使用権資産」の計上額を決定します。それぞれの計上額の決め方を具体的に見ていきましょう。 1 リース負債の計上額 借手は、リース負債の計上額を算定するにあたって、原則として、リース開始日において未払である借手のリース料からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定します(会計基準第34項)。 簡単にいうと、リース負債は、これから支払う予定のリース料を、リース開始日時点のお金の価値(現在価値)で計算した金額で計上します。 借手のリース料には、会計基準上、複数の項目が含まれますが、今回はわかりやすいように、毎月一定額のリース料を支払う一般的な契約を前提にお伝えします。そのため、「借手のリース料」は、これから支払う予定のリース料として考えてください。たとえば、毎月10万円のリース料を5年間支払う契約であれば、600万円(=月10万円×12か月×5年間)と計算できます。 (1) 「現在価値」ってなに? 次に、「現在価値」とはなんでしょうか? 現在価値とは、将来受け取ったり支払ったりするお金を、今のお金の価値に置き換えた金額のことです。たとえば、私たちが100万円をもらうことになり、受取日を今日か10年後のどちらかを選べるとしましょう。あなたなら、どちらを選びますか? 多くの人が、今日受け取ることを選択すると思います。つまり、同じ100万円でも、今日の100万円の方が、10年後の100万円より価値が高いと考えられます。 そのため、将来支払うリース料は、ただ合計するだけではなく、リース開始時点のお金の価値(現在価値)に直して計算します。現在価値を計算するときに使う割合を割引率といいます。 (2) 現在価値の算定に使う割引率 銀行から100万円を借りると、借りた100万円だけでなく、利息も含めて返済します。同じように、リース料には物件の代金だけでなく、リース会社がお金を立て替えたことに対する利息も含まれています。 リース会社が、実際にそのリース契約で見込んでいる利率(貸手の計算利子率)を知っている場合には、その利率により現在価値を算定します。しかし、借手が貸手の計算利子率を知りえない場合は、借手がリース会社ではなく銀行などから同じ金額を借りるとしたら適用されると合理的に見積もられる利率を使います(適用指針第37項)。 割引率は高いほど、現在価値は小さくなり、低いほど現在価値は大きくなります。 たとえば、毎月10万円のリース料を5年間支払う契約であれば、現在価値は、支払う金額を単純に合計した金額600万円よりも小さい金額になります。したがって、リース負債として計上する金額は600万円ではなく、それより小さい金額になります。 2 使用権資産の計上額 リース負債の計上額が決まったら、次は使用権資産の計上額を決めます。使用権資産は、リース負債を基礎として、以下の項目を加算・控除して計算します(会計基準第33項)。 3 仕訳例 上記①~③の加算や④の控除がない場合、使用権資産とリース負債の計上額は同じになります。その場合の仕訳は、次のとおりです。 (例) リース開始日におけるリース負債が1,000円の場合 さらに付随費用が200円かかった場合は、上記2②でお伝えしたように、その金額を使用権資産に加算します。仕訳は、次のようになります。 借方には、物件を使用する権利として使用権資産1,200円を計上します。一方、貸方には、将来支払うリース料の現在価値であるリース負債1,000円と、付随費用の支払いによる現預金200円の減少を計上することになります。 * * * このように、リース開始日には、リース負債を計算し、その金額を基に使用権資産を計上します。全体の流れをまとめると、次のようになります。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 企業会計基準委員会「『リースに関する会計基準』の公表(2024年10月)」を参考に著者作成 (了)
期中会計基準を学ぶ 【第4回】 「棚卸資産、固定資産などの会計処理」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、期中適用指針における棚卸資産、固定資産などの会計処理について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 棚卸資産 1 実地棚卸の省略 期中会計期間末における棚卸高は、前年度に係る実地棚卸高を基礎として、合理的な方法により算定することができる(期中適用指針6項)。 2 棚卸資産の簿価切下げに係る方法 期中会計期間末における棚卸資産の簿価切下げについては、期中洗替え法によるとし、期中洗替え法によることを原則としている(期中適用指針7項、BC19項)。 従来、「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第14号)では、棚卸資産の簿価切下げに係る方法として年度決算において切放し法を適用している場合について、継続適用を条件に四半期切放し法と四半期洗替え法の選択適用を認めていたが、期中適用指針では、期中洗替え法を原則としている(期中適用指針BC17項~BC19項)。 ただし、次のように、一定の条件のもとに、期中切放し法の適用も例外的に認められている(期中適用指針7項、BC19項)。 これは、従前から期中会計期間末に切放し法を適用していた企業においては、これまで会計方針の選択にあたり年度と同様の会計方針を採用していたものであり、期中洗替え法が原則となるとしても、これまでの会計方針の選択の判断が必ずしも否定されるものではないなどの理由による(期中適用指針BC14項、BC15項、BC19項)。 3 棚卸資産の簿価切下げにあたっての簡便的な会計処理 期中会計期間末における通常の販売目的で保有する棚卸資産の簿価切下げにあたっては、収益性が低下していることが明らかな棚卸資産についてのみ正味売却価額を見積り、簿価切下げを行うことができる(期中適用指針8項)。 次のことに注意する(期中適用指針8項)。 4 原価差異の配賦方法における簡便的な会計処理 予定価格等又は標準原価を用いているために原価差異が生じた場合、当該原価差異の棚卸資産と売上原価への配賦は、年度決算と比較して簡便的な方法によることができる(期中適用指針9項)。 Ⅲ 経過勘定項目 経過勘定項目は、財務諸表利用者の判断を誤らせない限り、合理的な算定方法による概算額で計上することができる(期中適用指針10項)。 経過勘定項目は、企業会計原則注解(注5)に規定されており、前払費用、前受収益、未払費用、未収収益があげられている。 Ⅳ 固定資産 1 減価償却費の算定における簡便的な会計処理(合理的な予算制度の利用) 固定資産の年度中の取得、売却又は除却等の見積りを考慮した予算を策定している場合には、当該予算に基づく年間償却予定額を期間按分する方法により、減価償却費を計上することができる(期中適用指針11項)。 ただし、期中に取得、売却又は除却する固定資産の減価償却費に重要性がある場合には、その部分について適切に反映するよう当該期間按分額を調整する(期中適用指針11項)。 2 減価償却費の算定における簡便的な会計処理(定率法を採用している場合) 減価償却の方法として定率法を採用している場合には、年度に係る減価償却費の額を期間按分する方法により、減価償却費を計上することができる(期中適用指針12項)。 3 減損の兆候 期中会計期間における減損の兆候の把握にあたっては、使用範囲又は方法について当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化を生じさせるような意思決定や、経営環境の著しい悪化に該当する事象が発生したかどうかについて留意することとする(期中適用指針13項)。 4 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」の改正 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号)145-2項では、期中会計基準において「有価証券の減損処理及び棚卸資産の簿価切下げに係る方法」について洗替え法を原則とすることとしたが、固定資産の減損会計について洗替え法の採用を求めるものではないと記載されている。 Ⅴ のれん のれんの償却開始時期は、企業結合日となる(期中適用指針14項)。 みなし取得日(期中会計基準20項並びに「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第10号)117項及び121項また書き)による場合には、当該みなし取得日が期中会計期間の期首であるときは、償却開始は期中会計期間の期首からであり、期中会計期間の末日であるときは翌期中会計期間の期首からとなる(期中適用指針14項)。 (了)
税理士事務所の労務管理Q&A 【第33回】 「時間単位での年次有給休暇」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 時間単位で取得できる年次有給休暇を導入している事業所は、増加傾向にあります。従業員にとっては利便性が向上して働きやすさにつながります。今回は時間単位の年次有給休暇導入時の手順と留意点について解説します。 * * 解 説 * * 1 年次有給休暇の時間単位付与 年次有給休暇(以下「年休」という)の最低付与単位は、「1日単位」であり、「半日単位」は事業所が認めれば与えてもいいとされていましたが、平成22年4月の労働基準法の改正により「時間単位」での付与が認められるようになりました。 労働基準法によって付与が義務付けられた年休のうち、時間単位で付与できるのは5日までです。6日分以上を時間単位で付与することは認められません。 2 時間単位での年休導入の手順 時間単位の年休を導入する際には、労使協定(※)を締結し、就業規則への記載が必要です。 (※) 労使協定とは、使用者と従業員の過半数を代表する者が合意の上で締結する書面による協定をいいます。 (1) 労使協定の締結 年休を時間単位で与える場合には、労働者の範囲、取得可能日数の上限、1日の年次有給休暇に相当する時間数等を労使協定で定めなければなりません(下記の協定(例)参照)。 労使協定がない限り、時間単位の付与はできません。 〈年次有給休暇の時間単位での付与に関する労使協定(例)〉 (2) 就業規則への記載 常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、就業規則の作成が義務付けられています(労働基準法89条)。休暇については、就業規則での記載が義務付けられている事項(絶対的必要記載事項という)に該当するため、時間単位の年休を導入する場合は、その制度内容を就業規則に規定しなければなりません。 〈就業規則規定(例)〉 3 時間単位の年休導入のメリットと留意点 時間単位の年休を導入することにより、従業員にとっては年休の取得方法において、選択肢が増え、取得もしやすくなります。働きやすさが向上し、ワークライフバランスにも繋がります。 ただし、時間単位年休は、年5日の年休取得義務(※)のカウントには含まれず、使用者は別途「1日または半日単位」で5日以上取得させる必要があります。 (※) 年5日の年休取得義務とは、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対して、使用者は付与日から1年以内に5日分の休暇を時季を指定して取得させる義務をいいます。 したがって、1日・半日単位と時間単位の取得状況を区別して管理する必要があり、導入後は年休管理が多少煩雑になるので、導入するときは事務担当者とも十分に協議してください。 (了)
〔業種別Q&A〕 労使間トラブル事例と会社対応 【第19回】 「派遣における解雇・雇止めの問題」 〈人材派遣業・人材紹介業〔Q2〕〉 弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士 石居 茜 【Q】 当社は登録型の人材派遣会社です。この度、3ヶ月単位での契約更新を繰り返し、同一の派遣先(特定の部署)で通算3年以上勤務してきた有期雇用の派遣労働者について、派遣先との労働者派遣契約が期間満了で終了することになりました。これに伴い、派遣元である当社との雇用契約も更新せず、期間満了をもって終了(雇止め)にしたいと考えています。 このように何度も契約更新を重ねて長期間勤務している派遣労働者であっても、「派遣先との契約が終了したこと」を理由に雇止めすることは法律上問題ないのでしょうか。また、雇止めを行うにあたって、派遣元が講ずべき手続きや実務上の注意点があれば教えてください。 【A】 有期雇用の派遣労働者に対する期間満了時の雇止めについては、通常の有期契約労働者と同様に、労契法第19条(雇止め法理)が適用されます。ただし裁判例の傾向として、派遣労働者の場合は、同一の派遣先で長期間勤務し反復更新されていたとしても、派遣元と派遣先との契約が商取引であることなどを理由に、雇用継続への合理的期待(更新への期待)が認められにくい、あるいは「派遣契約の終了」自体が雇止めの客観的・合理的な理由になりやすいと判断される傾向にあります。 もっとも、何ら事前の対応をせずに安易に雇止めをすることは紛争を招くリスクが極めて高く、特に通算3年以上同一組織単位に派遣される見込みがある労働者については、派遣法上、派遣先への直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの「雇用安定措置」を講じる義務があります。 さらに、3回以上の更新または1年を超える継続勤務がある場合は、少なくとも30日前までの雇止め予告が必要です。これらの義務や実務上のステップを怠ると、雇止めが無効と判断されたり、行政指導の対象になったりする可能性があります。 ▲ ▼ ▲ 解 説 ▲ ▼ ▲ 1 派遣労働者における「雇止め法理」(労契法19条)の適用 有期雇用の派遣労働者との雇用契約が期間満了を迎えた際、更新を拒否して契約を終了させる「雇止め」については、労契法第19条が適用される。 同条に基づき、①過去に反復して更新され、実質的に期間の定めのない(無期)契約と実質的に異ならない状態にある場合(同条1号)、または②労働者が契約期間満了時に「当然に更新される」と期待することについて合理的な理由がある場合(同条2号)には、雇止めに「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要とされる。これらを欠く雇止めは認められず、従前と同一の労働条件で契約が更新されたものとみなされる(雇止め無効)。 2 派遣労働者の合理的期待と裁判例の傾向 派遣労働における雇止め法理の適用にあたっては、通常の直接雇用労働者と比較して、雇用継続への「合理的期待」が認められにくい、あるいは派遣契約の終了が雇止めの「合理的理由」になりやすいという特徴がある。これには派遣特有の三面関係(派遣元、派遣先、派遣労働者)が影響している。 主要な裁判例として、以下の判断が示されている。 これらの裁判例が示すように、期間途中の解雇が厳格に制限されるのに対し、期間満了による雇止めについては、企業間の商取引である「労働者派遣契約の終了」という外部的要因が雇止めを正当化する事情として重視されやすい傾向にある。しかし、派遣先による不当な動機に基づく解除や、派遣元による雇用継続への努力が著しく欠けている場合には、雇止めが無効とされるリスクもあるため、慎重な判断が求められる。 3 派遣法に基づく「雇用安定措置」の履行義務 派遣元は、単に「派遣契約が終了したから」という理由だけで直ちに雇止めを行ってよいわけではない。派遣法第30条に基づき、派遣元は派遣労働者の雇用の維持を図るための「雇用安定措置」を講じる義務がある。 特に、今回の質問のように「同一の組織単位(課やグループなど)に継続して3年間派遣される見込みがある者(対象者A)」に該当する場合、派遣元は以下のいずれかの措置を講じる「義務」を負う。 【雇用安定措置における実務上の留意点】 4 実務的な雇止め手続きと注意点 上記の法的・義務的背景を踏まえ、実際に雇止めを進める際には、以下の実務対応を確実に行う必要がある。 派遣元企業としては、自社が雇用主として労働関連法規の責任を負っていることを強く意識し、派遣法上の雇用安定措置を適正に履行したプロセスを客観的な証拠(派遣元管理台帳の記載など)として残した上で、手続きを厳格に進めるべきである。 (了)
▼ ▼ ▼ 解説 ▼ ▼ ▼ 1 手形払い等の禁止(禁止行為の拡充) 改正前の下請法の下では、委託事業者は、受領日から60日以内のできる限り短い期間内において支払期日を定めたうえ、その支払期日までに製造委託等代金を支払わなければならないこととされていたが、その支払手段については、現金払いを原則としつつも、手形やその他の支払手段(電子記録債権、ファクタリングなどの一括決済方式)による支払も認められていた。 そのため、例えば、委託事業者が受領日から60日以内の支払期日に手形を交付すれば、手形の交付は現金払いと同様に取り扱われるため、中小受託事業者は、代金の支払期日に手形を受け取ることはできるものの、そこから手形サイトに相当する期間を待たなければ現金を受領することができず、実質的には支払が繰り延べられているのと等しい結果となっていた。また、中小受託事業者が、資金繰りのために、手形サイトの期間を待たずに受け取った手形を現金化しようとすると、割引料が必要となるため、実質的に製造委託等代金の全額を受領することはできない。 このような状況に対して、公正取引委員会及び中小企業庁は、手形サイトが60日を超える手形は割引困難手形(改正前下請法第4条第2項第2号)に該当するものとして運用を行ってきたが、取適法は、このような手形払いに対する規制をもう一段推し進め、取適法上の支払手段として、手形サイトに関係なく、手形払いを全面的に禁止することとした(取適法第5条第1項第2号かっこ書き)。 2 電子記録債権・一括決済方式による支払 電子記録債権やファクタリングなどの一括決済方式は、電子記録債権の満期日やファクタリング方式などにおける債権譲渡の決済日を製造委託等代金の支払期日よりも後に設定することによって、満期日または債権譲渡の決済日まで支払を繰り延べることができるため、手形の代替手段となる。 取適法は、これら手形以外の代替的支払手段についても、「製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」は、支払遅延に該当するとした(取適法第5条第1項第2号かっこ書き)。 「製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」とは、「金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」をいい、例えば、①一括決済方式または電子記録債権の支払の期日(いわゆる満期日・決済日等)が代金の支払期日より後に到来する場合において、中小受託事業者が代金の支払期日に金銭を受領するために、当該支払手段を担保に融資を受けて利息を支払ったり、割引を受けたりする必要があるものや、②一括決済方式または電子記録債権を使用する場合に、中小受託事業者が当該支払手段の決済に伴い生じる受取手数料等を負担する必要があるものが、これに該当する(運用基準「第4、2、(5)」)。 公正取引委員会は、委託事業者が支払期日における割引料等を代金の額に上乗せするなどしてこれを負担する場合であっても、「支払期日に金銭を受領するために、中小受託事業者において割引を受ける等の行為を要するとき」は、「割引を受ける」という作為を要する点で、「金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」にあたり、支払遅延に該当するとしている(運用基準「第4、2、(5)」、テキスト65頁「Q80」参照)。 したがって、電子記録債権または一括決済方式の満期日・決済日を製造委託等代金の支払期日よりも前に設定するか(代金支払の繰延べという目的は達成できない)、現金化するための割引料等のコストを委託事業者が自ら負担し、かつ、製造委託等代金の支払期日に(中小受託事業者の作為を要することなく)自動的に割引が行われるような方策を講ずるなどの場合でなければ、取適法の適用対象となる取引の支払手段として、電子記録債権またはファクタリングなどの一括決済方式による支払を用いることは許されず、利用に関する実務上のハードルは高いと考えられる。 (連載了)