〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第13回】 「国税通則法第63条の延滞税の取消しの主張は認容されるか」 公認会計士・税理士 大橋 誠一 1 大阪国税不服審判所平成26年9月5日裁決 (1) 事実関係の概要 (2) 請求人の主張の概要 (3) 延滞税及び人為災害通達の法令解釈 (4) 審判所の判断の概要・請求人の主張の排斥 2 法令解釈の出所 上記1(3)の法令解釈は、前半は東京地裁平成21年11月13日判決(TAINSコード:Z777-2143)を、後半は大阪国税不服審判所平成16年11月18日裁決を参考に組み立てられているようである。 本件に限らず、延滞税の処分の取消しを求める審査請求事件が稀に発生するが、延滞税は時の経過と法定納期限までに完納されていないという事実に基づいて、特別の手続を要することなく法律上当然に発生するものであるから、延滞税を通知する行為は、その賦課決定でもなく納税の請求手続でもなく、単にその納付義務が存在する旨の観念の通知にすぎず、これを行政処分に当たるということはできないものとされている(福岡地裁平成5年10月28日判決(TAINSコード:Z199-7215)など)。 したがって、延滞税の処分の取消しを求める審査請求事件については、処分の不存在として却下(いわゆる門前払い)になる可能性が高い。 なお、本稿において取り上げた裁決に係る審査請求事件は、督促処分という不利益処分の取消しを求めており、却下ではなく棄却(実質審理を経て原処分を取り消す理由はないと判断された)となったようである。 (了)
〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第34回】 「令和6年度税制改正大綱を受けて行われた 消費税経理通達等の改正の概要とポイント」 税理士 石川 幸恵 【Q】 令和5年12月27日付けで、国税庁より「『消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて』等の一部改正について(法令解釈通達)」等が公表されました。改正の概要と実務におけるポイントを教えてください。 〔ポイント〕 (1) 今般の「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」(以下「消費税経理通達」といいます)等の一部改正は、令和6年度税制改正大綱(令和5年12月22日閣議決定)を受けて行われたものです。消費税経理通達関係Q&A(令和3年2月)の改訂版も併せて公表されました。 (2) 税抜経理方式で経理した場合、適格請求書等の交付を受けていない課税仕入れは税務上、仮払消費税等の額はないことになります(28年改正法附則52、53によるいわゆる8割・5割控除の経過措置期間中は仕入税額相当額の8割、5割を仮払消費税等の額とします)が、消費税経理通達の改正で、簡易課税又はいわゆる2割特例(28年改正法附則51の2①)の適用を受ける事業者(以下「簡易課税制度適用者等」といいます)は、適格請求書等の交付を受けていない課税仕入れについても支払対価の額の110分の10(軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には108分の8)を仮払消費税等の額とする処理が認められることを明確にしています。 (3) 消費税経理通達関係Q&Aでは簡易課税制度適用者等が免税事業者から取得した建物について支払対価の額の110分の10を仮払消費税等の額として経理した場合の法人税法における損金経理に言及しており、注目すべきポイントと考えられます。 * * * 【A】 (1) 改正の背景 ① 税抜経理方式の税務上の取扱い 適格請求書等の交付を受けていない課税仕入れについては、税務上、次の仕訳例のように取り扱う必要があります。 (例) 適格請求書発行事業者以外の者に税込み110,000円(標準税率適用)の材料代を支払った場合の仕訳(8割控除の経過措置あり) ② 簡易課税制度適用者等の事務処理負担 簡易課税制度適用者等は仕入税額控除額の計算にあたり、適格請求書等の交付を受けたか否かを区分する必要がありません。しかしながら、税抜経理方式を適用する場合には、上記①のような処理をするために適格請求書等の確認が必要となり、事務処理負担が増加してしまいます。そのため、令和6年度税制改正大綱で経理処理の見直しに言及していました。 なお、令和6年度税制改正大綱での見直しについては下記拙稿もご参照ください。 (2) 改正の概要 ① 簡易課税制度適用者等の事務処理に関する負担軽減措置 簡易課税制度適用者等で税抜経理方式により経理している事業者は、継続適用を条件として、すべての課税仕入れについて課税仕入れに係る支払対価の額に110分の10(軽減税率の対象となるものは108分の8)を乗じて算出した金額を仮払消費税等の額とする経理処理も認められるとされました(消費税経理通達1の2、消費税経理通達関係Q&A問1-2)。 ② 税込経理方式への変更も可 上記の負担軽減措置を講じてもなお税抜経理方式には一定の事務処理負担が発生すると考えられることから、簡易課税制度適用者等がインボイス制度導入を契機として税込経理方式に変更することは法人税法上、特に問題とならないとしています(消費税経理通達関係Q&A問1-2)。 ③ 8割控除・5割控除の経過措置の適用を受ける課税仕入れの経理処理に関し、すべての事業者に対する負担軽減措置 8割控除、5割控除の経過措置は令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に2段階に分けて切り替わります。しかしながら、段階的にシステム改修を行うことの事務負担に配慮する観点から、経過措置期間終了後の原則となる取扱いを先取りして、適格請求書等の交付を受けていない課税仕入れにつき仮払消費税等の額と取引の対価の額を区分しないで経理(下記仕訳例)したときは、仮払消費税等の額はないものとして法人税の所得金額の計算を行うことも認められるとされました(経過的取扱い(3))。 (例) 適格請求書発行事業者以外の者に税込み110,000円(標準税率適用)の材料代を支払った場合の仕訳(経過的取扱い(3)による場合) 実務上の注意点として、8割控除・5割控除の経過措置を受けるためには帳簿の記載が必要(インボイスQ&A問113)ですから、課税対象外取引と同様に取り扱うことはできません。また、申告書に経過措置の対象額を計上するため、集計できるようにしておく必要があります。 (3) 法人税での取扱い 法人税の課税所得金額の計算上、次のような影響があります。 ① 簡易課税制度適用者等と原則課税の適用を受ける事業者の違い 11,000,000円の建物を取得し(消費税経理通達関係Q&A問3)、次のような仕訳をした場合、簡易課税制度適用者等は税務上、この仕訳も認められます。 この仕訳が認められるか否かの大きな違いは取得価額の扱いです。原則課税適用者が上記の仕訳をした場合には法人税法上、別表調整が必要となります。 課税売上割合が80%未満となり、控除対象外消費税額等の損金算入限度額の計算が必要な場合も仮払消費税等の額として経理した金額に基づいて損金算入限度額を計算(法令139の4③、④)することができます(消費税経理通達関係Q&A問5。問5は上記と異なる金額で解説しています)。 ② 8割・5割控除の経過措置期間中に免税事業者からの課税仕入れにつき仮払消費税等の額を区分しない場合 原則課税適用者か簡易課税制度適用者等かに関係なく、経過措置の適用期間であっても仮払消費税等の額を区分せず上記のような仕訳を行い、13,200,000円を取得価額として減価償却費を計算することも認められます。この場合、別表調整は不要です(消費税経理通達関係Q&A問10) (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第38回】 「債務免除を受けた場合のみなし贈与の計算上の留意点」 税理士 柴田 健次 Q A株式会社の取締役である甲はA社に対して50,000千円の貸付金がありますが、令和5年10月5日に全額債権放棄を行いました。A社の株主は甲の甥である乙のみで発行済株式数200株を所有しています。債務免除を受けたことによりA社は債務免除益として法人税等が課税され、A社株主である乙には、甲から乙に贈与があったものとして贈与税が課税されることになると思いますが、実際の贈与税の計算はどのように行うのでしょうか。 A社の会社の規模区分は中会社の大に該当し、A社は特定の評価会社には該当しません。また、A社は9月決算であり、9月末時点と債務免除を受けた10月5日時点において甲のA社に対する貸付金に変動はないものとします。純資産価額の計算においては、直前期末方式(直前期末の資産及び負債の帳簿価額に基づき評価する方式)により計算するものとします。 債務免除前の令和5年10月5日時点における取引相場のない株式(出資)の評価明細書の第4表「類似業種比準価額等の計算明細書」及び第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」は、それぞれ下記の通りとなります。 ※画像をクリックすると別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると別ページでPDFが開きます。 債務免除前におけるA社株式の1株当たりの価額及び乙が所有している株式の価額は、下記の通りとなります。 A 乙は甲から10,098,000円(※)の贈与を受けたものとして、2,349,200円の贈与税が課税されることになります。 (※) 贈与税の課税価格の計算 ◆ ◆ ◆ ① 債権放棄を行った場合の課税関係 (1) 法人の課税関係 債権放棄を行ったことにより法人は債務免除を受けたことになりますので、債権放棄を受けた金額が債務免除益として益金に算入されることになります(法法22②)。本問の場合には、債務免除益50,000千円に対して法人税等が課税されることになります。 (2) 法人株主の課税関係 法人株主は、法人が債務免除を受けたことにより株式の価値が増加しますので、その価値増加部分について債権放棄をした者からその株主に対して贈与税が課税されることになります(相法9、相基通9-2)。本問の場合には、甲から乙に対して贈与がされたものとされ、贈与税が課税されます。 ② 贈与税の計算 乙は直接甲から利益を受けたわけではなく、A社が債務免除を受けたことに伴い乙が所有していた株式の価値が増加したに過ぎません。したがって、贈与を受けた金額は、債務免除益50,000千円ではなく、債務免除後の乙所有のA社株式の相続税評価額と債務免除前の乙所有のA社株式の相続税評価額の差額となります。あくまでも贈与税課税の計算となりますので、相続税評価額を基に計算することになります。なお、課税時期は債務の免除があった時となります。 債務免除後のA社株式の相続税評価額の計算は、下記の点に留意する必要があります。 実際の債務免除後における取引相場のない株式(出資)の評価明細書第4表「類似業種比準価額等の計算明細書」及び第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」は、それぞれ下記の通りとなります。 ※画像をクリックすると別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると別ページでPDFが開きます。 ☆実務上のポイント☆ 債権放棄を行う場合には、法人税等の影響及び株主の贈与税の影響を考慮して債権放棄の金額を決定する必要があります。なお、債務免除後において株式の価額が0円である場合には、贈与税の課税問題は発生しませんので、法人税等の影響のみを考えることになります。 (了)
〈徹底分析〉 租税回避事案の最新傾向 【第16回】 「制度濫用論への対応」 公認会計士 佐藤 信祐 18 制度濫用論への対応 (1) 概要 【第15回】で解説したように、ヤフー事件に係る調査官解説では、以下の点を考慮しながら、包括的租税回避防止規定の適用を判断すべきであるとされている。 そして、上記④については、事業目的があればよいというわけではなく、事業目的が税負担の減少目的に比べて同等以上である必要があるとされている。さらに、上記③についても、行為計算の不自然さ、不合理さの程度が問題となるのであり、わずかな不自然さ、不合理さを理由に、包括的租税回避防止規定を適用することはできない。 例えば、P社の100%子会社であるA社が10か所のホテルを保有している場合において、当該A社をM&Aの対象にしようとしたところ、3つのホテルのみが欲しいという話になったときに、通常の感覚であれば、当該3つのホテルを事業譲渡又は分割により買収会社に移転するようにも思われる。しかしながら、P社の中では、A社を譲渡するという話ですでに動いてしまっているとすると、7つのホテルをP社又はそのグループ会社に移転したうえで、A社株式を譲渡するという話になってしまうことは、不自然であるとも、事業目的がないともいい難い。その結果、P社においてA社株式譲渡損が認識できたり、A社が保有する繰越欠損金を買収会社又はそのグループ会社に適格合併で引き継いだりと、税負担が減少するようなことがあっても、それだけの理由で租税回避とすることはできず、補強的な根拠が必要になってくる。 (2) 税負担減少の意図 税務調査において、税負担減少の意図を探るために、メールの履歴を確認したり、関係者に質問をしたりすることが増えている。【第1回】で解説したように、ヤフー事件の調査官解説では、「組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであること(租税回避の意図)」とされていることから、税負担が減少することを知っていたとか、事業目的が主目的であったとはいえ税負担減少をも意図していたという程度では、税負担減少の意図があったとまではいえない。 しかしながら、税務調査で示された「論点整理表」において、税負担減少の意図があったことの証拠として、税理士に相談をしながらストラクチャーを検討していたとか、社長や経理担当者が頻繁に打ち合わせに参加していたといったことまで記載されていたという話を聞いたことがある。また、税務訴訟における国側の主張を見てみても、納税者が税負担を減少させるために組織再編成を行ったという心証を裁判官に与えるための訴訟戦術としか思えない主張が少なくなく、租税回避かどうかという本質的な議論からは外れているように思われる。 こうなってくると、税負担減少の意図があったことを税務調査及び税務訴訟において否定することは困難ないしは不可能であるといわざるを得ない。そうなると、事業目的及び経済合理性があったということを主張することで、租税回避目的ではないと主張すべきであるようにも思われるが、後述するように、水掛け論に陥りやすいという問題がある。 (3) 事業目的と経済合理性 前述のように、事業目的があればよいというわけではなく、税負担の減少目的といずれが上位にあるのかが重要になる。そして、不自然かどうか、不合理であるかどうかは、その程度が問題となる。 例えば、PGM事件に係る国税不服審判所では、事業目的と税負担の減少目的のいずれが上位であるかを検討しているように思われる。そのため、本来であれば、納税者の立場としても、税務調査において主張しやすいはずである。しかし、事業目的が全くない組織再編成というのは珍しいことから、水掛け論に陥りやすい要素があるという問題がある。 そして、PGM事件に係る国税不服審判所において、原処分庁が「適格合併において通常想定されている事業の移転・継続という実態を備えておらず、適格合併において通常想定されていない手順や方法に基づくもので、かつ、実態とはかい離した形式を作出するものであり、不自然なものといえる。」という主張をしているように、制度趣旨に反するかどうかという点と経済合理性があるかどうかという点が混在しているようにも思える。この点については、制度濫用論に基づくと、制度趣旨を拠り所にしたうえで、経済合理性の判断をすべきであるため、この主張そのものに問題はない。しかしながら、言うまでもないことであるが、事業上、経済合理性のある行為を行った結果として制度趣旨に反する形で法人税の負担が減少してしまうことは十分に考えられるが、これは制度に欠陥があっただけの話であり、それを理由に租税回避と認定すべきではない。すなわち、事業上の経済合理性が十分に認められる限りにおいては、①行為・計算の不自然性が認められないと判断するか、②制度趣旨に反する結果となったことについての合理的な理由となる事業目的が十分に存在すると判断することにより、包括的租税回避防止規定の射程から除外すべきであると考えられる。 さらに、原処分庁は、平成15年度税制改正で正面から認めたはずの二段階組織再編成を不自然であると主張しているのだから、平成15年度税制改正が想定していた組織再編成の内容について主張する必要があるにもかかわらず、そのような主張がなされていない。すなわち、不自然さ、不合理さについての原処分庁の主張は、やや不十分であるという印象を受ける。 いずれにしても、事業目的と税負担の減少目的のいずれが上位にあるのか、看過できないほどの不自然・不合理な取引が行われているのかという点については、明確な答えが出せるものではないという問題がある。もちろん、税務調査において、これらを主張できるようにしておくことは有用であるが、課税当局との議論が嚙み合わないリスクを常に想定しておく必要があると考えられる。 (4) 制度趣旨の理解 そうなると、制度趣旨に反しない取引であることを主張することで、包括的租税回避防止規定が適用されるリスクを軽減すべきであると考えられる。例えば、疑似DESを行った場合には、DESを行った場合と異なり債務消滅益課税が発生しないとされている。それでは、これが不自然、不合理な取引なのかといえば、一般的に行われている手法であることから、不自然、不合理とすべきではないが、金銭の払込みを行わないDESのほうが簡便な手法であるとして、包括的租税回避防止規定(法法132の2)や同族会社等の行為又は計算の否認(法法132)の適用を検討する税務調査官がいるのかもしれない。 この点については、新株予約権を発行する場合において、その新株予約権と引換えに払い込まれる金銭の額がその新株予約権のその発行の時の価額に満たないときは、その満たない部分の金額に相当する金額は、発行法人の課税所得の計算上、損金の額に算入されないこととされており、新株予約権の発行の時の価額を超えるときは、益金の額に算入されないこととされている(法法54の2⑤)。法人税法上、発行法人において、新株予約権を負債として取り扱うことから、あえてこのような規定が設けられているが、この規定が設けられた趣旨として、「すなわち、新株予約権を利用した取引は従前より資本等取引に類似した取引と考えられていましたが、発行の場面においては資本等取引と同様に発行法人側に損金及び益金が生じないことを処理面から明確にしたものです。なお、この規定は、新株予約権者の取扱いに何ら影響を与えるものではありません。」(※57)と解説されている。 (※57) 『平成18年版改正税法のすべて』349頁(大蔵財務協会、平成18年)。 すなわち、資本等取引の類似取引である新株予約権の発行において、時価と異なる価額であったとしても、損金の額及び益金の額に算入しないと考えられているのであるから、株式の発行においては、時価を超える金銭の払込みであっても資本等取引と考えることにより、受贈益を課すべきではないと主張することができる。他の取引との組み合わせにより制度趣旨に反する取引を行ったという証拠がない限り、包括的租税回避防止規定や同族会社等の行為又は計算の否認の適用は困難であると考えられる。 このように、事業目的や経済合理性を検討するまでもなく、制度趣旨に合致していれば、包括的租税回避防止規定と同族会社等の行為又は計算の否認の適用は困難であるため、水掛け論に陥りやすい事業目的や経済合理性の議論よりも税務調査において主張しやすいように思われる。ただし、組織再編税制に係る制度趣旨の全部が明確に示されているわけでもないという問題もあるため、そのような場合には、事業目的が税負担の減少目的よりも上位にあること、経済合理性のある取引であることをそれぞれ主張できるようにしておくことで対応せざるを得ない。 (5) 小括 このように、税務調査では、事業目的や経済合理性を主張することも重要であるが、制度趣旨に反しないことを主張することも重要である。ただし、制度趣旨については、必ずしも明らかではないという問題があり、例えば、TPR事件では完全支配関係内の合併であっても事業単位の移転が必要だという判示がされ、そのような趣旨は明確に示されていなかったとして多くの批判があった。さらに、【第15回】で解説したように、大阪国税不服審判所裁決令和4年8月19日判例集未登載では、「例えば、適格合併が企業グループ内の法人の有する未処理欠損金額の企業グループ内の他の法人への付替えと同視できるものであるなど適格合併の場合に未処理欠損金額の引継ぎを認めることとした前提を欠くような場合にまで、未処理欠損金額の引継ぎを認めることを想定した規定ではない」と判示したことからも、TPR事件で示された制度趣旨に誤りがあった可能性があり、そうなると、税務調査において、どのように制度趣旨を主張すればよいのかという点が問題になる。 さらに、大阪国税不服審判所裁決令和4年8月19日では、「企業グループ内の他の法人への付替え」を認める趣旨ではないと判示したという問題がある。もちろん、他の法人への繰越欠損金の付替えを認めるべきではないことから、この判示を否定するつもりはないが、「○○を認める趣旨ではない」という主張は、フィーリングによる制度趣旨の創出に繋がりかねないことから、あまり望ましいものではないと思われる。 例えば、【第6回】で解説したように、適格分社型分割により二重に損失を計上することが可能になっているという点を利用した租税回避が想定され得るが、そもそも完全支配関係継続要件は二重の損失計上を防ぐための規定ではないことから、移転資産に対する支配が継続しているにもかかわらず、「二重の損失計上を認める趣旨ではない」という主張により包括的租税回避防止規定の適用を検討すべきではない。仮にそのような主張が認められたとしても、適格分社型分割の時点では二重に含み損を創出しただけであり、分割承継法人株式に係る含み損を実現させる意図はあったものの、分割承継法人に移転した資産に係る含み損を実現させる意図がなく、数年後の後発事象により分割承継法人に移転した資産に係る含み損も実現してしまっていた場合には、適格分社型分割の時点では、二重の損失を利用する意図はなかったのだから、それを根拠として包括的租税回避防止規定を適用すべきではないと考えられる。 このように、必ずしも制度趣旨が明らかではなく、課税当局との間で見解の相違が生じかねない場合には、補強的に事業目的や経済合理性を明確にしておく必要があると考えられる。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第150回】 「2023年における調査委員会設置状況」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 本連載では、個別の会計不正に関する調査報告書について、その内容を検討することを主眼としているが、本稿では、「第三者委員会ドットコム」が公開している情報をもとに、各社の適時開示情報を参照しながら、2023年において設置が公表された調査委員会について、調査の対象となった不正・不祥事を分類するとともに、調査委員会の構成、調査報告書の内容などを概観し、その特徴を検討したい。 第三者委員会ドットコムが公開しているデータを集計したところ、2023年において、調査委員会の設置を公表した会社は71社であり、2021年の61社、2022年の57社を大きく上回っている。71社のうち、複数の調査委員会設置を公表した会社が以下のとおり6社あったため、設置が公表された調査委員会の数は78となる。 これらの6社については、会社数としてはそれぞれ「1社」とカウントする一方、委員会の構成については委員会ごとに、不正・不祥事の分類はその区分ごとに集計しているため、一部、合計数が合わないことをお断りしておく。 設置が公表された78の調査委員会のうち14の委員会は、本稿執筆時点において、まだ調査報告書(その概要を含む)を公表していない。このうち5つの調査委員会については、設置そのものが12月であり、まだ調査が終わっていないと考えられる。なお、2022年については、本連載【第136回】執筆時点で15の委員会が報告書を公表していなかったが、2023年においてそのうち8委員会が報告書を公表している。 【市場別分類】 市場別分類では、東証プライム上場会社が41社と全体の約58%を占めた(複数市場に上場している会社は東証の市場区分に含めている)。上場会社数は2023年12月31日現在。 東京証券取引所以外では、TOKYO PRO Marketに上場している株式会社エージェント及び札幌証券取引所に上場している日糧製パン株式会社、非上場のダイハツ工業株式会社が調査委員会の設置と調査報告書を公表している。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 【会計監査人別分類】 会計監査人別の分類では、いわゆる大手4大監査法人の監査を受けていた会社が47社、中堅以下の監査法人の監査を受けていた会社が24社となり、ここ数年増加していた中堅以下の監査法人のクライアントの比率が、2023年では大きく下がっている。なお、12月1日付で、PwCあらた有限責任監査法人とPwC京都監査法人とが合併して、PwC Japan有限責任監査法人として業務を開始しているため、PwC京都監査法人が会計監査を担当していた4社は、大手4大監査法人に含めている。 大手4大監査法人のなかでは、EY新日本有限責任監査法人のクライアントで調査委員会の設置を公表した会社が19社と最も多く、有限責任監査法人トーマツのクライアントが10社、有限責任あずさ監査法人とPwC Japan有限責任監査法人のクライアントがそれぞれ9社となっている。 なお、中堅以下の監査法人で複数のクライアントが調査委員会を設置したのは、太陽有限責任監査法人が4社で最も多く、仰星監査法人、BDO三優監査法人及び霞友有限責任監査法人が各2社となっている。 【調査委員会の構成による分類】 一部、委員名を非公表としている委員会を含めた調査委員会の構成ごとの分類では、日本弁護士連合会が2010年に公表した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に準拠していると明言している調査委員会及び明言はしないまでもその趣旨に沿って外部の委員を選定していると認められる調査委員会は42あり、過半数を上回っている。 また、2018年から続いていた、調査委員会の構成や委員名について、非公表とする傾向については、2023年も7社が「非公表」としており、このうち4社は、調査報告書も公表していない。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 【調査委員会を設置することとなった不正・不祥事の分類】 調査対象となった不祥事別にこれを分類すると次表のとおりとなる。なお、分類上、経営者や従業員の不正であっても、決算修正等、公表している決算報告書に影響を及ぼす可能性のあるものについては、「会計不正」としている。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 【会計不正の態様】 次いで、「会計不正」に分類された50件について、それぞれの不正の態様を見ておきたい。 上記表では、「会計不正」を対象とした調査委員会の数は50となっているが、1つの事案で複数の委員会を設置した重複分を控除した結果、「会計不正」と分類できる内容で設置された調査委員会は49となる(赤字は本連載で取り上げた報告書)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2023年12月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年12月1日から12月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 新会計基準関係 企業会計基準委員会は次のものを公表し、意見募集を行っている。 これは、改正後の金融商品取引法上、半期報告書において中間連結財務諸表又は中間個別財務諸表が開示されることから、会計基準等を開発するものである(意見募集期間は2024年1月19日まで)。 〇 企業会計基準公開草案第80号「中間財務諸表に関する会計基準(案)」等の公表 Ⅲ 企業内容等開示関係 次のものが公布・公表されている。 ① 「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正(案)の公表について(内容:有価証券届出書における個人情報の記載の見直しを行うもの。意見募集期間は2024年1月9日まで) ② 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等の公表について(内容:「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」(実務対応報告第45号)及び「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正」(企業会計基準第32号)を受けたもの。意見募集期間は2024年1月9日まで) ③ 「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第81号)(内容:有価証券報告書、有価証券届出書及び臨時報告書における「重要な契約」の開示について改正するもの) ④ 「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」の改正(内容:株式報酬として交付される株式が譲渡制限付である場合に、有価証券届出書の提出を不要とする特例に関して、取締役等の死亡などの事由の取扱いについて明確化を図るもの) Ⅳ 四半期決算関係 次のものが公表されている。 ① 令和5年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表について(内容:「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(法律第79号)により、四半期報告書制度が廃止となることから、関係政令・内閣府令等を改正するもの。意見募集期間は2024年1月9日まで。金融庁) ② 企業会計基準公開草案第80号「中間財務諸表に関する会計基準(案)」等の公表(内容:改正後の金融商品取引法上、半期報告書において中間連結財務諸表又は中間個別財務諸表が開示されることから、会計基準等を開発するもの。意見募集期間は2024年1月19日まで。企業会計基準委員会) ③ 金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直しに関する上場制度の見直し等について(内容:改正後の金融商品取引法上、四半期報告書(第1・第3四半期)が四半期決算短信に「一本化」されることから、四半期決算短信の取扱いについて見直すもの。意見募集期間は2024年1月17日まで。東京証券取引所) ④ 「四半期レビュー基準の期中レビュー基準への改訂及び監査に関する品質管理基準の改訂について(公開草案)」の公表について(内容:改正後の金融商品取引法に対応し、四半期開示の見直しに伴う監査人のレビューに係る必要な対応を行うもの。意見募集期間は2024年1月24日まで。企業会計審議会監査部会) ⑤ 「四半期レビュー基準報告書第1号「四半期レビュー」の改正及び期中レビュー基準報告書「独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビュー」」(公開草案)の公表について(内容:「四半期レビュー基準の期中レビュー基準への改訂及び監査に関する品質管理基準の改訂について(公開草案)」(企業会計審議会監査部会)を受けたもの。意見募集期間は2024年1月22日まで。日本公認会計士協会) Ⅴ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」に伴う監査基準報告書等の改正(公開草案)の公表について(内容:監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」(2023年1月12日改正)に伴って、監査基準報告書580「経営者確認書」などを改正するもの。意見募集期間は2024年1月22日まで) Ⅵ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「有価証券報告書の作成プロセスに対する監査役等の関与について-実態調査に基づく現状把握と事例紹介-」(内容:有価証券報告書の作成プロセスに対する監査役等の関与に関して、監査役等としての対応を検討する上でのポイントについて述べたもの) ② 改定版「会計監査人の評価及び選定基準策定に関する監査役等の実務指針」(内容:「監査に関する品質管理基準」の改訂、監査上の主要な検討事項(KAM)の導入、倫理規則の改訂などへの対応。日本監査役協会 会計委員会) (了)
〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第2回】 「支援者側からみた後見・保佐・補助の違い」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 法定後見制度の類型として、後見、保佐、補助の3種類があることは知っていますが、成年後見人等の支援者の立場からはどのような違いがあるのでしょうか。 【A】 ご本人の意思能力の程度に応じて、法定後見制度は、後見、保佐、補助の類型に分けられます。 どの類型を利用するかは本人の状況や医師の診断等を参考にして判断していくことになります。成年後見人等として本人をサポートしていく立場からは、各類型で仕事の内容が異なる点があるため、引き受けるにあたってはイメージを掴んでおくことが必要です。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 成年後見人、保佐人、補助人等はいずれも意思能力の関係でサポートを必要としている人を支援する立場にあり、報道記事などで制度が紹介される場合には一括りにして解説がされがちですが、役割がそれぞれ異なります。また補助の類型が適用される方が、後見の類型が適用される方と比較して、意思能力が残っているからといって、「補助人の仕事が成年後見人よりも簡単」というわけでもありません。筆者の個人的な印象ですが、保佐人や補助人の仕事の方が、成年後見人の仕事よりも実務経験が必要であると感じています。 実際に就任をしてから「イメージしていた仕事と違った」とならないためにも、それぞれの仕事内容をある程度理解しておく必要があります。 1 成年後見人の職務、権限 成年後見人の職務は、本人の財産管理と身上保護です。成年後見人には、本人が意思能力を欠いている関係上、広い代理権が認められています。財産管理の職務としては、本人の預貯金等を成年後見人の管理下に移し、収入の受領や、生活費や医療費などの必要な支出を行います。身上保護の職務としては、本人が必要とする介護サービスに関する契約や施設入所等のために必要な契約を成年後見人が行うことになります。多額の財産を預かることもあるためその意味では責任が重いと言えますが、本人の財産を成年後見人の手元において管理することができるため収支の把握がしやすく、不必要な契約があれば成年後見人において終了させるなど、本人のための活動が機動的にできるという面もあります。 2 保佐人の職務、権限 保佐人は、本人が以下のような一定の重要な契約等を行う場合に、同意権、取消権を行使して本人に不利益が生じないようにしていくことが基本的な職務です(民法13条1項)。 【同意が必要な行為(民法13条1項)】 本人が保佐人の同意を得ずにこれらの行為を行った場合、保佐人としては取消をしたり、追認をしたりすることができます。なお、保佐人の同意が必要となる行為は、家庭裁判所に申立てることにより追加することができます。 このほか、必要と認めるときは、一定の行為(預貯金の解約、不動産の売却など)について代理権の付与を家庭裁判所に求めることで、代理人として本人に代わって契約等を結ぶことができます。ただし、代理権の付与には本人の同意が必要となります。 3 補助人の職務、権限 補助人は、2の【同意が必要な行為(民法13条1項)】に定める事項のうちから、家庭裁判所に認められたものについて、同意権、取消権を行使して、本人のサポートを行っていくことが基本的な職務です。同意権の付与には補助人の同意が必要になります。また保佐人と同様に、補助人も一定の事項について代理権の付与を家庭裁判所に求めることができますが、これにも本人の同意が必要になります。 成年後見人と比較すると、保佐人、補助人には権限の範囲に制限があったり、本人の意向をより細かく確認する必要が生じたりするところがあります(成年後見人は本人の意向を無視してよいというわけではありません)。支援者としては、本人の意向を尊重したいという気持ちがありつつも、客観的にみて本人の行動や意向が適切とは思えず悩んでしまうことも多いようです。こうした職務の違いを踏まえつつ、本人との関係性を考慮して、成年後見人等として職務を引き受けるのかを検討していくとよいでしょう。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第76話】 「質問応答記録書」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 浅田調査官は、1枚の紙を見ながら、ブツブツと呟いている。 「なかなか・・・書くのは難しいなあ・・・」 その紙には、「質問応答記録書」と表題が書かれている。 回答者の「住所」「氏名」そして「生年月日、年齢」が並び、その下に「本職は、令和5年12月5日、大阪府大阪市中央区○丁目○番地において、上記の回答者から、任意に次のとおり回答を得た」と記載されている。 そして、以下「質問応答の要旨」が問答形式で続いている。 「・・・何を悩んでいるの?」 いつの間にか、傍らに中尾統括官が立っている。 「・・・質問応答記録書の記載なんですが・・・」 浅田調査官は、頭をかきながら答える。 「・・・質問応答記録書か・・・」 中尾統括官が呟く。 「・・・これって、税務の雑誌などで法的な根拠がないといわれているのですが・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「そうだ、刑事訴訟法198条に基づく『供述調書』と違って、質問応答記録書には法律的な根拠はない・・・」 中尾統括官は、あっさりと答える。 「・・・もっとも、質問応答記録書については、供述調書をモデルにして、国税庁がマニュアル(手引書)を作成している・・・君も持っているだろう」 中尾統括官は、浅田調査官の机の上に置かれている国税庁の職員向けのマニュアルを見る。 「この質問応答記録書を作成する目的は何なのですか?」 浅田調査官が尋ねる。 「・・・それは・・・税務署が納税者と争いになったときに備えて、事前に、証拠を確保する狙いで作成するんだろう・・・もし、争いが生じなければそれを使う必要はない・・・もっとも、税務署内で調査の決済を受けるときに、質問応答記録書があれば、上司を説得しやすいし、決裁もスムーズにいくだろう」 中尾統括官は、ニヤリと笑う。 「ところで、浅田君は、この納税者に対して、重加算税を課そうと考えているの?」 中尾統括官が問う。 「ええ、納税者も重加算税を課されることについて、納得しているようなのですが・・・とりあえず質問応答記録書を作成しておこうと思って・・・」 浅田調査官が答える。 「・・・重加算税の課税要件は、『隠蔽・仮装』ですから・・・それを文章としてどのように記載(表現)するのか・・・なかなか・・・分からなくて・・・」 浅田調査官は、困った顔をする。 「・・・具体的に、何に対して重加算税を課そうとしているの?」 中尾統括官が、再び、尋ねる。 「ええ、棚卸資産の金額なのです・・・当初、納税者は、棚卸資産を集計するときに、桁を間違えたと言っていたのです」 浅田調査官が調査の内容を説明する。 「それじゃ、重加算税は課せられないだろう」 中尾統括官は、憮然と言う。 「はい、しかし、机の中から、もう1枚の集計表を発見し・・・そこには、棚卸資産の合計金額が正しく記載されていたのです・・・したがって、正しい棚卸資産の集計金額を把握しておきながら、それを隠して、記載せずに、過少の金額を申告したのです・・・これについては、納税者も素直に認めています」 浅田調査官の説明を聞きながら、中尾統括官は大きく頷く。 「なるほど・・・そうであれば、当然、重加算税を課せるだろう・・・」 中尾統括官は、満足そうな顔をする。 「棚卸資産の計上漏れで、利益操作をするのは、よく使われる手だが、それに対して、重加算税を課すのはなかなか難しい」 昔、中尾統括官が調査官のときに、調査で、棚卸資産の計上漏れを発見したが、納税者は「たまたま、棚卸資産を集計するときに、老眼鏡をかけずに計算したので、桁を間違えてしまった」と答え、「故意に棚卸資産の金額を過少にしたものではない」と反論されたことがある。 中尾統括官は、納税者の言動から、故意に過少申告をしたと確信していたのであるが、結局、「隠蔽・仮装」の立証をすることができなかったという苦い経験を思い出す。 「・・・調査官が、調査の過程で、何とか重加算税をかけたいという気持ちになると、単純なミスについて、あたかも隠蔽・仮装があったかのように質問応答記録書を使って証拠(エビデンス)を捏造しようとするというケースもあると聞いている・・・しかし、浅田君のケースでは、納税者の作成した正しい棚卸資産の集計表を発見している・・・そして、納税者もそれを認めているのだから・・・質問応答記録書には、『隠蔽仮装によって、棚卸資産を過少に計上しました』・・・とハッキリ書いたらいいんじゃない」 中尾統括官は、ハッキリと言う。 「・・・そして、納税者がその文言に修正を求めたときには、そのとき記載内容を検討したらよいのでは・・・」 中尾統括官は、浅田調査官を見る。 「ええ、ところが、この納税者に、顧問税理士がいまして、この税理士は、何故か、質問応答記録書に対して、ひどく拒否反応を示しているのです」 浅田調査官が言う。 「そうか・・・その場合には、マニュアルでは、『その拒否する理由を確認せよ』となっているが、そういう税理士は、一般的に、法的根拠がないのだから、それに署名・押印をする義務はないし、まして、罰則もない、なんて答えるのだろうな」 中尾統括官は、腕を組んで、天井を見上げる。 「とりあえず、質問応答記録書に署名・押印するように説得を試みなければならないとマニュアルには書いてあるが・・・それでも納税者が署名・押印しなければ、その理由などを記載して、署名・押印の欄は空欄にしておくことになる」 中尾統括官は、マニュアルを見ながら、続けて言う。 「・・・マニュアルでは・・・『署名・押印を強要することはもとより、そのような疑義を生じさせる言動をしないよう留意する』・・・と記載されている・・・したがって、無理強いは駄目だということだ・・・特に、仕事熱心な調査官は、ついつい無理強いをしてしまうケースがあるから・・・」 中尾統括官は、苦笑する。 「もともと、質問応答記録書には、法律上の存在根拠がなく、したがって、署名・押印も任意だから、納税者から拒否されても仕方がないのですね」 そう言いながら、浅田調査官は、頷く。 (つづく)
《速報解説》 金融庁が令和6年能登半島地震に係る有報等の提出期限の取扱いを公表 ~実務上の支障が生じている場合、財務(支)局への相談を推奨~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024(令和6)年1月5日、金融庁は、「令和6年能登半島地震に関連する有価証券報告書等の提出期限について」を公表した。 これは、令和6年能登半島地震の発生に伴う対応である。 その後、2024(令和6)年1月12日に、後述するように、追加の措置が公表された。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 金融庁の公表 次のことについて記載している。 ご質問などについては、遠慮なく所管の財務(支)局までご連絡していただきたいとのことである。 Ⅲ 金融庁の追加の措置の公表 2024(令和6)年1月11日、「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」に基づく「令和六年能登半島地震による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」が公布された。 同政令により、特別措置として、今般の地震の影響により、有価証券報告書及び内部統制報告書、四半期報告書等の金融商品取引法に基づく開示書類を本来の提出期限までに提出することができなかった場合であっても、2024(令和6)年4月30日までに提出すれば、行政上及び刑事上の責任を問われないこととなるとのことである。 次のことについても記載している。 * * * なお、国税庁からは2024(令和6)年1月9日付で「令和6年能登半島地震に係る国税の申告・納付等の期限の延長について」が公表されている。 (了)
《速報解説》 国税庁、令和6年能登半島地震を受け 国税の申告・納付期限延長を決定 ~対象は石川県及び富山県に納税地のある個人・法人~ Profession Journal編集部 令和6年2月16日(金)から3月15日(金)までとなる令和5年分の所得税の確定申告受付時期が近づくなか、国税庁は1月9日付けで、1月1日に発生した令和6年能登半島地震を受け、国税通則法第11条に基づき、下記の通り、地域指定による国税の申告・納付等の期限延長を公表した。 なお、今般の地域指定による申告・納付等の期限の延長措置は、近日中に官報で告示される予定となっている。 (了)