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《速報解説》 会計士協会から「財務報告に係る内部統制の監査」の改正案が公表される~内部統制監査基準等の改訂及び監基報600の改正を受けての対応を反映~

《速報解説》 会計士協会から「財務報告に係る内部統制の監査」の改正案が公表される ~内部統制監査基準等の改訂及び監基報600の改正を受けての対応を反映~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年4月21日、日本公認会計士協会は「財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(2023年4月7日、企業会計審議会)及び監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」(2023年1月12日付けの改正)を受けたものである。 意見募集期間は2023年6月23日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 内部統制の基本的枠組み 1 「財務報告の信頼性」から「報告の信頼性」 意見書は、サステナビリティ等の非財務情報に係る開示の進展やCOSO報告書の改訂を踏まえ、内部統制の目的の1つである「財務報告の信頼性」を「報告の信頼性」としている。 公開草案では、内部統制報告制度の目的は、あくまで「財務報告の信頼性」であるという前提に基づいているため、特段の対応をしていない。 2 内部統制の基本的要素 公開草案では、次の対応を行っている(37項、181-2項)。 3 経営者による内部統制の無効化 公開草案では、次の対応を行っている(126-2項)。 4 内部統制に関係を有する者の役割と責任 公開草案では、特段の対応をしていない。 5 内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理 意見書では、3線モデル等が例示されているが、公開草案では、特段の対応をしていない。   Ⅲ 財務報告に係る内部統制の評価及び報告 1 経営者による内部統制の評価範囲の決定 意見書では、「売上高等のおおむね3分の2」や「売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定」について機械的に適用しないことや、評価範囲に関する監査人との協議が監査人の指導的機能の一環として行われることが記載されている。 公開草案では、次の対応を行っている(66項、74項の削除、75-3項の追加など)。 2 ITを利用した内部統制の評価 公開草案では、次の対応を行っている(143-2項、165項など)。 3 財務報告に係る内部統制の報告 公開草案では、内部統制の報告に関する改正を行っている(257項、281項)。   Ⅳ 財務報告に係る内部統制の監査 公開草案では、次の対応を行っている(56項、75項、76項)。   Ⅴ 適用時期等 2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度における内部統制監査から適用する予定である。 (了)

#阿部 光成
2023/04/25

《速報解説》 倫理規則改正等を受け、会計士協会が「監査及びレビュー等の契約書の作成例」の改正を公表~報酬関連情報開示の求めから各監査約款の「守秘義務」に関する条文を改正~

《速報解説》 倫理規則改正等を受け、 会計士協会が「監査及びレビュー等の契約書の作成例」の改正を公表 ~報酬関連情報開示の求めから各監査約款の「守秘義務」に関する条文を改正~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年3月16日付けで(ホームページ掲載日は2023年4月21日)、日本公認会計士協会は、「法規・制度委員会研究報告第1号「監査及びレビュー等の契約書の作成例」の改正」を公表した。 これは、主に2022年7月に改正された倫理規則を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 報酬関連情報の開示 倫理規則において、報酬関連情報の開示が求められることから、各監査約款における「守秘義務」に関する条文を改正している。 2 独立性に関する規定の強化 倫理規則において、非保証業務の提供に関する独立性に関する規定が強化されたことに伴い、各監査約款における「独立性の保持に関する情報提供」に関する条文を改正している。 3 「監査責任者(指定社員又は業務執行責任者)以外の主な従事者の氏名及び資格」の削除 従前までの監査(及び四半期レビュー)契約書・レビュー契約書・合意された手続業務契約書には、「監査責任者(指定社員又は業務執行責任者)以外の主な従事者の氏名及び資格」欄が記載されていた。 しかしながら、監査契約締結時においては、監査責任者以外の氏名や資格を記載する重要性は低いと考えられるため、項目ごと削除している。 4 「本業務の見積時間数」における肩書の削除 従前までの監査(及び四半期レビュー)契約書・レビュー契約書・合意された手続業務契約書における「本業務の見積時間数」には、監査責任者(指定社員又は業務執行責任者)・公認会計士・その他の肩書ごとの時間数を記載する様式としていた。 しかしながら、本条項は、監査責任者(指定社員又は業務執行責任者)・公認会計士・その他の区分で記載することを推奨するものではなく、監査チームの実情に応じた記載ができることを明確にするため、肩書ごとの記載を削除している。 (了)

#阿部 光成
2023/04/25

プロフェッションジャーナル No.516が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年4月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.516を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/04/20

日本の企業税制 【第114回】「グローバル・ミニマム課税の税効果会計上の取扱いが明らかに」

日本の企業税制 【第114回】 「グローバル・ミニマム課税の税効果会計上の取扱いが明らかに」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   2021年10月にOECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」において合意されたグローバル・ミニマム課税のルールのうち、所得合算ルール(Income Inclusion Rule:IIR)に係る法制化として、本年3月末に公布された所得税法等の一部を改正する法律において、「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」の創設が行われた。併せて、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税に係る地方法人税として、「特定基準法人税額に対する地方法人税」も創設された(概要は本連載【第112回】参照)。 今回創設されたIIRは、所得ではなく税額を課税ベースとするもののあくまでも法人税・地方法人税であることから、本来であれば、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期決算を含む)において、IIRの適用を前提とした税効果会計の適用を行う必要がある(企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第44項)。 3月決算法人が多数を占めるわが国では、今3月期決算からの税効果会計での新設されたIIRの影響を反映することは事実上極めて困難であるところ、決算作業のスケジュールとの関係で、税効果会計の適用に関する取扱いの早期の措置が求められていた。   〇日本基準での取扱い わが国の企業会計基準委員会(ASBJ)は、3月31日、実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」を公表した。 この実務対応報告の公表日以後ASBJがその適用を終了するまでの間、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期連結決算及び四半期決算を含む)における税効果会計の適用にあたっては、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととするものである。 また、グローバル・ミニマム課税制度を前提とした税効果会計については、現行の枠組みにおいて適用すべきか否かが明らかではないと考えられること、さらに、仮に税効果会計を適用する場合、グローバル・ミニマム課税制度に基づく税効果会計の会計処理については明らかではないと考えられる点があることを踏まえ、原則的な取扱いの適用を認めず、今回の特例的な取扱いを一律に適用することとしている。   〇IFRSでの取扱い この各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税は、グループの全世界での年間総収入金額が7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業グループを対象にしており、この基準に該当する日本企業の中には、IFRSを適用するものも多く含まれるものと考えられる。なお、3月末時点でのIFRS適用済の上場会社及びIFRS適用を決定した上場会社の合計は264社に上っている(時価総額約340.9兆円、全上場企業の時価総額に占める割合は45.5%)。 IASBは、本年1月9日に、IAS第12号「法人所得税」を修正して、①IIRの導入から生じる繰延税金の会計処理に対する一時的な例外を導入すること(つまりIIRの法人所得税に係る繰延税金資産及び繰延税金負債に関しては、企業は認識することも情報を開示することもしないが、企業がその例外を適用した旨を開示)、②「的を絞った開示要求」を行うこと、を内容とするIAS第12号の修正に関する公開草案が公表されていた。 ただ、「的を絞った開示要求」については、次のような内容が提案され、情報作成者としての企業側の実務負荷だけでなく、法域毎の利益・税金費用に関する情報が機密事項を含む可能性が高い点などについて各方面からの懸念が示されていた。 4月11日に開かれたIASBの会合では、IAS第12号「法人所得税」の修正を最終確定することを決定し、IIRの各法域での導入から生じる繰延税金の会計処理に対する一時的な例外を設けること(例外を適用している旨の開示が必要)が確実となった。また、懸念が示されていた開示に関しては、公開草案から見直しが行われ、第2の柱の法人所得税に対する企業のエクスポージャーを財務諸表利用者がよりよく理解するのに有益な情報として、すでに判明しているあるいは合理的に見積可能な場合には、期末におけるエクスポージャーに係る定性的又は定量的な情報の開示を要求することとされた。 このIAS第12号「法人所得税」の最終的な修正は、2023年5月末までに公表される見込みである。 (了)

#No. 516(掲載号)
#小畑 良晴
2023/04/20

〈判例評釈〉ムゲン・ADW事件が残したもの~最高裁の判示は、納税者の納得が得られるものか~ 【第1回】

〈判例評釈〉 ムゲン・ADW事件が残したもの ~最高裁の判示は、納税者の納得が得られるものか~ 【第1回】   公認会計士・税理士 霞 晴久   Ⅰ はじめに 去る3月6日、2つの居住用賃貸建物仕入税額控除事件について、最高裁が、いずれも納税者全面敗訴の判断を示したことで、新聞報道でも大きく取り上げられ、専門家の間でも判断が分かれていた問題に終止符が打たれた。 ここでいう2つの事件とはマンション販売業者である(株)ムゲンエステート(以下「ムゲン」という)及び(株)エー・ディー・ワークス(以下「ADW」という)の消費税の仕入税額控除における個別対応方式を巡る訴訟(※1)をいい、両社は、中古の賃貸用マンション等の収益不動産を購入し、適正な賃料で貸し付けて空室を可能な限り減らした上で転売するというビジネスモデルを展開していた(※2)。 (※1) ムゲンは最高裁一小判決令和5年3月6日(令和3年(行ヒ)第260号)、ADWは最高裁一小判決令和5年3月6日(令和4年(行ヒ)第10号)で、両判決の裁判官は同一である。 (※2) ADW事件第一審判決で東京地裁は、「本件ビジネスモデル下における課税仕入れ(収益不動産〔建物〕の購入)が、将来における当該収益不動産(建物)の売却(課税資産の譲渡等)のために行われるものであることは、明らかである。」としている。 当該マンション購入時の建物価額相当額の課税仕入れ(以下「本件課税仕入れ」という)に係る消費税について、両社は、同マンションを転売目的で購入していたことから、個別対応方式における「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」(消法30②一イ。以下「課税対応課税仕入れ」という)に区分されるとして確定申告していた。これに対し所轄税務署長は、同マンションの購入から転売までの期間に、非課税の賃貸収入が発生していたことから、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(同上②一ロ。以下「共通対応課税仕入れ」という)に区分されるとして更正処分等をしたことから、両社はこれを不服として訴訟を提起した。 問題の所在は、両社が採用するビジネスモデルの下では、収益不動産を転売する際に、建物だけでなく、その敷地の譲渡(土地の譲渡は非課税である)も併せて行われることにある。すなわち、転売による売上げ全体に占める建物の売上げの割合は相対的に低いものとなり、事業者が当該課税期間中に行う資産の譲渡等の対価のうちに課税資産の譲渡等が占める割合(課税売上割合)も、これに応じた低いものとなることを免れない。収益不動産の譲渡の場合、建物部分の取得に係る課税仕入れが共通対応課税仕入れに区分されると、同収益不動産の保有期間に係る賃貸収入(非課税)が非常に少ないにもかかわらず、その相当部分の仕入税額控除が認められないという事態が生じてしまう。ADWの事例では、更正処分を受けた課税期間(以下「本件課税期間」という。以下では、ムゲン事件においても同じ用語を用いる)の収益不動産の販売収入と賃料収入の総和に対する賃料収入の割合は、平均で3.71%であり、販売収入のうち建物部分を仮に3割とすると、建物の販売収入と賃料収入の総和に対する賃料収入の割合は、平均で11.38%となっていた。所轄税務署長が行った更正処分に従えば、本件課税期間の課税売上割合(会社全体)は、約34~36%となり、建物取得に係る課税仕入れが共通対応課税仕入れに用途区分されてしまうと、本来約89%が控除対象仕入税額とされるべきところ、差額の約53~55%が控除されないまま、課税の累積を招いてしまうことになる。 両事件では、転売目的で購入した居住用賃貸建物に係る課税仕入れの取扱いについては、税務当局内部においても、従前から、「課税対応課税仕入れ」を認めるような見解が存在していた(※3)ことから、本件において税務当局が行った更正処分が仮に適法であるとしても、税務当局が課税上の取扱いを変更したことにより生じたという点で、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があるのではないか、すなわち過少申告加算税の賦課決定処分につき、国税通則法(以下「通則法」という)65条4項にいう正当な理由があるか否かについても争点とされた。 (※3) 日本経済新聞平成31年2月5日記事は、「国税OBの朝長英樹税理士は、これまで仕入れにかかった消費税の全額控除を認めてきた国税当局が唐突に一部しか控除できないと税法解釈を変更したとみる。国税庁は『税法解釈や取り扱いを変更した事実はない』としている。複数の不動産業界の関係者によると、同様な理由で消費税の申告漏れが指摘されるケースが相次ぐ。税務に詳しい森・浜田松本法律事務所(東京・千代田)の大石篤史弁護士によると、この1年半くらいで10社前後からの相談がある。朝長税理士は『多くの会社が課税処分を受けるという異例の事態。消費税についてしっかりと調査をしているという当局の国民へのアピールという側面もあるのだろう』と明かす。」と述べている。 上記のとおり、両事件の主な争点は、①課税対応課税仕入れ該当性(本件更正処分の適法性)、及び②通則法65条4項にいう「正当な理由」の有無の2つであるが、両事件の第一審から最高裁までの各裁判所のそれぞれの判断を概括すると以下の【表1】のとおり(納税者側から見て、〇は処分取消し(納税者側勝訴)、✕は処分適法(国側勝訴))となる。ムゲン事件では、控訴審判決の結果を受けて、国側(税務当局)が、過少申告加算税賦課決定処分の取消しを不服として上告受理申立てを行い、また、ADW事件では、納税者側が、賦課決定処分だけでなく、課税仕入れに係る消費税の更正処分の取消しを求めて上告受理申立てを行った。 【表1】 (※4) ムゲン事件では、国側が②の争点についてのみ上告したため、①の判断については控訴審で確定している。 両事件とそれぞれの審級を時系列で見ると次のとおりとなる。 (※5) 「第1事件」東京地裁平成29年(行ウ)第590号・TAINSコード:Z269-13325、「第2事件」東京地裁平成30年(行ウ)第2号・TAINSコード:Z269-13326 (※6) 東京地裁平成30年(行ウ)第559号・TAINSコード:Z270-13448 (※7) 東京高裁令和元年(行コ)第281号・TAINSコード:Z888-2359 (※8) 東京高裁令和2年(行コ)第190号・TAINSコード:Z888-2366 裁判結果を俯瞰すると、争点①の課税対応課税仕入れの是非については、ADW事件の東京地裁判決のみ異なる判断が示されたということができる。また、争点②の通則法65条4項「正当な理由」については、ムゲン事件控訴審判決の前後で大きく「潮目」が変わっていることが分かる。 そこで、本稿ではまず、争点①について、ADW事件において控訴審が示した考え方と、同事件第一審において、原告が提示し、地裁が認めた考え方について対比して検討する。次に争点②について、ムゲン事件の一審・二審を比較し、相違点を抽出するとともに、ADW事件控訴審判決と対比させ、何が判断の分かれ目となったかを浮き彫りにしたい。なお、争点②に関する課税庁側の解釈変更の実態については、国税不服審判所に対する審査請求件数からの推論を試みる。次に、ムゲン事件で争点③とされた、課税売上割合に準ずる割合適用の可能性について両事件の判決文を検討する。最後に、本件のような問題を解決する手法として令和2年の税制改正で新たに導入された、居住用賃貸建物の仕入税額控除の概要を確認する。   Ⅱ 争点①課税対応課税仕入れ該当性(本件更正処分の適法性) 1 ADW事件控訴審の判示 (1) 用途区分の判断基準について 東京高裁は、仕入税額控除に係る用途区分の現行制度の仕組みについて、次のように判示している。 ここで「課税売上割合自体、共通対応課税仕入課税売上割合に近似するのが通例」というのは、そもそもその他の資産の譲渡のために行われる課税仕入れについては、税負担の累積は生じないのであり、通常の事業活動を継続する限り、換言すれば、突発的な多額の非課税資産の譲渡でもなければ、共通対応課税仕入れに用途区分されたものに課税売上割合を乗ずることで、税負担が累積されないものは自動的に除外される仕組みを前提にしていると思われる。 また、「共通対応課税仕入課税売上割合が課税売上割合に近似していない場合」とは、ADW事件第一審では、「課税売上割合と、賃料収入が売上全体に占める割合とのギャップによって、建物の取得価格に対する消費税額のうち相当部分に税負担の累積が生じてしまうこととなる」と、より具体的に述べている(以下「ギャップの問題」という)が、上記のとおり、ADW事件控訴審では、そのような場合に備えて、課税売上割合よりも合理的な割合、すなわち、課税売上割合に準ずる割合が設けられているとしており、ここでの課税売上割合に準ずる割合の位置付けは、ムゲン事件第一審及び同控訴審でも全く同様である。 上記判示を踏まえ、東京高裁は、「(消費税法30条)2項1号の定める各課税仕入れについては、同号の文言及び趣旨等に即して、課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいい、非課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来非課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいい、当該課税仕入れにつき将来課税売上を生ずる取引と非課税売上げを生ずる取引の双方が客観的に見込まれる課税仕入れについては、全て共通対応課税仕入れに区分されるものと解するのが相当である。(下線筆者)」という判断基準を示した。 (2) 検討 要するに、上記判断基準に従えば、事業者が中古マンションを取得した際に賃借人が1人でもいれば共通対応課税仕入れ、また、取得時に、仮に賃借人ゼロでも、保有期間中に住宅の貸付けの発生の可能性が少しでもあれば、同じく共通対応課税仕入れに区分されることになる。ここでは、次回Ⅱの3で述べるような、ADW第一審判決で展開された議論は否定されている。 ところで、ムゲン事件控訴審判決では、時系列的にADW事件第一審判決の直後に審理されたことから、用途区分の判断において、当該資産の「最終的な目的」や「主たる目的」がどのように影響するかについて検討している。そこでは、「要することが見込まれるかどうかの判断要素の一つとして課税仕入れの『目的』が挙げられるとしても、課税の累積は、課税仕入れの目的が課税資産の譲渡等であったことによって生じるものではなく、課税資産の譲渡等が行われることの結果によって生じるものであるから、『最終的な目的』や『主たる目的』に限定されると解すべき根拠はな」いと判示し、「用途区分の判定を課税仕入れの『最終的目的』によって判断し、事業者が課税資産の譲渡等を最終的な目的として行った課税仕入れについては、仮にその他の資産の譲渡が見込まれていたとしても、『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』に該当するとする控訴人の主張は採用できない。」として、ADW事件の第一審判決を引用した控訴人(ムゲン)の主張を排斥している(※9)。なお、ADW事件控訴審判決では、この点について、ムゲン事件控訴審判決同様、「事業者の取引の客観的な内容や性質等を捨象して專らその目的のみに依拠してこれらのいずれの区分に当たるかを判断するのは相当とは解され(ない)」として、ADWの主張を排斥している。 (※9) ちなみに、ムゲン事件第一審判決においても、個別対応方式における用途区分の判定は、課税仕入れの最終的な目的によって行うべきという納税者の主張に対し、「用途区分の判定において課税仕入れの目的が考慮されるとしても、消費税法30条2項1号の文言や個別対応方式における用途区分に共通課税仕入れが設けられていることに照らすと、ここで考慮される課税仕入れの目的が、原告が主張するような最終的ないし主たる目的に限定されると解すべき理由はない。」と判示し、その主張を排斥している。 2 ADW事件最高裁の判示とその影響 ADWは、控訴審判決を不服として最高裁に上告した。最高裁は、原審の示した判断基準を簡潔に要約した上で、その事実認定において、「本件各課税仕入れは上告人(筆者注:ADW)が転売目的で本件各建物を購入したものであるが、本件各建物はその購入時から全部又は一部が住宅として賃貸されており、上告人は、転売までの間、その賃料を収受したというのである。そうすると、上告人の事業において、本件各課税仕入れは、課税資産の譲渡等である本件各建物の転売のみならず、その他の資産の譲渡等である本件各建物の住宅としての賃貸にも対応するものであるということができる。」と判示した。その結果、原審の判断は揺るがず、納税者の敗訴が確定した。 非常に簡潔ではあるが、上記のように最高裁が判示したことで、転売目的で資産を購入した事業者が、当該課税仕入れを行った日に、将来同資産から非課税収入が発生する可能性が少しでもあれば、それは共通対応課税仕入れとなるという考え方が確定したことになる。 しかしながら、この考え方によれば、事業者が個別対応方式を採用する場合、仮に少額でも非課税売上げが生じていれば、税務調査等において共通対応に用途区分すべきとして更正処分を受ける恐れがある(※10)。特に、最高裁の判示からは、非課税収入が発生したという事実に着目した記載振りとなっているので、本件のようなビジネスモデルを展開する事業者にかかわらず、注意が必要であろう。 (※10) T&Amaster No.971(2023.3.20)8頁参照。さらに、同記事では、最高裁が示した「対応する」という判断基準が不明確という指摘もある。 (続く)

#No. 516(掲載号)
#霞 晴久
2023/04/20

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第14回】「TDK事件(審裁平22.1.27)(その1)」~租税特別措置法66条の4第2項1号二・2号ロ、租税特別措置法施行令39条の12第8項1号、租税特別措置法通達66の4(4)-5(現行66の4(5)-4)~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第14回】 「TDK事件(審裁平22.1.27)(その1)」 ~租税特別措置法66条の4第2項1号二・2号ロ、 租税特別措置法施行令39条の12第8項1号、 租税特別措置法通達66の4(4)-5(現行66の4(5)-4)~   税理士 松田 祐弥   1 事件の概要(※1) (※1) TAINSコード:F0-2-463、本件裁決は情報公開過程でマスキングされている部分が多くあるため、推定で補完記載していることに留意されたい。 本件課税対象となった国外関連取引は、間接に100%の出資を有する国外関連者A社、直接100%の出資を有する国外関連者B社との間で行った次の取引である。 ①請求人がA社及びB社に対して最終製品製造用の部品である棚卸資産を販売した国外関連取引、②A社及びB社が当該棚卸資産を用いて製造した棚卸資産(最終製品)を請求人が購入した国外関連取引、並びに③請求人がA社との間で締結した無形資産供与を主眼とする技術移転契約に係る国外関連取引に関して、東京国税局(以下、「原処分庁」という)はこれら国外関連取引の全てを対象とした残余利益分割法を適用し、独立企業間価格を算定し更正処分を行った。これに対して請求人は、国税不服審判所に審査請求を行った。 〈取引フロー〉   2 残余利益分割法 残余利益分割法は、平成23年改正前租税特別措置法(以下「措置法」という)66条の4第2項1号ニ・2号ロ、同改正前同法施行令39条の12第8項1号を法令上の根拠として、2000(平成12)年に新設された(平成23年改正前)措置法通達66の4(4)-5によって解釈上認められていた方法であり、 法人及び国外関連者の双方が重要な無形資産を有する場合に適用される。 具体的には、まず、法人及び国外関連者の営業利益を合算し(分割対象利益)、その分割対象利益について、第一段階として重要な無形資産を有しない非関連者間の取引において通常得られる利益(基本的利益)に相当する金額を当該法人及び当該国外関連者にそれぞれ配分する。次に第二段階として、基本的利益を配分した後の残額(残余利益)を、当該法人又は当該国外関連者それぞれにおいて、残余利益の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因(分割要因)に応じて、当該法人及び当該国外関連者に配分する。 〈残余利益分割法のイメージ〉   3 争点 本件に係る争点は次のとおりである。   4 請求人及び原処分庁の主張と審判所の判断 各争点に関する請求人及び原処分庁の主張と審判所の判断は、主に以下のとおりである。 審判所は、国外関連者は研究開発において相応の役割を果たしており無形資産の形成に貢献しているなどとして、研究開発費の負担金を国外関連者の分割指標に含め、結果として所得額にして141億円の処分を取り消した。 〈各争点に関する請求人及び原処分庁の主張と裁決〉 争点1の① 告知聴聞の機会 争点1の② 事前確認申請のしょうよう 争点2 国外関連者が請求人に対して配当をしているにも関わらず移転価格課税が行われたことの適否 争点3 独立企業間価格の算定において、残余利益分割法を適用したことの適否 争点4の① 基本的利益の算定において比較対象取引からX社を除くべきか否か 争点4の② 非関連者からの調達部品に帰属する損益を分割対象利益から除外すべきか否か 争点4の③ A社が支出した研究開発費の負担金を請求人の分割指標としての研究開発費の金額に含めたことの適否 争点4の④ 分割指標としての研究開発費の金額の算定上、過年度未払賞与の戻入れ額を控除したことの適否 争点4の⑤ A社の加工委託先の特定費用を分割指標としてA社のマーケティング費用に含めることができるか否か 争点4の⑥ 請求人の技術営業部署の費用を請求人の分割指標としてマーケティング費用としたことの適否 争点4の⑦ 国外関連者の所在地国の貨幣購買力の違いを考慮すべきかどうか ((その2)へ続く)

#No. 516(掲載号)
#松田 祐弥
2023/04/20

相続税の実務問答 【第82回】「令和5年までに行われた贈与(暦年課税)の相続税の課税価格への加算」

相続税の実務問答 【第82回】 「令和5年までに行われた贈与(暦年課税)の 相続税の課税価格への加算」   税理士 梶野 研二   [答] 相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続開始前3年以内にその被相続人から贈与を受けた財産の価額は相続税の課税価格に加算することとされていましたが、令和5年度の税制改正において、この「相続前3年以内の被相続人からの贈与」が、「相続前7年以内の被相続人からの贈与」に改正されました。しかしながら、この改正は、令和6年1月1日以後に行われた贈与から適用されることとされています。 したがって、あなたが令和元年から令和4年まで及び令和5年中にお父様から受けた贈与については、贈与が行われた日から3年を経過した後にお父様に相続が開始した場合には、あなたが相続又は遺贈によりお父様の財産を取得することとなったとしても、その贈与を受けた財産の価額を相続税の課税価格に加算する必要はありません。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続開始前3年以内に受けた暦年贈与の相続税の課税価格への加算 所得税法等の一部を改正する法律(令和5年法律第3号)による改正前の相続税法第19条第1項(以下「改正前相続税法19条1項」といいます)では、相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産(第21条の2第1項から第3項まで、第21条の3及び第21条の4の規定により当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるもの(特定贈与財産及び相続時精算課税の適用を受ける財産を除きます)に限ります)の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなして相続税の計算をすることとされていました。 この規定の中の「相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合」とあるのは、上記の所得税法等の一部を改正する法律により「相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前7年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合」と改正されました(改正後の相続税法第19条第1項の規定を「改正後相続税法19条1項」といいます)。 ただし、改正後相続税法19条1項の規定により拡大された加算期間である相続の開始前3年より前で、かつ相続開始前7年以内の贈与については、その贈与金額の合計額から100万円を控除した後の残額が加算の対象とされます。   2 改正後相続税法19条1項の適用時期 (1) 令和5年12月31日までに贈与者に相続が開始した場合 改正後相続税法19条1項の規定は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用し、同日前に贈与により取得した財産に係る相続税については、改正前相続税法19条1項の規定が適用されます(令和5年改正法附則19①)。 したがって、令和5年12月31日までに贈与者が亡くなり、その者から相続又は遺贈により財産を取得したときには、これまでと同様に、その贈与者(被相続人)から贈与により財産を取得した日から3年を経過すれば、その贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算する必要はありません。 (2) 令和6年1月1日以後に贈与者に相続が開始した場合 イ 令和6年1月1日から令和8年12月31日までの間に贈与者に相続が開始した場合 令和6年1月1日から令和8年12月31日までの間に贈与者に相続が開始した場合には、改正後相続税法19条1項の規定が適用されることとなりますが、同項の規定中の「7年」とあるのは「3年」に読み替えられています(令和5年改正法附則19②)。 したがって、この期間内に贈与者が亡くなり、その者から相続又は遺贈により財産を取得したときには、これまでと同様に、贈与者(被相続人)から贈与により財産を取得した日から3年を経過すれば、その贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算する必要はありません。 ロ 令和9年1月1日から令和12年12月31日までの間に贈与者に相続が開始した場合 令和9年1月1日から令和12年12月31日までの間に贈与者に相続が開始した場合には、令和6年1月1日以後に贈与者(被相続人)から贈与により取得した財産が加算の対象となります(令和5年改正法附則19③)。 この場合、相続開始前3年より前に贈与により取得した財産があれば、この相続開始前3年より前に贈与により取得した財産の価額の合計額から100万円を控除した残額と、相続開始前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産の価額の合計額が、相続税の課税価格に加算される金額となります。 ハ 令和13年1月1日以後に贈与者に相続が開始した場合 令和13年1月1日以後に贈与者に相続が開始した場合には、改正後相続税法19条1項の規定が適用されます。 すなわち、相続開始前7年以内に贈与者(被相続人)からの贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算しなければなりません。 この場合、相続開始前3年より前に贈与により取得した財産があれば、この相続開始前3年より前に贈与により取得した財産の価額の合計額から100万円を控除した残額と、相続開始前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産の価額の合計額が、相続税の課税価格に加算される金額となります。 贈与の日及び相続開始時と相続税の課税価格への加算の関係をまとめると次の図のとおりとなります。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   3 ご質問の場合 上記2(1)で述べたように改正後相続税法19条1項の改正の効果が出てくるのは、令和9年1月1日以後に相続が開始した場合で、かつ、令和6年1月1日以後に被相続人から贈与を受けた財産がある場合です。 したがって、あなたが令和元年から令和4年までの間にお父様から贈与により取得した財産、及び令和5年中にお父様から贈与により取得する財産については、これまでと同様に、各贈与の日から3年を経過すれば、お父様を被相続人とする相続税の申告において、これらの贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算する必要はありません。 例えば、令和5年4月20日にお父様がお亡くなりになられたと仮定しますと、令和元年分の贈与など、令和2年4月20日より前にお父様から贈与を受けた財産の価額は、相続税の課税価格に加算する必要はありません。 また、令和5年4月20日にお父様から贈与を受けたと仮定しますと、3年後の令和8年4月20日を過ぎた後においてお父様の相続が開始するならば、その贈与を受けた財産の価額を相続税の課税価格に加算する必要はなくなります。 (了)

#No. 516(掲載号)
#梶野 研二
2023/04/20

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第48回】「株式報酬制度に関する役員と従業員の相違点」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第48回】 「株式報酬制度に関する役員と従業員の相違点」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 従業員を株式報酬制度の対象とする背景 株式報酬制度は、対象者に中長期のインセンティブを与えることで、モチベーションアップや離脱を防止できる等のメリットがあり、従来は役員を対象としたものが一般的であった(※1)。 (※1) 株式報酬制度のうち、事前交付型リストリクテッド・ストックについての解説は、【第4回】参照。その他、株式報酬制度には事後交付型が存在する。これは、対象勤務期間の終了後株式を交付するという形態であり、事後交付型リストリクテッド・ストックや、パフォーマンス・シェアがある。 これに対し、近年では会社法上の取締役等に該当しない執行役員や、その他幹部従業員に対して株式報酬制度を導入する企業が増えているといわれている。現に、2022年7月19日、経済産業省が改訂した「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」には、「5.5. 幹部候補人材の育成・エンゲージメント向上」に、「報酬設計において、これまでも自社株報酬が付与されていることが多い執行役員に加え、中堅の幹部候補等も自社株報酬の付与対象に含めることも考えられる」と明記されている。 昨今では、ワーク・ライフ・バランスという概念が浸透し、働き方改革が実践される等したため、従来と比較してフレキシブルな働き方を選択する労働者が多くなっている。この点、企業にとっては時代の潮流に対応しながら優秀な人材を確保し続けることは課題となるため、今後、従業員に対して株式報酬制度を導入することを検討する企業はさらに増加すると思われる。 ところが、従業員は役員と異なるため、労働基準法上の「賃金通貨払いの原則」や、株式の無償交付に係る会社法との関係等が問題となり得る。したがって、株式報酬制度の導入には不明瞭な部分があった。そこで経済産業省は、上記の通り手引きを改訂することで、このような問題に対する解説を示したのである。   (2) 手引きに示された内容 従業員を対象とした株式報酬制度の導入について、手引きには、役員との相違点に触れる形で以下の点が追記された。 ① 「賃金通貨払いの原則」への抵触可能性(手引きQ80及びQ81(1)) 労働基準法では、従業員の賃金を通貨で支払うことを原則とする「賃金通貨払いの原則」が定められている(労働基準法24)。ここで、従業員に通貨ではなく株式を交付する仕組みである株式報酬制度が、当該原則に抵触するか否かが問題となっていた。 この点、手引きQ80及びQ81(1)では、CGSガイドラインが改訂された際、以下の要件を充足することで「福利厚生施設」に該当すると考えられるため、当該原則には抵触しないと整理されたことに言及している。 なお、留意点として、上記bについては、「賃金として株式を給付する」と定められている場合には賃金性が肯定されやすくなることが示されている。また、上記cについては、「事後的な利益の大小ではなく、制度設計として、通貨による賃金等が報酬体系の中で補助的なものであり、自社株式給付によって得られる利益が主とされていると解されるかどうかの問題である」と示されている。 これは、賃金等に該当すれば通貨払いが求められるところ、労働の対価としての性質が色濃いことを示すことができれば、株式としての支給が可能となるという趣旨だと思われる。ただし、従業員を対象とした株式報酬制度の導入については、以下②の会社法との関係にも留意する必要がある。 ② 会社法上の手続き(手引きQ81(2)) 株式報酬制度について、役員を対象とする場合には、株主総会や報酬委員会において、役員報酬に係る決議を行うことが必要となる。この点、従業員は役員と異なるため、従業員を対象とした株式報酬制度については、株主総会や報酬委員会に係る決議が不要であると解説された。 また、会社法上、従業員に株式を無償交付することができないため(※2)、現物出資型を前提として、基本的な流れは以下の通りであるとも示されている。 (※2) この件については以下③及び⑤でも触れられている。 ③ 金融商品取引法や上場規則における開示との関係(手引きQ81(3)及び(4)) 上場企業が従業員に対して株式報酬を交付するために第三者割当を行う場合の金融商品取引法上の開示規制、及び上場規則における開示については、原則として役員等を対象とする場合と同様であることが示された。 ④ 社会保険料算定への影響(手引きQ81(5)及びQ13) 従業員を対象として株式報酬制度によって株式を交付した場合においても、原則として社会保険料の算定の基礎となる「報酬」及び「賞与」の範囲(以下、「報酬等」という)に含まれることが示された(※3)。 (※3) ただし、ストックオプションについては、自社株をあらかじめ定められた権利行使価格で購入する権利を付与するものであることから、報酬等に該当しないこと等も併せて示されている。 ⑤ 税務上及び会計上の取扱い(手引きQ81(6)) 従業員を対象とする場合には、役員給与の損金不算入が適用されないため、原則として損金算入が可能である(法法34)。 しかし、執行役員などの場合、法人の経営に従事しているものとして法人税法上の役員に該当した場合(法法2十五)、役員給与に関する規定が適用される可能性があることにも言及されている(※4)。 (※4) 法人税法上のみなし役員に関しては、【第1回】参照。 *  *  * このように、2023年3月31日に行われた手引きの改訂は、従業員を対象とした株式報酬制度の導入に係る論点が中心となっている。さらに、従業員に株式を発行する場合の譲渡制限付株式割当契約書の例も示されているため、実際に導入を検討する場合には必見といえる。   (3) 従業員等への自社株報酬以外の改訂箇所 その他の改訂ポイントとして、役員を対象とした株式報酬制度を導入した際、必要となる株主総会に付議する報酬議案について、一例を示す形で株主総会報酬議案等が示されている。   (了)

#No. 516(掲載号)
#中尾 隼大
2023/04/20

基礎から身につく組織再編税制 【第51回】「株式分配の概要」

基礎から身につく組織再編税制 【第51回】 「株式分配の概要」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、株式分配の概要について解説していきます。   1 株式分配の定義 「株式分配」とは、現物分配のうち、現物分配直前において現物分配法人により発行済株式の全部を保有されていた法人(完全子法人)のその発行済株式の全部が移転するもの(※)をいいます(法法2十二の十五の二)。 (※) 現物分配により完全子法人株式の全部の移転を受ける者が、現物分配の直前において現物分配法人との間に完全支配関係がある者のみである場合における現物分配は、株式分配から除かれています。 株主に対して、会社の事業を切り出して設立した子会社の株式又は既存の子会社の株式を交付することにより、事業又は子会社を切り離す行為を「スピンオフ」といいますが、株式分配は子会社をスピンオフする場合に使われる手法です。 ① 単独新設分割型分割 ② 株式分配 上図①の分割型分割により特定の事業をスピンオフする場合については、本連載【第23回】をご参照ください。今回は、上図②の完全子法人をスピンオフする株式分配について解説します。   2 株式分配の課税関係 株式分配に係る課税関係を非適格・適格ごとに表にまとめると、次のようになります。なお、今回は株式分配の課税関係のイメージをつかんでいただくことを目的としているため、現時点で下記の表をすべて理解する必要はありません。 現物分配法人、現物分配法人の株主の課税上の取扱いの詳細については、次回以降で説明していきます。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   3 株式分配の事由 株式分配とは、法人がその株主等に対し、その法人の次に掲げる事由により、完全子法人株式の交付をすることをいいます(法法2十二の十五の二)。   ◆株式分配の概要のポイント◆ 株式分配は、現物分配法人から現物分配法人の株主へ完全子法人株式が時価で譲渡されたものとして取り扱います。 株式分配があった場合には、現物分配法人は、完全子法人株式の譲渡損益を認識します。 株式分配があった場合には、現物分配法人の株主は、みなし配当を認識します。 特例として適格株式分配の場合には、現物分配法人は完全子法人株式を簿価で移転したものとして課税されず、現物分配法人の株主においてもみなし配当は認識されません。   (了)

#No. 516(掲載号)
#川瀬 裕太
2023/04/20

「人的資本可視化指針」の内容と開示実務における対応のポイント 【第2回】「人的資本可視化の方法と参考となるフレームワークや考え方」

「人的資本可視化指針」の内容と 開示実務における対応のポイント 【第2回】 「人的資本可視化の方法と参考となるフレームワークや考え方」   PwCあらた有限責任監査法人 ディレクター 公認会計士 北尾 聡子   【第1回】では、人的資本の可視化のニーズの高まりとその背景、国内外の開示規制の動向について解説を行った。人的資本の可視化を推進することにより、企業は投資家の理解を得ながら、中長期的に企業価値の向上を実現することが期待されている。 【第2回】においては、人的資本の可視化の方法について、参考となるフレームワークや考え方を紹介するとともに、可視化を行う際の開示実務上の対応のポイントを解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。   第2章 人的資本の可視化の方法   1 原則主義に基づく3つのフレームワークの活用 (1) 価値協創ガイダンスの活用 投資家との対話を通じて価値創造ストーリーを磨き上げる「価値協創」を加速させるためには、企業と投資家をつなぐ共通言語が必要であるとして、2017年5月に経済産業省から、企業固有の価値創造ストーリーを構築し、質の高い情報開示・対話につなげるためのフレームワーク「価値協創ガイダンス」が、2022年8月に改訂版「価値協創ガイダンス2.0」が公表された。 『自社の人的資本への投資・人材戦略』が、自社の価値観、目指す姿(長期ビジョン)、ビジネスモデル、経営上のリスクと機会の各要素とどのように結びついているのかを、「価値協創ガイダンス」を活用し、確認しながら議論することで、自社の経営戦略との関係性を明確にすることができる。 (出典:経済産業省「企業と投資家の対話のための「価値協創ガイダンス 2.0」」) (2) IIRC(International Integrated Reporting Council:国際統合報告評議会)フレームワークの活用 IIRCのフレームワークは、組織の価値創造能力の分析を助けるために利用されることを目的として、統合報告書に含まれるべき情報を特定したものである。当フレームワークは、2013年12月に公表された後、 2021年1月に改訂版が公表された。企業が人的資本を含む6つの資本を用いて、長期にわたり価値の創造、保全をどのように行うのか、また事業活動の中で価値の毀損がどのように生じるのか、資本とビジネスモデルとの関係性、価値創造とのつながりを説明することを求めている。 『人的資本』に関するインプットが、事業活動を通じてどのようなアウトプットにつながり、さらにどのようなアウトカム(短、中、長期にわたる正及び負の影響)につながるのか、他の資本との関係性を含めて統合的に説明していく上での効果的なフレームワークとなっており、活用が期待されている。 (出典:内閣官房「人的資本可視化指針」P.12) (3) FRC(Financial Reporting Council:英国財務報告評議会)の「従業員に関する企業報告」の活用 FRCの人的資本に関する報告書(「Workforce-related corporate reporting-where to next?-」)では、企業が従業員関連事項について説明が奨励される事項を4つの要素(「ガバナンスと経営」、「ビジネスモデルと戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」)に沿って解説している。 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.13をもとに筆者作成 ⇒ FRCの人的資本に関する報告書で採用されているとおり、人的資本の開示においても、4つの要素を検討することが効果的であり、活用が期待される。 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.14、15、38、39をもとに筆者作成   2 人的資本の可視化を進める際の開示実務における対応ポイント 上記1において、人的資本への投資が企業価値向上や競争力強化にどのようにつながるかを明確化するための、参考となるフレームワークを複数(3つ)紹介した。ただ、フレームワークが複数あると混乱や迷いが生じやすいかもしれない。これらのフレームワークはそれぞれ独立しており、どれを参考にしてもよいと思うが、いずれにせよ、5W1Hを意識したシンプルな開示内容を検討することが重要である。 その他、人的資本の開示実務における対応ポイントとして、いくつか紹介する。 〈開示における2つの類型(独自性・比較可能性)を考慮する〉 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.16~18をもとに筆者作成 ⇒ 「独自性」と「比較可能性」のバランスを確保することを開示において意識することがポイントである。 〈2つの側面(価値向上・リスクマネジメント)を意識する〉 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.28をもとに筆者作成 ⇒ 2つの側面があることを意識し、説明方法を整理することがポイントである。 (出典:内閣官房「人的資本可視化指針」P.28) 〈さまざまな開示上のアピールポイントを考慮する〉 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.30、31をもとに筆者作成 ◆まとめ◆ 人的資本の可視化の方法としては、まずは原則主義に従い、参考となるフレームワークに沿って開示の大枠を検討した上で、開示上留意すべきいくつかのポイントを押さえることが重要である。次回【第3回】(最終回)は、実質を伴った強靭な人事戦略を策定するための基盤・体制づくりについて解説する。加えて、有価証券報告書における制度開示対応や積極的な任意開示を行う際の開示実務におけるポイントを解説する。   (了)

#No. 516(掲載号)
#北尾 聡子
2023/04/20
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