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税理士事務所の労務管理Q&A 【第9回】「パート労働者の年次有給休暇」

税理士事務所の労務管理Q&A 【第9回】 「パート労働者の年次有給休暇」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   使用者には、正社員と同様にパート労働者に対しても年次有給休暇の付与義務があります。 パート労働者は、曜日により労働時間が異なる場合や雇用契約更新時には労働時間や労働日数を変更することがあります。 今回は、パート労働者の年次有給休暇の付与要件、付与日数、賃金の支払い等について解説します。 * * 解 説 * * 1 年次有給休暇の付与要件 使用者は、雇入れの日から起算して6ヶ月継続勤務し、所定の労働日に8割以上出勤した労働者に10日の年次有給休暇を付与しなければなりません。雇用形態を問いませんので、正社員だけではなくパート労働者についても同様です(労働基準法第39条)。   2 年次有給休暇の付与日数 所定の労働日に8割以上出勤した場合、6ヶ月継続勤務で10日、1年6ヶ月で11日、2年6ヶ月で12日と、継続勤務1年につき1日ずつ加算され、3年6ヶ月からは2日ずつ加算された付与日数になり、20日が限度とされます。 〈図表1〉年次有給休暇の付与日数   3 年次有給休暇の比例付与 所定労働時間が週30時間以上又は所定労働日数が週5日以上の場合は、〈図表1〉のとおりの付与日数となりますが、所定労働時間が30時間に満たない場合等には、比例付与という方式が採られます。具体的には所定労働時間30時間未満かつ週の所定労働日数が4日以下又は年間所定労働日数が216日以下のパート労働者です。 〈図表2〉短時間従業員の有給休暇の付与日数 (※1) 所定労働日数が週によって決まっている場合は「週所定労働日数」で、それ以外の場合は「1年間の所定労働日数」で判断します。また所定労働日数は付与時点の週所定労働日数で計算します。 (※2) 赤網掛け部分は、5日の年次有給休暇取得義務の対象です(後述6参照)。   4 付与日数の考え方 付与日数は、基準日(年次有給休暇が付与された日)時点の状況に基づいて判断します。 したがって、基準日以後に雇用契約を見直し、所定労働時間や所定労働日数が変更された場合でも、すでに基準日に付与した年次有給休暇の日数はそのまま有効です。次の基準日に到達した時点で、その時の契約内容により付与日数が変更されます。   5 年次有給休暇中の賃金の支払い 賃金の支払いは、下記の3つの方法があります。どの方法を用いるかは、就業規則等に定めなければなりません。勤務実態に即した方法を選択することになります。 (1) 通常の賃金 所定労働時間労働をしたときに支払われる通常の賃金(通勤手当も含む)を支払う方法です。一般的には、年次有給休暇中も通常の出勤をしたものとして取り扱います。 したがって、パート労働者であれば、「年次有給休暇を取得した日に働くはずだった労働時間×時給」で計算します。 例えば、時給1,000円のパート労働者の所定労働時間が月曜日8時間、火曜日6時間の場合で、月曜日に年次有給休暇を取得した場合は、8,000円(8時間×1,000円)を、火曜日に年次有給休暇を取得した場合は、6,000円(6時間×1,000円)の賃金を支払わなければなりません。 (2) 平均賃金 平均賃金で支払う方法です。1日の労働時間が一定でない場合に用いられることが多く、前記(1)の算定方法のように、有給休暇を取得した日によって賃金額が左右されることがありません。 計算方法は、直近の3ヶ月間の賃金から平均額を算出します。次の①、②のうち、どちらか高い方の金額になります。 〈計算例〉 (3) 標準報酬日額 健康保険法に基づく標準報酬日額(標準報酬月額の30分の1相当額)で支払う方法です。この方法を用いるには、労使協定の締結が必要となります。 パート労働者の場合、健康保険の被保険者に該当しない場合もあるため、この方法を採用している事業所は少ないです。   6 終わりに 2019年4月から、年次有給休暇が年間10日以上付与される労働者に対して、年5日の年次有給休暇を取得することが、使用者に義務付けられました。 パート労働者(〈図表2〉の赤網掛け部分に該当する者)もその対象になります。違反した場合には罰則が科されることがありますので注意が必要です。 年次有給休暇については、就業規則に明確な規定がなければ、トラブルに発展する可能性もあります。勤務実態に即した就業規則を作成し、労働者に周知することが大切です。 (了)

#No. 483(掲載号)
#佐竹 康男
2022/08/25

〔相続実務への影響がよくわかる〕改正民法・不動産登記法Q&A 【第9回】「新設された“海外在住者取得の日本の不動産につき国内の連絡先となる者を登記させる制度”の概要と注意点」

〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第9回】 「新設された“海外在住者取得の日本の不動産につき 国内の連絡先となる者を登記させる制度”の概要と注意点」   司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行    【Q】 海外在住者が取得した日本の不動産につき、国内の連絡先となる者も登記されると聞きました。新たに創設されたこの制度について教えてください。 【A】 所有者不明土地の「発生の予防」のため、海外在住者が取得した日本の不動産について国内の連絡先となる者(氏名、住所等)も登記されることとなりました。 -《解説》- 所有者不明土地の「発生の予防」のためには、不動産の所有者への連絡手段を確保する必要がある。日本の不動産を海外在住者が取得した場合、海外在住者の住所移転の履歴が登記簿上にタイムリーに反映されるとは言えず、不動産の所有者への連絡手段を確保する観点からは問題となっていた。 そのため、補助的・便宜的な連絡手段を確保する仕組みとして、海外在住者が取得した日本の不動産について国内の連絡先となる者(氏名、住所等)も登記されることとなった(不動産登記法73条の2第1項2号)。 具体的な内容は以下のとおりである。 *  *  * (※) 法制審議会民法・不動産登記法部会第15回会議(令和2年7月14日開催)参照。 (了)

#No. 483(掲載号)
#丸山 洋一郎、松井 知行
2022/08/25

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例74】フューチャーベンチャーキャピタル株式会社「定時株主総会での決議結果に関するお知らせ」 (2022.6.23)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例74】 フューチャーベンチャーキャピタル株式会社 「定時株主総会での決議結果に関するお知らせ」 (2022.6.23)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、フューチャーベンチャーキャピタル株式会社(以下「FVC」という)が2022年6月23日に開示した「定時株主総会での決議結果に関するお知らせ」である。タイトルどおり同日に開催された定時株主総会の決議結果が記載されているだけの内容なのだが、会社提案の議案はすべて否決されたのに対して、株主提案の議案はすべて可決されている。 それぞれの議案には取締役の選任があり、会社提案が否決され、株主提案が可決された結果、同社の取締役がすべて入れ替わることとなり、代表取締役も交代することとなった。そのため、同日、「代表取締役の異動及び役員人事等に関するお知らせ」も併せて開示されている。   2 ほかでも これまで株主総会において会社提案が否決され、株主提案が可決されるということは少なかった。まして取締役がすべて入れ替わるという事態は前代未聞といえる。 しかし、この数日前に似たようなことが、北越メタル株式会社(以下「北越メタル」という)でも起きていた。株主から取締役選任の提案がなされ、同社はこれに反対していたのだが(2022年5月23日開示「当社に対して提出された株主提案とこれに対する当社の反対意見に関するお知らせ」)、定時株主総会ではこれが可決され、会社が提案した取締役選任の一部は否決されたのである(2022年6月22日開示「臨時報告書」。同社は決議結果に関する適時開示を行っていない)。   3 大きな違い ただし、北越メタルの場合とFVCの場合とでは大きな違いがある。北越メタルに対して株主提案を行ったトピー工業株式会社は、同社の議決権を33.69%所有する筆頭株主であるため(第106期有価証券報告書。子会社のトピー実業株式会社の所有分と合わせると35.02%所有)、その提案が可決されたとしても、さほど驚くべきことではない。 それに対して、FVCに対して株主提案を行った金武偉氏(以下「金氏」という)とマンティス・アクティビスト投資1号株式会社(同社は金氏の個人所有会社。2022年4月7日開示「株主提案に関する書面受領のお知らせ」)は、両者合わせてFVCの議決権を2.5%ほどしか所有していない(第24期有価証券報告書)。その提案が可決されたことは、驚くべきことだろう。   4 個人株主が8割 FVCにおいて今回の株主提案が可決された要因の1つに同社の株主構成がある。同社の議決権の約8割は個人株主に所有されているのである(第24期有価証券報告書)。 金氏はそうした株主構成に勝機を見いだしたのかもしれない。「株主提案に関する書面受領のお知らせ」には、株主提案書面の記載がそのまま掲載されている。その「株主提案の議案の要領、提案の内容及び提案の理由」では、「現行事業モデルの問題点」と「問題点の解決策」が簡潔かつ強めの表現で記載されたうえで、最後に「まとめ」として次の記載がなされている(下線は筆者による)。   5 なぜ定款変更も否決? FVCは今回の開示と併せて「開示事項の中止(剰余金の配当及び定款一部変更)についてのお知らせ」も開示している。2022年3月10日に「剰余金の配当(初配)及び株主優待制度の新設に関するお知らせ」を、2022年5月19日に「定款一部変更に関するお知らせ」を開示し、定時株主総会にはそれらも付議されていたのだが、否決されたのである。 同社の株主はなぜそれらも否決したのだろうか。配当については「業績がまだ安定しておらず、配当を行うのは早い」と考えたのかもしれないが、わからないのは定款変更である。変更の内容は、2022年9月1日に施行される株主総会資料の電子提供制度(上場会社は利用が義務)に対応するためのものである。北越メタルの定時株主総会にも同様の定款変更が付議されたのだが(2022年5月23日開示「定款の一部変更および取締役候補者等の選任に関するお知らせ」)、こちらは可決されている(2022年6月22日開示「臨時報告書」)。 FVCの株主は、それぞれの議案の内容をきちんと理解したうえで賛否を決めたのだろうか。それとも、「会社提案はすべてダメ、株主提案はすべてOK」と深く考えることなく決めてしまったのだろうか。   6 ファンド出資者≠FVC株主 FVC側は2022年4月21日に「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」を開示して、今回の株主提案に反対している。その理由は、同社の「創業理念やビジネスモデル」と合う提案ではないからである。 その「創業理念やビジネスモデル」については、次のように記載されている。 しかし、FVCの株主の多く(個人株主が8割)は、この「創業理念やビジネスモデル」に共感して、同社株式を取得したとは限らない。FVCのファンドへの出資者である「地域金融機関や大企業」は、この「創業理念やビジネスモデル」に共感しているのだろうが、彼らはFVCの株主ではない。株主であったとしても、議決権が2割に満たない微力な株主にすぎない。FVC側の反対意見はまったく効果を持たなかった。 (了)

#No. 483(掲載号)
#鈴木 広樹
2022/08/25

プラス思考の経済効果 【第6回】「阪神タイガース優勝の経済効果」

プラス思考の経済効果 【第6回】 「阪神タイガース優勝の経済効果」   関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩   1 経済効果の計算をはじめたきっかけ 今年の阪神タイガースは、開幕から連敗を重ねて一時は負け越しの数が16となり、今年の優勝は絶望的と思われました。しかし、少しずつ勝利を重ねて、オールスター前には借金を全部返済することに成功しました。ひょっとすると、クライマックスシリーズに出場して、さらに日本シリーズに出場できる可能性も出てきました。もしそうなると、歴史的な偉業と言えるでしょう。 今回は、筆者が「経済効果」を計算するきっかけとなった「阪神タイガース優勝の経済効果」についてお話をしましょう。 プロ野球球団優勝の経済効果とは、優勝しなかった時と優勝した時の経済効果の差額のことです。各球団は優勝しなくても、毎年多くの観客を集めて数百億円の経済効果を作り出しているのです。そして、優勝した年は優勝しなかった年と比べて、より多くの経済効果を作り出します。その差額が「優勝の経済効果」なのです。 2003年のプロ野球のシーズンが開始されると、星野監督が率いる阪神タイガースは素晴らしい勢いで優勝街道を驀進し始めました。筆者は、それまで大学で数理経済学を教えていたのですが、数理経済学とは微分や線形代数を用いて経済現象を分析する経済学で、理系ではない経済学部の学生は数学が得意ではないので、彼らにとってやや難解な経済学でした。それで、ゼミの学生諸君に経済学に関心を持ってもらうために、「阪神タイガースが優勝したら地元にどれだけの経済効果があるか、ゼミのみんなで計算してみようか」と問いかけると、学生は「やろう!やろう!」と大賛成してくれました。   2 2003年の阪神タイガース優勝の経済効果 2003年7月中旬の日曜日のお昼に阪神百貨店の「タイガースグッズ」売り場に、当時の阪神百貨店の社長さんの許可を得て、ゼミの学生10人と大学院の学生数人をつれて、阪神ファンのお客さんにアンケートを取りに行きました。 当日の「タイガースグッズ」の売り場は超満員で、ユニフォーム、帽子、メガホンなどのタイガースグッズを買い物かごにいっぱい詰め込んだ阪神ファンが、たくさんのレジの前に長い行列を作って並んでいました。行列の最後尾は、フロアーのレジの反対側の壁に突き当たり、そこから下に続く階段の中ほどまでありました。フロアーの主任さんに「あの最後尾のお客さんがレジまで来るのにどれほど時間がかかりますか?」と聞くと、「50分ほどかかるでしょうね」と答えられたのを覚えています。 行列に並んでおられる方や、買いたいタイガースグッズを選んでいるお客さんに、ゼミの学生はアンケート用紙を持ってお尋ねしました。「今日はどこから来られましたか」、「阪神ファンですか」、「今日はいくらぐらいお買い物されますか」、「優勝したら阪神百貨店は秋には優勝セールをされると思いますが、その時も買いに来られますか」など十数目の質問をしました。ゼミの学生が買い物客にアンケートの質問をするのを、大阪の数局のテレビ局がカメラで追いかけていました。テレビに映ると知ったゼミの学生は、気をよくして次から次へと買い物客に質問をしていました。 アンケートの結果で興味深かったのは、「どこから来られましたか?」という質問に対する答えで、アンケートに答えていただいた130人ほどの買い物客の半数は、なんと関西地域以外から来られていて、北は帯広市、南は熊本市から来たファンでした。そして、関東地域、中部地域から来られている人も多く、あらためて阪神タイガースが関西地域の人気球団から全国区の人気球団になったことを認識しました。 その後、尼崎商店街、甲子園球場、尼崎信用金庫などにも取材に出かけて、たくさんのデータを集めました。その結果をまとめて、ファンの消費額は、①球場の観客の消費増加額52.4億円、②阪神ファンのビアガーデンや飲み屋などでの飲食増加額416.4億円、③百貨店や商店街などでの優勝セールの売上増加額106.6億円、④放映権、広告収入の増加額24億円、⑤阪神グッズの売上増加額74億円、⑥優勝パレードのファンの消費額(2003年は計算の段階でパレードの計画が未定でしたので計算しませんでした)、⑦スポーツ新聞、雑誌の売上増加額32.4億円、⑧尼崎信用金庫のタイガース応援の定期預金増加額212.4億円、合計918.2億円のファンの消費、貯蓄(投資)額があると推察されました。 この金額を基にして、近畿地域全体の産業連関表を用いて経済効果を計算すると、近畿地域ではなんと1,481.3億円の経済効果があることがわかりました。この金額はプロ球団の優勝の経済効果としては空前絶後であり、当分の間この記録は破られないでしょう。これは、阪神が開幕からすごい勢いで優勝街道を驀進したこと、阪神が18年ぶりに優勝したこと、阪神ファンが全国で爆発的に急増したこと、各種マスコミがこぞって大きく取り上げたことなどが原因だと思っています。   3 主要球団の優勝の経済効果 それでは、主要球団が優勝した時の経済効果はどれほどの金額であったのでしょうか。それらを紹介しましょう。 〈主要球団の優勝効果〉 上表を見ていただくと、2003年の阪神タイガース優勝の経済効果は驚異的な金額であり、また阪神と巨人の優勝の経済効果は600億円を超える値になりますが、他の球団では500億円を超えるケースはないということがおわかりいただけたかと思います。   4 おわりに 筆者が2003年の阪神タイガース優勝の経済効果を計算して発表してから、各種マスコミ、そして経済界、地方自治体などから「経済効果」計算の依頼が殺到してきました。マスコミからは経済効果のみならず、有名なタレントやスポーツ選手の不祥事件による「経済的損失」の計算の依頼がたくさん舞い込みました。 しかし、有名人の個人的な不祥事件や失敗による経済的損失の計算はすべてお断りしています。ご本人やご家族はマスコミの批判にさらされてきっとつらい思いをされていると思います。ご本人も反省されていることだと思います。それに追い打ちをかけるように、「あなたの不祥事件で、業界や会社はこれだけの損失をこうむりました」という計算はしたくないのです。 私が計算する経済効果は、人々が元気になり、地域が活性化するのに役立つような計算であってほしいのです。これからも人々が明るくなり、そして楽しくなるような経済効果を計算したいと思っています。 (了)

#No. 483(掲載号)
#宮本 勝浩
2022/08/25

プロフェッションジャーナル No.482が公開されました!~今週のお薦め記事~

2022年8月18日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.482を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2022/08/18

日本の企業税制 【第106回】「法人事業税の外形標準課税の見直し」

日本の企業税制 【第106回】 「法人事業税の外形標準課税の見直し」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   地方財政審議会のもとに、「地方法人課税に関する検討会」が設置され、第1回会合が8月2日に開催された。 今回の検討会の主たるテーマは法人事業税の外形標準課税とされている。   〇外形標準課税制度の創設 法人事業税は、外形標準課税導入以前は、電気供給業・ガス供給業・保険業を営む法人を除き、所得による課税(税率9.6%)のみであったが、平成15年度税制改正で(適用は平成16年度から)、資本金1億円超の普通法人に関しては、所得による課税(所得割)の一部分を外形基準による課税(付加価値割、資本割)に置き換えることとされた。 当時の平成15年度与党税制改正大綱では、「法人事業税への外形標準課税の導入は、すべての法人が、その事業活動規模に応じて薄く広く、かつ、公平に地方公共団体の幅広い行政サービスの対価を負担するものである。このことは、応益課税としての事業税の性格を明確にし、地方公共団体には、地方分権を支える安定的な地方税源を保障するものとなる等、地方税として望ましい方向の改革である」とされていた。 外形基準による課税部分は、従来の所得による課税の4分の1(平成3年から12年の平均税収の4分の1である5,100億円を外形基準による税収とするように設計)とされた。また、付加価値割と資本割の税収の比率は2対1となるように税率が設定された結果、導入当時の税率は、所得割7.2%、付加価値割0.48%、資本割0.2%であった。 付加価値割の課税標準となる付加価値額は、各事業年度の収益配分額(報酬給与額、純支払利子及び純支払賃借料の合計額)と各事業年度の単年度損益との合計額である。一方、資本割の課税標準となる「資本等の金額」は、資本の金額と資本積立金額の合計額であった(現行制度では法人税法上の「資本金等の額」)。なお、自己株式の取得などにより資本割の課税標準がゼロを下回ることを回避する観点から、平成27年度税制改正で、「資本金等の額」が会社法上の「資本金+資本準備金」を下回る場合には、会社法上の「資本金+資本準備金」を資本割の課税標準とすることとされている。   〇外形標準課税の拡大 その後、平成27年度及び28年度税制改正において、法人実効税率を20%台に引き下げる法人税改革の中、外形標準課税の拡大により財源を確保した上で所得割の段階的な税率引下げが行われ、所得割の税率は3.6%(うち2.9%相当部分は地方法人特別税(令和元年に地方法人特別税は廃止され、新たに2.6%相当部分として特別法人事業税が創設された))となる一方、付加価値割と資本割の税率はそれぞれ1.2%と0.5%に引き上げられ、この結果、所得割と外形標準課税の比率は8対5となった(付加価値割と資本割の比率は2対1のまま)。   〇外形標準課税対象法人の減少 今回の「地方法人課税に関する検討会」の資料によれば、外形標準課税対象法人数は、導入から間もない平成18年度の29,618社をピークに減少の一途をたどり、令和2年度には19,989社と2万社を割り込んでいる。全法人数(平成18年度:約247万社、令和2年度:約260万社)に占める割合も平成18年度1.18%から令和2年度には0.76%にまで減少している。 資本金階層別にみると、資本金1億円超10億円未満の階層で平成18年度から令和2年度にかけて8,390社減少しており、外形標準課税対象法人数の減少分約1万社の大半を占めていることがわかる。一方、外形標準課税の対象とはならない資本金1億円の法人は、平成18年度から令和2年度にかけて4,064社増加して13,086社を数える。   〇考えられる見直しの方向 このように減少傾向にある外形標準課税対象法人の数をいかにして回復させるかが今後の課題となる。 もっとも単純な方法としては、資本金1億円超という閾値を引き下げることが考えられる。例えば、1億円「超」を1億円「以上」とするだけで、現在資本金1億円の企業13,086社が外形標準課税対象法人となる。しかし、これらの法人の中で、外形標準課税を忌避して減資を行ったものがあるとすれば、さらなる減資をする可能性も否定できず、結局は対象法人の増加には効果がないかもしれない。また、法人住民税均等割において都道府県民税は資本金等の額によって5つの区分、市町村民税は資本金等の額・従業者数によって9つの区分に分けて税額が規定されているが、その区分の1つが「1億円超10億円以下」となっていることや、法人税法(及び租税特別措置法)の中小法人・中小企業者の定義上、1億円「以下」とされていることとの整合性を欠くことにもなる。 ただし、法人税法(及び租税特別措置法)では、資本金の規模は小さいものの、多額の所得を得て財政状態が脆弱でないものが特別措置の適用を受けることについて、平成29年度税制改正で課税の公平の観点から見直しが行われ「適用除外事業者」として中小法人・中小企業者から除外されている。また、大法人(資本金5億円以上)の傘下(完全支配関係)にある法人は中小法人から除かれ、大規模法人(資本金1億円超)の傘下(発行済株式総数の2分1以上)にある法人は中小企業者から除かれている。 こうした規律がすでにあるということは、今後の見直しの方向性を考える上で、1つのヒントとなるかもしれない。 (了)

#No. 482(掲載号)
#小畑 良晴
2022/08/18

令和4年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第3回】

令和4年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第3回】   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   3 中小通算法人の定額控除限度額の計算 (1) 中小通算法人に該当する通算法人の定額控除限度額の計算(下記(2)を除く) 通算親法人及び通算親法人の事業年度終了の日において通算親法人との間に通算完全支配関係がある通算子法人が、各通算法人の適用年度終了の日において中小通算法人に該当する場合、各通算法人の交際費等の定額控除限度額は次の算式により計算した金額(通算定額控除限度分配額)となる(措法61の4②③)。 この場合、通算子法人の適用年度は、通算親法人の適用年度終了の日に終了するその通算子法人の事業年度とする(措法61の4③)。 [通算定額控除限度分配額の計算方法] 上記の計算において、月数は、暦に従って計算し、1月に満たない端数を生じたときは、これを1月とする(措法61の4④)。 また、上記の算式中、「800万円」は「通算定額控除限度額」といい、その通算法人の適用年度終了の日に終了する通算親法人の事業年度が12月に満たない場合は、800万円にその通算親法人の事業年度の月数を乗じてこれを12で除して計算した金額を「通算定額控除限度額」とする。 (2) 中小通算法人に該当する中途離脱法人の定額控除限度額の計算 通算親法人の事業年度の中途において通算承認の効力を失った通算法人(中途離脱法人)の大通算法人の判定についても、その効力を失った日の前日に終了する事業年度(中途離脱法人の適用年度)終了の日において通算グループ全体で判定する(措法61の4②、措通61の4(2)-8)。 この場合、中途離脱法人の定額控除限度額は、800万円にその適用年度の月数を乗じてこれを12で除して計算した金額とする(措法61の4②)。 月数は、暦に従って計算し、1月に満たない端数を生じたときは、これを1月とする(措法61の4④)。 (3) 別表添付要件 その通算法人の適用年度終了の日においてその通算法人との間に通算完全支配関係がある他の通算法人の同日に終了する事業年度において支出する交際費等の額がある場合におけるその適用年度に係る定額控除限度額の特例は、その交際費等の額を支出する他の通算法人のすべてにつき、それぞれ同日に終了する事業年度の確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に通算定額控除限度分配額の計算に関する明細書の添付がある場合で、かつ、その適用年度の確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に通算定額控除限度分配額の計算に関する明細書の添付がある場合に限り、適用される(措法61の4⑤)。 つまり、グループ通算制度において定額控除限度額の特例を適用するためには、通算グループ内の交際費等の額を支出する通算法人のすべてで別表添付が必要となる。 また、この場合、最終的に接待飲食費の額の50%の損金算入(上記1の❷の(B)(前回参照))を選択する他の通算法人についてもその明細書の添付が必要となることに留意が必要となる。 (4) 定額控除限度額(通算定額控除限度分配額)の特例と接待飲食費の額の50%の損金算入の選択 各通算法人の定額控除限度額(通算定額控除限度分配額)は通算グループ全体で計算し、各通算法人の金額が計算されるが、最終的に、定額控除限度額の特例(定額控除限度額以下の部分を損金算入)と原則的な取扱い(接待飲食費の額の50%部分を損金算入)のいずれを選択するかについては、各通算法人で選択できることとなる。   4 通算定額控除限度分配額の遮断措置 (1) 通算定額控除限度分配額の遮断措置 通算定額控除限度分配額の特例を適用する場合において、各通算法人の交際費等の額がその通算法人の適用年度又は他の通算法人のその通算法人の適用年度終了の日に終了する事業年度(通算事業年度)の確定申告書等(期限後申告書を除く)に添付された書類にその通算事業年度において支出する交際費等の額として記載された金額(当初申告交際費等の額)と異なるときは、当初申告交際費等の額を各通算法人の交際費等の額とみなす(措法61の4③)。 つまり、通算法人のいずれかで交際費等の額が事後的に修正されることとなっても、当初申告の通算定額控除限度分配額に変更はなく、通算定額控除限度分配額について、遮断措置が適用されることとなる。 (2) 通算定額控除限度分配額の全体再計算 通算事業年度のいずれかについて修正申告書の提出又は更正がされる場合において、次に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その通算法人の適用年度については、通算定額控除限度分配額の遮断措置が適用されない(措法61の4③)。つまり、各通算法人で全体再計算を行うこととなる。 [通算定額控除限度分配額の全体再計算を行う事由] (3) 期限内申告額の洗替え 通算事業年度について通算定額控除限度分配額の全体再計算(上記(2)の(ハ)の事由を除く)を適用して修正申告書の提出又は更正がされた後における通算定額控除限度分配額の遮断措置の適用については、その修正申告書又はその更正に係る更正通知書に添付された書類にその通算事業年度において支出する交際費等の額として記載された金額を当初申告交際費等の額とみなす(措法61の4③)。   5 通算定額控除限度分配額の計算例 通算定額控除限度分配額について、当初申告、全体再計算、遮断措置の計算例は、それぞれ次のとおりとなる。 〈図表1〉 通算定額控除限度分配額と交際費等の損金不算入額の計算例① ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 〈図表2〉 通算定額控除限度分配額と交際費等の損金不算入額の計算例② ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   (続く)

#No. 482(掲載号)
#足立 好幸
2022/08/18

基礎から身につく組織再編税制 【第43回】「適格現物出資を行った場合の申告調整~親会社が子会社を設立した場合~」

基礎から身につく組織再編税制 【第43回】 「適格現物出資を行った場合の申告調整」 ~親会社が子会社を設立した場合~   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、親会社が子会社を適格現物出資により設立した場合の申告調整の具体例について解説します。   1 適格現物出資を行った場合の現物出資法人の処理 (1) 前提条件 現物出資法人A社の会計上の土地の帳簿価額と税務上の土地の帳簿価額には、下記の差異が生じています。 (2) 会計処理 現物出資法人A社の会計処理は、次のとおりです。 (3) 税務処理 現物出資法人A社の税務処理は、次のとおりです。 ① 資産の移転 現物出資法人が適格現物出資により被現物出資法人にその有する資産等の移転をしたときは、適格現物出資直前の帳簿価額による譲渡をしたものとして、譲渡損益は生じません(法法62の4①)。 したがって、移転する土地の会計上の帳簿価額の3,000と税務上否認した金額の評価損否認1,500の合計額(税務上の帳簿価額)である4,500で譲渡したものとされ、A社において譲渡損益は認識しません。 ② 被現物出資法人株式の取得価額 現物出資法人は被現物出資法人株式を適格現物出資直前の移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額(付随費用があればその費用を加算した金額)により取得します(法令119①七)。 したがって、B社株式(被現物出資法人株式)の取得価額は、移転資産の帳簿価額(4,500)から移転負債の帳簿価額(0)を減算した金額である4,500となります。 ③ 資本金等の額・利益積立金額 適格現物出資があった場合には、現物出資法人において資本金等の額及び利益積立金額の増減はありません。 (4) 会計処理と税務処理の調整 会計処理と税務処理を比較すると、差異が生じているため、調整する必要があります。調整仕訳は、次のとおりです。 上記の調整仕訳については、損益項目が含まれないため、別表4での申告調整は行わず、別表5(1)のみで調整することとなります。 (5) 別表5(1)の処理 別表5(1)の処理については、次のとおりです。 (注) ※印は調整仕訳により生じたものであることを表示するために記入しています。 ◆ポイント◆ 現物出資法人A社において増加する利益積立金額が0、増加する資本金等の額が0となっているかを別表5(1)で確認することが重要です。   2 適格現物出資を行った場合の被現物出資法人の処理 (1) 会計処理 被現物出資法人B社の会計処理は、次のとおりです。 (2) 税務処理 被現物出資法人B社の税務処理は、次のとおりです。 ① 資産の取得価額 被現物出資法人が適格現物出資により現物出資法人から資産等の移転を受けたときは、現物出資法人の適格現物出資直前の帳簿価額により取得したものとします(法法62の4、法令123の5)。 したがって、土地の取得価額は、現物出資法人A社の適格現物出資直前の帳簿価額である4,500となります。 ② 資本金等の額 適格現物出資により増加する資本金等の額は、現物出資法人における移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額となります(法令8①八)。 したがって、B社において増加する資本金等の額は移転資産の帳簿価額(4,500)から移転負債の帳簿価額(0)を減算した金額である4,500となります。 ③ 利益積立金額 適格現物出資があった場合には、被現物出資法人において利益積立金額の増減はありません。 (3) 会計処理と税務処理の調整 会計処理と税務処理を比較すると、差異が生じているため、調整する必要があります。調整仕訳は、次のとおりです。 上記の調整仕訳については、損益項目が含まれないため、別表4での申告調整は行わず、別表5(1)のみで調整することとなります。 (4) 別表5(1)の処理 別表5(1)の処理については、次のとおりです。 (注) ※印は調整仕訳により生じたものであることを表示するために記入しています。 ◆ポイント◆ 被現物出資法人B社において増加する利益積立金額が0、増加する資本金等の額が4,500となっているかを別表5(1)で確認することが重要です。   (参考:消費税の取扱い) 現物出資によって資産を移転した場合には、合併や分割による資産の移転(包括承継)と異なり、資産の譲渡等に該当し、消費税の課税対象となります。この場合の消費税の課税標準は、現物出資により取得する株式の取得時における価額に相当する金額となります(消令45②三)。 (了)

#No. 482(掲載号)
#川瀬 裕太
2022/08/18

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第41回】「役員報酬とデューデリジェンス」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第41回】 「役員報酬とデューデリジェンス」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) デューデリジェンスとは 中小企業の後継者不在問題等が背景となっているのか、昨今、M&A市場が急速に拡大しているといえる(※1)。M&Aを進めるプロセスの中で、売手側と買手側双方で諸条件にある程度の合意が形成された場合、基本合意書を締結することが一般的である。その後、最終合意やクロージングに至るまでの期間において、通常は買手側により、法務、税務、労務、不動産や事業そのもの等を対象として、デューデリジェンス(「DD」や「買収監査」等ともいわれる)が行われる。 (※1) M&Aの場面における役員報酬の論点としては、【第6回】、【第15回】、【第38回】を参照。 その目的はM&Aに向かうか否かの投資判断に資する情報を買手側が得るためであり、とりわけ、偶発債務をはじめとする対象会社の重要事項や正常収益力を洗い出すことを目的とした財務や税務デューデリジェンスについては、実施される優先度が最も高いと思われる。これらのデューデリジェンスの結果、譲渡価額を調整したり、売手側がリスクについて表明保証したりという対応が必要になることもあるため、財務・税務デューデリジェンスは慎重に行われる必要がある。 以下にて、財務・税務デューデリジェンスが行われる中で役員報酬にまつわる論点について触れる。   (2) 役員報酬額の妥当性の検証 対象会社が自社の役員に支給してきた、税務上の役員給与・役員退職給与におけるリスクの洗い出しである。内容については本連載の各回において触れてきている論点であるため割愛するが、過大役員給与等が発見された場合、対象会社は将来的に発生し得る租税債務として、譲渡価額の減額やM&Aスキームの変更が検討され得る。 この点、役員報酬に関してデューデリジェンスの対象となる場合、対象会社としてはまずすべきことは、株主総会等の議事録や各種規程を提供することである。   (3) 役員退職慰労引当金 M&Aの局面において、対象会社の財務諸表にて、当該企業の財政状態や経営成績を適切な形で示されていないことがある。特に、中小企業の場合、いわゆる税務会計にて財務諸表が作成されていることも多い。このような場合、財務デューデリジェンスにおいて各種の指摘がなされることとなるが、対象会社の将来的かつ潜在的な債務を貸借対照表に反映させる場合、基準日において本来計上すべき引当金という形で純資産額からの減額が行われることとなる。 役員退職慰労金においては、本来、株主総会等で決議がなされることで支払義務が確定するものである。しかし、仮に、役員退職慰労金規程が対象会社に既に存在し、過去に当該規程に準拠して役員退職慰労金が支給された事実があり、かつ対象会社の役員が当該規程に準拠して将来的に役員退職慰労金が支給される蓋然性が高い場合には、役員退職慰労引当金を計上すべき旨の指摘がなされることもある。この場合には、発生の可能性や合理的見積もりの可否等の、引当金の計上要件を念頭に判断されることとなるだろう(※2)。 (※2) なお、M&Aの場面で役員退職給与の支給が交渉材料となる場合に、売手側の個人において、退職所得と申告分離課税の税率差に留意する必要がある点については、【第38回】参照。   (4) プロフォーマ調整 「プロフォーマ調整」とは、M&Aが成立した後、株主兼役員の退任や事業の開廃業・縮小や拡大等の予定されることについて、実績値の存在する過年度に、これに関連する収支が発生していなかったものとして過去の損益を調整するものであり、事業計画と比較するために必要となる。 多くの場合には販管費に計上されている役員報酬においては、販管費のうち、本社部門の管理費や共通費などとして計上されている役員報酬を減額相殺するとともに、M&A成立後に新たに役員となる存在への役員報酬額を加え、過年度から当該役員が対象会社に存在していなかったものとして調整が行われることとなるだろう。   (5) 役員借入金及び役員貸付金 直接的な役員報酬の論点ではないが、本件も解説したい。 M&Aの対象会社には、役員貸付金や役員借入金が存在していることは往々にしてある。その場合、これらの解消方法、特に役員借入金について、M&Aの手順や採用すべきスキームに影響する可能性がある(※3)。例えば、①M&A後に対象会社が返済する、②役員が債務免除を行う、③対象会社が役員借入金を返済してから改めてM&Aに臨む、④事業譲渡スキームを採用して対象会社自体がM&Aの売手に転じ、当該キャッシュの中から対象会社が役員に返済する、等という選択肢があり得る。 (※3) M&Aが関連しない一般的論点については、【第31回】及び【第34回】参照。 なお、対象会社が債務超過である場合等、交渉次第では、対象会社の当該役員借入金を売手側である役員が買手側に債権譲渡することもある。この場合において、債権譲渡の価額を如何に設定するか、対象会社の財政状況(回収可能性)や簿価以外での譲渡に係る税務上の取扱いにも鑑みて決定する必要があるだろう。例えば、債権額を下回る価額で債権譲渡をすると、当該役員にとって譲渡損が発生することとなるが、当該譲渡損は損益通算ができず(所基通33-1)、貸倒れとしても事業の遂行上生じたものとは認められないと考えられる。 同様に、債権額を下回る価額で譲渡した場合において、M&A後、一般的には買手側と対象企業に100%支配関係が生まれるところ、双方で認識する債権債務の額が一致しないこととなる。この状態で子会社となった対象会社側の簿価に基づいて弁済が行われると、親会社となった買手側に収益が発生し、課税対象となることにも留意しなければならない。 また、役員貸付金に関しては、役員退職慰労金や株式譲渡で得た資金を以て、役員自身が返済することが定番といえる。   (了)

#No. 482(掲載号)
#中尾 隼大
2022/08/18

相続税の実務問答 【第74回】「住宅取得等資金の贈与を受けていた場合の相続開始前3年以内の贈与加算」

相続税の実務問答 【第74回】 「住宅取得等資金の贈与を受けていた場合の相続開始前3年以内の贈与加算」   税理士 梶野 研二   [答] 被相続人の相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産であっても、住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例規定を適用して贈与税の非課税財産とされた金額は、相続税の課税価格に加算する必要はありません。 ご質問の場合、令和3年中にお父様から贈与を受けた2,000万円のうち、この非課税の特例規定を適用した1,500万円を控除した残額(500万円)だけが相続税の課税価格に加算されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例 (1) 平成27年1月1日から令和3年12月31日までの間の贈与 平成27年1月1日から令和3年12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属から贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築若しくは取得又は増改築等(以下「新築等」といいます)の対価に充てるための金銭(以下「住宅取得等資金」といいます)を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、①住宅用の家屋の新築等に係る契約の締結日、②住宅用の家屋の新築等に係る対価等の額に含まれる消費税等の税率、③新築等をした住宅用の家屋が省エネ等住宅であるかどうかの別により500万円から3,000万円の金額が非課税とされていました(令和4年法律第4号による改正前の租税特別措置法(以下「改正前租税特別措置法」といいます)70の2)。 (2) 令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間の贈与 令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属から贈与により自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築等の対価に充てるための金銭を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、新築等をした住宅用の家屋が省エネ等住宅であるかどうかの別により500万円又は1,000万円が非課税とされます(措法70の2)。   2 生前贈与の相続税の課税価格への加算 (1) 相続税法の規定 相続又は遺贈により財産を取得した者がその相続の開始前3年以内に被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、その贈与により取得した財産の価額を、その者の相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなして、相続税額を計算することとされています(相法19①)。 この場合の「贈与により取得した財産の価額」とは、相続税法の規定では、同法第21条の2第1項から第3項まで、第21条の3及び第21条の4の規定により当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるものの価額をいい、また、特定贈与財産(連載【第66回】及び【第67回】参照)の価額は除かれることとされています(相法19①かっこ書き、②)。 (2) 租税特別措置法の規定 住宅取得等資金の贈与を受け、この住宅取得等資金について上記1の(1)又は(2)の特例を適用した場合には、改正前租税特別措置法第70条の2第3項又は租税特別措置法第70条の2第3項の規定により、相続税法第19条第1項の規定が読み替えられ、「贈与により取得した財産の価額」とは、同法第21条の2第1項から第3項まで、第21条の3及び第21条の4の規定並びに(改正前)租税特別措置法第70条の2の規定により当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるものの価額をいうこととされ、住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例を適用することにより非課税とされた金額は、その贈与が被相続人の相続開始前3年以内の贈与であったとしても、相続税の課税価格に加算する必要はないこととされています(改正前措法70の2③、措法70の2③)。   3 ご質問の場合 あなたが令和3年4月にお父様から贈与により取得した2,000万円については、お父様の相続開始前3年以内に贈与を受けた財産ですが、そのうち改正前租税特別措置法第70条の2第1項に規定する住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例の適用を受けた1,500万円については、同条第3項の規定により相続税の課税価格に加算する必要はありません。 したがって、相続税の課税価格に加算しなければならない金額は、令和3年中にお父様から贈与を受けた2,000万円のうち、この非課税の特例規定を適用した1,500万円を控除した残額の500万円だけということになります。 (了)

#No. 482(掲載号)
#梶野 研二
2022/08/18
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